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<title>小説：僕だけが蘇生魔法を使える！</title>
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<description>ファンタジー/感動＋微エロ無料挿絵を描いてくれる人を募集中登場人物ロト…12男/主人公の魔法使いルーミィ…12女/金髪幼馴染み剣士ラール…15女/赤髪食堂の看板娘ミール…13女/青髪花の妖精アネット…16女/銀髪ダークエルフクーデリア…14女/金髪アイドル</description>
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<title>22.未知の行い</title>
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<![CDATA[ 　ティルスを発って、早4日目の朝。<br>　僕たちは涙目で部屋の中を右往左往していた。<br><br>　昨晩からずっとルーミィの熱が下がらないのだ。汗をにじませた真っ赤な顔で、苦しそうに口で息をしている。<br><br>　思い当たる節は、いくつもあった。<br>　宿場町での戦いのとき、毒のようなものを吸い込んでしまったのではないか。その日、雨が降る中で魔物との戦闘をしたことが原因ではないか。それとも、昨晩食べた桃色のキノコのせいか。昨夜のソウル・ジャッジ10連発による魔力切れではないか。いや、最近飲み始めたという怪しげな精力剤の副作用かもしれない。まさか、“つわり”！？そんなわけ絶対にない！！他にもまだ……。<br><br>　思い起こすと、考えられる原因はどんどん出てくる。その度に、このルーミィという狂戦士のタフさにかえって驚嘆させられる。でも、何とか救いたい。ボクの頭の中には、一度死んでもらってから蘇生する(もちろん、ウフフ展開)という選択肢はない。<br><br><br>　「ロト君、王都まであと1日ですが……ルーミィは今日一日安静にしたほうがいいと思います」<br><br>　冷やした布をルーミィの額に乗せながら、暗い表情でラールさんがつぶやいた。<br><br>『妖精の万能薬も効かない。どうしよう……』<br><br>　ミールも色々試してくれているようだ。ルーミィの頬には、緑色のベトベト液で★印が描かれている。奇天烈なピエロみたいだ。<br><br>　そのとき、早朝から村中を駆け回っていたポーラが、汗だくになって戻ってきた。<br><br>「お兄様！この村にはお医者様がいないそうです……」<br><br><br>　う～ん……原因さえ分かれば対処法も考えられるんだけど……思い当たる節が多すぎて絞りきれない。ただ、ずっと隣で看病しているラールさんに伝染していないところを見ると、うつる系の病気ではないことは確かだ。<br><br>「僕が何とかする」<br><br>　僕はそう宣言すると、宿屋のトイレに駆け込んだ。<br>　用を足すためではない。こっそりと試したいことがあったからだ。<br><br>　右手の甲を見る。<br>　咄嗟に閃いた作戦……この星の紋章が例の占い師に関係したものだとしたら、その力を使えれば何とかなるかもしれない。<br><br>　右手に魔力を込めてささやく。<br>「ルーミィの熱を冷ます方法が知りたい……」<br><br>　紋章が水色の輝きを放ち始める。<br>　静かで温かい光だ。<br>　そして、僕の目の前には……水色の長い髪の少女が現れた。<br><br>『まさか男子トイレで召還されるとはのう』<br><br>　ギャップ！！<br>　見た目や声はどうみても清楚な美少女だけど、あのときの占い婆さんに間違いない！心に破壊的ダメージを被りつつも、ぐっと耐えて助けを請う。<br><br>「可愛い、ハナコさん……の飼い主さん、ルーミィを助けたいんです。方法を教えてください！」<br><br>『可愛いのが私なのかハナコなのかが分からん。まぁ、良い。これも愛の力か……私に惚れると苦労するがな』<br><br>　僕の周囲の空間が歪む。例のスキルの力か。<br><br>　僕の意識は広大な大草原へと移動していた。よく見ると、足元には色とりどりの花が覇を競うようにして咲き乱れている。天国と言われても納得できるような光景が360度の彼方に広がっていた。そして遥か遠方には、吹き飛ばされた霊峰の頭部から昇る太陽が見える。<br><br>　その中を、視界は猛スピードで流れてゆく。<br><br>　すると、目の前には高く聳える純白の塔が見えてきた。<br>　雲海を貫き、天にも届かんと伸びる白亜の塔……なんて神々しいのだろう。早く行かねばと気がはやる。<br><br>　僕の意識は塔の中へと吸い込まれていく。<br><br>　うごめく光球をかわし、螺旋スロープを上ってゆく。<br><br>　数刻の間、果てしない蛇の道を浮遊する。<br><br>　そしてたどり着いた最上階には、ぼんやりと蒼白く光る炎があった……。<br><br><br>　僕の意識は急速に遠のく。<br><br>　目の前には低くたたずむ白亜の便器……僕は再びトイレに戻っていた。<br><br>「えっ！？」<br><br>　水色の髪の少女にいきなり抱きつかれた。<br>　や……柔らかい。花のような甘い香りがする。<br>　立ち眩みがする。一気に魔力が失われたようだ。<br><br>『ふぅ、トイレじゃロマンの欠片もないわい。報酬は頂いたから金はいらん。お主も見たと思うが、あの蒼い炎はルーミィの魂じゃ。彼女は多くの魂を診すぎた。黄泉に引き込まれるほどにな。あれを持ち帰り、彼女に返す。それが唯一の方法……』<br><br>　そこまで語ると、少女の姿は霧が霧散するように消えてしまった。<br>　僕の右手の甲が温かく光る。紋章に戻ったようだ。ありがとう……僕は紋章にそっと口付けをして、みんなの所に戻った。<br><br><br>「随分と長いトイレでしたね」<br><br>　ラールさんが心配そうに見上げてきた。<br><br>　僕は占い師のことを伝えるべきか迷った。別に浮気というわけではないし、隠し事をしたいわけでもない。ただ、今は一刻を争う。説明する時間すら惜しい。<br><br>「夕方には戻る。それまではルーミィのそばに居てあげて」<br><br>　そうみんなに言い残すと、僕は浮遊魔法で窓から飛び立った。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　向かい風が顔を叩く。<br>　初めてこんなに速く飛んだ。<br><br>　あの場所は、はっきりと脳裏に刻まれている。<br>　太陽と霊峰ヴァルムホルンの位置関係からして、ここから南に100ｋｍほど行った、霊峰の麓に広がる大草原だろう。そこまで片道３時間、塔で２時間……往復８時間か。魔力もぎりぎりだ。朝８時に出たから夕方４時には戻れる計算。それまでなんとか持ちこたえてくれと強く願う！<br><br>　地上から10ｍの高度を維持しながら、ひたすら飛ぶ。<br>　眼下に望む景色は、とうに村の屋根から街道へ、そして岩石砂漠へと変化している。<br><br>　さらに進み、低木の茂る森を越えると、森林地帯が見えてきた。<br>　高い樹木は30ｍを超えるだろう。僕の目の前には緑色の壁が広がっていた。<br>　迂回する時間がもったいない。<br>　さらに高度を上げ、森を越えようとしたとき、突然、ド低音の咆哮と共に赤い塊が飛んできた！<br><br>『ブォォォー！！』<br><br>　火炎ブレス！？<br>　身をよじって紙一重でかわす！<br>　一瞬でも遅れたら丸焦げ肉団子になるところだった……。<br><br>　軽率だった！<br>　霊峰の麓にドラゴンが棲むというのは常識だ。<br>　目的地の大草原までは、残り半分。とりあえず、追ってこないことを祈りながら速度をもう一段階上げる！<br><br>　案の定、振り返ると奴がいた……。<br>　黒光りする体、力強く羽ばたく翼、頭部から伸びる２本の……角。言わずもがなの、ブラックドラゴン！！<br><br>　僕は、大木の脇をすり抜け、岩山の空洞を潜り、森の中を低空で飛ぶ。ドラゴンは、大木を薙ぎ払い、岩山を穿ち、森の木々を粉砕して追いすがる。<br>　ドラゴンとの飛行レース、勝ち目はゼロ！振り切れるわけがない！！<br><br>　どうする！？<br><br>　そのとき、右手の甲が熱を帯びる。<br>　フェニックス！！<br><br>　直後、爆音を伴った爆風が僕の身体を吹き飛ばす！<br>　視界の片隅には、煙を上げながら高度を下げていくドラゴンと、猛々しく吼える不死鳥の姿が映る。さすがです、師匠！<br><br><br>　森林地帯を過ぎると霊峰の裾野が広がる大草原が見えてきた。<br>　占い師（名前を聞いていないや）の未来視の光景と重なる。<br>　太陽を目指して一直線に飛ぶ。目的地は近い！<br><br>　そして、天に突き立つ白亜の塔が、目前に迫ってきた。<br>　細い……精緻というべきか、風で倒れそうなほどに細く高く聳える塔の先端は、雲を貫いていて見ることすらできない。あたかも人間の穢れた目で見られることを拒絶しているかのような神々しさに、鳥肌が立つ。人による建造物ではないことは一目瞭然だ。<br><br>　やっとの思いで塔の入り口にたどり着く。<br>　窓はない。地道に入り口から登るしかないようだ。<br>　緊張でバクバクする胸を叩き、入り口の扉を潜る。<br><br><br>　中は明るかった。<br>　何が光源になっているのか分からないが、一切の影が存在しない世界だった。<br>　スロープをたどり、頂上を目指す。<br>　途中、こぶし大の光の球を追い越していく光球に触れると、脳裏に感情と光景が流れ込んでくる。怒り、悲しみ、悔しさ、安らぎ……ほぼ全てが負の感情で満たされていた。恐らくこれが死者の魂。ここは黄泉へと続く聖域なのだろう。<br><br>　僕は生々しいまでの死の現実に直面し、とめどなく涙を流していた。<br>　あるものは無残に殺され、あるものは病で心身ともに朽ち果て、またあるものは踏み潰され、焼かれて命の灯火を削り取られていった。当然、そこに存在する魂は、人よりも小動物や植物の方が多い。魂に貴賎はない。どんなかたちであれ、生きとし生けるものには等しく存する魂……改めてその真実を深く噛みしめる。<br><br>　夢中で飛ぶ僕の視界が一気に広がった。<br>　頂上が近づいているのを肌で感じる。<br>　ルーミィの魂はまだ見えない。<br>　間に合わなかったのではないかという不安にさいなまれる。<br><br>　さらに登ると、巨大な扉が開け放たれた空間に出た。<br>　この扉の先は……。<br>　多くの光球が吸い込まれていくその扉をぞっと眺める。<br><br>　すると、あった！！<br>　扉の手前、数メートルのところで必死に抵抗する蒼白い炎……未来視で見たとおりの光景だ！<br><br>　間に合え！！<br><br>　魔力を振り絞り、目を見開き、炎に向かって一直線に飛ぶ！<br><br>　両手を伸ばし、炎を抱き寄せる。<br>　そして、精一杯強く抱きしめる！<br>　その瞬間、ルーミィの感情が飛び込んできた。彼女の熱い思い、強い決意、深い愛情が飛び込んできた。瞼を焼くような熱い涙が溶岩のようにあふれ出る。僕は今、どんなにくしゃくしゃな顔をしているのだろう。<br><br>　戻るんだ、彼女の元へ！<br>　かすむ視界の中、きっと目を凝らし、扉を背に全身全霊を込めて光の流れに抗う！<br>　死者の世界に引き込もうとする力の、なんと強いことか。死の運命……僕が戦っているものは、これほどまでに強者なのか。ルーミィの魂を抱き、歯を食いしばって、前だけを見据えて、一歩、また一歩と前進する。<br><br>　そして、やっと思いで死のくびきから解放される。<br>　僕たち２人は、運命に抗う力を証明したんだ！！<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　はっきり言うと、その後どうやって宿屋まで帰ってきたのか、記憶は定かではない。<br>　魔力も底を尽きかけ、疲労も体力も極限にまで達していた僕は、ひたすら気力だけで飛び続けたのだろう。<br><br>　ベッドに横たわるルーミィは、苦しみながらも凛々しい笑顔を湛えていた。<br><br>「みんなよく頑張ったね！偉いよ」<br><br>　僕は、両手に抱く命の炎を彼女の身にささげる。<br><br>　仲間たちは、ぐっと固唾を呑んで見届ける。<br><br><br>　しばらくすると、ルーミィの表情がみるみる快方に向かっていくのが分かった。息遣いが落ち着き、見開いた瞳には力強さが感じられる。いや、力強さよりも、優しさのほうがより勝っていた。自然とみんなの笑顔と涙がこぼれる。<br><br>「夢の中でロトに会ったわ。あたしのことを力強く抱きしめてくれたの」<br><br>「うん、ルーミィもよく頑張ったよ。それに、ラールさんも、ミールもポーラも応援してくれたから勝てたんだ」<br><br>「そうね！みんな、ありがとう！！」<br><br>　その後、みんなで号泣した。<br>　本当に、本当に良かった。<br>　かけがえのない人を失うところだった。<br>　もしかしたら、死んでしまっても蘇生魔法を使えば生き返せるかもしれない。でも、死ぬことの辛さは本人だけでなく、周りのみんなに残るんだ。命は決して軽いものではない。みんなで守っていかなければならないんだ。<br><br>「ルーミィ……ソウル・ジャッジはしばらく禁止だ！僕の蘇生魔法もそうだけど、魂に干渉する魔法は相応のリスクがあるみたいなんだ」<br><br>「そうね、分かりました……」<br><br>　いつものルーミィらしくない、しおらしい態度に、僕の感情があふれ出した。<br><br>「本当に良かった……愛しているよ、ルーミィ！！」<br><br>　ラールさんたちは、何を思ったのか、何を感じ取ったのか、部屋から出て行った。<br>　……そして、ルーミィと僕だけが残された。<br><br><br>　言い訳をしておこう。<br>　本能というものの中には、最強の理性をもってしても抗えない側面もある。<br><br>　目が合った瞬間、僕たちはお互いに頭が真っ白になってしまったみたいだ。<br><br>　軽いキスをしたところまでは記憶にあるんだけど……。<br>　朝起きてみると、ベッドの上は裸で毛布にくるまった２人だけの世界だった。<br>　猛烈に下半身がだるい。<br><br>　ルーミィも目が覚めたようで、僕の目を熱いまなざしで見つめてくる。目を瞑り、おはようのキスをせがまれる。髪を優しく撫でて、唇を重ね合う。<br>　もしかして、大人の階段を上ってしまった！？でも、不安や後悔は感じなかった。不思議と、心の中は幸せに満たされていた。
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<pubDate>Mon, 10 Oct 2016 16:35:20 +0900</pubDate>
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<title>21.星宿の占い</title>
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<![CDATA[ 『え～、あなたは運命を信じますか～？』<br><br>　目の前には、いかにも的な胡散臭い占い師がいる。<br>　王都への2日目の旅は順調に進み……と言っても、途中で鳥系の魔物に襲われてボロボロなんだけど……僕たちは宿場町までたどり着いた。これから宿屋へ向かおうってときに、この婆さんに話しかけられたんだ。<br><br>『そこの可愛いお嬢さんたち！ちょっと占ってみないかい？』<br><br>「可愛いだなんて！お姉様、見る目があるわね！」<br><br>　いやいや、ルーミィ、おかしいでしょ！どう見ても60歳以上だよ、お姉様のレベルを超えているぞ！ まぁ、暴力さえなければ可愛いのは認めるけどね。<br><br>「占いはおいくらですか？」<br><br>　って、ラールさんもポーラも既に引き込まれてるじゃないか！！<br><br>『Ａタイプ、Ｂタイプがあって、どちらも80000リル（800円相当）だよ』<br><br>　占い師はそう言うと、2枚の紙を見せてくれた。 <br>　って、ラールさんがもう５人分の支払いを済ませてるし！う～ん……女の子はこういうの好きそうだからね、しょうがないか。<br>　どれどれ？<br><br><br>【Ａタイプ：総合占い】※15歳ハナコさんの例です<br>　☆人生　波乱万丈！20歳を過ぎてから落ち着きます<br>　☆健康　脚の骨折には気をつけてくださいね<br>　☆恋愛　1勝5敗です、諦めずに頑張りましょう<br>　☆結婚　年上が良いでしょう、子どもは一姫二太郎<br>　☆お金　素寒貧が続き、貯金は消え失せるでしょう<br><br>【Ｂタイプ：専門占い】　※恋愛占いの例です<br>　ハナコさん、あなたは正直に言ってモテませんね。哀れみさえ感じます。でも、自分の顔が悪いからといって諦めてはいけません。重要なことは“分相応”と“妥協”ですよ！上さえ見なければ人並みの恋愛は可能です。年下や同級生は無理ですので、20歳以上年上との結婚を目指しましょう。あなたにとっての唯一の武器は“若さ”だということを、ゆめゆめお忘れなきよう。それと、今の髪型はすぐにでも変えましょう。顔が大きいのが目立っていますからね。<br><br><br>　うわぁ、これって結構な辛口じゃない！？<br>　僕は占ってもらわなくていいや……。もしよく当たるんだったら普通に行列ができてるでしょ。看板もないし、よく見ると“ハナコの占い”って紙が貼られているだけ。って、あなたがハナコさんですかい！<br><br>『では、一人ずつ中の個室まで来てくださいな』<br><br>　婆さんが扉を開け、薄暗がりの中へと消えていく。<br>　いつの間にかミールも交じって順番決めじゃんけんが始まっている。って、服を着てください！！<br><br><br>「みなさん、お先に行ってきますね！」<br><br>　ラールさんが嬉々として部屋に入って行った。チャレンジャーだね。でも、泣きながら出てきたらどうしよう……今のうちに励ましの言葉を考えておこうか。<br><br><br>　10分後……。<br>　最高の笑顔で出てきたラールさん。頬を赤らめながら、僕の顔をチラチラと見てくる。