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<title>とおくはなれて、つかまえて</title>
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<description>時々書く、メモのように</description>
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<title>なつが、はじまる</title>
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<![CDATA[ <a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20100621/10/hanarebanare/cd/b7/j/o0640048010601813920.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20100621/10/hanarebanare/cd/b7/j/t02200165_0640048010601813920.jpg" alt="$とおくはなれて、つかまえて" width="220" height="165" border="0"></a><br><br><br>買ってきたばかりの珈琲豆の袋を開けると、まだローストしたてのあの香りが、彼女の顔を包んだ。<br>計量スプーンでそろそろと計って、ミルに入れる。<br>引っ越し祝いで貰った、手動のミル。<br>えー、面倒くさいな、なんて苦笑いして受け取ったけれど、使っているうちに段々と、こういう時間も良いものだな、と思えるようになった。<br><br>何より、感触が良い。<br>ガリガリと小気味良い音を立てて、豆を砕く。<br>すると、彼女の中のわだかまっているものも、同じように砕かれる。<br><br>遠くの方から、音が聴こえる。<br>何の音だろう。<br>犬笛のようなもの。<br>目眩がする時に、頭の中に響く音。<br>意識を集中させる。<br>音の中に入っていく。<br>何の音か、分からないけれど、何かとても懐かしいものだ。<br>子供の時に聴いたことがあったもの。<br><br>・<br><br>残りもののカレーに、トーストを浸して食べるお父さん。<br>わあ、行儀悪いよ、なんて思っていたけれど、今では私もそれが大好物だ。<br>カレートースト、朝の珈琲。テレビのニュース。留さん。ズームイン。<br>おかあさんはご飯党。お味噌汁。ストーブで、ぱりぱりに炙った海苔。<br>私は、トーストにいちごジャム、旗のマークのびん。それから、粉で淹れたココア。<br>窓の外には雪が積もる。<br><br>夏が好き、なんてのは逃げだ。<br>あの頃の私は、冬が好きだった。<br>女の子は、おしとやかにしなさい、なんて言われて。<br>しもやけになって、鼻水を垂らしても、元気に走り回っていた。<br><br>どこに向かって？<br><br>ゆーきやこんこん、あられやこんこん。<br>ふってもふっても、にわかけまわり。<br><br>その間、ずうっと、その音が頭の中に鳴ってたんだ。<br><br>・<br><br>彼女は思わず笑った。<br><br>土日も白。全部、白。<br>白い壁に貼った、水色の紙に白抜きの文字で数字が書かれたカレンダーを眺める。<br>６月２１日。月曜日。<br>今日は夏至だ。トラン・アン・ユン。<br>冷たいそうめんか、冷やし中華。<br>カットしたやつでもいいから、スイカも買ってこよう。<br><br>その時、おお、と閃いた。<br>音の正体は、サイン波だ。<br>CDのジャケットを手に取り、ひとしきり納得すると、彼女は、まだ熱い珈琲を口に運んだ。<br><br><br><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00081U4XE/ysktykrpg-22/" target="_blank"><img border="0" src="https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fecx.images-amazon.com%2Fimages%2FI%2F517sezoOo9L._SL160_.jpg" alt="Ensemble Cathode"></a><br><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00081U4XE/ysktykrpg-22/" target="_blank"><strong>Ensemble Cathode</strong></a><br>大友良英
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10569207455.html</link>
