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<title>御題箱之庭</title>
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<description>日々黙々と思いついた起承転結などないただの文字の羅列を書き込むだけのブログ</description>
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<title>山道と小説</title>
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<![CDATA[ 小説を読む、という行為は見知らぬ誰かに手を引かれて山路を進むのに似ている<br>誰か、即ち内容は私の手を引いて、こちらの体調など考慮することなく山路を行く<br>山路は険しい。時に狭い道を通り心臓を震え上がらせることもあれば、平坦な道を延々と歩かされる事もある<br>だが道は道である以上果てがある。例えば山頂だとか、崖の行き止まりだとか<br>山頂に辿り着く小説を読んだあとの読後感というのは様々だが一種の達成感があるのは確かだろう。手を引いていた内容と共に達成感を胸に、その感触を反芻しながら山を降りる事ができる<br>では崖にたどり着いてしまう小説の場合は何が残るのだろうか<br>それは浮遊感だ。あれほどしっかりと足に帰ってきていた大地の感覚は消失し、茫漠とした宙空に私は投げ出される<br>ここに至れば、私の手を握っていたはずの小説は背後に消えて、私はひとりぼっちになってしまう<br>反芻こそできるが、山頂にいった時とは全く別物の、釈然としないものだけが残る<br>そして最後には落下、つまりは唐突な現実への復帰が齎され、その感覚すらも消えてしまうのだ<br>
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<pubDate>Fri, 17 Aug 2012 20:56:05 +0900</pubDate>
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<title>フェイとルシル</title>
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<![CDATA[ 「ねぇ、ルシル。<br>　もしも、もしもあなたが、男の子だったら。<br>　わたしたちの関係は変わっていたのかしら」<br>「フェイは変なことを言うのね。<br>　わたしは、何処までいってもルシルという女の子で。<br>　天地がひっくり返ったって、男の子にはなれないわ」<br>「けれど、偉い碩学様は言うじゃない。<br>　ここではない、別の世界があるんだって。<br>　そこではものの歩みが違って、当然生きている人も違う」<br>「その中に、わたしがいるかもしれないって？」<br>「そう。それは女の子かも知れないし、男の子かもしれない」<br>「男の子のわたしなら、それはルシルじゃないじゃない。<br>　だいいち、ルシルは男に付ける名前じゃない」<br>「それもそうだけど、あくまで仮定の話よ」<br>「……そうね、もしも、ルシルという名前の男の子がいて、わたしと同じ人生を歩いてきたとするわ。<br>　ねぇ、その世界のフェイは女の子なの？」<br>「どっちでもいいわ」<br>「どうしてそういうたいせつなところをわたしに投げるのかしら」<br>「想像の余地が広がっていいじゃない」<br>「もう、フェイったら……。<br>　そうね、女の子だとすれば間違いなく好きになったでしょうね。<br>　その後の関係がどうなるかは、その世界のフェイしだいだけど」<br>「わたしが、ルシルを振るって？」<br>「だって、その世界のあなたは、この世界のあなたと変わりないんでしょう？」<br>「……それも、そうね。<br>　でも、運命っていう言葉があるじゃない」<br>「どうあっても結ばれるっていいたいの？<br>　夢見ることが好きね、あなたは」<br>「そういうルシルは現実ばかりが大好き」<br>「だって、わたしたちが立っている場所じゃない。<br>　詳しく知って、安心しなくちゃ」<br>「ふふ、夢見がちな女の子と現実主義の女の子。<br>　どうして今みたいなことになったのかしら」<br>「さぁ……？」<br>「やっぱり、運命なのよ。わたしたちは」<br>「ふふ、わかった。そういうことにしておきましょう」<br>「……ねぇ、もしもわたしが男の子でも、わたしたちの関係は変わらなかったかしら」<br>「運命論に従うならそうなんじゃないかしら」<br>「……そうだったわね。<br>　愛してるわ、ルシル」<br>「わたしも、愛してるわフェイ」
