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<title>WANDERLUST</title>
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<description>「東京二十四区」は一場面ごとに書けたものから順次アップしています。コメントなどをいただけると励みになります。Twitterは@kobayashiteijiメールはkobayashi_2002@hotmail.com電子書籍はAmazonで「小林ていじ」を検索</description>
<language>ja</language>
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<title>リライト</title>
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<![CDATA[ <p>↓東京二十四区をリライトしたのをここにアップしてます。</p><p><a href="https://estar.jp/_novel_view?w=25078432">https://estar.jp/_novel_view?w=25078432</a></p><p>余計な部分を削ったり、つじつまを合わせたりしてるので、このブログにのせてるのより完成度は高くなってると思います。余計な部分……。暁明が公園で子犬とじゃれるシーンとか、健吾と沙耶がVRゲームで遊ぶシーンとか。</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12385137875.html</link>
<pubDate>Wed, 20 Jun 2018 19:41:14 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　あとがき</title>
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<![CDATA[ <p>実際どのくらいの人が「東京二十四区」を読んでくれていたのかわからないけど、最後まで読んでくれてありがとうございました。</p><p>&nbsp;</p><p>これから全体的に手直しをしていってなんらかの形にしようと思っています（できれば、僕の作品に理解のある人の意見を聞きながら手直しをしていきたいのだが）。大まかな流れは最初に考えていたけど、細かい部分については書きながら考えていったので、つじつまが合ってないところもあるし、伏線を張ったけど回収できなかったのもあるし。</p><p>&nbsp;</p><p>タイトルも変えようと思ってます。最初にこのタイトルを思い付いたときは「超かっこいい！」と思ったけど、なんか誤解をされがちだし。東京は23区なのに24区と間違えてると思われたり、東京都の都市計画の社会的な話だと思われたり、東京の下町を舞台にした人情ものだと思われたり。誰もこのタイトルからはSFバイオレンスな内容は想像してくれないんだよ。</p><p>&nbsp;</p><p>このブログは今後もなにかしら書いていきます。短編小説とか、旅の話とか、お昼に食べたカツカレーが美味しかった話とか。短編小説のアイディアはけっこうあるんすよ。</p><p>&nbsp;</p><p>・わきがの女子高生が苦悩する話</p><p>・女がタイの南の島でファイヤーダンスを習って現地人といろいろある話</p><p>・中年ニートのジョニーが都内をぶらぶら散歩してそれをブログに綴る話（彼の葬式から話は始まり、ジョニーの唯一の友達だった青年、歩（あゆむ）が彼のブログを読んで彼との思い出を回想する形で話は進んでいく）</p><p>&nbsp;</p><p>でも、まずは東京二十四区をちゃんとさせないとな。</p><p>&nbsp;</p><p>最後に、毎回いいねを押してくれて本当にありがとう。ちゃんと読んでくれている人がいるんだなって本当に本当に励まされてました。</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12364822751.html</link>
<pubDate>Sun, 01 Apr 2018 00:40:38 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　最終話　リフレイン</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12360821163.html">その６９</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　マンションの管理室の中で白髪の老人が椅子に座ったままうとうとと居眠りをしていた。洋平がその小さな四角い窓をコンコンとノックすると、目を覚まして顔を上げる。ずり落ちていたメガネをくいっとかけ直し、洋平の顔をじっと見つめて言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「ああ、君か。久しぶりだね」</p><p>「お久しぶりです。また屋上に上がらせてもらってもいいですか？」</p><p>&nbsp;</p><p>　老人は洋平が背負っているギターケースをちらと目をやる。</p><p>&nbsp;</p><p>「またなにかの撮影？」</p><p>「いえ、今日はそういうのではなく……」</p><p>「なんだか知らないけど、別に構わないよ」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平はエレベーターで最上階の八階に上がり、そこから階段で屋上に出た。</p><p>&nbsp;</p><p>　吹き付ける温かい風。白く塗装された鉄のフェンスの向こう側に有島の街並み、さらにその向こうに穏やかな海が広がっている。その海上には有島と羽田空港を結ぶモノレールの高架線路が真っ直ぐに伸びている。</p><p>&nbsp;</p><p>　かつてＰＶ撮影のために使用した場所だった。そのときのことがまるで昨日のことのように思い出された。風の中に沙耶と健吾の笑い声が混じったような気がした。</p><p>&nbsp;</p><p>　フェンスをよじ登って乗り越え、屋上の淵に腰を下ろす。ギターケースから暁明からもらったアコギを取り出して膝の上で構える。親指で弦を弾いた。そこから紡ぎ出される繊細な音色はすぐに風の中に消えていく。</p><p>&nbsp;</p><p>　少しの間を置いてからフレーズを奏でた。洋平が作曲、健吾が作詞し、彼らのバンドであるダンデリオンのデビュー曲となるはずだった「リフレイン」。イントロが終わったところでフレーズに乗せて歌いはじめた。</p><p>&nbsp;</p><p>ねえ、君は本当はどうしたいの？</p><p>&nbsp;</p><p>子どもの頃に聞かれた質問</p><p>今でも思い出しては　胸の奥を締め付ける</p><p>&nbsp;</p><p>誰も教えてくれなかった　生きることの痛み</p><p>傷を隠して　大丈夫だよって無理をして</p><p>つまらない冗談に精一杯の愛想笑い</p><p>少しはうまく生きられるようになったかな</p><p>&nbsp;</p><p>仕事終わりにひとり歩く夜の海岸</p><p>優しく響く波の音</p><p>理由はわからないけど</p><p>どうしようもなく心が惨めで　痛かった</p><p>&nbsp;</p><p>なんで強くなる必要があるの？</p><p>&nbsp;</p><p>この世界は弱肉強食</p><p>ありのままの自分では　食い殺されるから</p><p>&nbsp;</p><p>自分の弱さをすべてさらけ出して</p><p>泣きたいときに　素直に泣けたらいいのに</p><p>虚勢を張って　強がってばかりで</p><p>本当の自分を見失いそうになってしまう</p><p>&nbsp;</p><p>君とふたりで歩く公園の散歩道</p><p>無邪気に笑う君</p><p>理由はわからないけど</p><p>心は必死になにかを叫ぼうとしていた</p><p>&nbsp;</p><p>ねえ、君は本当はどうしたいの？</p><p>&nbsp;</p><p>お願い　もう聞かないで</p><p>どうせ叶わない思いなのだから……</p><p>&nbsp;</p><p>　弾き語りを終え、目の前の景色をぼんやりと眺めた。一匹のカモメが翼を広げて海上を悠々と飛んでいる。どこか遠くのほうで一発の銃声が聞こえたような気がした。</p><p>&nbsp;</p><p>　完</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12364480924.html</link>
