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<title>つらつらと書き物（注：自己満足による）</title>
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<description>時代考証無視の歴史書き物（小説とは呼べない代物）をつらつらと。時々嵐のことをつらつらと。</description>
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<title>書き物　２１</title>
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<![CDATA[ <p>　上宮王家という名の持つ力を、入鹿は改めて見直す思いだった。これが普通の皇族であれば、官職からはずし、財を没収すれば勝手に没落していく。しかし、同じことをしても、情王家の場合は名が残るのである。どうしても抑え込みたいのであれば、厩戸皇子の長子たる現当主を亡き者にするしか方法はないだろう。</p><p>　入鹿は、かつて一つ屋根の下で暮らした山背王の顔を思い浮かべてあ。厩戸皇子の正妃に子がなかったため、蘇我大臣馬子の娘を母に持つ山背王は、厩戸皇子の後継として周囲に特別な目で見られてきた。それがいけなかったのか、いつの頃からか自分を特別な人間だと思い始めたようである。</p><p>　兄弟のいない入鹿は山背王を兄のように思っていたし、あちらも自分の弟たちよりも入鹿と気が合うようであった。</p><p>　斑鳩宮などに行かねばよかったのだと、入鹿は思う。あのままずっと蘇我の館でともにいれば、今頃お互いに助け合っていたことだろう。</p><p>　―　助け合う。</p><p>　入鹿はふっと笑った。同母姉の子である山背王に情がある、と言った蝦夷の心情をいぶかしく思ったりもしたが、なるほど、自分の中にもかつて兄弟のように過ごした山背王への情があるらしい。</p><p>「入鹿殿、なにか楽しいことでも」</p><p>　刺すような口調に、入鹿は声の主を見た。いつの間に来たのか、中大兄皇子であった。</p><p>「別に」</p><p>　入鹿は目を細めて中大兄皇子をみおろした。入鹿から見れば、まだ成長途中の中大兄皇子はいろいろな意味で見下ろす存在であった。そのような入鹿の視線に耐えられなくなったのか、中大兄皇子は宝大王に視線を移した。</p><p>「私も今宵は叔父上と参ります」</p><p>「あ、いや」</p><p>　すぐに遮ったのは内麻呂であった。</p><p>「軽皇子はお出ましにはなりません。大王のおそばで大王をお守りするのも大事なことですので」</p><p>「しかし、皇族の者がだれも出ぬのはいかがなものか。叔父上のお出ましがないのであれば、なおさら私が参ろう」</p><p>「私も参るぞ」</p><p>　突如軽皇子が大声を放った。</p><p>「軽皇子、なりませんぞ」</p><p>「年若い中大兄皇子が参るというのに、大王の名代の私が参らぬわけにはいくまい」</p><p>　こうふんした様子の軽皇子に、舌打ちせんばかりの内麻呂を見て、入鹿は大声で笑い出しそうになった。</p><p>　これで今宵斑鳩宮を攻めるのは、大王の軍となった。それまでは蘇我の私的な軍が全面に出ていたため、朝参の場で詔が出ているとはいえ、下手をすると蘇我にすべての責任がかぶせられかねない状況であったのだ。</p><p>　内麻呂にしてみればあくまでそうしたかったであろう。そうすれば、上宮王家を潰した上に、蘇我に泥をかぶせることができる。その分阿部が政治の中枢に食い込む可能性が出てくる。それを、血気盛んな年頃の甥につられて自ら大王の名代を名乗るとは、軽皇子とはここまで中身のない皇子であったのか。姉の宝大王のほうがずっと人間的には大きいではないか。内麻呂は手を携える相手をまちがえたな、と入鹿は笑った。</p><p>　入鹿はまた、中大兄皇子を見た。頬を紅潮させ、目を輝かせている。最近は旻の講堂ではなく、請安の行動に鎌足と通っていると聞く。それは、鎌足が中大兄皇子に、この皇子に賭けようと思うほどの何がしかを見出したということか。</p><p>　しかし、入鹿が中大兄皇子に感じるのは、その器の小ささである。本人も周囲も、その血統ゆえに必要以上に器が大きいと思いたがっているようだが、若いというだけでは片づけられない行動の浅はかさが見える。上に立つ者は、言葉も行動も一度起こしてしまえば訂正はおいそれとできない。そこを自覚して一挙手一投足を考えねばならない。それなのに、軽皇子といい中大兄皇子といい、この軽挙はどうだ。</p><p>　大海人皇子が大王になればすべてが落ち着く。自分が磨き上げてきた珠を思い浮かべ、入鹿は満ち足りた気分になった。</p><p>　中大兄皇子は、入鹿の視線から自分がどのような評価をうけたか一瞬で感じ取った。それはそのまま入鹿への憎悪となった。</p><p>「中大兄、そなたは自分の部屋に戻りなさい」</p><p>　宝大王のきつい調子に、中大兄皇子はしぶしぶ退いた。</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12223085299.html</link>
<pubDate>Sat, 26 Nov 2016 14:50:01 +0900</pubDate>
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<title>ハピコン</title>
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<![CDATA[ <p>２０日に東京ドーム行ってきましたよ～。</p><p>１年ぶりの嵐くんたち。</p><p>一緒に行った友人の方がテンション高くて</p><p>私の数倍も楽しむ準備が万端整っていました。</p><p>&nbsp;</p><p>自分たちのゲート目指して歩いていると</p><p>可愛く持ちものや着ているものをでこっている人たちがたくさんいて、</p><p>それを見るだけでもものすごく楽しかったです。</p><p>&nbsp;</p><p>あっという間に売り切れたパーカー。</p><p>背中のＡＲＥ　ＹＯＵ　ＨＡＰＰＹの文字を</p><p>赤のスパンコール</p><p>黄色のスパンコール</p><p>ででこっている二人のかわいい女の子を発見。</p><p>双子コーデでそれぞれ髪飾りも</p><p>赤と黄色でまとめていました。</p><p>翔ちゃんとニノね。</p><p>&nbsp;</p><p>とても可愛かったし似合っていたので写真撮らせてほしかったけれど</p><p>知らないおばさん二人が声かけても怖いだけかな～と、スルー。</p><p>後から、やっぱり撮らせてもらえばよかったな、と後悔。</p><p>それくらい可愛かったです。</p><p>若いっていいね。</p><p>&nbsp;</p><p>ところどころに</p><p>「落選しました。チケット買います。譲ってください」</p><p>と看板持った方々が。</p><p>オーストラリアだかオランダだったかからの留学生二人組もいて、</p><p>驚きました。</p><p>&nbsp;</p><p>人間ウオッチに気を取られていたら</p><p>写真を全く撮らなかった。</p><p>で、ゲートに入る前にとりあえず一枚。</p><p>&nbsp;</p><p><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20161126/14/kotetsugenki/e2/d8/j/o1836326413807109203.jpg"><img width="400" alt="" contenteditable="inherit" height="711" src="https://stat.ameba.jp/user_images/20161126/14/kotetsugenki/e2/d8/j/o1836326413807109203.jpg"></a></p><p>&nbsp;</p><p>私は２１番ゲートでした。</p><p>&nbsp;</p><p>前回上手だったので今度は下手で見れる、</p><p>と思っていたら私の勘違い。</p><p>今回も上手側でした。</p><p>ニノの立ち位置って下手が多いから</p><p>下手に行きたかったよ～　(´・ω・`)</p><p>&nbsp;</p><p>今回のコンサートは花道が横になくて、</p><p>トロッコがたくさん出ました。</p><p>おかげで真近で５人を見られましたよ　ヾ(＠^▽^＠)ﾉ</p><p>&nbsp;</p><p>友人が力のこもったうちわを持っていたおかげで</p><p>おーちゃんからファンサを貰いました　ﾜｰｲヽ(ﾟ∀ﾟ)ﾒ(ﾟ∀ﾟ)ﾒ(ﾟ∀ﾟ)ﾉﾜｰｲ</p><p>私もおこぼれおこぼれ。</p><p>驚いたのは、翔ちゃんとがっつり目があったこと。</p><p>見つめられる、っていうより睨みつけられた？(;^_^A</p><p>嬉しいっつうよりも</p><p>その予想だにしなかった目力に恐怖を覚えました。