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<title>みう風呂　ふたことみこと小説</title>
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<description>なんでもやります絵日記のみう風呂その別館の小説ブログです</description>
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<title>umi</title>
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<![CDATA[ <br>　どうしてこの世に生きているのかしらとか、そんな風な問いを考えるのは恐ろしく贅沢で芳醇な証なのでしょう。<br><br>　例えばそのあたりに生きている野生の生き物たち、道端で寝転がる野良猫だとか、あの無垢な目をした渡り鳥などが、そのようなと問をその頭の中で繰り返しているとはとても思えないからです。その問いは、私たち人間というこの奇妙な形（私は人間を、奇妙な形をしていると思います）の生き物に特有な、ある種のしるしのようなものなのかもしれません。あるいは、それこそが、私たちという生き物を特徴づけるアイデンティティそのものなのかもしれません。<br>　<br>　そうなのだとしたら……今私の頭を占めているこの途方もない考えはすべて、食事をするとか、排泄をするとか、性交をするとか、そう言ったことと同じように取るに足らない、日常の営みに過ぎないのでしょう、おそらく私がこのように筆をとり、このような文字をつらねていることも、おそらくまったく、当然で当たり前で、情けないようなことなのでしょう。<br>　<br>　ひとはなぜ物語を必要とするのでしょう<br>　<br>　ひとはなぜ物語を生みださないといけないのでしょう<br>　<br>　そのような問いも、おそらく、同じようなカテゴリ—に含まれてしまう愚問なのでしょう。<br>　<br>　ひとは……おそらく、この不格好な形をした生き物は、とてつもなく愚かで、無駄が多く、絡み合っていて、無意識などという名前の暗い海を発見してしまったために、それを満たすために、物語を欲しているのでしょう、その海から拾ってきた正体不明の醜い魚に意味を見つけるために、それを物語と名付けているのでしょう、そして人は、人の釣ってきた上質な魚と、自らの海で培養した平凡な魚をむさぼることで、生きていこうとするのでしょう。物語をまったく必要としない人もいますが、そのような人は、また別の海を持っているのでしょう、きっと誰もがその海を持っていて、その海の水が完全に自分のものになるまで、物語を欲し続けるのでしょう。<br>　<br>　そこにはそれぞれの海があり、それぞれの生態系があり、それぞれの海峡や海流や環境破壊があり……<br>　<br>　ひとの意識は、海に似ていると思います。<br>　<br>　だから人は、海を見ると落ち着くのでしょう。<br>　<br>　海が見たいと思います。<br>　<br>　そこは、私の中に存在する海です。　<br>　<br>　それは私の中に存在するとてつもなく美しくて、そしてどうしようもないぐらい切ない、夕暮れの少し前の時間です。そらは、白く、ほのかにピンクかかっていて、光は金色で、その金の部分だけを、海は反射しています。<br>　<br>　波は比較的高く、なんども、なんども、なんども、打ち寄せて、返し、打ち寄せて、返し、それは、永遠に永遠に終わることのない繰り返しを続けます。<br>　<br>　繰り返し、繰り返し、繰り返し、その表面のきらめきを見つめながら私は途方にくれます。おそらくその、表面的に美しくて穏やかな海の底には、私には想像もつかないような世界が広がっているのですから。私はその圧力に耐えることができないので（第一そこは、私が潜るには何もかもがたらなすぎます）、私はそれを想像することしかできません。そこには何がいて、どんな風な幸福があり不幸があり、また、未来があるのでしょう。<br>　<br>　私が途方に暮れているのは、おそらく、この現代に生きる私の同胞たちは、その海の中にいるものを、無理やりにでも暴こうとしているようにみえるからです。彼らは、その海の途方もない広さを知らないのです。その海がどれだけ残酷で、どれだけ無慈悲かも知らないのです。知っていても、彼らは挑もうとするのです。無謀な船出に出るのです。自分は立派な船を持っているから、自分は十分なだけのダイビングスーツを持っているから、自分は最新鋭の潜水艦を持っているから、大丈夫なのだと彼らは言います。自分の海の美しさを誇り、自分の海の珍しい魚を掘り起こし、それができないものを、嘲笑います。<br>　<br>　私が途方に暮れているのは、私自身もそれと同じことをしようとしているからです。しかも私は、全くの丸腰で、何も持たず、今にも息をつめて、丸裸で、海に飛び込もうとしているのです。<br>　<br>　どうして生まれてきたのか、どんな意味がそこにあるのか、その、見つけることのかなわぬ宝を見つけるためには、私は飛び込まないといけないのです。<br>　<br>　たとえ人が、それを、自害と呼ぶのだとして<br><br>
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<pubDate>Sat, 13 Aug 2011 23:38:23 +0900</pubDate>
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<title>タマオさんの歌</title>
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<![CDATA[ 　堂々としたでかい音楽が鳴り響いてる。<br>　タマオはぼんやりとほおづえをついて、でかいホールの真ん中の階段に座っている。本当は、サボっていてはいけない。タマオが現在するべきなのは、ホールを掃除する事であって、昨夜の客が残したパンフレットやペットボトルのゴミを回収する事であって、シミやしわや汚れがないか一個一個のシートを確認する事であって、音楽を鑑賞することではない。それがコンサートホールの掃除人としてのタマオのわきまえるべき領域なのだ。<br>　だけどもタマオは、階段に座り込んで、重要にして古典的な命題でも考えるみたいに、眉間にしわを寄せて音楽を聴いている。<br>　ステージの上では、オーケストラがリハーサルだかなんだかをやっている。実際のコンサートじゃないから、みんなジーパンだのＴシャツだの適当な格好をしているし、曲だって途中で何度も止まる。指揮者のおじさんがなんのかんのという。チューニングをする。誰かかれか出たり入ったりする。そういうのをぼんやり見るともなく見ながら、タマオはマチコさんのことを考えている。<br>　マチコさんはタマオのかつての恋人であって、今は養老院に入っている。かつて、あの夏がすべて若い自分たちのものだったころ、タマオはマチコさんにレコードをプレゼントした。今、ステージでまさに練習中の、その曲が一曲目に入っていた。タマオもマチコさんも、その曲が嫌いだった。それ以外は全部好きなのに、それが嫌で、いつも針をひょいと、二曲目のあたりに合わせて聞いていた。マチコさんの小さく白い耳がタマオの肩にちょこんとつけられている。マチコさんの優しい息づかいがタマオのそれを呼応する。素敵な夏の夕暮れの、真っ赤な世界の中で、沈んで行く世界の淵で、二人で何も言わずに、音楽を聴いていた。<br>　どうしてこの曲が嫌いだったんだろうなあ、とタマオはぼんやりと思う。今聞けば、決して悪い曲じゃない。そりゃ、いささか大仰だしセンチメンタルにすぎるけれども、夏の恋人たちに嫌われるほどの価値がない物でもないと、今だったら思う。だけどマチコさんもタマオも、その曲がちょっとでもかかるとすぐに、あたかもそれが不愉快な虫だとか、そういうもののように嫌悪して、ひょっと針を動かした。<br>　タマオは行きつ戻りつしながら練習されるその曲を、五十年ぶりに聞いた。よく考えてみれば、あのレコードでも、まともに聞いた事がなかった。かかるとすぐに変えていたから当然だけれど。<br>　そして今も、本番ではないから決して通して聞く事ができない。<br>　タマオはその曲のタイトルさえわからなかった。<br>　<br>　レコードを手に入れたのには奇妙な経緯があった。タマオはそれを自分で買ったのではなかった。タマオは非常に貧乏な学生であり、金は底をつき、食べる物にも困るような有様だった。とてもじゃないが、レコードなどに手を出せるはずがない。