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<title>珈琲クレイジー。</title>
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<description>指先デ、私ハ、語ル。</description>
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<title>線</title>
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<![CDATA[ <div align="right"><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20121106/15/annco926/ed/bd/j/o0473047312273288304.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20121106/15/annco926/ed/bd/j/o0473047312273288304.jpg" alt="photo:01" width="156" height="156" border="0"></a></div><br clear="all"><br><br>駅のホームで先頭に並んでいたのに、到着した電車は座れないほど既に満員だったり、七つか八つか頭を眺めながら乗り込んだ車内は、案外空いていて簡単に座ることが出来る時があったり、それを時間帯のせいや駅のせいにするのか、運が良い悪いとして毎回リセットするのか、そんなちっぽけな何かの理由で人生が出来上がっていくような気が、ふっとした。<br><br>電車の窓から見える沢山の看板は、沢山の家の屋根とそう変わらなく見える。「深夜一時まで本を買えます。」という文字が見えた。どこで降りたらその本屋さんに行けるのか、周りの景色は見る見る間に変わっていき、私がさっきの本屋へ行くことはきっとないということだけが明確で、屋根や色々な形や色をした文字が目に飛び込んでは、ビルの窓へ吸い込まれていく。<br><br><br>「俺って、おまえと付き合ってたっけ？」<br>その日も混雑を覚悟した電車が割と空いていて、出入口からすぐの窓側の席に座れた。私はあんたと付き合って無かったんだと初めて知った朝だった。会社に行かなくてはならず、いつものようにトイレに行き、顔を洗い、化粧をし、手馴れた動作でパンストを履き、携帯と財布を確認してから靴を履き駅に向かった。鍵は私の後から何処かへ出掛けるであろう人が、合鍵で閉めてくれるはずだ。いつもと違うとしたら牛乳入りのコーヒーを飲み忘れ、昨日買っておいた朝食用のプレーンのクロワッサンを楽しみにしていたのに食べ忘れたことくらいか。あいつの言ってる言葉の意味を消化するのに胃袋が満腹になってしまったのかな、などと外の景色を見ながら思った。帰ってクロワッサンが無くなっていたら怒ってやろう。<br>窓に流れ込んでくる景色に変化などないはずなのに、赤だの青だの黒だの黄色だの、物体の色だけが私の意思を無視していつになくガヤガヤと入り込んで来る。<br><br>「おまえ付き合ってるやつがいるって言ってただろう？」<br>「…あぁ、うん、それがどうかしたの？」<br>「母さんと、どんな人なのか会いたいなって話してるんだ。おまえももういい歳だろ…」<br>「あ…あー、うん、えっとね、ふっちゃったんだよね…なんかね、あの、車の運転が超下手でさっ、ほら、お父さん運転上手いじゃない？だからさ、なんか男らしくないっていうか、気持ちが冷めちゃって…」<br>「…そんなことくらいでふったのか？…はは。まぁ、事故を起こされても困るしな。母さんにはお父さんから話しておくよ。」<br>残念なはずなのに、その理由にまんざらでもなく、納得してくれたようだった。<br>あいつと車になんか乗ったことなんてない。いつもどうやって会ってたんだっけ？電車には何度か一緒に乗った。電車に乗って行った先はどこだったかちゃんと覚えていない。一度は飲みすぎて酔っ払い電話が来て、迎えに行ったんだった。言われた駅に行ったらいなくて結局いたのは違う駅で、探すのが大変で、帰る頃には電車がなくなってタクシーで家まで帰った。仕方がないやつだと一瞥くれてやりその後はすっかり忘れていた。今頃またじわりと腹が立つ。<br><br>帰宅ラッシュの電車がいつもより現実味があって、温度や匂いや気配が私に押し寄せる。声までも聞こえてきそうな錯覚がして、慌てた溜息を静かに吐いた。駅からマンションまで少し足早に歩いたのはなぜだろう。あいつはいなかったけど、クロワッサンは食べられていた。怒ってやらなくてはいけないのに怒りが出てこない。空のパンの袋に手をあて、あいつを確かめる。<br>冷たくて空っぽの袋にはクロワッサンの香りだけが僅かに残っている。<br>鼻の奥がツンとして、目頭が熱を持つ。気持ちに不本意な体の反射を振り払おうと袋をグチャグチャにして捨てる。<br><br>捨てたのは私。<br><br>明日のクロワッサンを買いに玄関へ向かう。ドアノブに手を掛けるのと同時にシューズボックスの上の鏡の中の自分と目が合う。瞳が朝より潤んでいて、あいつには見られたくない。<br>開け放ったドアから舞い込んだ空気が優しく私を纏う。鼻の奥がまた少し痛むので、息を吸い顔を上げる。廊下の常備灯がうっすら滲んで見えた。瞬きを何度か大袈裟にして駆け足で階段を降りると、エントランスの違和感に立ち止まる。殺風景な空間のはずなのに、にわかに生気を感じる植樹に朝も夕方も気付かずに通り過ぎていた。<br>葉っぱや幹の息遣いが私に吹きかかる。深緑のまばゆさは電車の窓の景色からは見えない色で、私の瞳にいつまでも留ろうとする。<br><br>拒まなかったのは私。<br><br>他人に夜を預け、朝を委ね、一人で迎える明日をただただ恐れていた。明日はきっとクロワッサンを食べ忘れたりはしない。私が選ぶ朝が来るから。<br><br><br><br><br>
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<pubDate>Mon, 05 Nov 2012 15:35:55 +0900</pubDate>
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<title>ライオンの背中</title>
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<![CDATA[ ボーダーの男の子、いや、正しくはボーダーを着た男の子か。<br>少し袖が長いボーダーのシャツを着て、丸首のやや締まった襟口からひゅるっと伸びた首があっちを見ている。何が見えるのだろう。昨日とか、明日とか、夢見がちなそんな話か？いや、きっと違う。<br><br><br>「ねぇ、何が見えるの？」<br><br>思わず聞いた。<br>細くて長い首を回し、適度に潤んだ瞳で私を見る彼が、随分昔に見た、ライオンに跨り緑の中を駈ける王子様に似ていた。あれは短い絵本だったか、それとも児童小説だったか。<br>頭をよぎる望郷が懐かしいと薄ら笑う自分に、彼は答える。<br><br><br>「鏡。」<br><br>そうか、彼が見ているのは、今の自分なのか。<br><br><br><br><br><br><div align="center"><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20120925/00/annco926/73/95/j/o0480048112204959835.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20120925/00/annco926/73/95/j/o0480048112204959835.jpg" alt="photo:01" width="232" height="232" border="0"></a></div>
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<pubDate>Sat, 26 Feb 2011 22:19:38 +0900</pubDate>
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<title>グラスの底、夏の終り</title>
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<![CDATA[ PM　4:12　　カスミ　<br><br>ストローをくるくるかき回すと氷が回る。勢いを付け過ぎて、コーヒーがこぼれそうになった。コースターは真っ白な鈎針編みで、純白のレースが汚れないように、こぼさないギリギリのところでストローをかき回す。こぼれやしないか冷や冷やしながら、グラスの淵を見つめる私の目からは涙がこぼれた。<br>視界に入る正面のスミレ模様のカップのホットコーヒーは、すでに飲み干されて、私の溢れそうなアイスコーヒーは、氷が溶け、グラスのボディは丸々とした雫のような汗をかき、コースターへと流れ落ちる。私の頬を伝う雫もそれに劣らなかった。<br><br>スミレ模様のカップの横に置かれた伝票を取り、立ち上がる。テーブルの隙間を体を横にしてすり抜け、私の横を通り過ぎる瞬間、テーブルに長い足がぶつかった。テーブルが短く激しく上下に動き、レースに黒い染みがいくつもできた。そのまま足は視界から消え、私は椅子に座ったまま、黒いコースターと、誰も居なくなった壁側のソファを交互に見つめた。出入り口の扉の開閉を知らせる鐘の音が背中に聞こえ、静かに目を閉じうつむくと、頬を伝う余裕もなく落下する涙粒が、私の手の甲にはじけ落ちていく。それでもまだ冷たさを残したグラスのコーヒーを、私はストローで一気に飲んだ。彼が勝手に注文し、勝手に入れたシロップの絶妙な加減は、いつもと変わらない。飲み干した氷さえ無い空のグラスが私に、「最後」という現実を告げた。<br><br><br><br><br>PM　5:08　　カズキ　<br><br>二人分のコーヒー代を支払うと、今までにない後味で、店の扉を開け外へ出た。開閉の度に鳴る扉の鐘が、今日はやけに耳に響く。一人きりで店を出るのは初めてだった。<br>駅までの道は、住宅とマンションと小学校を通るだけの簡単な道順で、後ろへ進めば彼女のアパートがあり、その手前の店でいつも二人でコーヒーを飲んだ。僕が彼女の好きなアイスコーヒーを先に注文し、運ばれて来たら、シロップを入れてあげる。そうすると、扉の鐘を鳴らし、彼女がやってくる。<br>「今日もネコくんいた？」