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<title>思いついた 言葉つなげて 物語</title>
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<description>超低速エンジンでお届けするモノカキ。</description>
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<title>72SEASON #18 牡丹華さく(ぼたんはなさく)</title>
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<![CDATA[ <p><br>『助かった。ありがとう』<br>「他にも何かあったら言ってくれ。出来る限りのことはするから」<br>『あぁ。あまり飲み過ぎるなよ』<br>「気をつける」</p><p><br>　画面越しに苦笑した顔。<br>　声と言葉ばかりは他愛なく聞こえるが、表情には疲労の色が見て取れた。<br>　そこがどんな戦場なのか、画面のこちら側からは想像しかできない。<br>　閉ざされた扉の向こう側でどんな声が、音が、感情が、流れているのか。</p><p>&nbsp;</p><p>　白衣姿の彼が、ここに帰らなくなって数週間。<br>　ただ多忙が理由なだけではないことを、暗黙知的に知っている。</p><p>&nbsp;</p><p>　だからこれは単なる俺のエゴだ。<br>　休憩になったら連絡して。出来ればテレビ電話で。<br>　顔を見て、声を聞いて、言葉を交わして。<br>　少しでもその一端を、端っこの方で担がせてくれ、なんて。<br>　お前が少しでも、息ができるように。</p><p><br>『それじゃあ、柊<span style="color: rgb(127, 127, 127);">（シュウ）</span>』<br>「うん」</p><p><br>　またな、と手をあげて告げられた挨拶に、手を振り直して答える。<br>　ほどなくして通話終了の画面になったタブレットの画面をオフにし、膝の上に肘をついて両手に額をのせた。</p><p>&nbsp;</p><p>　現場を知らない人間が、うぬぼれてはいけない。<br>　それはどんな状況においても通ずるものがある。<br>　それでも、何かをしたいと思う。何かできることはないかと。<br>　その“現場”で闘う友人がいるからこそ、なおさら。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>「はい、どうぞ」<br>「ん？」</p><p><br>　静かに音が降ってきて、顔を上げると目の前のテーブルにお蕎麦と天ぷらのセット。<br>　お盆の配置を整えながら、息を吐くようにして告げられる。</p><p><br>「食べようと思って買っておいたこごみがあるから、天ぷらにでもして出してやって、って。癸岐<span style="color: rgb(127, 127, 127);">（ミズキ）</span>さんから」<br>「！竣<span style="color: rgb(127, 127, 127);">（シュン）</span>から？」<br>「今朝方メールが来たんです。なので、食べたらメール返しておいてください」<br>「準<span style="color: rgb(127, 127, 127);">（ジュン）</span>宛のメールなんだろう？」<br>「いいじゃないですか。まどろっこしいの、面倒ですし」</p><p><br>　それに、私が料理するのとか超レアなので、温かいうちに食べちゃってください。<br>　よく食べて、よく寝て、免疫力アップ。私たちにできることです、と言いながら隣のソファに腰かけて手を合わせるのを見て、こちらも手を合わせる。<br>　揚げたての衣が、サクッと音を立てて、山菜の歯ごたえと風味を舌の上で感じながら。</p><p><br>　俺たちに、今、出来ること。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>--------------------------------------</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">四季：春</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">気：穀雨</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">候：牡丹華さく(ぼたんはなさく)</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);">牡丹の花が咲きだすころ。</span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">新暦では、4/30～5/4ごろ。</font></span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);">お久しぶりのご無沙汰です。</span></p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">参考文献</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></span></p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12594290909.html</link>
<pubDate>Sun, 03 May 2020 13:54:15 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #55 山茶始めて開く(つばきはじめてひらく)</title>
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<![CDATA[ <p>　かちゃ、と小さな音をたてて、カップとソーサがテーブルの上に置かれる。<br>　淹れたてコーヒーの入ったカップからは、うっすらと湯気が上っていた。</p><p><br>「ありがと、張和(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ハルワ</span>)。」</p><p><br>　コーヒーを持ってきてくれた張和にお礼を言う。<br>　自分の分も持ってきた張和は、俺の右隣の辺に腰を下ろした。<br>　玄関と繋がっているリビングダイニングを兼ねたグランドフロア。<br>　ダイニングと反対側にはソファとテーブルが置いてあって、いつもは皆がそこを使っている。４席あるそのソファの手前に、今はこたつが出現していた。まぁ、持ってきたのは俺なんだけれど。<br>　今、４つあるテーブルの辺には、張和、暁(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">トキ</span>)、空冬(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">クドウ</span>)さん、そして俺がそれぞれ座っていて、ひとつこたつの下、温もりを共有しているところだ。とはいっても、暁は寝転がって音楽を聞いているし、空冬さんは張和が淹れたコーヒーを飲みながら読書中。俺は手持無沙汰になっちゃったから、こたつの真ん中に置かれたみかんを手に取って剥いていた。さっき隣に座った張和も、雑誌を広げて読み始めた。そんな感じで、俺たちの間に会話はない。でも、なんだかんだ言って一緒にいることが増えてきたというのは、いいことだよね、なんて思う。</p><p>&nbsp;</p><p>「あら、どうしたの仲良く四人で。」</p><p>&nbsp;</p><p>　外から帰ってきた攸圻(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ユウキ</span>)さんが、可笑しそうに俺たちを見つけて言った。<br>　後ろには癸岐(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ミズキ</span>)さんも一緒だ。<br>　そういえば、二人で出かけるって言ってたっけ。壁にかけてあるスケジュールボードにも、確かあらかじめ予定が書いてあったな、なんてことを思い出す。<br>　グレーのコートの前ボタンを外しながら、攸圻さんがこちらの様子を窺うように近くまでやってきた。<br>　ふと、開いたコートの隙間から赤いペンダントが目に入った。<br>　攸圻さんにしては珍しい、和テイストの、花をモチーフにしたペンダントだ。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>「攸圻、そんなの持ってたっけ？」</p><p>&nbsp;</p><p><br>　いつの間に本の世界から戻ってきたのか、空冬さんが攸圻さんを見て言った。