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<title>morrowesprit</title>
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<title>我が家</title>
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<![CDATA[ ＊長文注意＊<br><br><br>「帰ったの」<br><br>「うん、まあね」<br><br>あがり框には薩摩芋ころがっている、近所のおばあちゃんに貰ったのだろう。<br><br>二階の自分の部屋の明かりをつける、古びたシャンデリアからは僕の嫌いな蛍光灯と違い、部屋の隅々まで届かない光が灯る。<br><br>古びた木目調の部屋はまるでトイカメラ越しに見ているようだ。<br><br>棚を掻き回す。今日実家に訪れたのは、ある夢をみたから。<br><br>ギター弾きのスナフキンが僕は好きだ。ムーミンと同じがらんどうの目をしている、そのスナフキンが夢に出た。<br>二人でムーミン谷で歌って帰った。<br>帰り際にスナフキンがあるセリフを置いていった。<br><br>目が覚めてもずっと頭に残ってて仕事中ふと閃き、今ここにいる。<br><br>あった、小学生の時、誕生日に貰った<br>「星の王子さま」だ。<br><br>表紙はなく、酷く擦り切れている、何回読んだのだろう。<br>もう一つ大好きな本が出てきた<br>「マザーグースのうた」<br>だ。時折現れる気味の悪い挿し絵を思い出す。<br><br>思えば母親はいつもレコードを流していた、ペット奏者のサムテイラー、洋画のサントラ、聖歌、加山雄三とかだった。<br><br>母親手作りの絵本も出てきた、ストーリーは滅茶苦茶で、弟と馬鹿笑いしたのを思い出す。<br><br>床に座り込む、いろんなものを懐かしみながら眺めた。<br><br>「ピアノ、手放すんよ」<br><br>母親が部屋を覗き込み言った。<br><br>ずっとこの部屋にあったピアノ、チューニングもずれている。でも和音が全部セブンスみたいな音で楽しかった、不協和音という和音のリズムがすごく心地よかった。<br><br>お別れが少し寂しいが仕方ない、優しく撫でる。<br><br>ベルベット生地のピアノカバーをめくるとメモ帳が現れた。<br><br>何か嫌な予感がして慌てて母親を部屋から追い出す。<br><br>「母さん！誰か来たよ！あと、ほら、昔使ってた皮の鞄どこだっけ！母さんっ」<br><br>メモ帳は予想を裏切った、プリクラ帳ではなかった(笑)<br><br>黙って眺めていると、それは急に、勢いよく記憶が蘇ってきた。<br><br>高校三年生、いろんな事が重なって頻繁に学校を休んだ。うまく笑えなかった。<br><br>制服に着替えて弁当を鞄に入れる、歯を磨き玄関を出る。<br>トイレの窓から裏口に出したギターとバッグを持って自転車に乗る。<br><br>バス停には向かわず、お寺で私服に着替えて河川敷に向かう。<br><br>鳴らす。昼はお弁当を食べて少し草むらで寝る、また歌って夕方になると何食わぬ顔で「ただいま」と帰っていた。<br><br>当時僕の好きなリズムは学校ではなくここにあった。高さと低さの中にある空気間と色と音にリズムがあった。学校の不協和音は居心地が悪かった。<br><br>そんなある日、声を掛けられ振り返る、近所の高校の制服姿の女子だった。平日の昼になんて不謹慎なんだろう、ろくな奴じゃない。<br>初めは愛想なく接していたが、音楽好きが同調し、次第に打ち解けていった、さぼってここに来ると彼女もたまに来るようになった。<br><br><br>その頃書いたメモ帳だった、しかし顔も思い出せない。<br><br>こんなメモがあった。<br><br>50年は438000時間。睡眠５時間で50年だと73000時間。<br>50年から睡眠をひくと36万5000時間。<br><br>実に興味深い。今は平均4時間程度しか寝てないから数字は異なるが…<br><br>以前このメモ帳を探すが見つからなかったのを思い出す。パズルの無くした最後の１ピースを見つけたみたいで気持ちがいい。<br><br>僕。消しゴム。リンゴの皮。海。コーラ。<br><br><br>全てに平等に与えられているものが一つある、それは時間。<br><br>36万程度の時間で僕は何ができるのかと思う、少ない気もする。<br><br><br>星の王子さまを開く、やっとスナフキンのセリフを見つける。<br>無くした１ピースがもう一つみつかった。<br><br>なんか古いもんひっくり返していろいろ発見できたから良かったよ、古きを訪ね新しきを知るだね、ありがとうスナフキン(´一`)<br>
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11409066717.html</link>
<pubDate>Tue, 20 Nov 2012 19:56:33 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて final</title>
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<![CDATA[ <br><br>空が明るくなってきた。<br>暗闇と光の交代だ、部屋の電気はいつも点けていないのですぐにわかった。<br>自室の洋間の窓から外の様子を見る、<br>今まで気がつかなかったが、夜明けとはとても静かで冷たさを感じた。<br>吹奏楽の演奏の出だしのようにじわっと始まるこの感覚。目を閉じた。<br>また暗闇に支配された。<br>そう、今日は終わりではなく始まりなんだ。<br>一瞬逆の考えが頭を過ぎったがその言葉は次第に消えていった。『準備しなきゃな』そう思い携帯電話を充電器から外した。<br>今日も夜は明けるんだと思った。<br><br>海辺の風は少し冷たい。着いた頃には夕方だった。僕とかなたとは別に、相棒も連れて来たので余計な時間がかかった、相棒とはミリタリー用のゴムボートである。 <br>全長二メートル、幅七十センチ、座る部分は木の板をはめ込むようになっている。オールはアルミ製、空気を膨らませるのに二時間程かかった。<br>彼女はまるで手伝う気もなく、景色を堪能しながらウォークマンを聴いていた。<br>ようやくボートが完成した時は達成感でいっぱいになった。さすがミリタリー用だけあってかなり丈夫なしっかりした造りだ、専門ショップで買っただけある。<br>勇ましく張った分厚いゴム製の船首部分を撫でる。倒れるように砂浜に尻餅をつき、海を眺めた。 <br>呆れる程の夕焼けが歓迎してくれている。今までこんなに美しい夕日がどこかであっただろうか。<br>右を見るとかなたも同じ夕日を見ていた、どうしようもないくらい美しい夕暮れ。まるでこの世界の最後の夕日みたいに、赤く大きく全てを超越していた。 <br>もう直ぐ夜の帳が落ちる。いや、命の帳が落ちる。<br> どこまでも続く砂浜は赤く、オレンジ色を受け止めていた。<br>「かなた出来たよ、君さ、一度も手伝ってくれなかったね、僕もう疲れたよ」 <br>「もー、男でしょ？こんくらい何だよ、まだこれから漕ぐんだからしっかりしてよ」 <br>漕ぐという言葉を溜め息と混ぜて吐く。<br>僕は防寒着を脱ぎ捨て、長袖シャツ一枚で砂浜に寝転んだ。汗でずぶ濡れの身体に砂が張り付く、波の音が耳をくすぐる。潮の香りが爽やかでたまらない。少し伸びをして空を眺めた。<br>かなたが『なぜ僕はいつも前髪で顔を隠してるのか』と聞いてきた。『僕は顔をあまり人に見られたくない、世の中に僕という存在を誰かに残したくない』と言った。かなたは少し驚いた顔をして『作戦失敗だね、私は見ちゃった』などと言った。 <br><br>太陽が地平線に消えてゆく。<br>真上は最高の夜空だった、親父さんが言っていた事は本当だった。<br>星が僕達を見下ろしていた、横を見ると彼女も寝ころんでいる。気持ちよくてそのまま目を閉じた。閉じたはずなのに夜空は瞼の裏に尚も瞬いていた、<br>がむしゃらなまでに、これでもかと言わんばかりに僕を照らしていた。 <br><br>どの位寝たのだろう、慌てて起き上がり、すぐ横を向くと彼女は先程と同じ場所にいた。 <br>「起きた？」 <br>「うん、身体中が筋肉痛だ、いてて」 <br>「これ見て、ジャン！」<br>酎ハイだった、いつもなら呆れるが今日はまぁいいかと思う。<br>「いいね、乾杯しよう」<br>炭酸が喉に染みる、お酒はほとんど飲んだことないが、最後の祝杯となると妙に美味しく感じる。ふと閃き、鞄の中を探りロス人ノートを取り出す。<br>「なぁかなた、ここに記そう、二人でさ」<br>「あ、それまだあったんだ何だっけ？」<br>「僕達のロス人ノートだよ」<br>「僕達、まぁいいか、いいね、書こう書こう」<br>「これが最後になるんだ、だからさ、<br>二人で合作ってのはどう？」<br>「何それ！かっこいいじゃん」<br>「まず君が書く、そしてそれを参考にしながら僕が編集する。これでいい？」<br>「えー、なゆたが書いて私が編集したい」<br>「何でだよ、君に詩の才能があるのか？」<br>「酷いじゃん、何だよ、じゃあこうしよう」<br>かなたは僕にぴったり寄り添う、膝を少し寝かせて僕と彼女の膝の間にノートを挟んで開いた。<br>「合作でしょ、一緒に考えようよ」<br>「なるほど、それもそうだな」<br>「煙草って単語は絶対入れたいね、なゆたは？」<br>「まぁいろいろ書き出そう、それからだよ」<br>「うん」<br>彼女は笑う、これから全てを終わらせるのに。<br><br>「これでどうかな」<br>「いいんじゃない、じゃあ読んで、ここから後半は私が読む」<br>「よし、じゃあいくよ」<br><br><br>生きることを始めました<br>笑うことを始めました<br><br>それらは当たり前からの贈り物だと思っていました<br>思っていたのです<br><br>苦しみを知りました<br>怒りを知りました<br><br>それらは生きたいからの贈り物だと思っていました<br>思っていたのです<br><br>誰ですか 光を殺したのは<br>誰ですか もしかして僕ですか<br><br>返して下さい  贈り物を返して下さい<br>やっぱり返さないで下さい そんなもの<br><br><br>なゆたはゆっくりと読む、二人で作った最後のメッセージは私の心にゆっくりと入ってくる。<br>不意にあることに気が付いた、私達の関係って何なんだろうか。<br>恋人ではない、友達も少し違う、あとでこいつに聞いてみようと思う。<br>もう直ぐなゆたのパートが終わる、私の番だ。<br><br><br>思い出せますか 冷凍みかんの感動を<br>音を立てて崩れたあの日<br>聞こえたでしょう<br>震えたでしょう<br><br>空を海と混ぜちゃいました<br>斜めに切って隠せば元通り<br><br>少しだけ開いた隙間  <br>お願い 覗かないで<br><br>瞳に映る煙草の種火<br>真っ赤なんです 真っ赤なの<br><br>明日から聞こえる声は<br>夕日に焼かれ 消えてゆく<br><br>歌いにいきます歌えるとこへ <br>このままがいいの 狂いたくないの<br><br><br>かなたは大きな声で読む、とても気持ちがこもっていた、途中言葉に詰まったが、僕は気が付かない振りをした。<br>不意に思いつく、かなたは世の中で一番価値があるものは何と答えるだろう。<br>「良かったよ、気持ちがこもってたよ」<br>「なゆたもだよ、これどうするの？」<br>「ここに置いていくよ。かなた、世の中で金で買えない価値あるものって何かな？」<br>「うーん、そうだね、それよりさ、私達ってどんな関係？」<br>「は？今こっちが質問してんだけど」<br>「まぁいいじゃん、ねぇ何？」<br>「ロス人だよ」<br>「あー、そう」<br>「始祖だぞ、誇りに思えよ」<br>「しそ？なんで葉っぱなの？」<br>僕は大きくため息を吐く、隣ではまだ『なんで？なんで？』とかなたが喚く、お酒は弱いみたいだ。<br>「なゆた、じゃあ同じじゃん、答えはロス人だよ」<br>つまりシンクロ、同じ境遇を完全に分かり合う事こそ価値ある事というのだろうか。僕の唇の端がつり上がる、彼女は素晴らしい感性だと関心する。<br>「なるほど、いい考えだね。僕も同じだよ、君が死ぬって言ったとき僕は迷ったかい？」<br>なゆたは迷わなかった、言うまでは正直不安だった、でもなゆたはきっと断らないと信じていた、信じて良かったと今さらながら思う。<br>私達はこのために出逢ったのだろうか、生まれた時からずっとここを目指してきたのだろうか。<br>「感謝してるよ」<br>僕は彼女に微笑みかける。<br>「なゆた、行こうか、私漕ぐよ」 <br>「あぁ、行こう」 <br>向かい合って座るボート、オールが小さな悲鳴を上げる。