<br>と、聞きながら正面の席に座ると、カラコロとストローで、シロップの入ったコーヒーをかき回し、僕らの好きな時間が始まる。今日は何も言わずにいつまでもかき回していた。とうとう氷が溶けて無くなってしまっても、彼女はやめようとはしなかった。<br><br>小学校から駅までの間にある小さな公園に、いつも同じ猫が姿を見せる。夜中だと暗くてよく見えず、いるのかいないのかわからないが、昼間は大抵この公園付近をうろついているので、横目に猫の姿を探しながら、公園を通り過ぎるのが癖になっていた。突然、公園の中央のブランコが、音を立て波打った。猫が走り去っていく。別れのあいさつにしては少々乱暴だな、と思いながら、<br>「さよなら。」<br>と、心の中で呟いた。<br><br>もう降りることのない駅から電車に乗り、彼女のことを考えた。僕の手を握り、振り子のように大きく上へ振り上げると、今度は下へ振り下げる。それを何度も繰り返しながら駅まで送ってくれた。声を上げて笑う無垢な顔を確かに愛しく感じていたはずなのに。涙を流し、コーヒーをかき回す彼女の姿を思い出すと、今更ながら罪悪感を感じた。電車の不規則な振動が、胸に溜まりつく重たい砂のような感情を振り払うのを手伝った。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>PM　7:56　　カノコ<br><br>喫茶店のバイトの帰りに、駅の手前の公園で自転車を停める。昼休憩に残しておいたラップにくるまれたチーズトーストを、鞄の横ポケットから取り出してブランコに座ると、どこからともなく薄グレーの猫が現れ、私の前にちょこんと座った。足を地面に着けたまま、腰掛けたブランコを前後させながら、パンを小さくちぎって猫にあげる。<br>「今日ね、私の好きな恋人さん達がね・・・」<br>なんて、猫に言ったってわかるわけないか。猫は、私との距離を保ちながら、前足をペロペロと舐めている。<br><br>バイト先の喫茶店に時々来るお客さんだった。恋人同士の二人が放つ雰囲気は柔らかい。私は、彼らが店に居る時間が好きだった。二人の注文はいつも同じで、決まって男の人が先に注文をした。今日も、いつものようにアイスとホットを運び、私はカウンターの中で、彼と一緒に扉が開くのを待った。遠めにはいつもと変わらない、当たり前過ぎるほどに馴染んだ光景で、それは不変のものだと勝手に信じて疑わなかった。でも、「絶対」なんてないんだ。<br>今日だけ、二人の帰りの鐘の音を二度聞いた。グラスの置かれたコースターにコーヒーが染みているのは初めてだった。口を付けられることはないということをわかっていながら、決まり事のように並んだ二つの冷水グラスは、テーブルを拭く振動のせいで、少し離れた距離を保ちながら、それぞれに揺れていた。<br><br><br><br>　　
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<pubDate>Wed, 11 Feb 2009 00:58:36 +0900</pubDate>
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<title>＜＜カップに珈琲を注ぐまで・・・（エスプレッソ編）＞＞</title>
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<![CDATA[ 珈琲クレイジーへようこそ。<br><br><br>短期間で集中して執筆した気がしています。さて珈琲を何杯飲んだことか・・(笑)<br>思い付きだけで書くことが減ってきました・・ほんとに思い付きだけで書いてるやつありますし。今はもっと深みのある内容を目指しています。<br><br>それでは、今回も解説を・・・<br><br><br><br>■<a href="http://ameblo.jp/annco926/entry-10818775206.html#main" target="_blank">スウィートホーム</a>■<br><br><br>痛快な話を書きたかったんですが、果たして痛快かどうか・・(笑)<br>笑うしかないだろ・・みたいなノリです。<br>どうしようもない親だけど、憎めない。ホタルがしっかりしていればいいじゃないか。<br>と、思っちゃいません？どっちが大人なんだか子供なんだか・・・ね。<br><br><br><br><br>■<a href="http://ameblo.jp/annco926/entry-10818775180.html#main" target="_blank">拝啓　金魚様</a>■<br><br><br>ありそでなさそな、なさそでありそな・・マニアな世界には案外あるかもしれませんよ。<br>普通そうな人間でも、案外意外な人生だったりするもんです。変わって見えてる人間でも、案外普通だったりするもんです。<br>ふつうの日常でも、ドラマはたくさん潜んでいます。私は常にそこをテーマに執筆しています。<br>普通、日常、普遍・・これ以上私の興味をそそる題材はありません。<br><br><br><br>■<a href="http://ameblo.jp/annco926/entry-10818775070.html" target="_blank">波の音を、君にだけ。</a>■<br><br><br>金魚の続編を早く書きたいけど、続け様に書くのはなんだか嫌だったので、間に箸休め的なつもりで書いたものです。その割に気に入ってたりしますけど(笑)<br>こういう男の人がいたら可愛いなぁ。と。<br>そのピアスを付けたら、ほんとうに波の音が聴こえてきそうな気がします。<br><br><br>■<a href="http://ameblo.jp/annco926/entry-10818775084.html#main" target="_blank">アカバシロマンス</a>■<br><br><br>続編を書くつもりで、金魚を書いたわけではないのですが、「続きそうだな。」と言われ、私も金魚とタクミのその後を見たいな、と思って、フツフツと書きたい欲が湧き上がってきました。<br>桜とハカセも、もっと表に出したい思いもあったので、これで日の目を見たかなぁと(笑)<br>桜のようなタイプは好きですね。私は、テンパると、金魚のような行動を取ると思います・・<br><br>生き物好きの主人がチラリちらり発する言葉からヒントを得たり、設定等の参考になっています。(笑)アップしてからバックアップも何もとらないまま、携帯からの編集をミスってほとんど消してしまいました。（しかも前にも同じような失敗してる・・）放心・・でしたが(笑)前よりパワーアップさせてやる！とムキになって徹夜で思い出しながら書きました（涙）<br><br>また続きそうな感じで終わってしまいましたが、お互いを認識するということが肝心なので、あとは二人で勝手にやって、って感じです。あまり結末を決め付けるのが好きではないので、登場人物の自由、読み手の自由に委ねたいです。<br><br><br><br>■<a href="http://ameblo.jp/annco926/entry-10818775281.html#main" target="_blank">きょうとおばんだい</a>■<br><br><br>これは・・なかなかノレなくて、時間かかりました。<br>半分、実話、半分、架空です。<br>主人は銭湯の息子でした。今はもう閉めてしていませんが、主人の祖父の代から営んでいました。勇策が主人、勇三が義父の目線で、私が経験談を脚色して書いたものです。<br>義父に、取材しました(笑)　「番台」という場所は、左右に男と女を見下ろす、異質な空間だと私は想像します。今の希薄な近所付き合いと違い、皆が一緒に地域で共に生きていた、戦争があっても今より人情があった、と私は義父の話を聞きながら思っていました。<br>「番台」という不思議な場所に座ってみたいです。大変興味深く思います。<br><br>以前から、「銭湯」を舞台に書けないかな、と思ってはいましたが、なかなか展開と構想がまとまらず、苦戦しました(笑)一回全部書き直したり・・<br>時代が飛び飛びなので、わかりにくいかもしれないですね・・<br>追々、編集の余地ありで、随時更新するかもしれません・・<br><br><br><br><br><br><br><br><br>今回も、長々とお付き合いありがとうございました。<br>コメント、拍手、ランキング投票・・頂けますととても嬉しいです。<br><br>それでは次回の　＜＜カップに珈琲を注ぐまで・・・＞＞　でお会いしましょう。<br>
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<pubDate>Sat, 02 Feb 2008 13:08:25 +0900</pubDate>
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<title>きょうとおばんだい</title>
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<![CDATA[ <div><br></div><div>勇造 ー「松の湯」二代目</div><div>勇策 ー &nbsp;勇造の息子</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div>ー　二又コミュニケーション　－<br><br><br><br><br>＜昭和40年代 中期　京都 ＞ 勇造40歳&nbsp;<br><br>舟越製材所へおがくずを買いにトラックを走らせた。横に息子の勇策を乗せたまま、途中で頼まれ物を運ぶ。お小遣い程度だがいくらかお礼を受け取り、息子さんにとラムネを一本頂いた。車のある僕の家は、よく物を運ぶ用事を頼まれる。良いお小遣い稼ぎだった。製材所からの帰りもずっと、勇策はラムネの瓶を大事に握り締めていた。<div>「開けたる、貸してみ。今飲んどかなねえちゃんの分ないねんから。内緒やで。」<div>信号待ちで息子の手から半ば無理やり瓶を奪って、ビー玉を下に落とす。もったいぶっていたのか、ねえちゃんに自慢しようと思っていたのかは知らないが、不服そうな顔だった。しばらく走って息子の様子を伺うと、ラムネは空っぽになっていて上唇に付いたラムネの雫を舌でペロペロ舐めていた。その顔は満足気だった。<br>伏見と南の境近くの東山は、閑静とは言えないが活気に溢れた土地だ。息子を車から降ろし、燃料のおがくずを釜にくべ、営業の準備を始める。火の番は親父がする。沸いた湯を風呂に張り、僕は表に湯の字ののれんを下げた。それと同時に安井はんが来るのが常だ。真冬以外はステテコ一丁に桶を持ち、帰りも同じ格好で帰って行く。しばらく後に安井はんの奥さんが来る。