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<title>卯堂 成隆のブログ</title>
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<description>ここは、卯堂 成隆のオリジナル小説を掲載しております。ジャンルはラノベ系で、コメディーが多いかも？ちなみに更新速度は遅めです。</description>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　エピローグ</title>
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<![CDATA[ <font size="4"><p>「ただいまを持ちまして、ルーサナーの祭典を終了いたします。　なお、おしゃべりモカシンのダンジョンの特典であるアイスゴーレムは、集計結果を一部の妖精が焼却したため集計不可能なため、特典自体がなくなるとの事です」<br>　大会委員会のアナウンスに、会場から怒涛のようなブーイングが湧き上がる。 </p><p>　結局……というか、当然ながらアベロットたちの作ったダンジョンをクリアした挑戦者は今年も0。<br>　涙を呑んだ挑戦者たちは、来年こそは彼らを完膚なきまでに叩き潰し、その報酬として、ダンジョンの露と消えた我が理想のアイスゴーレムを復活させるのだと、拳を硬く握り合う。<br>　もはや目的が完全にすり替わっている事に彼らはまったく気付いていなかった。</p><p>「えー、ただいまより、達成者を一人も出さなかった"おしゃべりモカシン"と、"荒くれピンヒール"による記念花火の打ち上げを始めます」</p><p>　続いて流れたアナウンスに、イベント会場の観客達、そしてダンジョンに挑んだ勇士たちがゾロゾロと見晴らしの良い場所へと歩いてゆく。<br>　クリア者を出さなかったギルドは、勝利の証として祭りの最終日に花火を打ち上げる事が許されており、この三日にわたる祭りの最後を飾る風物詩となっていた。</p><p>　そんな人波が流れる中、アベロットは社用の飛行船に乗り込もうとしたモルガンを探し出し、声をかけた。<br>「モルガンの姐さん。　ちょっといいか？」<br>「どうしたの？　エイブ君。　もしかして、私のハーレム入る気になった？」<br>　にこやかな微笑むモルガンに、社交辞令として愛想笑いを浮かべると、なぜか一緒についてきたアルルナがアベロットのわき腹をつねった。<br>　ついでにその視線がちょっと冷たい。</p><p>「いや、そんなんじゃなくて。　ちょっと案内したいところがあるんですよ」<br>　全く乗り気ではないが、まぁ、これも仕方あるまい。<br>　アレに頭を下げて頼まれたのでは……<br>　心の中でそんなことを呟きながら、アベロットはモルガンを夜の散歩に誘い出した。</p><p>　ドンッ！　ドドドンッ！<br>　パラパラパラ……</p><p>　モルガンを連れて歩く中、まず"おしゃべりモカシン"側の花火が次々と打ちあがる。<br>　まるで夜空よ花園に変われとばかりに大量に打ち出される五号玉、大輪の花を競い合う二尺玉。<br>　色とりどりの花火が上がるたびに、夜道を歩くモルガンの白い横顔が鮮やかに色彩を帯びた。</p><p>「ねぇ、モルガン様」<br>「なに？　アルルナちゃん」<br>　沈黙に耐えかねたのか、好奇心の虫がまたぞろ疼いたのか、アルルナがモルガンに声をかける。</p><p>「あのナックラヴィーだけど……あんなに思いを寄せられたら、振るときに気まずくない？」<br>　どこか不安にも似た陰りを帯びたアルルナの声に、モルガンはどこか寂しげな笑みを浮かべた。<br>「いいのよ。　結局、彼は私が好きなんじゃなくて自分が好きなんだから」<br>「どういうこと？」<br>「彼は、自分を満たすために私が欲しいだけって事。　一途なのとはまた違うのよ。　人を好きになるって難しいわね。<br>　結局、彼が私を幸せにしたいんじゃ無くて、彼が私で幸せになりたかっただけなのよ。<br>　そんな愛、受け入れられるはずも無いの。<br>　そもそもそれが愛と呼んでよい物かどうかすら、私にはわからない。　うん。　たぶん、それは愛とは呼んではいけないものなのよ」</p><p>　そう語る声は、深い自嘲の響きを帯びて、彼女の司る霧のように儚く花火の音の中に消えていった。<br>　再び会話が途切れ、ただ花火の音だけが夜道に響く。</p><p>　やがて、スターマインが長くキラキラとした光を地上に投げる頃になって、アベロットはようやく足を止めた。<br>　それは、山の中にある休憩所。<br>　見晴らしが良く、花火を見るならおそらく最高の場所だろう。</p><p>「ねぇ、そろそろこんな所まで歩かせた理由を聞かせてくれない？」<br>　まるで何かを待っているようなアベロットの様子に、モルガンは疑うような視線と共にそんな疑問を口にする。<br>　だが、アベロットはやや困った顔をした後に、ふと何かに気付いたような顔となり、肩をすくめてこう応えた。<br>「残念ですが、それは俺の口からじゃなくて、ここに貴女を連れてこさせた当人から聞いてください」</p><p>　その瞬間、誰かがモルガンを後ろから抱きしめた。</p><p>　逞しい腕、うなじに感じる厚い胸板、かすかな香る汗と男の匂い。<br>　私はこの腕を知っている。<br>「……ガーフィー？」<br>　その問いに答えるかのように、背後の気配が僅かに揺らぐ。</p><p>「ゴメン。　言葉じゃ伝え切れる自身が無くて。　これが俺からの気持ちなんだ。　たとえ、君が俺のことを本当はどんなふうに思っていても、君が恋の出来ない女だったとしても、俺の気持ちは変わらない」</p><p>　その瞬間、花火が上がった。<br>　<br>　自分を抱きかかえる太い腕とはまるでイメージがあわない、鮮やかなピンクの、しかもハート型の花火。<br>　まるで夜空を埋め尽くすように、消えても消えても、次々と打ち上がる。<br>　横になってハート型に見えなくなっても、さかさまに打ち上がってスペード型になってしまっても、気にせず次の花火が打ち上がる。</p><p>　……なんて強かで、なんて無邪気な。<br>「馬鹿ね。　ほんと、男って無駄にロマンチックなんだから」<br>「……えっ？」<br>　呟いた言葉に、抱きしめた腕がビクっと震える。</p><p>「やりすぎよ。　ドン引きだわ。　なに、その自己満足」<br>　確かに想いを形にするのは大切かもしれないけど、想いが先走ればそれは相手にとって苦痛になってしまう事がある。<br>　かつて私は、師とも父とも慕った人を、愛するあまり永遠の塔の中に閉じ込めてしまった。<br>　たぶん、それは間違い。<br>　その事実に気付いたとき、私は恋する事に臆病になった。<br>　彼の苦しみに気付いたから。</p><p>　私の愛は、独占する愛。<br>　愛する人を閉じ込めて、苦しめて、それで自分が満足するだけ。</p><p>　なら、最初から憎まれてもいい相手を愛そう。<br>　そう思った。<br>　けど、それもまた間違い。</p><p>　だったら、どんな愛の形がお互いにとって最適だというの？<br>　そんなの、恋の女神でもきっとわからない。</p><p>「でも、花火の前の台詞は中々だったわよ」<br>　だから、まずは伝える事が大事。<br>　そして、相手の言葉を聞く事はもっと大事。<br>　そうすれば、いつか二人にとって一番いい愛の形が見つかるかもしれない。<br>　ねぇ、愛の形がハート型だって、いつ誰が決めたの？<br>　歪んでしまった私の愛は、きっとそんなありきたりな形ではありえない。<br>　私は私と彼との愛の形を探してみせる。<br>　今、ここから。<br>　だから、一方的に押し付けるだけの愛の形はここでお終い。</p><p>「ねぇ、エイブちゃん。　さっきの、ハーレムの話……無かった事にしてちょうだい」<br>　モルガンがそんな台詞を口にすると、闇の中に押し殺し損ねたような男の笑い声が洩れた。</p><p>「最初からこっちも了承してませんよ」<br>　花火の逆光になって表情がよく見えないが、きっとアベロットは苦笑いをしていることだろう。</p><p>「それとね」<br>「それと？」<br>「私、お兄さんを、閉じ込めちゃうかも」<br>　そんな台詞を口にしながら笑う彼女は、アベロットが見てきたどの彼女よりも愛らしく、そして一番幸せそうだった。</p><p>「どうぞ、どうぞ。　どうせ、厄介な仕事しか押し付けてこない不出来な兄なので、永遠に出さなくて結構です」<br>「お、お前な！」<br>　ガナルハナルの悲鳴を無視して、アベロットは無言でアルルナに手を取ると、行き先も告げずに歩き出した。<br>　アルルナもまた、無言でその手を受け入れ、その手を引かれるままに歩き出す。<br>　<br>「それでは、末永くお幸せに」<br>　花火のフィナーレを飾る光の乱舞に、世界が全てピンク色に染まる。</p><p>　果たして、ガナルハナルの恋が実ったのか？<br>　モルガンが自分の愛の形を見つける事が出来たのか？<br>　そんなこと、きっと無粋すぎて神も知らないと応えるだろう。</p><p>　願わくば、幸せな結末がありますように。</p></font>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11342895059.html</link>
<pubDate>Fri, 31 Aug 2012 23:25:06 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第八章</title>
