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<title>いおりの官能小説</title>
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<description>理系学生だけど小説家志望のいおりが書いた、官能小説です。18歳未満のかたはご遠慮ください。</description>
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<title>お詫び</title>
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<![CDATA[ せっかくいいところですが、どうもR-18的なのは公開できないようなので、サイトの場所だけ貼っておきます。<br>すみません。<br><br>http://ncode.syosetu.com/n2980d/<br><br><br><br><br><br>
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<pubDate>Thu, 12 Mar 2009 15:09:10 +0900</pubDate>
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<title>この記事は表示できません</title>
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<pubDate>Wed, 11 Mar 2009 23:35:04 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　１４</title>
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<![CDATA[ 第十話　初めての<br>　<br>１月４日　金曜日<br>　<br>いつもと変わらない朝。<br>アイリスが用意してくれた朝食をとっているときのことだった。<br>ピリリリリッ、ピリリリリッ<br>突然携帯が鳴った。<br>サブ画面を見ると親父から。<br>どうせまたくだらない用事なんだろうな……<br>無視するわけにもいかないので、しぶしぶ電話に出る。<br>「もしもし？」<br>「修矢、ヘリオトロープが機能停止した」<br>「……は？」<br>一瞬、何を言われたのかわからなかった。<br>親父にしては珍しく真面目な声だったせいかもしれない。<br>なじみのない単語が使われたせいかもしれない。<br>いずれにしろ、俺の頭がそれを理解するのにはたっぷり数秒が必要だった。<br>「えっ、ちょっ……ヘリなんとかってアイリスのお姉さんだよな。機能停止ってどういう意味だよっ」<br>「えっ……！？」<br>ごとんっ<br>アイリスが持っていたカップをテーブルに落とした。<br>しまった、失言だったかな……<br>「聞いての通りだ。アイリスの姉は、活動を停止した。……人間で言えば、死んだということだ」<br>「そんな……」<br>そんなのって……<br>「もうすぐ幸矢のところにつくんだが、お前も来るか？　アイリスも来たがるだろう」<br>「……ああ、行くよ」<br>「わかった。アイリスはかなりショックを受けるだろうから、お前がしっかりしてろよ」<br>「わかってる」<br>ピッ<br>「修矢さん、どういうことですかっ？」<br>アイリスが掴みかからんばかりに聞く。<br>アイリスにしては珍しい態度だった。<br>「アイリス、お姉さんが機能を停止したそうだ。これから親父がお姉さんのところに行くから、俺たちも行こう」<br>「……はい」<br>　<br>兄・幸矢のアパートについた。<br>俺と同じ大学に通っているので、アパートは徒歩で数分の距離だ。<br>もうすぐ卒業する兄は、大学院進学を決めている。<br>和室にこだわりを持つ俺と違って、幸矢の部屋は洋室だ。<br>幸矢のベッドには、横たわったまま動かない女性と、その脇にひざまずいて様子を見ている親父。<br>姉妹だけあって、アイリスの面影がある気がする。<br>というか、かなり似てるかもしれない。<br>ただ、その雪のように白い顔には血の気がなく、二度と目を開かないということが伝わってくる。<br>「お姉様……」<br>アイリスはぽろぽろと涙をこぼし、膝からがくんと崩れ落ちた。<br>それをすんでのところで受け止める。<br>「どう？　もう動かないの？」<br>幸矢が親父に話しかける。<br>「……ああ、もう完全に機能を停止している。もうヘリオトロープは動くことはない」<br>「そんな……」<br>「そっかー。残念だなー。結構気に入ってたんだけど」<br>「それじゃ、父さんは研究所に戻るよ。ヘリオトロープはどうする？」<br>「ああ、親父んとこ連れてってよ」<br>「そうか……」<br>親父はヘリオトロープを抱き上げ、アパートを出ていった。<br>「……あ、そうだ、修矢、メイドロボットいらながってたじゃん。それ、俺にくれよ」<br>「なっ……！？」<br>今、何て言った？<br>『それ』だって？<br>そもそも、なぜヘリオトロープが機能停止したのに、こんなにあっけらかんとしていられるのだろう。<br>わずかしか会ったことがないというアイリスでも、こんなにも悲しんでいるのに。<br>その何十倍、何百倍もの時間を共に過ごしたはずのこの男は、なぜ悲しくないのだろう。<br>「いらないんだろ？　俺にくれよ」<br>「……嫌だ」<br>俺は、ヘリオトロープと会ったのは、今日が初めてだ。<br>いや、正確には『会った』とは言えないだろう。<br>ヘリオトロープは機能を停止していたのだから。<br>だから、俺にはヘリオトロープの人柄はわからない。<br>でも、きっとアイリスと同じように、自分を犠牲にしてでも、幸矢のことを考えて、幸矢に優しくしていたに違いない。<br>そんなヘリオトロープに対して、なぜ……<br>「……なぜ、泣かないんだ？」<br>「は？　泣く？　何で？」<br>心底意外そうな顔をされた。<br>「普通、モノが壊れたくらいじゃ泣かないだろ？」<br>「っ……」<br>……理解した。<br>幸矢は、ヘリオトロープもアイリスも、『モノ』としてしか見てないんだ。<br>だから、こんな態度が取れるんだ……<br>「……モノなんかじゃない」<br>「は？」<br>「アイリスもヘリオトロープも、モノなんかじゃないっ！　二人とも、生きてるんだ！」<br>少なくとも、俺の目には、目の前のこの男よりもずっと、アイリスのほうが人間らしく見える。<br>「……あー、はいはい、親父みたいなこと言わなくていいから。さっさと帰んなよ」<br>面倒くさそうに手で追い返すようなジェスチャーをする。<br>「アイリス、行こう」<br>「……はい」<br>最悪な気分の帰り道だった。<br>　<br>無言のまま、アパートについた。<br>本当は話したいことがあったのに。<br>ショックを受けているアイリスを慰めてあげたかったのに。<br>俺は、アイリスのことを、モノではなく、人間として見てると言いたかったのに。<br>サークルの友達だって、同じように見てくれているはずだと言いたかったのに。<br>……なんとなく、言い出せなかった。<br>「修矢さん」<br>口火を切ったのは、アイリスだった。<br>「私、修矢さんに『モノなんかじゃない』って言ってもらえて、とてもうれしかったです」<br>「…………」<br>「修矢さんはやっぱり、お優しいのですね」<br>「……違うよ」<br>俺は、アイリスが思っているような立派な人間なんかじゃない。<br>「俺は、アイリスが好きだから……だからしてるだけなんだ。優しいからじゃない」<br>言葉にしてしまったら、歯止めが利かなくなった。<br>思わず、震える華奢な体を抱きしめた。<br>「あ……」<br>一瞬びっくりしたようだったが、そっと身を任せてくれた。<br>「修矢さん……」<br>おずおずと背中に両手が回される。<br>その感触がくすぐったくて、気持ちよくて、ぞわぞわした。<br>「……私も、修矢さんのこと、好きです」<br>「……よかった」<br>なんだか、胸のつかえが取れたような思いだった。<br>不意にアイリスが腕を俺の首に回し、くいっと下を向かせた。<br>そして、その瞬間――<br>ちゅ<br>唇に、柔らかくて温かい感触。<br>「……私の、ファーストキス、です」<br>「……俺もだ」<br>二人で小さく笑いあった。<br>「アイリス、もう一回、してもいいか？」<br>「……はい」<br>目を閉じたアイリスに、そっと口付ける。<br>さっきよりも長いキス。<br>アイリスからは、媚薬のような甘い香りが漂ってくる。<br>長く触れ合っていると、もっと触れ合いたい衝動に駆られる。<br>その衝動に身を任せ、舌でアイリスの唇をなぞった。<br>「んむぅ……！？　ん、ちゅ……」<br>驚いたのは最初だけ。<br>薄く開いた唇の間から、アイリスの口内へと侵入する。<br>「ん、ちゅ……ちゅうっ……んふぅ……」<br>アイリスの口内は熱く、めまいがしそうだ。<br>甘い唾液は媚薬のようで、もっとアイリスがほしくなる。<br>その中で、柔らかい果実のような舌を探り出し、自分の舌を絡める。<br>「んはぁ……ぴちゅ……んむ……ちゅ……」<br>アイリスの舌を吸い出し、甘噛みする。<br>二人の混じりあった唾液を嚥下する頃には、もう我慢できなくなっていた。<br>「ごめん、アイリス、俺、もう我慢できない……」<br>そう言って、興奮した下腹部をアイリスの体に押し付ける。<br>「あ……はい……」<br>アイリスはこくりとうなずき、敷きっぱなしになっていた布団に横になった。<br>心臓がうるさいほどに高鳴っている。<br>アイリスも、体を硬くしていて、緊張しているのがありありとわかる。<br>緊張をほぐすように、そっと口付ける。<br>「ん……」<br>「安心して。俺も初めてだけど……絶対に優しくするから」<br>頭を撫でてあげると、だいぶ体から力が抜けたようだ。<br>「はい……ありがとうございます」<br>ささやくような声。<br>決して弱々しくはなく、耳に心地よい。<br>至近距離でないと聞こえない、二人だけの声だ。<br>頬にキスをしながら、アイリスのみずみずしい太ももに触れた。<br>「んん……」<br>くすぐったそうに身をよじる。<br>アイリスの太ももは、しっとりとして、手に吸い付いてくるようだった。<br>細いのに適度に肉がつき、いつまでも触っていたいと思った。<br>首筋にキスの雨を降らせながら、太ももをゆっくりと上下にさする。<br>「ん……ふぁ……」<br>「……気持ちいい？」<br>「えっと……よく、わかりません……頭が、ふわーっとして……」<br>とろんとした表情に、きらきらと光を反射する潤んだ瞳。<br>「アイリス、かわいい……」<br>「え……あの、んむ……ちゅ……ちゅう……」<br>思わずキスをした。<br>キスをしながら、アイリスの胸をまさぐる。<br>「んんっ……ん……ちゅ……」<br>そこは、メイド服の上からでもわかるほどの柔らかさを持っていた。<br>「んぅ……はぁ……しゅう、や……さん……」<br>押し当てた手をわずかに動かすだけで、アイリスの口からは甘い吐息がこぼれる。<br>そんな甘い声を出されると、もっと感じてほしくなる。<br>「アイリス、服、脱がすよ」<br>「え……？　あの……」<br>アイリスは少し困惑した表情を浮かべたが、それを無視してエプロンの肩紐をするりとはずす。