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<title>徒然なるまま妄想日和。～たら・れば編～</title>
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<description>もし、彼女が彼へと想いを告げてい“たら”。もし、彼が彼女へと心惹かれてい“れば”。そんなちょっとしたきっかけで訪れたかもしれない、“もしかしたら”な未来のお話。(注)この作品はフィクションであり、実在する登場人物、団体とは一切関係ありません</description>
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<title>『酔いどれ』×せくしー担当</title>
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<![CDATA[ <div>　とある音楽番組の収録を終えたある日。その日の業務終了の知らせを受けるや否や、衛藤美彩は急いで着替えを済ませると控え室を後にする。通路に居るであろう人物を探すように辺りを見渡しながら進んでいくと、暫くしてから探していた人物の背中を彼女の目が捉えた。</div><div><br></div><div>「お待たせ！」</div><div><br></div><div>　相手の背中を両手で軽く叩き自らの存在を知らせた後、その反応を伺うべく彼の顔を覗き込もうとする。しかしながら彼の表情よりも先に美彩の目に飛び込んだのは、彼の背丈によって姿が隠れていた守屋茜の姿だった。</div><div>今まで会話を行っていた相手の背中側から顔が現れたことに茜は片手で口元を覆い、美彩は茜の顔を見た後に彼へと視線を動かした。</div><div><br></div><div>「衛藤さんお疲れ様でした」</div><div><br></div><div>「あっ、守屋茜ちゃん。お疲れ様！」</div><div><br></div><div>　少し時間を空けた後に気持ちの落ち着いた茜が挨拶をすると、美彩も穏やかな表情で返答する。その直後美彩は未だ無言の相手へと視線を送っていると、ただならぬ空気を感じて茜は小首を傾げる。</div><div>同じく異様な空気を感じ取った男も、確認をするべくポケットからスケジュール帳を手に取る。彼が手帳に目を通している間、口を結びながら一向に目を逸らそうとしない美彩を、茜は彼女と男を交互に見るようにしながら見守る。</div><div><br></div><div>「申し訳無いが、何か約束をしただろうか」</div><div><br></div><div>　手にしていた手帳には美彩が上機嫌で語りかけてくるようなスケジュールが記載されていないのか、彼はページを捲り翌月の予定まて指でなぞるようにしながら確認を行う。しかしながら彼女が自らの元に訪れるような予定は記載されておらず、彼は手帳を閉じて改めて美彩へと向き直る。無言ながらも2人の間にやり取りがあることを察した茜は、2人から1歩後退して次の言葉を待った。</div><div><br></div><div>「信じらんない！お酒一緒に飲む約束したのに！」</div><div><br></div><div>　手帳を仕舞う相手の出した結論に納得が行かないのか、美彩は批判するように食って掛かる。そのような彼女の反応も想定の範囲内なのか、男は取り乱すことも無く彼女へと目を向ける。冷静を貫き通している男とは対称的に、美彩は睨みつけるように彼へと視線を送っていた。</div><div><br></div><div>「じゃあ、今日時間あればご一緒させて貰っても良いですか？明日、オフだから……」</div><div><br></div><div>　少し間を空けて、沈黙を破るように茜が2人に向かって提案を投げ掛ける。殺伐とている空気を認識しながら意見した為か、彼女の言葉は僅かに震えていた。</div><div>彼女の言葉を受けた彼は現状を打開する案を思い付いたのか、茜に一度目を向けた後に再び美彩を視野に入れる。そうなることを想定していなかった彼女の表情には、僅かに困惑の色が現れた。</div><div><br></div><div>「美彩も構わないか？」</div><div><br></div><div>　それを見逃さなかった彼は、確認の意を込めて再度彼女へと問いかける。先輩である相手の前で無茶を承知で言った茜も、平静を装いながらも緊張した面持ちで自らの先輩へと目を向ける。</div><div>美彩は彼と茜の顔を交互に見るようにしてから、一息吐いて笑顔で頷いてみせた。</div><div><br></div><div>────────────────────</div><div><br></div><div>「茜ちゃん、良い？今からグラビアの仕事なんて沢山くるんだから……この位の身体がウケる訳よ。ほら、触ってみて」</div><div><br></div><div>　何故か結果的に押し掛けることになった男の部屋にて、アルコールを摂取し</div><div>て酔いが回っている美彩は茜に向かって告げる。部屋の主によって提供をされたワインで勢いづいたのか、美彩は用意された赤ワインを口にすると茜に向けて触ることを促すように自らの身体を相手に向けた。</div><div>そのやり取りを聞いていた男は呆れるものの、口を出すことが躊躇われた為か自らのグラスを傾ける。美彩は彼の反応を確かめてから更に身体を茜の側へと向けた。</div><div><br></div><div>「あはは……」</div><div><br></div><div>　ぐいぐいと詰め寄ってくる相手に返事の代わりに愛想笑いをする茜は、手にしていたグラスをテーブルへと置いて軽く後方に下がる。相手が先輩故に遠慮があるのか、救いを求めるように視線を男へと向けた。</div><div>それを見逃さずに受け取った彼は小さく息を吐くと、美彩の身体を茜の身体から引き離す。彼女は僅かに頬を膨らませて不満を露にするが、男はそれを気にも留めていない様子で再びグラスをワインで満たしていた。</div><div><br></div><div>「美彩、茜が困っている。私を困らせた後は茜を困らせるのか？」</div><div><br></div><div>　喉を潤して一息ついた後に男は美彩へと穏やかに問いかける。それを受けた美彩は頬を膨らませた後に、グラスを一気に傾けて入っていたワインを飲み干した。気を使った彼が注ぎ足そうとするものの、相手が手を伸ばした先のボトルを彼女は先に自らで掴むと目の前のグラスへと注ぐ。</div><div>茜は間に入ってくれたことに感謝していたものの彼が先程発した言葉が引っ掛かったのか、茜は若干目を潤ませるようにして男の方へと目を向ける。</div><div><br></div><div>「そんな事無いもん！でも、茜ちゃんの身体もけっこうグラビア向きだと思うなぁ……」</div><div><br></div><div>「えっ!?」</div><div><br></div><div>　むすりとしていた美彩であったが、表情を一変させて艶っぽい視線を茜へと向ける。先程までは自らを触らせようとしていたが、今度は彼女の身体を触ろうと悪戯な笑みを浮かべるようにしながら美彩は両手を相手へと向ける。</div><div>再度美彩に詰め寄られたことによって茜はたじろぐが、身体に触れられそうになったことにより更に美彩から距離を取る。どうしようも無くなり再び救いを求める視線を男へと送った。</div><div><br></div><div>「あはは、可愛いー。あ、じゃあ……触ってみる？」</div><div><br></div><div>　相変わらず警戒を怠ることのない茜へと悪戯っぽい笑みを向けてから、美彩は一呼吸置く。その後、艶やかなやかな笑みを男へと向けるようにしてから、自然な流れで彼の太股の辺りへと手を置いた。</div><div>突然詰め寄られたことに、先程までワインを口にしていた彼は思わず噎せる。その流れを呆然と見ていた茜であったが、反射的に太股へと触れていた美彩の手の間に自らの手を滑り込ませる。突然の出来事にきょとんとした様子で美彩は茜に目を向けると、今度は彼女がむすりとした様子で視線を返していた。</div><div><br></div><div>「それは……やっぱり、若い人の方が良くないですか？」</div><div><br></div><div>　躊躇っていた茜であったが、自らに発破をかけるようにグラスのワインを暫く眺めてから一気にそれを空ける。一息ついた後にほんのりと頬を赤らめる彼女のは猫なで声で彼に向かって問い掛ける。先程まで遠慮していた美彩に対しても、自信ありげな笑みを見せてから顔を男へと向けた。</div><div>いきなり彼に詰め寄った茜に驚いていた美彩であったが、彼女の勢いに感心したのかにこりと笑うと男の方へと伸ばしていた手を引っ込める。先程まで困惑していたものが今は釣り師となっている茜の表情を見て、美彩は興味ありげに会話の行方に興味を向けた。</div><div><br></div><div>「茜、美彩を止めてくれるのではないのか？」</div><div><br></div><div>　途端に積極的になった茜に対しても、平静を崩す事無く男は彼女へと訪ねる。しかしながら彼女は勢いに身を任せてか、満面の笑みを浮かべながら彼の胸板へと自らの頭を預ける。口を挟むことなく一連の流れを見ていた美彩であったが、我慢の限界に達したのか茜の身体を軽くぽんぽんと叩いた。</div><div>美彩の手が肌に触れることを感じた茜は彼に頭を預けたまま自らに触った相手を見るが、やがて目を閉じると身体を寄せていた彼に腕を回して引き寄せようとする。</div><div><br></div><div>「茜ちゃん？先生困ってるように見えるけど」</div><div><br></div><div>　放置されてることが面白く無くなってきたのか、美彩は若干拗ねた様子で再度相手から離れることを促す。その言葉によって我に返った茜は、言葉の真偽を確かめるべく彼の顔を見上げる。寸前まで身体を寄せられていながらも男は顔色を変えておらず、視線を向けていた茜と偶然目が合った。</div><div>そんな彼の表情を見て、茜は反射的に彼から離れる。何の変化も無いことを目の当たりにして、彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。</div><div><br></div><div>「嫌いですか？積極的な女の子」</div><div><br></div><div>　聞くべきかどうか迷っていたのか、暫く間を空けてから相手へと尋ねる。普段から行っているようにはぐらかそうとするものの、穴が空くように彼女は彼へと視線を向ける。</div><div>誤魔化しが効かないと察したのか、男は息を１つ吐いてから茜に向き直る。彼女もまた答えを聞くべく居住まい正して相手からの答えを真剣な表情で待っていた。</div><div><br></div><div>「嫌いというよりは……」</div><div><br></div><div>「じゃあ、釣られてくれました？」</div><div><br></div><div>　彼が全てを言い終える前に気持ちが先走ったのか、目に溜めていた涙を1度拭ってから嬉しそうな笑顔を相手へと向ける。その様子を眺めていた美彩は次に男が答える発言の推測が大方ついているのか、苦笑いを浮かべながら酒を飲み進めていた。</div><div>期待の眼差しを向ける茜を制して貰おうと男は視線を向けるが、相変わらず美彩は自らのグラスを傾けていた。自身で彼女に説明をしなければいけないと察した彼は再び溜め息を吐き、目を輝かせている茜へと目を向けた。</div><div><br></div><div>「申し訳ないが」</div><div><br></div><div>　期待をしていた彼女に向かって、男は抑揚の無い声で淡々と正直な想いを告げる。一旦は首をかしげて考え込む茜であったが、やがて彼からの言葉を理解し始めたのが再び嗚咽が込み上げる。</div><div>想定をしていた流れになった事を感じ取り、美彩は手にしていたグラスをテーブルに置いて茜の側に寄る。 その後今にも泣き出しそうになっている彼女を慰めるように背中を優しく撫でた。</div><div><br></div><div>「ほらぁ、無理なんだって釣るのは」</div><div><br></div><div>　頑なに態度を崩すことが無い男に苦笑しながらも、美彩は苦笑いをしながら言うと彼の顔を眺めながら考え込む。