<br>　マチコさんはお嬢さんで、お宅には立派なステレオ装置がひとそろいそろっていた。革張りのソファにはなぜかレースがかけられていて、すわるとそれがどうもちくちくして好かなかった。<br>　マチコさんは音楽を好んだ。といっても、ピアノもバイオリンも弾けなかった。マチコさんは右腕が根元からなかったのである。もしも不幸な事故がなければ、マチコさんはきっと音楽家になろうと思ったであろう。その夢が叶うか叶わぬかはわからないけれど、きっと志したのではないかと思う。けれど、腕がなくなった地点でマチコさんは、音楽を鑑賞する側に徹するようになった。深くソファに座り込んで、耳を傾けるものだった。しかしただ聞くだけではなく、マチコさんは時々哲学をした。音楽について深く考察していた。<br>「音楽を聴いていると、自分の心のなかに、こんな風な場所があったのかって、驚く事があるの。そんな風に考えた事はない？」<br>　マチコさんはよくそんな風に、タマオに声をかけた。<br>「音楽がね、思ったより早く動いたり、ゆっくりうごいたり、あがったりおりたり、じれったかったり、そのね、流れに自分の心をヒョイッと乗っけてしまうと、不思議とそれまでただの音楽として聞いていたメロディの流れが、急に自分を乗せる船のようになるの。思いもがけない場所へつれていく船なの。私は、自分が行きたい場所にいける船をこうして選んでいるの」<br>　レコードのジャケットをなでながら、マチコさんはそう言う。<br>　タマオは音楽に対してまったくの無関心だ。流行の歌ぐらいは口ずさむが、マチコさんがそういう世俗の歌を好むはずはないと知っていた。どちらかといえば、クラシック音楽は退屈で長くて、そわそわした。眠たくなった。だけども、そういう気に入った音楽を聴いているときのマチコさんはとても美しくて、うっとりとしていて、それを見るのが好きで、タマオはじっと何も言わずに、マチコさんの隣でわからない音楽を聴き続けるのだった。<br>「音楽を聴いているときだけ、私は自分を旅して、なくしてしまった私の右腕を探す事ができるような気がするの。もちろん、あれはもうどこにも存在しないのだけど。だけど私が言っているのは、私が　実際に　なくした腕そのもののことじゃないの。私の　腕　という形をとったなにものか、形にならない、言葉にもできないものを、探しているの。私がかつて当たり前にもっていて、今なくしてしまったもののことよ。私はそれを探すために、たくさんの船を探しているの」<br>　タマオの汚い下宿屋の、部屋の真ん中にしらないレコードが落ちているのを見つけたときはびっくりした。四畳半で、知らないひとでも入れるような、ただのふすまのような入り口がついているだけだから、単純に考えれば、誰かがふすまをあけてこれをタマオに渡すために放り投げたことになる。<br>　だけども、タマオにはそんな効果な贈り物をくれるような友人はいなかった。となると、一番有力なのは、誰かが部屋を間違えたということだった。この下宿にすむ他の人の部屋に放り投げたつもりが、タマオの部屋に入れてしまったのだ。<br>　それはクラシックのレコードだった。いかにもマチコさんが好みそうな雰囲気のジャケットだった。タマオはそれのただしい持ち主を探すつもりでいた。しかし、じっと真っ赤な光の中で、ヒグラシの声を聞いているうちに、がばと立ち上がり、マチコさんの屋敷まで走り出していた。<br>　部屋に落ちていたのがクラシックのレコードであった事が何かの運命だとタマオは思った。タマオは、マチコさんをどこかにつれていける船を手に入れたのかもしれないと思った。<br>　マチコさんは案の定とても驚いた。タマオが至極貧乏であることを、誰よりも彼女は知っていたからである。しかし、タマオが無理をしてそれを手に入れたのかもしれぬと思ってマチコさんの胸は熱く震えた。<br>　しかもそれは、幼い頃にマチコさんが持ち出したきりなくしてしまった大事なレコードと全く同じだった。ある春の日に小さなマチコさんはその気に入りのレコードを旅行に連れて行こうと鞄につめ、そのままなくしてしまったのだという。車の中では決して鞄をひらかなかったのに、目的地の別荘についてひらいてみると、それはどこにもなかった。マチコさんのお父さんがとても気に入っているものだったので、勝手に持ち出してなくしたことで、マチコさんは怒られてしまった。マチコさんがお父さんに怒られたのはそれが最初で最後だったのだというのだから、それがどれだけ大事なレコードか、推して知るべしである。<br>「それをどうしてあなたが知っているはずもないのに、今こうしてここにあるのかしら」<br>と、マチコさんは言った。マチコさんはもはやぽろぽろと涙をこぼしていた。<br>「もしかしたら、それは同じレコードなのかもしれないね」<br>と、タマオは言った。<br>　二人はよりそって音楽をかけてみた。すると例の大仰な曲がかかった。それは、センチメンタルで涙もろい今の雰囲気にあっていなかった。だからマチコさんはもどかしい手つきでそれをひょいと飛ばした。二曲目からは、魂がそっと震えるような静かな音楽だった。それ以降、一曲目が聞かれる事はなかった。<br>　タマオは主任に怒られる前に立ち上がればならない。しかし、釘付けされたように動けない。<br>　私たちはどうしてこんなに遠くまできてしまったのだろう、とタマオは思った。<br>　あれからいくつもの年月が流れ、今はこうしてコンサートホールを日々磨き続ける毎日だ。マチコさんは小さく小さくしぼむようになって、もう消えてしまいそうになっている。<br>　大仰でドラマチックなその音楽がぴったりくるような、そんなぐらいの時間が経っている。<br>　タマオは、マチコさんに会いに行こうかと考える。
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10930760748.html</link>
<pubDate>Wed, 22 Jun 2011 02:09:38 +0900</pubDate>
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<title>６月１０日「CDジャケット」「食べる」</title>
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<![CDATA[ <font size="3">　彼女は完全に行き詰まっていた。<br>　細長い白い画面を眺めながら、ブルーベリーのジュースを飲んだ。飲んでも、疲れた目はかすんだままだったし、さっき飲んだバファリンも、この壮大な頭痛をおさめてはくれなかった。<br>　<br>　明日の朝までに、彼女はあるインディーズバンドのCDジャケットのイラストを制作する予定だった。<br>　それは美術学校に通う学生である彼女にとってはじめての、仕事らしい仕事だった。<br>　そのバンドのボーカルが、インターネットにアップしていた彼女の絵を気に入り、セカンドアルバムを制作する際には是非イラストをお願いします、とメッセージを送ってきたのが半年前。その時は本当に嬉しくて、さっそくライブへ行ったり、ファーストアルバムを購入したりした。<br>　彼らの歌は、荒削りだし、八割がたは、何かのコピーのように聞こえた。バンド全盛期風の正当的な青春風の歌を歌い、時々メッセージ性がありそうな歌曲やバラードも挟む。どれも聞きやすいし、歌詞も所々に、あっと言うようなオリジナルな部分がある。だけどどうしても、ライブが終わればその歌曲を思い出せない。口ずさんで、自分の人生に沿わせることができない。彼女はそれでも、ipodに歌曲を落とし込んで何度も聞いた。昔からバンドが好きな彼女は結構そのグループが好きになった。その第二アルバムを自分の絵が彩るだなんて考えただけでも胸がときめいた。<br>　そのうちにメンバーとも親しくなり、一月に一度は酒を飲む仲にもなった。彼女は誰とでもすぐに打ち解けられるという得難い特技を持っていたので、内気なメンバーも次第に心を開いてくれた。<br>　バンドは全員２７歳の会社員五人組で、高校時代からメンバー一人も欠けずにずっと続いているそうだ。別々の会社に勤め、日々残業に時間を奪われながらも、週に一度はあつまって練習をしている。<br>「それってすごく難しい事なんじゃないの」<br>　と彼女は尋ねた。誰か一人ぐらい、ネをあげそうなものだけど。<br>「難しいよ」と、キーボードが言った。彼は一番端っこに座り、メンバーのなかでは一番社交的に見えた。しかし、一番最初にやめそうなタイプだな、と彼女は思った。なんとなく、存在が地面に足をつけていない感じがする。口当たりも雰囲気も柔らかいけれど、それは何かを綺麗に覆うパッケージにすぎず、本当は皮肉と冷徹がその中に隠れている。