</p><p>いやぁ、侮っていた。</p><p>櫻井翔、恐るべし。</p><p>&nbsp;</p><p>直前の円陣の掛け声も聞けたし</p><p>生の歌も聴けたし</p><p>生のダンスも見れたし。</p><p>幸せな３時間でした。</p><p>&nbsp;</p><p>ニノのソロの時は、</p><p>やはり熱愛のことが尾を引いていて</p><p>異様な雰囲気でした。</p><p>歌もダンスも引き込まれるほどよかったんだけれど</p><p>とにかく空気が重い(￣_￣ i)</p><p>&nbsp;</p><p>それをバーンと一瞬で明るいもの楽しいものに変えてくれたのは</p><p>相葉ちゃんでした。</p><p>すごいね　v(｡･ω･｡)ｨｪｨ♪</p><p>&nbsp;</p><p>５人とも自分のソロの時は自分色で５５０００人を染めてしまう。</p><p>５人が揃えば嵐色にする。</p><p>たいしたものです。</p><p>&nbsp;</p><p>ただ、既にお疲れが見えていて、</p><p>やっぱ３０代はおじさんねぇと思いました。</p><p>５人とも体に気をつけて息長く活動してよ。</p><p>&nbsp;</p><p>終演後外に出ても相変わらずの人混み。</p><p>嵐ちゃんロゴの看板前で写真撮りたかったけれど無理。</p><p>横の柵のシートをめくって片鱗を写しました。</p><p>おばさんは体力ないので諦めも早いのです。</p><p>&nbsp;</p><p><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20161126/14/kotetsugenki/c4/83/j/o3264183613807117388.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20161126/14/kotetsugenki/c4/83/j/o3264183613807117388.jpg" width="420" height="236" alt=""></a></p><p>&nbsp;</p><p>とにかく幸せな一日でした。</p><p>ペンラ振りすぎて筋肉痛になったけれど。</p><p>&nbsp;</p><p>また来年も行きたい（切実）</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12223080408.html</link>
<pubDate>Sat, 26 Nov 2016 14:28:18 +0900</pubDate>
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<title>書き物　２０</title>
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<![CDATA[ <p>　民の間で、山背王の評判が上向きである。</p><p>　山背王は仏の教えに沿うことだからと、貧しい人々に定期的に粥を施していた。飢饉以外の時にまで施しをするというのは、宝大王を始めとした支配階級には人気取りとしか見えなかった。</p><p>　皇族や豪族には無意味なこととして受け止められていたことも、一日一日を体をひきずるように生きている人々には、熱い支持をみって迎えられていた。それは、山背王こそ次の大王にふさわしいという声になっていった。</p><p>「入鹿、なんとかならぬのか」</p><p>　宝大王は尖った声を放った。そばには軽皇子と阿部内麻呂も控えている。</p><p>「山背王は蘇我にとっては血の濃い皇子じゃ。大海人ではなく山背を次の大王にと考えているなら、このようにまわりくどいことをして、民の声を引き出さずともよかろう」</p><p>　入鹿は苦笑した。</p><p>「大海人皇子を大王にと誰よりも強く願っているのは私です。そのことは、大王こそがご存知でしょうに」</p><p>「だから、山背をどうにかせよと申しているのだ」</p><p>「どうにかとは」</p><p>　軽皇子が口を開いた。</p><p>「山背王は、仏の道に沿うた行動だと申しているとか。仏の道に沿うておれば秩序を乱してもよいということはあるまい」</p><p>「さよう、私も山背王の施しには疑問を持っております。飢饉のときにはなるほど、必要な処置です。けれども、常時働かずとも食える場所を作ってしまっては、働かぬ者も出てきます。これはゆゆしきこと。大王もそうお考えですか」</p><p>「無論じゃ」</p><p>「では、朝廷の意向として山背王に、無用な施しをせぬようにと申し伝えましょう。それでよろしいですか」</p><p>　入鹿の言葉に宝大王、軽皇子、内麻呂はばつ悪そうに黙ってしまった。</p><p>　三人が何を望んでいるのかは、入鹿にはよくわかっていた。三人は、蘇我を先頭に押し出して上宮王家をこの世から消したいのだ。だれもが上宮王家の背後に蘇我氏を見る。上宮王家に手を出した時の蘇我の報復が怖い。だが、蘇我が、蘇我の血の結集ともいうべき上宮王家を討てばどうか。</p><p>　宝大王は大海人皇子が大王になる前に、目の上のたんこぶのようなものを一掃してすっきりしたいらしい。軽皇子と内麻呂は、少しでも大王位に繋がる有力皇族を減らしたい。そんな思惑を呑み込んで実行できるのは、蘇我しかいないのだ。</p><p>　だが、入鹿は上宮王家を討つことに反対であった。本当に邪魔であれば、だれに言われずとも行動に出る。しかし、疎まれ忘れ去られようとしている存在にすぎぬではないか。山背王など、もう放っておけばよいのだ。近頃では朝廷にも顔を出していないではないか。</p><p>　民に粥の一杯を恵んだとてなんになろう。民の人気が集まりそうだという危機感を、宝大王たちが抱く方がおかしい。そのような一時しのぎなど、民がありがたがるのはその場かぎりだ。もっと根本的な解決がなければ、民が本当になびくことはない。弱い存在ではあるが、民というものはねはしっかり張っているものなのである。</p><p>　それでも山背王を討ちたいというのであれば、勝手にやればよいのだ。手を出さぬかわりに口も出さぬ。入鹿は山背王をどうこうする仲間に加わる気は毛頭なかった。</p><p>　入鹿の態度に痺れをきらしたのか、軽皇子が口を開いた。</p><p>「蘇我殿、それだけでは弱い。そのようなことはもう何度も山背王に伝えてある。それを無視しているのだ。これは立派な大王への反抗だ」</p><p>「ですから、皆さま方は私に何をせよとおっしゃるのですか」</p><p>「山背王を成敗するように」</p><p>　宝大王がはっきりと声を出した。</p><p>「それは詔ですか」</p><p>　詔として大王の命令の下行動しなければ、上宮王家討伐は蘇我氏ひとりが悪者になってしまう。</p><p>「そうです」</p><p>「なるほど。では、もうひとつ。山背王のみですか。それとも上宮王家すべてが対象ですか」</p><p>「山背王のみです」</p><p>　さすがに女子供までどうにかしたい気がない宝大王は、即座に言った。軽皇子と内麻呂が不満そうな顔をした。</p><p>「では、そのことを朝参の場で詔としてお申し付けください。さすれば、皆大王のご意志に沿いましょう」</p><p>「わかった」</p><p>「総大将は軽皇子ですかな」</p><p>「当然だ」</p><p>　軽皇子がぐいっと頭をそらした。内麻呂が舌打ちせんばかりの顔をした。</p><p>　内麻呂は、できれば詔としてではなく、大王の内々の話しから蘇我に山背王を打たせたかったのだ。そうすれば、蘇我だけが上宮王家討伐という泥をかぶることになる。それなのに、朝参の場で公に詔として出され、軽皇子が先頭に立つとあっては、話しが違う。内麻呂のそんな考えがありありと読み取れた入鹿は、笑いを禁じ得なかった。軽皇子は、蘇我のみに任せておけるかと言わんばかりに、姉上お任せ下さい、などと胸を叩いている。事の重大さがわかっていないようだ。理由なき理由をもって、上宮王家を攻めようと言うのだ。普通の感覚であれば、参加を迫られても逃れようとするものだ。入鹿は、そこに軽皇子の浅さを感じた。</p><p>　大海人皇子には決して泥をかぶせられない。当日は一歩も宮から出ぬよう言っておかねば。いや、わざわざ自分が言わなくても、大海人皇子なら宮の守りを固めて外には出ぬだろう。</p><p>　興奮気味の軽皇子を中心に、山背王討伐の相談が始まった。</p><p>&nbsp;</p><p>　同じころ、刀十野老は竹音と白鷺女王を連れて葛城里を出立しようとしていた。</p><p>「年を越してからではいけなかったのか」</p><p>　刀十野老は、目の前に広がる刀十野原と寒空を交互に見ながら、だれに言うともなく言った。</p><p>「新しい年を皆で迎えよう、との山背王さまの仰せでしたので」</p><p>　竹音は祖父を労わるように言った。</p><p>「だからといって、こう年も押し迫ってからというのもな」</p><p>　ついに山背王に押し切られ葛城の里を出ることになったことに、刀十野老はどうしても不快感を拭えなかった。斑鳩宮の目と鼻の先に館を建て、何かあればすぐに竹音と曾孫の白鷺女王を迎えるつもりである。