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<title>Moon Orchid</title>
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<description>自作小説のブログです。</description>
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<title>ゆがんだ時計　７</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　この写真が鍵つきの引き出しにしまうほど大切なものなのだろうか。ひとに見られてはいけないような写真なのだろうか。ただ、一人の少年が映っているだけではないか。</font></p><p><font size="3">　そう思いながらも、写真をバッグに忍ばせた。引き出しの鍵をしめ、鍵はもとどおり『万葉集』の箱にもどした。こうした行為になんの意味があるのか。自分でもわからなかった。</font></p><p><font size="3">　そのあと、母に言われたとおり、ひととおり全ての部屋をほうきで掃き、窓ガラスを乾いた雑巾で拭き、前庭の雑草を抜いた。それだけで、大仕事だった。コーヒーを飲みたかったが、もはや水道もガスも使えない状態になっている。私はコートを羽織り、財布を手にして外に出てみた。近辺に店屋はないが、自動販売機ぐらいあるだろう。</font></p><p><font size="3">　ぶらぶら歩いていると、そこがほんとうにいなかだということがわかった。田圃が遠く山すそまで広がり、稲はすでに刈られたあとだ。あの刈りあとを踏みしめてみたくなる。祖父母は早く亡くなったので、この家に来たのはずいぶん小さな子どもの頃だったような気がするが、あの刈りあとを踏んでみたいという衝動は変わりなく、おそらくその頃見た風景もさして変わっていないのだろう。</font></p><p><font size="3">「川上治平」</font></p><p><font size="3">　その人はこの近所に住んでいた、あるいはまだ住んでいるのだろうか。私はまばらに並ぶ家の表札を一軒ずつ確かめていった。だが、「川上」という表札は見当たらなかった。</font></p><p><font size="3">　やっと自動販売機を見つけると、私は冷たい缶コーヒーを選んで、その場で栓を開け、一気に飲み干した。それぐらい喉が渇いていた。</font></p><p><font size="3">　太陽は西に傾きかけている。急いで帰らねば。</font></p><p><font size="3">　帰路はゆるやかな下り坂で、私は小走りになって祖父母の家にもどった。</font></p><p><font size="3">　全ての窓を閉め、鍵をかけ、バッグを抱えると、もう一度、亡き父が過ごした部屋を見てみた。昔風の振り子時計はいつからか止まったままで、父の性格のようにまっすぐに掛かっていた。</font></p>
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<pubDate>Tue, 16 Dec 2008 10:20:50 +0900</pubDate>
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<title>ゆがんだ時計　６</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　引き出しの鍵がないか、机のまわりを探してみた。どこかに貼り付けてあったりするんじゃないか。まさか畳の下とか。畳を上げてみる気力はなかった。母と一緒に掃除に来ていたのだから、そう簡単に見つかるところには置いていないだろう。それとも、父のことだから、自分の部屋は母に掃除させなかったのだろうか。</font></p><p><font size="3">　急に気力が萎え、私はぼんやり座り込んでしまった。</font></p><p><font size="3">　いっぱい本があるな。父はいつも本を読んでいた。子どもの頃から読書好きだったんだ・・・。</font></p><p><font size="3">　どんな本を読んでいたんだろう。</font></p><p><font size="3">　私は立ち上がって、一冊、一冊、引き抜いて開いてみた。どれも日焼けして黄ばんでいたが、比較的きれいに保管されていた。きっと、ページをめくるのも丁寧だったんだろう。</font></p><p><font size="3">「あ、万葉集がある」</font></p><p><font size="3">　中学生の頃、十首ずつ暗記してくるように言われた。意味はわからなくても、口に出してみると、音律のよさに魅了された。