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<title>私は人形じゃないから</title>
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<description>ずっと人形のような人生を強いられてきた。いっそ人形に生まれてきた方が良かったと思ったこともあった。</description>
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<title>新しい仮面</title>
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<![CDATA[ <p>　あなたのいない世界は、どんなにつまらないことでしょう。</p><p>　私のいない世界は、きっと何も変わらないことでしょうが。</p><p>&nbsp;</p><p>　朝目覚めることすらもがおっくうだったのは久々だ。</p><p>死を隣り合わせに感じていても、それを逃れるのに必死だった。</p><p>どんなに辛くても、死んではいけないと思っていた。</p><p>生きてさえいればどうにでもなると思っていた。</p><p>　一緒にいて楽しい人といることは幸せだ。</p><p>しかし、同時に自分にとって毒にもなりうる。</p><p>似たような物を抱えながらも幸せそうにしている彼を、いつしか嫉妬の眼差しで見ている自分がいた。</p><p>いつの間にか彼の不幸を願ってしまう自分が余計に嫌いになった。</p><p>　好きな人には幸せになってほしい。</p><p>彼の考えもそうだし、自分もそう思う。</p><p>今まで何だかんだ自分が可愛かった私には、初めての感情かもしれない。</p><p>それでいても彼の足を引っ張ってしまいたくなる。</p><p>もはや葛藤ですらない、私は私の中で完全に分離した。</p><p>&nbsp;</p><p>　仮面を被る生活はもう辞めたい。</p><p>自分の心を閉ざすことも辞めたい。</p><p>彼もそれを肯定してくれた。</p><p>それでも仮面も鍵もなくならない。</p><p>彼が新しい仮面をくれた。</p><p>彼が新しい扉に鍵をかけた。</p><p>　私はどこへ行っても「私」なのだ。</p><p>何者にもなれない私のままだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　新しい仮面の私は凶暴なのだ。</p><p>その皮を剥がされるくらいなら器すらも壊そうとする。</p><p>いずれ私そのものを壊してしまうのではないかという勢いだ。</p><p>　気を抜いたら死んでしまう。</p><p>そう訴えても彼は助けてくれない。</p><p>誰も助けてくれない。</p><p>誰も私のことなんて覚えていない。</p><p>誰も、誰もだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　あんなに偉そうに「死んではいけない」だなんて言っておいて、死のうとしても無視をする。</p><p>私が死なないと本気で思っているのだろうか。</p><p>例え20年以上成功しなかったことでも、成功すればほんの一瞬だ。</p><p>取り返しのつかないことなのだ。</p><p>だからこそ成功しなかった。</p><p>　首に巻いた紐が肌に食い込む。</p><p>締め付けられる苦しさよりも、皮膚の痛みが上だった。</p><p>どうしてこんなにも痛いのだろう。</p><p>一番楽な方法はどんなことなのだろう。</p><p>生きている苦しみが死ぬ苦しみを上回ったら人は自ら死ぬのだろう。</p><p>けれど、それならば私はとうに死んでいてもおかしくはないのだ。</p><p>とっくのとうに壊れているのだ。</p><p>生きているのは痛覚だけなのだ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12375460238.html</link>
<pubDate>Sat, 12 May 2018 20:41:51 +0900</pubDate>
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<title>悪夢の天使</title>
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<![CDATA[ <p>　その日の夢は、途中から悪夢に変わった。</p><p>友人二人と外国の街を歩いている夢だった。</p><p>歩くのが速い二人に追いつけず、寄り道をしていたところを「彼」と遭った。</p><p>「私、用があるから」</p><p>そう言って歩き出しても彼はついて来る。</p><p>「友達と一緒なの」</p><p>彼は笑顔でついて来る。</p><p>「やめて」</p><p>早足になると彼も歩くスピードを上げた。</p><p>「来ないで！」</p><p>逃げ込んだのは駅の化粧室。</p><p>女性しか入れないのだから心配はない。</p><p>　振り返ると彼はいた。</p><p>化粧室にいる他の女性が騒然としていた。</p><p>個室に駆け込み、扉を閉めると鍵をかけた。</p><p>このまま「彼」がいなくなるまで待とう―――</p><p>その瞬間、投げ込まれたのは使用途中で外したらしい避妊具が三つ。</p><p>「やめて！」</p><p>&nbsp;</p><p>　そこはいつものベッド。いつもの天井。</p><p>珍しく早起きした恋人は、仕事に取りかかっていた。</p><p>あまりにも生々しい夢に、しばらく前に見た悪夢を思い出す。</p><p>&nbsp;</p><p>　久しぶりのデート。</p><p>お気に入りのスポットを恋人と並んで歩く。</p><p>少し離れたところに、見慣れた人影が見えた気がした。</p><p>気のせいだろうと目を反らすと、「彼」は笑顔でこちらに手を振った。</p><p>「久しぶりだね」</p><p>背筋が凍るのを感じた。</p><p>満面の笑みで彼はこちらに手を伸ばす。</p><p>「会えて嬉しいよ。行こう」</p><p>恋人から私を取り上げるように「彼」は私を引き寄せた。</p><p>後ろから恋人が睨みつけてくるのを感じる。</p><p>「違うの、待って！」</p><p>恋人が投げかけた浮気を疑う言葉に対して、「彼」はさらに続ける。</p><p>「僕は彼女の恋人です」</p><p>&nbsp;</p><p>　目を覚ましたのは、その場所に行くデートの日の朝だった。</p><p>買い物をするために別行動をとったほんの僅かな時間。</p><p>好きだったはずの街並み。</p><p>噴水に反射した光が天井に揺らめくのを見つめて、文句の言葉が零れた。</p><p>「もう、会いたくない」</p><p>&nbsp;</p><p>　夢の中でも雪は冷たく感じる。</p><p>コートを着た背の高い男が、古びた旅館に訪れる。</p><p>明日は近くの体育館で講演があるため、それを聞きに来たのだ。</p><p>　一方で私は講演の助手を務めていた。</p><p>白衣の女性が何かを説明し、その隣でホワイトボードや実験道具を用意する。</p><p>他にも助手は女子が何人かおり、女性だけのグループだった。</p><p>聴衆は男女混合、年齢も若い人から老人まで。</p><p>　突然その中の一人が立ち上がる。</p><p>「そこで手伝っている人、僕の恋人なんです」</p><p>大きな声。</p><p>また「彼」だ。</p><p>足がすくんで何もできなくなる。</p><p>「彼女です、僕の彼女です」</p><p>彼が舞台まで進み出てくる。</p><p>言葉が出せないまま、私は走ってホールを飛び出した。</p><p>　平和な事務室に飛び込み、私は一息ついてから声を張り上げる。</p><p>「先生をお願いします！」</p><p>コートの男が出てくる。</p><p>「先生、助けて！」</p><p>私の様子を見てコートの男は厳しい口調で返す。</p><p>「それは私に頼むことじゃないだろう」</p><p>「でも…！」</p><p>「お前さんは、死ぬ気で立ち向かうつもりはあるのか？」</p><p>低い声が体中に響いてきて、不思議な安堵を覚える。</p><p>「はい…！」</p><p>&nbsp;</p><p>　息が詰まる。</p><p>胸が苦しい。</p><p>隣にいる恋人を叩き起こして、怖い夢を見たと訴える。</p><p>呼吸が整うのに随分と時間がかかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　次の夢は、学校の文化祭だった。</p><p>自分のグループを終えて、仲の良い友人と他の出し物を見て回ることになった。</p><p>同じクラスの恋人とすれ違い、軽く手を振る。</p><p>「さち、行こう」</p><p>友人に声をかけられた時、背後に人の気配がした。</p><p>「僕も一緒に…」</p><p>あぁ、また「彼」だ。</p><p>「誰？」</p><p>友人が訊く。</p><p>その先は…やめて…。</p><p>「僕は彼女の恋人です」</p><p>まだ近くにいた恋人の表情が変わる。</p><p>「それは一体…」</p><p>「違うの…！大体なんで…」</p><p>&nbsp;</p><p>何で私の学校を知っているの！</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>　近所に住んでいるのに、一度も言ったことのない散歩道を二人で歩いた。