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<title>西川拓真のブログ</title>
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<title>旅人　THE BACK HORN　カバー</title>
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<![CDATA[ <p>THE　BACK　HORNの「旅人」のカバー。ピアノ伴奏バージョン。</p><p>&nbsp;</p><p><iframe allowfullscreen frameborder="0" height="234" src="https://www.youtube.com/embed/xjOwx9CqjNU" width="416"></iframe></p><p>&nbsp;</p><p>本当はギターでやろうと思ってたけど、決めてた期間に間に合わなかったから急遽ピアノに。</p><p>細かい直すところはまたやろうと思う。</p>
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-12340277758.html</link>
<pubDate>Sat, 30 Dec 2017 06:40:28 +0900</pubDate>
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<title>物しか愛せない男と私</title>
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<![CDATA[ 「マグカップが、妊娠したんだ。」 <br><br>　それを聞いて耳を疑った。いくら変人のこの人でも、こんなことを言い出すなんて思ってもみなかった。哲也の言うマグカップとは、プラスチックで出来た、彼がうがいをする時に使っている赤いマグカップのことである。マグにはポップな白猫の可愛らしい絵が描かれている。そのマグが妊娠したというのだ。 <br>　彼は自身のマンションの一室で、紅茶を片手に、真剣な表情で私を見つめていた。その表情には自分が父親になるという喜びも含まれているようだった。しかし、私にはマグが妊娠したなどということが信じられない。笑えない冗談だ。 <br><br>　哲也は、人間ではなく、物しか愛せない、いわゆる対物性愛者だ。彼の主張では、五ヶ月前から、マグと交際しているらしい。マグは、商品名そのままで「可愛い白猫★マグカップ★」という名前だそうだ。ただ、改まった時以外はマグと呼んでいる。たまにマグカップと呼ぶこともある。 <br>　物を愛するという彼は特殊だが、他に同じような人間が全くいないというわけではない。世の中には彼の他にも、人間以外に恋愛感情を抱く人間が少なからずいる。 <br><br>　アメリカ・サンフランシスコ在住の元兵士、エリカ・ラ・トゥール・エッフェルは、弓矢に恋をし、世界トップクラスのアーチャーになった。その後、彼女はドイツ、ベルリンの壁の破片と肉体関係も持っている。そして、最終的にはフランスのエッフェル塔と結婚したのだ。親しい友人が集まって、結婚式も開いた。法的手続きを経て、苗字をエッフェルと改名までしている。 <br>　アメリカ・ニューヨーク州在住のエイミー・ウルフは、宇宙船の模型、ツイン・タワー、教会のオルガンや手すりなど、同時に複数の物と交際をしている。中でも、彼女が最も愛しているのが、ペンシルバニア州の遊園地にある、空飛ぶ絨毯をイメージした、千夜一夜物語という乗り物だ。エイミー曰く、千夜一夜物語とは精神的にも肉体的にも固く結ばれているそうで、結婚も予定している。 <br>　他にも、ゲームキャラクターと結婚した男性、抱き枕と結婚した男性、自動車を愛する男性、ステレオセットを愛する女性もいる。また、物ではないが、蛇と結婚した女性や、イルカと結婚した女性、ヤギと結婚した男性、亡くなった恋人と結婚した女性もいる。 <br>　更には、自分自身と結婚し、「この結婚により、私は再び完全なる存在になることができました。」などいう究極のコメントを残した男性もいる。 <br><br>「いやね、三ヶ月前に初めて彼女と体の関係を持ったんだよ。その時に、なんの根拠もないけれど、直感的に彼女は妊娠する、と思ったんだ。それから彼女とは何度かしたんだ。そうしたら、最近になってお腹の膨らみが目立ち始めた。最初は、劣化して曲がってきたのだろうと思ったんだ。でも、今見ると明らかに膨らんでいるのが分かる。」 <br>　彼のことだから、肉体関係については、本当のことを言っているのだろう。彼は本当にマグのことを愛している。デスクの端に飾ってある写真を眺めた。彼がマグとハワイ旅行に行った時の写真だ。太陽の光がサンサンと降り注ぐ浜辺で、頬にマグを密着させ、彼が笑っている。その笑顔は心の底から幸せを感じているという笑顔だった。しかし、肉体関係を持ったことは信じられても、マグが妊娠したなどということは信じることができない。大体、お腹が膨らみ始めた、と言っていたが、マグのどこがお腹なのだろうか。 <br><br>「あ、ちょっと待ってて、あれ、舐めるから。」 <br>　彼はそう言うと、冷蔵庫の方へ向かって歩き始めた。あれ、というのはレモン汁のことである。彼はレモン汁を小皿に垂らして、舐めるのが好きなのだ。話の途中なのに舐めに行ってしまうほどに。 <br>「加奈子もやるかい？」 <br>「いや、私はいいや。」 <br>「そう。」 <br>　彼は、台所で冷蔵庫からレモン汁の瓶を取り出し、小皿に垂らすと、それをラロラロラロ、と舐め、小皿を洗い、布巾で拭いて、それを食器棚に戻した。部屋に戻り、椅子に座ると、彼は紅茶を飲んだ。それにはレモンは入っておらず、砂糖がたっぷりと入っている。甘いものが好きなのか、酸っぱいものが好きなのか、どうもはっきりしない。 <br>「加奈子はどう思う？こんなことって信じられるかい？凄いことだと思わない？」 <br>「いや、私は……。」 <br>　彼は少し首をかしげた。私の表情から何かを読み取ろうとするようにして。そして、一瞬納得したような顔をした。 <br>「そうか、やっぱり信じられないか。よし、こんなところで話していても仕方がない。洗面所に行って、実際に見てくれ。」 <br>　こんなことまで言い出すなんて。もしかすると本当にマグが妊娠をしているのかもしれない。そう思うと急に鼓動が早くなった。 <br>　彼は私の返事を待たずに、洗面所へと歩き始めた。私はその後についていく。 <br>　歩きながら、実際にマグが妊娠しているのを見てみたいという期待と、異常な光景を目の当たりにすることへの恐怖で、洗面所へ行きたいという気持ちは、激しく明滅した。 <br><br>　結局私は洗面所へ行った。彼は洗面所のドアを静かに開けると、電気をつけた。そして、赤いマグを大事そうに両手で持ち、私の目の前に差し出した。 <br>　それを見た瞬間、息が詰まった。 <br>　そこには、確かに三センチメートルくらいの膨らみを持ったマグカップが存在した。取っ手から向かい側の面の外側が膨らんでいる。その部分だけ、赤い色が薄れていて、桃色に近くなっていた。膨らんでいる部分には、薄く血管のようなものまで見える。 <br>「嘘……。こんなのって、信じられない……。」 <br>「驚いただろ？紛れもなく彼女は妊娠しているんだ。」 <br>「ちょっと、触ってみてもいい？」 <br>「どうぞ。」 <br>　マグの膨らんだ部分に触れてみた。人間に触れたような温かみを感じる。 <br>　信じがたいことだが、マグは確かに妊娠しているみたいだ。 <br>　マグに生殖器などない。それなのに、なぜこんなことになったのだろうか。これは、彼がデパートの生活雑貨売り場で買った、なんの変哲もない普通のマグカップなのだ。今まで私が蓄えてきた知識では説明のつかないことが起こっている。子供の頃に見たことのない動物を目の当たりにした時のような、不思議な気分だ。少し興奮している。 <br>　唖然として見ていると、お腹と思わしきものの一部が、一瞬膨らんだ。中で赤ん坊が蹴ったのだろうか。 <br>　尋ねてみると、時々中の子が蹴ったと思わしき行動をとることがあるみたいだ。三ヶ月前に初めて体の関係を持ったと言っていたから、妊娠してから三ヶ月は超えていない。妊娠三ヶ月以内で蹴るのは早すぎると思ったけれど、人間ではないからそこら辺は違うのだろうか、と言って、二人で首を傾げた。 <br>　私もなぜこんな話を真面目にしているのだろう。しかし、目の前には実際に妊娠したマグがいるのだ。この状況に目を背けることはできない。 <br>「赤ちゃんには栄養が必要よね。何かしていることはあるの？」 <br>「していることか。あるよ。とにかく、毎日前と同じように使う、ということをしているよ。水を入れて、うがいをするということをね。」 <br>「それって、どうなの。」 <br>「物っていうのは、その本来の目的の通りに使われることを一番望んでいるし、元気になると思うんだ。いや、確かにマグカップは飲み物を飲むという使われ方もあるんだけど、うがい用に使う場合もある。それに、恋人である僕が決めたうがいをするという使われ方は、彼女も望んでいるし、それが一番栄養になると思うんだ。」 <br>「それが赤ちゃんの栄養にもなっている、と。なんだかよく分からないな。」 <br>「もうちょっと踏み込んで話すと、水を吸収しているんじゃないか、と思うことが最近多々ある。水を入れて、うがいをしようとすると、心なしか水が減っているような気がするんだ。水、水が栄養なんじゃないかな。」 <br>「なるほど。そっちの方が納得できるわね。」 <br>「でも、僕は、それだけじゃ不十分で、やっぱり、うがいをするっていう使われ方が必要だと思うけどね。」 <br>　よく分からないから私は何も答えなかった。 <br>「あ、ちょっと待ってて、あれ、舐めるから。」 <br>「え？また？」 <br>　彼は本当にレモン汁を舐めるのが好きなのだ。 <br>「加奈子もやるかい？」 <br>「だからいいって。」 <br>　彼は、何度いい、と言っても勧めてくる。でも、そういうところ、嫌いじゃない。 <br>　彼は台所に行き、ラロラロラロ、とやった。 <br><br>　帰り際になって、玄関で彼は言った。 <br>「このことは加奈子にしか言っていない。他の誰にも言わないで欲しい。物珍しさに見に来る人間、マスコミや研究者や色んな人に付け狙われるかもしれないから。」 <br>「ええ、分かっているわ。それじゃあ、お邪魔しました。さようなら、また。」 <br>「うん、今日はありがとう。じゃあね。」 <br><br>　ガチャリと玄関の重いドアが閉まる。鍵の閉まる音はしない。彼は、私が人の家から立ち去る時、鍵がかかる音が聞こえると、なんとなく拒絶されているような気がして寂しい気分になる、ということを知っていて、私が完全に立ち去るまで鍵をかけないのだ。そういう優しさはある。ただ、人間に恋愛感情がないだけなのだ。 <br>　それにしても、マグと体の関係を持って、実際に妊娠させてしまうなんて。異常すぎることが起こっている。 <br>　まだ頭の中は混乱している。マグが妊娠した姿は、生々しさと同時に無機質も兼ね揃えていた。あんなものがこの世に存在していいのだろうか。よく分からない。 <br>　ショックだったのが、彼が私ではなくマグと肉体関係を持ったということだ。そして私ではなくマグを妊娠させてしまったということだ。 <br>　マグはのうのうと彼と付き合っている。 <br>　彼も彼だ。人に恋愛感情を持たないから、私がどんな目で見ているかなんて気付きもしない。私の気持ちなんかなんにも分かっていない酷い人。