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<title>虫に優しいピレスロイド</title>
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<description>人に厳しく虫に優しい。これこそが新時代のコンセプト。すでに殺虫剤ですらない。</description>
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<title>バクライ　メニュー</title>
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<![CDATA[ <p>あらすじ</p><br><p>　謎の物体「バクライ」を中心に繰り広げられる群像劇、それに翻弄される</p><p>主人公「綿野滑彦」の顛末。</p><br><p>○登場人物</p><br><p>■綿野滑彦（ワタノカツヒコ）</p><br><p>24歳。♂</p><p>とある施設のボイラー室で働く青年。</p><p>他人との関わりを避けて生きてきたが、どうやら訳アリのご様子。</p><p>溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたくて悶々としてるらしい。</p><br><p>■菊谷麻里（キクタニマリ）</p><br><p>24歳。♀</p><p>何考えてんのかわかんない。でも美人。</p><p>狙いがあって綿野にコンタクトを取ったっぽいが、</p><p>その目的は謎。</p><br><p>※登場人物はボチボチ増えていきます。<br></p><br><p>○各話</p><br><p><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10059198691.html">1.「出会い」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10060683705.html">2.「なんで？」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10061577757.html">3.「バクライ」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10063969061.html">4.「通過儀礼！？」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10065110869.html">5.「前振り長すぎ」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10067459579.html">6.「綿野家のこと」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10075714054.html">7.「研究開始」</a> <br><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10441308766.html">8.こっちがバクライで、こっちが『バクライ』</a><br><br><br></p>
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<pubDate>Sun, 24 Jan 2010 03:06:29 +0900</pubDate>
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<title>8.こっちがバクライで、こっちが『バクライ』</title>
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<![CDATA[ 宴の席で『挨拶回り』と呼ばれる一対一の乾杯の慣習がある。<br><br>下座から上座へ、酒瓶や徳利を片手に、注ぎつ注がれつ、一人一人に挨拶をし杯を干す。回る側も注がれる方も相当飲む事になる。酔っ払いを効率よく生み出すには良いシステムだ。<br><br>参加者全員一巡するまで続き、酒が一滴も呑めない人間にとっては悪夢のような光景が展開されるわけだ。<br><br>その悪夢のような挨拶回りがひとまず落ち着き、全員に程良くアルコールが回り始めた頃、フラフラと踊るような足取りで近づいてきた二人がいた。アキネエとトシさんだった。<br><br>「はい、カツヒコ君、今日の本題が何か覚えてるかなぁ？」<br><br>下から覗き上げつつ、ぐいぐいを身を乗り出してくるアキネエ。その横で軽く咳払いをするトシさん。<br><br>「え、俺の歓迎会じゃ･･････ないの？」<br><br>「それもあるけどぉ～、とりあえず知っといてもらいたいもんがあるんだよね～」<br><br>「私達が、何を扱ってて、何をしてるか、要はそういうこと」<br><br>アキネエが言い終わるが早いか、トシさんが小鉢に盛られた何かを目の前に差し出してきた。<br><br>「ツマミ、要るだろ」<br><br>「あ、はい、すみません」<br><br>小気味良く盛られたそれは、黄色がかった灰色をしていた。何これ、ホルモン？どこの部位？一切れ取り口に運ぶ。ふむ、ホヤだな。祖母が時折発作的に欲しがったのを思い出す。もっとも、祖母ががっついていたホヤはこんな得体の知れない色はしていなかったはずだが。<br><br>「美味いです」<br><br>「そうか、それは何よりだ」<br><br>酒に酔ったせいだけでない、意味ありげな含み笑いを浮かべるトシさん。アキネエもニヤニヤしている。と、よく周りを見渡すと殆ど全員が俺を見ている状況。何なんだいったい。<br><br>「君が今食べたそれ、バクライなんだけど」<br><br>「ああ、なるほど･･････」<br><br>我ながら何て薄いリアクションなんだろうと思う。しかし、これだけもったいぶられてここぞというタイミングで出されたそれを、「はいそうですか」と素直に驚いてやれるほど人が出来ていない。<br><br>バクライに対する感想？新鮮なホヤそのものだな、という印象。臭みは全く感じず、熟した果物のような食感。特別な意味など無くても十分に美味い肴として通用する。もっとさりげなく、黙って出されたら&lt;それ&gt;と気づかないくらいの。<br><br>口にして数分、特に変化は無し。多少唇の端が痺れたように感じるが、それはぶつかるように絡んできたアキネエのせいだと思う。<br><br>「ねえ綿野君、こないだ私が言ったこと覚えてるかな」<br><br>いつの間にか隣に来て、俺の顔をいたずらっぽく見つめる特徴ある瞳。<br>今までどこに行ってたんだ、菊谷。<br><br>「『逸材がどう』とか？まだ自覚は湧かないけど」<br><br>持ちそうにない会話の間を酒で埋めようとグラスをあおる。それを察したのか、口端をほんの少し動かしてみせてボトルを傾けてくる菊谷。その表情を見た瞬間、昔父に連れられて行った古い小さな映画館の入り口に張られていたポスターを思い出した。<br><br>「バクライ、食べた時どう感じた？匂いは気にならなかった？」<br><br>「いや、特に何も。ただ『美味いな』と。色はちょっと独特だけどね」<br><br>いたずらっぽい口調と顔の表情とがピッタリ重なっているように感じる。この好奇心、本音だろうか。<br><br>「じゃ、やっぱり適性あったんだ。見立てに狂いはなかった」<br><br>「･･････ホントまだ何も感じないし、そんな期待されてもどうしていいか」<br><br>「君は今入り口に立っている。これから君の身に起こることに対しても、君が嫌々ながら続けた修行によって柔軟に対応できるだろう」<br><br>「ちょっと待ってよ、俺はまだそこまで」<br><br>「綿野君、君は誰と話しているんだい」<br><br>「えっ」<br><br><br><br>滑らかなビロードを思わせる軽やかな声は、突如男性の野太いそれに変わる。俺が今まで菊谷だと思って話していた相手は･･････トシさんだった。<br>冷たい嫌な汗が首筋を流れる。<br><br><br>油断していたつもりは毛頭無かった。いや、慣れない場の雰囲気に緊張して流れに任せるままアルコールを流し込んだ時点で結論は出ていただろう。両足をしっかり地面につけていたつもりが、気づけばその地面ごと持って行かれていたという体たらくだ。<br><br>両手を見る。握り締めては開き、表裏をこすり合わせる。間違いない、自分の手だ。額に手を当てる。酒で上気した、少し汗ばんだ額の感触が伝わってくる。<br><br>グラスを手に取り、注がれた深赤色の液体の匂いを嗅ぐ。匂いが無い。･･････匂いが無い！？<br><br>呑み過ぎたとか風邪気味とかそんなことじゃない。つい、ついさっきまで&lt;赤ワイン&gt;だと思って呑んでいたそれが、ちょっと待て、くそっ思考が纏まらない。部屋中にたちこめていたダシの香りも、揚げ物の匂いも、気づけば綺麗さっぱり消え失せていたじゃないか！！<br><br>「うわ、これ、いつから、なんで」<br><br>いつからこの状態に陥ってたんだ！？知らない間に世界が自分を置いて変わってしまったような感覚にとまどい、ひどく混乱し始めた。大したことじゃない、そのうち収まるさと自分自身に言い聞かせながらも、もしこのまま狂ってしまったらと思った矢先、背筋に寒気が走った。漠然とした不安が鎌首をもたげ、心を揺さぶってくる。<br><br>「カッちゃん、リラックスリラックス。ゆぅっくり深呼吸して。はい深呼吸、吸ってぇ～、吐いてぇ～、も一回、はい吸ってぇ～」<br><br>両肩に手を置き、正面から声をかけてくれたのはアキネエだ。こんなケースは慣れっこなんだろう、安心感のある声色に心底ホッとする。<br><br>「島ちゃん、ちょっと早過ぎたんじゃないの？この子もうギリギリじゃないのさ」<br><br>「まあまあ、ここからだよ本番は」<br><br>本番･･････！？まだ何かあるのか。<br><br>舌の奥がビリビリ痺れてきた。毛髪の毛根一つ一つが旋毛を中心に波打っているように感じる。手足、いや、体の重さを知覚できない。皮膚も下の奥と同じようにビリビリと痺れてきて、部屋の空気と混ざりあっていくような奇妙な感覚に意識がドロドロと押し流されていく。自分が自分で無くなる不安は全く感じない。&lt;外界&gt;と&lt;内界&gt;との境界線が曖昧になっていく、甘美な混沌。<br><br>見える景色もやがてポスタライズされたかのように輪郭はより強調され、色彩は痛いほど強烈なコントラストを視神経に叩きつけてくる。一つ一つの形が元の形状を失うまでになった時、ゆっくりと時計回りに渦を作り始めた。渦の中心は、初めどす黒い紅色だったが、やがて鮮やかな朱色に、橙色を経て黄土色、黄色といった具合にマット感を失っていき、それと同時にナトリウムランプの如く輝き出した。<br><br>――――世界が一つになっていく――――<br><br><br>何とも陳腐な言葉だが、今の俺が置かれている状況を一言で説明するならこれ以上の表現は無い。客観的に見れば、相当まずい事になっているだろう事は想像に難くないが、そんな自分自身を冷静な頭で客観視できるのも悪くは無い。身体の感覚とは別に、意識の一部はいつも以上にクリアな状態かもしれない。まるで首を切り離した時のようだ。もちろんそんな経験は無い。<br><br>光の渦は暖かかった。その仄かな熱に身体の感覚はさらに溶かされていく。意識もそれにつられる様に、ある種の緊張感が解され暖かい光の中心へと引き込まれていくのを感じた。<br><br><br>記憶はここで途絶えた。<br><br><p>続く</p><br><p><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10059480823.html">メニューへ</a></p>
