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<title>fo4zpogdkの（ハードボイルド）小説</title>
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<description>素人の小説サイトです。現在ハードボイルド作品（予定）をupしています。http://1234567890.michikusa.jp/simpleVC_20090118000003.htmlで小説を書いています。読者の方の感想がほしくてここを利用しました。感想を残していただけるとありがたいです。</description>
<language>ja</language>
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<title>その８</title>
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<![CDATA[  <p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その８</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックは今回の依頼の内容を目の前の、情報屋である老人に話し終えると、アメリカンスピリッツに火をつけた。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　窓の外の通りには、相変わらず映画館から出てくる客が溢れている。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　その群れの中に作業着を着たアジア人が一人、通りに停めたバンから歩道を歩いてくる。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックは流し目でその男の行き先を追ったが、彼の目の前を通り過ぎ、そのまま歩いて行った。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「いつまでに調べればいい」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">メモと鉛筆を尻のポケットにしまいながら目の前の老人が言った。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「できるだけ早く」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「わかった」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は砂糖に手を伸ばすと、湯気の立つマグカップに入れてかき混ぜた。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「アメリカンは水みたいだろう。次回はエスプレッソだ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックのシナモン入りのコーヒーを見ながら不満を言った。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「水みたいだから店が儲かる、資本主義ってやつさ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「エスプレッソの飲み方知ってるか」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「興味が無いな」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「エスプレッソってやつはな、本来小さいマグに入ってる。片手で包めるほど小さい。そのぐらいの量でも充分濃いから少ないんだ。ヨーロッパの連中はそいつに砂糖を糞大量にぶち込んでスプーンでぺろぺろ舐めるんだ、犬みたいに」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は笑いながら次に話すことを考えている様子だったのでニックは反応しなかった。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「最近、サンバーナディーノに潜ったまま戻らない情報屋が多くてな。情報屋といっても多くが互いに連絡を取り合ってるわけじゃないから又聞きなんだが」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼はニックにタバコを指で要求した。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　タバコを咥えると窓の外に目をやりながら何かを思い出そうとしている風でもあった。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そうだ。一番驚いた話は中国系の人間まで消されているってことだよ、ダニエル。あの町じゃ白人や黒人、メキシコ系は目立ちすぎる。町の人間で英語を話す人間は少ないし、町中の看板までが中国語って有様だ。そこでロサンゼルス市警（<font face="Times New Roman, serif">LAPD</font>）の中国系の捜査員がチャイニーズマフィア捜査のためにあの町で仕事をしていた。お前さんが今からやろうとしていることさ。でもそいつはそのまま消えちまった。<font face="Times New Roman, serif">LAPD</font>のプロが、だぜ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「いつのことだ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「先月さ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　<font face="Times New Roman, serif">LAPD</font>がチャイニーズマフィアに目をつける理由があるということだ。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　サンバーナディーノは<font face="Times New Roman, serif">LAPD</font>の管轄外で、潜入捜査をするには州や郡レベルで共同作業が進行していると考えるのが妥当である。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ダウンタウンとサンバーナディーノを結び付ける何かが。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックは考えをめぐらしてはみたものの、警察関係者に知り合いがいるわけでもなく、これ以上聞いてみたところで大した手がかりが得られるようには思えなかった。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そいつは初耳だな。爺さん、この仕事は無しだ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　依頼人の背景で動く人間が多すぎるのは良い兆候ではないとニックはわかっていた。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「賛成だ。俺も消されたくないし、実を言うと中国語は読めないんだ」</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　それから老人はゆっくり立ち上がりながらトイレへ向かった。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックは、老人がレイカーズ戦を見守る客の間を抜けてトイレに行くのを見送ると、明日の断りの手はずを考えていた。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックはメニューを手に取りそこにエスプレッソが書いてあるのを見つけると、ウェイトレスを呼ぼうとした。</p><p lang="ja-JP" style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><font face="Times New Roman, serif">2/7</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/fo4zpogdk/entry-10204225706.html</link>
<pubDate>Sat, 07 Feb 2009 00:43:55 +0900</pubDate>
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<title>その７</title>
