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<title>長女の書庫</title>
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<description>２０１５年１月に卵巣癌で亡くなった母の人生を綴る書庫です。他のお話も書くかもしれません。</description>
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<title>寒い日</title>
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<![CDATA[ <p>今日はみこちゃんの二回目の命日だ。</p><p>日付が１月２０日に変わってすぐ亡くなった。</p><p>昨年は初命日だというのに、２０日か２１日か、記憶が曖昧で死亡届を見直したいい加減な娘である。</p><p>&nbsp;</p><p>芯まで凍りそうな、寒く暗い夜だった。</p><p>大の寒がりで冬嫌いの人が、わざわざこんなクソ寒い日に、しかも真夜中に死ななくてもいいのにとぼんやり考えていた。</p><p>これがせめて明るい昼間とか真夏の熱帯夜とかなら、ここまで淋しい気持ちにならなかったのに。</p><p>病院から自宅へ遺体を連れて帰る業者の車内で、</p><p>『長年この仕事してますが、深夜に亡くなる方が一番多いんですよ。あと月の満ち欠けがなんとか～生命って不思議ですね。』</p><p>詳細は思い出せないが、そんな話を聞いていた。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>何年か前の、まだ母が病気になる前の、ニュースとかドラマの再放送とかそんなものを目にする度に、ああこの頃に一瞬だけでもいいから戻れたらと考えてしまう。</p><p>２０１０年の秋から冬には、もうお腹がどんどん張ってダイエットしなきゃなんて言ってたから、夏頃かな。その頃に戻れたら、『これからもれなく卵巣癌になるから！お腹が張ってきたらもう遅いから！今からこまめに検査受けて！』って教えてあげられるのに。</p><p>最初は何だ？って思われても、真剣な顔で伝えれば信じてくれるよね。</p><p>もっとずっと前の、私の子供時代に１分だけ意識だけなら戻してあげられますよとか言われたら、とりあえずメモに『２０１０年の夏、卵巣癌の検査を受ける様に』って走り書きして渡して、</p><p>『意識だけ未来からきたの！２０１０年、覚えやすいでしょ？私が結婚式挙げる年だよ！死んじゃうから絶対検査受けてね！じゃあね１分しか居られないから！』って、これも真剣に伝えれば子供でも信じてもらえるんだろうか。</p><p>そんなアホな想像を真剣にしてしまう。</p><p>&nbsp;</p><p>ここまでじゃなくても、癌やその他早期発見が必要な病気になった人やその家族は、もしも早く気付いていたら、教えてあげられたらって、ほとんどが考えると思う。</p><p>&nbsp;</p><p>癌は本当に嫌な病気だ。</p><p>ネチネチしつこくて、本人も家族も巻き込んで深い谷底へ突き落とす。</p><p>ふと顔を上げると、周りを歩く見知らぬ人全てが生命力に溢れ輝いて見え、たまらない孤独感を感じた。</p><p>特に自分と同じ世代の赤ちゃんを抱いた女性と、その両親らしき人達が楽しそうに歩いているのを見ると、たまらない気持ちになった。</p><p>なんでうちのお母さんだけ、私だって子供も産まれてまだまだお母さんが必要なのに。</p><p>この世には他に命を奪ってもいい様な極悪人が沢山いるじゃないか。</p><p>なんでよりによって、お母さんだけ。</p><p>せめて両親揃ってる人からにしてよ。私にはお母さんしかいないのに。</p><p>悔しさや妬ましさでそんな酷いことを考えたりした。</p><p>それを母に言うと、『他人のことをそんな風に考えちゃいけない。そういう他人の不幸を願う様な黒い感情は、悪いものになって自分に帰ってくるから。絶対考えちゃいけない。』</p><p>そう諭された。</p><p>親はやっぱり親だ。</p><p>&nbsp;</p><p>今は逆に親が健在な人を見ると、あの人はこれから親を亡くす悲しみを乗り越えないといけないんだなと考え、切なくなる。両親健在な人はそれを二回分。</p><p>『ななちゃんは親と別れる悲しみに耐えたんだよ。今はまだ辛いかもしれないけど、七回忌の頃には、きっとスッと楽になるからね。』</p><p>夫との死別に耐えた、伯母のそんな言葉が救いだ。</p><p>&nbsp;</p><p>それに事故や災害で突然家族を亡くした人達に比べれば、私は十分母に寄り添い別れる準備が出来た。</p><p>それだけでも恵まれていたのだから。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>今日も雪がちらつく寒い一日だった。</p>
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<pubDate>Fri, 20 Jan 2017 22:49:54 +0900</pubDate>
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<title>お風呂に入りたかったから</title>