</p><p>楽しいと感じていたはずなのに、なぜか早く帰りたい気持ちでいっぱいになっている自分がいた。</p><p>前にも似たようなことはあって、それは彼の学校の文化祭の日だった。</p><p>久々に会う友達もいて、楽しかったはずなのに。</p><p>「あのさ…」</p><p>駅で何か言いかけた彼の言葉を遮り、私は「疲れちゃった、どこかに座りたいな」と言う。</p><p>それを肯定しながら、彼は近くにベンチがないかを探す。</p><p>「とりあえず電車に乗ろう？」</p><p>半ば強引に駅へと入る。</p><p>「言いたいことが…」</p><p>再び彼の言葉を遮るように、帰りの電車のホームを探す。</p><p>「私、この駅だったら乗り換えないで真っ直ぐ帰れるから」</p><p>最寄駅ではなく、一つ隣の駅を指さす。</p><p>彼に家を知られたくない。なぜかそう思った。</p><p>　彼が言おうとしていた言葉の先は聞きたくない。</p><p>私の抱いていた12年が消えてしまうから。</p><p>きっと、それを失ってしまったら私は今度こそ空っぽになってしまう。</p><p>&nbsp;</p><p>　帰宅して、そっと携帯電話から彼の連絡先を消す。</p><p>もう二度と会うことはないだろう。</p><p>いや、会いたくない。</p><p>　無垢な彼が好きだった。</p><p>休み時間に校庭の隅にある鉄棒に座って、何か歌を歌っていた。</p><p>その横顔があまりにも美しくて、天使のように見えた。</p><p>「好き」の次に言う言葉は何だろう。</p><p>それが聞きたくないから、私は天使を突き放した。</p><p>私が好きなのは天使であって彼じゃない。</p><p>汚い私の中にも、一つくらい綺麗で純粋なものがあったっていいじゃないか。</p><p>&nbsp;</p><p>「さようなら、小喬君」</p><p>&nbsp;</p><p>次に彼に会ったのは、夢の中だった。</p>
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<pubDate>Fri, 30 Mar 2018 23:48:40 +0900</pubDate>
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<title>親友という名の裏には</title>
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<![CDATA[ 子供というのは無知ゆえに残酷だ。<br>好きか嫌いかで物事を判断できる。<br>そのくせ感情は大人のように語りたがる。<br>ませている女子だと、「親友」なんて言葉を使いたがる。<br>  私はいじめっ子でありいじめられっ子だった。<br>どちらかと言えばいじめられっ子だろう。<br>それは私のいじめ精神に火をつけた。<br>好んでいじめると言うより、限度を知っていた。<br>我慢強いために、限度はないに近かった。<br><br>  私がいじめられたのには理由がある。<br>ままごとの延長で、そこらの植物を食べてみた。<br>普通はしない行為だから、当然気持ち悪いと言われる。<br>学校に入って数ヶ月後には、親の下手くそな成績至上主義を真に受けて「100点は取れない奴はバカだ」とのたまった。<br>毎回100点取るのは凄いことだと知るのは皮肉にも中学生になってからだ。<br>  行動の気味悪さと生意気な発言は当然嫌われる。<br>恐らく私は、学年で初めてそれらしい嫌われ方をした。<br>  一方で、仲の良い友達もいた。<br>1年生の頃には2人、いつも一緒にいる子がいた。<br>その2人は私が嫌われても一緒にいてくれたが、些細なことで常識はひっくり返る。<br><br>  ある日、仲良しの1人が声をかけてくる。<br>「内緒の話なの」<br>私は耳を傾ける。<br>「千佐都ってウザくない？」<br>自分の耳を疑った。<br>千佐都というのはもう一人の仲良しだ。<br>「どうして？」<br>聞き返すと、少し困ったように首を傾げて、こう続けた。<br>「なんだかしつこいんだよね」<br>  思い当たる節は確かにあった。<br>千佐都は一緒に帰ると、遠回りをして家の近くまでついてくる。<br>放課後に遊ぶのを断ると、納得がいくまで「なんで？」と聞き続ける。<br>「確かにしつこいよね」<br>  その一言のせいで話はどんどん盛り上がる。<br>「ねえ、あいつ無視しない？」<br>内緒話から一ヶ月もしないうちに、2人きりの話はクラス中に広まった。<br><br>  男子の意地悪というのは、相手に嫌な思いをさせるのに意味がある。<br>悪口を言って、相手が嫌な顔をするのが一番の嫌がらせだ。<br>一方で女子は冷ややかで、相手を無視して自分達の世界から追い出すのだ。<br>  私をいじめていた人のほとんどは男子だった。<br>悪口を言い、ばい菌扱いをし、嫌な顔をするのを楽しむゲームだ。<br>初めて見た女子のいじめは壮絶で、クラスから人間が1人減ってしまったようだった。<br>それでもまさか発端が「親友」だとは露とも知らず、千佐都は私たちの所に毎日来るのだった。<br>  そんな中、私もついにその言葉を発する。<br>「千佐都キモい！私と親友とか勝手なこと言わないで！」<br><br>  のちに千佐都とは別のクラスになり、私はいじめとは無縁の生活に戻った。<br>相変わらず男子はひどく私を嫌っていたが、元を辿れば自分のせいなので諦めた。<br>反応が薄くなるにつれ、私に対するいじめはいじりに近いものになっていった。<br>  その傍ら、隣のクラスはといえば酷かったらしい。<br>千佐都へのいじめは一向に止まず、そのまま月日が過ぎた。<br><br>  小学校最後のクラス替えで、奇遇にもかつての親友3人は同じクラスになった。<br>「さち！同じクラスだよ、嬉しい！」<br>「ミキちゃん！私もクラス表何回も見ちゃったよ！」<br>その円の中に千佐都はもういない。<br>ミキはふとクラス表に目をやり、嫌そうに呟く。<br>「千佐都がいなければ最高だったのになぁ」<br>「でも、私はミキちゃんと一緒なのがいい！」<br>「そうだよね！」<br>  そんな浅はかな幸せは続かない。<br>当然のように千佐都は私達のところに戻ってきた。<br>いじめが大っぴらにされた今では怖いものなどなかった。<br>私達は本人に向かって「近寄らないで」と平気で言った。<br>その度にしょんぼりして去って行く千佐都を見て笑いさえした。<br>  しかし私は都合のいい奴だった。<br>ミキが習い事で急いで帰ってしまう日は、声をかけてきた千佐都と帰るのだ。<br>そんな時に限って私はでまかせを言う。<br>「本当は千佐都と仲良くしたいんだけれど、他の子が怖くて…」<br>そんな言い訳を信じたのか、それとも嘘とわかっても縋り付きたいのか、千佐都は快く許してくれた。<br>しかし、その次に千佐都はこう続ける。<br>「もしかして八戸さん？さち、最近よく一緒にいるよね」<br>八戸はクラスのなかでも厄介な女子だった。<br>気が強く、平気で意地悪もする。<br>最初のクラス替えの後に私も仲良くなったが、大人しい相手には仲が良くても意地悪なのだ。<br>私は悪巧みをした。<br>「ねぇ、八戸さんって本当はすごく優しいんだよ。仲良くしてみない？」<br><br>  私はさっそく八戸と千佐都を引き合わせた。<br>嫌がらせによく反応する千佐都は八戸に気に入られ、取り巻きにまで集団でおもちゃにされた。<br>あっという間にいじめは激化し、千佐都は私とミキの元に戻ってくる。<br>そこでついに遠巻きに物を言うミキまでもが心無い言葉をかけてしまった。<br>翌日から千佐都は学校に来なくなった。<br><br>  千佐都がいなくなって1週間ほどが過ぎた。<br>邪魔者がいなくなってミキもスッキリしたような顔をしていた。<br>教室では千佐都が卒業まで来なければいいなんて声まで聞こえる。<br>「おい、外やべぇぞ！」<br>  男子の一人が叫んだ。<br>クラスメイトが窓に押しかけて外を見ると、千佐都が担任に引きずられて学校に連れてこられていた。<br>「もうあいつ来なくていいじゃん。めんどくさ」<br>そんな八戸の声がした。<br><br>  学校側はいじめの事実を認めたようだったが、学年のどこにも千佐都の居場所がないと悟り、千佐都は転校することになった。<br>てっきり吊るし上げを食らうかとも思ったが、緊急の学年集会が開かれて、隣のクラスの担任が「非常に残念なことです」と悔しそうな顔で言っただけだった。<br>  間もなく千佐都の机は教室からなくなった。<br>それを見たミキが「ようやくだね」と言った。<br>隙間の空いた教室を見て、私はようやく事の重大さを知ったのだった。<br><br>  相変わらず席替えの度に、私と隣の席になった男子は嫌な顔をする。<br>面白いことに、私と一番仲の良いミキと、私を最も嫌う男子2人が同じ班になったことがある。<br>図工の時間に同じ作業台で絵を描きながら、男子が私に悪口を言う。<br>知らん顔をしていると、次はミキに話しかける。<br>「お前さぁ、こいつのことキモいと思わないの？」<br>ミキは真顔で即答する<br>「え、思わないよ？」<br>そして振り向いて私に微笑んだ。<br>私は顔を真っ赤にして俯いた。<br><br>  私は結局卒業まで男子に嫌われた。<br>恐らく女子の半分くらいも私のことを嫌いなままだっただろう。<br>それでもミキの言った「え、思わないよ？」のたった一言が、いつまでも私の心の芯を真っ直ぐに支えてくれていた。<br><br>「いじめはする方が絶対に悪い。いじめをして許される理由はありません」<br>  あの日先生が言った言葉。<br>大好きな先生の言葉。<br>今でもたまに思い出しながら心の中で言う。<br>「先生、火のないところに煙は立ちません」<br>そして千佐都のことを思い出す。<br><br>小学生時代をめちゃくちゃにしてしまうほど嫌われた理由に気づけたのだろうか？<br>自分の心の支えとなるほど信頼できる友達はできただろうか？<br>私とは違う、本当の意味で親友だと言ってくれる人であることを願う。