<br>僕達は今日旅立つ。<br>どの位進んだだろうか。<br>会話はなく、ゆっくりとひたすら彼女は漕ぎ続けた。<br>とても静かで心地よい揺れがほんの少し眠気を誘うが我慢する。<br>今ここにあるのは夜空と黒い海、そして旅立つ二人。<br>月も漁船もなく、周りに灯りがないからか、まるで異世界にいる気分だった。<br>陸がどの方角でどこから来たのか完全に見失った。目が次第に慣れてからは程よい星空の薄明かりで、数メートルまでは見渡せるようになった。<br>風が穏やかで波が低く、滑らかな水面は鏡のように星を水面に映し出した。<br>ほんの数秒間風がピタリと止み、地平線が消えて上か下かわからなくなる、<br>宇宙空間にでもいるかのような錯覚に襲われる。<br>だがまたゆっくりと風が吹き始め、水面の星がぼやけ、こっちが下だと知る。<br>かなたも同じ宇宙を見ただろうか。<br>何もかも全て消し去って、ずっと先までこのままでいてほしい。<br>などと変な気分にさせられた。そのくらい神秘的だった。 <br><br>「あー疲れた、なゆた、かわってよ」 <br>「あぁ、少し休もうか」 <br>「うん」 <br>優しい波が船底に当たる。風も少し冷たい。<br>かなたは地平線を見ていた、辺りは薄暗く、はっきりしないがそう見えた。 <br><br>「ねぇなゆた、なんだか世界に私達しかいないみたいだね」 <br>「そうだな」 <br>「なゆた」 <br>「ん？なに？」 <br><br>「もしさ、もし、 もうすぐ全てが消えるとしたらさ、最後に何見たい？」<br><br>「この世の終わりってこと？」 <br>「そう」 <br>「そうだな、誰も見ることのできない明日かな」 <br>「それってまだ生きたいって事？」 <br>「違うさ、なぁかなた、永久って何だか知ってるか？」 <br>とっさにケンゴの事を思い浮かべた。<br>もう二度と逢えない、たとえ生きてても結ばれない歯痒い運命。 <br>「わかんないよ」 <br>「僕が思うにはさ、叶わない事こそ永久なんだと思う」 <br>『ほんとだ』とかなたは思う。 <br>「なゆたは何か叶わない事があったの？」 <br>「あるさ、まぁ今となればどうだっていいけどさ。さっき言ったやつ、夜明けを迎えられないって事だよ」 <br><br><br>二人は今、永久のしじまにいる。<br> <br><br>「なゆた、そろそろ死のうか」 <br>「そんな暗い表現よそうよ、そうだな、出発にしよう」 <br>「で、どんな方法にしたの？痛くない？」 <br>「うん、まずこれをボートに突き刺す、注射器の針よりずっと太いニードルなんだ。ここを見てごらん？暗いから見えないか。まぁ返しがついてるから一旦刺すと抜けない、そして針から繋がってるこれは気圧調整弁、針を通って出る空気の量を調節出来る、これを三時間でボートの空気が全て抜けるように計算してダイヤルを合わせてある。で、僕らはボートと縄で身体を繋ぐ。最後にこれを飲む」 <br>「何、それ？」 <br>「睡眠薬さ、と言っても仮死状態になるくらい強力だけどね、人より何倍も体が大きい動物用なんだ、医療目的で動物園とかで餌に混ぜて使うみたいだよ」 <br>「凄い、どうやって手に入れたの？！」<br>「ネットだよ、他にも爆弾なんかも手に入るぞ」 <br>「やめてよ、そうか、じゃあ痛みなく行けるんだね」 <br>「そうだよ、僕らが昏睡状態で意識がない頃、このボートと共に深い海底までGO!ってわけだ、いや別の世界か、<br>まるでこのボートはノアの箱舟だな、<br>選ばれた者のみ乗れる神秘の舟だ、かなた、もういつでもOKだよ」 <br>「生きていたくても生きてゆけない、<br>悪夢だったらいいと何度も願った、でも現実、夢なんかじゃない」 <br>まるで心の奥から絞り出したような今までとは違う声のトーンで彼女は話す。彼女は続けた。 <br>「なんで私達こうなったの？なんで私達なの？」 <br>「どうかな、まだこの世界には僕達<br>"ロス人"がいるかもしれない、同じ苦しみを耐えてるのかもしれない、何でこうなったか、うーんそうだな」<br>暫く考えた、この期に及んで何を言うんだろう。<br>旅立ちを決めた日、かなたから全てを聞いた、僕も全てを話した。<br>突然泣き出すかなたを暫く放っておいた、泣き止んだ彼女に『どうしたの？』と聞くと顔を上げこんな事を言った。<br>『この世界に、この時代に、此処に産まれなかったら、こんな終わりが待ってたんじゃなかったのかもしれない。<br>でもさ、そしたらなゆたに出会ってなかったかもしれない。だからさ、呪えないの、心底この世界を恨んで死にたい、だけどあの日、非常階段でなゆたに出会ってから二人なら何とかなる気がした、でも、もう無理だよ、ただ悲しい、それだけだよ』そう言ってまた下を向いた。 <br>あっそうか、かなたの問いの答えが見つかった。 <br>「息苦しいんだ、豊か過ぎて雑過ぎて明る過ぎて汚らしい。こんな世界に平然と生きてゆける奴らのほうが狂ってる、ここは僕達に適してないんだ、だから行くんだ、此処を捨ててその向こうへ」 <br>「死んだら私達どこに行くの？」 <br>「わかんないよ、そんなのどうだっていいさ」 <br>沈黙が辺りを包む、また風が止んだ。<br>ここが最果てだと確信した。<br>僕はかなたに近づいて肩に手をそっと置いて顔を覗き込む。<br>「かなた、僕達は生きるんだ、わかるかい？ここから離れるだけだ。君は生きたくないんじゃない、そうだろ？」<br>俯いていたかなたは上目遣いで僕を見る。<br>「でもさ、そこが今より苦しいとこだったらどうするの？」 <br>「怖いかい？」 <br>「うん 不安だよ」 <br>「かなた、でも一人じゃない」 <br>彼女は真っ直ぐ僕を見て微笑んだ、正しくは微笑んで見えた。<br>僕は高く左手を挙げた、かなたは少し戸惑ってすぐに目を丸くし、手の平を僕の手の平に思いっきりタッチした。<br>暗闇のしじまに響くハイタッチ。<br>色のない褐色の景色、まるで僕達が神様でこれから世界を創造するような気分にさせられた。 <br><br>「行こうよ、さよならしよう」 <br>「だな、これ耳にはめて」 <br>「なんて曲？」 <br>「HIDEのGOODBYEさ。僕の大好きな歌なんだ、今にピッタリだよ」 <br>「あぁ、いいかも、この感じ好き」 <br><br>なゆたにもたれ掛かるように肩を寄せて睡眠薬を二人で飲み干した、何の味もしなかった。<br>睡眠薬の瓶を海に投げ捨て、二人で目を閉じた。<br><br>僕は細く頼りないかなたの右手をそっと包んだ。<br><br><br>「な、、ゆた、？」 <br><br>「、、うん」 <br><br>「何だか、そろそろ意識がやばいかも、、、なゆた、、向こうではさ、今度はなゆたが私を探してね」 <br><br><br>「うん、そこを動くなよ、ずっとだぞ」 <br><br><br><br><br>「嬉しい、恐くなんかない」 <br><br><br><br><br><br><br>「恐くなんか ないさ」 <br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br><br>完
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<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 22:42:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 十三</title>
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<![CDATA[ <br>「パンだけで足りるの？」<br>「うん、大丈夫だよ、なゆたはたくさん食べるんだね」<br>僕の顔を見上げ、少し嬉しそうな表情を見せた、その嬉しそうな部分は、普段の表情と比べほんの微かな変化でしかなく、普通に見たら気がつかない程度だった。<br>僕は食堂の中心に背を向け、同じ様に窓を向いてかなたの隣に座った、かなたは窓の外を見ているのか、窓に写る自分を見ているのかわからなかった。<br>「初めてだね、なゆたが学校であたしに話しかけてくるなんて」<br>先程微かに嬉しそうな表情を浮かべたのは、僕が声を掛けたからだったと<br>このとき気付く。<br>「あー、そうだっけな」<br>まわりの声や物どうしがぶつかる音が、ノイズとして耳に入ってくる。<br>窓に写る背後の様子をまるで映画鑑賞のように眺めながら、口に食べ物を運んだ、死ぬことを決めてから日常が遠く離れた別物に見えて、まるで地に足が着いていない感覚でいた、かなたも同じ気持ちだろうか。<br>かなたはゆっくりと顔を僕に向ける、<br>僕も顔だけ動かし彼女を見る、数秒程見つめ合ったのち、かなたはそのまま後ろまで振り返り食堂全体を覗く、僕も合わせて後ろを覗いた。<br>「なんかさ、変な感覚だよね、ここが今までいた場所とは思えないわ、あたしだけかな」<br>かなたの顔を見る。お互い隣り合う方から後ろを向いた為、顔がすぐそばにあり少し驚く、こんなに近くでかなたの顔を見るのは初めてだった。<br>しみひとつないつるりとした絹漉し豆腐のような肌をしていた。そのまま胸ポケットまで視線を落とすと、以前着けていた見たこともない変なキャラクターのストラップをまだ付けていた、<br>しかも色が変わっていた。かなたが見ている方向に目線を戻し、目を細める。<br>「何に見える？」<br>「え？」<br>「人に見えるかい？」<br>「ここの生徒達のこと？そりゃあ、見えるけど」<br>「僕は人には見えない、みんな人の形をした獣だ、ここは学校なんかじゃない」<br>「じゃあここはどこなの？」<br>「ZOOだよ」<br>かなたは少し間を置いて二回頷いた。暫く僕達はZOOを眺めていた。<br>「みんな人に化けてるって言うの？それとも、なゆただけそう見えるのかな」<br>「僕だけかもしれない、だって君は見えないんだろう？」<br>「そうね、でもなゆたの言ってること、わかるよ、なんとなく」<br>「ここは社会の縮図だ、社会にでて僕達が大人になっても居心地はここと変わらない、獣と共存なんてできないじゃないか」<br>かなたは思う、なゆたは学校の居心地が悪んだ、そして私は学校の外での居心地が悪い。社会の縮図、ここも外の社会も同じ、確かに間違っていないと思った。<br>「そうだ、これ買ったんだ、はい、一個あげるよ」<br>ロケット鉛筆だった、とっくに消滅したもんだと思っていた。<br>「ロケット鉛筆じゃん」<br>「でしょ、懐かしくなて買っちゃた、<br>こっちが私ね」<br>「ちょっと待って、なんで僕がピンクで君が青なんだよ？」<br>「いいじゃん、あげるんだから文句なしだよ！」<br>「ちぇ」<br>しぶしぶピンクを受け取った。<br>芯がちびれば抜いて上から押し込む、<br>するとまた鋭い芯が出てくる。<br>この構造がなんともいえない魅力を持っており、子供の心を離さない。<br>暫く手に取って弄んでいた。<br>「残酷な文具だね、当時は気がつかなかったけど」<br>「残酷？どこが？」<br>「先がちびて丸くなれば抜いてまた鋭い芯を出す。使うだけ使って戦力を失った兵士を見捨て、新しい兵士を最前線へおくる、どう？これは冷酷極まりない戦闘マシンさ」<br>かなたはお腹を抱え白い歯を見せた。<br>何がそこまで可笑しいか理解できないが、いつまでも笑っているので少し虫の居所が悪くなる。<br>「なにがそんなに可笑しいんだよ」<br>ようやく長い笑いがおさまり、テーブルに頬を置いてこっちを見る。驚いたことに涙まで流していた。するとまた笑い出す。<br>「なんだよ、いつまで笑ってるんだよ」<br>「だって、可笑しいよ、残酷？そしてなんなのマシンって？もう無理」<br>顔を隠しテーブルを叩いて笑う。<br>彼女の食べたパンには笑い茸でも入ってたんだと諦める。<br>「じゃあ聞くけど、ちびた芯はもう使い物にならないじゃないか」<br>「そんなことないよ、ちびたら字を書く意外で使えばいいじゃない」<br>「何に使うんだよ？」<br>「パンダ」<br>「パンダ？！」<br>「黒の部分塗りつぶせるじゃん」<br>返す言葉が浮かばず、窓の外を眺めていた。<br>いつの間にか左手でロケット鉛筆でペン回ししていた。<br>「なゆたさ、なんでいつもそんなに難しいの？もっと楽にできないの？」<br>「楽か」<br>少し考えてはみたが難しい問題だった、何も考えずに過ごせというのだろうか。次第に何を考えているのかわからなくなり行き詰まる。<br>「じゃあさ、鉛筆は？」<br>「鉛筆は最後まで同じ芯で主と一緒に時間を刻むんだ、これこそ文具の極みだ」<br>「あ、あ、主、、」<br>かなたは足をばたつかせ、声を押し殺すように悶えている。蹴られてはたまらないと思い、少し彼女から椅子を離す。<br>今日のかなたは無邪気でとても愛くるしく見える。<br>彼女の口から『死のう』なんて言葉が出てきたのが夢にも思えてくる。