<pubDate>Fri, 30 Mar 2018 19:50:59 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６９　桜咲く丘で</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12358017643.html">その６８</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　春の温もりを含んだ風が吹き、沙耶のグレイのカーディガンの肩に一枚の桜の花びらを落とした。ベンチに座る彼女の視線の先には小高い芝生の丘に植えられた一本桜があった。</p><p>&nbsp;</p><p>　しばらくしてその桜に向かって丘をゆっくりと上ってくるひとりの男の姿が見える。水色のストライプのシャツに白のスラックス。顔にはマスクを着用しているが、顔の上半分だけでそれが誰であるかはすぐにわかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　沙耶はベンチから腰を上げてその男に背後から近づいていった。その途中、肩から提げたバッグの中に手を入れた。指先に硬いものが触れた。</p><p>&nbsp;</p><p>「久しぶりだね、伯父さん」</p><p>&nbsp;</p><p>　立ち止まって桜を見上げている田島に後ろから声をかけた。</p><p>&nbsp;</p><p>「その声は……沙耶か」</p><p>「振り向かないで！」</p><p>&nbsp;</p><p>　バッグから拳銃を素早く取り出して田島の背中にその銃口を突きつけた。もうスライドは引いてあるので引き金を引くだけで弾は発射される。</p><p>&nbsp;</p><p>「なんの真似だ？」</p><p>「ここでずっと待っていたら会えるような気がしたんだ。覚えてるでしょ？　私がはじめて有島に来たときに伯父さんが教えてくれた場所だよ。毎年桜の咲く時期になると必ずここをひとりで訪れるって」</p><p>&nbsp;</p><p>　沙耶はテレビとネットのニュースですべての真相を知っていた。そして、有島警察署は国連軍によって抑えられたもののその署長である田島は行方を眩ませているということも。</p><p>&nbsp;</p><p>「私の背中に向けているのは拳銃か？　どこでそんなものを手に入れた？」</p><p>「答える必要はない」</p><p>「私のことを憎んでいるのか？」</p><p>「当たり前でしょ。自分がなにをやったかわかってるの？」</p><p>「いいか。落ち着いてよく聞け。私はなにも間違ったことはやっていない。平和のためには多少の犠牲は付き物なんだ。血は必ず流れるものなんだ。今までの人類の歴史を振り返ってみてもそれは明らかだろう。あともう少しで……」</p><p>「ふざけないで！」</p><p>&nbsp;</p><p>　田島の言葉を遮って叫んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>「健吾も……、アルンも……、みんなみんなあんたのせいで……」</p><p>&nbsp;</p><p>　沙耶の目から涙がポタリと垂れた。泣くつもりなんてなかった。が、彼らの名前を口にしただけで感情の高ぶりを抑えることができなくなってしまった。</p><p>&nbsp;</p><p>「う、うう、うう……」</p><p>&nbsp;</p><p>　嗚咽が止まらなくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>　田島はしばらくおとなしくじっとしていた。が、沙耶が泣いているのを好機と見たのか、素早く振り向いて沙耶の手から拳銃を奪おうとする。</p><p>&nbsp;</p><p>　覚悟は決めていた。彼女は拳銃を奪われる前にその引き金を引いた。</p><p>&nbsp;</p><p>　ズダン！</p><p>&nbsp;</p><p>　田島の額に一センチほどの穴が開いた。背中からドサリと芝生の地面に倒れる。芝生に吸い込まれているためか、血はほとんど見られなかった。顔に着用したマスクもきれいなままだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　沙耶はそれを冷めた表情で見下ろし、しばらくして顔を上げた。黒々とした枝から咲く桜の花びらは淡いピンク色に染まり、太陽はその隙間からきらきらと日差しを投げかけている。全身をもぞもぞと動かして必死に幹をよじ登っていた毛虫は音もなく一瞬で小鳥の嘴にくわえられて連れさられる。その向こう側には有島中心部のビル群の景色が広がっている。なんて美しい世界なのだろう。そして、なんて儚い世界なのだろう……。</p><p>&nbsp;</p><p>　彼女は有島で出会った人々のことをひとりずつ思い返していった。</p><p>&nbsp;</p><p>「みんな、ありがとう。ごめんね……」</p><p>&nbsp;</p><p>　そして手に握っていた拳銃の銃口を自分のこめかみに向けた。涙で濡れた頬に吹き付ける風が少しだけ冷たかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12364480924.html">最終話</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12360821163.html</link>
<pubDate>Fri, 16 Mar 2018 21:20:06 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６８　ヒーローインタビュー</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12356385273.html">その６７</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　大きな寸胴鍋の中でカレーがぐつぐつと煮えていた。浩人が炊き出しでよく作っていた牛もつたっぷりのカレーである。</p><p>&nbsp;</p><p>　田中はお玉で少し掬い、小皿にとって味見をする。浩人と同じレシピで作っているはずなのだが、味に深みが足りないような気がする。なにが違うのかわからないが仕方がない。コンロの火を止め、キッチンの外に向かって呼びかけた。</p><p>&nbsp;</p><p>「すみません。誰か鍋を運ぶのを手伝ってもらえませんか」</p><p>&nbsp;</p><p>　すると、すぐにインド系の男二人がやってくる。寸胴鍋の両側の取っ手をひとつずつ持ち、キッチンの外に運んでいった。</p><p>&nbsp;</p><p>　田中もそれに続いてキッチンを出ていこうとするが、入り口で後ろを振り返る。窓から差し込む光がシルバーの冷蔵庫に反射して輝いている。その光景の中にかつてここで鼻歌交じりに調理をしていた浩人の姿を重ね合わせ、そしてふうっとため息をついた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――いったいどこへ行ってしまったのか……。</p><p>&nbsp;</p><p>　教会の外に出ると、すでに炊き出しのテントの前に長蛇の列ができていた。ひとりで次々と皿にご飯とカレーをよそって配っていった。</p><p>&nbsp;</p><p>「田中さん！」</p><p>&nbsp;</p><p>　ひとりの男が列に並ばずにやってきて声をかけた。</p><p>&nbsp;</p><p>「列に並んでくださいね」</p><p>「僕です。