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<title>SIMMYのブログ</title>
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<description>シナリオライター志望。88年生まれのギリ昭和世代、旅行好き、進路未定。英語と日本語話します。(書けるのは日本語だけ</description>
<language>ja</language>
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<title>one day on the corner in big apple</title>
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<![CDATA[ <br><br><br><br>一級遮光カーテンを買おう、そう決意した日からもう二週間が経った。<br><br>日が昇れば昇るだけ容赦なく陽光があたるこの部屋で初めて朝を迎えてから、昴は今まで頭を悩まされている。<br><br>夏のはじめの朝、伸びきったTシャツとトランクスのままベッドから降り、足元に散らばったルームシューズに視線をやるが、それを集めて履くことすら面倒で、裸足で窓に向かう。<br><br>限りなく黒に近い紺のカーテンはその色彩の意味など全く意識してはいないらしい。昴は一度舌打ちをして、その二枚の布を真ん中から切り裂くように開け放った。<br><br>足元から頭上の高さまであるこの窓から見える景色は、朝の不機嫌を含んでも美しいものだ。<br><br>通りを挟んだ正面に、昴が暮らすものとほとんど同じ時期に建てられたであろう古い石造りのアパートメントが視界の端から端まで規則正しく並んでいる。<br><br>どの建物も一階もしくはベースメント部分にギャラリーやカフェ、ブティックのような店があり、全て小振りなりに穏やかに賑わっていた。<br><br>もしかしたら、朝一番に眺めるこの景色は自分の目覚めの悪さをかなり救ってくれているのかもしれないとすら思う。<br><br>それでも今日こそ濃紺の遮光カーテンを買うのだと心に決めた昴は太陽に背を向け、数分前に忌々しく思ったルームシューズを同じ場所に見つけ、片足ずつ滑り込ませた。<br><br><br><br><br><br>マンハッタン市内ソーホー地区にある昴のアパートメントからほど近い、小さな通りに面した、小さなコーヒーショップ。<br><br>昴はいつも、例えば今のように、小難しい本を片手に時間を気にせず朝食を摂る時は迷わず此処に足を運ぶことにしている。<br><br>日本にいると長身だの筋肉質だのともてはやされる体格をしているが、この街にいるとまるで自分が未だ成長の過程にいるような錯覚に陥ることが少なくなかった。<br><br>マンハッタンは東京と同じように地方や外国から人が集まるせいで人種や肌の色、瞳の色も様々だが、アジア人と比較されない限り昴はいたって小柄で痩せ型だった。<br><br>今日も、自分より縦にも横にも大きいブロンドの中年男性が昴の前にどっぷりと立ってショーケースのサンドイッチを吟味している。<br><br>昴がその男性の重たそうな腹周りをぼんやり眺めていると、カウンター越しに黒髪に黒い肌をした女性定員が昴に晴れやかな笑顔を向けた。<br><br>「あなた、また来たの？いつまでいるんだっけ」<br><br>それが、自分でも分からないのだと昴が苦笑いを滲ませ肩を竦めると彼女は眉を吊り上げ、いいじゃないと笑う。<br><br>何がどう「良い」のか、昴は深くその言葉の意味を考えようとして止めた。<br><br>日本の喫茶店とは違い、ここでは注文と併せて当たり障りない会話を挨拶程度に交わすことがある。<br><br>気が向いたら帰るんじゃないかな、とまるで他人から聞いたような言い方で困ったように笑うと、彼女はそれ以上詮索せず注文は何かと尋ねた。<br><br>生憎この街では冷房の効いた屋内が全て禁煙のため、昴は自動的にテラス席を選ぶことになる。<br><br>初夏とはいえ今は真昼間だし、今日は冷気を含んだ風も吹いていない。アパートメントから此処までの距離でTシャツに汗が滲んだほどだ。<br><br>昴は迷わず20オンスのアイスコーヒーに氷を多めに入れるよう頼み、小さな灰皿を器用に指と指の間に挟んだ手を顔の前に掲げて、先の愛らしい黒人女性に礼を言った。<br><br>彼女が昴に気があることは何となく分かっていたし、この店の店主にも以前それらしいことを言われたことで確信したが、ろくに会話もしていないのに何故、と昴は疑問を抱いていた。<br><br>一目ぼれ、という言葉もあるが、互いのことをほとんど知らずに─実際彼女の知り得る自分といえば奇妙な発音で喋る脚の短い男、ぐらいのものだろうと思っている─恋愛感情なり、それに近い想いを抱くという感覚が昴には到底理解できないでいた。