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<title>桃林の桃源郷</title>
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<description>時事から江戸の物語まで、裏道寄り道迷い道。年寄りのつぶやきですが気楽にお立ち寄りください。</description>
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<title>浮世床</title>
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　あれれっ、今日は店仕舞かぃ。　へぇ平さんおいでなせえ。今日はね、町内で権現様に紅葉狩とかいって。たまにゃあ若い奴にも休みをやろうかと思って出しちまった。おいらぁひまだから急な客でもあったらと店で一服してたとこさ。　親父もいいとこあるぜぃ。それじゃ髪梳きからゆっくりやってもらうかね。おいらも今日は大工仕事も休みでよ。　けれど髪結い床の静かってぇのもなんだか落ち着かねぇやな。近頃ぁ世間も何かとせちがねぇもんだが、なんぞ心持ちの暖ったかくなるような話はねぇかぃ。　そうよなぁ。米味噌はあがるぁ薪炭は値
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<dc:date>2019-09-07T17:06:34+09:00</dc:date>
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<title>手のひらの物語　鰯雲</title>
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　なんか面白い草紙本はあるかい。　そう声を掛けられて茂次は読んでいた黄草紙から顔を上げた。貸し本の箱荷を降ろして川沿いの土手で一息入れながら、つい草紙を読みふけっていた茂次はあわてた。　土手の奥の松林から蝉の声が賑やかな暑い昼下がりの八つ時。　はいはいっ、曽我兄弟、源平物など史記物から季節柄のあやかし話、心中物から落とし噺まで色々とございやす。　ふぅん、おめがえが読んでるのはなんでぇ。　これは、天文所のお役が書かれた空の話を子供向けに誂えたもんでやす。　空にゃ何があるんでえぃ。　ええっと、昼の空
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<dc:date>2019-06-05T20:34:36+09:00</dc:date>
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<title>手のひらの物語・シネマの友達</title>
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　杏子は足早に黄金町の駅から川沿いに出ると通りのパンと駄菓子の店で、クリームパンと珈琲牛乳を買って足早に日劇の入り口に向かう。　映画館入り口の壁には、小さな屋根付きの張り板があって、ポスターが三枚並んで貼ってある。下のほうには近日上映の次回作の題名が、紅い塗料で紙に書かれて。その前に辰吉が紙袋を提げて立っていて。ポスターの端から端までじっくりと眺めている。　辰さん、と声を掛けるとニット帽の頭を振り向けて。　えへっ、嬢ちゃん今日は西部劇とアクション、そんでハードボイルドだと。にいっと歯の一本無い顔
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<title>手のひらの物語・包丁侍</title>
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　牧田翔之介は奥州の小藩の生まれだった。藩が隣藩と山争いで刃傷沙汰があり、咎は藩にありとお取り潰しになって隣藩に統合されるに至った時。　父親の跡を継いで馬廻り役の下級武士だった翔之介は。両親も既に無く独り身の気楽さと、敵対していた隣藩に仕えるのを嫌い、下男の吉蔵に家と田畑を任せて江戸に出たのだ。剣術修行と云う名目で。かっての上役もその気持ちは判ると、一年たったら落ち着くだろうから戻って来いと言う。　江戸は深川浅蜊河岸の梅ノ木長屋は、風雅な名前にはおよそ縁の無いどぶ板長屋だったが。翔之介は「何でも
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<dc:date>2019-04-24T18:02:50+09:00</dc:date>
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<title>手のひらの物語　かっぽれ</title>
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　秋の風に初冬の冷たさが混じる七つ時。九助は、横川の船着場で葛西や押上村の船荷が着くのを待って仕入れると、山芋や青菜を背負い籠に入れ背負った。　風が冷たくなると、明け方に日本橋横のやっちゃ場に出かけるのはおっくうで、前の晩の客が居座って飲んでいると。どうしても朝が遅くなる。　横川の船着場の馴染みの老船頭は、山芋の上物や白葱の泥つきを九助のために取り置いていてくれる。まったく年はとりたくねぇもんだぁ。背中の籠の重みに思わず九助がぼやくと。　おうよ、おいらも隠居してぇもんだが。畑仕事は得てじゃねえか