変顔をしてみる。目が合った瞬間、両手で顔を覆い隠して「キャー」とか言ってるし。なんだこりゃ。<br><br>『次はワタシね。ラールはどっちのタイプにしたの？』<br><br>「Ａタイプよ。もう、最高の占いだったわ！」<br><br>　緊張した面持ちでミールが入っていく。一応、コートを着ているけど、裸にコートっていうのは……ちょっといかがわしい。<br><br>「待ちくたびれるわね。椅子があるとうれしいけど」<br><br>　道具屋と食堂の間に建てられた木造の、古臭い外壁に寄りかかりながら、ルーミィが愚痴る。僕とポーラは変顔勝負に興じている。暇だし。<br><br><br>　さらに10分後……。<br>　全身に歓喜のオーラをまといながらミールが現れた。無言で僕の右腕に抱きつく。天使のような笑顔が至近距離に迫る。これが妖精王の実力か……可愛すぎる！いったい、中で何が起きているんだ！？<br><br>「やっとあたしの番ね！行ってくるわ！」<br><br>　気合を入れてルーミィが入っていく。この人にあまり期待をさせすぎると、変な占いをした瞬間に婆さんの首が飛びそうだ。<br><br><br>　7分後……。<br>　真っ赤な顔をしたルーミィが出てきた。怒り？いや、とても機嫌がよさそうだ。大丈夫、婆さんは死んではいない。脚をもじもじさせているルーミィを見るのは実に新鮮だ。何故だか、無言の熱い眼差しに悪寒が走る。今晩にも襲われそうな予感がする。<br><br>「お兄様、行ってきますっ！！」<br><br>　スキップをしながらポーラが消えていく。この子の未来が明るいといいね。<br><br><br>　10分後……。<br>　過呼吸で、苦しそうに嗚咽をもらしながら出てきたポーラ。<br><br>「大丈夫！？あんな占い、信じちゃダメだよ！安心して、僕たちがいるから。ずっと守ってあげるから！！」<br><br>「ち、違うの、お兄様……ポーラは、嬉しすぎて泣いてるのっ！うぅ……」<br><br>　へ？<br>　両手で抱きついてくるポーラを、僕は優しく抱きしめてあげる。背中、頭をなでなでしてあげる。うん、これぞ優しい兄だ。でも、あんまりくっつきすぎると下半身が……。ルーミィたちはそんな僕たちを引き剥がそうと必死だ。<br><br>「さて、宿屋に……」<br>「ロトも占うの！！」<br><br>　僕の逃げ宣言はルーミィの言葉によって一刀両断にされた。くっ！ここまでか……。<br>　でも、何を占ってもらう？悩んだらやっぱり総合占い？いや、そういうのは浅く広くだからあまり役に立たない。そうだ！今晩、身の危険があるかどうかを詳しく占ってもらおう！<br><br>「分かったよ、行ってくるね」<br><br>　僕は渋々ドアノブを回し、薄暗い部屋に踏み込む。<br>　変な煙が部屋中を満たしている。壁には怪しげな仮面や絵が所狭しと飾られている。まさに、“不気味”の一言に尽きる。四畳半くらいのその部屋の奥には暖簾がぶら下がっている。ここに入るのかな。ちょっと怖い気がするけど、みんなが入ったんだから大丈夫なはず。勇気を出して踏み込む！<br>　たくさんの蝋燭に囲まれた狭い部屋、中央に置かれたテーブルには魔方陣が描かれている。そして、さっきの婆さん占い師が椅子に座っている。デジャヴった……いつかどこかで見たような光景だった。<br><br>『君が最後かい？』<br><br>　空いている椅子を指差し、着席を促しながら占い師は尋ねる。<br><br>「はい」<br><br>　怖い……僕は緊張で喉が詰まる。<br><br>『ＡとＢ、どっちにするかね？Ｃもあるけど、追加料金もらうよ』<br><br>「Ｃ、ですか？」<br><br>『そう。わたしが裸で占う特別プランさ』<br><br>　苦笑する。婆さん、僕の緊張をほぐしてくれたみたい。<br><br>「そういうのはいりません。Ｂで！それと、今晩、僕の身に危険があるのかどうかを詳しく占ってほしいです」<br><br>『そうかいそうかい、残念だねぇ。それと、ギャラリーがいるみたいだけど構いやしないかい？』<br><br>　ギャラリー？あっ！耳を澄ますと物音が聞こえる。ルーミィたちが盗み聞きしているっぽい！もしも僕が襲われる運命だとしたら、解決方法まで聞き出せばいいのさ。この占いで身の安全が証明されれば手を出せまい。ふっふっふ……。僕は静かに頷いた。<br><br>『良かろう、占おうじゃないか。少年の運命を！ディスティニー・ミラージュ！！』<br><br><br>　それは突然起きた。<br>　今までいたはずの部屋は消え去り、僕たちの目の前には、ランタンの明かりのみでかすかに映し出される世界が広がっていた。目を細めてよく見る。ベッドのある広い部屋、ここはどうやら宿屋みたいだ。みんな静かな寝息を立てている。その中には僕もいる。ルーミィとラールさんに囲まれて、へらへら笑いながら眠っている。でも、“今の僕たち”はそこには居なかった。意識、そう意識だけがそこにあった。スキルだ……これは未来視なのか！？<br><br>　ランタンの炎が揺らめく。<br>　部屋の中だ、風はないはず。もちろん窓も開いていない。<br><br>　人の影が見えた！！<br>　ポーラでもミールでもない。扉も窓も閉まっているのに！？<br><br>　影はゆっくりと僕たちのベッドに近づいてくる。<br>　男……濃い色のローブを着た魔導師風の男だ！<br>　右手でルーミィに触れ、男が何かを呟くと、ルーミィの身体から青白い光が抜け出して男の手の中に吸い込まれていった……。<br><br>　やめろっ！！<br>　僕は必死に叫んだ！<br>　しかし、声は出せなかった。一瞬だけ男が怪訝な表情を浮かべたが、僕の身体に右手で触れると、ルーミィと同じように銀色の光をその手に吸い込んでいく。男の両目が開かれ、歓喜の表情に変わる。<br><br>　男は周りを見渡すと、ポーラに近づいていく。<br>　僕は両手を広げてポーラを守るように立つ！しかし、それは意識のみ。物理的に男を防ぐことはかなわなかった……。ポーラの身体から引き出される二筋の金色の光を見て、僕は悟った。こいつはスキル、それもユニークスキルを抜き取っている！！<br><br>　スキルを抜かれた僕たちはどうなっている？相変わらず寝ている……いや、死んでいる！？半開きの目、口からこぼれ落ちる嘔吐物、弛緩した手足……たくさん見てきた死体の特徴だ。これは……気づかずに寝ているのではない、スキルを抜かれる前か後かは分からないが、既に殺されているんだ！<br><br>　襲われるって、こっちか！<br>　もしも、この占いが真実の未来を映し出したものだとしたら、僕たちは……死ぬ運命にある。でも、ルーミィたちが占ってもらったハッピーな結果はどうなる？矛盾していないか？僕たちが今晩死んでしまうのならば、幸せな運命が訪れる訳がない！何か解決策があるはずだ……。男がミールに近づいたとき、僕の意識は再び占い師の部屋へと戻された。<br><br><br>『強奪かい……君たち、どえらい奴に狙われているのう』<br><br>「助かる道はあるんですよね？教えてください！」<br><br>『別料金じゃ』<br><br>「払うわ！だからお姉様、助けてください！！」<br><br>　僕がケチ婆さんを罵りながら値下げ交渉する前に、ルーミィたちがしゃしゃり出てきた。暖簾の隙間から一部始終を見ていたな。盗み聞きを通り越して、盗み見されましたよ。<br><br>「待って！その宿屋に泊まらなければいいだけじゃん？別の宿屋か、馬車で寝ようよ！」<br><br>『無駄じゃよ。それでは何の解決にもならん。未来は柔軟にできているのじゃ。例えば……君が、道に犬の糞が落ちているのを知っているとしよう。回り道をすれば回避できると考えるじゃろ？無理じゃ！』<br><br>「糞が飛んでくるの？」<br><br>『アホか！回り道した先には別の糞が落ちている。単純な話じゃろ？回避するために必要な手順を踏まないと、空を飛ぼうが川を泳ごうが、糞を踏む運命は変えられぬ』<br><br>「ロト君、お願いしましょうよ」<br>『ロト様、この者は信用できます』<br>「お兄様……死なないで！」<br><br>「分かったよ、ハナコちゃん。その必要な手順とやらを教えてください。お願いします！」<br><br>　最後の抵抗。僕は、嫌味を込めて慇懃無礼にお願いする。悪気があるわけじゃないけど、ちょっと納得いかない部分もある。<br><br>『少年、ハナコは私の死んだ犬の名前じゃ……』<br><br>「そんな馬鹿な……」<br><br>『まぁ、良い。運命を変える方法は2つある。1つは、今ここで死ぬこと。もう1つは、運命に抗って戦うことじゃ』<br><br>「『2つ目を詳しく教えてください！！』」<br><br>『高いぞ？』<br><br>「いくらでも構いません！ここでロトを失うことを世界が許しません。あたしの命なんてどうでもいい、ロトが助かる方法を教えてください！！」<br><br>　ルーミィ……そこまでして僕のことを！<br>　いや、待て。僕が生きてさえいれば、ルーミィは1回だけ生き返らせることができるから追加料金の節約になる？ケチなルーミィが考えそうなことだ。<br><br>『おぉおおお！愛じゃ、これはまさしく純愛じゃ！！さすがの私も愛の力には勝てない』<br><br>　茶番はいいから早く教えてほしいよ……。<br><br>『相手はスキル強奪能力があるようじゃ。恐らく、他にも多くのスキルを持っているのう。あの様子じゃと、鍵が掛かった部屋に、窓か扉をすり抜けて入る透過スキル、浮遊スキル、所持スキルを鑑定するスキル、毒かウイルスで人を暗殺するスキル、気配を察知するスキル、逆に気配を消すスキル……他にもまだまだありそうじゃのう』<br><br>「『……』」<br><br>『怖気づいたか？だが、勝つための方法は1つだけある。それは……』<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　半信半疑だけど、散々に話し合ってシミュレーションを重ねた。お金も重ねたけど……。<br>　僕たちは宿屋のベッドの上に座り、不安と緊張で固まっている。確かに占いで見た宿屋の一室だ。あの恐怖は、今でも鮮明に呼び起こすことができる。<br><br>「いいわね、みんながしっかりと決められた役割を果たせば大丈夫だから。臨機応変に対処してね！」<br><br>「ちょっと矛盾している気がするけど？」<br><br>「ロトって、いちいち煩いわね！」<br><br>「2人ともケンカしている場合じゃないでしょ！相手はもう既にこちらを見張っているかもしれないんだから！」<br><br>「「ごめん……」」<br><br>　確かにそうだ。“未来の記憶”では明らかに先手を打たれていた。僕は、にやにやしながら眠っていた自分を思い出す。気づくことさえできずに殺されていたのかもしれないと考えると、悪寒が止まらない。<br><br>『では、予定通りに……』<br><br>　ミールは静かに呟くと、紐の姿になりベッドの下に潜り込む。この可愛い妖精さんは、蝶と紐の2つの変身スキルしか使えないらしい。妖精王なのにと突っ込みたくなるけど、仕方がない。でも、動物的な、気配を察知する能力は高い。<br>　ルーミィとラールさんは、僕と同じベッドで布団を被る。僕も、にやにやせずに意識を集中する。時間との勝負だ。<br>　ポーラは、隣のベッドに潜り込み、ミールの代わりに枕を布団の中に入れている。<br>　そして、ランタンの炎を弱め、みんなが目を閉じる。息を殺して待つ。<br><br><br>　2時間後、ベッドの下がコツコツと叩かれる。<br>　ミールからの合図だ！奴が来た！！<br>　僕は魔力を集中し、浮遊魔法を発動する。毒であれ、ウイルスであれ、部屋の中の空気を媒介するはず。部屋の上部、８割ほどの空気に浮遊魔法をかける。空気を圧縮して天井付近に押しやる。呼吸するための最小限の空気のみ、床から確保して。<br><br>　男が窓を透過して入ってくるのが薄目に見えた。<br>　集中だ、僕にはこれしかできないんだから、根性で役割を果たす！<br><br>　男は窓際にいるルーミィに右手を伸ばし、何かを呟く。<br><br>『あ！？』<br><br>　男の右手はルーミィに触れることができない。<br>　ポーラの魔法だ。時間停止と空間転移を発動して、男がルーミィに触れる前に20ｃｍほど身体をずらしている。<br><br>　何度か同じ動作を繰り返した後、はっきりと違和感を抱いたのか、男はターゲットを僕に変更する。<br>　僕に伸びる右手……それが僕に触れる寸前、剣戟が一閃して布団ごと切り裂く！<br><br>『なん……だと！？』<br><br>　男は後方に跳ねて紙一重でよけた！<br>　しかし、僕たちには想定済みだった。<br><br>　男は着地した瞬間、足を滑らせて転倒する。<br>　ラールさんが寸前に水魔法で床を湿らせていたのだ。<br><br>　後頭部から床に叩きつけられて気絶状態の男を、ポーラが空間転移魔法の連続使用で吹き飛ばす！<br>　僕は、割られた窓から部屋中の空気を外に送り出す。数秒後、新鮮な外気が部屋に入るや否や、僕たちはベッドから起き出して窓辺に集まった。<br><br>　宿屋の庭には、炎の檻に収監された男が転がっていた……。<br>　状況的に浮遊魔法は使えなかったはず。２階の窓から落ちたんだ、打ち所が悪ければ死んでいるかもしれない。不死鳥フェニックスが作る業火の檻……中の様子は窺えないが、無傷ということはないだろう。<br><br>　３０分後、ラールさんが呼んできた衛兵たちに身柄を確保され、黒焦げの男は連れ去られていった……。<br><br><br>　油断することなく待機した僕たちは、日の出を迎えて叫んだ。<br><br>「『勝った！！』」<br><br>　命の危機の中、みんなで勝ち取った勝利。<br>　運命に抗うことで、新しい運命を導いた瞬間だった。<br>　共に健闘を称えあって抱き合う。みんなの目には涙が滴っていた。<br><br><br>　犯人は宿屋の主人だった。宿屋に泊まった冒険者や商人からスキルを抜き取り、死体をスキルで消していたらしいことが分かった。<br>　勝利の報告をしに占い師の元に向かった僕たちは、しかし、目を疑った。<br>　道具屋と食堂の隙間にあったはずの“ハナコの占い”という店は、そこになかったからだ。道具屋と食堂にはぎりぎり人が通れるほどの隙間しかなかった。これはどういうことだろうか……。<br><br>「あのお婆さん、天使だったのかも」<br><br>「いや、どう見ても天使じゃないでしょ。幽霊か悪魔でしょ」<br><br>　占いで残されたもの……それは、ルーミィ、ラールさん、ミールとポーラが見た幸せな未来。それを守り抜いていくことが僕の使命なのかもしれない。感慨に耽っていると、右手の甲にある紋章が温かい光を放った。フェニックスさん、ありがとう……僕は感謝を込めて口づけをする。そのとき初めて気づいた。炎の紋章の下には、星の紋章が描かれていた。<br><br>「さぁ、出発しますよ！！」<br><br>　ラールさんの元気な声が、清々しい朝の空気の中、心地よく響き渡った。
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12207076184.html</link>
<pubDate>Thu, 06 Oct 2016 18:14:19 +0900</pubDate>
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<title>20.虹色の救い</title>
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<![CDATA[ 　ねずみ色の天井からは時々明るい光の筋が地上を照らしている。その光も、西から流れてくる仰向けの羊の群れのような雲のせいでいかにもやる気のない様子。でも、数刻もすれば綺麗な虹が架かるかもしれない。多くの仲間に見送られ、希望を胸に抱きながら、僕たちの旅は再開した。<br><br>　今回の王都行きは良いタイミングだったのかもしれない。<br>　世界を巡る決意をしておきながら、ティルスに長居をしすぎた気がするのだ。もちろん、エンジェルウイングの拠点を作ることの意義は大きい。蘇生やヴァンパイアとの戦いから始まった組織だけど、今後は違う。かつてのように、この世界から奴隷制度や貧困をなくすための組織に生まれ変わるんだ。<br>　僕たち未熟なお子様ではなく、ちゃんとした大人たちに任せよう。副リーダーのアーシアさんや、護衛班のランドルフさん、管理班のフローラさんはとっても信頼できる。人族でも、聖騎士アスランさんだって、エロを度外視すれば頼れる存在だと思う。それに、ギルドのサラさんやマスターのリザさんだって協力してくれるし。崇高すぎる理想かもしれないけど、設立に係わることができただけでも凄いことだと思う。<br>　だけど、やっぱり寂しいかな……。<br><br><br>　僕が物思いにふけっている間も、馬車は黙々と街道を進んでいく。<br>　西の空はうっすらと明るさを増していき、それに比例して往来も賑やかさを増していった。<br><br>「お兄様どうしたの？」<br><br>「ごめん、ちょっと考えごとしてた」<br><br>　僕の左腕にはずっとエルフのポーラがくっついている。いつもならヤキモチ焼きのルーミィあたりが引き剥がしにくるんだけど、ポーラの過去を聞かされた彼女はしばらく我慢することにしたみたい。眉間に皺を寄せつつも、僕の正面に座って彼女を眺めている。妖精のミールは青い蝶の姿をして僕の膝の上で羽を休めている。人の姿になると馬に負担がかかるから、道中はなるべく蝶の姿でいるらしい。しかし、妖精王のお仕事はしなくてもいいのだろうか。弟さんに任せているのかな。そして、ラールさんは今回も馬の手綱係をしてくれている。でも、前方からはときどき欠伸が聞こえてくる。<br>　僕を含めて5人の、長閑な旅路だ。<br><br><br>「ねぇ、ポーラちゃん。本当にいいの？」<br><br>　ルーミィが言いたいことは、ポーラを辛い目にあわせた奴らを捕まえて罪を償わせる場にいられなくても良いのかということだろう。過去を忘れようとするよりも乗り越えさせたいらしい。実にルーミィらしい漢の発想。苦渋の選択だとは思うけどね。<br><br>「ルミ姉様、これでいいんです。お兄様のお顔を初めて見たときに、もう未来だけを見て生きようって決めましたから！」<br><br>　肩にかかる金髪を振り払い、くりくりな青い目の愛くるしい笑顔で力強く宣言する。