<br><br><br><br><br><br>この店のテラス席はテーブル間に十分な距離が保たれており、大口を開け手を叩いて笑う下品なティーンエイジャーがいない。<br><br>昴が家を出てこの店に来た時よりも遥か高くに昇ったらしい太陽が眩しく、昴はそれを睨みつけながら小脇に抱えた本を落とさぬようTシャツの首元に引っ掛けたサングラスを慎重にかけ直した。<br><br>サングラスのお陰でやっとまともに広がった視界に、いつも座るテーブルの空席を見つける。店の入り口から一番離れた、通り沿いの角の席だ。<br><br>昴はブックバンドでまとめた本と小さなラップトップをテーブルの上で解き、利き手である右側にアイスコーヒーと灰皿、ガスライターが入ったマルボロを置く。<br><br>この一連の作業、カフェの一角を自分の空間とする瞬間を昴は気に入っていた。ラップトップが起動するのを待つ間に、煙草に火をつける。<br><br>一息つきながら、昴はこの街と自分の接点を思い返していた。こうして気紛れにこの街に訪れるのは、彼にとって今回の滞在が初めてではなかった。<br><br>初めてこの街に来たのは昴の父親がアッパーイーストで仕事をしていた頃で、有名なバンドのコンサートがあるから旅行がてら来ないかと誘われた20年前のことだ。<br><br>14歳だった昴は10時間超に及ぶ一人きりでのフライトに疲弊し、到着の翌日に行ったそのコンサートの最中で興奮の欠片もなく眠りこけたのをはっきりと覚えている。<br><br>二度目の滞在はそれから4年後、昴が18歳の頃だが、親の薦める大学へ進学するのが嫌で嫌で仕方がなく、受験会場を目指していたその足をそのまま成田空港に向けて此処まで辿り着いてしまった。<br><br>高校生だった昴は航空券を手に入れるだけに十分な現金などあるわけもなく、ただ何かあった時のためにと携帯させられていた─それまで一度も使ったことがなかった─父親のクレジットカードで現金を引き出し、何とか此処までの片道チケットを手に入れたのだった。<br><br>二度目の渡航では結果として六年間滞在することになり、当時は英語も難なく使いこなせていたはずだったが、帰国後はあっという間にそのほとんどが失われてしまった。<br><br>アルバイトをしたり、南や西に旅行をしたりしながら二年ほど学校に通っていたが、その二年間を通じて両親が昴に会いに来ることは一度もなかった。<br><br>もし自分に同じ境遇の息子がいたなら、自分が父親にされたように全く同じことをしただろうと、家庭を持った経験はないが何となく分かる気がする。<br><br>当時の昴は孤独だった。勝手な我儘で両親の期待を裏切ったことへの罪悪感、当初言葉の壁にぶち当たっていたストレスからか、この喫煙癖が身体に染みついてしまった。<br><br>孤独を紛らわせるには何かしらの音が必要で、くだらないTV番組よりも音楽を好んでいたせいか、昴は興味が赴くまま卒業後の進路として中堅レコード会社を選んだのだった。<br><br>日本での展開を本格的に検討するという話は勿論すぐに昴の耳に入り、年に一度の正月にしか一人息子の顔を見られない両親を思い返しながら昴は首を縦に振っていた。<br><br>帰国したばかりの頃はマンハッタンでの暮らしを懐かしんだりしたものだが、いつの間にか腰を据え、それに心地よさを見出し始めて10年も経っていた。<br><br>結婚願望こそなかったが、いつか時が来ればそうするだろうし、このまま此処で年をとるのも良いと昴は考えていた。<br><br>そろそろ恋人の一人でもいないとまずいんじゃないのかと、もう何年も前から上司や親戚に言われ続けてきたが、昴は34年間一度も人を心から愛した経験がなかった。<br><br>昴は過去に恋人がいたこともあったし、恋や愛といったことに興味がない訳ではなかった。デートの仕方、プレゼントの選び方も知っている。<br><br>端正な顔つきと趣味の波乗りで一年通して小麦色の肌、日に焼けてはいるが潤いを保つ黒髪に筋肉質な肢体と長身。軽率でなくとも昴のことを崇める女性は少なくない。<br><br>昴にとってそれは勿論喜ばしいことでもあったが、ろくに話をしたこともない女性に慕われる度に不思議で堪らなかった。<br><br>「好きです。これ、誕生日プレゼント。」<br><br>それはほんの数カ月前、34度目の誕生日を控えた時期だった。徹夜明けに職場の喫煙所で一人窓の外を眺めていると、見知らぬ女性がガラス戸を叩いて入ってきた。<br><br>喫煙所は昴のプライベートスペースではなかったが、彼女が此処に足を踏み入れるのは初めてなのだろう、隠しきれない緊張を全身に纏ったその女性は手短に挨拶を済ませると、さっさと片付けてしまいたいとでもいうように早口で昴に想いを告げた。