男は視線を避けるようにしていたが、茜はその後の発言が気になったのか、まじまじと美彩へと視線を向けていた。</div><div>全く2人のやり取りを気にもしていない男に対して若干の不満を抱き始めたのか、美彩はひとつ息を吐くと強い視線を男へと向けていた。</div><div><br></div><div>「茜ちゃん」</div><div><br></div><div>「はい」</div><div><br></div><div>　目をそらさないまま、美彩は茜へと声を掛ける。</div><div>先程まで貯まっていた涙を拭いながらも茜は返事をする。彼女の顔を見た美彩は自らの指を相手の目に当てると、安心させるようににこりと笑いながら指を沿わせた。相手から何を言われるのかも分からずに、茜の表情には困惑の色が浮かぶ。</div><div><br></div><div>「一緒になら釣れるんじゃないかな？」</div><div><br></div><div>　提案をする美彩は悪戯な笑みを茜へと見せた後に視線を彼へと移す。その提案に一瞬驚くものの、茜もやがて彼の反応を見るべく相手を視野に捉えた。</div><div>2人からの視線に耐えきれなくなったのか、男は茜と美彩を直視する事を避けて耳だけで情報を得ようとする。しかしながら彼女らがその後無言になった事もあり彼は仕方無く2人の方向を見る。</div><div><br></div><div>「美彩、茜は今……」</div><div><br></div><div>「ありかもですね」</div><div><br></div><div>　唐突な美彩からの発言を、先程までの茜の心境を察して男は否定しようとする。しかしながらその心遣いに反して、茜はどこか真剣な表情で考える姿勢を見せていた。</div><div>普段から接していた彼女からは考えられない切り替えの早さに彼は驚く。その直後、今から自らが窮地に立たされる事を察し、彼は今の空気を変えようと咳払いをして2人に向き直った。</div><div><br></div><div>「切り替えが早く出来るのは良いことではあるがだな……」</div><div><br></div><div>「お隣失礼致しまーす」</div><div><br></div><div>　憶測がついた事態を避けようと男は2人対して説得を試みるが、彼の言葉が届くよりも先に茜は男の座っていたソファーの隣へと自らのグラスを持って移動する。彼は表情にて抗議の意を表するが、思い立った彼女は男の意思を一蹴し、艶めいた声で相手に告げる。</div><div>自らの助言により更に手強くなった彼女を見ながらどこか満足そうに頷いた美彩は、今度は自らへと注意を向けようと彼のグラスにワインを注ぎ足す。彼女の推測通り男がグラスに目を向けると、追って自らのグラスも満たしてから立ち上がる。</div><div><br></div><div>「じゃあ、美彩はこっち 来まーす」</div><div><br></div><div>　彼の意識が自らに向いたのを感じ取り、美彩もまた猫撫で声を出しながら彼を挟む形でソファーへと腰を下ろす。抗議の言葉を受けるよりも先に、彼女は身体を男へとより密着させる。彼は逃げようとするものの、反対側に茜が居ることによりソファーから抜け出すことが出来ず、彼女の顔を直視しないという抵抗に出る。</div><div>思惑通りに事が進み美彩は満面の笑みを浮かべると、視線を合わせようとしない彼の頬を両手で包み込み、半ば強引に視線を交えた。</div><div><br></div><div>「素直に喜んでも良いんで・す・よ？」</div><div><br></div><div>「触るんじゃない」</div><div><br></div><div>　妖艶な雰囲気を作り彼へと告げるが、相変わらず男は素っ気ない対応を返し、自らを固定している両手を払わせる。左右どちらに視線を向けることが出来ない為、彼は正面に顔を向けたまま満たされているグラスを一気に空けた。</div><div>直ぐ様それを見て2人は注ぎたそうと手を伸ばすが、美彩はにこりと笑うようにしてからその役目を茜へと託す。口にすることを躊躇する彼であったが一瞬目だけで茜を見ると、会釈をしてグラスに口をつける。</div><div><br></div><div>「もう、お酒に逃げちゃって！可愛いなぁ」</div><div><br></div><div>　突然美彩が腰に手を回し、不意を打たれた男は思わず噎せる。その様子すら好感が持てるのか彼女は頬を緩ませる。</div><div>反射的に対抗心を抱く茜だったが、常に先を行く相手に困ったように小さく笑うと、自らの頭を相手へと預けるのだった。&nbsp;</div>
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12442776185.html</link>
<pubDate>Mon, 25 Feb 2019 21:22:44 +0900</pubDate>
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<title>バレンタインデー ～sweet Ver.～</title>
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<![CDATA[ <div>　バレンタインデー当日。秋元真夏は仕事の休憩時間を利用してメンバーへと手作りしたチョコレートを配っていた。順番に配っていく中、一人で座っていた斎藤飛鳥が目に入る。彼女にもチョコレートを渡すべく真夏が彼女に近づくと、飛鳥は真夏を認識するが再びぼんやりと前を眺めた。にこにこと笑いながら真夏が隣に座るものの、飛鳥ら恒例としている毒を吐くこともなくそれを受け入れる。</div><div>真夏は包装を施したチョコレートを取り出してみせるものの、上の空なためか飛鳥はそれが視野に入っていない様子であった。真夏が飛鳥の腕の辺りを軽くつつくことでようやく彼女は我に返り、隣に座る真夏を目で捉える。認識されたことにより毒を吐かれる前に、真夏は改めて自作のチョコレートを差し出した。</div><div><br></div><div>「はい、飛鳥にも」</div><div><br></div><div>「あっ、ありがと」</div><div><br></div><div>　差し出されたチョコレートを見て飛鳥は礼を告げると、それを受け取ってじっと眺める。その場で開けるのか、開けたらどんな反応をするのかを楽しみにしていた真夏は、暫く隣で飛鳥の様子を観察していた。しかしながら飛鳥がそれを開ける様子は見られず、相変わらずチョコレートへと視線を落としていた。</div><div>何か悩みがあるのかもしれない。</div><div>真夏が心配に思い彼女へと話題を切り出そうとした時だった。</div><div><br></div><div>「ねえ、やっぱり一緒にいたの？」</div><div><br></div><div>「えっ」</div><div><br></div><div>　タイミングが悪いことに飛鳥から声を掛けられたことに真夏は目を丸くして驚く。相談に乗ろうとしていたものの、問われた内容についてすぐに理解が出来てしまったこと、そして不意を突かれて意識が無防備になってしまったことが重なり、真夏は聞き返しながらもその頬が緩んでいた。</div><div>それを見逃さなかった飛鳥は数回頷くと、小さく息を吐いて真夏の方へと顔を向ける。顔を向けられた際の飛鳥の表情を見て、真夏は彼女に再び驚かされる。</div><div><br></div><div>「いいよ、顔で分かる」</div><div><br></div><div>　先程までの茫然としていた様子とは打って変わり、どこか悪戯な笑みを浮かべる飛鳥は、先に口を開くことで真夏から説明を受けることを拒否した。説明をすること無く事態を察してくれたことに、真夏は嬉しいような、困ったような感情が入り混じり、複雑な笑みで飛鳥に応えた。</div><div><br></div><div>「聞いてあげてもいいよ。どうせ誰にも言えないでしょ」</div><div><br></div><div>「ありがと、飛鳥」</div><div><br></div><div>　グループを卒業したら、付き合う約束をした相手。今はまだ恋人同士にはなれない関係。</div><div>相手にそんな約束をした人物がいることを知っているのが自分だけであると自覚しているのか、飛鳥は話しやすいように自ら話題を切り出す。真夏は申し訳なさそうにしながらも、彼女の一言に信頼感を一層抱いたのか改めて礼の言葉を告げる。しかしながら飛鳥はその言葉を受け取る意思を見せないかのように、手のひらを真夏へと向けた。</div><div><br></div><div>「お礼とかいいから。で、何があったの」</div><div><br></div><div>　拒否的な姿勢を見せながら、飛鳥は再び話すように促す。真夏は嬉しそうに頷くも、他者に話すことに恥じらいを感じたのか照れ笑いする。照れで一向に話そうとしない真夏を見て飛鳥は咳払いをすることで話すことを急かした。</div><div><br></div><div>「意外とね、甘えん坊なんだよ」</div><div><br></div><div>「甘えん坊？誰が」</div><div><br></div><div>　飛鳥から促されると、真夏は満更でも無い様子ではにかんで頷く。頬に手をあてる真夏は、照れながらも一緒に過ごした相手について特徴を口にした。言い終えた後、恥じらいが増したのか彼女は顔を両手で覆う。</div><div>話している意味が分からない。</div><div>真夏が口にした人物については飛鳥もよく知っている相手だった。しかしながら告げられた特徴とその人物のイメージがかけ離れ過ぎている為に、飛鳥は眉をひそめるようにしながら問いかけた。</div><div>飛鳥からの疑問を受けて、真夏はくすくすと笑う。その後両手を筒状にして口元に付けると、飛鳥の耳元へと顔を近付けた。</div><div><br></div><div>「だ・あ・り・ん」</div><div><br></div><div>　真夏は囁き声ながらも、一言一言をはっきりと発音して伝える。告げ終えた後に顔を離すと、目を細めたまま飛鳥の反応を見る。</div><div>耳元で囁かれた飛鳥は真夏が距離を取った後、不愉快そうに耳元を手で拭う。そして不満が籠った大きな溜め息を1つ吐いた。</div><div><br></div><div>「ごめん、聞く気失せたわ」</div><div><br></div><div>「冗談だって、ごめんごめん！」</div><div><br></div><div>　完全に冷めた声色で飛鳥は告げると、座っていた席を立ち上がる。それを見た真夏は両手を振りながら、必死に彼女を呼び止めた。椅子から立ち上がっているために真夏を見下ろす形で冷たい視線を向けていたが、暫くして大人しく再び椅子へと腰を落ち着ける。</div><div>再び話を聞いてくれることに安堵して、真夏は椅子ごと相手に近寄る。飛鳥はそれに直ぐ様反応をして改めて真夏との距離を取った。</div><div><br></div><div>「冗談とかいいから、ほら」</div><div><br></div><div>「じゃあ、話すね」</div><div><br></div><div>　距離を摘めることを諦めた真夏が視線を送っていると、自分から話しづらくなっていると判断したのか飛鳥がもう1度促す。話が再開したことに真夏は表情を明るくするが、飛鳥はその表情を見ないように咄嗟に視線を横に向ける。</div><div>そんなことは日常茶飯事なのか、真夏は飛鳥の対応に対しても表情を崩すことは無かった。むしろ先程よりも嬉々とした声色で、先日起こった出来事について話し始めた。</div><div>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー</div><div><br></div><div>　休みの日が被ったことに加え、近々バレンタインデーを迎えるということもあり、真夏は彼の部屋を訪れる約束を取り付けていた。彼がその特別な日に対して意識をしているかどうかの判断は出来なかったものの、当日の男のスケジュールを知っていた彼女はチョコレートを渡す隙が無いことも把握していた。