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<![CDATA[  <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その７</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><span lang="ja-JP">　ニックは老人を車に乗せると</span><font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">WestLA</span></font><span lang="ja-JP">からウィルシャー通りを南へ走った。</span></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　無機質な印象の連邦ビルや<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">UCLA</span></font>の大学病院の高層ビル群を抜けると、通りには小さなカフェやレストランが徐々に増えてくる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　助手席の老人は、食後のカフェを探すかのように、車窓からの景色を楽しんでいるかのようだった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　適当なカフェを見つけると、ニックは車を脇へ寄せてパーキングメーターに２５セント硬貨を数枚放り込んだ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「サンタモニカは安心するよ。ダウンタウンじゃ、周りの屑共に気を使わなくちゃいけない」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「自分の車が心配だからだよ。帰るときにタイヤが無いと困るだろ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そうだな」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　二人は店へ入るとカウンターから一番離れた席に腰を下ろした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　傍から見れば友人同士に見えるこの二人は長い付き合いにもかかわらず、互いの住所、年齢はおろか本名さえも知らなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ウェイトレスが注文をとりに来るとニックは「コーヒー二つ」とタバコに火をつけながらいった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「俺にもくれ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう言って、老人はニックのアロハの胸ポケットからアメリカンスピリッツを奪い取ると咥えて火をつけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そこまで親しくされる覚えは無いが、な」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「リラックスしろよ、ダニエル」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「してるさ。今日は銃を持っていないからな。ポリスに気を使わずに済む」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「お前さんがでかいヤマを踏むときはいつもこの店だ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「だから」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「緊張しすぎるな、ってことさ。」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ああ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　二人は示し合わせたかのように、互いに仕事の話を始めようとはせず、ウェイトレスがコーヒーを運んでくるのをおとなしく待っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　窓から見える通りの歩道には映画を見た帰りなのか、ポップコーンを抱えた人々が通り過ぎてゆく。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　店内では、カウンターでシェフと若者がテレビを見ながらレイカーズの試合に興じていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼らの間をぬってウェイトレスがコーヒーポッドとマグカップを乗せたプレートを抱えてこちらへ向かってくる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「何か他にご注文はありますか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックは「無い」とだけ言って彼女を追い払うとテーブル脇のシナモンをコーヒーに入れ始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「相変わらず吐き気がするよ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　老人はニックのマグカップから眼を背けた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「俺はおかしな味のする食い物は信用することにしている。前にも話しただろ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ああ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「精神的に病んでる人間、ブレーキやハンドルに癖のある車、ギシギシ音を立てるベッド。こいつらは信用できる。銃に関しちゃ別だがな」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「信用できるって、意味がわからんな」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「愛着がわくってことさ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「殺し屋に愛着なんているのか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「仕事とプライベートは区別している」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　しばらくの間二人は周囲に目を配りながら黙っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　すると、「それじゃぁ」と老人は言って、皮製のメモと短くなった鉛筆をポケットから取り出した。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">2/2</span></font></p>
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<link>https://ameblo.jp/fo4zpogdk/entry-10202240077.html</link>
<pubDate>Tue, 03 Feb 2009 10:21:22 +0900</pubDate>
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<title>その６</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その６</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンは小便色の茶を一息に飲むとタバコをくわえて火をつけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「なぁ、ソウイチ。うちのリカーストアーで夜の仕事をしてみないか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼はマルボロの煙を吐き出しながら、つぶやく程の小さな声で続けてこう付け加えた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ソースを入れる小皿を灰皿代わりにしながら椅子の背にもたれた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「時間は深夜二時、俺がお前を迎えに来る。場所は海岸で荷物の受け渡しをしてもらう。」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンの横に立つ惣一が「どんな荷物」と言いかけた途端、それを予想していたかの様にチェンはニヤッと歯を出して言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「質問は無しだ。他言も無用だ。短時間で５万ドル」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一は驚きながらも不安であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンの言う仕事はまともな仕事でないことは容易に予想がつく。