それぞれ男湯、女湯の一番風呂だ。僕は玄関を軽く履き、風呂が混む前のひと時を気長に過ごす。<br>日の暮れに入り口の表の植木に水を遣っていると、下駄の音が近付いた。<br>「てるちゃん、来てるか？」<br>たばこやの辰夫だった。</div><div>「おう、さっき来たとこや。中にいはるで。」</div><div>ホースの口を潰して水の勢いを強めながら、てるちゃんが来ていることを伝えた。家に風呂を造る家もだんだんと増えてはいたが、庶民の家にはまだ風呂のない家もあった。皆、風呂で誰かしらに会えるのを目的に来ている。誰かに用事がある時は、いそうな時間に風呂屋に行けばいい。銭湯は「風呂」以外で担う役割が結構大きい。</div><div>「おいでやす。」</div><div>辰夫を迎え入れるカミさんの声が中から聞こえた。間髪入れず「またおいでやす。」と聞こえ、のれんを分け出て中から仏壇屋の村田はんが出てきた。「勇造、おやすみ。」と言われ、「おおきに。」とお辞儀をして僕は中へ入った。</div><div>僕が結婚して親父と代替わりをしても、番台に、母さん以外にカミさんが座るようになったことくらいしか特に変化はなかった。安井夫婦を皮切りに、男も女も次々と馴染みの顔がやってくる。日々変わらない光景だが、番台を境に二又の通り道には毎日新鮮な空気が流れる。女湯の脱衣所から甲高い笑い声が響く。女は一度入るとなかなか出てこない。風呂もそこそこに話が尽きないようだ。脱衣所でしこたま喋り、下駄を履き、帰るのかと思いきや玄関の段の隅っこに座りまた喋りだす。明日話せばええのに。と男は思うのだった。</div><div><br><br><br><br><br><br><br><br>＜昭和50年代　後期＞ &nbsp;勇策19歳<br><br>営業の終わった後のガランとした浴場で、俺は足を伸ばして首までつかり鼻歌を歌った。友達に「贅沢」と言われ、これは贅沢なんだと知った。壁のタイルに描かれた富士とカモメを何となく見つめながら、そろそろサウナに入ろうと湯船に浸かりながらタオルを絞った。風呂に入ったついでに風呂掃除をするのが家族間の暗黙のルールだ。女湯は姉貴がして、男湯は俺の役割だった。サウナの後でデッキブラシとタワシを持って、浴場のタイルの目地をこすった。すぐに面倒臭くなり、桶で湯船の湯を適当に撒いて終わらせた。真面目に掃除をする日もあったが三日と続いたことがない。銭湯と家は少し離れていて、専門学校に通う時に毎朝「松の湯」の前を通る。早朝からおとんとおかんは風呂の掃除をする。濾過機の逆洗や湯沸かし器に溜まった垢や髪の毛などの掃除、脱衣所の掃除など毎日しなければならない。通ったついでに入り口を覗くと、浴場の引き戸を全開におとんがブラシを掛けていた。夕べ俺がサボった所をきっちりブラッシングしていた。なんだかバツが悪いので、気付かれる前にさっさと自転車にまたがった。<br><br>「こんな毎日、ええなぁ！」<br>専門学校で知り合った修司がでっかい声で言った。最後のお客さんが帰った後の風呂は、俺達の貸切だった。</div><div>「もっと早うにユウサクんちに泊まりに来ればよかったわ！」</div><div>修司は今にも泳ぎだしそうな変な格好ではしゃいでいた。銭湯は知っていても、ここが自分ちだったら…と想像するとついつい興奮してしまうのだろう。</div><div>「…え、でも、掃除とか管理とか、結構大変やで？」</div><div>俺は掃除すらろくにできないのに、知った風に言った。</div><div>「サウナもあるしなぁ…なぁ！今度女湯覗こうや！」</div><div>俺の話などまるで聞いていない。修司は銭湯から連想される事柄をできるだけ口にした。</div><div>「・・覗けるわけないやろ。」</div><div>家が銭湯だと知ると、何度と無く同じことを言われてきた俺には飽き飽きする言葉だった。</div><div>「なんで穴とか作っとかへんねん！」</div><div>怒られた。</div><div>「穴なんてないわ！壁とかタイルとか天井とか、簡単に開けられるわけないやろっ！」</div><div>俺もついムキになって答えた。</div><div>「・・・そうか、できひんのか・・」</div><div>修司は本気でがっかりしていた。</div><div>「・・おばはんや子供の裸見て何がおもろいねん。」</div><div>納得してもらえそうな理由を考えて言った。「・・・見てみな熟女の良さはわからんやろ！」</div><div>言い返しては来たが、現実はそう甘くないということを悟っている様子だった。</div><div>「商売は信用が大事や。銭湯の息子が覗きしてどないすんねん。･･･シュウジ、サウナ入ろか。」</div><div>シラけるとはわかっていても、俺は真面目な台詞を吐いてタオルを絞り身体を拭いた。俺の後に修司も続いてサウナに入った。<br>「俺、風呂の掃除せなあかんねん。シュウジ、先あがって待っといて。」<br>俺はブラシとタワシを持って再び浴場へ入ろうとした。手伝うわ、と修司が俺の持っていたタワシを取った。やり方を教えながら、二人とも裸で丁寧に風呂掃除をした。二人で手分けをしても結構しんどい。これをおとんは毎日しているのか…と思うとサボらず真面目にやろうと心の中で誓った。桶で湯船のお湯を汲んで、これまた丁寧に床のタイルに撒いた。男湯には釜への入り口があって、今は番台に湯沸しのスイッチがあり、いちいち釜まで行かなくても良いが、昔は付きっ切りで火をくべて釜の番をしていた。掃除の最後に桶と椅子を積み上げ片付けながら、何気なく釜の戸口に目が行った。改装前の釜戸の上のタイルにはヒビが入っていたことを思い出した。<br>俺が高校に上がる頃に、「松の湯」は大改装をした。それまではサウナもなかったし、洗い場の一つ一つにシャワーもなかった。サウナは改装当時まだ珍しく、おとんはサウナ代を別でとらなかったので皆に喜ばれた。サウナの増えた今では、お客さんに「勇造、なんでサウナ代とらへんねん。よそは皆とっとんで！もったいない。」とよく言われている。おとんは、取る気は全くないらしい。「おまけでサウナに入ってもろたらええねや。」と言っている。先駆けだったことと、風呂代だけでサウナに入れることで新装後「松の湯」は繁盛した。それを狙ってやるほど器用な人間ではないだろうが、皆に喜んでもらいたいというおとんの気持ちが生んだ結果だと俺は思っている。銭湯の設備も時代に漏れることなく近代化が進み、じいさんが釜戸に出入りすることも少なくなった。俺が小学校の頃、じいさんが目方を誤り釜の戸口の上のタイルで頭をぶつけた。釜の戸は大人はかがまないと通れないくらい小さい戸口だった。ぶつけたところを見たわけではないが、頭を抱えて戸の前でしゃがみこんでいるのを見たのできっとぶつけたのだと思う。頭をさすりながら険しい顔つきで風呂場から出て行った。すぐに戻ってきたが、手には金づちがあった。何の躊躇もなく釜戸の前に早足で近付くと、勢い良く金づちをふりかざし自分で頭をぶつけたタイルに思いっ切り打ちつけた。タイルにはピキっとヒビが入った…。気が済んだのか、じいさんは今度こそ本当に風呂場から出て行った。俺がなぜその時風呂場に居合わせたのかはわからない。とにかく恐ろしい光景だった。おとんとおかんに話したかどうかも覚えていないが、寝る前に布団の中で姉貴にその話をした。<br>「笑えないドリフのコントみたい。」<br>あっけらかんと言われたので、俺は少しばかり恐怖が和らいだ。<br>久しぶりに思い出した記憶にも関わらず、強烈に鮮明な記憶だった。俺は修司と並んで着替えながら風呂上りに何を飲むか、という質問に「オロナミンC。」と答えた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>＜昭和10年代中期　第二次世界大戦中＞</div><div>&nbsp; &nbsp;勇造9歳<br><br>父さんが風呂の湯を沸かし始める頃から、入り口の前には長蛇の列ができていた。一日置きに営業ができる「松の湯」は遠くからもお客さんが足を運んだ。戦争で燃料がなく、よその銭湯は三日に一度の営業がせいぜいだと父さんが言っていた。ここは、近くに軍事工場があって爆弾や爆薬の箱の廃材を売ってもらえたので、燃料は何とか調達できていた。タンクの水が沸き、湯船に湯を張り、並んだ客を入れる。風呂に溜める湯でタンクの湯はほとんどなくなる。男も女も我先にと風呂場へ突っ込み、湯船の湯は掛け湯であっという間に底近くまで減る。たまり湯のような風呂に隙間無く人が浸かる。入りきれない人達が脇のほうで順番を待つ。片足を突っ込みながら、入り込む一瞬の隙をギラギラと狙っている。芋洗いの芋よりも泥臭い光景だ。数時間かけて沸かして溜めたお湯が無くなるのは瞬間劇だった。第一陣で入り損ねたお客さんは、タンクに水を溜め、それが沸くまでまたしばらく待つより他ない。僕は、お客さんを入れる前の風呂に入る日もあった。なるべく控えめにお湯を使い、ポチャンと一人湯船に浸かると、取り残された小芋のような気がして少し寂しい気もした。<br>風呂のない日も家の前に人が並んだ。銭湯の営業と一日置きで畑をしている父さんが、引き車で採って帰った野菜を買いに近所の人が並ぶのだ。「お金なんて、価値ないで。」と大人はよく言っている。そのお金でうちの野菜は買われて行くのだ。ばあちゃんが丸まった背中に野菜を背負っては、近所のお父さんが兵隊さんに行っている家のおばちゃん達に野菜をわけてあげているのを僕は見ていた。お金に価値なんてないから、ばあちゃんはみんなにあげているのかな。ばあちゃんは近所のみんなから慕われていた。畑は遠い遠い山の中にあって、子供の足ではついていけないと言われていた。銭湯のない日にたくさんの野菜を引き車で引っ張って帰ってくる父さんなのに、ごはんで食べる野菜はいつも僕たちよりも少なかった。<br>長男の僕は、あまり忙しくない日の銭湯の下駄番をしたり、浴場の掃除を手伝ったりした。父さんの畑仕事も早く手伝えるようになりたかった。母さんの座る番台にも座ってみたかったが、男はあかん、と父さんに言われた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>＜昭和40年代　中期＞ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">&nbsp;勇策9歳</span><br><br>「勇策、一番風呂に入るか？」<br>おとんと一緒に製材所に行く前に、どっかのおばちゃんから貰ったラムネの空瓶をねえちゃんに見つからないように下駄箱に隠して、おかんに言われるまま風呂に入った。湯船に浸かっていると、安井のおっちゃんが来た。<br>「お？今日は一番、取られたなぁ。はっはっはー。」</div><div>とおっちゃんが大きな声で笑った。おっちゃんは、椅子に座ってザバザバと頭から湯をかぶった。