<br>　空冬さんの問いかけに、攸圻さんは一瞬何のことか考える間を置いてから、あぁ、とペンダントに触れながら応えた。</p><p><br>「これのこと？きれいでしょ？イヤリングとお揃いなの。」</p><p><br>　そう言って左耳のイヤリングを見せる攸圻さん。<br>　確かに、ペンダントと同じ形の赤い花のイヤリングをしている。<br>　俺と空冬さんに見やすいように左側を見せてくれているみたいだけど、右側にも同じものがついているのが見えた。</p><p>&nbsp;</p><p>「珍しいよね、そういうテイストのやつつけてるの。」<br>「貰ったのよｖ」</p><p><br>　ウィンクつきで声を小さめにした攸圻さん。<br>　そこへちょうど、コートをハンガーラックにかけてきた癸岐さんが後ろにやってきた。<br>　すると、意味ありげに「ふ～ん」と言いながら攸圻さんではなく癸岐さんを見る空冬さん。<br>　その視線に癸岐さんも気づいていそうだけど、まだ反応はない。</p><p><br>「それで？あなたたちは何をしていたわけ？」<br>「見てのとおり、こたつでゆっくりと。」<br>「いいわね、私も着替えてきたら仲間に入れてもらおうかしら。」<br>「おい、あまり時間はないぞ？」<br>「判ってるわよ～荷物変えに一端上がってくるわ。」</p><p><br>　癸岐さんに止められた？攸圻さんは、コートを着たまま部屋へ戻っていった。<br>　残った癸岐さんに、これまたいつの間にこたつから脱出していたのか、張和が淹れたてのコーヒー（しかも一口エスプレッソサイズ）をもってきて渡した。</p><p><br>「サンキュ。」</p><p><br>　受け取ったその場で一口口にする癸岐さん。<br>　一息ついてから、空冬さんの方を見て、</p><p><br>「何か言いたそうだな？」<br>「い～え？別に。ただ、いいご趣味だな、と。」<br>「ほめ言葉として受け取っておくさ。」</p><p><br>　そんなやりとりをして、どちらからともなく笑みをこぼす二人。</p><p><br>「また出られるんですか？」<br>「あぁ、柊(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">シュウ</span>)と響(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ヒビキ</span>)の店で待ち合わせなんだ。」<br>「あ、ずるい。また美味しいほっけとか入ってたら今度は連れて行ってくださいね！」<br>「ははっ。分かった、柊にもそう言っとく。」</p><p><br>　空いたエスプレッソカップを張和が受け取り、キッチンへ下げているところへ、ロングコートへチェンジした攸圻さんが降りてきた。手にしているカバンも、小柄なものに変わっている。</p><p><br>「おっ待たせ。」<br>「それじゃ、またな。」<br>「お気をつけて。」<br>「じゃぁね、準(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ジュン</span>)。仲良くするのよ～。」<br>「はいはい、行ってらっしゃい。」</p><p><br>　にこやかに出ていった攸圻さんたちを見送った後、再びこたつの温もりに浸る前に、空冬さんの方を見て言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「空冬さん、さっきのは何だったの？」<br>「？」<br>「癸岐さんとのやり取り。」</p><p><br>　つい先刻のやりとりを差して言う。<br>　見慣れないペンダント。それを貰いものだと言った攸圻さん。<br>　なんとなくそこで予想のつくことはあるのだけれど、空冬さんが癸岐さんへ発した言葉の意味が分からなかった。<br>　本の世界へ戻る前に引き留められた俺の問いに、空冬さんは少し楽しそうに答えた。</p><p><br>「赤い山茶花。」<br>「え？」<br>「攸圻のつけてたペンダント。たぶん山茶花のモチーフだと思う。季節的にもぴったりだし。」<br>「あ、そうなんだ。俺椿かと思った。」<br>「椿は花がカップ状で完全には開かないの。まぁ、どちらも似てるから、あれが椿か山茶花かは分からないけど。」<br>「でも、山茶花だとしたら？」<br>「赤い山茶花の花言葉は、『あなたがもっとも美しい』。」<br>「・・・Wow。」</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>--------------------------------------</p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">四季：冬</font></span></p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">気：立冬</font></span></p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">候：山茶始めて開く(さざんかはじめてひらく)</font></span></p><p>山茶花の花が咲きはじめるころ。</p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">新暦では、11/7～11/11ごろ。</font></span></p><p>&nbsp;</p><p>こたつは人をだめにする兵器だと思うのに、ダメさ加減が全然出てないこの話。</p><p>いつかリベンジをっ。。</p><p>ちょうど、赤い山茶花をモチーフにしたペンダントとイヤリングを見かけたので。</p><p>癸岐さんの独占欲をちょい見せで（笑）</p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">参考文献</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></span></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12219180836.html</link>
<pubDate>Sun, 13 Nov 2016 22:13:14 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #54 楓蔦黄なり(もみじつたきなり)</title>
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<![CDATA[ <p>　久しぶりに休みが重なったから、街に出かけようと言い出したのは械戸(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">カイト</span>)だった。<br>　特に反対することもなかった俺たちは、三人仲良し宜しく出かけた。<br>　出かけ際、たまたま居合わせた攸圻(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ユウキ</span>)に「あら、仲良くおでかけ？」と茶化されたことはこの際置いておく。今に始まったことじゃないが、攸圻は俺たちが三人でいるのを見かける度「仲がいいのね」と言いたげな笑みを向けることが多い。それが何を意味しているのかは、聞いたことはないが、仲のいい弟たちを見ているような感覚なのかもしれない、と時々思う。俺たちも、別にそれが居心地悪いわけではないのだから、どうしようもなかった。<br>　話が逸れた。<br>　街に出たからといって、何かしようと思って出かけたわけではない俺たちは、歩きながら赴くままに目についた店に入り、気に入ったものがあれば購入し、また歩く。それを繰り返した。<br>　この時期の外は、陽が当たりさえすれば歩くにはちょうどよく、日陰に入ると肌寒い。<br>　冷え性、というと女子の専売特許のような偏りがあるような気がしなくもないが、体を冷やしていいことなんて、俺たちにだってありはしない。そう思うのは、運動部に身を置いていた経験があるからなのかも、しれないが。<br>　とにかく、俺たちは休憩も兼ねて近くにあったカフェに入ることにした。<br>　店内と屋外どちらがいいか尋ねられ、械戸が屋外と即答した。<br>　それに対して俺と張和(<span style="color: rgb(64, 64, 64);">ハルワ</span>)は目を合わせたが、このお出かけの立案者に権利を譲ることにし、案内されるがまま席に着いた。<br>　通りに面したオープンカフェは、陽の当たる席だった。<br>　三人ともが温かい飲み物を注文し、オーダーを受けたウェイターが店内に戻ると、両腕を目一杯上へ伸ばして伸びをする械戸。屋外の席とあって、三人とも上着は着たままだ。</p><p><br>「ん～～っ、気持ちぃ～～～ねっ。」<br>「ゆっくりと街歩きをするのも、久しぶりだな。」