ビンです」</p><p>&nbsp;</p><p>　田中はカレーをよそる手を止めて顔を上げた。目の前に立っていたのはベトナム人青年のビンだった。かつては彼もここで炊き出しを受けていたのだが、今はベトナム料理レストランのシェフとして働いていた。</p><p>&nbsp;</p><p>「おや、ビン君。お久しぶりです。元気ですか？」</p><p>「おかげさまで。そんなことより今朝のニュースは観ましたか？」</p><p>「いえ、観ていませんが……」</p><p>「浩人君がニュースに出ていましたよ」</p><p>「え、ええッ！　彼がいったいなにをしたのですか？」</p><p>「安心してください。犯罪を犯したとかそういうことではありませんから」</p><p>「彼は今いったいどこに？」</p><p>「アメリカにいます」</p><p>「アメリカでなにをしているのですか？」</p><p>「そのニュースを見せたほうが早いですね。録画してあるんです」</p><p>&nbsp;</p><p>　ビンは肩から提げたバッグから携帯電話を取り出し、空中に長方形のホログラムの画面を映し出す。アメリカのニュース番組。映し出されたのは驚愕の光景だった。有島警察署を上空から捉えたものだが、その建物が迷彩服を着た大勢の兵士に包囲されていたのである。</p><p>&nbsp;</p><p>「なんですか、これは？」</p><p>「国連軍です。まだ昨日の出来事ですよ」</p><p>「いったいなにが……」</p><p>&nbsp;</p><p>　ビンは口元に人差し指を当てて画面を指差す。その続きに田中はさらに驚愕した。浩人が白い壁を背にして大量のカメラのフラッシュを浴びていた。</p><p>&nbsp;</p><p>「浩人君！」</p><p>&nbsp;</p><p>　田中は流れる英語に集中する。ヒロト・リュウザキという名前が読み上げられる。その英語をすべて理解できたわけではないのだが、彼は日本警察の犯行を暴き、アメリカに亡命してそれを伝えたヒーローなのだという。</p><p>&nbsp;</p><p>　――浩人君がヒーロー……？</p><p>&nbsp;</p><p>　情報量があまりにも多すぎて頭が少し混乱していた。ただ、浩人が無事に生きていたことに心の底から安堵していた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――よかった。本当によかった……。</p><p>&nbsp;</p><p>「あの、カレー……」</p><p>&nbsp;</p><p>　田中は目の前で炊き出しを待っていた男に声をかけられてハッと我に返る。慌てて皿にご飯とカレーを盛り付け、ビンに言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「そのニュースはあとでゆっくり観させてもらいますよ」</p><p>「ええ、では、また後ほど」</p><p>&nbsp;</p><p>　しばらくして行列が落ち着いてきたところで田中は空を見上げた。どこまでも透き通るような水色。テント内を吹き抜ける風にはもう春の匂いが感じられるようになっていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12360821163.html">その６９</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12358017643.html</link>
<pubDate>Tue, 06 Mar 2018 12:29:13 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６７　さらに戦う者達</title>
<description>
<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12353604260.html">その６６</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平はアリー像といっしょに落下した。ズシン！　とクルマに撥ね飛ばされたかのような衝撃とともに床に放り出される。</p><p>&nbsp;</p><p>　よろよろと立ち上がり、砕けたアリー像の向こう側に目をやった。血溜まりの中にもはや人としての原型をほとんど留めていない肉塊があった。</p><p>&nbsp;</p><p>「お、お、おええッ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　床の上にびちゃびちゃと吐瀉物を吐き散らした。口の中にわずかに酸っぱい味が残った。</p><p>&nbsp;</p><p>　――これを俺がやったのか……？</p><p>&nbsp;</p><p>　頭を抱えて蹲った。暁明に助けを求めようとした。が、彼がもう殺されていることを思い出してさらに深い絶望へと落ちていった。</p><p>&nbsp;</p><p>　――そうだ。沙耶は……？</p><p>&nbsp;</p><p>　成龙と行動を共にしているはずだが無事だろうか。すぐに彼女のもとへ駆けつけたかった。腰を上げて一階通路に通じる扉に向かって歩いた。そして脱力した。開け放たれた扉の中で人影がゆらりと揺れたのである。</p><p>&nbsp;</p><p>「畜生。もういいかげんにしてくれよ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　ひとりだけどこかに潜んでいたのか、それとも電気弾による麻痺から回復したのだろうか。そこに立っていたのは特殊治安部隊の隊員だった。武器などいくらでもあろうはずなのに素手の拳を前に構え、洋平に向かってくる。</p><p>&nbsp;</p><p>　ガツン！</p><p>&nbsp;</p><p>　黒い皮手袋をはめた拳が洋平の顔面にめり込む。派手に後方に吹き飛ぶが、ヒットの瞬間に上体を仰け反らせていたのでダメージは見た目ほど大きくはなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>「なんでだよ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　噴き出す鼻血を手の甲で拭いながら言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「なんで俺たちを狙うんだよ！　俺たちがなにをしたっていうんだ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　隊員は問答無用とばかりに拳を大きく振りかぶり、立ち上がった洋平に次のパンチを繰り出す。洋平はそれを左手で捌いてミドルキックを放った。</p><p>&nbsp;</p><p>「ぐ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　硬い装甲で守られて隊員はビクともしない。ダメージを受けたのは洋平の脛のほうだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　バックステップで距離をとった。打撃は効かない。ならば寝技で攻めるしかない。暁明からは打撃だけでなく寝技も少し習っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　隊員にじりじりと間合いを詰められて洋平は後退する。マスクで顔が覆われていて相手の表情をまったく読み取れないことに重圧を感じていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　しばらくしてまた隊員から攻めてくる。左のジャブ二発。ブロックした洋平の両腕がビリビリと痺れた。</p><p>&nbsp;</p><p>　右を大きく振りかぶった。洋平はそれを横にかわす。頬すれすれのところでブン！　と唸るような音が鳴る。洋平は隊員のその右腕を掴み、さらに相手の脇に自分の腕を差し込んで首の後ろを掴んだ。そして両足でぴょんと跳ねる。二人の体が床に転がった。</p><p>&nbsp;</p><p>　隊員の腕が横に真っ直ぐに伸びていた。