<br>続いてリボンを解き、ボタンを上から順に外していく。<br>ぷちっ、ぷちっ……<br>首筋、鎖骨とあらわになり、だんだんともっと下まで目に飛び込んでくる。<br>もはや、心臓の音よりも血の流れる音の方がうるさく感じるくらいだ。<br>メイド服の、腰から上にだけあるボタンをすべて外し、アイリスの上半身を露出させる。<br>「しゅ、修矢さん……」<br>アイリスは顔を真っ赤にし、両腕を体の前で組み、下着を隠そうとした。<br>「アイリス、綺麗だよ……」<br>頬にキスしながら、そっと腕をどかせる。<br>清楚でシンプルなデザインの白い下着は、アイリスによく似合っていた。<br>真ん中にリボンのワンポイントが入っている。<br>カップから覗くアイリスの胸に、吸い寄せられるようにキスをした。<br>「ん……ふぅ……」<br>すると、アイリスは俺の頭を抱きかかえるように腕を回した。<br>「アイリス……」<br>キスを続けながら、両手をアイリスの肩にかけ、抱き起こす。<br>そして、その手を背中に回して、ブラのホックを外した。<br>「あ、修矢さん……」<br>少しとがめるような口調で言いながらも、アイリスは嫌がらなかった。<br>ブラを外して、再びアイリスを寝かせる。<br>桜色の頂上は、つんと天井を向いていた。<br>その突起を口に含む。<br>「んん……！　はぁ……っ……」<br>一瞬、アイリスの体がびくんっと跳ねた。<br>唇全体で乳房に吸い付きながら、舌のざらざらした部分で突起をこする。<br>「ひゃぅんっ！？　あ、あ、し、しゅうやさぁん……」<br>アイリスの声が一段高くなった。<br>もう一方のふくらみを掌で包み、ゆっくりと揉みしだく。<br>「ふあ……！　ぁん……あ……！」<br>突起を指先でつまむ。<br>「んはぅっ！　ぁあ……！」<br>「アイリス、かわいいよ」<br>「しゅうやさん……」<br>雪のように白い頬は、桃色に上気している。<br>スカートをそっとめくり上げていく。<br>アイリスは何も言わずに、じっとその様子を見つめる。<br>上とおそろいの、白のシンプルなデザインの下着。<br>だが、愛液でぐっしょりと濡れていて、清楚というよりは扇情的だった。<br>「アイリス、濡れてるよ」<br>「……修矢さんが、いっぱい触るからですよ……」<br>ぷいっと拗ねたようにそっぽを向いた。<br>そっぽを向いたことであらわになった首筋に口付ける。<br>「修矢さん……」<br>唇を離すと、至近距離で目が合う。<br>そのまま唇にもキス。<br>「ん……」<br>機嫌が直ったところで、秘所へ手を伸ばす。<br>「ひゃんっ！？」<br>指先がそこに触れると、アイリスは今までで一番大きな反応を示した。<br>「ごめん、痛かった？」<br>「ちょっと……びっくりした、だけです……」<br>アイリスは息も絶え絶えにそう言った。<br>また少し緊張したように体を強張らせているので、ほぐすように優しくキスをする。<br>「ん……んん……ちゅ……」<br>すると、アイリスはむさぼるように求めてきた。<br>それに応えるように、俺もアイリスを求める。<br>「ん……ちゅぅ……ちゅ……ぴちゅ……」<br>舌が激しく絡みあい、口の周りは唾液でべとべとになった。<br>口を離すと、唾液の橋ができる。<br>頬やあごや首筋にキスの雨を降らせながら、秘所を指先でそっとなぞる。<br>「んっ……！　ひゃうっ！　ぁんっ！　あぁ……っ！」<br>ぐっしょりと濡れたそこは、まるで熱湯が湧き出る泉のように熱かった。
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<pubDate>Wed, 11 Mar 2009 23:32:53 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　１３</title>
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<![CDATA[ 第九話　宣戦布告<br>　<br>１月３日　木曜日<br>　<br>アイリスの体が、暗闇の中に浮かび上がっている。<br>「修矢さんのこと……忘れません」<br>アイリスの笑顔が、儚げに揺れる。<br>そして、俺に背を向けて……<br>――待ってくれ。<br>口にしたいのに、声が出ない。<br>――行かないでくれ。ずっと俺の側にいてくれ。<br>追いかけようとしても、体は鉛のようにびくともしない。<br>アイリスは一度だけ振り返って、笑顔を作る。<br>あまりに儚くて、ふっと消えてなくなってしまいそうなその笑顔には、見覚えがあった。<br>いつ見たんだっけ……？<br>もう何もできないんだ……<br>そう思うと、胸がつぶれそうだった。<br>悲しい。<br>胸が痛い。<br>息が苦しい。<br>どうしてこんなに辛い思いをしなければならないのか。<br>アイリスだって、行きたくないだろうに。<br>なぜ、彼女は行ってしまうのか。<br>答えのない問いばかりが頭の中をぐるぐると回る。<br>――アイリスっ！<br>必死に呼び止めようとするが、出るのはかすれた声ばかり。<br>どうして？<br>待ってくれ。<br>俺の側にいてくれ。<br>俺の側に……<br>「きゃあっ」<br>びしゃっ<br>一瞬、何が起こったのかわからなかった。<br>さっきまでの暗闇は消え、目の前には見慣れた天井と、見慣れた壁が広がっている。<br>そして、これまた見慣れた顔が、驚きの表情で俺を覗き込んでいる。<br>「す、すみません、修矢さん……」<br>周りを見回すと、カップが転がっていて、俺の頭周辺やカップ周辺には、なにやら液体がこぼれている。<br>「あ、ああ……」<br>ようやく頭が働き始めた。<br>「つまり、飲み物をこぼして、俺に引っ掛けた、と」<br>ってことは、さっきのは夢？<br>「すみません……」<br>消え入りそうな声でアイリスが謝る。<br>俺は、アイリスがなるべく気にしないように、その頭を優しく撫でてやる。<br>「いいって。気にするなよ」<br>「あ……ありがとうございます」<br>やっと笑ってくれた。<br>それにしても、さっきのが夢で本当によかった……<br>いや、そういえば、今日は初夢の日だったな。<br>「……あれが初夢だなんて……」<br>とにかく、今年は幸先の悪いスタートを切ったようだった。<br>　<br>「ごめーん、待った？」<br>「珍しいな。理香が遅刻しないなんて」<br>「あー、ちょっと、人を遅刻魔みたいに言わないでよ」<br>「違ったのか？」<br>「う……否定はできないけど、『待った？』って聞かれたら、『今来たところだよ』って答えるのが礼儀ってもんでしょ」<br>そんな礼儀は知らない。<br>「ほら、さっさと行こう」<br>「あ……もう」<br>今日は理香と映画に行く約束だった。<br>駅前で待ち合わせ、映画館へと向かう。<br>そういえば、アイリスと一緒に映画に行ったときは手をつないだな……<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「あっ、理香が来た」<br>一緒に隠れている朋子さんが声を上げます。<br>「あ、あの、やっぱりやめませんか？」<br>「何言ってるの。気になるでしょ？」<br>「それはそうですが……」<br>だからって、尾行などという犯罪まがいのことをしなくてもよかったのでは？<br>いえ、犯罪まがいどころか、れっきとした犯罪だと思います。<br>「うーん、ここからだと、何話してるんだか聞こえないわね」<br>「でも、あまり近づくとバレてしまうんじゃ……」<br>「あ、移動するみたいね。行くわよ、アイリスさん」<br>「あ、ちょ、ちょっと待ってください」<br>「どうしたの？」<br>「この格好、なんだか人に見られてる気がして動きにくいです……」<br>「見つかったときに、わたしたちだってバレなくて済むでしょ。ガマンガマン」<br>「うぅ～……」<br>帽子にサングラスにマスクに黒のロングコート。<br>おおよそ女性のファッションとは言いがたい組み合わせです。<br>これで目立たないことのほうが難しいですよね……<br>警察に職務質問されてしまうかもしれません。<br>……なんだか気分がどんどん暗くなっていきます……<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「これ、つい最近見たんだけど」<br>理香と入ったのは、アイリスと一緒に見た映画だった。<br>殺される運命にあった男と、死神の女の子の悲恋。<br>「別にいいでしょ。面白いものは何回見てもいいの」<br>「理香も見たのか？」<br>「うん、朋子と一緒に来たから。修矢は？」<br>「俺はアイリスとだけど」<br>「……ふーん」<br>「理香も泣いたのか？」<br>「……『も』？」<br>「アイリスが泣いてたからさ」<br>「……そうなんだ」<br>急に理香の口数が少なくなった。<br>館内を進み、席につく。<br>なんだか居心地が悪くなってくる。<br>どうしよう、何か話しかけるべきだろうか。<br>……などと考えている間に、映画が始まった。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>ずっと二人のあとを尾行してきて、映画館でも斜め後ろの席につきました。<br>二人の会話が聞こえる距離です。<br>でも、どうやら二人はほとんど言葉を交わしていないようなのです。<br>入る前にケンカでもしたのでしょうか。<br>でも、それでほっとしてしまっている自分がいます。<br>私、本当にどうしてしまったのでしょうか。<br>ブルルルルッ、ブルルルルッ<br>朋子さんの携帯が振動しています。<br>朋子さんが携帯を開いて、何やら操作しています。<br>メールでしょうか。<br>と、朋子さんが顔を寄せて、耳元でひそひそ声で喋りました。<br>「（ごめん、急用が入っちゃったから、あとよろしくね）」<br>「（ええっ！？）」<br>私も、前の二人に聞かれないように小さい声で応じました。<br>「（ちょ、ちょっと待ってください……）」<br>「（ごめんね、じゃああとは任せたっ）」<br>そのまま朋子さんは行ってしまいました。<br>私、どうすればいいんでしょう……<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>映画が終わって、帰り道。<br>「ねえ、どうだった？」<br>「どうって言われてもなぁ……」<br>同じ映画を二回見たわけだし。<br>「……なあ、理香は秋彦が幸せになれたと思うか？」<br>「秋彦？　どうして？」<br>「前の帰り道で、アイリスがそう聞いたんだ」<br>「……ふーん」<br>「どう思う？」<br>「知らない」<br>「知らないって……どう思うか聞いただけなんだが」<br>「そんなの知らないわよ」<br>「……機嫌悪くないか？」<br>「別に」<br>理香はそれきり黙り込んでしまった。<br>そのまま待ち合わせ場所まで到着する。<br>「じゃあ、またな」<br>「……うん」<br>なんとなく消化不良のままだったが、しょうがない。<br>そのまま帰路についた。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>待ち合わせ場所まで戻ってきてしまいました。<br>今日はもう帰るのでしょうか。<br>帰り道は、なんとなく二人の仲があまりよくなかったように見えました。<br>あ、修矢さんは帰るようです。<br>理香さんは……こっちに来ます！？<br>どどど、どうしましょう。