<br>「そろそろ紅葉シーズンだから、遠出してもよかったんだけどね～なんか今日は街歩きな気分だったんだ。」<br>「確かに、この辺りの街路樹もだいぶ色づいているし、山の方はもっと早いだろうしな。」<br>「あ、ねぇねぇ、二人は紅葉っていうと、何色をイメージする？」<br>「色？」</p><p><br>　突然の械戸の振りに、俺たちは顔を見合わせてから答える。</p><p><br>「街中で見るのは黄色が多いよな。イチョウとか。」<br>「モミジと言えば、赤のイメージが強いが。」</p><p><br>　俺たちの答えを、満面の笑みで受け取る械戸。<br>　そこへウェイターが注文していたホットドリンクを運んできた。<br>　冷めぬうちにと三人ともがカップを手に取り、その温もりをカップから手のひらを通して体へ。<br>　まずは一口、体に温もりを宿したあと、械戸が言った。<br>　両肘をテーブルについて、カップを両手で包み込んだまま。</p><p><br>「俺はね、」</p><p><br>　先程と違わぬ、満面の笑みを添えて。</p><p><br>「燃えるような紅も、煌めくような黄色も、好きだよ。」</p><p>&nbsp;</p><p>　俺と張和は返す言葉なく、まっすぐに向けられたその言葉をただただ正面から受け取るばかり。<br>　もう一度、本日何度目になるか顔を見合わせて、それから、どちらからともいわず、笑みをこぼす。<br>　紅葉のイメージを、聞いていたのではなかったか。<br>　械戸の言葉。それはまるで、まるで。</p><p><br>「それは、光栄だな？」<br>「あぁ。」<br>「ふふ。あ～、ホットココア、美味し～。」</p><p><br>　楽しそうに口にする械戸の携帯が、着信を告げる。<br>　それは同時に、俺たちの携帯にも届いた。</p><p><br>「…何してんだ、ツッチーは。」</p><p><br>　それはグループラインに投稿された一枚の写真。<br>　画面を見ていると、新しいメッセージが追加された。</p><p><br>『焼き芋やるで！全員集合！』<br>「焼き芋だって。」<br>「落ち葉集めて焼くのか？」<br>「まだ落ちてねぇだろ、そんなに。」<br>「よくコートに落ちてるのかき集めてやったよね～。」</p><p><br>　懐かしい思い出をなぞりながら、携帯を上着のポケットへしまう。</p><p><br>「どうする？」<br>「どうするって、なぁ？」</p><p><br>　ほぼほぼその答えは決まっているようなもので。</p><p><br>「あ～ココア美味しかった！ごちそうさま！」</p><p><br>　両手を合わせた械戸の台詞を機に、俺たちはカフェを出ることにした。<br>　席に木陰をつくる銀杏の木に見送られながら。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>--------------------------------------</p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">四季：秋</font></span></p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">気：霜降</font></span></p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">候：楓蔦黄なり(もみじつたきなり)</font></span></p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);">紅葉や蔦が色づくころ。</span></p><p><span style="color: rgb(64, 64, 64);"><font color="#666666">新暦では、11/2～11/16ごろ。</font></span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);">械戸くんから庄路くんと黒牙くんへ愛のメッセージ（笑）</span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">参考文献</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></span></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12216921081.html</link>
<pubDate>Sun, 06 Nov 2016 17:07:26 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #51 蟋蟀戸に在り(きりぎりすとにあり)</title>
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<![CDATA[ <p><span style="font-size: 1em;">　地上の喧騒から切り離すように、扉一つ隔てたその場所は、毎晩オレンジ色の照明と、邪魔しない程度に流れる音楽で閉じた空間を作り出していた。地上入り口付近で鳴く虫の声も、扉を一つ越えてしまえば聞こえてこない。切り離された世界。そんな場所を求めてか求めずか、ここには毎晩、何人かの客がやってきては、何も話さずただグラスを傾け、去っていく。それがこの空間の日常であり、たまにマスターに代わってカウンターに立ちこの空間をいつも通り経過させるというのが、俺の役目でもあった。</span></p><p><span style="font-size: 1em;">　広くないカウンターに二人。<br>　各々手元にあるグラスを傾けながら、談笑するでもなく、静かにそこに座っている。<br>　男と女。<br>　男の方はネクタイこそしていないものの、ジャケットにシャツ、薄手のV字セーターを着ている。色はオレンジ色の照明ではっきりは分からないが、見た感じの質感からそれなりの店で購入したものであろうことは検討がついた。女の方も同じくジャケットにシャツにスキニータイプのパンツ。足元は７センチ程のヒールを履いていた。身長は確か男の方が２０センチ以上高かったはずだが、今はカウンターに座って肘をついている状態なので、そこまでの差は感じられない。<br>　何をそんな風に観察しているかというと、実のところそうではなく。<br>　ただ、店内には今この二人しかいないということ。<br>　そして、二人ともが言葉を発するときに隣ではなく、こちらを見ながら喋るため、最低限目を合わせることになるという、ただそれだけのことだった。</span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="font-size: 1em;">「結構いける口だね？」<br>「癸岐さんこそ。」<br>「俺はちょっと、パンチを入れにきただけだよ。」<br>「バーボンでパンチ、ですか。」<br>「君にしたら、大した話じゃないかもしれないけどね。」<br>「何言ってるんですか、それ、度数知って言ってます？」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　少し呆れた声音での返しを受けて、男は声には出さずに苦笑いした。<br>　溶けた氷と残りの液体を流し込んで、席を立つ。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「ちょっと外すよ。」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　そういって店の奥へ姿を消す。<br>　姿が見えなくなったのを確認したかのタイミングで、カウンターからは一息つく音がした。</span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="font-size: 1em;">「なんかあったのかな？」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　店内唯一だった客の片方が席を外したことにより、その台詞がこちらに向けてのものであることは明白だったが、相槌を必要としているわけでもなさそうだったので空いたグラスを引き上げて片付ける作業に取り掛かる。<br>　それに対して文句が言われることはなく、スマフォを操作した後グラスに残っていた液体を流し込んで言った。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「ねぇ、カキってある？」<br>「…オイスターか？」<br>「果物の方よ！イントネーションちゃんとしてたでしょ！もう。柿って二日酔いに効くんだって。まぁ、呑んでる最中に食べて効力があるか分からないけど。」<br>「ほぉ。」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　感心した風に相槌を打つと、椅子を降りて店の奥に視線をやった後、帰る素振りを見せたので慌てて声をかけた。