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<![CDATA[ <p>『今まで会った人の中で一番格好良かった！俊二なんかよりも！』</p><p>と言うのは、みこちゃんが当時心魅かれていた職場の上司である。</p><p>よく分からないが俊二よりもずっと端正な顔立ちで、仕事の出来る男だったらしい。</p><p>そんなみこちゃんもバツイチ子持ちに関わらず、気さくで可愛かった為、男性社員から断トツで人気があった。</p><p>&nbsp;</p><p>二人は自然と惹かれあったが、その上司は妻子持ちだった為お互いどうこうしたい訳でもなく、可愛らしいデートを何回かした程度と言っていた。</p><p>その『可愛らしいデート』の定義も曖昧な所で、惹かれている時点で浮気といえば浮気だし、いや本気になるのか？</p><p>そもそもまだ若い男女が可愛らしく済む訳がないと思うのだが、なんとなく突っ込んで聞くことは出来なかった。</p><p>なな子がいるのにそのデートは一体いつしたのか、それだけは尋ねてみたら、『えー保育園に預けている時で、自分が仕事休みの日じゃない？』と。</p><p>あれ、自分が仕事休みの日は保育園を休ませて必ず一緒に過ごしてたんじゃなかったのかい！と軽く突っ込んでみたが、『まあそういう時もある』と実に軽い反応だった。</p><p>浮気の定義、是非‥は悪いに決まっていて、自分も俊二にされたくせにとか突っ込みたい気持ちはあるけれど、みこちゃんが子供と仕事だけでなく、そういう時間も少しあったことにホッとしていたりする。</p><p>そして常に人は人に惹かれ、動くことが面倒でなければ、ポンと乗り越えてしまう危うさも改めて学んだ。</p><p>色々と人に恋したみこちゃんが、恋から離れて最後に辿り着いたのは、</p><p>『よっぽど人間的に欠落しているとか、よっぽど価値観が合わないとか、そういう相手じゃない限り結婚しちゃえば誰でも然程変わらない。男女なんてそんなもん。』</p><p>という考えだった。</p><p>確かにそこそこ優しくて、そこそこ価値観やテンポが合い、生理的に無理じゃなければ、誰でも然程変わらないかもしれない。この『そこそこ』を見極めるのが意外と難しいとは思うが。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>ある日みこちゃんの担当レジに、そっと小さなプレゼントの包みを差し出した男性客がいた。</p><p>小柄で優しそうなその男性は彼女のタイプではなかったけれど、なな子を可愛がってくれたことと特に害がなかったことで、見事、いや不幸なことにみこちゃんの二番目の夫となる。</p><p>何しろ再婚を決めた最大の理由は、『お風呂のある家に越したかったから』なのだから。</p><p>ただ彼女のタイプではないというだけで、『あんたの旦那さん格好良いわよね』と人から言われるまでその中々整った顔に気付いてもらえなかった、可哀想な男である。</p><p>そしてこの安易に選んだ夫が、みこちゃんの挙げる結婚には向かない『よっぽど価値観が合わない男』だということに、割と早い段階で気付くことになるのだが。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>こうしてみこちゃん母娘はアウシュビッツを脱出し、念願の風呂付のアパートに移り住んだ。</p><p>２ＬＤＫの狭い部屋だったが、いつでも好きな時にお風呂に入れるこの家は、彼女にとって正に天国だった。</p><p>みこちゃん３１歳。なな子５歳。</p><p>新しい生活の始まりである。</p>
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<pubDate>Wed, 18 Jan 2017 23:33:06 +0900</pubDate>
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<title>もう一人の父と母</title>
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<![CDATA[ <p>みこちゃんが仕事でなな子のお迎えが遅れる時には、近くのよっ子姉夫妻が代わりに保育園へ行ってくれた。</p><p>二人が来ると、なな子は歓喜のあまり、園の廊下の端から端まで駆け抜けながら喜んだという。</p><p>大人しいなな子がおかしくなる程興奮する姿を見て、余程保育園が辛いのかと、よっ子姉の二番目の夫ヒデキは心配したそうだ。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>ヒデキ━━周りからヒデちゃんと呼ばれるこの男性は、大の子供嫌いである。</p><p>現在は山でペンションを営んでいるが、例え客の子供であろうと、騒いだら睨み𠮟りつける程だ。</p><p>ところがなな子は子供のくせに静かで手がかからなかった為、見事ヒデキにはドストライクの子供だった。</p><p>生後何か月だったか、真夏にオムツ一丁にしてホースで水をジャバジャバかけたり（なな子は喜んでいた）、一歳頃、自転車に適当に乗せて落っことしたりなど（なんとか無事だった）。</p><p>扱いは多少雑だったが、子供嫌いが嘘の様に可愛がっていた。</p><p>江戸っ子気質でせっかちで短気な面もあるが、元々優しく温かいのである。