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<![CDATA[ <font size="4"><p>　それから二日と言う時間が経過し、ルーサナーの祭りも最終日。<br>　おしゃべりモカシンのダンジョンに潜った挑戦者も、もはや残り9人。 </p><p>　かのダンジョンに挑んだ者の大半は、悪辣な罠に心が折られ、すでに広場やダンジョン入り口に設置された<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>の前でカキ氷を食べながら、数少ない生き残りの戦いを観戦している。<br>　ただ、ダンジョン入り口ではケットシーのメイドによる歌や踊りのステージが定期的に行われ、ダンジョンの仲の中継よりこちらのほうが視聴率を稼げている有様だ。</p><p>　おまけに、仕事の無くなったナビゲーターがそのまま店のメイドとして加わったのだから、それはそれは大変な事態に発展。<br>　誰だって、自分の理想像が他の人に微笑んだりしたら嫉妬を覚えるし、自分の理想像をけなされたら怒りに燃えて当然である。</p><p>　そこに目をつけたモルガンと、彼女と結託したアベロットが、「人気投票を行い、人気上位10位までのアイスゴーレムは、イベント終了後も活動できるように改造します」と宣言した事によって、事態はさらに加速する。<br>　当然ながら人気投票のランキングの上位争いでファン同士の乱闘が発生。</p><p>　もはや祭りは戦争となり、特に巨乳派と微乳派は血で血を洗うような抗争を繰り広げ、本来ならばイベントが開始したらほとんど売れることの無い傷薬の類が飛ぶように売れたため、薬師ギルドの纏め役である魔女連盟は下級魔女が過労死しそうなほどの仕事に追われた。<br>　そして、過去最高の売り上げを記録した彼女達は、その後長く療養期間を必要としたという。</p><p>　後にこの事件は"鮮血のルーサナー"と呼ばれ、長く語り継がれることとなるのだが……。<br>　はっきり言うと、本来メインのはずのダンジョンが、もはや空気扱いである。</p><p>　そして、イベントも残り1時間。<br>　ダンジョンの最深部では、全身傷だらけのナックラヴィーが、やや足を引きずりながらも目をギラつかせ、最深部の扉に手をかけようとしていた。</p><p>「これが……最後か」<br>　金属製の重い扉を開くと、そこには巨大なプールと満天の星空。<br>　上からは満月の光が燦々と輝き、彼の冒険の終わりを祝福しているかのようだった。</p><p>　目の前には、プールの中央にある花火の発射台へと続く細い浮き橋。<br>　発射台までの距離は、あとわずか20m。</p><p>　だが、彼は全身に凍りつくような恐怖を覚えていた。<br>　――きっと、何かある。<br>　それは、戦士としての勘。　そして、この悪辣なダンジョンを造った者が、こうもあっさりと花火を打ち上げさせてくれるはずも無いという確信。</p><p>　なによりも、そこに水があるという事が、彼の恐怖を煽り立てていた。<br>　試に水に指をつけると、ジュッと音を立てて煙が上がる。</p><p>「……やはりか、畜生！」<br>　実はナックラヴィーと言う種族には真水に触れる事が出来ないと言う弱点がある。<br>　いかに彼が戦士として優れていようとも、落とし穴のようなトラップで真水の中に突き落とされれば一巻の終わりだ。</p><p>　バサァッ……<br>　そんな彼の予感を裏切らず、風を切る音と共に頭上の月の光が大きな影に遮られる。<br>　音の源を探るべく上を見ると、何か巨大な鳥のようなモノがゆっくりと舞い降りてくるところだった。</p><p>「コレが……最後の戦いか！　上等だ!!」<br>　彼は残された力を振り絞り、巨大な翼を持つモノ――ドラゴンゴーレムに向かって駆け出した。</p><p>*************************************************************************************</p><p>「やっぱり、私はミケちゃんに一票かな。　時代は未だ微乳よ」<br>「俺はアメショのあの子かな。　やっぱり時代は美乳の時代だぜ」<br>「うーん、私は大きくて美しい豊乳こそ次世代まで続く美の基準だと思うのよね」<br>　その頃、アベロットとアルルナの二人は、モルガンを交えて猫耳メイドの乳について深く語り合っていた。</p><p>「おーい、ギルマス」<br>「なんだよ、今熱く語り合ってるところだろ。　空気読めよ」<br>　口を挟んできたギルド幹部に、アベロットは不機嫌なまま振り返る。</p><p>「ラスボスのドラゴンゴーレムが破壊されたんだが？」<br>「なんだと!?」<br>　それはまさに予想外の展開だった。<br>　まさかアレを倒すような戦士がこのイベントに参加するとは思っても居なかったからである。</p><p>「どうすんのよ！　クリアされちゃったじゃない！」<br>「んー　まー　そうだな」<br>　アルルナに肩をガクガクと揺さぶられながら、アベロットがすっとぼけた応えを返す。<br>「ちょっと、そうだなじゃないでしょ。　私、あんなのと付き合うの嫌よ？　責任取ってくれるんでしょうね」<br>　横から見つめるモルガンの目がかなり洒落にならない。<br>　アレは殺して埋めてから証拠隠滅の手順を行い、裁判で証言する内容まで考えている目だ。<br>「お、落ち着けお前ら。　……心配するな。　俺を信じろ」<br>　苦笑いを噛み締めながら、アベロットは指を鳴らし、目の前に<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>を起動した。</p><p>*************************************************************************************</p><p>　終わった……俺は対に成し遂げたんだ！</p><p>　かつてはドラゴンゴーレムであった巨大な瓦礫を背景に、フラフラと不安定な足取りで、彼は一歩ずつ前に進み、ついに発射台にその手をかけた。<br>　そして懐から、ここまで必死に守り通した二尺玉を取り出す。<br>　発射台の中に二尺玉を投げ入れ、震える手で火をつけた。</p><p>　チリチリと導火線を火種が歩く音がもどかしい。<br>　その僅かなはずの時間をこんなにも長く感じるのは、この身を焼くような想い故か。<br>　あぁ、我慢できない。<br>　この想い、叫ばずにいられるものか！<br>「ウォォォォォ！　愛してるぞ、モルガン!!　これでお前は俺のものだ!!」<br>　感無量といった表情で天を仰ぎ、両手を大きく広げて花火の発射される瞬間を待つナックラヴィー。</p><p>　――クルン。</p><p>　そんな彼の目の前で、発射台がまるで何かの生き物のように、その砲身を彼に向けた。</p><p>「……え？」<br>　気付いたときはすでに遅し。</p><p>　ドォン!!</p><p>　発射された二尺玉は、正確に彼の体を撃ち抜き、その身をプールの中へと弾き飛ばした。</p><p>　ジュッ</p><p>　もはや悲鳴も無い。<br>　実にあっけない最後。</p><p>　静寂を取り戻した発射台に、キキキッと子悪魔のような笑い声が鳴り響いた。</p><p>*************************************************************************************</p><p>「「な……何が起きたの？」」<br>　アルルナとモルガンの目が点になり、異口同音に呆然とした声が洩れる。</p><p>「どうよ！　これぞトラップナンバー3600058996。　今回の切り札の一つ、偽ラストステージだよ。　そもそも今日は満月じゃないだろ？　気付けよ。　あのステージの光景のほとんどが<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>でつくった偽物だ」<br>　そんな二人の横で、アベロットが得意げに鼻を擦る。<br>「ちなみに、あれは砲台ミミック。　クリアの証である花火玉を没収した上でダメージを加えるという罠で……」<br>「そう言うことは早く言いなさいよ！　ビックリしたじゃないっ!!」<br>「もぅ、ほんとモカシンの所のギルドマスターは代々意地が悪いわ」<br>　アルナは即座に食って掛かり、モルガンはホッと胸をなでおろす。</p><p>「悪かったよ。　ちょっと楽しんでた。　ちなみに、同じような仕掛けが、まだ数箇所ある……と言うか、このダンジョン、最初の分岐点を間違えると必ず偽ラストステージにたどり着くんだ」<br>「じゃあ、あいつ最初から間違った方向に向かって一生懸命向かっていたの？　3日間も!?」<br>「だから言っただろ。　あいつは絶対にたどり着けないって。　そもそも、あのナビゲーターは絶対に正解ルートに案内しないように設定されているしな」<br>「うわぁ……酷いダンジョンだとは思っていたけど、まさかここまでとは」<br>　隣のモルガンにいたっては、口をあんぐりと開けたまま声も出ない。</p><p>「ちなみに、誰かが偽ダンジョンを攻略しないと途中の扉も開かないようになっているから、やっと正解ルートの通路が開いたって段階だ。　ちなみに正解ルートに進んだ挑戦者は一人もいないから、今年のイベントも俺たちの勝ちだな」<br>　底意地の悪い形に唇を歪めて、アベロットがニヤリと笑う。<br>　見渡せば、他のギルドメンバーも同じような笑みを浮かべていた。</p><p>　……ダメだ、こいつら。<br>　誰か何とかしてくれ！<br>　周囲の観客たちが、奇しくも同じせりふを心の中で呟いていた。</p><p>「それに……本当のラストステージはこんなに温くないから」<br>「……悪魔」<br>　トドメとばかりにそんな台詞を吐くアベロットに、アルルナが呆れたような感想を漏らす。</p><p>「そんなに褒めるなよ。　照れるだろ」<br>　誇らしげに胸を張る"おしゃべりモカシン"のギルドメンバーたちに、並み居る妖精達は心底恐怖を覚えたという。</p></font>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11342892831.html</link>