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「おい、時間が時間だ、送るから待ってろ。」<br>「大丈夫よ。」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　返ってきたのが何ともニヒルな笑みだったので訝し気にその真意を探ろうとすると、そいつはいとも簡単に判明した。<br>　店の入り口に、見知った姿が現れたのだ。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「庄路…」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　名を口にすれば庄路は挨拶替わりに目を伏せて、再び開けたその視線でカウンターにもう一人いたであろう痕跡を捉えたあと、一礼して踵を返した。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「私は彼と帰るから、あとはごゆっくり、ね」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　そう言って宣言通り庄路のあとを追って店を出ていく。<br>　階段をカツンカツンと上る音が少し響いたあと、扉が閉まって再び閉じた世界が戻ってきた。<br><br>　一人になった空間に、静かなメロディが注がれる。<br>　今しがた起きた事象についてはあとで考えるとして、とりあえず空いたグラスを片付けることにした。<br>　しばらくして、癸岐が戻ってくる。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「あれ？彼女は？」<br>「ついさっき、帰った。」<br>「え？こんな時間に？」<br>「庄路が迎えに来たんだ。」<br>「え？………ぇえ？？」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　戻ってきた癸岐に、つい先刻起こった事象を説明すると、眼鏡の奥を丸くして驚いた反応が返ってきた。それもそうだろう。あいつらの間に、そんな関係性があるなんて俺たちは知るよしもないのだから。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「あらら～、いつの間にそんなに仲良くなったのか。」<br>「さぁな。」<br>「妬いてるのか？」<br>「なんでだよ。」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　何が可笑しいのか笑いを漏らした癸岐に、ちょうど剥きおわった柿を小皿に載せてカウンターに置く。</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">「？柿？」<br>「二日酔いに効くんだとよ。」<br>「！…おやおや。ずいぶん気を使わせてしまったようだな。」<br>「らしくねぇ呑み方なんかしてるからだろ。バレバレだったぜ。」<br>「呑みたい気分だったのは、嘘じゃないんだがな。」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　笑いを苦笑に変えて、一口サイズに切った柿を口に放り込む癸岐。<br>　その手元へ、新たに注いだロックグラスを差し出す。<br>　同じものを、自分の手元にも置いて。</span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="font-size: 1em;">「この一杯で、飲み込めるもんなら飲み込んじまえ。」</span></p><p><br><span style="font-size: 1em;">　消化不良を起こすならいっそすべて飲み干して。</span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="font-size: 1em;">「　　　　　　　　　　　 」</span></p><p>&nbsp;</p><p><br><span style="font-size: 1em;">　二つのグラスを突き合わせたあと、琥珀色の液体を一気に流し込む。<br>　フレッシュ・ライムの香りが鼻先をかすめ、氷で冷やされた液体が胸まで流れ込むのを感じながら。<br>　互いに空になったグラスを、もう一度突き合わせた。</span></p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>--------------------------------------</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">四季：秋</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">気：寒露</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">候：</font>蟋蟀戸に在り<font color="#666666">(きりぎりすとにあり)</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);">きりぎりすが戸口で鳴くころ。</span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">新暦では、10/18～10/22ごろ。</font></span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);">仕事で納得いかない（けど現状飲み込むしかない）ことがあった癸岐さん。</span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);">呑んでたのはバーボン・ライムをイメージ。３０度の辛口オン・ザ・ロックスタイル。</span></p><p>&nbsp;</p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">参考文献</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></span></p><p><span style="color: rgb(127, 127, 127);"><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></span></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12212387718.html</link>
<pubDate>Sun, 23 Oct 2016 10:50:01 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #47 蟄虫戸を坯す(すごもりのむしとをとざす)</title>
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<![CDATA[ <p>　まだ湿度を残し、野放しに涼しいとは言えない夜。<br>　それでも吹く風がまとう温度に確かな変化を感じる秋の訪れ。<br>　陽が落ちるのも早くなり、辺りはすでに夜の景色。<br>　立ち並ぶ建物には明かりが灯り、行き交う車たちのヘッドライトとブレーキランプが街を彩る。<br>　そんな風景を眼下におさめながら、空を見上げる。</p><br><p><br>「（あぁ、曇っちゃったなぁ）」</p><br><p><br>　中秋の名月。<br>　そううたわれた満月は、その姿を隠してしまっていた。</p><br><p>　晴れていれば注がれていたであろう月明かりはなく、ここより高さのある建物が灯す光が、月を隠す雲の存在をうっすらと知らしめていた。<br></p><p>　別段、月が見たいと思っていたわけでは、ないのだけれど。<br>　ただ、朝のニュースで紹介していたこの季節の名前がなんとなく、脳の片隅に引っかかってしまっていたようで。それと何がどうなってこんな状態になっているのか、自身でも分からないのだけれど、感傷的になるスイッチが、ポチっと押される音がした。</p><p>　人間の脳のシナプス回路がどんな電気信号を受け取り、またどんなタイミングでそれらを接続、伝達していくのかなんてコントロールしきれないものなんだってことを、こういうとき感じる。</p><p>　忘れることなんてなかった、その名前が、確かな文字になって脳裏に浮かび上がって消えない。</p><p>　だからといって、それが不快というわけでもないんだ。</p><p>　むしろ、何しているのかなって、思いを馳せちゃうくらい。</p><br><p><br>「（蟄虫戸を坯す、かぁ。俺たちの間にある扉は、いつから閉じたままだっけ）」</p><br><p>　<br>　無月の空を仰ぐ。</p><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><p>「コンコン。」