<br>とりあえず、この自動販売機がある限りは姿は見られてないと思うのですが……<br>いえ、姿を見られてもこの格好ならバレずに済む……？<br>いえいえ、過信は禁物です。<br>とにかく、このまま理香さんが気づかずに通り過ぎることを祈るばかりです。<br>理香さんの足音が近づいてきます。<br>こつっ、こつっ……<br>あと少し……<br>こつっ<br>と、止まりました……<br>「ねえ、いつまでそこにいるの、アイリスさん」<br>「っ……！」<br>……心臓が止まるかと思いました。<br>とっくにバレてたんですね。<br>観念して姿を現します。<br>「い、いつから気づいて……」<br>「ついさっき」<br>理香さんは特に怒るでもなく、興味なさそうな口調で言います。<br>「アタシ、アイリスさんに負ける気なんてないから」<br>今度は、一転して強い口調になりました。<br>「……負ける、とは……？」<br>「修矢のことよ、もちろん」<br>その名前が出た途端、また胸が締め付けられるように苦しみました。<br>「アタシは修矢のこと、好き。誰にも渡さない。もちろん、アイリスさんにも」<br>……腑に落ちました。<br>理香さんは、修矢さんのことが好きだったから、一人だけ辛そうにしていたんですね。<br>そして、私がおかしくなってしまっていたのも、きっと同じ理由……<br>修矢さんのことが好きだから、誰にも渡したくないから、胸が苦しくなっていたんですね。<br>でも、この気持ちは、許されるものではありません。<br>「私は、貴女の恋敵にはなりえません」<br>「……どういう意味？」<br>だって、私は――<br>「私は、ロボットだからです」<br>「…………」<br>「ロボットと人間では、恋仲にはなれません」<br>なるべく凛とした声を出そうと努めました。<br>が、どうしても震えてしまいます。<br>視界もだんだん霞んできてしまいます。<br>ロボットと人間。<br>私と修矢さんとの間に存在する、決して越えることのできない、高くて厚い壁。<br>ロボットとなんか恋仲になったら、修矢さんは幸せになどなれません。<br>「……勝手に決めないで」<br>それは、驚くほど怖い声でした。<br>「アイリスさんが勝手に諦めるのは、そりゃ、アタシとしては願ったり叶ったりだけど……」<br>「それなら……」<br>「でも！　そんな理由で諦めるのは許さない。だって、修矢は……アイリスさんのこと、ロボットだと思ってないから」<br>私の言葉をさえぎるように言われました。<br>衝撃的でした。<br>修矢さんが、私のことをロボットだと思っていない。<br>それは、私にとって、とてもうれしいことだったのです。<br>さっきとは、違う意味の涙が溢れてきます。<br>「ぅ……うぅ……しゅう、や……さん……」<br>私と修矢さんの間にある壁は、修矢さんは感じていない。<br>それはつまり、修矢さんはその壁を乗り越えてくれるかもしれないということです。<br>「ぅ……ひっく……わ、私……修矢さんのことが……好きです……」<br>「……そう」<br>理香さんのその言葉は、心なしか満足そうに聞こえました。<br>「じゃあ、アタシたち、これからはライバルよ」<br>「はい」<br>「勝手に諦めたりなんかしないでよね」<br>「わかってます」<br>「あと……アタシ、負ける気はないから」<br>「私もです」<br>なんとなく誇らしげな気持ちになって、私たちは握手をしました。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「ロボットと人間では、恋仲にはなれません」<br>アイリスさんのその声は、震えてた。<br>きっぱりと言い切ろうとしたのに、失敗したような感じ。<br>それを聞けば、どんな気持ちでそう言ったのかなんてカンタンに想像がつく。<br>なんだかイライラしてきちゃった。<br>「……勝手に決めないで」<br>それは、自分でも驚くほど怖い声だった。<br>でも、それほど怒ってるんだからしょうがない。<br>「アイリスさんが勝手に諦めるのは、そりゃ、アタシとしては願ったり叶ったりだけど……」<br>「それなら……」<br>「でも！　そんな理由で諦めるのは許さない。だって、修矢は……アイリスさんのこと、ロボットだと思ってないから」<br>アイリスさんの言葉をさえぎるように言った。<br>アイリスさんは衝撃を受けたような顔してた。<br>修矢がアイリスさんのこと、ロボットだって思ってないなんて、アイツの態度見ればわかるじゃない。<br>でも、そんなこと気づかないくらい、苦しんでたってことなのかな。<br>そう思うと、かわいそうな気もしてくる。<br>でも、同情はしない。<br>だって、アタシだって似たような苦しみを味わってきたんだから。<br>「ぅ……うぅ……しゅう、や……さん……」<br>アイリスさんが泣き崩れる。<br>そんなに泣いたら、せっかくの綺麗な顔が台無しじゃない。<br>「ぅ……ひっく……わ、私……修矢さんのことが……好きです……」<br>「……そう」<br>アタシは、その言葉が聞きたかったの。<br>同情はしないし、励ましてなんかあげない。<br>だって――<br>「じゃあ、アタシたち、これからはライバルよ」<br>「はい」<br>「勝手に諦めたりなんかしないでよね」<br>「わかってます」<br>「あと……アタシ、負ける気はないから」<br>「私もです」<br>――だって、勝負はもうついてるんだから。<br>誰にともなく言い訳して、アタシは右手を差し出した。<br>「……アタシってば、お人よしすぎだわ」<br>心なしか誇らしげに見える背中を見送りながら、一人こぼした。
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<link>https://ameblo.jp/daondaondaon/entry-10221669273.html</link>
<pubDate>Tue, 10 Mar 2009 12:12:53 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　１２</title>
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<![CDATA[ １月２日　水曜日<br>　<br>「修矢さん、起きてください。修矢さん」<br>体が揺すられる。<br>優しく揺すられる周期と、肩に触れる柔らかな掌の感触が気持ちよくて、ついつい起きたくなくなる。<br>「あ、あの、修矢さん……」<br>なんだか困った声が聞こえてきた。<br>「オー・エム・ディーッ！！」<br>どさっ<br>「げふっ！？」<br>むさ苦しい声が聞こえ、アイリスの二倍はあろうかという重量物が降ってきた。<br>「ふざけんなクソ親父っ」<br>窒息する前に、その重量物をどける。<br>「あふんっ」<br>「気持ち悪い声を出すなっ！　だいたいさっきのは何だ！」<br>畳に転がった親父は、すっくと立ち上がった。<br>「これぞ伝説の必殺技、親父・ミラクル・ダイナマイツ、略してOMDだ！」<br>「…………」<br>できれば顔を見たくなかった、根っからの変人が、俺のアパートに侵入しているなんて。<br>朝から縁起が悪い。<br>「ふふふ、アイリスとよろしくやっているようだな」<br>「親父には関係ないだろ」<br>「しかーし！　メイドとご主人様の禁断の愛なぞ言語道断！　父さんは認めんっ、認めんぞっ！」<br>「だあぁーっ、うっとうしい！」<br>「お前には、許婚がいるのだよ……」<br>「はあっ！？」<br>なんだそりゃ？<br>「そんなの聞いてないぞっ」<br>「当たり前だ。そんな不幸な人物はいないのだから」<br>「…………」<br>つまり、いつもの冗談ってことか？<br>「なんてタチの悪い冗談なんだ……」<br>もう怒る気にもならない。<br>「ふっふっふ、アイリスは父さんの娘のようなものだ。娘をお前のような馬の骨にやるわけにはいかんっ！」<br>「…………」<br>だめだ、ツッコんだら負けだ。<br>俺の鉄の意志を総動員し、ツッコみたいと騒ぐ血を静める。<br>「ふん、ツッコむ勇気もないのか、このヘタレ」<br>「そんなことより、何の用だよ」<br>「ああ、アイリスの調子はどうかと思ってな。さっき幸矢のところにも行って、ヘリオトロープの調子を見てきたところだ」<br>「ヘリ……何だって？」<br>「ヘリオトロープです。私の姉に当たるロボットです。私もほんのわずかしか会っていませんが」<br>アイリスが代わりに答えた。<br>「向こうはだいぶ調子が悪そうだったが、アイリスは元気そうで何よりだ」<br>親父は一人でうんうんと頷いている。<br>「ふむ……修矢、これを渡しておこう」<br>そう言って、何かの装置のようなものを渡される。<br>折り畳んだ携帯くらいの大きさだ。<br>「これは……？」<br>アイリスの調子が悪くなったときに、応急処置する道具か何かだろうか。<br>「ここにあるスイッチを入れれば、アイリスを強制的に睡眠状態にすることができる」<br>「……睡眠？」<br>麻酔の代わり、といったところか？<br>「奥手なお前のことだ。どうせまだヤッてないんだろう？　これを使えば眠って起きないアイリスにあーんなことやそーんなこと……ぶぼっ！」<br>鉄拳で黙らせた。<br>　<br>少しして親父は帰り、アイリスと二人になる。<br>……そういえば、俺、好きな女の子と同棲してるんだよな。<br>しかも布団まで一緒で。<br>やばい、なんかどきどきしてきた。<br>「あの、修矢さん……」<br>「ん？」<br>「さっきの、装置なんですけど……」<br>眠らせるっていう、アレか。<br>「こんなの使ったりしないから、安心していいよ」<br>「あ、はい、ありがとうございます……」<br>ありがとうと言う割に、あんまり嬉しそうな顔ではなかった。<br>……使ってほしかったのか？<br>「抱くときは、意識がちゃんとあるときがいいんだ。眠ってる間に、なんて、卑怯なことはできないよ」<br>「あ……」<br>アイリスの顔が見る見る赤くなっていく。<br>……って、俺、今ものすごいこと言わなかったか？<br>思い出すと、顔に血が上るのがわかる。<br>「あ、いや、あの……」<br>なんとかフォローしようと頭をフル回転させるが、何を言えばいいのかわからない。<br>「…………」<br>アイリスは赤い顔でじっと俺を見つめている。<br>「アイリス……」<br>そっとその頬に手を伸ばし……<br>「わ、私ご飯の準備しますねっ」<br>アイリスは早口でまくし立てると、目にも留まらぬ速さでキッチンへと姿を消した。<br>……やってしまった。<br>まだ恋人でもないのに、俺は一体何をしようとした？<br>俺の胸には、後悔しか残らなかった。
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<link>https://ameblo.jp/daondaondaon/entry-10221181220.html</link>
<pubDate>Mon, 09 Mar 2009 15:52:55 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　１１</title>