洋平の腕ひしぎ十字固めが極まっていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　しかし、ここからどうすればいいのかわからなかった。もしこれが試合なら相手がタップすればそこで試合終了となる。が、これは試合ではなく実戦である。しかも相手を倒さなければ自分が殺されるリスクも孕んでいる……。</p><p>&nbsp;</p><p>　それならば骨を折るしかないではないか。相手の右手首を掴んだ両手にさらに力を込めて肘関節に圧力をかけた。ミシミシ……。隊員は苦悶の声ひとつ漏らさないが、このままいけばあともう少しで確実に骨は折れる。</p><p>&nbsp;</p><p>　――ダメだ……</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は力を緩めてしまった。隊員はその一瞬の隙を見逃さなかった。自分の右腕を素早く引き抜いて立ち上がり、洋平から距離をとった。</p><p>&nbsp;</p><p>　何度か肘の屈伸をし、それからシュッと素早くパンチを試し打ちする。どの程度のダメージになったのかわからないが、少なくともその動きにはなにも不具合が見られなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　二人は再び拳を構えて向かい合った。洋平は相手の攻撃をうまく捌きはするが、一発も打ち返さない。防戦一方になっていた。打撃は効かない。寝技を極めても相手の骨を折る覚悟がない。為す術がなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　やがて隊員のパンチが洋平の顔面にクリーンヒットした。壁まで吹き飛ばされて床にドスンと尻餅をついた。そこへ隊員がゆっくりと歩み寄ってくる。マスクのシールドが天井の照明の光を反射させて光る。洋平の前に仁王立ちした。</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は気付いた。きっと自分に足りないものは覚悟である。相手を殺す覚悟。そして自分も殺されるかもしれないという覚悟……。</p><p>&nbsp;</p><p>　立ち上がって拳を構えた。洋平が壁を背にしたため隊員は大振りのパンチを打たずにジャブを連打してくる。そのうちの一発が洋平の顔面を弾いた。続けざまに強烈な前蹴りが洋平の腹部に突き刺さる。</p><p>&nbsp;</p><p>「うぐッ。おえええッ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　胃が刺激されて吐き気が込み上げる。が、胃の中はすでに空になっており、吐瀉物はもう少しも出てこない。背中を壁にずるずると擦りながら腰を落とした。</p><p>&nbsp;</p><p>　ただ平穏に生きのびたいという欲求を捨てて命のやり取りの中に飛び込んでいかなければ勝てない。暁明は今までずっとそんな世界の中で生きてきたのだろうが、自分にはとてもそんな真似はできそうになかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　次第に意識が遠のいていく。</p><p>&nbsp;</p><p>　――沙耶……。</p><p>&nbsp;</p><p>　ギリッと歯を食いしばって顔を上げた。隊員の顎がガラ空きになっていた。左足でドスンと床を踏みしめ、膝のバネを伸ばすのと同時に右の拳を突き上げた。</p><p>&nbsp;</p><p>　ガッ！</p><p>&nbsp;</p><p>　渾身のアッパーカットが炸裂した。隊員は空中に吹き飛び、そして床に倒れる。マスクが脱げてコロコロと床に転がった。</p><p>&nbsp;</p><p>「ふうう……」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は倒れている隊員を睨みつけて荒く息を吐いた。暁明のような獣にはなれない。が、それでも自分の命を懸けて守らなければならないものがあった。</p><p>&nbsp;</p><p>　やがて隊員はゆっくりと体を起こす。</p><p>&nbsp;</p><p>「な、なんで……」</p><p>&nbsp;</p><p>　そして洋平を再び絶望の底に突き落とした。</p><p>&nbsp;</p><p>「なんでだよ！　ふざけんな！　畜生―――ッ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　マスクが脱げて露になった隊員の素顔。それは紛れもなく今までずっと行方不明になっていた健吾だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「どういうことだよ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平の必死の叫びなどお構いなしに健吾はパンチを繰り出してくる。洋平の顔面にヒットし、床に片膝をついた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――そういうことか……。</p><p>&nbsp;</p><p>　今まで謎だったことの一つひとつが一本の線で繋がっていく。アルンが失踪した。その後も有島の若者が次々と行方不明になっているという噂は耳にしていた。ただの偶然だろうとさほど気にしていなかったのだが、ついに健吾までいなくなってしまった。彼らはみな拉致され、肉体改造と洗脳を施されて特殊治安部隊にされていたのである。</p><p>&nbsp;</p><p>　片膝をついている洋平に健吾がフックを放ってくる。洋平はそれをブロックしてから健吾の体に抱きついて耳元で叫んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>「健吾！　頼むからもうやめてくれ！　目を覚ましてくれ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　それでも健吾は攻撃の手を止めない。洋平の腹部に何発ものパンチを見舞ってくる。洋平はズシン、ズシンと内臓にまで響くその痛みに耐えながら懇願を続ける。</p><p>&nbsp;</p><p>「俺がわからないのか！　洋平だよ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　健吾は洋平の首に両手をまわして腹部に膝を突き刺す。洋平は健吾から両手を離して崩れ落ちた。そこへ追い討ちの顔面への蹴り。両腕でブロックするが体ごと弾き飛ばされる。</p><p>&nbsp;</p><p>　すぐに起き上がって拳を前に構えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――洗脳を解くには……。</p><p>&nbsp;</p><p>　健吾の猛攻を捌きながらその方法を考えた。しかし、彼の目をじっと見つめているうちに気付くことがあった。</p><p>&nbsp;</p><p>　健吾の右ストレートにカウンターで左フックを合わせた。こみかみに直撃して今度は健吾のほうが床に片膝をつく。</p><p>&nbsp;</p><p>「ふざけんなよ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は健吾を見下ろして言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「おまえ、洗脳なんかされてないじゃねえかよ。もう洗脳解けてるじゃねえかよ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　どう見ても健吾の目付きは洗脳されているようには見えなかった。洋平のことをはっきりと認識し、自分の意思で攻撃していた。</p><p>&nbsp;</p><p>「説明しろよ、健吾！」</p><p>&nbsp;</p><p>　健吾はその問いかけに言葉ではなく拳を返してくる。洋平の顔面を弾いた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――沙耶のことか……。</p><p>&nbsp;</p><p>　そのことについて言い訳をするつもりは微塵もなかった。