<br>「！可愛い子狐が鳴いているのかと思った。」<br>「狐を飼った記憶でもあるのか。」<br>「ふふ、ないよ～（<font color="#666666">見られたかな。ま、いっか</font>）」<br>「全く。夕食の準備ができたから降りてこいよ。」</p><br><p><br>　そう言い残して降りていく竣(<font color="#666666">シュン</font>)。<br>　その姿につられるように、夜空に背を向け、歩き出す。<br>　脳のどこかで、スイッチがパチっと切れる音がした。<br>　あぁ、またいつか、何かのタイミングでシナプスが繋がるまで、おやすみ。<br>　そんなことを、心の中で呟く。</p><br><br><p>「ねぇねぇ竣、今日の献立はなにかな？」<br>「さんまの刺身と、張和(<font color="#666666">ハルワ</font>)特製里芋の煮っ転がしだ。」</p><br><p>--------------------------------------</p><p><font color="#666666">四季：秋</font></p><p><font color="#666666">気：秋分</font></p><p><font color="#666666">候：蟄虫戸を坯す(すごもりのむしとをとざす)</font></p><p><font color="#666666">虫が隠れて戸をふさぐころ。</font></p><p><font color="#666666">新暦では、9/28～10/2ごろ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><br></p><p><font color="#666666">参考文献</font></p><p><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></p><p><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12205767554.html</link>
<pubDate>Sun, 02 Oct 2016 18:15:02 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #39 蒙霧升降す(のうむしょうこうす)</title>
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<![CDATA[ <p>　視界を奪うように霧が立ち込める林。<br>　風さえ吹けばそこにあるはずの木たちがその枝を揺らして音を成すはずだが、今はそんな気配すらない。<br>　太陽が沈み、辺りを漆黒の闇が覆うこの時間のことを、人は夜と名付けた。<br>　また、夜間に活動することを夜行性と呼んだ。<br>　そして時折、悪魔や妖怪といったものたちは、夜行性であるとイメージを持たせた。<br>　その悪しき瞳を光らせて、暗闇の中で、光らせて。</p><br><p>　深い霧は、全身を水の膜で包まれたような感覚を持たせた。<br>　遙か頭上でその重みを支えきれなくなった樹雨が、膜を通り越し、肌をつたっていく。<br>　まるで、何かを浄化するかのように。</p><br><p>　全てを流し終えたのか、濃かった霧が晴れ、月明かりの差し込む広場へ出た。<br>　周りを木々に囲まれた円形のスペース。<br>　その中で、一人佇み空を見上げる姿。<br>　ここから見えるのは横顔。<br>　その瞳は、</p><br><p><br>「さそりのめでも捕食したか。」<br>「俺に、豊作を祈る意味などないのだけれどね。」</p><br><p><br>　意外に間が空くことなく返答があったことに少し安堵する。<br>　どうやらまだ、意識はここにあるらしい。</p><br><p><br>「俺たちが目にする彼の光は、果たして何光年前のものなのかね。」<br>「それこそ、意味のない問いに思えるがな。」<br>「相変わらず、手厳しい。」<br>「そう捉えるのはお前の勝手だ。」</p><br><p><br>　何よりも、誰よりも、自分勝手に生きるお前には言われなくないと、<br>　ここまで出かかった言葉を、音に出さずに飲み込む。</p><br><p><br>「それで？俺は戻った方がいいのかな？迎えに来たんだろう？」<br>「判ってるならそうしてくれ。」</p><br><p><br>　空を見上げるのをやめ、振り返る。<br>　その瞳はアンタレスの残像を映してか、アカく、妖艶に、月夜の元、煌めいていた。</p><br><br><br><br><br><br><br><p>「やるなら、バレないようにやってくれ。正直この林は好きじゃないんだ。」<br>「えー、そうなの？　でもきっと、いつだってお前は俺を見つけるよ。」</p><br><p>　たとえそれが、地獄の果てでも。</p><br><p>「やめてくれ。お前に言われると、呪いにしかならない。」</p><br><br><br><p>--------------------------------------</p><p><font color="#666666">四季：秋</font></p><p><font color="#666666">気：立秋</font></p><p><font color="#666666">候：蒙霧升降す(のうむしょうこうす)</font></p><p><font color="#666666">深い霧がたちこめるころ。</font></p><p><font color="#666666">新暦では、8/17～8/22ごろ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">豊作を祈る旱星というのが赤く光る星だということからなぜかインスピレーションが</font></p><p><font color="#666666">パラレル方向に走り…瞳をアカく染める吸血鬼に着地した結果。</font></p><p><font color="#666666">ただ、瞳を赤く光らせたかっただけ・・・です。はい。</font></p><p><br></p><p><font color="#666666">参考文献</font></p><p><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></p><p><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12192378115.html</link>
<pubDate>Sun, 21 Aug 2016 15:52:07 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #36 大雨時行る(たいうときどきふる)</title>
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<![CDATA[ <p>　稀に、これは夢だ、と夢の中で認識することがある。<br>　夢をよく見るのかといわれると、見たとしても覚えていることが少ないので何とも言えないが、なんだろうか、ふと、そう自覚することがあった。<br>　そして、まさに今。</p><br><p>　宙に浮いていた。<br>　いや、正確には浮いているのかどうかは分からない。<br>　周り一体、何の景色もない、ただ白が広がっていた。<br>　足が地についている感覚はなく、だからか、少しだけ浮遊感のようなものを感じるような気がして、それがそのまま“浮いている”へと繋がった。<br>　物質的に何かに触れている感覚はないが、代わりに蝉の大合唱が全身に降り注いでいる。<br>　高音、低音、全音符、８分音符。<br>　様々な音が入り込んで、それでも乱れることなくまるで一つの曲のように。</p><br><p>　ふと、視界の下に人影が現れた。<br>　いや、今まで気づかなかっただけかもしれないが、突然現れたと思われるそれは、後姿で、夢独特の風合いを出しているのか、少し淡い色でぼかしがきいていた。<br>　たとえはっきりとした輪郭で捉えることはできなくとも、それが誰だかはなんとなく判った。<br>　それよりも、その人影が持っているものの方が自分としては見慣れないもので。<br>　いや、正確には、その人物がそれを持っているということが、何よりの違和感で。</p><br><p><br>『なんで、兄貴が、バイオリン…？』</p><br><p><br>　何かを奏でているようだが、音は一切聞こえない。<br>　蝉時雨以外、何も。</p><br><p>　弓がおろされる。<br>　バイオリンを脇に下ろした人影が、静かに、</p><br><br><p>「！・・・・。」</p><br><br><p>　振り返りきる前に、目が覚めた。<br>　覚めてしまったらなんてことはない、ここは自分の部屋だ。<br>　夢だと認識してみていたものは、目が覚めてもその内容を覚えていることが多い。