<br><br>「俺の何を知ってるの？」<br><br>昴は彼女の顔も名前も知らなかったし挨拶を交わした記憶もなかったので、彼女の差し出すプレゼントを前にほとんど呆然と立ち尽くし、以前からずっと─この女性には知ったこっちゃないだろうが─抱いていた疑問をそのまま質問にして口を開く。<br><br>そこには怒りや戸惑いはなく、この不可解な出来事の真相をこの際だから教えてほしい、という純粋な思いから出た言葉だったが、彼女は昴が受け取らなかったプレゼントを力いっぱい引っこめて、委縮した身体を震わせたまま涙を浮かべて何も言わず去ってしまったのだ。<br><br>結局、その彼女とは一度も会話が成立することのないまま─寧ろ視線が交差したかどうかも曖昧だ─、きっとこれから先もう二度と会うこともないのだろうと昴は落胆した。<br><br>「昴くん、女の子を泣かせちゃいけないよ。」<br><br>先の女性と入れ替わりでガラス戸を開けたのは、薄っぺらい身体を隠したいのか、気休めのカーディガンを羽織ったマットだった。<br><br>彼は2年前に昴がスカウトしたバンドのボーカルで、春が終わる頃に小規模ではあるが全国を渡るツアーを控えている。<br><br>徐々にではあるがメディアの露出も増えてきて、昴は痩せ過ぎのマットに少しでも増量するよう再三言い聞かせているが、彼が太ることは一向に、その気配すら望めそうにない。<br><br>マットは身長が昴と同じ程度であることと髪がアジア人のような漆黒であるため、黄色人種かと一瞬見間違えそうになるがよく見ると黄色と呼ぶには白すぎる肌を持ち、イギリス人と日本人の血を半分ずつ受け継いでいるため瞳が透き通るブルーグリーンだった。<br><br>「お前は少し太らないといけないよ。」<br><br>マットの口調を真似しながら、すぐそばに備えられた自販機から缶コーヒーとココアをひとつずつ手に入れた昴はグルグル巻きにした薄手のストールを解くのに手こずっているマットの側にココアの缶をそっと置いて自分の缶コーヒーの栓を開けた。<br><br>「分かってるけど、難しいんだ。健康であれば問題ないでしょ。」<br><br>そういう問題じゃないんだと何度言ったら分かるんだ、と昴が缶を握ったまま人差し指をマットへ向けて睨みつけると、細身の男は両肩を一度大げさに上下させて惚けた振りをした。<br><br>「そんなことで怒ってたらモテなくなるよ。誕生日はどうするの？」<br><br>マットが慣れた動作でジーンズのポケットから取り出した煙草は箱の形を失っていた。薄っぺらく潰れてしまったその箱をマットが何度か振ると器用に一本だけ煙草が顔を出す。<br><br>それを彼は箱から唇に挟み、そのまま喋り続けたせいで昴に問いかけた言葉の語尾は酷く聞き取りづらかった。<br><br>「今はそれどころじゃない。」<br><br>短い溜息を吐きながら、眺めていた窓に一度背を向けて煙草の灰を落とすところでマットを視界に入れた。彼も昴がしていたように、窓の外に見える忙しない街をぼんやりと眺めている。<br><br>誕生日やクリスマスは誰か特別なひとと特別なレストランで特別なプレゼントを交換する予定を入れなければいけないという風潮には慣れた気でいるが、徹夜明けの朝に珈琲を飲みながら思いを巡らせたいことではなかったため、昴は口調が嫌味っぽくなってしまったことを自覚しながら謝らなかった。<br><br>「昴くん、誕生日は僕と過ごせばいい」<br><br>4つも年上の男からの身に覚えのない八つ当たりを気にも留めず、マットはさらりと、まるで天気を話題に上げるような口調で、僕はあなたが好きだと告げた。<br><br>「あなただって、僕を好きなはずだ」<br><br><br><br><br><br>昴が同性に心を奪われたのは、誰かを心から愛したのは、マットが最初で最後だった。<br><br>喫煙所での告白があってから、昴はすぐにマンハッタンへの異動を志望し、半ば無理矢理飛行機へ飛び乗ったのだ。<br><br>マットが自分の想いに気付いていたのは予想外だったが、その聡明さも含めて自分は彼に惹かれていたのだろう。今思い返せば当然のことだ。<br><br>昴は自分の抱える感情を口に出してはいけないと強く意識していた。これを一度打ち明けてしまえば楽にもなるだろうが、祝福された未来は自分を待っていてはくれないだろう。<br><br>気が付けば太陽はオレンジを帯び始めていて、昴は昼からこれまでまったく作業が進んでいなかったことに気が付いて慌てて本を開いた。<br><br>どこまで読んだか指で追いながら目的の行を探していると、誰かが昴の正面にある椅子を音を立てて引いたことに気が付く。<br><br>何処かで椅子が足りなくなったのだろう、許可を仰がれると予想して昴が顔を上げた先にはマットが痛々しい笑顔で、血液と見誤るほど悲しげな涙を浮かべて腰をかけていたのだ。