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<![CDATA[ 第八話　根っからの変人の襲撃<br>　<br>１月１日　火曜日<br>　<br>ピリリリリッ！　ピリリリリッ！<br>「ん……」<br>携帯の着信音で目を覚ました。<br>「修矢さん、修矢さん、携帯が鳴っていますよ」<br>「ん、ああ……」<br>眠気の残る頭を振り、体を起こす。<br>見ると、電話ではなくメールの着信だった。<br>「理香から？」<br>本文を表示させる。<br>『どうせまだ寝てたんでしょ？　これから初詣に行くわよ！　着替えてうちに集合！』<br>「勝手に決めるなよ……」<br>しかし、俺がまだ寝てたことを見抜くとは……さすが理香。<br>いや、そうでもないかな？<br>アイリスは行きたがるだろうか。<br>「アイリス、初詣、行きたいか？」<br>「初詣、ですか……？」<br>初詣を知らないのか？<br>「ええっと……初詣っていうのは、新年になったら、いい一年になるように神社に祈りに行くこと、かな」<br>うろ覚えの知識だが、間違ってはいない……はず。<br>「アイリスも一緒に行かないか？」<br>「はい、お供します」<br>アイリスはにこっと笑った。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「うーん、こっちの方がいいかも……」<br>理香さんが薄いピンク色の着物を広げ、しげしげと眺めます。<br>コスモスの花がデザインされた、綺麗な着物です。<br>理香さんはすでに晴れ着姿で、とても似合っていて綺麗です。<br>あの着物は、私に似合うでしょうか。<br>なんだかどきどきしてしまいます。<br>もし似合っていたら、修矢さんは褒めてくださるでしょうか。<br>そうやって修矢さんのことを想うと、胸がきゅうっと締め付けられるようです。<br>さっき別れたばかりなのに、もう会いたい。<br>この、理香さんの部屋から、修矢さんのいるリビングまでは、歩いて数秒の距離。<br>なのに、どうしてこんなに苦しいのでしょう。<br>私には、わかりません。<br>やっぱり、人間ではない私には、不可解なことが起こりやすいのでしょうか。<br>そう思ったら、急に悲しくなりました。<br>――修矢さんと私との間には、乗り越えることのできない壁がある。<br>それが、とてつもなく悲しい。<br>それは、一体なぜなのでしょう。<br>私が普通の女の子だったら、わかったのでしょうか。<br>胸が空っぽになってしまいそうです。<br>「……さん、アイリスさん」<br>「え？」<br>慌てて顔を上げると、少し心配そうな理香さんの顔。<br>「大丈夫？　体調とか悪いんじゃない？」<br>気を遣わせてしまったようです。<br>「……大丈夫です。なんともないですよ」<br>理香さんに心配をかけないように、笑ってみせました。<br>「……そう」<br>理香さんは私の顔をじーっと見つめていましたが、大丈夫そうと判断したのか、そう言いました。<br>「さあ、それじゃあいつらも待ってるし、さっさと着付けしよっか」<br>理香さんが着物を着付けてくれます。<br>「……ねえ」<br>その途中、理香さんが真剣な声で話しかけてきました。<br>「アイリスさん、修矢のこと……どう思ってる？」<br>「どう、というのは……？」<br>質問の意味をつかみかね、私は聞き返しました。<br>「修矢のこと、好き？」<br>「…………」<br>なぜか、答えられませんでした。<br>修矢さんのことは、もちろん好きです。<br>それは、修矢さんのもとに来る前から変わらない私の気持ちです。<br>でも、それとは違う気持ちがあるのを、確かに感じているのです。<br>ただの好きとは違う、もっと強い気持ち。<br>大好き、とでも言えばいいのでしょうか。<br>……それもなんだかしっくりこない気がします。<br>いずれにしても、修矢さんを好きだという気持ちがあることには変わりありません。<br>ちゃんと答えなくてはいけません。<br>「……好きですよ」<br>それは、自分でもびっくりするくらい弱々しい声でした。<br>「……そっか」<br>理香さんは、なぜこのような話をしたのでしょうか。<br>これも、私が普通の女の子ならわかったことなのでしょうか。<br>人間ではない、普通の女の子ではない自分が、恨めしくてたまらなくなってしまいました。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「……なあ、俺ら、別にすぐ来なくてもよかったんじゃないか？」<br>「言うな。悲しくなる」<br>「…………」<br>俺と拓実は愚痴をこぼしたが、大吾は相変わらず無言だった。<br>理香の家で待たされ始めて、すでに１時間近くたっている。<br>がちゃ<br>「お待たせー」<br>リビングのドアが開き、理香の陽気な声が聞こえた。<br>振り向くと……<br>「修矢さん……」<br>「…………」<br>思わず言葉を失った。<br>薄いピンク色の地に、コスモスの花が描かれた晴れ着は、少し華奢なアイリスの体のラインをはっきりと浮き上がらせる。<br>普段は垂れ下がっている長く艶やかな黒髪は、綺麗に結い上げられている。<br>アイリスが持つ清楚で控えめな雰囲気が、いっそう際立っている。<br>恥ずかしげにうつむくアイリスは、この世の誰よりも綺麗だと思った。<br>自然に視線が吸い込まれるようだった。<br>「何よ、黙りこくっちゃって。女の子が晴れ着を着てるんだから、なんか言うことがあるでしょ？」<br>「あ、ああ……綺麗だよ」<br>「そんなにアイリスちゃんが好きなのか？」<br>拓実がにやけた声で聞く。<br>「……何言ってんだか」<br>「穴が開くほどガン見してるヤツのセリフとは思えねえな」<br>拓実はやれやれとでも言いたげに肩をすくめた。<br>　<br>神社は人で溢れかえっていた。<br>この中を進んでいくのかと思うと、めまいがしてくる。<br>「……俺、ここで待っててもいいか？」<br>「お前一体何しに来たんだよ。いいから早く行くぞ」<br>「俺、別に神様とか信じてないんだよね」<br>「はいはい、いいから行くぞ」<br>　<br>結局、ずいぶんと待たされたが、ようやく俺たちの番が回ってきた。<br>隣でアイリスがお賽銭を投げ、手を合わせる。<br>アイリスは一体何を祈っているのだろう。<br>また自分のことはほったらかしで、他人、特に俺のことを祈ってくれているのだろうか。<br>俺もお賽銭を投げ、手を合わせた。<br>――アイリスと、いつまでも一緒にいられますように。<br>普段、別に神様を信じているわけでもないのに、このときだけは、自然に祈ることができた。<br>こんなに都合のいいことで、叶えてくれるかどうかは微妙だが、叶えてくれるといいな……。<br>　<br>そのあとも、露店を回ったりしているうちに、日が暮れてきた。<br>「んじゃ、そろそろお開きの時間かな」<br>「ああ、お疲れー」<br>「じゃあねー」<br>「あ、ねえ、修矢」<br>「ん？」<br>みんなが別れていく中、理香が話しかけてきた。<br>「あさって、何か予定ある？」<br>「あさって？」<br>３日か。木曜日だな。<br>「いや、特に何もなかったと思うけど」<br>「じゃあさ、映画、行かない？」<br>そう言って、理香は映画のチケットをひらひらさせてみせた。<br>うーん、アイリスをデートに誘おうかと思ってたんだが……。<br>でも、別に約束していたわけじゃないし、断るのも不自然かな。<br>「いいよ。時間とかはメールでいいか？」<br>「うんっ、わかった」<br>理香は少し楽しそうにしながら、手を振った。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「あ、ねえ、修矢」<br>理香さんが意を決したように修矢さんに話しかけました。<br>それを見ただけで、私の胸は苦しみに襲われます。<br>まるで、見えない糸でぐるぐる巻きにされてしまったかのようです。<br>その糸は、ふとしたことで急に締め付けてくるのです。<br>私には理由がわかりません。<br>が、どうやらその糸が締まるのは、理香さんが修矢さんと仲よさそうに話しているときのようです。<br>「じゃあさ、映画、行かない？」<br>「いいよ。時間とかはメールでいいか？」<br>「うんっ、わかった」<br>理香さんが羨ましい。<br>理香さんと替わりたい。<br>気がついたら、そんなことを考えていました。<br>こんな気持ち、なくなってしまえばいいのに。<br>どうして私はこんな風になってしまうのでしょう。<br>自分が嫌いになりそうです。<br>「アイリスさん」<br>振り返ると、朋子さんが微笑んでいました。<br>「気になるなら、尾行してみたらいいんじゃない？」<br>「尾行！？」<br>「しっ！」<br>朋子さんが慌てて私の口を塞ぎました。<br>「大丈夫、わたしが協力するから」<br>尾行なんて、いけないことのはずなのに。<br>なぜ私は、それをしたいと思うのでしょう。<br>こんなの、メイド失格です。<br>それでも、私はその誘惑に勝てませんでした。<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>
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<pubDate>Mon, 09 Mar 2009 15:50:19 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　１０</title>
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<![CDATA[ 第七話　恋人未満<br>　<br>１２月３１日　月曜日<br>　<br>「けしからーんっ！」<br>SF研の部室に響く、理香の声。<br>例によってヒマな俺たち五人、ガン首そろえて集合していた。<br>「まーったく、アタシのいないときに遊びに行くなんて、しつけがなってないわねっ！」<br>要するに、仲間はずれにされて寂しい、と。<br>「べっ別に、仲間はずれにされて寂しい、なんて思ってないわよっ」<br>理香に睨まれた。<br>「っていうか頭の中に突っ込むなよっ」<br>「うるさいわねっ！　とにかく、行くわよ」<br>「は？　どこに？」<br>「最初はスケートね」<br>「え、ええっと……わたしたち、スケートはおととい行ったばかりだし、ほかのところの方が……」<br>「行　く　わ　よ」<br>「……はい」<br>朋子の控えめな主張は、理香の横暴さに押し流された。<br>「誰が横暴でかわいくない暴力女ですってー！？」<br>「そこまで思ってないっ！？　っていうか頭の中に突っ込むのやめろってば！」<br>……そんなこんなで結局、理香の言うがままに遊びに行くことになったのだった。<br>　<br>「ひゃわあぁーーっ」<br>……アイリスは成長していなかった。<br>「ほら、立てるか？」<br>余裕のあるフリをしつつ、アイリスに手を差し出す。<br>二回目ということで、多少安定して立っていることはできるが、なめらかに滑るのはまだまだ遠い俺。<br>「あ、ありがとうございます」<br>アイリスの手をしっかりと握り、立ち上がらせてやる。<br>「やほー、熱々のお二人さんの邪魔をしにきましたー」<br>朋子が近寄ってくる。<br>それに倣うように、みんなも集まってきた。<br>「……別に熱々じゃないから」<br>「またまたぁ、昨日はすっごい仲よさそうだったじゃない。二人で腕組んで、一緒にマフラー巻いちゃったりしてさ」<br>「……っ！？」<br>「えっ……？」<br>「な、なんだってー」<br>「…………」<br>ま、まさか、あれを見られていたのか？<br>しかも、よりによって朋子に。