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12354018858.html</link>
<pubDate>Mon, 19 Feb 2018 06:41:00 +0900</pubDate>
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<title>父の血を継いで</title>
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<![CDATA[ <p>　弟からの連絡に聞き覚えのない言葉が入っていた。</p><p>何かの試験のようだったが、思い出せなかった。</p><p>ネットで調べると、私も高校生の頃に受けろと言われたものだった。</p><p>簡単に言ってしまえば宗教上の知識を深めるものだ。</p><p>信仰するからには学んでおいた方が良いことなのだろう。</p><p>だが、物心つかないうちに入信させられた私と、入信してもいない弟には迷惑な話だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「強制するものじゃないから、必要があれば受ければいいと思う。私は受けていないけれど」</p><p>　弟にはそう返した。</p><p>少し安堵したような返事がいくつかと、母親がうるさいとの内容が返ってきた。</p><p>「うるさいって？」</p><p>「念仏」</p><p>　母親は昔から、何か気に入らないことがあると突然熱心に信仰をしていた。</p><p>普段は見向きもしない仏壇に向かい、幸運が降って来ると思っているかのように祈っていた。</p><p>「何か嫌なことでもあったの？それとも試験を拒否したから？」</p><p>弟は理由を知らないようだったが、恐らく正解であろう答えを出した。</p><p>「お母さんの恋人が入信したって」</p><p>&nbsp;</p><p>　母親の信仰する宗教は「唯一」であるものだった。</p><p>他の宗教を嫌い、結婚相手や子供も全員信者ということも珍しいことではない。</p><p>数ヶ月前には祖母が私に、「今度あなたの恋人に入信の話をしてもいい？」と言ったくらいだ。</p><p>　私たち姉弟は、曽祖母の代から信仰している四代目、いわゆる「四世」というやつだ。</p><p>この宗教ではこの「世」の数字が大きいほど、恵まれているとされている。</p><p>簡単に言えば前世で熱心に信仰して業を積み、信仰の環境が整った場所に生まれ変わること。</p><p>私の従兄も同じく四世だが、従兄はどちらかというときちんと信仰をしている方だった。</p><p>そのせいか、時折祖母は母親に厳しく孫の信仰について説教をするらしい。</p><p>　母親は私や弟に仏壇に向かうように言うことはあったが、他人を巻き込むことは初めてだった。</p><p>こんな例は初めて見たわけではない。</p><p>&nbsp;</p><p>　父はオーソドックスな「仏教」を信仰している家計だった。</p><p>結婚する際に宗教で揉めたそうだが、母が父に宗教を押し付けないことで話がついたらしい。</p><p>そのため、私の家では母親と父親の宗教は違うのだ。</p><p>母親は父が亡くなったとき、寺ではなく母の宗派の墓に納骨したが、それは父も同意していたらしい。</p><p>そして、子供たちの宗教に関しては母親任せだった。</p><p>　母親に比べると、叔母は熱心に信仰する人だった。</p><p>従兄は生まれつき目が悪く、脳にも軽い障がいを持っている。</p><p>それを少しでも軽くし、健康に生きることを願っているのだ。</p><p>従兄自身も叔母に素直に従い、熱心に信仰していた。</p><p>　そんな叔母一家だが、ずいぶん前に離婚している。</p><p>再婚する時に、祖母は後に叔父となる男性に宗教の話をした。</p><p>叔母と従兄を守るために自身も信仰するようにと。</p><p>そして叔父は入信し、叔母と結婚したのだ。</p><p>　祖母も私の生まれる前に離婚していたが、叔母より少し後に再婚している。</p><p>相手は同じ宗派で知り合った、同じ信者同士だ。</p><p>&nbsp;</p><p>　そんな話をしたところで、私が結論を出した。</p><p>母親が恋人と再婚するつもりなのではないのか、と。</p><p>弟は震えあがって拒否した。</p><p>父の田舎を愛し、苗字も愛し、長男として家を継ぐと言っていたことが全て崩れるのだ。</p><p>「苗字を変えない方法はないの？」</p><p>　弟が訪ねてきた。</p><p>「私は戸籍が外れたから変わらない。でも、とうきは15歳だから、希望すれば変わらないみたい」</p><p>「そうきはどうなるの？」</p><p>末っ子のそうきはまだ13だ。苗字は親に繋がって勝手に変わってしまう。</p><p>「そうきは再婚相手の苗字になるよ。20歳になって役所で申請すれば戻れるらしいけど」</p><p>　しばらくやり取りが途絶えた。</p><p>「君たちの苗字が変われば、女でありながら私がこの家の正当な後継者だね」</p><p>少し弟を煽ると、弟は再び勢いを取り戻した。</p><p>「お父さんの苗字は守りたい」</p><p>「なら書類を出すのを拒否しな。そうじゃなければ私が継ぐよ」</p><p>&nbsp;</p><p>　父は恋愛経験が豊富だったが子供に恵まれず、子供ができるまで結婚はしないことにしたらしい。</p><p>母親も父親にそれを理由に結婚を断られ、私を産むことをにしたそうだ。</p><p>母自身も子供ができやすい体質ではなかったため、奇跡的な妊娠だったらしい。</p><p>その妊娠を盾に父に結婚を迫り、父を引き留めるのに、流産しないよう病院に通ったんだとか。</p><p>子供のできにくい体質のせいもあってか、妹のまちは先天性の病気で早々に死んでしまった。</p><p>それから何度も流産を繰り返し、てっきり子供はもうできないと思っていたようだ。</p><p>弟のとうきとそうきは産むつもりはなく、流産すると思って妊娠中も好き勝手していたらしい。</p><p>そうきの妊娠中に至っては、タバコを吸っている母親の姿すら見た記憶がある。</p><p>&nbsp;</p><p>　母の結婚のためだけに私が生まれ、そのせいで、父と、妹と、二人の弟の人生が狂った。</p><p>この話をするのはまだ弟たちには早すぎる。</p><p>心の中にしまい込んで、彼らが高校生か大学生くらいになった時に言おう。</p><p>それか、母親が再婚すると言ったときに全てを話してめちゃくちゃにしてやろう。</p><p>&nbsp;</p><p>「私たちはお父さんの子だよ」</p><p>「知ってる」</p><p>母親の知らないところで、家庭はどんどん崩れていく。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12306565076.html</link>
<pubDate>Fri, 01 Sep 2017 01:47:08 +0900</pubDate>
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<title>魔女の呪いと王子様</title>
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<![CDATA[ <p>昔々、王子様との恋を夢見る女の子がいました。</p><p>たった一人の王子様を追いかけ、いつか結ばれるものだと信じていました。</p><p>王子様と女の子は幼馴染でしたが、住む世界は違います。</p><p>やがて二人は別々の人生を歩み、長い間、出会うことはありませんでした。</p><p>&nbsp;</p><p>　小学校に早く登校する理由はいくつかあった。</p><p>一つは家に帰ると塾に行かねばならないから、学校で友達と話すため。</p><p>二つは毎朝飽きもせずにイタズラをする男子を見るのが楽しかったから。</p><p>三つ目の理由は、少し変わった隣のクラスの男の子の姿を見るためだった。</p><p>　学校のすぐ裏に住んでいる男の子は、いつも登校時間ギリギリに来る。</p><p>私は登校時間の10分も前になると、窓から外を見降ろして、彼が走ってくるのを眺めていた。</p><p>　真面目で成績が良く、音楽の授業を熱心に受けて、絵が上手。</p><p>一見「良い生徒」だが、私のいた学校ではいわゆる「異端」だった。</p><p>教師に反発するのが普通だった学校で、彼はただの変人だったのだ。</p><p>　それでもまっすぐに先生の話を聞いている姿が私は好きだった。</p><p>誰も歌わない合唱の練習で、彼と私の声だけが聞こえているのが心地よかった。</p><p>仲の良い友達が「あいつ気持ち悪いよ」と言おうと気にも留めなかった。