なんであんな変人のことを私は、私は……。 <br><br>　多分、彼が人間に興味がないから、逆に追い求めたくなってしまうのだろう。今日は、見せたいものがあると彼に家へ呼ばれて、心が躍っていた。彼が人を愛することなんてありえないけれど、それでも、何かの間違いで振り向かせられることもあるかもしれないと思っていた。こんな風に呼ばれることはなかったから、今日は彼の家に行く時に、希望のようなものを感じていた。私を特別な存在だと思ってくれたのかもしれないと思って。しかし、実際には恋人の異様な妊娠した姿を、見せられる羽目になってしまった。私の気持ちも知らないであんなものを見せるなんて。悲しさで体が小刻みに震える。寒さも手伝って、余計に震えた。 <br>　冷たく硬い風が、私のことを打ち付ける中、自分の体を抱きながら、夜の寂しい街を歩いて帰った。 <br><br>　その電話が来たのは、それから七ヶ月が経ってからだった。 <br>　リビングでくつろいでいると、彼から電話がかかってきた。 <br>「もしもし、加奈子です。」 <br>「も、もしもし加奈子、僕だ。哲也だ。」 <br>　哲也は酷く取り乱していた。 <br>「どうしたの？」 <br>「た、大変だ。う、生まれたんだ。ついに生まれたんだ。」 <br>「本当に？どんな子なの？」 <br>「いやあの、とにかく、とにかく、あ、ちょっと待ってて、あれ、舐めるから。」 <br>「は？こんな時に？」 <br>　そう言った時には、受話器の向こう側から彼の気配が消えていた。 <br>　今頃台所でラロラロラロ、とやっているのだろう。 <br>　こんな時にまでラロラロラロ、をやるとは、相当変わっている。いや、変わっているどころの話ではない。 <br>「ごめんごめん、あれだけはどうしても我慢できないんだ。」 <br>　彼が戻ってきた。 <br>「こんな時まで舐めるなんてちょっと、おかしいんじゃない？」 <br>　私は強い口調でそう言った。 本気で腹が立った。しかし、次の瞬間、この状況があまりにも滑稽過ぎて、今度はとてもおかしくなってしまった。彼を傷つけないために必死で笑いを堪えた。 ああ、こんな彼にやられたんだな、と思う。 <br>「ホントにごめんって。それ、それで、今から家に来て見てくれないか。」 <br>　大分取り乱しているみたいだし、言葉での説明を求めてもダメそうだ。それに、私自身、不思議なもの見たさに、興奮しているというのもあるし、実際に家へ行って見てみることにした。 <br>「分かった。行くよ。」 <br><br>　哲也のマンションへ行くと、すぐに洗面所に案内された。 <br>　そこには、母親のマグと同じ大きさの赤ん坊のマグがいた。色は、母親と全く同じ赤だ。母親と同じように、取っ手もついているし、横には白猫の絵のような模様がぼんやりと見える。ただ、明らかに母親と違う部分があった。それは、手足だ。赤ん坊の外側には、長さ三センチメートルくらいの赤い手足が付いている。人間の赤ん坊のようにぷにぷにした質感の手足だ。赤ん坊は両手を使って母親の取っ手に抱きついている。泣き声は発していない。 <br>　その異様な光景を見て、私は呼吸と瞬きするのをしばらく忘れていた。 <br>「瑞貴っていうんだ。」 <br>「え？」 <br>「瑞貴。この子の名前さ。」 <br>「もう決めてあったの。」 <br>「そうなんだ。男の子だよ。」 <br>　どうして男の子だと分かるの？と言いかけてやめた。答えてもらえても、私には理解できそうになかったから。 <br>「こんなに異様なことが起こっているのに、なぜそんなに普通にしているの？」 <br>　電話では取り乱していたのに。 <br>「分からない。生まれた時はびっくりしてしまったよ。でも、ずっと瑞貴を見ていると、自然と心が落ち着いてくるというか、穏やかな気持ちになるんだ。父親になったという喜びも、とても大きい。そういうのが、不思議な気持ちを上回っているんだよ。」 <br>　私はそれに対して何も言えなかった。 <br>　しばらくしてから、尋ねた。 <br>「この子を、どうやって育てていくつもりなの？」 <br>「瑞貴もまた、うがいをするという使い方をすることによって、元気に育つと思う。育てられる自信は、正直ある。」 <br>　その表情は確信に満ちていた。この人なら、多分、本当に育て上げることができるのだろう、と思った。 <br>　その後、これからどうするのかを簡単に話し合った。その間に、二回ラロラロラロ、をやった。相変わらずだ。彼は、瑞貴君のことは誰にも言わずに、ひっそりと暮らしていく、と言っていた。寂しくて幸せそうな暮らしが目に浮かんできた。寂しさなんて感じないのかもしれないけど。最後に私は励ましの言葉を残し、その部屋を後にした。 <br><br>　幸せな彼に、子育てについて励ましの言葉をかける時には、悔しさで胸がいっぱいになった。彼のことが好きなために、いつまでも恋人を作らないでいる私には、彼のことを全力で応援することはできない。なぜ物なんかに私が負けなければならないのだろう。そのことを彼に言ってみたかったが、「物なんか」と言ったら、物を愛している彼のことを侮辱しているようで言えなかった。 <br>　あんな奇妙な赤ん坊と恋人とでも、幸せに暮らしている哲也の姿を想像すると、そこに私の入る余地はないんだ、と思って、ため息が出た。そのため息は、私から吐き出されるのを待っていた秋風に吸い込まれて消えていった。 <br><br>　それから二年間、うがいをする、という使い方をすることによって、瑞貴君の育成は順調にいっていた。瑞貴君は、大きさは変わらなかったが、成長と共に、白猫の絵がはっきりしていき、ハイハイができるようになった。 <br>　ある時から哲也が仕事で何かのプロジェクトを任され忙しくなって、連絡がこなくなり、状況が分からなくなった。ただ、漠然と、瑞貴君の育成も、恋人との関係もうまくいっていると思っていた。あの電話が来るまでは。 <br><br>　その電話は、対人恐怖症のドキュメント番組を見ている時に、かかってきた。 <br>　テレビの電源を切り、電話に出る。 <br>「もしもし、加奈子です。」 <br>「もしもし、加奈子。久しぶり。」 <br>「哲也じゃない。久しぶり。」 <br>「ここ二年間くらいお互い忙しくて会えてなかったもんな。連絡さえもできてなくてごめん。」 <br>「いえ、いいのよ。電話くれて嬉しいわ。それで、突然なんの用？」 <br>「色々あったんだ。順を追って説明したい。まず、可愛い白猫★マグカップ★と別れたんだ。」 <br>「え？別れたって、嘘。瑞貴君はどうするのよ。」 <br>　そんなことを言いながら、私は内心嬉しかった。 <br>「瑞貴は僕が育てるよ。今までだって子育ては僕一人でやってきたからね。」 <br>　そうか、それはそうだ。 <br>「なんで別れたのよ。」 <br>「急に、自分が性交したマグをうがい用として使っているのが、汚らしく感じた。」 <br>　今更すぎる。 <br>「そう思った瞬間、冷めてしまったんだ。その気持ちはどうすることも出来なくて、捨てたんだ。一年半前のことだ。でも、恋人を捨てると言っても、本当の意味で捨てることは出来なかった。一時でも僕は彼女のことを愛していたからね。だから、彼女は今、リサイクルショップで売られているよ。」 <br>　マグは新品のものを買おうと思った。 <br>「あ、ごめん、ちょっと、あれ、舐めてくる。」 <br>　変わってないな。彼はラロラロラロ、とやりにいった。 <br>「お待たせ。」 <br>「いいえ。」 <br>「それで、今の話をすると、今はマネキンの『レディース・マネキンナイン』と付き合っているんだ。」 <br>「はあ……。」 <br>　なんだ、残念。というか、今度はマネキンか。この人は本当に何なの。 <br>「それでね、最近、彼女との子供が生まれたんだけど、これが僕と全く同じ容姿なんだ。」 <br>「ちょっと待って、普通に言っているけど、マネキンの子供も生まれたの？」 <br>「そうだよ。」 <br>「そうだよって……。」 <br>　この人についていくのは本当に大変だ。それでも私は……。 <br>「賢也って言うんだけどね、身長も、体型も、顔も、声も、僕と全く同じだ。生まれた時はまあまあ小さかったんだけど、すぐに僕と同じ大きさに成長した。面白いことに、僕の記憶も受け継いでいるんだ。ただ、僕と違う点が三つある。」 <br>　その内容はこうだった。一つは人間と違って食べ物が必要ない。もう一つは、体は触ってみても温かいし、柔らかいのだけれど、右の脇が、ほんの一部分だけ、固くて、冷たい。最後に、哲也と違って、人間しか愛せないのだ。 <br>「ホントに、僕の息子なのに、なんで人間しか愛せないんだろうな。」 <br>「マネキンの賢也君は、同族のマネキンを愛せないんじゃない？人間のあなたが、同族の人間を愛せないのと同じように。そう考えると逆に似てると思うけどな。まあ、賢也君は完全にマネキンとも言えないけど。というかよく考えると人間の要素の方が強いのかな？」 <br>「いやいや、なるほど。そういう考え方もできるね。」 <br>「あなたと容姿が全く同じだなんて、見分けをつけるのが大変そうね。」 <br>「とにかく右の脇を触って、固くて、冷たいかどうかを確かめるしかないね。」 <br>「なんだかセクハラしているみたいで、やあね。」 <br>「仕方がないさ。」 <br>　本当は確かめるという口実で、彼の肌に触れたいと思った。 <br>「今度暇が出来たら家へ遊びにおいでよ。賢也のことを紹介するよ。」 <br>「うん。絶対遊びに行く。」 <br>「ああ。そうそう、瑞貴も元気だよ。まあ、そういう報告でした。じゃあまた。」 <br>「それじゃあ。」 <br><br>　その後、彼の家へ遊びに行ったが、賢也君は、本当に哲也と見分けがつかなかった。長年一緒にいる私でさえもだ。そして、唯一見分けをつけられる、右脇を触らせてもらうと、確かに固くて、冷たかった。 <br>　瑞貴君は物としての性質が強いのか、じっとしていることが多かった。動く時は相変わらずハイハイをしていた。四足歩行が基本の生物なのかもしれない。私が手で触れると、手に抱きついてきて、可愛かった。 <br><br>　賢也君を紹介してもらってから、哲也から半年は連絡が来なかった。しかし、特に気にはならなかった。哲也も忙しいのは分かっていたし、私はある資格を取るために勉強をしていて忙しかったから、それに夢中で気にしている暇はなかった。友達の少ない哲也は、私と物以外とは遊ぶことが全くなく、仕事のことばかり考えていた。彼は変人だが、仕事はきっちりと真面目にこなす人間だ。彼にとって仕事が生き甲斐なのだ。彼から仕事をとったら何が残るのだろうか。そう思えるほど、彼は仕事に夢中だった。 <br>　私達の間柄では、これくらい連絡がないのは普通だった。それでも、絆のようなものがないわけではなかった。哲也は仕事のことばかり考えているが、いつも心の片隅では、私のことを気にかけていたし、私の心の奥底には、常に哲也の存在があった。 <br><br>　哲也は、雨の降る寒い日に、久しぶりに連絡をくれた。 <br>　この日、私が資格の勉強をしていると、突然哲也から電話がかかってきて、今から私の家に来たい、というのだ。その声がとても弱っていたから、凄く心配になった。早く来るように言った。 <br><br>　インターホンが一度遠慮がちに鳴らされ、私が玄関のドアを開けると、そこには弱った哲也がいた。彼に張り付いていた自信がビリビリと全て剥がされてしまったような、そんな顔をしていた。変人の自分が、人にどう思われようと気にもしないという自信に満ちた彼の姿は、そこにはなかった。ただ事ではないことが分かった。 <br>「とりあえず、入って。」 <br>「お邪魔します。」 <br>　彼はきちんと巻かれた黒い大きな傘を、傘立てに静かに置いた。 <br>　部屋に入って、彼を椅子に座らせた。 <br>「紅茶いる？」 <br>「いや、いいや。ありがとう。」 <br>　彼は力ない微笑を浮かべてそう答えた。 <br>　私はベッドに腰掛けた。 <br>「そんなに弱った顔をして、どうしたの？」 <br>　できるだけ慎重な言い方で聞いた。 <br>「一昨日、会社をクビになったんだ。」 <br>「嘘……。」 <br>「あんなに会社のために尽くしてきたのに、酷いよな。仕事がなくなってしまうと、本当に、色々とやる気が出ないもんだな。これからどうしようか途方に暮れてしまったよ。」 <br>　あんなに仕事ばかりしていたのに、一体何があったのだろう。 <br>　彼の生き甲斐である仕事がなくなったことを考えると、辛いだろう。貯金はあると思うが、将来のことを考えると、あまり使いたくないだろう。いっそのこと私が養ってあげようかとも思った。しかし、彼がまだ何か言いたそうだから黙っている。 <br>「それで、やるせない気持ちを全部吐き出そうとした時に、一番近くにいたのは誰だと思う？」 <br>「マネキン……。」 <br>「そう、マネキンなんだよ。その時に、本当に虚しくなったんだよ。賢也は一応しゃべれるけど、あいつも遠くで仕事をしているんだ。最近は電話をかけても出てくれない。苦しかったよ。その時、真っ先に思い浮かんだのが他でもない、加奈子、君なんだよ。」 <br>　空気の質感が変わった。 <br>「酷く傷ついたことによって、物を愛することの虚しさっていうのを嫌というほど味わわされた。マネキンとは別れた。人だったら、温かいし、話もできる。中でも加奈子は僕の話を真剣に聞いてくれる。どんなに変な話だって、馬鹿にしないで真剣に聞いてくれたよね。本気で僕を理解してくれたよね。そんな加奈子が一番大切だと分かったんだ。」 <br>　哲也は力強い眼で私を見た。 そして、決心したように口を開いた。 <br>「僕は加奈子のことを愛している。」 <br>　嘘？あんなに物を愛していた哲也が、あっさりと人間の私に告白をしてくるなんて。 <br>　私は酷く困惑した。深く傷ついた途端に告白してくるというのは、随分虫のいい話である。今まであんなに物を愛していた哲也が、本当に人を愛せるようになったのだろうか。もしかしたら、今目の前にいる彼は賢也君ではないか。そんなことが頭をよぎった。 <br>　しかし、もし今いる彼が本物の哲也で、私のことを愛しているのならば、ずっと待ち続けていた私にとって、これ以上の喜びはない。だから、その確証が欲しかった。 <br>「そ、そんなこと言って、あなた、も、物しか愛せなかったじゃない。そんなに簡単に人を愛せるようになるのかな。もしかしてあなた、息子の賢也君なんじゃないの？あの子は人しか愛せないし。」 <br>　これが本物の哲也による愛の告白かもしれない、と思い嬉しくて泣きそうになっている。でも、なにかの間違いだったら、と思うと怖かった。 <br>「そうか、そんなことを疑っていたのか。全然考えていなかったよ。分かった。僕の右脇を触ってごらん。僕が賢也だったら、その部分は、固くて、冷たいはずだ。」 <br>　そうだ。哲也の息子の賢也君だったら、右脇は、固くて、冷たいはずだ。私は、彼の近くまで行って、恐る恐る右脇を触った。その瞬間に涙が溢れてきた。 <br>「柔らかい、あったかい。」 <br>　彼は私のことを力強く抱きしめた。 <br>「愛してるよ。」 <br>「私も、私も愛してるわ。」 <br>　彼は耳元で囁いた。 <br>「加奈子がずっと僕のことを好きだったっていうのは、知ってた。」 <br>「嘘。」 <br>「嘘じゃない。でも、僕は本当に物しか愛せなかったんだ。変に気を持たせるのも悪いし、気付かない振りをしていたんだ。男っていうのは、鈍感な振りして、実は色々知っているんだよ。加奈子のことは友達として好きだったし、傷つけたくなかったんだ。」 <br>　彼は頬に優しくキスをした。 <br>「本当は、周りと違う自分が嫌いになったこともあった。普通になりたいと思ったこともあった。自分は変人でも気にしていないという風に装って、偽りの自信で塗り固めていた。多分人より孤独を感じていたと思う。僕だって、好きで物しか愛せない人間になったわけじゃないんだ。物しか愛せないのはある意味辛かったよ。人を愛したかったよ。でも、人間、追い詰められると分からないものだね。あっさり人を愛せるようになってしまったのだから。それも、君の魅力があってこそだけどね。」 <br>「そんなことないわ。あなたが成長したのよ。色々話してくれてありがとう。辛かったのね。でももう大丈夫。あなたの寂しさを全て私が埋めてあげる。……それにしても夢みたい。今までずっと待っていたのよ。どれだけ私が物に嫉妬したか分かる？」 <br>「ごめん。」 <br>「でもやっとあなたが振り向いてくれて、嬉しいわ。」 <br><br>　その後、私達はベッドで交わった。今まで心の中の寂しい部屋に溜め込み隠しておいた煙でできた気持ちは、外へ解放され、花の香りを乗せた風へと変化し、自由になった。 <br><br>　これから哲也と結婚するとしたら、瑞貴君と賢也君という摩訶不思議な息子を二人も持つことになると思うと、少し不安だ。しかし、そこにはきっと、楽しい毎日が待っているだろう。 <br><br>　全てが終わって、彼の寝顔を見ていると、幸せな気持ちになった。愛しさを感じて、彼へ体をすり寄せる。その瞬間、足に小さな温かい物が当たった。何かと思って、手探りでそれを掴んで見てみると、楕円形で肌色の柔らかい物体だった。それがなんなのかよく分からなくて、数秒固まってしまった。 <br>　まさかと思い、彼の右脇へ手を伸ばした。 <br>　固くて、冷たい。
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11979581772.html</link>
<pubDate>Tue, 20 Jan 2015 20:34:02 +0900</pubDate>
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<title>明るい詩人と暗い詩人</title>
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<![CDATA[ 　昔々のある国のお話。 <br><br>　その国では、少しでも心が後ろ向きになった人は、すぐに自殺してしまっていました。だから、生き残っているのは明るい人ばかりです。ちょっとしたことで労働力が減るので、役人達も困っていました。 <br><br>　その国には人気の詩人がいました。その詩人が書いた詩は、読むと心が明るくなるような内容ばかりでした。その詩で、皆元気づけられていました。 <br><br>　もう一人、ひっそりと、誰にも知られないような売れない詩人がいました。その詩人は、珍しく、後ろ向きな性格なのに、自殺していませんでした。詩を書くことを生きがいとして、なんとか心をこの世につなぎ止めて生きていたのです。その詩人が書く詩は、後ろ向きな、暗い内容ばかりでした。そんなものは、売れないに決まっていました。 <br><br>　暗い詩人は、いつも明るい詩人のことを羨ましく思っていました。人々を勇気づけ、色々な人に必要とされている明るい詩人に憧れていました。しかし、明るい詩人と暗い詩人は、似ても似つきませんでした。暗い詩人が書くのは暗い詩ばかりです。暗い詩人は、自分のことを、誰からも必要とされない、なんの役にも立たない、便所で踏みにじられた虫けらよりも価値がない存在だと思っていました。 <br><br>　暗い詩人は、明るい詩を書こうと思ったこともありました。しかし、明るい気持ちになれない自分には、どうしても明るい詩は書けませんでした。 <br><br>　 <br><br><br>　ある時から、急に暗い詩人の詩が、売れ出しました。何年もかけて人気はどんどん膨れ上がり、暗い詩人の詩は、明るい詩人の詩と同じくらいの人気になりました。 <br><br>　暗い詩人は、人と関わりたくなくて、人里離れた所に住んでいたので、あまり情報が入ってきませんでした。だから、なぜ自分の詩が人気になったのか分かりませんでした。ただ、受け取るお金が増えたから、自分の人気が分かるだけでした。もしかしたら、明るい人達が、自分より下の人間がいるのだということを暗い詩人の詩で確認して、安心するために、詩を買っているのではないかと思いました。暗い詩人は、皆に見下され、あざ笑われているのだと思いました。そう思うと、絶望的な気分になりました。そんな風に思われるくらいなら、詩など書きたくありませんでした。もう死にたいと思いました。 <br><br>　暗い詩人は、村までの長い道のりを歩いて、村の酒場に行き、やけ酒をしました。そんな詩人の隣に老人が座りました。その老人は聞き上手だったので、暗い詩人は飲んだ勢いで思っていることをすべてさらけ出しました。すると、老人はこう言いました。 <br><br>「あなたは勘違いしております。皆があなたを見下すためにあなたの詩を買っているのではないです。こんなことを言っては失礼ですが、あなたは暗くて後ろ向きな人間です。それはあなたの詩を読めば誰でも分かります。しかし、後ろ向きな人間達は、皆、あなたの詩を読んで、勇気づけられました。かつてこの国では、後ろ向きになった人間は、すぐに自殺していました。後ろ向きになった人間は死ぬしかなかったのです。しかし、人々は、あなたの詩によって、後ろ向きな人間でもたくましく生きていることを知りました。あなたの詩によって、こんな後ろ向きな自分でも生きていていいんだ、と思えたのです。この国は、あなたの詩のおかげで、後ろ向きな人間でも生きられる国になったのです。今では後ろ向きな人間は、誰もがあなたの詩を必要としています。人にはそれぞれ役割があります。明るい詩人は、明るい人間達が、明るい気分を保つことに役立ち、あなたは、後ろ向きな人間達が、勇気づけられて生きることに役立っています。だから、もう死にたいなどと言わないでください。実は私もあなたに助けられたうちの一人です。仕事をクビになって、死のうとしているときに、偶然あなたの詩に出会い、勇気づけられて、死ぬのをやめました。本当に感謝しています。」 <br><br>　暗い詩人は、初めて自分が誰かに必要とされていることを知って大粒の涙を流しました。そして、老人に、何度もお礼を言いました。 <br><br>　暗い詩人は、自分が明るい詩人よりも劣っていて、価値のない存在なのだと思っていました。誰の役にも立っていないと思っていました。しかし、暗い詩人は、明るい詩人とは別のところで役に立っていたのです。その国では、明るい詩人も、暗い詩人も、なくてはならない存在になっていました。 <br><br>　人にはそれぞれ違う役割があります。自分の果たすべきことは、案外自分の欠点だと思っている部分から見つかるのかもしれません。
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11970588687.html</link>
<pubDate>Mon, 29 Dec 2014 21:14:27 +0900</pubDate>
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<title>面白い仕掛けとは、そのことだったのだ</title>