</p><p>「よいな、我慢などする必要はない。すぐ近くにわしがおる。白鷺とともにいつなりと戻って参れ」</p><p>「わかっております、おじいさま」</p><p>　何度も繰り返されてきた言葉に、竹音はついつい笑ってしまう。</p><p>「私は幸せものですわ。おじいさまがいて下さるので、安心して斑鳩宮へ参れます」</p><p>「いらぬ苦労をしに行くとわかっておるのに」</p><p>　ぶつぶつ言いながら、刀十野老は馬に跨った。竹音も、白鷺女王を乳母から抱き取ると、輿に乗った。</p><p>　一行は動き出した。見納めとなる刀十野原を見渡すと、竹音はそと涙を拭った。これからどのような生活が待ち受けているのか。けれども、白鷺女王を父を知らぬ子として育てたくはなかった。ただその一念からの斑鳩行きである。</p><p>「白鷺、お父さまのところへ参りますよ」</p><p>　もう一度、慣れ親しんだ風景をわが子にも見えるようにと、竹音は向きを変えた。白鷺女王は大きな目を開き、風なびく豊かな翠を見つめた。</p><p>　斑鳩宮に着いたとき、山背王が宮の前で待ってくれていた。門の前で迎えてくれる見慣れた優しい笑顔を見た時、さすがに心細さを覚えていた竹音は、白鷺女王をさらに強く抱きしめながら涙を浮かべた。</p><p>「竹音、よう参った」</p><p>「山背王さま」</p><p>「おお、白鷺はよう眠っておるな。母の胸はよほど居心地よいとみえる」</p><p>　愛おしげにわが子の頬をつつくと</p><p>「刀十野老はどちらだ。お元気でいらっしゃるか」</p><p>　と目で探し、馬から降りようとしている老に近寄った。</p><p>「私のわがままをお聞き入れくださり、感謝いたします、老」</p><p>　その言葉に、刀十野老も少し気持ちが落ち着いた。</p><p>「山背王さま、皆さまお疲れでしょうし、お寒うございましょう。早う中へ」</p><p>　山背王の後ろに控えている多くの女たちの中で、最もきらきらしい様子の女性が軽やかに言った。</p><p>「ああ、そうだな。つい嬉しくてな」</p><p>　山背王はその女性を横に差し招いた。</p><p>「正妃の春米女王だ。わからぬことはなんでも聞くとよい」</p><p>　竹音は深々と礼をした。春米女王はにっこり笑うと、ささと皆を宮の中へ招いた。</p><p>　一室に、斑鳩宮に住まう上宮王家の人々が集まっていた。山背王の妃やその子たち、弟王たちとその妃たち、子たち、とあまりの数の多さに竹音は目眩がした。</p><p>　自分にあたがわれた部屋に入ると、膝から力が抜けたようにへたりこんでしまった。想像以上に大変なところへ来たと、竹音は現実を噛みしめた。</p><p>「竹音、大丈夫か」</p><p>「媛さま、お気を確かに」</p><p>　刀十野老と白鷺女王の乳母が、慌てて竹音に駆け寄った。</p><p>「大丈夫です。ちょっと、あまりに驚いて、ごめんなさい」</p><p>　無理もない、と老と乳母は一様にうなずいた。</p><p>「明日か明後日には中大兄皇子に使いを出そう。飛鳥に出てきたことをお伝えせねば」</p><p>「さようでございますね」</p><p>　懐かしい名を聞いて、斑鳩宮に到着して初めて竹音はほっとした表情を見せた。</p><p>　だが、その時既に大王の兵が斑鳩宮を襲うべく、斑鳩宮へ向かっていた。</p><p>　翌日、中大兄皇子のもとに使いを出そうとした刀十野老を、山背王は止めた。</p><p>「今は危ないので、何人も外に出すことはできない」</p><p>「危ない。危ないとは」</p><p>　刀十野老は事態が呑み込めず、驚いて聞き返した。</p><p>「今、兵がこの宮を囲んでいる」</p><p>「ええっ」</p><p>「私がみ仏の教えに沿った行動をするのが、大王や幾人かの者たちの気に入らぬらしいのだ。時々このように、これ見よがしに宮を兵で囲むのだ」</p><p>　刀十野老は、驚きとともに怒りが込み上げてきた。</p><p>「さようなことは度々あるのですか」</p><p>「まあ、我々が慣れてしまうくらいには。こちらが動かねば向こうも何もできぬ。一両日中には引き上げる。ただ脅したいだけなのだ」</p><p>「そのような状況であることを、なぜお隠しになっていたのか」</p><p>「隠してなどおらぬ」</p><p>　刀十野老の権幕に、山背王はたじろいだ。</p><p>「竹音は体が弱いのです。白鷺女王とてまだ赤子。兵に囲まれるのに慣れてしまうような生活では、体がもちません」</p><p>「常、ということではない。老、落ち着け」</p><p>「当然です。兵に宮を囲まれるなど、常にあってはならぬことです」</p><p>　もっと何か言ってやりたかったが、刀十野老はぐっと口を結ぶと、山背王の前から退いた。中大兄皇子に出す文を書き直すことにしたのである。</p><p>　同じころ、宝大王のもとに軽皇子、入鹿、内麻呂が集まっていた。</p><p>「ほんに、女子供には危害を加えまいな」</p><p>「山背王のも危害を加えようなどとは思っておりませぬ。さように御仏の道を歩まれたければご出家いただいて、ご存分にどうぞと申し上げに参るだけです。このまま山背王に好き勝手させていては、世の中が割れぬようにと大王がお立ちになった意味がございません。民の人気取りも大概にしていただきたいと、お諫め申し上げるだけです」</p><p>　軽皇子も、その通りです姉上、とうなずいて見せた。ただ入鹿のみが冷笑を浮かべていた。</p><p>「もしお聞き入れ下さらないときは、御仏のそばに行っていただくということですかな」</p><p>　入鹿がそういうと、三人はひきつった顔をした。</p><p>　</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12219027958.html</link>
<pubDate>Sun, 13 Nov 2016 14:01:26 +0900</pubDate>
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<title>書き物　１９</title>
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<![CDATA[ <p>　大海人皇子は美弥を伴って飛鳥寺を訪れた。</p><p>　外国の使節をもてなす槻の樹広場を挟んで、西に蘇我蝦夷入鹿の館がある甘樫の丘があり、東に飛鳥寺がある。飛鳥寺には寺司として蝦夷の兄・善徳がいた。</p><p>　善徳は大海人皇子と美弥を幼い頃より可愛がっており、二人もなついていた。</p><p>　槻の樹広場に面した西門から二人は入った。先導が来訪を告げる前に、善徳は奥から出てきた。</p><p>「おや、愛し子ふたりがやってきた」</p><p>　輿から出た美弥は、嬉しそうにそばに駆け寄った。大海人皇子も馬から降りると、にこにこしながら歩み寄った。</p><p>「雨乞いが成功しましたな。お祝い申し上げます」</p><p>「ありがとう」</p><p>　二人は中金堂に誘われ、大仏に手を合わせた。仏像の前にいると気持ちが落ち着くのは、幼い頃より身近にあったせいだろう。</p><p>　美弥はいつまでも手を合わせている。ふわりとした大きな花が仏の前にいるようで、善徳も大海人皇子も黙って美弥の祈りが終わるのを待った。</p><p>　祈りが終わると講堂に場所を移した。</p><p>「柑子の皮を干して、蜜をからめたものだ。食べてごらん」</p><p>　美弥は嬉しそうに指でつまんで口に放り込んだ。ぱっと顔がほころぶ。</p><p>「美味しい？」</p><p>　大海人皇子が聞くと、美弥は顔中を笑みで満たしてうなずいた。促されるままに口にいれると、ほろ苦さと甘みが豊かな香りとともに口に広がった。</p><p>「おいしい」</p><p>　大海人皇子が思わず声をあげた。それを善徳は満足げに見守った。</p><p>　善徳に見守られていると、大海人皇子はほっとする。ここにいる時は素のままでいられる。</p><p>　―　自分も僧となり、ここで暮らせたら。</p><p>　そう思うことがよくある。むろん叶わぬことだ。</p><p>「雨乞いの成功で、民衆の宝大王への信頼はぐんと増しましたな」</p><p>「そうですね。正直母上にあのようなお力があるとは思いませんでした。偶然ですかね」</p><p>「大王の雨乞いは、むやみに行われるわけではありません。雨の降る日は天文学を納めた者ならおおよそですが、知ることができる。そういう者を蘇我は抱えております。しかし必ず、というわけではない。その足りない部分を大王の神性に頼るわけです」</p><p>「母上にその神性はあるのか」</p><p>「あります」</p><p>　きっぱりとした口調に、大海人皇子はほほ笑んだ。</p><p>「でも、私は知っているよ。本当に雨を降らせたのは、布刀だろう」</p><p>　善徳は肯定も否定もしない。</p><p>「ふふ、ここで気を遣わなくてもいいのに」</p><p>「布刀のように純粋に神とのみ対峙できるのは、幸せというものです」</p><p>　善徳は皺に埋もれた眼を細めて言った。</p><p>「善徳殿は、結局は政から完全に離れることはできないのだろう。それなら、蝦夷に当主の座を譲らずに自らが主になった方がよかったのではないのか」</p><p>　大海人皇子の問いかけに善徳は笑った。心底おかしそうな笑いであった。</p><p>「では、あなたはどうですか。皇子も大王になりたくないのでしょう」</p><p>　大海人皇子はむっと黙ってしまった。</p><p>「私･･･私が大王になりたくないのは、入鹿がいるからだ」</p><p>　柑子の蜜づけを頬張りながら、美弥は視線をあげた。</p><p>「入鹿こそ大王になるのにふさわしい。私が大王になる必要がないじゃないか」</p><p>「でも、お兄さまは皇族ではありませんよ」</p><p>　無邪気な美弥の口調に、大海人皇子と善徳は顔を見合わせて笑った。</p><p>「そうだな。美弥が正しいよ」</p><p>　美弥が差し出す皿からひとつつまむと、大海人皇子は口に入れた。</p><p>「うまいな。うん、だれもがこんなうまいものを食える国にしたいものだ</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12210370018.html</link>