見かけによらず強い子だと思う。たぶん、僕なんかよりずっと強いんだと思う。守ってあげたいなんて言いにくいけど、一応は兄という立場らしいからね。びしっと言わないと。<br><br>「ポーラ、僕たちにたくさん甘えていいんだからね？」<br><br>「うんっ！お兄様、大好きっ！！」<br><br>「ロト～！そうやって甘やかさない！血の繋がりがないんだから、勘違いしちゃうでしょ！！」<br><br>　無い胸を僕に押し付けてくるポーラに、ルーミィのデコピンが炸裂する。僕に助けを求めるように、逆にポーラの締め付けが強くなる。舌をぺろっと出してルーミィを挑発するポーラ。ポーラの空いた脇をこちょこちょ攻撃するルーミィ。馬車の中に明るい笑い声が響く。うん、これがいつもどおりの光景だ。<br><br>　窓からちらっと見えた空には、虹の橋が架かっていた。<br>　そのとき、馬車を繰るラールさんと目が合う。ラールさんは、口に手を当てて「ナイショだよ」という仕草をしている。この綺麗な虹を僕たちだけの秘密にしたいらしい。僕は笑顔でうなずいておく。わいわい騒いでいるルーミィとポーラには悪いけど、たまにはこのくらいの背徳感があってもいいよね。<br><br><br>　3時間ほど経った頃、ラールさんが前方で停車している馬車を見つけた。<br><br>「なんだか深刻そうな感じですよ」<br><br>　ラールさんの言うとおり、馬車からは泣き叫ぶ女性と、右往左往する男性たちが見える。<br>　僕たちの馬車が近づくにつれ、状況が次第に明らかになっていく……人が、亡くなったみたいだ。<br>　さすがにルーミィたちも静かにして様子を見ている。ミールは相変わらず蝶の姿だけど、僕の肩に乗って心配そうに羽を開いている。<br><br>「どうかなさいましたか？」<br><br>　ラールさんが呆然と立ち尽くす男性に近づき、声をかける。<br>　30代、護衛の冒険者だろうか。白い甲冑に青い髪が映える。その逞しい姿とは裏腹に、表情はとても弱々しい。<br><br>『旅の方、ですか。道を塞いでしまって申し訳ない。この方のお子さんが急逝しましてね……』<br><br>　男性が視線を向ける先には、小さな布を抱きしめながら泣き崩れている女性がいる。<br>　この人の……赤ちゃんが死んじゃった？<br><br>「ご病気、でしょうか？」<br><br>　暗い表情のままルーミィが馬車から降り、会話に参加していた。<br>　ポーラの腕も気のせいか締め付けが弱々しい。目にうっすらと涙が見える。<br><br>『どうでしょう。医者じゃないと何とも言えませんが、咳き込んでいたところを見ると、ミルクが喉に詰まったのかもしれません』<br><br>　病気じゃないのならば……。<br>　同じことを考えていたのだろう、ラールさんとルーミィが僕を見上げてくる。<br>　ただし、今日は既に蘇生魔法を使用してしまっている。隣にいるポーラに。もしもこの子に蘇生魔法を使うとなると、日付が変わるまで待つしかないけど。当然、優秀な秘書様はそのことも承知みたいだ。その上で、僕に向かって頷いてくる。悪い人たちじゃないことを確認した様子……ならば、もちろん僕も異議なし。力強く頷き返す。<br><br>「私は、クラン“エンジェルウイング”のルーミィと申します。多少条件がありますが、その子を蘇生することが可能かもしれません」<br><br>　嘆き悲しむ女性にも聞こえるように、ルーミィが慎重に語りかける。<br>　女性は虚ろな目でルーミィを見ている。この少女は何を言っているんだろうという顔だった。<br><br>「世界で唯一の蘇生魔法使いがいます」<br><br>　赤子を抱く女性だけでなく、馬車にいた男性たちの表情が驚愕に変わる。<br>　それでもまだ、半信半疑の域を出ないのだろう。嘘をつくなという憤慨の表情と、藁にもすがりたいという期待の表情が入り乱れた複雑な空気が場を支配する。<br><br>「嘘ではありませんっ！私も7日前に命を失った身ですが、今朝、生き返りました」<br><br>　ポーラが僕から離れて馬車を降りていく。<br>　僕たちに嘘つきを見るような目を向けた人たちに対する怒りを湛えつつも、慈愛に満ちた優しい瞳が真実であることを語っている。<br>　その美しいエルフの少女を見て、人々の心は急速に期待へと傾いていく。<br><br>『何でも致します！どうか、私の娘を生き返して下さい！！』<br><br>　女性の悲痛の叫びが僕の心を強く抉る。<br>　子を失う親の気持ちは僕には想像することしかできない。<br>　でも、その深い悲しみは痛いほど伝わる。<br>　もうニ度と抱くことができない。声を聞くことができない。笑顔を見ることができない……親にとって、それほど辛いことはないだろう。たとえその子がまだ数日しか生きていなかったとしても、それは親の愛の量とは関係がない。小さいけど1つの大切な命……そこには、これから注がれる多くの愛が既に海のように広がって見えていた。<br><br>「分かりました。全力を尽くしましょう。ただし、先天性の病気が原因で亡くなった場合は、蘇生しても長くは生きられません。また、蘇生は明日になります。それでもよろしければ……。あと、報酬についてはそちらで決めていただいて結構です」<br><br>『ぜひお願いします！報酬はお金でしょうか。いくらお支払いすれば……』<br><br>「その子の命の価値は私たちには決められません。いくらでも構いませんし、物でも構いません。少ないからといって依頼をお断りすることはありませんからご安心ください」<br><br>　女性は再び泣き崩れてしまった。<br>　泣きながら全ての所持品を差し出してきた。所持金の全て、生活必需品、父の形見と思われる装飾品……。<br>　さすがに僕たちは固まる。<br>　失礼ながら、それほど裕福な母娘には見えない。冒険者を雇っての旅も、深い事情があってのことなのだろう。なけなしの全てを支払ってしまえば、たとえ生き返らせても生きていくことすらできないと思われた。<br><br>「確かに受け取りました。こ、この先の村に宿泊し、そ、早朝に蘇生をしましょう」<br><br>　ルーミィは震える声を喉から絞り出す。<br>　母親の子に対する愛情を噛みしめながら、自分の家族を思い出しているのかもしれない。実は、僕もそうだったから……。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　僕たちは夕暮れと共に街道沿いの村を訪れた。<br>　昼頃までの快活な雰囲気は一変し、みんなが無口になっていた。<br>　それぞれに自分の家族を思い出していたのだろう。僕たちが子どもだからというのもあるのかもしれないけど、たとえ大人になっても家族を思いやる気持ちは変わらない、いや、子どもができたらいっそう増すのではないかと思われた。<br><br><br>　リリスという女性と、その娘セシリアは僕たちと同じ宿に泊まることになった。<br>　僕たちはというと、4人で1部屋を借りている。本当はミールを入れると5人だけど、そうすると2部屋借りないといけなくなって無駄な争いが起きてしまうから……。<br><br>　簡単に夕食を済ませ、お風呂に入る。狭いお風呂のお陰で、1人ずつ入ることができた。少し残念だったけど、安心したよ。<br>　2つあるベッド上では激しい争奪戦が繰り広げられている。結局話し合いでは合意に至らず、じゃんけんで決めることになった。<br><br>　僕の左側にはちゃんと服を着たミールが、右側にはポーラがいる。もう1つのベッドにはルーミィとラールさんだ。なんだかんだ、新鮮な夜。ポーラ以外とお休みのチューをして眠りにつく。ポーラの顔が赤いけど、“兄と妹はチュー禁止”というルールが今日誕生した。<br><br><br>　その夜、僕は不思議な夢を見た。<br><br>　僕は走り続けていた。ひたすら続く上り坂。脚に力が入らず、何度も転んだ。それでもすぐに起き上がって走り続けた。夢の中だからか、不思議と疲労感はなかった。なぜ走っているのだろうとは考えなかった。マラソン大会をしているわけではなかった。何かに追われているわけでもなかった。どんな理由があるのか分からないけど、僕はひたすら一人で走り続けた。<br><br>　やがて道は下りになる。脚の運びさえ気をつければ転ばずに走ることができた。スピードにのって順調に流れていく景色。そして、建物が見えてきた。白くて大きな屋敷だ。角度的に斜めから見下ろすかたちだったためか、全容が見える。一見すると教会のような尖塔を持つ造りだけど、窓が一つも見当たらず、見方によっては牢獄のようにも見える。<br><br>　僕は、あたかもそこが目的地であるかのように、迷うことなく門扉に進んで行く。扉を開けて中に入った僕を待っている人がいた。白い髪の青年……頭には金色の角が生えている。鬼人族！？一瞬、僕は緊張で固まる。<br><br>『よく来てくれたね』<br><br>　彼の優しい瞳にほっとする。緊張なんてする必要はなかったんだ。<br>　建物の中は、窓がない割には明るかった。<br>　彼に導かれ、僕は殺風景な廊下を抜けて奥へと向かう。途中、何かを話しかけられたが僕の耳には届かなかった。<br>　廊下の突き当たりにその部屋はあった。彼は、頑丈な鉄の扉を開いて中に進む。僕も一人になるのが不安でついていく。<br><br>　祭壇……。<br>　燃え上がる多数のろうそくは、壁に不気味な影を刻み付ける。テーブルの上には何かの生き物の頭蓋骨が並べられている。その中央には緑色に光を放つ魔方陣が描かれている。僕は、心臓を握られたかのように苦しくなる。一時感じた安心は、今では恐怖に摩り替わっていて、激しく心の警笛を鳴らしている。しかし、身体が思うように動かない。彼の手が僕の腕を掴もうとした瞬間、激しい炎が沸き起こる。<br><br>『妾を見くびるなよ』<br><br>　炎は赤い瞳の少女の姿となり、手を振り払うたびに部屋中を焼き尽くす業火を生む。<br><br>　青年は……業火の中でも笑っていた。笑いながら何かを話しているように見えた。<br>　そして、僕も炎に包まれ、恐怖のうちに目が覚めた。<br><br><br>　嫌な夢だった。額から汗が滴り落ちる。<br>　あの炎はフェニックスかもしれない。僕を守ってくれたのだろうか。いや、明らかに夢の中の出来事だ。忘れよう。<br><br>　まだ窓の外は薄暗かった。<br>　そう言えば、昨日も早起きしたなぁ。まだポーラもミールも寝ている。みんなを起こさないよう用心しつつ、僕はゆっくりと身体を起こし、ベッドから出ようとする。ポーラの手が僕の上着の裾を掴んで離そうとしない……。悩んだ挙句、もう少し眠ることにした。ポーラの髪をなでてあげる。可愛い寝顔に癒されながら、僕は再び目を閉じた。今度は良い夢を見られますように。<br><br><br>「ロト！朝だよ、早く起きなさい！」<br><br>　ルーミィの怒鳴り声で目が覚めた。記憶は曖昧だけど、ちょっとエッチな夢を見ていた気がする。<br>　ポーラと、いつの間にか服を脱いでいるミールに両側から抱きつかれて身動きが取れない……。<br><br>「あ、おはよう……動けないんだけど」<br><br>　枕が軽快に飛んでいく……。<br><br><br>　数分後、身支度を整えた僕たちは、リリスさんの部屋をノックした。<br><br>『おはようございます。どうか……よろしくお願いします』<br><br>「おはようございます。ロトと申します。頑張ります」<br><br><br>　挨拶もほどほどに、僕はベッドに横たわる小さな赤ちゃんのそばに寄る。<br>　待たせてしまってごめんね。今から生き返してあげるからね。<br><br>　小さな身体。僕は左手をそっと添える。冷え切った身体は、既に青白く変色して固くなっている。<br>　生後半年も経っていないのではないだろうか。それなのに、苦しんで死んでしまったんだよね……可哀想に。<br><br>　僕は、祈りと共に僕の中にある力を呼び覚ましていく。<br>　温かく渦巻く聖なる力が、僕の左手から解き放たれていく。<br><br>「聖なる光よ。この穢れなき小さな魂に、再び命の炎を灯したまえ。レイジング・スピリット！！」<br><br>　部屋を満たす銀色の光は、宿屋全体を包み込む。<br>　他の宿泊客たちも、その光に奇跡の力を感じたのだろう。誰からともなくこの部屋に集まってきた。<br><br>　やがて光は赤ちゃん、セシリアを包み込むように収束していく……。<br>　そして、僕の左手には彼女の安らかなる鼓動が伝わった。大丈夫、すぐに命の炎を閉じる状況ではない。この子は無事に生きるだろう。僕は、後ろで祈るように見つめるリリスさんに笑いかける。<br><br>「ご安心ください。お嬢さん、大丈夫そうです」<br><br>　静かな寝息を立てながら寝ているセシリアを、溢れる涙を拭おうともせず、母リリスが抱きかかえる。<br>　部屋に集まった全員が泣いていた……。<br><br>　ルーミィが涙と鼻水を流しながら近づいてきた。<br><br>「リリスさん。これは私たちからセシリアちゃんへの贈り物です。絶対に受け取ってくださいね！」<br><br>『えっ！？でも……これは……』<br><br>「この子が幸せに生きてくれることが、私たちにとっての最高の報酬ですよ。そのためには、これは必要でしょ？」<br><br>　ルーミィが精一杯の笑顔で笑いかける。そして、報酬としてもらったはずの全ての物をリリスさんに返していた。ルーミィは僕の方を見ながら、ばつが悪そうに口を動かす。“ごめん”と言っているみたいだった。僕も、同じように口の動きだけで伝える。“見直したよ”と。<br>　初めて当事者としてではなく蘇生魔法に立ち会ったポーラは、さっきから僕に抱きついて号泣してやまない。命の重み……それを感じてくれたら嬉しい。もう二度と自分で自分の命を絶たないように。<br><br><br>　その後、護衛の冒険者たちに別れを言って、僕たちは馬車に乗り込んだ。<br>　いまだに宿屋では奇跡を分かち合うように泣き続ける人たちがいる。<br><br>　ラールさんが馬車を走らせたとき、後ろからリリスさんの叫ぶ声が聞こえてきた。<br><br>『エンジェルウイングのみなさん、ありがとう！この子、セシリアも、いつか必ずエンジェルウイングに入ります！きっと恩返しいたします！本当にありがとう！！』<br><br>　正直、その一言は凄く嬉しかった。<br>　一人ひとりがその優しさをつないでいくことが、きっと世界を平和に変えていくのだろう。今、しっかりと僕たちがやってきたことの意味を実感した気がした。心の中に虹が架かった気がした。<br>　まだたくさんの人が僕たちを待っているはず。王都へ、そして世界の旅を再開しよう。
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12206407233.html</link>
<pubDate>Tue, 04 Oct 2016 17:19:24 +0900</pubDate>
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<title>19.義妹の扱い</title>
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<![CDATA[ 「ん……？」<br><br>　朝、何時だろう。<br>　下半身にもぞもぞっと違和感を感じて目が覚めた。誰かが僕の上に乗っかっている。<br><br><br>「アネットさん……おはよう。朝から何をしてるんですか……」<br><br>『お？変態さんおはよう！なんかね、突起物が気になって。こうやって倒してもさぁ、すぐに起き上がってくるのよ。不思議だよね』<br><br>「やめいっ！触るなっ！」<br><br>『大丈夫よ。まだ誰も起きてない。二人だけだから』<br><br>　確かに。左のルーミィ、右のラールさんからは寝息が聞こえる。床には裸のミールが丸まって寝ている。でも、全然大丈夫じゃない！いつか襲われると思ってはいたけど、こんなに堂々と襲われるとは思わなかったよ。<br><br>「あのですね……今日は朝からエルフの子の蘇生をして、午前中には王都に向かって出発しないといけないんだから、遊んでいる場合じゃないんですよ！」<br><br>『そうなんだけどね。私は王都に一緒に行けないんだもん。だから、少しでも一緒に居たいの』<br><br>　僕はアネットさんの拘束から逃れ、布団の上に胡坐《あぐら》をかいて向き合う。<br><br>「一緒に行けない？」<br><br>『そう。アー姉が護衛の依頼を受けちゃってさ。私が行かされるってわけ』<br><br>「そっか」<br><br>　僕たちがティルスを出たらクランの仕事は半減しちゃうもんね。依頼をなるべく受けるのは仕方ないか。でも、アネットさんが一緒に来てくれないのは少し寂しい、というか不安かな。<br><br>『大丈夫！依頼が終わったら合流するから、私がいなくても泣かないでね！』<br><br>「あたし嬉し泣きしちゃうかも！」<br><br>『ルーミィ、起きて早々ひどいこと言って！森の言葉では“朝の挨拶はその日の運命を左右する”ってのがあってね。朝から意地悪すると一日中良いことないわよ！』<br><br>「あはっ！冗談よ！ごめんなさい」<br><br>　みんな起きちゃったみたい。まだ窓の外は暗いけど、準備をしておこうかな。<br><br>「ところでアネットさん。例のエルフの子、どんな話でした？」<br><br>『ん？ちょっと暗い話だけど、今聞く？』<br><br>　ラールさんが飲み物を準備してくれて、僕たちはベッドの上で車座になって座る。ミールもちゃんと服を着ている。クーデリアさん以外のメンバーが揃っている。<br><br><br>『まず、エルフはね、ダークエルフと同じく絶滅危惧種なのは知ってるね？東の森にしかいないという噂だし。そのポーラって10歳のエルフの子なんだけど……小さいとき、親が魔物に襲われたところを旅人に助けられたみたい。その旅人がひどい奴で、面倒が見切れないからってティルスの孤児院に預けたんだって。親だって慕っている子を捨てるかな。最低だよね』<br><br>「事情があったんだろうけど、親に捨てられたってトラウマが残っちゃうよね」<br><br>『でもね、その孤児院がすごく評判が良くて、7歳くらいまでは幸せに暮らしたらしいよ。はぁ～。ここからは憂鬱な話になるわ。聞きたくなければ聞かなくて良いからね』<br><br>「うん……」<br><br>『孤児院の院長さんが亡くなったのが3年前。