<br>ようやく落ち着いて頬をテーブルに貼り付けたまま僕を眼で捉え、はにかむ。<br>最果てを見つけ出した彼女の顔は美しかった。<br><br>下校時間になり階段を降りていると美術の崎山先生に呼ばれた。四十代とは思えない幼い顔立ちをした小柄でシルエットの細い可愛い先生だ。男子生徒の中でもイケてる先生と評判である。<br>僕は美術や音楽だけ十段階の成績で八以下を貰ったことはない、独特な描写を気に入られて親しくしてくる、トイレの屋根裏のトラップのときも助けてくれたし、他の生徒が修学旅行中もよく話をした。<br>先生は僕の人嫌いな性格を知っている、ある程度の期間を空けてこうしてコンタクトをとってくるのだ。 <br>先生とは部屋で談話しながら僕にいつも紅茶をご馳走してくれる、崎山先生は少し変わった性格だが嫌いじゃない、でも恐らく僕に気がある節がある、明らかに僕と話す時だけ顔が乙女になるからだ。 <br>先生の部屋は、絵の具や油の匂いでいっぱいだ。奥の窓際に何か作成中の油絵が見えた、天馬に乗った男と羽根の折れた女の天使、真っ暗な夜空から更に暗い闇へ向かっている感じの絵をしていた。<br>どことなく僕に顔が似ている気がしてならない。 <br>先生は僕がその絵に釘付けになっているのに気が付き、慌てて黒い布で隠す。 <br>「なゆ君、紅茶でいいかな？」 <br>「うん」 <br>「相変わらず美味しいね、先生の紅茶が一番だ」 <br>「ふふ、なゆ君相変わらずかっこいいね、うれしい」 <br>「なぁ先生、生きるって大変なんだね」 <br>「まぁ、いいセンスよ、感性が豊かな証拠だわ」 <br>「周りの奴らが鬱陶しいよ、僕をクソ扱いする奴らが。僕は精一杯生きてるのに邪魔するんだ、ただ生きていたいだけなのに」 <br>「あら可笑しい」 <br>今日は可笑しいとか言われてばっかだと思った。<br>「何が可笑しいの？」 <br>「だってさなゆ君、何も障害なく生きる程難しい事はないもの、そしてそんな暇な人生なんか先生だったら死んじゃいたいわ」 <br>一瞬ドキッとした、先生は続けた。 <br>「それに何？周りの事なんて気にしないの、なゆ君の性格先生は好きだけどな、いい？日本のある会社の広告で人間の子と人間の妻を持つ犬の父親って設定があるの、そしてその会社の社長はある国の人なの、何か意図があるのかは解らないけど、その国では犬は馬鹿にする対象の動物なの、そうね、日本で例えると豚かしら、豚の父親だなんてなんだか嫌よね。なゆ君、でもそこなのよ、『日本人を馬鹿にしてる』<br>って思えば負けなのよ、相手の国民性だし只のカルチャーショックじゃない、図中にはまるなんて愚かな事よ、<br>『国の違いは面白いな』で済ませることができればどんなに楽かしら。なゆ君、あなたはそのままで良いのよ、くだらない戯れ言なんて聞かないの、いい？」 <br>「すげーな先生、大人だ」 <br>「嬉しいな、先生誉められちゃった！」 <br>「じゃあ先生、僕帰るよ、ありがとう」 <br>「え？」 <br>「え？何？」 <br>「いや、ありがとうなんて、初めてなゆ君から聞いたから」 <br>「あ、そうだっけ、恥ずかしいや、<br>じゃあまたね、先生」 <br>僕は準備室の扉を開けて出ようとする。<br>「嘘、つかないでね」 <br>「嘘？」 <br>「またねって、嘘つかないでね。必ずまた先生とここで話そう、この扉はなゆ君のためにいつも開けてるから<br>ね」 <br>「あぁ」 <br>そのまま先生の部屋を出た。 <br>『先生ごめん、僕嘘ついちゃった、もう、二度と先生の紅茶飲めないや』心の中で呟いた。<br><br>とてもとても寂しい背中をしていた、<br>今すぐ消えてしまいそうな、そんな気がしてならない。<br>でもまた明日会える、そう信じて製作中の絵に再び取りかかる。<br>こうやってなゆ君を描くようになって何作目だろう、描いても描いてもまだまだ描きたくてしかたがない。<br>天馬に乗ったなゆた王子が、傷を負った天使の私を迎えに来てくれる。想像するだけで最高に幸せな気分になる。<br>これが現実に起こらないだろうかといろいろと考える、するとなゆ君に私服の私をまだ見せていないと気が付く、<br>是非見せたい、スタイルには自信があった、どんな服が好みなのか今度聞こうと思う。<br>ある事を思い出して部屋の隅へ駆け寄る、ビデオカメラだった、カメラの電源を入れてなゆ君がさっきここへ入って来たときから録画したビデオを再生する。写っていた、あぁ、美しい顔、<br>この手で抱き締めてやりたい、私が彼と同じ生徒なら命をかけてでも彼を手に入れるだろう。<br>授業で生徒が課題のデッサンをしている時もいつもなゆ君を見ていた。密かに学期末の授業の中で自分自身を皆にデッサンさせようと企てている、他の生徒が描いた私なんてまるで興味なかった、あのなゆ君が、私をじっと見つめ、その私だけ見つめる目を私は見つめ返す。<br>想像するだけでもう死んでもいいくらいだ。しかし邪な考えが浮かぶ、他の課題をわざと不合格にして補習授業として私をデッサンさせるという考えで頭が満たされる。<br>放課後、たった二人きりで見つめ合う。<br>あぁ、もう胸が苦しくてたまらない。<br>そしてもう一つ、わざと不合格を告げた時、なゆ君はどんな顔をするのだろう、悔しがる表情か、怒り溢れる表情か、まさか私の目の前で涙を見せるかもしれない。<br>全く天馬の絵が進まない、気が付くとビデオカメラの液晶に涎が垂れていた、慌てて拭き取る。<br>「先生、版画の材料用意できました」<br>慌ててビデオカメラを机にしまう。<br>「あら、そう、じゃあ今行くわ」<br>「あと後輩が一人だけ部費を忘れたみたいで、取りに帰らせましょうか？」<br>「あら、いいのよ、明日にしましょう」<br>美術部員の生徒が天馬の絵を眺める。<br>「あらやだ、まだ製作中なのよ！おほほほ」<br>「凄い綺麗な絵ですね、さすが先生です、でも、この男の方どこかで」<br>「ほらほら、始めるわよ、皆席につかせて頂戴！」<br>天馬の絵に布を被せる。<br>『嘘つかないでね』<br>沈黙が広がる、机の中から声がした。<br>「先生、今、なんか聞こえましたよね？」<br>生徒の顔が青ざめる。<br>「え、そう？私が喋ったのよ」<br>先生の顔が朱色に染まる。<br>「でも、机の辺りから」<br>「いいから！早く教室に戻って！」<br>「は、はい」<br>首を傾げながら生徒は戻る、準備室の扉が閉まりようやく安堵した。<br>ビデオカメラを机から出す、丁度準備室から出る時になゆ君が振り向いたシーンで停止していた、前髪で隠されはっきりとは確認できないがとても澄んだ瞳をしていた。<br>なゆ君、私の希望、私のエネルギーの源、お願いだからきっと、きっとまた私を見てね。<br>「なゆ君、大好きだよ」<br>ビデオカメラの液晶にキスをして部活の準備に取りかかった。
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11234283671.html</link>
<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 22:22:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 十二</title>
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<![CDATA[ <br>五時間目の授業はなんだかぎこちない、クラスの中に違和感が漂っている。<br>一連の状況を思い出してか、どこからか女子がすすり泣く声までする。先生もこの異様な空気を感じてはいるが、<br>淡々と授業は進んでゆく。<br>今日はチョークが黒板を叩く音がやけに大きく聞こえた。<br>午後の日差しがじわりと汗を誘う、きりおも病室で、彼女は家で同じ日差しを感じてるのだろうか。<br>クラスのみんなを見渡した、この中のどれ位が今を今と意識して生きてるのだろうか。 <br><br>今日はすぐ寝よう、しゅりのお金の事は明日考えよう、そう思いながら自転車を家に向かわせた、丁度あのお寺を通り過ぎた時だった。 <br>「待ってよ！なゆた！」 <br>急ブレーキして声のする方を見る、彼女だ。私服だった、わざわざ下校時間までここで待っててくれたのだろう。<br>「あ、待っててくれたの？休んでるのに大丈夫なの？」 <br>「優しいじゃん、なゆた、なんか変だよ」 <br>僕の変化に敏感に察知する彼女に感心する、少し前に比べると明らかに僕の中は荒れ果て、狂った。<br>しかしなぜか彼女だけには今までと同じように接することができる、こんな崩壊状態の心でも優しい言葉が出る自分に驚いた。<br>彼女を見ると目に生気が感じられない、いつもは漆器のように艶やかに輝く黒髪も、今日はぼさぼさになっていた。<br>「いや別に、まあいいじゃん、向こう行って座ろうよ」 <br> もうすぐ桜で埋め尽くされる階段に二人並んで座った。<br>「はい、コーラ」 <br>「買っててくれたんだ、サンキュー」<br>彼女は薄く微笑む。 <br>「ていうかさ、なんで僕の名前知ってるの？」 <br>「あぁ、だってあの女の人がそう呼んでたから」 <br>「あそっか、んーじゃあ君はなんて名前なの？」 <br>「やっと聞いてくれた」 <br>彼女の表情はみるみる明るくなり始めた、だが瞳の奥は暗い。<br>「なんだよ、聞いて欲しかったの？」 <br>「別にそんなんじゃないけど」<br>「じゃあ何だよ？」<br>「知り合ってどれくらい経ってると思う？今初めて聞いたんだよ？」<br>怒ってるのだろうか、少し言い過ぎたと反省する。<br>「そうそう、君も聞いてこなかったじゃん」<br>私はそれもそうだったと少しだけ反省する。<br>「かなた、だよ」 <br>「へー、で名字は？」 <br>「名字なんていいよ、外国はファーストネームでは呼び合わないのに」 <br>「極端だな、じゃあいいよ」 <br>「なゆたって名前さ、なんか意味があるの？」 <br>「うん、漢字で那由多、未知数とか無限とかそんな感じだよ」 <br>「そうか、わたしは叶起、未知数みたいな意味みたい、そしてその向こう側みたいな"彼方"って意味も込められてるみたい、なんか似てるね」 <br>「確かに、でも願わくば子供にそんな期待はやめて頂きたいもんだな」 <br>冷たい風は日差しと重なり合い僕達に春を匂わせる。<br>とても心地よくて暫し無言の時間を共有した。寺に続く道の入り口にある鳥居を眺める、空の雲は形を変え始めていた。 <br>「ねぇなゆた」 <br>「何？」 <br>「自殺しない？」 <br>「 いいよ、自殺するか」 <br>「一緒だから心中だね」 <br>「そうだな、でも、まあ自殺にしよう、そのほうがどちらにも依存がない」 <br>「どうやって死ぬの？」<br>「今すぐには決めれないさ、でも場所は決めたよ」<br>「へー早いね」<br>探るような目でかなたは僕を覗き込む。<br>「海にしよう」<br>「海！まじで？！行きたい！」<br>そう、親父さんと見た海だった。<br>「決定だな」<br>この時何かに解放されたような不思議な感覚を覚える、そして彼女との距離が一瞬で縮まった気がした。<br><br>空は動く、勝手に？いや、選んで動く？ <br>風はまずどこから来るのか、縮まらない太陽と月の追っかけっこ、排気ガスを撒き散らす車、子をあやす親、地面を這うミミズ。 <br>なんだ、そうだったのか、僕が消えても何も変わらない、また必ず太陽は昇るのだ。 <br>青すぎる空、どうして空は青色なのだろう。それは多分、希望なんてないって青ざめてるからだとわかった。<br>全てを見渡せる空がそう言ってるのなら諦めがついた。<br>かなたを見ると空を眺め微笑んでいた、何かに解放されたような安堵の微笑みを浮かべていた、でも目の奥の奥には黒い絶望が見えた。<br>そうだ、どっかで見たことあるかなたの目、思い出した、鏡で見た自分の目そのものだった。 　　　　 <br>四つのがらんどうの目は、遥か彼方、<br>未来永劫の那由多をじっと見つめていた。 <br><br>それからというもの毎日死ぬ手段を模索した。<br>死ぬとは決めたが痛いのは嫌である。<br>かなたも同じことを言っていた。死を決めたときから全てどうでもよくなっていった。<br>的屋のバイトを途中で投げ出した日、<br>すぐしゅりから電話が鳴った。親の口座から幾らか引き出して用意していたお金をしゅりに手渡した。<br>残金も必ず返済すると誓い、適当に書いた計画書を手渡し、支払いを先送りしてもらった。<br>親父さんからも電話がなるが怒られなかった、今はもう店番をしているらしかった、『娘が迷惑かけたな、すまん』と言っていた、僕は何も言うことができなかった。<br>行方不明になった母親はすぐに保護されたが、すぐに家に戻るのは難しいと医者に言われた。僕は学校を休んで様子をうかがいに行った、まだ深い眠りから覚めていない早朝に母親のもとへ。