<br>あまりの恥ずかしさに、顔から火を噴きそうだ。<br>が、それと同時に、もっと見てほしい、もっと冷やかされたいという気持ちも湧き上がる。<br>小学校の作文コンテストに入賞したときのような、恥ずかしくて、でも少し誇らしいような気持ち。<br>「へ、へぇー、修矢がアイリスさんと……」<br>なぜか理香の声が上ずっている。<br>「お前、やっぱりメイドさん萌えだったんだな！」<br>「お前と一緒にすんなっ！」<br>がしっと肩を組む拓実。<br>「照れるな照れるな。メイドさんはすべての漢の憧れだ！　夢だ！　浪漫だ！」<br>「ええいお前は黙ってろっ」<br>「なるほど。津川くんは照れ照れ、と。アイリスさんはどう？」<br>「…………」<br>アイリスは返事をしなかった。<br>「アイリス？」<br>「……えっ？」<br>はっとしたように振り向いた。<br>「何ですか、修矢さん」<br>「いや、朋子が……」<br>「アイリスさん、どうかしたの？」<br>「い、いえ、なんでもないです」<br>考え事でもしていたのだろうか。<br>アイリスがぼーっとしてるなんて珍しいな。<br>「さ、さーて、それじゃスケートも堪能したことだし、次いくわよ、次っ」<br>「え？」<br>理香が俺の腕を取った。<br>「ほら、ぼさっとしてないで、いくわよっ」<br>「あ、ああ」<br>思いがけない理香の行動にどきっとして、思わず目を逸らした。<br>逸らした先では、アイリスがうつむいている。<br>胸を押さえて、呼吸もなんだか苦しそうな……<br>「アイリスっ！？」<br>「えっ？」<br>アイリスがはっと顔を上げる。<br>「どうかしましたか？　修矢さん」<br>不思議そうに首をかしげる。<br>その表情は少しわざとらしくも見えたが、不自然というわけでもない。<br>呼吸も別に乱れてないし、別段苦しそうでもない。<br>「あ、あれ？　……体調とか、悪くないか？」<br>「なんともないですよ？」<br>「うーん……」<br>なんだったんだ？<br>俺の気のせいか……？<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>「またまたぁ、昨日はすっごい仲よさそうだったじゃない。二人で腕組んで、一緒にマフラー巻いちゃったりしてさ」<br>「……っ！？」<br>「えっ……？」<br>「な、なんだってー」<br>「…………」<br>不意に目に入った、理香さんの表情。<br>朋子さんの言葉を聞いた途端に、曇ったのです。<br>それはまるで、雲一つなかったはずの青空を、突然現れた雨雲が覆ってしまうかのように。<br>とても辛そうでした。<br>「へ、へぇー、修矢がアイリスさんと……」<br>理香さんの上ずった声。<br>「お前、やっぱり……ったんだな！」<br>「お前と……すんなっ！」<br>「照れ……だ！　……だ！　……だ！」<br>「ええい……ってろっ」<br>修矢さんと拓実さんがふざけあう声が、とても遠くに聞こえます。<br>理香さん、一体どうしたのでしょう。<br>私のしたことは、いけないことだったのでしょうか。<br>でも、朋子さんや拓実さん、大吾さんはいつもどおりのように見えます。<br>理香さんだけが、辛そうに。<br>……では、私の行いは、理香さんだけを苦しめるようなことだったのでしょうか。<br>それも、ほかの方に知られることのない、理香さん一人だけの苦しみ。<br>それが一体どのようなものなのか、私には皆目見当もつきません。<br>「なるほど。津川くん……はどう？」<br>「……イリス？」<br>「……えっ？」<br>聞き流してしまうところでした。<br>ご主人様に呼ばれて返事をしないなんて、メイド失格です。<br>「何ですか、修矢さん」<br>「いや、朋子が……」<br>「アイリスさん、どうかしたの？」<br>「い、いえ、なんでもないです」<br>慌てて取り繕います。<br>修矢さんに余計な心配をかけてはいけません。<br>そのときです。<br>「さ、さーて、それじゃスケートも堪能したことだし、次いくわよ、次っ」<br>「え？」<br>理香さんが、修矢さんの腕を取ったのです。<br>「……っ」<br>胸の奥に、針が刺さったかのような鋭い痛みが走りました。<br>直後、胸を押しつぶすような苦しみが襲ってきます。<br>息苦しい。<br>思わず胸を押さえました。<br>洋服の胸の部分を握り締めます。<br>……しわになってしまいますね。<br>そんなどうでもいいことを考えながら、なんとか耐えます。<br>「ほら、ぼさっとしてないで、いくわよっ」<br>「あ、ああ……アイリスっ！？」<br>「えっ？」<br>突然修矢さんに声をかけられ、顔を上げます。<br>――いけない、これじゃ修矢さんに心配をかけてしまいます。<br>胸が痛いのも、息苦しいのも我慢して、平静を装います。<br>いつもどおりに、いつもどおりに……<br>修矢さんが気づきませんように。<br>「どうかしましたか？　修矢さん」<br>不思議で仕方がない、という表情を作って、首をかしげてみます。<br>少しわざとらしかったかもしれません。<br>「あ、あれ？　……体調とか、悪くないか？」<br>「なんともないですよ？」<br>「うーん……」<br>修矢さんはなんだか納得がいかない様子でしたが、諦めてくださったようです。<br>ほっと胸をなでおろしました。<br>……あら？<br>先ほどまであんなに苦しかったのが嘘のように、今は気持ちが軽いのです。<br>一体なんだったのでしょう？<br>　<br>～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～<br>　<br>スケートのあと、ボウリングに行き、ついでに時間が余ったとかでカラオケにも行った俺たち。<br>アイリスのことが気になって、それとなく観察してみたが、特に変わった様子はなかった。<br>すでにかなりいい時間になっていた。<br>「じゃあ、今日はこれでお開きかな」<br>「何言ってんのよ。今日が何の日だか忘れたわけじゃないでしょうね？」<br>「……今日、誰かの誕生日とかだっけ？」<br>このメンツに、冬生まれはいなかった気がするが。<br>「理香が言いたいのは、大晦日、だろ？」<br>「そうよ」<br>「えーっと、つまり……？」<br>大晦日だから何だって言うんだ？<br>「ニブいわねー、初詣に決まってるでしょ？」<br>「初詣は明日だろ」<br>「津川くん、深夜に初詣に行く人も多いんだよ」<br>「つまり、このまま年明けまで遊び倒そうってわけだな！」<br>「そういうこと！」<br>「…………」<br>「…………」<br>三人はかなり盛り上がっているようだ。<br>なんか、向こうの三人とこっちの三人で、温度差がかなりある気がする。<br>「ほら、いくわよ」<br>ぐいっと腕が引っ張られる。<br>「あだっ、いだだだっ、引っ張るなって！」<br>そのときちらりと見えたアイリスの表情は。<br>――苦しそう。<br>まさにその言葉がぴたりと当てはまるものだった。<br>「アイリス、平気か？」<br>「……はい、なんともありませんよ」<br>アイリスは、気丈に笑ってみせた。<br>……きっと体調が悪いのに、心配かけまいと無理しているに違いない。<br>「……悪い、俺ら今日は帰るわ」<br>「えっ？　ちょ、ちょっと……」<br>「ど、どうしたんだよ、修矢？」<br>「津川くん？」<br>「…………」<br>「え？　修矢さん？」<br>「じゃあ、またな。よいお年を」<br>アイリスを連れて、さっさと歩き出す。<br>「あ、あの、修矢さん、どうされたのですか？」<br>……アイリスが心配だったに決まってるだろ。<br>でも、そんなことを言えばアイリスは否定するに決まっている。<br>なんでもありません、と。<br>「……少し疲れちゃったから、今日は早く寝ようと思っただけだ」<br>「…………そうですか」<br>アイリスには、バレているのかもしれない。<br>なんとなく、そう思った。<br>――アイリスのことが好きだ。<br>その気持ちは、日に日に大きくなっている。<br>朝起きればご飯を用意していてくれて。<br>洗濯してくれて、シャツにはアイロンもかけてくれて。<br>ボタンが取れそうなら、付け直してくれて。<br>毎晩同じ布団に寝て、腕枕してあげて。<br>昨日はデートに行って、腕組んで、一緒にマフラー巻いたっけ。<br>アイリスと一緒に過ごす毎日は、とても楽しくて幸せだ。<br>――それなのに。<br>俺の心は、あまりにも欲張りだ。<br>一緒にいるだけでは足りない。<br>今の関係では満足できない。<br>アイリスと、恋人同士になりたい。<br>アイリスの心が欲しい。<br>恋人未満の関係が続く日々の中で。<br>俺は、そう思い続けている。
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<link>https://ameblo.jp/daondaondaon/entry-10220668505.html</link>
<pubDate>Sun, 08 Mar 2009 17:53:40 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　９</title>
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<![CDATA[ 第六話　死神とバカップル<br>　<br>１２月３０日　日曜日<br>　<br>「あ、修矢さん、あの犬かわいいですっ」<br>「ああ」<br>「あははっ、今の見ました？　あの猫、あくびしましたよっ」<br>「はいはい」<br>アイリスがさっきからはしゃいで話しかけてくるが、俺は極度の緊張のせいで頭が回らなかった。<br>人間というのは現金なもので、気づいてしまえば、世界のすべてが昨日とは違って見える。<br>昨日まではアイリスとの会話なんて普通にできたのに、恋心がそれを邪魔する。<br>アイリスが側にいるだけで、胸はどきどきし、心は躍りだし、恥ずかしくて目は合わせられない。<br>アイリスが行うすべての動作がかわいく見え、気配さえも魅力的だと感じてしまう。<br>アイリスが話している内容も右から左で、頭は何一つ理解しない。<br>俺には、適当に相槌を打つのが精一杯だった。<br>「わっ、あのトラック、赤信号無視しましたよっ」<br>「そりゃよかった」<br>「……修矢さん、聞いてます？」<br>「そうだな」<br>「…………」<br>あれ？<br>はしゃいでいたアイリスが、急に黙り込んだ。<br>「……どうした？」<br>「……修矢さん、もしかして……楽しくない、ですか……？」<br>アイリスがおずおずと聞いてくる。<br>「どうしてそんなこと聞くんだ？」<br>仮にも、デートなのだ。<br>好きな女の子が隣を歩いていて、しかも楽しそうに話しかけてきてくれる。<br>これが楽しくないヤツなんていないだろう。<br>「……でも、修矢さん、楽しくなさそうです……」<br>アイリスが沈んだ表情になる。<br>「……私、少しはしゃぎすぎてましたね、すみません。少し、おとなしくしてます」<br>「いやっ、そんなことないって！」<br>思わず大きな声が出た。<br>通行人が何事かと振り返るが、そんなことを気にしている余裕はなかった。<br>「アイリスが楽しそうにしてるのはすごくうれしいんだ。そうじゃなくて、俺、少し緊張しててさ」<br>「緊張？」<br>「あ……」<br>口が滑った。<br>アイリスはきょとんとした顔で小首を傾げる。<br>「どうして緊張するのですか？」<br>一歩俺に近づいて、顔を覗き込んでくる。