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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10441308766.html</link>
<pubDate>Sun, 24 Jan 2010 01:48:56 +0900</pubDate>
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<title>バクライ7.「研究開始」</title>
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<![CDATA[ <p>　あの珍妙なイントロダクション(？)から半月ほどの間、いつもと変わらない日常が続いていたが、<br>菊谷から届いた一通のメールで状況が変わった。</p><br><p>　一応、研究への参加へはOKの返事を出してしまった手前、呼ばれれば断る道はなかった。それに、<br>退屈な日常を少しでも彩り豊かなものにしたいという下心もあったので、お呼びがかかるのを少々楽しみにしていた面も否定できなかったのだ。</p><br><p>　メールで指定された待ち合わせの場所は、研究施設からさほど遠くない公園だった。噴水のそばでハトを狙うネコに話しかけたり目で威嚇したりして暇をつぶす。イスラエルという国がどういう国なのか、三毛猫に熱弁を奮っていたその時、ふいに背後から声をかけられた。菊谷だった。</p><br><p>「何してんの、もう。誰と話してたの」<br></p><p>「いや･･････そこのネコに国際情勢について色々と」</p><br><p>三毛猫はいなくなっていた。死にたくなった。</p><br><p>「ごぶさた。元気してた？」</p><br><p>　二週間ぶりに会った菊谷は、どこか別人のような雰囲気を醸し出していた。他人でもなく家族でもない、以前感じた余所余所しさもどこかへ行ってしまったかのようだ。これが元来の彼女の姿なんだろう。</p><br><p>「まぁ、ぼちぼち元気かな。いつもと変わらずというか」</p><br><p>「そっか。それは何より。じゃ、行きますか」</p><br><p>「何でここで待ち合わせにしたの？　直接現地でもよかったんじゃ」</p><br><p>「私、すぐそこの店で買い物してたし、綿野君も施設までの道忘れてたら困ると思って」</p><br><p>　どういう理由だよそれ。俺が道忘れてたらって、買い物と関係ないじゃん。まあいいや。</p><br><p>「お腹すいてる？」</p><br><p>　何となく覚えがあるようなないような路地を菊谷の後をついていく途中、ふいに尋ねられる。</p><br><p>「いや、それほどは」</p><br><p>　家を出る前におはぎを食ってきたのだ。ごまもいいがつぶ餡こそ王道だと思う。ちなみに、同級生の</p><p>ばっちゃが作ったとかどれか一個に針が入ってるとかそういう伏線はない。とある惣菜屋のものだ。</p><br><p>「お腹いっぱい？」</p><br><p>「いや、どっちでもない、ていうか何？」</p><br><p>　質問の意図が読めない。何なんだ。</p><br><p>「･･････まぁいいや。着いたらわかるよ」</p><br><p>　ホント何なんだ。何かを食べさせようとしてるのか。研究と何の関係があるんだ。<br>そんな意味のないやり取りを何度かしているうちに、施設に到着。</p><br><p>　前回来た時はおどろおどろしい洋館からだったが、今回は普通のビルの正面玄関から。入り口っていくつあるんだろう。</p><br><p>　エレベータのB2を押下し、ちょっとだけ血の気が引く感覚に身をゆだねる。階層表示の文字盤の斜め上あたりを、半分口を空けながらぼんやり見つめるのは通過儀礼だと思った方がいい。今後のためだ。</p><br><p>　目的の階につき、カードのようなものを取り出し、扉に付いている機械にかざす菊谷。カード認証のようだが、どうも読み込みが悪いらしく、何度もカードをかざしては首をかしげている。</p><br><p>「おっかしーなー。嫌われたかなー」</p><br><p>　などと軽い冗談を口にしてはいるが、顔色がどんどん怪しくなってきている。大丈夫か。</p><br><p>「時々調子悪くなるんだよねー」</p><br><p>　いや、俺には君の方が調子悪そうに見えるんだが気のせいか？</p><br><p>　そうこうしているうちに開錠。ほっと一安心ついた様子の菊谷。イレギュラーな事態に遭遇すると余裕がなくなるタイプなんだろうか。何はともあれ良かった。</p><p><br>　施設の内部は人でごった返していた。床から天井までの高さは十分にあり、水銀灯のひりつくような白い光とあいまって避難所の様相を呈していた。</p><br><p>　狭い欄干を白衣の人々が互いを押しのけ合いながら右往左往している。余所見をしながら前から来る人にぶつかり、書類を撒き散らす白衣の女性。その撒き散らした書類に足を滑らせ、子供のような奇声を発しながらバケツの水をぶち撒ける白衣の男性。ビショビショに濡れた床で次々と転倒していく白衣の人々。所々で陶器がガチャンカシャンと割れる音が続く。ドジからドジへの連鎖を発動させる集団コント。テーマは白衣。落ちゲーの初級ならこの一撃で決まりだ。</p><br><p>　医者でも研究者でも、白衣ってのはもう少し威厳のこもったものだったと思うが、こうまでお約束を連発されると、正直白衣そのものよりも、着ている人間の中身の方を疑いたくなる。これらの集団コントを披露してくれた人々は、みなそれなりに研究で身を立てているんだろう。何の研究かは相変わらずわからないままだが。</p><br><p>　はじめは呆気に取られたが、事態が飲み込めるや否や、抑えがたい笑いが込み上げてきた。行った事はないが、インドの日常がこれに近いものだと勝手に連想してさらに笑えてくる。</p><br><p>「たまに起こるんだよ、こういうの。みんな落ち着きないから」</p><br><p>　やれやれといった表情で菊谷が説明する。どうやら、彼女が言うにはある時期、例えば論文の締め切りやスポンサーへのプレゼンが近づいたりする修羅場時に、複数のチームの緊張感がピークに達して接触しあうと起こりやすいということだ。</p><br><p>　なるほどと納得する自分と、菊谷の言うことだから半分出まかせなんじゃないかと疑う自分との間で笑うのが精一杯だった。</p><br><p>「楽しんで貰えたみたいね。笑ったらお腹すかない？」</p><br><p>「またそれかよ」</p><br><p>　思わず声に出してしまった。そういう妖怪かお前は。でも一応合わせておこう。そういう何気ない空気のやり取りが今の日本には必要なんじゃないか。知らんけど。</p><br><p>「･･････ちょっと小腹が減ったかも。口寂しいつーか」</p><br><p>「じゃあオヤツにしよっか」</p><br><p>　携帯をパコンと開け、時間を確かめる。夕方の5時23分。お前んちはアレか。3時過ぎてもオヤツとか食えるのか。自由すぎだろそれ。･･････ひょっとして、俺の家がおかしいのか？いや、確かに色んな意味でおかしいけれどもさ。</p><br><p>　そんなことを気にしながら、見覚えのある一室に案内される。ドアの横には小さく</p><br><p>《サギ丸八》</p><br><p>　と殴り書きがされている。意味がわからん。気にせずノブを回してそのまま押し込む。動かない。引き開きだった。軽く死にたくなった。</p><br><p>　ドアを開くと同時に、醤油と出汁を煮る香りに鼻の奥をガツンとやられた。会議テーブルに並べられたカセットコンロと鍋。まな板で心地よいビートを刻む包丁の音、思わず中を覗かずにはいられなくなるようなすり鉢を擦る擂り粉木の低音、そして割烹着姿で走り回る皆さん。</p><br><p>　･･････って、この人達ここで何してんの？</p><br><p>　こないだは酒盛りだったな。今回は料理か。あいつがやたらと人の胃袋の按配を気にしてたのはそういうことだったのか。研究･･････！？　あれ？？　研究･･････！？　まあいいや。</p><br><p>「おっ、綿野君いらっしゃい。バタバタしててゴメンね」</p><br><p>　割烹着姿で爽やかな笑顔を振りまきつつ近づいてきたのはトシさんだった。</p><br><p>「この状況を見ても平然としてるなんてさすがだな。たいてい皆驚くのに」</p><br><p>　いや、十分驚いてますって。感情があまり顔に出ないだけですってば。</p><br><p>「あの、これ何してるんですか？　料理教室？」</p><br><p>「そういうわけじゃないんだ。これも研究の一環なんだよ。ちょっとこれを試して欲しいんだが」</p><br><p>　そう言うと小皿に取った煮汁を差し出してくる。味見をしろという意味だろうか。</p><br><p>「･･････美味いです。しいたけと鰹の出汁ですか。ちょうどいい塩梅ですね。で、これと研究と何の関係が･･････？」</p><br><p>「『バクライ』の実物はこないだ見せたよね。アレを使うのに必要なんだ」</p><br><p>「他にも色々と作ってるみたいですけど」</p><br><p>「ああ、アレはほら、単品じゃ寂しいから、どうせならってことで」</p><br><p>「要するに宴会の準備をみんなでしてるワケですよね･･････」</p><br><p>　トシさんはニヤリと顔で返事した後、バタバタと他の人の輪に戻っていった。またあの狂乱が始まるのかと思うと少し億劫になる。そんなに馬鹿騒ぎが好きか。なら研究施設でなくともサークルレベルでも十分じゃないか。まあいい。きっとこんなノリにも何らかの意図があるのだろう。とりあえず今は静観を決め込むことにしよう。そうしよう。とは言え、連れて来られたはいいが、場の空気を見る限りでは一段落つくまで放置っぽいな。</p><br><p><br>――――待たされること1時間強、片づけや配膳を手伝ったりで暇を潰しているうちに、何となく違う雰囲気になってきた。前回の酒宴とは異なる、ミーティングっぽい雰囲気に。</p><br><p>　割烹着姿だったメンバー達は普段着に戻り、トシさんがコの字に組んだ会議テーブルの中心で数枚のプリントを配っている。目の前に並んでいるのは先ほど調理されていたものが数皿。誰がどう見ても試食会か何かだと思う。</p><br><p>「さてと」</p><br><p>　配り終えたところで彼が口を開く。</p><br><p>「みんな何度も同じ話を聞いてると思うけど、綿野君は初めてなので、イチから説明します。我々『ビトゥタティーアムー』のメンバーは、異界へのアクセスの研究のため、全国から集められました。各々能力差はありますが、異界へ干渉する力を有することは共通しています。そして、我々に機関から求められているものは、現状不安定な干渉力を絶対のものとすること、我々だけに留まらず、非能力者にもその恩恵を受けられる機会を作ることです」</p><br><p>　深呼吸を一つ、目の前にあったぐい呑みをかっとあおるトシさん。あんた乾杯はどうした。</p><br><p>「要は、いつでも、誰でも、異界へ気軽にアクセスできるようにしましょうってことです。そのための媒体が『バクライ』という訳です。そんなわけで、皆さんグラスをお手に」</p><br><p>　待ってましたと言わんばかりに騒々しくなる会議室。そして打ち合わせていたかのようにさっと静まるメンバーたち。</p><br><p>「綿野君の今後の活躍と、メンバー達の更なる発展を願って･･････乾杯！！」</p><br><p>　再び騒々しくなる会議室。カチカチと鳴るグラス。始まる談笑。始まる馬鹿騒ぎ。ぐい呑みをすっと差し出され、乾杯の挨拶を催促される。カチンと杯が触れた時、彼に含みのある笑顔を返された。</p><br><p>　･･････意味わかんないんですけど。</p><br><br><p>続く</p><br><p><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10059480823.html">メニューへ</a> </p><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10075714054.html</link>
