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<title>恋愛小説　「浜辺の恋　美咲と一樹の物語」</title>
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<description>この小説は男性アイドルグループの男性アイドル歌手と美人女子大生との波乱に満ちた恋の話です。この小説はフィクションであり登場人物、団体、企業、地名などは架空の物です。尚、125話以降、話中に時折、過激な性描写があるので20歳未満の方は読まないでください。</description>
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<title>23歳　10月　美咲と一樹、映画撮影　美咲の泣きの演技</title>
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<![CDATA[ <p>その日の撮影では美咲が泣くシーンが幾つかあった。今度は悲しくて泣くシーンなので、一樹は「僕がいなくなちゃうことを想像してね」とアドバイスした。<br>その時も本番一発撮りだった。<br>美咲は一樹がいなくなることを想像した。美咲の目からツツーっと涙が流れた。カットがかかり一樹が美咲に「もう泣かなくていいよ。僕はずっとそばにいるよ。いなくならないからね」とささやくと涙はツっと止まった。見ていた人たちから「ほ～っ」とため息が漏れた。<br>一樹は直ぐに美咲の涙を拭いてあげた。メイク担当者が来て、美咲のメイクを直した。<br>セリフのある泣きのシーンでは美咲は役になり切るため、一樹の力を借りなくても泣く演技が実に自然で真に迫っていて演技には見えなかった。見ている人まで涙を誘われるのだった。<br>そしてカットがかかった瞬間、一樹が美咲の耳元で何かをささやくと涙がピタッと止まったのにも驚いた。まるでベテラン女優のようだった。<br>大物女優でさえ「凄いわね。あの子、本当に素人なの？」と言った。<br>長く泣いていると目が腫れて撮影できなくなるから涙は早く止めないといけなかった。<br>美咲は役者じゃないので、感情のコントロールは即座にできなかった。だから感情が入り過ぎると涙が止まらなくなってしまう。泣く時は、感情が入り込んでいれば一樹のアドバイスがなくても泣けるのだが、一旦泣き出すと直ぐに止めることができない。<br>そういう時、一樹はカットがかかると直ぐに美咲のそばに行って、耳元で「みさちゃん、愛しているよ」と少しだけ王子様ボイスにしてささやくのだ。すると美咲は直ぐに泣き止んでニコッとするのだった。<br>そして「私もカズ君のこと愛してるわ」とささやくのだった。いっぺんにいつもの美咲に戻ってしまうのだった。<br>皆、一樹がどうやって美咲をコントロールしているのか気になった。<br><br>監督から「凄い演技力だね」と言われた美咲は「私の演技力じゃないです。カズ君の支持とアドバイスで動いているだけですから。私はずぶの素人ですから。カズ君の演技指導のおかげです」と種明かしした。<br>「カズ君は子供の頃から役者で、アクターズスクールでしっかり演技の勉強をしてきた実力のある役者ですから。ただのアイドルじゃないですから」<br>「あのプロ並みの咲の演技はカズ君のおかげなんだ」と監督は一樹に感心した。<br>一樹に「これからも咲ちゃんの演技指導頼むよ」と言った。<br><br>その後も美咲の泣くシーンがあり、セリフのない涙だけのシーンの時は、一樹は毎回美咲のそばでささやいてアドバイスした。<br>単にカメラに向かって泣くだけの場合、突然ここで泣いてと言われても、急に役になり切って感情移入はし辛かった。でも、美咲を知り尽くしている一樹の指導とアドバイスは適切で美咲は苦労しなかった。<br>はたから見ると美咲がプロ並みの演技をしているように見えた。皆が「素人とは思えない」と何度も感心していた。<br>最後に一番大泣きしなくてはならないシーンがあった。泣くと化粧崩れするし、目が腫れぼったくなるのでこの大泣きのシーンは撮影の最後に回された。<br>撮影の順序が滅茶苦茶で話の筋がつながらないので、役に入り切っていても前のシーンとつながらないと感情移入するのが難しくて演技するのが大変だった。このシーンは話のどのあたりでどういう感情の時なのかと思い出しながらなんとか演技していた。<br>最後に大泣きするシーンなんてカメラの前で突然大泣きだけしなくてはならないのでベテランでも難しかった。泣く理由もないのに、悲しくもないのに泣いて泣いて泣きじゃくらなければならない。<br>一樹は「僕が小夜ちゃんと恋人になった時のことを思い出して」と美咲に言った。<br>一樹としてもそんなことはもう美咲に思い出させたくなかったが、泣く要素もない所で突然泣きじゃくるためにはよっぽどショックなことを想像するしかない。苦渋の選択だった。<br>美咲は本番一発撮りにしてもらった。カメラが回りだすと、美咲の目に涙がたまり、ぽろっと大粒の涙がこぼれた。美咲はすすり泣き始め、それがだんだん号泣に変わっていった。そして泣いて泣いて泣きじゃくった。<br>一樹の言うとおりに小夜子に一樹をとられたことを想像したおかげで思いっきり泣きじゃくることができた。<br>これにはそこにいた全ての人がその演技力に驚愕した。ついもらい泣きする人もいた。<br>大物女優でさえ「負けた」と思った。美咲を見直し、素人だと言わなくなった。<br>それほど美咲の泣いている姿は真に迫っていた。何しろ演技ではなく本当に悲しくて泣いていたから。<br>誰もが「ずぶの素人だ」という美咲を「本当は何者？」と思った。「素人なんて嘘でしょ」と。<br>カットがかかると一樹は美咲を軽く抱きしめ、美咲の耳元で「もう泣かないでいいよ。僕が好きなのは美咲だけだよ。世界中で美咲だけを愛しているよ。僕はここにいるから大丈夫だよ。どこにもいかないよ」とささやいた。すると美咲は何もなかったかのようにピタッと泣き止んだ。<br>一樹に涙を拭いてもらっている美咲を眺めながら、監督は一樹の力にただ感服するばかりだった。<br><br>一樹は「美咲が小夜子とのことを思い出してまた不安定になるのではないか」と心配だった。「こんな大勝負させるべきではなかったのではないか」と思った。<br>「ここまでの自然な演技が求められているわけじゃないから適当に泣けばよかったんじゃないか」と後悔した。<br>「監督もここまでの演技は最初から美咲に求めてはいなかっただろうから。涙が出なければ目薬だってあるんだし。泣きの演技だってやり方次第で本物っぽくはなるのだから」<br><br>でも美咲は本物に拘った。手抜きは嫌だった。一樹がドラマでしていたような、演技だと思えないような真に迫った演技をしたかった。見る人が感情移入できる演技がしたかった。<br>一樹は美咲に「小夜ちゃんのこと思い出して大丈夫？」と聞いた。<br>美咲は「いい演技のためなら何でも利用するわ」と答えた。<br>「やるからには後悔しないものにしたいから。あそこ上手くできなかったなあとか後で思いたくないから。まあいいやとか適当でいいやっていう演技はしたくないの。監督さんはそれでもいいと言ってくれるだろうけど、私は妥協したくないから。素人だからできないは嫌なの。お仕事ではないけど責任は持ちたいの」<br>美咲の貪欲さと完璧主義と、プロをもしのぐプロ根性に一樹は感服した。<br><br>美咲は「上手くできていた？」と一樹に聞いた。<br>「これ以上ないくらい上手くできていたよ。真に迫っていて、とても演技には見えなかった」<br>「だって演技じゃないんだもの。本当に悲しくて泣いたんだから。でも私としては会心のできだったから満足よ。いい加減な演技はしたくなかったから」<br>一樹は美咲は「大丈夫そうだな」と安心した。<br>「美咲はもう素人じゃなくて完全にプロの役者だなあ」と感じた。<br><br>監督は美咲の演技に大絶賛だった。<br>「これだけ素晴らしいものができるとは思わなかった」と美咲を褒め称え、喜んだ。<br>「全部カズ君の指導と的確なアドバイスのおかげです。私はカズ君という人形遣いに動かされているだけの人形にすぎません」と美咲は謙遜した。<br>監督は一樹に「どういうアドバイスをしているんだね」と聞いた。<br>一樹は「それは企業秘密です」と答えた。<br>「自分が浮気した時のことを思い出すようにアドバイスしたなんてことは絶対に口が裂けても言えない」と思った。</p><p><br>翌日は美咲が歌いながら一人で踊るシーンがあった。美咲はそのシーンが好きだった。<br>監督からフェスの時のように踊ってくれないかと言われ、パトナーのいない状態で一人でワルツのステップを踏んだ。<br>ワルツのステップで優雅に軽やかにあちらこちらへと踊りまわりながら、覚えてきた歌を歌った。歌はワルツのリズムに合わせて作曲されていた。<br>見ている人たちは美咲が本当に楽しそうに歌い踊っているのを見て、釣られて自分たちまで楽しい気分になった。<br>美咲の優雅なダンスは皆を魅了した。あんなふうに踊れたら楽しいだろうなと思わせた。<br>「歌も上手だし、歌声は魅力的だし、素人なのに才能があるんだなあ」と皆が感心した。<br>一樹も美咲が一人で踊るシーンに魅了された。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973316538.html</link>
<pubDate>Tue, 21 Jul 2026 04:15:39 +0900</pubDate>
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<title>23歳　10月　美咲と一樹、映画撮影　美咲、大物女優と対峙</title>