後任が最悪の男だった。半年かからずに孤児院はもぬけの殻になった。建物も土地も売却、その後とんずら。そう……孤児たちを全員、奴隷商に売り払ったの』<br><br>「奴隷制度は……」<br><br>『無くならないよ。奴隷を欲しがる人がいる限り、無くならないよ！ずる賢い奴ほど、裏で、闇でばれないようにやるんだよ。エルフはダークエルフの10倍も高く売れるんだ。肌の色なんてただのメラニン色素だろ。人もエルフも最初は黒かったんだ。紫外線を受ける環境によって肌の色が薄まっていっただけじゃないか。それなのに、ダークエルフは魔側、エルフは神側なんて偏見も生まれて。血液型だってそうさ。抗原の違いだけなのに、性格占いまで始める愚者がいる。そんなの単なるバーナム効果だよ』<br><br>「えっと……エルフへの嫉妬はいいから、話の続きを……」<br><br>『え？あぁ、そうだね……ごめん。ポーラを買い取ったのは、裕福な商人だった。そこでの3年間は……私の口からは言えない。想像してくれ。奴隷には、あらゆる行いが許されるんだ。みんなが想像した内容よりもっともっとひどいことが起きた。7歳の子が……3年間も、味方が誰もいない場所で本当によく耐えたよ。父に会いたいって毎日泣いていたらしい。父はいつか兄が迎に来てくれるから頑張りなさいって言ってたらしいよ。希望があったから頑張れたと思うけど、逆に希望があったがために、一日一日が長くて重くて苦しかったのかもしれない。私は亡骸を見せてもらったけど、両手両足の爪は剥がされて拷問の痕が無残だった……。絶望して舌を噛み切ったって聞いた。私はね、その時に強く思ったよ。奴隷商も、商人も、父も兄も、見つけ出して殺してやりたいってね！』<br><br>　１％くらいの人が良心の欠如“サイコパス”かもしれないって聞いたことがある。これほどまでに醜い人間が何万人もいるんだ。僕たちには何ができるんだろう……。<br><br>「絶対に許せないわ！エンジェルウイングの全てを懸けて戦う！」<br><br>「そうすべきです！」<br><br>「クランのみんなには新しい任務をお願いしなきゃね！」<br><br>　もちろん、僕も賛成だ。ミールも頷いている。でも、僕にできることは罪のない尊い命を取り戻すことくらいだ。孤児院にエルフを預けた旅人……探してみるか。<br><br>「よし、みんなやる気が出たようだね。用意して向かおう！」<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　とうに日は昇っているはずなのに、空を厚く覆う雲のせいで辺りはぼんやりと薄暗い。雨が降り出しそうなほどでもないけど、風が強くて旅立ちには良いとはいえない朝。<br>　物憂げなアネットさんに案内されて、僕とルーミィ、ラールさん、ミールはギルドの一室に来ている。滅多に足を運ばないギルドの地下室。そこで、耳の長い細身の男性が待っていた。<br><br><br>『君がロト君？私はエルフを守る会の会長をしているエリクという者です。本日はよろしくお願いします』<br><br>「ロトです。遅くなってしまってすみませんでした。えっと……あなたもエルフなんでしょうか？」<br><br>『私はハーフエルフですよ。この、ポーラさんは純粋なエルフです。エルフは人と精霊の架け橋です。何とか命を救ってあげてください！』<br><br>「もちろんです、エリクさん。あたしは秘書のルーミィと申します。先に報酬の件を……」<br><br>　さすがとしか言えないよ、ルーミィさん。そっちはお任せです。<br><br>『これです。とある方から頂いたものです』<br><br>　エリクさんが、皮袋の中から大切そうに1枚の羽を取り出す。<br><br>『天使の羽です』<br><br>「えっ！？」<br><br>『合成や加工素材にも使えますが、持っているだけで幸運をもたらすと言われています』<br><br>『これは……リンネ様と一緒に居たアユナ様の羽ですね。確かに本物ですね』<br><br>　ミールのどや顔鑑定が入った。<br>　やばい、ルーミィの目が輝いてる！<br>　まぁ、エンジェルウイングの名前の由来でもあるし、お守りとしていただきましょうか。<br><br>「貴重なアイテムをありがとうございます！ロト、しっかりやるのよ！」<br><br>「はい、はい」<br><br><br>　白いカーテンを開ける。<br>　ベッドには、白い布服を着たか細い少女が、祈るように手を組んで寝ている。<br>　アネットさんに聞いていたとおりだった……爪が剥がされ、目と口から流れ出た血が、愛らしい顔に乾いてこびりついていた。死後一週間くらい経っていると思うけど、地下の環境のためか、腐敗は進んでいない。<br><br>「ルーミィ……」<br><br>　必要はないけど、脱がせてほしくて声をかけてみる。<br>　ルーミィとラールさんが、泣きながら組まれた手を解き、白い服を脱がせていく。<br><br>　二人の息を飲む音が聞こえた。<br>　身体に残された拷問の痕……僕は、余計なことをしちゃったね。二人を下がらせる。アネットさんもミールも、手を組んでじっと見つめている。目から絶え間なく流れる涙を拭こうともせず、じっと……。<br><br><br>　細い。10歳とは思えないほど。白くて綺麗な肌に残る傷跡、火傷、痣……。ひどい、ひどすぎる……。<br><br>　僕は左手を、優しく彼女の左胸に乗せる。色気も感じられない胸だけど、綺麗なエルフの身体、緊張してしまうのは仕方ないよね。<br><br>　静かに目を閉じ、自分の中に眠る力を呼び覚ましていく。心臓あたりで渦巻く力を、ゆっくりとかき混ぜて増幅していく。そして、左手から……解放する！<br><br>　眩い銀色の光が溢れてくる。<br><br>　部屋を満たしていく。<br><br>　心地よい、温かい光の中で、僕は祈る。<br>　この子の命を救いたい。苦しみを和らげたい。この子が会いたがっていた父、そして兄に会わせてあげたいと、強く願う。<br><br>「安寧の光よ、ポーラの苦しみを取り除き、彼女の穢れなき魂に今一度生きる希望を与えたまえ、レイジング・スピリット！！」<br><br><br>　光は一際《ひときわ》輝きを増し、少女の傷跡を癒すように包み込んでいく。これが、慈愛の光……命の輝き。<br><br>　やがて、僕の左手には心臓の鼓動が伝わる。<br>　温かい、力強い鼓動。<br>　小さな胸が、呼吸で上下するのを感じる。<br><br>　目が覚める前に、そっと手を離しておく。<br>　ルーミィに、目で着替えを催促する。<br>　紳士な自分に少し酔う。<br><br><br>　エルフの少女《ポーラ》は、ルーミィ用の白いワンピースに着替えさせられた。さすがに今まで着ていた服は臭うだろうからね。身体を動かされても、まだ寝息をたてて眠り続けている。<br><br>「ロト……目が覚めないけど、大丈夫なの？」<br><br>　今までこんなことはなかったからね、ルーミィが心配して聞いてきた。<br><br>「うん。寝ているだけだと思う。夢を見ているのかな」<br><br>　可愛い！<br>　楽しい夢を見ているようで、にっこり微笑んでいる。<br>　僕たちも、ポーラの寝顔を見ながら微笑んだ。エリクさんも安心したのか、泣きながら笑っている。<br><br>「きっと大丈夫だ。彼女の魂は辛かった日々を乗り越えたんだ。僕たちも笑顔で迎えてあげよう、彼女の新たな命を！」<br><br>『そうだよね。今日は胸を揉まなかったし、変態さんも今日は頑張ったよね』<br><br>「心臓マッサージは必要なかったからね……」<br><br>　アネットさん、目が怖い……。<br>　あっ、目を覚ました！？<br><br><br>「うっ……」<br><br>「ポーラちゃん、こんにちは。もう大丈夫だから安心してね。僕が、ロトが君を助けに来たよ。もう辛いことなんて何もないんだから、安心してね！」<br><br>「ロト……兄様……本当に、ロト兄様なの！？」<br><br>「『えっ！？』」<br><br>「お父様が言ってました。もう少し頑張れば、ロト……ロト兄様が助けに来るからって！なのに私はダメな妹です……耐えられずに逃げてしまいました……。お兄様、お許しください！ダメな妹をお許しください！！」<br><br>「ちょっ、ちょっと待って！もしかして、君を助けた旅人って、もしかして、僕の父さんってこと？」<br><br><br>　その後、ポーラから詳細を聞き、この子を孤児院に置き去りにしたクソな旅人が僕の父さんだったことが判明した。でも、ラールさんが父さんを庇うんだよね。危険な冒険に小さな子を連れて行けないから信頼できる孤児院に預けるのは仕方がないって。確かにそうなんだけど、僕がポーラを迎えに来るなんて聞いてないし、自分勝手すぎない！？<br><br>「お兄様～！！」<br><br>「えっ、うわっ！？」<br><br>　この子、すんごいベッタベタにくっ付いてくるんですけど。可愛いからいいけど、血のつながりなんてないよね？女子の視線が痛すぎます……。<br><br><br>『ロト君、本当にありがとう！それに、この子が探していたのが奇しくも君だったなんて！これを運命と言わずして何と言いましょう！君にこの子をお任せしてもよろしいでしょうか？』<br><br>「え、あ……はい。責任を持って……」<br><br>「うわぁ～い！お兄様、ありがとう！大好きっ！！」<br><br>　いや、責任を持って父に押し付けますって言おうとしたんですけどね……どうすんのさ。ルーミィもラールさんもアネットさんも、目を合わせてくれないし。ミールだけは楽しそうだ。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>「……で、あなたが可愛い妹さんのポーラちゃん？えっとね…私はクー、クーデリアよ。ロト君の彼女なの。お姉様って呼んでいいからね？」<br><br>「はいっ！綺麗なお姉様っ！」<br><br>「綺麗って……ありがと。でもね、ロト君の隣はクーの、お姉様の場所だから、ちょっとは遠慮してね？」<br><br>　クラン本部に戻って早々、居合わせたクーデリアさんに激しく抱きつかれた。ポーラはポーラで、負けずに僕の腰にしがみついて離れない。何年間も会いたがっていた兄に会えた喜びか、反動か。もしかしたら、手を離した途端、こみ上げる寂しさで泣きじゃくるかもしれない……。そんな空気を読んでか、ルーミィたちは参戦せずに見守る方針みたいだ。<br><br>　朝食を食べながら、自己紹介と僕たちの旅の目的を聞いた後、ポーラは決意を青い瞳に込めて語りだした。<br><br>「私も王都へ行きますっ！私、少しなら時空間魔法が使えます。時間を止めたり……と言っても1秒くらいですけど、瞬間移動したり……と言っても1mくらいですけど……できますっ！絶対にお兄様とお姉様方のお役に立てるようにしますから、連れて行ってくださいっ！！」<br><br>　僕たちはお互いの顔を見て吹き出してしまった。<br>　連れて行くに決まってるし。こんな小さな子を二度と悲しませるようなことはできないでしょ。なのに、すごく必死に自分をアピールしてくれるんだから！なんて可愛い妹だろう。<br><br>「ポーラ、お兄ちゃんと一緒に行こうね！」<br><br>　僕は頭をなでなでしてあげた。<br>　妹って、こんな感じなのかな。<br><br><br>「ロト君、クーはね。王都には行くけど、ロト君と別行動になっちゃいそうなの……。事務所の移転とかがあって、3日後くらいにティルスを出発する予定。着いたらギルドに行くからね！絶対に浮気しないでね！」<br><br>「そっか。アネットさんも依頼があって一緒に行けないらしいから、一緒に行けるのは……ルーミィと、ラールさんと、ミールとポーラの5人かな？」<br><br>　ルーミィとラールさんがハイタッチしてる。<br>　なんだか背筋に悪寒が走った気がする。<br><br>「よし、用意はできてるから1時間後に出発するよ！」<br><br>　ルーミィの気合の入った一言でみんなが動き出した。<br><br><br>　王都まで馬車で5日間の行程。<br>　不安と期待が半々の旅、いよいよ出発だ！
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<pubDate>Tue, 04 Oct 2016 17:18:09 +0900</pubDate>
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<title>18.知己の償い</title>
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<![CDATA[ 「エトワール！！……と、エトワールのご主人様？わざわざ遠くからありがとうございます……」<br><br>　名馬エトワールの隣に佇む少女は、口に手を当ててドギマギしながら僕たちを眺めている。<br><br>『えっ……あ……気にしなくていいわよ……』<br><br>　鮮やかな薄紫色の髪先を弄りながら少女が呟く。恥じらいの中に隠された眩いばかりの笑顔を見て、僕は思わずドキッとしてしまった。<br>　あれ……聞き覚えのある声？まさか牢獄の人？いや……エトワールのご主人様は死んでないはずだから、人違いだよね……胸を触らないと分からないや。<br><br><br>「あれ？あなたは……」<br><br>　ルーミィが邪魔に入る。お決まりのパターンだね……懐かしい。生き返った実感が湧くよ。<br><br>『あっ……ちょっと、こっちにいらして！』<br><br>　ルーミィが紫の少女に連れていかれた。これは……ハーレムの相談か？ハッハッハ！僕のモテ期は継続中だ！<br>　変な妄想を膨らませながら、僕はひたすら名馬エトワールを擦る。背中にもこもこした膨らみがあるなぁ……筋肉かな？さすがは名馬だね～。<br><br><br>「ねぇ、ロトくん！もう1度キスしていいかなー？クーね、癖になっちゃったみたい」<br><br>『ワタシも……もう1回しておく』<br><br>「って、ミールはまずは服を着て！クーちゃんは顔が近いって！恥ずかしくて死にそう！」<br><br>　僕はアイテムボックスからシャツを取り出してミールに着させる。シャツ1枚って……裸よりヤバいかも！？とりあえず逃げる一手。<br><br><br>　それにしても……たくさん人がいる。アーシアさんと追いかけっこしてるアネットさんはいいとして、ラールさんと話してる赤い服の子は誰だろう？あっ、目が合った！こっち来た！<br><br>『魔力は少ないが、確かにリンネ様の魂を受け継いでいるのぅ……』<br><br>　いきなり心臓の辺りを揉まれた……なにこのセクハラ！許せない！！<br><br>「ロト君、こちらは精霊王の不死鳥フェニックス様。勇者リンネ様の……下僕らしいです」<br><br>「貴女が、あの伝承のフェニックス様！？」<br><br>『ほほぅ！妾は伝承になるほど有名なのか！！引き篭りをやめて良かったぞ』<br><br>「はい！霊峰ヴァルムホルンの頂と一緒にリンネ様に吹き飛ばされて下僕にされた大精霊！」<br><br>『そっちか！魔王相手に奮闘したでもなく、秩序神に認められて直々に精霊王に任ぜられたでもなく、そっちが有名なのか！！』<br><br>　全身真っ赤な少女は、昔を懐かしむように、自分とリンネ様の偉業を語り始めた。だいたい知っている話だったけど、何回聞いても興奮するね！<br><br>『……でな、妾はお主と契約しに来たわけだ』<br><br>　突然、目を瞑り、つま先立ちになる少女。<br>　なぜか、タコみたいに唇を突き出している。<br><br>『はよせぬか！恥ずかしい』<br><br>　なにこれ？<br>　ラールさんとクーデリアさんが口を押さえて凝視してる……これ、契約だよね？よし！<br><br>『んんっ！う～ん、青春の味わいよのぅ！<br>　さぁ、これから契約の儀式を始めるぞ』<br><br>　えっ！？……どゆことですか……。<br><br>　フェニックスは、素早く手を動かして僕たちの周囲に魔法陣を描く。煌めく赤い光と共に、僕の右手の甲には炎の紋章が刻まれる。<br>　フェニックス少女は、笑顔で手を振りながら紋章にスパイラルして消えていった……。<br>　これが精霊契約……しかも、精霊王！うわぁ～、すごいことになっちゃったよ！<br><br><br>　呆然と立ち尽くす僕の所に、ルーミィが戻って来た。随分と長話をしていたようだけど、表情は嬉々として明るい。<br><br>「ロト、王都に行くわよ！！」<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　僕たちはギルドのティルス支部に帰還した。<br>　僕の捜索と救出が、最重要クエストになっていたなんて……迷子みたいで恥ずかしい……。<br><br>　参加した冒険者たちは、破格の報酬にホクホク顔だ。僕に感謝して帰って行ったけど、感謝すべきはこっちですから！みなさん、ミイラ取りがミイラになりかけたんですからね……本当にありがとうございました！僕は彼らの後ろ姿に長々とお辞儀をした。<br><br>　そう言えば、依頼書がアイテムボックスの中に……どうしよう、だいぶ日にちが過ぎてる。まだお昼前だ。間に合うなら1件でも多く蘇生しよう。<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：アシュリー<br>　蘇生理由：大切な後継ぎだから<br>　種族：人間<br>　性別：男<br>　年齢：15<br>　死因：事故死(崖から転落)<br>　時期：今朝<br>　職業：薬師見習い<br>　業績：調合技術が優秀<br>　報酬：○お金、○物品、その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：祖父<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：ブライアン<br>　蘇生理由：魔法科学の発展のため<br>　種族：人間<br>　性別：男<br>　年齢：48<br>　死因：爆死(実験中の事故)<br>　時期：8年前<br>　職業：魔法科学者<br>　業績：薬学、結界学に寄与、受賞多数<br>　報酬：○お金、○物品、その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：魔法科学の塔一同<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：ポーラ<br>　蘇生理由：希少種の保護<br>　種族：エルフ<br>　性別：女性<br>　年齢：10<br>　死因：非公開(自殺)<br>　時期：2日前<br>　職業：奴隷<br>　業績：なし<br>　報酬：お金、物品、○その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：エルフを守る会<br><br><br>「受付のサラさんから聞いたんだけど、1件目の薬師の人は既に火葬済だって……」<br><br>「そうか……申し訳なかったね……」<br><br>「今日と明朝で残り2件の依頼をこなして、明日の午前中には王都に出発するわよ！」