<pubDate>Wed, 27 Feb 2008 02:17:16 +0900</pubDate>
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<title>コメント返信</title>
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<![CDATA[ <p>腸虫です。</p><p>いつもお世話になっております。</p><p>頂いたコメントに返信しようと思います。</p><p><small><font size="2"><br></font></small></p><p><small><font size="2"><br></font></small></p><p><strong><small><font size="2">[1]</font></small> 掴みＯＫ、良い具合に固められた感じで安定してる・・・凄い！ <small><font size="2">&lt;'2007 12/21 16:12&gt; zIaSapL/P</font></small></strong></p><p><small><font size="2"><br></font></small></p><p><small><font size="2">ありがとうございます。</font></small></p><p><small><font size="2">gdgdでどうしようかと思ってたんですが</font></small></p><p><small><font size="2">こんな風に言ってもらえるなんて。</font></small></p><p><small><font size="2"><br></font></small></p><p><small><font size="2"><strong>[2] 続き早くｗｗｗｗｗｗ <small>&lt;'2007 12/22 11:52&gt; Ew3AZkx/P</small></strong></font></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><small><font size="2">ういっす。</font></small></small></p><p><small><small><font size="2">とりあえず序盤は更新早めで逝きます。</font></small></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><font size="2"><strong>[3] 作者おどぅなの？おどぅでいいじゃん何だよ腸虫てｗｗｗ <small>&lt;'2007 12/22 17:56&gt; Ew3AZkx/P</small></strong></font></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><small><font size="2">とりあえず物書く時は腸虫にしようかと。</font></small></small></p><p><small><small><font size="2">お好きなようにお呼び下さい。もう任せたｗ</font></small></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><font size="2"><strong>[4] 肛門様の威圧感は異常 <small>&lt;'2007 12/23 04:15&gt; SFTb.sN/P</small></strong></font></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><small><font size="2">肛門様はドワンゴの初音ミクに対する処置にご立腹なようです。</font></small></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><font size="2"><strong>[5] サムネが怖すぎるｗしかしテンポいいなぁ <small>&lt;'2007 12/23 04:24&gt; WaT2vCL1P</small></strong></font></small></p><br><p><small><font size="2"><small></small></font></small></p><p><small><small><font size="2">そのうちもう少しカワイイやつに変えますｗｗ</font></small></small></p><p><small><small><font size="2">テンポですか？そう言って頂けるとありがたいです。</font></small></small></p><br><p style="BORDER-LEFT-COLOR: rgb(34,57,34); BORDER-BOTTOM-COLOR: rgb(34,57,34); BORDER-TOP-COLOR: rgb(34,57,34); BORDER-RIGHT-COLOR: rgb(34,57,34)"><strong><font size="2"><small><font size="2">[6]</font></small> 続き早く！！！！ <small>&lt;'2007 12/31 16:04&gt; iBEgdzb.P</small></font></strong></p><br><p><font size="2">はい、もうちょっと待ってて下さい。</font></p><p><br><font size="2"><strong>[7] おーいまさか投げたんかー？？？ <small>&lt;'2008 01/05 03:53&gt; w66mt490P</small></strong></font></p><br><p><font size="2">投げてませんよ？投げてませんから･･････たぶんｗｗｗ</font></p><br><p><strong><font size="2">[8] 地味に書いててﾜﾛﾀ <small>&lt;'2008 01/11 08:56&gt; qM5.dp00P</small></font></strong></p><br><p><font size="2">おぉよ。地味に書いてますわボチボチとな。</font></p><p><font size="2">地味にやってくのが一番小児外科医が最近減ってるそうですね。</font></p><br><p><font size="2"><strong>[9] 妙に読み入る文体だな <small>&lt;'2008 01/15 13:09&gt; Wc6qCpl1P</small></strong></font></p><br><p><font size="2">ありがとうございます。</font></p><p><font size="2">でもそんなこと感じるのってたぶん今のうちだけだと思います。</font></p><p><font size="2">でも嬉しいです。誉められ慣れてないんです。橋の下の子供でした。</font></p><br><p><font size="2"><strong>[10] 作者DJなのか小説家志望なのかハッキリせいやｗｗｗ <small>&lt;'2008 01/23 06:10&gt; cnr5X/m1P</small></strong></font></p><br><p><font size="2">どっちなんでしょうね。どっちでもいいじゃないか。</font></p><p><font size="2">腹減った。ウンコしてくる。</font></p><br><p style="BORDER-LEFT-COLOR: rgb(34,57,34); BORDER-BOTTOM-COLOR: rgb(34,57,34); BORDER-TOP-COLOR: rgb(34,57,34); BORDER-RIGHT-COLOR: rgb(34,57,34)"><font size="2"><strong><small>[11]</small> サイトが見づら過ぎる。……と、こうやって初見で読む気が失せる人がいるのも忘れないで欲しい。話は素直に期待できるだけに惜しい。 <small>&lt;'2008 02/02 14:05&gt; vwsPoOE.P</small></strong></font></p><p><small><font size="2"><br></font></small></p><p><small><font size="2">ホントすみません。携帯のこと意識せずに書いちゃったんで･･････。</font></small></p><p><small><font size="2">たしかに自分の携帯で確かめるとエライことになってますね。どうしましょう。</font></small></p><p><small><font size="2"><br></font></small></p>
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<pubDate>Wed, 06 Feb 2008 09:49:59 +0900</pubDate>
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<title>バクライ6.「綿野家のこと」</title>