<pubDate>Mon, 21 Jun 2010 19:15:44 +0900</pubDate>
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<title>おわりのまえ　から　はじまりのまえに</title>
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<![CDATA[ <a href="http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%83%86%E3%82%A3-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E4%BD%9C%E5%93%81%E9%9B%86-1-%E9%AB%98%E6%A9%8B%E6%82%A0%E6%B2%BB/dp/B00018H0FY%3FSubscriptionId%3DAKIAJY3MQPODX7WNOO7A%26tag%3Dysktykrpg-22%26linkCode%3Dxm2%26camp%3D2025%26creative%3D165953%26creativeASIN%3DB00018H0FY" target="_blank"><img border="0" src="https://img-proxy.blog-video.jp/images?url=http%3A%2F%2Fecx.images-amazon.com%2Fimages%2FI%2F21MT031NPGL._SL160_.jpg" alt="サティ:ピアノ作品集(1)"></a><br><a href="http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%83%86%E3%82%A3-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E4%BD%9C%E5%93%81%E9%9B%86-1-%E9%AB%98%E6%A9%8B%E6%82%A0%E6%B2%BB/dp/B00018H0FY%3FSubscriptionId%3DAKIAJY3MQPODX7WNOO7A%26tag%3Dysktykrpg-22%26linkCode%3Dxm2%26camp%3D2025%26creative%3D165953%26creativeASIN%3DB00018H0FY" target="_blank"><strong>サティ:ピアノ作品集(1)</strong></a><br>高橋悠治,サティ<br><br><br><br>高橋悠二の演奏するサティが、ＰＣに繋いだスピーカーから小さな音で流れてくる。<br>買ったばかりのＪＢＬのスピーカー。<br>音量を調節しようとして、誤った操作で、別のウィンドウで同じ曲を二重に再生してしまう。<br><br>一人目が先陣を取り、二人目が正確にそれをなぞる。<br>これ以上ない程に、息のあった双子のコンビだ。<br><br>そうして、架空のデュオが生まれた。<br><br>・<br><br>白地に細いボーダーのクルーネックのカットソー。<br>袖をまくり直す。<br>バケツから取り出した雑巾を絞りながら、窓からの光に反射する床を眺める。<br>この部屋に引っ越してきた時はこんな感じだったな。<br>初めての一人暮らし、新しい家具、電化製品。<br><br>何かに迷った時は掃除をすると良いよ。<br>部屋の中をすっきりとさせることが、頭を整理する入り口。<br>電話口で、そうお姉ちゃんは言った。<br><br>・<br><br>靴箱の中から、古い手帳を見付けて、ぱらぱらと捲る。<br>昔のバイトのシフト、誕生日、記念日、簡単な日記。<br><br>ビニール製のカバーの端に、見覚えのあるメモが挟まっている。<br>遠い記憶のメモ。<br>でも、私はよく知っている。<br><br><br>・・・<br><br><br>まわりをみて　　たまらなくさみしくなったら　　かえっておいで<br>きみがそれをはじめたのより　　ずっとまえで　　ぼくはまっている<br><br><br>・・・<br><br><br>子供の頃、仲良しだった男の子から貰った、チラシの切れ端に書いてある手紙。<br>その時は何のことだか、分からなかったけれど、手紙を貰っただけで嬉しかったんだ。<br>返事を書いたのを覚えてる。<br><br>今なら、その手紙の意味が何となく分かる。<br>ねえ、どうして君は、そんなことが分かったの？<br><br>・<br><br>ＰＣに近付くと、おもむろに電源を落とした。<br>双子のデュオは沈黙する。<br>その余韻は、私の頭の中にしばらく残る。<br>でも、それもすぐに消えるだろう。<br><br>ベッドに倒れるように仰向けになって、真白い天井を見上げた。<br>窓からの風で揺れる、ビニールの手帳カバーに反射した光が、天井にゆらゆらとした波を作る。<br>海辺の昼寝、と私は呟いた。<br><br>どこからともなく、何となしに。<br>また、会えるような気がしたんだ。<br>頭の中でオルガンに合わせて歌う、子供たちの童謡を諳んじながら。<br>私は、昼下がりの陽射しの中で、軽く目を閉じた。<br><br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10539029263.html</link>