<br><br>「了解！まずは話を聞きに行こう！」<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　町の南側、文教地区に建つ魔法科学の塔なる場所を訪れた僕たち。メンバーは3人だ。僕とルーミィとラールさん。ミールは妖精会議、クーデリアさんはコンサートの準備、アネットさんはアーシアさんと一緒にもう１件の方へ行っている。<br><br>『やぁやぁ、こんにちは、未来ある若人たちよ！連絡がないから諦めてたよ。さぁ、こちらへ！』<br><br>　玄関で髭のおじさんに待ち伏せされていた。白髪細身に白衣……思っていたよりも明るい。科学者ってのは、湿った地下室で狂気じみた笑みを浮かべながら丸底フラスコを振っているイメージがあった。<br><br>　僕たちは彼に連れられて会議室に入る。<br>　座席が既に5人分埋まっている。みなさん、同年代の方々だ。やはり明るく迎えられた。<br><br>「エンジェルウイングのルーミィです。こちらは蘇生魔法使いのロト、助手のラールです。ブライアンさんのこと、聞かせてください」<br><br>　明るい雰囲気に後押しされて、秘書《リーダー》が笑顔で切り出す。<br>　しかし……“ブライアン”さんの名前を出した途端、一気に陰鬱な空気に変わる。蒼ざめ、下を向く彼らは互いに肘でつつきあう。やがて、意を決した髭がぼそっと呟いた。<br><br>『……俺たちがブライを殺した……』<br><br>　歯を食い縛る科学者たち。唖然とする僕たち。ルーミィは髭の顔をじっと見つめ、続きを促す。<br><br>『画期的な発見だった。内容は明かせないが、世界の常識が変わるほどのな！俺らは実用化に向けて日々努力した。理論を何度も組み立て、実験を続けた。中には危険な実験もあった……しかし、誰かがやるしかなかったんだ！<br>　くそッ！思い出すだけで胸が苦しい……』<br><br>『あの実験は不可欠だった……』<br><br>『そうだ、ブライがいたから今があるんだ』<br><br>『彼を称えよう……』<br><br>『あぁ、そうだな……実験役にはブライ自らが名乗り出た。爆発の可能性は知っていた……だが、あそこまでとは……。俺らは、彼が功績を独り占めしたいがために手をあげたと思っていたんだ。だから、敢えて実験を止めなかった……』<br><br>『止めるべきだった！』<br><br>『誰も止めなかったじゃないか！』<br><br>『俺らはみな共犯だ……罪は必ず償おう。<br>　ブライは、死に際にこう言っていた……“世界のために、必ず実用化してくれ”と。今でも忘れない。その言葉が、耳に、頭に、心に染み込んでいるんだ！！』<br><br>『我々は彼の最期の言葉を聞いて、三日三晩笑い転げたよ……己の醜さにな』<br><br>『泣き続けていた奴がよく云うわ！ブライアンは自分の功績なんて、これっぽっちも考えていなかったな。世界のために役に立ちたいと願っていただけだった……』<br><br>『俺らは、8年間休むことなく、死に物狂いで研究に没頭した。ブライがいれば5年……いや、3年で成功したかもしれないがな』<br><br>『ブライアンは優秀だったからな……』<br><br>『自分のことしか頭になかったのは、むしろ我々の方だったということだ』<br><br>『その通りだ！8年もかかって実用化に成功した俺らは、だが……この画期的な発明を世に送り出すことができなかった……』<br><br>「どうしてですか！？だって、ブライアンさんはそれが望みだったのでしょう？」<br><br>　ラールさんが珍しくケンカ腰に問い質す。<br><br>『ラールさんでしたか……俺らの立場ならきっと貴女でも同じ判断を下すでしょう。実験は成功した。製品は完成した。しかし、発表したら日の目を見るのは俺たちだ。そこにはブライはいないんだ！ブライなくして実用化はなし得なかった！なのに、ブライを世界は見てくれない！彼に称賛を与えない！尊敬の眼差しを向けることはないんだ！分かるかい？この気持ちが……』<br><br>「……」<br><br>『そんな時に、君たちの噂を聞いた。耳を疑ったよ……蘇生魔法……不老不死と並ぶ世界の奇跡……まさか、実在するなんて！』<br><br>『運命だと信じた！』<br><br>『ブライアンに償う機会が与えられようとは！我々の人生は、なんと幸せか！！』<br><br>『俺らは誰からともなく依頼をした。ブライと一緒に研究の発表をしたいからな！8年か……随分と待たせてしまったな。怒られるかもしれない、呆れられるかもしれない。だが、彼と共に喜びを分かち合いたいんだ。頼む！お願いします……ブライを、ブライアンを生き返してください……』<br><br>　僕はルーミィやラールさんを見る。<br>　彼女たちはいつも僕と同じ判断をしてくれる。研究者の方々も、僕たちと同じように信頼し合っているんだろう。<br><br>「分かりました。お任せください！」<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>「ロト、アネットの方は明日でも大丈夫だって。今日はブライアンさんをお願いね！」<br><br>「分かった……」<br><br>　また骨か……ある意味、骨の方が気楽だと切り替えるかな。でも、おじさんか……よし、今回はクールにいこう！<br><br>「すみません、先に報酬の件を……」<br><br>　ルーミィ様、すごくがめつい！でも、ありがとうございます！結局、10万リル(1000万円)と新製品をいただく話になったらしい。<br><br><br>『ロトさん、こちらです』<br><br>　僕たちは客室へと案内された。<br>　レンガを組み合わせたような質素な部屋。隅には木製のベッドが置かれていて、その上には白い棒……いや、骨が見える。ブライアンさんのため、というよりも僕のために……すぐに着られる服も準備されている。<br><br><br>　骨……骨……骨……。<br>　3本あるけど、3人も出てきたら問題だ。1本にしよう。僕は最も大きい骨を左手に握りしめ、他の2本は髭に手渡す。<br><br>　目を瞑り、ブライアンさんを想う。<br>　世界に貢献するため、自ら危険な実験に向かう姿がリンネ様に重なる。ルーミィも骨を相手にソウルジャッジはできないらしいけど、きっと清い心の持ち主なんだろう。蘇生してあげたいと、強く願う！<br><br>　僕の中にあるリンネ様の魂を感じとる……その温かい力を強く練り上げていく……全身に力が満ちる。そして、左手から、身体全体から銀色に輝く光が溢れ出る！光は部屋を一色に染め上げ、神々しいまでに煌めく！<br><br>　やがて、光は僕の左手を中心に繭状に収束していく。僕は骨をゆっくりとベッドに置き、両手を合わせて祈りを込める。<br><br>　光は人の形状に変わっていく……そして、数分後には裸の男性の姿が現れた。<br><br>「ブライアンさんですよね？僕はロトと申します。魔法科学の塔の方々から依頼されて蘇生魔法を使いました。貴方は8年の時を経て生き返りました」<br><br>　現状を把握できず虚空を見つめる男性に、僕は服を手渡しながら説明する。<br><br>『研究、実験……爆発…………蘇生魔法……なるほど、蘇生魔法ですか……私は、生きることを許されるのでしょうか』<br><br>『勿論です！仲間たちが待っていますよ！』<br><br>　僕は笑顔で振り返る。そこには号泣して抱き合うおじさん集団があった……。<br><br><br><br>　3時間が経った……。<br>　完全に忘れられたかと思った。<br>　肩を組みながら6人のおじさんたちが現れた時、待った甲斐があったと感じた。仲間か……僕たちとは少し違うけど、仲間って良いよね！！<br><br><br>　僕たちは感謝の言葉と報酬を貰い、クラン本部へと戻る途中、クーデリアさんと合流した。<br><br>「ロトくん、その世界を変える新しい薬って何だったの？」<br><br>「……」<br><br>「どうしたの？」<br><br>「男性用の精力増強剤だって！」<br><br>　ルーミィさん……言わなくていいよ……。<br><br><br>　その後、研究発表と製品は世界を動かした。確かに幸せを感じる人も、人口も増えそうだ。でも、なんだか大袈裟じゃない！？
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<pubDate>Tue, 13 Sep 2016 19:56:13 +0900</pubDate>
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<title>17.氷心の囲い</title>
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<![CDATA[ 『此は……氷結魔法か』<br><br>　呟くアーシアの目前には、高さ3mほどの円錐形の樹氷が聳える。その中心に探し求めていた少年、ロトがいた。少年を見上げるように、一糸まとわぬ姿の妖精ミールが抱きついている。<br><br>　まるで時が止まったかのように、2人は目と口を開けたまま微動だにしない。流れ落ちる涙も、悲嘆の叫びさえも、氷の世界が閉じ込めてしまう。<br><br>　その分厚い氷が、ようやく出会えた仲間たちとの間に絶対的な壁となり、直接触れることさえ叶わないもどかしさは、さらなる絶望を与えた。<br><br><br><br>『裁定は下され……ふごっ！！』<br><br>　歩み寄る青いローブの小人に、容赦のない蹴りを入れたのはルーミィだ。<br>　吹っ飛んだ小人の腹に跨がり、歯を食い縛って無言のままひたすら拳を叩きつける。誰もそれを止めようとはしなかった。<br><br><br>『静まれ！人間と森の護り人よ、我は妖精の王である！魂の秩序を乱した者を我は許さぬ。裁定は正しいのだ』<br><br>　眼前の大木から降り注ぐような声がした。<br>　故意か過失か、敵意の矛先が替わる。ルーミィの眼が狂気を孕む。<br><br>「妖精王……ロトを氷付けにした張本人！言い訳があるなら言ってみなさいよ！！」<br><br>『生きとし生けるものに存する魂は、神々が定めし運命である。それを恣意に左右するなど人のエゴとしか思えん。秩序を護りし我らが下した裁定は正当である！』<br><br>「神は一人ひとりを見ていない！世界はあたしたちに託されているわ。ロトはね、種族の差別をせずに平等に蘇生をした！決して自分勝手でも、人間のエゴでもないわ！」<br><br>『人の子よ、死ぬものは元より相応の業を犯しているのだ。魂に刻まれた業によって……』<br><br>「あたしには魂の評価が見えるわ。<br>　ソウルジャッジ！！！<br>　ふんっ！妖精王、あなたの魂は－10点よ！ロトの魂はね、＋98点なんだから！！処分を受けるべきはあなただわ！！」<br><br>『……』<br><br>「今すぐ氷の戒めを解きなさい！」<br><br>『……ならぬっ！死ぬべきものは神により運命が定められているのだ』<br><br>「妖精王は意外とバカね！神は万能ではないわ。世の中を見れば分かるでしょ！必要な者が死に逝き、腐った者が蔓延るのがこの世界よ。<br>　神はそれでも生きるものすべてを愛し、信じ、世界の維持を任せてくれている。誰が生きるべきかは神が決めることじゃない。この世界の自分たちが判断しなければいけないんだ。誤って失った命があれば、救い出さないといけないんだ！」<br><br><br>　お互いに自分が正しいと信じて疑わない両者間に、もとより和解は成り立ち得ない。先に動いたのは妖精王だった。<br><br>『ならば、そなたが正しいということを自身の身をもって証明するのだな！』<br><br>　迫りくる無数の枝、<br>　左右にステップでかわすルーミィ……。<br>　業を煮やした妖精王は、氷結魔法を発動する！<br><br>　魔法が飛び交う。<br>　静観していた仲間たちが動き出したのだ！<br>　炎の壁が氷結魔法の発動を解く！<br><br>　突っ込むルーミィを追うように、仲間たちが大木の幹に襲いかかる。<br><br>　再び、魔法が激しく飛び交う。<br>　地から湧き出でる氷柱は、魔法により無力化されていき、逆に魔力を帯びたダークエルフたちの剣は大木を切り刻んでいく。<br>　武器のない者も全身全霊を込めて戦った。冒険者たちは石や木材を手に、ラールやクーデリアは拳が血まみれになるまで殴り続けた。<br><br><br><br>　激しい戦闘は数刻に及んだ。<br>　大木には無数の裂傷が走り、枝が四散している。しかし、最後に聖騎士アスランが凍りついたとき、広い空間には、40を数える氷柱が林立していた。<br>　魔力量の差は歴然であった。始めから敵う相手ではなかった。お互いの心の溝が、怒りが、残酷な結果を招いた。<br><br><br>『不本意な争いだ……』<br><br>『妖精王……いえ、父上。僕たちは……本当に正しいのでしょうか……姉様や、この方々が……正しいのではありませんか？』<br><br>　青い小鳥は枝から舞い降りると、青いローブの少年の姿に変わる。少年は大木にすがりつき、泣きながら訴えかける。王の裁定に異議を唱えることは彼にとってはあり得ないことだった。しかし、あまりにも酷い惨状が、そのあり得ないことを言わせていた。<br><br>『……ミールのみならず、お前まで……』<br><br>『父上！姉様は……死すべき運命なのでしょうか？私には到底……信じられません！私は……魂の評価が見えるという……人間に触れて……分かりました……裁定が過ちであったと！！』<br><br>『くだらん！我は暫し眠りにつく。お前も頭を冷やせ』<br><br>　大木は穏やかな光を放つと、自身を光の膜で覆い尽くしていく。癒しの光の中に自らを包み込んでいく。<br><br>『僕は己の正義に従い、旅に出ます……』<br><br>　少年は再び小鳥の姿になり、樹木の隙間から飛び立っていく。<br><br>　そして、妖精王の森は深い沈黙に包まれた。<br><br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br><br>　10日が過ぎた。<br><br>　悲しみと静寂に満ちた場所に、再び青いローブの少年が降り立つ。妖精王は、未だ深い眠りの中で心身ともに自らを癒やし続けている。<br><br><br>　少年は、目に映る光景に我を失う。あり得ない奇跡を目の当たりにし、彼は叫んだ。<br><br>『僕たちが間違っていた！！ここまで愛される人が、死んで良いわけがない！！』<br><br>　40の氷柱が、ロト少年と妖精ミールの樹氷を囲うように移動していた。動けるはずがないのに！それはまさに、氷のように清らかなる深い愛情が生んだ“奇跡”であった。<br><br><br>　青いローブの少年はロト少年に近づく。奇跡の正体を見極めるべく、逸る心が足を動かす。<br><br>　ロト少年のすぐ周りには4人の少女がいた。みな、必死の形相で愛しき人に近づこうとしていた。当然、その身体は永久凍土で包まれ、心臓すらも動いていないはずだった。<br><br><br>　彼はロト少年を見上げる。<br>　ロト少年は命乞いをしなかった。生への執着がないのだろうか。否、心臓が未だ鼓動を続けているのは生きようと強く願う意思の証だ！ロト少年は、誰かに憎悪するのではなく、謝りながら魂を氷に委ねた。その顔には使命に向き合う強い意思が表れている。それが生への執着心となって心臓を動かしているのだろう。<br><br>　彼はミールを見上げる。<br>　彼女はロト少年を深く愛しているのだろう。自らの命を燃やしてでも氷を溶かそうとしていた……ロト少年を生かしているのは彼女の命の炎かもしれない。<br>　彼にとって、姉ミールは尊敬と羨望の対象だ。母は魔人に喰い殺され、父は森に逃げた。しかし、彼女は戦うことを選び、世界を旅した。そして……勇者を見守り、世界を平和に導いた。決して力があるわけではない。ただ、彼女には優しさと、平和を愛する心があった。彼にとって、それはかけがえのない真の力だった。姉を救いたいと彼は強く願った。<br><br>　彼は金髪の少女を見上げる。<br>　魂の価値を見れるという少女……実は、彼にも似た力があった。触れた者の魂を感じる力。彼は、殴られながらも彼女の魂を知った。黄金に煌めく正義の輝き……それは、ロト少年の銀色に輝く偉大な魂を支えるべき力を持つ魂だった。2人が力を合わせれば不可能なことはないと思わせるほどの煌めきだった。<br><br>　彼は赤髪の少女を見上げる。<br>　見開いた彼女の両目から涙が滴り落ちている。足元にできた涙の水溜まり……温かさを感じる。それはロト少年に対する深い愛情なのだろう。流れ落ちる涙が永久凍土をも溶かしたのか……まさに信じられない奇跡だった。<br><br>　彼はもう1人の金髪の少女を見上げる。<br>　整った綺麗な顔を悲哀の表情に歪めている。彼女だけは、必死に血まみれの両手を伸ばしてロト少年に触れようとしていた。もう少しで氷が触れ合い、1つになるだろう。なんと深い愛だろうか。動けないはずなのに……心臓さえ止まっているはずなのに……切なすぎる。<br><br>　彼は銀髪の少女を見上げる。<br>　森の護り人ダークエルフ……なぜ妖精王に反旗を翻したのか、分からなかった。しかし、彼女の嘆きの表情が全てを物語っていた。ロト少年と共にありたいと願う、彼のためなら全てを捧げられるという確固たる意思が表れていた。<br><br><br>　青いローブの少年は、悲しみの中に真実を見る。これは奇跡などではない、正しい者が持つ真の力なのだと。そして、彼は10日間における旅の目的を果たすに至る……。<br><br><br><br><br>　突然、樹木の天蓋が轟音と共に爆散した。