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<![CDATA[ <p>ある時、大物女優が入るシーンがあった。<br>ちょうどその時も美咲は不自然なセリフが気になって監督に指摘した。監督が美咲の主張を通したのを見て、美咲に嫌味を言ってきた。<br>美咲は「大物女優さんがずぶの素人を相手になさるのですか？大物女優さんがおっしゃるようなこととは思えませんことよ」と優雅に気取って言った。<br>すると取り巻きの女優たちが大物女優に忖度して、「生意気ね、偉そうに」と口々にささやいた。<br><br>美咲はその人たちに向って言った。<br>「ここにいらっしゃるプロの役者さんたちはこの映画をより良い物にしたいと思っていらっしゃることと思います。私も素人ながらプロの皆さまと同じくらい、全力を尽くしてより良い物にしたいと思っております。この映画をより良い物にするためには誰もが意見を出し合っていく必要があるのではないでしょうか。私は素人のくせに生意気なことを言っているとわかっております。でもより良い物にしたいと思うからこそあえて生意気なことを言わせていただいております。私が生意気で、偉そうだから気に入らないと思われるのでしたら、私はやめさせていただいても結構です。私より従順な女優さんに交代していただいて構いませんよ。私の進退が決まりましたら、お知らせくださいませ」と上品に気取って言った。そして、お姫様のように優雅にスカートの両側を両手でつまみ、右足を左足の後ろに下げクロスして、膝を少し曲げて腰を少し落とし軽く会釈して「それでは失礼させていただきます」と挨拶をして、ツンとして控室に去っていった。<br>美咲はアニメの気の強いお姫様を演じていた。ミュージカル女優そのものだった。<br>一樹は独りハラハラし通しだった。<br><br>現場は大混乱になった。美咲が止めてしまったら、ここまで撮影したものが無駄になってしまう。今からじゃ撮り直しする時間もない。何よりも美咲に代わる女優がいない。このままでは撮影がストップしてしまう。このまま撮影できなければ大損害になる。<br>美咲の強い意向で美咲とは契約を取り交わさなかった。美咲は自分が素人なので問題が起きる可能性もあると思い、そういう時に責任を取れないので契約を取り交わさなかったのだ。だから美咲に損害賠償を請求することはできない。<br>美咲は橘事務所のタレントではないので橘事務所に損害賠償を請求することもできない。どこにも請求することができないため映画会社は大損害を被ることになる。<br><br>監督は一樹に「とりあえず君が咲ちゃんのご機嫌をとっておいてくれないか」と頼んだ。<br>一樹は「僕じゃ無理だと思いますが」と答えて美咲の所へ行った。<br>控室に行くと美咲は大の字に寝転がって笑っていた。<br>「ああ、すっきりした」と一樹に言った。<br>一樹は呆れた。<br>「あんなにハラハラして気をもんでいたのに」<br>美咲は「弱みのない素人の強み」とまた言って、「気分いい」と笑った。<br>「空気が読めない私でも、みんなが私に空気を読めって思ってるのはわかったけど、私は空気を読みたくないから、忖度なんてする気ないから。言いたいことは言わなきゃいられないし、言うべきことは言わなきゃいけないと思ってるから、これからも空気を読んで黙ってるなんてことしないわよ」<br><br>現場では大物女優が細田に「あの子何者？」と聞いていた。<br>細田はパソコンを開いてフェスの動画を見せた。そして「IQ130以上だそうですよ」と教えた。<br>「だから理屈っぽいのね」大物女優は納得した。<br>美咲の言うことは筋が通っていて反論の余地がなかった。<br>「咲の言うことはもっともだ」と認めてはいた。<br>大物女優は動画を見て、「この相手役、アイドルの大成よね。恋人かしら」と言った。<br>大物女優は美咲の踊る姿を見て、あまりにも優雅で美しいため目を奪われた。美咲にただならぬものを感じた。<br><br>監督は「とにかく咲ちゃんに謝罪するしかない。そして機嫌を直してもらうしかない。この映画を中止させるわけにはいかないから」と皆に言った。<br>大物女優の取り巻きたちに「これからは口を謹んでください」と釘を刺した。<br>美咲がやめると言い出せば、その元を作った自分たちに責任が回ってくる、下手をすると損害賠償金を払わなくてはならなくなるかもしれないと考え、美咲に謝罪をしに行こうということになった。<br><br>大物女優とその取り巻きたちは監督と共に美咲の控室に行った。<br>美咲が一樹と楽しそうに話しているのを見て、機嫌が悪くないとわかり監督はホッとした。<br>大物女優たちが美咲に謝罪すると、美咲はきりっとした顔に戻って「謝罪していただかなくて結構です。私は謝罪していただきたいとは思っておりませんから。私が生意気なのは事実です。皆さんは事実を述べられただけですから」と言った。<br>一樹は「ああ、また」と思って、そばでハラハラしていた。<br>「それで私はこのまま撮影を続けてもよろしいんでしょうか」<br>監督が「そりゃ勿論だよ」と慌てて言った。<br>「嫌な思いをさせてしまって悪かったねえ」<br>「いいえ、私は何とも思っておりませんからお気になさらないでくださいませ。皆さまのおっしゃることはごもっともですから。私は自分が素人のくせに生意気だと自覚はしております。でもそれが、良い映画を作るために役に立つのであればこれからも、憎まれても生意気なことも言わせていただく所存です。ただ、それがお気に召されないのであればはっきりおっしゃってください。いつでも降板させていただきますから」と美咲はきっぱり言った。<br>美咲は凛としていた。強い女性だった。まあ、何も失わない素人の強みでもあったが。<br>自分が間違ったことを言っていないという自信があった。言うべきことは言わなくてはいけないと思っていた。人を傷つけることは言ってはならないけれど、大事なことは黙っていてはいけないと。<br>背が高いから威圧感も存在感もあり、まるで大物女優の風格だった。<br>皆が撮影の再開を望んだので美咲もスタジオに向かった。胸を張って歩く姿は堂々として凛としていた。<br>監督が一樹に「後は頼むよ。君だけが頼りだからね。咲ちゃんのご機嫌をとることができるのは君だけだからね」と頼んだ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973315664.html</link>
<pubDate>Tue, 21 Jul 2026 03:21:07 +0900</pubDate>
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<title>23歳　10月　美咲と一樹、映画撮影続き　美咲、一端の女優になる</title>
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<![CDATA[ <p>美咲はアナウンサーをしていたおかげで滑舌はいいし、かまない。暗記力が抜群なので長ぜりふもNGなし。<br>一樹はたまにヒロインの名前を言い間違えて「みさちゃん」と言いかけてNGを出していた。<br>すると美咲は自分の役の名前で「私ははるちゃんで～す」とおどけてみせた。<br><br>美咲はアナウンサーの特訓をしていた時に、朗読の特訓をさせられた。朗読では登場人物のセリフは感情をこめて役になり切って読まないといけない。そういう訓練をしてきたおかげで長ゼリフも棒読みにはならず、役になり切ってセリフを言えた。</p><p>表情を作るのが苦手だったが、毎回、一樹が前日の夜にしっかり訓練してくれたのでどうにかなった。時には照れてしまいそうになったが役になり切るようにした。<br>特に一樹とのシーンは一樹と普通におしゃべりしているようにセリフが言えたので演技が自然だった。<br>一樹と二人で毎日、何時間もかけて読み込みをしていた成果が出ていた。<br>周りの皆が美咲のことを「本当に素人なの？」と疑った。「いったい咲は何者？」ということになった。<br><br>美咲は慣れないことの連続で疲れて、休憩中に一樹によりかかってぼ～っとしていた。<br>監督が近づいてきて美咲に「君はアイドルの大成の恋人なの？」と聞いた。<br>美咲はシャキッと座りなおして「タイ君とはただの同級生です」と答えた。<br>「でも、フェスでキスしてたよね」と言われて、美咲は「もう余計な事言うなあ」と思いながら、隣にいた一樹を横目でチラっと見上げて顔色をうかがった。<br>さすが一樹は役者、監督の前では顔色一つ変えずに無表情でいた。<br>「あれは演技です。アニメの最終回の大事なシーンで、観客からの要求に負けてしかたなく演技しただけです」<br>「君はフェスでは女優なんだねえ」<br>「カズ君とは仲がいいようだがどういう関係なんだね？」<br>「カズ君は私の親友の弟で、子供の頃から姉弟のように仲がよかったんです。カズ君のお姉さんと私の兄が結婚して今は義姉弟なんです」<br>監督は「へ～、幼馴染で義理の姉弟なんだ。だから仲がいいんだ」と言いながら去っていった。<br>一樹は監督が去ってから「よくあんなにしれっと嘘がつけるよね」と感心した。<br>「私は嘘をつけないタチだから嘘はついてないわ。言わなくていいことは端折って、ちょっと盛っただけよ」<br>「ちょっとというよりは沢山だけどね」<br><br>美咲は監督から「もう出番がないから休憩してていいよ」と言われても、他の役者の演技も全て見ていた。<br>「自分の出番じゃなくても話の流れを把握しておきたいので見学させてください」<br>監督は「プロみたいだね」と感心した。その度に誰もが「咲って何者？本当に素人なの？」と思った。<br><br>美咲はすっかり慣れて、不自然なセリフがあると指摘するようになった。<br>この映画は古い小説を、今時の若者言葉に疎い中年過ぎの監督が現代風に脚本していて、小説内の会話がそのまま使われていたりして、言葉や言い回しが古かったり固かったり、今時の若者が使わない言葉が時々あったりした。<br>「素人が生意気なことを言って申し訳ありませんが、このセリフ、文語調なので口語調にしてもっと砕けた言葉にした方がいいのではないでしょうか」と言ったり、「ここの言葉は不自然だと思います。今の若者はこういう言葉は使いません。ここはこのように言った方が自然ではないかと思いますがいかがでしょう」と自然に聞こえるセリフに変えて聞かせたりした。<br>時には「この言葉は今の若者には響きません。こういう言葉に変えた方がいいと思いますが」とアドバイスしたりした。<br>監督は毎回、「確かにその方が自然だね、その方がいいね。そっちでいこう」と同意した。<br>「また気が付いたことがあったらどんどん言ってくれよ」<br><br>また不自然な言い回しを見つけると指摘した。<br>「今時の恋人だったらそういう言い方はしないです。こういう言い方の方が良くないでしょうか」とまた恋人らしい言い回しに変えて聞かせた。<br>今度も監督は「そっちの方が今時の恋人らしいね」と同意した。<br>そういうことが度々あった。<br><br>そんな美咲を一樹は毎回ハラハラして見ていた。<br>「僕、ハラハラしちゃったよ」<br>「この方がいい映画になるから。カズ君だって、いい映画にしたいでしょ？映画をいいものにするには言うべきことは言わないと。もっといい映画になるとわかってて言わないのはよくないでしょ。妥協したり、忖度したりしてちゃいい映画にはならないわ。私は言うべきことは言わないといられない性分だから仕方ないわ。カズ君は口出ししないようにしていてね。私の巻き添えになってとばっちりを受けるといけないから。