<br>病室を覗くと半袖姿の母親が椅子に座り窓を開けて外を見ていた。身体にわけのわからない傷や怪我の跡がいくつもあった、僕は下唇を噛み締め震えながら母親の肩を軽く撫でる、酷く痩せていた。僕は何も言わずそのまま静かに病室を去った。<br>廊下で誰かに後ろから思いっきり体当たりされる、僕は衝撃で飛ばされ、床に倒れこんだ、後ろを見ると変わり果てた妹の香織が立っていた、髪は乱れ目の下には隅を作っていた。<br>『バカ！バカ！バカ！』香織はそのまま床に崩れる、僕は起こそうとするが香織は爪を立て僕を突き放す、それでも香織を抱きしめた、爪が食い込む僕の腕から血が滴る、次第に香織の力が緩み、僕の背中に腕を回してしがみついた。香織は言う、僕を探して母さんは毎日夜道を歩き周った、毎日お兄ちゃんのご飯も用意していた、外に出る元気が無くなってからはお兄ちゃんの部屋で寝ていた、私の顔なんてお母さんはちっとも見てくれなかったと。<br>僕は黙って聞いた、『もうどこにも行かないで』背の低い香織は僕のシャツをぎゅっと掴み下から覗く、キラキラと輝く香織の瞳を直視できなかった。<br>『ごめん』とだけ言ってその場を去る、香織は泣かずに僕の背中を見ていた、廊下の突き当たりを曲がった瞬間、香織は泣き叫んだ、僕は全速力で走って病院を出た。<br><br>毎日冷たい風が吹く学校も、それ以前の僕への風当たりが思い出せなくなり当たり前になっていた。だけどみんなといるのに一人ぼっちなのが滑稽に思えた。<br>時々思う事がある、いったい何時からこうなったんだろうと。でももう死ぬんだ、全てを受け入れたとき、なんだか気が楽になっていた。<br>螺旋階段を降りて食券機に向かう。<br>僕より先に五人程並んで順番を待っていたので列の最後に着く、先に並んでいた生徒は今さっきまで楽しそうに談話していたが、そのうちの一人が僕の存在に気付くと口を噤み、身体の向きを前方に向ける。それが伝染し辺りが静まり返る。窓の外の雨音だけが遠いテレビの砂嵐の音のように聞こえる。<br>どの生徒も恐れる厳しい先生であれば、その場にいるでだけで生徒を黙らせることは容易だろう、特に目立たない不良でもない僕なんかに警戒するこいつらが不憫でならない。<br>食券を買う順番がようやく僕にまわってきたかと思うと、ラーメンが寸前で売り切れてしまう。チッ、と舌打ちをして、カレーと天ぷらうどんの食券を買う。食堂に入ると大勢の生徒が賑やかに食事をしていた、さすがにここまでの人数を黙らせることはできなかった。そのような理由もあり、僕はここで昼食をとっている。<br>割烹着を着たおばちゃんに食券を差し出し、天ぷらうどんとカレーを受け取る。踵をかえし、食堂を見渡して一番奥のかなたのいる席へ向かう。
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11234259096.html</link>
<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 21:57:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 十一</title>
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<![CDATA[ <br>確かに聞こえた。<br>たった今、冷たく荒い大きな獣のような手が、私の中の何かをくしゃっと握り潰した、汚らわしい手の元には私がいた、鏡の中の私、骸骨は私だった。<br>私の何かを破壊したのは私だったんだ。<br>「あーあ、馬鹿だ、今までの生活全部そんな事考えて私と接してたんだ」<br>「かなた、そんなことないよ！お前はお父さんの大切な子だよ」<br>『くしゃ』<br>また音が聞こえる。<br>「馬鹿じゃん！なんだ、そーだったんだ！私間違っちゃった！産まれて来ちゃった！ごめんね！ごめんなさい」 <br>「やめろ！かなた！！頼む！もう、頼むからやめてくれ」 <br>「私を殺してよ、ねぇ殺してよ」 <br>父親は膝から床に崩れ落ちた。身体が小刻みに震え、両手で頭を抱えている。 <br>私は父親を部屋から追い出し、ベットに横になった。<br>薄暗く閉ざされた部屋は静かすぎて、<br>耳鳴りのような音が響く。<br>ようやく気持ちが少し落ち着き、カーテンを開け、月明かりを部屋へ誘う。<br>父親は最もらしいことを言ったが、結局金で息子を売った。 <br>なんかわかった。<br>全て悟った気がした。<br>みんな自分が可愛い、辛いことは誤魔化して平気なふりして平然を装って生きてる。世の中は金と欲望を燃料に動き続けてる、そんな仕組みが今やっと解った気がした。 <br>疲れた　終わらせろ <br>ずっと鳴り止まない頭に響く声、私の声なのだろうか。<br><br>彼女は二日も学校を休んでいる。<br>いつも食堂でわざと僕の近くの席に座り、こっちを見ながらニヤニヤしているがどうやら今日も休みみたいだ。<br>しゅりに出くわしたのがショックだったのだろうか。 <br>昼休みにあいつらに声かけなきゃならない、あの日一緒にいたバンドのメンバーだから当然払って貰わなきゃならない。僕一人二百万だなんてフェアじゃない、過酷なバイトなんてもうたくさんだ。<br>しかしあの日以来メンバーと会話していない、気は進まないが、そうも言ってられない。<br>食器を返却口に返し、メンバーが昼休みにいつも談話している教室に向かう。そういえばあの日以来美しいアートはお目にかかっていない、少し残念に思うが、疑われるのはごめんだ、だが今更言うことでもなかった。<br>瞬く間に広まった犯人疑惑は、今もこうして僕に向けられ、楽しそうに話す生徒達の側を通ると、ピタリと会話が止み、僕が通り過ぎるまで視線を針のように刺してくる。それから小声で僕を指差す者や奇声をあげる者もいる、<br>お陰で雑踏の全てが僕に向けての呪詛に聞こえ、生徒も先生も敵に見えた。<br>そのせいで僕は誰もかも睨む癖がついてしまい、そんな僕をまた周りが警戒する、孤独の毎日がいつまでも続いていく。<br>太陽の光がよく当たる教室の窓際の後ろの席に、数人が机に座ったり椅子に腰掛けたりしてお喋りしていた、僕はそこへ近づいた。 <br>「やあ、久しぶり、えーと、今日は暑いね」 <br>四人が急に会話をやめ一斉に僕を見た。 <br>「なんか用か？」 <br>「うん、まあ」 <br>「で、何？」 <br>「実はさ、例のLIVEの打ち上げ事件あったじゃん、でさ、あの時建て替えた金をみんなで割り勘しようって話なんだよ」 <br>少しの沈黙の後、お互い顔を合わせる、少し前まで僕もこの中に混ざって楽しそうに会話していたのに、今はまるで赤の他人に声を掛けられたかのような表情で僕を観察している、いつからこうなったのだろう。しんちゃんが口を開いた。<br>「はぁ？お前の女が払ってくれたんじゃないの？」 <br>「いや、まあ、そうなんだけど払ったっていうか貸しって感じだったんだよ」 <br>「訳わかんない事言うなよ、つまりあの女と別れたんだろ？それで今になって金返せって言って来たんだろ？」 <br>「だから、違うって！」 <br>「は？逆ギレ？知らねーよそんな金！お前が払えよ、今んなっていちいち俺ら頼んなよ！」 <br>「やめろよ、しんちゃん！」 <br>「なゆた、お前さ、今頃なんだよ、だいたいさ、あの騒ぎもお前のせいなんだぞ、きりおは訳わからず騒いで迷惑かけたんじゃない、しかも店を滅茶苦茶にしたのはあのヤクザもんじゃないのか？金ならあいつらに取り立てるのが筋だろ、違うか？」 <br>ケージはいつも冷静だ、上から物を言う。しかし納得出来ない、きりおが居酒屋で騒ぎを起こしたのがなぜ僕のせいなのか不思議に思う、だがとりあえずしんちゃんは穏やかではないので話を逸らそうと、隣にいる政を見る。<br>いつも無口な政は、今も一点を見つめたまま何も喋らない。<br>政の右手の変化に気がついた、怪我でもしたのか包帯がグルグル巻いてある。 <br>「なぁ、それより政さぁ、どうしたの？右手？」 <br>その瞬間あの大人しい政が阿修羅の様な表情で僕を睨んだ、と思ったのが先か、しんちゃんが立ち上がって僕を突き飛ばした、そのまま僕は床に倒れ込んだ、<br>上半身だけ起こし、周りを見渡すとクラスのみんなが注目していた。 <br>「おい！！お前知らないのか？！お前なんて奴だよ！！ただのクソじゃないか！！」 <br>「やめろよ！しんちゃん！」 <br>「いいか、今きりおは病院にいるんだよ！あの日しゃぶしゃぶの鍋にあいつらに無理矢理顔ぶち込まれて皮膚と右目がいかれちまったんだよ！あいつは将来俳優になる夢があったんだ、それで、それで」 <br>急にしんちゃんは言葉につまり床に崩れ落ちた、そこへケージが肩を掴んで背中をさすってやる、そのまま僕を真っ直ぐ見た。 <br>「なゆた、知ってるだろ、政ときりおはいつもセットみたいに仲良しだったじゃん。政はカメラが趣味でいつもみんなやいろんなシュチュエーションをカメラに納めてた、大事な思い出を魔法の力で収めるカメラをいつも大事に持ってる、知ってるよな？」 <br>そうだ、政はカメラを一時も離さない、死ぬ気でバイトして買った数十万円もする大事なカメラだ、学校にもいつも持ってくる。そうだ、そういえば今日はないみたいだ。<br>続けてケージが話始めた。 <br>「仲間意識の強いきりおは、そんな政が撮る写真を大事そうに楽しそうにいつも眺めてた、少し前にようやく包帯が取れる頃に政は、脅かしてやろうときりおの見舞いに行ったんだ、最高の笑顔を納めにな。だけど病室にはまだ包帯がぐるぐる巻きのきりおがいた、政はおかしく思って先生に尋ねた、どうやら変わり果てた自分の顔を見て、また包帯をぐるぐる巻きにしたそうだ。<br>政は元気づけようと病室に戻った、きりおは窓の外を眺めてウォークマンを聴いていた、政はテレビ台の引き出しの上に置いてある写真に気が付いた、<br>手に取って見ると、今までの思い出の写真のきりおの顔部分は全部修正液で塗り潰され、その上から"へのへのもへじ"が書き足されていたそうだ」 <br>僕は政を見た、下を向いて顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた。 <br>「政はな、政は素手で自分の一眼レフをめった殴りにしたんだよ、何度も何度も、大事な大事な宝物を、きりおを傷つけた魔法の宝物を」 <br>ケージの唇が震えている、瞬きもせず僕を睨む。<br>「なぁ、なゆた、まさか忘れたのか？<br>あの日のライブの最後にお前は俺たちに何もいわず突然『解散します、さようなら！』って言ったよな？それだけじゃない」<br>そうだった、そういえばそんなこともあった、当時僕は相当な興奮状態にあった。<br>『お前たちは狂ってる！世の中も狂ってる！奴らに殺されるくらいならここで自害せよ！喉元にナイフを突き立てろ！自由というナイフで深紅の証明を見せてくれ! 』とも言った記憶がある。今聞くと狂気の沙汰としか思えない、でも、本心であったとは今ここで言えない。<br>「お前は馬鹿みたいなこと言って客をドン引きさせたんだ、あの日きりおは妹を連れて来てたんだ、ライブの帰り際、きりおは妹に"反乱分子の集会"と言われてムッとしてた、それらがストレス要因となり、飲みで爆発したんだ、わかるかい？なゆた？」 <br>知らなかった、きりおの事も、政の事も、僕のせいできりおが暴れた事も。<br>しんちゃんが立ち上がった。 <br>「なゆた、なんでなのかな、なんでお前が何ともなくてきりおや政はこんな目に遭うんだ？神は平等じゃないのか？先生が言ってたな、どの命も等価って、ありゃ嘘だ、なゆた、お前なんてな、鼻くそ以下だよ！生きてる価値なんて無いんだよ！同じように平然と生きててイラつくんだよ！お前がやられたらよかったんだ、なんできりおなんだよ！お前なんか死ねよ！それかきりおと変わってくれ！頼む、きりおと変わってくれよぅ」 <br>しんちゃんは机や椅子を巻き込み、両手で顔を覆いながら崩れ落ちる。<br>側にいたケージに教室の外に連れられた。<br>僕は床の一点だけ見つめていた。 <br>不覚だ、涙が止まらない。<br>どんなに目を擦っても、鼻をすっても、上を向いてもダメだ、同情で泣いたんじゃない、確かに惨い、ただ、意識せず止まらない雨は流れ続ける。<br>神さま、この涙はどこから流れるのですか？僕の中から今何が零れているのですか？ <br>一つ解った。僕の机に修正液で書かれた”GOODBYE”の落書きは恐らくまさの仕業だと。
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11234228005.html</link>
<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 21:31:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 十</title>