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<![CDATA[ 「俺が考えた遊園地のアトラクションを試して、その感想を聞かせてほしいんだ。」 <br><br>　響はそう言った。 <br><br>「ほう、面白そうじゃねえか。やってやる。」 <br><br>　幸太は日本酒で喉を湿らせてから、そう答えた。 <br><br>　幸太と響は高校時代に知り合い、もう２０年の付き合いになる。１、２ヶ月に一度、こうして、どちらかの家で飲んでいる。今日は響の家での飲みだ。 <br><br>　響は、企画の仕事をしているが、時々遊園地のアトラクションのアイディアを出し、開発するという仕事もしている。 <br><br>「新作なのか？」 <br><br>　と幸太。 <br><br>「ああ。」 <br><br>　響は得意げな表情を幸太へ向けた。 <br><br>「よし、じゃあさっそくやろうか。クイズボックスって言ってな、ボックスの中に入って簡単なクイズに『はい』か『いいえ』で答えてもらう。全部で十問だ。」 <br><br>　生き生きとした様子で響が説明する。 <br><br>「ふぅん。なんかあんまり面白そうじゃないな。」 <br><br>　幸太は頭をかきながらそう言った。 <br><br>「おいおい、やる前からそんなこと言わないでくれよ。面白い仕掛けも用意してあるんだ。全問正解したら景品もあるぞ。文句を言うならやってからにしてくれ。」 <br><br>「はいはい。」 <br><br>「それじゃあ、あの空き地に行こう。」 <br><br>　「あの空き地」とは、響の家の裏にある広いコンクリートの空き地のことである。 <br>　そんなところにそのアトラクションがあるというのか、勝手にそんなものを置いていいのか、と幸太は思った。 <br><br>　二人は空き地に着いた。そこにはコンクリートでできた、プレハブくらいの大きな四角いボックスがあった。そのボックスからは、物々しい雰囲気が漂っていた。 <br><br>「一体、こんなものどうやって運んだんだ？」 <br><br>　幸太は言った。 <br><br>「いいからいいから、さあ、入ってくれ。」 <br><br>　響はそう言うと、ボックスに付いている重い扉を開き、手招きした。 <br><br>「なんだか物々しいが、大丈夫か？」 <br><br>「大丈夫大丈夫。アトラクションていうのはそういうものさ。」 <br><br>　幸太はそういうものかな、と疑問に思いながら、中に入った。響が外から扉を閉める。響は幸太だけをコンクリートのボックスに入れてしまった。 <br><br>「あれ？ちょっと待て、響は入らないのかよ。俺の反応とか見ねえのかよ。」と幸太は、なんとなく１人になった不安を感じながら、誰に言うとでもなく言った。響は分厚いコンクリートの壁を隔て外にいるため、幸太の声が届いていない。幸太にもそれは分かっていた。ただ、ちょっとした不安を解消するためになんとなく喋っただけだ。「ったく、訳分かんねえよ。何考えてんだよ。何の説明もねえし。どうすりゃいいんだよ。」 <br><br>　突然１人にさせられた幸太の目の前には、無駄に広い空間が広がっていた。中も一面、コンクリートで覆われていた。新しいアトラクションだというのに、コンクリートは薄汚れていて、ここを牢獄のような雰囲気にしていた。試作品だから廃材を使っているのだろうか。それにしても、不気味な部屋だ。 <br><br>　部屋の中央には、幸太の腹くらいまでの高さの、コンクリートでできた四角柱があった。その四角柱の上には、大きく、四角い、透明のボタンが横に二つ並んでいた。そのボタンには、それぞれ「はい」と「いいえ」と書いてあった。どうやら、このボタンでクイズに答えるようだ。 <br><br>　天井の前方両端には、スピーカーが二台備え付けられていた。 <br><br>　そのスピーカーから、突然、はっきりとした女性の声が流れ出した。 <br><br>「クイズボックスへようこそ。これから『はい』か『いいえ』で答えられるクイズを十問出題します。一問１０ポイントです。全問正解して、１００ポイント獲得すると、豪華商品を贈呈いたします。」 <br><br>　明瞭で女性らしい素敵な声だ。 <br><br>「なるほどな、こういう説明があるのか。」 <br><br>「クイズへの回答は、部屋中央にある、ボタンを操作して行ってください。」 <br><br>　さっき見たボタンのことだ。 <br><br>「ボタンが確認できましたら、『はい』のボタンを押してください。」 <br><br>　幸太は『はい』のボタンを押す。 <br><br>「はい、ありがとうございます。それでは、クイズボックスをお楽しみください。出題を開始いたします。 <br>第一問、クイズボックス開発者、響が幸太と知り合ったのは、２０年前である。」 <br><br>「なんだ？これ。俺専用の出題か？簡単だな。」 <br><br>　幸太は『はい』のボタンを押す。 <br><br>「正解です。１０ポイント獲得です。合計ポイント１０ポイント。 <br>第二問、響の今までで一番恥ずかしかった出来事は、小学校の頃、好きな子の笛を舐めているところを、本人に見られたことである。」 <br><br>「そういうこともあったのは知っているけど、違うな。一番は、初体験の時に『入ってるかどうか分からない』と相手に言われたことだ。」 <br><br>　幸太は『いいえ』のボタンを押す。 <br><br>「正解です。１０ポイント獲得です。合計ポイント２０ポイント。」 <br><br>　なんだこれ、ただの○×クイズじゃないか、こんなものをアトラクションにしていいのか？面白くもなんともないぞ。微妙すぎる。響には悪いがそう伝えよう。と幸太は思った。 <br><br>　その後も、クイズは続き、幸太は五問中五問正解して、５０ポイント獲得していた。 <br><br>「第六問、響は幸太のことが、嫌いである。」 <br><br>「は？なんだこの問題は。そんなわけないだろ。」 <br><br>　幸太は『いいえ』のボタンを押す。 <br><br>「ここからは、お楽しみ頂くために、答えを伏せさせて頂きます。すべての回答が終わった後に、答えを発表いたします。」 <br><br>「ふうん。」 <br><br>　まあ特に、そんなお楽しみ要素はいらないが、と幸太は思った。 <br><br>「第七問、響は幸太に苦しんでほしいと思っている。」 <br><br>「ん？……。」 <br><br>　幸太は六問目からクイズの内容が、少し不穏な空気を漂わせているような気がしていた。 <br><br>　彼は『いいえ』のボタンを押す。 <br><br>「第八問、響は幸太のことを殺したいと思っている。」 <br><br>「ははは、そんなわけないだろ。」 <br><br>　幸太は笑い飛ばした。 <br>　そうか、分かった、こういう風に、不気味な問題を出して、スリルを味わわせようとしているのだな、と彼は思った。 <br><br>　彼は『いいえ』のボタンを押す。 <br><br>「第九問、響は自分の彼女と浮気した幸太のことを恨んでいる。」 <br><br>　幸太は凍りついた。 <br><br>「そんな……バレてないと思ってたのに。嘘だろ。知っていたのか。」 <br><br>　幸太は、ずっと隠れて、響の彼女と浮気をしていたのだ。 <br><br>　さっきの、「響は幸太のことを殺したいと思っている。」という問題が気になった。このことを知っているということは、響は本当に自分を恨んでいて、殺したいと思っているのかもしれない、と幸太は思った。 <br><br>　背筋が寒くなった。こんな密室、人を殺すにはうってつけの場所じゃないか。響は自分をこの牢獄のようなボックスの中に閉じ込めて、最終的に殺すつもりなのだろうか。 <br><br>　壁をよく見ると、薄汚れた部分が、血の跡のようにも見える。 <br><br>　不気味な雰囲気の部屋の中で、うるさいほどの静寂に寒気がする。 <br><br>　こんな気味が悪いところで自分は一体何をしているのだろう、と思った。 <br><br>　本当に殺されるのか？ <br><br>　だが、浮気したからといって、２０年来の友達を殺すだろうか。さすがに、それはやりすぎだ。 <br><br>　一旦冷静になろう。 <br><br>　俺達の友情はこんなことで崩れ去るのだろうか。答えはノーだ。こんなことでは崩れ去らない。俺達の友情はそんな薄っぺらいものではなかったはずだ。 <br><br>　この雰囲気に飲まれて、よからぬ妄想をしてしまっただけだ。殺されるわけがない。まんまと、響の思惑にはまってしまっただけだ。 <br><br>　響の彼女と浮気したことは本当に悪いと思っている。ここから出たら謝ろう、と幸太は思った。 <br><br>「浮気したことは、恨んでいるよなそりゃ。」 <br><br>　彼はすまなかった、と思いながら『はい』のボタンを押す。 <br><br>「第十問、最終問題です。」 <br><br>　いよいよ最後の問題だ。どんな問題が出るのだろうか。 <br><br>　幸太は集中して耳を傾けた。 <br><br>「幸太はここで死ぬ。」 <br><br>　それを聞いた瞬間、幸太の血の気が引いていった。 <br><br>「嘘だろ！おい！」 <br><br>　さっきは響が自分のことを殺すなんてことはしないと思った。だが、この問題はまずい。幸太は、響の性格をよく知っていた。響が確信めいたことを発信する時、それは必ず実行される。響はそういう男なのだ。響は本気で幸太を殺すつもりだ。 <br><br>「この部屋から出してくれ！」 <br><br>　幸太はさっき入ってきた場所に走っていった。しかし、そこには取っ手になるものもなかった。彼は必死にその場所を押したり叩いたりしたが、ただ、コンクリートの湿ったような音が部屋に響くだけだった。 <br><br>「ごめんよ！本当に悪いと思ってる！俺のことを殴ってもいい！でも殺すなんてやりすぎだろ。」 <br><br>　幸太は部屋中を見渡した。だが、そこには扉のようなものはなかった。 <br><br>　よく見ると、天井の後方端に監視カメラがついていた。響はそれで、こちらの様子を観察していたのだ。幸太はそのカメラに向かって必死に叫んだ。 <br><br>「本当に悪かったと思ってる。話合おう。とにかくここから出してくれ。頼む頼む頼む！」 <br><br>　何も返ってこない。 <br><br>　幸太は、このクイズが終わったら殺されてしまうと思ったから、ボタンは押さないままにしていた。 <br><br>　彼は部屋中を走り回って、必死に壁を叩いたり蹴ったりしながら助けを求めた。しかし、外には出られないし、誰も助けには来てくれなかった。 <br><br>　こんな不気味な部屋に独りぼっちだ。幸太は言いようのない不安を感じていた。 <br><br>　突然、スピーカーから、先ほどのはっきりとした女性の声が聞こえた。 <br>　驚いた幸太はおかしな叫び声を上げた。 <br><br>「時間切れです。十問目は無回答とさせて頂きます。」 <br><br>「待ってくれ。やめないでくれ。クイズを終わりにしないでくれ。」 <br><br>　クイズが終わったら、恐らく殺されてしまう。幸太は恐ろしくてたまらなかった。 <br><br>「十問すべて終了しました。 <br>それでは答えを発表していきます。答えを伏せたのは、六問目からですが、おさらいのため、一問目から答えを発表いたします。 <br>一問目、『クイズボックス開発者、響が幸太と知り合ったのは、２０年前である。』の答えは『はい』です。『はい』と答えたので……」 <br><br>　こうして、淡々と答えが述べられていった。そして、第六問目の答えが告げられようとしていた。ここからが問題だ。幸太はまだ望みを捨てていなかった。これはただ、最高にスリルを味わわせるための、手の込んだいたずらだという可能性だってあるのだ。それにまだ、「幸太はここで死ぬ。」の答えが「はい」に決まったわけではない。「いいえ」だという可能性だってあるのだ。 <br><br>「六問目、『響は幸太のことが、嫌いである。』の答えは『はい』です。『いいえ』と答えたので不正解です。」 <br><br>　幸太は、物凄い脱力感を感じた。 <br><br>「七問目、『響は幸太に苦しんでほしいと思っている。』の答えは『はい』です。『いいえ』と答えたので不正解です。 <br>八問目、『響は幸太のことを殺したいと思っている。』の答えは『はい』です。『いいえ』と答えたので不正解です。」 <br><br>　幸太は目を見開いた。この流れはまずい。緊張と、ボックスの中の蒸し暑さで、幸太は服が湿る程汗びっしょりになっていた。 <br><br>「九問目、『響は自分の彼女と浮気した幸太のことを恨んでいる。』の答えは『はい』です。『はい』と答えたので正解です。 <br>十問目、『幸太はここで死ぬ。』の答えは……」 <br><br>　鼓動が高鳴る。息が苦しい。『幸太はここで死ぬ。』の答えは？ <br><br>「『はい』です。無回答なので不正解です。」 <br><br>　絶望的な気分になった。 <br><br>　幸太は、吐き気がするほど、緊張した。そして実際に、床に吐いてしまった。 <br><br>「十問中、六問正解でした。十問正解ではなかったので、商品獲得ならず。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。」 <br><br>　女性の声が、狂ったように、同じ言葉を繰り返していた。その声は、時に高く速く、時に低く遅かった。故障した機械のごとく、気味の悪い繰り返しであった。実際に故障しているのだろうかとも思った。しかし、新しく作ったアトラクションなのだ。故障などしていないはずである。恐ろしい思いをさせるために、響がそう作ったのだろう。 <br><br>「残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。」 <br><br>　仮定が正しければ、響の思惑通りだった。いくら響の思惑が分かっていても、幸太はその狂ったような繰り返しの声のせいで、恐ろしくなって、極度の緊張状態に陥っていたのだ。もちろん、その緊張感には、自分がこれから殺される、という恐怖から来ているものも含まれている。 <br><br>　突然、ウィーンという音がした。横を見ると、壁の一部にサイコロくらいの穴が空いていた。すると、その穴から金属のチューブのようなものが、凄いスピードで幸太の目の前まで伸びた。 <br><br>　危険を感じた幸太は避けようとしたが、その瞬間に、その金属のチューブのようなものから炎が出てきて、幸太の顔面を焼いた。 <br><br>　あああ！ <br><br>　幸太は熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い、と言ったつもりだった。しかし実際にはあまりの苦痛で、ただよく分からない叫び声を上げただけだった。叫びながら部屋の中をのたうち回った。 <br><br>　その幸太の下へ、また先程の金属のチューブのようなものが伸びてきた。それが、今度は体全体に向けて、勢いよく炎を噴射した。ジリジリと、肌が燃えた。凄まじい熱さと激痛が襲ってきた。幸太は、苦しみもがきながら叫んだ。部屋中を転げ回った。 <br><br>　そうやって転げ回っている内に、全身が焼かれ、とてつもない苦しみを味わいながら幸太は死んでいった。 <br><br>　彼が死んだ後、部屋には、女性の声だけが響いていた。 <br><br>「残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。残念でした。またお越し下さい。」 <br><br><br><br>　クイズボックスは、実際の「死」という、最大のスリルを味わわせてくれるアトラクションだったのだ。 <br><br>　ここまでのスリルを味わわせてくれるアトラクションは、世界中でたった一つ、これしかない。 <br><br><br><br><br>　一週間後。 <br><br>　響の家。 <br><br>「頼みたいことがあるんだけど、いいか？」 <br><br>　響は彼女である里美に言った。 <br>　 <br>「いいよ。なあに？」 <br><br>　里美は、可愛らしい顔をほころばせた。 <br><br>　響は優しい顔で、こう言った。 <br><br>「俺が考えた遊園地のアトラクションを試して、その感想を聞かせてほしいんだ。」
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11915134909.html</link>
<pubDate>Mon, 25 Aug 2014 21:04:59 +0900</pubDate>
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<title>到達不可能な目的、目標に向かうことの意義</title>
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<![CDATA[ 　日本の教育の目的は、教育基本法第一条に記されていますが「人格の完成」です。しかし、「人格の完成」なんて到達不可能なんですよね。人格が完成された人間なんて見たことがありません。そんな人がいたらその人は神です。ではなぜそこを目指すかというと、もし、例えば教育の目的が「人間性の発展」というように、到達可能な目的だったらどうでしょう。子供が、昨日より今日の方が人に優しくできた、人間的に成長できた、発展できた、となったら、その時点で教育の目的は達成できてしまうことになってしまいます。そしたらもう教育は必要ないことになってしまいます。これはかなり極端な言い方をしていますがね。 <br>　だからこそ、あえて超次元的な目的を設定してあるわけです。到達不可能であるからこそ、常に人間の不完全性を自覚し、目的へ向かってあらゆる成長をしていけるのです。 <br>　だから、「戦争をなくす」だとか「犯罪をなくす」だとか、到達不可能な目標があったとしたら、それは決して無意味ではないんですね。そのために状況が良くなっていくのですから。 <br>　しかし、字がうまくなりたいだとか、テストの点数を上げたいとか、到達可能な目標も大切です。何が重要かというと、到達不可能な目標を持つことにも意義がある、ということを把握しておく必要があるということです。 <br><br>　例えば暗い人が、とても明るい人間になりたい、と思っているとします。しかし、その人は自分の暗い部分、闇の部分を大切にしています。だから、どこかでその明るくなりたい気持ちをストップさせてしまっています。明るくなったらそれがなくなってしまうのではないかと。しかし、全くの、底抜けに明るい人間になるなど不可能です。必ず闇の部分は残るわけです。だから、その暗い人は、大切な闇の部分を残したまま、安心して明るい人間をめざせるんです。 <br>　精神的に落ち込んで自殺を考えている人には是非、底抜けに明るい人間になることを目標にして欲しいですね。その時に、それは到達不可能だということを念頭に置くことを忘れないで頂きたいです。なぜなら、到達できなかった時に、精神的ダメージを、負ってしまうからです。到達することではなく、そこに向かって成長する事が大切なのです。底抜けに明るい人間にならなくても、その人の良さを残した状態で、一定の明るさになっていければ充分です。 <br>　そうやって成長して、良い方向へ向かっていくことは必ずできるはずです。なぜなら、私達は、「人格の完成」という、到達不可能な教育の目的の下、切磋琢磨して、人格も良い方向へ形成されて、立派に育ってきたのですから。（もちろん例外もありますが） <br>　この例だけでなく、誰もが人生において、到達不可能な目的を設定し、成長し続けることができるのです。是非、到達不可能な目的を設定してみてください。
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11915134382.html</link>
<pubDate>Mon, 25 Aug 2014 21:04:15 +0900</pubDate>
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<title>竹ちゃん</title>
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<![CDATA[ 　曇天の空。 <br>　私は母へ顔を見せるため、実家へ帰ってきた。 <br>「ただいまー」 <br>「あら、雅彦じゃない。よく来たね。おかえり」 <br>　母が出迎えてくれた。 <br>　居間がガヤガヤと五月蝿い。子供達の声がする。 <br>「おい、お袋、誰が来てるんだ？」 <br>「ああ、近所の子供達よ。５年くらい前から夏休みの中頃に、子供達を呼んでお菓子をご馳走しているのよ」 <br>「ふうん。そうなんだ。なんでまたそんなことしてるんだ」 <br>「私達も寂しいからねえ」 <br>「ふうん」 <br>　色々とあるのだろう。やはり私が出て行ってから寂しい思いをさせてしまっているのか。申し訳ない気持ちになる。 <br>　居間に入る。子供達がガヤガヤと、饅頭を食べながら喋っている。 <br>「こんにちは」 <br>私がそう言うと、皆元気よく返事を返してくれた。子供達は全部で１０名いた。よくもまあこんなに集めたものだ。 <br>　そんなことを考えていると、家に帰って早々だが、トイレに行きたくなった。 <br>　トイレに着くと、誰か入っていた。実家のトイレの戸には、上下にすりガラスが付いていて、ぼんやりと誰かが中に入っているのが見えるのだ。中には、黒い服の小さな人間が入っていた。なんだ、まだ子供がいたのか。さっきの１０名と合わせて１１名か。とにかく大勢集めたのだな。 <br>　そこを、祖母が通った。 <br>「あ、おばあちゃん」 <br>「おお、雅彦、おかえり。よく来たね。元気にしてたかい？」 <br>「ああ、元気だったよ。それにしても、よく１１人も呼んだね」 <br>「はい？今日来てるのは、１０人だよ」 <br>　一瞬にして、薄気味悪い気分になった。 <br>「今トイレにいる子を含めて１１人じゃなかったの？他に誰か来てるの？」 <br>「いいや、子供を１０人呼んだだけさ。トイレにいる子？トイレになんか誰もいないじゃないか」 <br>見ると、すりガラスには、誰も映っていなかった。 <br>「あれ、おかしいなあ」 <br>　見間違えだったのだろうか。いや、確かに見た。じゃああれは誰だったんだ。 <br>「そんなことより、雅彦の布団を用意するから手伝っておくれ」 <br>「はいよ」 <br>　私と祖母は寝床へ行った。戸を開けると、そこには黒いパーカーを着てフードをかぶった、酷く肌が白い男の子が畳の上に立っていた。クリクリした目で、可愛らしい顔立ちをしているが、頬が痩けていて、不気味な雰囲気が漂っている。 <br>「た、竹ちゃんだ」 <br>祖母は青白い顔をしてそう言っていた。 <br>「竹ちゃん？」 <br>「そう竹ちゃん。１０年前に、お饅頭を食べた後、腹痛を起こしてそのまま亡くなった子供の話をしただろ？あの時はえらい騒ぎになったのを覚えているかい」 <br>「ああ。まさか……」 <br>「そう、そこにいるのがその竹ちゃ……いない！」 <br>いつの間にか竹ちゃんは消えていた。 <br>「あれは竹ちゃんの霊に違いない。竹ちゃんの霊なんて今まで出たことがなかったのに、なんで今日に限って」 <br>と早口で祖母が言った。何か尋常ではない雰囲気だった。 <br>「なあ、竹ちゃんて、饅頭を食べてから亡くなったんだよな。今日ってみんなに饅頭を食べさせているよな。なんかまずい気がしてきた。止めないと」 <br>「頼む」 <br>　走って居間に行った。しかし、時既に遅し。子供達は全員饅頭を食べ終えていた。 <br>　私達は何か良くないことが起こると思い、心配した。だが、数時間経っても子供達は元気だったため、胸をなで下ろした。 <br><br>　翌日、子供達全員が、謎の腹痛を起こして入院した。安心などしてはいけなかったのである。家で出したもののせいではないかと疑われたが、病院では、食中毒ではない、という結果が出たため、疑いは晴れた。しかし、依然、腹痛の原因は不明だった。 <br><br>　１週間後。 <br><br>　入院した子供達１０名全員が死亡した。 <br><br>　歯の間に詰まって、中々取れない食べかすのようなしこりが残った。 <br>　明らかに竹ちゃんなどという、薄気味の悪い男の子の呪いである。しかし、なぜ、今まで呪われるようなことなどなかったのに、今更こんなことが起きるのだろうか。謎である。 <br><br>　それから１ヶ月後、祖母まで謎の腹痛で死亡した。母の話によると、祖母は、白目を剥いて不気味な笑顔を浮かべたまま死亡したそうだ。 <br><br>　祖母の葬儀はこれからだ。 <br><br>　しかし、私は葬儀に行けない。 <br><br>　なぜなら私は現在、謎の腹痛で入院しているからだ。