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<![CDATA[ <p>　なぜこんな得体の知れない連中に目をつけられるのか、なぜ菊谷に逸材と呼ばれたのか、</p><p>自覚がないわけじゃなかった。</p><br><p>　今の自分がこうあるのは、家柄というか何というか、綿野家について少々話をしないと分かりづらいかも</p><p>しれない。少し長くなるが聞いてほしい。もちろん読み飛ばして貰っても構わない。</p><br><p>　綿野家は代々、「拝み屋」として生計を立ててきた。祈祷師とか呪術師とか、その類のものだ。</p><p>受ける依頼は様々で、失せ物探し、人生相談から、はては政敵の呪殺まで、仕事内容をあまり選ばない。</p><br><p>　物心つくかつかないかの年頃から、修行と称して様々なことをさせられた。滝に打たされる、飯を抜かれる、</p><p>睡眠を削られる、三日三晩不休で山中を歩かされる、詠唱歌の写本、札の書き方、「使い」と呼ばれる小妖の使役、</p><p>などなど。</p><br><p>　今思えばDVに近いものだったかもしれない。いやDVだ。間違いない。修行と名がつけば何をしてもいいなんて</p><p>時代錯誤も甚だしい。今度実家に帰った時に文句言ってやる。</p><br><p>　修行の面倒は父が見てくれていたが、取り仕切っていたのは祖母さんだった。現当主。</p><br>まだまだ現役の化け物だ。<br><br><p>　父は婿養子で、家督は女性が継ぐことになっている。次期当主は母で、一応、姉もそのうち継ぐことになっては</p><p>いるが、俺も他人事ではない。</p><br><p>　表の仕事、そろばん塾だの習字教室だのを空いた離れで経営しているのだが、これらを取り仕切っているのは父だ。</p><br><p>　女手は裏の仕事で本業である拝み屋を、男手は堅気な仕事と本業のサポート。要は倍忙しいのだ。</p><p>　まあもっとも、一昔前なら近所の子供で溢れていたそろばん塾や習字教室も、最近では落ち目で、今では</p><p>大人相手にパソコン教室なんてものにまで手を広げている。これが案外と馬鹿にならないのだ。</p><br><p>　父は綿野家に来る前、中学校で教師をやっていたらしい。もともと考古学だの博物学だのオカルトだの、ちょっと</p><p>古めかしくて怪しいものが好きだった父は、個人的研究と称して休暇のたびに全国の「面白そうな」場所を巡っていたという。</p><br><p>　多少は「見える」素質があったのだろう、行く先々で怪異に出くわすことになった。その時々に現場で顔を見合わせて</p><p>いたのが今の奥さん、つまりは俺の母だ。怪しいもんを集めたら俺になりました、というお話かもしれない。</p><p>あまり笑えない。</p><br><p>　母は次期当主、祖母さんの異能の力を色濃く受け継いでいた。家に来る依頼の大半は中学生の頃には一人で</p><p>こなしていたらしい。多くの「使い」を従え、鬼すらもねじ伏せ、道祖神も避けて歩くような人間。</p><p>存在自体が反則だ。</p><br><p>　そんな母にも弱みがあった。なまじ力に長けていた分、世俗事に疎かったせいもあり、受ける依頼の良し悪しを</p><p>判断する力に欠けていたのだ。</p><br><p>　それを素人ながらも事あるごとにサポートしていたのが父、というわけだ。浮世離れした母と、依頼人との橋渡しに</p><p>一役買って出た、といえば聞こえがよかったかもしれない。</p><br><p>　その道で一目を置かれるうら若き祈祷師と、膨大な知識と論理的思考でそれを支えるパートナー。ちょっとした</p>ゴーストスイーパーの物語なんか書けそうな流れだが、本題はそこじゃないから無しの方向で。<br><br><p>　なぜ母のような人種と一緒になりたいなんて思ったのか不思議だったので、いつだったか父に尋ねたことが</p><p>ある。一介の中学校教師と祈祷師、社会的に考えても微妙じゃないかと。するとその時父は、 </p><br><p>「一緒にいると楽しかったし、笑うとホント可愛かったんだ」</p><br><p>　などと、笑い皺をより深くさせながら、ニヤニヤと照れながら答えたもんだ。たぶんそこが彼の人生の</p><p>ターニングポイントだったんだろう。選択肢を誤ったとしか思えない。</p><br><p>　やがて父も、綿野家の修行を徐々に受けることになる。サポート役とは聞こえがいいが、そのままの父では</p><p>ちょっと人より「見える」程度の、口達者なマスコットくらいの存在価値しかなかったからだ、とは後の祖母さんの言。</p><br><p>　修行の成果は、といえば、これがさっぱり。</p><br><p>　というよりも、元からそちら方面では、祖母さんもあまり期待したいなかったのかもしれない。</p><p>当時祖父が経営していた塾を継がせるという約束を半ば強制的にとりつけ、綿野家のマスオさんになるよう迫ったのは祖母</p><p>だったそうだが、綿野家に招かれる男というのはこういうものなのかも知れない</p><br><p>　その時すでに姉が腹の中にいたと言うからコメントに困る。父26歳。母は18歳。父も祖母も犯罪者。</p><p>いつの時代の人間だよ。</p><br><p>　怪しいもんの代表格、世の中怖いもんランキング堂々1位、姉。顔を思い出すだけで体が硬直する。</p><br><p>　産まれる前から母の腹の中で歌い続けていたそうだ。それに呼応するように、怪異も日増しに増えていったとのこと。</p><p>　日々激しさを増すポルターガイストに怯える父の傍らで、日々の子の成長ぶりを頼もしく思っていたそうだから</p><p>普通じゃない。</p><br><p>　綿野沙夜子。俺の二つ年上。</p><br><p>　産まれてしばらくの間は、普通の子供と変わらない様子だったそうだ。それが変わったのは俺が産まれてすぐ。</p><p>寝室には桜色の霧がたちこめ、その傍の縁側には魑魅魍魎が所狭しと姉の顔を拝みに来ていたそうだ。</p><p>俺じゃないのか。 </p><br><p>　夕暮れ時に、林道の辻で一人クスクス笑いながら、見えない何かとお喋りを楽しんでいたり、両腕をブンブン振りながら、</p><p>木々のざわめきを指揮者のように操りながらゲラゲラ笑っていたりと、普通のお嬢さんと立ち振る舞いがちょっと違っていた。</p><br><p>　世が世なら、生まれる家が家だったなら、間違いなくその手の施設に入れられていただろう。入れられればよかったんだ。</p><br><p>　修行の際も、姉弟子として俺を思いやってのことだった(と信じたい)のだろう、滝行では上流から石を落とされ、</p><p>断食の時にはわざわざ俺の前まで来てプリンを頬張り、不眠の行の時に至っては子守唄をラジカセで聴かせに</p>来たりと、何なんだアンタは。<br><br><p>　おかげで貴女の弟は大変強くなりました。貴女ほどではないが見えないものを見、聞こえない声を聞き、</p><p>怪異をよく鎮め、好き嫌いなく何でもよく食べる大人になりましたよと。</p><br><p>　思い出すたびに腹が立ってくる。憂さ晴らしにと某巨大掲示板にスレッドを立ててやった時期もあった。</p><p>リアル邪気眼姉に復讐するスレとか何とか。あれこれプランを練るだけで、結局何一つ実現はしなかったが。</p><p>なぜかそれがバレて祖母さんから電話越しに、火がつく勢いで叱られたのはついこないだの話。もうやらない。</p><br><p>　姉と母は修行と称してどこかへ行ったきり、ほとんど連絡がない。それでも達者でやってるならと祖母さんは笑っている。</p><p>俺が家を出るなんて話をした時には、怒鳴りながら赤くなった火箸を投げつけてきたくせに。</p><br><p>　「社会勉強を積んでからでも遅くはないでしょう、滑彦にはもっと経験が必要です」</p><br><p>と、怒り狂う祖母さんをたしなめたのは父だった。家では貴方だけが味方です。</p><br><p>　祖母さんは鬼、母はお花畑気味の鬼、姉はリアル鬼、まっとうな人間として対等に会話できるのは父だけ。</p><p>裏家業はともかく、父の優しさに応えようと彼の仕事の手伝いくらいはしようと思ったのだが、俺には無理だったようだ。</p><br><p>　人前で自分をアピールするということに、俺自身でも病気じゃないかこれって思うくらい消極的だった。小学校や中学校でも、</p><p>家の話はできなかった。俺自身が話したくなかったのもあるが、地域でタブー扱いになっていたのもあったのだ。</p><br><p>　少し離れた高校に通っても、その傾向はあまり変わらなかったな。カウンセリングやソーシャルトレーニングなんかを</p><p>受けるべきだったかも。少し後悔しているかもしれない。</p><br><p>　姉の沙夜子はどんどん自分から前に出てくるタイプで、暑苦しいというかお節介焼きというか、要はそういうタイプなのだ。</p><p>姉が目立てば目立つほど、弟の俺は影が薄くなっていった。そう、それでいいんだ。自分で自分を納得させることが日常となっていった</p><p>のもこの時期だった。</p><br><p>　祖母の偏執的な躾と、姉への叶わぬ思い(天敵を屠る的な意味で)。俺はもう限界だった。高校卒業、大学入学を機に、</p><p>窮屈でイカレた家を出ることを決めた。</p><br><br><p>続く</p><br><p><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10059480823.html">メニューへ</a> </p><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10067459579.html</link>
<pubDate>Wed, 23 Jan 2008 02:43:58 +0900</pubDate>
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<title>バクライ5.「前振り長すぎ」</title>
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<![CDATA[ <p>　周囲の喧騒はちょっと隅っこにでも置いておいて、この幸せそうな笑顔で遠い目をしながら</p><p>ユラユラしてる人の話に耳を傾けることにする。</p><br><p>「――それじゃ、何の研究をしてるかってところから入ろうか」</p><br><p>　コルクにオープナーを食い込ませながら切り出す島村さん。そしてまだ飲むのか。</p><br><p>「『見える人』ばかりを集めてるんだから、心霊研究と思われても仕方ない。<br></p><p>しかしそうじゃないんだ。今までとはちょっと違う角度から世界を捉える試みをしてるんだよ」</p><br><p>「はぁ･･････」</p><br><p>　そう言われても正直ピンとこない。もう少し詳しく。</p><br><p>「この世界は、実は世界のある一部分に過ぎなくて、いくつもの層がパイ生地のように<br></p><p>重なって出来ている」</p><br><p>「パイ生地同士はお互いが認知できない。極稀に、幾重にも重なるパイ生地の内の、<br></p><p>一枚に住む者が別のパイ生地を見ることがある」</p><br><p>　それが俺たちみたいな人間、見える人たちってことか。</p><br><p>「そんなもう一枚の世界を、あの世と呼ぶ人がいたり、冥界、幽世なんて呼ぶ人もいた」</p><br><p>「わかります」</p><br><p>「その『隣の世界』にアクセスして、なおかつ一定の成果を上げる事。それがこの研究機関の<br></p><p>存在意義なんだよ」</p><br><p>「それって有り体に言ったら、霊視ができて霊とかお化けとかを何とかしちゃおうっていう」</p><br><p>「話はまだこれから。