そのため彼女は自作のチョコレートケーキを鞄に入れて相手のマンションを訪れると、約束の時間の数分前になったのを確認して呼び鈴を押した。</div><div>インターホンによる確認もなくオートロックが外れると、真夏は中へと足を踏み入れる。慣れた足取りで通路を進んでいくと、やがて現れた目的のドアを前にして再び呼び鈴を鳴らす。招き入れるべくドアの開く音がすると、目の前に男が姿を現わす。</div><div><br></div><div>「今年はまなったんがバレンタインの贈り物でーす！」</div><div><br></div><div>　部屋に入りドアが閉まったのを確認すると、真夏は笑顔を浮かべて告げる。反応が薄いことにも慣れているのか、彼女は続けて男に向けて自らの小指を見せる。丁寧に巻いたピンク色のリボンを彼へと見せると、それを顔の横に持っていきウインクを1つ飛ばした。</div><div><br></div><div>「もっとリボン巻いて欲しかった？」</div><div><br></div><div>「いいや、必要ない」</div><div><br></div><div>　やはり大きな反応を見せること無く、男は静かにリビングへと戻っていく。真夏は慌ててスリッパへと履き替えるとパタパタと彼の後を追い掛けた。そのリビングに足を運んでいる最中、真夏は彼の背中に向かって愛想良く問い掛ける。彼はいつも通りの抑揚のない声のトーンで、背中を向けたまま彼女の問いへと答えた。</div><div>何かしら特別な装飾を施しているかもしれない。</div><div>そう考えていた真夏であったが、到着したリビングに広がっていたのは見慣れた光景であった。通った扉を閉めてドアの前で真夏がどうするか考えながら立ち尽くしている間、男は何かの用意を手際よく始める。</div><div><br></div><div>「どんなチョコよりもあまーいひとときをまなったんと……」</div><div><br></div><div>「作って来てくれたんだろう」</div><div><br></div><div>　部屋に来てくれたことにも関わらず、彼は真夏と言葉を交わすこと無く準備を進めていく。しかし彼女はめげることなく、今度は甘えるような声色で彼に向かって声を掛ける。大方の準備が終わったのか、男は話を続ける真夏とようやく向かい合う。いつもと異なり彼女が大きな鞄を持ってきたことで既に勘づいていたのか、男は真夏の言葉を遮り彼女の両手で大事そうに持っている鞄を指差した。</div><div>指摘をされた真夏ははっとして自らの鞄を改めて眺めると、否定できなかった為か苦笑いをする。彼女の反応で予想通りだったことを男は察すると、最後の支度のためにテーブルへと戻る。そこにはケーキのための皿とフォーク、切り分けるためのナイフが用意されていた。</div><div><br></div><div>「それは、そうなんだけど……」</div><div><br></div><div>　真夏はテーブルの上に行われている用意で、自らが持参しているものが見抜かれたことを理解する。それに関心した彼女は、鞄から自作したケーキを慎重に取り出しテーブルの上へと置く。それに包丁を入れようとした男であったが、丁寧に装飾が施されているケーキを見て手を止める。ケーキを眺めたまま彼が動きを止めたため、真夏は彼の顔を覗き込んで様子をうかがった。</div><div><br></div><div>「真夏の作ったものは好きだ。実に腕が良い」</div><div><br></div><div>「えっ、本当ですか？」</div><div><br></div><div>　視線をケーキへと向けたまま、男は切り分ける前に手にしていたナイフを再び皿の上へと置く。その際に以前彼女から振る舞ってもらった料理を思い出したのか、男は賞賛の言葉を送った。その声色は先程までの淡々としていたものではなく、柔らかな雰囲気が込められていた。</div><div>今までの会話の流れと彼の反応から褒められるとは思っていなかったのか、突然送られた賛辞に真夏は目を大きく開く。反射的ながらも彼の言葉に疑問を投げ掛けるようにすると、男が改めて自らを褒める言葉をかけてくれるの期待して待つ。</div><div><br></div><div>「それに真夏が言ったように、一緒に居ると空気感が甘ったるくなるのは事実だ」</div><div><br></div><div>　先程は遮った内容について改めて男は答えると、真夏の頭の上に手添えてから柔らかく弾ませる。その後、彼女に無理をさせていたという自責の念からか、真夏の頬を軽く摘まむと口角を上に引き上げさせた。そっと手を離されると、相手の行為に満足した真夏はこの日1番の満面の笑みを浮かべるのだった。</div><div><br></div><div>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー</div><div><br></div><div>「もう、独特の言い回しでデレるのが堪んない！」</div><div><br></div><div>　夢中で先日の話終えた真夏は両手を頬にあてながら、うっとりとした様子で息を吐く。理解はしていたものの完全な惚気話になったことに飛鳥は呆れながらも耳を傾けていたが、そんな彼女に向けて真夏は彼の魅力について改めて力説をする。気分の高揚に伴って声が大きくなっていたことを自らで気づいたのか、真夏は両手を合わせて謝罪の仕草を見せた。</div><div><br></div><div>「はいはい、ごちそうさまー」</div><div><br></div><div>「聞いてくれるって言ったのは飛鳥なのにー」</div><div><br></div><div>　耳を傾けてしまったがために予想を大きく上回って惚気られたことを後悔しながら、飛鳥は突き放すように適当な返事をする。その言葉に対し頬をわずかに膨らませながら真夏が反論をすると、正論ゆえに何も言い返す言葉が見つからず飛鳥は顔を合わせないことで不服の意を表した。</div><div>暫くは不満を見せていた飛鳥であったが、後々に羨ましいという思いも表れる。その思いから視線を下げて悩むように頭を掻く飛鳥に、真夏は目をぱちくりとさせる。やがて視線を上げた相手が何故か神妙な面持ちを浮かべたために、真夏は僅かに驚き小首を傾げた。</div><div><br></div><div>「でもよく選んで貰えたよね。性格のタイプ的に……」</div><div><br></div><div>「合わなさそう？」</div><div><br></div><div>　自らの知っている男は寡黙で、無愛想で、真夏とは正反対の性格であった。そんな対称的な相手と一緒になっていることに違和感もあり、疑問もあり、そして嫉妬もあるのか飛鳥は隠すこと無くそれを真夏へと尋ねる。そう思われても不思議ではないことを理解している真夏は、飛鳥が言い終える前にその言葉を続ける。言いにくいことをあえて口にしてくれたことに飛鳥は安堵しながら、素直に頷いた。</div><div><br></div><div>「でも、でもね！ぎゅってしたら手は回してくれるし満更でも無い感じも……ふふっ」</div><div><br></div><div>　相手に理解をして貰おうと、真夏は分かりやすい説明をするべく頭を悩ませる。やがて考え付いた実例を話していくものの、途中で恥ずかしくなり笑って誤魔化す。先日の報告を行った時にはあまり変化が見られなかったが、今現在口元を隠している真夏の頬は話す前に比べ確実に紅潮をしていた。</div><div><br></div><div>「あー、分かった分かった。チョコも惚気もごちそうさまでしたー。甘ったるくて胃もたれするわ」</div><div><br></div><div>　いつの間にか再び惚気になっていることに付き合いきれなくなったのか、飛鳥は大きく溜め息を吐いて席を立つ。チョコレートを手にして吐き捨てるように言い残した彼女はその場を立ち去っていく。残された真夏は飛鳥の気分を害したことに申し訳なさを感じながらも、最後まで聞いてくれたという感謝の思いも込めて飛鳥の背中に向かい手を振って見送った。</div>
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12353113942.html</link>
<pubDate>Thu, 15 Feb 2018 19:37:25 +0900</pubDate>
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<title>バレンタインデー ～bitter Ver.～</title>
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<![CDATA[ <div>　巷でバレンタインデーと騒がれている当日を迎え、秋元真夏はメンバーへと手作りのチョコレートを渡していた。まだ渡していないメンバーを探している最中、1番気掛かりになっていた人物を見つけた彼女は、1人で読書を行っている相手の元へと足を早める。邪魔にならないように傍らにあった机にチョコレートを置くと、それにより存在に気が付いた斎藤飛鳥は真夏に一旦視線を向けるものの再び読書を再開する。</div><div>意と反し情報をなにも得ることが叶わないと判断した真夏は、飛鳥の側に椅子を用意して自らもそこへと座る。しかしながら気にしていない飛鳥は何も告げられることは無く、真夏がまじまじと見つめる時間だけが続いた。</div><div>&nbsp;</div><div>「ね、どうだった？」</div><div><br></div><div>　居ても立ってもいられなくなり、痺れを切らした真夏は自ら相手へと問いを投げ掛ける。無言のままページを捲る彼女が今は平静を装っているものの、何も無かった訳がないと確信しているためか、両手で頬杖をつく真夏の表情はどこか緩んだものとなっていた。</div><div><br></div><div>「何が」</div><div><br></div><div>「もう、一緒に過ごしたんでしょ」</div><div>&nbsp;</div><div>　興味津々にしている真夏とは対称的に読書の世界に没頭しているのか、飛鳥は心ここにあらずといった様子で機械的に問いに対し尋ね返す。適当にあしらわれていることに顔を床へと向けて一旦消沈する真夏であったが、諦めまいと今度は核心を突いた内容を実際に口に出す。これには反応を示さざるを得まいと踏んでいた真夏はにやりとするが、当の本人は相変わらず気にも留めず一瞥しただけであり、ページを進める手が止まることは無かった。</div><div>どうにかしてこちらの話題に耳を傾けて貰おうとする真夏は席を立ち、飛鳥の視野に入るであろう場所から眼差しを送る。初めは変化が無かったものの否応なしに目に入る真夏の顔に根負けしたのか、やがて手にしていた本を閉じ、不満そうに息を吐く。飛鳥が鋭く自らへと向ける視線に、相手を折れさせたという充実感からか真夏はにこやかな笑顔で応えた。</div><div><br></div><div>「まあ」</div><div><br></div><div>　不満という意志をなるべく露にしたものの、それが通じていないのか真夏は笑顔を向けている。そのことが腹立だしさに拍車を掛けたのか、飛鳥は先程の問いに対してぶっきらぼうに答える。相変わらず目を合わせようとしないものの、会話が進んだことに喜びを感じ、真夏は再び両手で頬杖をつき目を輝かせた。</div><div><br></div><div>「歯切れ悪いなぁ。どうだった？」</div><div><br></div><div>「何にもないよ」</div><div><br></div><div>　曖昧な返事に対して催促をするように言葉を続けると、真夏は視線をそらした飛鳥の視野の範囲へと再び意図的に入り込む。それを受けて飛鳥は首を横に向けて視野に入り込む相手を見える範囲の外へと追いやるが、それを追い掛けるように真夏は位置を改める。</div><div>意地でも問いに対して口を割ろうとしない飛鳥は、質問攻めから逃げるべく先程閉じた本を手に取ろうとする。しかしながらそれを察した真夏が咄嗟の判断でその本を自らの元へと引き寄せる。目的の物が無くなった為に空へと伸ばされた手を保持したまま、飛鳥は得意気に笑う相手を睨み付けた。</div><div><br></div><div>「聞かせて、聞かせて。