<pubDate>Fri, 31 Aug 2012 23:23:39 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第七章</title>
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<![CDATA[ <font size="4"><p>「ウソだ！　俺の自信作が……あんな簡単に!!」<br>　<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>の設置された観客用広場で、"おしゃべりモカシン"に所属している人形遣いが膝を地面について悲鳴をあげた。<br>　彼は、アベロットとガナルハナルが喧嘩をしていたときに横で見ていた新人ギルド員である。 </p></font><font size="+4"><p><font size="4">「……やっぱり、爪に麻痺毒を塗っておくべきだったか。　いや、床に落とし穴とか粘着液とか設置しとけばよかったんだ……そもそも先輩が銀のショットガンによる弾幕を許可してくれていたらこんな無様な姿を晒す事は……そうか、銀の殺傷力が問題だったのなら、別のもので……」<br>　ブツブツと小声で更なる陰険なトラップの構想について思案しながら、どす黒いオーラを撒き散らす後輩ギルド員。<br>　その姿を気味悪がるでもなく、他のギルドメンバーがむしろ懐かしむようにウンウンと横で頷くあたり、このギルドの恐ろしさが垣間見える。</font></p><p><font size="4">「能力は申し分なかったんだがな。　いかんせん、作った本人の実戦経験が足りなかったってところか」<br>　こんど戦闘訓練の研修もしなきゃならんな……配下のギルド員の作ったゴーレムをそう評価すると、アベロットは特になんでもなかったかのように手帳にメモを書き込んだ。</font></p><p><font size="4">「ねぇ、エイブ。　アレはやばいよ？」<br>　ダンジョンに潜ったナックラヴィーの予想外の強さに、アルルナが若干焦った声でアベロットに問いかける。<br>　思い切って、今月の食費を全てダンジョンクリア無しに賭けたアルルナとしては、死活問題だろう。</font></p><p><font size="4">「そうだな。　だが心配ない。　俺のギルドの力を信じろ。　それとも、得意の占いで結果を先に探ってみるか？」<br>　顔にやや冷汗をかいたアルルナへ、からかうような視線を返しながら、アベロットはまるで誠意の感じられない声でそんな台詞を口にする。</font></p><p><font size="4">「冗談言わないでよ！　自分の未来を覗くのは、占い師のタブーよ。　それに、賭け事の結果を読む事は占い師のギルドで禁止されてるの」<br>　占い師のギルドは比較的にメンバーへの強制力が低く、せいぜい互助会程度の組織でしか無い。<br>　だが、同業者から恨まれるのは避けるべきだろうから、タブーを破ってまで賭け事の未来を読もうとする者は皆無だった。<br>　さらに占い師は、大概が腕のいい呪術師であるから、莫大な利益を得る事で彼らを敵に回せば、どんな呪いをかけられるか解らないのだ。</font></p><p><font size="4"><br>「それよりも、さっきからあのナックラヴィーの呼んでいる名前って、モルガンの姐さんの事か？」<br>「まさか？　そんな畏れ多い」<br>　だが、アベロットやアルルナの知り合いの名前で、モルガンと言えばただ一人。<br>　モルガンI.N.Cの女社長であるモルガン・ル・フェイその人の事である。<br>　妖精界でも指折りの美女ではあるものの、その魔性と崇拝の念ゆえに、彼女と同じ名を語る妖精はまずいない。<br>　そもそも、彼女は妖精王どころか女神と呼ばれる存在である。<br>　生半可な妖精では、その名を口にするのもはばかられる存在なのだ。</font></p><p><font size="4">「あぁ、彼のことね」<br>　突然後ろから響いた妖艶な声に、アルルナは全身の毛を逆立てながら、アベロットはややウンザリとした顔をしながら振り向いた。</font></p><p><font size="4">　そこには妖艶という言葉をそのまま形にしたような美女が佇んでいた。<br>　アベロットの趣味からすると、ちょっと大きすぎると感じるほどに豊満な胸、いっそ作り物めいたほど細い、だが折れるような儚さはまるで無いお腹まわり。<br>　ヴァイオリンの胴体のように滑らかな曲線を描く腰をくねらせるすの歩みはまさに忍び寄る肉食獣。　青みを帯びた銀色の髪は途中から霧となって虚空に白く霞んで消え、彼女の美貌に更なる神秘性を沿えている。</font></p><p><font size="4">「なんだ、会社の技術員が来ているのかと思っていたら、女神自らがご出陣でしたか」<br>「嫌ぁねぇ。　私とエイブちゃんの仲じゃない。　モリィ姉さんって呼んでいいのよ？」<br>　欠片も歓迎していない声でそう告げると、妖精の女王にして霧の女神であるモルガン・ル・フェイはアベロットの後ろに回りこみ、少し背伸びをしながらその背中に抱きついた。<br>　――なっ!?　一瞬、アルルナの顔が鬼女のそれに変わると、その気配を察したモルガンは視線だけをアルルナに送り、口の端でニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。</font></p><p><font size="4">　だが、アベロットは肩にかかる細い腕をやや強引に振り払うと、取り付く島も無いような仏頂面で彼女の腕の中から逃れた。<br>「お断りします。　兄の愛人の貴女と馴れ合う気はありませんから」<br>　貴女の逆ハーレムに入る気はありません。<br>　なおも伸びるしなやかな指を手で遮り、アベロットははっきりと拒絶をたたきつけた。<br>　その様子にアルルナは若干安堵するが、やはりどこか心穏やかではいられない。</font></p><p><font size="4">「あいかわらずツレないのねぇ。　……それにしても、あいかわらずいい体」<br>　モルガンの視線が顔から首、着痩せする逞しい胸を通り過ぎて下腹部に落ちる。<br>「よしてください。　俺は兄と違って貴女の愛人になる気は更々ありませんので」<br>　その猛禽のような視線を嫌がって、アベロットはややモルガンから距離を取った。<br>「あら。　別に貴方にその気があるか無いかなんて関係ないのよ。　問題は、アタシにその気があるか無いかなんだから」<br>　その声色にゾクリとする暗さを滲ませながら、モルガンはなおも微笑む。<br>　その台詞に嘘は無い。<br>　女神である彼女が望むなら、ただの妖精であるアベロットは従うしかないのだ。<br>「それで俺を愛人にすると？　……愛してもいないのに？」<br>　せめてもの抵抗なのか、この人好きのする顔をした青年には珍しく、真冬の風のように冷たい目で見つめ返す。<br>　その目に宿る感情を言葉にするなら、おそらく侮蔑。<br>　ある意味で"愛"とは真逆の類の感情である。</font></p><p><font size="4">　だが、そんな目を向けられてなお、モルガンは笑う。<br>　その狂気にも似た無邪気さに、アルルナはこっそり悲鳴を飲み込んだ。<br>　これは断じて"愛"では無い。<br>　むしろ忌避すべき残酷さ……そう、たとえば羽虫の羽を引きちぎる子供のような……</font></p><p><font size="4">「愛しているかなんてどうでもいいわ。　でも、楽しい事は好きよ」<br>　その台詞が、彼女の抱く想いの全てを物語っていた。<br>　いや、アベロットが伝え聞く限りではそれだけではないはずなのだが……<br>　いずれにせよ彼女は女神。<br>　ただの妖精であるアベロットと、同じ目線で語り合うことなど未来永劫にありはしないのだ。</font></p><p><font size="4">「で、彼は知り合いなんですか？」<br>　奇妙な会話の流れを振り切るようにアベロットが力技で話題を元に戻すと、かの女神はリトマス紙に酸を垂らしたように一瞬でその表情を変えた。</font></p><p><font size="4">「前々から言い寄られているんだけど、鬱陶しいからエイブちゃんの所のダンジョンクリアしたら付き合ってあげるなんていっちゃったの」<br>　意外と強かったみたいね。<br>　そうクスクスと笑っては見るものの、その目は確実に笑ってない。<br>「似たもの同士でお似合いだと思いますよ？」<br>「あらやだ、ずいぶん酷いこと言うのね。　とてもとても不本意だわ」<br>　アベロットがわざと挑発するような台詞を叩きつけると、モルガンはその血のように赤い唇だけを吊り上げて笑って見せた。<br>　――並の妖精なら一瞬でショック死するような威圧をつけて。</font></p><p><font size="4">「で、彼だけど、クリアできそう？」<br>「無理ですね。　我々のダンジョンが、彼のように力押しで制覇できる場所だなんて貴女も思っていないからこうやって押し付けたんでしょ？」<br>　睨み付けることにも飽きたのか、モルガンが肩をすくめてそんな台詞を口にすると、アベロットもまた鼻から溜息を吐いて肩を竦め返す。</font></p><p><font size="4">「じゃあ、一つお願いしていいかしら？」<br>「どうぞ？　言う事は想像つきますけどね」</font></p><p><font size="4">　息を一つ吸うと、女神は再びあでやかな笑みを顔に貼り付けてこう言った。<br>「どんな手段を使ってもいいから、あの下種に花火を打ち上げさせないで」</font></p><p><font size="4">　その恫喝をこめた台詞に、アベロットは腰を折り曲げて芝居のかかった仕草で一礼してみせる。<br>　そして余裕の笑みと共に、こう返事を返した。<br>「お任せあれ、我らが女神。　そもそも、あんな脳筋、我々の敵じゃないですよ。　貴女の深い退屈を紛らわす余興として、最高に無様な最後をご用意いたしましょう」</font></p></font>