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ソウイチ、このままレストランで客の尻にキスしながら生きていくのか、なぁ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一は首から頭にかけて熱い血が昇っていくのを感じた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　同時に５万ドルという金額は、新しい土地で生活を始める軍資金として充分であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は苛立ちながらも慎重に考え、チェンに言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「チェンさん、あなたはうちの大切なお客様ですが、ここのウェイター以外の仕事はお断りさせていただきます。ただし５万ドルのチップをいただけるのであれば、深夜のドライブにお付き合いしない訳にはいきません」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一はウェイターである自分をけなされたことが悔しかったが、ウェイターとしてその仕事を請けてみせるという意地を張れたことに少し満足していた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「グッドボーイ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンは笑いながら茶のお代わりを要求した。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><br></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンは元来、それほど怪しい男として見られていたわけではなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　小さな町で小さなリカーストアーを２０年以上営む典型的なチャイニーズアメリカン。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　リカーストアーの隣にはさびれたガススタンドがあり、運転中の飲酒を好む長距離ドライバーは好んで彼の店を利用していた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　昔は競合相手も無く、強盗の少ないこの町では、彼はただカウンターでにこにこしているだけでよかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ところが、以前は地元の人間も頻繁に足を運んだものの、大型スーパーができる頃には客足が途絶え、店の経営は苦しくなっていった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そんな時、彼はメキシコから密輸された酒の販売に手を染めて、一年前警察に摘発された。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　酒税を逃れて貯めた金もすべて没収されたが、裁判における高い弁護料の甲斐があり酒販売のライセンス剥奪には至らなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　爾来、町の人間は彼の店から足を遠ざけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼がギャング、マフィア等の怪しい連中と付合いがあると噂され始めたのはこの頃である。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一はその隣人の噂を高校で耳にしたときは驚いて、父に真相を聞いてみたものの口を閉ざして惣一に教えようとしなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンは<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">KABUKI</span></font>をよく利用していたが、その噂のおかげで、父が彼との会話を避けているのも推測できたし、チェンの最近の態度の変化についても納得できた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><br></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンはタバコを吸い終えると、胸ポケットからテーブルに封筒を取り出した。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　封筒からは小切手がのぞき、惣一の胸の鼓動は高まった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　「あとこれは」と言って、別に飯代をテーブルに置くと、立ち上がって店を出て行った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　しばらくして、惣一がテーブルを片付け始める姿を、父は厨房奥から眺めていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">2/1</span></font></p>
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<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 22:09:54 +0900</pubDate>
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<title>その５</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その５</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　良子はハーバー通りの海岸線に沿って車を走らせながら、体が内側から熱く火照るのを感じていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　久しく忘れかけていた男への肉欲は、大雨で蓄積された奔流のエネルギーのように堰を切って体中に流れ始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックと名乗ったあの男の体の温かさが自分の体を這い回り、乳房にざらざらと髭が触れ、唇に押される唾液をまとった熱い舌を思うとき、誘いを断った自分を悔やんだ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　夫との夜の関係はレストラン経営が順調になるにつれて疎遠になっていったことに加えて、少しでも日常から、ベンチュラから離れた享楽的な時間は彼女にとってここ数年間の宿願であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼女は車を空き地へ停車させて、アタッシュケースからパイプとジップバッグを取り出した。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　バッグからマリファナを取り出してパイプにつめると勢いよく吸い始めて、ぼんやりと独り言をつぶやいた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「後悔は、もううんざり」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　朦朧とした意識の中で、景色は歪んだ映像となって彼女の目に映った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼女は目を虚ろにさせて海を眺めたまま、スカートの奥を指でなぞった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><br></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックは中国人の大男が部屋に残していった数枚の写真とファイルを手にとって眺めていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　対象は二日おきに仕事へ出かけ、日曜夕方に買い物へ行き、日中頻繁にドライブへ出かけ、毎朝ジョギングの習慣等がある。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　これら身辺調査はすでに終わらせてあり、依頼主の手際の良さがうかがい知れた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は方法が問われないのであれば事故を偽装するのが望ましいと判断し、かつ町の中心部からそして家族から離れるであろうドライブの習慣に目をつけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　普段のヤマであれば対象の観察に二ヶ月以上かかるものだが、依頼人の資料は彼の手間を省くのに充分であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　だがそのことが反って彼を不安にさせた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　過多な金額、豊富な資料、容易すぎるヤマ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼はどうしても依頼人の背景を調べなくては気がすまなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　サンバーナディーノの巨大なチャイニーズマフィアがなぜ一人の日本人主婦を殺すのであろうか。