</p><p>それが私の初恋だった。</p><p>&nbsp;</p><p>　中学生になって、私は受験を経て彼とは別の学校に進学した。</p><p>いつものように登校する姿も見ることができなくなった。</p><p>たまに彼の家の近くにあるコンビニの駐輪場でアイスを食べながら、彼が来ないかとぼうっとしていたこともあった。</p><p>それでも彼と会うことはできなかった。</p><p>　中学1年生の終わり頃、昔通っていた地元の子供向け囲碁サークルで知り合った友達からクリスマスパーティーの誘いが来た。</p><p>私が彼のことを好きなことを知っての計らいもあったのだろう。</p><p>「囲碁サークルのメンバーで、家が近い人を呼ぼう」</p><p>彼女はそう言った。</p><p>　連絡網をあさり、彼の家に電話をかけ、都合のつく日程をきいた。</p><p>友達とパーティーの内容を考えた。</p><p>当日は友達と一緒に彼を迎えに行き、私の家でパーティーをした。</p><p>その日に遊んだゲームの音が耳から離れなくなるほどに遊び倒した。</p><p>&nbsp;</p><p>それから再び、彼と会えない日は続いた。</p><p>&nbsp;</p><p>　高校生のとき、Twitterにこんなことを書いた。</p><p>「バレンタインチョコを作った。30RTされたら初恋の人に届ける」</p><p>リツイートはあっという間に30を超えた。</p><p>私は彼の家のポストに、手紙を添えたチョコレートをこっそりと入れた。</p><p>数日後、私の家に彼からの手紙が届いていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　それからというもの、彼と私の不思議な文通は続いた。</p><p>メールがとっくに流行っている時代だったが、彼は携帯電話を持っていなかった。</p><p>だから手紙を書き、お互いの家のポストに入れるのだ。</p><p>数週間おきに増えていく引き出しの中の宝物を見てはうっとりとしていた。</p><p>「また遊びたいね」なんて話もしていたのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　そんなある日、母親がとんでもない形相で私に詰め寄ってきた。</p><p>「何なのあいつ！」</p><p>母親は彼を名指しで罵倒した。</p><p>「何って…何が？」</p><p>「家の前に立ってるの！しかも早朝に！朝の5時に家の前をウロウロしているの！」</p><p>私からすれば、手紙を届けに来ているだけにしか思えなかった。</p><p>「手紙をくれたんだと思うんだけど…」</p><p>そう答える間もなく母親はまくしたてる。</p><p>「あいつ頭変だって！ストーカーだよ！」</p><p>「お母さん、彼はそんな人じゃないよ」</p><p>「私の顔を見て逃げたよ？あんた、あんなのと付き合ってたら殺されちゃうよ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　文通は途絶えた。</p><p>彼をこれ以上深入りさせないために私から手紙を届けるのをやめたのだ。</p><p>それからしばらくして、携帯電話に見慣れないアドレスから連絡が来た。</p><p>「小喬です」</p><p>彼の苗字だった。</p><p>携帯電話を買ったからと、昔送った手紙に書いたメールアドレスに連絡をくれたのだ。</p><p>　それから彼と秘密のメールのやり取りが始まった。</p><p>そして高校を卒業した翌年、彼と再び会うチャンスが巡って来たのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　親にバイトだと嘘をつき、おしゃれをして家を出た。</p><p>小学生の頃によく遠足で行った広い公園に行った。</p><p>思い出話を語りながら、景色にうっとりしたりもした。</p><p>昔から好きだったなんて、つい言ってしまったりもした。</p><p>&nbsp;</p><p>　それから5年。</p><p>再び彼との連絡は途絶えた。</p><p>私の鬱が悪化し、会うための嘘もつきづらくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>魔女は女の子に呪いをかけました。</p><p>それは、王子様を醜く恐ろしい怪物に見せる、残酷な呪いでした。</p><p>女の子は王子様を探しましたが、その姿を見るのにはたいへん勇気がいりました。</p><p>けれど王子様は優しい声で何度も女の子に話しかけたのです。</p><p>何度も振りむこうとしましたが、女の子はついにそれができませんでした。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>　家を出て数ヶ月が経ち、彼からの連絡を機に、再び二人のやり取りが始まった。</p><p>家を出たのなら気にする目もない。</p><p>「親に誤解をされて絶縁状態の大切な人がいる」</p><p>私を連れ出してくれた人にそう言って、彼に会いに行ったのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　5年の月日は彼の姿を大分変えてしまったが、まぎれもないその人だった。</p><p>「もう、結構待ったんだからね！」</p><p>待ち合わせに遅刻した私に彼は微笑みかけた。</p><p>その笑顔は小学生だったあの頃と変わらない、真っ直ぐな眼差しをしていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　散々遊んで陽も沈んだ頃、靴擦れで足が痛いと言ってベンチに座り、話をした。</p><p>あまりにも純粋な彼を見ていると、母親の話をするのも気が引けた。</p><p>それでも私は口にした。</p><p>今言わなければ、もう二度と会えない気がしたから。</p><p>&nbsp;</p><p>「前に会ってから、もう5年も経つんだね」</p><p>&nbsp;</p><p>「お母さんにね、小喬くんに会っちゃいけないって言われていたの」</p><p>&nbsp;</p><p>「でもね、もう家を出たから、会いに来ちゃった」</p><p>&nbsp;</p><p>「小喬君が優しい人だって、私は知っていたから」</p><p>&nbsp;</p><p>　彼はポストに手紙を入れるか、恥ずかしくて迷っていただけだったのだ。</p><p>誰にも合わないようにわざわざ早朝に出たが、逆に犬の散歩に行った母と合ってしまった。</p><p>それが気まずくて、何も言わずに立ち去ったせいで不審がられていたのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>「僕はストーカーなんてしないよ！家族に伝えてほしいな…ううん、むしろ謝りたい」</p><p>「私、もうお母さんには合わないつもりなの。もう一生合わないくらいの…そんなつもり」</p><p>「何かあったの？」</p><p>「お母さんが鬱になった時に私が反抗期だったから、立場が逆になって仕返しされてね…」</p><p>「それ、僕もなんとなくわかるな…」</p><p>　会えなかった5年の間に、二人とも心に重荷を背負っていた。</p><p>それを互いに口にしながら、また笑った。</p><p>「今度困ったことがあったら僕にちゃんと相談して？いいね？」</p><p>その言葉が魔女の呪いを解いた。</p><p>&nbsp;</p><p>　私は昔から音楽が好きで、彼は絵が好きだ。</p><p>気持ちが沈んで好きなことができずとも、いつかはまた夢を追いたいとお互い口にした。</p><p>「ねぇ、ジェラトーニって知ってる？」</p><p>お互いの夢を語って、きっと叶えようと笑い合った。</p><p>彼も私と同じで、心に重荷を背負い、大学まで手が届かなかったのだ。</p><p>「あの橋は願い事が叶うって言われているの。橋を通るゴンドラに乗ってみない？」</p><p>いつか全てを乗り越えて幸せになろうと、言葉に出さずとも約束をした。</p><p>&nbsp;</p><p>「今度何かおごるから…だから…また会えるよね？」</p><p>「うん。また…。連絡するよ」</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>魔女の呪いは消え去り、王子様は元の姿に戻りました。</p><p>恐ろしい怪物はもういません。</p><p>真っ直ぐに王子様を見つめると、女の子は言いました。</p><p>「私の夢は…」</p><p>&nbsp;</p><p><span style="font-style:italic;">「いつか二人とも幸せになること」</span></p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12306238476.html</link>
<pubDate>Wed, 30 Aug 2017 23:53:06 +0900</pubDate>
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<title>道化の仮面と父の顔</title>