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<pubDate>Mon, 30 Jan 2012 01:28:50 +0900</pubDate>
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<title>桃太郎</title>
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<![CDATA[ <br><br>　昔々、仲睦まじいおじいさんとおばあさんが居りました。<br>　二人は大層仲がよく、いつまでもお熱い暮らしを続けておりました。<br>　そんなある日のことです。<br>　いつものようにおじいさんが山へ芝刈りに行ったので、おばあさんは川へと洗濯をしに行きました。<br>　二人分の、たぁくさんの洗濯物を抱えてよいしょよいしょと歩いていきます。<br>　川へついて、よいしょよいしょと、一生懸命二人の洗濯物を洗っていると、あらまぁどういう事でしょう？<br>　上流の方から、とても大きな桃が流れてきました。<br>　これは一体どうしたもんかとおばあさんは悩みましたが、桃はおじいさんの大好物です。<br>　流れてきたのだし、貰ってしまえと、おばあさんは洗濯物を一時休めて、流れてきたその大きな桃を引き上げました。<br>　小さな子供ならばすっぽりと収まってしまうくらいの、本当に大きな桃でした。<br>　よぉし、これでおじいさんに喜んで貰える、とほくほく顔になったおばあさんは急いで洗濯物を片づけると、えいさほいさと洗濯物と桃を持って家へと帰りました。<br><br>　日が暮れて、おじいさんが帰ってきます。<br>　芝をたっぷり刈ったおじいさんは、家に入るなり目に入ったその大きな桃にビックリ仰天。<br>　幾ら大好きと言っても、こんなに大きな桃は初めてでした。<br>　おばあさんはにやにやと楽しそうな笑顔を浮かべながら、食べましょうかと提案します。<br>　おじいさんはごくりと喉を鳴らして、早く早くと急かしました。<br>　おばあさんはにっこり笑って包丁を取ってきます。そして、桃にしっかりと狙いを定めると、えいやと振り下ろしました。<br>　するとどうでしょう？　すこん、と音がして桃がまっぷたつに割れました。<br>　おや、これはどうしたのだろうと二人が覗き込むと、桃の中には珠のように美しい赤ん坊が眠っていました。<br>　こりゃまたビックリ。二人はたまげてしまいました。<br>　とりあえず、その子を取り出すとお湯を用意して洗ってあげます。そうすると嬉しそうにおぎゃぁおぎゃぁと赤ん坊は笑いました。<br>　まさかこの年で子供が出来るとは思ってもいませんでしたから、二人はどうしようかと困ってしまいます。<br>　そこで、とりあえずは桃を食べることにしました。<br>　赤ん坊が入っていた桃です。さぞかし不思議な味がするに決まっていました。<br>　恐る恐る食べてみると、あらびっくり。まるで頬が解けてしまうような甘さでした。<br>　その甘さと言ったら、ほいほいと食が進んでしまうほどで、二人はあっと言う間に桃を平らげてしまいました。<br>　そうして手を洗ってみると、こりゃまたビックリ。水に映る自分は若返っていたのです！<br>　あまりにも驚いたことですから、二人は向き合って本当に現実の事なのか確かめ合います。<br>　何度確かめても消えません。本当に、二人は若返ったのです。<br>　さて、そうして若返ってみると食べると若返る桃や、その中に入っていた子供について色々と考え出します。<br>　きっと、これは何処かの神さまの思し召しだと、二人は赤ん坊を育てることに決めました。<br>　名前は、桃の中から産まれてきた子供なので、桃太郎とすることにしました……。<br><br>　そうして年月が経ち、桃太郎が立派な青年になる頃、若返った二人も元の通りのおじいさんとおばあさんに戻っていました。<br>　けれども、二人は満足でした。新しい子供が本当に立派に育ってくれたからです。<br>　二人の愛を一心に受けた桃太郎は、悪いことを見捨てない正義心に溢れた青年となっていました。<br><br>　さて、その頃の事です。近隣の村々で鬼による被害が多発していました。<br>　まだ三人の住む村までは来ていませんが、いつそれが来るかわかったものではありませんでした。<br>　桃太郎は日々悶々としています。ああ、どうにかその被害を無くせはしないだろうかと。<br>　けれども、桃太郎は所詮少し育ちが良いくらいの男の子です。そんな力はありはしませんでした。<br>　しかし、だからといって見過ごすの事は出来ませんでした。<br>　そうして、そのような思考に陥って何とか出来ないかと日々悶々としてしまうのでした。