</p><p>よっ子姉はみこちゃんと同じく大のイケメン好きだが、この決してイケメンとは言えない細い三角眼の男を二番目の夫に選んだのは、最初の夫との間の息子に、冷たい態度をとったり苛めたりしなかったからである。</p><p>大の大人が、というところだが、男はいつまでも子供で嫉妬深い生き物だ。ヒデキの前に付き合っていた何人かの彼氏は、皆大なり小なりその様な態度をとった為再婚には至らなかったという。</p><p>ふー子姉も、『いままでとは全然違う、よっ子姉の全然タイプじゃない男だから、今回は絶対長続きする！』と太鼓判を押したそうだ。</p><p>その言葉どおり、現在も喧嘩の息までピッタリの、仲の良い夫婦である。</p><p>&nbsp;</p><p>ヒデキは自分の兄弟と確執があり仲が良くなかった為、よっ子姉の温かい兄弟達を心から好いていた。</p><p>『お前らんとこは仲が良くていいよな。』と呟く姿が淋し気に感じることもあるが、血の繋がりなど誰もが忘れるくらい、このヒデキはすっかり身内の一員だ。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>みこちゃんからそっと聞いたことだが、このよっ子姉夫婦には、産まれてすぐに心臓の病気で亡くなった息子がいる。</p><p>なな子が産まれる少し前だから、生きていれば同い年になる筈だった。</p><p>ヒデキにとっては血の繋がった実の息子であり、最初の夫との息子にとっても実の弟であり、家族の絆がより深まっていただろうと考えると、その喪失感や辛さは計り知れない。</p><p>元気に産まれたなな子を見て、思い出すから見たくないとか妬んだりとかそういう感情を持ってもおかしくないと思うが、よっ子姉は自分の子の様によく面倒をみてくれた。</p><p>むしろその子が元気に産まれていたら、きっと私はあんなには二人に可愛がってもらえなかっただろう。</p><p>&nbsp;</p><p>なな子にとって二人はもう一人の父と母であり、みこちゃんにとってはかけがえのない育児のパートナーであった。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>ところでふー子姉もよっ子姉も、『二番目の夫』と書いているが、二人とも最初の夫は事情があり亡くなっている。</p><p>みこちゃんなんかよりもずっと壮絶なドラマがあると思うが、二人はまだ健在で、許可ももらっていない為恐ろしくて書けない。</p><p>伯母達はいつまでも最高にして最強だ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/bossmax55/entry-12238494477.html</link>
<pubDate>Mon, 16 Jan 2017 01:15:35 +0900</pubDate>
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<title>本当の青春時代</title>
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<![CDATA[ <p>俊二と別れた母娘は、別のアパートに引っ越した。</p><p>１歳の子を抱え借金を返しながらの生活だったので、いつもお財布の中はこざっぱりとしていた。</p><p>近くに住むよっ子姉が持ってきてくれるシュークリームの、クリームを少し取って置き、これを食パンに付けて食べるのがみこちゃんの細やかな楽しみだった。</p><p>&nbsp;</p><p>みこちゃんの心身が落ち着き、フルで働ける様になった頃、アパートから団地へ引っ越した。</p><p>よっ子姉の二番目の夫から、『アウシュビッツ』と呼ばれたその団地は、古く暗く風呂なしで狭かった。</p><p>銭湯に通えるのは週二日程なので、綺麗好きのみこちゃんはたまらず、ベランダに仕切りを立てて髪やお尻を洗った。</p><p>小さな娘は台所の流しで隅から隅まで洗われた。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>複雑な家庭に産まれてしまった娘のなな子は、大人しく育てやすい子だった。</p><p>雪の中金の工面に走り回るみこちゃんのお腹の中で、『あちゃーなんか大変な所に来ちゃったな。こりゃかなり気を遣わないとヤバいわ。』と、悟ったに違いない。</p><p>もしもこれがギャンギャン泣く赤ん坊だったら、精神不安定だったみこちゃんに、とっくに放り投げられていただろう。</p><p>&nbsp;</p><p>２歳から保育園に預けられるが、身体が弱く、ひと月の半分以上は風邪をひいていた。</p><p>しょっちゅうゴホゴホしていたが、みこちゃんが仕事を休めないことをよく理解していたのか、一度も保育園を休みたいと言ったことはなかった。</p><p>娘の気持ちを痛い程感じていたみこちゃんは、仕事が休みの日は必ず保育園を休ませ、一緒に過ごしたという。</p><p>園の先生から、『仕事がお休みの日は、お子さんを預けて遊びに行ってしまうお母さんも多いのに、必ず休ませて一緒に過ごされて偉いですね』と言われ、それが当たり前のことだと思っていたみこちゃんはキョトンとしたという。</p><p>&nbsp;</p><p>なな子は何かを欲しがって、駄々をこねたりワガママを言ったこともなかった。</p><p>たまにお菓子や玩具売り場の前で、じっと立ち止まって見ている時があり、そんな時はみこちゃんの方から『欲しいの？