<pubDate>Wed, 19 May 2010 17:15:43 +0900</pubDate>
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<title>ある島、アンスリウム</title>
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<![CDATA[ <a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20091103/19/hanarebanare/23/bf/j/o0640042710295560252.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20091103/19/hanarebanare/23/bf/j/t02200147_0640042710295560252.jpg" alt="とおくはなれて、つかまえて"></a><br><br>レイ・ハラカミの音が、心地よく部屋に鳴り響いた。<br>それは必要な隙間を、全く丁度良く、ふわりと埋めた。<br>行きたい場所は、はっきり決まっていた。<br>ただ腰が重いだけだ。<br><br>コーヒー豆と、美味しいあんぱんを買いに行く旅。<br>島の反対側にある喫茶店で豆を挽いてもらい、それから岡の上のパン屋にあんぱんを買いに行く。<br><br>船便で送られてきた村上春樹の新作は、中々読み進まなかった。<br>正確に言えば、読み始めることができなかった。<br>でも、一度開いてしまえば、ところてんのように、するっといってしまうんだろう。<br>そのあたりまえが、ちょっと悔しくて、くすぐったかった。<br><br>白いフレーム、大きな額の中のポスター。<br>ひばりくんが微笑んだ。<br><br>炊飯器が鳴った。<br>韓国のりで巻いて食べた。<br>のりの表面を見ていたら、人気のない、ごつごつした海岸を思い出した。<br><br>遠い水平線に、島から離れていく船が見える。<br>バイバイ。<br>またね。<br>大きく手を振って、思い切り叫んだ。<br>もう戻ってこない、なんてことは知っていたんだ。<br>でも、また会いたいな。<br>心のどこかでは、きっと。<br>ずっと、待っているよ。<br><br>踏まないようにする。<br>しおれないようにする。<br>たまには日にあててやる。<br><br>そうしていつものように、窓辺のアンスリウムに水をやる。<br>髪が大分伸びてきたな。<br>さて、今度は前髪を作ってみるか、と、その勢いでドアを開けた。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10379856811.html</link>
<pubDate>Tue, 03 Nov 2009 23:41:58 +0900</pubDate>
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<title>suger age,bitter sweet</title>
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<![CDATA[ オールドファッションとホットコーヒーを。<br><br>「ガムシロップとミルクはお使いになりますか？」<br>そうレジの女の子は言って、砂糖だけでいいですよ、と彼は答えた。<br>割烹着とエプロンのちょうど中間のような制服がよく似合う、小柄な女の子だ。<br>たまに無性にドーナツが食べたくなる。<br>当たり前の普通のオールドファッションが好きだ。<br><br>店の奥がドーナツ工場になっている。ここで作られたドーナツは、他の色々な店に卸されているのかもしれない。だからここは、ドーナツの直売所と言えるかもしれない。<br>日曜日は工場が休みなのか、ガラスの向こうは真っ暗だった。<br>彼女は、ひとりで店番をしていた。壁のスピーカーから、ジミー・マグリフのオルガン。ずっと流れているから、有線じゃない。彼女の趣味なのだろう。いい趣味だ、そう思った。<br>夏はハモンドオルガンの音がよく似合う気がする。<br><br>あっ、と、コーヒーマシンからコーヒーを注ぎながら、彼女は小さく声を上げた。<br>「ホットだと、ガムシロップじゃなくて、お砂糖でしたね。うっかりしてて」<br>照れ臭そうに、彼女は笑った。<br>どっちでも構いませんよ、と彼も笑った。