私は素人だから、これをお仕事にしていないから何でも言える。素人の強みね。弱みがないのが素人の強みよね。私にはしがらみもないから」<br><br>美咲はいわゆるKYで空気を読まない人。というより空気を読みたくない人だ。忖度をしない人だった。そして言うべきことはきちんと言わなくてはいけないと思っている人だった。言いたいことを言わずにいられない性分だった。でも、人の悪口や陰口は決して言わなかった。<br>美咲の主張は毎回通った。いつも筋が通っていて正論だったから。美咲の言うとおりにした方が自然だと誰もが納得した。<br><br>またもや周りの人たちが「ベテラン女優みたいだね」と感心していた。<br>美咲はいっぱしの女優のようになり、自分の演技も見直して納得がいかないと撮り直しを頼んだ。今の演技は自然じゃなかったなと思うと、やはりやり直しさせてもらった。とことん本物にしたかった。<br>一樹と二人だけのシーンだけは美咲にとって本物だから全てが自然で満足なできだと思えた。<br>二人だけのシーンの時は楽しかった。<br>音声が入らないシーンではセリフがないため、一樹がシーンに合わせて色々ささやいてくれた。それに合わせて受け答えし、表情や仕草を変えればよくてやりやすかった。<br>かつて浜辺でビデオ撮影した時のような気分だった。思い出して懐かしかった。思わず涙が出そうになって慌てた。<br>監督はあの映像をヒントに色々シーンを考えたらしかった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973304292.html</link>
<pubDate>Mon, 20 Jul 2026 22:44:32 +0900</pubDate>
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<title>23歳　9月、10月　美咲と一樹、映画撮影続き　メンバーの結婚</title>
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<![CDATA[ <p>一樹は毎日撮影の後、ホテルに戻ると美咲の髪の手入れだけでなく、スキンケアも念入りにしてあげた。<br>自分自身、映画やテレビの撮影やライブでメイクすると、後でしっかりスキンケアをしていたので慣れていた。<br>美咲は普段メイクしないので肌がきめ細かくて綺麗だった。その肌を守るために一樹は毎日、美咲のスキンケアは怠らなかった。<br>普段メイクしない美咲はスキンケアもしたことがなかったので、一樹にされるがままだった。<br>一樹にずっと自分の世話をしてもらえるので毎日その時間は幸せだった。一樹のお人形になったような気分ではあったけれど。<br>一樹は大義名分で美咲の肌を触れるので嬉しかった。<br>なんの理由もなくこんなに触りまくったら鬱陶しがられるんじゃないかと思っていたので。<br>本当は撮影用のメイクも自分がしたかったけれど、ちゃんとメイク担当がいるので、そこまでするわけにはいかなくて我慢した。他の人に美咲を触らせたくなかったのだが。<br><br>美咲はいつも朝が弱くて寝起きが悪いため、普段は一樹が時間をかけて目覚めさせていた。<br>しかし、撮影に入ってから美咲は寝起きが良かった。慣れないことをさせられているため常に緊張状態で脳が興奮しているんだとわかった。<br>一樹は「きっと寝てても休まってないんだろうな」と美咲が可哀そうになった。<br>それでも愚痴も弱音も吐かず頑張っている美咲を健気に思った。プロの役者以上に良い映画にしようと頑張っている美咲を凄いと思い尊敬した。<br>素人の美咲に女優なんていう慣れないことをさせて、無理させてしまっていると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいにだった。撮影現場はプロの役者だって緊張するんだから。「労わってあげなきゃいけない」と思った。<br><br>撮影の合間にフェスの練習に行ったり、フェス本番があったりした。<br>一樹もプラスαの仕事がある時は撮影を休んで仕事に行ったりした。フェスが終わってから、一樹が映画以外の仕事で撮影を抜ける時は美咲も休ませてもらい、水産加工場へ行って溜まっている仕事を少しでも片づけた。<br>監督は「カズ君が外の仕事でいない時は咲ちゃん一人のシーンを撮影しよう」と言ったが、美咲は「カズ君がいないと不安なので」と言って断った。<br>「私の本業は水産加工場なんだから」と心の中で呟いた。<br><br>フェスの日、一樹は変装して見に行った。実は監督と助監督もこっそり見に来ていた。<br>美咲が大成と優雅に踊る姿を見て一樹は「今、美咲はあの舞台で2・5次元のヒロインなんだなあ」と思った。<br>「今の僕は3次元の人間だから美咲とは交われない。あそこに行って自分も2・5次元の王子になりたいけれど、それはできない」と感じた。<br>かつて、「2・5次元の王子様のカズ君とは一緒になれない」と言っていた美咲の言葉の意味がわかる気がした。<br>「美咲はあの舞台で2・5次元の異世界アニメのヒロインを演じている。僕がプラスαのプリンスを演じているのと同じように。それはお互いに踏み込めない別々の異世界なのだ」<br>そう頭の中で割り切っても、大成と楽しそうに優雅に踊っている美咲を見るていると、心が騒ぐのだった。自分より大人のカッコいい大成とあまりにもお似合いだったから。誰が見ても恋人にしか見えなかったから。<br>とられてしまうという不安はもうなかったけれど、それでも嫉妬心がわいた。<br>監督と助監督は美咲と大成の優雅なダンスを見て感動した。<br>監督は次の映画の構想をした。<br><br>一樹には美咲は眩しいほど美しかった。観客が憧れるのも無理なかった。自分だって一観客として憧れてしまうのだから。一樹はファンの心理がわかった。<br>あそこにいるのは美咲であって美咲じゃない。自分だけの美咲じゃない。観客のための美咲だ。自分がプラスαの時にファンのためのカズであるように。<br>美咲がプラスαの時の一樹はファンのものであるから自分のものだと言わないように、自分もあそこにいる美咲は観衆のものであるから自分のものだと思ってはいけないんだろうなと悟った。<br>でも、できることなら出て行って「僕の美咲だ」って言いたかった。<br>「美咲も僕のこと、私のカズだってファンの前で言いたいんだろうな」と美咲の気持ちがわかった。ライブの時に美咲が悲しくなる理由がわかる気がした。<br><br>美咲はカズ君には悪いけど、今日は思いっきり楽しもうと思った。<br>1年に1回くらいは自分がヒロインになれる日があってもいいんじゃないかと思った。<br>いつもは王子様に憧れている一町娘に過ぎないんだから。<br><br>一樹とトレーニングするようになったおかげで、美咲の体は引きしまって、筋肉も体力もついていてダンスを踊るのが楽だった。脚力もついていたのでハイヒールで踊るのも苦にならなかった。<br><br>二日間が終わって、後輩たちからまた来年もお願いしますと頼まれた。<br>美咲は「え～っ」と思ったけれど、「楽しかったからいいか、カズ君には悪いけど1年に1回くらいならいいか」と思い、引き受けた。<br><br><br>10月にプラスαのケントが高校時代から交際していた彼女と結婚した。結婚式は挙げられないので籍を入れただけだった。<br>橘正人は結婚式場にまた広告用ポスターの撮影という名目で連絡し、二人のウエディング姿を撮影した。<br>両家の家族も呼ばれていた。<br>正式な結婚式ではないので神父の前での誓いだけはなかったが、それでも指輪交換もできてケントも彼女も嬉しかった。<br>結婚式場側は正人が格安でポスターを作ってくれるので大喜びだった。<br>一樹と美咲のポスターと両方並べて貼ると豪華で見栄えがするので、それをあちらこちらに貼った。パンフレットも両方セットで配り、評判を狙った。人気アイドルのポスターなので評判が良かった。<br><br>この年、波瑠と亜紀も結婚したが、波瑠は得意の変装で実家近くの神社で結婚式を挙げたので、誰にもばれずに結婚式が挙げられた。<br>ケントも波瑠も結婚後は寮の部屋を出て妻と一緒に事務所の社宅に住んだ。<br><br>蓮はまるで結婚する気配がなかった。蓮の彼女は既に社宅に住んでいて、蓮とはほぼ同棲状態だったので事実婚のようなものだった。蓮本人としてはもっと夫としてしっかりした人間になるまでは結婚できない気がしていた。<br>彼女の方も頼りない蓮との子供はまだ早いと思い、結婚を焦らなかった。二人はまだ24歳で若かったし。<br><br>純は彼女がやっと恋人になりかけたところなので、結婚はまだまだ先になりそうだった。<br>この3年間、一樹の悪行のせいで彼女になかなか恋人になってもらえなかった。<br>純の彼女はライブで蓮の彼女の瑠奈と知り合って仲良くなり、常に連絡を取り合うようになった。<br>そのため蓮から聞いた色々な情報が瑠奈から純の彼女の耳にも入っていた。<br>一樹の3度のスキャンダルだけではなく、それ以降の2度の浮気の話も耳に入り、その度に不安になってしまって純との仲が一進一退の状態だった。<br>波瑠とケントも一樹の悪行には迷惑していたが、二人の彼女はスキャンダルの情報しか知らず、浮気の情報は耳に入ってなかったので一昨年以降は平穏だった。</p><p>まだ彼女との仲が不安定だった純が一番迷惑を被っていた。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973214730.html</link>
<pubDate>Mon, 20 Jul 2026 02:42:54 +0900</pubDate>
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<title>23歳　9月　美咲と一樹、映画撮影</title>