</font></p><p><font size="3">　父の万葉集は箱入りで、なかの本を出そうとすると何かが箱と本のあいだにはさまっている。箱に無理やり指を入れてみた。紙が指に触れた。なにかを包んであるようだ。紙の折り目に指を入れ、引き出してみた。</font></p><p><font size="3">「これだ！」</font></p><p><font size="3">　思わず声に出してしまった。</font></p><p><font size="3">　ノートの切れ端に包まれた鍵。</font></p><p><font size="3">　開いてみると、やはりそうだった。</font></p><p><font size="3">　私は震える手で三段目の引き出しの鍵穴にそれを差し込んだ。</font></p><p><font size="3">「お父さん、ごめんね。だって、私、お父さんのこと知らないんだもの。ずっと秘密にしていたのかもしれないけど、開けさせてね」</font></p><p><font size="3">　心の中でつぶやく。</font></p><p><font size="3">　鍵は錆のせいかガシガシという音をたてながらも開いた。</font></p><p><font size="3">　そろそろと引き出してみた。</font></p><p><font size="3">　中にはいっていたのは、一枚の写真。</font></p><p><font size="3">　私はそれを手に取って、しげしげ見つめた。</font></p><p><font size="3">　父ではない。いがぐり坊主に学生服の少年。口をきっと引き結び、真面目な顔で映っている。瞳はくりっとして、鼻筋の通った美しい顔だ。口元がゆるんでいれば、もっと優しそうに映っただろうに、それを拒否するかのように生真面目な顔を作っていた。</font></p><p><font size="3">　私は写真を裏返してみた。</font></p><p><font size="3">「川上治平君」</font></p><p><font size="3">　そこには褪せた青いインクでそう書かれていた。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10177378928.html</link>
<pubDate>Sat, 13 Dec 2008 08:53:17 +0900</pubDate>
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<title>ゆがんだ時計　５</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　それ以来、「ゆがんだ時計」のことは忘れてしまっていた。家に帰ってみると、洗濯物や洗い物がずいぶんたまっていた。掃除もろくにしていないようだった。疲れていたせいもあって、それらを片付けるのに三日もかかってしまった。</font></p><p><font size="3">　あっというまに四十九日法要があり、ばたばたと過ごしていた。</font></p><p><font size="3">　思い出したのは、父が亡くなってから三ヶ月もしてからだ。</font></p><p><font size="3">　リビングの掛け時計が止まってしまい、電池を入れ替え、また架け直したときだ。離れて見てみると、曲がっている。四角い形をしているので、なおさら目立つ。私は椅子にのぼり、直したつもりだったが、もう一度見てみると、やはりゆがんでいる。</font></p><p><font size="3">「もういいや、面倒くさい。ちゃんと動いてるんだし・・・」</font></p><p><font size="3">　そのとき、ふと父のことばが甦った。「ゆがんだ時計」とは私の性格を指していたのだろうか。少々、時計が曲がっていようが、たいして気にならないのは母譲りだ。その性格を直せと言っていたのだろうか。それとも、これから一人暮らしを強いられる母を心配して言ったのだろうか。</font></p><p><font size="3">　ほんの近くへ出かけるにも「ガスの元栓は閉めたか。電源は抜いてあるだろうな」と、いちいちチェックしなければ気のすまない父。母が一人になったら、誰がチェックするのか。母だけでは火事でも出さないとは限らない。おまえがときどき行って見てやってくれ、という意味だったのだろうか。</font></p><p><font size="3">それにしては、ずいぶん抽象的な表現だ。</font></p><p><font size="3">「母さんをよろしく頼む」で済むことなのに。</font></p><p><font size="3">「ゆがんだ時計」はますます謎になっていった。</font></p><p><font size="3"><br></font></p><p><font size="3">　それからさらに一ヶ月が経ち、母の頼みで父の実家を掃除しに行くことになった。