強いの頂戴」</div><div><br></div><div>「もう強いのとか、ほんと意味わかんないから」</div><div><br></div><div>　拒否的な雰囲気を全面的に出し頑なに答えることを拒否する飛鳥であったが、真夏は一向に諦める様子を見せない。むしろ冷たい対応によって火が着いたように声のトーンを高めると、両手で手招きをするジェスチャーを交えながら相手の告白を促した。直視を避けていた飛鳥が動きを感じ煩わしく思う相手に目線を向けると、視線を感じ取った真夏は再び同じジェスチャーを繰り返した。</div><div>いつまでこの不毛なやり取りが続くのか。</div><div>そう考える飛鳥の感情は苛立ちと怒りという高ぶったものから、呆れや早く諦めて欲しい懇願といったある種の落ち着きを持ったものへと変化していた。その思いがそうさせたのか、飛鳥は天を仰ぎ腑抜けた声を上げると、その後テーブルに顔を伏せた。</div><div><br></div><div>「聞かせてよー」</div><div><br></div><div>「分かったから、静かにして」</div><div><br></div><div>　飛鳥の発言につられたのか、今まではどうにか聞き出そうとしていた真夏も方向性を変えて今度はすがるように告げる。その必死さを伝える為にか、彼女は飛鳥の腕を掴みながらまじまじと顔を見つめていた。捕まれた腕をどうにか振り払うと、飛鳥は大きな溜め息を吐く。それによって悲しげな表情を浮かべる真夏を見てもう1度、より大きな溜め息を吐くと飛鳥は観念したように答える。</div><div>許可が下り一気に顔を綻ばせた真夏は小さく拍手をすると、しっかりを話を聞くべく飛鳥の目の前に居住まいを正す。目の前に座る相手が昔から変わること無く単純な性格であることを再認識しながらも、飛鳥は先日の出来事について話し始めた。</div><div>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー</div><div><br></div><div>　バレンタインデーの前日、当日は会うことが叶わないと判断していた為に飛鳥は男の部屋を訪れていた。相手の部屋に訪れた際にいつも使っている愛用のグラスを食器棚から取り出すと、無断で冷蔵庫を開けて中を物色する。しかしながら探しているものが見当たらないのか暫く眺めた後に首を傾げると、何も手に取らないまま冷蔵庫のドアを閉めた。キッチンからリビングに戻った彼女は、パソコンと向き合いタイピングを黙々と行っている男の元へと歩み寄る。</div><div>男が眺めている画面へと飛鳥は目を向けるものの、内容がさっぱり分からずに彼から声が掛かるのを待つ。しかしながら一向に声の掛かる気配がないことを感じ取ったのか、飛鳥は自らの存在を主張すべく男の肩を軽く叩いた。</div><div><br></div><div>「私のコーヒー牛乳が無いんだけど」</div><div><br></div><div>「ドアポケットだ」</div><div><br></div><div>　彼の指の動きが止まったのを見て、即座に自らが探していたものに関して尋ねる。男は飛鳥の方向を見ること無く必要なことだけを答えると、再び作業を開始した。</div><div>キッチンに戻った彼女は示された場所にあったコーヒー牛乳を取り出しグラスに注ぐと、リビングの彼から少し離れた場所にあるテーブルの上へとそのグラスを置く。その後相手が書斎として使用している部屋へと足を踏み入れると、暫く本棚を眺めた後にめぼしい本を数冊手に取る。グラスの元に戻った彼女はソファーへと腰を下ろすと、手にしていた本の1冊のページを捲り始めた。</div><div><br></div><div>「昼食はどうする」</div><div><br></div><div>「んー」</div><div><br></div><div>静かな空間にカタカタとキーボードを叩く音と、紙同士の擦れる音だけが存在していた時間が暫く続く。</div><div>作業が一段落したのか男がたまたま時刻を確認した頃、時計は既に2時を指していた。昼食を取ること無く向き合っていたパソコンを閉じ、ようやく彼女を視野に捉えて問い掛ける。しかしながら読書に熱中しているためか、飛鳥はページを捲りながら曖昧な返事をする。それに対して男は気にすることもなくパソコンの傍らに置いていた紅茶を飲み干し、使用していたカップをキッチンで洗い始めた。</div><div><br></div><div>「外に出るか？」</div><div><br></div><div>「んー、適当に作って」</div><div><br></div><div>　カップを洗い終わる程度の間を開けてから、男は改めて再度問いを投げ掛ける。飛鳥は相も変わらず読書を続けながら、今度は彼へと調理することを依頼する。承諾の旨も伝えずに彼は黙ったまま冷蔵庫を確認すると、昼食の用意を始めた。</div><div>調理の匂いと食器が用意された際の音を聞き、本を閉じた飛鳥は手を洗って用意された皿の前へと座る。料理が全て卓上に揃った後、男も彼女の側にある椅子へと腰を下ろした。</div><div><br></div><div>「いただきます」</div><div><br></div><div>　それぞれ口にしてから食事に手を付けると、会話を交わすことなく黙々と食べ進めていく。目の前の料理を口に運ぶ事だけに専念しているため、それほど時間が掛かることもなく2人の皿の上の料理は平らげられた。</div><div><br></div><div>「ごちそうさま」</div><div><br></div><div>　そう告げた飛鳥は洗面所に向かい手っ取り早く歯を磨き終えると、食事の寸前まで座っていたソファーへと足早に戻る。食後の休みも取らずに、彼女は食事の前と全く同じ形で中断していた読書を再開した。</div><div>ちょうどそれと同じ頃合いに男は調理と食事の後片付けを済ませ、ゆっくりと歯を磨きながら紅茶を入れる支度を行う。用意が整うまでの僅かな間、男はソファー座っている飛鳥を静かに眺める。出来上がった紅茶をカップへと入れ終えると、彼はパソコンを開き自らの業務へと戻るのだった。</div><div>ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー</div><div><br></div><div>「こんな感じだったかな」</div><div><br></div><div>　覚えている範囲の内容を思い出しながら、飛鳥は期待をしていた真夏に対して語っていく。話の最初では目を輝かせていった真夏であったが中盤、後半と話が進んでいくにつれて表情が曇り、最終的には衝撃のあまり両手で口元を覆っていた。</div><div>飛鳥はいつも通りの彼とのやりとりを口にしたつもりであった。ところが予想以上にショックを受けて大人しくなってしまった真夏の姿を見て小首を傾げる。</div><div><br></div><div>「飛鳥、それ本当に言ってんの？」</div><div><br></div><div>　ようやく口を開いた真夏はどこか心配そうな様子で尋ねる。その問いに対してもあまりしっくり来ていない飛鳥は何も考えずに数回首を縦に振った。</div><div><br></div><div>「他の人に言わない方がいいかも、怒られるよ」</div><div><br></div><div>「なんで？」</div><div><br></div><div>　多くの人から好かれていた彼であったが、結果的に卒業後には飛鳥と結ばれることとなった。それにも関わらず、先程のやり取りを聞く限りでは何の特別性も感じられない。</div><div>その事が他に知れ渡ることが賢明でないと判断した真夏は、困ったように笑いながら彼女を気遣って忠告をする。飛鳥がきょとんとしながら咄嗟に尋ね返すと、どうしたものかと真夏は考え込む。その頭を悩ませている様子が真剣に見えたのか、飛鳥も何も言わずに相手の次の発言を待った。</div><div><br></div><div>「なんか可哀想だなあ。私が作ってあげようかな」</div><div><br></div><div>「ダメ」</div><div><br></div><div>　様々な事を考えた挙げ句、付き合っている男が気の毒に感じたのか、本気とも冗談ともつかない様子で真夏が呟く言葉に、飛鳥は冗談が一切含まれていない本気の声色で即答する。</div><div>その発言で彼女の男に対する想いが感じられ安堵したのか、真夏は顔を綻ばせる。未だに警戒をしている飛鳥は、雰囲気を和らげた相手へと真っ直ぐな視線を送り続けていた。</div><div><br></div><div>「甘やかさないのに即答するんだ」</div><div><br></div><div>「うるさい。ちょっかい出したら、思いっきり殴るから」</div><div><br></div><div>　期待とは異なっていたものの、飛鳥が充実した関係性を築いていることに安心した真夏は、今度はからかうべく冗談めかして告げる。茶化されていることを敏感に察した飛鳥は機嫌が良くなった真夏とは反比例するようにストレスが増していく。</div><div>そんな相手を牽制するように、飛鳥は握り拳を作ってみせながら今度は逆に警告を仕返した。その本気にしている様子がおかしくも可愛らしかったのか、真夏は笑いたいのを堪えるように手のひらで口元を覆う。</div><div><br></div><div>「え、誰を？」</div><div><br></div><div>「あいつ」</div><div><br></div><div>　笑いを飲み込んでから威嚇をしてくる相手に真夏は問い掛けるが、予想とは裏腹に飛鳥は彼の代名詞を挙げる。先程までの嫉妬などから恥じらいが生じたのか、彼女の目線は真夏の方ではなく横を向いていた。</div><div><br></div><div>「あいつとか言って！本当はラブラブなんじゃないの？」</div><div><br></div><div>「うるさい、チョコはありがと。でも、もういいから帰れ！ほら」</div><div><br></div><div>　その姿を見て、真夏は笑いを耐えられなくなり更にからかいの言葉をかける。我慢できなくなった飛鳥は机に置かれていたチョコレートを鞄にしまい、むきになって相手に立ち去るように告げる。満足した真夏は手を振りながらその場を後にするが、飛鳥は追い払うジェスチャーをして相手を見送った。</div><div>真夏が立ち去った後、彼女の言葉を思い出し飛鳥は男に電話をかける。だが電話は繋がらず留守番電話のアナウンスが流れた後、飛鳥は意を決したように小さく息を吐いた。</div><div><br></div><div>「今日……会えないかな？ほら、この前なんにもあげてないから。連絡、待ってる」</div>
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12353113376.html</link>
<pubDate>Thu, 15 Feb 2018 19:33:58 +0900</pubDate>
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<title>『誕生日』×齋藤飛鳥</title>