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　加えて、マフィアが殺しを他人に依頼する時はヤマが大きい場合だけであることを考えても、曖昧な不安がこみ上げてくるだけであった。　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は携帯を手に取ると電話をかけ始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「もしもし」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　低い声が聞こえた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「こちらはランチボックス」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「久しぶりだな。元気かダニエル」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「車の修理を頼みたい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「わかった」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　待ち合わせは三時間後の<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">West LA</span></font>に位置する、とあるショッピングモールと常に決まっていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　モールにはすでに夕日が差し込み、周りの建物を赤く染めている。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　多くの買い物客は買い物袋を手に下げて談笑しながらニックの座るベンチを通り過ぎてゆく。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　サンダルとブラウンのパンツ、アロハシャツを着込んだ彼は、買い物中の妻を待つように情報屋が来るのを待っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　立ち並ぶ店の角から、一人の老人がニックを見つけて向かって来た。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そのまま老人はニックのそばを通り過ぎ、ニックは間隔をあけて老人の後ろについていった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">1/28</span></font></p>
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<link>https://ameblo.jp/fo4zpogdk/entry-10201483732.html</link>
<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 22:09:06 +0900</pubDate>
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<title>その４</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その４</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ニックはシャツの胸ポケットからアメリカンスピリッツを取り出すと火をつけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　今はまだ派手な行動は避けるべきだと考えながらも、選んだ車種については後悔していた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼の車は目立ちすぎる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　窓側の席は相変わらず満席で、恋人や家族連れが食事と景色を楽しんでいた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は近寄ってくるウェイターを片手で追い払い、二本目のタバコに火をつける。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　テーブルにある２０ドル一枚を財布へしまうと、一枚だけを残してテーブルを立った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　傾きかけた日の光はいまだまぶしく、車に置いたジャケットからサングラスを取り出してかけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は車のエンジンをかけると、良子が帰った方向とは逆に向かって走り始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">LA</span></font>東部、サンバーナディーノのチャイニーズコミュニティーから依頼があったのは先週のことであり、彼らは自分が引き受けるかどうかの返事を待たずに１０万ドルを送ってよこした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　大きいヤマ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　それは彼にとって久々のことであり、殺しの段取りに加えて依頼人の背景も探っておきたかったがその猶予は無かった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><br></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　先週、彼の仕事場、つまり彼の所有するいくつかのアパートのうちのひとつ、を中国系の大男が訪れた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">LA</span></font>ダウンタウンに位置する彼のアパート周辺は治安が悪く、他のアパートの住人は娼婦、ドラッグの売人、ギャング等であり、不自然なドア越しの会話に注意を払う者は皆無であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「爺さん、元気か」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　大男はドアをノックしながら言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　少し間があり、部屋から返事が来た。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「出かけたよ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ランチボックスを持ってきたぞ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　するとドアの内側から施錠を解く音がして、ニックは大男を招きいれた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼の部屋はソファー、冷蔵庫、机、そしてその上にあるノートパソコン以外生活用品が何も無かった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　大男はダークスーツに身を包み右手にアタッシュケースを持っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　同じくニックも蒸し暑いダウンタウンの一室で昼間からスーツに身を包み、胸ポケットに入れた右手はサイレンサー付きのコルトを握っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　大男は入るなりソファーに座ると、ニックに目もくれず話を始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ランチボックスには肉が入っている」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　それを聞くとニックは胸から手を出して大男の正面へ立った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「仕事は」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ベンチュラにいる女を一人片してほしい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「死体は」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そのままでいいそうだ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　「そうだ」、つまりこの大男は誰かに雇われているということだ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「その女の旦那はブエナベンチュラで<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">KABUKI</span></font>という店を営んでいる。