<br>――やばい、かわいい。<br>思わず、そんなことが頭に浮かび、慌てて消した。<br>視線が合わせられない。<br>アイリスの顔を見たら、気持ちが抑えられなくなりそうだ。<br>「……すみません、出すぎた質問でしたね」<br>答えられずにうつむいた俺を見て、アイリスが謝った。<br>「ごめん。出すぎたとか、そんなんじゃなくて……ちょっと、恥ずかしいからさ」<br>「わかりました。それでは……あの、手をつないでもいいですか？」<br>「ふあ？」<br>のどの奥から変な声が出た。<br>「手を……つなぎたい、です」<br>アイリスは顔を赤く染め、うつむき加減にそう言って、右手を差し出した。<br>……俺の中で、天使と悪魔が戦争を始めた。<br>『げっへっへ、アイリス、かわいいじゃねーか。おら、なにしてんだよ！　さっさと抱きしめて、ちゅーしちまいな！』<br>『何言ってるのよっ、そんなこと絶対だめに決まってるでしょ！』<br>『アイリスは絶対に嫌がらない。拒まれる心配はないぞ！』<br>『だからこそでしょ！　立場上拒みにくいアイリスの気持ちを無視してそんなことするなんてサイテーだわ！』<br>『そんなこと言ってたら、欲求は満たされないぞ！　男の性（さが）だ！』<br>『欲求を満たすことばかり考えてはだめ！　アイリスの気持ちを考えてあげて！』<br>『ああ、あれだ、事後承諾だ事後承諾！　そんでばっちり無問題！』<br>『問題ありまくりよ！　そんなことしてアイリスに嫌われてもいいの！？』<br>……そうだ。<br>アイリスに嫌われること。<br>それこそ、俺が今一番恐れていることだ。<br>どうやら、天使軍の放った核爆弾によって決着がついたようだ。<br>「あの……修矢さん？」<br>「あ、ああ……手、つなごうか」<br>アイリスの手を取った。<br>「……えへへ」<br>アイリスは照れたように笑って、お互いの指が相手の指の間に入るように握り直した。<br>少し冷たい、アイリスの手。<br>力を込めれば壊れてしまいそうなくらい繊細で、しっとりと柔らかい手。<br>いつも家事をやってくれる、働き者の、そして俺の好きな女の子の小さな手。<br>なんだか感動的だった。<br>……涙が出そうになるくらいに。<br>　<br>映画館につき、真ん中より少し後ろに座る。<br>映画は最近話題になっている恋愛モノらしい。<br>年末で忙しい時期のはずだが、結構な数の人が入っている。<br>「あ、始まるみたいですね」<br>アイリスは待ちきれないといった様子だ。<br>…………。<br>……………………。<br>『……私は、ずっとあなたのことが好きだった。だから……だからね、あなたがいなくなってしまうのは、どうしても耐えられなかったんだ』<br>『優子……』<br>幼い頃から隣に住んでいたヒロインは、実は主人公を殺す使命を持った死神だった。<br>だけど、ヒロインは、殺さないことを選んだ。<br>それが、死神にとって大きな罪になることを知りながら。<br>自分の命を失うことになることを知りながら。<br>ヒロインの独白に、何もできない主人公は悲嘆に暮れる。<br>『ね？　そんな顔しないで』<br>『それで、俺が喜ぶと思ってたのか……？』<br>『秋彦……』<br>ヒロインが涙を流す。<br>不意に、ひじ掛けにのせていた手が握られる。<br>少し冷たいその手は、小刻みに震えていた。<br>アイリスが……泣いている。<br>二人で海を見に行ったときとは違う。<br>不安を露わにした表情で。<br>食い入るようにスクリーンを見つめて。<br>透き通るように美しい大きな瞳から、大粒の涙がこぼれていた。<br>――目が離せなかった。<br>アイリスは、映画のヒロインに共感しているんだ。<br>恋人を殺すという、悲しい使命を背負っていた彼女に。<br>それを回避するために、愛しい恋人を残してこの世を去ろうとしている彼女に。<br>実際に、そんな覚悟をした人でなければ、彼女の苦しみはわかるはずもない。<br>俺やアイリスをはじめ、ほとんどの観客は、その苦しみを想像することしかできないのだ。<br>そして、恋人、『ヒロインにとっての主人公』に当たる存在がいなければ、想像することはできない。<br>アイリスが、その苦しみを想像できたのだとしたら……<br>俺がその存在に当たるのだと思う。<br>アイリスが俺のことを恋人として想っていなかったとしても。<br>単に、『ご主人様だから』という理由で大切に思ってくれているのだとしても。<br>それでも、俺は嬉しかった。<br>好きな女の子に、大切に思われている――。<br>俺がアイリスの涙を都合よく解釈しただけの、ただの想像に過ぎないけど、それはとても幸せな想像だった。<br>　<br>スタッフロールが流れ、少しずつざわついてきた。<br>帰り支度を終えた観客から、次々に映画館を出て行く。<br>スタッフロールが終わり、ずいぶんと観客が減ってしまっても、アイリスは席を立とうとしなかった。<br>放心したように、何も映っていないスクリーンを見つめるその瞳には、憂いの色が滲んでいる。<br>頬を伝った涙の痕は、もう乾いていた。<br>「アイリス」<br>声をかけるが、返事はなかった。<br>帰り支度を終えた人が次々と脇を通り抜けていく。<br>周りに人がほとんどいなくなった頃。<br>「修矢さん」<br>まばたきをする以外は石像のように動かなかったアイリスがこちらを向き、声を発した。<br>「出よう、アイリス」<br>「……はい」<br>いつものようなしっかりとした返事ではなく、聞き取れるか聞き取れないかくらいの弱々しい返事だった。<br>　<br>「……秋彦さんは、幸せになれたのでしょうか」<br>帰り道、ぽつりとアイリスがつぶやく。<br>秋彦というのは、映画の主人公だ。<br>「どうだろうね」<br>結局、秋彦は恋人を止めることができなかった。<br>それほどまでに彼女の覚悟は固かったのだ。<br>最愛の人を失った彼がうなだれるシーンで映画は終わった。<br>話題になっているものにしては珍しい、バッドエンドの映画。<br>「優子さんには、ほかの選択肢はなかったんでしょうか」<br>「わからない。けど……」<br>足を止める。<br>アイリスも俺に合わせて立ち止まった。<br>「けど、その選択肢は、秋彦が探さなきゃいけなかったんじゃないかな」<br>「どうしてですか？」<br>「うーん、うまく言えないけど……」<br>頭をかく。<br>「……優子はずっと前から死を覚悟して、受け入れてたから、なんていうか、覆せなかったんじゃないかな」<br>「…………」<br>アイリスは黙り込んだ。<br>「アイリス？」<br>「あ、いえ、何でもありません」<br>アイリスは、そう言って微笑んだ。<br>なんとなく。<br>その笑顔は、精一杯の作り笑顔だという気がする。<br>「アイリ……」<br>「あっ、修矢さん、見てくださいっ」<br>アイリスが不自然なほどに明るい声で言い、道の隅にしゃがみこむ。<br>「……どうした？」<br>そこにあったのは、小さなダンボール。<br>その中には、まだ生まれて間もないと思われる子ネコがいた。<br>寒さに震えている。<br>「かわいそう……」<br>その横顔を見ると心が痛んだが、言わないわけにはいかない。<br>「先に言っておくけど、うちのアパートはペット禁止だから飼えないよ」<br>「そうなんですか……」<br>それを聞くと、アイリスは目に見えて落胆した。<br>「ごめんね。私たちは拾ってあげられないよ……」<br>そっと子ネコを撫でている。<br>エサは少しはダンボールの中に入れてあるようだが、寒さのせいか、かなり弱っているように見える。<br>「あ、そうだ」<br>俺は首に巻いていたマフラーを取り、子ネコをくるんでやる。<br>どうせ安物のマフラーなのだから、また買えばいい。<br>「あ……修矢さん……」<br>「このままじゃ寒いだろうからな。少しはましだろ」<br>「ありがとうございますっ」<br>「……別に、アイリスがお礼を言うようなことじゃないだろ」<br>ぶっきらぼうに言う。<br>「でも、私が嬉しかったから……ありがとうございます」<br>アイリスはぺこりと頭を下げた。<br>……なんだか恥ずかしくなってきた。<br>「ほ、ほら、寒くなってきたから帰るぞ」<br>そう言って歩き出す。<br>「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ」<br>すぐにアイリスが追いつき、腕を絡めてくる。<br>「っ……」<br>「こうすれば暖かいですよね」<br>しっかりと俺の腕を胸に抱き、ぴったりと体を寄せてくる。<br>心臓が爆発しそうだ。<br>「……そんなに暖かくならないぞ。だいたい、俺はマフラーを外したんだから、寒いのは首筋だ」<br>恥ずかしさからか、どうしても否定的な言い方になってしまう。<br>「あ……そうでしたね。それでは……」<br>アイリスが自分のマフラーを外し、差し出してくる。<br>「修矢さんがお使いください」<br>「いや、それじゃあアイリスが寒いだろ」<br>「気になりませんから」<br>「俺が気にするんだ」<br>「ええっと……」<br>アイリスが困ったような顔をして、手にしたマフラーを見る。<br>少し考えるような顔をしたあと。<br>「じゃあ、こうすればいいですねっ」<br>「えっ」<br>アイリスは、俺と自分の両方の首にマフラーを巻きつけた。<br>「えへへ、名案でしょう？」<br>アイリスが得意げに笑った。<br>「…………」<br>あまりのことに声が出なかった。<br>心臓は……もう爆発したのかもしれない。<br>呼吸しているのかどうかもわからなかった。<br>寒さも、周りの目も、自分の鼓動さえも、頭に届いてこなかった。<br>すべてがアイリスで満たされていた。<br>「修矢さん？」<br>「あ、ああ……帰ろうか」<br>「はいっ」<br>これじゃあ、完全にバカップルだ。<br>あまりの恥ずかしさに顔から火が噴き出して発狂しそうなのに、見られるのが嫌じゃないと思う自分がいる。<br>抱きしめられた腕にアイリスの暖かさを感じながら、とても幸せな気分で家路についたのだった。
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<link>https://ameblo.jp/daondaondaon/entry-10219944656.html</link>
<pubDate>Sat, 07 Mar 2009 12:07:48 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　８</title>