<br>３８０円です。<br>じゃあ、これで。<br>はい、２０円のお返しになります。ごゆっくりどうぞ。<br>夏のさなか、冷房の効いた店内に相応しい笑顔を、彼女は浮かべた。<br><br>・<br><br>ごちそうさま。<br>追加で持ち帰り、お願いしてもいいですか？<br>もちろん、大歓迎です。<br>オールドファッションと、このストロベリーのやつと、このココアパウダーがかかったやつと、うん、このストロベリーのやつをもうひとつ。<br>ストロベリー・エンジェルが２つですね。<br>うん、そう。ストロベリー・エンジェル。<br>ありがとうございます。４点で４５０円です。<br><br>・<br><br>美味しいアイスコーヒーの入れ方。<br>ホットで飲む時の倍の粉を使う。<br>一度沸騰させて、火を消し、泡が消えた程度で、お湯を注ぎ始める。<br>淹れ終わったら、氷で一気に冷やす。<br>そうすれば、香りを損なわずに済む。<br><br>・<br><br>サーバーに溜まった２杯分のコーヒーは、小さな海のように波立った。<br>大きな地震だ。<br>この部屋はビルの高層階だから、かなり揺れた。その内に、脇腹辺りから、ぽきっといってしまうに違いない。<br>みしみしと建物全体が、呟いているようだった。<br>まるでお経のようだな、と思った。<br>でも、そんなことをふわふわと考えている内に、揺れが収まった。<br><br>・<br><br>誰しもが、特別な何かが起こればいい、なんて思っているわけでもない。<br>ひっそりと、何事もなく、毎日がずっと続き、一生が終わらないか、と考えているひとだっている。<br>彼は、正直言って、どちらでもよかった。<br>このまま、例えば明日、地球が何かの拍子に、さあ、今までの事はフィクションでした、それではさようなら、なんて言って、突然ページが途絶えても、特に異論はなかった。<br>かといって、やりたい事が全くないわけではなかった。<br>まず彼は、ジャコ・パストリアスのベースラインを全て弾けるようになれたら、と思っていた。<br>そして、それが出来た暁に、長い旅に出たかった。<br>一度出てしまったら、もう戻ってこないであろう、そんな片道の旅を想像するのだった。<br>どこに行っても同じだという気持ちと、心が揺れるようなアクシデントを望む気持ち、そのふたつが共存していた。<br><br>・<br><br>コーヒーを啜って、彼は、無性に煙草が吸いたくなった。<br>何もかもを飲み込む、黒い、黒いグルーヴ。<br>それは、限りなく黒く逞しい脚を持った一匹の馬となって、彼の頭に住み着いた。<br>ハモンド・オルガンの音が頭の中を駆け巡り、土埃を上げながら、それはダンスした。<br>出口はどこだ！<br>外の世界へ出ようと、それは目を血走らせながら、必死で駆け回った。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10326847323.html</link>
<pubDate>Sun, 23 Aug 2009 16:06:30 +0900</pubDate>
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<title>かつて、ジムノベティと</title>
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<![CDATA[ 彼は、彼女と一緒にいることで、今の自分を保っていた。<br>家に帰ると彼女がいる。<br>それがなければ、ある日突然、降りるべき駅を乗り過ごして、地の果てまで行ってしまっても、全然不思議ではなかった。<br>彼女のいる場所が、彼の戻る場所だった。<br><br>彼女は、クラシックのピアニストが演奏するジムノベティよりも、ビル・エヴァンスとハービー・マンの演奏する、それを愛した。家に帰ると、ターンテーブルにはいつもそのレコードがあり、何度も何度も、聴いているようだった。<br><br>遠い遠い、昔の話だ。<br><br>彼女には、名前がなかった。<br>正確には、彼女は彼に名乗るべき名前を持たなかったのだ。<br>でも、そんなことはどうでもよかった。<br>彼は頭の中で、彼女をジムノベティ、と呼んだ。<br>口に出して呼んだことは、一度もない。<br><br>彼女は、一匹の無口な迷い猫だった。<br>何も言葉を口にしないことで、不自由を感じたことはなかった。<br>彼女の前で、言葉はひたすらに無力だった。<br>彼が何かを話そうとすると、彼女は緩やかに、ふわりと微笑んで、小さく首を振る。<br>そんな仕草が好きだった。<br><br>・<br><br>桜の花弁がシルクのスカーフを広げたように、水辺を覆って、流れていった。<br>２階の窓から、それを眺めながら、挽きたての豆でコーヒーをたてる。<br><br>コーヒーをひと口啜り、旅先の友人から送られてきた、ＡＲＡというパッケージの煙草を吸う。<br>日本の煙草に比べると、煙が多いようだ。