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<![CDATA[ <p>映画の台本をもらった美咲は、台本を読んでみて驚いた。<br>「話の筋が全然わからないわ。これってどういう話なの？一番初めが一番初めじゃないの？」<br>台本は撮影の順番になっていて、小説のように最初から最後まで順番に話が繋がっているわけではなかった。一番最初のシーンからして話のどの辺りなのかもわからなかった。<br>美咲は原作の小説を買ってきて読んでみた。<br>「原作の小説があって良かったわ。小説がなかったらどんなお話なのかわからなかったもの」<br>美咲は小説と台本を照らし合わせながら「ここは小説のこの部分なのね」と確かめつつ自分なりの説明を書き込みながら読み進めた。<br><br>映画の顔合わせと読み合わせの日、美咲は一樹に連れられて監督に挨拶に行った。監督や助監督、プロデューサーなど関係者の前で挨拶することになった。</p><p>美咲は自分の仕事の都合でこれまで一部の関係者以外とはまだ顔を合わせていなかったので、この日が初対面の人が多かった。<br>背が高く凛とした美咲は見栄えがよく、すっぴんでも映像や写真で見るより美しかった。一同はこれが素人か、女優顔負けのオーラがあるなあと驚いた。<br>メイクしたらどれだけ綺麗になるだろう。<br>一樹とは似合いのカップルという感じで、美咲を選んでよかったと誰もが思った。<br><br>美咲は「咲と申します。何分にもずぶの素人ですので今後、ご迷惑をお掛けすることが多々あると思います。先にお詫び申し上げておきます。私はこのお話をお断りしたいところですが、お世話になった橘事務所からのたっての頼みですのでお引き受けしました。素人ですので演技は下手だということご承知おきの上で、ご指導よろしくお願いいたします」と口上を述べた。<br>監督は「無理を言ってすまないね。よろしく頼むよ」と言った。<br>美咲は「はい」と答え、頭を下げると一樹の所へ行った。<br>監督が「凄いね、才女だねえ」と言うと、細田が「IQ130以上ですから」と言った。監督はそれを聞いて少しびびった。<br><br>美咲はフェスに出るための練習と10月のフェス本番は撮影を休ませてもらうという条件で出演を承諾していた。<br>その時に美咲は「私は素人ですから身分はエキストラということにしてくださればいいです。出演者名は咲（友情出演）としてください」とも頼んだ。<br>「私は素人なので報酬はいりません」<br>「そういうわけにはいきません。それはさすがにこちらが困ります」<br>「それではこの撮影で会社を休まなくてはならないので、その間のお給料分と同額の慰謝料を払ってくださればいいです」<br>監督は「慰謝料？」とたまげた。<br>「これは私にとってふってわいた災難ですから」<br>美咲のお給料など安い物なので役者の報酬というほどのものではなかった。<br>「これは私にとって仕事ではありません。私には本業がありますから。無報酬のお手伝いのつもりですから」と言って美咲はきちんとした契約を拒否した。<br>そして「素人の私に無理やりさせるのですから、どんなトラブルがあっても責任は負いません」とも断りを入れた。</p><p>美咲にやらないと言われては困るので制作会社側は美咲の条件をのむしかなかった。<br><br>その後、事務所に戻り早速、一樹と練習を始めた。一応、橘事務所の演技指導の先生のもと、演技指導もしてもらった。<br>歌唱指導兼ボイストレーナーの先生は美咲の歌を聴いて、発声の基礎がしっかりできているので特に指導は必要ないと判断した。映画の時は自由にのびのびと歌えばいいと言われた。どっちみち、映画の撮影の方でプロの指導が入るので。<br>今度の映画は音大を卒業し、ミュージカル俳優を目指す若い男女の恋愛物語ということで歌を歌う場面が多いため歌が上手で声のいい女優が必要だった。<br><br>9月に入ると直にクランクインして撮影が始まった。<br><br>美咲は映画に出ることを引き受けるにあたり、フェスの練習とフェス本番は撮影を休ませてもらうことにしていた。そのため、9月も撮影の合間、休みをもらって2度程、大成の都合がつく日に一緒に練習することにした。<br>宿泊中のホテルと大学までの車の運転は一樹がしてくれた。<br>ハイヒールの靴も普段から履くようにして足をならした。</p><p>&nbsp;</p><p>一樹は美咲と大成が仲睦まじく練習する姿を目の当たりにして、羨ましいのと嫉妬で心穏やかではいられなかった。</p><p>大成はこれ見よがしに美咲と仲良さそうに踊った。誰が見ても二人は息がピッタリだったので、踊る姿はとても優雅に見えた。部員たちも感動していた。</p><p>部員たちがいるので一樹と大成はあからさまにバチバチの火花は散らさなかったが、二人の様子から、二人の仲がよくないことは誰もがわかった。</p><p>一樹も大成もあまり目を合わせず、たまの嫌味以外は殆んど口もきかなかった。</p><p>一樹にとっては苦行の2日間だったが、文句は言えなかった。<br><br>美咲が忙しくなって呉服店のモデルができないため、舞だけがモデルを頼まれて行った。匠真が車で送って行き、撮影を見ていた。<br>大成は美咲とダンスの練習で会えたので嬉しかったが、美咲が広告のモデルに来られないことが寂しかった。今年は美咲とのツーショットが撮影できなくてガッカリした。<br><br>美咲と一樹は、撮影中は家から撮影所までは遠くて通えないので、撮影所の近くのホテルに泊まっていた。<br>美咲は「素人なので心細くてしかたがないし、演技の指導もしてもらわないといけないから、ホテルの部屋は一樹と同室にしてほしい」と頼んだ。<br>「同室でいいの？」といぶかしがられたが、「どうしても」と頼み込んだ。<br>美咲は撮影中は仕事を休むことになった。会社に迷惑かけちゃうなあと申し訳なく思い、リモートでできる仕事だけは時間のある時にやった。<br>9月4日は結婚記念日なので、美咲と一樹は二人だけでこっそりお祝いをした。<br>お祝いと言っても二人共お酒は飲まないのでジュースで乾杯するだけだった。<br>ホテルにいるので、どこかへ出かけることも何もできなかった。<br><br>映画の撮影は脚本の最初から順番通りに撮影していくわけではないので、この季節に撮っておかなくてはいけないシーンから撮影に入った。そのため、慣れない美咲は話の筋は一応頭に入ってはいるものの、前のシーンとはつながりもなく突然に、笑ってとか泣いてとか言われても役者ではないのでどのように感情移入すればよいのかわからなかった。常に一樹がそばにいて説明してくれ、アドバイスしてくれたので美咲は言われるがままに一樹と練習したように演じた。最初の頃の撮影で早くも泣くシーンがあった。一樹は「ここは嬉しくて泣くところだから僕と久しぶりに会えた時のことを想像するといいよ」とアドバイスしてくれた。美咲は感受性が豊かで想像しただけで涙がこぼれてしまうたちなので涙は簡単に流せた。<br>ただリハーサルから何度も泣くと本番で泣けなくなってしまうと考えた美咲は監督に「私は素人ですから、リハーサルから何度も涙を流すことはできません。リハーサルでは涙を流さずにやらせていただくか、本番一発撮りをお願いできませんでしょうか」と頼んだ。<br>「目薬でもいいよ」と言われたが、「演じるからには本物の涙でいきたいので、偽物は嫌なので」と主張した。<br>美咲の主張は通り、シーンによってそのどちらかで撮影した。<br>美咲のご機嫌を損ねて「やりたくない」なんて言われたら困るので、皆が「咲ちゃん、咲ちゃん」と美咲のご機嫌をとった。<br>だんだん慣れてくると美咲は役になりきることが上手になり、役になりきることで感情移入もできて普通に笑ったり泣いたりするくらいならできるようになった。<br>ただ、幾ら役になり切っても自分はこういう時は泣かないな思うシーンでは涙が流せず、一樹が上手にアドバイスした。美咲は女優ではないから嘘の演技は苦手だった。<br>二人は毎晩、台本を見ながら練習をした。セリフもどういうふうに言うと一番自然かということを研究して翌日の撮影では演技が演技に見えない自然で完璧な演技ができるようにした。</p><p>美咲の性格を知り尽くしているため、一樹の指導とアドバイスは常に的確だった。</p><p>美咲は一樹のことを役者として尊敬し、信頼した。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973213928.html</link>
<pubDate>Mon, 20 Jul 2026 02:08:03 +0900</pubDate>
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<title>23歳　8月下旬　美咲の描いたイラスト画とディフォルメ画</title>
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<![CDATA[ <p>ペンションではメンバーがまだ休暇合宿中だったので一樹はペンションに戻った。<br>数日後、休暇合宿が終わり、８月下旬やっと美咲は一樹とのペンションの暮らしに戻った。<br>一樹は「僕の留守中は寂しくなかった？土日は何したての？」と美咲に聞いた。<br>「土曜日に舞と二人でタイ君のライブを見に行ってきたのよ。とってもカッコ良かったわ。タイ君にも会ってパワーを貰ってきたわ」<br>一樹は大成に嫉妬したが、美咲が寂しい思いをしていたのだから仕方ないと思った。<br>「日曜日にはこの絵を完成させたの」<br>美咲は土日に描いた匠真のイラストとディフォルメ匠真を見せた。<br>一樹は匠真のイラストとディフォルメ匠真は初めて見たので、とても感動した。<br>2年前に、美咲が寝ている時にこっそりスケッチブックを見てしまったので絵を描くのが上手だということは知っていたが、こっそり見たことは言えなかったので、初めて見たふりをした。<br>「みさちゃん、凄く絵が上手なんだね。漫画描くの好きだって聞いてたけど、描いたの見たの初めてだよ。結婚してから一度も描いたことないものね。みさちゃんはデザイン専門なのかと思ってたよ」<br>「そうねえ。働いているから忙しくて漫画なんて描く暇なかったから。ずっと描くことも忘れてたし」</p><p>&nbsp;</p><p>3年前に描いた一樹と匠真と大成の似顔絵と、一樹と大成を漫画化したカッコいいイラストと、ディフォルメ化した一樹と大成の絵を見て、「これはいつ描いたの？」と聞いた。<br>「カズ君とタクの似顔絵は3年前の4月と5月に描いたのよ。カズ君の漫画化したイラストとディフォルメカズ君はその年の7月に描いたの。タイ君の絵は全部10月に描いたのよ」<br><br>美咲は3年前の7月に寂しさを紛らわすために一樹のイラストやディフォルメ画を描いていたことを思い出した。その時、たまにしか一樹と電話できなかったことや、一樹と小夜子が仲良くなっていたことも思い出して、辛い気持ちが蘇った。<br>美咲が急に悲しそうな顔になってため息をついたので、一樹は3年前、小夜子に夢中になって、美咲をほったらかしにしていたことを後悔した。<br>「美咲が僕の絵を描いていた時、僕は美咲をないがしろにして小夜ちゃんに夢中になっていたんだ」<br>美咲が可哀そうになり、申しわけない気持ちでいっぱいになった。<br><br>美咲は直ぐに10月に大成の絵を描いていた時の楽しかった気持ちを思い出して、悲しかった記憶に蓋をした。大成にストラップを作ってプレゼントして、凄く喜ばれたことも思い出した。