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<pubDate>Fri, 31 Aug 2012 23:20:16 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第六章</title>
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<![CDATA[ <font size="4"><p>「なんと言うか、クソゲーで、無理ゲーな仕様ね」<br>　　<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>を見つめるアベロットの横で、アルルナが辛辣な感想をポツリと漏らす。<br>　魔術によって呼び出された霧の幻灯機は、まるでトンボの複眼で世界を見ているかのように、ダンジョンの中の光景をいくつも映し出していた。<br>　だが、そのどれもが悲鳴を上げてのたうつ挑戦者たちを主人公とした地獄絵図である。<br>　おぞましさのあまり目を反らしても、その耳に襲い掛かる悲鳴、絶叫、断末魔にすらならない喉を引き裂くような木霊の後に続くのは、延々と地獄のような呻き声。<br>　まともな神経では正視にたえかねる光景だが、そこは無慈悲で残酷な事で知られる妖精達のこと……中にはビールを片手に枝豆をつまみながら嬉々として観戦する豪の者も少なく無い。 </p><p>「そりゃ仕方が無いさ。　侵入者を完全に撃退することを前提に作られているんだから、まだ温いと思うが？」<br>「そういわれるとそうなんだけどさぁ……見ているほうは微妙に胸が痛いわよ、これ」<br>　<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>を見つめるアルルナの眉間に薄っすらと皺が寄る。<br>　どうやら、今回のダンジョンは彼女のお気には召さないようだ。<br>　死なないように手加減されてはいるものの、むしろその分プライドとか人格や尊厳といった部分にダメージが加わるため、ある意味では普通のダンジョンよりもさらに残酷な仕様である。<br>　長時間見続ければ、まともな神経の持ち主だと居た堪れなくなってきても仕方が無い。</p><p>「周りから愉快犯魔女と呼ばれているヤツの台詞とは思えないがね」<br>「私の好奇心を満たすものならいくらでも平気なんだけどね。　ちょっと、これは無理。　せめて、一人ぐらい活躍する選手がいればいいんだけど、これじゃ一方的ななぶり殺しじゃない。　あまりにも趣味が悪いわ」<br>　挑戦者の苦悶を眺めて歓喜する妖精達の笑顔を一瞥し、アルルナは汚らわしいものを見たかのように吐き捨てる。<br>　そんな様子に、事の仕掛け人であるアベロットもかすかに苦笑いを浮かべた。</p><p>　彼女の言いたい事もよくわかる。<br>　ようするに、実力が違いすぎるために面白みが無いのだ。<br>　ならば、残るのはただひたすら後味の悪さのみ。<br>　アルルナが嫌がるのも仕方がない。</p><p>「ん？……どうやら、なかには結構奮闘しているヤツもいるみたいだぞ」<br>「え？　どこ!?」<br>　アベロットがダンジョン内部のデータを端末で呼び出すと、とたんにアルルナが食いついた。</p><p>「ほら、すでにCエリアに突入しているやつが居る……あ、でも見ないほうがいいな」<br>　なぜか途中で言葉を濁すアベロット。<br>　Cエリアといえば、ダンジョンの上層部の終わりに近い場所である。<br>　アベロットの手がけたダンジョンが一日目でここまで到達されるなど、ここ何十年も無かったことだ。<br>　好奇心にかられ、アルルナは彼の台詞の意味も考えずに個人用サイズの<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>の制御盤に手を伸ばす。<br>「なんでよ！　……って、うわぁっ!?」<br>「だから見ない方がいいって言ったのに」<br>　<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>の一部に干渉し、アベロットの見ている画像を目の前に呼び出した瞬間、アルルナは悲鳴を上げて尻餅をついた。<br>　<br>「参加者がナックラヴィーなら早く言いなさいよ！　バッチリ見ちゃったじゃないっ!!」<br>　好奇心、猫を殺すとはよく言ったもので、アルルナは真っ青な顔で恨みがましい視線を向けてくる。<br>　同時に、アルルナの見ていた画像に興味を示した周囲の妖精達が同じ画面を見ようとし、同じように腰を抜かす。<br>　その被害者のほとんどがケットシーと言うのは、もはや種族的なお約束だろう。<br>　彼らが迂闊な行動をとるのは昔から全く変わる事が無い。</p><p>　……ナックラヴィー<br>　妖精達の中でももっとも邪悪で醜いと呼ばれる存在であり、その姿は並みのホラー映画では比較にならないほどおぞましい。<br>　およそかすめる程度には人の姿に似ているものの、その下半身は馬であり、全身の皮膚が爛れたように捲れ上がり、青くて太い血管がドクドクと脈打つ光景は、見るものに強い生理的嫌悪を引き起こす。<br>　首はほぼ無く、顔は肩に埋没するような位置に収まっており、骨格を無視して360度顔を回転させながら道行く旅人を追い回すのだ。<br>　そして力尽きた旅人を、その手にした槍の餌食にする……もはや妖精と言うよりただの化け物である。</p><p>「それにしても、アイツ……強いね」<br>　不快気に眉を寄せたまま、アルルナは画面の向こうのナックラヴィーをそう評した。</p><p>　そのおぞましい生き物は、手にした槍を武器に、ゴーレムたちを次々と粉砕してゆく。<br>　鉄よりも硬いはずの魔道合金製のゴーレムを一撃で倒すなど、一流と呼ばれる傭兵要請でも不可能だ。<br>　腕もさることながら、まず武器がもたない。<br>　そんなマネが出来るのは、聖悪に関わらず英雄と呼ばれる領域にある者だけだ。</p><p>「おぞましい限りだが、力だけで言えばアレは英雄と呼んで差し支えないだろうな」<br>「なに敵を褒めてんのよ！　あんなの反則でしょ!?　なんで英雄クラスの妖精がダンジョン攻略なんて売名行為に走ってんのよ!!」<br>　英雄と呼ばれるような妖精は、ルーサナーの祭りに参加しない。<br>　それは暗黙の了解であった。<br>　なぜなら、英雄と呼ばれるほどのものならば、こんな売名目的のイベントに参加しなくても仕事はどんどん入ってくる。<br>　それに、英雄クラスの人間に参加されると後進の傭兵たちが霞んでしまい、彼らの恨みを買ってしまうのだ。</p><p>「知らんよ。　知ったところで、ダンジョンは来るものを拒まずだ。　それに……まだヤツがこのダンジョンをクリアできるとは限らないしな」<br>「そんなの気休めじゃない！」<br>　噛み付くように肩を揺さぶるアルルナに、肩をすくませるだけで応えると、アベロットはその唇を不適な笑みの形にゆがめる。</p><p>「そうでもない。　言っただろ？　今回は自信作だって。　このままなら、ヤツは絶対にクリアできない」</p><p>*************************************************************************************</p><p>「……話に聞く、おしゃべりモカシンのダンジョン。　噂にたがわぬ悪辣さだな！」<br>　気化したシロップの胸糞が悪くなるような臭いに辟易しながら、彼――ナックラヴィーはウンザリとした声を上げた。</p><p>　同時に、手にした槍に魔力を込めて襲い掛かる金属製のゴーレムへと振り下ろす。<br>　もはや槍の穂先は完全に刃が潰れ、鈍器としてしか使うことは出来ないが、もともとこのダンジョンでは刃物など大して意味が無いし、むしろ都合がよかったとも言えるだろう。</p><p>　耳がおかしくなりそうな音と共にゴーレム――悪趣味にも、美術品と言っていいほど美しい女性の形をしたものが、壁に叩きつけられてその行動を停止する。</p><p>「女の形をしていれば躊躇うとでも思ったか？　俺に色仕掛けは無意味だ。　それにこいつさえあれば他に目移りするはずも無い」<br>　そんな彼の腰のあたりには、彼の理想の女性像を形にしたナビゲーターが縛られ、括り付けられ、その目からは涙が流れ落ちている。<br>「俺の愛しいモルガン……本物のお前を抱きしめるのが楽しみだ」<br>　その美女の頬に貪るように乱暴なキスを落とし、彼は皮膚の捲れ上がった醜い顔に恍惚とした表情を浮かべた。<br>　傍から見ていると、まるで美女を掠う誘拐犯のようにしか見えない光景だ。<br>　いや、自らの愛するものの形を己に縛りつけ、それが苦悶の表情を浮かべてなお恍惚とした表情を浮かべる者がいたら、それは誰の目から見ても邪悪だと言えるだろう。</p><p>　そんな彼に向かって、さらに通路の向こうからやってきた無数の美女型ゴーレムが襲い掛かるのだが、彼は恍惚とした顔のまま、その槍を振るって容赦なくゴーレムたちを粉砕する。<br>　そのたびに、|濃霧式投影機《ミスト･ビジョン》の向こうで様子を覗っている観客たちから押し殺したような悲鳴が上がるのだが、そんな事を彼も知るはずも無い。<br>　それにしても……本来、敵役のゴーレムが、まるで正義の使者のごとく見えるのはなんと言う皮肉か。</p><p>　やがて美女ゴーレムの襲撃がひと段落すると、彼はフゥと息をついて腰の水筒を取り出して水をあおった。<br>　だが、音を立てて水を飲み下す喉がふと止まる。