あめ・ものがたり https://ameblo.jp/ame-monogatari/ うつろう季節とともに描く、ベリーショート・ストーリー ja-jp 壷の中のふるさと https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10013837586.html  四年ぶりに、生まれた街に帰った。 ローカル列車を乗り継ぎ、無人駅の「わが街」に降り立つと、子どもの頃と変わらない夕暮れが四十歳になった私を包んでくれる。ふるさとの空気は、いつでもやさしい。 暮れてゆく田舎の町は、ネオンの光などなく、静かで、暗い壷の底にゆっくりと落ちていくような気がする。 「ケイコ!」と呼びかけられて、ふりむくと、白いシャツと学生ズボンの高校生が、こちらを見て笑っている。 もしかして、私は過去に帰ってしまったのかと、あわてて辺りを見回す。ゆっくりと近づいてくる彼は、よく見ると、 2006-06-20T17:08:32+09:00 雨あがりに見つけたもの https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012847331.html 雨があがった。空は、磨き上げたような、輝く、晴れ色。こんな日は、なんでもできそうな気がする。だから、もうやめようと思った。いい妻でいようとすること。これは、前進なのか、後退なのか、わからないけれど。仕事を始めて、八年。夫とは、けんか、ケンカ、喧嘩の連続だった。家事がおろそかになっているとか、子どもの面倒をちゃんとみられていないとか、そんなありきたりの、いさかいばかりだった。女だから、妻だから、という理由でこんなことをとがめられるなんて、不公平だと思った。仕事をやめるよりも、妻をやめようと思ったこ 2006-05-25T11:59:53+09:00 雨音に耳をかたむけて https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012555525.html ベランダに出て、ながめると、たっぷりの木々の緑。それが、よかった。それで、この家に決めた。都心まで小一時間かかる駅から徒歩十分のマンション、五階。雨がふると、雨の音がやわらかく響いた。木々の葉っぱに落ちて、さわさわ、ぽつぽつと、森に住む天使たちの、ひそやかなささやかにも聴こえた。雨と風に揺られている木の枝たちは、オーケストラのように揺れながら、小さな美しい旋律を聴かせてくれる。仕事も家事も、とてもがんばってきた。がんばった分だけ評価されている仕事、好きな人と結婚して得た家庭。三十七歳の女性として 2006-05-17T11:51:27+09:00 私に吹く風 https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012372032.html 昨日の夜、かつての同僚から電話があった。昇進したのだという。私と同期入社。よきライバルだった。でも、ほんの少しだけ、私の方が責任のある仕事を任されていて、彼女に負けまいと意識したことは、なかった。けれど、数々の壁にぶつかり、疲れ果てた私は、当時つきあっていた夫からのプロポーズを逃げ道のようにして、仕事をやめた。いま、夫の転勤で地方の団地に住んでいる。生後七ヶ月の赤ん坊の育児に追われる日々。月末も〆日も関係なく、天気のいい日には、洗濯と散歩にふりまわされる。今日も、団地の庭にある藤棚にいくと、赤ん 2006-05-12T12:07:26+09:00 Someone to watch over me https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012302724.html 一人の時間を、豊かにするために必要なものが、いくつかある。その中の一つが、ジャズ。といっても、たくさん聴いてきたわけでもなく、熱心に聴こうとしたことも、まだない。ただ、リラックスしたいときの、コーヒーとともに。あるいは、一日の終わりのワインとともに。ジャズがいつのまにか、私の隣にやさしくほほえんで座っているようになった。長年の友だちのような関係だ。深く知らなくても、そばに気配を感じるだけで安心する・・・そういう存在は、人生の中できっと、とても大切なものだと思う。ジャズがそんな友だちになってくれる 2006-05-10T13:18:51+09:00 ひとりで、散歩 https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012271345.html 一人で散歩するのが、好きだ。自分のペースで歩き、自分の見たいものを見たいだけ見て、立ち止まって、その場にある光を浴び、風を感じ、誰かといたら感じられない音に、耳を傾ける。物事は、見ようとしないと見えないものがあり、聴こうとしなければ、聴こえない音がある。感じようとしなければ感じられない風があり、意識しなければ、あたりまえに消えてゆく光がある。だから、一人でゆく。散歩にも、出会いと別れが、ある。思いがけず発見して、嬉しい出会いや、いつまでも見つめていたいけれど、次の出会いのために、さぁ、とキリをつ 2006-05-09T16:49:28+09:00 おっちゃん https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012069077.html 「ええか、彼氏に誘われたら、三回に一回、いや、五回に一回くらいは、断るようにしいや。恋は駆け引きやで。たまにはもったいぶったらな」社員食堂で、おっちゃんはそう言って、がははは・・・と笑った。おっちゃんは、大阪支店から転勤してきた四十代半ばの平社員だ。出世はしそうにないが、小田さんいう名前から“おっちゃん”と呼ばれ、皆から親しまれている。おっちゃんは、自称、“恋の達人”だったらしく、私の恋愛について心配してくれている。「まじめで奥手そうやから、悪いのに、コロッとひっかかるんや・・・」。おっちゃんの 2006-05-04T00:04:24+09:00 突然の恋人 https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012037704.html ゴールデンウィークの間の、とりこぼされたような平日の月曜日。平日なのに休日のような、浮き立ったにぎやかさが駅を包む。本当は、サークルのメンバー、男女八人で金沢へと旅行するはずだった。なのに、連休直前に、メンバーの二人がカップルになったために、みんなの中に保たれていた微妙なバランスがくずれてしまった。みんながひそかに持っていた旅行に行く目的が狂ってしまったらしく、次々と、キャンセル。駅に集まったのは、私と、あんまり話したことのない彼、の二人だけ。せっかくお天気のいい連休を、一人で過ごすのもシャクな 2006-05-03T00:24:47+09:00 咲くために黙って https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10012019551.html 「バイク買ったから、乗せてやるよ」と、恩着せがましい彼からの電話で起こされた。別につきあってる訳でもないし、今日はどこにも行きたくない。ただ、カーテンを開けると、あまりにもいい天気だったから、仕方なく、彼の誘いにのることにした。彼は、大学時代からの友だち。もともとは、友だちの彼氏だったけれど、いまはもう友だちの彼氏ではない。なのに、ときどき会ってくだらない話をする仲だ。会うときは、いつも「おぅ!」「よっ!」と、挨拶する。彼が失恋した日もそうだった。「どうだ、いいだろ?」と彼が自慢するのは250c 2006-05-02T15:41:45+09:00 髪を切る午後 https://ameblo.jp/ame-monogatari/entry-10011891130.html 昨日よりも、気温が六度上がった。日差しも、風も、のどかで、やさしい春の午後。ベランダに出て、まぶしい太陽の光を浴び、よし、今日こそ、髪を切ろう・・・と、思った。三年間、のばした髪は、たっぷりと背中にかかり、過ぎた日々の重さを、おしえてくれる。「髪の長い人が好きだ」という彼の言葉を聞いて、ショートカットだった髪をのばすことに決めた。あれは、大学一年の春の終わり。彼は、ひとつ年上の、文芸部の先輩。桜の木は、花が終わり、緑の葉が心地よい風に揺れていた。めぐる季節は、心にも彩りを添えていった。夏休みの会 2006-04-28T19:51:49+09:00