息子一人、従業員も一人だが、息子は店によく出入りしている」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう言うと、男はアルミケースから地図と数枚のファイル、さらに人物、車、自宅、店の写真を取り出した。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「方法は」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「銃、ナイフ、爆破、毒、事故、何でも構わない」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「報酬は」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「２０万ドル。明日、お宅の返事を聞き次第用意する。受ければ先に１０万を渡す。残りは仕事の後だ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　これだけの金を返答後すぐに準備できるのはマフィア、企業又は政府である。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　地図から判断すると土地に利用価値は低く、この時点で企業と政府は除外できる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チャイニーズコミュニティーがあるのはサンバーナディーノ、サンフランシスコの二つ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　だとすれば近場のサンバーナディーノのマフィアと推測できた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「支払い方法は」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「明日、それも連絡しよう」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう告げると大男はアルミケースを置いたままドアから出て行った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">1/21</p>
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<link>https://ameblo.jp/fo4zpogdk/entry-10201483324.html</link>
<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 22:08:46 +0900</pubDate>
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<title>その３</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その３　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　賑やかな店だった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　店内はホール中央に木製のカウンターと椅子を備え、メキシコ人の小柄なウェイターが大皿を抱えて行き来している。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　カウンター奥のスピーカーからは絶えることなくメキシコ音楽が流れ、時折それに混ざって潮が崖に当たって砕ける音が遠く聞こえる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　太平洋が一面に見渡せる窓際の席はほぼ満席にもかかわらず、ニックは「空くまで待とう」とだけ言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　空席を待つ間二人は外へ出て、しばらくの間何も話さずに駐車場から眼下に広がる波のうねりを眺めていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　二人の目が合うと彼が口を開いた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「君の名前は」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ヨシコよ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ヨシコ、この店はすごくいい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「まだ誘われた返事をしていないのに」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「君の答えはイエスだろ。その証拠に僕について来た」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ただの好奇心よ。でも、こんなとこに、いいレストランね」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　十年以上もベンチュラに住んでいながら、このレストランに気付かなかったことが不思議に思え、さらに彼女はなぜここで夫以外の男と話しているのか考えていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　自分の世界を広げるような予感が、この男の突然の登場によってもたらされたということが、彼女の脳裏に「運命」という言葉をちらつかせた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ただ寝たいだけなら若い女を捜すだろうし、アジア女性が好みなら成功しやすいどこかのカフェなどで声をかけるはずだと彼女は考え、この突飛な出会いに合理性を探してみたものの、「運命」という言葉が暗に意味する偶然性に酔いしれるままであった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「どうかしたのかい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「この辺りに変質者が出るらしいから、助けを呼ぼうか考えていたのよ。白人で年齢は４０代、フォードのオープンカーに乗ってるみたい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼はサングラスをはずすとうつむきながら言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「僕はそんなに怪しい男でもないさ。海を見ながら一人で食事するのは店員が気を使う。それに」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　うつむいた彼の短めの髪は潮風を受けて揺れており、背後に広がる太平洋の水面は日の光を反射してきらきら光っている。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　言葉を言いかけた男をさえぎって彼女は言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「冗談よ。値段を考えていたの」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「僕が出すさ。誘ったのは自分だしね」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　しばらくすると、店内からボーイが出てきてニックに会釈をした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「用意ができたらしい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><br></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　料理は彼の話した通り満足できるものだった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　注文はシュリンプカクテルとアボカドのサラダから始まり、牛肉炒めのサルサソース和えを食べたところで、二人の腹がいっぱいになったとい</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">うことで一致した。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　食事の間、二人はベンチュラの町について語り、料理についての評価を行って過ごした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　テーブルのかごに残ったトルティーリャをかじりながら彼は言った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「これからどうする」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「家で夫が待ってるのよ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「それも冗談だろ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼女は手をワイングラスの上に出して結婚指輪でグラスをたたいた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そうじゃない。