<br>　今回もそうだった。<br>　感じていた浮遊感は一切ないが、それ以外は割と鮮明に覚えている。</p><p>　でも、なんでよりによって兄貴が。<br>　しかもバイオリンなんかこしらえて。</p><p>　確かにあいつもバンドやってる分、音楽に一切合切通じないなんてことはないにしても。<br>　バイオリンとギターが、大きくみて同じ弦楽器だったとしても。<br>　一体あの画にどんな意味があるっていうのか。</p><br><p>　…なんて、考えたところで判るはずもなく。</p><br><p>　横になる前にかけていたＣＤは収録されている曲を全て流し終えて止まっていた。<br>　代わりに、窓に激しく叩き付けられる雨音が部屋を占有している。<br>　ベッドに座ったまま腕を頭の上へ伸ばして、伸びをしたあと、喉が渇いている気がして水を飲みに部屋を出た。</p><p>　リビングへ降りてくと、何のタイミングか、兄貴がいた。<br>　向かい合わせにセッティングされているソファに、癸岐さんと座っている。<br>　とはいっても、二人で何かしているというよりは、それぞれ赴くままに時間を過ごしているような空気だ。</p><p><br>　俺は冷蔵庫から水を取り出してグラスに注いだあと、兄貴たちの方へ歩いて行った。<br>　答えは判っているが、なんとなく、さっきの夢のことを聞いてみたかったんだ。</p><br><p><br>「なぁ、兄貴って弾いたことあんの？」<br>「ぁん？なんのことだ、唐突に。」<br>「いや、バイオリンとか弾いたことあんのかなぁって、ただの質問。」<br>「…なんだそりゃ。俺がやってるのはギターだ、知ってるだろ。」<br>「だーよなぁ～。」</p><br><p><br>　想像通りの言葉が返ってきて、俺はそのままくるりと背を向けて部屋へ戻ることにした。<br>　振り向いたら訝し気な顔してるのが判り切ってたから。<br>　ただの好奇心に、あまり深く突っ込まれても困る。返す言葉がないのだから。<br></p><p>　夢は夢。<br>　何の前兆だかそれとも意味がないのか分からないが、夢は夢だ。幻と同じ。<br>　深く追及するもんじゃない。少なくとも、今は。</p><p>　そんなことを思いながら俺が去っていった後のリビングで、こんな会話がされているとは、俺が知るはずもなかった。</p><br><p><br>「…なんだったんだ、あれ。」<br>「さぁな。お前、黒牙の前でバイオリン弾いたのか？」<br>「弾くわけねぇだろ、なんでそうなる。」<br>「黒牙の問いから考えられたのが、①バイオリン未経験者だと思っていたお前が奏でる音が、決して未経験者のそれではないことを知る機会があったから、②ただの好奇心。」<br>「随分と極端だな。そもそも、俺がバイオリンを持ってるところ、見たことあるか？」<br>「ないな。"少なくともここでは"。お前もずるい男だ。」<br>「なにが。」<br>「“バイオリンを弾かない”とは、答えなかった。」<br>「いちいち拾うなよ。あいつにとっては同じだろ。」<br>「そのようだな。少なくとも今は。」<br>「なんだよ、随分と食いつくな、今日は。」<br>「いや？俺は、聞いてみたいと思っただけさ。お前たち二人が並んで奏でる曲を。」<br>「やめてくれ、背筋が凍る。」<br>「幻を投影して現実にするのも、そう悪くはないと思うがな。」<br>「幻は幻でいた方がキレイだろ？」</p><br><p><br>　向かい合う二人の会話はここで一度途切れた。<br>　どちらからともなく。</p><p>　二人の間にあるテーブルの上に置かれたボトルに癸岐が手を伸ばし、キャップを開けてテーブルの上に置かれたグラス２つそれぞれに中身を注いだ。<br>　ボトルのキャップを閉めたあと、グラスを片手にとる。<br>　一連を見ていた響も、グラスを手にした。</p><br><p><br>「いつかの幻に。」<br>「イイ性格してるぜ、ホント。」</p><p><br></p><p>　グラスを傾け合い、琥珀色の液体を流し込んでいった。</p><br><p>--------------------------------------</p><p><font color="#666666">四季：夏</font></p><p><font color="#666666">気：大暑</font></p><p><font color="#666666">候：大雨時行る(たいうときどきふる)</font></p><p><font color="#666666">夏の雨が時に激しく降るころ。</font></p><p><font color="#666666">新暦では、8/2～8/6ごろ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">上期×下期メンバ（響×黒牙）にしようと思って始めたのにあまりその色が出せず、</font></p><p><font color="#666666">挙句の果てに最後は癸岐さん怪しく介入というオチに（苦笑）</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">まさしく「たいうときどきふる」が如く、ザーっと３０分くらい激しい雨が降る一週間でした。</font></p><p><font color="#666666">ゲリラ豪雨って、昔っから時期的にあり得たものなんだなと、一人納得する日々。</font></p><p><br></p><p><font color="#666666">参考文献</font></p><p><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></p><p><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12187854192.html</link>
<pubDate>Sat, 06 Aug 2016 17:35:22 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #35 土潤いて溽し暑し(つちうるおいてむしあつし)</title>
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<![CDATA[ <p>　そう、特に意識していたわけではなかった。<br>　だからこそ、返ってきた言葉に驚いたのだけれど。<br>　今思い返しても、我ながら間抜けな回答をしたものだと思う。それさえも許せてしまうから、どうしようもないのだけれど。</p><br><br><p>『え？』<br>『だから、来るか？と聞いている。』<br>『来るって竣<font color="#666666">(シュン)</font>、今どこにいるんだい？』<br>『お前ご所望の、夏の京都に。』</p><br><br><p>　口にしたのすら下手をしたら忘れてしまいそうなくらい何気ないことだったのだけれど、拾われてからは早かった。せっかく拾ってくれたのだし、おまけに少なからず望んでいたことだったのだから、飛び乗る他ない。その日のうちに新幹線の切符をとって、京都へ向かう準備をしていた。それが、昨日のことだ。</p><br><br><p>「来るかとは聞いたが、即日やってくる奴があるか。」<br>「ここに一人。」<br>「…俺の方は休みだし問題ないが、ちゃんと周りに言ってきたんだろうな？」<br>「だいじょーうぶだよ。たまたま休みが出来て、どっか行きたいなぁと思ってたところだったんだ。」<br>「それならいいが。」<br>「まぁ、明日には戻らないといけないのが残念だけどね。」</p><br><br><p>　想定外にスケジュールに空きができてどうしようかと思っていたのは本当だ。<br>　前から夏の京都には行ってみたいと思っていたし、まさかこんな形でチャンスが訪れるとは思ってもいなかったけれど。</p><br><br><p>「竣の方こそ、どうして京都に？」<br>「研修先がこっちにあるんだ。」<br>「へぇ。知らなかったなぁ。」<br>「俺も、お前が明日からアメリカに行くなんて、知らなかったがな？」<br>「あれ、可笑しいなぁ。どこから情報漏れたんだろう。」<br>「まぁいい。今更互いの動向探るなんて仲でもないさ。とりあえずの俺の役目は、お前を明日必ず東京へ帰すことだからな。」<br>「心配しなくてもちゃんと戻るよ。あーぁ、もっとゆっくりしたかったなぁ。」<br>「次は貴船でも行くか。」<br>「川床！？行ってみたいなぁ。」</p><br><br><p>　んーっと伸びをして体を倒す。<br>　背中越しに感じる木の冷たさが心地いい。<br>　竣が庭におりて、手桶から掬い取った水を撒いた。<br>　手柄杓が水に浸かる音、水を救い上げて手桶にあたる音。<br>　放たれた水が庭に到達したときにする音。<br>　それらを目を閉じて耳にする。<br>　放たれた水が地の熱を吸収して再び空気に戻ることを想像しながら、</p><br><p><br>「あ～、枝豆食べたい。」<br>「丹波のを用意してあるから、今は少し寝てろ。」<br>「なんか、準備万端じゃない？」