<pubDate>Sun, 16 Oct 2016 23:01:18 +0900</pubDate>
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<title>アーサーミラー「るつぼ」</title>
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<![CDATA[ <p>久しぶりに堤真一の舞台を観てきました。</p><p>アーサー・ミラー「るつぼ」</p><p>&nbsp;</p><p>とてもバランスのいい舞台でした。</p><p>登場する俳優さんたちの力がほぼ均一で、</p><p>おもわず肩透かしくらうような下手な人が</p><p>まぎれこんでいなかった。</p><p>だから芝居の世界に没頭できました。</p><p>&nbsp;</p><p>急に思い立ってチケットを取ったので、</p><p>今まで経験したことのないほどの悪い席でした。</p><p>目の前に手すりがあって、それが邪魔で舞台が観えない。</p><p>けれども、それすら忘れ去れてくれるほどの</p><p>すばらしい内容でした。</p><p>&nbsp;</p><p>芝居の下地となっている「セイラムの魔女裁判」は</p><p>名称は知っていましたが</p><p>どのようなものか詳細は知りませんでした。</p><p>今でも実際の事件がどのようなものなのか、</p><p>よく理解していません。</p><p>&nbsp;</p><p>「るつぼ」を観た私の受け取り方は、</p><p>黒木華演じるアビゲイルが</p><p>セイラムという街を自分の独占欲にかられた愛情で</p><p>かきまぜてしまう、</p><p>それが結果的には欲してやまなかった</p><p>堤真一演じるジョンをも絞首刑にしてしまう。</p><p>アビゲイルはただジョンが欲しかっただけ。</p><p>ジョンの妻松雪泰子演じるエリザベスから</p><p>奪い取りたかっただけ。</p><p>周囲を見ることのできない暴走した愛情が、</p><p>裁判という公的な方法を得て</p><p>周囲をなぎ倒していく。</p><p>&nbsp;</p><p>アーサーミラーがこの芝居を書いた時の時代背景などを</p><p>考え合わせると</p><p>いろいろ社会的示唆や感情が盛り込まれているのでしょう。</p><p>&nbsp;</p><p>ただ私の感想は単純です。</p><p>&nbsp;</p><p>宗教はなぜ犠牲を求めるのでしょう。</p><p>神さまは、それほどに懐の狭いものですか。</p><p>神さまは、それほどに寛容さをもってはいないのですか。</p><p>&nbsp;</p><p>アビゲイルはジョンを愛した。</p><p>エリザベスはジョンを愛して守ろうとした。</p><p>それぞれの登場人物がそれぞれ愛している人を持っていて、</p><p>それぞれの立場にいる。</p><p>それがこれほどまでに噛みあわないと、</p><p>これほどまでに残酷な出口のない状態になってしまうのか。</p><p>&nbsp;</p><p>人間は愚かしい。</p><p>そして、宗教は何のためにあるのか。</p><p>&nbsp;</p><p>己の死か誇りを守るか</p><p>ジョンが最期に迫られた選択を</p><p>自分だったらどちらにするのか。</p><p>&nbsp;</p><p>いろいろ考えさせられる内容でした。</p><p>&nbsp;</p><p>自分の中で消化して</p><p>明確な感想を持つには、</p><p>やはりひと公演5回は観たいものです。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12210344137.html</link>
<pubDate>Sun, 16 Oct 2016 21:55:38 +0900</pubDate>
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<title>書き物　１８</title>
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<![CDATA[ <p>　雨乞いのその日は相変わらず太陽は強かったが、妙に湿っぽさがあった。入鹿は宮中の木を見て、にやりと笑った。水滴が宿っている。大気に水分が蘇えっているのだ。旻師が言ったとおり、今日明日には雨が降るだろう。そして、雨で清められた大王への道を、大海人皇子には登っていってもらう。</p><p>「なにぼーっとしているんだ、入鹿殿。さっさと祈祷の場に行ったらどうだ」</p><p>　言葉で後頭部を殴って来るのは、玉造しかいない。</p><p>「どうして今日お前がここにいるんだ。布刀も雨乞いをしているんだから、布刀のそばにいるのがお前の役目だろうが」</p><p>「言われずともそうしたいが、どれだけ頑張っても、入鹿殿が宮中に行く時は一緒に行けと言うのだから仕方あるまい。私には布刀の言葉は絶対なんだから」</p><p>　おかげで玉造はいつも機嫌が悪い。布刀のことだから理由があるのだろうが、決して明かそうとはしない。</p><p>「あ」</p><p>　珍しく玉造が驚いたような声を上げた。</p><p>「どうした」</p><p>「あ、いや、見間違えだろう。あいつがここにいるはずがない」</p><p>「あいつ？だれだ」</p><p>　追い立てられて、入鹿は祈祷の場に向かった。</p><p>　中央に白装束に身を包んだ宝大王がいる。それを巫女たちが囲むようにして配している。その場に臨む皇族豪族も皆、潔斎して白装束に身を包み神妙に座している。入鹿もその中の一人となり、宝大王の祈祷を見守った。</p><p>　布刀の神がかりを見てきているから、入鹿には宝大王が徐々に人間を脱していくのが見て取れた。</p><p>　あの時本人はどういう状態なのだろうか。傍から見ていると、その表情は自分の知っているその人とは違ったものとなり、男でも女でもない別物になっていくのがわかる。</p><p>　神と対話しているのか。が、その能力を羨ましいと思ったことは、入鹿はない。それは自分の役目ではないと思っているからか。あるいは神の声を明確に伝えてくれる布刀という者がいるせいか。</p><p>　ふと周囲を見渡すと、一様に宝大王が神がかっていくことに驚いている。入鹿は既に巫女としての素質を見抜いていたため不思議でもなんでもなかったが、多くの者はその能力を認識していなかったのだろう。息子に大王位を繋ぐための中継ぎ王としてどこか馬鹿にした目で見ていた者たちが今、神と対話する巫女王として畏敬の目で宝大王を見ている。</p><p>　―　いいぞ。</p><p>　これで雨が降れば、宝大王は一気に朝廷の心をつかむことになる。そうあってこそ、宝大王が即位した意味があるのだ。</p><p>　―　だが、やはり布刀に比べれば神性が乏しい。</p><p>　入鹿は布刀が祈ったときのあの空気をも一変させてしまう力に、改めて畏怖の思いを抱いた。全てを浄化させる布刀の力は、まさに百年に一人の巫祝であろう。</p><p>　半日が過ぎなんとするころ、蕭蕭と雨が降った。</p><p>　一同が歓喜に沸く中、全身全霊をこめて祈った宝大王は、疲れきって祭壇の前に倒れこんだ。細い雨がその顔を打つ。一人の幼い巫女が慌てて大王の上にかぶさり、雨から守った。ふと気づいた宝大王は、その巫女ににっこりとほほ笑んだ。</p><p>「額田、どうです、降りましたよ」</p><p>「はい。さすがに大王でございます」</p><p>　額田と呼ばれた女孺は、理知的な瞳を輝かせてひれ伏した。他の巫女もそれに倣い、群臣もまたひれ伏した。宝大王はどこか陶酔した、そして勝ち誇った表情で居ずまいを正した。</p><p>　遠くからそれを眺めていた玉造だけが鼻で笑っていた。</p><p>　―　雨を降らせたのは、布刀だ。</p><p>　布刀が同時に祈っていたからこそ、雨は降ったのである。