しばらく落ち着かない動きをしていて変な人だと思ったら、突然さっきより大きな声で女湯に向かって叫んだ。<br>「かーちゃーん！石ケン忘れてしもたわー！」<br>女湯からは、「どないすんの。諦めよし！」と安井のおばちゃんの声が聞こえた。<br>「そっちの鍵開けて、チャチャっと石ケンだけ渡してくれたらええやん！」<br>男湯と女湯の間に小さい扉があって、鍵は女湯のほうに付いていた。<br>「しゃーないなぁ！こっちまだ誰もおらんし、今のうちやで。はよ取りにき！」<br>おばちゃんがカチャっと鍵を開け、手だけ男湯のほうに出し石ケンを差し出した。<br>「おおきに、おおきに。」とおっちゃんは石ケンを受け取ったが、</div><div>「なんや、ちっさい石ケン！！」</div><div>と、ぶつぶつ文句を言っていた。そんなやりとりがあったとは知らず、他のお客さんも何人か来始めた。のぼせそうになったので、あがることにした。脱衣所の鏡で見た顔は茹でダコみたいに真っ赤だった。喉も渇いていた。やっぱりさっきのラムネを飲まずに取っておくべきだったと思った。<br>番台のおかんと目が合った。タコみたいな顔のせいか、おかんはクスクス笑った。そのせいで、余計に赤くなるのを感じた。<br><br><br><br><br><br>＜昭和40年代　中期＞ &nbsp;&nbsp;<span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">勇造40歳 &nbsp;</span><br><br>カミさんの「おいでやす。」「またおいでやす。」という小気味良い声を耳に、男湯の脱衣所の点検と片付けをしながら最後のお客さんが帰るのを待って僕も風呂に入った。広い湯船を一人で占領するのはなんとも気持ちの良いものだ。営業途中で風呂場の様子を覗きに来た時に、遠山の金さんみたいな背中に、子分の若いのが湯をかけていた。横でそれを見つめていた小さい坊主がおもむろに近付いて、金さんの背中を指でなぞって、その指を見ながら不思議そうに首をかしげていた。背中がくすぐったかったのか、坊主が可笑しかったのかは知らないが、金さんはニコニコ笑っていた。どんな人でも風呂で喜ぶ顔を見るのは嬉しいものだ。<br>湯船でしばらく身体を癒すと、次は風呂の掃除が待っている。勇策がもっと大きくなって、風呂掃除くらいできるようになる日が早く来ないかと期待に胸を膨らました。<br>男湯にしかない天窓からは夜空の星が輝いて美しかった。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>ー　灯火管制　－ &nbsp;&nbsp;<br><br><br><br>夜になって電球を点ける前に、じいちゃんと父さんがすべての窓の黒いカーテンを閉める。上のほうの小窓はペンキで黒く塗り潰され、昼でも夜でも光りを通すことはない。電球にも黒くて細長いほっかぶりみたいなものをかぶせてある。黒い窓は、夜を更に暗くするような感じがする。下駄番をしながらカーテンを閉める父さんを見ていた。<br>「ふろあかいぞー！」<br>外から声がした。灯りが漏れていることを知らせてくれたのだ。父さんが窓に近付き、カーテンにできた隙間を慎重に閉め直すのを見ながら、アメリカ軍の飛行機が僕の家を見つけて爆弾を落っことしやしないかとドキドキしていた。まだ見つかっていないかもしれない。お客さんが通る度にできる出入り口の隙間を、僕は黒いカーテンの端っこでいちいち埋めた。外の見えない黒い布の向こうにアメリカ軍の戦闘機を見ていた。汗ばんだ手には、お客さんに渡す下駄の番号札が数枚あった。もうずっと夜空を見ていない。窓を開けるのが怖くて星を見ていない。<br><br>大人になったら、明るくて毎日たっぷりのお湯をみんなが使えるお風呂屋さんにしたいと僕は思っていた。夢みたいだけど想像すると胸がワクワクした。<br><br><br><br><br>「勇造、これやるわ。」<br><br><br><br><br>下駄番のご褒美にと、酒屋さんのお客さんがくれたラムネを下駄箱の隅っこに隠し置いては大事にチビチビ飲んだ。</div><div>あの窓から星空が眺められる日を夢見ながら。<br><br><br><br></div></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>※<span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><b style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px; line-height: inherit; vertical-align: baseline; background-image: none;">灯火管制</b>（とうかかんせい）は、戦時において民間施設および軍事施設・部隊の灯火を管制し、電灯、ローソクなどの照明の使用を制限することである。それにより、敵が状況を把握することを防ぎ、また、夜間空襲もしくは夜間砲撃などの目標となることをなるべく防ぐことを目的としている。</span><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">wikipediaより</span></div>
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<link>https://ameblo.jp/annco926/entry-10818775281.html</link>
<pubDate>Sat, 02 Feb 2008 02:02:17 +0900</pubDate>
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<title>アカバシロマンス</title>
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<![CDATA[ 続編です。<br>前作をお読みでない方は、先にこちらをお読み下さい。　→　<a href="http://ameblo.jp/annco926/entry-10818775180.html" target="_blank">「拝啓　金魚様」</a> <br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　櫻（モモ）　　--<br><br><br><br><br><br>「おまえ、気持ち悪いよ。」<br>オタクの弟に、気持ち悪いと言われた。私が今まで気を使って言わないであげてきた言葉を、あっさりと口にしてくれた。「おまえ、俺の部屋に勝手に入るなよ。興味なかったくせに、水槽に餌金勝手に入れてんじゃねぇよ。気持ち悪ぃって・・。」手間暇かけて飼育している魚達を鑑賞されることが彼の喜びではないのか。テリトリー侵入者のような扱いだ。確かに、勝手に部屋に入っているのだから、勝手に入るなと言われるのは仕方がないが、気持ち悪いはどうだろう。オタクに気持ち悪いと言われたら、ニキビ顔のお姉さんにエステに勧誘されるような・・・説得力がない。「なんなんだよ、急に魚観たりするようになったじゃん。おまえ結構、魚の魅力にはまってきてるだろ。素直に言えば、観せてやるのに。」侵入者にイラついていたわりに、魚の価値を理解してもらえたことには嬉しそうだった。でも、いちいち上から目線で言うので、可愛くない。<br>私が初めて餌の金魚を買いに行ってから、弟の水槽には私がアカバシで観ていたちっちゃい恐竜みたいな古代魚が仲間入りしていた。ポリプテルスラプラディという名前らしい。細長く、ナマズの背中に恐竜みたいな突起物がツンツン生えたような姿をしている。その他の古代魚は、シルバーアロワナとタイガーオスカー、単色のとにかくデカいのと、お腹の模様が派手派手しいやつだ。あとは名前がわからない。とにかく変な格好をしている。比較的大きい種類が好きらしく、デカデカと180センチ水槽で弟の愛する子供達は悠々と泳いでいる。決して広くない部屋で、古代魚用の180センチ水槽と、熱帯魚が幾種類と泳ぐ30センチから120センチサイズの水槽が所狭しと並び、餌用の金魚とメダカ用の水槽も完備されている。まるで、ミニアカバシのような光景で、違うところと言えば布団が申し訳なさそうに折りたたまれ、爬虫類がいないことくらいだ。「アカバシとは比較にならない。」と弟は言う。どうか、爬虫類にだけは手を出さないで欲しい、と私は願う。<br>「おまえ、アカバシたまに行ってるらしいじゃん。」<br>ふいを突かれ、私は焦った。悪いことはしていないけど、発作的に恥ずかしいと感じていた。<br>「・・な、なんで知ってるの！？」<br>ニヤっとオタクが笑った。・・・マジで気持ち悪い。でも、言わないであげた。彼に言うのはリアルすぎる。<br>「この前、アカバシ行ったらおまえいたから。」・・・見られていた。声くらい掛けてくれたら、と思ったけど、姉弟と知られるのも嫌だしそれで良かったんだ。「桜さんに、おまえのこと聞いたら、最近よく来てますよ。って言ってたし、あれ、俺のねーちゃん、って言っといた。なんか買うなら多分サービスしてくれるぜ。」私が何を買うんだよ、っていうか、バラしちゃったんだね・・・。<br>「サクラさんて、どの人？」素性がバレたことは諦めるしかない。<br>「すっげ綺麗な女の人いるだろ？あの人。」<br>「サクラさんて言うの？桜のサクラ？名前？」<br>「桜　美花って名前。桜は名字。女優みたいな名前だろ？」<br>得意そうにオタクが答えた。そんな仲よかったのかと嫉妬のような気持ちがしたが、当然だ。優良飼育で名を知られ、毎週通っている超お得意様なのだから。あのお姉さんは、桜　美花という名前だとわかった。益々、カメレオンに餌を与えている場合じゃないよ、と、また余計なお世話に思ってしまった。<br><br>オタクには、神秘の生物達に魅了されているから、という理由以外アカバシへ足を運ぶ理由なんてないのだろうけど、私にはもう一つ理由があった。美しい桜の花びらを宙で掴み取るような・・・叶わない淡い期待であっても、心のどこかで願っていた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　翠（ミドリ）　　--<br><br><br><br><br>「本日の定食」は、鮭カマだった。隣の学生っぽい、髪の毛が伸びて毛先の方だけ金髪になった頭をした男の子が、天ぷら丼を食べていた。ここしばらく天ぷらを食べていないことに気が付いたが、食べたいと思う前にカメレオンの姿が頭に浮かんできた。まだ当分、天丼は食べなくていいや、と思った。天丼を見たせいではないが、帰りに久しぶりにアカバシへ寄った。ここのところ仕事が忙しく、休みは一日中寝ているだけの本当にただの「休み」で消化されていた。