<br><br>「何の連絡もなく逃げるなんて、よくそんなこと、できたね。」<br><br>どうやらマットは怒りに震えているらしかった。あの徹夜明けの朝からまるで日を空けずに渡航したのだ、それもそうかと昴はこの状況下でも淡々と思考を巡らせている。<br><br>もう始まっているはずのツアーはどうしたのだろう。アメリカに来るだけのスケジュールが空いていただろうか。<br><br>昴は思考を一度停止し、開いていた本をゆっくりと閉じてラップトップの上に重ねて置いた。<br><br>がらんと空いた両手の居場所がなくなって、そのまま指と指を組み合わせてマットの顔を真っ直ぐに見据える。<br><br>「誕生日も祝えなかった。」<br><br>マットの方は許すもんかといった表情でブルーグリーンの瞳を真っ赤に充血させながら、昴にその怒りという怒りをぶつけていくことにしたらしい。<br><br>「行ってらっしゃいも言えなかった。」<br><br>返事や謝罪や言い訳を待つつもりはないようで、ひとつずつ投げ掛けられる彼のやるせなさと憤りを昴は組んだ指を固く締めながら聞き入っている。<br><br>「ツアー初日も見てもらえなかった。」<br><br>とうとう涙が飽和してこぼれ落ちて来たが、マットはそれに構う余裕もなく昴への決死の講義を続けている。<br><br>「昴くんのために、昴くんがいたから僕は歌ってこれたのに。これじゃ何の意味もない。」<br><br>バカヤロウ、と声にならない声で昴の目を一度睨みつけたっきり、マットは俯いて涙と鼻水を一生懸命拭い始めた。<br><br>鼻で一度深い溜息をついた昴は椅子に背を預け、参ったなという顔で周りを伺う。昼にはほぼ満席だったテラスにはもうほとんど客が見当たらなかった。<br><br>「マシュー」<br><br>ラップトップや本を掻き分けて、昴はテーブルに上半身を乗り出した。腕を伸ばし、掌を開いて天に向けてマットに差し出す。<br><br>「マシュー。」<br><br>鼻をすするマットは、数分前から一転して顔を上げようとしない。昴は、困ったなと鼻先を掻いてマットの顔を覗きこもうとする。<br><br>「マット、きみがそうしたいならそのままで良いけど、俺の話、聞こえてる？」<br><br>昴は座っていた椅子を引き、頑なに俯いたままで未だに涙が止まっていない様子のマットの足元にしゃがみ込む。<br><br>繋ごうとしていた彼の手を探すが左右の両方ともがマットの目元にあてられていたせいで、昴はマットの太腿と腰に腕を伸ばし手を添えた。<br><br>昴がマットの顔を下からどうにか覗きこもうとしたが、マットは昴が彼を見上げている位置とは反対側に顔を向け、聞こえてる、と小さなハンドタオル越しにくぐもった声を出しただけだった。<br><br>「マシュー、俺、もう34歳だろ。今まで、本当の恋愛なんて全然分からなくて、分からなくてもいいと思ってた。」<br><br>マットは首を捻れるだけ捻った状態で向こう岸をむく、黙りこくったままだ。<br><br>「人を心から愛せなかったのは、傷つくのが怖かったからじゃなくて、誰でも良いわけじゃなかったからだ。でもな、マット。こんなにも誰かを愛おしいと思うのは、俺、初めてなんだよ。」<br><br>34にもなって・・・とマットは涙声のまま喉の奥で笑いながら、ゆっくりと昴に向き合った。昴は心から安堵し、肺の奥から深い息を吐く。<br><br>昴は椅子に座るマットに向かって、跪いて両腕を広げる。自嘲して笑う昴の腕にマットは大人しく収まり、自分のとは確実に異質な昴の背中に腕を回した。<br><br>「そうだよ、３４にもなって初恋だ。馬鹿げてる。笑えよ」<br><br>愛すべきひとの背中を宥めるように撫ぜながら、昴は忌々しかった太陽に細めた眼を向ける。<br><br>遮光カーテンをまた買い損ねたことを思い出したが、もうあんな下らない毎朝の出来事にいちいち苛立つのはやめようと、昴はマットを腕に抱きながら決意したのだった。<br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/kenjiro1227/entry-11475773454.html</link>
<pubDate>Fri, 22 Feb 2013 02:39:39 +0900</pubDate>
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<title>二度目の最後</title>