これまでの研究は、霊能者と呼ばれる特殊な才能の持ち主を中心に、<br></p><p>オカルティックなアプローチを繰り返してきたのみの、検証ばかり増えて内容のお粗末なものだった」</p><br><p>「しかしそんな停滞ムードを大きく変えるきっかけが生まれたんだ。それが『バクライ』」</p><br><p>「『バクライ』ですか･･････」</p><br><p>「そう、『バクライ』。麻里さんから少しは聞いてると思うけど、これについてはもうちょっと後で話すね。<br></p><p>ところで綿野君、体外離脱ってしたことある？」</p><br><p>「えぇ、まぁ、人並みに」</p><br><p>「人並みって。面白いなその言い方。うん、その体外離脱なんだけど、離脱後の世界がこの今いる<br></p><p>世界とは違う世界だとしたらどう考える？」</p><br><p>「それって、他のパイ生地･･････」</p><br><p>「うん。そのパイ生地の在り方を、ある程度人間の意志で変えられることが最近わかってきたんだ。<br></p><p>風景を変えたり、無から有形のものを作り出したり、己の姿を変えたり」</p><br><p>「･･････。」</p><br><p>「でもそんな世界を認識できるのは、ほんの少しの人々だけだった。認識の問題、これが最初の<br></p><p>関門だったんだ。それをより深く理解するために、まずは我々のような人材が集められた」</p><br><p>「『見える』、ということはそれ自体すでに『あちら側』にアクセスしているということなんだ。」</p><br><p>　そして半分くらい中身の減ったウォッカのボトルを傾けだす島村さん。<br></p><p>それはどこから出したんだ。</p><br><p>　観測者は観測対象へ観測という行為で干渉している、だっけ。<br>闇を見つめるものは等しく闇からも見つめられているとか何とか。</p><p><br></p><p>「見えないものを見、聞こえない音を聞き、触れられないものに触れる。これらはすべて<br></p><p>同じ事柄について、それぞれ異なった喩えでしかないんだよ。釈迦に説法だったね」</p><br><p>「いえ。どうぞ、続けて下さい」</p><br><p>「つまり、アクセスできるということは、それ自体『こちら側』と『あちら側』、両方の世界へ同時に<br></p><p>干渉していることになる。意思を以って力を行使できる存在、それが我々『メンバー』なんだ」</p><br><p>「だが『メンバー』と言えども力の差はバラバラだ。そこで力の弱い者へ何らかのサポートが<br></p><p>必要になったんだ」</p><br><p>「その手段に『バクライ』を使うことにした･･････」</p><br><p>「うん、『バクライ』を使えば五感による認識そのものを変化させられるからね。身体感覚の<br></p><p>大半のギャップはこれで埋められる」</p><br><p>「あとはメンタリティの問題だけ。その点僕らは基本的なセンスは持ち合わせている。<br></p><p>そうなればレベルの差はあってない状態になる」</p><br><p>「詰まる所、綿野君に頼みたいことは、君自身の素質と『バクライ』の特性とを上手く使って、<br></p><p>『あちら側』へのアクセスを確実なものにして欲しいってことなんだ」</p><br><p>　話の筋に違和感がある。そこだけは詰めておきたい。</p><br><p>「いきなりの申し出だし、すぐに結果を求めるということもしない。綿野君自身の流儀<br>というのもあるだろう。それはここに集まった人たちそれぞれに言えることでもある」</p><br><p>「だがそれを画一化したいという意図もあるんだ。だから君自身のスタイルは保持しつつ、<br></p><p>そこから全体へフィードバックできそうな普遍的なメソッドを抽出したい、というのが本音かな」</p><br><p>　安心材料というカードを切って、不安を取り除くのが目的でこんなことを言い出したのかどうかは<br>ともかく、聞きたいことの概ねを教えて貰えたのは大きかった。</p><br><p>　これまで聞いた、菊谷と島村さんの話を自分なりにまとめてみると、</p><br><p>・体外離脱によって『あちら側』の世界へ干渉する実験をしているということ</p><p>・『見える人』はそれ自体が『あちら側』へ干渉しているということ</p><p>・干渉の度合いは個人差がある(肉体的、精神的に)ので、主に肉体的な差を埋めるために</p><p>『バクライ』を使うということ</p><br><p>･･････一番大事なことを聞いてなかった。</p><br><p>「ここまでお話を伺ってアレですが、その、どうして体外離脱までして『あちら側』に干渉したいん<br></p><p>ですか？　そんでもって、肝心の干渉って部分なんですけど、何するんですか？</p><br><p>「ただトリップするって話じゃないんでしょ」</p><br><p>「じきにわかるさ」</p><br><p>　ニヤリと返す島村さん。好き勝手に談笑していた周りの連中の数人かがこちらをチラ見<br></p><p>しながら同じようにニヤニヤしている。</p><br><p>「見ることができるなら、聞くことも触れることもできるはずって考えるとどうだろう？」</p><br><p>「触れられるってことは触れられるように在り方を変えて干渉してる、って考えたら面白くないかな？」</p><br><p>　身を乗り出すようにして畳み掛けてくる島村さん。</p><br><p>「･･････」</p><br><p>　頭がグルグルしてきた。慣れない場での緊張でヘンな酔い方したみたいだ。</p><br><p>「『こちら側』の世界は既に決まったルールの中でしか存在するものに干渉できないけど、<br></p><p>『あちら側』ではある意味何でもありだから」</p><br><p>「いや、そんな都合のいい話は夢の中くらいのもんでしょ」</p><br><p>「そう思う？ところがそうじゃな――」</p><br><p>「――っだよもぉ～、まぁだそんなカタい話なんかしてんの？とりあえず飲め！！</p><br><p>カッちゃん飲んで！！トシさんボトル返して」</p><br><p>「まあアレだ、百聞は一見に死活ってやつだね。ここで死ぬかウチの子になるか選べ。<br></p><p>それと飲め。飲んで強い子に育ちなさいよ。島ちゃんアンタ飲みすぎ。腹出るぞ」</p><br><p>「アキネエはいいこと言うなぁ～。島村さん自分ばっか飲んで何してんすか」</p><br><p>　ベロンベロンに酔っ払った猿爪女史と翔太の乱入により真剣な空気がぶち壊されたので、<br>質疑応答はここまでとなってしまった。</p><br><p>　今時体育会系のサークルでもありえないようなハイピッチな酒の応酬で記憶が断絶。<br>どうやって家に帰ったのかも思い出せない。時折思い出すのはあの二人の真っ赤なニヤけ面と、<br>島村さんの意味深かつ猟奇的な笑顔だけ。しばらく飲むのは控えようと思う。</p><br><p>　こちらに関わる気がないなら全部は見せないぞ、ということだったのか、ただ単にグダグダなだけ<br>なのか判断がつかない。</p><br><p>　リーダーからして飲兵衛だし、他のメンツも大差なかったような。職場なのか遊び場なのか<br>それすらよくわからん場だったな。白衣の連中もあんな感じなんだろうか。</p><br><p>　ともかく、ちょっと風変わりなことをやってるってのだけはわかった。退屈な日常にちょっとした<br>余暇活動のつもりで参加してみるのも悪くはないだろう。</p><br><p>　だが、あの酒の飲み方だけは付き合い切れないな･･････。<br>四六時中あんだけ飲んでるのか。だとしたらアホだあいつら。</p><br><p>　結局菊谷とはあの場での会話はなかったな。ただの案内役ってことだったんだろうか。</p><br><p>　まあいいや。</p><br><p>続く</p><br><p><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10059480823.html">メニューへ</a> </p><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10065110869.html</link>
<pubDate>Fri, 11 Jan 2008 06:14:07 +0900</pubDate>
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<title>バクライ4.「通過儀礼！？」</title>
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<![CDATA[ <p>　虹色に光る不気味な塊。</p><br><p>　やがてそれは不規則に枝を広げて行く。</p><br><p>　その枝はある種の規則性を伴って四方八方へ広がる。</p><br><p>　広がった枝の不規則性は、フラクタルと呼ぶのが相応しい気がした――――</p><br><p>　菊谷に誘われるまま、後をついて行く俺。人込みを分け入り、寂れた神社の脇を通り、</p><p>軽量鉄筋のアパート郡の路地を通る。</p><br><p>　20分ほど歩いた後、たどり着いたのは一軒の古びたレンガ地の建物だった。外壁には蔦が這い、</p><br>僅かに残る庭地にはセイタカアワダチソウとニガヨモギが互いの存在を主張しあい所狭しと丈を伸ばしている。<br><br><p>　カサコソと音がするのでふと目をやると、一匹の黒猫がこちらをじっと見ている。</p><p>猫は好きだが、この雰囲気で黒猫というのはどうもハマり過ぎているんじゃないのか。少し怖い。</p><br><p>　およそ人が住んでいる様子は感じられなかった。むしろ廃墟の薄ら寒さすら感じた。</p><p>しかし僅かに安心感を得たのは、生い茂る雑草が人の足によって踏み敷かれた跡を感じられた</p><p>ことを見つけてからだ。全く人間の生気を感じない。</p><br><p>　その踏み倒された草をなぞるように、トントンと菊谷は跳ねて進んだ。その後をとまどいながら</p><p>一歩一歩辿っていく。何やら嬉しそうにすら見える菊谷の後姿が余計に現実感を薄れさせる。</p><br><p>　やがて朽ちかけた扉に差し掛かると、菊谷は小さく何かを呟いた。少し間を置いて緑青の浮いた</p><p>ドアノブを引き上げ、煤けた木戸を開く。</p><br><p>　空気がパチンと弾け、張り詰めていた何かが変わるのを感じた。</p><br><p>　スイッチが切り替わったとでも表現すれば伝わるだろうか。薄い膜のドームに体ごと突っ込んで行った</p><p>ような、ダメだ、この感覚を言い表す適切な言葉が思い浮かばない。</p><br><p>　その瞬間、周囲の気配が扉の前付近まで押し寄せてきて、知覚しうる空間のありとあらゆる</p><p>方向へと満ちていくのを、五感全て使ってもカバーし切れない位の圧力でもって感じた。</p><br><p>「入って」</p><br><p>　凛と澄んだ声で菊谷が背中越しに呼んだ。黙ってその後をついて行く。<br></p><p>　外観とは違って、中は近代的な作りの様だ。打ちっ放しのコンクリートの壁、鉄製の足場、それらを</p><p>ぼんやりとした非常灯の緑光が申し訳程度に照らしている。</p><br><p>　やがて突き当たりのエレベータ前に行き着く。階層パネルには１階と･･････B1、B3、B5とある。