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11896969532.html</link>
<pubDate>Sun, 20 Jul 2014 11:39:51 +0900</pubDate>
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<title>羞恥心のかけらもないクソみたいなクレーム</title>
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<![CDATA[ ３日前、友人が出るファッションショーに行って、終わってからカラオケに行った。ネタでジョジョ～その血の運命～を、めちゃくちゃ気合いを入れて歌ったら、友人と一緒にファッションショーに出た娘に「ジョジョかっこよかったです」と言われた。いや、他にもなんか色々歌ったけどそれかよ！ <br><br>その後別れてから、新宿で１人、ケンタッキーのツイスターを店内で食べた。そしたら中に入ってるクリスピーチキンが尋常じゃないほどでかいの。俺ケンタッキーで働いてたことがあるから分かるけど、クリスピーの中でもあんなくそでかいクリスピー中々ないわけ。クリスピー大好きだから、もう嬉しくって。大満足だった。で、それをどうにも店員に伝えたくなっちゃったわけ。完全に変人、変態だよね。 <br><br>店から出るときに <br>「あの、さっきのツイスターのことなんですけど」 <br>と言うと、店員はクレームかと思ったのか、緊張して、顔をこわばらせた。そりゃそうだろうね。圧倒的にクレームの方が多いし、こんな変態あんまりいないだろうから。俺は気にせず続けた。 <br>「クリスピーが凄く大きかったんで、作った人にありがとうございます、と言っておいて下さい」 <br>そう言うと、店員の顔はパッと明るくなり、 <br>「はい！ありがとうございます！」 <br>と言った。店員は嬉しそうな顔をしていた。 <br>このネット時代、他の人がクレームを入れた事例をいつでも見られるようになっている。それを見た人が、こういうことでも言っていいんだ、と思ってしまい、気軽にクレームが入れられるようになった。だからクレームが増えたんだと思う。でもそんなクソみたいなことは増えたけど、いいと思ったことは、中々言わないことが多い。それは、いいと思った人は恥ずかしくて言わなくて、不満に思った羞恥心もない人は、バンバン言うからである。だから店員は大変だと思う。 <br><br>この前こんなことがあった。雷で電車が止まっているときに、老人が駅員にめちゃくちゃ怒鳴っていたのだ。耳を傾けると、 <br>「雷止めろ！」 <br>と凄く怖い声で脅すように、駅員に言っていた。 <br>もうね、お前バカじゃねーの？頭狂ってんのか？と思った。どんだけファンタジーな頭してんだよ。ファンタジーじじいだよ。でもこういう意味不明でバカすぎるクレームは世の中に蔓延っている。そう思うと泣けてくる。 <br><br>こんな時代だからこそ、いいと思ったことはどんどん伝えていきたい。たまにこういうことがあって、店員が楽しく仕事ができればいいな。
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11895188500.html</link>
<pubDate>Wed, 16 Jul 2014 20:19:49 +0900</pubDate>
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<title>Yummiさんの伴奏</title>
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<![CDATA[ 7/25 Fridayに、またYummiさんの伴奏を２曲演奏させて頂くことになりました。来たい方の連絡、お待ちしております。Yummiさんは、俺が演奏する以外の曲ではダンスも踊られます。ちなみにYummiさんの出番は、２１：１０からです。<br><br>【オン×ゲキvol.2】<br><br>[cast]<br>劇団 還-meguru-<br>Yummi<br>坂崎すずえ<br>西山ユイ<br>松田佳奈<br><br>[open / start]… 18:00 / 18:30<br>[adv / day]… 2,500 / 3,000<br><br>[ticket]<br>◆ローソンチケット『L-75614』7/4(金)～発売開始<br>LAWSON TICKET<br>◆CAVE-BEメール予約はコチラ → reserve-tokyo@cave-be.net<br>(公演日・お名前・連絡先・チケット予約枚数の明記をお願い致します)<br><br>[主催/お問い合わせ]<br>劇団 還-meguru- → 0728k.matsuura@gmail.com<br><br>アクセス→http://www.cave-be.net/tokyo/access<br><br>道のりの動画→https://www.youtube.com/watch?v=sanlhsvJP-Y
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11887869166.html</link>
<pubDate>Wed, 02 Jul 2014 22:00:20 +0900</pubDate>
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<title>やけに美しい星空を睨みつけながら</title>
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<![CDATA[ 　歩く度に、リチンリチンと針と針がぶつかる音がする。一々腹を立ててはいけないと思うのだが、星空を睨みつけながらその音に腹を立てている。やけに美しい星空を睨みつけながら。 <br><br>　僕は針男と呼ばれている。全身から針が突き出ているからだ。針は銀色で、根本が少し太くて、先端に近づくにつれて、段々細くなっていた。一番太い根本の直径は、１センチメートルくらいだった。長さは２０センチメートルくらいで鋭いものだ。それがびっしりと体中に生えている。脇から脇腹にかけた部分と、腕の内側と、足の内側と、臀部の横から２０センチメートル下くらいまでと、手のひらの針は、５ミリメートルくらいの長さであった。そこに長い針が生えていたとしたら、普通の状態、つまり腕を下ろして気を付けをしている状態で、針が脇腹や腕や足に刺さってしまうからである。神様は、僕が死なないように僕の体を設計したのだろうか。僕が生まれる時には、既に針が生え始めていて、母親の体を傷付けながら生まれてきた。おかげで、母親は僕を生むと死んでしまった。父親は母親を殺した僕を憎み、捨てた。母親は、皆に好かれていた。その母親を殺したということと、全身から針が生えて恐ろしい子として、僕は村人達に嫌われた。 <br>　僕は村で一番のお人好しの、ララおばさんに一人前になるまで育てられた。そのララおばさんも、もう死んでしまっていた。 <br><br>　針のおかげで誰にも触れたことがない。握手も、撫でることも、抱きしめることさえしたことがない。本当は誰かと触れ合いたくて仕方がないのだができないのだ。 <br><br>　僕の住んでいる村は、人口１００人くらいの小さな村だ。村人達は、こんな僕でも、嫌いつつではあるが、住ませてくれる、いい人達だ。 <br><br>　仕事は人とあまり接することがなくて済む、木こりをやっている。斧は針を柄に刺しつつもなんとか片手で持っているのだ。両手で斧を持ってしまうと、斧を振る時に胸の針が腕に刺さってしまうから、片手で斧を持っている。片手で持っていて弱い力でしか木を切れないから、他の木こりよりも作業速度が遅い。そのことを陰で悪く言われていることは知っていた。 <br>　毎日毎日黙々と木を切っている。単純作業が好きだからこの仕事は結構気に入っている。 <br><br>　今日も、仕事が終わって、村を歩いていた。ふと後ろを見ると、肩を抑えてうずくまっている人がいる。慌てて駆け寄ると、針で引っかかれた跡がちらりと見えた。僕の針が知らないうちに当たっていたのだ。時々こういうことがある。 <br><br>「すみません、すみません！大丈夫ですか」 <br><br>　その人の肩に手をかけてあげたかったが、針で傷付けてしまうからそれはできない。酷くもどかしい。 <br>　応急処置でさえできない。 <br><br>「いいから、いいからあっちへ行ってくれ！これ以上お前が近付くと更に怪我をしちまう。邪魔なんだよ！早く行け！」 <br><br>　悲しい気持ちになりながらも、その場を後にする。 <br>　人を傷付けると、凄く悲しい気持ちになる。人を傷付けたくないのだけれど、知らず知らずのうちに人を傷付けてしまうのだ。背中の針や、後頭部の針は目に見えないし、肩から突き出した針は、顔をそちらに向けなければ見えないから、そちらを常に見ながらでないと、肩の針が人に当たるのを避けられない。しかし、肩の針ばかり見ていたら、今度は反対側の肩の針や、他の針が見えなくなってしまう。だから、どんなに気を付けていても、人を傷付けてしまうのだ。 <br>　極力家から出ないようにしてはいるが、生活をするには、どうしても買い物に行ったり、仕事に行くために、人が通っているところを通らなくてはならない時がある。その時は縮こまって人を傷付けないように歩いているのだが、時々、どうしても人に針が当たってしまう時がある。 <br>　その度に心から申し訳ない気持ちになって、こんな自分を呪うのだ。 <br><br>　家に着いてから、いくつもの穴が空いた木の椅子に、臀部の針を刺しつつ座った。 <br><br>　関わりのある人で、深い関係にはならないけれど、なんとなく優しくしてくれる人はいる。だけれど、僕と関わっている人にも、あまり関わっていない人にも、僕を毛嫌いしている人が沢山いるのだ。それは、長い時間放置されて、どんなことをしても、絶対に取れなくなってしまった汚れのように、どうしようもできないものであった。それがどうにも、息苦しく感じる。 <br><br>　人一倍寂しがりで、友達も欲しいけれど、友達はいない。近くにいて傷付けられるのが怖くて誰も近寄りたがらないのだ。だからいつも１人で過ごしている。 <br>　だけど、明日だけは木こり仲間の飲み会だから、人と一緒に過ごせる。 <br><br>　月に１回、木こり仲間の集まりで、野外での飲み会があるのだ。その時だけは人と一緒に食事をしたり、飲んだりすることができる。古くからの風習で、木こり仲間全員がこの飲み会に参加しなければならないことになっているのだ。 <br>　木こり以外の仕事でも、これと同じように飲み会があるから、これは避けられないことなのである。 <br>　 <br>　さて、明日は飲み会だし、さっさと夕飯を食べて、寝ようかな。 <br>　 <br>　夕飯を食べてから、土で作ったベッドで寝た。 <br>　木のベッドだと、木に針が刺さって、寝返りを打てないけど、土のベッドだと、土に針が刺さっても、寝返りを打てるから、実にいい。 <br><br>　翌日の夜。 <br><br>　木こり仲間７人で、テーブルを囲んで、飲み会をした。夜空は少し曇っていた。 <br>　僕は人を傷付けてしまうから、少し離れたところに座らされていた。 <br><br>「おい、どうだ、針男。この仕事は楽しいか」 <br>「うーん、楽しくはないけれど、好きではあります。ただ木を切るっていうだけの単純な仕事じゃないですか。そういう単純作業が好きなので、自分には合っていると思います」 <br>　すると、ジェイスが声を荒らげた。 <br>「ただ木を切るっていうだけの単純な仕事だとぉ！？ふざけるな！木を切るのにはコツもいるし、みんな工夫しながら切っているんだよ。どの木がいい木なのかっていうのも考えながらやっているんだ。俺はなあ、この仕事に誇りを持っているんだ。そうやって誇りを持ってやっている人間もいるっていうことを考えて発言しろよ！人の気持ちを考えろ！」 <br>「いや、でも、この仕事が楽しいかって聞かれたから正直に答えただけで……」 <br>「謝りもしないで、この期に及んで言い訳するのか？」 　そうか、謝らなければいけないんだ。 <br>「不快な思いをさせてしまってすみませんでした。もう２度とこのようなことがないようにします」 <br>「謝るのが遅い。言われなければ謝れないのか。最低だな」 <br><br>　その後、気まずい雰囲気で飲み会が進行してから、お開きになった。 <br><br>　家に帰ってから考えた。さっきは、何が悪いのかよく分からなかった。けれど、よく考えてみると、確かに、誇りを持って仕事をしている人があの中にいるのは十分想像できることなのに、軽い気持ちで「ただ木を切るっていうだけの単純な仕事」などという発言をしてしまった自分がとても悪かったと気付いた。 <br>　今更気付くなんて、自分は本当に馬鹿で、頭の回転が遅くて、気が使えないと思った。人とあまり接してこなかったのも原因の一つだろう。申し訳ない気持ちで一杯になった。何が悪いのかすぐに分からなくて、謝るのが遅くなった自分が本当に嫌になった。 <br><br>　その後、なんだかんだいって、ジェイスには許してもらった。だが、それから、ジェイスが僕のことを嫌っているということを噂で聞いた。 <br><br>　あの飲み会から１年後の飲み会。 <br>　 <br>　ジェイスに、あの発言は許してもらえたのに、なぜその後、嫌いになったのか、どうしても聞きたかった。 <br><br>「すみません。ジェイスに質問なんですが、なぜ、僕のことを嫌っているんですか？」 <br>僕は飲み会の席でそう言った。 <br>「また……。こうやって、みんながいる場所で、不適切なことを言ったな。なんでここでそれを言うんだよお前は。俺がお前のことを嫌いだということを知らない奴もいるんだぞ。……。お前のそういう行儀の悪いところが大嫌いなんだよ。お前が針男だからじゃねえ。お前あの後も、飲み会の度に、色々と人を不快にさせるような変な発言してただろ。それが俺は嫌で仕方なかったんだ。だが、木こり仲間だからどうしてもお前と飲み会をやらなくちゃならねえ。だからせめて話さないように、極力お前とは関わらないようにしていたんだ。そのままにしておけばいいものを。そういう風に被害者ぶって、ここで俺を悪者扱いして楽しいのか？そういうことをここで言うなよ。なんでそんなに空気が読めないんだよ。ここで言うことじゃないだろ。みんなの前でおちょくりやがって」<br>「すみません。申し訳ございません！」 <br>「これからは一切俺と関わらないでくれ」 <br>「本当にすみませんでした！」 <br><br>「おっと、ちょっとこれはいけない雰囲気だね。食べ物も尽きてきた頃だし、ここらでお開きにするとしようか」 <br><br>　アルディータが低く優しい声で言った。 <br><br>　僕は走り出した。 <br><br>　ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。 <br>　ああ、またやってしまった。まただ！またやってしまった！もう２度としませんと言ったのに、また人を傷付けるような発言をしてしまった。本当に僕は馬鹿だ。僕が毛嫌いされているのは針男だからなんかじゃない。この性格のせいだ。 <br>　今まではよく分からなかった。けれど、ようやく分かった。ジェイスは「あの後も、飲み会の度に、色々と人を不快にさせるような変な発言してただろ」と言っていた。全然知らなかった。僕は知らず知らずのうちに、物理的だけじゃなくて、精神的にも人を傷付けていたんだ。他の場面でもそれはあるのだろう。あの飲み会の後、気を付けていたつもりだった。人を傷付けないように、と思って生活していた。でも、全然できていなかった。分かっていなかった。 <br>　みんながいる前で、「なぜ僕のことが嫌いなんですか？」って発言するなんてありえないだろ！信じられない。気が狂っているとしか思えない！馬鹿か！おい！馬鹿か！人の気持ちを考えろよ。ダメだ。自分が馬鹿すぎて嫌になる。 <br>　人を傷付けるのは嫌なのに傷付けてしまう。僕は頭がおかしいんじゃないか？脳になにか障害があるのだろうか。 <br><br>　そこまで考えて、激しい息切れによって、走るのが困難になった。それからトボトボと歩き出した。今日は精神的にも肉体的にも疲れた。足がガクガクする。 <br>　曲がり角まで来た時、石につまずいて転んでしまった。 <br><br>　その時、丁度曲がり角を曲がってきた誰かを道連れにしながら転んでしまった。ぐさりと自分の針が人に刺さった感触があった。この時間にはほとんど人が通らないのに、こんな時に限って人がいるなんて。 <br><br>　隣人のジェーネが血だらけになって地に伏している。 <br>　その横ではジェーネの夫バイスがこちらを睨みつけている。 <br>　ジェーネは夕食の残りをくれたり、食器をくれたり、いつも良くしてくれていた。そんな優しいジェーネを傷付けてしまった。僕は最低だ。 <br>　さっきは精神的に、今度は物理的に、次から次へと人を傷付けてしまう。 <br><br>「すみません！本当にすみません！」 <br>「おい、見ろよ……。重症だぞ。どうしてくれるんだよ。何してるんだよ！お前の全身には針が付いているんだ。危ないんだよ。分かるか？もっと気を付けろよ。おい、もっと気を付けろよって言ってんだよ！なんてことしてくれたんだ！」 <br>バイスは目を血走らせて、唾を飛ばしながら、物凄い形相で僕を怒鳴りつけてきた。怖くて仕方がない。しかし、それだけ怒らせるようなことをしてしまったのだ。ここまで怒られても仕方がない。 <br>「本当に申し訳ないと思っています。なにか僕に出来ることはありませんか？」 <br>「あのなあ、そういう風にいい人ぶってるのが腹立つんだよ。それに悪いことしてしまってから、謝ればいいってもんじゃないんだよ。その前に気を付けなきゃ。後で謝ったって手遅れなんだよ。ほら、ジェーネを見てみろよ。傷だらけじゃないか。もう遅いんだよ。なにか出来ることはありませんかだって？あるわけねえだろ！そんな針だらけのやつに！自分が人を傷付ける存在だっていうことをもうちょっと重く受け止めろ。そうじゃなきゃダメなんだよ。悪いが俺も針で刺されたくないからとっとと消えてくれ！」 <br>「すみませんでした！」 <br>「早くどこかへ行け！この村から出てけ！」 <br><br>　僕は走り出した。そして森の中へ逃げた。三日月の夜だった。 <br>　自分がいかに価値のない人間なのか思い知らされた。 <br>　僕は全身針だらけだ。存在しているだけで、人に迷惑をかけてしまう。しかも、それだけでも大変なことなのに、性格までもが人に迷惑をかけるものだなんて。もう全てがダメだ。ダメすぎる。 <br><br>　僕はどうしようもできない存在なのか。なんとかできないか。変わることはできないのか。 <br>　性格は気を付けていたのに直せなかった。 <br>　針はどうだ。 <br>　折ってしまえばいいんじゃないか。そうか、なんで今までそのことに気付かなかったんだ。 <br>　この針は人に迷惑をかける針なんだ。こんな針はいらない。 <br>　思い切り胸の針を折った。 <br>　激痛が走り、絶叫した。 <br>　針から血が出てきた。どうやら針にも神経が通っているらしい。 <br>　しかし、そんなことで、針を折るのをやめようとは思わなかった。 <br>　次々と針を折っていった。 <br>　折る度に絶叫した。 <br>　折る寸前に痛みへの恐怖を感じたが、折らなければ気が狂ってしまいそうだった。悲しみと、怒りにも似た感情によって針を折り続けた。 <br>　針がなくなれば、いつか誰かを抱きしめることができるかもしれないという希望もどこかに持っていた。 <br>　折った瞬間に、全身が揺れる程の痛みがあった。折った後は、ナイフを肌に浅く刺して、それを常にぐりぐりと回しているような痛みがあった。それでも折った。 <br>　大声で泣いていた。叫びながら何度も何度も針を折った。 <br>　やがて手の届く範囲全ての針が折れると、気が抜けて、気絶してしまった。 <br><br>　しかし、気絶したままでいることはできなかった。痛みを感じて、絶叫しながら目が覚めた。そして、すぐに気絶して意識を失った。それから数分後、また痛みで絶叫しながら目が覚めた。そして、気絶した。それを何度も繰り返した。 段々と、気絶してから目覚めるまでの間隔が長くなっていった。 <br><br>　その後、ようやく通常の眠りにつけたのが、何日か後の昼だった。 <br>　それから更に何日か後に、ようやく目が覚めた。 <br>　薄目を開けると空は橙色をしていた。 <br>　眠い目で自分の体を見た。 <br><br>　その瞬間、絶望した。 <br><br>　また新しく、針が生えてきていたのだ。その美しく、瑞々しい生命エネルギーが、心の底から憎く感じた。 <br>　人を傷付ける肉体は変わらないのだ。 <br>　もう自分は生きている価値がないのだと思った。死にたかった。けれど、死にたいのとは裏腹に、とても腹が減っていた。無意識に働く、生きるための機能の方が、死にたいと思う気持ちよりも勝っていたのだ。死にたいのに、腹が減っていて、死ぬ気力が出なかった。皮肉なことだ。 <br>　丁度猪が目に入った。自分の体を見つめる。針の長さは１５ｃｍくらいあった。もう十分な長さまで成長している。これは武器になる。 <br>　人間の匂いを察知した猪は、僕が針男だとも知らずにこちらに突進してこようと構えている。 <br>　こちらが先に突進を仕掛けた。続いて猪も突進してきた。しかし、猪は近くまで来て、針に気付き、急停止して、Uターンをしようとした。しかしもう遅い。僕は猪に飛びかかり、思い切り抱きついた。全身の針が猪に深く刺さった。 <br>　猪は甲高い唸り声を上げ、絶命した。 <br>　初めての狩りに成功した。この針が、こんなふうに役に立つことになるなんて、考えもしなかった。 <br>　しかし、生で食べるわけにもいかないから、火をつけなければ。しかし、森の中の材料だけで火をつける方法など分からない。深夜になってから、こっそり自宅へ帰り、火打石を持ってこよう。