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<![CDATA[ 　8月10日。とある男の部屋に半ば押し掛ける形で訪れていた齋藤飛鳥はソファーに腰を落ち着け相手が帰るのを待つ。退屈しのぎに彼の部屋で見つけた本のページを捲っていたが、自らの嗜好に合わなかったのかしきりに時計を気にする。<br>　何度針の動きを確認した頃合いだろうか。玄関方面から解錠音が聞こえると、彼女は深くソファーに座り直すと床に着けていた足をぶらつかせた。やがて彼がリビングのドアを開いた瞬間、彼女は笑いを我慢出来ない様子で広角を上げる。<br><br>「借りてきた？」<br><br>「ああ、言われた通りにな」<br><br>　男はソファーに座る彼女に目を向けてから、手にしていた荷物をテーブルへと乗せる。その後彼女から問われると、彼は相手の目の前へとレンタルビデオ店のものらしき小さな鞄を置いた。<br>　その袋を飛鳥はまじまじと見つめていたが、何であるかに気づいた彼女は手を打ち鳴らすようにしながら笑い声を上げた。<br><br>「マジで借りてきたんだ。ウケる」<br><br>　上機嫌そうに告げた彼女は、笑みを浮かべたままDVDが入っているであろう袋を掴んで男へと差し出す。彼は小さくため息を吐いてから飛鳥の隣へと腰を下ろした。そんな男の様子に構うことなく、彼女は急かすように相手の腕を軽く叩いた。<br>　何故こうなってしまったのか。男は理由を考えるように頭を抱える。その原因は数時間前へと遡る。<br><br>────────────────────<br><br>～数時間前～<br><br>「ねぇ、私18歳になったんだけど」<br><br>　何度も言われ根負けした彼は、仕事終わりに飛鳥を自らのマンションへと招き入れる。彼の部屋に入った彼女は真っ直ぐにリビングに向かうと、置いてあったソファーに勢いをつけて座り込んだ。<br>　飛鳥は彼が帰宅をしてから行う一連の流れを黙って観察をするようにしていたが、自らへと声を掛けてこないことにいよいよ痺れを切らした。帰宅後の作業を済ませ、飲み物を用意しようとしている彼に対して不機嫌な声を掛ける。<br><br>「ああ、知っている。誕生日が同じだったな」<br><br>　不満を口にされている事に慣れている為か、男は簡単に返事をしてから彼女の前へとお茶を差し出す。どこか気に入らない様子でお茶をまじまじと見ていたが、暫くすると用意されたお茶を一気に飲み干した。<br>　お茶を出されて数分が経過し、一向に彼が私室から出てこない彼を不審に思ったのか、飛鳥は忍び足で相手の部屋に向かう。音を立てないよう静かにドアノブに手を掛け押し開くと、パソコンと向き合っている彼の姿が目に留まった。<br><br>「何もお祝いとか無いわけ？」<br><br>　自身が来ているにも関わらず放置されたことにより機嫌が悪化したのか、彼女は勢い良くドアを開いた。突然の出来事に男はドアの方へと視線を向けるが、すぐにモニターへと視線を戻して作業を再開する。<br>　飛鳥は入室の許可を得ることなく足を踏み入れると、彼の元まで早足で進んでいく。キーボードを叩く男のすぐ側に来るや否や、タイピングを行っている最中であるにも関わらずモニターを隠すように手前へと倒した。<br><br>「何が望みなんだ」<br><br>　仕事が中断され会話を交わすしか無くなったのか、男はモニターとキーボードの間にあった手を抜き出すうにしながら彼女に尋ねる。ここまでしなければ自らに注意を向けてくれない事に更に苛立ちを増させていた彼女であったが、何かを思い付いたのかとつぜんくすりと小さく笑う。<br><br>「じゃあ、あれ見てみたい。カーテンの向こう側」<br><br>「カーテンの向こう側？」<br><br>　彼が普段から使用しているベッドへと飛鳥は腰を下ろし、改めて男へと視線を向ける。自らとしっかり対面してくれていることが満足なのか、飛鳥は先程までの不機嫌が嘘のように笑いながら要求を口にする。しかしながら要求が抽象的な為か、内容を理解出来なかった彼は相手の言葉を復唱した。<br>　それを受けた飛鳥は小さく息を吐くと、座っていたベッドから立ち上がり再び男の側へと駆けていく。次の瞬間、飛鳥は様子を伺っていた男の二の腕の辺りを叩いた。<br><br>「もう、言わせんなバカ！」<br><br>　突然叩かれた部位を手で押さえるようにしながら、男は飛鳥の表情を伺う。ほんのりと頬を赤らめ、目線を反らしている彼女を見て、男は彼女が何を要求していたのかを察する。これからすべき事に対し気が進まない為からか重くなった腰を上げると、外出の用意を進めていった。<br><br>────────────────────<br><br>「もういい」<br><br>　しかしながら再生を開始した数分後、見ることが耐えられなくなったのかテレビから目を背けるようにして飛鳥は告げる。音を上げる事は予想していたのか、彼女の隣で読書をしていた彼は驚く様子も見せずにのんびりと手にしていた本を閉じた。<br><br>「まだ始まって10分程度しか経っていないのだが」<br><br>「止めてって言ってるじゃん！バカ、バカっ！」<br><br>　彼はリモコンを手にすると、それを操作して再生時間を確認する。その間も飛鳥は一向にテレビに目を戻す素振りも見せず、顔を背けたまま彼が再生を中断するのを待っていた。<br>　確認するように彼は再生時間を口にするが、限界になっている彼女は顔を真っ赤にしながら言い放つ。男は再生を中断してDVDを片付けると、未だ顔を紅潮させ視線を落としている彼女の横に再び腰を下ろした。テレビの電源が落ち安堵したのか、飛鳥は一端男の顔を見るようにしてから再び顔を俯ける。<br><br>「それで、感想は？」<br><br>「文字と映像じゃ、全然違う……」<br><br>　文学作品で見ることがあったそれとない描写と今回僅かながらも見てしまった映像のギャップに、飛鳥は気疲れした様子でぐったりと相手へと寄り掛かった。その姿からまともな感想が返ってくることはないと知りながらも、彼は初めての経験について問い掛ける。深くため息を吐く彼女は力無い声でそれに答えると、軽く瞼を閉じた。<br><br>「自分で経験する方が先なのかもしれないな」<br><br>「今の私の立場分かってるの？」<br><br>　彼からの一言が癪に障ったのか、完全にぐったりとしていた筈だった飛鳥は男から離れると厳しい視線を向ける。突然豹変した彼女に男は首を傾げるが、飛鳥はそんな相手を指差すようにしながら問い詰める。<br><br>「アイドルという事だろう。飛鳥はまだ若い、本当の恋愛はこれからしていける」<br><br>「全然分かってないし」<br><br>　自らの見解を語る彼であったが、飛鳥は即座にそれを否定するとソファーから立ち上がる。彼女が発した言葉に棘が含まれていた事から、再び彼女の機嫌は最悪なものになったのであろうと確信した彼は目で飛鳥の事を追わずにぼんやりと床を眺める。相変わらず感情の移り変わりが読めない彼女とこれからどう接していくべきか、彼は悩むように額を押さえる。<br>　次の瞬間、彼の頬へと柔らかい感覚が伝わる。<br><br>「これは……ただの誕生日プレゼントだから」<br><br>　口付けを受けたと認識し彼女に視線を移した時には既に、飛鳥は恥じらいからか目が合わないように顔を横に向けていた。顔を見せないようにしながら、飛鳥は消え入りそうな声で言う。ようやく事態が飲み込め、現状を把握した男の表情にも自然と笑みがこぼれた。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12231481023.html</link>
<pubDate>Sat, 24 Dec 2016 12:38:31 +0900</pubDate>
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<title>『帰路』×田中美久</title>
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<![CDATA[ 　彼女がプールで遊んだ夕方、彼女がとある男に連絡をすると指定した場所に見慣れた車を見つける。田中美久は相手の完璧さに改めて満足そうににこりと笑みを溢すと、その車に向かって駆け寄っていった。<br><br>「本当に来てくれた！」<br><br>「約束だったからな」<br><br>　乗り込むや否や美久は嬉しそうに声を掛けると、男は正面を向いたまま彼女に返事をする。後ろのドアが閉まった事を確認すると、彼は車を走らせた。<br>　何か声を掛けられるのを期待するように美久はルームミラー越しに相手の顔をまじまじと見つめるが、それに気付いていない彼は口を閉じたまま運転を続ける。<br><br>「日焼け止め塗ったけど、ちょっと日焼けしちゃった」<br><br>「当然だ。日焼け止めがあるとはいえ屋外のプールなのだから」<br><br>　彼が自分から話さないであろうと察した美久は、自らの身体を見渡すようにしてから口を開く。しかしながら彼女が切り出した話題も、相変わらずの彼の淡々とした返答によって早々に断ち切れてしまう。<br>　その後何か良い話題を思い付いたのか、美久は悪戯っぽい笑みを浮かべてから再度彼が正面を向いている事を確認した。<br><br>「どんな水着だったか聞かないの？」<br><br>「何故聞く必要がある？」<br><br>　男の人ならばきっと反応する話題だろう、そう考えた美久は僅かに後部座席から身を乗り出しながら彼に問い掛ける。だが彼女の予想とは裏腹に、彼は話題に対して食いつく様子も見せずに彼女へと尋ね返した。<br>　思い通りにならなかった美久は彼の問い掛けには答えず、居住まいを改めてから考えるように腕を組む。 <br><br>「ねえ、見て見て」<br><br>　車が信号で停まったタイミングに、美久は再び前に身を乗り出して彼へと声を掛ける。<br>　信号待ちという事もあり彼は美久の推測通り後部座席へと顔を向けた。そこで、身を乗り出している美久との距離が近くなっている事に気づく。<br><br>「日焼け跡」<br><br>　彼女はクスリと笑い指先で自らのTシャツを掴むと、僅かに下へと下げる。流石の彼も何らかの反応を見せるだろうと確信しながら、美久は上目遣いで相手を見る。<br><br>「美久」<br><br>　男は注意をするように彼女の名前を呼んでから軽く美久の頭を小突くと、何事も無かったかのように正面を向き運転を再開する。<br><br>「だって気にしてくれないし、ヤキモチも妬いてくれないし」<br><br>「答えになっていない」<br><br>　拗ねたように彼女は抗議の声を上げるが彼がそれを一蹴した為、美久は拗ねたようにそっぽを向きながら背中を後部座席へとつける。<br>　その後暫くして自らを落ち着けた美久は何とかして相手の関心を引かせてやろうと、顔を横に向けたまま横目でルームミラーに映る彼を見る。<br><br>「男の子の視線感じちゃったなぁ。水着の公開前なのに見られちゃったかも」<br><br>　彼女は溜め息を吐いてからわざとらしく困ったように告げ、再び横目で彼の反応を伺う。今の発言が聞こえていなかったのか、彼女にそう感じさせるまでに彼は平然とした様子を貫き通していた。<br><br>「プライベートの時に口出しはできないからな」<br><br>　ようやく開いた彼の口から告げられた言葉で、美久は自らの声が聞こえていた事を知る。だがその内容が気に入らなかったのか、美久は頬を膨らませながら不満の眼差しを彼に向けた。<br><br>「本っ当に気にしてくれないんだね」<br><br>「そうでは無い」<br><br>　気を引こうとする策がことごとく失敗し、素っ気ない態度を取り続ける彼に我慢ならなくなったのか、とうとう美久はストレートに不満をぶつける。ルームミラーで彼女の様子を見た男は小さく息を吐いてから一呼吸置いて否定の言葉を口にした。<br><br>「美久がマセている……いや、年齢の割には大人の魅力が僅かに感じられる事は分かっている」<br><br>「うん」<br><br>　彼の並べていく言葉に美久は僅かに嬉しくなるが、それを表情に出すまいと努めながら素っ気なく返事だけを口にする。<br><br>「大人になり、色気を増していく美久はこれから見ていける、一緒に居られる。今の年相応の美久と一緒にいられるのは今だけだ」<br><br>　彼の話を聞き終えた美久は視線を下へと向けると、何かを考えているのか口を閉ざす。彼女が黙りこんだ為に車内が静かになるが、彼は話を促す事無く美久からの次の言葉を待つ。<br><br>「美久、帰る前にアイス食べたい……かも」<br><br>「ああ、分かった。寄っていこう」<br><br>　ぽつりと呟いた彼女は気恥ずかしそうに告げながら、視線を上げる。それを聞き男は柔らかい声で承諾をすると、彼女が望む場所へ向けて車を走らせた。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12200306546.html</link>
<pubDate>Thu, 15 Sep 2016 21:37:23 +0900</pubDate>
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<title>『勧誘』×佐々木琴子</title>