<br>「自由気ままな友人のおかげで、対応力は鍛えられたみたいだ。」<br>「えー、誰のことだろ～（笑）」<br>「自覚あり確信犯め。いいから寝てろ。準備してくる。」<br>「は～ぃ、じゃぁ、お言葉に甘えて。」</p><br><p>--------------------------------------</p><p><font color="#666666">四季：夏</font></p><p><font color="#666666">気：大暑</font></p><p><font color="#666666">候：土潤いて溽し暑し(つちうるおいてむしあつし) </font></p><p><font color="#666666">むわっと熱気がまとわりつく蒸し暑いころ。</font></p><p><font color="#666666">新暦では、7/28～8/1ごろ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">上期メンバ２トップにて。</font></p><p><font color="#666666">まだ駆け出しのころをイメージして。</font></p><p><font color="#666666">貴船に行ってみたいのは私←（笑</font></p><br><p><font color="#666666">参考文献</font></p><p><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></p><p><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></p><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12185586813.html</link>
<pubDate>Sat, 30 Jul 2016 14:44:25 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #31 温風至る(おんぷういたる)</title>
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<![CDATA[ <p>　たまたまばったり出くわしてしもうたその人に対して特別やましいことをしていた訳じゃないんやけど、ただ、格好悪い自分を見られとぉなくて咄嗟に逃げてしまった、なんてことがそう頻繁にあるかと言われたらそらないのがえぇに決まっとるけど。なってしまったんやからそれはそれで仕方ないとして、ただ、相手が悪かった。少し突っかかってきてくれるくらいの方が笑ってごまかしもできるのに、妙に大人な対応をされてしまうと挽回策が見当たらない。そんな状況に陥っていた。</p><br><p><br>「ちょっと、アンタ最近どうしたの？ずっといるじゃない。」<br>「えーやろ～？俺かてここに居っても～。」<br>「ダメとは言ってないでしょう？ただ、一番出現率低いのが長期滞在してたら不思議がるわよ。」<br>「え？俺出現率低い？」<br>「えぇ、意外にも。」</p><br><p><br>　そんなことを言いながらお茶を出してくれる。<br>　机にのせていた顔を起こして、治りかけの左手でぎこちなくならないように注意しながらコップを手にとる。<br>　冷たい麦茶を飲みながら、振り返ったって仕方ない先日の光景を振り返る。</p><p>　身内にはもう慣れられてしまった"散歩"をしていて、突っ込んだ先でちょっとドジって柄にもなく怪我をしてしまった。かすり傷切り傷くらいならどうにでもなったものを、やられた瞬間『あーこれ骨いったなぁ』という感触だった。流石にそこまで行くと処置しないわけにもいかないと思い、近場の病院に行ったのだけれど、まさかそこが身内の勤め先だとは知らなかった。<br>　一般外来でレントゲン撮ってついでに顔の傷の手当もしてもらって、さぁ帰りますかと思った矢先、行く先から見知った姿が歩いてきたのを見たときには一瞬で頭の中に「ヤバい」の三文字が浮かんでいた。<br>　仲が悪いわけでもない。<br>　普通なら「どうしたんだ？」「ちょお手捻ってもうて～」くらいの会話をすれば済むだけの話のはずだった。<br>　…のだけれど。</p><br><p><br>『！…侠（<font color="#666666">キョウ</font>）、お前、どこで、』</p><br><p><br>　何してたんだ、と続く言葉を遮るが如く、俺はくるっと踵を返して猛ダッシュしたのだった。<br>　事情はまぁ、いろいろある。<br>　俺の放浪癖を理解してくれているメンバの中で、なんだかんだと気にかけてくれているのが竣（<font color="#666666">ナル</font>）で。毎回発信番号の違う電話を受けても、どこで何をしてるかはあまり突っ込まないで、ただ元気なのか、と言葉をかけてくれるのが竣だった。他のメンバにもそうだけれど、みんなの前に来るときには元気に笑って、という意識が俺の中に芽生えていたのは確かで。<br>　だからなのか、頬っぺたにガーゼ貼って手首包帯ぐるぐるの状態を見られた瞬間、考えるより先に体が動いていた。<br>　それからというもの、連絡取ろうと思えばとれるのに竣からは何の反応もなく、ここにくれば会えるかと思って来てみれば（勿論表面的な怪我が治ってからになってはしまったけれど）、俺が来る前日に来たらしいのだが、しばらく泊まり込みが続くとかで会う機会もできず。それでももしかしたら、なんて思いに縛られて居続けている俺って、健気やなぁ、なんて思いだし始めてしまう次第。いやいや、ちゃうちゃう。<br>　しかし、時間がないのも確かなのだ。<br>　なんせ、今日の夜の便で旅立たなければならない。<br>　行先？ひ・み・つ、や。</p><br><p><br>「侠～、手空いてるならちょっと手伝って。」<br>「んん？」</p><br><p>　呼ばれて入り口の方へいってみれば、一般家庭にはちょっと大きいんちゃう？と思ってしまうほどの笹を支えた綾（<font color="#666666">アヤ</font>）ちゃんがいた。</p><br><br><p>「どないしたん？それ。」<br>「柊（<font color="#666666">シュウ</font>）が七夕用にって持ってきたのよ。」<br>「七夕か～、短冊つけるん？」<br>「セットで置いていったわ、あいつ。」<br>「あはは。意外とこういうの好きよなぁ、柊（<font color="#666666">ヒイラギ</font>）って。」<br>「感心してないで動かすの手伝ってよ。」<br>「らじゃーらじゃー。」</p><br><br><p>　七夕、短冊、な。<br>　笹を動かしながら、俺はあることを思いついた。<br>　そして、思いついたことをそのまま実行し、空港へ向かったのだった。</p><br><br><p><br>―――――その日の夜。</p><br><p><br>　ガチャ</p><br><p>「ただい……なんだ、これ。」<br>「あ、お帰りなさい。枷椅さんが仕入れたみたいですよ、七夕に合わせて。」<br>「（…何考えてるんだ、あいつ）七夕か。それで短冊？」<br>「みんなひとり一枚ずつ書いたんです。癸岐（ミズキ）先輩もどうぞ？」</p><br><p>　渡された短冊を受け取る。<br>　合わせてボールペンも渡してくるところが抜かりない。<br>　確かに、笹には何枚かの短冊が結ばれている。<br>　ふと、笹の葉の間に隠れた一枚が目についた。表に出してみる。</p><br><p>「！（…あの馬鹿）」</p><br><p>　慣れない利き手と逆か、不完治な利き手で書いたのだろう文字が、そこに綴られていた。<br></p><br><br><br><br><p>--------------------------------------</p><p><font color="#666666">四季：夏</font></p><p><font color="#666666">気：小暑</font></p><p><font color="#666666">候：温風至る(おんぷういたる) </font></p><p><font color="#666666">夏の風が、熱気を運んでくるころ。</font></p><p><font color="#666666">新暦では、7/7～7/11ごろ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">こちらも描くだけ描いてあったモノ。</font></p><p><font color="#666666">七夕は大抵曇りの日が多い（それで、織姫と彦星あえるといいね～と先生が言う、みたいなくだりまでが恒例の）イメージでしたが、今年は晴れていましたね。そして夏日。</font></p><p><font color="#666666">たくさんの願いが、いずれ希望となり世界を明るくしてくれるといいな、なんて思いつつ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">あ、今更な補足情報ですが、ツッチーは癸岐のことをナルと呼び、枷椅のことをヒイラギと呼ぶ。</font></p><p><font color="#666666">どちらも名前の別読みです。</font></p><p><font color="#666666">参考文献</font></p><p><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></p><p><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></p><p></p><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12178859978.html</link>