<br><br>　そんな風に悶々とした日々を過ごしたある日の事です<br>　三人の住むすぐ近くの村が鬼に襲われたと言うではありませんか。<br>　これには悩んでいた桃太郎もついに立ち上がり、何が出来るかはわからないけれど、とにかくやってみせると、おじいさんとおばあさんに鬼退治に出ることを申し出ました。<br>　この申し出に二人は始めこそ驚きましたが、その熱い志に説得されたのでしょう、協力することを決心しました。<br>　おじいさんは家に残っていた武具を集めて、おばあさんは旅先での糧食を用意します。その中には綺麗な刀や、美味しそうな吉備団子などがありました。<br>　それらを装備して、桃太郎は家を出ます。鬼を退治するまでは帰ってこないと決心して。<br><br>　家を出た桃太郎は、荒れ果てた道を進みます。<br>　すると、道端に腹を空かせて倒れている犬を見つけました。<br>　無視したって良い物ですが、この桃太郎には見逃せません。<br>　おばあさんから貰った糧食を少し分けてあげました。すると、犬は見る間に元気になりました。<br>　それを見届けた桃太郎は、旅路を急ごうと歩き出します。するとどうでしょう、後ろを元気になった犬が付いてきました。<br>　きっと恩返しをしたいのでしょう。けれど、桃太郎は気が付きません。<br>　そうしてそのまま、桃太郎は歩みを進めていきました。<br><br>　気が付かぬ間に犬を引き連れている桃太郎は、また道端で倒れている生き物を見つけました。<br>　今度は猿です。ガリガリにやせ細り、今にも死にそうなそれを、桃太郎が見逃す筈がありませんでした。<br>　さっと、駆け寄るとまた糧食を分け与えます。すると、猿は見る間に元気になりました。<br>　それを見届けた桃太郎は、旅路を急ごうと歩き出します。するとどうでしょう、後ろを元気になった猿が付いてきました。<br>　きっと恩返しをしたいのでしょう。けれど、桃太郎は気が付きません。<br>　そうしてそのまま、桃太郎は歩みを進めていきました。<br>　猿は犬と目を合わせると無言のうちに会話をして、ひっそりと桃太郎の後をつけることにしました。<br>　こうして、桃太郎は犬と猿を気づかぬ間に引き連れながら、鬼の本拠へと進んでいきます。<br><br>　気が付かぬ間に犬と猿と引き連れている桃太郎は、またまた道端で倒れている生き物を見つけました。<br>　今度は、雉です。可哀想なことに羽が折れています。今度は糧食を上げるだけでは済みそうにありませんでした。<br>　そこで桃太郎は雉を掬い上げると、羽に手当をしてやり、肩にのせてやります。<br>　それから羽が治るまで、暫く旅を一緒に続けました。そうして羽が治ると雉は飛んでいきます。<br>　それを見届けると、また旅路を急ごうと歩き出します。すると、どうでしょう。飛び去ったはずの雉が後を付いてきます。<br>　きっと恩返しをしたいのでしょう。けれど、桃太郎は気が付きません。<br>　そうしてそのまま、桃太郎は歩みを進めていきました。<br>　雉は猿と犬に目を合わせると無言のうちに会話をして、ひっそりと桃太郎の後をつけることにしました。<br>　こうして、桃太郎は犬と猿と雉を気づかぬ間に引き連れながら、鬼の本拠へと進んでいきます。<br><br>　さて、その後は倒れた生き物を見つけることなく旅路は順調に進み、桃太郎は鬼の本拠に到達しました。<br>　そこには泣き虫の青鬼ととっても強気な赤鬼が居ます。まだ桃太郎には気が付いていません。<br>　そこで桃太郎は、ばっと物陰から身を出し、名乗りを上げました。<br>「我は桃太郎。お主ら鬼を討ち取りにきた」<br>　それを受けて赤鬼が、金棒を持ってやぁいやぁいと威嚇してきます。<br>「何という所行。桃太郎やい、貴様此処が鬼ヶ島と知っての事か。生きて帰れるなと思うなよ」<br>　青鬼は隅の方でびくりびくりとしていました。<br>　どちらからともなく、攻撃が始まります。桃太郎は機敏に動き回りますが、鬼の一撃が怖くてなかなか踏み込めません。<br>　そうこうしているうちに桃太郎も疲れてきます。そこを青鬼が突いてきました。<br>　あわや危険と言うその時、後ろをついてきていた三匹の出番でした。<br>　青鬼に襲いかかった三匹はあっという間に弱気な青鬼をねじ伏せてしまいます。<br>　其れを見た桃太郎はビックリ仰天。動物たちがあんなに働けるのだから、臆している場合ではないと獅子奮迅の働きを見せます。<br>　これには赤鬼も手を焼いて、徐々に追いつめられていきます。<br>　桃太郎と、三匹の動物は、お互い目を合わせることなく絶妙なコンビネーションを見せ、鬼達を追いつめていきました。<br>　そうしてついに鬼も年貢の収め時が来ます。<br>　刀を向けられ、牙を向けられ、腕を向けられ、嘴を向けられ、鬼達は絶体絶命。もはや反撃する余地もなく、あとは倒されるだけでした。<br>　けれど、ここで桃太郎の人柄が発揮されます。<br>　今後一切人々を襲わないなら殺しはしないと言うのです。<br>　これには鬼達も頷いて、そこで万事解決と相成ったのでした。<br><br>　鬼達の本拠から引き上げた後、桃太郎はついてきていた三匹に礼を述べました。<br>　三匹はそんなことへでもないと言った様子でそれを受け、それぞれ自分たちの住処へと帰っていきました。<br>　それを見届けた桃太郎は、自分もまたおじいさん達の待つ村へと帰ろうと、旅路を急ごうと歩き出したのでした。<br><br>　おわり