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<![CDATA[ <br>「訳、聞かないの？」<br>「え？あ、手の怪我ですか？そうですね、聞きたいですけど無理には聞けません」<br>「だめだよ遠慮しちゃ、女の子に振られちゃうよ」<br>「え？振られる？」<br>「君、彼女いないね、今のでわかちゃった」<br>不覚だった、こんな単純な会話で読み取られるとは、つい相手のペースに呑まれてしまった。<br>「伝えたい事は伝えないとだめだよ」<br>「はい、わかりました」<br>「あのおじさんの事どう思う？」<br>「おじさん？あぁ、親父さんですか」<br>小さく頷き笑みを浮かべる、この世のものとは思えないほど美しい笑顔だ。<br>「けっこう好きですよ、面白いし、変なとこありますけど」<br>「そう、すっかり君のこと気に入ってるみたいね」<br>今は病院にいるなんて言えるはずなかった。<br>「そうですか、でもなんかほんとの親父みたいです、僕、実の父親の顔知りませんけど」<br>突然お姉さんが直角に折れ、膝をついて嗚咽しながら醜い手をコーヒーの缶で打ちつける。<br>「ど、どうしたんですか！」<br>振り落とす手は止まらず打ちつけられた、手から血が吹き出す。<br>僕は缶を取り上げた、お姉さんは地面に顔を埋め泣き止まない。<br>ようやく落ち着くが僕はどうすればいいかわからず土下座の状態で泣くお姉さんの横で煙草に火をつける。<br><br>僕は三本目の煙草をもみ消す、お姉さんが身体を起こし、僕の隣に座る。<br>「大嫌いだったの、泣き止まないし、<br>私を放って置いてみんなあっちばかり可愛がるの」<br>僕は黙って聞いていた。<br>「だから首を絞めて殺したの、だって嫌いだったから、でも怖くなって近所の工事現場に弟を抱えていったの、そこね、毎週土曜日に資源ゴミを燃やすの、すごい大きな炎になるの」<br>奥歯が軋む、いつの間にか僕は膝を抱え小さくなっていた。<br>「薄暗いからわからないと思って、私四年生だったし、小さいから見つかんないだろうって」<br>お姉さんは黙る、僕はお姉さんを見る。<br>「投げちゃったの！炎の中に、弟を」<br>お姉さんの目はがらんどうだった。<br>屋台で声をかけてくれたお姉さんはそこにはいなかった。<br>「でもばれちゃった、お父さんは私を責めなかった、ただ死んだ母さんが怒ってるぞって言うの、母さんね、弟を産んですぐ死んじゃったの」<br>お姉さんは急に小さな子供のような口調に変化した、何がどうなっているのかわからない。<br>「それでね、中学生になって夕方台所で一人でいたの、そしたら玄関の扉が勢いよく開いて母さんが帰って来たの、死んだ母さんが」<br>回りの音がまったく聞こえなくなった。<br>「怖かった、お母さんの顔だけど鬼に取り憑かれたみたいだったの、私が弟を殺したから怒ってるんだと思って泣き叫びながら謝ったの」<br>怖くてこの場から逃げ出したくなるが、好奇心がそれを食い止めた。<br>お姉さんから目を反らしたいができない、怖くて見てられないのにお姉さんしか見えない。<br>「母さんは私の手をとったわ。母さんは氷のような手をしてたの、やっぱりお母さんは死んだんだって思ったの、<br>そして台所のガスコンロの火の中に手を入れられたの、熱かった、本当に苦しかったわ、その時お母さんの顔を見たら泣いていたの、あんなに怒っていたのに、とてもとても悲しい顔して泣いていたの、するとお母さんが一瞬で消え、気がつくと父親に病院に運ばれてたの」<br>信じられない、お母さんの幽霊が敵討ちに来たと言うのだろうか、幻覚を見て自分で焼いたんじゃないかと思うが、そんな事言えない。<br>また話し方がいつものお姉さんに戻る。<br>「ごめん、話変えよう、君の言ってる親父さんさ、私の父親だよ」<br>言葉が出ない、いろんな想いが頭を駆け巡る。<br>短い時間に沢山の出来事が起こり頭が処理しきれない。<br>ただ流れる人の群れを二人で眺めるしかなかった。<br>僕から何か話そうと考える、話題を変えて元気な顔を取り戻そうと頭をフル回転させる、でもなかなか適当なのが浮かばない。<br>結局どうでもいい話が浮かんだ。<br>「僕、何日も母さんの顔見てないんだ」<br>舌打ちしたくなった、なんてセンスのない話だ、マザコンだと思われたかもしれない。<br>「お母さん、きっと泣いてるよ」<br>「え？」<br>親父さんの言葉を思い出した、すると急に昔の記憶が蘇る。<br>小学一年生くらいだっただろうか、何かの弾みで母親と言い争いになった。<br>僕が乱暴な言葉を母親に投げかけた瞬間、母親の顔はみるみるうちに紅く染まり、僕を見つめたまま頬に涙を流した。<br>母親が初めて泣くのを見た瞬間、僕は絶望感でいっぱいになった。とんでもない過ちを犯してしまったとか、絶対にしてはいけないようなことをしてしまったと感じた。それを見て、僕は慌てて泣きながら何度も謝ったのだった。<br>僕は立ち上がり、お姉さんに手を振った、今から家に帰ると告げて。<br>お姉さんは微かに口角を上げ、手を振ってくれた。<br><br>家に着いた頃にはもう十九時をまわっていた。父親はまだ帰っていない、母親は夕飯の支度をしてる頃だろうか。<br>玄関を開けるといつもと何か違う感じがした、人の気配がない、そのまま台所へ行くとやはり母親はいない、テレビのスタンバイランプと豆電球以外は黒で塗りつぶされていた。<br>外出が嫌いな母親は、家を空けることはほぼない、ご飯の材料も移動スーパーのような業者に定期的に来てもらっている。<br>薄暗い廊下へ出る、普段、何気ない廊下の軋む音が今日は不安を増幅させる。<br>上がりがまちで物音が聞こえた。踵を返し玄関の方を見ると母親が喪服を着て外に出ようとしている。驚いたが <br>すぐさま声をかける。<br>「どこ行くの？」 <br>黙ったまま玄関を開けた。 <br>「待ってよ！」 <br>私は裸足のまま飛び出して母親の腕を掴んだ、母親はそれを振りほどき歩き始める。<br>私は苛立ち、乱暴に母親の肩を掴み、腕をとる、よろめく母親はバランスを崩し、肩に掛けていた鞄の中身をぶちまけた、私はぶちまけられた物を見るなり凍りつく、ケンゴの写真がそこにあった、そして"一回忌"の知らせの封筒と数珠。 <br>身体中が熱くなり、頭がクラクラしてきた、怒りや不安感がかき混ぜられ力が抜ける、その場に両膝をついた。<br>力無い声を振り絞る。<br>「なによこれ、ケンゴが、一回忌？どういう事？！」 <br>「あーあ、あなたね、大体今日は友達と夕飯食べて帰るって言ってたじゃない。どうしたのよ、私が家に帰った途端あなたが帰ってくるから、びっくりしたじゃない」 <br>そうだった、なゆたの彼女のせいでそんな嘘とっくに忘れていた。 <br>「そんなのどうだっていい、ねぇ、どういう事？！ケンゴが一回忌って、説明してよ！」 <br>「あー五月蝿いね、せっかく隠し通してきたのに台無しだよ」 <br>その言葉に頭が爆発しそうになる、私は立ち上がり吐くように言い捨てた。<br>「はぁ？！なんで隠すんだよ！お前何考えてんだよ！馬鹿なんじゃないの！」 <br>「お前？あなた親に向かってお前って何よ！いいわ、教えてあげる、ケンゴはね、一年前に死んだのよ！海難事故でね！」 <br>「嘘よそんなの、なによそれ」 <br>「本当よ！なんで、こんな事になったのか、うぅ」 <br>母親は突然泣き出した、さっきまでの勢いはどこかへ消え、怒りと悲しみが混ざったような顔に変化した。<br>私はけんごが死んだ事実を聞いて、硬く大きな氷で頭を割られたような衝撃が走った。ひび割れた頭蓋骨から冷たい水が流れてくる、今まで頭の中あった熱を徐々に冷ましていく。<br>そして次第に憎悪が湧いた、それは心からだった、激しい怒りとは別の白い炎のようなものだった。<br>なぜ自分だけ知らされないのか、恐らく父親もけんごが死んだ事実を知っているはずである。 <br>「なんでそんな大事な事教えてくれないの？頭おかしいの？信じられないあんたなんか母親なんかじゃない！この馬鹿！」 <br>「今なんて言った？」 <br>「馬鹿よ！最低よ！」 <br>母親の顔から今さっきまでの怒りと悲しみの表情が消えた、能面のような無表情な母親がそこにいた、目がすわり私を見つめる、こんな顔した母親を見たのは初めてだった、言い過ぎたか。<br>「まあ、間違いじゃないわ。秘密なんて当然よ、あなたに言う義理なんてないもの、あんたとケンゴは違うのよ」<br>「え？何？」 <br>「あんたはいなくていい人間なのよ、<br>いいわ、全部教えるわ、私が大学生の頃サークルの集まりで先輩の家でみんなと打ち上げしてたの、そしたらどんどん飲まされてつい酔っちゃって、若かったのよあたし」 <br>「おい！やめろ！黙って聞いてりゃ何言ってんだ！」 <br>父親が帰宅した、タイミングよく出くわした。 <br>「あら、帰ったの？まったく、この人の遺伝子だったらねぇ、あんたなんか産むんじゃなかった、どの人に似たんだろう」 <br>「やめろ！何てこと言うんだ！かなた？こんなのはでたらめだ、母さん気が動転してるだけだ！」 <br>「アハハハハ！！全部ほんとよ！アハハハハ！！！」 <br><br>消えたい。 <br><br>神様、仏様。私を、今すぐ無かった事にしてください。 <br>私は踵をかえし、二階の自分の部屋に駆けて行った。<br>灯りも点けずにベッドの脇にゆっくりと背をもたれる、鏡に微かに写る自分を睨めつけた。 <br>鏡の中には誰か知らない人がこっちを見ている。<br>「骸骨とにらめっこか」<br>細くかすれた声が口から出てきた。<br>私も骸骨もまばたきを忘れていた、骸骨の目は暗く漆黒の穴のようだった、<br>これが私自身だと気付くのは早かった、全てを受け入れるしかなかった。<br>私が中学二年の頃、卓球部でエースだった。<br>県大会で九州組との試合で彼に初めて出会った、人生最大の恋、運命の人だと確信し、気が狂ったかのように毎日の生活の中で彼を想った。<br>中学一年生にしては、けんごは大人っぽく卓球のセンスは抜群だった。 <br>初めて会った日、午前の試合と午後の試合の間の休憩時間、会場の外でウォーミングアップ中に隣合わせになり、前から知人だったかのように少しも違和感なくお喋りしまくった、彼もも自分に好意を持ってくれて、気さくで親しみやすい性格に驚いた。<br>住んでる距離は遠いが毎日電話しまくった。<br>大好き過ぎて死にそうだった、今すぐ何もかも捨てて飛んで行きたかった。<br>あの笑顔は太陽で月ならどんなに幸せだろうと思った。私をずっと見ていて欲しかった、私にはけんごが全てだった。 <br>暫くして突然連絡が途絶えた、最後にやっと繋がった電話でケンゴはこう言っていた。 <br>「かなたさん？ごめんね、また会いに行くよ、必ず」 <br>声が震えていた、明るく話してたけどそれはわかった。<br>それから数日過ぎてある日曜日、両親揃って部屋にやってきた、表情は二人とも固く、何事かと少し緊張した。 <br>ケンゴの事だった、あの男の子と関わりを持つのをやめろと言った、そんなの無理だ。私は泣き叫び嫌がると母親が私の肩に手を添え話した。 <br>ケンゴは私達の息子、あなたの弟、相続などの関係で親戚に養子に出したと。 <br>嘘だ。<br>神様、嘘だと言って下さい。 <br>世界が急に暗闇に見えた、よくよく話を聞くと養子にだして九桁近い金を受け取ったらしい。 <br><br>現代はすごい、進化や発達もすごい、<br>人間ってすごい。 <br>でもなぜですか、どうしてですか？こんなに科学が発達してるのに兄弟を他人に変える事は出来ない、法的に、心理的に他人にできてもDNAを別物に変えることは不可能。<br>神の領域には人の手は加えられられない。 <br>どんなに願っても私とケンゴは結ばれない。 <br>わけがわからなくなった私は気が動転し、とっさに台所に駆け下り、金切り声を上げながら包丁を自分の胸に突き刺した。<br>だが、たかが女子中学生の力で家庭用ナイフを突き刺しても、当然大事には到らなかった、しかし私の中の硝子でできた心はバラバラと崩れ落ち、がらんどうになった。<br>それから母親は新興宗教にはまり、父親はまるでケンゴと近くで話してるかのようにブツブツと話続けるキチガイになってしまった。 <br><br>「かなた、入るぞ」 <br>「電気つけるぞ」 <br>私は黙ったまま骸骨を見つめる。 <br>「お母さんな、少し感情的になり過ぎだよな、あんな事言うなんてな、変な宗教にはまっておかしくなったんだろう、きっと」 <br>私は鏡に映る自分の顔だけ見つめていた。 <br>「その、ケンゴの事だけど、ごめんな、お父さんからかなたに伝えとけばよかったな」 <br>「お父さんな、今もこれからもかなたを自分の娘だと思ってる、お父さんだけはお前の見方だからな」 <br>疲れた　煩わしい　 <br>頭の中で声がする。 <br>疲れた！煩わしい！<br>頭が割れそうだった、父親はそう言い残して部屋を出ようとした。 <br>疲れた！終わらせろ！<br>「待ってよ」<br>「え、かなた？」 父親は慌てて踵をかえす。<br>「何よそれ、全然慰めになってない。<br>確かにわかるよ、自分の妻が遊びでできた誰の子かわからない私をよく我慢して一緒に居てくれたって思う、そこはすごいと思う、だけど我が娘と言い切れるのは嘘、やっぱりケンゴが可愛いはずよ、いつもブツブツとそこにはいないケンゴと話してるじゃない、たまにお風呂で泣いてるのも知ってる、<br>お風呂のおもちゃ大事に持ってるのも知ってる、思い出なんでしょ？男はロマンチストだから愛だの絆だのって言うけど女は違うの！ もっと現実主義よ！本当は私なんか邪魔なくせに！うざいでしょ？！悪魔の子だとでも思ってるんだ！！」 <br>どしゃ降りの雨が瞳から落ちてきた。