器用だからそれを隠す事ができるのだ。そんな感じだった。あとのメンバー、特にボーカルなんて、それを隠すパッケージすら上手に用意できてないみたいだったから。<br>「でも、続けてんだね。そして、アルバムも最近になるまで発売しなかったんだね。なんで？」<br>「食べられるから」<br>　と、ベースがつぶやいた。<br>「は？」<br>「やめろよ」と、ギターが制しなければ、ベースはまだ続けそうだったが、その一声でベースは口をつぐみ、全員がしんとしてしまった。彼女は焼酎のグラスを傾けながら、このメンバーを覆う、なんだか得体の知れない空気は一体なんなんだろう、と思った。それは歌曲にも共通したものだった。一見口当たりがよく、あたりさわりがなく、悪く言えば個性のない歌なのだが、そのどこかしこに、何か不似合いなものが入り交じっていて、それでなんだか奇妙なざらっとした感じが残る。そこが彼らの持ち味なのかもしれないと思っていたが、こうして実際生身の本人と対面していて、違和感はさらに強くなった。<br><br>　画面をにらんだまま、彼女は硬直し続ける。<br>　ヘッドホンからはセカンドアルバムの歌曲が流れている。<br>　それは、素敵な恋人と別れたあとの男の気持ちを歌っている。罪のない歌詞、罪のないメロディ、ちょっと息が苦しい人のような独特なボーカルの声。きっと、手に取りやすい綺麗なイラストを期待されているんだ、と彼女は思う。彼女の絵のタッチはもともと水彩とデジタルを併用した、柔らかくカラフルで現像的な感じだった。しかし、この歌曲の群れにそんな絵をつけることが、彼女にはどうしてもできない。<br>　まぶたの裏に強烈なイメージが浮かぶ。<br>　それは巨大な生き物で、それが彼らのすぐ後ろに大きな口を開いて待っている。彼らは歌い続けないと食べられるのだ。<br>　スケッチブックには大きな黒い丸しか描けない。彼女はぼんやりとそれを見つめる。<br>　深い夜の闇が彼女のすぐ後ろまで迫っている。<br><br>　食べられる。</font>
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<pubDate>Sat, 11 Jun 2011 11:57:27 +0900</pubDate>
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<title>「風呂場」「緑茶」おおがきなこさんお題</title>
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<![CDATA[ <font color="#CCCCCC"><font size="3"><span style="color: rgb(204, 204, 204);">＊過去のお題一覧は→</span><font size="4"><a href="http://ameblo.jp/miunovel/theme-10017413262.html" style="color: rgb(204, 204, 204);">お題一覧</a><br><br><a href="http://ameblo.jp/miunovel/entry-10395916152.html">おすすめ記事一覧</a><br><br> 風呂場の冷たいタイルにペタっと腰を落とすと驚くほど冷たかった。考えてみれば、五年もここに住んでいて、タイルに直接座ったことはないのだ。いつも風呂場用の小さな椅子を使っていたからだ。そんなこと、考えてみたこともなかった。おかしな話だけど。だって私は毎日ここでシャワーを浴びたし、この床には五年分の私の垢や髪の毛が流れて行ったわけだから。<br>　午前十時の光もとどかない、じめじめした小さな風呂場の床に、私は裸でぺたりと座り込んでいる。急に何もかもがばかばかしくなって来て、声を出さずにけいれんするように笑った。シャワーは、恵みの雨のように豊穣な、生温いしずくを間断なく私にそそいだ。私はついに、ぺたりとタイルに頬をつけて横たわった。畳一畳分もない小さな場所なので、膝を折って、長く、黒い髪を、しずくが流れるままにした。涙が出そうだったけれども出なかった。そもそもなく理由なんて思いつかなかった。私は、自分が死体になってしまったような気がした。灰色の無骨なタイルの上で、私は死に、その死体に恵みの雨が降り続いている。<br><br>　私は彼のことを考えた。図書館につとめている私の夫だった。私が目覚めた時には彼はもういなかった。私の仕事は昼過ぎから夜遅くにかけてだし、彼の仕事は朝早くから夕方までで、もう一ヶ月以上、まともに顔をあわせてもいなかった。シャワーを浴び終わったならば、私は彼のために弁当をつくり、粗熱をとるあいだにそそくさと自分の身支度をすませ、出勤する道すがら彼に弁当を届けるはずだった。それが、この五年間規則正しく続けられた唯一の二人のルーチンワークだった。新婚のころは、毎日真新しく美しい弁当をつくってはもって行き、彼は周囲にひやかされながらも、どんなに忙しくても自分が出て来て弁当を受け取った。そして台所のメモに、「とても美味しかった。君のねがおはとてもかわいい」だとかなんだか、そんなことが書いてあったものだけど、最近では、ほとんどが冷凍食品になり、彼も弁当を受け取るためにカウンターに出てくることもなくなった。カウンターにいる愛想のわるい青白い少女は、「かわいそうに、どうせ○○さんはこんなお弁当、食べないで捨てるだけなのに」という顔で面倒くさそうに受け取る。<br><br>　濡れた手で顔をこする。瑞々しくて、まるで自分がまだ若く、新鮮であるような気がする。実際には灰色の風呂場で死体のように転がっている、得体の知れない、さみしい、誰からも遠い、ひどくみじめな、若くもなければ年寄りでもない、中途半端な存在なのに。<br><br>　安っぽい香りが鼻をつく。私は起き上がり、風呂桶の中をのぞいて顔をしかめる。夫がいれた、なんとも安っぽい入浴剤の黄緑色が、私の白いバスタブを染めている。洗濯につかえないからこういうものはいれないでほしいと、あれだけ言っているのに。私はそんなお湯にふれることも嫌だった。まるで触れたら得体の知れない感染源に感染するような気がした。その時私ははっきりと確信した。<br>　<br>　わたしは　夫を　憎んですらいる<br>　<br>　緑色のお湯をじっとにらみ続けた。それはもうほとんどぬるくなり、時々ふたについたしずくが、ぽちゃんとおちて波紋を作った。目の落窪んだ私の顔が映っていた。ちょうどグリーンティーのような色をしていた。<br><br>　私はふと思いつく。先週、夫の友人が日本へ旅行に行った時に買って来たという、グリーンティーの袋がテーブルの上に転がっていたことを。もしも、今日の弁当と一緒にもって行く水筒の中身を、この風呂の水にしたらどうだろう。鼻のぐあいがおかしい夫なら、気づかないでグリーンティーとして飲んでしまうかもしれない。　<br>　私は裸のまま台所へ行き、夫の水筒をとって来て、ためらいもなくそれに風呂の毒々しい緑を入れる。<br><br>　入浴剤で人は死ぬかしら、と私は思う。<br>　もしも死んだなら、彼は私の弁当を食べ続けていたのだ。死ななかったならば・・・。<br><br>　私はしばらくそのまま、水筒を見つめていたが、おもむろにそれを自分の口に近づけた。<br>　<br>　おぞましい水が私を満たして行く。<br>　</font></font><br><br><br><br>２月にもらったお題ようやく消化。<br>これを「妻編」にして、<br>つぎの「図書館」「かずのこ」の「夫編」と前後編にしようと思ってたけど<br>うっかり外国の話みたくなっちゃったので難しいです。海外にかずのこってあるのかな。<br>あと思いもよらずおどおどしい話になった。<br>たぶん今日つかれてるんだな。<br><br><br><br>おおがきなこさんありがとう・・・<br><br><br></font>
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10555035757.html</link>
<pubDate>Sat, 05 Jun 2010 23:05:45 +0900</pubDate>
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<title>6月３日「手芸クラブ」「充電切れ」きなこさんお題</title>