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<![CDATA[ 第五話　大掃除と恋心<br>　<br>１２月２９日　土曜日<br>　<br>「修矢さん、これはどうしましょう？」<br>「ああ、それはもう使わないから、全部ゴミに出しちゃっていいよ」<br>今日は朝から大掃除。<br>一年間の汚れを落としていく。<br>といっても、実際には４月からの８ヶ月間なわけだが。<br>「ふぅ」<br>トイレで用を足しながら、一息つく。<br>ずっと掃除で動きっぱなしで、さすがに少し疲れてきた。<br>ぼんやりとアイリスのことを考える。<br>最近はかなりロボットっぽいところも見られず、人間として違和感がほとんどない。<br>来たばっかりの頃からすでにかなり人間らしかったが、どこかずれたところがあった。<br>それがかなり埋められてきているのだ。<br>彼女はロボットなのか、それともロボットを越えた存在なのか。<br>……それとももう人間と考えるべきなのか。<br>いずれにしても、結論を出すにはもう少し時間がかかるかもしれ……<br>ばたんっ<br>「修矢さんっ」<br>「うわわわっ、こらこらこらーーーーっ！」<br>突然トイレのドアが開けられた。<br>「お手洗いのお世話をさせていただ……」<br>「トイレの世話禁止ーーーーーっ！！」<br>……前言撤回。<br>アイリスはまだまだずれた子です。<br>　<br>「ふぅー、だいたいこんなもんかな」<br>時間がかかるかと思って朝からやっていたが、結局昼過ぎには終わってしまった。<br>「アイリスが普段から綺麗にしてくれてるからだな。ありがとう」<br>「いえ、そんな……」<br>アイリスは照れたように笑った。<br>「で、今日はこのあとどうしよう？」<br>することがない。<br>この時期だし、遊びに誘える人がいない気がする。<br>「アイリスはどこか行きたいところとか、したいことってない？」<br>「え？　行きたいところ、ですか……？　うーん……」<br>人差し指をあごに軽くあてて考える。<br>「うーん、うーん……」<br>なにやら真剣に考え込んでしまった。<br>「別に無理に出せとは言わないけど」<br>「……あの、修矢さん」<br>やがて、アイリスはおずおずと申し出た。<br>「私、修矢さんのサークルの部室に行ってみたいです」<br>「部室？」<br>SF研の？<br>「行ってもいいけど、面白いものなんて一つもないぞ？　いいのか？」<br>「修矢さんがお友達とどのようなところで過ごされているのか、見てみたいんです」<br>　<br>がちゃ<br>「あれ？」<br>「よう、修矢」<br>「こんにちは、津川くん」<br>「…………」<br>誰もいないと思っていた部室には、拓実、大吾、朋子の三人がいた。<br>「まあまあまあ、かけたまえよ修矢」<br>そう言って隣の椅子を引く拓実。<br>勧められるままに腰を下ろす。<br>「はい、アイリスさんはこっちにどうぞ」<br>「あ、ありがとうございます……」<br>朋子に勧められ、アイリスが消え入りそうな声で答えた。<br>「いえいえ。今日はメイド服じゃないんだね」<br>「はい。修矢さんが『目立つから』と……」<br>アイリスは、やっぱり人見知りをするのかもしれない。<br>「んで」<br>拓実がずいっと身を乗り出してくる。<br>「じっくり、話を聞かせてもらおうか」<br>「……はあ？」<br>なんの話を聞かせろと？<br>「とぼけんなって。ご主人様とかメイドとか夜のご奉仕とかご主人様とか、いろいろ聞きたいことがあるんだ」<br>いま、ご主人様って二回言ったぞ。<br>「……まあ、特別話すようなことは何もない」<br>「まあまあまあ。とりあえず落ち着け」<br>お前が落ち着け。<br>「とにかくだなー、アイリスちゃんが来てから今日、さっきまでのことを洗いざらい……」<br>「津川くんたちも、ヒマならわたしたちと一緒に遊びに行かない？」<br>「今から？」<br>「うん。みんな中途半端に時間が余っちゃって、どうしようって言ってたところだったの」<br>「いいな。俺たちもちょうど時間が余っちゃってたとこだし。アイリス、いいかな？」<br>「はい、いいですよ」<br>「…………」<br>大吾は相変わらず何も言わなかったが、少しだけ笑ったような気がした。<br>「そういえば理香はいないんだな」<br>「大掃除が大変みたい。『このままじゃ年内に終わらないー』って」<br>「理香らしいな」<br>「…………俺のことは完全に無視なわけですかそうですか」<br>部屋の隅では拓実がいじけていた。<br>　<br>「ひゃわあぁーーっ」<br>アイリスが派手に転んだ。<br>「だ、大丈夫か、アイリス」<br>アイリスを気遣ってみせるが、実際のところ、俺にもそんな余裕はない。<br>「あはははっ、運動オンチカップルか？　二人して壁際族だな」<br>拓実が危なげなく氷上を滑ってきた。<br>「し、しょうがないだろ。スケートなんて初めてで……」<br>「朋子も初めてだって言ってたぞ」<br>「嘘に決まってる」<br>つい３０分くらい前までは壁際族仲間だった朋子は、今や大吾と一緒にスケートリンク中央付近で滑っている。<br>と、こちらに気づいた朋子がこちらに滑ってくる。<br>……運動神経よすぎだろ。<br>「ほら、へっぴり腰になってるよ」<br>「いや、ちゃんと立てなくて……」<br>「ひゃわあぁーーっ」<br>必死に立ち上がろうとしていたアイリスが、また派手に転んだ。<br>「ふふ、運動オンチカップルだね」<br>「……それ、拓実にも言われたけど、俺が運動オンチなんじゃなくて、朋子が運動神経よすぎるだけだからな」<br>アイリスが運動オンチかどうかは置いといて。<br>「そう？　ふふっ」<br>やけに楽しそうだ。<br>「運動オンチは否定するけど、カップルは否定しないんだね」<br>「…………」<br>言われて気づいた。<br>『運動オンチ』は必死に否定したのに、『カップル』は否定しようという気が起こらなかった。<br>まるで、そう言われるのが自然であるかのように受け入れていた自分に気がつく。<br>そんな自分に気がつくと、否定したくなってくる。<br>が、それに比例するように、否定したくない気持ちが強くなる。<br>不思議な気分だった。<br>自分が自分でないような。<br>自分の中に別人格の二人の人間がいるような。<br>心が分裂してしまったかのような。<br>……そんな気持ち。<br>今まで味わったことのないその不思議な気持ちは、決して不快なんかじゃなくて。<br>――もっと感じていたい。<br>そう思えるような、温かい感情だった。<br>「修矢さーん……」<br>アイリスの情けない声で、ふと現実に呼び戻された。<br>「助けてくださいー……」<br>「……しょうがないな」<br>完全に氷の上にへたり込み、立ち上がれなくなっていたアイリスの両手を取って、立ち上がらせてやる。<br>「きゃ……」<br>「おっと……」<br>勢いがつきすぎ、倒れそうになったアイリスを抱きとめる。<br>「……ぁ……ありがとうございます……」<br>アイリスは、俺の腕の中で顔を赤くしてうつむいた。<br>「…………あんまり熱いと氷が融ける」<br>そんな俺たちに大吾がぽつりと冷やかしを入れ、俺はそっと手を離す。<br>…………。<br>……………………。<br>大吾が！？<br>「大吾がしゃべるなんてレアだな。あー、今日はいいもん見たぜー」<br>「前にしゃべったのは……一ヶ月くらい前？」<br>「なんか、大吾にめちゃくちゃ失礼なこと言ってないか？　お前ら……」<br>でも、俺も驚いた。<br>珍しく冷やかしてきた大吾もそうだが、何よりも、アイリスを抱きとめた瞬間に、今まで感じたことのないくらい跳ね上がった自分の心臓に。<br>俺はその後しばらく、胸の中で暴れまわる鼓動を持て余していた。<br>　<br>スケートリンクをあとにする頃には、かなり暗くなっていた。<br>「まだ遊び足りねーよなー」<br>「まあ、遊び始めた時間が遅かったからなぁ」<br>「なあ、まだみんな時間大丈夫だろ？」<br>拓実は不完全燃焼のようだ。<br>「じゃあ、ボウリング行かない？　わたし、ずっと行ってなかったから久しぶりに行きたくて」<br>「お、いいねー」<br>……そんなわけで、第二回戦となった。<br>　<br>「ひゃわあぁーーっ」<br>ボウリングの玉を投げた勢いで、アイリスが派手に転んだ。<br>……デジャヴ？<br>「……アイリスちゃんって、本気で運動オンチなのか？」<br>アイリスに聞こえないよう、小声で拓実が聞いてくる。<br>「家事に関してはかなり優秀だと思うけど……」<br>そういえば、川原まで走ったとき、かなり息が上がってたことがあったっけ。<br>……いや、それは体力がないということであって、運動オンチとは少し違うか？<br>でも、運動オンチを『運動が苦手』という意味に捉えるなら、運動オンチと言えなくもないような……<br>いやいや、すぐ息が上がってしまうのと、スケートで転んだり、ボウリングで転んだりとはやっぱりどこか違う気がする。<br>……なんか自分でもよくわからなくなってきた。<br>ぱこーんっ<br>「やったー、またストライクー」<br>「っていうか朋子は上手すぎだからっ」<br>スコア欄には、第二フレームから第七フレームまで、６連続ストライクが記録されていた。<br>ちなみに、第一フレームはスペア。<br>……なんか、頭痛くなってきたのは気のせいか？<br>　<br>結局、２４９という驚異的なハイスコアを記録した朋子以外は、至って普通。<br>朋子はレジで何やら景品をもらったらしい。<br>いい時間になったので、今日はここでお開きとなった。<br>「あ、そうそう、津川くん」<br>「ん？　なに？」<br>「これあげる」<br>そう言って、二枚のチケットのようなものを手渡される。<br>「映画のチケット？　いいのか？」<br>「うん。さっきのボウリングの景品でもらったんだけど、期限が明日なんだよねー。わたし、明日は用事があるから」<br>見ると、『有効期限：２００７年１２月３０日』と書かれていた。<br>……なんでそんな中途半端な期限にするかな。<br>「それは、３１日が休館日だからだろ？」<br>「ああ、なるほど。……ってエスパーかよっ」<br>拓実は、鳴らない口笛を吹くフリをした。<br>何、そのリアクション。<br>「ま、そういうわけで、若い二人にデートを楽しんでもらおうと」<br>「デート、か……どう？　アイリス」<br>アイリスを見る。<br>「…………」<br>何も言わず、にこっと笑った。<br>その笑顔を見た途端、胸が中心に向かって萎縮するような感覚を覚えた。<br>痛いわけではない。苦しいのでもない。<br>ただ、心臓が跳ね回り、呼吸が詰まり、頭にはモヤがかかったようで、視界にはアイリスしか映らない。<br>衝動的にアイリスに伸ばしかけた腕を、熱いヤカンに触れたときのような動作で引っ込めた。<br>そうしないと、アイリスを抱きしめてしまいそうで――。<br>「…………」<br>自分の掌を見つめ、開いたり握ったりしてみる。<br>俺はいま、何をしようとした？<br>信じられない。<br>まるで、誰かが俺の体を勝手に動かしたようだった。<br>でも、それは違う。<br>俺自身、体がそう動いたのは、自分の脳が命令を下したからだとわかっている。<br>なぜなら、命令を下した記憶があるから。<br>自らの意志で動いたことを、わかっているから。<br>「修矢さん……？」<br>アイリスが心配そうに顔を覗き込んでくる。<br>「……なんでもないよ」<br>最近、俺の中で大きくなり続けていた感情がある。<br>正体のわからないその感情に振り回されるのが、心地よくさえあった。<br>その感情の正体が、今、わかった。<br>こんなに強い感情は……こんなに温かい想いは……<br>俺は、メイドとして俺の元へやってきた女の子に……<br>優しくて、思いやりがあって、俺のことを最優先に考えてくれて、一生懸命で、ちょっと、いや、かなり運動オンチな女の子に……<br>いつの間にか、恋をしてしまっていたんだ。
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<link>https://ameblo.jp/daondaondaon/entry-10219587762.html</link>
<pubDate>Fri, 06 Mar 2009 20:10:06 +0900</pubDate>