<br>　木漏れ日の中に小枝の雨が混じる。何かが空から舞い降りてくる。それは、彼が探し求めた存在であった。<br><br>　轟音は妖精王を覚醒させた。<br>　魂の罪人を中心として同心円状に並ぶ氷柱を見た王は、あり得ない奇跡に言葉を失う。そこに、業火を纏った不死鳥フェニックスが降り立つ。<br><br>『大精霊様！？』<br><br>『霊王よ、汝の所業は神々の意思に背くものぞ！妾は未来永劫、勇者リンネ様の下僕よ。リンネ様の魂を受け継ぎし者を追ってきてみれば……此はなんたること！』<br><br>　炎の最上位精霊フェニックス……神より永遠の命を与えられし精霊王。神意の代行者にして神に最も近しい存在。それが人間の下僕……妖精王は再び絶句した。<br><br>『リンネ様が人魔共存を果たして後、何故に汝は森の最奥、三重結界の中に引き篭る？世界は急速に変貌している。平和を手に入れた世界は、真なる幸せを求めるもの。そこには新しき秩序が必要だ。故に、秩序神は妾に仰られた。“清き魂を護れ”と。この者らは魂の審判なり！汝、裁くこと叶わぬ、裁かれるのみ！』<br><br>『我は裁定を誤ったのですね……』<br><br>『左様。過ちは避けられぬ。その後、信頼を取り戻すか、身をもって償うか……汝自身が選べ』<br><br>　フェニックスの眼光が妖精王を射る。容赦なく即断を迫る。<br><br>『……我は新しき世界に不要な存在。裁定の過ちは我の弱き心が導いた必然。身をもって償うが妥当でしょう』<br><br>『その覚悟、しかと聞いたぞ！妾の業火の中で新たな生命を育むが良い！』<br><br>　フェニックスの纏う炎が大木を駆け上がる。<br>　苦痛の悲鳴は上がらない。蒼白く燃える業火は全ての悔恨を、悲哀を、罪過を燃やし尽くしていく……。<br>　そして、青く輝く種が1粒残された。<br><br>『父上！！』<br><br>　青いローブの少年は、こうなることを予期していた。しかし、己の無力さに、流れ出る涙が跡を絶たない。<br><br>『汝、新しき妖精王と共に青き種を育てよ！其は世界を映す鏡なり。慈愛の心をもって育むべし！』<br><br>『畏まりました……必ずや！』<br><br><br>　フェニックスは小さく頷くと、静かに振り返る。そこには未だに溶ける気配を見せない氷柱が41本佇んでいる。<br><br>『さて……いくら妾でも、此は至難よのう』<br><br>　フェニックスは試しとばかり、最寄りの氷柱へと口から業火を吐き出す。しかし、氷塊はわずかに蒸気を発するのみだ。<br><br>『どうするか……』<br><br>　悩んだ挙げ句、フェニックスは姿を変える。<br>　赤い髪の、赤いワンピースを着た10代前半とおぼしき少女だ。彼女はロト少年の下に近づくと、おもむろに左手を伸ばす。<br>　ジュ～という、炎と氷が激しくせめぎあう音と共に、水蒸気がたちのぼる。少女は苦しい表情を見せながらも、氷を削っていく。<br><br>　5時間もすると、ロト少年の身体が弱々しく地に崩れ落ちた。続いて、ミールも氷結魔法から解き放たれる。<br><br>　フェニックスが冷えきった身体を優しく介抱するが、ロト少年の意識は戻らず、目は閉ざされてしまった。心臓はしっかりと鼓動を続けているのに。フェニックスは力なく呟く。<br><br>『手遅れだ……魂が死んでいるな……』<br><br>　青いローブの少年は、姉のミールにローブを纏わせ、話しかける。<br><br>『姉様……大丈夫ですか……』<br><br>　ミールの目に光が宿る。<br>　彼女は瞬時に全てを悟る。父なる妖精王が輪廻の時を迎えたこと、自分が新たな妖精王となったこと、そして……ロト少年の魂が死んでいること。<br><br>『ワタシにはロト様を助けられないの！？<br>　ロト様は自らの魂を削ってワタシを救ってくれた。ワタシは2度も助けられたのに！ワタシには何もできないの！？』<br><br>　疲労したフェニックスが優しく語りかける。<br><br>『ミール、久しいのう。霊王がそなたに託した力を解き放つのじゃ。奇跡はまだ終わらない！』<br><br>『フェニックス様……わかりました！ワタシは絶対に諦めません！！』<br><br>　ミールは両手を胸の前で組むと、目を閉じて祈りを捧げる。<br>　大地が震える……地面から萌え出でるたくさんの色とりどりの花……それは新しい生命を生み出す霊力。大地が持つ無限とも思えるエネルギーが、自分を囲む氷柱を溶かし始める……。<br>　炎を纏う少女が不敵に笑い、青い髪の少年が奇跡の力を目の当たりにして感涙に咽(むせ)ぶ。<br><br>　数分後、全ての氷柱が溶けきると共に、仲間たちが駆け寄ってくる。<br><br>「ミール！良かった……でも、ロトは？」<br><br>　フェニックスが手に抱くロト少年に、未だ魂は戻らない。みんなが無言で俯いていたそのとき、1人の少女が叫ぶ。<br><br>「ルーミィ、ラール、ミール、アネット。順番を覚えてる？クーが1番だったよね！！」<br><br>「クー……何を……？」<br><br>「ロトくんを起こすよ！！」<br><br>　そう言うと、ロト少年をフェニックスから奪い取り、強く抱き締めながら、熱い口づけをした。<br><br>　みんなが呆然とする中、クーデリアからロト少年を奪い取ったラールが優しく口づけをする。<br><br>　次は、ミールの番だ。顔を真っ赤に染めながらラールからロト少年を預かると、初めての口づけをする。<br><br>　そして、待ちくたびれたアネットがロト少年を抱き寄せて、その唇を奪う。<br><br>　最後……涙を堪え、ロト少年に語りかけるように、ルーミィがゆっくりと唇を重ねた……。<br><br><br>　奇跡は……起きた。<br>　5人の愛が起こしたのか、見かねた神が起こしたのか、さては最初から少年が起きていたのか……。<br>　ゆっくりとロト少年の瞼が開いていく。<br>　恥ずかしそうな表情で、ルーミィの唇を眺めている。<br>　少女たちが彼に駆け寄る。涙でもみくちゃにされながら、無言で抱き締めあう。<br><br>　他の仲間たちは、長い間ずっとその光景を眺めていた。
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12199645109.html</link>
<pubDate>Tue, 13 Sep 2016 19:55:34 +0900</pubDate>
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<title>16.愛魂の患い</title>
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<![CDATA[ 「うっ……なにが？……ロトくん！？」<br><br>「私も……胸が苦しい……すごく悲しいよ……」<br><br>　ガールズトークの最中、クーデリアが突然泣き崩れた。ラールも胸を押さえて嗚咽を漏らす。<br><br><br>「えっ？クー、ラールどうしたの！？」<br><br><br>『嫌な予感……ワタシ妖精界に行ってくる』<br><br>　ミールは蝶の姿となり、窓から飛び立った。<br><br><br>『変態さんに何かあったのか？辛い……涙が止まらない……』<br><br>　普段滅多に泣かない気の強いアネットですら、湧き出る不安に涙が止まらなかった。<br><br><br>「みんな、急にどうしたのよ！？」<br><br><br>「ルーミィ以外……みんな生き返してもらった……クーたち……ロトくんと魂……繋がってる……ロトくんの心……叫び、嘆き……うぅ……心が寒い……」<br><br>「ロト君を……助けたい！探しましょう……」<br><br><br><br>　悲嘆にくれたのは、この少女たちだけではなかった。<br><br>　ティルスにあるエンジェルウイング本部では、ダークエルフたちを突然の悲しみが襲った。ある者は泣き叫び、ある者は抱き合って号泣した。聖騎士アスランも悲痛な感情に耐えきれず、がむしゃらに泣きながら剣を振るって己を制御しようとした。<br><br>　時を同じくして、王都では名馬エトワールとその主が、厩舎で抱き締めあい嘆き悲しむ姿が側近たちを困らせた。<br>　とある村でも、フィーネでも、悲しみの涙を止めどなく流す者がいた……。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>『我は何か間違ったか？』<br><br>『死ね！バカ親父！！ワタシは絶対に許さないからな！ロト様は……ロト様は、勇者リンネ様の魂を継ぎし者なんだよ！！あんたと違って世界のために戦ってるんだ！あんたなんかよりずっとずっと、ずっと偉いんだ。うぅ……ロト様……ワタシも連れて行ってください……』<br><br>『待て、ミールよ！これは裁定なのだ、人間ごときが魂の理を乱すことは許されない！我らは世界の裁定者としての責務を果たした……秩序は維持された！』<br><br>『秩序ってなんだよ！幸せより大切なものなのか？ロト様に蘇生してもらったワタシも、親父の言う秩序を乱す者だろ！消えれば満足するんだろ！！ワタシはね、幸せこそが世界の新しい秩序を作ると信じてる！ロト様が行う奇跡にはそれができるんだ！！森の中で何もしないあんたらとは違うんだ……』<br><br>『ミール……頼む、やめてくれ……』<br><br>　悲しみ怒り狂う青い蝶は、躊躇うことなく裸の少女の姿となる。樹氷と化した少年に近づいていく。永久凍土を溶かすように……いや、それが不可能なことは誰にも明白だった……ミールは自らの魂を永久凍土に捧げるために、少年を強く抱き締める。<br><br>『誰か……やめさせろ！ミール……離れろ！頼む、頼むから、やめてくれ！！』<br><br>『ロト様……ワタシの命は貴方のものよ。一緒に連れて行ってください。どこまでも、どこまでも！』<br><br>『ミール！！』<br><br>　しかし、妖精王の必死の叫びは誰も動かさなかった。なぜならば、その行為が秩序を乱す結果になるから。妖精たちは、涙を流しながら妖精姫ミールの魂が削られていくのを見続けた……。そうするしかなかった。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>「ロトはどこに行ったのよ！！」<br><br>　ティルスを走り回りながらルーミィが叫ぶ。<br><br>「これじゃ、埒が明かないわ！2組に分かれて探さない？」<br><br>「ルーミィとラールでギルド見てきて！クーはアネットと一緒にロトくんが行きそうな場所をもう1周見てくるよ！30分後にギルド集合ね！！」<br><br>「『分かった！』」<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>『クー、速い！ちょっと待ってよ！！』<br><br>「だって！だって！！早くしないとロトくんが遠くへ行っちゃう気がするんだもん！！」<br><br><br>　2人はティルスの商店街、食堂、道具屋、警備兵の駐屯所……考えられる場所を走り続けた。<br><br>　高鳴る鼓動は、過度な運動というよりも、ひたすら増していく不安や緊張がもたらす割合の方が高いはずだ。泣き腫らしたクーデリアの顔には既にアイドルの面影はなく、アネットの黄金の瞳は充血して真っ赤になっている。<br><br><br>『え！？クーちゃん……？え！？』<br><br>『空を飛んでた少年？ギルドの方に向かってたわよ？それより、どうしたの！？』<br><br>　ファンクラブ会長は、変わり果てたクーデリアの姿に動揺し、言葉を失った。その結果、貴重な目撃証言は妻によって代弁されることとなった。<br><br>「アネット！！ギルドに行くわよ！！」<br><br>　少女たちは少年の軌跡をたどり、ギルドへと駆けていった。筋肉がつって何度も転倒した。痙攣する脚を拳で叩きながら、2人は必死に走った。少年に少しでも近づきたい一心で。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>『ロト君？来たわよ？霧が立ち込めたかと思ったら、消えちゃった。ロト君って、転移魔法も使えるんだね』<br><br>　ルーミィは、ギルド受付に立つ女性から有力な情報を得た。ルーミィは、なぜもっと早くここに来なかったのかと、掲示板に拳を叩きつける。周りの冒険者たちは、拳から血を流しても掲示板を殴り続けるルーミィを驚きの表情で眺めていた。<br><br>『女、どうした？冒険者はみんな仲間だ。悩みごとがあるなら聞くぞ』<br><br>　振り返る少女の顔を見て戸惑う冒険者たち。少女の悲壮な涙……そこに深い悲しみを見たからだ。<br><br>『誰か……亡くなったのか？』<br><br>「っ！！」<br><br>　中年戦士の心無い一言が、ルーミィの怒りの感情に火をつけた。抜刀して斬りかかるルーミィに、逃げ惑う冒険者たち……。<br><br>「ルーミィやめなさい！！」<br><br>「ロトはまだ死んでないのに！！こいつが死んだって言ったんだ！！許さない！許さない！」<br><br>　暴れるルーミィを両手を広げて押さえ込もうとするラール……振り回す剣の切っ先が、幾度となくラールの手足を切り裂く……血まみれになりながらも、ラールはルーミィの戦意を失わせることに成功した。<br><br>　抱き合って号泣する2人の少女を離れた位置から見守る冒険者たち……そのとき、勇気を振り絞って1人の男性魔法使いが声をかけた。<br><br>『もしかして……あんたら、霧と一緒に消えた少年を探しているのか？』<br><br>　少女たちは泣きながら彼を見上げる。<br><br>『俺は近くに居たんだ。青いローブを着た子どもが転移魔法を使った。いや、あの詠唱は特殊だったな……精霊魔法のようだった』<br><br>『俺も見たぞ！青いのは小人族だろ。サイテイがどうとか言ってたぞ！』<br><br>『それ、あたいも聞いた！サイテイが下ったから、王の下へ連れていくみたいな話だったぞ』<br><br>　冒険者から次々に目撃証言を聞かされた少女たちは、意を決して立ち上がると、彼らに問うた。<br><br>「小人族の王はどこにいる？」<br><br>　その質問に答えられる者はいなかった。<br>　長く続いた沈黙を再び破ったのも同じ少女だった。<br><br>「お願いします！！何でも言うことを聞きます！！何でもします！！だから、だから、誰か……あたしを小人族のところまで連れて行ってください！！」<br><br>「私からもお願いします！何でもします……ロト君を助けたいんです……助けてください！！」<br><br>　自由都市ティルスと言えど、小人族は稀少種だ。まして、その住み処となると専門家でさえも知り得ない情報である。よって、2人の少女の嘆願はギルド内に虚しく響き渡るだけであった……。<br><br><br>『ルーミィちゃん……』<br><br>　様子を窺っていた受付の女性が、少女たちを囲う輪に加わる。悲痛を胸に、語りかける。<br><br>『知っていると思うけど、ギルド内での武器使用は厳しく罰せられます。クラン“エンジェルウイング”リーダーのルーミィ、貴女のギルド登録抹消を宣告します！』<br><br>　あまりにも無情な、追い討ちをかけるようなギルド職員の宣告に、場が騒然となる。<br><br>『サラさん、待ちなよ！俺は全然大丈夫だ！！いや、今回は俺が一方的に悪かった！！嬢ちゃんじゃなく、俺の登録を抹消してくれ！！』<br><br>『リーダー何を言って……いや、俺たちもあんたに付いて行くぜ！サラさん、リーダーだけで足りなければ俺たちも抹消しろ！この娘は悪くねぇ！！』<br><br>『あなたたち……でも、武器を使ったのは事実。ルーミィちゃん、処分を大人しく受けるわね？』<br><br>　ルーミィは激しく混乱していた。ギルド登録抹消……そのことが意味するのは、クランリーダー剥奪のみならず、公的な意味での少女と少年との関係断絶であったからだ。冷静なときの彼女ならば「それがどうしたのよ？夫婦の絆は切れないわ」とでも豪語して一蹴する出来事だ。しかし、今の彼女は……少しでも少年との繋がりを保ちたいと切に願っていたので、受け入れがたい処分だった。<br><br>「いやぁぁぁ～！！」<br><br>　突然泣き叫び出したルーミィを、ラールが必死に庇う。冒険者たちもサラに再考を乞う。<br><br><br>『ルーミィちゃん。抹消は仮処分よ！私は貴女が武器を振り回すのを直接見ていなかったから。この場にいた人に確認を取らないとね！<br>　それと、無事にロト君を救出したら処分は無効にできるわ。それどころか、ギルドマスターのリザ様に直訴してランクAにしてあげる！私はこれでもリザ様の一番弟子なんだから！！』<br><br>「うわぁぁぁ～ん！！」<br><br>　ルーミィはサラに抱き付いた。少年との繋がりを一時的にも保てる希望が見えたことが、彼女にそうさせた。<br><br>『まだ話は終わってないわ』<br><br>　ルーミィの身体が強ばる。冒険者たちも、ガッツポーズしていた腕を力なく下げていく。<br><br>『ロト君の救出依頼、ギルドから出します。優秀なティルスの冒険者たち！総力をあげてロト君を助け出すわよ！！報酬は金貨10枚と2ランクアップ！！』<br><br>『『うぉ～！！』』<br><br>　その場の冒険者たちは、再び、さっき以上に腕を振り上げて雄叫びをあげる。サラの『ただし成功報酬ね』という言葉は誰にも届かなかった。苦笑しながら、サラは支部長の下へと全力で走っていく。<br><br><br>「ルーミィ！ラール！これは何の騒ぎ？もしかして、ロト君が見つかった？」<br><br>　一縷の望みを抱いてギルドに駆け込んできたクーデリアの目には、そう見えたかもしれない。力なく首を左右に振るラール……。未だ続く胸の苦しみを押さえ、少年を愛する4人の少女たちは合流した。<br><br><br>『小人族？分かった！！妖精王の森よ！！きっとそこに変態さんはいるはずだわ！！』<br><br>　ダークエルフは森の民、森の保護者たる妖精だ。エルフ共々、人間界に出て永いときが過ぎたとはいえ、妖精王の森の場所は変わらない。それはどの森とも繋がる妖精界に存在する空間であるからだ。<br><br>『そうと分かれば急ぐよ！クラン本部でアー姉やランドルフさん、フローラさんたちにも伝えてくる！1番近い森は……東門ね。30分後に東門集合！！』<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　ロト少年救出チームは総勢40名となった。<br>　ダークエルフたちだけでなく、王都から駆けつけたエトワールも、その主もいた。そう、王都からティルスに間に合ったのだ。その翼で。蘇生させたロトはエトワールが宙を翔ていることに気づいていなかった。彼が蘇生させた瞬間、奇跡の力はエトワールにペガサスの翼を与えていたことに。<br><br>　救出チームは、アーシアとアネットのダークエルフ姉妹を先頭に、森まで走った。誰も一言も声を発しなかった。少年を心配する者、未知なる妖精王を警戒する者……不安に押し潰されそうな者ばかりだった。<br><br>　小1時間が経つ頃、みんなの姿は夕闇の中で静まり返る森の中にあった。閉ざされた妖精界への門が開かれる……。<br><br>　ドーム状に伸びた樹木の小路は、不思議な光に包まれて行く手を照らす。人間は身体が軽くなった感覚を味わっただろう。妖精界では金属がその存在を薄くする。武器を奪われた不安を抱きながら、冒険者たちはダークエルフについていった。<br><br>　さらに進むこと数時間。<br>　救出チームは広大な空間へと導かれるようにして進んでいった。遥か上空にある樹木の天蓋から降り注ぐ木漏れ日……その降り注ぐ先に見たものは、みんなの魂を凍りつかせる光景だった。<br><br>　そこには、妖精ミールに抱き寄せられるようにして眠る少年の姿があった。氷に閉ざされた世界の中心で永眠する2人がいた。