<br>　そして彼はそのまま、邪魔だとばかりに手にした水筒を地面に投げ捨てた。</p><p>　――ジャリッ</p><p>「大物のお出ましのようだな」<br>　薄暗いダンジョンの奥から、砂地を踏みしめるような音が響き渡る。</p><p>「……こいつはすごいな」<br>　睨み付ける闇の向こうから、なにかキラキラと輝く生き物が顔を出すと、彼は目を見開き、思わず感嘆の溜息を漏らした。</p><p>　闇の向こうから表れたのは、黄水晶で出来た豹。<br>　このダンジョンの最初のボスキャラとして創造されたゴーレムだった。<br>　芸術品としか言いようの無いその美しい造形物は、目にも留まらぬスピードで駆け寄り、その爪をナックラヴィーの体に突きたてる。<br>「くっ！　早い……」<br>　なんとかギリギリで横に避けたナックラヴィーだが、その体には数本の赤い筋が刻まれた。<br>　だが、その凄まじいスピードについて感想を述べるより早く、壁を蹴った豹が再び後ろから襲い掛かる。<br>「……がっ!?」<br>　今度こそ避ける事もできずに後ろから斬撃を受けてナックラヴィーの背中に血の朱が花開く。<br>　しかも豹の攻撃はさらに続いた。<br>　反撃を恐れたのか一撃を加えた後は素早く飛びすさり、ふたたび壁を蹴って死角に回り込む。</p><p>　かくして、先ほどとは逆の立場で一方的な攻撃が始まった。<br>　幸いにも、スピードに重点を置いたせいか豹の一撃はさほど重いわけではない。<br>「……調子に乗るなよ」<br>　ナックラヴィーはその動きをただじっと見据え、致命傷となる攻撃はぎりぎりで交わし、ただひたすらチャンスを待つ事にした。</p><p>　ヤツの攻撃はべらぼうに早い。<br>　まともに目で追ったのでは捕らえきれないし、そのとんでもないスピードに追いつく自信は無い――だが。<br>「悪い意味で動きに無駄が無さ過ぎて、先が読みやすいんだよ！」<br>　豹の動きを見切ったナックラヴィーは、その槍の切っ先を豹の動く先に突き出した。</p><p>　ガシャァァァァァン!!</p><p>　ガラスのような音を立てて、黄水晶の豹が自ら槍の先に突っ込むような形で衝突し、ものの見事に砕け散る。</p><p>「お前、中々強かったよ。　だが、俺のモルガンへの思いはもっと強えぇんだよ」<br>　勝ち誇るナックラヴィーだが、その光景に歓声を上げるものは一人たりともいなかった。</p></font>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11342886310.html</link>
<pubDate>Fri, 31 Aug 2012 23:16:10 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第五章</title>
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<![CDATA[ <font size="4"><p>「いったい、何なんだよ、このダンジョンは！」<br>　カキ氷と言うテーマにも関わらず、ダンジョンの中は熱気の溢れる灼熱地獄だった。<br>　おまけにやたらと湿度が高く、しかも周囲には胸焼けがしそうなほど甘い臭いが立ち込めている。<br>　いや、実際に胸焼けがするし、空気自体が甘いのだ。 </p><p>「誰だ！　カキ氷のシロップの蒸気が立ち込めるダンジョンなんて考えたのは！」<br>　さすがに我慢の限界がきたのか、ダンジョンの中に頭の悪い子供のような悲鳴が木霊する。<br>　そんな彼の全身は、上から雨のように滴るシロップの雫にまみれベタベタでニチャニチャだ。<br>　はっきり言って見たくない光景である。</p><p>　ミストビジョンによる視聴率もただ下がりの状態で、きっと、今頃はダンジョンの企画担当を行ったギルド職員が、放映権を持つモルガンI.N.Cのプロデューサーに呼び出されてお説教を受けている頃だろうか。</p><p>　もっとも、そんな事でしおらしくなるほど、おしゃべりモカシンの対応要員の面の皮は薄くないので、きっと……</p><p>「この先に水場を用意しておりましてね。　そんなものを見れば、体を洗いたくなると思いませんか？　特に女性挑戦者ならば。　むろん、我々は女性挑戦者の脱衣を期待してこのような仕様にしたわけではありません。　シロップでベタベタになった体を洗いたいだろうと言う慈悲から設置したものですがね？」<br>　などと悪魔のような台詞を口にしているに違いない。</p><p>　……まぁ、実際にそういう対応をする予定ではあるのだが。</p><p>　ちなみに、アベロットの予想によれば、挑戦者の大多数を占める男性妖精によって、かなり見たく無い絵面が発生し、空前絶後の放送事故が発生する。<br>　不確定情報によると、今回のダンジョンの設計者がダンジョンを案内するナビゲーターのプログラムを弄っており、見目の良い挑戦者を優先的に水場に案内する仕様になっていると言う話もある……が、世の中過分な期待はしないほうが賢明というものだ。</p><p>　そして、挑戦者を阻むのは何も熱気とシロップばかりでは無い。<br>　当然ながらダンジョンの中には無数のトラップと警備用のモンスターが配置されている。<br>　だが、この祭りの場合は少しばかり特徴があり……</p><p>「くそっ、なんでゴーレムしか出てこないんだ？　硬くて刃が通らないぞ!!」<br>　迷宮のの中に金属がぶつかる音が響き渡り、まだ年若い挑戦者の悲鳴が迸った。<br>「バカ、お前ルーサナーのダンジョン始めてだろ！　こんなところに剣なんて持ってくるんじゃねぇよ、ド素人が!!」<br>　返ってくるのは実に冷ややかな罵倒ばかり。<br>　それもそのはず――普段は警備員役として配置されている連中がのきなみ挑戦者側に回っているため、この祭りで使用される警備要員の9割以上がゴーレム系のモンスターという状態だ。</p><p>　特殊合金や石で出来た敵を相手に剣や槍を用意したところで効果的なダメージは期待できない。<br>　それどころか、ドワーフの作った業物でも無い限り、ゴーレム相手に2～3回も戦えば刃先はボロボロになるので、はっきり言って使い物になりはしない。<br>　新人を冷ややかに見つめる彼の手にあるのは、当然ながら丈夫で禍々しいモーナングスターである。<br>　ルーサナーの祭りで本格的なダンジョンに参加するなら、武器は鈍器を用意すべし。<br>　これがこの祭りの常識であった。<br>　今頃、ゴーレム作成を専門とする人形使い(マリオネイター)と呼ばれる職人たちがこの光景を眺めてニヤニヤしている頃だろう。</p><p>　やがて悲痛な音と共に挑戦者の武器が砕け散ると、その音を聞きつけたらしき屈強な金属の巨人たちが地響きを立てて哀れな犠牲者に群がった。<br>　そして<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>の片隅に流れる"Retire"のテロップ。<br>　大穴に賭けた妖精達の手からオッズの紙吹雪が舞い散った。</p><p>　しかも、彼らを追い詰めるのは戦闘用ゴーレムばかりではない。</p><p>「ごめんなさい、またやっちゃいました！」<br>「「またかぁぁぁぁぁっ!?」」<br>　ダンジョンの中の別の場所。<br>　今度は複数の声が悲鳴に変わる。</p><p>　ガチャン。　ガコン。　ゴゴゴンゴゴゴンゴゴゴンゴゴゴゴゴゴゴゴゴコ……<br>　重々しい音を立てて、何か巨大な者が地響きと共に近づいてくる。<br>　だが、挑戦者達はその正体も確かめずに前に向かって走り出した。<br>　わざわざ後ろを振り返るまでもなく、俗に言うインディートラップと呼ばれる罠が発動したのだ。</p><p>　そう、このダンジョンのもう一つの恐ろしい策謀。<br>　それは、ナビゲーターとしてつけられているアイスゴーレムの"ドジっ子属性"だ。<br>　彼、もといは彼女達は、そこに落とし穴があれば発動のスイッチを見事に踏み抜き、そこに矢を放つトラップがあれば、その発動用の糸に見事に足を引っ掛ける。</p><p>　しかも、この迷宮のドアは全てナビゲーターの手でしか開ける事が出来ない仕様になっているのだ。<br>　つまり、ナビゲーターを手放せば、即座にゲームオーバーなのである。</p><p>　短慮にもナビゲーターを手放した挑戦者のチームもいくつかあったが、気付いた時にはすでに遅し。<br>　彼らは次善の策として、他のパーティーの所持するナビゲーターを強奪しようと同士討ちに手を出し始め、さらにナビゲーターが正式に認証されたパートナーを失うと機能を即座に停止すると言う、二段階の罠に足を突っ込む。</p><p>　そうでなくても、この灼熱のダンジョンに放り込まれたアイスゴーレム製のナビゲーターは、ほっとくと熱で自己崩壊を引き起こしてしまう。<br>　そのため、ナビゲーターの維持に氷魔術、もしくはダンジョン内のゴーレムがレアドロップする"氷"を与え続けなければならない。<br>　だと言うのに……</p><p>「はい、ご主人様！　さっき頂いた氷でカキ氷を作ってみました」<br>　与えた氷を一定確立でカキ氷にしてしまうという鬼畜仕様。<br>　しかも、カキ氷のシロップは材料不明である。<br>「い、いただきます……」<br>　額に青筋を浮かべたまま、差し出されたブルーハワイとおぼしきカキ氷を手に取る挑戦者。<br>　笑顔で食べきらないと、泣くは拗ねるはと色々めんどくさいのである。<br>　たかがナビゲーター、たかが心無きアイスゴーレムとは知りながらも、まるで自我を持っているように動く存在を無視するのは中々に難しい。<br>　全くもって性格の悪い仕様である。</p><p>　ちなみに、彼を映し出す<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>の画面の隅に、【シロップ:異界のタコイカ、クチューンの体液】と記されていることを彼は知らない。</p><p>　数秒後、再び<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>に"Retire"のテロップが流れた。</p></font>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11342881869.html</link>