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<![CDATA[ <br>握りしめた携帯に映る時刻が、先に確認したものからたったの２分しか経過していないことを知り、千春は幻滅した。<br><br>自分とは違う肌色の人々を一度にこんなにたくさん目にすることへの違和感は、何度来ても拭えずにいる。<br><br>一箇所に集まるこれだけの人たちがまったく異なる場所へ、ましてや国境を越えて各々に発つというのは、不思議なものだ。<br><br>数十分タクシーを走らせた距離に職場や自宅があるというのに、ここに来た途端、それがまるで非現実的なものに思えるほど、切り離されてしまう。<br><br>無駄のない広大な空間の小さな喫煙所でひとり、足元に広がるタイルと同じ濃紺の夜を四角四面にはられたガラスから全望し、ひとつ、溜息を漏らした。<br><br>閉店間際のコーヒーショップで慌てて買ったカフェラテを口に含んだが、丁寧に作られなかったらしい泡はあっという間に萎んでいたようで、冷め始めている。<br><br>上の空であった自覚はないものの、右手に挟んだだけでそのまま燃え尽きてしまった煙草を灰皿に落とし、千春は重い腰を上げた。<br><br><br><br><br><br>首筋に汗が落ちていく感覚で、かなりの距離を走ったことを初めて自覚する。<br><br>呼吸こそ乱れていないものの、何の案内も無しにこの複雑で広過ぎる空間からたったひとつのゲートを見つけるまでに、大分時間と体力を消耗してしまった。<br><br>仕事を終えて時刻を確認する間もなく車を飛ばしたものの、目指すべき場所とは真逆に位置する駐車場を選んだせいだ。<br><br>これじゃ、何のために苛立ちながら高速道路を飛ばしたのか分からない。<br><br>からからに乾いた喉に空咳を一つつきながら、計画的に行動することが苦手な自分の性格を恨む。<br><br>走るのを止めた途端に発熱する身体からレザーのダウンを引き剥がし、辿り着いた搭乗口の電光掲示板を見上げる。<br><br>目的の便にラストコールがかかっていることを確認した良平は、忙しなく辺りを見回す。<br><br>疎らになった人だかりのなかで見慣れたショルダーバッグを見つけだした瞬間、心拍数が上がる。<br><br><br><br><br><br>見送りに行けなくて残念だという友人の電話があったおかげで、千春は擦り減らない時間をさほど退屈せずに過ごすことが出来た。<br><br>女同士の、特に仕事の絡まない話というのは不思議と時間を忘れる魔力があるものだ。<br><br>無意識に強張っていた肩を解しながら緩む口元を締めて顔を上げ、見えたものに千春は絶句する。<br><br>ここに着いてすぐ確認してあった搭乗口から少し離れたところに、周囲から頭ふたつ分は裕に飛び出た人影が見える。<br><br>国際空港と名がつく場に居ながら高身長の男性に驚くわけではないが、それがあまりに見慣れた、いや、過去によく見慣れていたひとに酷似していたせいだった。<br><br><br><br><br><br>「あ、あの・・・久しぶり。」<br><br>良平は、ぎこちない、というよりももっと不自然であろう、自分の引きつった笑顔を脳裏で浮かべながら、それでもこれ以上どう自然に振る舞えるだろうと自問して振り払う。<br><br>千春は驚きのあまり口をあんぐり開けたまま絶句し、同時に身体まで硬直していたが、すぐに我に返ると瞬きを何度か繰り返す。<br><br>綿でできた無地の白いTシャツにデニムというシンプルな装いの割に、身長のせいかやけに目立つその人物は、千春に向けて肩の高さで上げた手を小さく振っている。<br><br>疲労の溜まった身体で２時間も退屈に待ち続けたフライトはこんな時に待ってくれないのかと絶望に似た思いを抱きながら、千春は片足を交互に、強く意識して搭乗口へ近づく。<br><br>もし未だ少しでも時間に余裕があればきっと引き返していたであろうその場所に、何があっても向かわなければいけないことを呪ってしまいたかった。<br><br>彼が「久しぶり」と唇を動かしたのは視界に入っていたので、千春はショルダーバッグを肩にかけ直しながら一度俯き、動揺を隠そうと口角を上げてから、良平を見上げる。<br><br>「久しぶり。」<br><br>「驚かせて、ごめん。」<br><br>黒革のダウンを脇に抱えたまま両手をデニムの前ポケットに突っ込み、良平は千春と目を合わせる勇気を振り絞れず、俯いたまま突然の訪問を謝罪する。<br><br>良平は意図して此処に足を運んだのだろうが、千春にはあまりに唐突で予期していなかった境遇で、こんなのはまったくもってフェアじゃないと、無意味な憤りが顔を覗かせる。<br><br>こんな時どんな言葉を返せばいいのか思い浮かぶわけもなく、何より時間は千春の思いなど関せず刻一刻と迫っているのであって、ただ呆然と驚いているだけでは埒が明かない。<br><br>千春は懸命に冷静さを取り戻そうと、良平を見上げたまま一度だけ肩で深く呼吸をした。<br><br>「びっくりした。どうしたの？」<br><br>良平が他の大勢と同様に渡航を目的にここへ来たのではないということを、千春は察しているようだった。