買ってあげようか？』と尋ねていたという。</p><p>自分からねだった物で覚えているのが、保育園の女の子達が付けていた、レースやリボンなどの大きな飾りが付いたヘアゴムだ。</p><p>いつもボンボリでちょんまげにしていたから、お姉さんぽくて羨ましかったのである。</p><p>言ってもいいのかな？と思いつつ、勇気を出してねだってみたら、保育園からの帰り道、みこちゃんはすぐに買ってくれた。</p><p>とても嬉しかった。</p><p>スーパーでひっくり返って泣く子供をみる度、『なんでこうなるんだろう？しつけかな？』とみこちゃんは不思議に思っていたそうだが、ふー子姉から『みこちゃん、それが普通の子なんだよ。ななちゃんが普通じゃないの。』と言われ、初めてなな子のおかしさに気付いたそうだ。</p><p>&nbsp;</p><p>保育園では様々な家庭の事情を考慮し、遠足のお弁当はおにぎりだけと決まっていた。</p><p>私ならばラッキーと思ってしまう所だが、食いしん坊のみこちゃんにとっては、可愛い我が子のお弁当をおにぎりだけで済ませるなど納得出来る訳がない。</p><p>遠足当日、なな子のおにぎりの横には、ラップで小さく包まれたおかずがちょこんと入っていた。</p><p>それを見つけた友達が、『あーおかず持ってきちゃいけないのに持ってきてる！いけないんだー！』と騒ぎ立てたものだから、すごくいけないことをした気になり、折角のおかずも味がしなかった。</p><p>『おかずを絶対持ってきてはいけない訳じゃないんですけど、お父さんだけで用意が難しいお家もあるので、一応皆おにぎりだけで統一しているんです。</p><p>今回みたいにお友達に言われるとななちゃんが可哀想ですし、でも栄養バランスが心配なお母様の気持ちも解りますので、次からはおにぎりの中におかずを入れたらどうでしょう？』</p><p>そう先生からアドバイスを頂き、次回から早速みこちゃんは秘密のおにぎりを作ることにした。</p><p>『どうだった？』</p><p>『うん！おにぎりの中に入ってたから大丈夫だったよ！』</p><p>卵焼きやら唐揚げやら、せっせとネタを仕込むみこちゃんは実に楽しそうだった。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>みこちゃんの勤め先は、駅前の大きな総合スーパー。</p><p>客足が多く忙しかったが、元来明るいみこちゃんは接客が好きだった。</p><p>バブル全盛期の当時、物価は高かったがお給料もそこそこ良かったらしい。</p><p>借金も返し終わり、少しずつ貯めたお金で、ずっと欲しかったラジカセとカセットテープも買えた。</p><p>これで好きな曲を聞いたり、私の声を録音するのが、母娘二人暮らしの最初の夢だったのだ。</p><p>幼い頃の動く映像はないけれど、みこちゃんが残してくれた声のプレゼントは、私の大切な宝物である。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>夫が居なくて、風呂なしの団地で、毎日仕事をして子育てしていたけれど、当時は若く、それだけで希望を持って前を向けたという。</p><p>みこちゃん２８歳。本当の青春はこの時代だったのかもしれない。</p><p>&nbsp;</p>
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<pubDate>Wed, 04 Jan 2017 01:21:28 +0900</pubDate>
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<title>言わないこと、言えないこと</title>
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<![CDATA[ <p>実の父、俊二のあれこれを聞いたのは、確か小学校中～高学年辺りである。</p><p>女を作り借金を作り逃げたという刺激的な内容を、私の年齢に比例して小出しに聞かせてくれた。</p><p>『お前の父ちゃんは女作って借金作って逃げちまってねー』とは言いつつも、みこちゃんは私に対して父の悪口を本当の意味で言ったことはない。</p><p>それよりも、カッコ良かったとか、面白かったとか、絵が上手かったとか。そんな話をよくしてくれた。</p><p>くっきり二重の大きな目以外の外見は、ほぼ父親似の私。</p><p>『女作って借金作って逃げた男とそっくりなのに、私のこと嫌になったりしないの？』と聞くと、</p><p>『自分の子供は誰に似てたって自分の子供！可愛いに決まってるじゃん』と答えてくれた。</p><p>つい最近知ったことだけど、不倫問題で揉めた時、さお兄に悪態ついて手を出したとか。</p><p>そんな父と親戚との醜い色々は、みこちゃんの口からは一度も聞けなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>先程から逃げた逃げたと書いているが、そう、俊二は逃げたらしい。</p><p>みこちゃんと別れた後、しばらくは連絡を取り合っていたが、その内音信不通になったという。</p><p>『借金を随分抱えて八方塞がりだったから、もしかしたら樹海にでも入っちゃったのかもね。当時そんなニュースがテレビで流れる度に、俊ちゃんなんじゃないかって思ったよ。』