そこはもはや空き家で住む者もいないのだが、父が売ることを拒み、年に数回、両親が掃除に行き、庭の草を抜き、手入れしていた。売れば相当の金額になるのに、生まれ育った家を潰すには忍びなかったのだろう。</font></p><p><font size="3">　家は老朽化が進み、玄関の戸を開けるのさえ一苦労だ。</font></p><p><font size="3">　入ってみると、やはりかび臭い。</font></p><p><font size="3">　ひとつひとつ窓を開けていったが、晩秋の冷たい風が吹き込み、思わずカーディガンの前を合わせた。</font></p><p><font size="3">　二階の四畳半の間が父が十八歳まで過ごした部屋だった。本棚には古ぼけた本がぎっしり詰まり、文机の上には参考書や辞典が並んでいる。</font></p><p><font size="3">　文机には手前に一段、横に三段の引き出しがついていた。何の気なしに私はそれらを開けていった。便箋や封筒、万年筆、鉛筆、消しゴムなどがきれいに並べられている。最後の三段目をあけようとしたが、あかない。鍵つきになっているのだ。ぐいっと引っ張ってみたが、無理だった。普段なら、そんなものを無理に開けようとは思わないのに、そのときはどうしてもそのなかを見てみたくなった。</font></p><p><font size="3">「ゆがんだ時計」の謎を解く鍵がそのなかに隠されているような気がした。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10176062466.html</link>
<pubDate>Wed, 10 Dec 2008 10:10:40 +0900</pubDate>
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<title>ゆがんだ時計　4</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　写真の男性はまだ十代と見えた。耳をかくすような垂れのついた帽子をかぶり、大きな眼鏡を頭上に掲げ、誇らしげに手を腰に当て、ほほえんでいた。うしろの航空機にはプロペラがついていた。私にも、それが零戦だとわかった。テレビや映画で見たことがある。しげしげと写真を見ていると、背後で人の気配がした。</font></p><p><font size="3">　私はいたずらを見つかった子どものように固まってしまった。</font></p><p><font size="3">「それ、お父さんよ」</font></p><p><font size="3">　母が切り出した。振り返ったが、怒っている表情ではなかった。</font></p><p><font size="3">「お父さん、特攻兵だったの・・・」</font></p><p><font size="3">「えっ！」</font></p><p><font size="3">　私は大きな声を上げた。特攻兵というのは、出撃したら死んで帰らないものとばかり思っていたからだ。</font></p><p><font size="3">「お父さん、よく帰ってこれたわね」</font></p><p><font size="3">「帰ってこれたって言うか、出撃前に終戦になっちゃってね。飛ばずじまいよ」</font></p><p><font size="3">「そうだったの・・・」</font></p><p><font size="3">　私はなにも知らなかった。父も戦争のことは語らなかった。母から子どもの頃、焼夷弾が落ちて、家の土間を「火の玉」が走った、と聞いたことがあるぐらいだ。</font></p><p><font size="3">「お父さんは特攻兵に志願して、生きて帰ったことを恥じていたわ。亡くなった同僚に申し訳ないと、毎年、靖国にお参りしてた」</font></p><p><font size="3">　父が毎年、東京に行くのは知っていたが、靖国神社に参っていたとは知らなかった。</font></p><p><font size="3">「生きて帰れて喜ぶべきじゃない。恥じる必要がどこにあるの？」</font></p><p><font size="3">　私の口調には多少の怒気が混じっていた。</font></p><p><font size="3">「当時の戦争っていうのは、そういうものよ。もはや生きては帰れない、という覚悟で送り出される。まして、特攻ならね」</font></p><p><font size="3">　私は複雑な気持ちで写真を見つめていた。</font></p><p><font size="3">「お父さん、男前に映ってるだろ？」</font></p><p><font size="3">　母がぽつりとつぶやいた。</font></p><p><font size="3">　私は「うん」とうなづいた。