玉造は信じて疑わなかった。</p><p>　そんな玉造をまた、物陰から冷たい目で見ている者がいた。蘇芳である。先ほど中大兄皇子を訪ねてきていたのを玉造に見とがめられそうになり、慌てて身を隠した。　</p><p>　―　いつか必ず俺を馬鹿にした奴らに、目に物見せてくれる。</p><p>　蘇芳はもともと、自分が一族の頂点に立ちたいなどという気はなかった。その器ではないことは、ちゃんとわかっていたのだ。ただ、一族の長玉造の夫として重んじてもらえていればそれでよかった。いずれ二人の間に子ができれば、長として忙しい妻の代わりに育児にいそしむつもりであった。だが、妻が産んだのは自分の子ではない。一族の者もそれを容認している。では、自分はどうすればいい。どこにいればいい。</p><p>　一族の中で、自分の居場所を奪った玉造が憎かった。この思いをぶつけることしか、蘇芳には生きる意味が見いだせないでいた。</p><p>&nbsp;</p><p>「雨が降りましたね」</p><p>　南淵請安は、庭を見ている男に声をかけた。</p><p>　請安もまた、玄理とともに隋に渡りともに帰ってきた僧である。</p><p>　請安の僧坊は、旻の講堂と違って質素なものであった。その小さな庭に降る雨を目で追っていた男は、ゆっくりと振り返った。</p><p>「天候を見る学問も身につけられましたな、鎌足殿」</p><p>「いえ、請安殿の教えの通りにしたまでのことです。さすがに旻師が相談なさるだけのことはあります。一緒に雨が降る日を推測するのは楽しかった」</p><p>「長くこの国にいなかった私には、過去の気候がわかりません。鎌足殿が示してくださった統計がなければ、私にも天候を見ることは無理です」</p><p>「蘇我氏の旻師に対する信頼度が上がったことでしょうね」</p><p>「旻は昔から天文学には秀でていました。ましてや今回は玄理も一緒です。大きくはずすことはまずなかったでしょうが、宝大王の初めての雨乞いですからね。私にまで声をかけるとは、旻もずいぶん慎重だったわけです」</p><p>「大王も、民衆からの支持を得ましたね、今回の雨乞いで」</p><p>「うかぬ顔ですね。雨が降ったのは、鎌足殿には不都合でしたか」</p><p>「蘇我の力が増します」</p><p>「前々から思っていたのですが、入鹿殿と手を携えていくという考えはないのですか」</p><p>「それは」</p><p>「入鹿殿が鎌足殿を買っておいでなのはご存知でしょう。鎌足殿が三嶋からおいでの折り、わざわざ大海人皇子を連れて旻のところに出向かれたのも、鎌足殿を皇子と引き合わせたかったからでしょう。大王となることを約束されている大海人皇子と、後ろ盾の蘇我入鹿殿の手をとれば、朝廷の中心となれることはわかているではありませんか」</p><p>「性分ですかね」</p><p>　鎌足は苦笑した。</p><p>　入鹿からの誘いは、旻師を通してもあった。確かに入鹿と大海人皇子と組むのは悪くない。けれども、鎌足の気持ちはそれを拒否している。</p><p>　理由はひとつ。</p><p>　誰かの後ろに立つのではなく、自分が前に出たいのだ。そして、中臣は蘇我を補佐する中臣ではなく、大王を補佐する中臣でなければならないのだ。</p><p>　そのためには蘇我がしてきたように、大王家と深いつながりを持ってその奥深くに食い込まねばならない。仏教を掲げる蘇我をどけて、大王家は神道を司る家なのだともう一度人々に印象付け、神道をもって大王家に仕える中臣家を印象付けなければならない。そうするために、嫡男をどけてまで現在の中臣本家は傍流の鎌足を招いたのである。</p><p>　宝大王がその地位にいるのはそう長くはあるまい。頃合いを見て、大海人皇子に譲位するだろう。そうなる前に、自分が乗り操る馬を選定しなければならない。その候補が、中大兄皇子であった。</p><p>　大海人皇子には蘇我が、軽皇子には阿部が既についている。食い込めるのは中大兄皇子しかいない。</p><p>　手っ取り早い方法は婚姻関係を結ぶことだが、中臣氏は蘇我氏や阿部氏と違って婚姻という形をとることはできない。豪族と一括りに言っても、蘇我氏や阿部氏のように大王家とある意味対等な力を持った豪族と、中臣氏や大伴氏など大王家直属の臣下という立場の豪族とでは、はっきりと区別があった。蘇我氏が大王家に娘たちを妃としていれ、外戚になることによて力を増幅させていったと同じことを、中臣氏はできないのである。</p><p>　後世の身分制度にひっかけて言えば、関白である蘇我氏から天皇家に輿入れはあっても、一介の大名家である中臣氏からの天皇家輿入れは実現しない。鎌足と中大兄皇子との親密度からいえば、娘の一人や二人、妃となってもおかしくないはずであった。が、ついに鎌足の娘が中大兄皇子の妃になることはなかった。鎌足の死後、娘ふたりが大海人皇子の妃となるが、死の直前に鎌足は中臣氏から出て藤原氏という新しい氏族の祖となった。臣下である中臣氏から脱却した藤原臣氏から妃を迎えることは、なんの不都合もなかったのである。</p><p>　まだ中大兄皇子とは挨拶しか交わしたことがない鎌足は、つながりをどうやって持とうかと思案していたが、どうしても積極的にはなれなかった。</p><p>　それは、鎌足が中大兄皇子に好感を持てぬからであった。</p><p>　鎌足は、中大兄皇子に冷たい温度しか感じられないのだ。しかし、好き嫌いという感情は邪魔なだけだ。こちらが好い感情を持たねば、相手も好い感情を持ってはくれまい。</p><p>　自分は中大兄皇子に賭ける。</p><p>　その意気込みを皇子に示し、実際行動することだ。そうすることによって、初めて皇子の関心を自分に向けさせることができるだろう。それが、これからの自分の第一歩となる。</p><p>　遣隋使として三十余年前に海を渡って帰って来た者のうち、旻と玄理は入鹿に心酔している。請安は政治から一歩引いたところに立っていたいようで、純粋に学問の戸を叩いた鎌足を気に入っているようだ。まずは旻の講堂に通っている中大兄皇子を請安のもとに通わせるように仕向けるしかない。</p><p>　これは思いのほか簡単に事が進んだ。明らかに入鹿贔屓の旻のもとには居ずらかったのか、請安のことを聞きつけた中大兄皇子は周易を学びたいと自ら訪ねてきたのである。</p><p>　請安のもとを足しげく通う中大兄皇子の傍らに、鎌足の姿が常に侍るようになったのは言うまでもない。</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>　</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12208272277.html</link>
<pubDate>Mon, 10 Oct 2016 13:43:33 +0900</pubDate>
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<title>書き物　１７</title>
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<![CDATA[ <p>　六四二年一月、宝皇女は即位する。のちに言う皇極帝である。</p><p>　葛城皇子も、中大兄皇子と呼ばれるようになった。</p><p>　翌年は底冷えのする日々が続き、花も枯れてしまう日々が人々の気持ちを暗くさせた。やっと晴れ間が続き始めたと思ったら、今度は猛暑である。太陽を黒く見せるほどの照りつけは、人々を渇かせた。</p><p>　入鹿は宝大王に雨乞いの祭祀を行うことを提案するよう、蝦夷に進言した。</p><p>　大王は言わずと知れた祭祀の長である。天に雨を乞うて貰い受けることのできる神通力を期待される。そのことこそが、大王家最大の存在意義でもあるのだ。</p><p>「雨乞いはよいが、成功しなかったらどうするのだ」</p><p>　蝦夷は懸念を口にした。それはとりもなおさず巫女王としての宝大王の権威を失墜させることになり、ひいては神と通じることのできる大王からの譲位という、大海人皇子即位にまで影を落とすことになりかねない。</p><p>「今までのように旻師に天候を読んでもらいます。今回は玄理殿にも加わってもらいましょう。なんといっても玄理殿の方が長く唐に居たのですから、そちらの知識は旻師よりも詳しいはずです」</p><p>「玄理も天文に関する学問を納めてきたのか」</p><p>「そう聞いております。ただ、いろいろな過去の情報をもとに予測するのは、旻師の方がうまいそうですが」</p><p>「そなたは玄理が気に入っているようだな」</p><p>　高向玄理は実に有能な男である。入鹿は気にっていた。ぜひ大海人皇子のそばに置きたい人物である。ただ困ったことに、玄理自身は入鹿に仕えたいと言っている。入鹿に仕えるということは大海人皇子に仕えるということだから、気にするなと蝦夷は言うが、そうではない。</p><p>　玄理は、入鹿と大海人皇子と太陽が二つあると言い、入鹿という太陽を選んだのだ。入鹿としては、大海人皇子を選んでほしい。まさか自分が大海人皇子の本来の輝きを遮ることになるとは思いもしなかった入鹿は、ここのところ悩んでもいたのである。