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<![CDATA[ <span style="color: rgb(204, 204, 204);">＊過去のお題一覧は→</span><font size="4"><a href="http://ameblo.jp/miunovel/theme-10017413262.html" style="color: rgb(204, 204, 204);">お題一覧</a><br><br><br><br><br><a href="http://ameblo.jp/miunovel/entry-10395916152.html">おすすめ記事一覧</a><br><br><br><font color="#FFFFFF"><font size="3">「手芸クラブ」「充電切れ」<br><br>　「だめだ、あたし、もう充電切れだわ」<br><br>　と律が言うと、ああ、今日は水曜日なのだな、とわかるようになった。律が毎週木曜日に手芸クラブに通うようになったのは四月のことだから、毎週のように彼女がそう言い始めてから２ヶ月が経つことになる。私はふんふんと鼻で返事をしながら、もつれた糸をほどいた。律と私は大きな布を挟んで、あっちとこっちでつぶやくように会話をしている。律が展覧会に出す巨大なキルトのタペストリーを縫っているのだ。私は律の図案通りの奇抜なハート柄を、ショッキングピンクの布で縫い付けた。律は巨大な目をしたかたつむりの、目の部分を縫いつつ、毎週恒例のため息をついている。<br><br>「高校行くみたいに、毎日手芸クラブがあればいいのに」<br>「大賀先生の、ほかの教室にも通ってみれば」<br>「無理」<br>「どして」<br>「好きだってバレちゃうから」<br>　　<br>　あんたはどこの少女マンガ出身者ですか、と頭の中でつぶやいてから、私は作業に集中し始めた。けれど律は必死で食い下がってきた。<br><br>「そんなこというけど、アミーだってきっと、大賀先生を見ればきっと、あたしの気持ちわかると思うな」<br>「そうかな。興味ないな。そんな、刺繍教室の講師してるような男。なんだか、趣味にあわない」<br>「アミーは、ワイルドなのが好きだもんね」<br>「別にそういうワケじゃないけどさ」<br><br>　顔を上げると、律が首を傾げてこちらをじっと見ていた。彼女にはそういう意味不明の癖があった。考え事をするとき、人の顔をじっと覗き込むように見るのだ。タペストリー（それは作者そのものと言ったような、すさまじく派手でなんとなくもたついていて、それでもまっすぐで純で憎めなくて、だからといってこれを部屋に飾れと言われたらにこやかに辞退したくなるようなものなのだけど）を挟んで、私と律の距離はいつも一メートル、手をのばしても届かないし、ぬくもりも届かないけど布越しにはっきりと隣り合っている。<br><br>　律が「大賀先生」狂いになったのは前にも述べたように、毎週木曜日に区の施設で開かれているのどかな手芸クラブに参加し始めてからだ。<br>　律は私と同じ美術短大を卒業してから、時々美術モデル（ヌード）のアルバイトをしながらのびのびと訳の分からないものを作り生活していた。律のセンスはすさまじいので一般受けはまったくしないのだけど（なんていうか、ガウディとだったら一晩飲めそうではある）、なぜだか強烈なファンが何人かついていて、一応それでも細々と収入があるようだ。日曜日の井の頭公園とか、各地で開かれるおかしなイベントに出没して、その小綺麗な小さな顔と奇抜な衣装の生えるすらりとした体もあいまって、一部では結構有名人らしい。緑のアフロのかつらをつけ、スパンコールのぴったりしたピンクレディーを彷彿とさせる衣装をきた律の写真がばっちりと乗ったブログも大盛況の様子だ。<br>　あっさり芸術性を捨て事務職についた地味志向の私とどうして気が合うのかわからないけれど、同じアパートに住んで（部屋は別）、ほとんど毎日顔を突き合わせている。<br>　律の作品はアクリル画か、立体作品が中心だったのだけれど、半年ぐらい前からどうしても刺繍がしたいと言い始め、それがうるさくなってきたので私は適当に目についた区民の施設のチラシを渡した。律は地味そうなクラブにぶつぶつと文句を言いながらも、値段の安さに惹かれて応募した。まさかそこに、「玉木宏とハウルの動く城のハウルを混ぜて、あたりにまるでジャスミンのお香を焚いたような、息であたりの空気を浄化できそうな、水も滴る講師」がいるなんて、無骨なパンフレットにはどこにも書いていなかった。そして、そこに通う約１５人の純真無垢な奥様方と同じように、ガイダンスの時間に律はすっかり恋に落ちてしまったのだ。私の知る限り、律はただのいい男に惚れるような単純な細胞の持ち主ではないのだが、今回は違ったようだ。<br>「とにかく、アミーだって、大賀先生に会えば、わかる」と律はいつも言う。「本当にセクシーでなんというか、あれは性だ。性そのものだ！聖なる性だ！」などと芸術的な発言をしたりする。私たちの間にはいつもキルトが揺れていて、巨大なカタツムリがそれをむくな顔して聞いている。<br>　とにかく、少女マンガモードを前開にした律は、手芸クラブのある日には毛沢東の絵が入ったTシャツを脱ぎ捨て、私の部屋から白いブラウスと水色のカーデガンをこっそり拝借し、ぼさぼさの髪をなでつけて毎週かわいらしく最前列に座り、本当はわかることでもわからないと質問をし、運がよければ大賀先生の「白くしなやかで、そのくせ力づよく、やたらセクシーな指」が律の指に触れることもあり、その度に「体中のエネルギーというエネルギーが全て満たされるの」と言う。だけど６０分の授業はいつもむなしいほどに早く終了し、その日いっぱいは幸せなのだけれど、すぐに満たされたエネルギーが減って来て、水曜日にもなれば「充電切れ」になるということなのである。<br>　私はそういうヌメッとしてそうな男性には生理的に興味がないけれど、大賀という名前にはなんとなく聞き覚えがあるすぎるほどにあって、それでいつも不安があった。<br><br>　玄関のベルが鳴った。律はカタツムリを放棄してスイカアイスを食べていた。私はハートの二つ目のカーブに夢中だった。<br>「律、出てくれない。多分、おばさん」<br>「おばさん？」<br>「親戚。今日、差し入れいくわよって連絡があったの」<br>「わーったよ」<br>　<br>　律は後頭部をばりばりかきながら、がに股で玄関に向かう。巨大なミシュランタイヤのキャラクターがついたTシャツがゆらゆらと玄関に消える。律に言おうか、どうしようかと私は悩む。<br><br>　そのおばさんはね、・・・<br>　<br>　その前に律が玄関を開ける。あらかた予想していた悲鳴と驚声があがる。<br><br>「アミー！どういうことー？」<br><br>　顔を真っ赤にしたオトメな律が、あわれなミシュランをぐしゃぐしゃにしながら駆け込んでくる。そしてド派手なタペストリーにぐるっとくるまる。おかげで私は針で自分の指を指してしまった。<br><br>「どうして大賀先生が、ここに？！」<br><br>「ああ、やっぱりそうだったのかぁ」と私は言う。<br>「どういうこと？どういうこと？」<br><br>「アミちゃん、久しぶり」と、「おばさん」が入ってくる。「アミちゃん、木村さんの知り合いだったの？」<br>「うん、そう」<br><br>　タペストリーの中でぶるぶる震える木村律を、私はぽんぽんと叩く。<br><br>「やっぱりそうだったの。これは私のおばさん。大賀由比っていうんだよ」<br><br>　真っ赤な完熟の律が、ぴょこんっと布の下から出てくる。<br><br>「どうして言ってくれなかったの？！」<br>「だって、律の話では男の先生みたいだから、まさかと思って言わなかったの」<br><br>「何、木村さん、私のこと男だと思っていたの？」おばさんは嬉しそうに言う。<br>「まあ、無理ないけどね、おばさん、また女性ホルモン減ったんじゃない？心なしかのど仏もあるみたいだけど」<br>「そうなの困っちゃう」<br>「声も低いしね。昔から間違えられてたもんね」<br>　<br>　律は真っ赤にぶるぶる震えて、結局そのあとお風呂にとじこもり、おばさんが帰るまで出てこなかった。<br><br>＊＊＊<br><br>　「おばさん、帰ったよ」<br>「アミーのいじわる」<br>「どうして？」<br>「大賀先生が女だったなんて」<br>「まあ、性そのものではなかったよね。おばさん、イケメンだもんね」<br>「女の人に２ヶ月も恋をしていて、それが一世一代の恋だった場合、どうすればいいの？」<br>　<br>　律は黒いまっすぐな髪をぐしゃぐしゃとさせながら言った。私はそれにぽんぽん、と手をのせた。それは子供のようにあったかくて愛しいしっとりと湿った柔らかい生き物だった。私の胸を締め上げる、ワイルドな。<br><br>「なんにも問題ない。そのまま好きでいればいいよ、もちろん」<br><br>　私が律を好きなように。布の向こうにあるぬくもりを愛してるようにね。</font></font><br><br><br><br><br><br>*****<br><br><br>最初の一行しか考えずに書いたらとんでもなくとりとめなくなりました。<br><br><br>なんていうか、結果としてお題関係なくてごめんなさい。いつもか。<br>でもお題もらったその日にかけてよかった。<br><br>お題ありがとー♥♡<br><br>前もらったお題もちゃんと消化しますね。<br><br><br><br><br>みう小説ではお題をいつも募集してます。</font>