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<![CDATA[ <p>　いつから仮面をつけていたのかはわからない。</p><p>けれど気が付いたときには既に仮面を手にしていた。</p><p>親戚と合う時の「いい子」の仮面。</p><p>学校に行く時の「できる子」の仮面。</p><p>弟たちと接する時の「子供」の仮面。</p><p>たくさんの仮面が私の手元にはあった。</p><p>　仮面の数は歳を重ねるごとにどんどん増えていった。</p><p>「この人の前ではこうありたい」と思って増える仮面は、つけるのは苦ではなかった。</p><p>ただ、親に「いい子でいなさい」と持たされた仮面は、とてつもなく重たかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　父を亡くしてからも私たち親子は父方の田舎によく顔を出していた。</p><p>結婚するのが遅かった父は、父の兄弟の中で一番幼い子供たちをもっていた。</p><p>ようするに私たちは、祖父母にとって一番幼い孫なのだ。</p><p>それと同時に父を亡くした今となっては、彼の面影を継いだのは私たちだけだ。</p><p>　母親も最初のうちは父親がいなくてもいい母親であろうとしていたようだ。</p><p>しかし父が亡くなった時の私は中学生。一筋縄ではいかない年齢だった。</p><p>反抗期に親を亡くし、学校に行くのを嫌がり、成績は学校で最下位クラス。</p><p>そんな私を恥ずかしく思った母親は、田舎に行くたびに私の学校生活の話は濁していた。</p><p>　高校は何度も転校した。</p><p>どんなに嫌がっても、中学校からエスカレーター式で入れる高校に入学させられた。</p><p>もちろん一年目で単位を落とし、通信制の学校に入った。</p><p>その時も母親は親戚の前では「まぁ、本人はのびのびやっているみたい」と言葉を濁した。</p><p>　大学に入りたくなくて一年間の浪人生活を経て専門学校へと入学した。</p><p>母親は「音楽の勉強がしたいって学校に入ったの」と、さも音大であるかのように言った。</p><p>&nbsp;</p><p>　いつもより「いい子」であることを強いられることに私たち姉弟は不満だったが、黙っていた。</p><p>黙っていれば祖父母は喜ぶし、母親と違って褒めてお小遣いもくれる。</p><p>子供ながらに歪んだ理由で祖父母の前では「いい子」であることを選んだのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　祖父母の家に行くときは、いつも父方の田舎の辺りを旅行した帰りだった。</p><p>一通り観光地や温泉、遊園地などを堪能して「ここはいいところですね」と会いに行くのだ。</p><p>家族で過ごすことと親戚に顔を出すことを両立できるいいプランだと私も弟も思っていた。</p><p>けれど、母親に恋人ができてからそれは変わってしまった。</p><p>　家族水入らずの旅行に勝手に彼氏がついてくるようになったのだ。</p><p>母親も最初は断っていたが、行き先を伝えてしまったせいで「今から車で行く」と連絡してきたのだ。</p><p>家族の車の中は暴言であふれた。</p><p>特に末っ子は露骨に嫌な顔をして、「子供だけで遊園地に行きたいなぁ」と嫌味を言った。</p><p>　母親の恋人は車好きで、どこにいても車を飛ばして会いに来る。</p><p>良い意味ではアクティブだが、逆に言えばストーカーだ。</p><p>ましてや「家族水入らず」と最初に伝えた旅行に勝手についてくる常識のなさだ。</p><p>ここできっぱり断れば良かったのに、母親は「早朝に会いに行く」と言って旅館を出ていってしまった。</p><p>　私たち姉弟はこの後に祖父母の家に行くことに気まずさを感じた。</p><p>祖父母にお小遣いをもらっているのは私たちだけではない。</p><p>「いい母親」である母親も、たくさんお釣りの出る交通費をもらっているのだ。</p><p>母親がそれらしく過ごしている時は「いいなー」なんて言いながら、母親へのボーナスだと思っていた。</p><p>しかし、家族旅行中に恋人とデートをしに行く母親にボーナスなどいらないと、私たちは思ったのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>「ねぇ、お母さんのこと許せる？」</p><p>　私がきくと弟は黙った。</p><p>「お母さんが『いい母親をしています』って顔を田舎でしたら許せる？」</p><p>もう一度聞くと、弟たちは「怒る」とだけ返事をした。</p><p>&nbsp;</p><p>　その日だけは私は「いい子」の仮面をかぶっていた。</p><p>うつで学校をやめ、フリーターとなったけれどバイトもできない情けない立場だった。</p><p>そんな私のことを母親は「大好きなディズニーランドでバイトをしている」と嘘の説明をした。</p><p>私は「ディズニーランドのキャストの仮面」を持ってはいない。</p><p>アルバイトに合格したことはあるが、結局体調を崩して研修すら続きはしなかったのだ。</p><p>私はボロが出ては困るので何も話せなくなった。</p><p>弟たちも何も話さなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　しばらく後、私は自分の恋人と二人で父の田舎を訪れた。</p><p>祖父も亡くなり、祖母は長男の家の敷地にある隠居部屋で過ごしている。</p><p>私が田舎に行くと連絡をしたときは、おじさんおばさんが電話に出て「楽しみにしている」と言ってくれた。</p><p>一足先に母親が田舎に行き「あの子は借金を作って…あの子が何を言ってもお小遣いをあげないでください」なんて悪口を言っていたようだ。</p><p>それもお構いなしで行った。</p><p>「いい子」の仮面はつけていない。</p><p>ただ、母親のために「哀れみ」の仮面をつけていった。</p><p>　到着すると祖母は嬉しそうに飛び出してきて「待っていたよ」と迎えてくれた。</p><p>父親の兄夫婦も一緒に話して、私が今どうしているのかを話した。</p><p>恋人を紹介して、専門学校で出会ったことも話した。</p><p>そして、私が体調を崩して学校を辞めてしまったことも、家を出ることも話した。</p><p>　祖母と兄夫婦は「やりたいことをやればいいんだよ。若いうちにしかできないこともたくさんあるんだから。それで食べていけるようになったらラッキーじゃないか」と私たちの背中を押してくれた。</p><p>夕飯までごちそうになって、「この近くの名物なのよ」と、鶏肉が美味しいお弁当を食べた。</p><p>&nbsp;</p><p>　帰りがけに、祖母が「今日はお小遣いないの。ごめんね」と言った。</p><p>覚悟はしていたから、全く気にはならなかった。</p><p>「おばあちゃん、私もう大人だからいいんだよ」</p><p>そんなことを言っているとおじさんが封筒を持ってきた。</p><p>「小遣いはなくても、交通費くらいは用意したから。今度は早い時間にゆっくり来なよ」</p><p>私と恋人は頭を下げてお礼を言った。</p><p>&nbsp;</p><p>　帰り道、封筒をそっと握ると分厚かった。</p><p>いつかの母親と同じ、「お釣りの出る交通費」がその中には入っていた。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12284206788.html</link>
<pubDate>Fri, 16 Jun 2017 13:31:13 +0900</pubDate>
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<title>家を離れて三千里</title>
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<![CDATA[ <p>　私が親の許可を取らずに家を出たのは今が初めてではない。</p><p>19歳の頃、当時の彼氏と勝手に同棲していた。</p><p>理由ははっきりとは思い出せないが、家が嫌いだった気がした。</p><p>　それでも週に一度、土曜日は家に帰っていた。</p><p>もう一人の母親のような存在である、ピアノの先生に会うためだ。</p><p>地元で個人の教室を開いている先生に会うためには、家まで一度帰らなくてはならない。</p><p>たまに顔を合わせると、今までの扱いが嘘のように母親が優しくなっていたのを覚えている。</p><p>　上の弟の誕生日の日、お祝いをするのを土曜日に合わせるから来てほしいと言われた。</p><p>家が嫌いでも弟は嫌いではない。</p><p>もちろん彼氏は置いて、家族だけで楽しもうと親戚の人たちと皆で食事に行った。</p><p>　皆が弟にプレゼントを渡し、何歳になっただとか、将来の話だとかをする。</p><p>次第に食事も話も尽きてきた頃に、母親が「あんたそろそろ帰ってきなよ」と言った。</p><p>私はそんなつもり毛頭なかったので「そのうち」と答えると、母親は怒り出した。</p><p>「何よ勝手に出ていって。あんな調子乗ってヘラヘラしている男のどこがいいの？」</p><p>突然の彼氏の悪口に私も周りも黙ってしまった。</p><p>「…やめてよ。今日はまこの誕生日でしょ？」</p><p>その後も母親の悪口は続いたが、適当なところで誕生日祝いはお開きになった。</p><p>　家に帰ってこい、どうせ翌日は日曜なんだから泊まっていけと言われたが断った。</p><p>時間が遅かったのもあり、親戚の人が車で駅まで送ってくれた。</p><p>車内で私は始終不機嫌だった。</p><p>「あんな言い方もないと思うけどさ、お母さんはさちが心配なんだよ」</p><p>おばさんが母親をフォローする。