が、かといって、ただ一方的に殴られるつもりもなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>「うおおッ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　健吾の顔面を殴り返した。</p><p>&nbsp;</p><p>　お互いにまったく防御などせずに一発殴られては一発殴り返す。お互いの顔面が交互に弾け飛び、徐々に腫れあがっていった。</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は殴り合いながら過去を回想した。平坦な道のりではなかった。絶対に人には見せないようにしていたが、悔し涙を流したことは数知れなかった。応援してくれる人、理解してくれる人なんてひとりもいなかった。おまえがそんな夢を叶えるのはとても無理。世間からのそんな嘲笑を感じるだけだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　おまえには無理。おまえには無理。おまえには無理。おまえには無理。おまえには無理。おまえには無理。おまえには無理……。</p><p>&nbsp;</p><p>　そんなときに健吾と出会った。そして洋平に言った。</p><p>&nbsp;</p><p>「俺たちならきっとできるよ」</p><p>&nbsp;</p><p>　メジャーデビューをしていつか有島ホールでライブをしようと約束をした。そして今、その約束の場所で二人は壮絶な殴り合いをしていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　十発以上の健吾の拳を顔面に受けて洋平の膝がガクリと折れた。かろうじて持ちこたえた。健吾の膝もブルブルと震えている。限界が近いのは二人とも同じのようだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は腫れあがっている健吾の右目にさらに拳を叩き込む。健吾は尻から崩れ落ちる。これ以上ダメージを与えるのは危険なのではないか……。しかし、勢いづいている洋平の攻撃の手は止まらない。腰のひねりも加えた拳で健吾の顔面を狙った。</p><p>&nbsp;</p><p>　そのとき、健吾の顔からふいに怒りが消えて優しい表情になった。声を発することなく目だけで伝えてきた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――ありがとう……。</p><p>&nbsp;</p><p>　そこへ洋平の拳がめり込んでいく。グシャリ。そして吹き飛ぶ。床に仰向けに倒れてピクリとも動かなくなる。</p><p>&nbsp;</p><p>　静寂。</p><p>&nbsp;</p><p>「健吾……。健吾――ッ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平の悲痛な叫び声。駆け寄って健吾の上半身を抱き起こした。パワードスーツの装甲は硬くて冷たいが、顔は温かい。しかし、おそるおそる口元に手をもっていってみると、すでに息をしていなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12358017643.html">その６８</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12356385273.html</link>
<pubDate>Wed, 28 Feb 2018 10:52:37 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６６　ミルク</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12351951829.html">その６５</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>「洋平。洋平……」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスはそう呟きながら二階の通路を歩いていた。その名前を聞いたのはたしか沙耶からである。洋平のことを好きだと言っていた。あの男がその洋平なのか……。</p><p>&nbsp;</p><p>　機関銃を構えて警戒しながら壁の穴から客席に入った。床に転がる特殊治安部隊と暁明の死体。そして床に広がる血溜まり。生命の気配がなくなってしんと静まり返っている。四方に目をやって洋平の姿を探した。</p><p>&nbsp;</p><p>　パラ……。</p><p>&nbsp;</p><p>　少し離れたところで微かに音が聞こえた。ホールの柱に取り付けられたアリー像から破片が零れ落ちる音だった。銃弾を浴びてひび入っており、今にも崩れ落ちそうだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　客席のいちばん下まで下りてフェンス越しにホールを眺めた。彼女の奪われたナイフが落ちていた。アリー像のちょうど真下にである。</p><p>&nbsp;</p><p>　まさか洋平はあのナイフでおびき寄せてそこにアリー像を落下させようとしているのか。そんな幼稚な作戦が通用すると本気で思っているのか……。</p><p>&nbsp;</p><p>　――アホばかりだな……。</p><p>&nbsp;</p><p>　ならばあえてその罠にかかってやろうと思った。そして寸前のところで落下してくるアリー像をかわし、洋平が絶望の表情を浮かべたところでじっくりと殺してやるのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　フェンスを飛び越えようとその上に手をかけた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――ダメ……。</p><p>&nbsp;</p><p>　そのとき、リリスの殺意の衝動を食い止めようとする声が再び響いた。心を覆っていた闇の内側から光が突き破って飛び出し、闇ともつれ合い、ねずみ花火のように火花を散らしながらグルグルと回転する。</p><p>&nbsp;</p><p>「があああ……！」</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明の死体に機関銃を向けて乱射した。体に穴が開くがそこからはもう一滴の血も流れ出ない。しかし、それによって彼女の心は少しだけ落ち着きを取り戻した。</p><p>&nbsp;</p><p>　フェンスを飛び越えてホールに着地した。そして床に落ちているナイフに近づいていく。その途中、気付かれないようにちらとアリー像を見上げた。気配を感じる。あの背後に洋平は隠れているはずである。</p><p>&nbsp;</p><p>　ゆっくりと腰を屈めてナイフを拾った。</p><p>&nbsp;</p><p>　――さあ、拾ったぞ……。</p><p>&nbsp;</p><p>　少しの間。パラリと破片が落ちてきた。顔を上げた。片翼を失い、牙を剥いたアリー像が真っ逆さまに落ちていたいた。</p><p>&nbsp;</p><p>「くくッ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　これをよけることなど造作もない……はずだった。が、足を動かそうとした瞬間、膝がガクリと落ちる。</p><p>&nbsp;</p><p>「な……！」</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明から食らったボディブローがこのタイミングで足にきていたのだ。その間にもアリー像はぐんぐんと彼女に迫っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>「ちょっと待てよ！　足が動かないんだよ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　叫んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　アリー像がふっと消えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　次の瞬間、彼女は真っ白な空間にいた。