</font></p><p><font size="3">「下でお茶でも飲む？」</font></p><p><font size="3">　母が言った。</font></p><p><font size="3">「そうだね」</font></p><p><font size="3">　私は立ち上がり、母のあとに従ったが、襖を閉める前にもう一度写真をちらっと見た。</font></p><p><font size="3">　悔しいけど、かっこいい・・・私だって、当時なら惚れたかもしれない。</font></p><p><font size="3">　母は手すりにつかまりながら、ゆっくりと階段を降りていった。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10175614634.html</link>
<pubDate>Tue, 09 Dec 2008 10:36:34 +0900</pubDate>
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<title>ゆがんだ時計　3</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　父は二ヵ月ぶりに家に帰ってきた。白い骨箱となって。</font></p><p><font size="3">　祭壇のしつらえは葬儀社の人が来てしてくれた。</font></p><p><font size="3">　母と私はろうそくを立て、線香をあげ、骨箱に向かって手を合わせた。</font></p><p><font size="3">　兄と兄嫁は早々に引き上げて、家に来ることはなかった。</font></p><p><font size="3">　母は私のほうに向き直り、</font></p><p><font size="3">「あんたも帰っていいよ。義男さんに悪いだろ？」と言った。</font></p><p><font size="3">　義男というのは私の夫だ。もう二週間近く家に帰っていない。夫は通夜には来たが、葬儀の日は出張だとかで参列しなかった。そういう男なのだ。いや、男の仕事というのはそういうものだろう。</font></p><p><font size="3">「今夜は泊まるわ。母さんひとりで淋しいでしょう」</font></p><p><font size="3">「もう二ヵ月、ひとりでいたからね。慣れてきたわ」</font></p><p><font size="3">　母はかすかに笑った。</font></p><p><font size="3">　どうしようかと迷っているうちに、ふとあのことを思い出した。</font></p><p><font size="3">　時計だ。</font></p><p><font size="3">　見まわしてみると掛け時計がひとつ。別にゆがんでいるわけではない。</font></p><p><font size="3">　では、二階だろうか。</font></p><p><font size="3">　母には時計のことは話してなかった。話す余裕もなかった。</font></p><p><font size="3">「二階に荷物置いてあるから取ってくる」</font></p><p><font size="3">　私はそう言って二階に上がった。</font></p><p><font size="3">　上がってすぐに父の部屋がある。私はそこにめったに入ったことはない。母に気づかれないように、そっと襖をあける。思ったとおり、きれいに整頓されている。文机の上にもなにもない。壁を見ると、古い掛け時計がかかっていた。それもゆがんでいない。物がゆがんでいるのを嫌う父だから当然のことだ。なにかの拍子にゆがんだとしても即座に直すだろう。</font></p><p><font size="3">　私が寝泊りしていた部屋には掛け時計はなかった。デジタル表示の目覚まし時計だけだ。</font></p><p><font size="3">　ゆがんだ時計とはどこにあるのだろう。</font></p><p><font size="3">　モルヒネで妄想を起こしていただけだろうか。</font></p><p><font size="3">　ふとダリの絵画が思い起こされた。あれのことだろうか。だが、父には絵画を楽しむ趣味はなく、部屋には画集のようなものは一冊もなかった。そのかわりに見つけたのは文机の上の小さな写真立てだった。</font></p><p><font size="3">　航空機を背にして、戦闘服を身につけた若い男性の写真だ。写真はセピア色にあせていた。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10174726970.html</link>
<pubDate>Sun, 07 Dec 2008 09:55:37 +0900</pubDate>