</p><p>みこちゃんはそう言っていたけど、娘の勘なのか、私は彼が生きていると思っている。</p><p>『本当は私たちに会いたがっているけど、居場所が分からないとか？』</p><p>私がそう尋ねると、</p><p>『うちの実家の場所が分かるんだから、会いたければ来るはず。訪ねて来ないのは新しい生活があって会いたくないか、死んでいるか。』</p><p>とみこちゃんがきっぱりと答えた為、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。</p><p>&nbsp;</p><p>今になって思うが、逆を言えばみこちゃんだって俊二の実家を知っている訳だから、本当は俊二のその後を知っているけど、何かしらの理由で私に真実を伝えていないだけかもしれない。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>『本当のお父さんに会いたい？』</p><p>みこちゃんにそう聞かれ、</p><p>『別に、赤ちゃんの頃だから何も覚えていないし。でも会えたら養育費だけは貰いたいよね。』</p><p>なんて答えていたけど、本当の本当は実の父にものすごく会ってみたい。会ってどうするとかじゃなく、もう血の繋がりが求める本能の様なものだと思う。</p><p>正直に答えたら、何となくみこちゃんに悪い気がしていたけれど。</p><p>&nbsp;</p><p>探偵に依頼して消息を‥なんて考えたりもしたけど、今となっては、そんな労力と大金があれば自分の娘の為に使いたいと思う。</p><p>結局はその程度のものだ。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>あの時『会いたい』と正直に答えて、深く追求していたのなら、もしかしたら。</p><p>あ、でもやっぱり会えたら、俊二に似た強力なくせっ毛の為に費やした、縮毛矯正費用１５年間分だけは返してもらいたい。</p><p>&nbsp;</p>
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<pubDate>Tue, 03 Jan 2017 17:22:27 +0900</pubDate>
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<title>雪と分岐点</title>
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<![CDATA[ <p>イケメン俊二は優しく家族思いだった為、みこちゃんの両親にも気に入られ交際は順調だった。</p><p>&nbsp;</p><p>しばらくして二人はアパートで同棲を始めることにした。</p><p>銭湯に行って彼氏に絵を描いてもらうという、某名曲の歌詞の様な生活だったらしい。</p><p>俊二の提案でスナックを経営し生計を立てることとなるが、ボリュームがあり美味しく安いつまみと酒で、店はなかなか繁盛していた。</p><p>みこちゃんに少しでも気安くする客がいようものなら、俊二ではなく、客として飲んでいたさお兄が飛んできて、『俺の妹に何する！』と殴りかかるのである。</p><p>もうどうしようもない。</p><p>ふー子姉もこの店を少し手伝っていた時期があり、そこで二番目の伴侶と知り合うのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>その内みこちゃんは妊娠をして、籍を入れ、喜んでさっさと奥に引っ込んだ。</p><p>店は上手くやっていたものの、元々酔っぱらいの相手をする水商売が好きではなかったらしい。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>いつからだったろうか。</p><p>さほど綺麗好きではない俊二が、帰宅してすぐシャワーを浴びる様になったのは。</p><p>&nbsp;</p><p>すぐに感づいた相手は、店で一緒に働いている女性である。</p><p>俊二よりも年上で人妻。特に美人ではないがサバサバしていて、車を颯爽と乗りこなすなどみこちゃんにはない大人の魅力があった。</p><p>みこちゃんが女性にカマをかけた所、俊二との関係をあっさりと認めたという。</p><p>いわゆるダブル不倫だ。</p><p>&nbsp;</p><p>ショックだったのはそれだけではない。</p><p>みこちゃんが店の管理を外れた途端、俊二はつまみや酒の値段を一気に引き上げ、客足が遠のき経営不振に陥っていた。</p><p>多額の借金を抱えていたことが発覚し、みこちゃんは雪の降る中、臨月の大きなお腹を抱えて金の工面に動き回っていたという。</p><p>&nbsp;</p><p>そんな無茶にも関わらず、元気な女の子が産まれた。</p><p>産まれたばかりなのに少しも歪んでいない綺麗な卵型で、窓の雪景色の様に真っ白な顔。</p><p>目は両親程大きくないが、鼻も口も形良く揃っていた。</p><p>ふー子姉もこの子を見るなり、『綺麗な子』と言ってくれたそうなので、決して誇張して書いている訳ではない。</p><p>&nbsp;</p><p>結局例の女性とは双方の家庭で話し合い、別れるということで話は付いた。</p><p>女の子が欲しかった俊二は、産まれた子供を可愛がりよく世話もしていた。