<br><br>それは手元に財布ひとつ持たない良平の装いからして当然のことのようではあったが、全ての無駄を省略して用件を伝えなければならないこの瞬間に、良平は改めて緊張する。<br><br>これから彼女が乗り込む巨大な鉄の塊が、彼女の恋人の元へ向かうことは分かっている。<br><br>千春が今夜このゲートを通り抜けたあと、次にこの街に戻ってくることがしばらくの間ないであろうことも、良平は分かっていた。<br><br>「会って、話したかった。どうしても。」<br><br><br><br><br><br>良平が千春と言葉を交わしたのは一年前、彼女が二人の生活したアパートを出ていくのが最後だった。<br><br>平凡な出会いからいつの間にか三年もの月日を共に過ごし、このままこうして年を重ねていけるのだろうと信じ込んでいた良平は、小さな亀裂が修復できぬほど大きく拡がっていたことに、まったく気が付かなかった。<br><br>涙だけは見せまいと固く決意した彼女の目には辛さと悲しさとやりきれなさが滲み出ていて、良平は最愛の女性をここまで追い詰めた自分を心から責め、悔んだ。<br><br>自分に背を向けたままアパートの鍵を玄関に置いて小さなキャリーバッグひとつで出て行った彼女をただ呆然と見送りながら、良平は絶望という言葉の意味を生まれて初めて理解する。<br><br>嗚咽を止めようなどという気はおきず、ただ泣きじゃくりながら、思い返す。<br><br>彼女が何故自分の元から去ったのか、何故あんな表情で自分に別れを告げたのか、考え込む必要もない至極単純なことだ。<br><br>同じ時を共有していたにも関わらず、この幸せに慣れ甘えきった自分は彼女の物がこの家から少しずつ減っていたことにも気が付かなかったのだ。<br><br>結局あの日から今日まで、こうして自責と後悔に押し潰されてきたのにも関わらず、こうして最後の最後にならなければ彼女と対面する勇気さえ持てていない。<br><br><br><br><br><br>「それ、今じゃなきゃいけない？」<br><br>時間がたっぷりあるわけじゃないの、と千春は電光掲示板を見上げ、煮え切らない表情を変えない良平を急かす。<br><br>別れたその日から一度も会うことなく、連絡も取り合わなかった二人が今更何を話すことがあるのだろうと、千春は疑問を眉間の皺に乗せる。<br><br>「結婚、するんだってね」<br><br>ようやっと顔を上げた良平の目は潤んでいて、今にも雫がこぼれ落ちそうだ。<br><br>何よりも千春が驚いたのは、良平が瞳いっぱいに涙を溜めこんだまま眉尻を下げ、白い歯を剥き出しにして笑っていたことだった。<br><br>「おめでとう。」<br><br>千春が今付き合っている彼との結婚を決めたのは、ほんの一ヶ月程前のことだった。<br><br>今回こうして仕事を休んで渡航するのも、そうと決まればすぐに二人の暮らしを始めるべきだという彼の強い希望からだった。<br><br>近しい友人や家族、職場の人間には報告したが、良平は恐らくそのいずれかから話を聞いたのだろう。<br><br>三年も共に暮らしていたのだから、共通の友人も少なくない。大体の見当はついた。<br>　<br>「ありがとう。ダイちゃんに聞いたんだね。」<br><br>面と向かっておめでとうと言われた途端、千春は急に恥ずかしくなり、苦笑いして鼻をすする。<br><br>良平は一度深い息を吐き出し、千春の両手を、大切そうに握りしめているパスポートケースごと包むように触れ、彼女の視線を捉える。<br><br>千春は一度驚いた顔をして良平を見上げたが、もう時間を気にする仕草を良平に見せつけることは諦めているようだった。<br><br>今度は何を言い出すのかと、まるで言葉の通じない外国人を窺うような目で千春は良平の目の奥を覗く。長身の良平が屈んでいるせいで、視線は真っ直ぐに伸びる。<br><br>「俺さ、千春が誰か他の人と結婚をすることになるって、想像してなかった。」<br><br>言葉のどこかに何かを匂わせたかったわけでも、未練たらしい男であることを露呈したかったわけでもなかった。<br><br>いつか千春ともう一度やり直す日が、また二人で暮らす日々が待っているのではないかと、根拠もなくただ漠然と想像していたことを、今更恥じても仕方がなかった。<br><br>「私もそう思ってた。でも、違ったね。」<br><br>想像通りにいかないものだよ、と千春が苦笑いを浮かべそうになったとき、フライトのラストコールが終了を告げる。<br><br>ぴんと張られた線が切れるように、交わっていた二人の視線が一瞬にして解かれる。<br><br>「じゃあ、乗り過ごしちゃうから、行くね。」<br><br>千春は良平の手を解き、ショルダーバッグを肩へ掛け直し、唇を結んで笑った。<br><br>二人分の体温で暖まったパスポートケースからチケットを取り出して、良平に背を向け搭乗口へ足を進める。<br><br>「千春！」