<br>煙の中に、アンコールワットが浮かんでは消えた。<br><br>この休日にふと、降りるべき駅を乗り過ごして、地の果てまで行ってしまおう、と思った。<br>それでも、彼の頭の中の地の果ては、熱海が精々だった。<br>東京物語で、笠智衆演じる夫婦が座った海辺に腰掛けて、海風を浴びるのだ。<br>お土産に、ふっくりとして脂ののった鯵のひものを買ってくる。<br>それを肴に、梅酒のお湯割りを一杯。<br><br>彼の頭は、プラスマイナスでちょうどからっぽとなり、数分の間、ほぼ無の状態となった。<br>遥か彼方で奏でられたジムノベティの旋律は、彼の頭の中でぐるぐると回るうちにバターとなり、コーヒーに溶け合ってコクを出して、最後にはすっかり消えてしまった。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10220805884.html</link>
<pubDate>Sun, 15 Mar 2009 20:29:03 +0900</pubDate>
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<title>プロフリーターの肖像</title>
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<![CDATA[ 彼はいわば、プロのフリーターだった。<br>中途半端でない、信念を持ったフリーターだ。<br><br>全てを自炊で済ませ、一度沸かしたお湯をペットボトルで持ち歩き、本は全て立ち読みで済ませた。<br>もちろん、ギャンブルなんてもっての外。女遊びもしない。<br>月に一度、中古のＣＤを一枚だけ買いに行くのが、唯一の楽しみだった。<br>石野卓球と、ＺＡＺＥＮＢＯＹＳを聴くのが特に好きだった。<br>ＺＡＺＥＮＢＯＹＳのＣＤは特に、中古市場でも良い値段を付けていたが、<br>それでも彼はその数百円の為に、中古に拘った。<br><br>・<br><br>２０歳から始めた貯金は、３０歳を超える頃には２０００万を超える額になった。<br><br>彼は国を全く信頼していなかったので、年金を一切払っていなかった。<br>そんなものはいらない、と最初から判断していた。<br>だから、お金はあるに越したことはなかった。<br><br>・<br><br>やはり中古で買った、ドイツのバンド、ＣＡＮのライナーノーツを見る度に、ダモ鈴木のようになりたいと思ったものだ。<br>長髪、無精髭、サイケ、放浪。<br>東南アジアあたりに行ってしまうのもいいかもしれない。<br>２０００万もあれば、一生暮らせるかもしれない。<br>行った先から、手紙を出す。<br>うん、それはまるで、寅さんのようだな、と彼は思った。<br>でも、と、そして続けた。帰る家はないんだったよな。<br><br>・<br><br>世界経済が落ち込み、その影響で、アルバイト先が倒産してしまうことが何度かあった。<br>でも、彼自身にとっては、それは特に深刻な事態ではなかった。<br>肉体労働、風俗の呼び込み、元々彼は仕事を選ばなかったし、仕事を仕事と割り切って、どんな仕事にも文句ひとつ言わなかったので、どこへ行っても重宝がられたのだ。<br><br>逆に、仕事先が変わるまでの間（それは２、３日のことだったのだけど）、思い掛けない休みを貰ったようで、気分がよかった。<br><br>そんな日は、図書館で貸りた本を持って、広い広い公園に行く。ポータブルラジオから小さな音で流れる音楽を聴きながら、芝生に横になってみる。<br><br>・<br><br>５０億年後に太陽がその寿命を終え、もはや地球が肥大化したそれに飲み込まれてしまう時、自分自身が何者であったかということに、どれだけの意味があるだろうか。そんなことを彼はよく考えた。そう考える時、自分が今まで貯めてきたお金の意味がとても希薄なものに変わっていくのが、とてもよく分かった。<br><br>日が暮れ始めて、その日、彼は初めて花を買った。そして、無くなってしまった地球のために、何かを祈った。<br><br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10212243333.html</link>
<pubDate>Sun, 22 Feb 2009 20:45:25 +0900</pubDate>
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<title>なつのためのうた</title>