<pubDate>Fri, 31 Aug 2012 23:11:08 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第四章</title>
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<![CDATA[ <font size="4">　彼らにとって幸いだったのは、チャレンジコースをたった一人でもクリアすれば先に進めるというモノだったことだろう。 </font><p><font size="4">「よくやった……お前の勇姿は忘れない」<br>「そこで寝ていろ！　お前はすでに英雄だ！」<br>　口々に讃美の言葉を投げかける歴戦の妖精達。<br>「……死ぬ」<br>　彼らによって丁寧にソファーに埋葬されたのは、シャック・オー・フロストの青年だった。<br>　冬の妖精の一人である彼がたまたま居合わせていなければ、おそらく今年のダンジョンはここで終わっていたことだろう。<br>　なんと、金ダライ三杯分のカキ氷を完食した彼は、さすがに冷気でやられはしなかったものの、物理的な量によって行動不能に陥っていた。</font></p><p><font size="4">「では、ダンジョンコースをご案内しますので、こちらへどうぞー」<br>　そんな英雄を尻目に、メイドの一人が朗らかな声で店の奥に挑戦者たちを案内する。<br>　彼女がなんでもない壁にメロンシロップで扉を描くと、まるでその絵が実体化するような形でドアが生まれた。</font></p><p><font size="4">　挑戦者たちが恐る恐る次のドアを潜ると、そこには色とりどりのドアが無数に並ぶ、妙に広い空間が広がっている。<br>　そして彼らが疑問を口にするより早く、案内役のメイドが口を開いた。</font></p><p><font size="4">「当ダンジョンでは、ご主人様お一人に1名ずつ、専用のナビゲーターをおっつけいたしまーす」<br>　ナビゲーター？<br>　だが、ここはカラフルな扉以外何もない場所である。<br>　<br>「では、最初の質問です。　ご主人様はどんなカキ氷が好きですか？」<br>　挑戦者たちが首をかしげていると、メイドはニッコリと微笑んだまま手近にいた挑戦者の一人にそんな質問を投げかけた。</font></p><p><font size="4">「い、イチゴシロップかな？」<br>「では、続いて……ご主人様の好みの女の子は、年下ですか？　とれとも同じ歳ぐらいですか？」<br>　思わず応えを返した挑戦者に、メイドはさらに質問を畳み掛ける。</font></p><p><font size="4">「と、年下が好みかな？」<br>「では、出来るだけ自分の好きな女の子のことを強くイメージしてくださいね。　そしてこちらの鍵を持って1番の部屋にお進みください。」<br>　その言葉と共にメイドが小さな嗅ぎを手渡すと、目の前にあった扉の一つに「1」の番号が浮かび上がった。<br>　そして指示を出された挑戦者がドアを開けると……<br>「……え!?」<br>　そこには、彼の理想を形にしたような無口な赤髪の幼女が、無表情なまま佇んでいた。</font></p><p><font size="4">「お兄さん、ロリを通り越してペドだったんですね」<br>　呆然とする彼の耳元でメイドがボソリと呟く。<br>「ち、ちちち、違う！　違うんだ!!」<br>　言い訳を口にしてももう遅い。<br>　彼が今まで日高くしにしていた性癖は、この場にいた挑戦者たちはおろかミストビジョンによて広く妖精社会に知れ渡ることとなる。<br>「……違うんだ。　信じてくれ」<br>　ガスっと鈍い音を立てて、彼の膝が冷たいダンジョンの床に崩れ落ちた。<br>　その肩を、赤毛の幼女が無表情なままポンポンと叩く。</font></p><p><font size="4">「当ダンジョンでは、ナビゲーターとしてご主人様の理想を具現化したアイスゴーレムをご用意しております。　それでは、素敵なダンジョンライフをお楽しみください」<br>　放心して真っ白に燃え尽きた若手の挑戦者を背にしたまま、メイドはにこやかに微笑んで見せるが、前に出ようとするものは誰一人としていなかった。<br>　一歩でも前に進めば、己の性癖が全てあからさまになる。<br>　それはちょっとした恐怖だ。</font></p><p><font size="4">「ちょっと、あんた」<br>「なんでしょう？　お嬢様」<br>　凍りつく男共を尻目に前に踏み出したのは、数少ない女の挑戦者の一人だった。<br>　女性とは言っても、背は高く、肩幅も広いために、口を開かなければ男と言われても納得してしまうだろう。</font></p><p><font size="4">「アタシのナビゲータも、やっぱり女の子になるのかい？」<br>　そういえば……と誰かが思わず口にすると、メイドはユックリとした動きで首を横に振った。</font></p><p><font size="4">「お望みならそうなりますが、男性型のナビゲーターもご用意いたしております」<br>「つまり……」<br>　誰かがゴクリと唾を飲み込む。<br>「可愛い男の子ってのもありなのか？」<br>「もちろんでございます」<br>　にこやかな笑顔で肯定する猫耳メイド。</font></p><p><font size="4">「男の娘もアリなのか？」<br>「もちろんでございます」<br>　にこやかな笑顔で肯定する猫耳メイド。</font></p><p><font size="4">　一瞬の沈黙。そして――</font></p><p><font size="4">「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！」<br>「Yes!Yes!Yes!」<br>「黙れこの変態共がぁっ！」<br>「燃えてきたあぁぁうぉらぁぁぁ!!」<br>「理想のょ ぅι゛ょが俺を呼んでいる！」<br>「ロリコンは許さないよっ!?」<br>「そこをどけ！　次はアタシがナビゲーターを選ぶ!!」</font></p><p><font size="4">　遥かなる地平の彼方、こことは異なる世界の人は言う。<br>　――赤信号、みんなで渡れば怖くない。</font></p><p><font size="4">　そう、一度に押しかけてナビゲーターをゲットしてしまえば、多少変な性癖であっても目立たない事に彼らは気付いてしまった。<br>　そして、この騒ぎはダンジョンの中だけにとどまらず……</font></p><p><font size="4">「「うぉおぉぉぉぉぉ!　俺も参加させろおぉぉぉぉっ!!」」<br>　本来ならば観客としてきていたはずの独身妖精達が、雄たけびを上げながら走り去る。<br>　目指すは、おしゃべりモカシンのダンジョンの入場権販売所。<br>　理由は深く語る必要は無いだろう。<br>　ただ、このイベントは途中参加も認められているとだけ言っておく。</font></p><p><font size="4">「ふーん、これが自慢の仕掛けってヤツ？」<br>　暴走する群衆を見下ろす高みで、アルルナの冷たい視線がアベロットの横顔を捕らえる。<br>　古今東西、この手の男性心理に対する女性の反応はなぜかいつもこんな感じだ。</font></p><p><font size="4">　だが、そんな視線を向けせられたアベロットはと言うと、そ知らぬ顔でニヤリと笑う。<br>「あぁ。　自分の理想の姿をとるアイスゴーレムだ。　あぁやって自分の理想の具現が隣に居るならば手放そうとはしないだろ？」<br>　そして彼は人の悪い笑みを深めて、こう付け加えた。<br>「たとえそれが、どんな足手まといでもな」<br>　――ほんと、男って馬鹿ね。<br>　そう溜息をつくアルルナに、『あの群集の中には女も混じってるぞ』とは、賢明にも付け加えないアベロットであった。</font></p><font size="4">　彼らにとって幸いだったのは、チャレンジコースをたった一人でもクリアすれば先に進めるというモノだったことだろう。 </font><p><font size="4">「よくやった……お前の勇姿は忘れない」<br>「そこで寝ていろ！　お前はすでに英雄だ！」<br>　口々に讃美の言葉を投げかける歴戦の妖精達。<br>「……死ぬ」<br>　彼らによって丁寧にソファーに埋葬されたのは、シャック・オー・フロストの青年だった。<br>　冬の妖精の一人である彼がたまたま居合わせていなければ、おそらく今年のダンジョンはここで終わっていたことだろう。<br>　なんと、金ダライ三杯分のカキ氷を完食した彼は、さすがに冷気でやられはしなかったものの、物理的な量によって行動不能に陥っていた。</font></p><p><font size="4">「では、ダンジョンコースをご案内しますので、こちらへどうぞー」<br>　そんな英雄を尻目に、メイドの一人が朗らかな声で店の奥に挑戦者たちを案内する。<br>　彼女がなんでもない壁にメロンシロップで扉を描くと、まるでその絵が実体化するような形でドアが生まれた。</font></p><p><font size="4">　挑戦者たちが恐る恐る次のドアを潜ると、そこには色とりどりのドアが無数に並ぶ、妙に広い空間が広がっている。<br>　そして彼らが疑問を口にするより早く、案内役のメイドが口を開いた。</font></p><p><font size="4">「当ダンジョンでは、ご主人様お一人に1名ずつ、専用のナビゲーターをおっつけいたしまーす」<br>　ナビゲーター？