</p><p>間の階はどうなっているんだろう。気にはなったがこの場で尋ねるのは何となく気が引ける。扉が開き、</p><p>菊谷はB3のボタンを押した。エレベータが動いている最中、視線は斜め上で固定。</p><br><p>　扉が開くと、外で白衣を着た数人が俺たちに軽く会釈をしてきた。それに応える。俺たちが出ると同時に</p><p>数人が入れ違いでエレベータに入って行った。その中の一人、女性のようだったが、菊谷を見てすれ違い様に</p><p>ニヤリとする。</p><br><p>「研究員の人たちなの。これから夕食みたい。会社の昼休憩みたいな感じかな」</p><br><p>　泊りがけで研究に没頭しているようで、皆ほとんど自宅に帰っていないとのことだった。すれ違った時に</p><p>アイコンタクトしてきた女性のことを尋ねると、</p><br><p>「一番仲がいい人でさ、まぁいいや、後で紹介するよ」</p><br><p>　と、煮え切らない答え。</p><br><p>　それにしても、ここはどういう場所なんだろう･･････。ちょっとした体育館ぐらいのスペースに、大きな</p><p>機材がいくつも設置されている。病院にあるCTスキャンやMRIなんかも置いてある。それらの周りには机が</p><p>並び、書類やらお菓子の袋やらが無造作に積まれている。壁沿いにはファイルの納められている棚がいくつも</p><p>並んでいるのが見える。なるほど、少しは研究機関ぽい･･････。</p><br><p>　それらを横目に、フロアの奥へと案内される。会議室、事務室と、仕切られた部屋が廊下の両端に続く。</p><p>その先の一室に差し掛かった時、菊谷がくるりと振り返ってドアノブに手をかけながら言った。</p><br><p>「ここからが本番。この扉をくぐった瞬間から綿野君の生き方がガラリと変わるかもしれない」</p><br><p>　神妙な表情の菊谷。少し怖気づく俺。そんな言い方されたら身構えちゃうだろうが。</p><br><p>「じゃ、入って」</p><br><p>　扉を引き、中へと招き入れる菊谷。意を決して踏み込んだ瞬間、パンパパンと軽い破裂音とともに、</p><p>細長い紙がいくつも飛んできた。それがクラッカーだと気づいたのは硝煙の匂いを嗅いだからだ。</p><br><p>「ようこそ『ビトゥタティーアムー』へ」</p><br><p>　数人に口を揃えて出迎えられた。壁には《おこしやす綿野君》と書かれた手書きのポップが貼ってある。</p><p>既に俺がここに来ることを予見していた様だ。何だかモヤモヤする。</p><br><p>　会議机には･･････口の空いたワインボトルが何本も転がっていた。ツマミも手が付けられた形跡がある。</p><p>皆すっかり出来上がっているらしい。紙コップ片手に無邪気な笑顔で取り囲まれた。</p><br><p>「いらっしゃい綿野君。お噂はかねがね」</p><br><p>　眼鏡をかけた長身の好青年。オッサンと呼ぶにはまだ若そうだ。雰囲気から察するに年長者か。</p><p>物腰の柔らかそうな人だな。ホッとする様な声色で挨拶を切り出してきた。</p><br><p>「あ、どうも」</p><br><p>　噂って何だろう。まあいいや。</p><br><p>「『メンバー』の島村と申します。初めまして。一応、この集まりの取り纏めみたいな立場を</p><p>　やらせてもらってます。わからないことがあれば僕にお尋ね下さい」</p><br><p>　分からないことだらけなんだけどな。それはまた追々聞くとして。</p><br><p>「うっす。まあ飲め」</p><br><p>　フランクを通り越してもはや無礼な態度で紙コップをぐいぐいと右手に押し付けてくるこいつは。</p><p>短髪で快活な表情。元気そうな奴だ。見た感じ年下だな。なのにこいつは･･････！！</p><br><p>「小松翔太。翔ちゃんでいいよ。みんなもそう呼んでるし。綿野さん？わっちーってどう？</p><p>イヤなの？じゃあ下の名前は？かつひこ？じゃあカッちゃんだね。えぇーダメ？」</p><br><p>　イヤだバカ。何だお前は。 <br></p><p>「･･････よろしく」</p><br><p>　何だこの馴れ馴れしさは。団地をうろつく子犬かお前は。礼儀とか知らんのか全く。</p><p>ひょっとしてバカなのか？正直どういったリアクションを取っていいのかわからない。</p><p>だがなぜだろう、不思議とそう悪い気もしないんだ。慣れたら楽しそうな奴ではあるな。</p><br><p>「あ、ああ、あ、初めまして綿野さん。あの、驚いてらっしゃる様なのでまずはこの場のご説明を」</p><br><p>　ちょっと気の弱そうな女性が次に続く。図書委員とかやってた感じだな。たどたどしい</p><p>口調が妙に初々しいというか何というか。長い黒髪がやけに目に止まる。菊谷とはまた違った部類の</p><p>美人だ。けっこう好みかもしれん。</p><br><p>「舫理沙です。『もやい』って言うのは船を止める時のアレのことで、その、えぇと、理沙って</p><p>呼んで下さい･･････」</p><br><p>「ど、どうもよろしく」</p><br><p>　顔を真っ赤にして俯かれても困るんだが。カワイイとは思うが正直イラッとするなぁ。そのリアクション。</p><p>もちろん良い意味で。</p><br><p>「今までで一番面白かったよリッちゃん。よく頑張った」</p><br><p>　そうコメントしたのは酒で真っ赤になった顔でニヤニヤしている女性。理沙が月ならこの人は太陽といった</p><p>ところの美人だな。明るい笑顔って伝染するもんだ。この人の笑顔を見てたらこっちまで楽しくなってくる。　</p><br><p>「猿爪安岐乃。猿の爪って書いて『ましづめ』。みんなからはアキネエって呼ばれてるよ。ヨロシクね。</p><p>リッちゃんの方がイッコ上なんだけどね。老けて見られんのかなー。あっははは！！　まあ飲め若いの」</p><br><p>「あ、はい、どうもよろしく。いただきます･･････」</p><br><p>　砕けた口上と共にボトルの中身の紅い液体がたっぱんたっぱんと紙コップに注がれる。注がれ･･････って</p><p>ちょっと、こぼれてるんですけど。</p><br><p>「あははは、気にすんな。こぼしたのは翔太が飲むから。な？翔太ぁ～」</p><br><p>　意地悪そうな笑顔で翔太を肩越しに見るアキネエさん。</p><br><p>「いくら何でもそこまでやってウケ狙いたくねーべや」</p><br><p>「いやぁ、アンタならやってくれるってネェさん信じてるから」</p><br><p>「そんなノリいらね」</p><br><p>　微妙な表情をしながらモジモジと答える翔太。何そのリアクション。弱みでも握られてるのか？</p><br><p>　そんなこんなで、化け物屋敷みたいな外観の洋館に入ると、その地下室では打って変わってこんな</p><p>有様なわけで。</p><br><p>　ビトゥ･･････えーと何だったっけな、覚えにくい名前だけど、その団体の日々の活動内容とか、俺がこの場に</p><p>呼び出された理由とか、何で俺の名前をポップにして壁に貼ってんのかとか、それよりも何でこいつら宴なんぞ</p><p>開いて酔っ払ってんのかとか、聞きたいことは山ほどあるが、雰囲気に呑まれかけていて何から質問すべきか</p><p>正直決めかねている状況。</p><br><p>　それぞれ適当に談笑に興じだした。何かの打ち上げ、というか、俺の歓迎会？いやいや、菊谷に協力するとは</p><p>まだ言ってないぞ。詳しい話をここで聞いてからって約束だったはずだ。メンバーに入るか入らないかわからない</p><p>相手のために歓迎会なんて普通やらないだろう。ということは、こいつらただ単に飲む口実作って飲んでただけ</p><p>じゃないのか･･････！？</p><br><p>　挨拶も一通り済み、受けた杯(紙コップ)を適当にチビリチビリをやりながら、菊谷に目をやる。</p><br><p>　この酔っ払い包囲網の外で、ソワソワモジモジしながらこちらを伺っている。瞬間目が合う。あ、逸らした。</p><p>連れてくるだけ連れてきて放置かこの女。紹介とかお前がリードするんじゃないのか。こちとらさっぱり状況が</p><p>わかんねえんだよ。いつ本題を切り出すんだよ。</p><br><p>　そんなキリキリした俺の雰囲気を汲み取ってか、島村さんが近寄って来た。</p><br><p>「何だかごめんね。いつもこの調子で」</p><br><p>「いえ、いいですよ。他人と飲んで騒いでなんて、ずいぶん久々だったんで」</p><br><p>「麻里さんから詳しいことは聞いてる？」</p><br><p>「それなんですけど･･････大まかな事しか聞いてなくて、ただ『協力して欲しい』と」</p><br><p>「そっかー、じゃあどこから説明したらいいかな」</p><br><p>「活動内容っていうか、研究内容みたいなのと、僕がここで何をするのかについて」</p><br><p>「･･････わかった、ちょっと待ってね」</p><br><p>　そう言って離れる島村さん。何かを手にとって戻ってきた。･･････柿ピーか。</p><br><p>「お待たせ。これがないと始まらないからね。じゃあ本題に入ろうか。おや、ボトルの中身がずいぶん</p><br>寂しいことになってるなぁ」<br><br><p>　そう言ってまた場を離れる島村さん。本当に大丈夫か。あんたリーダーだろ。ここの連中、揃いも揃って</p><p>飲兵衛ばっかか。</p><br><p>まともなFAQになるのかこれ。頭痛くなってきた･･････。</p><br><p><br>続く 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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10063969061.html</link>
<pubDate>Sat, 05 Jan 2008 06:23:52 +0900</pubDate>
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<title>バクライ3.「バクライ」</title>