大成との日々を思い出すと明るい気持ちになれて元気が出た。一樹との辛い思い出は頭から追い払った。<br><br>美咲は「この漫画化したカズ君とタクのイラストと、ディフォルメカズ君の絵をグッズにしてみたのよ」と言って、カッコいいイラストを印刷したクリアホルダーと可愛いディフォルメ一樹のストラップを見せた。<br>「クリアホルダーの絵、カッコよくて素敵だね。ストラップも可愛くて嬉しいなあ。僕が貰っちゃっていいの？」<br>「クリアホルダーは4枚作ったから、それはカズ君の分よ。ストラップもカズ君のために作った物だから」<br>美咲はストラップを見せた時に3年前の8月を思い出して、また胸が苦しくなった。</p><p><br>一樹は大成が持っていたストラップを思い出して口惜しくて、大成に嫉妬していたので、美咲が悲しい顔をしているのに気付かなかった。<br>「これ大成にも作ってあげたんだよね」<br>「何で知ってるの？」<br>「3年前テレビ局で大成が自慢げに見せてくれた」<br>「そうなんだ、見たのね。タイ君のストラップ作る前、カズ君のストラップは8月初めにはもう完成してたんだけどね、カズ君、小夜子さんと交際してたから渡せなかった。だからそのまましまい込んで忘れてしまったの。悲しい思い出のあるストラップだから、それっきりになっちゃった。見ると辛かったこと思い出すから。本当は二個作ってカズ君とお揃いにしようと思ってキットを二個買ってきてたんだけど、カズ君が小夜子さんと交際しちゃったから、私、自分の分は作るのやめちゃったの。それで余ったキットでタイ君のストラップを作ってあげたの。あの頃、タイ君にはとても助けてもらっていたからお礼に作ってあげたのよ」<br>「僕が悪いんだね。何かも台無しにしちゃって。そのせいで僕は大成に凄く嫉妬して。自分で原因作ってたんだね。自分で自分の首絞めるようなことしてたんだね」<br>一樹はまたもや大きな後悔をした。悔やんでも悔やみきれなかった。できることなら時間を巻き戻してやり直したかった。<br><br>一樹はストラップとクリアホルダーを貰って舞い上がるほど嬉しかったけれど、美咲の悲しい思い出がこもっていると思うと、美咲の前でこれ以上喜ぶことができなかった。<br>大成に勝ったと思っても素直に嬉しいと思えなかった。<br><br>一樹は「僕の絵とタクの絵だけコピーさせてもらえない？」と聞いた。<br>美咲は「いいわよ」と言って、いつも自分が使っているコピー機でコピーしてあげた。<br>「どうするの？」<br>「お父さんに見せてあげたいんだ。ちょっと自慢したくてね」<br>「え～、恥ずかしいなあ」<br>「なんで恥ずかしいの？とても上手だからいいじゃない」<br><br>一樹は事務所へ行く時にその絵とクリアホルダーとストラップを持って行って正人に見せて自慢した。<br>「この絵、美咲が3年前に描いたんだよ。匠真の漫画化した絵は最近描いたものだけどね」<br>「上手いもんだなあ。凄い才能だなあ。美咲さんには歌や朗読だけじゃなくてこんな才能もあったんだなあ」<br>「美咲は歌と朗読はついでみたいなもので、絵の方が本職だから」<br><br>またまた正人は無理難題を言ってきた。<br>「こういうの残りのメンバーの4人分も描いてくれないかなあ」<br>「何のために？」<br>「アルバムのジャケットに使ったら面白そうだから。変わってていいじゃない。それに色々なグッズにも使えるな。クリアホルダーやストラップだけじゃなくて様々な物にプリントして売り出すのもいいな。Tシャツやバッグなんかもいいかもな。3年前に知ってたらもっと早くにグッズ化できたのに惜しいことをしたなあ、今頃は相当な収入になっていただろうにな。そうか、あの時にはお前、美咲さんを捨てて別の女性と付き合ってたから無理だったなあ」<br>「そんなことほじくりださないでよ」<br>「よく美咲さんはお前とよりを戻してくれたなあ。あのまま美咲さんとは縁が切れてしまうものと諦めていたが。あれだけのことをしたんだから、美咲さんもお前とよりを戻すわけないと思ってたよ。てっきり、大成君と付き合うものと思ってたからなあ」<br>「美咲には本当に申し訳ないことをしたと思ってるよ。よく大成の所へ行かないでいてくれたと思ってる。何度も裏切った僕を許してくれて、感謝してもしきれないよ」<br>「本当ににそうだぞ。美咲さんにはうちの事務所も随分世話になってるし、稼がせてもらったし。美咲さんの才能のおかげだからな。今回もよろしく頼むぞ。美咲さんを大事にしろよ」<br>「え～、また僕が頼むの？いつも無理難題ばかり言ってくるんだから。映画の撮影があるから無理だよ。映画の撮影だって無理やり引き受けてもらったんだから。大事にしろって言うわりには美咲にまた無理をさせるんだね。勝手がいいんだから」<br>「いつも無理を聞いてもらってばかりで済まないとは思ってるよ。しかし、才能を活かさない手はないからな。お前と違って、美咲さんを粗末にするわけじゃなくて、才能を活かしたいだけだからな。まあ遅くなりついでだ。来年でいいから、暇な時にぼちぼちと描いてもらえないかな」<br>正人は一樹にチラっと嫌味も込めて頼んだ。<br>「まあ一応頼んでみるけどさ。こんなことになるとは思ってもみなかったよ。お父さんに見せなきゃよかった。僕は美咲を粗末にしてきて、お父さんはいつも美咲に無理難題を押し付けて、身勝手な親子だよね」<br>一樹は映画の撮影前で美咲の気持ちが不安定な時に無理難題を頼まなきゃいけなくなって気が重かった。<br><br>ペンションに帰った一樹は美咲に言いにくそうに話し出した。<br>「映画の撮影という無理難題を押し付けたばかりで頼みづらいんだけど、もう一つ無理難題を聞いてくれる？」<br>「次の無理難題ってなあに？」<br>「実はお父さんに美咲が描いた絵を見せたら、美咲の絵をCDのジャケットにするって言うんだよ。それからグッズも販売したいって。それでメンバー全員のイラストとディフォルメ画を描いてほしいって言うんだ。僕とタクのはもうあるから、後4人分ね。お父さんに見せた僕が悪いんだけど、無理ばかり言ってごめんね。来年、ぼちぼちと描いてくれればいいから」<br>「私なんかの絵でいいの？素人の絵よ、売り物になんかならないでしょ？」<br>「素人とは思えない程上手だから」<br>「そんなことはないけど、映画撮影が終わって暇ができてからで良ければ描いてもいいわよ」<br>「引き受けてくれるんだね。よかったあ。いつも無理難題を押し付けちゃってごめんね。映画撮影のことで頭がいっぱいの時にお願いしちゃってごめんね」<br>「漫画描くのなんて映画撮影に比べたらどうってことないわよ。好きなことなんだもの、楽しみなくらいだわ。メンバーの人たちの似顔絵を描けるんだもの。私にとって絵を描くことはストレス発散なんだから気にしなくていいわよ」<br>「そう言ってくれると気が楽になるよ。ありがとね、みさちゃん」<br><br>一樹は美咲が作ってくれたストラップを使いたかったけれど使えなかった。美咲が本当は二個作ってお揃いで使いたかったことやストラップに悲しい思い出が詰まっていることを知っていたから。<br>でもせっかく美咲が作ってくれた物だからしまっておくのも申し訳ない気がして、透明なビニール袋に入れて、バッグに潜ませた。そして仕事に出かけた時などにそっと取り出して眺めていた。自分の姿のストラップだけれど、そこにいつも美咲を感じて温かい気持ちになっていた。それとともに美咲に辛い思いをさせたことを思い起こし、自分を戒めてもいた。お陰で他の女性に目を向けることもなくなった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973202349.html</link>
<pubDate>Sun, 19 Jul 2026 22:33:46 +0900</pubDate>
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<title>23歳　8月下旬　美咲に映画出演依頼、ヒロインに抜擢される</title>
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<![CDATA[ <p>一樹はツアーから帰ってきた直後に父から呼び出されて、休暇合宿を抜け出して事務所へ帰った。<br>美咲を映画のヒロインに起用するという話を聞いて驚いた。<br>父も祖父もその話を断れなくて一樹が美咲を説得することになり、月曜日に美咲に会いに行った。<br><br>ツアー後、いつもの年なら一樹は休暇合宿中なので会えないはずなのに、休暇合宿が終わる前に突然家に帰ってきた。<br>帰ってきた一樹は困った顔をしていた。<br>美咲は何があったのだろうと不安になった。<br><br>実は夏前に、一樹が映画の主演に決まっていた。これまでドラマで主演を務めることはあっても映画ではなかった。<br>一樹の演技力が認められたのと、歌が上手で声がいいこと、ルックスもよくて背も高く、年齢的にもちょうどいいと、全てが条件にピッタリだったので抜擢されたのだった。<br>一樹が8月にツアーがあるため、それが終わってからということで9月から撮影に入ることになっていた。<br>助監督の細田が8月のツアーの後に橘事務所を訪れ、一樹の父正人に挨拶をした。細田は正人と旧知の仲で、よく事務所を訪れていた。そういう関係で挨拶がてら会いに来た。<br>一樹は休暇合宿でペンションにいた。<br>応接室に入った細田は壁のポスターに目が行った。<br><br>それは一樹と美咲が新郎新婦に扮した結婚式場の広告用ポスターだった。<br>正人はこのポスターがお気に入りで応接室に貼っていた。<br>「歌手、役者の他にもモデルとして広告にも出ますよ」という宣伝も兼ねていた。広告用ポスターだとアピールするためにポスターの下のサイドテーブルの上に同じ写真の載った広告用パンフレットも積み重ねておいた。<br><br>細田は「新郎役はカズですよね。この新婦役の女性は誰？お宅の事務所のモデル？タレント？凄い美人ですねえ。なんかお似合いのカップルという感じですねえ」と言った。<br>「うちの事務所のタレントは男だけなので」<br>「じゃあ、よその所属で？」<br>「いえ、タレントじゃないです。ちょこっとファッション誌の大学生モデルしていた程度です。いわゆる読者モデルっていうような。どこの所属でもないですよ。今は普通の会社員です」<br>「それじゃあ、どのような伝手で見つけたんですか」<br>このポスターは一樹の宣伝用に貼っていたポスターなので美咲について聞かれることは想定していなかった。<br>そのため、どう説明していいかわからなかった。<br><br>正人は一樹の妻だと言うわけにもいかず、焦ってしまい、取り繕うために見せなくてもいいミュージックビデオのDVDのジャケットの裏を見せてしまった。