</p><p>「旻師や玄理殿の言うには、そろそろ雨の降る日があるらしいのです。大王の雨乞いによって雨が降る。天が大王を認めた、ということになります」</p><p>「うまくいくか」</p><p>「いかせます。雨乞いが始まったら同時に布刀にも雨乞いをやらせましょう」</p><p>　入鹿は宝大王に巫女としての素質があるのを認めてはいるが、今この国で一番神に近いのは、布刀であろう。その清らかさは、会うたび透明度を増している。どうすればあれほど人間味をなくせるものかと思うが、瓜二つの玉造を見ると、なるほど布刀の人間の部分は玉造が担っているのかと合点する。この双子は二人で一人を成しているのだろう。</p><p>「それにしても、唐の知識は重宝なものだな。我が国も陸続きであればもっと多くの知識が入ってきているだろうに」</p><p>「そのかわり、唐の脅威は計り知れないものになります」</p><p>　実際この国は、唐に攻められた者たちの逃げ場所だな、と入鹿は思った。落ち着き先を提供する代わりに、いかほどかの知識や技術をもらっている。</p><p>　この国の人間は保守的なようでいて、新しいものをすぐに受け入れ自分たちのものとしてしまう。浮動であるがゆえに、揺らがぬものを必要としているのだろうか。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12208097505.html</link>
<pubDate>Sun, 09 Oct 2016 22:12:49 +0900</pubDate>
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<title>書き物　１６</title>
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<![CDATA[ <p>「今日の大后はお見事の一言であったな」</p><p>　蘇我の館に戻り、腰を落ち着けると蝦夷はすぐに言った。</p><p>「そうですね。しかも、阿部が大后に火をつけるとは」</p><p>「田村大王のことを言ったことか。あの時、大后の形相が鬼のように変わったのには驚いた。もともと勝気な方だが、子のことで変貌することはあっても、夫のことであのように憤るとは思わなかった」</p><p>「こちらの都合を押し付けた形の婚姻でしたが、おふたりの仲はうまくいっていたという証拠でしょう。嬉しいことです」</p><p>「そうだな」</p><p>「とにかく、大后が大王になることがこれで決定しました」</p><p>「大海人皇子への譲位はうまくいくかな」</p><p>「いきますとも。はからずも今日、その片鱗を大后は見せてくれたではありませんか。自分が大王になると宣言したときのあの神々しさ。あれこそが我々の求める者です。神に最も近い人間である大王が、大海人皇子に譲位するのです。大海人皇子の即位は、神の意思によるものとなります」</p><p>「年若いと言ってももう二十歳、周りが補佐すればよいだけの話しだ。よくもまあ、横槍を入れてくるものだ」</p><p>「それだけ蘇我によからぬ感情を持つ者が多いということですよ。しかし、大海人皇子ももう少し本来のご自分を表に出して下さると有難いのですがね」</p><p>「最近では私もどちらが本当の皇子かわからなくなる時があるぞ。なぜ、あのように茫洋として体を周囲には見せているのだ」</p><p>「高向玄理に言われたことがあります。大海人皇子と私はよく似ていると」</p><p>「ん？そうだな。やはり他人が観てもそう思うか。似ているというか、同じ種類の人間だな」</p><p>　蝦夷に言われて、入鹿は苦い顔をした。</p><p>「それが理由ですよ」</p><p>「お前に似ているのがか？よくわからんな」</p><p>　入鹿は大海人皇子を大王にしたいのだ。二人といない絶対的な存在の大王に。たとえるなら、燦然と輝く太陽のような大王だ。だが、長く異国にいて先入観のほとんどない玄理が、大海人皇子も入鹿も太陽のようだと言った。太陽は二つはいらない。二つもあったらむしろ害になる。大海人皇子はいつの頃からか敏くそのことに気付いたのだ。だから既に太陽として存在している入鹿とぶつからぬように、自分は波ひとつたたぬ水面のように静かにしているのだ。</p><p>　玄理に言われるまで入鹿自身もそのことに気づいていなかった。本来の自分を出そうとせぬ大海人皇子を、じれったく思ってきたのだ。</p><p>　このことで、大海人皇子の器の大きさがよく知れるというものだ。自分という人間を的確に判断し、どのようにふるまうのが最善かわかっている。宝皇女が大王として時間を繋いでいる間に、己がどのようにふるまうのが一番よいのか考える必要があることを、入鹿は痛感していた。</p><p>「阿部は我らと敵対する気かの」</p><p>　蝦夷が言った。</p><p>「野心はありましょうが、敵対する気はありますまい。蘇我と衝突できるほどの手駒もありあせんし、あわよくば蘇我の位置を獲りたいということでしょう」</p><p>「軽皇子を使ってか」</p><p>「軽皇子の妃である娘に皇子が生まれているのです。欲も出ましょう」</p><p>「軽皇子も大王になりたいのか」</p><p>「同母姉が大后になったおかげで、大王の位を狙える位置につけたのです。色気はありましょう。だが、軽皇子のその才はありません。せいぜい阿部と蘇我と、両方の力を利用して、政の中枢にいるのが関の山でしょう」</p><p>「大王の外戚は蘇我だけでよい。だからこそ、かつての外戚であった葛城や物部と婚姻をなしてきたのだ。蘇我だけの血ではこの地位は得られなかった。同じように、阿部も阿部の血のみでは、おいそれと蘇我と肩を並べることはできん」</p><p>「こうなると、目立たぬ皇子にも目を光らせる必要がありますね」</p><p>「たとえば」</p><p>「たとえば葛城皇子」</p><p>「なるほど。たしかに田村大王と宝大后との間の第一皇子だ。本来なら大王候補になってもおかしくない」</p><p>「まあ、まだ十五、六ですし、大海人皇子という兄がいては前に出にくいでしょう」</p><p>「私は葛城皇子をよく知らぬ。お前はどうだ」</p><p>「旻師の講堂で何度か。おとなしく勉学に励んでいますが、なかなかの戦好きでしょう」</p><p>「ほう」</p><p>「実際に刀を持って先頭に立つような性格ですな。実践にしろ、政にしろ、ね」</p><p>「やっかいか」</p><p>　入鹿は、神経の細そうな葛城皇子を思い起こしていた。おとなしそうにしているが、常に斬りつけるような視線で人を見ている。抜き身の剣のようなあのままでは自滅するだろう。だが</p><p>「うまく指導してくれる人物に出会えれば、そこそこの人物にはなるでしょう」</p><p>「葛城皇子もお前が育てればよかったのではないのか」</p><p>　蝦夷の思いもかけぬ言葉に、入鹿はただ驚いた表情を返すのみだった。</p><p>　蝦夷は蝦夷で、今回の大王を決める合議で自分の衰えを感じていた。</p><p>　蘇我の意向に噛みついてきた阿部内麻呂や山背王を退けたのは、入鹿である。その昔推古帝亡き後の大王を決める合議で、叔父・境部摩利勢が蝦夷に逆らった。蝦夷はそれを若い激情に後押しされて武力で討ち果たし、蘇我本宗家の意向を通した。あの頃の自分と同年代の入鹿は、武力で何かを押し通そうとはしないだろう。そこに頼もしさがある。わが息子ながら、入鹿の政治力に蝦夷は満足していた。</p><p>　もう、自分は退きすべてを入鹿に託しても構わないだろう。宝皇女が大王になることによって、大海人皇子の大王への未来は約束された。これで一区切りだ。あとは大海人皇子と手を携えて、入鹿がこの国を大きく豊かにしていくに違いない。</p><p>「父上、軽皇子にもう一人蘇我の女をいれますか」</p><p>　蝦夷が一人合点しているのを遮って、入鹿が言った。</p><p>「軽皇子か。阿部べったりを引きはがすためにも必要かもな。お前の異母姉は早々に妃となったのに、子を産まなんだ。今度は皇子を産みそうな者を入れるんだな。だれがよいかの」</p><p>「そうですね。軽皇子のお好みがどのような女か、少し情報を集めましょう。それと、山背ですが」</p><p>「なんだ、山背にもだれか嫁がせるのか」</p><p>「違いますよ。山背は自分の立場というものを理解しているんでしょうか」</p><p>「わからん」</p><p>　蝦夷は吐き捨てるように言った。</p><p>　同母姉の子であるからか、生まれた時から蘇我の館で育ったせいか、蝦夷にも山背王に対してはそれなりの愛情がある。しかし、周りを見ようとしないその独りよがりに、既に山背王を見限っていた。</p><p>「仏の道にのっとった万民平等の世の中作りですか。厩戸皇子も同じことをおしゃっていたのでしょう」</p><p>「厩戸皇子と決定的に違うのは、山背が政治の中心に立ち、実権を欲しがっているということだ」</p><p>「己の財をすべて解放しろ、か。その理想を声高に言いながら大王位に名乗りを上げるのは、危険ですよ」</p><p>「危ない存在だということはわかっておる」</p><p>「という意味ではなく、山背王自身が危険に晒されるということです」</p><p>「なんだ、私はあれをどうこうしようとは思っていないぞ」</p><p>　摩利勢のことを思い出していただけに、蝦夷は語気を強くした。