思わず、水槽の魚達に「久しぶり。」と挨拶をしてしまいそうだった。変わらぬその形と発色に僕は癒された。いつ来ても、古いタイプの眼鏡をかけた華奢な男性店員が、何がそんなに忙しいのかと思うくらい店内をバタバタしている。実際はそんなに忙しくはないのだろうが、彼はぜんまい仕掛けのような慌しい雰囲気の男だった。この店にはふさわしいタイプではある。店員は、4、5人はいるようだが、常は2人か3人で営業しているようで、眼鏡の男ともう一人、僕が来た時は必ずいる女性店員は、レジの前でオタクみたいな男の子と仲良さそうに喋っていた。長身で、ファッションモデルにでもなれそうなくらい美人な女性だ。オタクとモデルのミスマッチも、「アカバシ」でなら思わずスルーしてしまいそうになる。外では、なかなか見れる光景ではない。彼女の心から楽しそうな笑顔が印象的だった。<br>熱帯魚を順番にゆっくり眺めながら、おもむろに上着のポケットに手を突っ込んだ。紙が入っていた。アンケート用紙だ。あの日以来ここへ来たのは初めてだった。「金魚ちゃん」は何度か来たのだろうか。爬虫類コーナーへ進みながら、一応彼女がいやしないか確認した。出口付近のアンケートの台で、裏返しに重ねられたポストの中の上の方の何枚かだけをチラチラ覗いてみたが、誰も名前は書いていなかった。ついでに一瞬だけカメレオンを見た。緑の色をしたやつはほとんどいなかった。「補色で変わるわけじゃない、気まぐれで色が変わる。」と友達が言っていたのを思い出しながらそろそろ帰ろうと思い出口に向かうと、レオンのご主人様が僕を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってきた。僕が、カメレオンを観にここへ来たのだと思って、興奮気味だった。面倒臭いのでそういうことにしておいた。もうしばらくここで時間を潰すことになりそうだ。<br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　瑠璃（ルリ）　　--<br><br><br><br><br><br>一週間に一度、店に設置されたアンケートの集計をする。集計というほどたいした仕事ではないが、意見や要望が書かれていることもあるので、チェックして、要望にはなるべく応えられるように努めている。以前に、お姉さんが綺麗でした、なぜここで働いているのか、という内容のアンケートが入っていたことがある。ここで働いているスタッフで、女は私しかいない。だから私のことを言っているのだろうけど、私はその内容にピンとはこなかった。よく、私がカメレオンなどの爬虫類に餌の虫をあげていると、不思議そうに、驚いたような顔でお客さんが私のことを見ている時がある。私は、餌を食べているカメレオンの姿が珍しくて見ているのだと思っていた。店長に、「桜ちゃん目当てで来てるお客さんも多いだろうなぁ。」と言われ、私のファンがたくさんいるということを最近知った。どうりで、カメレオンを見ているはずなのに、やたらと私と目が合うわけだ。でも、そんなに私は目を惹くような人間なのだろうか・・爬虫類や、魚などの生き物が好きで好きでたまらなくて、自分ではなかなか飼えないのでこの職場を選んだ。興味のある世界に足を突っ込んで、仕事にしている、そんなに変わった人生ではないはずだけど。<br>アンケートに書かれた内容が、わからない時は店長に聞いた。たまに店長も詳しくないほどマニアックな内容の時がある。熱帯魚や、魚類の時は、常連客の中でも群を抜いて知識と飼育の腕に長けた、通称「ハカセ」に聞く。彼は私よりずっと若いが、誰より熱帯魚を愛している素敵な男の子だ。私は、彼と話すのが好きだ。純粋に、熱帯魚や古代魚のためだけにアカバシに通う彼は、爬虫類に餌をあげる私の姿なんて、知りもしないだろう。毎週土曜日にハカセと話すのが私の一番の楽しみだった。前に、一度だけ餌用の金魚を買って帰った女性がいて、この店では見かけない今時のOLさんのような素敵な人だったので、私は印象深くてよく覚えていた。彼女は時々来るようになり、いつも熱帯魚を観ていた。その日も、いつものように熱帯魚を観に来ていた。ハカセの来る土曜日だった。「あの女の人、よく来てんの？」彼女を指差しながら、ハカセの口から女性の話題が出たのは初めてだった。私はドキっとした。ハカセのお姉さんだと知って、色んな意味で驚いたけど、それ以上に、ホっとしている自分がいた。<br><br>私は、ハカセにアンケートを見せながら、質問した。何枚かアンケートに目を通しながら、「＜金魚＞だってさ、センスねぇな。どうせ書くなら、＜ディスカス＞とかにしたらいいのに。しかも、内容意味わかんねぇし！」と笑った。私のことが書かれたアンケートだった。<br>ハカセは、「あ、そうだ。」と言って、古代魚の水槽の方へ突然去って行ってしまった。最近、特に気に入って観ている水槽には、オスフロネームスという最大で1メートルになる大型の古代魚の稚魚が泳いでいる。底に敷き詰められた砂や石が時折照明でキラキラ光る。黒というより、濃紺に近い色をした石が宝石のように光り、水槽を見つめるハカセの横顔が眩しく見えた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　視線（ネツ）　　--<br><br><br><br><br>僕は、観たくもない爬虫類コーナーで、レオンと同じカメレオンを観ていた。帰ってレンタルDVDでも観ようと思っていたのに、友達はなかなか解放してくれそうにもない。そっと爬虫類コーナーを離れた。そのまま帰ってしまおうかとも思ったけど、さすがにそこまではできず、熱帯魚コーナーを観るしかなかった。古代魚の水槽の前で、さっきのオタク君が、熱い眼差しで魚を見つめていた。時が止まったかのように彼は夢中で観ていた。どのくらいの時間見つめているのだろうか。カメレオンを見つめる友達よりも鬼気迫るものを感じた。相当好きなのだろう。レジでは、美人の店員さんが、アンケート用紙の束を手に、真剣に読んでいた。僕は、ポケットのアンケートを再び思い出し、罪悪感に駆られ、なんとなく彼らの近くが居づらくなったのでカメレオンの一角に戻ることにした。<br><br><br>その翌々週も僕はアカバシへ行った。この日も眼鏡と美人のシフトだった。今日ここへ来たのは、持ち帰ったアンケートをポストに入れるためだった。やっぱり、勝手に僕が持っているのが忍びなくなり、返そうと思った。三つ折どころか、五つ折くらいに小さく折ってしまったアンケートの紙を広げて、できるだけしわを伸ばした。ヨレヨレになった紙を一応、彼女がしていたように表向きにそのまま置いた。<br>アンケートを返したら、帰ろうと思っていた。それでもなんとなく熱帯魚コーナーに目が向いた。先々週、オタク君が陣取って観ていた水槽の前にあの娘がいた・・・。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　叶（ネン）　　--<br><br><br><br><br><br>「桜さん」に素性がバレたと知って以来、初めてアカバシへ行った。<br>店内に入ってすぐに、桜さんと目が合った。お互い自然に会釈をした。桜さんは、心なしか頬が赤くなって照れているような感じがした。やっぱり、魅力的な女（ひと）だと思った。<br>オタクバカが、次に狙っているのは、オスフロネームスという古代魚らしく、その種の中で、半分くらいの大きさにしかならないレッドフィンオスフロが欲しいのだと言っていたが、目の前の水槽に貼られたネームプレートを読まなくては、そんな名前私はとても覚えられなかった。気が短く、荒々しく、大食漢・・・どこに惹かれたのだろう。水槽の中にいるのはまだ小さい稚魚で、可愛いと思えばそう思えなくもなかったが、餌に泳いでいる金魚の方がよっぽど可愛らしかった。<br>ふと、隣に人が並んで立っているのに気付いて、私が鑑賞の邪魔をしてるのかもしれないと思い、ちょっとだけ横にずれた。何気なく横にいるその人を見た。<br><br><br><br><br>・・・・・<br><br>見間違いかと思った。見間違いであってほしいと思った。<br><br><br><br>「タクミ」だった・・・<br>正しくは、「アンケートのタクミだったらいいな。」と私が勝手に思っている男（ひと）だった。<br><br><br><br><br>ドキドキどころか、心臓はバクバクだった。<br>逃げたら余計に怪しいので、平静を装い、しばらくその場に立ち、水槽を観ているフリをした。オタクの欲しい魚なんて、もうどうでもよかった。気まずい空気に限界を感じて、この場を離れようと思うが、反対は行き止まりで、逃げるには「タクミ」をよけるしかない・・・。決意して私は動いた。予想より通路が狭く、これだけアカバシへ通っているにも関わらず、目測を誤り、私は「タクミ」にまたもぶつかってしまった。この人が、あの「タクミ」かもわからないし、私とぶつかったことなんて覚えていないかもしれない。でも今回は、事故を装うにも苦しい状況に、私は恥ずかしすぎて謝ることすらできずうつむいていた・・・<br><br>聞こえてきた彼の言葉に私は耳を疑う。<br><br><br><br><br><br><br><br>「・・・二回目だね。」<br><br>私はびっくりして彼の顔を見上げた。<br>「は、・・はい。・・・ごめんなさい。」<br>精一杯の返事だった。<br>彼は穏やかに微笑んでいた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　金魚（ワタシ）　　--<br><br><br><br><br>アンケートを元に戻したことが功を奏したのか、僕は「金魚ちゃん」にまた逢えた。<br>自分でも意外なほど冷静だった。何も考える暇もなく、気が付くと、僕は彼女の元へと歩んでいた。彼女は全然気付く様子もなく、ついに水槽の前で僕らは並んだ。声を掛けたかったが、どう声を掛けたらいいものか迷った。「金魚さん、ですよね。」と、言いたかったが、彼女が＜金魚＞というペンネームであることは誰も知らないわけで、そんなことを言えばストーカーだと思われ兼ねない。「よく、来るんですか？」・・・なんとも気の利いた台詞とは思えない。ぐるぐるぐるぐる頭で色んな台詞をシュミレーションしてみるものの、実際に口にできる台詞がなかなか出てくれなかった。棒立ちの二人の静寂を破ったのは彼女の方だった。突然、勢い良く僕にぶつかってきた。前回の再現を彼女がしてくれたのかと思って、笑いそうになった。思わず、<br><br>「二回目だね。」と言ってしまった。<br><br>彼女は、余裕なさそうに、慌てて僕に謝っていた。前に僕とぶつかったことは覚えていたらしかった。驚きと、恥ずかしさで動揺しているように見えた彼女の表情が何ともいじらしく思えたので、僕も後先考えずに口走っていた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>「・・名前、なんて言うの・・・？」