<br>「この咲っていう女性です」<br>そこにはモデル・咲、唄・咲と印刷されていた。<br>「へ～、歌も歌うんですか。聞いてみたいなあ」<br>そう言われて、正人はミュージックビデオをかけて、一樹の自慢もしたくて、一樹とデュエットしている曲を聴かせた。<br>「声もいいし歌唱力も抜群ですね～、歌手ですか」<br>「歌手じゃないですよ。素人です」<br>「素人とは思えないですね。ちょっと失礼」<br>細田はスマホを取り出すとどこかへ電話した。<br>「ヒロインにピッタリの女性を見つけたから、全員召集して」と電話の相手に告げた。<br><br>電話を切ると細田は「実はまだヒロインが決まってなくてね。候補だった女優が幾らレッスン受けても歌が上手くならなくてね。結局、最近になって白紙になっちゃって。その後、ヒロイン役を探していたんだけどちょうどいい女優が見つからなくてね。ルックスがよくて歌が上手くて声がいいって言う女優がいなくてね。年齢のこともあるし。この咲っていう女優がピッタリなんですよ」<br>「嫌、だからこの女性は女優じゃなくて素人で」<br>「御冗談を。この映像の演技、どう見てもベテラン女優としか思えないですよ」<br>「嫌、本当に素人で演技なんてできないですよ。本人の意向も聞かないといけないし」<br>「あ、急ぐので今日はこれで失礼します。またご挨拶には改めて来ます。このミュージックビデオお借りしますね。すぐお返ししますから」と言い、ポスターの下に置いてあった結婚式場の広告用パンフレットを数枚とるとミュージックビデオと一緒にカバンに入れてそそくさと帰って行った。<br>正人は「えらいことになってしまったなあ」と思った。<br>「だが、いくらなんでも素人を映画のヒロインに抜擢するなんてことはないだろう」とそれほど心配もしなかった。<br><br>細田は事務所へ戻ると、会議の前にネットで咲について検索してみた。素人だというのに驚くほど咲についての記事や動画が出てきた。素人にしてはなかなかの人気があり、ちょっとしたカリスマ的存在になっていて少なからずファンもいた。<br>IQ130以上という記事もあった。高校生の時、合唱コンクールでソロパートを歌っている動画まで見つかった。その頃から歌が上手だった。ソロを任されるくらいなので声も素晴らしかった。<br>「へたな歌手より余程か歌が上手いじゃないか。これならいけるぞ」<br>一番多いのはフェスの時の動画だった。ダンスの相手はアイドルの大成だと出ていた。<br>大成と優雅に踊っていたので、大成の恋人かと思った。フェスの咲は美しく女優さながらだった。背の高いイケメンの大成とお似合いのカップルだなあと思った。<br><br>会議ではそれらの動画を見せたり、パンフレットの咲を見せたり、ミュージックビデオを見せたりした。<br>「本当にこれが素人なの？」と皆が思った。<br>翌日、正人の元へ「満場一致でヒロインに決まった」と連絡があった。<br>正人は急遽、一樹を事務所へ呼んだ。一樹は休暇合宿中だったが、慌ててペンションから戻った。<br>その翌日、細田は監督まで連れて挨拶に来た。二人を正人と一樹が出迎えた。<br>監督は「ミュージックビデオはゆっくり見たいので後日お返しします。映像が映画の雰囲気にぴったりなので参考にしたいんです」と話した。<br>「ミュージックビデオはプロモーション用なので差し上げます。映像はカズが自分で撮ったものなので素人作品なんですよ。そんなに参考になるかどうか」と正人は謙遜した。<br>「咲さんがヒロインに決まったので、咲さんにご連絡をお願いしたいんですが」<br>正人は一樹と顔を見合わせて困惑して言った。<br>「嫌、咲は素人だから無理ですよ」<br>「そんなこと言わないで、助けると思ってお願いしますよ。撮影が迫っているんで、もうヒロインの女優を決めないと間に合わないんですよ。適役の女優がみつからなくて難航しているんです。今更、オーディションする暇もないですし。撮影が遅れると他の役者のスケジュールにも影響してくるんで死活問題なんですよ。受けてもらえば、この映画にもこれからの映画にもお宅の事務所のタレントを優先するようにしますから」<br>「そういう話は社長にお願いします」と正人は困り果てて父の聡一郎へ無茶ぶりした。<br><br>監督と細田から話を聞いた聡一郎は「しかし、彼女は素人ですからねえ」と言った。<br>「今度の映画のヒロインはルックスが良くて歌が上手くて声が良けりゃいいんです。演技は素人でも大丈夫ですから。よく主演に抜擢されるアイドルだって、大抵は演技は素人だけど何とかなってますから。こちらの事務所にはタレントスクールもあるから演技指導はできるでしょ」<br>結局、事務所のタレントを今後、優先的に起用してもらうという条件で、美咲を説得することを引き受けた。<br>貸しを作っておけば今後、何かと有利だしなあと思いつつ。<br>「何にしても本人の意向が一番ですからね。承知してもらえるかどうかはわかりませんよ」<br>「承知してもらわないと困るんですよ。助けると思って、どうかお願いします。急ぐので、二日後にお返事お聞かせ願いますね。期待していますよ」<br>ということで、一樹は美咲の説得を任された。<br>「結局、僕に無茶ぶりなんだから」とぼやき「無理だろうなあ」と思いつつ、家に向かった。<br>「さすがに僕の頼みでも承知するわけないよな」と気が重かった。<br><br>家に帰った一樹は美咲に事情を話した。<br>「お祖父ちゃんとお父さんが断り切れなくて困ってるんだ。美咲が引き受けてくれる代わりに、うちの事務所のタレントが優先的に起用されるらしいんだよ」<br><br>美咲は困惑した表情で暫く考え込んでいた。そして意を決したように「わかった。引き受けるわ。断れないんでしょ？」と言った。<br>美咲はいつも相手の気持ちや立場、事情を優先してしまい、嫌でも断ることができなくなる性格だった。<br>自分の気持ちは後回しだった。引き受けると言ったものの、深刻な顔をしていた。<br>全く知らない世界のことなので想像もつかなくて不安しかなかった。<br>「素人なのに演技なんてできるの？なんで関係ない私が引っ張り出されるの？これも芸能一家に嫁いだ宿命なの？」心の中で自問した。<br><br>美咲は小学生の頃、朗読劇は得意だったが、生活発表会で劇に出て演じるのは大嫌いだった。物怖じしない匠真が羨ましかった。<br>映画は小学校の生活発表会の劇とは比べようもないものだと思うと足がすくんだ。<br><br>一樹は心配になって「無理しなくてもいいんだよ」と言った。<br>「私が引き受けなかったらみんなが困るんでしょ？私が引き受ければ八方が丸く収まるんでしょ？私も籍は入れてなくても一応、橘家の嫁だから嫁ぎ先には貢献しなくてはいけないし」<br>「僕は橘家を捨てて、美咲と二人だけの新しい家庭を築いたんだから、橘家に縛られる必要はないよ」<br>「それでもお父さんとお祖父さんが困っていらっしゃるんでしょ？無視することはできないわ。とはいえ私にできるのかしら」<br>「僕がいつもそばにいて助けるから。演技指導もアドバイスも全部僕がするから任せておいて。美咲がヒロインやれば、美咲もヒロインの女優に嫉妬しなくてすむじゃん」<br><br>一樹は「美咲が承知してくれた」と父に報告した。父も祖父もホッとした。<br>もっとホッとしたのは映画の制作関係者たちだった。<br>「これで撮影になんとか間に合う。良かった良かった」<br><br>その日は一日中、美咲は暗い顔をしていた。不安でしかたなかった。<br>しかし、翌日、美咲は「引き受けたからには根性で頑張るしかない」と自分に言い聞かせた。<br>「今まででも根性で乗り越えて来たじゃない。高校生の時の合唱コンクールのソロパートだってスピーチコンテストだって、無理やりやらされてやってきたじゃない。やるしかない」と割り切った。<br>映画の撮影の大変さを美咲は知らなかった。合唱コンクールやスピーチコンテストの比ではないということを。<br>知識のない美咲はビデオ撮りくらいに考えていた。知っていたら何が何でも断っただろう。</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973104097.html</link>
<pubDate>Sat, 18 Jul 2026 22:12:13 +0900</pubDate>
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<title>23歳　8月下旬　美咲と舞、大成のライブに行く</title>
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<![CDATA[ <p>美咲と舞は夏祭りの後はまた毎日、仕事に行った。<br>夏祭りの数日後に一樹と匠真はツアーから帰って来た。<br>今年は初めてお土産に腿とメロンを買ってきた。休暇合宿に入る前にお土産だけ届けに来た。<br>一樹は美咲に、匠真は舞に口づけをし、抱きしめると、ゆっくり話をしている暇もなく大急ぎでペンションへ行った。<br>一樹は美咲に会えてもセックスができないので残念で仕方なかった。欲求は極限状態だったが。<br>メンバーたちも一樹が腿とメロンをお土産に買うと言うので、それぞれ、彼女や実家にお土産を買ってきていた。皆、それを届けると大急ぎでペンションへ集まった。<br><br>美咲は一樹に会えても、ほんの僅かの間で、ゆっくり話もできなかったので寂しかった。後、1週間は会えないと思うと悲しくて仕方なかった。ただでさえ8月という辛い月だったので。<br>家族のみんなは腿とメロンが届いて、大喜びだったが。<br><br>土曜日に美咲と舞はターニングポイントのライブを見に行った。<br>大成はいつも見ている大成とは全く別人のようにカッコよかった。普段の大成もカッコよかったが、やはり本当にアイドルなんだなあというカッコよさだった。美咲には歌や踊りのことはわからなかったけれど、ただ、カッコいいということだけはわかった。<br>一樹たちのダンスと違って、キレキレで動きの激しいダンスだったし、歌もロマンティックな愛の歌という感じではなかった。だが、とてもカッコいいと思えた。<br><br>終ってから、美咲と舞は大成に言われたように楽屋に行った。美咲は大成の好物を携えていた。<br>楽屋に入ると大成は出迎えてくれた。美咲は思わず、「カッコ良かったわよ」と言って大成に抱き着いた。<br>メンバーたちがヒューヒューと言って冷やかした。<br>「今日は招待してくれてありがとう。素晴らしいライブだったわ。凄い迫力で圧倒されちゃった。タイ君、とってもカッコよかったけど、私の知ってるタイ君じゃない気がして、なんか別人みたいな、遠い人みたいな気がしちゃった」<br>「遠い人じゃないからね。