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<![CDATA[ いつかまた、キミに会うために、彼は生きていた。<br>彼女の顔を、もうすでに、すっかり忘れていたけれど、それでもよかった。<br>彼女と会ったときの、下町の土ぼこりの香りを、よく覚えていた。<br>その香りを少しでも嗅げば、思い出すはずだ。<br><br>二ールヤングの歌が、通り過ぎる車の、窓の隙間から流れていた。<br>でもそれも一瞬のことで、車が通り過ぎてしまうと、波の音だけが残った。<br><br>にわか雨が、ポツリポツリと、降ってきた。<br>港町に振る雨は潮の香りがして、でもそこにキミの影はなかった。<br><br>カブで商店街までひとっ走り。<br>おでんが食べたくなったのだ。<br>まず、ふっくらとした湯気の立つ煮たまごをふたつに割って、たっぷりのからしで食べる。<br><br>有線から流れてくる岡村靖幸は、変わらず天才だった。<br><br>岡村靖幸をリクエストしたのは、実は彼女だったのだが、彼にはそのことを知る由もなかった。<br>リクエストをした彼女の頭に、幾らかでも彼のことが浮かんでいたかもしれない。<br>あるいは、そんなことは全くなかったかもしれない。<br><br>でも彼にはもう、小さなすれ違いはどうでもよかった。<br>だから、そんなことは気にもかからなかった。<br><br>生温い風が、夜の街に流れ込んでくる。<br>港町に、もうすぐぎらぎらした夏がやってくる。<br>暑く、長い夏がやってくるのだ。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10185788120.html</link>
<pubDate>Sun, 01 Feb 2009 13:05:19 +0900</pubDate>
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<title>愛のゆくえ</title>
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<![CDATA[ 新しく買ったＰＣの、キーボードの打ちにくさに辟易としていた。<br>急落したドルのレートをチェックし、今月のやりくりを考える。<br>お金のことを考えるのは面倒だ。<br>だからこそ、お金のことを考える時もある。<br><br><br>友達から貰った缶コーヒーを見付けて、ひと息入れる。<br>冬の朝の寒さで、それはほどよく冷えている。<br><br>その友達と出掛けようとメールすると、大掃除をしているという。<br>そこで、こちらも大掃除をしようかと、積んである本の山をひっくり返す。<br>つい読書が始まってしまう。<br><br>日差しが柔らかくなってきた。<br>明日は熱海まで行こうか。<br>写真を撮りに行く。手紙を書きに行く。<br><br><br>ぼおっとするのもいいし、忙しくするのもいい。<br>でも、それが無駄だったなんて嫌だな。<br>今日感じている寒さは、寒さそのものは、明日には消えている。<br>止まない嵐はないのだ。<br><br>どんなに忙しくても、本を読むこと、音楽に没頭すること。<br>感じたことを残しておくこと。<br>物事を長い目で考えることが大切。<br>毎日は繰り返されるからといって、盲目的になってはいけない。<br><br><br>とりあえず、キーボードを買いに行こう。<br>そう思ったのだ。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10180605373.html</link>
<pubDate>Sat, 20 Dec 2008 15:03:52 +0900</pubDate>
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<title>中央線と喫茶店と</title>
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<![CDATA[ 中央線て、いいな、そんなことをふわふわと思いながら、コーヒーを飲む。<br><br>・<br><br>細長いビルの４階に、その喫茶店はあった。中央線と、その傍らを流れる神田川が併走するのが見える。小さなイス、低めの机、弱めの冷房と、換気扇を通して回る日射し。<br>今日、その喫茶店が店をたたんでしまうことを知ったのは、つい昨日のことだった。知人からの電話のついでに、その話を聴いたのは、ほんの偶然だった。それが幸運なのか、そうでないのか、分からなかった。<br><br>・<br><br>まだ彼が大学生だった頃（とはいってもまだ５、６年位前のことなのだけど）、暇があれば通った店だった。あらゆるくだらなさ、恋や、そんな色んな甘酸っぱさが、今から思えば、そのほとんどの記憶がここにあった。<br>窓の形に切り取られた日の光と、その中を舞う、宇宙遊泳みたいな埃を見ながら、彼は夏の真只中にいた。それはかつて彼に与えられた、もう戻ってこないはずの時間だった。<br><br>・<br><br>「偶然、友達に聴いたんです」<br>「そうじゃないかと思ったよ。よく来てくれてたよね。そのまんまだもの」<br>「俺、上手く言えないんだけど、久し振りに来て、こんなことを言うのも何だけど、この店に出会えて良かったです」<br>ちょっと待っててくれる？