<br>　だが、ここはカラフルな扉以外何もない場所である。<br>　<br>「では、最初の質問です。　ご主人様はどんなカキ氷が好きですか？」<br>　挑戦者たちが首をかしげていると、メイドはニッコリと微笑んだまま手近にいた挑戦者の一人にそんな質問を投げかけた。</font></p><p><font size="4">「い、イチゴシロップかな？」<br>「では、続いて……ご主人様の好みの女の子は、年下ですか？　とれとも同じ歳ぐらいですか？」<br>　思わず応えを返した挑戦者に、メイドはさらに質問を畳み掛ける。</font></p><p><font size="4">「と、年下が好みかな？」<br>「では、出来るだけ自分の好きな女の子のことを強くイメージしてくださいね。　そしてこちらの鍵を持って1番の部屋にお進みください。」<br>　その言葉と共にメイドが小さな嗅ぎを手渡すと、目の前にあった扉の一つに「1」の番号が浮かび上がった。<br>　そして指示を出された挑戦者がドアを開けると……<br>「……え!?」<br>　そこには、彼の理想を形にしたような無口な赤髪の幼女が、無表情なまま佇んでいた。</font></p><p><font size="4">「お兄さん、ロリを通り越してペドだったんですね」<br>　呆然とする彼の耳元でメイドがボソリと呟く。<br>「ち、ちちち、違う！　違うんだ!!」<br>　言い訳を口にしてももう遅い。<br>　彼が今まで日高くしにしていた性癖は、この場にいた挑戦者たちはおろかミストビジョンによて広く妖精社会に知れ渡ることとなる。<br>「……違うんだ。　信じてくれ」<br>　ガスっと鈍い音を立てて、彼の膝が冷たいダンジョンの床に崩れ落ちた。<br>　その肩を、赤毛の幼女が無表情なままポンポンと叩く。</font></p><p><font size="4">「当ダンジョンでは、ナビゲーターとしてご主人様の理想を具現化したアイスゴーレムをご用意しております。　それでは、素敵なダンジョンライフをお楽しみください」<br>　放心して真っ白に燃え尽きた若手の挑戦者を背にしたまま、メイドはにこやかに微笑んで見せるが、前に出ようとするものは誰一人としていなかった。<br>　一歩でも前に進めば、己の性癖が全てあからさまになる。<br>　それはちょっとした恐怖だ。</font></p><p><font size="4">「ちょっと、あんた」<br>「なんでしょう？　お嬢様」<br>　凍りつく男共を尻目に前に踏み出したのは、数少ない女の挑戦者の一人だった。<br>　女性とは言っても、背は高く、肩幅も広いために、口を開かなければ男と言われても納得してしまうだろう。</font></p><p><font size="4">「アタシのナビゲータも、やっぱり女の子になるのかい？」<br>　そういえば……と誰かが思わず口にすると、メイドはユックリとした動きで首を横に振った。</font></p><p><font size="4">「お望みならそうなりますが、男性型のナビゲーターもご用意いたしております」<br>「つまり……」<br>　誰かがゴクリと唾を飲み込む。<br>「可愛い男の子ってのもありなのか？」<br>「もちろんでございます」<br>　にこやかな笑顔で肯定する猫耳メイド。</font></p><p><font size="4">「男の娘もアリなのか？」<br>「もちろんでございます」<br>　にこやかな笑顔で肯定する猫耳メイド。</font></p><p><font size="4">　一瞬の沈黙。そして――</font></p><p><font size="4">「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！」<br>「Yes!Yes!Yes!」<br>「黙れこの変態共がぁっ！」<br>「燃えてきたあぁぁうぉらぁぁぁ!!」<br>「理想のょ ぅι゛ょが俺を呼んでいる！」<br>「ロリコンは許さないよっ!?」<br>「そこをどけ！　次はアタシがナビゲーターを選ぶ!!」</font></p><p><font size="4">　遥かなる地平の彼方、こことは異なる世界の人は言う。<br>　――赤信号、みんなで渡れば怖くない。</font></p><p><font size="4">　そう、一度に押しかけてナビゲーターをゲットしてしまえば、多少変な性癖であっても目立たない事に彼らは気付いてしまった。<br>　そして、この騒ぎはダンジョンの中だけにとどまらず……</font></p><p><font size="4">「「うぉおぉぉぉぉぉ!　俺も参加させろおぉぉぉぉっ!!」」<br>　本来ならば観客としてきていたはずの独身妖精達が、雄たけびを上げながら走り去る。<br>　目指すは、おしゃべりモカシンのダンジョンの入場権販売所。<br>　理由は深く語る必要は無いだろう。<br>　ただ、このイベントは途中参加も認められているとだけ言っておく。</font></p><p><font size="4">「ふーん、これが自慢の仕掛けってヤツ？」<br>　暴走する群衆を見下ろす高みで、アルルナの冷たい視線がアベロットの横顔を捕らえる。<br>　古今東西、この手の男性心理に対する女性の反応はなぜかいつもこんな感じだ。</font></p><p><font size="4">　だが、そんな視線を向けせられたアベロットはと言うと、そ知らぬ顔でニヤリと笑う。<br>「あぁ。　自分の理想の姿をとるアイスゴーレムだ。　あぁやって自分の理想の具現が隣に居るならば手放そうとはしないだろ？」<br>　そして彼は人の悪い笑みを深めて、こう付け加えた。<br>「たとえそれが、どんな足手まといでもな」<br>　――ほんと、男って馬鹿ね。<br>　そう溜息をつくアルルナに、『あの群集の中には女も混じってるぞ』とは、賢明にも付け加えないアベロットであった。</font></p>
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<pubDate>Sat, 25 Aug 2012 00:26:45 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第三章</title>
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<![CDATA[ <p><font size="4">　闇の中に響く皮や金属の擦れる耳障りな音。<br>　何百人もの殺気立った男が放つ、むせ返るような汗の臭い。<br>　そのダンジョンの受け付け場所は、この会場のなかでも一際居心地の悪い場所だった。</font></p><p><font size="4">　そこは数あるルーサナーのダンジョンの中でも、毎年最高難易度を誇ると評判の、おしゃべりモカシンのダンジョンの入り口前。<br>　当然ながら、やってくるのは腕に覚えのある歴戦の猛者ばかりで、お祭りの雰囲気が強いイベント会場の中でも一際異彩を放っていた。</font></p><p><font size="4">　長蛇の列を創る彼らからは物々しい雰囲気がたちこめ、周囲からは鳥や獣の気配はおろか、虫の鳴き声ひとつしない。<br>　これだけ大勢が集まっているのに、誰一人口を開こうとしないのもまた不気味さに拍車をかける。<br>　彼らの顔に浮かぶのは、不安、緊張、そして決意。<br>　目の前のダンジョンは、歴戦の勇士である彼らをしてそのような顔をさせるだけの実績があった。</font></p><p><font size="4">　ある時はダンジョンに全員が入るなり入り口が自己崩壊を引き起こして生き埋め状態に。<br>　またある時は途中から隣のダンジョンに迷い込むように作られていたせいで結局出口すら見つける事が出来なかったり。<br>　毎年仕様やコンセプトが変わるものの、そのどれもが挑戦者たちを余裕を持って弄ぶ、実に悪質なダンジョンなのだ。</font></p><p><font size="4">　シュッ……不意に何かを擦るような音が響き、どこからともなく煙草の臭いが湿った蒸し暑い風に漂う。</font></p><p><font size="4">「今年こそ、このダンジョンを踏破して花火を打ち上げてやる」<br>　そして誰かが押し殺したような声でポツリと呟く。<br>　おそらく、この場を包む緊張感に耐えられなくなったのだろうか？　その男の声はわずかに震えていた。</font></p><p><font size="4">「だったら、煙草はやめろ。　火薬に火がついたらその場で他人を巻き込んでリタイアになるぞ」<br>　別の誰かが闇の中でそうたしなめると、低い舌打ちのあとに、何かを靴底で何度も踏みにじる音が響く。</font></p><p><font size="4">　彼らの言う花火とは、別に何かの比喩ではない。<br>　ダンジョンを踏破した者は、その証としてダンジョンの最奥部にある"表彰台"と呼ばれる場所から花火を打ち上げる事になっている。<br>　そのため全員が10尺玉の花火を一つ携帯しており、これを失えば自動的にリタイアとみなされるのだ。<br>　花火の色やデザインは挑戦者によって異なっており、自らの花火をダンジョンの奥から打ち上げる事が彼らの目標である。<br>　特におしゃべりモカシンの作ったダンジョンでとなれば、それはもはや英雄と同義語だった。</font></p><p><font size="4">「さぁ、おしゃべりモカシン共め、今年はどんなダンジョンを創りやがった！」<br>「吼えるな、若造。　毎年、お前みたいなのからまっさきにリタイアしてゆくんだよ」<br>「なんだと!?」<br>　おそらく初めてこの迷宮に挑戦する出あろう若手を、なんどもこのダンジョンに挑戦している熟練者がたしなめる。