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11233537568.html</link>
<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 00:22:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 九</title>
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<![CDATA[ <br>僕は大人が嫌いだ、だけど親父さんは特別だった。<br>僕が幼稚園を卒業する頃には既に父親は家にいなかった、その為か特に男性には警戒心が強い傾向がある、初めて親父さんに出逢った頃はほとんど目を見て話さなかったし会話もしなかった。<br>「懐かしいですか」<br>「なんや、わかるんか」<br>「なんか寂しそうに見えます」<br>口角を大きく上げて僕に微笑みかける。厳しくて恐いヤクザの親父さんだが、僕はこの人のことがわりと好きになれた、面倒見がいいのかただ適当なのかは解らないがたまにふと父親に思えてくることがある、実の父親の記憶がない僕にそんな気持ちが湧くのも不思議である。<br>「親父さん、子供いるんですか？」<br>少し驚いた顔をして僕を見る。<br>「そーやなー、おるにはおるんやが」<br>「離婚したって事ですか？」<br>「そんな感じやな、お前なんでそんな事聞くんや」<br>言おうかどうか迷う、あまり自分の事を人に話したくないのが僕の性格だしかし親父さんならいいと思い、思い切って話す。<br>「親父さん、僕、父親の顔覚えてないんです」<br>「なんやて？そうか、死んだんか？それとも離婚か？」<br>今更ながら親父さんの方言は面白い。<br>全体的に関西弁だが、いろんな地方に飛び回り沢山の知り合いがいるのだと言う、それで幾つかの方言が混ざり合っているのだろう。<br>「わかりません、母親は教えてくれないんです」<br>「そりゃ困ったな、子供なんやから知る権利はあるんだがなー」<br>「でもなんとなくわかります、子供が好きじゃなかったみたいです」<br>「なしてそう思うんや」<br>「母親が言ってました、殆ど家に帰らず飲んでばっかりだったみたいです」<br>「ワシと変わらんな」<br>「親父さん、親父さんにとって子供って何ですか？」<br>「そうやな、宝や」<br>「宝、それより価値が高い物を僕の父親は見つけたんですね」<br>少し寂しくなる、僕も自分の事を宝と言われてみたい。<br>母親は何故か父親の話になるといつも機嫌が悪くなる。前に一度なにか父親の手がかりがないかと家中探し回った事がある。しかし何も出てこなかった。<br>「なゆ坊、なんでそんなに親父に執着するんや？」<br>「それは、そうですね、見たことないけど一回くらいは逢って話してみたいです」<br>「なるほどな、でもなゆ坊、一つ忘れてる事があるぞ」<br>「忘れてる？何ですか？」<br>「さっきから聞いてるとお前は親父の話しかしてないぞ、お母さんもいるんだぞ」<br>そうだった、と気がつく。<br>母親は僕が小さい頃は恐くてしょうがなかった、妹ばっかり可愛がって僕には冷たく当たっていた。何でもお兄ちゃんの僕が見本として先に覚えなきゃいけないし、妹に優しくしなければ玩具やおやつを取り上げられた、そんな状況を次第に理解した妹は、随分要領がいい奴に育った。<br>そうだ、妹も元気だろうか。母親も一人で僕達二人を育てたのだ、なかなか大変な事である。<br>「わかったか？」<br>「え？何がですか？」<br>「今いる人を大事にしろ」<br>少し考えて納得する。<br>「はい、ありがとうございます」<br>親父さんは煙草の吸い殻を投げ捨て<br>『行くで、なゆ坊、運転頼むで』と滅茶苦茶な事を言う。<br>二人で苦笑いした顔を見比べ、車に乗り込んだ。<br><br>夜中の一時を過ぎようとしている、しかし親父さんは現れない。<br>唐揚げの材料ももうすぐ無くなるので調達してもらわないといけない、しかし随分前から携帯の電源は入らないし、親父さんが泊まったホテルの場所もわからない。<br>時刻は二時過ぎ、とうとう材料が底をついて店を閉める、屋台をばらして手押し車に積み込み車へ向かう、今日の荷物なら八往復くらいだろうか。<br>バンのリアドアを開けると奥の助手席後ろ辺りに荷物がくるまっている様に見える、車を止めている公園は薄暗く何があるのかわからない。<br>そのときだった、背筋が凍りつき胸が締め付けられる。その荷物の辺りから僅かだが確かに呼吸音が聞こえる。<br>「親父っさん？」<br>「親父さんどうしたんですか？」<br>外を周り、車の横のスライドドアを開ける。<br>「え？え？これは」<br>血だらけの親父さんが胎児の様に丸まっていた、肩を揺すると僕の手にべっとりと血が付いた、その手をズボンで拭く。<br>「親父さん！親父さん！」<br>どこから血が流れているのかわからない、ジャンバーを脱がして確認するが暗くてわからない、親父さんの腕がだらりとドアの外へ垂れる、目立つとマズいと思い車の真ん中辺りまで身体を押し込む、スライドドアをゆっくりと閉めた、外の音が遮断され、弱々しい親父さんの息が確認できた。<br>少し迷ったが親父さんの頬をめがけて三度程思いっきり平手打ちした、二度と開かないと思っていた親父さんの瞳がゆっくりと開く。<br>「親父さん？」<br>「お前か」<br>「どうしたんですか？血が、血がすごいですよ」<br>「しょーもない」<br>「しょーもないわ、どうでもえーなったんや」<br>「どうでも？何がですか？」<br>「なゆ坊、ワシの血、赤いか？」<br>何を言ってるのかよくわからないがもう一度確認する、確かに親父さんの血は赤かった。<br>「赤いですよ！自分でやったんですか？なんで、終わり見届けるんじゃないんですか？」<br>「かわえーなぁお前は」<br>「え？」<br>「息子みたいやな、まぁ娘はおるんやけどな、娘だけな」<br>「とりあえずどこから血が出てるんですか？」<br>「腹や、かっさばいてやったんや、けど死ねんかったんや驚いたか？ハハハ！」<br>この人は簡単には死なない人だろう、<br>こんなに血を流して腹を切り裂いているのに笑っている、その表情も焼き肉屋で談笑している時の顔と同じだった。<br>「なんでこんな事したんですか、驚きますよ。病院行きましょう」<br>「不安になったんや」<br>「不安？」<br>「間に合わないって声がするんや」<br>「声？間に合わないってですか？どういう意味ですか？」<br>急に親父さんは咳き込み、目をかっぴらいてリアドアの外を見る。<br>「お、おいなゆ坊！し、し、閉めんかそこを！」<br>開きっぱなしのリアドアを指差し怯えるように叫ぶ、こんな親父さんを僕は初めて見たので少し怖くなった、慌てて閉める。<br>「な、なゆ坊！そこ！そこや！」<br>指差したのはカーエアコンの吹き出し口だった、これがどうしたのだろう。<br>「隠せ、いや、壊せ！早く！」<br>「え？え？」<br>訳がわからなくなり焦る、とりあえずニット帽を被せて隠す。<br>「親父さん！大丈夫ですか？！」<br>「追われとんのや、いつもな」<br>親父さんの顔に落ち着きが戻る。<br>「誰にですか？」<br>「娘や、娘が息子の首締めてしもうた」<br>沈黙がさらにこの言葉を重くさせる。<br>程なくして親父さんはどこかに電話をかける、会話を聞いていると舎弟と話しているようだった。<br>ため息をついて電話を切る。<br>「すまんかったな、舎弟が来るわ、お前は店戻って唐揚げ売ってくれや」<br>「大丈夫なんですか？あと、もう材料がなくなりました」<br>「ほうか、よう売ったな、大したもんや。ほんならこれで焼き肉でも食ってこいや」<br>親父さんから一万円を手渡される、薄暗くて確認はできないが紙幣がヌルヌルしている、こんな赤い紙幣で会計できるのだろうか、その前に焼き肉を食べる気分になれなかった。<br>辺りが急に明るくなる、ハイビームでこちらを照らす車が見えた、警察かと一瞬焦るが黒いワンボックスが近よってくる、中から数人が出てきて親父さん駆け寄った、さっき親父さんが呼び出した舎弟達だった。<br>親父さんは舎弟の一人に耳打ちをする。その舎弟は親父さんに一礼し、<br>真っ直ぐ僕のへ近づいてきた。<br>「お兄ちゃん、これで明日の材料買っといてくれんか？明日も店番頼んます」<br>「あ、はい」<br>親父さんは舎弟の車に移される、数人に担がれながら親父さんは大声で何かを叫ぶ。<br>「なゆ坊！お母ちゃん大事にせな！」<br>僕は大きく頷く。<br>他の舎弟も親父さん共に車に乗り込み遠ざかっていった。<br>テールランプの灯りが見えなくなるまで僕はずっと眺めていた。<br><br>眠たくて店番なんてどうでもいい、朝から店を開けてすでに夜の九時を回っている。<br>パイプ椅子に座ったまま動く事ができず、客に声を掛けられても聞こえない振りをしていた。<br>もう滅茶苦茶だ、親父さんは血だらけだし長時間働かされるでうんざりだった。<br>「唐揚げちょうだい」<br>若い女の声だった、頭を上げるのも億劫だったがあまりにも素敵な声で顔が見たくなった。<br>「久し振り、煙草吸うの？」<br>フライドポテト屋の美人のお姉さんだった。また出会えたのと覚えてくれてた事が嬉しくて、空気ポンプで飛び跳ねる蛙の玩具のように僕は飛び跳ねた。<br>「うん」<br>「疲れちゃった、後ろで休憩しようよ」<br>ゆっくりとした口調で、油断したら聞き取れないほどの、小さくかすれた声だった。<br>的屋の裏の、小さな池の側の石に腰掛ける。<br>缶コーヒーを手渡してくるお姉さんの手はケロイド状の傷で醜い手だった。<br>モダン焼きの生地が手に付いて乾いただけかと思ったが、そうではないようだ、僕があまりにも凝視したせいか、<br>お姉さんは反対の手でその醜い手を撫でる。<br>「これね、すごいでしょ、母さんにやられたんだ」<br>なぜかと聞きたくてたまらなかったが聞けなかった、虐待だろうと勝手に決めつけ、無言でゆっくりと二度頷いた。
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<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 00:12:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 八</title>