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10553222857.html</link>
<pubDate>Thu, 03 Jun 2010 23:34:39 +0900</pubDate>
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<title>6月３日「切り抜き」「なまはげ」鉄男お題</title>
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<![CDATA[ <font color="#CCCCCC"><font size="3"><br>　僕は、切り抜きを握りしめたまま入り口に立ちすくんでいる。周りはよく見えないが、どこか繁華街のようなところらしい。時刻は宵の口。紺に染まった世界に、赤や黄色の派手なランプがともり、呼び込みの声も華やかな時間。仕事の疲れを癒したり、仲間内で盛り上がるために繰り出してきた人々が、幾人かの群れになり、右へ、左へと流れていっては消える気配がある。<br><br>　僕はずっと立ちすくんでいる。「彼女」がいう。<br><br>「何を躊躇することがあるの？」<br><br>　「彼女」の姿は見えないが、すぐ脇に立っているようだ。かすかな電気の刺激に似たいらだちが、「彼女」の言葉には含まれている。「彼女」は情けない僕に心底腹を立てているようだった。<br>　だけど僕の足は動かない。僕は彼女の顔を見ることもできない。金縛りのように体が動かないのだ。いや、実際それは金縛りなのだろう。手の中で、クーポン券の切り抜きがじっとりと汗ばんでくる気配がある。<br><br>「はやく入ろうよ」<br><br>　「彼女」の声は、僕を挑発するように頭の中で大音響で響く。僕がおびえていて、立ちすくんでいることを見通して、でもそれに気づかないふりをして、僕をつつくのだ。<br><br>「予約に遅れちゃうよ」<br><br>　　僕を射すくめているのは、巨大な「なまはげ」のお面だった。<br>　僕が予約したのは「気軽な雰囲気で楽しめる本格イタリアン」のお店のハズだった。クーポン券には写真も載っている。いかにもオシャレで、でも値段も手頃で、貧乏学生が彼女の誕生日に予約するにはもってこいという感じのお店だったのだ。まさかその、近代的でシャレていて重厚な入り口に、秋田の土着的な民衆信仰の鬼のような仮面がかけてあるかもしれないなんて、誰が思うだろう。<br><br>　もちろん、脳みその片方は知っている。これは夢なのだ。本当ではない。世界中のどこを探しても、イタリアンレストランの入り口になまはげをぶらさげるわけがないのだ。ここはきりたんぽ鍋屋ではないのだ。<br>　<br>　きりたんぽ鍋屋では・・・。<br><br>「それとも何かやましいことでもあるの？」<br><br>　彼女の気配は、今ではガムのようにビュイーンと伸びて、ずっと上から僕を見下ろしたり、僕の背中を覆い尽くしたりしている。宵の楽しい繁華街がすっと遠のき、鬼のような彼女の気配はそっと冷たい触手を伸ばして胸の中に、心臓に手を触れそうなところまで忍び込んでくる。僕はやっとの思いで目を閉じる。しかしまぶたの裏に、なまはげの顔が浮かんでくる。<br><br>「わるいごはいねがー！』<br><br>＊＊＊<br><br>　汗だくになって叫びながら飛び起きた僕のことを、彼女は腹を抱えて笑った。白い蛍光灯、洗濯物の匂いがする彼女の小さなワンルームの、狭いベッドの中だった。<br><br>「なまはげって。あー、おかしい」<br><br>「怖かったんだってほんと、マジで」<br><br>「なんでそんな夢を見ちゃったんだろうね。フロイト先生に変わって診断してあげようか」<br><br>　彼女は白く丸い顔を僕の腹の上にのせてこちらを見る。大学で一番美人だと思う、うりざね顔、白く透き通る肌、黒くつやつやとした髪の毛。僕はそれをなでようと手を伸ばす。<br><br>「なにかやましいことがあるんでしょう」<br><br>　僕の手がとまる。白く美しい彼女の顔が、徐々に変化している。僕の体は再び動かなくなってきている。しまった。まだ夢は終わっていないのだ。<br><br>　彼女の声が頭の中で響き渡る。僕は我慢しきれずに、叫ぶ。<br><br>「そうだよ、ごめんよ、魔が差したんだ」<br><br>　巨大な釜をもって彼女が迫ってくる。<br><br>「だけど君が一番好きなんだ、信じてくれよ、うわあああ」<br><br>＊＊＊<br><br><br>「何をねぼけてるの」<br><br>　本当の彼女の部屋で僕は目覚めた。彼女は今帰宅したところらしく、就職活動の黒いスーツを着ている。<br><br>「あ、お店予約できたの？」<br><br>　僕はベッドではなく、パソコンデスクで寝ていたようだ。手元にはプリントアウトされた店のクーポン券が置いてある。オシャレで安いイタリアン。彼女の誕生日祝い。<br><br>「ねえ、イタリアンと、きりたんぽ鍋屋とどっちがいい」<br><br>　僕はぼんやりとした頭で尋ねる。<br>　彼女はびっくりした顔で首をかしげ、それからとまどいがちにふっと笑う。<br><br>「だって、私秋田出身なのに。きりたんぽなんてわざわざ東京で食べたくないよ」<br><br>「そうだよね」<br><br>　僕は汗で濡れた額を拭う。夢だ。夢だったんだ。よかった。彼女は僕の浮気になんて気づいていない。そうだ、ちょっと後輩に手をだしただけじゃないか。気づく訳がない。<br><br>「そういえばさぁ、」と彼女は何気ない感じで言う。<br><br>「あんた来週後輩と、ディズニーランド行くんだってねえ」<br><br>　全身の汗がさっと引っ込む。僕は彼女を見ることができない。</font></font><br><br><br><br>三ヶ月ぶりぐらいに小説書いた。<br><br>というのも鉄男のお題が難しすぎるんだヨォーーー<br><br><br>ようやく消化。次はおおがきなこさんの「緑茶」「風呂場】です。<br><br>お楽しみに<br><br><br>お題募集中！<br><br><br>久しぶりに書くとやっぱりひどいなぁ
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10552821239.html</link>
<pubDate>Thu, 03 Jun 2010 16:53:59 +0900</pubDate>
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<title>２月２６日「釜飯」「お門違い」佳（kei)さんお題</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFFF"><font size="3">２月２６日「釜飯」「お門違い」佳（kei)さんお題<br><br>「料理泥棒」<br><br>　妻の凝り性はすでに芸術の域に達しようとしている。そして我が家の台所のあらゆる収納スペースも、それと同時に限界ギリギリの飽和状態に達しようとしている。ありとあらゆるーー高級なものから、１００円で手に入るものまで、どこの家庭にもあるものから、超専門的なものまでーー調理器具が、これまた芸術的な間隔できれいにおとなしく並んでいる（ちなみに妻は収納の方でも超芸術的な凝り性なのだ）。　<br>　小型車一台分ぐらいの値段のする高性能ミキサーから、舶来ものの鍋、子供がすっぽり入りそうなほど大きな中華鍋に、サンダースほどのあらゆるかたちの「おたま」、おでんやの屋台が今すぐ開けるような立派なおでん鍋まである。そして妻は、毎日何かに挑むように新しい料理を作り続ける。結婚してからもうすぐ十年経つけれど、私は外食がだんだん苦痛になってきている。なぜならありとあらゆる食事が、妻の作るものに到底かなわないからだ。<br>　妻が今挑んでいるのは「釜飯」だ。