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<dc:date>2019-03-31T15:40:45+09:00</dc:date>
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<title>手のひらの物語・町とんび</title>
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　明暦の大火は江戸の人々の記憶に深く痛みを残し、江戸の町の一つの転機ともなった災害であった。十万の死者を出した大火の時。大川に遮られて、のがれられなかった多くの町民がいたことから大川に橋が渡されることになり。千住大橋に続いて隅田川に二番目に架橋されたのが両国橋。当初大橋と名付けられていたが西側が武蔵国、東側が下総国と二国にまたがっていたことから俗に両国橋と呼ばれる。　火災瓦礫の埋め立てによって深川新地が広がり、被災者の弔いに回向院も建立され。多くの寺社武家屋敷も川向こうへと転地替えになった。吉原
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<dc:date>2019-02-23T14:15:11+09:00</dc:date>
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<title>手のひらの物語　夜半の雨</title>
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　ふいに冷たい風が吹きぬけたかと思うと、ぱらりと雫が肩にあたって静かに雨が降り始めた大川沿いの土手道。　ちぇっ、降ってきやがったか。　小平次は舌打ちして提灯の灯を手で囲った。今井村の孫兵衛の家を見舞い、泊まって行けと作男の茂吉に勧められたのを断ったのは、病みつかれた孫兵衛の側にいるのが辛かったからだ。　単の衿を思わずかきあわせた時。にいさん降ってきちまったねぇ休んでおいきかい。と女の声。見下ろすと萱の原に小ぶりな屋形船が舫ってあり、女の顔がぼうやり明るんだ障子の間から浮かんでいる。　船饅頭か、さ
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<title>手のひらの物語　 陽だまり</title>
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　作次が生まれたのは、深川菊川町の中長屋。冬のはじめで、生まれてすぐに高熱を発して辛うじて一命は取りとめたもの、作次の成長はまだるこしいものになった。長屋の他の子が走り回る年頃にも、よちよちと歩き、言葉も拙く遅い。何を言っても、えへっえへっと笑う。　父親は柴辰工房の大工で、稼ぎもよければ、母親のおさとも、とと屋という小間物問屋に通いの下働き。長屋住まいながらも暮らし向きはゆとりあって、幼い作次は姉の千里と一緒に寺子屋にも通わせてもらったが。悪童達から、ぐづのろまと随分と苛められたものだった。　千
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<title>手のひらの物語　九助話　夕立</title>
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　九助が、束ねた薪を竈横に運び店の内外を雑巾で拭き上げて、軒下に赤提灯を吊るしてると。西の空が急に渦巻いて、ピカと雲間が光るとゴロゴロと雷鳴が鳴り轟いた。　おいおいっ、月の晦日に夕立かぃ、雷神様も意地が悪いぜ。独りごちながら店に入ると。ばらりと落ちてきた雨粒が、夕暮れの風に煽られるように広がった。　南掘割下水の向こう岸を尻端折りで走っていく男やら。裏の長屋の女房達が、あめだよぉ、あめだぁと叫ぶ声があがり、あわただしく人も声も行き交う。　首に掛けた手拭を取ると、九助は店の樽椅子に腰をかけ、腰の古ぼ
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<title>手のひらの物語・金襴（きんらん）</title>
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　昼下がりの八つ時、江戸深川は氷雨が立ち込めて、お蝶は、白い幕のような冷たい滴りの中を蛇の目の中に身をすぼめて歩いていった。　小さな小間物商いの三沢屋は、小僧一人の小商いで、天気の良い日には、お蝶も担ぎ売りにでるような店。亭主の才介は、口喧しい吝嗇な男で、小僧も良く変った。それでも、堅い商いで暮していけるのは幸いとお蝶は思っている。　雨で荷担ぎ仕事も無く、馬喰町に安価な紅問屋が出来たと聞き及んで、様子をみに出かけたのだ。菊川橋を下駄を鳴らして渡っていると、いきなり向うから来た男とぶつかった。　あ
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