</p><p>「女の子って難しいからね。わからないかもしれないけれど、何だかんださちが大事なんだよ」</p><p>おじさんが続ける。</p><p>「そう…」</p><p>聞くつもりはなかった。</p><p>母親が大事なのは私ではなくて、周りの視線だということを知っていたから。</p><p>&nbsp;</p><p>　それから数年して、私はの恋人と付き合い、理解のある恋人の実家でお世話になっていた。</p><p>相変わらずピアノのレッスンには通い、週に一度顔を見せてはいた。</p><p>そんなある日、母親に乳がんを患っていることを知らされた。</p><p>随分深刻そうな顔をしていたが、早期発見だったこともあり、私も弟も心配はしていなかった。</p><p>「今度入院するから…」</p><p>そう言って母親は祖母に対してがんのことを言わないように口止めした。</p><p>「おばあちゃん面倒くさいのよね」</p><p>本人に聞かせてあげたいほどの文句が少しの間続いた。</p><p>　母親は入院する日が末っ子の誕生日と被りそうだからと、手術予定日を少し遅らせた。</p><p>誕生日会は末っ子の希望で、焼き肉屋で行うことになった。</p><p>その中に混ざっている見慣れない男の人。</p><p>母親の彼氏だった。</p><p>　焼肉屋のテーブルは人数が多い時は二つのテーブルに分かれて座る。</p><p>その日もいつも通り「大人と子供」で分かれ、私は「子供」の席に着く。</p><p>今回はやけに私の恋人も誘われていた。</p><p>恋人は用事があるから間に合わないと断っていたが、「待っているから大丈夫」と言われていた。</p><p>その場にいる見慣れない男を見れば、呼ばれた理由がなんとなくわかった。</p><p>　大人の席は肉が出るなり焼はじめ、わいわいと騒いでいた。</p><p>子供の席は全員「さちの彼氏が来るまで待つ」と、弟たちが頑なに箸を取ろうとしなかった。</p><p>調理済みのものは食べてしまおうと提案している時、隣のテーブルでおばさんが母親の話をしていた。</p><p>「お姉ちゃんさ、自分ががんになったこと、まだお母さんが気付いてないと思っているみたい」</p><p>子供のテーブルはぽかんとしていた。</p><p>あれだけかたく口止めされていたのに、すぐに親戚が話を漏らしたのだ。</p><p>さらに祖母が続ける。</p><p>「あれで隠しているつもりなのかね？」</p><p>　私たち姉弟は、最近そのことでずいぶんと不自由を強いられてきた。</p><p>母親が入院している数日間から1週間程度の間、祖母が訪ねてきても「出かけている」と答えるように言われ、現に母親は彼氏と遊びに行ってあまり家にいなかった。</p><p>入院前に遊んでおきたいと、週末も泊まりで家を空けることもあった。</p><p>私に至っては旅行のためにカウンセリングの付き添いをキャンセルされ、一人で病院に行っていた。</p><p>「隠さなくていいならまぁいいじゃん」</p><p>弟たちの呆れが頂点に達したところで、私の恋人が到着した。</p><p>弟たちは私を押しのけて恋人を迎え、「一緒に食べよう！」なんて彼の取り合いになった。</p><p>　母親の入院中に呼ばれているのは私だけではなかった。</p><p>弟の遊び相手にと、私の恋人まで呼ばれていたのだ。</p><p>ささやかに子供だけで末っ子の誕生日を祝った後、母親の入院している間の話をした。</p><p>長男が「お母さんがお金預けていくって言うから大丈夫」と言い、末っ子が「おかんがいないなら徹夜で遊び放題だよ！」と能天気なことを言っている。</p><p>恋人は弟たちもそうだけれど、何より私を心配して私の家に来ることを了承した。</p><p>　隣のテーブルでは母親が祖母に隠れてがんの治療をしようとしていたことをいじられていた。</p><p>「ごまかせるわけないでしょう。それより子供たちはどうするつもりだったの？」</p><p>「数日間だし、子供たちにはお金を渡して出前でも取ってもらおうかなって」</p><p>祖母はとんでもないという顔をして否定した。</p><p>「私もあんたの妹も近所なんだし、面倒くらい見るよ？」</p><p>私のすぐ隣で恋人が様子をうかがっているのが見えた。</p><p>母親の口から出た言葉は予想通りで、そして私のことを傷つけるものだった。</p><p>「大丈夫、さちが全部やってくれるから」</p><p>&nbsp;</p><p>　母親の入院中、私は家出した。</p><p>病院のカウンセリングに付き添ってくれなかったことを母親に話したかった。</p><p>けれど早期発見とはいえ、がんとなれば不安だろうと今は黙っていたのだ。</p><p>私がどんなに追い詰められているのか、母親は知っている上で私を連れ戻した。</p><p>「何もしなくていい。お金は置いていくし、犬の面倒は弟たちが見る。洗濯も全自動だから」と。</p><p>　親戚に「さちが全部やる」と言った母親のことを恨もうにも、母親は入院中で何もできない。</p><p>わざわざ電車に乗って行ってまで会いたくもなかった。</p><p>事情を知っているおばさんは毎日朝晩会いに来てくれた。</p><p>食事を届け、犬の散歩をしてくれた。</p><p>私は母親の発言一つで起き上がれなくなってしまい、寝込んでいた。</p><p>　気が付けば胃が焼け付くような痛みを感じていた。</p><p>食欲も完全に失せて、何もしたくなくなっていた。</p><p>弟の顔も見たくなかった。</p><p>眠れない私の隣で眠っている恋人すら憎く見えた。</p><p>　一人で歩くうちに、少し気分が晴れてきた。</p><p>近所の川に飛び込むか、どこか離れた所まで歩いて行って首を吊るか考えていた。</p><p>最後の希望のひとかけら代わりに持ってきた、充電のほとんどないスマホが鳴った。</p><p>「今どこですか？」</p><p>「公園」</p><p>「どこの公園ですか？」</p><p>「昔の家の前の公園」</p><p>　父親が生きていた頃、私がまだ一人っ子だった頃に住んでいたアパートの裏の公園。</p><p>当時とはすっかり変わってしまったけれど、ベンチだけは相変わらず砂場の横にあった。</p><p>恋人には知る由もない、昔の私の思い出の場所だ。</p><p>　しかし少しして、公園の脇の道路に見慣れた車が停まる。</p><p>「探したんですよ！」</p><p>恋人が私の家の車を運転して迎えに来たのだ。</p><p>「なんでここがわかったの？」</p><p>「おばさんに聞きました。弟くんの誕生日のときに、その場にいた全員が参加しているLINEのグループが作られていたので」</p><p>&nbsp;</p><p>「帰りたくないなら帰らなくていいんですよ」</p><p>&nbsp;</p><p>　あれから実家の布団には一度も横になっていない。</p><p>母親が退院したその日に家を出た。</p><p>もう二度と帰らないつもりで。</p><p>　当の母親はというと、退院したその日、真っ先に家族に顔を見せずに彼氏と遊んできたそうだ。</p><p>あの日からだ。母親が弟たちからさえも「いらない」と言われてしまったのは。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12280448357.html</link>
<pubDate>Sat, 03 Jun 2017 16:45:18 +0900</pubDate>
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<title>謝ることも知らないで</title>
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<![CDATA[ <p>　階段を一段ずつ上る音がする。</p><p>部屋の扉が開く。</p><p>次に起こることは、何の言葉もなしに眠っている私の髪の毛を引っ張ることだ。</p><p>　これは夢でも何でもない。</p><p>中学生の頃に本当にあった日常。</p><p>私の母親は、学校に行こうとしない私に毎日こうしていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　中学を受験したいと最初に言いだしたのは私だ。</p><p>周りの友達の間では塾がブームで、受験するという子も多かった。</p><p>流行りの洋服も雑誌も持っていなかった私は、これくらいはしたかった。</p><p>何をしても話についていけない生活はもうまっぴらだった。</p><p>　塾の話をすると、母親は「塾って高いし」とすぐに突っぱねた。</p><p>代わりに夏休みの昼だけ塾に通う短期講習には申し込んでくれた。</p><p>学校の友達とは別のクラスに分けられてしまったが、帰りの時間は一緒だった。</p><p>同じ先生が時間割を変えて担当するので、話もかみ合った。</p><p>それから何度か私は長期休みの度に短期講習に行きたがった。</p><p>&nbsp;</p><p>　小学校高学年になると、学校が荒れてきた。</p><p>反抗期がきっかけだったのか、低学年の指導に向いた先生が担任になったからかはわからない。</p><p>授業が意味をなさない環境が嫌で、私はなおさら中学受験に興味を持った。</p><p>　6年生にもなると、受験を希望する生徒はどっと増えた。</p><p>皆同じく根が真面目な性格で、このひどいクラスの人たちと進学するのはうんざりするのだろう。