周囲をグルリと見まわした。白いシーツに落ちた一滴の墨のように遠くのほうに小さな黒い点が見えた。それが少しずつ大きくなっていく。</p><p>&nbsp;</p><p>「嘘……」</p><p>&nbsp;</p><p>　徐々に露になっていくその姿にリリスは愕然となった。手に構えていた機関銃をポトリと床に落とした。パタパタと四肢を動かして彼女に向かって走ってきていたのは、彼女が子供の頃に飼っていた黒猫のミルクだった。</p><p>&nbsp;</p><p>　――なんでこんなところに……？</p><p>&nbsp;</p><p>　頭は混乱していたが、それでも体は勝手に動いていた。両膝を床につけて両腕を開いた。そこへぴょんと飛び込んできたミルクをぎゅっと強く抱きしめる。ミルクは小さな舌で彼女の頬をペロリと舐めた。ザラついた紙やすりのような感触。</p><p>&nbsp;</p><p>「ふあああああッ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは泣き崩れた。心を覆っていた闇がぬぐい去られて魂が剥き出しになる。</p><p>&nbsp;</p><p>　本当は戦いたくなんてなかった。本当はただこの温もりに触れていたいだけだった。ただそれだけだったのに……。</p><p>&nbsp;</p><p>「ひどいよ。ひどいよ……」</p><p>「……ごめんね」</p><p>&nbsp;</p><p>　腕の中のミルクが彼女を見上げて喋ったような気がした。いや、実際に声を出して喋ったわけではないのだが、その思いが直に彼女の心へ伝わってきていた。</p><p>&nbsp;</p><p>「寂しかった。ずっと寂しかった」</p><p>「もう戦わなくていいよ。いっしょに帰ろう」</p><p>「帰るってどこへ？」</p><p>「みんなのいるところへ」</p><p>「え？」</p><p>&nbsp;</p><p>　ミルクが真上に顔を上げた。リリスも顔を真上に上げると、すぐ目の前に鬼のような形相のアリー像があった。彼女に食らいつくかのように落下した。</p><p>&nbsp;</p><p>　グシャリ。</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスの骨が砕け、肉が潰れる音。アリー像がぐらりと揺れて床に倒れ、残っていた片翼が折れる。その下から彼女の死体が現れた。内臓と血の飛び散るあまりに無残な姿だったが、その口元は穏やかに微笑んでいるかのように見えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12356385273.html">その６７</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12353604260.html</link>
<pubDate>Sat, 17 Feb 2018 16:08:26 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６５　折れた片翼</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12351787586.html">その６４</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平の右手にはリリスから奪ったナイフが握られていた。その刃にべっとりと付着している血は特殊治安部隊のものだろうか、それとも……。</p><p>&nbsp;</p><p>　壁に開いた穴から二階の客席に戻った。さっきと違って電気がつけられているので、客席のひとつひとつやホールの奥に設置されたステージなどをはっきりと見ることができた。</p><p>&nbsp;</p><p>　客席の間に設けられた階段を下りていった。その途中、客席の間の床が赤く染まっているのを目にした。</p><p>&nbsp;</p><p>「お、おおお……」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は嗚咽を上げて跪いた。そこに仰向けに倒れていたのは暁明だった。彼の体から大量の血が流れ、その数段下の床まで赤く染めている。彼との思い出が一瞬のうちに思い起こされた。喧嘩のトレーニング、いっしょに囲んだ火鍋。</p><p>&nbsp;</p><p>　――どうやらサンタさんからのクリスマスプレゼントらしい……。</p><p>&nbsp;</p><p>　そして彼からもらった高級アコギ……。</p><p>&nbsp;</p><p>「ぐぐ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平は泣き叫びそうになるのを必死に堪えた。今は悲しみに浸っている場合ではない。こうしている間にもあの血も涙もない殺人鬼の女は迫ってきているのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　しかし、武器は彼女から奪ったナイフ一本しかなかった。これでいったいどうやって立ち向かえばいいのか。</p><p>&nbsp;</p><p>　客席のいちばん下の段まで下り、フェンス越しにホールを眺めた。右側の壁に填め込まれた柱のいちばん上に取り付けられたアリー像。銃撃戦の流れ弾を浴びたのだろう、その片翼は折れ、その胴体にもいくつかの銃痕が残っているのが見えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12353604260.html">その６６</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12351951829.html</link>
<pubDate>Sun, 11 Feb 2018 15:40:26 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６４　鼻血</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12350053988.html">その６３</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　まるで赤色のペンキが溢されたかのようにリリスの履いているエナメルパンプスの周囲に血が広がっていく。暁明の胸板に深く突き刺さったナイフをぬるりと引き抜くと、その刃にも血がたっぷりと付着していた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――さてと……。</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは生気を失った彼の体から腰を上げると、客席のフェンスから下のホールを見下ろした。暁明は洋平という名前を叫んでいた。おそらく彼の部下。もう逃げ出しているだろうが、もしまだこの有島ホールに残っているならいっしょに始末しておこうと思った。</p><p>&nbsp;</p><p>　フェンスをひょいと飛び越えてホールに着地すると、カツンと乾いた音が周囲に響いた。ステージの反対側にある扉から通路に出た。</p><p>&nbsp;</p><p>　二階まで吹き抜けになった通路の片側は全面ガラス張りになっている。そこから差し込む外灯の光で窓枠の影が床に長く伸びている。リリスの影がそれをいくつも跨いでいく。</p><p>&nbsp;</p><p>　やがて広々としたロビーに出た。受付のカウンターがあり、その近くに長椅子が並んでいる。天井からは大きな帆立貝のような傘を取り付けられた電球が幾重にも連なって吊り下げられている。入り口のガラス戸は砕かれ、その破片が周辺に散らばっていた。おそらく洋平はもうここから逃げ出しているだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスもそのガラス戸から外に出ようとしたときだった。背後から殺気を感じた。床に手を突いて横に転がると、その脇を一発の銃弾が掠めた。