中身はいつもの僕だよ」<br>「うん、わかってはいるんだけどね。舞台の上のタイ君はカッコ良すぎるから」<br><br>メンバーたちが周りに集まって来た。<br>「咲ちゃんだよね。タイから話はしょっちゅう聞かされてるよ。写真よりも実物の方がもっと美人だね。妹さんも美人だね。そんなに美人じゃあもう彼氏はいるよね。いなかったら立候補するのになあ」<br>メンバーたちは口々に言った。<br>「咲ちゃん、カズと付き合ってるんだってね。カズなんかやめてタイと付き合ってあげてよ。タイは堅い男だから、カズより絶対幸せにしてくれるよ」<br>その後、美咲は大成と楽しい時間を過ごした。<br>「こうして会えて良かったわ。とっても寂しかったから。タイ君に会えて元気が出たから、また明日から頑張れるわ」<br>そう言って、舞と一緒に帰っていった。<br><br>翌日の日曜日、美咲は匠真のイラストとディフォルメ匠真に色付けをして完成させた。<br>ふと思いついて、3年前に描いた一樹のイラストと匠真のイラストをコピーしてパソコンに取り込んだ。<br>二人を並べてA4サイズの1枚の絵にするとなかなかいい感じだった。<br>それを試しにクリアホルダーに印刷してみた。カッコいいじゃんと自画自賛した。なんだか少し元気が出た。<br>自分と一樹と舞と匠真用に4枚印刷した。<br>「カズ君、喜んでくれるかなあ」<br><br>絵を描いている間は随分集中していたので、余計なことを考えずにすんだ。<br>20歳の時にディフォルメ一樹のストラップを作ってしまいこんだままだったことを思い出した。<br>慌てて机の引き出しの中を探すと、奥からストラップが出てきた。<br>もうキットがないので匠真のストラップは作れなかった。<br><br>本当は一樹のストラップをもう一つ作ってお揃いでぶら下げようと思っていたのだが、一樹が小夜子と交際したせいで作る気になれなくて、自分用のキットを使って大成のストラップを作ってしまったのだった。<br>一樹のストラップをどうしようかなと考えたが、一応、一樹が帰ってきたら見せることにしてスケッチブックと一緒にしまった。<br>一樹のストラップを見たら、また3年前のことが蘇ってしまい、悲しくなった。慌ててディフォルメ大成の絵を見て、大成にストラップを上げた時のことを思い出して、一樹の記憶に蓋をした。<br>大成の似顔絵をこっそり描いたことや、それを元に漫画化した大成のイラストを描き、それを元に今度はディフォルメ大成を描いてストラップを作ったこと、それを大成にあげた時にとても喜んでくれたことを思い出して、懐かしくて楽しい気分になった。</p><p>楽しかった思い出だけで頭の中を満たして、3年前の8月に一樹のストラップを作った時、一樹と小夜子が毎晩電話で話をしていて、美咲には一度も電話してこなかった悲しくて辛かった記憶を頭から追い払った。<br>その後も大成との楽しかった思い出だけを頭に思い浮かべることで、一樹と小夜子のことは思い出さないようにした。<br><br>夕方、仕事から帰って来た舞に一樹と匠真のイラストを印刷したクリアホルダーを2枚あげると、舞は「わあ、カッコいい」と大喜びした。<br>「2枚あるからタクに1枚あげていいわよ」<br>「早く休暇合宿終わらないかな。タクちゃんもこれを見たらきっと喜ぶと思うから」<br>舞も楽しみができて、少しだけ寂しさが紛れたようだった。匠真のイラスト画を何度も見ては喜んでいた。<br><br>翌日からまた美咲と舞は仕事に行った。一樹と匠真は休暇合宿中なので直ぐ近くにいても会えなかった。<br>夕方、メンバーたちが浜辺でバーベキューをしたり、花火をしたりしている賑やかで楽しそうな声が聞こえて来るけれど、会いに行くわけにはいかなかった。メンバーだけで親睦を深めるという決まりだったので。<br>だから、そばにいても、夜、電話で話をすることしかできなかった。<br>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973095369.html</link>
<pubDate>Sat, 18 Jul 2026 20:37:16 +0900</pubDate>
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<title>23歳　8月　一樹と匠真、初めての夏祭り　美咲と大成の夏祭り</title>
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<![CDATA[ <p>今年の夏祭りは曜日の関係で日程が早くなり、珍しく、一樹たちがツアーに出発する2日前から始まることになった。こんなことは美咲と一樹が浜辺で出会ってから初めてだった。<br>一樹と匠真はこんな機会はもう二度とないと思い、どうしても夏祭りに行きたいからと夏祭り初日の1日だけ休みを取らせてほしいと事務所で頼んだ。<br>二人が夏祭りに行くのならと他のメンバーたちも、彼女連れで夏祭りに行くことになった。<br>一樹も匠真も一生見られないと思っていた美咲と舞のピンクレディーを見られることになり、嬉しくてたまらなかった。<br>当日、メンバーたちもそれぞれ変装して彼女を連れてやってきた。到着した時は怪しい集団という感じではあったけれど、人が多かったのでそれ程、気にされなかった。<br>それぞれカップルに別れ、夏祭りを思いっきり楽しんだ。<br><br>一樹も匠真もデビューした翌年から夏祭りには来てなかったので、8年ぶりで懐かしくてたまらなかった。<br>余興が始まり、美咲と舞の出番が来ると、一樹も匠真もワクワクして見ていた。初めてステージ上の二人を見ることができて感激した。可愛くて胸がキュンキュンした。二人共、一緒になって歌を歌ってノリノリで見ていた。<br>二度と見られないかもしれないと思い、しっかり目に焼き付けた。<br>メンバーたちも「可愛いねえ」「カッコいいねえ」「歌も踊りも上手だねえ」と口々に褒めながら一緒に見ていた。<br>二人の出番が終わると、4人は洋子の家で浴衣に着替えた。<br>一樹は自分が生まれ育った家なので、久しぶりに来て、懐かしくて涙がこぼれそうになった。</p><p><br>浴衣に着替えた4人はそれぞれ二人ずつに分かれて腕を組んで歩いた。人混みでは手をつなぐのではなく腕を組むのが美咲と舞の子供の頃からの習慣だった。<br>匠真は子供の頃からのことなので慣れていたが、一樹は美咲と人前で腕を組んで歩くことは滅多にないのでワクワクした。でも、大成とも人混みではこうして歩くのかもと思うと凄く嫉妬した。<br>「僕の妻なのに」そう思って、大成と腕を組んだら引き剥がしたいという思いに駆られた。だが、ツアーに行ってる身では何もできないので歯痒かった。<br>大成に負けないくらい、今日一日、目いっぱい楽しむしかなかった。</p><p>美咲は一樹が今日は変装のために髪をストレートにせずにクリンクリンの髪にしていたので嬉しくてたまらなかった。何度も一樹の顔を見上げてはニコッとしていた。</p><p>一樹もその度にニコッと微笑み返した。二人して幸せな気分になっていた。</p><p>匠真も舞に甘えられ、あちらこちらへ引っ張りまわされて楽しくて仕方がなかった。</p><p><br>夜、メンバーたちは帰っていき、一樹と匠真は美咲と舞と共に家に帰り、翌日の朝、また事務所へ出かけた。<br>美咲と舞は翌日も余興で踊り、歌った。その日は大成も来ていた。<br>夜、帰って来た一樹は、当分、美咲とセックスできないのでたっぷり時間をかけてセックスを堪能した。<br>美咲は一樹に嫌な思いをさせないように大成が来たことは話さなかった。<br>その翌日に一樹たちはツアーに出発した。<br><br>夏祭りの二日目からやってきた大成は、毎日、美咲と舞と3人で余興の後、夏祭りを楽しんだ。<br>一樹の心配通り、美咲は人混みでは大成と舞と3人で腕を組んで歩いた。<br>大成はいつもの通り、嬉しくてドキドキした。美咲と手をつないだり、腕を組んだりすることはたまにしかないので、いつまで経っても慣れなかった。だが、束の間、恋人気分を味わえて幸せだった。<br>今年も毎日、美咲と舞はピンクレディメドレーを歌い踊った。<br>練習は7月に一樹と匠真がいるうちにしていたので、上手に踊れた。<br><br>調度、夏祭りの中間くらいの時に大成が美咲に頼み事をした。<br>「10月のフェスに僕と一緒に踊ってくれないかなあ。サークルの後輩に懇願されちゃって。去年のフェスではうちのサークル、あまり盛り上がらなかったらしいんだ。それで今年のフェスは助けてほしいって言われちゃってさあ。咲ちゃん、頼めないかなあ」<br>盛り上がらなかったのも無理はなかった。大成と美咲という大物アイドル二人が抜けてしまったのだから。<br>美咲は「でも、私は」と言いかけて「もうカズ君と結婚しているから」と言いそうになって慌てて口をつぐんだ。極秘事項だった。<br>「まだ踊れるか自信ないわ」　　<br>「後輩から頼まれてるんだ。咲ちゃんを説得してほしいって。断れなくてさあ。なんとか助けてもらえないかなあ。お願い！」<br>大成から懇願されて、美咲は断れなくて承知した。<br>美咲は大成に「明日、余興が終わってから大学へ行くわね」と約束した。<br><br>その日の夜、一樹からの電話で美咲は一樹に話した。<br>「断ってよ」<br>「もう引き受けちゃったから断れないわ。3年前のあの時、タイ君がずっと私を支え、助けて、元気づけてくれていたのよ。タイ君がいなかったら私どうなっていたかわからないわ。タイ君のおかげで何とか生きていられたのよ。だから彼は私の恩人なの。感謝しても、感謝しても足りないくらいなのよ。そんな恩人の頼みなんだから断れないわ。カズ君も夫としてタイ君に感謝してちょうだい。だいたい、カズ君があの時に私をどん底に突き落とした張本人だったんだから」<br>一樹は何も文句を言えず渋々承知した。美咲の言う通りだったから。<br>断らせれば今度、大成に会った時に嫌味を言われると想像もついたし、器の小さい男だとも思われたくなかった。<br>大成には焼きもちが焼けるが、美咲を支えて立ち直らせてくれていたことには感謝しかなかった。<br>「もう僕たちは結婚しているから美咲を奪われることもないだろう」と思った。</p><p><br>一樹は美咲が大成からどんなに誘惑されても、一樹の妻だからと自覚して大成を好きにはなることはないと信用していた。</p><p>一樹は自分が美咲を裏切らない限り大成に取られることはないということがわかっていなかった。自分さえしっかりしていればいいだけのことだったのだが。</p><p>自分が美咲を悲しませるようなことをしなければ余計な心配をしなくてすむのに、それがわかっていないから余計な心配をすることになった。