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12199267477.html</link>
<pubDate>Mon, 12 Sep 2016 16:23:59 +0900</pubDate>
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<title>15.霊王の使い</title>
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<![CDATA[ 　鳥……<br><br><br>　ハンバーグ……<br><br>　ネコ……<br><br>　ニンジン……？<br><br><br>　船……<br><br>　カエル！<br><br><br>　カボチャ……<br><br>　賑やかな黄色い声が空にこだまする。<br>　僕は一人ベランダに寝そべって、ぼんやりと流れ行く雲を眺める。飽きない。楽しい。<br><br>　蝶……<br><br>　花……<br><br>　ハエ……？<br><br><br>　馬……<br><br>　トマト……えっ、ルーミィ！？<br><br>「誰がトマトよ！失礼ねっ！！ロトも逃げないで戦いなさい！」<br><br>　僕の顔の上に赤いパンツが見え、さらにその上には……手を腰に当て、胸を張って僕を見下ろすルーミィがいる。真下から見ても、顔を遮る山はなく、微かに丘が見えるだけだった。<br><br><br><br>　なぜ僕が戦わないといけないんだろう……。<br><br>　ぼんやりと振り返る。<br>　昼ご飯を食べて自室で寛いでいると、アネットさんが飛び込んできて、それを追いかけるように聖騎士が入ってきたんだった。<br><br>　そこから熾烈な戦いが始まった。<br>　僕は逃げ出した。<br>　なぜか？<br>　そこには得るものがなかったから。<br><br><br>　聖(多分、性)戦を主張する騎士がいた。<br>　迎え撃つのは我がヴァルキリーたちだ。<br><br><br>『変態さんは1人でいいの！消えて！！』<br>　アネットさんが失礼なことを主張する。<br><br>「あたしに触れると火傷するわよ！！」<br>　意味が分かってるのか、謎発言のルーミィ。<br><br>「私の心も身体も既にロト君の物です！！」<br>　誤解されそうなことを大声で叫ぶラールさん。<br><br>「クーの聖騎士はロトくんなんだから！！」<br>　恥ずかしいことを平気で言う仮の彼女。<br><br>『……』<br>　笑顔で枕投げに夢中なミール(服は着ている)。<br><br><br>　5人の美少女を相手に劣勢を強いられながらも、楽しそうに転げ回る“かつての”聖騎士。そのMっぷりが、聖域を汚された美少女の更なる怒りを誘発した。<br><br>　ルーミィは救世主を求めた。<br>　しかし、僕は救世主なんかではない。<br>　諦めたルーミィが部屋に戻ると、ちょうど良いタイミングで真の救世主が現れた！<br><br>『アス君、お主には我がいるであろう？君が望むなら毎晩でも構わない！』<br><br>　素早い動きで聖騎士の耳を掴み、引っ張るアーシアさん。もしかして……既に恋人！？<br><br>『俺の夢が……。求)ハーレム、出)愛情！』<br><br>　そんな取り引き、誰が乗るかよ……。<br>　彼女は1人って約束したのに、この股関男！<br>　でも、イケメンで……しかも性格も良かったらみんなが僕を捨てて聖騎士団に所属したんだろうな……ありがとう変態さん！<br><br><br>「アスクズさん、彼女は1人ですよ！」<br><br>　形勢が定まったところで、一気に勝ちを引き寄せる。ラストアタックは僕が貰う！<br><br>『出たな、ハーレムマスター！だがしかし、俺の名は、アス“ラン”だ！』<br><br>「失礼、アスカスさん。アーシアさんを悲しませることは許さないから！」<br><br>『確かにアーシアは女神だ！しかし、世界平和のためには俺の子が100人必要な計算結果が出た。彼女1人ではダメなんだ！ちなみに、俺の名前は、ア・ス・ラ・ンだっ！！』<br><br>「女の子を追い回すなんて恥ずかしいよ、アスチンさん！ハーレムは求めるものじゃない、勝ち取るものなんだ！まずは、己を磨き直してくださいよ！」<br><br>『マスターよ、わざと名前を間違えてないか？俺の名は、ア～ス～ラ～ン～！ハーレム王になる男だ！！既に俺の聖剣は、キラッキラに黒光りしているぜ！』<br><br>　女性陣は、僕らの未知の戦いに釘付けだ。<br>　瞳の中に星を輝かせながら、自分たちの英雄を応援している。<br><br>「仕方がない。僕が貴方の名を悪意を抱いて呼ぶとき、貴方の魂は天に還るだろう。それでも良いんですね？アスラ……」<br><br>『まっ！お待ちください！！<br>　俺はアスチンです！！ハーレム？なにそれ……俺はそういうの大嫌いなんですよ！生涯一愛！！俺の愛は全てアーシアのものだ。ついでにサクラも頑張って育てる……では、ご機嫌よう！！』<br><br>　アスチンはアーシアさんをお姫様だっこして去って行った。かなりの強敵だった……。<br><br><br><br>　嵐が過ぎ去っても油断はできなかった。<br>　我がヴァルキリーたちが固まって会議を始めている。聞こえるのは不吉な呪詛。<br><br>『歳の順よ！』<br><br>『それならワタシが1番』<br><br>『蝶は蜜を吸ってなさいよ』<br><br>「出逢った順でしょ、普通は！」<br><br>「長さと深さは違うわ！」<br><br>「なら平等にじゃんけんにする？」<br><br>『それは変態さんに失礼だ！胸の大きさは？』<br><br>「ロトは小さいのが好きなんだよね！」<br><br>「絶対に嘘よ！」<br><br>『試してみない？』<br><br><br>　さて、雲行きが怪しいな。地盤が緩んでいるから二次災害には充分に気をつけないと。そうだ、ギルドの掲示板でも見てこよう……。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　浮遊魔法は便利だ。音を立てず3階のベランダから逃亡し、ギルドを目指す僕。眼下の景色がズームアップしていき、足の裏に圧力がかかる。<br><br>　昼下がり。ギルドは相応の混み具合を見せている。朝から活動していた冒険者が戻ってくる時間帯なのかな。<br><br>『あれ、ロト君？隣に女の子がいないなんて珍しいわね？』<br><br>　獣耳巨乳美女の受付お姉さんだ。僕って最悪なイメージで見られてるんだね……ハーレムマスターとか。この10日くらいで人生が変わりすぎでしょ！<br><br>「10日前まではいつも1人でしたよ。魔法を使うたびにモテていく気がして怖いですね」<br><br>『にゃはは！そうよね！ちなみに、立候補したいんだけど、歳上は何歳までOK？』<br><br>　ギルド内の空気が冷気を帯びる。突き刺さる視線、殺気がピリピリと痛い。<br><br>「冗談は止めてください。それより、依頼は入っていますか？」<br><br>『残念だわ～。またチャレンジするからね！あ、依頼は3件きてるわね。はい、よろしく！』<br><br>　何とか周囲の殺気が鎮まる。<br>　僕は依頼書を受け取り、掲示板の貼り紙を剥がしておいた。とりあえず、どんな依頼かな？<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：アシュリー<br>　蘇生理由：大切な後継ぎだから<br>　種族：人間<br>　性別：男<br>　年齢：15<br>　死因：事故死(崖から転落)<br>　時期：今朝<br>　職業：薬師見習い<br>　業績：調合技術が優秀<br>　報酬：○お金、○物品、その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：祖父<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：ブライアン<br>　蘇生理由：魔法科学の発展のため<br>　種族：人間<br>　性別：男<br>　年齢：48<br>　死因：爆死(実験中の事故)<br>　時期：8年前<br>　職業：魔法科学者<br>　業績：薬学、結界学に寄与、受賞多数<br>　報酬：○お金、○物品、その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：魔法科学の塔一同<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：ポーラ<br>　蘇生理由：希少種の保護<br>　種族：エルフ<br>　性別：女性<br>　年齢：10<br>　死因：非公開(自殺)<br>　時期：2日前<br>　職業：奴隷<br>　業績：なし<br>　報酬：お金、物品、○その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：エルフを守る会<br><br><br>　薬剤師の後継ぎ、魔法科学者、エルフ……奴隷？奴隷制度はなくなったはずじゃ！？<br><br><br><br>『汝、蘇生魔法使いか？』<br><br>　依頼書を見比べる僕に、青いローブの少年が話しかけてきた。僕よりずっと背が低い。<br><br>「そうだけど？」<br><br>『裁定は下された』<br><br>「なに？」<br><br>『裁定は下された！』<br><br>「なんの話？」<br><br>『王の下へ』<br><br>「王様！？」<br><br>『王の下へ！！』<br><br>　少年が叫ぶと、僕の回りには霧が立ち込めていく。反比例するように、ギルド内の混乱した声が次第に小さくなっていく。<br><br>　しばらくすると、僕と青いローブの少年は濃い森の中にいた。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　転移魔法か！？<br>　ここはどこだ？<br>　鬱蒼とした森の中、いや普通の森じゃない！樹がドーム状に伸びている？空間が歪んでいるのか？完全に樹に囲まれているけど、木漏れ日がキラキラと空間を染め上げていた。綺麗な世界だ……。<br><br>　少年は歩き始めた。<br>　悪意は感じない。付いていこう。<br><br>　しばらく歩くと、動くものが視界に映り始めた。樹、花、蝶……揺れているのではなく、動いていた。<br><br>　とてつもなく広い空間に出た。天井も樹木に覆われているが、距離が読めない。目の前には1周30mはありそうな巨木が聳えている。<br><br>　少年は大樹の前に立ち止まる。身体が光に包まれると、1羽の青い小鳥になってその枝にとまった。それに伴い、森のざわめきが嵐のように一層大きくなる。<br><br><br>『蘇生魔法使いよ』<br><br>　頭に響き渡るような声がこだまする。<br><br>「はい……ここは、妖精界ですか？」<br><br>『いかにも』<br><br>「あなたは、王様……妖精王ですか？」<br><br>『いかにも』<br><br>　僕と話をしているのはこの大樹か。ミールの妖精会議、裁定、王様……ピースが揃う。<br><br>『裁定を下す。しかと聞き届けよ！<br>　汝、蘇生魔法使いは生命の理を曲げ、神聖なる魂の秩序を侵した。よって、永久凍土へと封じるを妥当とする』<br><br>「なっ！？」<br><br>　唐突な死刑宣告に、返す言葉が出なかった。正直、ミールの蘇生の件で褒美を貰えるのではと期待していた。妖精王の加護とか、契約とか……夢を膨らませていた。まさか真逆だったとは！<br><br>　僕の手足が動かなくなってきた。<br>　このまま死ぬのかな……。抗えない絶対的な力の差を感じる。最期に何を言うべきだろうか。思考も凍りつき、無意識に呟く……。<br><br>「リンネ様……みんな、ごめんなさい……」<br><br>　頬を伝う涙が凍りついたと同時に、僕の意識は絶たれた。
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12199267006.html</link>
<pubDate>Mon, 12 Sep 2016 16:22:26 +0900</pubDate>
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<title>14.名馬の匂い</title>
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<![CDATA[ 　拠点に戻った時には既に日は傾いていた。今日は散々なデートになってしまったな。<br><br>　ラールさんがサンドイッチを作ると言って部屋を出ていくと、タイミングを見計らったかのように、誰かが僕の背後から体当たりをしてきた。<br><br>　気づいたら、ベッドでマウントポジションをとられていた……なんか、いい匂いがする。<br><br>「クーちゃん、ただいま……」<br><br>「ロトくん遅い！！遅い遅い遅い～っ！待ちくたびれちゃったよ！！彼女放置してどこに行ってたの！？」<br><br>「ごめん、ちょっと冒険してきた」<br><br>「明日は私とデート……あっ！」<br><br>　ルーミィがクーデリアさんの後ろから胸を掴んで、僕から引き剥がしにかかる。クーデリアさんもルーミィの胸を掴もうとするが、無いものは掴めないと言わんばかりに空を切る。<br><br>　僕のお腹の上で激しい百合戦が繰り広げられた結果、なぜか僕の身体が左右二分されるように占領されていた。<br><br>　抱きつく腕。絡みつく脚。顔がとても近い。左右から迫る甘い吐息……覚悟を決めて、目を瞑る。<br><br><br><br>　ドアをノックする音で僕たちは我に返った。<br><br>「ど、どうぞ」<br><br>『ロト様、お寛ぎのところ失礼致します。ギルドより緊急依頼が入っております』<br><br>　管理班副班長のレオナさんだ。<br>　ダークエルフ女性陣の中でも、とりわけ小柄で細身な金髪ショートの美少女は、アネットさんくらい若い。でも、村一番の天才らしい。<br>　そんな彼女が微妙に頬を赤く染めながら、1枚の紙を僕に手渡してきた。今の状況、絶対に誤解されてるな……。<br><br><br>【蘇生依頼書】<br><br>　蘇生対象：エトワール<br>　蘇生理由：唯一無二の名馬であるため<br>　種族：馬<br>　性別：牝<br>　年齢：4<br>　死因：骨折(予後不良)<br>　時期：1日前<br>　職業：騎馬<br>　業績：なし<br>　報酬：○お金、物品、その他<br>　メモ：<br>　依頼者の関係：近衛騎士団ルーニエ<br><br><br>　僕の左右からルーミィとクーデリアさんが覗きこんでいる。思わず横顔を眺めちゃう。<br><br>「馬？」<br><br>「ルーニエ様？クーはこの人知ってるわ！武術大会の優勝者よ！！」<br><br>「近衛騎士団ってことは、王宮からの依頼かしら？かなりの報酬が期待できるわね！」<br><br>　ルーミィの瞳の中に＄マークが浮かんでるように見える。最近は金銭報酬がなかったから、クラン維持費も考えると受けるべきかな。<br><br>「レオナさん、ギルドに入った依頼は他にもありました？」<br><br>『いえ、本日午後の受付はこの1件のみでした。まだ掲示中ですので明日の午前に再度確認致します』<br><br>「ありがとうございます。一応、僕の考えですが、蘇生対象を身分や種族、報酬で選びません。言葉に表しにくいですが、魂の価値を見定めるように努めています」<br><br>『はい、存じ上げております。非常に尊いお考えかと』<br><br>「尊いなんて……結局、僕の力不足で……わがままに命の優劣をつけることになります。過ちがあれば遠慮なく正してくださいね！」<br><br>　レオナさんが花のような綺麗な笑顔で頷いてくれた。間違っても“可愛い女の子が優先です”なんて言えない！<br>　結局、明日の朝にルーニエさんの面接をし、名馬エトワールの蘇生依頼を受けるか検討することになった。<br><br><br>　その後、レオナさんや、謎の妖精会議から戻ったミールと一緒に、ラールさんお手製のサンドイッチを食べた。食後にクーデリアさんがラールさんに抱きついていた。何か入れたな……。<br><br>　クーデリアさんをラールさんから引き剥がして自宅まで送り、水着お風呂を堪能してからの睡眠。ちなみに、アネットさんは例の聖騎士に姉妹揃って追い回されているらしい。いい夢が見られそうだ。<br><br><br>　★☆★<br><br><br>『初めまして、私はルーニエという。近衛騎士団の副団長をしている。本日は宜しく頼む！』<br><br>　朝9時、僕たち5人はギルド内の厩舎に来ている。ルーミィとラールさんとミール、そして早朝から押し掛けてきた仮の彼女クーデリアさんを連れて。<br><br>「まだお受けするかは……まずは、お話を聴かせてくださいませんか？」