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<title>ゆがんだ時計　2</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　葬儀が終るまで、時間はあわただしく過ぎた。</font></p><p><font size="3">　誰も棺にすがって、泣き崩れることもなかった。</font></p><p><font size="3">　母は棺に近寄りもせず、参列者のうしろに立って、ぼんやりしていた。叔父に促され、やっと白い菊の花を一輪、顔のそばに置いて、またうしろにまわってしまった。</font></p><p><font size="3">　私も泣いてはいたが、号泣するほどでもなかった。父の死がまだ実感としてわいてこないのだった。</font></p><p><font size="3">　主に葬儀を仕切っていたのは兄嫁だ。こういうときこそ「嫁」としての立場を確立しておこうというつもりだろうか。「よく働く、いい嫁さんだ」と思われたいのだろう。私はなにをしていいのかわからず、ぼんやりしていることが多かった。</font></p><p><font size="3">「めぐみちゃん、なにしてるの？　早くして」</font></p><p><font size="3">　兄嫁に何度か叱られた。</font></p><p><font size="3">　火葬場で待つあいだ、横にすわっていた叔母が小さな声でつぶやいた。</font></p><p><font size="3">「七夕に亡くなるなんて、お義兄さん、誰かに会いたかったのかしらね」</font></p><p><font size="3">　それはロマンチックな発想でもあり、謎めいても聞こえた。</font></p><p><font size="3">「さあ、どうでしょう。叔母さん、知らないの？」</font></p><p><font size="3">「知らないわよ。あなたのお母さんとお見合いで結婚したことしか・・・。それまでのことは、なにも聞いてないわ。うちのお父さんもあまりしゃべらない人だからね」</font></p><p><font size="3">「うちの両親、お見合いだったんですか？」</font></p><p><font size="3">「そうよ。その頃は、お見合いがほとんどよ。でも、あなたのお母さんがえらくお義兄さんを気に入ったみたいでね。男前だったから」</font></p><p><font size="3">　そう言って、叔母は笑った。</font></p><p><font size="3">　私はそんなことも知らなかった。</font></p><p><font size="3">　母が父を気に入り、結婚した。父はどうだったのだろう。顔立ちも平凡で、女性としてひとめで惚れるようなタイプでもない。しいて言えば、のんきで陽気なところだろうか。生真面目で、人前で笑うことも少ない父にはちょうど良い相手だったのかもしれない。</font></p><p><font size="3">　もしかして、父には結婚のかなわない誰か、好きな女性がいたのかもしれない。七夕の夜は晴れだった。父はその女性に会えたのだろうか。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10174271139.html</link>
<pubDate>Sat, 06 Dec 2008 09:38:06 +0900</pubDate>
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<title>ゆがんだ時計</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">　父が亡くなったのは去年の七夕の日だった。</font></p><p><font size="3">　前立腺癌が骨転移していたのに、本人は坐骨神経痛だと思っていた。五月に入院して、すぐにモルヒネを投与されるほど痛みがひどくなっていた。モルヒネの量は少しずつ増え、一日のほとんどを眠って過ごした。</font></p><p><font size="3">　その日は珍しく空が晴れていた。七夕の日に晴れるなんて珍しい。</font></p><p><font size="3">　母は買い物に出かけ、兄と兄嫁は午後から来る予定で、付き添いは私だけだった。</font></p><p><font size="3">　父の額に浮いた汗を拭おうと、顔の前にかがむと、父が薄く目を開いた。</font></p><p><font size="3">「とみこ」</font></p><p><font size="3">「とみこはお母さんよ。私はめぐみ・・・わかる？」