釜飯をどうやってつくるのだか私にはよくわからないけれど、とにかく釜飯ようの釜が、我が家の美しい博物館的収納庫に仲良く二つ追加された。妻はこの釜飯のために、有名な釜飯店でパートを始めた。それが妻のやり方だ。つまり何か料理を覚えたいと思ったら、その料理店で働き始めるのだ。もちろん調理士ではないので、皿洗いだとか皿運びだとかそういう雑用係のパートである。私の稼ぎだけで暮らすことはできるが、子供はいないし、昼間暇だということでパートに出ることを許したら、半年に一度点々としながら、あらゆる専門技術を文字通り横目で「盗んで」きた。高級フレンチから、自分で焼くピザ（うちには釜もある）、うどんを打ったこともあるし、たこ焼きの屋台で座ってたこともある。そして、作り方だけでなく仕入れ先からなにから全て暗記して帰ってくる。働いている期間はとにかく盗めるだけ盗み、その店の味を超えたときに、あっさりとやめる。調理器具は、すべて彼女のパート代で払われているのだから見上げた妻だ。<br>　今彼女は釜飯に挑んでいる。台所（すでに或る種の研究室のようになっている）は立ち入り禁止だ。私はぼんやりとソファに沈んで時々犬と遊びながら、一流店の味を待つ。こんな風に最高にリラックスできる場所で、最高級レストラン以上の味が楽しめるのだからなんて幸福なのだろう。<br>　なんどとなく、妻に言ったことがある。どのみちもう子供ができないのなら、この貯金で料理やをはじめないか。君の才能ならミシュランだって夢じゃないぜ、と。だけど彼女は、持ち前のしかめっつらで、無愛想に答えるだけだ。<br>「それは違うの。お門違いなの。私は、ただ、作りたいの。盗みたいの。盗みがしたいのよ。料理がつくりたいんじゃない」<br>　その時の妻の鬼気迫る顔には、なにか近寄りがたい妖気を感じ私はひるんだ。なんだかみてはいけないものを見てしまったような居心地の悪い感じがした。<br>　私はそれ以来、料理店を出す提案はしていなかった。しかし、その出来上がった釜飯を食べて、ほっぺたがおちるとはこのことか（本当においしいものをたべるとき、ほっぺたは本当にじんわりと痛くなる）、というほどおいしい釜飯を食べた時、私はつい行ってしまった。<br>「釜飯店を開こう！連日大行列だ」<br>　妻は、それほどおいしい釜飯を自分が作ったことなどさして興味がないような顔で、半分犬にやりながら無愛想に言った。<br>「わたし、料理辞めるわ」<br>「なんで」<br>　この世がいったん静止したような気がして私は顔を上げた。妻は、あの時のような異様な顔をしている。そう言えば、妻はもともと、私が付き合っていた女の子の親友だった。紹介された時にも、異様な気配を感じたものだった。その彫刻のような、静止した顔、心のすぐよこまで忍び込むような異様な気配。私は強く彼女に引かれ、そして女の子とは別れ、妻と結婚した。ひどいことをしたと思う。だけど、妻の言いようがない魅力には何も誰も太刀打ちできない。<br>「私、明日から、T大学の○○研究室で働くの」<br>　それは、ある有名なバイオの最先端の研究室だった。<br>　まさかーーと私は言おうとしてやめた。妻は、あさっての方を向いて恍惚としている。<br><br>　盗みたいの。盗みがしたいのよ。<br><br>　知識を。形のないものを。<br><br><br></font><br><br><br><br>＊佳（kei)さん、めっちゃくちゃ難しかったです。<br><br>今までで一番。なんのイメージも浮かばなくて<br><br>無理矢理感あふれる作品となりましたが受け取って下さい。<br><br>またお題下さいね！</font>
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10468886619.html</link>
<pubDate>Sat, 27 Feb 2010 00:20:34 +0900</pubDate>
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<title>２月２５日「白い部屋」「絵の具」</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFFF"><font size="2">２月２５日「白い部屋」「絵の具」<br><br>　白い部屋の夢を見た後はきまってうまく起きられなかった。目覚まし時計が何度せかしても、私は甘い余韻の残った布団にくるまりその幸福な印象を胸いっぱいに吸い込んで、何度も何度も、夢の印象が薄れて消えて現実の朝にとってかわるまで、寝返りをうつのだった。<br><br>　白い部屋にはいつもいっぱいに光が差し込んでいる。いつだって五月のお休みの日の午後のような優しくて眠たくて少しだけ憂鬱な感じのする光だ。白いレースのカーテン。窓の外には青い空だけ。きっと高いビルの上の方にある部屋なのだろう。部屋には、大きくてつるつるとしたベッドと、くすんだ赤の、大きくてどっしりとしたベルベッドのアンティークソファ、同じぐらいくすんだふるいグリーンの丸いカーペット、そしてその上にそろえられた柔らかい皮の白いスリッパ、シンプルな銀色のシャンデリア、それ以外には何もない。風はゆっくりと足音を潜めて部屋を通り過ぎる。光と埃と時間がゆっくりとその周りをまわっている。まるで古い時間の幸せなパーティーの記憶みたいに。大昔の幸福な家族写真のように。音はないけれど、やさしくてそして遠い。<br>　大きなベッドにはつるつるとした肌触りのよいシーツが引いてあって、私と「彼」はそれにくるまって小さな子供のように寝息を立てている。私も「彼」もほんの小さな子供で、なかよく昼寝をしているみたいに。私は時々手をのばして、「彼がそこにいる」ことを確かめる。夢の中でも、彼はしっかりとした温度と存在感をもってそこにおり、私を安心させる。夢の中だと、すごくいろんなことがわかる。彼がどこにもいかないことも、彼がどれくらい私をいとおしく思っているのかも、この白い時間が永遠に続いて、夜なんて絶対にこないことも。そしてとても幸福になる。完全に満たされる。月の光に照らされた清潔な水に体中をひたひたと浸されたような、それはもう完璧な幸福感だ。<br><br>　だから目をさましたとき、それが私の頭の中の世界にすぎず、白い部屋もベッドも光も彼もなにもいないのが本当だという現実を見つめるのはいつもとても辛かった。私は相変わらず欠落した存在だし、彼はもうとっくに私のことなど忘れているだろう。二人の為に時間が永遠になるような場所なんて、絶対にこの世にはないのだから。だけど私はいつも、夢の幸福感だけは本当だと思っていた。あんなに完璧な気持ちになることができないのなら、この世に存在するあらゆるものは、犬のうんこじゃないかとさえ思えた。<br><br>　白い夢は、突然に舞い戻って来た。見たいときに見られるようなものじゃない。私がささやかな日常にささやかな満足を覚え、すっかり彼を忘れたような気分になったような日に限り、その夢はふっと現れた。かわいそうな猿の頭についた輪っかみたいに、わすれるな、と言われているな気がした。ばかばかしい片思いのその記憶を、忘れさせないために夢はもどってくるのだ。そしてその効果は絶大で、夢の後三日間は、私は昔聞いた音楽を聴き、ひたすらにその時間に舞い戻ろうとした。彼と彼のいた時間を。<br><br>　彼は街角の画家だった。美大生かなんかだったんだとおもう。そしてささやかな材料を買ったり、家賃をはらうために、私の働いていたパン屋で週に4日、レジ打、雑用をやっていた。田舎町で私は高校生で、その山の上にある美術大学の学生は私たちにとって外から来る珍しい風だった。彼にはじめて会った時に、なんだか珍しいものをみたように、私は何度もその顔を確認してしまった。どこかで見たような、すごく懐かしい感じがしたのだ。今までの人生で会った誰かに似ているとか、芸能人とか、飼ってた犬とかぬいぐるみとか、マンガやアニメかもしれないと思っていろいろ考えてみたが、そのデジャビュの正体を解き明かしてくれそうなものは思い出せなかった。私は彼に会うたびに、その顔に潜んだなつかしさのスイッチを探すようになった。やがて彼の顔をみるのが楽しみになり、そしてとうとう好きなんだと気がついたときには彼に会って三ヶ月が経っていて、私は進学のために東京へ出ることが決まっていた。<br>　<br>　仲良くなりたいと、いつも思っていたのに叶わなかった。いつも、仕事場の同僚以上の会話をすることもなく、ふたりきりになったことさえあまりない。会話の相性は良かったような気もするけど、人当たりのよい彼はだれにでもそんな風だったと思う。<br><br>　いままで何人かの人を好きになっていたけれど、それは顔が好みだからだとか、素敵な手紙をもらったからだとか、話しているうちに好きになってしまっただとか、そんな当たり前のことで、恋とはそういう、きらきらした海の上の波のようなものだと思っていた。