結婚していることは知っているさ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼女は長い黒髪を肩から払ってトルティーリャに手を伸ばした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　パリッという音を立ててそれをかじると、口に残ったかたまりをワインでのどに流し込んだ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「食事をありがとう。でも息子が心配するわ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう言うと彼女は立ち上がって鞄から車のキーを取り出すと振り返らずに店内を出た。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　それから車のエンジンをかけると、そのまま来た道を帰っていった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　テーブルにたたずむ彼がトルティーリャを口に運ぼうと、女が放ったナプキンをどけると、そこから２０ドル札が二枚こぼれ落ちた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">1/20</span></font></p>
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<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 22:07:36 +0900</pubDate>
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<title>その２</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その２</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ブエナベンチュラの蒼く荒々しい波が打ち寄せる海岸を一人の老人が歩いている。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　暖かい日差しと冷たい潮風が頬に差し、排気ガスやレストランの悪臭が漂うロサンゼルスとは違う、清い空気が鼻腔に満ちてゆく。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼は暖炉の上に飾るための流木を探して白い砂浜をさまよっていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼の頭は流木のサイズと色の候補で支配されて、目先の岩場に隠れる人の存在に気付かなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼がフジツボで覆われた大きな岩と擦れ違ったとき、一人の女がうずくまる様にして岩場に腰掛けているのを見た。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　女のほうは老人に気付いていないらしく、彼は驚きと好奇心で女に挨拶しようと背後から近寄っていった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　しかしマリファナパイプを持つ女の指が彼の目に入ると、彼は静かにその場を去った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm"><br></p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　この煙をくゆらす女には夫と一人の息子がおり、夫はここブエナベンチュラで日本食のレストラン「<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">KABUKI</span></font>」を営んでいる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　いつからドラッグをはじめたのか、彼女は思い返していた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　学生時代の友人とのパーティー、外国人の彼氏の部屋、女友達と車の中、といったさまざまな情景が思い浮かんだが、結局何がきっかけだったのか思い出すまでには至らなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　ただ確かなのは、彼女は今の生活に満足していなかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　このまま、何も無いカリフォルニアの田舎町で人生を終えてゆくという予想が彼女の脳裏を掠めるとき、いてもたってもいられないような強迫観念に取り付かれた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　せめてサンタモニカに住んでいれば、刺激的なロサンゼルスまで買い物にいくことが可能であるし夜のハリウッドは魅力的だ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　よってサンタモニカは、彼女にとってはベンチュラよりはるかに「マシ」な存在であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　農夫やトラクターが泥を撒き散らしながら通りを行き交い、遠く広がるとうもろこし畑からは堆肥や農薬の匂いが町まで香るベンチュラ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　外国人嫌いの<font face="Times New Roman, serif"><span lang="en-US">WASP</span></font>が使うスーパーが多く、彼女がアルコールを買うとき常に身分証明書の提示を要求してくるベンチュラ。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼女は夫に引越しの話を持ちかけたが、他所では銀行の融資が出ずに店を開くことができず、おまけに食材も手に入りづらいと言われあしらわれた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　息子の惣一が地元のハイスクールに通っていることを考えても、引越しは家族にとってよくないということが明らかだった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　だが明らかであるということが彼女の心を一層陰鬱にしていった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そんな日々を過ごしていたある日、彼女は憂さ晴らしにハーバー通りから真っ直ぐに海岸線を車で飛ばしていると、隣を走るフォードのオープンカーに乗る男が彼女を見ていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　４０歳ぐらいのサングラスをかけ背広を着た、痩せた白人。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　彼女はアクセルを一気に踏んで、バックミラーにフォードが写ったのを認めると、右折信号を出して道路沿いの空き地に車を入れた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　こうした空き地は海岸の車道沿いにいくつもあり、さらに向こうの空き地では、景色を眺めたい旅行者がカメラを構えて海を撮っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　しばらくするとフォードのやかましいエンジン音が聞こえ、彼女が振り返ると男が降りてきた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「私はあなたを知ってるかしら」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「いいや」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「あなた仕事中なの」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「とても大事な仕事をね」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう言うと男は彼女に近寄り食事に誘った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「この先に美味いシュリンプカクテルを出す店がある」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「だから」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「新鮮なエビと本場のトルティーリャ。いきたくないか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「仕事中じゃなかったの」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「俺の仕事はきれいな婦人を食事に誘うことだよ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　男はニコラスと名乗り、「ニック」と呼んでくれと告げるとフォードに戻り「ついて来い」と言う合図をよこした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">1/19</p>
