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<title>1/36</title>
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<description>サンジュウロクブンノイチ～葛飾北斎「冨嶽三十六景」創作寓話～</description>
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<title>凱風快晴</title>
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「誰が終わりと言ったのだ」　師の言の葉に池田善次郎は耳を疑った。「何を驚いているのだ。儂は今、甲州側から冨嶽を登ってきたのだ。故に次は駿州側から登るのは至極真当な言い分であろう」　こうなったら梃子でも聞かない。葛飾北斎、その人だ。このみすぼらしい身なりをした翁は相当な頑固者である。富士山頂にある浅間大社奥宮で二人は言い争っている。隣では白装束に御朱印をいただいている人もそれに驚いているようだった。善次郎はそれでも北斎に食い下がる。「もう江戸に帰りましょうよ、先生」　弟子の言の葉に北斎は耳を疑った
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<dc:date>2016-12-23T14:46:01+09:00</dc:date>
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<title>諸人登山</title>
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　終わりの時が近づいている。　年始の発売に向けて葛飾応為から江戸馬喰町に構える地本問屋「永寿堂」に「冨嶽三十六景」の四十五枚目「東海道金谷ノ不二」が先頃持ち込まれたばかりだった。永寿堂で働く丁稚達の近頃の昼休みの話題は「冨嶽三十六景」の最後の一枚だった。「どこから描かれるんだろうな」「やはり今まで描かれてない所だろうな。例えば上州とか」「さすがに上州からは富士のお山は見えないだろう」「桶屋富士の尾州からは見えたんだ。わからないぞ」「でも新たな江戸からの富士も見たいんだよな」　丁稚の宮松は食事を終
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<title>尾州不二見原</title>
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　もう秋も終わる今日は普段より暑く、尾張名古屋の地本問屋「東壁堂」では当主、永楽屋東四郎が団扇で涼をとっていた。その団扇に描かれた模様に似た一枚の絵が永楽屋の傍らにある。それは「冨嶽三十六景　尾州不二見原」と題されていて、大きな桶の向こうに富士が望める円と三角の対比がおもしろい一枚に仕上がっていた。　今、永楽屋はそれを眺めて右手をひとつ顎にやる。新三が生きていれば喜んでいたのにな。この絵を見られていればな。　今から約二十年前、新三こと高力種信は武士の身分でありながら本分を忘れて芸事に勤しんでいた
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<title>江都駿河町三井見世略図</title>
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　　会わせたい人がいる。　年の瀬押し迫る寒い日に葛飾北斎は江戸馬喰町に構える地本問屋「永寿堂」に先の理由で呼び出されていた。　通された室内にいたのは当主、西村屋与八と共に小綺麗な商人が目を輝かせながらみすぼらしい身なりの翁を待っていた。三井八右衛門、その人だ。江戸駿河町に構える呉服屋「越後屋」の当主である。　北斎はぶっきらぼうに対座し、西村屋を介して簡単に挨拶を済ませる。三井は目を輝かせながらいままで発売された「冨嶽三十六景」を全て購入した事を明かし、美辞麗句を並べ立てた。北斎と西村屋の二人はそ
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<title>神奈川沖浪裏</title>
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「見えぬ」　確かに彼はそう呟いた。「見えぬ」　昨日までの嵐が嘘であったかのように今日は雨が止んだのだが、晴れ間は確かに見えない。「見えぬ」　確かにこのみずぼらしい身なりの翁が「立田川の紅葉」で名を馳せた絵師には到底見えない。　今、この葛飾北斎という翁は神奈川は横浜村の本牧の鼻で、まだ波が落ち着いていない海をじっとみつめていた。「見えぬ」　今より二十年以上前、ちょうど号を九々蜃から北斎に変えた頃である。北斎は以前投宿していた三代目堤等琳の弟子五楽院等随の付添で房総にある行元寺に来ていた。行元寺にで
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<title>本所立川</title>
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「まだみつからんのか、北斎は」　江戸馬喰町に構える地本問屋「永寿堂」から聴こえてくるものは耳障りの悪いものばかりであった。「曲亭先生の所は問い合わせたのか」　丁稚の宮松は頷き、行方は知らなかったと伝える。永寿堂当主、西村屋与八はもはや怒りを通り越して呆れている。「まったく幾度住まいを替えれば良いというのだ」「なにやらお孫さんの借財が殊のほか多い様子で、そちらからも逃げ廻っているとの噂もたっております」　そして宮松は一つの可能性を示す。「上方などに赴いて、もはや江戸にはいないと」「左様な事、ある訳
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