</p><p>&nbsp;</p><p>だがみこちゃんの心はあちこち罅が入ったままで、もう形を保っていることは限界だった。</p><p>俊二の帰りが少しでも遅ければ、また会っているのかと強い猜疑心に襲われ、帰宅した俊二を責め立てる。</p><p>借金も膨らむ一方で、半ばノイローセ状態だった。</p><p>ある日突然、産まれたばかりの娘を風呂場に思い切り叩きつけたくなる様な衝動に駆られ、心の底から怖くなり、ああもう無理だと決意したという。</p><p>俊二との別れを。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>妊娠しても家に引っ込まず、ちゃんと店と俊二を管理していたら。</p><p>俊二を信じ、借金も何とか返し、家庭を続けていたなら。</p><p>今頃は下の子にも恵まれ、平凡だけど幸せな生活があったのかもしれない。</p><p>そうみこちゃんは言っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>私も若い頃は、娘のことを第一に考えたら、夫のくだらない浮気の一つや二つくらい水に流して、妻として堂々と家庭を守るべきだった</p><p>そんな風に考えていた。</p><p>でも少し大人になった今は違う。</p><p>そんな当たり前の判断が出来ない位、彼女は潔く人を愛することが出来たのだ。</p><p>それにむしろ娘を守る為の決意だったと知り、どうぞどうぞ！別れてくれてありがとうという気持ちさえ抱いている。</p><p>あのまま無理に続けていたら、私はこの世に存在していないかもしれないから。</p><p>そして父親が違う、私の今の妹にも、出会えなかったから。</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/bossmax55/entry-12233172180.html</link>
<pubDate>Fri, 30 Dec 2016 02:37:32 +0900</pubDate>
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<title>全てではないけれど</title>
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<![CDATA[ <p>親は心のどこかでいつも親らしくありたいと願い、子供もまた親は親であって欲しいと願うものだと思う。</p><p>みこちゃんが話してくれたあれこれは、きっと彼女の中で、親としての威厳を保てるギリギリのラインで留めていた様な気がする。</p><p>特に恋愛に関しては。</p><p>恋愛ほどに醜く、浅はかで、愚かな病気はないからだ。</p><p>そして自分が親になった今、やはり娘には全てを語らない、語れないと思っている。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>初恋は１７歳。その人は２０歳だった。</p><p>大人であまり相手にしてもらえなかったが、ファーストキスだけは許してもらえたという。</p><p>&nbsp;</p><p>女性になったのは１９歳。</p><p>写真で見たところ素朴で可愛らしい男性だが、面食いのみこちゃんにとっては押されて付き合った、全く好みではない人だった。</p><p>外では威勢を張るが、二人きりになると年上のみこちゃんの言いなり。</p><p>唯一スポーツ万能な所は認めていたらしい。</p><p>&nbsp;</p><p>その彼との交際中、さお兄に連れられ遊んでいた麻雀の席で、一人の男性と出会う。</p><p>はっきりとした目鼻立ち、逆三角形の逞しい肩、スラッと伸びた長身の年上。</p><p>大きな瞳を細め、煙草の煙を吐き出すその仕草が何ともセクシーで。</p><p>ユーモアセンスもあり、器用で話も面白かった。</p><p>まさにみこちゃん好みのイケメンである。</p><p>彼は美大を中退したかとかで絵が上手く、長く綺麗な指でみこちゃんの似顔絵も描いてくれたという。</p><p>みこちゃんの逞しい腕まで忠実に再現してくれたので、やや不満だったらしいが。</p><p>自分に何の取り柄もないと感じていたみこちゃんは、彼のそんな才能にも憧れた。</p><p>&nbsp;</p><p>もうこうなったらみこちゃんの中でスポーツ万能しか魅力のない彼氏は、あっという間に心から追い出され、遠くへ消えた。</p><p>『好きな人が出来たから別れたい』</p><p>みこちゃんがそう告げた時の彼の荒れようは可哀想な位酷いものだった。</p><p>みこちゃんにあげたプレゼントを一つ残らず叩き壊し、泣き喚いた。</p><p>挙句に、みこちゃんの方が振られたと勘違いしたさお兄から『うちの妹を泣かせやがって』といきなり殴られ、踏んだり蹴ったりである。</p><p>それでも諦めきれず、しばらく家の周りを申し訳なさそうにウロウロしていたが、その内居なくなったという。</p><p>この人がその後どうなったかは知らないが、幸せな結婚をして、今頃は子供や孫に囲まれ幸せな日々を送っていて欲しいと願って止まない。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>何の罪もない彼氏を振り、晴れて自由の身となったみこちゃんは、惚れたあのイケメンと付き合いだす。</p><p>これが彼女の人生の大きな分岐点となる、私の父との出会いである。</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/bossmax55/entry-12229888861.html</link>
