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<title>フシギ堂</title>
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<description>どこかのだれかの創作処。</description>
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<title>２０１９年６月２２日のはなし。</title>
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<![CDATA[ <p>　真白い大地に、一頭の牡鹿が立つ。雄々しい角をかかげた首が、ゆるりともたげられる。その黒く濡れた瞳は、まっすぐに、ただ一点だけを見つめていた。</p><p><br>　そこには、彼が踏みしめているそれと同じように、真白い丘がある。丘の頂では、青々とした葉を茂らせた樹が、さらに、空高くへと枝を広げている。</p><p><br>　あれが、あの場所こそが、彼の――彼と“私”の目指す場所だと、そう確信を抱くようになったのは、はたして、いつからであったのか。もう、今となってはわからない。ただ、私はいつでも牡鹿のかたわらにいて、牡鹿もまた、いつも私のかたわらにあった。</p><p><br>　遠く、汽笛の音が聞こえた。目をやれば、私たちが歩いてきた方角から、汽車が走ってくる。汽車は、またたく間に私たちを追い越していった。風に乗って、乗客たちのにぎやかな声が届く。</p><p><br>　――あれに乗っていたのなら、どれだけ、この道は楽だったろう。</p><p><br>　みるみるうちに、小さくなってゆく汽車を見送り、私は思った。数日前、私と彼とが後にした町を振り返る。旅の足を休めるべくして、しばしの間、私たちが留まったそこは、青で彩られた町だった。</p><p><br>　先刻、走り去った汽車が、あの町から出ていることを、私は知っていた。彼とふたり、この広大な地へと旅立つ、その前から。</p><p><br>　だのに、どうして、私はあの汽車に乗らなかったのか。それは、ひとえに、私が彼とともに在りたいと願ったからにほかならない。なぜなら、牡鹿である彼は、汽車になど乗ることができない。なぜなら、自然を愛する彼は、汽車を好まない。そして何よりも、彼は自らの足で歩きたいと願っていた――<br><br>　私は視線を前へと戻そうとして、ふと、奇妙なものを見た。乾いた砂地で、青い金魚が跳ねている。砂にまみれ、もがく金魚が向かわんとする先には、いくつかの水たまりがあった。しかし、水たまりとの距離はなかなか縮まらない。まるで、懸命に逃げ水を追っているかのようだった。</p><p><br>　一方で、金魚が目指す水たまりにもまた、奇妙なものが映っている。それは、箱に入れられた子猫であった。置き去りにでもされたかのようなその姿は、けれど、大切そうに何かを抱きかかえている。</p><p><br>　そのとき。ふいに、私の頭にひらめくものがあった。ああと、思う。これらは、この金魚と子猫は、ほかでもない私自身なのだ――</p><p><br>　あの逃げ水は、心だ。“童心”という、幼き日の私が、もっとも失いたくないと願った宝だ。そして、箱の中の子猫が、今も大事に抱えているもの。それこそが、金魚の求めてやまない水なのだ。</p><p><br>　私は、そっと金魚をすくいあげ、水たまりへと放してやる。たちまち、金魚は水の中をすいと泳ぎ、いずこかへと消えた。それとともに、子猫の姿もまた、水たまりには映らなくなる。水たまりに映る自分と、かたわらにたたずむ牡鹿の姿を確認して、私はどこか、晴れ晴れとした気持ちになった。</p><p><br>　――やはり、よかったのだ。私は、汽車に乗らずにいて。</p><p><br>　そもそもの話、あの汽車では丘まで行くことなどできはしない。町の人々が目指す、赤い華の塔。そのさらに先に、私たちの目指す丘はあるのだから。</p><p><br>「さあ、いこう」</p><p><br>　向かう地へは未だ遠く、けれど、私たちの道のりを阻むものは何もない。私は牡鹿の首に手を置き、再び、並んで歩きだした。<br>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20190625/06/fushigi-do/2a/e1/j/o1000061514480025659.jpg"><img alt="" contenteditable="inherit" height="381" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20190625/06/fushigi-do/2a/e1/j/o1000061514480025659.jpg" width="620"></a></p><p>&nbsp;</p><p>※　箱庭ねんどセラピー（<a href="http://kokoro-yokohama.org/" target="_blank">JCAカウンセリング・傾聴スクール</a>）での記録を兼ねた掌編小説です。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fushigi-do/entry-12485814225.html</link>
<pubDate>Tue, 25 Jun 2019 06:00:00 +0900</pubDate>
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