<br><br><br>僕は、金魚のほんとうの名前を知りたくて仕方がなかった。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　赤橋（ラヴスポット）　　--<br><br><br><br><br>確かに彼は、「二回目だね。」と言った。<br>覚えててくれたんだ！！飛び上がるほど嬉しかった。この人の名前が「タクミ」であることは知っているけど、あのアンケートの「タクミ」であるかどうかはわからない。でも、もうどっちでも良かった。その後、いきなり名前を聞かれたのに、動揺していて、私は一生懸命素直に答えた。他にもいくつか質問をされたり会話をしたらしかったが、ほとんど覚えていない。彼への挨拶もろくに、私は出口に向かっていた。後ろから呼び止められ、振り向くと、桜さんだった。彼女は「古代魚・深海魚の不思議展」という展覧会のチケットを私に差し出し、弟に渡して欲しいと頼んできた。観に行きたいが、一緒に付き合ってくれる人がいないから・・と言っていたが、彼女は明らかに顔を赤らめていた。・・・まさか。そんな物好きがいるはずがない。冗談は、カメレオンの餌付けだけにして欲しい・・・私はにわかに信じ難かったが、彼女の瞳は、カメレオンの前で魅せたそれよりも、もっと艶やかだった・・・。<br><br>でも今は、他人の事をかまっている余裕がない。<br>とりあえず、チケットを預かり私は急いで車に乗った。<br>手には、チケットが一枚と、なぜか名詞が一枚あった。<br>＜広木　匠＞<br><br>私は、動揺している間に、「タクミ」の連絡先をゲットしていた。ことの成り行きを把握できぬまま、エンジンもかけずにしばらく放心していた。鞄の中でドリカムが鳴った。<br>『おまえ、アカバシにいるんなら桜さんに、来週レッドフィンオスフロ買いに行くから予約しとくように言っといて』というオタクバカからのメールだった。<br>レッドなんちゃらよりもっと凄い獲物がわざわざ向こうから寄ってきたというのにこの馬鹿が。<br>携帯を助手席に置いて、チケットと名詞は鞄にしまい、エンジンをかけた。<br><br><br><br><br><br><br>電話を掛ける口実が、「アカバシ」のこと以外で浮かばない。<br>「熱帯魚派ですか、爬虫類派ですか？」<br>「古代魚に地球の歴史を感じませんか？」<br>「眼鏡の店員さん、実はハタチらしいですよ！」<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>「匠さんは・・アンケート書いたことありますか・・・。」<br><br>私がアンケートで「金魚」と書いたと言ったら、笑われるかもしれないけど。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/annco926/entry-10818775084.html</link>
<pubDate>Wed, 23 Jan 2008 22:39:10 +0900</pubDate>
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<title>波の音を、君にだけ。</title>
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<![CDATA[ 貝殻に耳を押し付ける。波の音が聴こえる。貝殻をあてた方とは反対の耳から・・・<br><br>目の前に広がる海を見ながら、波打ち際に突っ立っていた。足元まで波が押し寄せ、波をよけたいのか波に拾われたいのか、どっちつかずの私の足を波は嫌がるかのように避けた。一歩前へ出る。途端に波は私の足をすくい、くるぶし辺りまで覆うと再び遠くへ去って行った。<br>右手に手にしていた貝殻をできるだけ遠くへ投げた。結構本気で遠投したつもりだったのに、思ったより遠くへ飛んでくれなかった。風のせいか、足元が緩いせいか、グランドだったらもっと飛んだはずだ、と思った。<br>結局、足を濡らしてしまった。そのつもりもなかったので、当然スニーカーと靴下はぐっしょり濡れて、ジーンズも水を含んでずっしり重い。おまけに歩く度に靴に砂が入り込む。こうなることも想像できていたのに。なぜ、一歩出てしまったのか。<br><br>また貝殻を拾う。波のBGMが響く中でもう一度耳へあてた。ピチャっと海水が耳に触れ、ガサガサと鼓膜付近で聴こえる独特の音がする。波の音は相変わらず、反対の耳からよく聴こえた。一体誰が、貝殻で波の音を聴いたのだろう・・・<br><br><br><br><br>洗濯機に靴下を放り込み、ジーンズのベルトを外し、ポケットの中身を確認してから脱いだ。拾った二個目の貝殻が入っていた。バスタブに半分ほど溜まったお湯の中へなんとなく入れた。貝殻はそのまま底へ簡単に沈んでいった。蛇口から勢い良く出るお湯はバスタブのへりで強い水流を生み、波打つ。沈みきった貝殻はその場で静止していた。<br>キュキュッとバスタブと肌が摩擦する音が響く。肩までつかろうと狭いバスタブに体を沈める。あごがつくくらいで止める。底に沈めた指先に貝殻が触れた。静まり返ったバスルームで、ヒュウっと一息吸うと、私は風呂の中に潜った。バスタブが狭くて頭のてっぺんまでは潜れなかったが、今日、海でやり残したことをやれたような気分だった。<br>風呂から出て、冷蔵庫からビールを取り出しソファに座った。食器棚の上のみかんの入った籠が目に入った。柳行李（やなぎごおり）に小豆を入れて、左右交互に傾けると、小豆の動く音がまるで波の音のように聴こえる・・・昔テレビで観た事があるのを思い出した。おもむろにみかんの入った籠を取り、みかんを出した。代わりに米びつから米を一握り取り、籠に入れた。隙間からパラパラと米が落ちる。それでも左右に動かしてみるが、小さすぎて期待していた音とは程遠いザラザラという物体的な音しか聴こえなかった。とめどなく米が落ち、ザラザラ、パラパラとあられか雨でも降るような音だった。そこらじゅうに散らばった米を掃除機で吸うと、カチカチ、カチャカチャと吸引されて、吸い口や途中の管に米がぶつかる騒がしい音がする。心地良さとは程遠かった。ついでに部屋の掃除もした。久しぶりだったので、埃が溜まっていた。隙間や隅っこのほうを細い口に付け替えて吸引していると、カチャカチャカチャ・・と米を吸った時とは違う何か固いものを吸い上げた音がした。面倒臭いと思いながらも、一応掃除機を開けて、ごみパックの中を覗き込み確認した。失くなったと騒いでいた彼女のピアスの片方だった。<br><br><br>彼女が来る日まで、失くさないように貝殻にピアスを入れて洗面台に置いておいた。ごみパックから出したことは言わずに、「ベッドの下から出てきたよ。」と言うと、とても喜んでいた。なぜ貝殻に入っているのかと驚き、私らしくない、と笑っていた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br>「波の音が聴こえそうだろ。」<br><br><br>・・・とは、恥ずかしくて言えなかった。<br><br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/annco926/entry-10818775070.html</link>
<pubDate>Tue, 22 Jan 2008 17:53:00 +0900</pubDate>
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<title>拝啓　金魚様</title>
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<![CDATA[ -- プロローグ --<br><br><br>彼と目が合った。私のことを見ていた気がする。<br>水の中で私は見ていた。私がいるのは水の中で、ガラスの向こうは水の世界ではないということを知らずに・・・・<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　緋（アカ）　　--<br><br><br>友達に連れられ、「赤橋観魚園」という熱帯魚やら爬虫類やらを売っている店へ来た。パーソンカメレオンというカメレオンを飼っている友達はここでいつも生餌を買いに来ているようで、年齢不詳の縁の太い眼鏡をかけた華奢な男性店員に、いつもの下さい。と当たり前の台詞のように言った。「いつものカクテル」でも出てくるのであれば格好良いが、出てきたのはコオロギ数匹だった。パーソンカメレオンとは、マダガスカル諸島に生息している、カメレオンの中では大きめな種類であると説明してくれた。僕はそいつが飼っているカメレオンを見たことはないが、店内にいる数種類のカメレオンを見ながら、そいつのカメレオンを見た気分になっていた。<br>「今度、俺のレオン観に来いよ。」<br>カメレオンからレオンを取ったのか・・有名映画の影響かは知らないが、レオンという名前らしい。「うん、遊びに行くわ。」と僕は答えた。目の前のカメレオンを見ながら、「これと一緒だろ？もう観たし、いいよ・・。」とは言えなかった。<br>今日は、安くて美味いので流行っている定食屋に昼飯を食いに行ったら、偶然友達に会った。土曜日でお互い休みで、僕が暇だとわかると、じゃぁ連れてってやるよ、とここへ付き合わされた。やつにとってはパラダイスだが、僕は食後に来る所ではないな・・と思いながら、さっき食べた天ぷら丼を必死に思い出さないようにしていた。まるで食後のデザートを楽しむかのような眼差しでガラスケースを見つめる友とできる会話はない。食後の爬虫類は僕には辛いので、移動した。<br>熱帯魚の水槽が所狭しと並び、さまざまな種類の魚に圧倒された。自然界でこんなにもあでやかで美しい色が生まれるのかと思うと、自然の偉大さを感じた。四角い立方体に区切られ守られた美しい生き物達は、観賞用としてガラスケースの中を泳いでいる。パチンコ店の景品棚のブランド物のバッグを彷彿とさせた。飽きの来ないデザイン、洗練されたフォルム・・・永遠に愛される定番。とでも言ったところだろうか。目的は所詮、人間の満足に過ぎないが、地球の歴史を背負って今を生きているかのような古代魚を観ていると、崇めたくなる。でも、四角いガラス張りの立方体の中では、人間の浅い歴史を強調するかのようで複雑な気持ちにもなった。自然界で・・なんて言ってる時点で、人間のおごりだよなぁ・・と色々考えたけど、考えれば考えるほど、人間って浅はかだな・・と思うのは僕だけだろうか。<br>熱帯魚のコーナーを過ぎると、レジだった。その近くに生餌用のメダカと金魚がいた。皆、元気いっぱいに泳いでいる。生きる目的を考えたくなる光景だ。幼い頃、祭の露店で獲って帰った金魚をしばらく飼っていたことを思い出した。