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<![CDATA[ <br>また移動だ、同じ場所に二日もいた事がない。<br>大きな白いバンに屋台をバラして積み込む、収納スペース全体を使わないように注意しなければならない。<br>親父さんは着いた先々のカプセルホテルで寝泊まりするが、僕は車の中で寝ている、屋台の荷物を上手に積んで寝床のスペースを確保しなければならない。だが確保できるスペースはわずかで、いつも胎児のように丸まって寝ている。<br>屋台は早朝から夜中まで開けているので、親父さんと交代で店番をしている、昼間に寝れるならまだましだが夜は寒くて寝付くことが出来ない。<br>車の暖房をつけるのは禁止されている、以前寒さに耐えきれず、エンジンをかけて寝たことがあった、翌朝親父さんはガソリンメーターの減りを見て血相を変え、店番中の僕の頭にげんこつをくれた。<br>荷物を全てバンに積み終わりキーをひねる。せっかく綺麗なお姉さんの隣で店番ができたのに残念に思う。<br>焼肉屋ののれんをくぐった。<br>「おう、来たか」<br>「はい」<br>「食えよ、おう、なゆ坊ちょっとこれ切ってくれや」<br>大きな肉とハサミだった。<br>「指がないなってなー、ハサミよう使いきらんわ」<br>「僕やります」<br>焼肉に飛び付いたのも初めの数日間だけだった、何故か毎日焼肉ばっかり連れて行かれて、今ではうんざりしている。<br>大きな肉を切り分けて鉄板に並べる、<br>親父さんを見ると頷きながらとても満足げな顔をしていた。<br>「お前しゅりちゃんに借金があるんか」<br>一瞬箸が止まる。<br>「はい、そうです」<br>「そうか」<br>なぜかいつもこのやり取りをしている。聞いてくるわりにはその先を問い詰めてこない、聞けない訳があるのだろうか。もしそうだとしたら借金の訳を僕が勝手に話し出すのを期待して、<br>こんなやり取りを仕掛けて来るのかもしれない。話してもいいがもう少し様子をみる事にした。<br>「よっしゃ、行こか、すぐ車出すで」<br>親父さんは飲酒運転を平気でしている。飲んでないときの方が少ないので仕方がない。<br>カーステレオから演歌が流れる。<br>テープはこれ一個だけしかなく、何回も繰り返し聞かされ何曲か覚えてしまった。<br>肩を揺らされ目が覚める。<br>「なゆ坊、ちょっとそこでコーヒー買ってきてくれんか、このままじゃ仏さんなってしまうわ」<br>「あ、はい」<br>冷たい風が吹くだだっ広い所にぽつんとあるコンビニに入る、客はいない。<br>千円貰ったのでコーヒー以外にお菓子とコーラと焼き魚を買った。今まで魚を好んで食べることはなかったが、連日の肉三昧で魚が無償に食べたくなった。<br>「親父さん、コーヒーどうぞ、あといろいろ買っちゃいました」<br>「おう、ちょっと休もうや、一時間したら起こしてくれや」<br>「はい」<br>助手席のドアを静かに閉めてジャンバーのファスナーを閉める、ニット帽をかぶり軍手をはめたまま、少し冷めた焼き魚にかぶりついた。<br>道は綺麗に整備されているが、車はほとんど通っていない。<br>辺りを見回す、どうやら僕は海沿いの道にあるコンビニにいるみたいだった。駐車場がだだっ広く、大型トラックがよく利用するのだろう。<br>田舎の国道なのだが、ここがどこかわからない。暗くて景色こそはっきりとしないが、潮の香りと波の音が聞こえる。もうすぐ朝を迎えるので早く海を見てみたい、凍えて震える煙草を持つ指の力を抜くと、そのまま煙草は風に流された。<br><br>「今日はええな！やっぱり食いもんがええんやな！」<br>珍しく二日間同じ地方にいるのも訳がある、ベーゴマ屋から唐揚げ屋に変わったからである。<br>各地方に拠点のようなものがあるのか、車ごと唐揚げ屋に変化した。飛ぶように売れるのはいいが、目が回るほど忙しく身体中油の匂いでうんざりだった。何個か摘まみ食いをしたが結局獣肉なのですぐに飽きる。そして今も鉄板の上ではホルモンが焼かれている。久し振りの繁盛で親父さんの機嫌はすこぶる良い。<br>「すごい繁盛でした」<br>親父さんは焼き肉屋にきて必ず最初に熱いお茶を頼む、普通は最後だがこれが日課らしい。しかしなぜ年寄りは熱いお茶を平気で飲めるのだろう、僕なら暫く冷まさないと飲めやしない。<br>今日は親父さんはよく喋る、頼む肉も上クラスばかりだ、まさか親父さんが今晩泊まる所も奮発してビジネスホテルになるのだろうか、僕もたまにはベッドで寝たいが頼んでも無理だろう。<br>「なゆ坊」<br>口に肉を放馬っていた為、無言で親父さんの顔を見る。<br>「最初見たときから思いよったが、なんでそんなに元気ない？」<br>水で肉を飲み込む。<br>「元気がですか？普通ですよ」<br>「しゅりちゃん金にがめついからな」<br>『きたか』この際話してみるかと心に決める。<br>話し初めは驚いた表情をしていたが、<br>次第に親父さんは険しい顔に変化していった。それでもLIVEの打ち上げの事件から一通り話した。<br>「それでそのチンピラ、どんな面しよった？」<br>印象に残る顔立ちだったのですぐに答えることができた。<br>急に親父さんの顔が曇り舌打ちが聞こえた。<br>「しょーもないな」<br>「え？何ですか？」<br>「大人がやるこっちゃない、しょーもないクズじゃ」<br>なんとなく心に芽生えたので聞いてみる。<br>「親父さん、もしかしてあのチンピラ知り合いですか？」<br>「知らん」<br>微かに動いた右の眉を見逃さなかった。<br>「お前はしゅりちゃんの彼氏か？」<br>「いえ、違うと思います」<br>「好きなんか？」<br>この質問には迷う、しゅりの耳に入る可能性があるからだ。<br>「本人に言やあせん、どうなんや？」<br>「初めから好きじゃありません」<br>「なゆ坊、死んだらいけんど」<br>予想だにしない言葉に驚く、親父さんは続けた。<br>「生きとってもええ事ない、みんなそんなもんや。でも死んだらええ事も悪い事もない」<br>なんだかよく解らず黙って聞いていた。<br>「わしはいつ死んでもええ人間なんや。何回も死のう思うたことある」<br>信じられなかった。生命力が溢れすぎる親父さんが死のうなんて思うはずない。<br>「それは、ちょっと言いにくいんですが、誰かの身代わりとか、誰かと刺し違えるって事ですか？」<br>「違うわい！それも勿論あった、今でもある、でもまた別の話しじゃ、情けないがこんなワシでも死にたい時があったんや」<br>「なぜですか？」<br>親父さんは口を噤んだ、質問を変えてみる。<br>「今は自殺したいって願望はないんですか？」<br>「自殺ゆうな。まあそうやな、今はない、変わったんや」<br>「変わった？」<br>「もうすぐな、終わるんや、何もかも。零に戻る。なんやったかな、聖書かなんかに書いてあるみたいやな」<br>世紀末の事を言っているのだろう、こんな似合わない台詞が出るなんて親父さんは飲み過ぎたらしい。<br>「見たいんや、終わるところ、全てが零になるとこ立ち会いたいんや」<br>親父さんの目を見て本心だと気づく。<br>「つまり、世の終わりを迎えたいから自ら命を絶たないって事ですか？」<br>僕の目をその鋭い眼光で鷲掴みし、大きく頷く。<br>「なゆ坊、お母ちゃん大切にせないけんど」<br>僕も黙って頷いた。<br><br>もうすぐ冬休みが終わり、また学校が始まる、新年の初登校の前日まで僕は働かなければならなかった。あと三日間だけ我慢すればこのアルバイトから解放される。<br>昼間の移動は初めてだった、これから行く場所は以前ベーゴマ屋をしていたところだった、フライドポテト屋の綺麗なお姉さんにまた逢えるかもしれないと思うと、心なしか緊張気味になる。山道を抜けると海が見えてきた、<br>壮大な景色で思わず声が出る。<br>「なんや、海見たことないんか？」<br>「いえ、ありますよ、でもすげー」<br>「そーかそーか、ここら辺はな、夜になると車も少ないし街灯もないんや」<br>それがどうしたと思う、殺しには最適だ、とでも言うつもりだろうか。<br>「冬は空気が澄んどるんや、ここで夜中に上眺めてみい、たまげるど」<br>「星ですか、親父さん星なんか見るんですか？」<br>「ばかたれ、今は見よらん。丁度お前ぐらいの時に女連れて見たんや」<br>「親父さんここら辺に住んでたんですか？」<br>「昔な」<br>そう言って急に渋い表情に変わる、昔を懐かしんでいるのだろうか。少し白波が立っているのが遠目でもわかる。<br>周りに海の景色を遮るものがなく、絶景と平行した道を車は走る、少し先に見覚えのあるコンビニが見える、トイレに行きたいと言ってそこにに寄ってもらうことにした。<br>駐車場に出るとやはり前回同様、風が強く吹いている。トイレから戻ってくると親父さんが車から出て海を眺めていた。
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11233517815.html</link>
<pubDate>Thu, 26 Apr 2012 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて 七</title>
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<![CDATA[ <br>出店の中から目の前を通り過ぎる人々を眺める。<br>人間を見ていると飽きない。僕はまだ高校生だが、なんとなくは世の中の仕組みを熟知した気でいる、それらを知ってしまってから途轍もなく生きるのが億劫になった。<br>大まかにまとめれば、全ては金と権力と欲望で世界は動いている、つまり一番価値が高いのがそれら三つだと僕は思っている、間違いかもしれない、でもほとんど正解だろう。<br>それら全てを満たす者は最高の幸せを得たのと同じだ、いわば人生の頂点であり、ゴールと言っても過言ではないだろう。<br>しかし単純にそれらを手に入れても頂点には立てない、それらを自由にできる力が必要なのだ、馬鹿な奴はそれら三種の宝を使いこなせないから頂点にたどり着いた途端、足元をすくわれる。だからここで訂正する、下々を見下して多くの光を得よう頂点に君臨しようならば、金、権力、欲望を自由にする力と、それらを動かす知が必要である、これらが完全に備わっていれば恐いものはないだろう、あるとすれば老いだろうか、まだあるのかもしれないが、僕自身そこに行ったことも見えたこともないので解らない。<br>はっきり言おう、命の価値は平等ではない。<br>価値ある命、それは多くを支える一つの命だったり、多くの命を救える一つの命であったりする。<br>またかけがえのない命、その命があるだけで多くの命が安逸でいられる疵無き玉のような命もある、それらは価値ある命である。<br>反対に価値のない命もある、当然ある。<br>学校ではこんな事は言えないし大人も納得しないだろう、教師は偽善者で生徒は本質が見えないからである、見えないものを見えると言っても信じないのと同じである。<br>価値のない命、みんなの了解が得れそうな回答を言えというのならば、多くの命を奪った命であろう、当然僕もそう思っている。だが僕が思っている価値の低い命、それは誰からも愛されず、自分の命さえ愛せない命である。<br>誰かの役に立てれば、その命は価値があるのだろうか、助けられた命からすれば価値があるかもしれない、しかし自分自身が価値なき命と決めつければそれまでである。<br>生きる価値がないと決めつければそれまで。<br>生きる理由が見つからなければそれまで。<br>いつ死んでもいいし生きるに興味ないのならそれまで。<br>それらは生きながら死んでるも同然なのだ。<br>しかし生きる目標や生きる意味の完全正解ってのはないだろう、女は子を産めば目標が出来てたくましくなる。<br>しかしそれは全てではなく、子を産んで狂う人もいる。<br>男は認められればたくましくなる、しかし全てではない、求めない人もいる。<br>僕は考える、想像論も進化論も都合がよすぎる、人がつくったデマではないかと。<br>ここまでくると途方もない話まで発展するだろう、僕の悪い癖だった。<br>道行く人をぼんやり眺める、急ぐ人もいれば、のんびりした人もいる、みんなどこへ向かっているのだろうか、違う、僕は気付いている。みんな役者なのだ。演じている、澄ました顔して僕が見てない所で僕を嘲笑っている、僕にはわかる、みんな本当は辛いはずなのだ、こんな腐った世界うんざりで今すぐにでも発狂したくてたまらないはずだ。あいつも、そいつも、みんな我慢している、中には平気そうな顔をして笑っている奴もいる。<br>もしや、と首を捻る、もしかしたら…。<br>僕は立ち上がった、パイプ椅子が転げるが無視した。<br>間違っていたかもしれない、いや、まだ確信は持てないがこれまでの考えとは違う答えが浮かぶ。<br>演じているのではなく、演じているふうに見える奴らは狂っているのかもしれないと気づく、僕が普通であり、こんな世の中で平然と生きてゆける奴らが狂っているのである。<br>そう思って道行く人々を眺める、間違いなさそうだ、緑色の顔をしている奴らが多すぎる、角さえ生えているではないか、しかし中にはまだ毒されてない人もいる、大きな発見だった。<br>僕は普通なんだ、僕は間違っていない。<br>嬉しくなって自然に口角が上がる、目の前を過ぎる人の群れ、僕には百鬼夜行に見える。<br>煙草に火をつけてこの発見を何回も頭の中で反芻した。<br>「おい！君聞いてるの？」<br>驚いて煙草を落とす。警察だった。<br>「ここ、許可証見せて」<br>親父さんが言っていた、警察が来たら許可証を見せなければならない、しかしそれを親父さんから受け取っていなかった。<br>「許可証ですよね、今持ってなくて」<br>「ない？なぜ？」<br>「その、僕バイトで」<br>「だったら責任者呼んで」<br>「いや、今いなくて後でまた来て下さい」<br>「君は歳幾つ？未成年だよね？」<br>別に何も悪い事はしていないが妙に怖じ気づく、答えようか迷う。<br>すると僕に質問してくる若い警察の後ろにいるもう一人の警察がなにやら無線で話している。<br>「おい、出動だ、北のレンガ通り！」<br>「はい！君、また寄るから許可証用意しといてね」<br>「はい、必ず」<br>間一髪だった、どこかで事件だろうか、確かレンガ通りと言ったがここら辺の土地勘がないのでわからなかった。しかしその事件か騒ぎを起こした悪い奴に助けられるとは世の中不思議だと思った。<br>今時ベーゴマなんて誰が買うのだろう。この店の親父さんに五十個は売れ、と念をおされている、だがまるで売れる気配はない。