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<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 22:06:33 +0900</pubDate>
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<title>その１</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm" align="center">その１</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一が生まれたのはロサンゼルスからハイウェイ１０１を３０分ほど北上したところにある、ブエナベンチュラと呼ばれる小さな町である。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　日本で生まれた父は魚介類の手に入り易いこの町で日本食レストランを始め、サンタバーバラに留学中の母と出会い惣一が生まれた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　１７歳になった惣一は父のレストランでパートタイムとして働きながら高校へ通っている。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　いつものように中古のホンダ・アコードで下校してレストランへ向かう。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　変わることの無い、雲ひとつ無い空、遠くから聞こえる波の音にハイウェイからの低い轟音、スモッグの香り。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　海沿いのハーバー通りを走ると派手なメキシコ風にデザインされた父のレストランの看板が見えてくる。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一は従業員用の駐車スペースに車を入れると裏口からレストランへ入った。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　海沿いの潮風を受けた金属は錆び易く、それは車もキッチンも同じである。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　錆で服を汚さないように、半身で裏口を進んでいくと従業員のマイクが食材を搬入している。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「よう、元気か。彼女はできたかい」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「彼女はいないが、彼氏がいるよりましだろ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう言うとマイクは笑いながら巨大な業務用冷蔵庫に入っていった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　厨房の前に来ると惣一の父が仕込みをやりながら、学校帰りの彼を見つけた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「学校どうだった」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一にとって、こうした家族同士の会話だけが日本語を使う唯一の機会であった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「いつもと同じだよ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「そろそろ進学とか考えているのか。学校からは何も連絡は無いが」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「連絡が無いってことは必要ないってことさ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「時期的に早すぎるってことか、それとも学力に問題があるってことか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「連絡が無いならわからないだろ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「屁理屈ばかり言いやがって」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　自分を罵る父を背に惣一はエプロンと帽子を手に取ると、雑巾を持ってテーブルの掃除を始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　惣一は木製のテーブルに彫られた客の落書きを、無意味に繰り返し拭きながら、チェンが来るのを待っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　昨夜チェンから聞いた＜あの話＞が本当だとすれば、チェンの告白に等しい重さを持った返答をしなければならないと感じていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　受けるにしても断るにしても、チェンが納得できなければ厄介ごとに巻き込まれると思ったからである。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンとは隣でリカーストアーを営む５０代のチャイニーズで、「アジアの飯が恋しい」と言いながら父のレストランで頻繁に食事をした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　決まって一人で食事をする彼に、惣一はよく些細な話をしたものである。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　家族やカップルの客にとって店員は飯を運ぶだけでよく、チップを忘れなければそれでいいと惣一は考えていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　昨晩のチェンは雰囲気がどこか違っていた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「お食事はいかがですか、チェンさん」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「ああ。惣一、お前はこの生活が好きか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「どういうことですか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「何も変わらない生活は好きか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンは返答に困る惣一を認めると苦笑いをした。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　一方惣一はそれほど親しい間柄でもない客から、まるで絡んでいるような質問をされて腹立たしかった。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「好きか嫌いか聞いてるだけさ」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「いつかこの町を出たいですね」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　そう答えると、チェンは満足した顔で、ほかの客に聞こえないよう呟いた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">「出るには金が必要だな、ソウイチ。稼いでみないか」</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">　チェンはビールを呷ってげっぷをすると、ヒラメのから揚げを箸で突き始めた。</p><p style="MARGIN-BOTTOM: 0cm">1/18</p>
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<link>https://ameblo.jp/fo4zpogdk/entry-10201481435.html</link>
<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 22:04:46 +0900</pubDate>
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