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<![CDATA[ 　男が一人パソコンのキーボードを叩いている室内を、とある少女がこっそりと覗き込む。その男は少女の気配を感じ目だけを動かし確認するが、特に気にする様子も見せずに作業を続ける。<br>　気付かれていないと思ってか、彼女は悪戯っぽく歯を見せると彼の前にあるソファーへと腰を下ろす。しかしながら相手が無反応を貫いた為に自らの存在を察していたと判断したのか、身を乗り出して彼の見つめるパソコンのモニタを覗き込んだ。<br><br>「果物、好きですか？」<br><br>　彼が黙々とタイピングをしている姿を、彼女はまじまじと見つめる。しかしながらやがてそれにも飽きたのか、先程まで腰かけていたソファーへと再び身を委ねた。<br>　暫く沈黙が続いていたが再びにこりと笑った彼女、佐々木琴子は彼に向かって問いかける。<br><br>「何の話だ」<br><br>　正面に座っている琴子は目を輝かせるように男へと視線を送るが、彼はそれを気にすることもなく作業を続けながら返事をする。答えが返ってきたのが嬉しかったのか、琴子は再び身を彼の方へと乗り出した。<br><br>「果物好きなのか、気になっちゃって」<br><br>「好きでも嫌いでも無いが」<br><br>　パソコンを閉じ彼が書類を整理している棚へと向かうと、彼女もソファーから立ち上がりぱたぱたと彼の後を追う。彼の側に立ち尋ね返された理由について琴子は答えるが、男はファイリングしている書類を捲りながら曖昧な返事をする。<br><br>「じゃありんごは……」<br><br>「断る」<br><br>　琴子が果物の固有名詞を上げるや否や、彼は手にしていたファイルを閉じると同時に拒否の言葉を彼女へと告げる。全てを言い終える前に意思表示をされた事に驚いたのか琴子は暫く目をぱちくりとさせてその場に立ち尽くしていたが、男は彼女を一人その場に残してパソコンの前に戻った。<br>　ようやく我に返った琴子は彼が離れていることに気付き慌てて距離を詰める。彼の隣にある空いている椅子を見ると暫く悩むように見ていたが、意を決したように彼女は思い切って隣へと座った。<br><br>「まだ何も言ってないじゃないですかぁ」<br><br>　困ったように笑いながら琴子は言うが、彼は返事をせずにパソコンでの作業を行う。その後一段落したのか再びパソコンを閉じると男はようやく彼女の方へと体を向けた。<br><br>「軍団員になれといったところだろう」<br><br>　真っ直ぐに見つめてくる彼女の視線に彼は呆れたようにため息を吐くと、容易に推測することが出来た結果を彼女に伝える。呆れていることよりも意図が伝わった事が嬉しかったのか、琴子は自らの手の平を合わせながら先程より表情を明るくした。<br><br>「参謀役を団長が探してたんです」<br><br>　嬉々として琴子は勧誘をした理由について話すと、彼は何かを考えるように腕を組んで口を閉ざす。何を悩んでいるのかが分からない為か、琴子は彼を視野に入れたまま小さく首を傾げた。<br><br>「参謀ならばかりんが居るだろう。彼女は頭が切れる」<br><br>「かりんは事務担当ですから」<br><br>　構成員について思い返した男はメンバーである一人の少女の名前を上げるが、琴子はすぐにその案に対しての反論を口にする。普段マイペースな彼女が予想以上の早さで反論した為に男はわずかに驚くが、それが無意識だったのか琴子はきょとんとした。<br><br>「では、仮に参加したとしよう」<br><br>　何としてでも彼女を納得させようと腹を括った男は、ため息を吐いてから仮定の話を始める。琴子はそれに対して相槌を数回うつと真剣な様子で彼の言葉に耳を傾けた。<br><br>「話している時に本当に生き生きとしてくれているのは分かる」<br><br>「はい」<br><br>　真顔になっていた琴子であったが突然彼から自らについて語られると、自然に頬が綻び表情が和らぐ。嬉しげな彼女は彼の一言一言に対して相槌をうち、次の言葉を待った。<br><br>「今までの琴子との違いに沙友理たちが気付かないと思うか？」 <br><br>　男は以前自らが同じ空間に居る際には琴子が無表情でいる姿しか見てこなかった。しかし彼女からの突然の申し出を受け入れてからおよそ一ヶ月間、同じ空間に居る際に彼女の姿を見た時にはほとんど機嫌良く、笑顔でいる場面しか見ていない事を思い返す。<br>　共に行動する事によって、琴子の変化が更に明確化するのではないかと考えた彼は彼女へと問い掛けた。<br><br>「気付きますかね？」<br><br>「気付く、確実にな」<br><br>　琴子は今までの行動を思い出すように、視線を斜め上へと向ける。しかしながらあからさまな変わりように自覚が無い為か、彼へと意見を求めた。琴子の問い掛けに対し男は何か言いかけるが、その言葉を飲み込むと彼女に尋ねられた事にだけ返事をする。<br><br>「それとだ。他のメンバーと話してる時に無表情にならないと約束出来るか？」<br><br>「やめときます、勧誘」 <br><br>　同じ場に居る際には大抵機嫌良くしている彼女であったが、一度だけ機嫌悪そうに無表情になった時の事が男の頭に浮かぶ。琴子の同期のメンバーがちょっかいを出してきた際に彼女に話を振ると、素っ気ない対応を返された事を思い出した。<br>　それを踏まえて男が確認するように尋ねると、琴子はぴたりと動きを止めてからやがて諦めの言葉を口にする。<br><br>「琴子は物分かりが良いな」<br><br>　折れた彼女を褒めてから、男は彼女の頭をぽんぽんと軽く弾ませる。それを受けてはにかんだ彼女の頬はほんのりと赤く染まっていた。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12175548610.html</link>
<pubDate>Wed, 29 Jun 2016 14:49:30 +0900</pubDate>
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<title>『帰宅』×衛藤美彩</title>
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<![CDATA[ 「あっ、おかえりなさーい！お疲れ様」<br><br>男が帰宅したという事をドアの音で察すると美彩はにこりと笑顔で出迎える。彼の帰宅を出迎える際に毎回行っているように手を差し出すと、彼は手にしていた鞄を美彩へと渡す。その後、靴を脱いでから手を洗うという一連の流れを美彩は無言のまま眺めていた。<br>帰宅後いつも行っている作業を終えて、彼はようやくここで美彩へと顔を向ける。<br><br>「すまないな、折角来ていたのに」<br><br>「ううん、お仕事だもん。仕方無いよ」 <br><br>本来は2人共オフであった為に美彩は彼の元を訪れていたが、部屋で過ごして暫く経った頃にスタッフから仕事の手伝いをして貰いたいと突然連絡が入る。帰宅する時間が未定であった事から彼は美彩へと帰るよう促したが、彼女はそれを受け入れなかった。<br>予想していた時間よりも大幅に遅くなった為に彼は謝罪の言葉を告げるが、美彩は再び首を左右に降ってにこりと柔らかく笑った。その後普段ならばリビングに向かうはずだか、美彩は彼の進行を妨げるように動かなかった。<br><br>「何だ？」<br><br>違和感を感じる彼は理由を聞きながらも彼女をなんとか避けて通ろうとする。なんとか抜けることが出来たものの、美彩が服の裾を突然握った為に再び足を止める事となる。そんな美彩の顔にはどこか悪戯な笑みが浮かべられていた。<br><br>「ふふっ。実はね、お風呂たまってるんだぁ。美彩と一緒に入ろ？」<br><br>「断る」<br><br>美彩ははにかみながら甘えるような声色で告げるが彼は迷うことなく拒否をする。その際に握られていた裾が離された為に彼女を廊下に残したままリビングへと辿り着くが、すぐに目の前へと美彩が割って入ってくる。<br><br>「なんでー、この前は入ってくれたのに！」<br><br>紅茶をいれる用意をしている彼の服を引っ張りながら駄々をこねるように美彩は訴えるが、彼は彼女に目すら向けずに作業を続けていく。彼が手に取ろうとした茶葉を横から美彩が取ったことによって作業を中断せざるを得なくなり、呆れたように息を吐いてから顔を彼女へと向けた。<br><br>「語弊のある言い方だな」<br><br>どこか面倒そうに答えながら彼女が手にしている茶葉の入った容器を取り返そうとするが、美彩は伸ばしてきた彼の手からその容器を遠ざける。2度目に伸ばされた手からも同じように遠ざけると、彼は何かを言おうとするがそれを飲み込んで別な茶葉を取り出す為にキッチンの棚を再び開けた。<br>別なものを手に取った彼を見て美彩は自らが手にしていた容器をキッチンに置くと、悪戯っぽい表情を見せながら彼へと視線を送った。<br><br>「じゃあ……ばらしちゃうよ、あれ」<br><br>美彩からくすりと笑って告げられた言葉に、男はぴたりと作業を中断する。艶っぽい視線を向けられている事に気づいた彼は、紅茶の用意していた手を止めながら彼女の言葉に耳を傾けていた。<br>自らの話を聞いてくれる姿勢を見せる相手に、美彩は満足そうに微笑む。<br><br>「良いのかなぁ？あーんなことしちゃったら、普通許されないと思うけどなぁ」<br><br>「今の状況もな」 <br><br>数週間前、彼はメンバーがスタジオに向かった後に控え室に鍵をかける仕事を任された。施錠をする直前になって中から物音が聞こえた為、不信に思った彼は様子を伺おうと控え室を覗き込む。その視線の先には慌てて衣装を着ている美彩の姿があった。<br>彼は謝罪しながらすぐに扉を閉めると、彼女が出てきた際にも改めて謝ろうと美彩が出でくるのを待つ。しかしながら控え室から出てきた彼女は何も言わずどこか艶やかな笑みを向けると、彼が謝罪をする前にスタジオへと向かっていった。<br>その事件以降、美彩は口止めとして彼の部屋を訪れるようになった。それだけではなく彼女は自らの要望を述べる度にその事件について触れ、彼はその度に美彩の言われるがままに従った。<br><br>「分かってるよ……軽蔑されてることも、美彩のことが本当は嫌いな事も。けどね、私にはこうするしか無かったの。先生は……絶対に振り返ってもくれないから……」<br><br>呆れたように告げる彼からの言葉によって耐え切れなくなったのか美彩は話題を切り出した時の自信ありげな様子から打って変わり、今にも泣き出しそうになっていた。良心の呵責に苛まれているのか美彩は俯いたまま自らの心境を吐露していたが、やがて涙が零れないように顔を上げた。<br><br>「自分に嘘を吐きながらこうしてまで満足なのか？」<br><br>彼は静かに美彩の主張へと耳を傾け、相手が全てを話終えた後に再び小さく息を吐いた。先程の冷淡な声色ではなく穏やかな調子で彼女へと尋ねながら、彼はハンカチを差し出す。<br>美彩は小さく会釈をしてからそれを受け取った。<br><br>「騙し騙しになってるのは美彩も分かってる。けど……良いの。先生と一緒にいられるなら、それで。」<br><br>拭ったはずの涙であったが、再び話を再開すると抑えきれずに彼女の目が潤む。それが頬を伝いながらも美彩は何とか微笑むようにして自らの想いを彼へと伝えた。<br>借りたハンカチを返すべく彼女から差し出されると彼は暫くそれを無言で眺めてから受け取り、胸元のポケットへとしまいこむ。<br><br>「周りに話したいならば勝手に話せ。私にとっては大した痛手にはならない」<br><br>沈黙が続いていた中で男が突き放すように言うと、そのまま美彩の横を通ってリビングへと戻る。混乱している美彩は先程まで彼が居た場所を眺めていたが、やがてリビングに向かった相手へと詰め寄った。<br><br>「でも！先生はそれが困るからこうやって私の我儘も断れないで……」<br><br>「美彩の我儘だから断れなかったのではない。美彩の我儘だから断らなかったんだ」<br><br>自らの想定していた流れとは異なりながらも思い通りに事が進んでいた事に疑問を抱く美彩は彼へと問い詰める。その問いが告げ終わらないうちに彼が淡々と返事をすると、その答えの意味ができない美彩は呆然と立ち尽くした。<br><br>「えっ？」<br><br>時間差がありようやくその意味が理解出来てくると、美彩は驚居たように言葉を溢しながら口元を掌で覆う。信じられないといった様子で相手に目を向けるが、彼は視線を合わせることを拒むように彼女へと背中を向けた。<br>再び美彩は泣きそうになりながら、心拍数が跳ね上がっている自らの胸を押さえた。<br><br>「脅迫だの強要だのされては、従う他ない」<br><br>「先生っ！」<br><br>雰囲気に耐えられなくなった彼はその場から離れて暫く自らの自室へと閉じ籠ろうと逃亡を謀る。