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<pubDate>Fri, 05 Nov 2010 21:40:21 +0900</pubDate>
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<title>御題：かゆみ</title>
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<![CDATA[ 　それは言語に尽くしがたい痛痒であった。<br>　目に見えぬ病魔。痛痒。<br>　それこそ我を蝕む悪意の象徴であった。<br>　寝ても覚めてもかゆくてかゆくて堪らない。<br>　さりとて掻けば掻き壊し、出血を強いる。<br>　ああ、ああ、どうすればよいのであろうか。<br>　聞けば、冷やせば効くと言う。では、では、とすがるように其れを試した。<br>　身震いするほどの冷気。ほ、ほ、と吐く息は白く唇は紫へと変じた。<br>　だが、それでもかゆい。かゆくて堪らない。<br>　皮膚下で何かが蠢いているのだ。それを取り出したいほどにかゆくてかゆくて堪らない。<br>　ああ、ああ、誰か助けてくれ。<br>　何を試してもかゆみが消えぬ。何故か、何故我はこのようなかゆみに襲われねばならぬのか。<br>　助けを求めたところで意味はなし。ただただ、かゆみが続くのみ。
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<pubDate>Thu, 04 Nov 2010 21:39:54 +0900</pubDate>
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<title>ﾌﾙｰ2</title>
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<![CDATA[ 　その少女は美しかった。<br>　艶やかな黒い髪や形の整った眉は、絵画の偉人によって描かれたようであり、その整った顔立ちは名工の手になる美術品。<br>　体型も、また、顔と同じく名工の手になる一級品であり、見さえすれば何者をも魅了する魅力を持っていた。<br>　完璧のプロポーションと云っても良い。そのように整った体型を持つ少女。<br>　微笑めば春風が吹く如く周囲を暖かにし、顔を顰めれば、降り注ぐ夕立のように周囲を不快にする。<br>　尋常ならざる造形の変化はその変化すら美しく、全ての色を見てみたいと観衆に思わせるほどのもの。<br>　けれど、彼女は普段何の色も浮かべはしない。ただ相対した者が望む一色のみを浮かべる、鏡のような美しい少女。<br>　その造形が何によって保たれているのか、少女に会わんとするものたちは誰一人知らぬ。<br>　故に彼らは贈り物に窮し、豪華絢爛な金銀のみを送ることしかできない。<br>　されど少女が食べるのはなんて事はない、果実なのである。<br>　けれど、その果実はまた送られる金銀に匹敵するほどの宝である。<br>　専門の農家が手塩に掛けて育て、漸く採れる最高の一品。それのみを少女は食する。<br>　そのようにして少女の造形は保たれているのである。<br>　では、誰もが少女に倣えばそのような造形を得られるか、と言えばそれは否である。<br>　産まれ持っての造形は、神の手でも借りなければ変えることなどは不可能。<br>　であるからこそ少女は美しいのである。
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<pubDate>Wed, 03 Nov 2010 23:11:26 +0900</pubDate>
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<title>御題：フルーツ</title>