<pubDate>Mon, 19 Dec 2016 00:48:47 +0900</pubDate>
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<title>薄い青春時代</title>
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<![CDATA[ <p>ここにこうして書いていることは、枕元でみこちゃんから聞いた昔話の内、特に何度も繰り返し聞いた話ばかりである。</p><p>それはきっと彼女の人生の中で重要な出来事だったのだろうと思いながら記している。</p><p>&nbsp;</p><p>そろそろ青春時代に移りたいのだが、いざ書こうとする段階になって、彼女の青春時代がとても薄っぺらいことに気付いた。（本人には失礼であるが）</p><p>とりあえず小学校卒業後から書いてみよう。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>中学時代は成績はあまり良くないが、演劇部に所属し明るく人気があったので、ちゃっかり頭の良い子達のグループに混ぜてもらっていたらしい。</p><p>学祭でみこちゃんが演じた夕鶴のおつう役は、華やかな見た目と物悲しい演技が好評で絶賛されたという。</p><p>私が小学校の学芸会で、「主役やりたいけど無理だよね。」と言ったら、「お前主役やらないでどうする！折角なら目立つ役をやれ！」と怒られ、熱心に演技指導を受け、見事オーディションで主役を射止めたこともある。</p><p>私が神様なら、絶対にみこちゃんを舞台女優にしていた。</p><p>&nbsp;</p><p>「そんな難しい学校じゃないし、何もしなくても受かるでしょー」と、甘い考えで高校受験の勉強は全くせず、案の定落ちた。</p><p>勉強が好きだったのに家の為に高校に行けなかったよー子姉を思うと、我が親ながら非常に腹立たしい。</p><p>そんな訳で何となく、みこちゃんはタイプライターの専門学校へ二年‥一年だったかな？</p><p>通うことにした。</p><p>&nbsp;</p><p>専門学校での実技の成績は良く、タッチの速さと正確さを総合的に見て一番だったらしい。</p><p>学校外では友人とアイドルやグループサウンズの追っかけをして、田舎から遥々渋谷まで繰り出し、出待ちをしていたこともあるらしい。</p><p>大人になってからの出不精ぶりを考えるとイマイチ想像がつかないが、みこちゃんにもそんな時代があったと思うとホッとする。</p><p>とあるグループサウンズのボーカルからは、口を突き出す仕草から「カッパちゃん」と呼ばれて気に入られていたという。</p><p>他のファンから「可愛い子はいいわね！」と妬まれ、体当たりをされたこともあると得意げに話していた。私にはそんな漫画の様な体験はないので、ほんの少し羨ましいと感じる。</p><p>&nbsp;</p><p>学校卒業後は大手の製作所の事務として就職し、お給料もそこそこ良く順風満帆だった。</p><p>が、一年足らずですっぱりと辞め、さお兄が店長をしていた中華料理屋でバイトをすることになる。</p><p>「若かったからねーアホだよね」と本人も言っていたとおり、本当にアホだと思う。</p><p>いや、でもアホだったけれど、ここで鍋をブンブン振っていたからこそ、みこちゃんの料理はその後どれも本当に美味しかった。</p><p>私が神様なら、第二の機会としてみこちゃんを中華料理人にしたと思う。彼女の生まれつき逞しい腕は、きっと重い中華鍋を振るう為に授かったのではないだろうか。</p><p>名誉の勲章として、その腕には熱い油が跳ねて出来た火傷があった。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>意外と書けることがあり驚いているが、恋愛事情を抜かすと、みこちゃんの青春時代はざっとこんなものである。</p><p>目標も志もなく、もちろん何かをやり遂げたこともなく、たらんと過ごしていた。</p><p>ほら、やっぱり薄い。</p><p>&nbsp;</p><p>誰かが、何かが、スパイス不足である。</p>
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<link>https://ameblo.jp/bossmax55/entry-12229607390.html</link>
<pubDate>Sun, 18 Dec 2016 02:31:40 +0900</pubDate>
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<title>怖い瞬間</title>