金魚とはいえ、飼うにはそれなりの設備と世話がいる。何もしなかった僕の金魚は当然死んだ。それから生き物を飼うことはなかった。店内の角の水槽の中で赤い体がチラチラ行き交うのをしばらく眺めた。僕と目が合ったやつもいたかもしれない。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　蒼（アオ）　　--<br><br><br><br><br>なぜ、私が買いに行かなくてはいけないのか。<br><br><br>弟に言われた通りの道に私は車を走らせて「赤橋観魚園」へ着いた。熱帯魚オタクの弟に、生餌の金魚を買いに行ってくれと頼まれた。いつも休みの土曜日に餌を買いに行っているのに、今日は急に仕事で呼び出され、どうしても仕事へ行かなければならなくなったと言う。熱帯魚の他に、肉食の古代魚も飼っていて、その餌らしいが、私は休みなので嫌だと言うと、「この子達が死んでもいいのかよ！？・・・おまえが餌を買わなかったせいで、コイツらが・・・どうなってもいいのかょ！！」と訴えていた。私は、「全然、いいよ。」と言ってしまった。つい・・ではない。本音だ。<br>オタクと言うと弟は怒るが、どの角度から見ても彼は「オタク」だ。「魚の姿形、そのすべてが美しくてたまらない。これがわからないやつはアホだ。」と言っている。「じゃぁ、ほとんど全員アホだね。」と心の中で突っ込む。それなのに、好物は、ブリ照りで、食べる前に魚の神様へのお祈りが始まる。およそ3分間何やらブツブツ唱えだす。家族は皆、見て見ぬ振りをし、呪文が聞こえないように母がテレビのボリュームを上げる。<br>私しか頼める相手がいないので、弟は必死に「頼むよ・・ねーちゃん、お願いしますわ。」と腰低めバージョンでも頼んできた。あんたさっきおまえ呼ばわりしてたくせに。本当に泣きそうな弟が情けなくなって、本当に泣かれるのも嫌だし、魚が死ぬ前に弟が自殺しそうな勢いだったので仕方なく行ってあげることにした。幼虫とかは嫌だけど、金魚だしいっか・・・と思って。<br><br>こんな店があったことも知らなかったけど、弟は毎週通っているらしく、店内に優良飼育者として、弟の名前が書かれた変な魚の写真が貼られていた。「非常に飼育が難しいとされる」と説明書きがあった。魚の神様へのお祈りのおかげだろうか・・とにかく弟の顔が載っていなくて良かったと思った。店内は、四方八方が水槽だらけで、広いんだか狭いんだかわからなかった。水が入っているかいないかの違いくらいで、辺り一面ガラス張りと言ったところだ。水の入っていないほうの一角には近付かないでおこう。私には、爬虫類をペットにする気が知れない。せっかく来たので熱帯魚くらいは観て行こうと思い、熱帯魚のコーナーだけを回った。オレンジや蛍光の黄色、果てはショッキングピンクの色をした魚を見ながら、コイツがショッキングピンクの発祥なんじゃないか、などと真剣に思いながら見回った。弟が飼っているものとは違う、ちっちゃい恐竜みたいな古代魚がいて、それらを眺めながら、異質な空間に神秘的なものを感じ、やつの気持ちもわからなくもないな、と少し思った。隅っこのほうに、メダカや金魚がいる水槽があった。ビジュアルが違うってだけで、高額な投資で設備された環境でヒロインのようにデリケートに扱われるか、ジャポジャポとビニールの袋から適当にダイブさせられパクリ･････頑張って格好良く言えば、演出のための小道具としての運命か・・その差は大きいように思われるが、自然界では当然さ！と彼らは思っているのかも知れない。そもそもそんなこと思いながら生きてはいないだろうけど・・・そんな風に魚の気持ちを想像していると、案外楽しんでいる自分に気付いて、なんだか弟に負けた気がしたので早く金魚を頼んで帰ろうと店員に声をかけた。とてもこの店には似つかわしくない今時風の、美人でスタイルの良い女性だった。私は弟に頼まれた数の金魚を注文すると、「ご用意致します。お待ち下さい。」と笑顔で奥に入っていった。足元の水槽にも金魚が泳いでいた。上から見下ろすように眺めながら、小学校の頃、金魚すくいですくった金魚を飼っていたことを思い出した。あの時から弟は金魚の世話をしていたのだろうか。思い出そうとしたけど、全く覚えていなかった。。<br>奥からビニール袋に入った金魚を持って出てきたのは、古臭い眼鏡をかけたガリガリの男だった。弟のほうがまだマシだな、と思いながら会計を済ませた。さっきの女性はどこへ行ったんだろうと店内に目を配ると、あり得ない一角で、あり得ない生き物に、これまたあり得ない生餌をピンセットであげていた。愛おしそうなその表情は、私が彼氏の前で見せる顔よりも魅力的かもしれない・・と思った。私ももっと女を磨かなきゃ。そう思わせるくらい素敵だった。<br>帰り際、出口付近にアンケート用紙が置いてあるのを見つけた。「ご意見、ご感想をお書き下さい。」と書かれていた。滅多にこんなことはしないのに、なぜか書いてみたくなって鉛筆をとった。「店員のお姉さんがキレイでした。どうしてここで働いているんですか？」完全に余計なお世話だ。でも、それくらい素敵だったと伝えたかった。アンケートを入れるポストは、ポストとはとても言えない、いい加減なただの箱で、中身が見えないようにするといった配慮は全くなかった。皆、裏返しか、二つか三つに折って入れていた。私の前に書いた人だけ、堂々と表向きにそのまま置いてあった。「おもしろかったです。」と書かれてあった。無記名が基本のアンケートなのに、なぜか名前の欄が設けられていて、書く人なんていないだろう、と思ったら、前の人は片仮名で「タクミ」と書いていた。仮名かな、と思いながら私もつられて書くことにした。<br><br><br>お名前　「金魚」<br><br><br><br><br><br>店を出て、ビニール袋をぶらさげながら、車に乗り込んだ。<br>・・・・・さて、どうやって運転しようか・・。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>--　　紅藍（ムラサキ）　　--<br><br><br><br><br><br>休日に男二人で連れ立って、熱帯魚屋に行くのもいかがなものかと思うが、次の月の休みも僕は熱帯魚を観ていた。<br>結局、レオンを観に行くのを断りきれずに、来月行くと言ってしまった。友達の部屋で観たレオンは、やっぱりただのカメレオンで、なんと感想を言えばいいのか困った。「可愛いね。」も違うし、「凄いね。」もわざとらしい。「・・・結構、デカいね・・」こんなつまらない台詞しか言えなかった。友達は、意外とあっさり、「そうなんだ。パーソンは、横もデカいんだよ。」と答えてくれた。案外的確な感想を言えていたらしい。レオンと同じ空間で、僕達はコーラを飲みながら話した。レオンの話や、仕事の話、学生時代の話などをして、最終的にレオンの話に戻り、今から赤橋へ行こうということになった。「アカバシ」なんてお洒落スポットみたいに言っているが、マニアなやつにしかわからないだろう。でも残念なことに、今の僕には通用している。<br><br><br><br><br><br><br><br><br>綺麗なお姉さんと、神秘的な空間が妙にはまってしまい、あれから度々熱帯魚を観に行った。お姉さんはいつも真面目に働いていて、私は、アンケート読んでくれたかな、とずっと気になっている。「赤橋観魚園」は地元では老舗のようで、いつも結構人が来ていた。ここは、通称「アカバシ」と呼ばれ、弟みたいな人達には聖域のような場所らしい。「アカバシでさー・・・」と言われても。「あぁ、アカバシねー・・・」とは普通はならない。でも、私もアカバシ系になりつつあるのだろうか・・<br>私の場合は、観るだけで、買ったことは一度もない。にわかアカバシとでもしておこう。そんなことを思いながら、水槽に視線を送る。ライトに照らし出された姿はなんとも幻想的で現実の嫌なことをひと時でも忘れられる。水槽に見惚れながら進んでいると、いつのまにか爬虫類コーナーとの隣接地点にいることに気付き、慌てて引き返そうと思い切り振り向くと、真後ろに人がいたのを知らずに勢い良くぶつかった。<br>「・・ぁっ！すみませんっ！」<br>とっさに謝りながら、上を見上げた。およそ爬虫類や熱帯魚などとは無縁そうな、今時っぽい男性だった。こんな人もこんな店に来たりするんだ・・と一瞬の間で思っていた。なんだか恥ずかしかったので、謝るとすぐに出口の方に向かって走った。逃げたと言った方が近いかもしれない。出口に行くまでに、やっぱり気になって、爬虫類のコーナーをこっそり見た。お連れの方と思われるトカゲみたいな顔をした男の人に「おい、タクミ、これ観てみろよ。」と呼ばれていた。どっかで聞いた名前のような気がした。出口付近のアンケートを見て、思い出した。でもまさか同じ人なわけないと思った。本名なんて普通は書かない。<br>出る前に、私は２回目のアンケートに答えた。<br><br><br>お名前　「金魚」<br>ご意見　「いつもこちらの熱帯魚に癒されます。また来ます。」<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>相変わらず、カメレオンに夢中のレオンの飼い主は爬虫類コーナーに入り浸りだった。僕は、やっぱり熱帯魚を飽きずに眺めていた。すっかり魅了され、居心地の良さすら覚えていた。今日も、古代魚達は時代を飛び越えて、壮大なスケールをガラス越しに僕に見せ付けた。そんな熱帯魚コーナーを廻っていると、僕の前を普通のOL風な女性が歩いていた。彼女は突然勢い良く振り返り、僕にぶつかった。こんなところには絶対にいない類の女性だった。僕より少し若く見えた。彼女はすぐに謝り、僕も「・・すみません。」と謝った。そのまま逃げるように出口の方へ去って行ってしまった。去っていく後姿を目で追いながら、友達に呼ばれたので再び爬虫類コーナーへ戻った。レオンのご主人様を半分無視しながら、さっきの娘がいないか探した。出口付近でアンケートを書いている姿を見つけた。書き終わって出て行くのを見届けると、僕は出口に向かっていた。他人の書いたものを見るような下品なことをする人間ではないつもりだが、興味を持ってしまったらしい。彼女は、堂々と表向きにアンケートを箱に入れていたので、僕は容易に内容を知ることができた。<br>以前からここへ来ていて、そして今後も来る、とのことらしい。<br><br>前に、僕がうっかり本名を書いてしまった名前の欄に、彼女は「金魚」と書いていた。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>帰りの車の中で、熱帯魚の余韻なんてそっちのけで思っていた。さっきの人がアンケートの「タクミ」だったらいいなぁ・・って。ドキドキしながら少女マンガのような運命を期待した。現実はそう甘くはないことは知っている。でも、また「アカバシ」で会えたら・・・なんて、マニアックすぎてマンガでも無理があるな・・と思いながらも、しばらくドキドキは消えなかった。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>僕は、こっそりその娘のアンケート用紙を適当に折って、ポケットに忍ばせた。なぜだかは自分でもわからないが、まじないの一種みたいな気持ちだった。そのまま熱帯魚のコーナーを素通りして、金魚の水槽の前に立った。<br><br><br><br><br><br>「金魚ちゃんかぁ・・・。」<br><br><br>僕は呟いた。その時、一匹の金魚と目が合った気がした。<br>金魚を観に、ここへ通うのも悪くないな、と思った。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/annco926/entry-10818775180.html</link>