</p><p>「父上が思わずとも、他にいるでしょう」</p><p>　蝦夷は入鹿を見た。</p><p>「上宮王家というものは、どのような状況になろうとも一つの勢力なのですよ、父上」</p><p>「山背王を攻めるものがいるというのか。誰だ。阿部か」</p><p>「阿部が攻めるものですか。怖いのは大后ですよ」</p><p>「大后」</p><p>「今回の合議で、山背ははっきり大后に敵対しましたよ。本人に自覚はないかもしれませんがね。大后はいざとなれば肝が据わっています」</p><p>　宝皇女は、今までのように夫に庇護されてきたおとなしい女ではない。子の身分を守るために、牙をむくことを厭わぬ母である。しかも、大王という位に就くのだ。目障りだと、山背王に討伐の軍を向けられる身分になるのだ。</p><p>「ま、自業自得です」</p><p>　入鹿は冷たく言い放った。</p><p>&nbsp;</p><p>　聖なる地に住まいながら、生臭い息を吐く者がいる。</p><p>　同じ息を吐く者はいないか、その男は探していた。</p><p>　―　いたぞ。</p><p>　一人の従者を従え、馬上から川の流れに見入っている人物に、男は狙いを定めた。</p><p>「葛城皇子さま、そろそろお戻りになりませんと。大后さまの即位の用意もお手伝いしませんと」</p><p>　従者が馬上の主を促している。男はわざと足音をたてながら近づいた。</p><p>「だれだ」</p><p>　従者の鋭い誰何の声にもひるむことなく、男は更に近づいた。</p><p>「葛城皇子さまですね。何度かお目にかかったことがございます。巫祝一族の蘇芳でございます」</p><p>　蘇芳は生臭い息を納めながらにこやかに言った。</p><p>「巫祝の蘇芳？」</p><p>　葛城皇子は怪訝そうに敷麻呂を見た。</p><p>「蘇我が抱えております神に仕える一族ですよ。長は夏越です」</p><p>「ああ、いつもその娘が入鹿について宮中に来るな。入鹿の護衛をしているようだが」</p><p>「それは私の妻の玉造でございます」</p><p>「ほう、それではそなたはいずれ一族の長となるのか」</p><p>　この言葉は蘇芳を喜ばせた。玉造と婚姻しながら、だれも蘇芳に注目しない日々である。</p><p>「それで、何の用だ」</p><p>「いえ、たまたまお見かけしましたので。黙って通り過ぎるのも失礼かと思い、ご挨拶を。これを機会にお見知りおきいただけると嬉しいのですが」</p><p>　敷麻呂は少し嫌な顔をしたが、葛城皇子は無頓着に</p><p>「そなたは蘇我の者であろう。それなら私にではなく大海人皇子のところへ行ったらどうだ」</p><p>「確かに私は蘇我の者ですが、わが目には葛城皇子さまこそ神に選ばれた方に映ります。義父には怒られるかもしれませんが、私が誼を通じたいのは葛城皇子さまでございます」</p><p>　これには葛城皇子の心のどこかがくすぐられた。葛城皇子もまた、自分の置かれた立場に常日頃もやもやしている。</p><p>「今日は時間がない。日を改めて私を訪ねてくるとよい」</p><p>「ありがとうございます」</p><p>　そのまま行ってしまう後姿を見送りながら、再び蘇芳は生臭い息を吐いた。</p><p>　蘇芳の母は夏越の妹である。だが、長の甥といっても一族の中ではとくに尊重されてきたわけではない。それは神に仕える一族の特徴として、神性を持つ者が優遇されていたから特に不満はなかった。ある日、玉造が次の長になることが決まった。そしてその夫として蘇芳が選ばれたのである。長の甥という意識のある蘇芳は、陽のあたる所に出ることがうれしかった。</p><p>　が、それを打ち砕いたのは玉造である。披露目の席で、あろうことか新妻に足で顎を蹴り上げられたのだ。そして種馬でしかない、と宣言された。それ以来、一族の者たちの目は冷たい。それだけではない。妻である玉造と枕を交わしたのは、初夜の一度きりである。それなのに、玉造は去年子を産んだ。明らかに自分の子ではない。玉造はそれをわざわざ言いはしないが、隠そうともしない。周囲もわかっているが、玉造を責める者は一人もいない。なぜなら、一族の長となるのは、玉造だからである。子は、長である玉造の血をひいていればよいのである。</p><p>　少しずつ蘇芳の中にどす黒いものが溜めこまれ、やがて腐臭を放ち始めた。玉造はそれを嫌い、ますます蘇芳を遠ざけた。一族の者も見て見ぬふりである。</p><p>　子が育つにつれ、蘇芳の腹の中のものは表に出たがった。この黒い念を吐きだし、玉造や一族に思い知らさなければ息ができぬ。吐きだすためには吐きださせてくれる人物が必要だ。蘇芳が見つけたのは、やはり腹の中に黒いものを抱えた葛城皇子であった。</p><p>　―　葛城皇子、一緒に邪魔な奴らを始末しましょうや。</p><p>　蘇芳は今までにないほど、身も心も軽くなっていた。</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p><p>&nbsp;</p><p>　</p><p>　</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12205672607.html</link>
<pubDate>Sun, 02 Oct 2016 14:00:46 +0900</pubDate>
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<title>わんこのこと　３</title>
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<![CDATA[ <p>映画を観てきました。</p><p>「ペット」</p><p>飼い主が留守の時ペットたちは何をしているのか。</p><p>そんな言葉に惹かれて観てきました。</p><p>&nbsp;</p><p>吹き替え版だったので観る前はう～ん・・・と思ったのですが</p><p>ばななまんのお二人がばっちり合っていて、</p><p>とても面白かった。</p><p>&nbsp;</p><p>最後のほうで、帰ってきた飼い主に嬉しくて飛びつくペットたちの姿が</p><p>たくさん出てきました。</p><p>ほんわかしながらも、涙が止まりませんでした。</p><p>&nbsp;</p><p>あの子はもう、あんなふうに私を迎えてくれることはない。</p><p>尻尾をパタパタさせながら飛びついてくるあの子を</p><p>抱きしめる幸せな瞬間はもう二度とない。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160924/22/kotetsugenki/ed/84/j/o0240032013756662254.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160924/22/kotetsugenki/ed/84/j/o0240032013756662254.jpg" width="240" height="320" alt=""></a></p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>大好きなお散歩をねだることも、もうない。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160924/22/kotetsugenki/72/70/j/o1920108013756664120.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160924/22/kotetsugenki/72/70/j/o1920108013756664120.jpg" width="420" height="236" alt=""></a></p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>わざといたずらして部屋の中をしっちゃかめっちゃかにして、</p><p>かまってポーズをすることも、ない。</p><p>&nbsp;</p><p><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160924/22/kotetsugenki/61/41/j/o0480085413756665528.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160924/22/kotetsugenki/61/41/j/o0480085413756665528.jpg" width="420" height="747" alt=""></a></p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>今も何度も繰り返す。</p><p>&nbsp;</p><p>幸せだった？</p><p>少しは楽しかった？</p><p>お母ちゃんとお父ちゃんのところに来て</p><p>少しくらいはよかったと思ってくれていたのだろうか。</p><p>&nbsp;</p><p>お父ちゃんお母ちゃんは幸せだったよ。</p><p>お前が来てくれて、幸せをいっぱいもらったよ。</p><p>&nbsp;</p><p>だから、まだお前がいないことに慣れないでいる。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12203249241.html</link>