</font></p><p><font size="3">「あぁ、めぐみか・・・」</font></p><p><font size="3">「お父さん、汗かいてるから、拭いてあげるね」</font></p><p><font size="3">　額にタオルをあてようとすると、父がその手を払いのけた。</font></p><p><font size="3">「時計がゆがんでるんだ」</font></p><p><font size="3">　父が言った。</font></p><p><font size="3">「時計？　どこの？」</font></p><p><font size="3">　病室には掛け時計はなかった。家の時計だろうか。</font></p><p><font size="3">「時計がゆがんでる。直さなければ・・・」</font></p><p><font size="3">　どこの、という質問には答えず、父は繰り返した。</font></p><p><font size="3">　父は潔癖で、「ゆがんでいる」ということに耐えられない性格だ。家の掛け時計がゆがんでいることを思い出したのだろうか。母は正反対の性格で、物がゆがんでいようが頓着しない。それで、ふたりはよくケンカをしていた。</font></p><p><font size="3">「めぐみ・・・行って直してきてくれ」</font></p><p><font size="3">「はいはい、わかりました。直しておくね」</font></p><p><font size="3">　そう言うと父は安心したように、また目を閉じた。</font></p><p><font size="3">　それが父の最期のことばだった。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10174257808.html</link>
<pubDate>Sat, 06 Dec 2008 08:56:01 +0900</pubDate>
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<title>笑談　ホスト倶楽部シャンパン之地獄　其の十五</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">さて、ここは、とある高級レストラン。眺望も素晴らしい高層ビルの最上階にございます。そこで、赤ワインなど抜きまして、ゆったりと食事をしているカップル。といいましても、女のほうがどうもずいぶん年上の様子。</font></p><p><font size="3">「面白かったわ。これで秋晴も終わりね」<br>「まぁね。でも、気が済んだの？　すんごい金使ってさ」<br>「たいした額じゃないわ。半分はアンタの給料から返してもらうし……」<br>「ちぇっ。さっちゃん、相変わらず守銭奴だな」<br>「アタシはもうお金しか信用しないのよ。ジュンちゃん、ここのお勘定払っといてね」<br>「はーーい」<br>　毛皮をまといまして大判振る舞いいたしておりましたのは、幸子さんでございました。<br>ここまで来ますには、ずいぶん苦労をされたご様子。定食屋で働くぐらいではお金はたまりません。もともと若く見える顔を利用して、二十八と偽りまして、水商売を転々とした挙句、ついにはヘルス、ソープと渡り歩きまして、身を汚しても絶対に復讐してやると心に誓ったのでございます。正輝と称しておりました新人ホスト……カンのいいお客様はお気づきでしょうが、定食屋で働いておりましたジュンさんでございます。<br>「つぎは店出して、ふたりで稼ぐのよ、うふふ」<br>「店って、もしかして」<br>「ホストクラブに決まってんじゃん！！」<br>「さっちゃん、いろいろ考えてんだね。すげぇわ。女ってコエーーーっ」<br>「アンタには稼いで、稼いで、稼ぎまくってもらうわよ！」<br>　すっかり幸子さんの手玉に乗せられた感じで、尻の毛まで抜かれないうちに逃げ出したほうがいいかな、なんて思案顔。</font></p><p><font size="3">　幸子さん、残っておりましたワインを手酌で注ぎますと、ぐびぐびぐび。<br>「ぷっはーーー。ちょっと、ワインもう一本！」<br>「さっちゃん、飲みすぎだって」<br>「いいじゃん、きょうはお祝いよ」<br>「それはいいんだけど、勘定は俺持ちなんだから……」<br>「なぁにブツブツ言ってんの？　アンタを人気ホストに仕立てたのはアタシなんだから！　プロデューサーよ、プロデューサー。これからのアンタの人生だって、アタシが握ってんだから。オッホッホ」</font></p><p><font size="3">　げに恐ろしきは女の執念。一度、地に堕ちると怖いものはございません。</font></p><p><font size="3">「店を着実に増やしていって、最後は海外進出よ！　<br>ホストクラブだけじゃ飽き足らないわね。エステにレストラン経営、不動産にリゾート開発、サチコ・インターナショナルって名前つけて、全世界にアタシの名前をしらしめてみせる。世界に羽ばたいてみせるわっ！」</font></p><p><font size="3">あぁ、もうどこへでも羽ばたいてっちゃってください……俺なんか、秋晴さんみたいに未収つくって「飛ぶ」のがオチだわ　(ToT )( ToT) （ジュンさん、心の叫び）。<br>　<br>　チャンチャン・・・おあとがよろしいようで。<br>　（終）</font></p><p><br><font size="3">　</font></p><p><font size="3"><br></font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10028106842.html</link>