待てよ、自宅には食料もあるじゃないか。まあいい、それも持てるだけ持ってこよう。 <br><br>　そして深夜になって、自宅へ火打石を取りに行った。他の動物に猪を取られるのではないかと心配したが、帰ってみると、猪はそのままであった。 <br>　火を起こして焼いてから、猪を食べた。 <br>　そして、これからどうしようか考えた。さっきは死にたいと思ったが、色々と考えているうちに、死ぬのが怖くなってしまった。かといって、あの村には戻れない。もう人を傷付けるのにはうんざりだ。森でこうして狩りをすることができるのが分かった。これからはこうして森で１人で暮らしていこうか。僕は１人で生きていかなければダメな存在なのだ。１人で生きていこう。 <br>　しかしここは村から近すぎる。もっと遠くへ行かなければ。 <br><br>　それから一週間かけて、別の森まで行った。 <br><br>　そしてその森で１人の生活を始めた。 <br>　移動している時からそうだったが、１人の生活は寂しかった。 <br>　誰かと一言だけでも交わしたかった。しかし、話すだけでも人を傷付けてしまうから、そんなことを求めてはいけないと思った。どうしようもない孤独が襲った。 <br><br>　生まれてから一度も幸せだと思ったことがない。 <br>　生まれてから一度も誰かに抱きしめられたことがない。 <br>　生まれてから一度も誰かを抱きしめたことがない。 <br>　心の底から愛情を求めているのに、この針が、性格が邪魔をして、愛情を貰えない。 <br>　心の底から愛情を与えたいのに、この針が、性格が邪魔をして、愛情を与えられない。 <br>　人との距離の取り方が分からない。人の心に土足で入り込んでしまう。 <br>　人に気を使っているつもりなのに、傷付けてしまう。 <br>　どうやって人と接すればいいのか分からない。 <br>　気を付けているつもりなのに、針で人を傷付けてしまう。 <br>　とにかく寂しくて、誰かに会いたい。 <br>　でもそれはできない。 <br><br>　神様、なんで僕なんていう人間を作ったんですか？酷すぎます。僕はどうすればいいのでしょうか。 <br><br>　寂しさを紛らわすために、毎日木を抱いた。もちろん針が邪魔で、完全に抱きしめることはできないが、それでも少しは気が紛れた。木を肌に付けることはできなかったが、近付くだけで、木からは、ほのかな温かみが感じられた。 <br>　しかし、何かが足りなかった。 <br><br>　唯々、虚しくて、心の中だけで静かに泣いた。 <br><br>　ある晩、誰かの声が聞こえた。 <br><br>「痛い。痛い痛い。ああ……、痛いなあ」 <br><br>　それは木の声だった。 <br>　ずっと森で生活をしていたから、木の声が聞こえるようになったのだろうか。特に不思議だとは感じなかった。針男などという奇妙な人間がいるのだ。木が喋ったって、何も不思議ではない。 <br>　そうか、木は僕が抱いているから針が刺さって痛かったんだ。木も痛かったんだ。 <br><br>「痛くしてしまってごめんなさい。迷惑をかけてごめんなさい」 <br><br>　また迷惑をかけてしまった。傷付けてしまった。 <br>　木も痛がっていたなんて。そうとも知らずに毎日抱いてしまってごめんなさい。木こりをやっていた時も痛くしてしまってごめんなさい。 <br><br>　もう、木に会わせる顔もない。その場所から、生活の場を変えることにした。とにかくそこから離れようと思った。 <br><br>　歩く度に、リチンリチンと針と針がぶつかる音がする。一々腹を立ててはいけないと思うのだが、星空を睨みつけながらその音に腹を立てている。やけに美しい星空を睨みつけながら。 <br>　生まれた時から聞き慣れた鬱陶しい音。 <br>　この針の音が憎い。 <br>　この針が憎い。 <br>　この針さえなければ、嫌われながらもまだ人間としては生きていけた。 <br>　この針さえなければ……。 <br><br>　ふと首をかしげた。 <br>　リチンリチンという音がさっきよりも多く聞こえるのだ。気のせいだろうか。 <br>　歩くのをやめてみる。しかし、リチンリチンという音は止まらず、鳴り続けている。 <br>　向こうの方を見ると、木の陰から誰かが出てきた。 <br><br>　星空の下に現れたその人は、全身から針が突き出た女だった。 <br><br>　自分と同じような人間がいたのだ。 <br><br>　僕達はその場で見つめ合ったまま立ち尽くしていた。 <br>　どれくらいの時間そうしていたのか分からない。 <br>　やがて、お互いに歩み寄っていった。 <br><br>　言葉はいらなかった。 <br>　全てが理解できたし、彼女も全てを理解していた。 <br>　僕達は泣きながら抱き合った。 <br>　その瞬間、お互いの針が体に刺さった。 <br>　それでもお互いに抱く力を弱めなかった。 <br>　次第に２人の体は近づき、針が深く刺さっていった。 <br>　針を折った時以上の痛みが襲ってきた。 <br>「ぐうぅ……。ふぅーっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」 <br>　痛みに耐えるために、お互いの呼吸は荒くなった。 <br>　かなりの苦痛であったが、それでも強く強く抱きしめ合った。 <br>　肉体的な痛みなど、心の痛みに比べれば、ほんのちっぽけなものであった。 <br>　彼女を抱きながら大声で泣いた。 <br>　同じ苦しみを抱いていたのだ。彼女も大声で泣いた。　 <br><br>　やがて、針は一番深くまで刺さり、お互いの肌と肌が接触した。 <br>　激痛があったが、温もりを感じることの方に全神経を集中させた。 <br>　人の肌は、温かかった。柔らかかった。 <br>　初めて人に抱かれた。 <br>　初めて人を抱いた。 <br>　初めて愛情を感じた。 <br>　初めて幸せを感じた。 <br>　抱き合うということは、こんなにも素晴らしいことだったのか。 <br>　とても幸せな気持ちだ。 <br>　彼女もとても幸せな気持ちになっているのが、彼女の触れ方から伝わってきた。 <br>　僕達は、お互いの温もりに酔いしれた。 <br><br>　ここまで深く針が刺さったら、命は助からない。 <br><br>　しかし、このまま生きていたとしても、今抱き合った以上の幸せを感じることはできないであろう。 <br>　だから僕達は、命を落としてでも抱き合う必要があった。 <br>　抱き合うという行為で、お互いの今までの悲しみを拭い去り、生まれて初めての愛情と幸せを感じる必要があった。 <br>　だからこれでいいのだ。 <br><br>　自分が何のために生まれてきたのか、やっと分かった。彼女を抱きしめるこの一瞬のために生まれてきたのだ。 <br><br>　最期に彼女に出会えて、良かった。 <br>　最期に幸せを感じられて、良かった。 <br>　最期に幸せを与えられて、良かった。 <br>　ここまで生きてきて、本当に良かった。 <br><br>　やがて僕達は、深く抱き合ったまま、絶命した。 <br>　 <br>　 <br><br>　星空がやけに美しい日だった。 <br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><iframe width="459" height="344" src="https://www.youtube.com/embed/c3ukLEtLrjY" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11870687314.html</link>
<pubDate>Wed, 04 Jun 2014 21:25:01 +0900</pubDate>
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<title>あまりにも価値が無さ過ぎる不器用なゴミ</title>
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<![CDATA[ 心がぶっ壊れそうだ。 <br>この気持ちはどうすればいい。 <br>俺はただ１人、ただ独り、この押し潰されそうな、圧迫された感情に耐えている。 <br>分からない。 <br>何もかもが分からない。 <br>うまくいかないことが多すぎる。 <br>このあまりにも辛い感情を糧にして、次から頑張ろう、とは思う。 <br>とは思うが、そんなことはおかまいなしに、この悲しい気持ちは、綺麗に透き通った水に垂らされた墨汁のように、勝手に心の中に広がり、侵食を続けている。 <br><br>心がぶっ壊れそうだ。 <br>涙は出ず、ただ虚無感が襲ってくる。 <br>俺は誰に愛されるというのか。 <br>誰にも愛されない。 <br>確かに人から何かを与えて貰いたいと思うことはある。 <br>しかし、それ以上に人に何かを与えたいという気持ちが強い。 <br>だがそれは受け取られず、時には嫌われてしまうことさえある。 <br>与えることを望めば嫌われてしまうのか。 <br>だから愛されないというのか。 <br>否、ただ、俺の生き方が下手なだけだ。 <br>そんなことは分かっている。 <br>でも、本質的なものだから直せないのだ。 <br>そうしたら、俺はどうすればいいというのだ。 <br><br>心がぶっ壊れそうだ。 <br>最高だと思っていたものが、実は最低だった。 <br>その気持ちが分かるだろうか。 <br>今、ただ１人、苦しんでいる。 <br>そうしながらも、時々、独り言をブツブツと言ってしまう。 <br>言ってから、自分が独り言を言っていたのに気付く。 <br>そして、虚しくなる。 <br>叫べば少しは楽になるだろうか。 <br>だが、叫ぶことさえ躊躇してしまうほどに、今臆病になっている。 <br><br>心がぶっ壊れそうだ。 <br>怖い。 <br>人が怖い。 <br>俺は人が凄く好きだ。 <br>そのはずなのに、今は人が凄く怖い。 <br>孤独だ。 <br>凄く孤独だ。 <br>誰かにそばにいて欲しい。 <br>だが、人が怖い。 <br>だから誰にも会いたくない。 <br>苦しいからといって、死のうとは思わない。 <br>だが、心が死にそうだ。 <br>実際に死ぬのより、心が死んだまま生きる方が辛いのかもしれない。 <br>だから心がぶっ壊れて死んでしまうことは、とても恐ろしい。 <br><br>心がぶっ壊れそうだ。 <br>誰か助けてくれ！ <br>誰か助けてくれ！！ <br>という声と、 <br>ほっといてくれ！ <br>ほっといてくれ！！ <br>という声が、心の中で響いていてうるさくて仕方がない。 <br><br>心がぶっ壊れそうだ。 <br>なぜ？ <br>なぜいつもこう、ダメなんだ。 <br>もっとこう、うまくいかせることはできないのか。 <br>何度もそう思ってきたが、できなかった。 <br>こんなゴミみたいな人間に生まれてしまって、本当に申し訳ないです。 <br><br>心がぶっ壊れそうだ。 <br>ただ、今はこうして１人静かにして、耳を澄まし、心がぶっ壊れる時の音を聞いている。 <br>そういう時間も、大切なのかもしれない。
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<link>https://ameblo.jp/1234peiden/entry-11843407480.html</link>
<pubDate>Wed, 07 May 2014 01:22:59 +0900</pubDate>
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