</p><p>いわゆる「塾仲間」は増えたが、その中に仲の良い子はいつの間にかいなくなっていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　中学受験の真相を知ったのは、合格通知が来てからのことだった。</p><p>通知が来た日、私は学校の修学旅行で東京を離れ、新潟にいた。</p><p>校長先生に呼ばれ、周りから「何やったの！？」と言われながら校長先生の元へ向かった。</p><p>隣では担任の先生が私を睨んでいた。</p><p>出先で何か悪いことをしてしまったのかと思っていると、担任の先生がすごい剣幕で名前を呼んだ。</p><p>「はいっ！」</p><p>何も心あたりのないまま、手を出すように言われた。</p><p>右手を差し出すと、先生は私の手を握って握手した。</p><p>「合格おめでとう」</p><p>母親が旅行先にまで電話をかけてきたのだ。</p><p>担任に次いで校長先生にも祝いの言葉をかけられ、全ての真相を知った。</p><p>　私の年度の都立中高一貫校合格者は、この学校に私一人だけだった。</p><p>私立を受験して地元の学校を離れる生徒は他にもいたが、都立高は私だけだったのだ。</p><p>「他の子は皆不合格だったんだ。だから内緒にしてね」</p><p>担任の先生なりの他の生徒への計らいなのだろう。</p><p>けれど、その先生が受験を勧めた結果、不合格だった子と私は同じ班なのだ。</p><p>「何の話だったの？叱られた？」</p><p>戻ってきて真っ先に私に声をかけたのは、まさにその「不合格になった友人」だった。</p><p>&nbsp;</p><p>　私立を受けるような子は元から親が教育熱心な家庭か、本人が今の環境にうんざりしているかだ。</p><p>私は今の環境は好きではなかったが、それは大体「塾のため」だった。</p><p>みんなよりも出遅れて短期講習にだけ通い、受験などできるわけがないと思っていた。</p><p>そうして地元の学校に行くという子ばかりと仲良くしていたため、親の突然の受験の取り決めには困らされていた。</p><p>塾のために遊びの誘いを断ると「同じ学校に行かないのかよ。死ね、裏切り者」と言われた。</p><p>　放課後はほとんど家に監禁状態か、塾だった。</p><p>当時流行っていたDSも持っていたが、「遊んだら割ってやる」と脅された。</p><p>何もすることがなくて、勉強以外は許されなかった。</p><p>中学生になったら新しい、「死ね」なんて言わない友達ができると信じるしかなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　結果はとても面白いものだった。</p><p>「死ね」なんて言葉は普通に飛び交っていたし、中身は子供で成績だけいい人の集まりだった。</p><p>もっと賢くて心の優しい人がいると信じていた私に中学校など地獄だった。</p><p>それなら知っている人たちの輪の中で裏切者と見せかけたスパイとして凱旋したかった。</p><p>「あんな学校行きたくない！」</p><p>　成績がいいだけで馬鹿は馬鹿のままだ。</p><p>特に受験するほど親が頑固だったり、本人のプライドが高かったりする人たちの集まりだ。</p><p>小学校で気が弱い故に暴言を吐かれていた人間の来るところではないのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　毎日階段を上る音がする。</p><p>部屋のドアを開けると、母親は私の髪の毛をつかんで振り回す。</p><p>ベッドから引きずり降ろして、制服を叩きつける。</p><p>「早く学校に行きなよ」</p><p>「いやだ」</p><p>叩かれる。</p><p>蹴られる。</p><p>　2年生に進級する頃には私の左腕は切り傷でいっぱいだった。</p><p>小学生の頃の友達の間では私は裏切者のままだ。</p><p>帰る場所も行く場所もなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>「ねえ、恥ずかしいと思わないの？」</p><p>&nbsp;</p><p>「また宿題出してないって？」</p><p>&nbsp;</p><p>「先生から電話来てるよ」</p><p>&nbsp;</p><p>　私は悪くない。</p><p>私の話を全く聞かない母親が悪い。</p><p>話を聞いてくれた、唯一慰めだった父親は私の進学を見届けてすぐに死んだ。</p><p>「ごめんなさいは？」</p><p>ごめんなさいという言葉は誰かに悪いことをしてしまった時に使う言葉だ。</p><p>何も悪いことをしていないときに言うごめんなさいなんて私は知らない。</p><p>&nbsp;</p><p>　それから中学三年間、私は学校の先生に幾度となく目をつけられることになる。</p><p>学校に行かないとか、成績が悪いとか、そんな理由ではない。</p><p>　首に紐を巻いた痕がついていた。</p><p>時には学校で死んでやろうと親のタバコを持ち出して学校でまる飲みし、失敗して吐いて早退した。</p><p>腕には切り傷が絶えない。</p><p>　2年生の時の担任の先生だけがそれに気付いていた。</p><p>家にも電話が来た。</p><p>それでも母親はこう言うのだ。</p><p>「何で死にたいの？」</p><p>「どうしてお母さんのこと困らせるの？」</p><p>「お母さんのこと困らせて楽しい？」</p><p>&nbsp;</p><p>楽しいよ、お母さん。</p><p>早くお母さんの口から「ごめんなさい」が聞きたいんだ。</p><p>&nbsp;</p><p>いつかあの人を殺すことを夢見て大人になった。</p><p>23歳になっても、楽しいはずだった10代の傷は消えない。</p><p>&nbsp;</p><p>ねえお母さん。</p><p>私をいじめて楽しかった？</p><p>&nbsp;</p><p>「ごめんなさい」は？</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12279520823.html</link>
<pubDate>Wed, 31 May 2017 13:53:36 +0900</pubDate>
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<title>四人姉弟</title>
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<![CDATA[ <p>父親は四人兄弟の三人目で次男。</p><p>母親は四人兄弟の二人目で長女。</p><p>そして私は四人兄弟の一人目で長女。</p><p>みんな四人兄弟だ。</p><p>&nbsp;</p><p>　初めて妹に会ったとき、私がどんなに名前を呼んでも妹は無反応だった。</p><p>私はその時3歳になったばかりで、どんなにお姉さんだと主張しても抱かせてもらえなかった。</p><p>愛想がなくても私の妹だ。何度も妹の顔を見に行った。</p><p>私から両親の注意をかっさらっていく、憎たらしくて、でもとても可愛い妹だ。</p><p>&nbsp;</p><p>　二回目に妹に会ったのは父が亡くなった直後だった。</p><p>初めて会ったときとなんら変わらない、私から両親の注意をさらった憎たらしい顔だ。</p><p>彼女は私の顔を見るなりその場を去ってしまった。</p><p>母親にそのことを話したら「へぇ、やっぱりお父さんが好きなんだね」と答えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　私が妹に会ったのはたったの三回。</p><p>その三回目は、ほんの少し前の話だ。</p><p>母親そっくりに身長が伸び、末っ子のように脚の長い綺麗な背格好をしていた。</p><p>私と同じように髪を長く伸ばし、父親似の猫毛をくねらせて降ろしていた。</p><p>　彼女は襷状の布を左肩にかけ、中に何かをくるんで大事そうにかかえていた。</p><p>そして今度は私のことを見ても逃げ出さずに、見つめ返して来た。</p><p>「私、これで良かったのかな」</p><p>初めて聞いた妹の声だった。</p><p>「お母さんなら私のことを大事にしてくれるって思ったんだ。お母さん、今、障がいを持った子供たちの放課後ケアのお仕事をしているんでしょう？」</p><p>　母親は昔から福祉に関わる仕事をしたいと言っていた。</p><p>祖母の話によると、それはどうやら私が生まれる前からずっと変わっていないらしい。</p><p>妹はきっとそんな母親を選んで生まれてきたのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>「まちは死んで良かったと思う。今のまちにはお母さんは見せられない」</p><p>&nbsp;</p><p>　妹はそれを聞いて、布にくるんでいたものを見せてくれた。</p><p>一歳にも満たない、服も着ていない弱々しい赤ちゃんだった。</p><p>私たちが話していても無反応で愛想のない、どこかで見たような赤ちゃんだった。</p><p>「これは私。死んだから大人になれないの」</p><p>&nbsp;</p><p>　妹は寂しそうに笑って消えていった。</p><p>ふと時計にめをやると、昼が近づいてきていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　私は三人姉弟の一番上、弟が二人いる。</p><p>遠い昔、私がまだ幼稚園にも入らない頃、私は二人姉妹の姉だった。</p><p>本当なら私たちは四人姉弟になるはずだった。