自分は美咲に裏切られなくても他の女性を好きになってしまうから、美咲もそうなんじゃないかと心配になるのだった。</p><p>最近、やっと美咲は自分とは違うんだと気付いて信用するようになってきたが、一樹は自分に自信がなかったからいつも不安だった。美咲から信用、信頼される人間ではなかったから。<br><br>美咲は翌日、夏祭りの余興に出演した後、大成と一緒に大学へ行った。そしてサークルの練習室へ行き大成と踊ってみた。<br>体はまだしっかり覚えていて踊れた。大成とも息がぴったり合った。まるで昨日まで一緒に踊っていたみたいだった。<br>美咲はとても懐かしかった。<br>それから夏祭り中の残り数日、いつも余興に出演した後に大学へ行き、大成とダンスの練習を重ねた。<br><br>夏祭りも終わりに近づいた時、大成は美咲と舞に「夏祭りの後の土日は今年はライブがあってどこにも連れて行ってあげられないから、僕たちのライブを見に来ない？」と聞いた。<br>「僕たちのライブはカズたちみたいにロマンティックじゃないから、女性にはつまらないと思うけど、気晴らしにはなると思うから。一度くらい、僕たちのライブも見てもらいたいし。ライブの後には楽屋へも来てよ。会って話もしたいから」<br>舞は今年は匠真のツアーの開始が遅くなった分、終わるのも遅くなり、その後の休暇合宿が終わるのも遅くなるので土日は寂しいだろうなと思っていた。だから「是非、見に行きたい」と喜んだ。<br>「私も一度、タイ君のライブを見てみたいと思っていたから行きたいわ」<br>美咲もそう言ってありがたく招待を受けた。<br>大成は二人に嬉しそうにライブのチケットを渡した。女性にライブのチケットを渡すのは初めてだった。<br><br>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/misaki-itinose/entry-12973022793.html</link>
<pubDate>Sat, 18 Jul 2026 02:44:02 +0900</pubDate>
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<title>23歳　7月から8月　美咲にとっての社交ダンス　8月の寂しさ</title>
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<![CDATA[ <p>ある時、一樹はふと「僕も社交ダンス習って美咲と踊ってみたいな」と呟いた。<br>「習わなくていいわよ。私はカズ君とは踊りたいと思わないから。カズ君は私にとって2.5次元の王子様。私はカズ君の世界のヒロインではないから王子様とは踊らないわ。私はカズ君と一緒にいる時は3次元の人間。2・5次元のヒロインにはなれない。私は自分が2・5次元のヒロインになる時だけ社交ダンスを踊るの。3次元の私は2・5次元の王子様のカズ君とは踊れないの。踊る気になれないの」<br>それを聞いた一樹は少し寂しかった。<br>「僕が美咲にとっての2・5次元の王子様じゃなかったら良かったのかな。異世界アニメの好きな美咲にとって社交ダンスは特別なものなんだろうな」と思った。「それは美咲だけの2・5次元の世界だから、その世界に踏み込まれたくないのだろう」と。<br>美咲の2・5次元と一樹の2・5次元は2・5次元だけれど、アニメと歌手、全く別の2・5次元であり、交わることのできないものなんだろと思った。<br><br>美咲はフェスで踊った時のことを懐かしく思った。<br>「あそこでは私は異世界アニメのヒロインになれた。タイ君と二人、主役になれた」<br>それは大成と二人だけの思い出として大事にしておきたかった。<br>大成と二人して2・5次元の王子とヒロインだったから。<br>あそこで大成はアイドルの大成ではなく、美咲の好きなアニメの中の王子だった。<br>コスプレフェスは夢の世界であり、異世界アニメの世界だった。<br>現実世界では大成は美咲にとってアイドルでも王子様でもなく、単なる同級生であり、共同制作の相棒だったが。<br>美咲にとって大成は色んな意味での救世主だったので感謝していた。<br>あの辛かった2か月間、大成にはとても救われたから。暗闇の中で美咲の手を引いてくれたのは大成だった。<br>だから社交ダンスを踊るのは大成とだけにしたかった。一樹にそこへ踏み込まれたくなかった。人生の中の大切な思い出だったから。<br><br>大成とは普段は3次元の人間同士で、社交ダンスの時だけ二人は2・5次元の王子とヒロインだった。<br>美咲にとってかけがえのない思い出だった。あの一番辛かったどん底の時期のたった一つの救いだったから。<br>傷ついた美咲を癒してくれたのは一樹ではなく大成だった。大成がいてくれたおかげで辛い時期を乗り超えられた。辛くて嫌な思い出ばかりの中のたった一つの楽しい思い出だった。<br>その楽しい思い出が、あの9月、10月の悲しかった記憶になんとか蓋をしているのに、そこへ一樹に踏み込まれたくなかった。一樹が入ってきたら辛い記憶が蘇ってしまい、楽しかった思い出が壊れてしまう気がした。何といっても辛い記憶の元は一樹だったのだから。<br>「もし、あの年、7月からタイ君と親しくなっていたら、あんな辛い思いも半減していただろうな。もっと早くタイ君と知り合っていればよかったな」と思うのだった。</p><p>大成は大学1年の時からすぐそばにいたのだから。<br><br>一樹と結婚してまだ1年。どんなにラブラブになれても、心を許せるようになっても、身も心も一つになっても、美咲は今でもあの辛い時期のことを思い出すと泣き崩れてしまいそうになる。そういう時に大成との楽しかったことを思い出すことで心のバランスを保っているのだった。辛い思い出を楽しい思い出で蓋をして思い出さないようにしていたのだ。<br>時々、美咲は「3年前の辛かった記憶が全部消えてしまえばいいのに。楽しかった思い出だけ残っていればいいのに」と切望するのだった。<br><br>8月に近づくにつれ、美咲は3年前のことがチラチラと頭の片隅に浮かぶようになった。<br>一樹とどんなにラブラブでもこればかりはどうにもならなかった。<br>思い出さないように努力はしていたが、完全に忘れることはできなかった。昨年同様、ツアーが近づくにつれ気分が落ち込んだ。もう捨てられることはないとわかっていても、辛かった記憶だけは消せなかった。<br>ツアーの準備期間中、一樹と匠真は毎日帰ってきたので夜には会うことができたが、ツアーが始まって、休暇合宿が終わるまでは会えない日が続く。<br>舞と二人で実家で暮らすとはいえ寂しかった。今度は毎晩電話はかけてきてくれるので3年前のようなことはないが、それでも一緒に暮らしていると離れて暮らすのは辛かった。<br>昨年も辛かったが、今年は結婚して一緒に暮らすことが当たり前になっているので余計に辛かった。<br>3年前の辛かったことを思い出して泣けるのと、今の寂しさで泣けるのとでダブルパンチだった。<br>3年前のあの頃よりはマシなんだと自分に言い聞かせるしかなかった。<br>「いつになったら忘れられるんだろう。辛い記憶なんて消えちゃえばいいのに」<br>美咲は一樹には何も言わなかった。言えば嫌な思いをさせちゃうからと思って。<br>一樹は美咲がもう3年前のことをすっかり忘れたとまでは思わないにしても、もう吹っ切れて引きずっていないと思っていた。<br><br>舞は美咲が落ち込んでいることが痛いほどわかったが、3年前のできごとは消すことはできないので、慰めることも励ますこともできず心を痛めていた。<br>7月から美咲の食欲がなく、一樹が家にいない時はあまり食事もとってないことが気になっていた。会社での昼食も舞と洋子に励まされて何とか食べている感じだった。<br><br>８月になって一樹が留守するようになってからも、美咲は平日は舞と一緒に水産加工場で仕事をしていたので何とか気が紛れた。ツアー前は夜には会えたし。<br>しかし、土日の昼間は暇なので余計なことを考えてしまう。<br>夏祭りの前日の土曜日、午前中に舞と二人で余興の練習を一通りしたが、その後は一人で暇だった。<br>舞は栄養管理士だったので交代で土日も出勤していたが、美咲は広報だったので休日出勤はなく、丸々暇だった。<br>家事をしたり好きなアニメを見たりしていても時間を持て余した。一樹がいなくて寂しいので、時間があると辛い記憶が頭にちらついてしまう。<br>気を紛らわすために、久しぶりに絵でも描こうと思ってスケッチブックを引っ張り出した。<br>スケッチブックの中に一樹と匠真と大成の似顔絵があった。20歳の年に描いたものだった。<br>一樹と匠真の似顔絵は4月と5月に描いたもので、大成の似顔絵は10月に描いたものだった。<br><br>「ずっと絵を描いてなかったなあ。まだ上手く書けるかな」と心配になった。<br>何描こうかなと考えたが、スケッチの対象になるものが身近になかった。<br>スケッチブックには一樹と大成の似顔絵と一緒に二人の似顔絵を元にして描いた漫画化したイラストとディフォルメ化した可愛い一樹と可愛い大成の絵もあった。<br>ふと匠真の似顔絵も漫画化してみようと思いつき、匠真を漫画化してみた。<br>漫画風のイラストに仕上げると、なかなかカッコいい匠真ができあがった。<br>「こうして描いてみるとタクも結構、カッコいいじゃん。癪に障るけどタクってイケメンなのね。これタクが見たら喜ぶだろうな」<br>匠真のイラストを描いてみて、結構まだ腕は衰えてないなあと気をよくした。<br>調子に乗って次に漫画化した匠真をディフォルメ化した。<br>可愛くてカッコいい匠真ができあがった。一人でも楽しい時間を過ごせた。午後は絵を描くのに集中したお陰で時間が経つのも忘れていて気が紛れた。</p><p>「タクもたまには役に立つじゃん」<br><br>大成は8月に入り、美咲がまた辛くなっているんじゃないかと心配だったが、ツアー前は一樹が夕方には帰ってくると美咲から聞いていたので、遠慮して電話をかけなかった。昼間は美咲が仕事に行ってるのでかけることができないし。<br>今年は大成は夏祭りの前日の土曜日と夏祭り初日の日曜日に自分のグループのライブがあるため、土日の昼間に美咲に会うことも電話することもできなかったが、月曜には会えるから、会ったら元気づけてあげようと思っていた。</p>
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<pubDate>Sat, 18 Jul 2026 01:28:26 +0900</pubDate>
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