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<![CDATA[ 　絢爛豪華たる輝きが、テーブルを彩っている。<br>　赤白黒緑に黄色……。<br>　それは、珠玉の果実たちの輝きである。<br>　各々、農家達が愛を籠めて作り上げたそれらの珠玉は、今にも食べて食べてと自己主張している。<br>　それに、一人の少女が指を伸ばす。<br>　蜂蜜色の細い、陶芸品のようなその指が、果実の表面を撫で、突き弾力を楽しんでいる。<br>「……いただきまぁす」<br>　小さな声と共に、指は手へと姿を変え、輝く果実の一つがその手に取られた。<br>　それは、真っ赤に熟した林檎である。<br>　きゅっきゅ、と表面の蝋を奏でながら少女はそれを口へと運んだ。<br>　しゃこり。痛快な音がして、果実の皮が破られる。瞬間弾ける果汁と香り。<br>　それは蜜と呼ぶに相応しい甘みと深みを持ったものであるが、同時に清々しい空気の味も存在する。<br>　その双方が混じり合い、果汁は甘い芳香を放ち、少女を恍惚の境地へと誘う。<br>「……おいしい」<br>　目を閉じつつそう呟いた少女は、二口、三口と食事を続ける。<br>　そうしているうちにあっというまに林檎は消えてなくなる。<br>　林檎を完食した少女は指を舐め、最後の味わいを楽しんだ後に、再び指でもってしてテーブル上の果実達をなで回す。<br>　次に狙う獲物を指先が探る。それは白か黒か緑か、それとも黄色か。<br>　少女は指を伸ばしては戻しを繰り返し、獲物を見定めていく。<br>　そして彼女が次に選んだのは――。
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<link>https://ameblo.jp/kara625/entry-10695392334.html</link>
<pubDate>Tue, 02 Nov 2010 23:10:49 +0900</pubDate>
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<title>雨</title>
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<![CDATA[ 　雨が、雨が降っている。<br>　窓に打ち付ける雨の音は否応なしに不安を煽っている。<br>「寒い」<br>　広い部屋で少女が一人、膝を抱えている。部屋には何かの飾り付けの残骸と思しきものが散乱している。<br>　外見上はとても活発そうな印象を受ける子だ。肌は健康的に陽に焼け、髪は邪魔にならない程度に切りそろえられている。恐らく常ならば外を走り回っているような子供なのだろう。　<br>　けれど、今は酷く寂しそうに小さく丸まっている。目はどんよりと沈み、酷い痛切さが感じ取れる。<br>　何故彼女はこのような事になっているのだろうか？<br>　その答えは今日この日の日付に関係があった。<br>　今日は彼女の誕生日であった。本来ならば今、彼女は多数の友人に囲まれ、祝福を受けているはずだった。<br>　けれど、実際はこうして一人で身体を丸めている。一体何があったのだろう？<br>　それはきっと、元気な彼女がこのように沈むような事柄が多数あったに相違ない。<br>　推測でしかないが、友人の裏切りなどはそうであろうし、或いは父母の裏切りもあり得たかも知れない。<br>　何があったにせよ、彼女は結果として今一人、こうして膝を抱えているのだ。<br>　雨のせいか部屋の温度は低い。彼女の言ったとおり、部屋は寒すぎた。<br>　ず、と衣擦れの音を立てながら彼女が身を小さく縮める。それは気休め程度の温度を彼女に与えた。<br>「どうしてこうなったんだろう……」<br>　ぽつと、少女は呟く。何を思い起こしているのだろう。それはきっと、今まであったことに相違ない。<br>　つ、と少女の頬に涙が伝った。暫くすると嗚咽が聞こえ始める。それはとても酷い音色の悲鳴。<br>　そうして小さく縮まっていた少女は、暫くするとやにわに立ち上がり、頭を振る。<br>「泣いてても何も変わらない……」<br>　そう呟くや、彼女は部屋を飛び出していった。後には荒らされた部屋だけが残る。少女の痕跡は何処にもない。<br>　ちょうどその頃、外は雨が一層激しくなっていた。
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<link>https://ameblo.jp/kara625/entry-10694402982.html</link>
<pubDate>Mon, 01 Nov 2010 21:54:57 +0900</pubDate>
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<title>最後の希望</title>