だけど彼のことを、誰からも悟られず密かに好きだった時、私はいつも、とても深い場所で重要な変化がおこっていることを自覚していた。そしてそのとても深い場所で、私たちはつながっているようなきがした。遠い、白い、懐かしい部屋で。私の聖域のような場所でその恋は発生したんのだ。誰からも悟られず。だからこんなにも無条件に好きなのだ。<br><br>　結局気持ちを伝えないで私はパン屋の仕事を辞めて上京した。彼には恋人がいたし、あたりまえの告白や、それに続く恋人としてのあらゆる通過儀礼がばかばかしく思えたからだった。私はそういうことを望んでいる訳じゃないのだ。一緒にいたいわけでもない。だけど辛いほどに彼に恋したままだった。それはきっと、その白い部屋の存在に気づいているのが私のほうだけで、彼は私と深い場所でつながっていることに気づきもしないからだ。<br><br>　あれから十年が経とうとしていた。私は結婚をのぞんでくれる男性とゆっくり家探しをしていた。時々夢の中で幸福な気持ちになるぐらい、浮気にも入らぬと思っていた。<br>　式をあげない書類上の結婚なので、家さえ見つかればもうそこで一緒になろうと決めていたのに、なかなか条件に会う家が見つからずに数ヶ月が経った。私たちがその部屋を見つけたのはしずかな六月の晴れた日曜日のことだった。<br><br>　不動産やさんにつれられてその部屋に入ったとたん、私はがーんとしためまいに襲われた。石神井公園から徒歩で十二分ほどあるいた静かな場所にある、五階建てのマンションの最上階だった。そこは私が夢で見て来たのと同じ部屋だった。シャンデリアとソファとカーペットと、もちろんベッドがないだけだ。白い光が差し込む窓にも、レースのカーテンはかかっていない。私はぐらぐらと揺れている気がした。婚約者はそこを気に入り、条件もばっちりそろっていた。私はぐらぐらと揺れたまま、その部屋に住むことに合意し、二人は夫婦となった。<br><br>　私は、その夢の部屋が、「石神井公園のちかく、地上五階のマンション」という現実的な要素を与えられたことにとまどっていた。そして、私が無情の幸福感を味わった場所で、これから過ごすのに、その相手が夫であることに、まるで寝室で浮気しているような居心地の悪さを感じていた。<br><br>　その部屋に引っ越す前の日、私は白い部屋の夢を見た。当然いつか来るだろうと思っていたので、私は冷静に夢を受け入れた。<br><br>　夢の中で、彼も私も眠っていなかった。彼も私も、着心地のよい白いコットンのパジャマを着ていた。そしてベッドの上で並んで体育座りをしていた。<br>「そろそろはじめようか」<br>　彼は言った。<br>「ええ」<br>　と私も答えた。何を？と聞こうとする前に、私はするべきことを知っていた。私たちはベッドの脇に置かれた缶に入った絵の具をつかみ、めいめいに部屋中の壁にぶちまけた。部屋はすぐに色とりどりに染められた。カーテンも、ベッドも、ソファも、何もかも。彼は筆を動かした。すぐにその壁のもようは広い花畑のある草原になった。私は黄色い絵の具でその草原をまっすぐによこぎる綺麗な小道を造った。<br>　<br>　白い光が射している。私たちは手をつなぎ、その小道に向かって歩き出した。<br><br></font></font><br><br><br><br>＊よくもわるくも一番「私らしい」作風です<br><br>だからなんか恥ずかしいなんでだろ？<br><br><br>こうやってブログの形で見ると、私の書きたいことってとことん伝わりにくい<br><br>わけのわからないなんかですね。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10468147346.html</link>
<pubDate>Fri, 26 Feb 2010 01:54:18 +0900</pubDate>
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<title>２月２０日「かぼちゃ」「遅刻」テツオ</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFFF"><font size="3">２月２０日「かぼちゃ」「遅刻」<br><br><br>　頭が燃えるように痛かった。さっきまで見ていたやけにリアルな夢のせいだ。夢の中ではありとあらゆるものが燃えていた。試験会場も面接官も、他の生徒もみんな。ひどく大きな声で叫んでも誰にも伝わらずにみんな燃えていた。そして目が覚めたら完全に遅刻な時間になっていた。今日は高校入試の二次試験、大事な面接があるというのに。母親は仕事に行っていていなかった。テーブルの上におかれた弁当をひっつかみ、その脇の紙ー「面接官なんてみんなかぼちゃだと思って、頑張りなさい！」ーをちらりと見てから家を文字通り飛び出した。高校までは坂を下ってからまた昇るだけの超至近距離だが、試験開始を告げるチャイムが盆地状の街にしずかにおごそかにそして有無を言わさぬ厳格さで鳴り響いた。いくら面接官がカボチャでも、遅刻する生徒を許しはしないだろう。どうしよう。今までの苦労が、なにもかも燃えてしまう。頭が、燃えるように痛い。<br><br>　高校の門は開いていて、門番も受付も誰もいなかった。ただ、墨で書かれた試験会場という表示と矢印の案内図があちこちに貼ってあるだけだ。人の気配がまったくしない。きっとみんな恐ろしく集中している時間なのだろう。しかし門が開いていることをいいことに俺は校内にしのびこんでみた。案外、間に合うかもしれない。<br><br> しかしすぐにおかしいと思った。受験番号と照合しながら「控え室」になっている教室のとびらをあけると、そこにはたくさんのカボチャがおいてあったのだ。<br>打ったような静けさのなかに、礼儀正しく一つの机に一つのカボチャ。俺の受験番号が書かれた机だけ、かぼちゃがおかれていなかった。まるで他の生徒がみんなカボチャになってしまったみたいだ。俺の席は丁度真ん中あたりで、席に着くといいようのない居心地の悪さを感じた。<br><br>　カボチャたちは、そこら辺のスーパーで売っている普通のまるごとのカボチャだった。おかしいところはなにもない。俺はためしに隣の机においてある少し黒っぽいヤツをつつこうとしたのだけど、なんとなく居心地悪くてやめた。<br><br>　教室の後ろにはストーブが焚かれていて、そこにも一つカボチャが置かれていた。<br><br>　悪い夢よりもっとわるい。何もかもが燃える夢でも、そこには人間というものがいたもの。そういえば今日は朝起きてから人間に会っていない。俺はあわてて席を立って教室の外に出た。世界は静かすぎる。まさか、俺が眠っている間にすべてのものがカボチャに変わってしまったのか？母親も？何もかも？<br><br>　どうすればいいんだ？世界にただ一人で。<br><br>　その時廊下の曲がり角から、セーラー服の美少女が歩いて来た。見たことのない子だったけど、本当に可愛い子だった。黒い髪を一つに束ねて後ろに結び、とまどった表情でこちらに向かって歩いてくる。俺をみて少しほっとした顔をした。俺はかなしばりにみたいに動けなくなった。カボチャしか見ていなかったので、その子はまるで地上に降り立った天使のようだった。<br><br>「あのう」彼女は言った。鈴みたいに可愛い声だった。「今日は試験の日ですよね？」<br>「・・で・・・」喉の粘膜がねばねばして、まともに声が出てこなかった。彼女はそんな俺の不器用ないろいろを無視して、廊下をみまわした。<br>「どうしてカボチャしかないんだろう」<br><br>　俺ははっと気がついた。これは、誰もが一度は妄想したことのある「アレ」だ！好きな子と俺以外全部消えてしまえ！ってやつ。なんて素敵なんだろう。この子と俺以外すべてカボチャになってたら？<br><br>「いいじゃないか」俺は言った。「カボチャしかないんだもん。試験は中止だよ。それよりーー」<br><br>「そんなわけないだろ！ぼけ！」<br><br>　急に美少女がおばさんみたいなすごみのある声で怒鳴った。びっくりして飛び上がるとそこは俺の部屋で、目覚ましがけたたましく鳴り響き、母親がすごい剣幕でこちらをにらんでいた。<br><br>「なにがカボチャしかないから、だよ、はやくおきなさい！」<br>　<br>　時計を見ると、まだ試験には十分間に合う時間だった。緊張のあまり悪夢を見ていたのだ。　<br>　朝食のカボチャサラダをなんだか食べる気にならなかったのは察して欲しい。<br><br>　俺は正常な頭痛と正常な気持ちで冷静に制服に着替え、受験票を確認し、弁当を持って家を出た。<br>「面接官なんて、カボチャだと思いなさい！」と母親が言った。<br><br>　高校までつづく坂の途中で、無数の学生服の中に、俺は夢の中で見たセーラー服の後ろ姿を見つけた。<br><br>　</font></font>