、とマスターは店の奥に入っていった。<br>「これ、持っていきなよ」そう言って、渡してくれたのは、一枚のレコードだった。 <br><br>・<br><br>この店の名前は、そのアルバムから取ったんだよ。それ聴きながら、コーヒーを飲む時には、この店のことを思い出してよね、マスターはそう言って微笑んだ。大袈裟だけど、そうすれば、この店は君の中で永遠に残ることになる。<br><br>・<br><br>かつて店だった場所にはチェーンのレコードショップが入る。何処にでもありそうな、ありふれた話だった。<br>部屋でコーヒーを飲む時、彼はそのレコードをかける。ふわっと、何かもやのような感覚が頭の片隅をよぎる。でも、その感覚は片隅にあるだけであって、彼の頭の中は、その当時の恋で一杯になった。<br>彼女の顔はもうすでに忘れてしまった。雰囲気と、コーヒーを飲む時のチャーミングな手の運びを覚えているだけだ。<br>でも、そんな欠片のような彼女のイメージは、彼の心の中に居座り続けた。<br><br>・<br><br>これからプールに行こう、彼はそう思った。夢中に泳いで、くたくたになって、冷たいシャワーを浴びて、ビールを飲んで、昼寝をする。<br>そう思って、車に乗り込んだものの、ガス欠で車は動かなかった。<br>あっちょんぷりけ、と彼は特別驚くでもなく、でも呟いてみるのだった。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10122673170.html</link>
<pubDate>Sat, 02 Aug 2008 10:48:23 +0900</pubDate>
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<title>遠回り</title>
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<![CDATA[ 君は何て頑固なんだ！、彼はドアに向かって、言った。<br>部屋にただひとつのドアが開かなくなって、２日目になる。１Ｋの部屋は、キッチンと洋間の間を２分された、２つの独立した空間となった。<br>玄関を入って、キッチン。玄関を出て、裏手に回って、縁側から入る洋間。一見、不自由なそれは、ちょっとした新鮮さを伴って、生活に溶け込んでいった。何だか、この遠回りは、実家みたいだなあ、そんなことを彼はふわふわと思った。<br><br>・<br><br>その生活が当たり前のようになって１週間が経った頃、ドアを直すことについて、彼は少しずつ悩むようになった。直してしまうのが、本当に正しいことなのか、今一つ確信が持てなかった。<br>何かを好きになるということは、それの持つ欠点が欠点だけのものでなくなる、ということなのかもしれない。<br>思えば、彼の周りは欠点だらけだった。自分のことについても、たくさん、欠点と呼べるものはあった。そう考えてみると、ドアが開かないくらいのことは、ほんの小さなことに見えるのだった。<br><br>・<br><br>仕事が終わって、週末、カーテン越しの甘い光にぼんやりと目をさます。<br>さ、始まるよ。誰かが扉の向こうで優しく呟いた。開けてごらん、扉はもう開くよ。そんな声が聴こえたような気がする。<br>横になったまま、朝の日射しに向かって、両手で影絵のハトの形を作ってみた。<br><br>・<br><br>朝食を食べようと、洋間からアパートの表に回って、キッチンへ向おうとすると、三毛猫が足にまとわりついてきた。こういうこともあるし、と彼は呟いた。<br>目玉焼きとトースト、それからコーヒーの朝食を作った。三毛猫にはフレンチトーストとミルクをごちそうしてあげた。<br>何だか、このネコを連れて、遠くへ旅行に出掛けたい、そんなことをふと思った。西が良いな。広島とか、四国。そんな、僕らにはちょっと未知の土地だ。遠くの空気を吸って、遠くの食べ物を食べて、電車に揺られてゆっくり帰ってくる。それから先のことは、その時考えよう。<br><br>・<br><br>イスに腰掛けて、目を細めて、窓から太陽を見る。ちょうど鳩が横切るのが見えた。さっきの鳩かな、彼は呟いた。<br>足下を見ると、もうネコはいなかった。空になった皿だけがそこにあった。また来てくれると良いのだけど、そんなことを思いながら、皿を片付けた。<br>すると、隠れてただけなのにゃ、と物陰からネコが顔を出した。<br><br>fin.
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<link>https://ameblo.jp/hanarebanare/entry-10119763576.html</link>
<pubDate>Thu, 24 Jul 2008 23:43:28 +0900</pubDate>
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