<pubDate>Fri, 16 Mar 2007 06:57:37 +0900</pubDate>
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<title>笑談　ホスト倶楽部シャンパン之地獄　其の十四</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">店内に情報が行き渡りますってぇと、ネットでけちょんけちょんにけなされた秋晴さんだって、黙ってはおりません！<br>「俺が負けていいのか？　この俺があんなクソガキに負けて、おまえ、平気なのかよ？」<br>　必死の形相で客に迫ります。<br>「へ、平気じゃないわよ。天下の秋晴が負けるわけないわ！　リシャールより高いのっ！！　なんでもいいから持ってきてぇーーーーーー」<br>　悲鳴にも似た声が響き渡ります。<br>「お客さま、これなんかいかがでしょうか？　当店の最高級の品物でございます」<br>　差し出されたメニューに、おなご衆、もはや金額なぞ見ちゃおりません。愛する男が今まさに新人ごときに王座を奪われようとしているのでございます。<br>「じゃ、それっ！」<br>「ありがとうございます。ペルフェクション入ります！」<br>「ぺ、ペル……」<br>「……フェクション？？？？？？」<br>「ヘーーーーークッション」<br>なんて、ついでにクシャミをする輩もございます（笑）。<br>　ホストさん、ほぼ全員振り返りました。</font></p><p><font size="3">　コニャック・ペルフェクション。一本、一千万円のお値段がついております。<br>　普通でしたら、ありえないお値段でございます。</font></p><p><font size="3">もちろん、その月のナンバーワンも秋晴さんが死守したと、誰もが思っておりました。</font></p><p><font size="3"><br></font></p><p><font size="3">　数日後のホストサイトにこのような書き込みが相次ぎました。</font></p><p><font size="3">「秋晴にペルフェクション卸した女、自殺したんだって！！！」</font></p><p><font size="3">「マジ？　秋晴はやめといてよかった。ご愁傷さま」</font></p><p><font size="3">「そこまでしてナンバーワン守りたいかなぁ？　守銭奴だね（笑）」</font></p><p><font size="3">「その女もバッカじゃねーーの？　秋晴なんかに一千万だって。ありえねーーーー」</font></p><p><font size="3">「だからさぁ、払えなくて自殺したってことにしたとか？　未収になって、秋晴がかぶったんでしょ？」</font></p><p><font size="3">「秋晴が払うのぉ？　払えんの？」<br>「いままで儲けてたんだから、払うでしょ？」</font></p><p><font size="3">「でも、車何台も買って、マンション買って、女に注ぎ込んで、もうお金ないってハナシだよ！」</font></p><p><font size="3">「秋晴って、女いたのぉ？　ショック！」</font></p><p><font size="3">「アンタ、ホストに女いないと思ってんの？　ホント、バカだねぇ。結婚してるヤツだっているんだから」</font></p><p><font size="3">「結局、その女に貢いでんのと一緒なんだね……。バカみたい。もう行くのやめる（泣）」</font></p><p><font size="3">「秋晴、終わったね。ムリしすぎだよね。いい年してさぁ。ハズ」</font></p><p><font size="3">「そのうち飛ぶよね？」</font></p><p><font size="3">「そうそう！！　飛ぶ、飛ぶ！！！　ぜったい、飛ぶわ！」</font></p><p><font size="3">「もう飛んだってハナシだよ。昨日も、おとといも行ったけど、いなかった」</font></p><p><font size="3">「秋晴、ご愁傷さま」</font></p><p><font size="3">「ちーーーーーん！」</font></p><p><font size="3">　ちなみに「飛ぶ」というのは行方をくらませることでございます。お客さんが払えないツケをホストさんがかぶるシステムですから、払えないホストさんは「飛ぶ」しかありません。非情な世界でございます。<br></font></p>