<br><br>千春が会釈をしながら女性に手渡したチケットが、良平の数メートル先で真っ二つに切り離される。<br><br>良平にとって、千春とこうして話ができるのは、この瞬間が最後になるかもしれなかった。<br><br>用意した台詞の何もかもを言いそびれてしまったとしても、もしこれが最後なら、伝えておきたいことがあったはずだ。<br><br>真っ直ぐに目を見て、できれば笑顔で。<br><br>「しあわせでいて。俺、もしかしたら、気が済むまで待ってるかもしれないけど。」<br><br>「何それ、馬鹿じゃないの。」<br><br>二度目の最後は、もうあんな風に悲しくないのだから、二人して涙を堪えてぎこちなくなっても、笑って手を振ろう。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/kenjiro1227/entry-11455564096.html</link>
<pubDate>Thu, 24 Jan 2013 02:31:41 +0900</pubDate>
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<title>黄色い薔薇</title>
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<![CDATA[ <br>雲が出た夜空は、明るい。<br><br>星や月に照らされるよりも曖昧に、それでも広く包み込むように、足元を照らすのは雲だ。<br><br>きらきらと瞬いてきらめく星よりも、煌々と照らしたたずむ月よりも、ずっとずっと、優しくて母性的だ。<br><br>曇った夜空はきっと、誰の記憶にもさして残らないだろう。<br><br>でも、曇の夜空があるから、人は星空を喜び、月光を有難がる。<br><br>彼女にとっての雲になりたい、なんて気障なことは思わない。<br><br>ただ彼女が夜空を包む雲を見上げたときに彼女をこの腕で包み込んであげられるのなら、それでよかった。<br><br><br><br><br><br><br>「ご飯、食べないで待っててね」<br><br>黄色い薔薇が水に浮かんだ玄関で、彼女は笑った。<br><br>ヒールのないブーツを履いて直立するその姿は、普段よりもずっと小さく、華奢に見える。<br><br>薄っぺらなジャージのポケットに両手を引っかけたまま返事をしない俺に、彼女は小さく頷いて出て行った。<br><br>あっという間に遠くなるそのシャツの白さをいつまでも目で追っていたら、重厚なドアがひとつ、音を立てて閉まった。<br><br><br><br><br><br><br>前の男と暮らした部屋に行くのだと聞いたのは、２日前の雨の夜、車の中だった。<br><br>あの場所には、あたしの１から１０までがある。<br><br>全て置きに行かなければならないし、全て持ちかえって来なければならない、というようなことを彼女は言った。<br><br>俺は、頷いただけだったかもしれない。<br><br>もしかしたら、そうか、と相槌の一つぐらいは入れたかもしれない。<br><br>何にせよ俺の中で渦巻くのは決して清潔ではない妄想と嫉妬で、引き止めてしまえば理性は保てないだろうと自覚していた。<br><br>帰ってこない、という選択肢も可能性も、十分にあることは分かっている。<br><br>運命的な恋をして、その場所で4年という短くない時間を過ごし、もう十分に住み慣れたその何不自由ない部屋で、きっと彼女はその男と会うだろう。<br><br>俺は彼女の心が揺れないと言い切れる確信をひと欠片も持ってはいない。<br><br>黙り込んでハンドルを握っていたが、彼女がこちらを振り向く気配も、何か言葉を探そうとしている気配すら感じられない。<br><br>もし彼女がもう少し賢明じゃなかったとしたら、ちゃんと帰ってくるから安心して、なんてことを言ったのかもしれない。<br><br>ただ現実にあるこの沈黙は勿論、帰らない、という可能性を示唆するためのものではない気がしていた。<br><br>例えばそれを言葉にしたとして、それは尚更に俺を不安にさせるということを、賢い彼女はきっと分かっているのだろう。<br><br>週末を控えた夜だった。目障りなほどに眩しい街を抜けた頃、ようやく振り向いた彼女が、花屋に寄ってほしいと言った。<br><br>花を置いて出掛ければ、帰る動機が出来るからではないかと、小心者の思考が巡る。<br><br>信号待ちで盗み見た、微かに揺れた彼女の睫毛を、忘れたいのに忘れられない。<br><br>何も知らずに俺が選んだ黄色い薔薇の花言葉は、確か、「嫉妬」。<br><br><br><br><br><br><br>彼女を玄関で見送ってから何時間経っただろう。西日が眩しかった外はもう、薄暗い。