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10464001296.html</link>
<pubDate>Sat, 20 Feb 2010 23:40:55 +0900</pubDate>
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<title>２月１９日「矮鶏」【熱伝導」ガブリエル夫人さんお題</title>
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<![CDATA[ <font color="#CCCCCC"><font size="3">２月１９日「矮鶏（ちゃぼ）」「熱伝導」<br><br>　午前六時。境内は深い藍に沈んでいて限りなく澄み、全ての音がそこでは不適切なものとして削除されている。僕と百合子も少し前まではひそひそ声でささやき合っていたが、やがてお互いの口からは白く柔らかくのびる息以外のものを出すことを控えてしまった。深い海のそこってこんな感じなのだろうか、と思う。そこは圧倒的なまでに青く体の組織の中まで入ってきそうなほど粒子の細かい清涼な何かが入った培養液みたいだ。夜の一番深い部分が終わり、朝が訪れる人呼吸前の時間の魔法の時間を、僕と百合子はぴったりとくっつきあって息をひそめて見つめている。百合子の華奢ななにもかもは僕の腕と肩の隙間にパズルのようにぴったりと重なり合う。柔らかな熱が伝わってくる。小さな鳥を抱いているように、柔らかくはかなく、しっかりと生きている「それ」を僕はとてもとても胸が気持ち悪くなるほどにぐしゃぐしゃにしたくなる。百合子は１０歳も僕より多く生きているのに、たよりない十代の僕よりもずっとずっと脆くて壊れている。<br><br>「私は壊れてしまったかけらでしかないの」<br><br>　と、何時間か前の彼女は言った。<br><br>「私は生きて動いているものだけど、その実、壊れたろくでなしの役立たずでしかないの。そんな私は、あなたの熱を奪わないと生きられないぐらい心が冷たいの。<strong>無感覚になるぐらい冷たいの。</strong>そしてきっといつかあなたの心もまた同じぐらい冷たくしてしまうの。私はそう言う風にしか生きられないの。どうしようもないの。だからあなたと一緒にいる訳にはいかないの。どうしても」<br><br>　僕はそういいながら、僕の手の届く一歩先の部分でぶるぶる一人で震えながら立っている彼女を見ていた。言葉もあらゆる動作もそこでは無意味で、無価値だった。あらゆる「優しさ」でさえ、高いところでひとり叫んでいる彼女にはひどく辛く突き刺さるのだ。<br><br>「矮鶏をみたんだ」<br><br>　僕は、ぶるぶる震える彼女にようやくそれだけ言うことができた。彼女は道に迷った小さな子供みたいな弱々しくてどうしようもない顔で、僕を見た。僕の言っていることがよくわからないみたいだった。<br><br>「矮鶏をみたんだ」僕は続けた。「知ってる？矮鶏。ニワトリみたいな鳥」<br><br>　百合子は泣きそうな顔になり、弱々しくぶきような笑顔で笑って首を振った。<br><br>「中学の頃さ、好きだった女の子も交えた仲いい奴ら４人でこっそり家を抜け出して家出みたいにこのお寺で遊んでたんだ。夏休みのこと。打ち明け話したり、ちょっとしたゲームしたり、家から持ち出した酒をちょっとだけ飲んでみたり。そしたらさ、夜明け前に、好きだった女の子が言ったんだ。矮鶏がいる、って」<br><br>「矮鶏は、いたの？」<br><br>「いたよ。彼女の胸の中にいたんだ。大きい鳥でさ、くさくて。びっくりしたよ。だって、僕らはずっと輪になって話をしてたのに、いつの間に彼女が矮鶏なんて抱くようになったのか、意味が分からなくて」<br><br>「それで？」<br><br>「それがさ、僕と彼女以外の二人には、その矮鶏が見えないんだ。何言ってるんだ、二人で、って、笑うんだ。ほら、ここにいるじゃないか、矮鶏がいるじゃないかって、言っても全然見えないんだ。僕らもう、わけがわからなくなって、なんか場も白けちゃって、そのうちに、夏だから夜明けが来て、そしたら彼女の足に乗ってた矮鶏が歩き出したんだ。彼女は立ち上がって、追いかけた。僕も彼女を追いかけた。二人はもう半分怒っていて、僕らが結託してなにかたくらんでる風に思ってたから、座って寝たふりみたいなのしてた。彼女はまっすぐ歩いていったけど、大きな灯籠の横でたちどまってさ、だめだ、届かないって言ったんだ。見たら、矮鶏は寺の本堂の屋根の上にいるんだ。とべない鳥がいつのまにそんな所にいったのかわからない。彼女は僕を見て、言ったんだ。「吉田君、あの矮鶏をとってきて、おねがい」って」<br><br>「それでどうしたの？」<br><br>「とりにいけないって、すぐに言ったよ。彼女はがっかりした顔をして、それからふらっと本堂の方へ歩いていった。彼女にあったのはそれっきりだ」<br><br>「どういうこと？」<br><br>「その日以来、彼女はいなくなってしまったんだ。学校にこなくなった。不登校ってやつ。僕はいまでも思うんだけど、あのとき僕があの矮鶏を捕まえていたら、そんなことにはならなかったんじゃないかな。あの子は僕の気持ちをしっていて、僕に助けを求めたのかもしれない。思うに、百合子が今言っていることは、「私の矮鶏」を探してって、そういうことな気がするな。違う？」<br><br>　百合子は歪んだ顔でわらった。「どういうこと？」<br><br>「なんだっていいや。矮鶏を探そう。夜明けになったらきっとどこかに現れるから」<br><br><br><br>　僕の腕の中で百合子は震えている。あの日、あの女の子の膝の上で震えていた矮鶏みたいに。<br><br>　夜明けが近くなり、空気は神聖さを増していく。<br><br>　その時、百合子と僕は同時に吐息ともつかぬ感嘆の声をあげる。そこには、白く大きなとさかをもった矮鶏が悠々と歩いているではないか。<br><br>「いたわ」<br><br>　かすれそうな声で百合子が言う。矮鶏は悠々と境内を我が物顔に歩いている。<br><br>「つかまえよう」<br><br>　僕らは手をつないで立ち上がる。氷点下の中すわっていたので体中が痛い。<br>　<br>　その時矮鶏がたからかな声で鴇の声をあげた。それは、誰もが声を潜める凍り付いた空気を引き裂いた。そして、百合子ははっと息をのむと、次の瞬間大きな声で笑い始めた。<br><br>「やだ。みて」<br><br>　百合子が指差した先には白い看板があり、そこには堂々とした文字でこう書かれていた。「ちゃぼ　お寺の大切な鳥です。えさをやらないでください」<br><br>「矮鶏は、このお寺のものだったのよ！中学の頃あなたがみたのも、この矮鶏たちだったのよ！」<br><br>　そう言って、また百合子は笑った。僕も、数年前の不思議な体験がばかばかしくなって笑ってしまった。笑いながら僕らはもう寒くて寒くて、自然にしっかりと抱き合った。あたたかく確かな熱伝導が二人が生きていることを証明してくれた。<br><br>「その子は矮鶏をうしなってしまったから消えたのだといたら」百合子は言った<br><br>「私は矮鶏を捕まえた。もう大丈夫」<br><br>　そして胸の中から僕の顔を見上げた。「あなたのその髪型、まるで矮鶏そっくり」<br><br>　僕は喜んでいいのかなんだかわからないけれど、彼女が笑ったのでそれでよかった。<br><br>　夜明けはもうすぐで、矮鶏はもういっかい、喉の具合を確かめるようにしっかりと鳴いた。<br>　</font></font><br><br><br><br><br>ごめんなさい、今日の今日まで「矮鶏」、読めませんでしたー＾＾；<br><br>検索したらちゃぼ。ちゃぼと熱伝導で、こんな情景しかうかびませんでした。<br><br>多少無理があるけどタイムリミットが近いのでアップしちゃいます。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/miunovel/entry-10463147956.html</link>
<pubDate>Fri, 19 Feb 2010 22:49:45 +0900</pubDate>
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