</p><p>&nbsp;</p><p>　振り向いた。二階に通じる階段のいちばん上に人影があった。そこに機関銃の銃口を向けるとその人影はフッと消えた。</p><p>&nbsp;</p><p>「くくくッ」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは笑った。いくらでも逃げ出すことはできたはずなのにいったいなぜ残ったのか。ボスの敵討ちのつもりだろうか。</p><p>&nbsp;</p><p>　――まあ、せいぜい楽しませてくれよ……。</p><p>&nbsp;</p><p>　彼女は右手にナイフ、左手に機関銃を構え、階段を一段ずつゆっくりと上がっていった。その途中、ナイフの先端から血の雫がポタリと垂れた。</p><p>&nbsp;</p><p>　二階の通路に上がると、そこに特殊治安部隊が何人も倒れていた。しかし、血を流しているのはリリスに襲われた少数の者だけであり、他の者はまったく血を流していない。暁明と洋平の二人はいったいどうやって彼らを倒すことができたのか。疑問に感じたが、今はそんなことはどうでもよかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　男子トイレと女子トイレが並んでいた。男子トイレのほうのドアを開けて入り、ドアの横にあった電気のスイッチを入れた。五台の小便器と三つの大便器の個室が蛍光灯に照らされた。</p><p>&nbsp;</p><p>「はあ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは落胆のため息をついた。個室のドアはすべて開け放たれている。が、いちばん手前の個室から洋平の気を感じることができた。そのドアの裏側に彼が隠れているのは明らかだった。なんという稚拙さだろうか。もう少し遊べると期待していたのだが……。</p><p>&nbsp;</p><p>　わざと足音を大きく立ててその個室に近づいた。このドアの裏側で洋平はいったいどんな恐怖の表情を浮かべているだろうか。見ることができないのが残念だった。</p><p>&nbsp;</p><p>　――これで終わりだ……。</p><p>&nbsp;</p><p>　ドアに向かってナイフを勢いよく振り下ろした。が、その切っ先はドアにほんの数ミリ食い込んだだけで止まった。</p><p>&nbsp;</p><p>　次の瞬間、ドアがバンと音を立てて閉じられた。リリスはそれに鼻頭を打ちつけ、その拍子にナイフを床に落としてしまった。</p><p>&nbsp;</p><p>　再び個室のドアが開き、中から洋平が姿を現す。拳銃をリリスに向けた。が、その引き金が引かれる前に彼女はその手を両手で掴んだ。</p><p>二人とも床に倒れてのもつれ合いになった。拳銃が床に転がった。洋平がそれに手を伸ばそうとしたところにリリスの蹴りが腹部に入る。洋平は床の上を転がり、そしてそのままの勢いでトイレから出ていった。</p><p>&nbsp;</p><p>　彼の走る足音が次第に遠ざかっていった。</p><p>&nbsp;</p><p>「クソが……」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは小さく舌打ちした。ドアに向けてナイフを振り下ろす瞬間、わずかに躊躇いが生じてしまった。どこかで洋平の名前は聞いたことがあるような気がした。彼を殺してはいけないような気がしたのである。</p><p>&nbsp;</p><p>　床に落としたナイフを探した。が、見つからない。どうやらさっきのもつれ合いのときに洋平に奪われてしまったらしい。</p><p>&nbsp;</p><p>　タイルの床に血がポタリと垂れた。リリス自身の鼻血。それは彼女の着ているメイド服も少しだけ赤く染めた。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12351951829.html">その６５</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12351787586.html</link>
<pubDate>Sat, 10 Feb 2018 22:22:18 +0900</pubDate>
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<title>東京二十四区　その６３　リリスのテリトリー</title>
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<![CDATA[ <p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12348552335.html">その６２</a>からの続き</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明は客席の下にうつ伏せになって身を隠した。その直後、目の前に銃弾の雨が降り注ぎ、コンクリートの床に爪痕を残して跳ね返る。銃弾の飛んできた方向に向かって拳銃を数発撃ち返すと女の攻撃の手が止んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明の経営する裏カジノを襲撃し、彼を瀕死にまで追い詰めた女。成龙が調べたところによると、その名をリリスといい、バンコクの裏社会で暗躍していた暗殺者であるという。いつかまたどこかであいまみえることになるだろうと予期はしていたが……。</p><p>&nbsp;</p><p>　拳銃の弾倉を対特殊治安部隊用の電気弾から通常のものへと素早く交換し、暗闇の中に耳を澄ました。リリスの気配は消えていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　どこから襲われるかわからないことに恐怖を覚える。が、恐怖の感情でただ闇雲に動けば死に直結する。怖いときこそ頭を冷静に保ち、最善の手を打たなくてはならない。まずはこの暗闇から脱出したいところだが……。</p><p>&nbsp;</p><p>　暗闇の中をリリスがゆっくりと近づいてくる気配を感じた。暁明が床に置いた手に交換した弾倉が触れた。ひとつの手が閃いた。</p><p>&nbsp;</p><p>　弾倉を掴んで遠くに投げると、それと逆の方向に駆けた。</p><p>&nbsp;</p><p>　カンッ。</p><p>&nbsp;</p><p>　弾倉が客席に当たる音。暁明は駆けながら拳銃を後ろに向けて何発か撃った。リリスからの銃弾が返ってくるが、そのときには彼は再び客席の下に身を隠していた。これで彼女からかなり距離を取ることができたはずである。</p><p>&nbsp;</p><p>「洋平―――ッ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　そして下のホールに向かって思い切り叫んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>「聞こえるか！　電気をつけてくれ！　どこかにスイッチがあるはずだ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　洋平からの返事はなかった。が、彼を信じるしかなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　これを聞いてリリスはどう出るか。暗闇は彼女のテリトリー。人食い鮫にとっての海のようなもの。おそらく電気をつけられる前に一気に勝負を決めにくるだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>　仰向けになって拳銃を胸の上で構える。暗闇の中に天井に張り巡らされた鉄骨がうっすらと見えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――洋平、早く……。</p><p>&nbsp;</p><p>　拳銃を握る手が徐々に汗ばんでいく。暁明の内側から発せられる恐怖と緊張は外側にまで溶け出し、空間をぐにゃりと歪めて見せていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　数分、それとも、ほんの数秒ほど経過したときだろうか。