<br><br>テラスへ繋がるドアには、いつまでも慣れない固いロックがかかっている。<br><br>舌打ちを堪え、その忌々しいつまみをがちりと上げる。サンダルを引っかけて触れた外気は少し、湿っぽく冷たい。<br><br>何処で売っているのか不思議に思うほど派手なショッキングピンク、フルジップのフリースを口元まで上げて、黙々と曇った空を見上げる。<br><br>灰色でも藍色でも紺色でもない。<br><br>その全ての色を野生的に混ぜて、繊細に薄く伸ばしたような雲と、拒むことを許されぬまま境目を曖昧にされた空。<br><br>目線の先や、その下に見える世界を視界に入れる度胸さえ、今は無い。<br><br>遠目に見える大きな鉄塊に彼女が居るであろうことすら、非現実的なことのように思えた。<br><br>思い返せばこの物件で暮らしていくと決めた直後、初めてこのテラスに踏み入れたのは、家主である俺ではなく、その頃はまだ友人のひとりだった彼女の裸足だった。<br><br>今この時に誰が何をしているか、自分が最高に不幸な時によく考えるのだと、彼女は遠い昔この場所で言ったことがあった。<br><br>きっとあの子はあたしよりも幸せで、きっとあの人はあたしよりも今この瞬間を楽しんでいる。<br><br>こんなにも辛く苦しいのはきっと世界で一人、あたしだけだと思うことで救われる、と。<br><br>何のことやら、俺にはさっぱり訳の分からない話を彼女は気紛れに聞かせるから、それもその類かと聞き流していた話。<br><br>今でも鮮明に思い出せるということは、もしかすると俺はもうその時から、彼女の話を聞き流してはいられなかったのかもしれない。<br><br>指の隙間からこぼれるように掴めないその言葉のひとつひとつを、俺は必死にその下で大きなボウルを抱えて生きていたのかも、しれない。<br><br>何にせよ俺は今、彼女の帰りを猛烈に待ち、彼女の言葉に縛られている。<br><br>こんな風になるつもりはなかった、なんて、何も生み出さない無意味な言葉すら簡単に吐き捨てられる。<br><br>俺は今、世界で一番胸が痛く、苦しんでいる。<br><br><br><br><br><br><br>「ちょっとー、手伝ってよ」<br><br>ロックが固くて面倒だからと少し開けていたドアの向こう、玄関から物音がした。<br><br>もたつきながら足元のスリッパを脱ぎ棄てて、待ちわびた音に向かって駆け出す。<br><br>「ごめん、気が付かなかった」<br><br>ブーツを脱ごうと屈んで丸まった彼女の背中に謝罪する。<br><br>「駐車場から電話したんだよ。テラスにいたんでしょ。」<br><br>小さな身体の両脇には、分厚く膨れ上がった大きな荷物が４つ。俺を睨みつけ、構えるように並んでいる。<br><br>「もう、しんどかったんだから。久兵衛のお寿司で、勘弁してあげるよ。」<br><br>まるで朝起きた時と同じ口調だが、履き慣れたはずのブーツが脱げず、諦めたような溜息をついた彼女は身体を起こす。<br><br>長い髪を掻きあげながら上げた顔は血色が悪く、両目には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。<br><br><br><br>「あたしには、こうして帰る場所も人もいる、けどさ」<br><br>彼には、あたししか居ないんだよね。<br><br>これだけあたし、あの人と、一緒にいたんだよね<br><br><br><br>靴ひとつない玄関に敷き詰められたタイルには、流されて拭われない涙で小さな水溜りが出来上がりそうだ。<br><br>こんなにも大きく重たげな荷物があったのなら、引き止めるべきだった。<br><br>彼女がこれを両手に持ち歩いたとき、その重さに耐えながら、彼の苦しみと比べたかもしれない。<br><br>彼女がこれを車に載せたとき、これに占領された助手席を横目に捉えた時に、彼のことを思い出したかもしれない。<br><br>止めろと言っても止まらないだろうが、何をしても止まらない涙なら、せめてこの小さな身体を抱き締めていよう。<br><br>根拠もなしに大丈夫だとか、そばにいるとか愛してるとか、言いかけたけれど、やめよう。<br><br>ふたりが待つ次の言葉は、そんなつまらないものではないと、分かっているのだから。<br><br>「早く行こ、久兵衛」<br><br>今日は二人で、世界で一番旨い寿司を、食べにいこう。<br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/kenjiro1227/entry-11454213279.html</link>
<pubDate>Tue, 22 Jan 2013 01:38:52 +0900</pubDate>
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