<pubDate>Sat, 24 Sep 2016 22:44:34 +0900</pubDate>
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<title>書き物　１５</title>
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<![CDATA[ <p>　六四一年十月、田村大王が崩御した。</p><p>　宝皇女は百済宮において、殯を行った。連日皇族たちのしのびごとが棺の前で読まれた。</p><p>　宝皇女にとっては、夫を見送るのは二度目である。前夫の高向王は次期大王にと期待されたが、一皇族で終わったため殯の期間は短かった。今回は大王の殯である。高向王とは比べるまでもなく長期に渡る。それは、当時の未発達の医療による仮死状態からの蘇生を待つ意味合いに加えて、次の大王を決めるための期間でもあった。</p><p>　宝皇女を中心に主だった皇族豪族が集まった。大王の死の前に、皆粛然としている。その中で大臣たる蘇我蝦夷が口火を切った。</p><p>「方々、次の大王を決める場である。まずは大后さま、大王から何かご遺言などございましたか」</p><p>　宝皇女は一同を見渡した。ここですんなり大海人皇子で決定してくれたらどれほど楽か。</p><p>「大王はかねてより大海人皇子に大王の位を譲るご意思をお持ちでした。それは生前常におっしゃっていたこと、お亡くなりになる直前も変わることはありませんでした」</p><p>「しかし」</p><p>　ごほっと少々咳払いをして、阿部内麻呂が口をはさんだ。</p><p>「大海人皇子はまだお若い。年長の皇子がまだまだいらっしゃいます」</p><p>「では、阿部殿はどなたがよいとお考えか」</p><p>　蝦夷が聞いた。</p><p>「そう、やはり田村大王のご長子ということで、古人皇子が適任かと」</p><p>　万座の視線が古人皇子に集まった。</p><p>「私はその任にない。父上は一言も私に大王位の話しをなさったことはない。それは、私に大王としての資質がないことを早くからご存知であったということだろう。子として父の意に反することはできぬ。私は大王になる気はない」</p><p>　古人皇子の言葉に、座がざわめいた。ほとんどの人間が、蘇我は古人皇子を推してくるだろうとおもっていたのである。</p><p>「父上の、大王のご意思が大海人皇子におありであったのなら、年若いとはいえ大海人皇子が適任であると私は思う」</p><p>　古人皇子はそう続けた。</p><p>「父君のご遺志に忠実であろうとする古人皇子のお考えには感服いたしますが」</p><p>　再びごほっと咳払いをして、内麻呂は言を発した。</p><p>「ここ数年田村大王は病であまり政にはご参加できなかった。大王というあり方をお若い方々に示すためにも、一度壮年の皇子が大王になられた方がよろしいのではないか」</p><p>　宝皇女はさっと気色ばんだ。この内麻呂の言い方では、田村大王は大王として何の用もなしていなかったと言っているのも同じではないか。確かに病がちではあったが、このような形で夫を否定されたことに、宝皇女の勝気な性格に火がついた。</p><p>「では、阿部殿は古人皇子を推されるのか」</p><p>　入鹿が聞いた。</p><p>「いや、父君のご遺志を尊重したいという古人皇子に無理にでも、ということはでき申さぬ。いっそ、大后の弟君、軽皇子はいかがかと私は思うのだ」</p><p>　座が再びざわついた。もちろん軽皇子も候補の一人だが、強力に推されることはないと皆思っていたのである。</p><p>「阿部殿のご息女は軽皇子の妃でしたな」</p><p>　入鹿が独り言のように言い放った。</p><p>「それが何か」</p><p>「特に意味はございません。たしかそのようなご関係にあったな、と。なに、独り言です」</p><p>「しかし、その物言いはわが娘が妃であるから軽皇子を推している、と聞こえるぞ」</p><p>　周囲の空気が騒がしくなる中、徐々に眉のあがる内麻呂とは対照的に入鹿は涼しげな表情である。</p><p>「そのように聞こえましたらお許しくだされ。たった今、若者の手本になるのが壮年の者の勤めとおっしゃったではありませんか。図星をさされても受け流す年長者の余裕を見せてください」</p><p>　内麻呂はぐぐっと黙った。</p><p>「皇子の妃の出自を確認するのは、その皇子を佳きように導く義父殿がどなたであるかを確認するということです。その確認を行ったまでのこと。他意はありません」</p><p>　周囲は、ああ、軽皇子の妃は阿部の出身か、内麻呂の息女か、と改めて認識した。阿部内麻呂は、軽皇子を通して大王家の外戚となれる立場にあることを、皆が確認したことになる。それは、この国のことを思って軽皇子を推したというよりも、外戚になりたいがために推したのだという印象を植え付けた。</p><p>「そなたの異母姉とて、軽皇子の妃ではないか」</p><p>　内麻呂はかみつくように言った。</p><p>「はい、阿部殿のご息女と違っていまだ一子もあげられぬ、異母姉でございます」</p><p>　入鹿は目を伏せながらそう応じた。蘇我の娘よりも阿部の娘の方が有利な立場であることを、入鹿は周囲に告げたのである。これではますます私利私欲に走って、阿部が軽皇子を推しているかのようである。内麻呂は歯噛みして黙った。何か言えば入鹿が小賢しく返してくる。入鹿の父の蝦夷にはない返し方だ。蝦夷は良くも悪くも権力者としてまっすぐな態度しか取らないので、読みやすい人物なのだ。</p><p>　なんとなく不穏な空気が支配し始めた時、山背王が声をあげた。</p><p>「私が大王となろう」</p><p>「山背王、そなたは大王の枕元で、以後大王位を欲することはしないとはっきり言ったではないか」</p><p>　宝皇女は思わず叫んだ。内麻呂の言葉にきりきりしていたのをやっとの思いで抑えていたのに、山背王がまた神経を逆なでするように入り込んできた。宝皇女は黙っていられなくなった。</p><p>「大王は、昔そなたと大王の位を争ったことをずいぶん気にかけておいででした。大王位を争うことの愚かしさをご存知だったからこそ、ご自分の死後そのようなことがないようにとそなたとお話しなさり、そなたも納得していたではないか。大王のご遺志をないがしろにするのか」</p><p>　宝皇女の権幕にたじろぎながら</p><p>「それは、田村大王のご遺志が反映された大王擁立がすんなりあると思っていたからですよ。なんだかまた争いが起こりそうな剣呑な空気ではありませんか。それなら私は大王となることを主張いたします。私にはその資格がある」</p><p>「さほどに大王になりたいのですか」</p><p>　入鹿が冷たく切り込んだ。山背王はじろりとこの従弟を睨んだ。</p><p>「どう取っても構わぬ。もともとはわが父、厩戸皇子が大王となるはずであった。病で逝ったため叶わなかったが、その遺志を子の私が継ごうとて、なんの不思議がある」</p><p>「厩戸皇子のご遺志の実現は、大王となることではなく仏の道を行くことではなかったのですかな」</p><p>　山背王の強い視線を、入鹿は平然と受け止めて振り捨てた。</p><p>「お控えなされ」</p><p>　宝皇女は立ち上がると、一同を見渡した。そこには寡婦となった心弱い女の姿はなかった。頂に立つ一人の人間がいた。皆思わず頭を垂れた。</p><p>「大王には私がなる」</p><p>　どよめきが起こった。</p><p>「田村大王のご遺志は大海人皇子にあった。しかし、年若いとて皆が反対するというのであれば、いらぬ諍いを避けるため、大后たる私が大王となる」</p><p>　内麻呂と山背王がなにか言いたげに顔を上げた。しかし、一言も許さぬと言わんばかりの宝皇女の視線に射すくめられ、声を上げられない。</p><p>　この時の宝皇女はまさに神がかりしていたと言えよう。その威厳と神々しさに、居合わせた者たちはひれ伏すしかなかったのである。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづきます</p>
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<link>https://ameblo.jp/kotetsugenki/entry-12201502051.html</link>
<pubDate>Mon, 19 Sep 2016 17:35:56 +0900</pubDate>
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