ふいに天井の鉄骨の一部が覆い隠された。リリスが飛んでいた。機関銃の銃口が暁明に向けられた。</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明は客席の脚を蹴ってコンクリートの床の上を滑りながら拳銃の引き金を引いた。暗闇の中を何発もの銃弾が交差した。</p><p>&nbsp;</p><p>「くッ……」</p><p>&nbsp;</p><p>　銃撃戦のあとに訪れた静寂の中に小さな呻き声が聞こえた。リリスに弾が命中したのか。いや、囮の可能性が高い。下手に動かないほうがいいだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>　しばらくしてパッと光が灯る。暁明はその眩しさに目を細めた。洋平が電気のスイッチを入れてくれたのである。</p><p>&nbsp;</p><p>　少しだけ上半身を起こして周囲を見渡した。少し離れた客席の隙間からモノトーンのドレスが覗いていた。さらに上半身を起こした。リリスが背中を見せて蹲っていた。ドレスの白地部分が血で赤く染まっている。どうやら本当に命中していたようである。</p><p>&nbsp;</p><p>　彼女にとどめを刺すために体を起こそうとした。</p><p>&nbsp;</p><p>　――いや、待てよ……。</p><p>&nbsp;</p><p>　しかし、そこで再び疑念が生じた。リリスは本当に負傷しているのか。これもまた罠ではないのか……。</p><p>&nbsp;</p><p>　束の間の逡巡。しかし、結局、打って出ることにした。リリスは現に目の前で負傷して血を流している。しかも背中まで向けているのだ。ここでとどめを刺さずにいつ刺すのか。いったいなにを迷う必要があるというのか。</p><p>&nbsp;</p><p>　体を起こして拳銃をリリスに向けた。が、そのときだった。この冬の時期にしては珍しい一匹の羽虫が彼女のほうへ飛んでいき、そして体をすり抜けた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――な……！</p><p>　暁明は咄嗟に顔を別の方向に向けた。そこにナイフを構えて飛びかかってくるリリスがいた。拳銃で迎撃するのは間に合いそうになかった。</p><p>&nbsp;</p><p>　ナイフがヒュッと振り下ろされた。</p><p>&nbsp;</p><p>　次の瞬間、リリスの体は遠くに吹き飛ばされていた。ナイフで切られた暁明の髪の毛が空中にハラハラと舞った。</p><p>&nbsp;</p><p>「ぐうう……」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは客席の間に倒れて苦しそうな呻き声を上げる。カウンターで渾身のボディブローを叩き込んでいた。そうすぐに立ち上がってくることはできないだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明は床に捨てた拳銃を広い、蹲って血を流しているリリスのほうに近づいていった。間近でよく見てみると、その体は少し透けており、その脇には携帯電話が置かれていた。それをグシャリと踏みつけて壊すと、リリスはフッと消える。携帯電話によって映し出されたホログラムだったのである。</p><p>&nbsp;</p><p>「こんなものに騙されそうになるとはな……」</p><p>&nbsp;</p><p>　次に本物のリリスのほうへ近づいていった。彼女は腹部を手で押さえながら苦しそうな顔を上げる。</p><p>&nbsp;</p><p>「おまえ、そんな顔をしていたのか」</p><p>&nbsp;</p><p>　カジノ襲撃のときは覆面で顔を隠していた。彼女の顔を見るのははじめてだった。頭には布花のカチューシャを付けており、服装の趣味も少し変わってはいるが、いかにもふつうの女の子という感じである。実際に戦っていなければ、彼女が凄腕の暗殺者だと言われても絶対に信じなかっただろう。</p><p>&nbsp;</p><p>「おまえ、強かったよ。俺がおまえに勝てたのは運が良かったから。ただそれだけだ」</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスに銃口を突きつけて訊いた。</p><p>&nbsp;</p><p>「最期になにか言いたいことはあるか？」</p><p>&nbsp;</p><p>　すると、彼女は顔を歪めて鬼のような形相で言う。</p><p>&nbsp;</p><p>「殺してやる。殺してやる……」</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明はゾッとした。やはり彼女はふつうの女の子なんかではない。いったいどんな過酷な人生を送ればこんな表情をするようになるのか。自分の部下を何人も殺されたことに対して激しい怒りを感じていた。が、それと同時に憐れみのような感情も湧いていた。とはいえ、ここで彼女を逃すつもりなどさらさらなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>「あばよ、リリス」</p><p>&nbsp;</p><p>　ズダン！</p><p>&nbsp;</p><p>　銃弾が放たれた。が、それはリリスに当たらずに客席にめり込んだ。発砲の直前に手首を握られてその向きを変えられていた。手首を捻られて暁明のほうに銃口を向けられそうになる。</p><p>&nbsp;</p><p>　ズダン！　ズダン！　ズダン！</p><p>&nbsp;</p><p>　暁明はその前に何発も立て続けに発砲した。</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスに金的を蹴り上げられ、暁明は床に跪いた。そこで拳銃を奪われてしまった。彼女は暁明の頭部に銃口を向けて引き金を引く。</p><p>&nbsp;</p><p>　カチッ。</p><p>&nbsp;</p><p>　しかし、空撃ち。弾倉はすでに空になっていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　床に落ちていた自分のナイフを拾い上げて再び暁明に襲いかかった。彼の喉元を目がけてナイフを横に振る。彼は背中を仰け反らせてそれをかわすが、その拍子に床に尻餅をついた。</p><p>&nbsp;</p><p>　リリスは暁明の体に馬乗りになり、ナイフを両手で握って振り下ろしてくる。暁明は彼女の手を掴んでそれを防ごうとする。が、彼女はナイフに自分の全体重を乗せてきており、その鋭い刃は彼の胸元に向かって徐々に下りていく。</p><p>&nbsp;</p><p>「死ね！　死ね！　死ね！　死ねよ、おまえ！」</p><p>&nbsp;</p><p>　狂気に歪むリリスの表情。剥き出した歯の隙間からふうふうと荒々しく息が漏れる。それはもはや人間の顔ではなかった。彼女がナイフに乗せているのは体重だけではない。その背後に黒い靄が立ち込め、それが彼女の背中を後押ししているのが見えた。</p><p>&nbsp;</p><p>　――ダメだ。こいつの恨みには勝てない……。</p><p>&nbsp;</p><p>　ナイフはゆっくりと下りていく。やがてその刃は暁明の胸板にスッと入っていき、肋骨の間を擦り抜け、そして心臓にまで到達した。</p><p>&nbsp;</p><p>　<a href="https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12351787586.html">その６４</a>へ続く</p>
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<link>https://ameblo.jp/kobayashiteiji/entry-12350053988.html</link>
<pubDate>Sun, 04 Feb 2018 15:11:14 +0900</pubDate>
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