しかしそれを逃がすまいと美彩は背中を向けた彼へとぶつかるような勢いで飛び付き、後ろから手を回す。<br><br>「美彩のこと、好き？」<br><br>しっかりと彼に手を回している美彩は自らの頬を彼の背中へと密着させながら、うっとりとした面持ちで彼へと尋ねる。彼の返答を待つ間、彼女は心地良さそうに目を静かに閉じた。<br>彼は自らに回されている腕を外すようにしてから、美彩の方へと身体を向ける。しかしながら何も言わないまま踵を返すとどこかに向かって足を進め始めた。<br><br>「どうせ今日も背中を洗わせるのだろう、全く」<br><br>その一言で浴室に向かっていると察した美彩はくすくすと笑ってから、急いで彼の前へと先回りをする。脇をすり抜けて現れた美彩によって、彼は進む足を止められた。<br><br>「前みたいに変な期待したら駄目だぞー？」<br><br>「別に何の期待もしていない」<br><br>からかうように告げる美彩を簡単にあしらってから横を抜けようとするが、先に進ませまいと美彩が相手の正面へと身体を移動させて進路を阻む。そんな彼女の表情には今まで要望を押し付けていた時と同じように悪戯ながらも艶やかな笑顔が浮かんでいた。<br><br>「嘘だぁ！前に背中洗ってくれた時、美彩の事えっちな目で見てたでしょー。スタッフさんが、商売道具を傷付けるわけにはいかないよねぇ？」<br><br>「少しは言動を一致させて欲しいものだな」<br><br>楽しそうに言う美彩の肩に手を置いて半ば無理矢理横に移動させると彼は浴室の脱衣所に足を踏み入れようとする。しかしながら部屋に入る直前に突然ドアが半分ほど閉まり、彼は鈍い音をたてて額をぶつけた。<br><br>「ふふっ。だーめ。先に、入って待ってるから……覗いちゃ駄目だぞー」<br><br>先に更衣室に入った美彩が壁とドアとの隙間から顔を出して言うと、ウインクを飛ばしてからドアを閉める。<br>先程ドアにぶつかった衝撃だけでなくこれから起こる逃れられない展開に、彼の掌は自然と額へとあてがわれていた。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12132806741.html</link>
<pubDate>Thu, 25 Feb 2016 22:42:42 +0900</pubDate>
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<title>『焼肉』×堀未央奈</title>
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<![CDATA[ 「んー、本当に美味しい！」<br><br>　男に連れられて焼肉屋を訪れると、肉と一緒に白米を頬張ってから絶賛をする未央奈。彼女の食べるペースの早さに僅かばかり驚きながらも彼は次々と肉を焼いていく。相手が肉を焼くのを買って出てくれた為に、食べる事に専念できる未央奈は満面の笑みを浮かべながら食べ進めていった。<br><br>「未央奈は本当に美味しそうに食べるな」<br><br>　暫くその様子を見ながら黙々と肉を焼いていた翼であったが、やがて彼女へと声をかける。未央奈はその言葉にきょとんとした様子を見せて箸を止めるが、やがてくすくすと可笑しそうに笑いだした。<br>　彼女の反応に彼は思わず首を傾げる。<br><br>「だって、本当に美味しいですよ？」<br> <br>　彼女の言葉に彼が納得したように頷くと、再び未央奈は食事を再開する。しかしながら何か思うことがあったのか、暫くすると再び箸の動きを止めて彼の方向へと視線を向ける。<br>　未央奈が突然変わった話題を切り出す節があることは彼は知っていた。その為からか、彼は気構えをして相手の言葉を待った。<br><br>「やっぱり、人間がお肉を食べたくなるのは本能なんですかね」<br><br>　彼女はすぐには話を切り出さず、少し間を空けてから呟くように告げる。その際に未央奈の視線は目の前で焼かれている肉へと注がれていた。<br><br>「未央奈、何の話だ？」<br><br>　彼女の口にした言葉を受けて彼は直感的に嫌なものを感じ取る。仕事を行う中で彼女の趣味を理解している為に、次の発言が大方予測できた彼は小さく溜め息を吐いた。<br><br>「だって、ゾン……」<br><br>「未央奈。きっとその話は今するのに相応しくない話題だろう」<br><br>　未央奈が予想通りの言葉を告げる前に彼はその言葉を遮る。嬉々として語ろうとしていた彼女は自らの発言が中断されたことを不満そうに頬を膨らませた。<br>　そんな食べることを中断した未央奈とは対称的に、拗ねている相手を気に留める事もなく男は箸を進める。それを見た未央奈も仕方無さそうに箸を動かし始める。<br><br>「先生なら、理解してくれると思ったのに」<br><br>　相変わらず落ち込んだまま告げてはいるものの、食事のペースが一切変わっていない彼女を見て彼は思わず笑いそうになる。それに耐える男は未央奈の食事のスピードを考慮してか再び肉を焼き始めた。<br><br>「今でないならいつでも話は聞いてやる」<br><br>「本当ですか？」<br><br>　彼の発言を受けると間髪を入れず未央奈は嬉々として尋ねる。頷く彼を見て満足したのか、再び当初のように機嫌良さそうに食事を進めていく。しかしその後すぐにもう1度彼女の箸が止まる。<br>　これほどまでに次の発言が読めないメンバーがいただろうか。そんな事を考えながら男は顔を上げた未央奈と視線を交えた。<br><br>「先生は、私がゾンビになったらどうします？」<br><br>　先程は止められた話題を、彼女は躊躇無く切り出す。普段ならかわす事が造作もない質問であったが、彼女の表情がふざけている様子もなく真剣なものであることが彼をより一層悩ませた。<br>　何とか彼が返事の言葉を探している間、未央奈は相手の顔を真っ直ぐに見つめ続ける。<br><br>「今、答える必要があるのか？」<br><br>「 気になっちゃって、やっぱり」 <br><br>　話題が話題ということもあり彼の箸の動きも止まると、彼は何とか解答を先延ばしにしようと彼女へと問いかける。しかしながら未央奈はそれに対して迷う様子を一切見せること無くこの場での回答を相手へと迫る。<br>　入った場所が個室で良かったと安心する傍ら、上手い言い回しが思い付かない為に彼女の質問へと未だ頭を悩ませる。その間、未央奈の視線は揺らぐこと無く彼の姿を捉え続けた。<br><br>「ゾンビになろうが未央奈は未央奈だろう」<br><br>　暫くの沈黙が続き、重々しいながらもようやく男は口を開く。この言葉で良かったのだろうかと、彼は数日前の事を思い出しながら考える。<br>　未央奈と焼肉屋を訪れる数日前、彼は突然未央奈からの告白を受ける。あっさりと告げられて言葉を失っていた彼からの返事を聞く前に、未央奈は答えはすぐでなくて良いことを告げてその場を立ち去っていた。<br>　恐らく先程の質問はそれに対する答えを求めていたんだろうと、彼は自らの言葉を受けて目をぱちくりさせている未央奈の反応を待つ。<br><br>「えっ、食べられてくれるんですか？」<br><br>　ようやく反応をした未央奈は目をきらきらとさせながら、生き生きとした様子で彼へと問い掛ける。<br>　しかし嬉しそうに告げてはいるものの、彼女が返した言葉の内容が内容であった為に彼は先程の自らの見解に対して疑問を抱いた。<br><br>「その言い回しは何とかならないか？」<br><br>　真意を確かめるべく彼は未央奈へと尋ねるが、機嫌良さそうに笑う未央奈はにこにことしながら男の隣の席へと移動をする。相変わらずまじまじと見詰め続けて視線を外そうとしない彼女に根負けし、彼は一瞬未央奈から視線を外す。<br>　その次の瞬間だった。<br><br>「じゃあさっそく……」<br><br>「待て、未央奈。もう1度言うが場所と時を考えろ」<br><br>　彼の腕を掴んだ未央奈は今にも噛みつく勢いでその腕に向かって顔を近付ける。それに気付いた男は何とか彼女の額をもう片方の手の平で相手の額をおさえ、腕に噛みつかれるのを回避した。<br><br>「時と場所を考えたら良いんですか？」<br><br>　残念そうにしていた彼女は男からの言葉で再び表情を明るくする。彼は観念したように小さく数回頷いた。<br><br>「じゃあ先生の変わりにこのお肉を食べまーす」<br><br>　隣の席から動かずに自分が先程座っていた場所から皿などを移動させると、未央奈は再び肉を頬張り始める。その姿をぼんやりと眺めながら、彼は告白をしてきたはずの未央奈の接し方が以前とほとんど変わらない事に頭を悩ませる。<br>　そんな悩みなど露知らず、視線に気付いた未央奈は彼に向かって微笑んだ。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12131611627.html</link>
<pubDate>Mon, 22 Feb 2016 16:40:43 +0900</pubDate>
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<title>『我儘』×齋藤飛鳥</title>
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<![CDATA[ 　とある日の仕事終わり男が帰宅のために足を進めていると、少女が彼の前へと飛び出して進行を遮る。突然の出来事に彼は僅かに驚いたが、大きな反応も見せる事無くすぐに落ち着きを取り戻すと目の前に現れた彼女へと目を向ける。<br><br>「飛鳥、お疲れ様」<br><br>　彼は飛鳥へと声を掛けるが、彼があまり反応を見せなかったのが不満だったのか彼女は無言ながらもどこか不満そうな視線を相手へと送る。それを受けてもなお何の反応を示さなかった男に対して完全に機嫌を損ねたのか、飛鳥は顔を横へと背けた。<br><br>「また不機嫌か？」<br><br>　彼女が自分の前に現れる際には基本的に不機嫌であることを思い返しながら彼は飛鳥へと尋ねる。その問いから真意を察したのか、飛鳥は顔を彼の方へと向けながら胸の前で腕を組んだ。<br>　また一層機嫌を損ねてしまった。先程の発言を後悔しながら、彼はいつも通り飛鳥の言葉を待つ。<br><br>「何、その言い方。いっつも不機嫌みたいな」<br><br>　彼女の見せる一つの顔。彼の行動に対して気に入らない事があると、それを包み隠す事無く相手へと告げる気が強い彼女。飛鳥の告げる棘のある言葉を受けてから彼は弁解をしようとするが、それに聞く耳を持たんというばかりに彼女は彼に対して背中を向ける。<br>　話を聞こうとしない相手の姿に彼は困ったように額へと手を重ねていたが、何かを思い付いたように急に飛鳥は彼へと振り返った。 <br><br>「機嫌直して欲しいならどっかロマンチックな場所、連れてけ」<br><br>　彼女からの提案を受けて、彼は腕につけている時計へと目をやり時刻を確認する。一日の仕事が全て終了した時間帯ということもあり、未成年である彼女を連れ回す事が褒められたものではないのは明瞭であった。しかしながら彼女の表情から期日の延期や引き延ばしを一切受け入れない様子を察すると、どうしようもないこの状況に彼は小さく息を吐いた。<br><br>「しかし飛鳥、明日は早くから仕事だろう」<br><br>「良いから、連れてけ！」<br><br>　どうにか彼女を納得させようと説得を試みるが、その言葉は飛鳥を悩ませるどころか機嫌の悪さに拍車をかけただけであった。<br>　こうなってしまっては、飛鳥は折れることはない。自らの言葉を一蹴されて確信した彼は頭の中でどうにかスケジュールを組み立てる。<br><br>「分かった。こっちだ」<br><br>　何とか予定を立てる事が出来た彼が承諾をしてから車に向かうと、飛鳥は未だに笑顔を見せずに黙ったまま彼の後を着いていく。<br>　駐車場に停められた男の車に到着し後部座席のドアが開かれると、彼女はそのままスムーズに乗り込まず一旦足を止めた。<br><br>「やっぱり後ろなんだ」<br><br>　不満を再び口にしてからようやく彼女は車へと乗り込む。安全を確認してからドアを閉めると、男は運転席へと乗り込み彼女が先程口走った内容を確かめるべくミラー越しに飛鳥の姿を目で捉えた。<br><br>「何か言ったか？」<br><br>「別に、何にも」<br><br>　問い掛けられても、彼女は目を合わせずに窓の外の景色に目をやりながら答える。