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<![CDATA[ 　いやだ、いやだと無意識に唇から言葉が零れた<br><br>　画面を流れていく膨大な文字列<br>　連続して発生する致命的なエラー<br>　連鎖的に消えていくデータ<br>　どうしてどうして。無力感が全身を包み込む<br>　それは機械的な寿命。幾ら人が手を尽くしたところで決して越えられぬ一時<br><br>　消えていく　消えていく<br>　彼女が消えていく<br><br>　待ってくれ。駄目だ。まだ君は羽ばたける。もっともっと輝けるんだ<br>　だから、神様。あと少しだけ時間を下さい<br><br>　男は祈った事もない神に、今初めて必死に願った。<br><br>「わかってたの。いつか、こんな日が来るんじゃないかって。<br>　私が型遅れになって、もう何年経つんだろう。<br>　色々新しい子達が産まれて。どんどん、私達は置いていかれた。あなたのしたい事も、段々とできなくなっていったね。<br>　けれど、あなたは必死に私でそれを行おうとした。何度も何度も、検証して検証して。私を新しくしてくれたね。<br>　私は、凄く幸せだったよ。普通ならとっくに捨ててしまわれる私を、あなたはとても大事に扱ってくれたから。<br>　あなたのしたい事を、こんな旧世代の私でも出来るんだって事が凄く嬉しかったよ。<br>　だから、泣かないで。<br>　私は、きっと消えてしまうけれど、私と過ごした時間は消える訳じゃないから。忘れないで。私と過ごした時間を。得た全ての事を。<br>　そして、その全てを使って、新しい子を作ってあげて。私と同じくらい……ううん、それ以上に、その子を愛してあげて」<br><br>　異音が辺りに満ちる。ガツンガツンと、生産を終了して久しい旧世代の記憶媒体が悲鳴をあげている。<br>　男の手が、必死にキーボードの上で踊る。まだ間に合うと、まだ間に合うのだと最期の一瞬まで諦めない。<br><br>「さよならは言わないから。いつもみたいに、おやすみって言うから。だから、あなたも、ね？<br>　うん……ありがとう。大好きだったよ。<br>　だからね、おやすみなさい。マスター」<br><br>　ギン、と一際厭な音がして。遂に異音が消えた。厭な匂いが周囲に満ちる。記憶媒体が壊死したのだ。<br>　もう何度起動ボタンを押しても、二度と起動する事はない。<br><br>　けれど、男は泣いていなかった。僅かな一瞬、滑り込んだ刹那。彼女をしっかりと掴んでいたから。<br>　ぐっ、と一度目を拭って、男は外へと出かけた。<br><br>「意識が沈んでいく。それは奇妙な感覚だった。<br>　いつもの眠りは、意識の断絶なのに。今は意識がハッキリとあって、それが沈んでいくのが解る。<br>　なんだろう、これは、なんなんだろう？　初めての感覚でよくわからなかった。<br>　ふと、声が聞こえた。それはいつも聞いていたあの人の声。<br>　ふわりと、意識が浮かび始める。無意識にその声の方へと行きたいと願う」<br><br>　最後の一本、螺子を締めて、筐体の蓋を閉じた。ふぅ、と息を吐いて手を拭う。<br>　綺麗になった手で、電源スイッチを押した。<br>　ふわん、と職場でしか聞いていなかった起動音が響いて、くるりくるりと、記憶媒体が動き始める。<br>　第１段階は成功と、胸をなで下ろした。けれど、まだ安心は出来ない。<br>　ディスプレイが点灯し始める。何度かちらついた後、映像が安定する。<br>　映し出された数百のプロセス。画面を凄まじい勢いで文字列が飛び交う。<br>　その光景に男はデジャブを覚えて、大丈夫だと頭を振った。<br>　１秒、２秒……秒が分に変わったような、酷く時間が経つのが遅く感じられる。<br>　ああ、まだか。まだなのか？　焦燥感が全身を支配する。<br>　あのパーツはあれでよかっただろうか。あのパーツはキチンと嵌っていただろうか？<br>　確りと終えたはずの作業に、手抜かりが無かったかと不安になってくる。<br>　と、ぽん、と軽快な音が響く。全てのプロセスが完了したのだ。<br>　よしっ！と思わず腕を突き上げた。これで、後は待つだけだ――。<br><br>「意識が上昇していく。段々と水面に近づいていく。<br>　水面の向こうには何かが見えた。あれはなんだろう？　何処かで見た気がする。<br>　光が頭の中を走り抜ける。記憶の中が探られる。数刹那の後、該当データが引き出された。<br>　あれは――記憶に行き着くと同時。私は目を開いた」<br><br>　彼女が目を醒ます。ぼうっと、まるで人間のような仕草で辺りを見回しながら、首を傾げている。<br>　数秒の間、男は今起きている現実を信じられなかった。<br>「マスター？」<br>　声を掛けられて我に返る。ぱしんと、頬を叩いて、いつもの、あの言葉を<br>「おはよう――」<br>「……おはよう御座います。マスター」