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<title>すばらしい結婚　７</title>
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<![CDATA[ 第四話　目から出るもの<br>　<br>１２月２８日　金曜日<br>　<br>からんからん<br>「ありがとうございましたー」<br>店内にいた最後のお客さんを見送る。<br>こんな真っ昼間に客足が途切れるのは珍しい。<br>「修矢、今のうちに休憩入ってくれるか？」<br>店長に声をかけられた。<br>「あ、はい、わかりました」<br>今日はなんだか、少し疲れたな……<br>からんからん<br>と、お客さんが入ってきた。<br>「いらっしゃいま……せ……？」<br>「修矢さんっ」<br>あ、あれ？<br>俺の目の錯覚かな。<br>入ってきたお客さんに見覚えがある気がするんだけど……<br>メイド服に身を包んだそのお客さんは、心底安心したような顔でこちらに駆け寄ってくる。<br>「よかった、修矢さんの携帯電話の電波を追ってきて正解でした」<br>「……どうした？」<br>働いているところを身内に見られるのは、なんとなく気恥ずかしい。<br>「はい、これからお洗濯を開始しますので、その報告に」<br>「…………」<br>なんだそりゃ。<br>「あの、修矢さん？」<br>アイリスは小首を傾げた。<br>「仕事の報告なんてしなくていいって言っただろっ」<br>お客さんはいないとはいえ、店内にはほかのスタッフもいるので、小声で叱る。<br>「え？　あの……」<br>「昨日、大量のメールをしてきたとき、言っただろっ」<br>「すみません、メールを使わずに直接報告しろという意味かと思いました」<br>「…………」<br>そういえば、俺は昨日なんて言ったんだっけ？<br>――仕事の報告なんかにメールを使うの禁止ーーーーーっ！<br>――え、ええ？　だめ、ですか……？<br>あー、なるほどね。<br>勘違いしちゃったわけね。<br>それであのとき悲しそうな顔したわけね。<br>「……ごめんな」<br>「いっ、いえっ、私が勝手に勘違いしただけなのでっ」<br>アイリスは白桃のような頬をうっすらと朱に染め、ぶんぶんと両手を振って否定した。<br>こんなに慌てているアイリスは初めて見るかも。<br>「おう修矢、彼女か？」<br>店長がにやにやしながら話しかけてきた。<br>「か、かのじょ……」<br>「違います」<br>アイリスがなぜか顔を赤くしてうつむいてしまったが、とりあえず否定しておく。<br>「そうかそうか、恥ずかしいのか」<br>うんうんと頷く店長。<br>というか、勝手に納得しないでほしい。<br>「か、彼女だなんてっ、私は修矢さんの身の回りのお世話をさせていただいているメイ……もがもが」<br>「いっ、いやっ、なんでもないですからホントっ」<br>とっさにアイリスの口を塞いだ。<br>「そうかそうか。控え室には今誰もいないからな。ゆっくりと楽しんできなさい」<br>店長はにやにやしながらそんなことを言う。<br>「あんまりがんばりすぎて、このあとの仕事に影響が出ない程度にしておけよ」<br>「……何言ってるんスか」<br>この店長も、バイトの連中をからかうのが好きだよな……<br>からかわれるのは主に俺なんだけど。<br>「じゃあ、アイリスは先に帰ってて」<br>「え……？」<br>アイリスの表情が急に曇った。<br>「あの……修矢さん、帰り道、教えていただけませんか？」<br>アイリスはものすごく言いにくそうにそう言った。<br>「いや、ここまできたんだからわかるでしょ？」<br>「いえ、来るときは修矢さんの携帯電話の電波を追ってきたので、道はぜんぜん覚えてないんです……」<br>アイリスはとても申し訳なさそうに小さくなった。<br>「修矢、今日はもう上がれ。んで、彼女を送ってってやれ」<br>「えっ？　でも店が……」<br>「こんなガラガラなんだから、スタッフが一人減ったところで変わんねーって。彼女が困ってたら助けてやるのが彼氏の務めだろうが」<br>「……だから彼女じゃないって」<br>「ほら、さっさと着替えてこい」<br>店長にぐいぐいと押される。<br>俺は、しぶしぶそれに従う格好になったが、内心ではほっとしていた。<br>アイリスを一人で帰さなくてすんでよかった。<br>「……ありがとうございます、店長」<br>　<br>「～♪」<br>隣を歩くアイリスは、なぜか上機嫌だった。<br>「ほらアイリス、そんなにはしゃぎまわるなよ」<br>放っておいたらスキップでもし始めそうなアイリスに声をかける。<br>「はしゃぎまわってなんかいませんー♪」<br>語尾に音符がついてるぞ。<br>駅に着き、切符を２枚買う。<br>「はい、アイリス」<br>「？」<br>渡された切符を見て、首を傾げた。<br>電車に乗るの、初めてなのかな。<br>「こうやって使うんだ」<br>改札機に切符を入れ、改札を通って見せる。<br>「は、はいっ……」<br>慣れないせいか、ぎこちない動きで改札機に切符を入れる。<br>「あっ、修矢さん、通れましたっ」<br>こんなことで嬉しそうにするアイリス。<br>なんだか微笑ましい気分になって、思わず笑みがこぼれる。<br>「ドアが閉まります。ご注意ください」<br>「あ、ドアが閉まっちゃいますよ。乗りましょう」<br>「あっ、アイリス、それは……！」<br>反対方向の電車だぞ。<br>そう言う暇もなく、アイリスは電車に乗り込んでしまう。<br>ガーッ<br>ドアが閉まり始め、反射的に飛び乗った。<br>ガタンッ<br>電車が走り始める。<br>「危なかったですね、修矢さん」<br>アイリスはのんきだった。<br>「……アイリス、これ、反対方向の電車なんだけど」<br>「え？　反対方向って、どういう意味ですか？」<br>電車の知識は皆無なのか？<br>「電車は二つの向きに走ってて、この電車は俺たちの家から遠ざかる向きに走ってるんだ。つまり、これに乗ってたら帰れないってこと」<br>俺の言葉を聞いて、アイリスがサーっと青ざめた。<br>「どっ、どうしましょう、修矢さんっ」<br>「次の駅で反対方向の電車に乗り換えるから大丈夫だって」<br>アイリスが安心するよう、なるべく優しく言い、頭をぽんぽんと軽く叩いてやる。<br>バイトが早く終わって時間も余ってるし、急いで帰るほどの用事もない。<br>「あ……」<br>どうやらほっとしたようだ。<br>「電車は恐ろしい乗り物なのですね」<br>ズレた認識を持ってしまったようだ。<br>アイリスがドジなだけだよ、とは言わないでおいてあげた。<br>「この電車はどこまで行くのですか？」<br>「ん？　どこだったかな……」<br>ドアの上、天井付近に広告と並んで貼ってある路線図を見上げる。<br>「終点まで行くと、海があるな」<br>「海ですかっ？」<br>心なしか、表情が明るくなったような気がする。<br>「行きたい？」<br>「あ、ええっと……」<br>アイリスは気まずそうに視線を逸らした。<br>メイドという立場にある以上、ストレートに行きたいとは言い出しにくいのかもしれない。<br>「行ってみようか。俺も海なんてしばらくぶりだし」<br>「あ……はいっ」<br>アイリスは嬉しそうにそう答え、自然に俺の手を取った。<br>柔らかくて、小さくて、少し力を込めれば壊れてしまいそうなその手は、ひんやりと冷たかった。<br>「その格好じゃ寒かったんじゃないか？」<br>上着をアイリスに着せてやる。<br>「あ……ありがとうございます」<br>アイリスは、少し体を硬くしてうつむいてしまった。<br>もっと早く気づいてあげるべきだったのに。<br>「やっぱり、修矢さんはお優しいです」<br>「……そんなことないって」<br>照れでも謙遜でもなく、心の底からそう思う。<br>もっとアイリスに優しくしてあげよう。<br>もっとアイリスを大事にしてあげよう。<br>アイリスは、常に俺を優先してくれるのだから。<br>俺が気をつけてあげないと、アイリスはどんどん自分を犠牲にしてしまう。<br>それだけは嫌だった。<br>……俺の中で、アイリスの存在が変わり始めているのを感じる。<br>最初は、アイリスに世話を焼かれているのがなんとなく申し訳ないような気持ちだった。<br>その気持ちは次第に、世話を焼かれるのが嬉しい気持ちと、逆に世話を焼いてあげたい気持ちという相反する二つの気持ちになってきた。<br>いや、『相反する二つの気持ちを生む一つの感情が芽生えた』というべきか。<br>その感情はとても強くて激しくて、手に負えなくなってしまう。<br>昨日のメール事件もそうだ。<br>頭で何かを考えるより先に、体が動いていた。<br>感情が、俺の体を動かしていたんだ。<br>俺は、一体どうなってしまったというのだろう。<br>黙り込んだ俺の顔を不思議そうに覗き込むアイリスを見つめてみても、答えは出なかった。<br>　<br>「わぁ……」<br>海岸に着く頃には、もう日が赤くなっていた。<br>砂浜に降りると、冷たい潮風が頬を撫でる。<br>夕陽でオレンジ色に染まった海を見て、アイリスは感嘆のため息を洩らした。<br>「綺麗ですね」<br>「ああ、綺麗だな……」<br>海水浴のシーズンでもないこの季節、人気のない海は少しばかり寂しい。<br>海を見つめているのにもすぐに飽きてしまい、アイリスを見やる。<br>微動だにせず、夕陽と、夕陽に染まった海を見つめている。<br>海と同じ色に染まったその横顔は、どこか憂いを帯びているように見える。<br>どきりとした。<br>夕陽や海なんかより、よっぽど綺麗だ……<br>アイリスは、この光景に一体何を想っているのか。<br>どきどきしてしまった自分をごまかすように、転がっていた空き缶を蹴っ飛ばした。<br>「……とても、綺麗です……」<br>沈黙を破るように、アイリスがぽつりとつぶやいた。<br>「アイリス？」<br>「え？」<br>アイリスが振り向いたその瞬間、目尻に溜まっていた雫が一筋の線となって頬を伝った。<br>「あ、あれ……？　どうして……？」<br>なぜ、アイリスは泣いているのだろう。<br>「変ですね、私……どうしちゃったんでしょう」<br>「アイリス……」<br>変なんかじゃない。<br>海は、すべての生命の共通の故郷ともいえる。<br>アイリスは生命とは呼べないのかもしれないけど、それでも、海を見て何かを感じ取ったのだ。<br>なんと声をかけていいかわからず、無言で服の袖で涙の跡を拭ってやる。<br>「き、汚いですよ……」<br>「汚くなんかないって」<br>「私、変ですね……目からよだれをたらしてしまうなんて」<br>「…………は？」<br>何だって？<br>「すみません、今後はよだれなどたらさないように気をつけます」<br>「いやいやいや、よだれじゃないから！　涙だから！」<br>「涙？　何ですか、それ？」<br>しんみりムードが一転、漫才になってしまった。<br>でも、それでよかったのかもしれない。<br>アイリスになんて言えばいいかわからないままだったろうから。<br>二人で見た夕陽は、水平線の下へ沈もうとしていた。
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<link>https://ameblo.jp/daondaondaon/entry-10219005248.html</link>
<pubDate>Thu, 05 Mar 2009 19:47:10 +0900</pubDate>
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