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<![CDATA[ <p>「子供の頃ね、お父ちゃんやお母ちゃんが死んじゃったらって考えるだけで、怖くて怖くて眠れなかったの。</p><p>ご飯が食べられないとか住む家がなくなるとかじゃなくて、ただただ怖かった。」</p><p>&nbsp;</p><p>みこちゃんと同じで、私も母が死んでしまったらと考えるだけで怖かった。</p><p>子供の頃だけでなく、大人になってからも。</p><p>ただここに居るだけの自分を愛してくれる、そんな唯一無二の場所がなくなるからなのだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>本当に死んでしまった今は、生きている夢をよく見る。</p><p>&nbsp;</p><p>ふと気づくと実家の冷蔵庫の前に立っていて、「冷凍室からお肉出して」って声がする。</p><p>冷凍室を開けながら、あれっと思い台所を見ると、そこには料理をしている母の後ろ姿が。</p><p>あれ、お母さん死んだんじゃなかったっけ？</p><p>ああ、全部夢だったんだ！良かった！</p><p>夢中で背中に抱き着いて、</p><p>「今ね、すごく怖い夢見ててね、お母さんが死んじゃって、もう本当にすごく怖くてね、」</p><p>子供みたいにわんわん泣きながら喋り続ける私を、振り向いてはくれないけど、後ろに手を回し優しく撫でてくれる。そして、</p><p>「うん、うん。分かるよ。そういう夢ってさ、すごく怖いよね。」</p><p>なんて、ゆっくり噛み締める様に言いながらあやしてくれる。</p><p>&nbsp;</p><p>目が覚めると、やっぱり母は死んでしまっていて、こちらが現実だと知りまた涙が溢れる。</p><p>その瞬間が今は一番怖い。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/bossmax55/entry-12228735433.html</link>
<pubDate>Thu, 15 Dec 2016 00:32:46 +0900</pubDate>
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<title>食べられなかったお弁当</title>
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<![CDATA[ <p>「みこは若い頃、おにぎりを一度に１０個も食べたんだよ！」</p><p>と兄弟達が証言する様に（本人は否定しているが）、みこちゃんは昔から食いしん坊だった。</p><p>&nbsp;</p><p>畑仕事の合間に出る味噌おにぎり、結婚式の後に父親が持って帰る甘い砂糖菓子、甘酸っぱいグミの実、小麦粉のお団子、運動会の日のいなり寿司、ふー子姉の手作りハンバーグ。</p><p>どれも大好物だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「食べ物を我慢すると惨めな気持ちになるの。」と言って、お金に困っている時も食費だけは絶対に削らなかった為、我が家のエンゲル係数は異様に高かった。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>そんな食いしん坊のみこちゃんが、食べたくてもどうしても食べられなかったものがある。</p><p>それは遠足の日のお弁当だ。</p><p>&nbsp;</p><p>車に酔いやすいみこちゃんは毎回遠足のバスに酔い、お昼の時間にはぐったりで母親の折角のご馳走を一口も食べられなかったのである。</p><p>「みこちゃんの隣に座るの嫌だなーだって私まで気持ち悪くなるんだもん」</p><p>そんな話し声も聞こえ、余計に悲しくなるのだった。</p><p>&nbsp;</p><p>青ざめた顔で家に帰ると、母親は「おかえり」と優しく迎えてくれた。</p><p>全く手を付けられなかったお弁当を申し訳ない気持ちでボソボソと食べていると、普段はほうきで子供を追いかけまわしている母親が、何も言わずただにこにことみこちゃんを見つめていたという。</p><p>服も地味だわお弁当も食べられないわで、みこちゃんにとって遠足は憂鬱だっただろうけど、悪い思い出にはならなかったのだと思う。</p><p>&nbsp;</p><p>私が遠足に行く時、いつもみこちゃんは山盛りのお弁当を作ってくれた。</p><p>友達はみんなお菓子が食べたいからと言ってお弁当を残していたが、私はお菓子は食べられなくてもお弁当は頑張って全部食べた。</p><p>朝早くから嬉しそうに作って送り出してくれるみこちゃんが愛おしく、空っぽのお弁当箱を見せたかったからだ。</p><p>そしてみこちゃんにとってはそんな娘の姿が何より愛おしかった。</p><p>いつの時代も親は、子供が無事に帰ってきてくれるだけで嬉しいのだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>野菜たっぷりの健康的な食生活をしていて、お酒もほとんど飲まないし煙草も吸わなかったのに、みこちゃんは癌になった。</p><p>ストレスとか低体温とか医学的にはそういうことが原因かもしれないけど、もっとざっくりいうなら、もう結局は運命なのだろう。</p><p>定められたのか選んだのか、私は後者だと思う。</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/bossmax55/entry-12228431689.html</link>
<pubDate>Wed, 14 Dec 2016 00:09:51 +0900</pubDate>
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