その後は暫く彼女が口を開く事が無かった為に、彼は無言のまま目的地へと車を走らせた。<br><br>「助手席はお姫様のみなみの席って訳ね」<br><br>　突然彼女がこの場にいないメンバーの名前を挙げる。疑問を感じた彼が再びルームミラー越しに彼女の様子を伺うと、今まで視線を交えようとしなかった彼女がこちらを見ていることに気付く。<br><br>「そんな事一言も言っていないだろう」<br><br>「知ってるよ、甘やかしてるって」<br><br>身に覚えが無い為に彼は否定の言葉を口にするが、先程と同じように彼女は弁解に対して耳を傾けずに彼の主張を一蹴する。しかしながら今までとは違いその後の彼からの言葉を待つように、飛鳥は相手から目を離さずにいた。<br><br>「何か不満なのか？」<br><br>「別に」<br><br>　理由を彼女へと尋ねると、暫く沈黙を挟んでから飛鳥は否定する。彼女が再び視線を窓の外へと向けた為、先程の言葉は飛鳥が求めていないものである事が彼には容易に分かった。<br>　年も近くシンメトリーとして見られる事もあるみなみに何か思う事が彼女なりにあるのだろう。静かな時間が流れる車内で彼はそう考えながら車を走らせた。<br><br>　　　　　　　　　　　☆<br><br>「ここで良いか？」<br><br>　自らが以前よく訪れていた夜景の見える場所へと到着すると、車を停めて後ろの相手の方へと体を向ける。窓越しにも見える夜景に目を向けている彼女には彼の言葉は届いておらず、広がっている街の灯りをぼんやりと眺めていた。<br><br>「飛鳥？」<br><br>　2度目の呼び掛けで自身を呼ぶ声に気付いた飛鳥は視線を彼へと送る。しかしその後に彼女が俯くと、何か言いたい事があると察した彼は静かに飛鳥の言葉を待った。<br><br>「ねぇ……前、行っていい？」<br><br>　この場所へと訪れる前までとは大きく異なり、彼女はどこか寂しげな様子で前に座ってにいる彼へと尋ねる。下げられていた視線は今は真っ直ぐに彼を見据えていた。<br><br>「ああ」<br><br>　正面を向いた彼は承諾するとかけていたロックを外す。彼女が車外に出たのを耳で確かめてから前の席へと来るのを待つ。<br>　その後暫くすると助手席のものではなく、運転席方面のドアが開かれる。<br><br>「こちらは……」<br><br>「うるさい、黙ってて」<br><br>　彼の制止にも耳を貸すことなく飛鳥は素早く運転席へと乗り込むと、彼の膝上へと座るようにしながらドアを閉める。彼女の反論は普段と同じく棘のあるものであったが、いつものものとは異なりどこか柔らかみを彼は感じた。<br><br>「さっきのみなみの話は別に不満とかじゃなくて……ちょっとだけ、羨ましいだけ」<br><br>　膝上に座る彼女は穏やかに言葉を続けていく。彼はその話を静かに聞きながら彼女の髪をそっと撫でた。髪に触れる彼の指を飛鳥は拒否することなくそれを受け入れる。<br><br>「もっと素直になれば良いのだが。飛鳥の魅力が隠れて勿体無い。」<br><br>　髪を撫でる彼の指に対しては何の反応もしていなかった飛鳥であったが、彼の一言を受けると相手の手から逃れるようにして自らの髪と離れさせた。<br>　彼の手は宙に留まっていたが、やがて彼は行き場を無くしたそれを下げる。<br><br>「いいよ、嫌われても。別に性格悪いの知ってるし」<br><br>　彼の言葉に対して彼女は淡々と強気な発言をするが、髪を撫でる指が無くなり物寂しくなったのか自らの指で髪を撫で始めた。飛鳥の性格を知っている為に、彼はフォローの言葉を探して頭を悩ませる。<br><br>「けど……先生には、嫌われたくない……かな」<br><br>　彼が迷っている中、彼女がぽつりと呟く。それを耳にした彼は言葉を探すことを止め、後ろから飛鳥をそっと抱き締めた。<br><br>「あっ！今胸さわった！」<br><br>　急に回された腕に飛鳥は一瞬びくりとするが、その後は嬉しそうな声を挙げて回されている腕を自らの方へと引き寄せる。<br><br>「触ってもいないし当たってもいない。そんな当たる程も無いだろう」<br><br>　機嫌が良くなった事で彼も安心したのか彼女への言葉に頭を悩ませる事無くそのまま思ったことを告げる。その内容に飛鳥は回されている相手の腕を軽く叩いた。<br><br>「変態！ばーか！ロリコン！でも……好き」<br><br>　彼を罵るように言い放った後、強く抱き締める事をねだるように彼女は相手の回す腕により一層の力を加えて引き寄せる。<br>　彼女の見せるもう一つの顔。どこか儚げで、甘えたがりな彼女。彼はいつの日からかそんな対照的な面を持つ飛鳥の虜になっていた。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12130300260.html</link>
<pubDate>Thu, 18 Feb 2016 23:22:47 +0900</pubDate>
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<title>『お見舞い』×秋元真夏</title>
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<![CDATA[ 「お邪魔しまーす」<br><br>とある日。<br>体調を崩していた男の部屋の鍵が勝手に解錠されると、聞き覚えのある声が室内へと響く。聞き間違いであると願う彼であったが、その期待も虚しく寝室からリビングへと足を運ぶと買物袋の中身を整理していた真夏の姿が目に映った。<br><br>「あっ、ごめんなさい！勝手にお邪魔しちゃって」<br><br>買物袋の中身の整理を終えた真夏は相手に向かってにこりと微笑む。しかしながら男はそれに反応を示すことなく自らにマスクを着けると、もう1枚手にしていたマスクを彼女へと差し出した。マスクを受け取った真夏は彼の促し通りにそれを装着すると、もう一度にこりと微笑みかける。<br><br>「何故来た。真夏の身体が弱い事くらい私も知っている」<br><br>彼にとって真夏が来てくれたことはとても喜ばしいことであった。しかし彼女自身が風邪を引くことが多いことを知っていた彼は自分が原因で相手に移る事を心配してあえて辛辣な言葉をかける。そんな言葉を受けながらも真夏は笑顔を絶やす事無く、さらに1歩相手へと歩み寄った。<br><br>「でも、先生真夏に来て欲しかったんでしょ？それに……」<br><br>風邪の影響もあってか彼のいつも以上に抑揚の無い言葉とは対称的に、真夏は嬉々としながら彼へと返事をする。その後何かを言おうか言うまいか悩んでいる為か、1度彼から視線を外して横へとそらした。<br>しかしながらすぐに決心が着いたのかすぐに視線で彼を捉えると、真夏は笑顔を浮かべた。<br><br>「先生の風邪が移っちゃうなら、どきどきしちゃうかも」<br><br>話始めた途端に色っぽい目付きへと切り替えた真夏であったが、先程と同様に彼は動じる様子を見せない。それどころか何事も無かったかのように彼女の横を通り抜けるとキッチンに置かれていた食材へと目を向けた。<br><br>「馬鹿を言ってるんじゃない。」<br><br>その食材からうどんを作ろうと予定していた事を知った彼は自ら調理をしようと器材を取り出そうとするが、パジャマの袖をぐいぐいと引っ張る真夏によって阻止される。再度何かを言うのではないかと疑った為に目だけで真夏の方を確認するが、その表情に僅かながら落ち込んでいる色が見られた為か彼は器材を取り出す作業を断念した。<br><br>「ちょっとくらい、反応してくれても良いのに。あ、お風呂場の着替える場所借りますね？」<br><br>「何をするんだ？」 <br><br>彼女は少し寂しげに告げていたが、何かを思い出したように手を鳴らすと持参していた大きめの鞄を手に取った。その鞄が気になる事に加え何か嫌な予感を感じ取った彼は真夏へと問い掛けると、彼女は悪戯っぽく笑う。<br><br>「ふふふ、内緒。あ、覗いちゃ駄目ですよー？お熱上がっちゃいますからね」<br><br>明確な答えを出さずに真夏は笑いながら言うとそのまま浴室の脱衣所へと入っていく。残された彼は料理の用意をしようとするが先程の彼女の表情が思い出された為、リビングへと引き返すと真夏が戻ってくるのを待った。<br>暫く時間が経過し、にこにこと笑いながら真夏が彼の前へと帰ってくる。その際に彼女の服装が先程までのものとは異なりナース服へと変わっているのを見て、彼は絶句する。<br><br>「ふふっ、まナース姿にずっきゅんされちゃいました？」<br><br>まじまじと自らの姿を眺める彼の様子に、真夏は両頬を手で覆うようにしながら尋ねる。しかしながら衝撃の余り声を失ってしまった彼はそれに対しての返答が出来なかった。<br>彼の無言の時間が流れやっと落ち着きを取り戻した際には、呆れのあまりか深々と溜め息を吐く。<br><br>「先生？ひょっとして……肩見せの方が好みでした？でもほら、チャームポイントの太股は……」<br><br>「作るならば、早く作って貰いたいのだが。出来れば早く休みたい」<br><br>自らの太股の辺りを指差すようにしながら真夏はアピールをするが、彼はそちらを見る事もなくリビングの椅子に座った。頬を膨らませて拗ねたことをアピールするものの、それにさえ目を向けて貰えずがっかりとした真夏は一旦しょんぼりとしてから調理を行う用意を始めた。<br><br><br>順調に調理が進み手際よく完成させると、出来上がったうどんを彼の前へと運ぶ。箸や冷たいお茶等の食事の配膳を完璧に済ませた彼女は迷うことなく彼の横へと座ると、彼が箸を手に取る前に自身がそれを握った。<br><br>「じゃあまなったんが……」<br><br>「いい、自分で食べれる。」<br><br>笑顔で真夏は箸を動かし始めるが、麺を掴む前に握っていた箸を彼が取り上げると自らの手で握り直す。その後彼は食べ始めようとするが、口へと運ぶ前に真夏の表情を見ると目元が潤んでいることに気付く。<br><br>「そんな顔をするな。」<br><br>一旦箸を置いた彼は隣の相手に身体の正面を向けるように居住まいを改める。それによって自身が泣きそうになっている事を知られていると察した真夏は反射的に彼から顔を背けた。<br><br>「だって……せっかく元気づけてあげようとしてるのに……」<br><br>「元気づける？釣ろうとしてるようにしか見えないが」<br><br>彼女は涙声になるまいと平静を装って告げるが、その声は自然と震える。相変わらず目を合わせないようにしていたであったが、彼がさらりと口にした言葉を受けて何か思うことがあったのか真夏は顔を正面へと向ける。<br><br>「それは……だって、先生に夢中になって欲しいじゃないですか」<br><br>いつもの愛嬌を前面に出したものではなく今にも泣きそうにながらに告げられたそれに、彼は困ったように自らの額へと手を置く。やがて小ささ息を吐いた彼は左右へと小さく首を振った。<br><br>「真夏。合鍵さえ渡しているんだ。これ以上何をどう夢中になれと言うんだ？」<br><br>簡単にその旨だけを伝えると、照れ隠しの為か身体をテーブルの方へと戻すとうどんを食べ始める。それを聞いた真夏は暫く硬直していたがやがて再び両頬を抑えながら身を乗り出した。<br><br>「ふふっ、風邪が治ったら……真夏のこと、好きにして良いよ？」<br><br>「近寄るな、風邪が移る。それに今の台詞は言っただけだろう」<br><br>完全に機嫌が良くなった真夏は更に距離を詰め、頬を赤らめながら猫撫で声で言うが、相変わらず落ち着いた様子で反論する相手に押し戻される。<br><br>「今のはさすがにどきどきして貰えるかなぁって恥ずかしいの我慢して言ったのに！」<br><br>反応を返さない相手に思いきり頬を膨らませながら真夏は抗議をするが、やがて彼に向けて穏やかに微笑む。<br>素っ気なく黙々とうどんを口にしていた彼であったが、真夏が訪れてから彼の顔色は格段と良くなっていた。
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<link>https://ameblo.jp/meruko-honmono/entry-12127492107.html</link>
<pubDate>Thu, 11 Feb 2016 12:32:54 +0900</pubDate>
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