<br><br>『あぁ、そうだったな。私はある方の代理で来ているんだが、エトワールが仔馬の頃から知っている。彼女は……皆が見捨てようが私は名馬だと信じて疑わない』<br><br>　布を被せられた馬を熱い視線で見つめていたルーニエさんは、膝まづいて馬の背中を優しく撫でている。<br><br>『こいつは、何度も死ぬ運命を乗り越えたんだ。最初は仔馬の時だ。こいつは、いつも牧場の木陰に座っていた。馬はな、速くなければ、強くなければならん。牧場主は売れそうにないからと処分しようとした。だが幸運にも命拾いした。こいつが牧場を走らない理由を知っていた者が買い取ったんだ』<br><br>「どうして走らなかったんですか？」<br><br>『花だよ。花が好きだったんだ。花を踏み荒らしたくなかったらしい。私も最初はそんな馬鹿なと思ったよ。だが、花の咲いていない道ではどんな馬よりも速く走り回ったんだ』<br><br>　ルーニエさんは昔を思い出すように目を細めて語り出した。僕たちは話に聞き入っていた。<br><br>『花や小動物を足元に見つけては止まるんだ。走っては止まり、走っては止まり……本当に大変な馬でね、何度も乗り手を振り落としては処分されかかった。臆病な馬はいらないとな。<br>　しかし、こいつは臆病なんかじゃなかった。それどころか、世界一勇敢な馬だった……。襲われていた卯を助けるために自分より大きな魔物に体当たりをしたり、馬車に轢かれそうな子どもを身を呈して守ったり。川で溺れかけていた主を命懸けで救った時から、皆の評価も次第に変わっていったんだ。<br>　そんなある日、旅先で主が事件に巻き込まれ瀕死の怪我をしたんだ。運悪く、治癒魔法使いがいなかった。最寄りの病院まで早馬で2日の距離だ。我らは諦めた。だが、こいつだけは、諦めなかった。主を背に乗せ、病院まで走り続けた。まさに奇跡だった。わずか1日で到着し、主の命は救われたんだ。しかし、こいつの体は限界を超えていた。脱水症状も酷かったが、脚が4本とも折れたまま走り続けたせいで、回復の余地はなかった。我らは、苦しまずに逝かせてあげることしかできなかった……頼む！こいつに、誰よりも優しいエトワールに命を与えてくれ！！』<br><br>　近衛騎士団副団長が泣きながら土下座をしている……。僕の心は既に決まっていた。ルーミィを見る。ラールさんやクーデリアさんを見る。泣きながら頷いてくれた。ミールの服が落ちている……よく見ると、蝶の姿で馬の鼻に止まっている。<br><br>「蘇生します！ですから、土下座なんてしないでください！」<br><br>『本当か！ありがとう、ありがとう……本当にありがとう！ありがとうございます……』<br><br><br>　ルーニエさんに肩を貸して立たせる。代わりに僕が片膝を地につけてエトワールの布を下ろす。白毛の脚が……酷い状態だった。こんなになりながらも走り続けたのか。痛かっただろ、苦しかっただろ。でも、どうして君は……そんなに安らかな顔をしているんだよ……。<br>　優しいエトワール……君は真の名馬だ。コンクールやレースで優勝した訳じゃない。だけど、僕たちは君を名馬だと認める。生き返ってほしい！<br><br>　横たわる馬の胸に左手を乗せる。<br>　泥にまみれた体……。<br>　でも、それがとても綺麗に感じる。<br><br>　僕の魂に刻まれたリンネ様の力に願う。<br>　いつもいつも奇跡をありがとうございます。今一度、お力をお貸しください！<br><br>　胸に渦巻く魔力を練り上げ、左手に流していく……銀色に輝く光は厩舎を神秘の世界に変えていく！<br><br>　溢れ出る光がエトワールの体を優しく撫でるように包み込む。奇跡よ、起これ！！<br><br>「誰よりも優しい名馬エトワールよ！<br>　貴女の元気に走る姿を、みんなが願う！<br>　天より還れ、レイジング・スピリット！！」<br><br>　ひときわ光が激しく輝くと、僕の左手は、魂の温もりが戻ってくるのを感じた。光が包み込む体は白く艶のある毛並みを取り戻す。<br><br>　やがて、四肢が震えながらも力強く伸ばされると、エトワールは元気よく立ち上がった。とても綺麗な白馬が僕を見下ろしていた……。<br>　その瞳は優しさと強い意思を感じさせる。おでこにある黄金色の☆の毛並みは、神々しいまでに輝いていた。<br><br>「貴女がエトワール……僕はロト。貴女が走る姿を見せてほしい」<br><br>　言葉が通じたのか、魂が通じあったのかは分からない。エトワールは僕の身体に首を差し入れると、一瞬のうちに僕をその背に跳ね揚げ、風のように走り出した。<br><br>　馬に乗った経験なんてない。こんなにも速く走るのか……。必死にたてがみを掴み、しがみついた。日向ぼっこのいい匂いがする。<br><br>　5分も走ると爽快さが恐怖を上回った。風になって町から街道をゆく。僕たちは流れる風景を笑いながら、歌いながら楽しんだ。<br><br>　30分後、ティルスに戻ってきた。<br>　一時の興奮も鎮まり優雅に町を歩いていたエトワールだが、ギルドの前までくると急に立ち止まってしまった。前方を見る。ローブに身を包んだ人が厩舎の入口に立っていた。<br><br>　嗚咽を漏らしながらエトワールに抱きつこうと走り出したその人を、付き添いの人が止めようとしていた。この人が主か……。<br><br>「エトワール、行ってあげて！」<br><br>　背から飛び降り、優しく首筋を撫でてあげると、エトワールは僕の顔にキスをするように鼻先をぶつけてきた。<br><br>　そして、ローブの人とエトワールはお互いに歩み寄り、主の腕のなかに抱かれながら優しく嘶き続けていた。<br><br><br>　★☆★<br><br><br>「こんなに貰っちゃって良かったのかしら？」<br><br>　ルーミィの腕のなかには、40万リル(4000万円)相当の金貨が入った袋があった。<br><br>「前にルーミィが言ったよね？僕たちが命の価値を下げるような発言をしてはいけないって」<br><br>「そうなんだけど、馬だよ……」<br><br>「エトワールはすごく速かったし、いい匂いがした。ルーミィ、人も馬も魂の温かさは変わらなかったよ」<br><br>　胸の柔らかさは違ったけどね。<br><br>「ロトくん、かっこ良かった！さすがはクーの旦那さんだね！！」<br><br>「まだ“彼氏”でしょう？」<br><br>「いいえ、ただの“仮の”彼氏だわ！」<br><br>　僕の腕に絡みつきながら暴走するクーデリアさんに、ラールさんとルーミィが即座に突っ込みを入れて引き剥がしにかかった。ミールは隅っこで服を着ている。<br><br>「今日の依頼は終了だね！貼り紙はとりあえず夕方までそのままにしておこうか。さて、みんなでお昼ご飯を食べに行こう！ルーミィの奢りで！！」
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12197717838.html</link>
<pubDate>Wed, 07 Sep 2016 18:43:33 +0900</pubDate>
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<title>13.三人の憂い</title>
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<![CDATA[ 　目が見えない。<br>　口が利けない。<br><br>　それがどれだけ辛いことなのか知っている人がいたら、今すぐに名乗り出てほしい！<br><br>　きっと君とは親友になれるから。<br>　親友枠で、1回だけなら蘇生してあげるよ。<br><br><br><br>　闇に閉ざされた沈黙世界の中で僕は目が覚めた。遅れて、頭とお腹と腰に痛みが襲う。でも、我慢できるレベルだ。<br>　感覚が研ぎ澄まされる。頑丈に結われた目隠し、猿ぐつわ……何も見えない、何も喋れないのはこのせいか。<br><br>　脚は自由だ。ゆっくり後退し、背中に縛られた手でまさぐり周囲を探る。<br><br>　慎重に1mほど下がると、手が何かに触れた。<br>　壁だ……布……タオル？カーテン？<br><br>(ゴンッ！)<br><br>　突然の打撃で吹っ飛ばされた……。<br>　鉄球の振り子のような物が後頭部を強打した。振り子時計の中に入り込んだのか、魔物の巣か……とにかくあっちは危険だ。<br><br><br>　身体を反転し、再びゆっくりと後退する。<br><br>　2mほど下がった所で、手が何かに触れる。<br>　柔らかい2つの膨らみ……まさか！？<br>　半信半疑を確信に近づけるため、意識を手に集中していく……蘇生魔法を使うとき以上に。<br><br>(んっ……)<br><br>　声！？<br>　僕の手は、さらに激しくまさぐる。<br><br>(あっ……んっ！)<br><br>　やっぱり、ラールさんだ！<br>　この感触は忘れない、絶対にラールさんだ！<br><br><br>　前から歩み寄る殺気を感じた瞬間、壁が胸にぶつかった！いや、これは壁じゃない……微かに感じる柔らかさ……ルーミィだ！<br><br>　人間サンドイッチ……どういう状況だ！？<br>　もしかして、これは夢なのか？<br>　落ち着いて記憶を辿るんだ……手は休めずに。<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　昨日は……聖騎士を蘇生させた。名前は忘れた。そして、ツインテールの吸血姫を泣かせた。グスカだったか。拠点に戻って食事を済ませた。ハンバーグだった。なぜか聖騎士と一緒にお風呂に入った。ひたすら股間を自慢してきた……骨に還れ。いつも通り、ルーミィとラールさんとお休みのキスをして、手を繋いで寝た。よし、ここまでは普通だ。いや、普通じゃないか。<br><br>　いつも通り、ダークエルフのアネットさん乱入で目が覚めた。いつも通り、起きたら隣に裸の妖精ミールがいた。いや、花の妖精か。そのあと、女子の楽しげな枕投げを眺める。普通の朝だ。<br><br>　ラールさんが、グスカ戦に行けなくて寂しかったからデートしたいって言ってきた。ルーミィも、聖騎士蘇生のときに連れていってくれなかったからとお詫びデートを要求してきた。返事をする前に連れ出されていた。よくある話だ。<br><br>　まだ記憶には続きがある。<br>　確か、何軒か食べ歩きをしたあと、路地裏にさしかかった所で事件が起きたんだ……。<br><br><br><br>　それは、空から舞い降りた妖精だった。陽光を背に、ひらひら羽ばたく純白の天使。まさに幸運の象徴、ケサラン・パサランだった！<br><br>　3人は必死に追いかけた！身長の差……いや、執念の差で僕が競り勝った！勝者に与えられるのは称賛だと信じていた。しかし、違った！<br><br><br>『動くな！！』<br>『武器を捨てて両手を頭に乗せろ！』<br>『膝をついて座れ！』<br><br>　えっ！？見回すが、周りには誰もいない。<br>　僕たちに言ってる……。<br>　両手を頭に乗せた状態で、詰め寄る警備兵の手を振りほどき、叫ぶ！自分の正義を信じて！！<br><br>「僕たちは、何もしていない！！」<br><br>『白々しい！窃盗の現行犯で逮捕する！！』<br><br>「ふざけないで！あたしたちが何を……」<br><br>　全員の目が僕の頭の上に注がれる。<br>　苦労して捕まえたケサラン・パサラン……もしや、君には既にご主人様がいたのかっ！？<br><br>　警備兵は無情にも僕から天使を奪い取り、そして無造作に広げた。<br><br>「「あっ……」」<br><br>『お前たち3人を、パンツ泥棒及びパンツ被りの現行犯で逮捕する！異論は認めんぞ！！』<br><br><br>　確か、このあとに一悶着あったんだ。<br>　僕たちの“勘違い”を、言い逃れだと言い張る警備兵たちが、無理矢理ルーミィとラールさんを羽交い締めにした瞬間、僕のリミッターが外れた。<br>　路地裏乱闘事件の犯人は僕たちだった。気づいたら乱戦になっていた。3人vs5人……結果は予想できた。そこで記憶が途切れている……。<br><br><br>　それにしても、普通ここまでするか？<br>　目隠し、猿ぐつわ、後ろ手に束縛……。<br>　留置場か拘置所か分からないけど、多分3人まとめて投げ込まれた。ミールがいれば助かったのに、今日は妖精会議があるとか言って飛んでいっちゃったし。<br><br>「ん……んっ！！」<br><br>　その後しばらく、僕たち3人は人間サンドイッチ状態でコミュニケーションを取った。意外と「あ・う・ん」のみで伝わるもんだ。<br><br>　多分だけど、ラールさんは「ロト君、大丈夫ですか？私たちは警備兵に檻の中に放り込まれました。大人しく待っていれば誤解が解けて解放されますよ、もう少し頑張りましょう！」って言ってる。<br>　ルーミィは「あんたがパンツを被ったから捕まったじゃない！あたしの縄を早くほどきなさい、ここから抜け出すわよ！」って言ってる。<br><br>　そろそろラールさんを解放しよう。生きてここを出られても、ルーミィに殺されそうだから。<br><br><br>　1時間かけてルーミィの縄をなんとかほどき終わったとき、コツコツと石畳を歩く数人の足音が聞こえてきた。ルーミィが見つかる！でも、自分でなんとかするはずだ……。<br><br>『このガキ共が例の魔法使いか？』<br><br>『左様で御座います、ボス』<br><br>『よくやった！すぐに準備をしろ』<br><br>「待ちなさい！あなた、あたしをエンジェルウイングのリーダー、ルーミィと知っての狼藉？」<br><br>　えっ……ルーミィ、何してくれてんの！？<br><br>『おいっ！ガキが1匹……』<br><br>「聞いてるわけ？仕方ないわ、交渉よ！！」<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　相変わらず僕は檻の中の人。目隠しと猿ぐつわをされた状態で、誰かの遺体と向き合っている。<br><br>　これが、ルーミィが交渉した結果だ。<br>　こちらは蘇生し秘密を守る。相手は僕たちの命を保証する。こんな条件、信用できるかっ！！絶対に死人に口なしの対象でしょ。<br><br>　でも、どうすれば助かるんだ？<br>　この状況では逃げられないし、遺体を人質にとるのも意味不明だ。生き返った人に懇願するしかないのか……天使か悪魔か分からないけど。助けて、ケサラン・パサラン！！<br><br><br>　まず、左手を置く位置を探る。<br>　これは……骨じゃないな……細いけど、脚？もっと上にいこう……これはおへそか……もっと上だ……あれ？またおへそがある……さっきのは何だったんだ？まぁ、気にするな……もっと上に……あっ、女性だ……女の子と言い直そう……この辺か。うん、ベストフィット！<br><br>　目隠しのお陰でいつもより集中できそうだ。毎回目隠しさせられたら嫌だな……おっと、雑念は振り払え。<br>　左手に意識を集中していく……僕の身体に眠る勇者の魂を感じとる。温かい力。それを練り上げ、左手から解放する！！<br><br>『こ……これは……』<br><br>　今頃、檻の中は銀色の光に満ち溢れているだろうね。猿ぐつわがあるから詠唱サービスはカットしますよ。天使か悪魔か分からないけど、清らかな魂を取り戻し、僕たちを救って下さい……天より還れ、レイジング・スピリット！！<br><br><br>　左手が胸の鼓動を感じとる。温かさ、柔らかさが次第に僕へと伝わる。蘇生は成功しただろう。記念に左手を数回握りしめ、解放する。うん、相変わらず美味しい役だ。<br><br>『キャッ！！貴方は何者なの！？あれ？私は……生きてる！？生きてるわ！！』<br><br>　僕が生き返らせたんだよ、お礼に命を保証して下さいよ、と言いたい。猿ぐつわめ……。<br><br>「こんにちは。あたしはクラン“エンジェルウイング”のリーダー、ルーミィよ。貴女はこの人、神の使いロトにより蘇生されたわ。でも、よく見なさい！貴女の父の所業を！神の使い、貴女の命の恩人に何をしているのかを！！」<br><br>　隣で号泣する父らしき人を無視してルーミィが女の子に迫る。神の使いとか嘘をついてるけど、今はスルーしよう。<br><br>『父様……』<br><br>「あたしたちを今すぐに解放しなさい！」<br><br>『畏まりまり……』<br>『ならん！！』<br><br>「むっか～！この、罰当たり！！無礼者！！くず人間！！分らず屋！！禿げ！！童貞！！ロリ巨乳！！」<br><br>『くっ！……約束は守ろう。おい、馬車で2時間走ってからこいつらを解放してやれ』<br><br>『ボス……口封じしなくても良いので？』<br><br>『構わん！連れていけ！！』<br><br>　ルーミィさん……後半はどうでも良かったよね……。最後なんて醜い嫉妬だし。でも、助かったよ。ありがとう！<br><br><br><br>　★☆★<br><br><br><br>　きっちり2時間後……馬車から草むらに投げ出されるようにして僕たちは解放された。散々なデートだったよ……。<br><br>「とりあえず、ルーミィありがとう。帰ろうか」<br><br>「惚れ直したでしょ！！」<br><br>「さぁ……」<br><br>「ロト君……いくら愛し合っているからって、1時間以上は揉みすぎよ……」<br><br>　あ、人間サンドイッチの時か。あれはああいう対話じゃなかったの？<br><br>「ちょっと、ロト！今の、どういうことか詳しく聞かせてくれない？」<br><br>「今日1日が勘違いの連続だったということだよ！さぁ……早く帰ってサンドイッチでも食べようか！！」<br><br><br>　結局、建物からケサラン・パサランを放り投げた女性も、警備兵さえも“ボス”とグルだったらしい。怒りを通り越して嘆くしかない。騙される方がいけないのだから。<br>　しかし、彼らの正体は分からないまま、一連の事件は僕たちの黒歴史として闇に葬られていった。
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<link>https://ameblo.jp/angelwing2017/entry-12197330619.html</link>
<pubDate>Tue, 06 Sep 2016 14:09:47 +0900</pubDate>
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