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<![CDATA[ <p>　気になって仕方ないことができると、それが頭の中でループする。<br>目の前でニコニコと何やら喋っているようだが、全く言葉が耳に届かない。</p><br><p>　意を決して質問することにした。いや、そんな大した事じゃないと思うのだが、<br>なぜか触れてはいけない話題じゃないのかと直感じみたものが働いて気後れしていたのだ。</p><br><p>　何やら熱心に語る菊谷の言葉を遮り、思い切って本題を切り出す。</p><br><p>「あ～、あの、ゴメン、ちょっといいかな」</p><br><p>「ん？　なになに？」</p><br><p>「えっとさ、さっき俺の事『逸材』って言ったけど、あれってどういう意味？」</p><br><p>「そんなこと言ったっけ？」</p><br><p>　笑いながらそんな返しを。目が笑っていない。少し怖い。</p><br><p>「言ったと思うよ。ずっと気になっててさ。正直、俺をどうしたいのか、<br>何が目的なのか知らないとモヤモヤして、こう･･･」</p><br><p>「そっかぁ～。じゃあ少し長くなるけど話そっか」</p><br><p>　大したレスポンスがないまま一方的に何やら喋りまくってた人がこう言うのだ。<br>間違いなく話は長くなる。自分から尋ねといてアレだが何やら不安だ。</p><br><p>　菊谷はすっかりぬるくなったカップの中身を一息で飲み干すと、少しの間目を閉じた。<br>そして軽く深呼吸したあとぼつぼつと話し出した。何やら芝居がかった動きだがこの際気にしない。</p><br><p>「逸材って言ったのはね･･････。綿野君『見える人』でしょ？　今私たち、そういう人たちを<br>　集めてるの。でね、綿野君にもその集まりに参加して貰おうと思って声かけました！」</p><br><p>　何だやっぱり。只の勧誘だったじゃないか。しかも語尾上がりが小学生の作文を音読する<br>みたいで少しむかつく。だが話は続く。</p><br><p>「ヘンな新興宗教みたいって思ったでしょ？　でもね、ちょっと違うんだ。<br>　宗教よりヘンなの。何ていうか、ある種の実験集団っていうか･･･」</p><br><p>　そう言いながら自嘲気味に笑う菊谷。悔しいがそういう表情もかわいいな。でも頭の中身は少し<br>アレな人みたいだ。とりあえずどうヘンなんだ？それは正直気になる。</p><br><p>「『見える人』って言っても人によってそのレベルはバラバラ。私みたいに影っぽいものしか見えない人から、<br>　キチンと形のある『そこにいるもの、あるもの』として『見える人』までさ。で、そういう人たちをずーっと<br>　昔から集めて研究してきた団体があって、彼らは被験者、あぁ、『『見える人』』たちを観察しててある事に気づいたの」</p><br><p>　被験者。『見える人』。なぜ言い直すのだろう。まあいいや。そこまではわかった。<br>ヘンな団体＝その手の研究団体ってことね。確認はしない。時間もったいないから。</p><br><p>　話どんどん進めてちょうだい。</p><br><p>「彼らは同じモノを見ていた。まぁ、『見える人』たち、うん、私たちもそうだね、当然な話なんだけど、<br>　研究者たちは『見える人』たち各々が見る幻覚じゃないかって疑ってかかってたの。それだけにこの結論に</p><p>辿りつく　まで随分と悩んだみたい。研究団体が立ち上げられたのだって、元はといえば精神病の研究から</p><p>だったっていうし」</p><br><p>　そういう団体や機関はどこの国にもあるだろう。仮に無かったとしても、そういった連中の受け皿に<br>なるような場所ってのは大なり小なりあるはずだ。</p><br><p>「同じモノが見える、つまり、ある場所において何らかの力が働いていた、通常の空間には</p><p>起こりえないはずの何かが　そこには存在したということ。仮説を立て、色んなテストを経て、</p><p>頭が固くて融通の利かない人たちを説得して、この世ならざるあちらの世界、『異界』の存在を</p><p>周囲に認めさせたの」</p><br><p>「ふむ」</p><br><p>「研究は次の段階へ進んだ。特定の者たちとはいえ、認識しうる世界がこの世界以外にあるのだとしたら、<br>　それにアプローチできないか考えるでしょ？　彼らはその手段について考えることにしたの」</p><br><p>「昔からあるような瞑想法や内観法、最近流行りのイメージトレーニングや60年代のサイケデリックカルチャー、<br>　果ては幻覚剤の使用まで、ありとあらゆる手法を試してきた･･････」</p><br><p>「その過程であるものと出会ったの。それがこれ」</p><br><p>　そう言って菊谷が鞄から取り出したのは、野球ボール程の大きさの物体だった。</p><br><p>「･･････何それ？　果物か何か？」</p><br><p>「ホヤの一種なんだけど。ホヤって知ってる？　お酒好きな人なら知ってるかも」</p><br><p>「うん。ホヤ知ってる。たまに瓶詰めのやつ買って食べるから」</p><br><p>「そのホヤの親戚みたいなもんらしいんだけど、普通のホヤと違うのはこれが特別な代物だってこと」</p><br><p>　普通ホヤというのは、痛みかかったパパイヤにグロテスクな孔がボコボコと空いている様な外見なのだが、<br>このホヤはそれとは違う。凹凸も孔もない。血や臓物を連想するような赤黒い色をしていて、正直言って<br>食事をする場に持ち出すには少々厳しいなりをしているのだ。言われなければホヤとは気づかない。</p><br><p>「私たちはこれをバクライって呼んでる。本来はオニボヤっていうらしいんだけど」</p><br><p>「ばくらい？　まさしく酒の肴だね。とてもそうは見えないけど」</p><br><p>「このバクライね、色んな意味で特別なの」</p><br><p>「見た目だけでも十分特別なものだって伝わってくるよ」</p><br><p>「発見されたのはとある国の湖。淡水の環境にホヤはいないのにこれだけでも大発見。<br>　きっかけになったのは現地の土着宗教で司祭が儀式に使う秘薬の噂」</p><br><p>「胡散臭いなぁ･･････」</p><br><p>　思わず失笑してしまった。怪しすぎる。キバヤシとか出てきそうな勢いだ。<br>淡水性のホヤ。確かにそれは大発見だ。でも誰も知らないとは。やはり怪しい。</p><br><p>「第一発見者は物好きな民俗学者だったの。シャーマニズムと夢解きについて研究してた<br>　人なんだけど、キノコとかサボテンとか、そんな物なんかにも関心が高かったみたいで、<br>　その手の本を何冊か書いてるのよ。カルロス・カスタネダとか知ってる？」</p><br><p>「えーと、名前だけは」</p><br><p>「ヤキ・インディアンのシャーマンから手ほどきを受けて修行する人の話なんだけど、そこに<br>　サボテンの話が出てくるから、興味あったらヨロシク」</p><br><p>「うん、わかった･･････」</p><br><p>　何がヨロシクなんだろう。サボテンがどうしたんだ一体。<br>アレか、サボテン食うと幻覚を見るとかそういった類の話なのか。</p><br><p>「で、その民俗学者も同じ道を歩もうとしたわけ。現地のシャーマンに教えを乞い、修行を<br>　経たところまでね。違ったのは、出会った代物がサボテンじゃなくてこれだったってわけ」</p><br><p>　そう言いながら天井に向かって絶妙なスナップでバクライを投げてはキャッチを繰り返す菊谷。<br>大事な物じゃないのかそれ。投げる意図がわからん。</p><br><p>「このバクライ、現地では儀式に使う以外にも用途があって、妊婦さんとかお年寄りとかの心の<br>　安定のために使ったりしてたんだって」</p><br><p>「へぇ･･････」</p><br><p>「その土地の人々は、夜眠るときに見る夢の世界と死後の世界とが繋がっているって考えてたの。<br>　心の病は夢の世界や死後の世界からやってくるものなんだって」</p><br><p>「ほぉ･･････」</p><br><p>「もー、ちゃんと聞いてて。でね、悩みや苦しみのレベルに応じて、夢の世界の出来事なのか<br>　死後の世界の出来事なのか分けて対処してたっていうから驚きよね」</p><br><p>「うん、ちょっとびっくり」</p><br><p>　そこらへんの切り分けを詳しく知りたいが、話の腰を折りたくないから聞かない。</p><br><p>「で、夢の世界が原因の問題は夢解きと数種の薬草によって解決した。死後の世界によるものに<br>　ついては、族長とシャーマンによって話し合って、どうするか決めていた」</p><br><p>「生きてる人間は夢の世界までしか行けない。そこで死後の世界にアクセスする為にバクライの<br>　力を借りたの。使うか使わないかは族長とシャーマンの裁量にかかってたってわけ」</p><br><p>「そんな得体の知れないものにそこまでの力があるとは･･････。<br>　で、そのバクライと君たちの団体とやらとの関係については？」</p><br><p>「焦らず聞いて欲しいの」</p><br><p>「うん･･････」</p><br><p>　ややこしい上に胡散臭い話だなと思いつつ聞き入ってしまっていた。<br>彼女の話し振りが達者で、巧みな話術にぐいぐい引き込まれたとかそんな事じゃない。</p><br><p>　『見える人』を集めて何やら研究してる奴らがいる。</p><br><p>　そいつらと彼女の関わり。</p><br><p>　グロテスクな外見とファンタスティックな用途が気になる『バクライ』。</p><br><p>　俺の頭の中はこの現実味のない話の流れにグチャグチャにかき回されていた。<br>ここまで聞いてきて未だ俺に声をかけきた動機が見えない。ちょっとイライラする。</p><br><p>　それとバクライの話になってから、彼女がやたらと饒舌になったことも気になる。<br>ただの脳内お花畑ちゃんかと思っていたが、どうやらそうじゃないようだ。</p><br><p>　ひょっとしたら、とんでもない相手かもしれない。</p><br><p>「シャーマンの教えを受け、このバクライと出会い、そして現地から持ち帰ってきた民俗学者。<br>　その人物の名は菊谷栄ニ。私の父なの」</p><br><p>「ほう、どうりで詳しいわけだ･･････」</p><br><p>　この手の話は彼女にとって家業だった。そういうことか。<br>父の研究を娘である菊谷が手伝っていると。</p><br><p>「研究団体も父が立ち上げたの。団体名は『ビトゥタティーアムー』、現地の言葉で<br>　『見えない殻をすり抜ける旅人』って意味なんだって。賛同して集まった精神分析学者たちと</p><p>新しいアプローチで人の心の謎を解明するために作られたの。父は人間の精神に普遍的な</p><p>可能性を見出すために、精神分析学者たちは心の病のメカニズムの解明のために」</p><br><p>「へぇ･･････」</p><br><p>　変わった団体名だな。呼びにくいし覚えにくい。面白いとは思うけど。</p><br><p>「ここまで話を聞いてもらったからには、いい返事が欲しいな。ズバリ言うよ。<br>　綿野君、私たちの研究を手伝って欲しいの。だからこの後ついてきて」</p><br><p>「はぁ･･････。え？　それってどういう」</p><br><p>「とにかく今は『うん』て返事してくれたらいいから。話の続きはそれからってことで」</p><br><p>「えぇ！？　ちょ、ここまで話しておいてそりゃないよ」</p><br><p>「話の続き、気にならない？」</p><br><p>「そりゃ気になってるけどさ･･････」</p><br><p>「じゃあ返事は決まりね」</p><br><p>「う、うぅーん･･････わかったよ」</p><br><p>　一方的に押し切られた。喋り倒しておいてこの仕打ち。柔和な表情からは想像もつかない<br>ドSっぷりに驚きを隠せない。男は寸止めされるとキツイって知らんのか。</p><br><p>　こいつは･･････天然を装った策士だ。絶対そうだ。</p><br><p>　俺の異界のモノを見る力とバクライの関係、彼女の言う研究の実態。<br>確かめなければならないことが断片的に浮かぶも、ゴチャゴチャと絡み合ってうまく<br>言葉にできない。漠然とした不安だけが今の俺にとって確かな感覚だ。</p><br><p>　今俺に用意された選択肢は『A.黙ってついていく』と『B.後味悪いが帰る』の<br>二つだけだ。</p><br><p>　選ぶのは当然、A.だ。胡散臭い話だが、美人からのお誘いには変わりない･･････はず。<br>頭の隅っこで『お前絶対おかしい事に巻き込まれてるよ』アラームがけたたましい警戒音を<br>鳴り響かせているが今回は無視する。</p><br><p>　さて、どうなる俺。</p><br><p><br>続く 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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10061577757.html</link>