<pubDate>Thu, 17 Jan 2008 20:09:37 +0900</pubDate>
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<title>スウィートホーム</title>
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<![CDATA[ 雑誌の切り抜きを持って美容院へ行った。本当は、深津絵里の写真がイメージに一番近いのだけど、深津絵里みたいになれるなんて思ってないのに、美容師に深津絵里みたいになれると思ってんじゃないの？って思われそうで嫌だったので、一般モデルの写真をわざわざ探した。<br>私はかなりくせっ毛なのでストレートパーマをかけている。1ヶ月前にあてたばかりなので今回はカットだけでいけるのか聞いた。くせに関しては大丈夫とのことだが、写真のヘアスタイルは今とそう変わらないから今回はカラーリングをしてみてはどうかと言われ、深津絵里は黒髪でそれがかっこいいと感じて憧れているくせに、目の前の美容師さんがいつもお洒落で髪の毛は明るめに染めていて、その場の一時的な流れで、カラーもいいかも・・なんて思ってしまい、「お願いします。」なんて口走っていた。今夜は無礼講！的な感覚だった。<br><br>ダメージ補修のトリートメントも施してもらい、ブローをしてもらっている私の髪の毛は艶々に光って綺麗だった。<br>「お疲れ様でした。トーンが少し上がっただけでも印象が変わりますね。こういう感じも素敵でお似合いですよ。」<br>と言われた。確かにいつもと印象が変わって、天津甘栗っぽく美味しそうな色になった。<br><br><br><br><br><br><br><br>「毛、染めたの？」<br>美容院へ行った２日後に母に言われた。気付くのが完全に遅いが、いつもの調子なので、私は普通に「そうだよ。」と答えた。「甘栗みたいでかわいいわよ。」と言われ、私も母と同じようなことを周囲にしてやしないだろうかと少し不安になった。<br>「ほたるちゃん、甘栗食べたくない？」<br>「・・・別に食べたくないよ。」<br>「お母さん、ほたるちゃんの頭見てたら甘栗食べたくなっちゃった。一緒に食べようよ。だから買ってきて。」<br>「食べたいのはお母さんなんだから、お母さん行けばいーじゃん。」<br>「お母さん、さっき買い物から帰って来たところなのに？」<br>・・・・関係ないし！私食べたくないし！でもこのまま話しててもどうせラチがあかないので、渋々買ってきてあげることにした。<br>「ついでに、黒船屋でチーズケーキ買ってきてもいい？」<br>どうせなら私の食べたいものも買うべきだと思い、頼んだ。<br>「なんで？衝動買いはやめなさいよ。」<br>返ってきた返事は矛盾だらけだった。いつも母のペースに巻き込まれていつのまにか母の思い通りに事は進むのだった。５００g入りの甘栗がきっちり買えるだけのお金を持たされ私は商店街へ向かった。<br><br><br>父も母も私の事を「ほたるちゃん」と呼ぶ。本当の名前は「蛍子（ケイコ）」だ。<br>私が生まれた時、父親は蛍光灯を買いに行っていた。家に帰ったら、ばあちゃんから病院から電話があって私が生まれたのを知ると、父は、蛍光灯を取り替えてから病院へ行った。<br>「部屋の蛍光灯も生まれ変わった。絶妙なタイミングでこの娘は生まれたんだよ。名前は蛍子だ！」と母に言うと、その足で出生届を出しに行ってしまった。このふざけた理由を初めて聞かされた時、父はとても誇らしげに語っていた。母も私の生んだタイミングのおかげよと言わんばかりの表情だった。幼いなりに空気を察して、「ありがとう。」と残念な出生秘話を感謝の言葉で締めくくった。こんな由来は恥ずかしくて友達には言えないので、幸い丁度夏生まれだったので、私が生まれる少し前に、両親が蛍を見に行った時、綺麗な蛍を見ながら父親が名前は「蛍子」にしようと言ったから。と、自分でロマンティックに脚本して話している。本当は、スーパーの家電コーナー。しかも生まれた瞬間に。<br>どうせ「ほたるちゃん」と呼ぶのなら、なぜ「蛍」か「ほたる」にしなかったのかと聞くと、「北の国から」でいじられてお前がいじめられたら困るだろ、とむしろ危機を回避してやったのだという間違った優しさから「蛍子」になった。その由来の方がよっぽどネタだろ、と心で思っていた。<br><br>子供の頃から、親が「ほたるちゃん」と呼ぶので、周りも皆「ほたる」と呼んでいる。多分、「蛍」だと思っている人も多いだろう。父親の心配していた「北の国から」に絡んだイジリは今のところ一度もない。本籍を「ケイコ」にしていたら、普段は「ホタル」と呼んでもからかわれないと思った心理を追求したいが、追求したところで名前は変えられないのでしない。<br><br><br><br><br>閉店間際に、商店街のお茶屋さんの前に出ている天津甘栗の小さいスペースに辿りついた。<br>５００円を払って５００gの甘栗の袋を受け取った。<br>あったかい甘栗達を上から覗き込みながら、やっぱり美味しそうな色だな、と思った。<br><br><br><br>家の前に着いたところで後ろから声がした。父親が帰ってきたのだ。<br>「ほたるちゃん、どっか行ってたのか？」<br>「おつかい。」<br>母親が私の頭を見ておつかいをさせた下りを話すと、父は「そりゃ、欲しくなっても仕方がないな。」と信じられない共感を見せつけ、私は＜家の中で理解を求めても仕方がないな＞と思った。夕食の前後に母は甘栗を食べた。私と父は夕食後に甘栗を食べた。甘くて美味しかった。<br><br><br><br>なんとなくテレビを観ていると、古めの「北の国から」の映画の再放送が始まった。ゴロウさんが、ものまね芸人のように「ほたるぅ～」と言っていた。三人で最後まで観た。ほたると呼ばれると、少々反応してしまう自分がいた。<br>「おいっ、ほたる、お前も「蛍ちゃん」みたいに昔は可愛かったんだぞ！」<br>父親が映画に感動して泣きながら言った。私も親にベタベタはしないが、避けたりするほど反抗的でもなく、どちらかといえばまだ親と喋る方だ。父はただ悲劇的にしたいだけでそんなことを言っているだけだ。母に至っては、<br>「なんなら息子も生んで、純くんにしたらよかったねぇ。」などと言い出した。<br>「ほんとだ・・・」<br>しみじみと父も共感していた。<br><br><br><br>・・・・・。<br>いじられたくなかったんじゃないんですか？<br>いじってほしかったんですか？<br><br><br><br><br>私は、残りの甘栗の皮を親指の爪で力いっぱい押しながら、次々とパカパカ皮を開けながら、イライラしていた。<br>テレビを観ながらいくつか開けて、左横に中身だけを溜めてから後で一気に食べようと思っていた。５、６個溜まったくらいで、そろそろ食べようと思いテーブルの正面より左を見た。<br>甘栗はなかった。<br>同じようにテレビを観ながら、母が私の剥いた栗を食べていた。普通に。<br>「お母さん、わたしにも一個くれ。」と、父。<br>「はーい。」と母が父に私が剥いた栗をポーンと投げた。父がそれを口でキャッチする。<br>「お父さん、ナイスキャッチィ！」と手を叩いて喜ぶ母。褒められて得意気に笑う父。<br><br><br><br><br><br>もう、「ホタル」でも、「ケイコ」でも何でもいいわ、と思った。<br>「蛍光灯」でもいいと思った。<br><br><br>二人には「ほたるちゃん」に変わりはないのだ。<br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/annco926/entry-10818775206.html</link>
<pubDate>Sun, 13 Jan 2008 17:42:37 +0900</pubDate>
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<title>いつもの珈琲に角砂糖を溶かし込む・・・雪が地面で融けるように・・・</title>
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<![CDATA[ 本年は、珈琲crazyで創作、表現ができ、自分の新たな一面を発見できた気持ちです。<br><br>度々訪れてはコメントを頂戴しました方々、足を運んで頂きました方々、ご愛読感謝申し上げます。。<br><br><br><br><br>まだ始めて半年・・・後半は更新もなかなかままならないペースでしたが、来年は、皆様の心に染み入るストーリー展開を目指し、日々の日常を見過ごさないよう毎日を大切に過ごしたいと思います。<br><br><br>来年もコメント頂けますと喜びます。<br><br><br><br><br><br>2007年は、皆様にとってどのような一年だったでしょうか。<br>私は、得るものの大きかった一年となりました。<br><br><br>来年もどうぞ　「珈琲crazy 」　をご贔屓願います。<br><br><br>本年最後の更新は、ご挨拶にて失礼致します。<br><br>最後までお付き合い頂きありがとうございます。<br>皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。<br><br><br><br>「珈琲crazy」オーナー　　幸 あん子・・・<br><br><br><br><br><br><br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/annco926/entry-10818775121.html</link>
<pubDate>Sat, 29 Dec 2007 21:56:13 +0900</pubDate>
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