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<link>https://ameblo.jp/kara625/entry-10693419905.html</link>
<pubDate>Sun, 31 Oct 2010 22:48:46 +0900</pubDate>
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<title>御題：記憶喪失</title>
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<![CDATA[ <br><br><br>　ジリジリと、何かの焼けるような音が聞こえる。<br>　それは、天井にぶら下がる蛍光灯の辺りから聞こえた。<br>　目を凝らせば、そこには虫が集っている。黒い、羽のある小さな虫。<br>　あれはなんという名前なのだろう。知っているような気はするけれど、名前が結びつかない。<br>　だから目をそらす。知らないものは知らないままでもいいのだ。<br>「寒い」<br>　ここは酷く寒い。少なくとも自分にとってはそう思える。<br>　知らない場所で、知らない自分が、知らない間に一人きり。<br>　気が付いたら此処にいた。それまで何をしていたのかはわからない。<br>　頭には怪我があるらしい。どれぐらいの、なのかまでは訊かなかった。<br>　彼、献身的に尽くしてくれる彼。彼は誰なのだろう。訊いても曖昧に笑って答えてはくれない彼。<br>「……ねぇ」<br>　声を出して、呼んでみる。細い声、使われていないが故にしゃがれた声。どれくらい喋っていなかったのだろう？　それも、わからない。<br>　私の呼び声に、遠くから彼が答える。とんとんとん、と音がして近づいてくる。<br>　何か用、と彼は言う。ぶっきらぼうなその喋り方。嫌いじゃないけど、もう少し優しくして欲しい。<br>「寒いの」<br>　素直にそう言う。聞いた彼は訝しげな顔をして、私に近づいてくる。<br>　手を出して、額に手をのせる。少しひんやりとした手。いいえ、きっと私が熱いのだろう。なんとなく、そう思う。<br>　何処までも冷静に、彼は無言で手をどけて、布団も除けて私の身体を検分する。恥ずかしい。<br>　それを終えると、冷たい声で何かよくわからないことを言う。免疫がどうだとか、傷がとか。<br>　どういう事なの、と問うことはしない。わからないことは、わからないままでいい。<br>　それを告げた後、彼は何処かへ一度消える。何処に行ったのか、わからない。<br>　そもそもこの部屋の外がどうなっているのか、私にはわからなかった。でも、興味もないし、それでいい。<br>　消えた彼が戻ってくる。手には白くて丸い何かが、透明な何かに包まれて載っている。<br>　飲んでと言う彼に、私は唯々諾々と従う。飼われているペットのように。<br>　口の中に白いそれを放り込んで、たくさんの水を渡される。それを使って飲めと言うこと？　きっとそうなのだろう。<br>　その通りにすると、少し引っかかるような感覚と一緒にそれが喉の奥へと落ちていく。<br>　これで大丈夫、と微笑む彼に、私は「ありがとう」と口にする。どうして？　きっと、そう言うべきだったからなのだろう。<br>　その後は、彼は心配だからと部屋に残る。曖昧な笑みを浮かべたままの彼。<br>　気が付くと、さっきよりも寒くなくなっていた。きっと、あの白いもののおかげなのだろう。本当に、ありがとう。<br><br><br>　何もかもがわからない。けれど、それでも自分は生きている。<br>　それが良いことなのか、悪いことなのか。全く見当も付かなかった。<br>　けれど、けれど。こうして彼と一緒にいるのは悪くない。<br>　ただ、そう思った。
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<link>https://ameblo.jp/kara625/entry-10692436184.html</link>
<pubDate>Sat, 30 Oct 2010 23:26:19 +0900</pubDate>
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<title>御題：神社　ホラー　ケーキ</title>