</p><p>　私の3歳の誕生日、妹のまちは病院から一歩も出ることなく死んだ。</p><p>生まれる前から心臓にいくつもの疾患を抱えていたのだ。</p><p>生まれてすぐにいくつもの管や点滴を繋がれ、血液を人工的に入れ替え、何度も手術を繰り返した。</p><p>助かったとしても障がいを抱えることになるだろうと医師からは言われたらしい。</p><p>そして半年と数日後、本来なら周り中から祝ってもらえる私の誕生日に死んだのだ。</p><p>　元々産婦人科は子供に一部の病室の出入りを制限することが多い。</p><p>そういうものだと思っていたから私は何の疑問も持たなったのだ。</p><p>両親は目を開けもしない妹の面会に行き、私は一人でロビーに残され、隣に祖母が座っていた。</p><p>そんな憎たらしい妹の帰りを私は待っていたのだ。</p><p>「これから私はお姉ちゃんなんだ」と。</p><p>&nbsp;</p><p>　私が初めて妹に会ったのは妹が死んだ後、葬儀の日だった。</p><p>&nbsp;</p><p>　私が二度目に妹に会ったのは父が死んだ直後、父親を迎えに来たらしい。</p><p>&nbsp;</p><p>　そしてほんの少し前、今の母親を見かねたのか妹は私の前にまた姿を現した。</p><p>&nbsp;</p><p>　もしも成仏という言葉が、魂が生まれ変わる段階に入る意味だとしたら、妹は成仏していないのだろう。</p><p>きっと家族の周りをずっと彷徨っていて、今の母親の姿も見ているのだ。</p><p>　初めて姉妹の間で交わした言葉が、彼女の死んだ是非を問うものだった。</p><p>私は死んで良かったと答えてしまった。</p><p>けれど、うつである私や中学生の弟たちをネグレクトし、外の子を可愛がる母親のことだ。</p><p>いくら福祉の仕事がしたいと言っても、自分の子供が障がいを持っていたら矛先は妹にも向いただろう。</p><p>「もうお母さんに期待しない方がいいよ」</p><p>私は妹が父親と共に、早く次の人生を見つけることを願った。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12278324705.html</link>
<pubDate>Sat, 27 May 2017 11:18:56 +0900</pubDate>
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<title>役立たずの日常は</title>
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<![CDATA[ <p>最初はベッドの中にいた。</p><p>そのうちパソコンの前に座った。</p><p>たまに花の枯れた葉を切った。</p><p>時には布団に掃除機をかけ、洗濯機を回した。</p><p>&nbsp;</p><p>　新しい家に来て一か月が経った。</p><p>昼間に体が動かなくなる「うつ病」の典型的な症状を持つ私に、塾講師という仕事はぴったりだった。</p><p>朝起きても体を起こせずに、スマホをいじったり、出窓に並べてある花たちに水をやったりする。</p><p>学生だった頃はできなかったことだ。</p><p>　昼が近づいてようやく全身に新鮮な血が巡ると、のそのそと起き出して食事をとる。</p><p>食事といっても、残り物かパンのどちらかだ。</p><p>どちらもない時は野菜ジュースやらで空腹をごまかす。</p><p>それほどに動きたくないのだ。</p><p>　ようやく本調子になった頃には塾の仕事が始まる。</p><p>私の勤務先はスーツで授業をするため、シャツを持って出発する。</p><p>スーツ本体は今の私に用はないため、塾のロッカールームに置かせてもらっている。</p><p>着替えを終え、タイムカードをきった時、私は初めて生きていることを実感するのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　塾のバイトは時給がいい。</p><p>研修でも時給1200円だ。</p><p>これが本採用になると1400円を超える。</p><p>一つネックなのが、塾に来る生徒は学生だから、放課後から夜までの短時間勤務というところだ。</p><p>　対して頭の良くない……いわば一つの教科しか見られない私は、どんなに時間を持て余していようと、どんなにやる気があろうと月に4万円の収入が精一杯だった。</p><p>実家を逃げ出して、連れ出してくれた彼と暮らすと決めたあの日、私は確かに「生活に困らないだけは稼ごう」と思ったのを覚えている。</p><p>シフトから今月来月の収入を計算してため息をつく。</p><p>　4万円。</p><p>自分の個人的な生活に使うとほとんどなくなってしまう。</p><p>特に引っ越したばかりで何も持たない私にはおつりの出ない厳しいものだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　彼は全く気にもせず、家賃も光熱費も払ってくれた。</p><p>彼にだってそんな余裕はないことは知っているのに。</p><p>&nbsp;</p><p>　やがて午前中に起き上れるようになった私は、昼間の仕事を探しはじめる。</p><p>Wワークという時点で数はかなり減ってしまう。</p><p>そして、塾に間に合わせようと、学校が終わる3時4時には上がれるアルバイトなど滅多にない。</p><p>まれにあったとしても勤務開始は7時や8時の朝早くからか、資格が必要なものばかりだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　今日も今日とて仕事を探す。</p><p>千葉の仕事を紹介してもらうために都内へと出かけていく。</p><p>往復の交通費に1500円を払い、月の収入の大事な一部を削られていく。</p><p>そして得られる返事は毎回「ご希望の条件では今のところ見つかりませんでした」の一言。</p><p>&nbsp;</p><p>　だからといって塾の仕事を辞めるつもりはない。</p><p>　幼い頃に「塾に行くから今日は遊べないの」と友人の誘いを断り、「裏切り者。死ね！」と言われた。</p><p>母親に終バスがなくなる時間まで塾の自習室に詰め込まれ、父親に車で迎えに来てもらった。</p><p>数駅も離れた場所の塾にわざわざ通い、通り道の本屋に売っている本が欲しいと言えば怒られた。</p><p>　私は塾なんて大嫌いだった。</p><p>補習塾は「誰でも入れます」と十分足りている範囲を勉強させようとするし、進学塾は「受験は1年間の付け焼刃では引き受けられない」と、門前払いされた。</p><p>私は友人との遊びの誘いを断っても「死ね」なんて言われない学校に行きたいだけだった。</p><p>母親は何を勘違いしたのか、私の娘は地元の公立校にいるイモとは違うのとばかりに進学塾に片っ端から問合せ、次から次へと体験に連れまわした。</p><p>小学校を卒業する時、私は進学塾を二つ掛け持ちしていた。</p><p>頭がおかしくなりそうだった。</p><p>勉強なんてもう嫌いだった。</p><p>だから私は中学生から「不良のできそこない」になった。</p><p>母親が嫌がる地元の公立校のイモと同じレベルになった。</p><p>&nbsp;</p><p>　子供が塾に来るのはなぜか。</p><p>補習塾なら学校の授業がわからないからだ。</p><p>進学塾なら良い学校に行きたいからだ。</p><p>ただ、生徒が塾で勉強を嫌うのはなぜか。</p><p>親が決めたからだ。</p><p>自分で決めたのなら成績はともかく、真面目に取り組むはずだ。</p><p>　講師の目からしても、やる気なさそうに雑談したり、よそを向いている生徒なんていくらでもいた。</p><p>だから私は生徒と初めて会った時に堂々と言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「勉強ってつまらないよね。</p><p>　だから私は勉強しろって言わない。ただ、教えはする。</p><p>　わかれば楽しいし、楽しければ自分から頑張れる。」</p><p>&nbsp;</p><p>　昼間動かない豚のような人間が、夕方になると「面白い先生」と評価を受ける。</p><p>変な話が、これは私のような思いを他の人にしてほしくないからこそできたことだった。</p><p>そして何より、これが昔友達に「死ね」と言われて傷ついた幼い私への供養だった。</p><p>&nbsp;</p><p>　私を連れ出した彼は、私が昼間の仕事が見つからないことを気に病んでいる様子を見てこう言った。</p><p>「塾の話をしている時のさちってとても楽しそうで、輝いて見える」</p><p>&nbsp;</p><p>　塾の仕事を辞めるつもりはない。</p><p>両立できる仕事が見つかるまで私はいくらでも頑張ろう。</p><p>生徒が私を必要としてくれて、彼が私のことを「輝いている」と言ってくれる限り。</p>
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<link>https://ameblo.jp/fwatty-sharty/entry-12277468912.html</link>
<pubDate>Wed, 24 May 2017 11:32:10 +0900</pubDate>
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