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<link>https://ameblo.jp/flowerincolour/entry-10028025166.html</link>
<pubDate>Thu, 15 Mar 2007 08:47:22 +0900</pubDate>
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<title>笑談　ホスト倶楽部シャンパン之地獄　其の十三</title>
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<![CDATA[ <p><font size="3">  ご婦人、携帯をバッグにしまいまして、ネットカフェをあとにいたします。　</font></p><p><font size="3">　こういう噂というのは尾ひれがつくもんでございます。<br>　性病にはじまりまして、インキンタムシだの、頭が臭いだの、口が臭いだの、足が臭いだの、ご婦人が書かなくても、もともと敵の多い秋晴さん。あっというまに噂が広がります。そうなりますと、秋晴さんのファンも黙っちゃおりません。あちらがけなせば、こちらが褒める。褒めてるヤツを見て「自作自演」と言い出すヤツが出てくるかと思えば、「ホスト行ってるＤＱＮがっ！」などと専門用語を使うヤツ、「書くんだったら、改行ぐらいしろ！　アンカーのつけ方も知らないド素人が！！」だの、書き方にいちゃもんつけ出すヤツが出てきて、まったく収拾もつかないありさま。</font></p><p><font size="3">　いっぽう、くだんのご婦人は新人ホストの正輝さんを褒めるのも忘れておりません。秋晴さんのほうはほっといても勝手に燃え上がっております。まるめた新聞紙に火をつけて、ゴミ箱に放り込んだような感じで、中ではボーボー火の手が上がっておりますが、傍観者を決め込んでおります。もともとあまり知られていない新人だけに、「自作自演」ぐらいは言われますが、名前はどんな手を使っても広めたほうの勝ちでございます！　ネットで煽られました偽人気がいつのまにやら本物になってしまいました。評判を聞きつけたお若いおなご衆が、ひとめ正輝さんを見ようと引きも切らず、お店を訪れます。<br>　くだんのご婦人も相変わらずのご散財。このご婦人もけっこう有名になっておりますな。<br>　正輝さんをごひいきのお若いおなご衆、札びらを切りまして、<br>「ちょっとぉ、正輝呼んでよ。また、あのババァ来てんの？　アタシだって金もってんだからね！！」<br>なんて息巻いております。<br>　こうなればしめたもの……。<br>　人気などあってないようなもの。みなが「良い」と言えば「良い」ように思えてしまうから不思議なものです。<br>「なんだってぇ？？　ドンペリ・ピンク？　そんなシケたもん開けてるの？　ありえねーーーーーーーーっ！！！　アタシの正輝がそんなもんで満足すると思ってんの？　ババァ、覚えてろよ！！！　ゴールドよ、ゴールド、２本！！！！」<br>　はたまた、別のおなご衆は、<br>「なんですって？？　ゴールド？　ふんっ。たいした女じゃないわね。アタシなんか、ルイいっちゃうわ、ルイよ、ルイ！！！」<br>ルイ、ルイ、ゆーても往年のアイドル歌手じゃございやせんよ！　「ルイ十三世」という高級なお酒でございます。一本、数十万でございますな。<br>「きぃーーーーーーっ。なにがルイよっ。アタシなんて、リシャールよっ、リシャールもってこーーーーい！！！！」<br>　こうなりますと歯止めが利きません。いうなりますと、ホストさんのオークションでございます。誰がいちばん高い値段をつけるかってんで、競争になっておりまして、そもそも原価意識などございません。ま、品物なんてなんでもいいんでございます。おなご衆もゲーム感覚。勝つか負けるか、単なる女同士の戦いにしかすぎないんでございます。<br>　折しも、締め日。<br>「じゃ、アタシ、なんにしようかな？　これと、これと、これ……」<br>　くだんのご婦人、ファミレスでメニューを選ぶような調子で、指差しますってぇと、黒服さんもびっくり！！　<br></font></p>
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<pubDate>Wed, 14 Mar 2007 09:47:01 +0900</pubDate>
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