<pubDate>Sat, 22 Dec 2007 21:19:56 +0900</pubDate>
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<title>セレビッチ(笑)</title>
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<![CDATA[ スイーツ(笑)のさらに上をいく言葉が生まれた様です。<br><br>発案者は辛酸なめ子さん。さすがです。<br><br>しかも雑誌の名前ときてる。色んな意味でキてる。<br><br>セレブ＋ビッチ＝セレビッチてｗｗｗ<br><br>この言葉を初めて見た時笑いすぎて鼻血出ました。<br><br>どんな人物像がイメージできますか？パリスヒルトンとかかなぁ。<br>
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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10061251676.html</link>
<pubDate>Thu, 20 Dec 2007 22:25:25 +0900</pubDate>
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<title>バクライ2.「なんで？」</title>
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<![CDATA[ <p>　菊谷が一歩先を行く後を、あまり好きではない人ごみを気にしながら目的地へと歩く。</p><br><p>　彼女はまったく振り向く様子もなく、その行きつけのカフェとやらを目指している様子だ。</p><p>今になって、内心少しだけ迷い始めている。</p><br><p>　下心丸出しでこのちょっと天然ぽい女についてきたはいいが、俺はこれからどうしたいんだ。<br>話をするだけ、本当にそれだけでいいのか。だんだんわからなくなってきている。<br></p><br><p>「お店、休みだったらどうしよう」　<br></p><p>　突然その菊谷の足が止まり、少し困った顔をしながら振り向く。</p><br><p>「今確認すればいいんじゃない？」</p><br><p>　俺に聞いてどうするんだ。代案とかないのか？<br></p><p>えーと何も考えて無さそうだな。まあいいや、焦っているわけじゃないんだ。任せよう。</p><br><p>　携帯をポケットから抜き出し、時間を確かめる。20時少し前。カフェでなくとも居酒屋でもどこでも<br>かまわない。どこかで腰を落ち着けたい。</p><br><p>　目の前にコンクリート打ちっ放しの小洒落た店がある。そこでいいじゃないか。<br></p><p>　そう提案すると快い返事が。この際どこでも構わないんだ。とにかく座りたい。　カフェに入るのも</p><p>初めてだったが今はどうでもいい。ガラスドアに体をねじ込んだ。</p><br><br><p>　店内は間接照明とパーテーションがうまい具合に配置されていて、各席は白いソファと<br>ローテーブルのセットで固められている。</p><br><p>　BGMは会話の邪魔にならない程度にラウンジが流れている。カフェミュージックというのは</p><p>よく知らないが、ハウスやラウンジ辺りならネットラジオでも暇を飽かして聴いてきたので抵抗はない。</p><br><p>　レコードショップなどで《カフェ系》なんて銘打ってコーナーが設置されていたりするが、<br>実のところそういったジャンルがあるわけではなくて、ただそれっぽい音楽を集めただけというのが<br>正しかったりするらしい、とよく見る掲示板で解説されていた気がする。まぁいいや。</p><br><p>　客層は、やはりというか何というか、若い女性でごった返している。店内のBGMがあまり<br>聞き取れないくらいの騒がしさだ。女が三人集まって「かしましい」と書くが、本当のことだと痛感する。</p><br><p>　とりあえず、あまり通りに面した騒がしい席ではなく、静かな奥の席を選んだ。ただでさえ騒がしい</p><p>場所は苦手なのに、殆ど初対面に近い相手と話すんだ。できるだけ平常心を保てる条件で話がしたい。</p><br><p>　これはデートなどではない。小さな戦争なのだ。</p><br><p>「――さて、何から話そうか」</p><br><p>　俺がコーヒーを、彼女がカフェフラペチーノとガトーショコラを注文したあと、<br>一呼吸置いて気持ちを落ち着けて、こちらから用件を切り出す。</p><br><p>「何から話したい？」<br></p><br><p>「質問したいのはこっち。じゃあ、なぜ今日俺に声をかけたのかについて」</p><br><p>「んー、理由かぁ。本音言うと特になかったんだけどね」<br></p><br><p>「そうなんだ･･････」</p><br><p>　ないのか。なくても声を気軽にかけられるものなのか。普段他人とあまり接しない俺には</p><p>わからない感覚だった。</p><br><p>「ていうか、学生だった頃もね、ちょっと気になってて」</p><br><p>「ど、どんな風に？」<br></p><br><p>　声が裏返った。死にたい。</p><br><p>　綺麗な女の子が『気になってて』なんて口に出せば、それは<br>特別な意味になることくらい俺だって理解している。</p><br><p>　そう思った瞬間、心拍数が上がり顔が上気する。ただでさえ<br>対面では緊張するのに、そんな事言われた日にゃ心臓が鼻からハミ出る。</p><br><p>「逸材がいるなあって」<br></p><br><p>「ハァ？そりゃまたどういう･･････」</p><br><p>　何だそりゃ。逸材って。こんな冴えない奴捕まえといて逸材って。</p><br><p>「まぁたまた、とぼけちゃってー。ホントは気づいてたんでしょ」</p><br><p>　体をグッと乗り出して、意地悪そうな表情で顔を近づけてきた。</p><br><p>「――――！！」</p><br><p>　吸い込まれそうな、磨き上げた黒曜石のように輝く瞳で、じっと俺の目を見つめてくる。<br>俺の心の中を見透かすような、魂を視線で射抜くような不思議な瞳で。</p><br><p>「えーっと･･････」</p><br><p>　しかし、こんな女の子が同期にいたとは。ろくに他人のことなんて<br>見もしなかったからな。なぜもっと周囲とコミュニケーションを図らなかったのだろう。</p><br><p>　バクドク鳴る心臓がうるさい。その上目線を彼女の強烈な眼力から外せない。なんだこれ。</p><br><p>「アナタ、ワケあって他人と触れ合わなかったんじゃない？ただの対人恐怖症とか、<br>えとゴメンね、オカシイ人とか、そんなんじゃない感じはしてたんだよね」</p><br><p>「･･････」</p><br><p>「時々人が歩く姿の、ちょっと後ろとか、んー、頭の上とか見ながら、ため息ついたり<br>笑うの我慢してたり、それ見て『あぁそうか～』って。綿野君、見える人でしょ」</p><br><p><br></p><p>　俺は絶句した。こんなこと他人から言われたことなんて生まれてこの方なかったからだ。<br>普通なら「何言ってんだこの○チ○イ」で話が終わる流れだが、俺の場合そうじゃなかった。</p><br><p>　隠してたつもりだったが、傍で見ればどういうことか丸分かりだったわけだ。<br></p><br><p>　他人と関わりを持たないようにして隠してたつもりが、他人からの目線に気づかなかった<br>とは滑稽な話だ。頭かくして尻隠さず。ちょっと違うか。</p><br><p>　ということは、つまり･･････</p><br><p>「菊谷さんにも･･････見えるの？」</p><br><p>「うん、少しだけね。でもボンヤリとしか。影みたいなのがユラユラ～くらいで」</p><br><p>　いともあっさりとした返事だな。常識的な目で見れば気味悪がられるか、頭がどこか<br>おかしい奴の行動にしか見れない俺の振る舞いを、それと確信した上で、自分自身もそうだと言ってる。<br></p><br><p>　いや待て、鎌をかけてきているのかも知れないし、そういったものに憧れているだけのちょっとアレな<br>人なのかも知れない。そういう奴は高校時代にもいたっけ。言葉は慎重に選ばないと。</p><br><p>「そっか･･････。でもさ、人の姿、頭の寝癖とか服に付けっぱなしのタグとか見て笑ってただけかもよ？」</p><br><p>「綿野君に限ってそれはないでしょ。人間に興味なさそうだったし。決定的だったのが一人でベンチに座って<br>ボソボソ話してたとき、その横にモヤモヤが見えてたの」</p><br><p>　ウワー。<br></p><p>　そこまでウワー。参りました。</p><br><p>　お互いに見えるってことで結論。そんで一方がもう一方を発見。それが機に現在に至ると。</p><br><p>　何が見えるかって？「アッチのもん」さ。幽霊とか妖怪とか精霊とかそんなん。</p><br><p>･･････これだから他人と関わるのはイヤだったんだ。</p><p>　たいてい気味悪がられるか、好奇な目で見られて振り回されて終わるだけだったから。</p><p>　</p><p>　特に後者がひどいんだ。うっかり同類がいるバーに入った時なんて、その同類のババァが<br>霊視を商売道具に使ってて、カウンターに並ぶ常連に</p><br><p>　「そのコも見えるみたいよ」</p><p>　なんて暴露されてから、質問攻めと俺にはどうでもいい霊障相談にもみくちゃにされて大変だったんだ。</p><br><p>　とにかく、『俺（私）見えます、相談に乗ります』なんて吹聴する連中はどうかしている。<br></p><p>　目の前で得意げな顔してる美人の真意を探る必要があるな。</p><br><p>（「逸材がいるなあって」）</p><br><p>　さっきの言葉が頭から離れない。逸材って何だよ。俺に何をさせる気でいるんだ。</p><br><p>　あまり聞きたい気はしないが、聞いておかないとスッキリしない。これについて彼女に尋ねた。</p><br><br><p>続く</p><a href="http://ameblo.jp/agathivar/entry-10059480823.html">メニューへ</a> <br><br>
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<link>https://ameblo.jp/agathivar/entry-10060683705.html</link>
<pubDate>Mon, 17 Dec 2007 14:50:35 +0900</pubDate>
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