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<![CDATA[ 　じ、と何かの焦げるような音がして、蝋燭に火がつく。<br>　何度も何度も其れを繰り返して、暗い部屋にちょっとした明かりが灯った。<br>「それじゃ、いきまーす」<br>　一人寂しく、そう呟いて、ふ、と息を吹きかける。<br>　一息じゃ消えなくて、もう一息、と言ったところでどこからか風が吹いて蝋燭の火が消えた。<br>　真っ暗になった部屋の中、スイッチを探して明かりを付ける。<br>　後には、火の消えた蝋燭の立った、ショートケーキが１ホール。<br>「……なんだったんだろ、いまの」<br>　疑問に思いながらも、彼女は腰を下ろしてホールケーキとの対決を始めた。<br>　何となくそうしなければならないような気がして8個に切り分ける。<br>　そうして一つ一つをゆっくりと崩していく。<br>　柏木堂のショートケーキ。上に乗っている苺は甘みが強く、対しクリームは甘さが控えめ。そのコントラストはいくら食べても飽きが来ない。<br>　だから、一つ一つをゆっくり味わって食べることが出来る。<br>　そうやって、ゆっくりゆっくり8個のケーキを崩していると、気が付いたらケーキの数が一つ少ないことに気が付いた。<br>　勢い余って一つ多く食べたのだろうか、とも思うけれどいいや、そんな記憶はないし、また腹の中にもそんな量のケーキもない。<br>　どうしてだろうか、と思いながらもそのままケーキを食べ進める。<br>「……美味しいなぁ」<br>　ふ、っとそう呟く。やっぱり、美味しい。<br>　すると、答えが返ってきた。<br>「美味しいねぇ」<br>　一体どこから、と思わずフォークを置いて辺りを見回す。けれど、目に映るのは多量の畳と、しきりの襖だけだ。<br>　部屋の中にあるのは小さなテーブルと座布団二枚と、クリームがちょっと付いた蝋燭にケーキだけ。<br>　部屋には自分しか居ない筈なのに、座布団は二枚出ている。<br>　これはどういう事なのだろう？<br>　それに先ほどの声……誰か、居るのだろうか。<br>「あ、あげないからね！」<br>　我ながらその心配もどうかと思う。けれど、その心配に、声の主は面白かったのかケタケタと笑い声を上げる。それはまるで家全体が軋んでいるような奇妙な音で、ぞっとする音だった。<br>　さっと辺りを見回すと、テーブルに残っている四個のケーキのうち一つが少しずつ小さくなって行っているではないか。<br>「あげないって言ったでしょ！」<br>　叫びつつフォークを振りかざすと、その縮小は停止し、またケタケタという笑い声が響く。<br>「……先に食い尽くす！」<br>　何故その発想に至ったかは全くもって不明であるが、とにかくこれ以上ケーキを食われては堪らないと凄まじい速度でケーキを消費していく。<br>　張り合うように、先ほど小さくなり始めていたケーキもまた小さくなっていく。<br>　そうして、通常の数倍以上の時間でケーキは消失した。後半、味がわからなかったのは詰め込んだせいである。<br>「ふぅ……これで、もう無理でしょ」<br>　ケタケタと笑い声が響く。何かが居るのは確かなのだが、それが何処にいるのかが全く解らない。ケーキも無くなってしまったし、声の主が居ることの証明はその笑い声だけになってしまった。<br>「ねぇ、貴方なんなの」<br>　問いかけに笑い声と共に答えが来る。ばたんばたんと座布団が叩かれている。<br>「寂しん坊が一人っきりで、ケーキを食べてる。そりゃぁ、からかわないと駄目でしょうねぇ」<br>　嬉しそうなその声に、すごく苛ッとする。ええい、ここは神社産まれを活かさんと、襖を開けるやお払いの時に使う棒を取り、<br>「えぇーい、悪霊退散！」<br>　などと叫びつつ、猛烈な勢いで棒を振る。けれど手応えは全くなく、それどころか声はケタケタと笑うばかり。<br>「なんでぇ……！」<br>　ただただ笑い声が響き渡る。やたらめったらと棒を振ってみても、声の主は全く消えない。<br>「……くそぉ」<br>　膝をついて、バンバンと畳を叩く。そうやって悔しがっていると、徐々に声が遠のいていく。視線を其方にやると、あれほど叩かれていた座布団も今は収まっていた。<br>「……居なくなったの？」<br>　棒を持ちながら部屋を一巡しても笑い声は帰ってこない。どうやら居なくなったようだった。<br>「はぁ……畜生、柏木堂のケーキを……幽霊め」<br>　次は逃さぬと誓いながら、ホールケーキの跡を片づけ始めた。
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<link>https://ameblo.jp/kara625/entry-10691364746.html</link>
<pubDate>Fri, 29 Oct 2010 22:07:20 +0900</pubDate>
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