<pubDate>Sat, 09 Jul 2016 15:48:20 +0900</pubDate>
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<title>72SEASON #27 梅子黄なり(うめのみきなり)</title>
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<![CDATA[ <p>　ちょっと遅めの時間。<br>　遅めといっても時間の感覚は人それぞれだけど、時計の針が１２を回っているから昼間を生業にしている人たちにとっては世間的に言って遅い時間っていっても許されるよね、なんてどうでもいいことを思いながら手元のグラスを揺らす。<br>　からんからん、という氷のぶつかる音がこの時期独特の湿度を含んだ空気を少しでも軽くしてくれるんじゃないかという錯覚を抱きながら、グラス越しに伝わる冷たさに心を落ち着かせていく。<br>　広さの割に人がいない（というか今は俺一人だけど）フロアは、その体積をもって空気に含まれた湿度を分散させてくれていた。もしも目にその化学結合が物質として見えるのならば、おそらく迷わず手を伸ばして分解させてやるのに、なんてそこまではまだ思っていないけど。ただ、少し得意ではない季節がそこまでやってきているのだけが事実だった。</p><p>　ウィーン、という音がして、このフロアと外界を繋ぐ扉が開いた。<br>　内から外、外から内と空気の流れが生まれて、少し減っていた湿気がフロア内に再生される。<br>　あーぁ、せっかく分散していたのにと思いながら、これ以上空気中の酸素と湿度の割合を頭に描いていたらしんどくなりそうだったので、思考を切り離すべく入ってきた人に声をかけた。</p><p><br>「遅かったね。」<br>「！」</p><p><br>　入ってきた人はまさか人がいること、ましてや声をかけられるとは思っていなかったのか、一瞬驚いて声のした方（つまりは俺の方）を立ち止まって向いた。<br>　なんだか少し、疲れているように見えたのは気のせい？</p><p><br>　彼女の目線が一通り状況を確認した動きをしてから、どうかしたのかこちらへ向かって歩いてきた。<br>　俺はというと、ソファにだらしなく背をあずけた（というかもう埋もれているような）状態で、近づいてきた彼女とは見上げるような形で視線を合わせることになった。</p><p><br>「珍しいわね、貴方がこんな時間に」</p><p><br>　ここでこんな風になっているなんて、という言葉が続きそうな気がしたけど彼女は全ては言わなかった。<br>　"珍しい"なんて、通常はこの時間に誰もいないことが普通なのか、それともいたとしても俺以外なのか。彼女にとってはこの時間は"普通"なのだろうか。<br>　そんなことが伝達速度の落ちたシナプスを介して脳に届いた頃、特に回答を待っていた訳ではないらしい彼女が次の言葉を発していた。</p><p><br>「梅酒？」<br>「え？…あぁ、うん。近所のおばちゃんが去年漬けたのをくれたんだよね。」<br>「へぇ、良い香りね。」<br>「…そんなにかおる？」<br>「少なくとも、湿気の多い空気の中に毛色の違う香りが混ざっているのは判るわ。」<br>「！…一杯呑む？」<br>「いいの？」<br>「もちろん。」</p><p><br>　空気の匂いの違いを感じるなんて少し興味を覚えて、俺は自分のにしたようにグラスに氷をいれてボトルから梅酒を注いだ。<br>　彼女はというと、俺の向かいにあたるソファに腰を下ろしていた。<br>　そういえば、こうして彼女と時間を過ごすことなんて初めてだななんてことを思う。<br>　仕事、に行っていたにしてはわりとラフ目な格好をした彼女は、首に巻いていたスカーフを解いてカバンにしまっていた。<br>　俺は梅酒を注いだグラスを手にして座った彼女の元へ戻り、グラスを差し出した。<br>　彼女はありがとうと言いながら俺が差し出したグラスを受け取って口にした。梅酒を口に含む前に、鼻で呼吸して香りを吸い込んだのが判った。</p><p><br>「ん。おいしい。」<br>「おばちゃん自信作だって言ってたからね。」<br>「ふふ。それで？今度は自分で作ってみるつもりなの？」</p><p>　どうやらキッチン机の上に出しっぱなしにしてあった梅の実の一杯入った袋を見つけていたらしい。</p><p><br>「うん。漬ける前にどんな味なのか味わってからにしようと思ってさ～呑んでたんだよね。」<br>「じゃぁ、来年が楽しみね。これ、持って上って行ってもいい？」<br>「どうぞどうぞ。」<br>「いい夜酒になりそう。ごちそうさま。」</p><p><br>　そういって、グラスを持ったまま彼女は自分の部屋へ戻るべくこのフロアから姿を消していった。<br>　なんだか、不思議とさっきまでのじめっとした気持ちはもうなくなっていて、今夜は眠れそうな気がした。</p><br><br><br><br><p>　翌朝。<br>　いつもの習慣でカラダが覚えた時間に目が覚め、キッチンへ降りていくと張和が朝食を作っているところだった。<br>　起き掛けに水を飲もうとキッチンテーブルの方へ行くと、机の上にグラスとメモが一枚。</p><p><br>「お前、昨日起きてたのか？それ、置いていったぞ。」</p><p><br>　丁寧に洗われたグラスがうつ伏せに置かれ、メモが添えられていた。</p><br><br><br><br><p><br>『ごちそうさま。美味しかった。<br>　来年の一番酒、予約しておくわ。』</p><p><br>　あの時間に帰って来て、今朝も早々に出かけたのか。<br>　しかも、こんな置手紙までして。<br>　まったく、なんて働き者なんだ。</p><p><br>「あ～ぁ～、がんばって作っちゃおっかなぁ～ｖ」</p><p><br>　それもまた、悪くない気がした。</p><br><p>--------------------------------------</p><p><font color="#666666">四季：夏</font></p><p><font color="#666666">気：芒種</font></p><p><font color="#666666">候：梅子黄なり(うめのみきなり) </font></p><p><font color="#666666">梅の実が熟して色づくころ。</font></p><p><font color="#666666">新暦では、6/16～6/20ごろ。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">ご無沙汰してます。</font></p><p><font color="#666666">久しぶりに描こうと思ってノート見たら話のタネだけ書置きしてあったこのお話。</font></p><p><font color="#666666">今まで描いたことない組み合わせだったので新鮮で楽しかったです（笑</font></p><p><font color="#666666">そもそも下期メンバ×空冬を描くのはどこか意識的に避けていた気がするのですが</font></p><p><font color="#666666">まぁ細かい話はおいおい詰めるとして、今は一つ一つその場のお題を楽しんでいこう</font></p><p><font color="#666666">と思う今日この頃。</font></p><p><font color="#666666"><br></font></p><p><font color="#666666">参考文献</font></p><p><font color="#666666">『日本の七十二候を楽しむ－旧暦のある暮らし－』</font></p><p><font color="#666666">／文・白井明大　絵・有賀一広　東邦出版</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/hasejoh/entry-12173509557.html</link>
<pubDate>Thu, 23 Jun 2016 09:31:04 +0900</pubDate>
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