こんな状態でちゃんと給料は貰えるのだろうか。<br>隣のフライドポテト屋は大変賑わい、<br>こっちのベーゴマ屋の目の前まで列を続けている。しかし並ぶのは男ばかりだ、何故ならフライドポテト屋のお姉さんは、誰もが二度見するくらい美人だからである。<br>朝僕が出店に出勤して、開店の準備を始めるとき『おはようございます』とお姉さんは必ず挨拶をくれる。それ以外、会話はないが、こっちの店が暇な為、たまに横顔を拝見する。<br>青いカラーコンタクトレンズをつけて、顔の掘りが深く金髪であるため、<br>初めて挨拶されたときは外国人かと思い、挨拶を返すのに躊躇した。<br>携帯のバッテリーもなくなり、本も読み終わってしまう、いよいよやることがなくなった。こんな事なら、先週までやっていたモダン焼き屋のほうが随分ましだった。摘み食いはできるし、<br>何もしない時間はあまりなかった。<br>しゅりにお金を返すため、無理矢理連れて来られた的屋のバイトも飽きてきたが文句は言えない、次はどんな仕事をやらさられるかわからない。<br>はっきり言ってちっともやる気が起きない。給料はこの目で確認することはできず、全てしゅりの懐へ流れていくからである。今現在二百万円の内、いくら返せたのかもまったくわからない。<br>その事でしゅりに文句を言ったことがあったが、翌日から自分の家の壁に落書きがあったり、玄関の鍵穴に小石が挟まっていたり、庭に女性用下着が投げ込まれたりと、散々な嫌がらせだった。その日ぐらいから夜中を過ぎると玄関先の道を暴走族が爆音で走り回るようになった、これもしゅりの仕業に違いない。<br>お陰で母親は寝不足から身体を壊し、<br>病院通いを続けている。<br>母親達を家に残し、僕は週末になると近県を行き来し、的屋のお兄さんに変身する。平日は母親と妹二人が同じ部屋、僕が一人でそれぞれの寝室で耳を押さえ、布団を頭から被る。<br>冬休みに入った僕は、もう一週間くらい母親達の顔を見ていない。年越しはゆっくりできたのだろうか。<br>元旦以降もますます神社は賑わう。<br>もう零時を越えただろうか。<br>物好きの若者や、昔を懐かしんで買っていった客のお陰で十個ほど売れた、<br>ここ最近で今日が一番の売上である。裸電球の灯りが僕の影を作る、パイプ椅子に座り両膝に肘を置いて頭を垂れる。自分の影が突如現れた暗闇に飲み込まれる、店の前に客が現れたと気付いてゆっくりと顔を上げた。<br>「なゆ坊、お前売る気あんのか」<br>この屋台の親父さんだった。年齢は六十過ぎくらいだろうか。親父さんは僕を"なゆ坊"と呼ぶ。<br>芸術品のような角刈りに鋭い切れ長の目でいつもキョロキョロと他人の顔を眺めながら歩いている。左手には指が三本しかなく、背中、手首、お尻にかけて和凧のような模様の刺青が入っている。本人は『盲腸の傷跡だ』と言っていたが、へその上辺りに二十センチ程の斜めの傷跡がある、そんなところに盲腸があるはずないのだが。<br>誰もが一目でわかるヤクザである。<br>普段の表情はニコニコしていて背は僕より低くよく喋るが、修羅場を経験してきたのか、威圧感はとてつもない。<br>顔で商売しているというのがよくわかる。<br>「あ、十個程売れました」<br>「十分じゃ。今日はもうしまいや、片付けとけよ」<br>「え、しまうんですか」<br>「そうじゃ、明日は別んとこ行くで。片付け終わったらほらそこ、赤い看板の焼肉屋に来いや」<br>「あの、さっき警察が来ました」<br>「何の用や」<br>「許可証見せろって言われて」<br>「追っ払ったんか？」<br>「いや、その、また来るって」<br>「大したもんじゃ、よし、先行くで」<br>親父さんは踵をかえし、がに股で遠ざかって行く。すれ違う人を満遍なく眺めながら焼肉屋に入っていった。<br>この時確信した、親父さんは許可証を持っていないと。
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11233506979.html</link>
<pubDate>Wed, 25 Apr 2012 23:52:00 +0900</pubDate>
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<title>しじまにて六</title>
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<![CDATA[ <br>二年生の階だけ不気味なほど静まり返っている。<br>教室の窓から見えるオレンジ色の裏山を絵の具で切り取る。同級生は今頃、<br>北海道に到着した頃だろうか。修学旅行に参加しない者は、その期間登校しなければならない、と知らされた時は目眩がした。<br>修学旅行も授業の一貫であり、例え参加しないにしても学校へ行かなければならないとのことだった。<br>しかしいつものように授業を受けるのではなく、こうして好きな教科を選択して自習したり、図書室にいればいいそうである。これはこれで新鮮で、<br>ゆったり満喫してるのが本音である。<br>人の目を気にせずに学校にいれるのは居心地が良かった。彼女は図書室で漫画を持ち込み、一日中教室から出ない。<br>僕は物音一つしない自分の教室で寝るか、こうして美術か音楽を選択する。<br>この開放的な学園生活も今日で最後となる、来週の月曜日には、また賑やかに同級生が溢れるのだろう。そして修学旅行の話題で大いに盛り上がるのである。<br>残された僕は、更に開いた皆との温度差を嫌でも感じなければならない。<br>少々憂鬱ではあるが、今はそのことは考えずにいようと決め、筆を置く。<br>椅子にもたれ、両手を頭の後ろへ組む。丸二日間かけただけあって、見事に美術室から見える裏山が手元の画用紙に切り取ることが出来た。昼寝でもしようとブレザーのボタンを外す。冬物を出したばかりで、防虫剤の臭いが鼻を突き抜ける。<br>彼女はなぜ修学旅行に参加しなかったのだろう、と考えた、様子見ついでに図書室に向かうことにした。図書室の中の様子を、廊下からドアの窓越しに覗くが誰もいない。<br>ふと教室の端のカーテンが揺れるのを見つけ、ドアをゆっくりと開けて中へ入る。<br>図書室のベランダを覗くと、ヘッドホンをはめた彼女が体育座りの姿勢で眠っていた。頭を右膝に乗せて、体操着のジャージを身体にかけていた。<br>長い睫に半開きの口元が子供っぽく見え、愛らしく思えた。男子生徒の噂では彼女はなかなかの美人で、隠れた人気女子らしい。だが最初に会った日以来、化粧はまったくせず、地味で無口な印象を受けた。お寺で話す彼女と、<br>学校で見る彼女は大きく異なった。<br>彼女だけ皆より一つ年上だし、馴染めないでいるのか、と訪ねたこともある、<br>しかし答えは違っていた、彼女はつまらない話を聞くのが苦痛らしく、飾らないのも魅力的な異性がいないからだと言い放った。<br>昼過ぎからまた雲がかかり寒くなるだろう、自分のマフラーを彼女の首に巻き付け、少し身体を揺すった。<br>だらりと下がる腕が動き始め、長い睫の下からガラスのように澄んだ瞳がゆっくりと開き、僕を捉える。<br>「風邪ひいても知らないぞ」<br>彼女はまた瞳を閉じ、軽く微笑んだ。<br>口元が微かに動いたが何を言ったのかわからなかった。<br>僕は図書室を出る前にもう一度揺れるカーテンを見る。あそこが彼女にとって、学校にいる間の非難場所であり、<br>心が落ち着く隅っこであり、孤独でいられる絶対的空間なんだろう、と勝手に思った。<br><br>地球上には隅も端も最果てなんかも存在しない、地球は丸いのだ。<br>最果ての先が奈落としよう、そして仮に奈落は"死"として、最果ては"死を決めた場所"もしくは"死を決めた瞬間"と置き換えてみる、そうすれば地球上どこにいようが最果てにたどり着くことができる。<br>そう、最果ては存在するのである。<br>『僕の最果てはどんなんだろう』と考えながら、煙草を吸いに裏門へ足を運んだ。<br><br>けさ駐輪場で自転車に鍵を掛けるのを忘れた、当然の結果だろう。日が落ちるのを待ち、彼女を後ろに乗せてやっと近くのコンビニに着いた。<br>自転車を止める間もなく彼女は颯爽と荷台から降り、店内へ向かう。<br>僕は予想以上に後ろではしゃぐ彼女を、落とさないようにここまで全神経を身体のバランスに集中させた。当然だ、自転車を盗まれたと彼女に告げると、みるみる彼女の顔が明るくなり『漕げ』と命じられた。それだけじゃない、一度でも彼女を荷台から落とすと、僕は歩いて帰らないといけない、バスで帰ればいいのだが、負けた気がして断れず承諾した。容赦ない暴れん坊を乗せ、ゴールしたのはいいが、まるで体がいうことがきかない。<br>自転車のサドルにもたれるように崩れ落ち、呼吸を整えていた、真冬だというのに身体から湯気があがる。彼女が店内から出てくる、その手にはコンビニの袋をぶら下げていた。そうだった、ここまで彼女を運べば、褒美としてコーラとパンを買ってくれると言っていたのを思い出した。<br>霞む目線の先に映る彼女が天使に見える。<br>駐車場の端でパンを食べていると、怪獣のような大きなジープが乱暴に入って来た。<br>横目で見ているとまたまた期待を裏切らない派手そうな女が出てくる。 まだ目の霞みが治まらない、頭痛も始まり全てがどうでもよくなってきた。視線を地面に落とす。<br>「なゆた？」 <br>聞き覚えのある声に反応し、素早く顔を上げた。<br>「何してんの？で、誰よ、その女？」<br>「その、友達、、、」 <br>「学校の帰りが一緒だなんて仲いいねぇ、まさか私を裏切ったんじゃないよね？」 <br>うまく呼吸ができない。<br>まさかこんな所でこいつに出くわすとは。<br>しかも状況が悪い、僕がバンドをやめてから暗い奴になって一人ぼっちになったって思っている。確かに事実だが、最近友達ができただなんて言ったって信じてもらえるはずがない。 <br>「なゆた、何黙ってんの？あんた約束忘れたんだ」 <br>「いや、そんな、だから友達だよ」 <br>「なんで私に隠れて会うの？」<br>「隠してたわけじゃないんだよ」 <br>「じゃあ何？」<br>「言う機会がなくてさ、ごめん、本当に誤解だよ」<br>「気に入らない」<br>しゅりの顔が夜叉に見える。いや、今までその奥へ忍ばせていたものが、<br>たった今顔を出しただけかもしれない。<br>「ゆるさない」<br>そう言ってしゅりは車へ戻った、まさかこっちへ突っ込んで来るんじゃないだろうか、あいつならやりかねない。<br>とりあえずここは逃げるか、と思考をフル回転させるが頭が混乱して冷静な判断も整理もつかない、頭痛が酷くなるばかりだ、どうすればいい！<br>袖を引っ張られそっちを向く。 <br>「ねぇ？あの人が彼女でしょ？なんかやばくない？あたし帰ろうか？」 <br>「いや、いい、寺に戻ろう」<br>「何がいいの？何言ってるの？」 <br>立ち上がり顔を上げると、車から男が二人と泣きべそかいたしゅりが出てきた。一瞬で全て察知した、こりゃやられた、名女優め。 <br>「おい、お前か？俺の女に唾かけて罵声浴びせたのは？」 <br>「え？いや、そんな、、」 <br>「この人だよ」 <br>く、デタラメだ、万事休すか。 <br>いきなり男に胸ぐらを掴まれ、腹におもいっきりいいのを食らった。呼吸が出来ない、苦しい、胃液が込み上げる、我慢できずそのまま地面に屈伏した。冷たくざらついた地面の匂いと、<br>胸や首筋に浮かぶ油汗の匂いが鼻につく。 <br>悶絶してると不意にいい香りがした、<br>しゅりが僕の耳元に顔を近づけてきた。 <br>「ふふ、痛い？でも許さない、地獄をまだまだ見せてあげる、とりえず二百万返してよね、また連絡するわ」 <br>「 う、二百万!?なんだよそれ、、」 <br>「はぁ？！あんた馬鹿？契約破棄ってことだよ！利子付けてよこせよ、わかった！？」 <br>もう言い返す元気などなかった、しゅりはそう言い残し奴らと車で消えた。<br>何事もなかったのように大きな車は走っていった。まだ起き上がらない彼に『大丈夫?』と声を掛けた。<br>『こりゃ参ったよ、だせーな』と言いながら服の汚れを払う。顔を上げバスで帰ると言い出した。流石に引き止めれず、今日のロス人サミットは御開きとなった。 <br>なんだかこんなもんじゃ済まされない、何かが起きる、そんな不安がした。<br>倒れ込んだなゆたに、あの女はなんて言ったのだろう、ていうか"なゆた"って名前なんだ。 <br>月曜日がっこ来るかな、彼を見送りながら煙草に火をつけた。<br>
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<link>https://ameblo.jp/morrowesprit/entry-11233429446.html</link>
<pubDate>Wed, 25 Apr 2012 22:35:00 +0900</pubDate>
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