</font></p><p><font size="4">　その様子を別の挑戦者が忌々しそうに睨みつけると、まるでその場の空気を呼んだかのように、重々しい鐘の音が周囲に響き渡り、目の前の扉が音もなく開いた。<br>「……そろそろ時間だ。　行くぞ。　ちなみに、奴らはダンジョン作成にあたってケットシーを何人か雇ったという話だ。　何を考えているかは知らんが、油断だけはするなよ！」</font></p><p><font size="4">　その声に促されるかのように再びその場に沈黙が降り、挑戦者達はまるで葬列のような重々しさでダンジョンの入り口のドアを潜った。</font></p><p><font size="4">　――そして。</font></p><p><font size="4">「「お帰りなさいませ、ご主人様！」」<br>「「……は？」」<br>　全員の目が点になる。<br>　いや、むしろ心が折れて、体が塩の柱になりそうだ。</font></p><p><font size="4">　彼らを出迎えたのは、高い天井とお洒落な内装、そしてメイド姿をしたケットシーの女の子たちだった。<br>　しかも全員かなりの美人揃いである。</font></p><p><font size="4">　熟練の挑戦者が、自らの目をゴシゴシと擦り、その隣では別の挑戦者が頬をつねって夢を見ているのではないかと首を捻る。<br>　そんな挑戦者たちを尻目に、メイド姿の女の子達は彼らににこやかな笑顔を向けてこうのたまった。<br>「ご主人様、何名様でございましょうか？」<br>「さ、三名」<br>「三名様ご案内しまーす」<br>　明るい店内に、甲高くも甘い声が響き渡る。<br>　そこには己の力とプライドを賭けた戦いの緊張感などあるはずもなく、自らの主導権を奪われた挑戦者たちは、ただ促されるままにやたらとファンシーなテーブルに案内された。</font></p><p><font size="4">「……しかもこれ、カキ氷専門店？」<br>　テーブルに置かれたメニューを手に取ると、そこに記されているのはどれも色鮮やかなカキ氷ばかり。<br>　しかも、シロップで名前を入れたりシャーベットがベースになっていたりと、やたらとサービスや品数だけは多かった。</font></p><p><font size="4">「はい、ご主人様。　当店はカキ氷専門猫耳メイド喫茶でございます」<br>　――ココッテ　ダンジョン　ジャ　ナカッタ　ノ　デショウカ？<br>　全員が心の中で同じツッコミを入れたのは言うまでも無い。</font></p><p><font size="4">「みんな、騙されるな！　これはきっとアベロット・ラクリマンの陰謀だ！　目をさませ！　ダンジョンに続くドアを探すんだ！」<br>　3番テーブルと記された席から、突如として緊迫した声が上がる。<br>　どうやら、いち早く我に返った冒険者がいたらしい。</font></p><p><font size="4">「そ、そうだった！　えぇい、邪魔だ！　俺達は遊びにきたんじゃない！　ダンジョンの扉はどこだ！」<br>「……きゃあぁぁっ！」<br>　仲間の声で正気に戻った4番席の挑戦者が、ダンジョンの奥へ続く道を聞きだそうとしてメイドの腕を強引に引き寄せた。<br>　だが、その悲鳴に横にいた挑戦者がハッとした顔をして仲間の腕を強く抑える。<br>「よせ！　この店の中はミストビジョンで外に逐一放映されているぞ！」<br>「なんだとぉっ!?」<br>　そう、今はルーサナーの祭りの真っ最中。<br>　ダンジョンに挑んだ者の姿は遠視魔法を通じて祭りの広場の大画面に映し出される。<br>　ましてや、このダンジョンは注目している者も多い。<br>　そんな中でか弱いケットシーのメイドに乱暴を働いたなどとあっては、後でどんな評価を受けるか知れたものではなかった。</font></p><p><font size="4">「……おのれ、アベロット・ラクリマン！　俺たちに社会的に葬る気か!?」<br>　歯噛みする挑戦者たちだが、事態はあまりにも悪辣であった。<br>　おそらく彼らがダンジョンの奥に進むには、このメイドたちからその場所を聞き出す必要があるのだろう。<br>　だが、彼らのほとんどは傭兵じみた荒事を好む者達。<br>　腕力や暴力には自身があっても、交渉や話術に長けたものは少ない。<br>　ましてや、彼らの得意な舞台を広げようとすれば、最新鋭のマスメディアによって社会的なダメージは免れないのだ。</font></p><p><font size="4">「お前、ちょっとそこのメイド口説いて情報引き出して来い！」<br>「む、無理だよ！　酒場のネーちゃんならともかく、猫耳メイドは敷居が高すぎる!!」<br>　まさかこんな搦め手でくるとは思いもよらず、彼らのほとんどが絶望にも似た呻き声を上げていた。</font></p><p><font size="4">「はーい、ごちゅーもくー！」<br>　そして、いいかげん泣きが入り始めた挑戦者の前に、メイドたちが金ダライ一杯の雪の塊を持ち出したとき、彼らは心の底から死を覚悟した。</font></p><p><font size="4">「えーっとぉ、ダンジョンの奥に行きたい方は、本店のチャレンジコースを制覇してくださーい」<br>　言うまでもなく、それは金ダライ一杯のカキ氷の山。<br>　さらに後続のメイドが、その上にスコップで小さな雪山をペシペシと盛り上げるにつれて、彼らの勇気はどんどん盛り下がっていった。　</font></p><p><font size="4">　――おそるべし、アベロット・ラクリマン。<br>　ここに新たなる伝説が生まれたとして、誰が不思議に思うだろうか？</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11337040085.html</link>
<pubDate>Sat, 25 Aug 2012 00:23:37 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第二章</title>
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<![CDATA[ <p><font size="4">　妖精達の仕事は、盟友である魔物や自らの眷属を護るため、ダンジョンに入り込む者を撃退する事だが、年に一度だけその立場が逆転する事がある。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　"<ruby><rb />夏祭り<rt>ルーサナー</rt></ruby>"――それは、真夏の暑い夜に訪れる奇妙な祭典。<br>　妖精達が彼らの神の一人を迎える祭りである。</font></p><p><font size="4">　その日、アビスメーカー達は普段と違って遊びのためにダンジョンを造る。</font></p><font size="4"><p><br>　それは人類を死に追いやるためのものではなく、彼らの仲間である魔物や妖精達を楽しませるためのアトラクション。<br>　ちょうど迷宮の万博とでも呼ぶべきそのダンジョンの一群は、そのダンジョンを作り上げたアビスメイカーの技術力、発想力、美的感覚を一般の妖精や魔族たちにアピールするチャンスでもある。　</p><br><p><font size="4">　ただし、そこには明確なルールが存在していた。<br>　用意できるダンジョンは各ギルドにつきたった一つ。<br>　けが人が出る仕掛けをつけても構わないが、死人が出るような仕掛けを故意に作ってはいけない。<br>　そして毎年、運営委員会からお題が出され、そのお題にそったダンジョンを作る必要があるのだが……今年のお題は"カキ氷"。<br>　発表されるや否や、各ギルドのプランナーが頭を抱えたのは言うまでも無い。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「おぉ、今年もなんとか揃ったなぁ。　一箇所ぐらいは危険するかと思ったけど」<br>　会場の入り口となる七つの山に囲まれた盆地の草原を、アベロットはアルルナを伴ってブラリとほっつき歩いていた。<br>　その頬には先日ガナルハナルとやりあったときの傷が残っており、白い絆創膏がわりと痛々しい。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「まぁ、栄えある<ruby><rb />夏祭り<rt>ルーサナー</rt></ruby>の参加資格を辞退なんて、普通は考えもしないと思うよ。　ちなみにアベロットのところはどんなの造ったの？」<br>　真綿のように肌に纏わりつく湿った夜風を掻き分けながら、アルルナはその好奇心に従い、隣を歩くアベロットに問いかける。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「無粋だな、アルルナ。　こう言うのは先に言うと面白く無いだろ？　それにいくら幼馴染でも、イベント始まる前に他所の人間に社内機密をバラすわけにはゆかない。　大人しくチャレンジタイムになるまで待ってるんだな」<br>「なによ、ケチ！」<br>　頬を膨らませるアルルナをニヤニヤと眺めたまま、アベロットはスッと発光キノコのランプを掲げ、その指で上空を指差した。</font></p><font size="4"><p><br>「見ろよ。　今回の設備はすごいな」<br>　そこには、月明かりに照らされた巨大な霧の塊が立ち込めており、会場のあちこちに仕掛けられたカメラからの映像が投射されていた。</p><br><p><font size="4">「モルガンI.N.Cの開発した巨大<ruby><rb />濃霧式投影機<rt>ミスト・ビジョン</rt></ruby>だ。　どこのツテを頼っ</font><font size="4">たのやら」<br>　水晶に画像を映す<ruby><rb />水晶式投影機<rt>クリスタル・ビジョン</rt></ruby>に比べて巨大なスクリーンを容易に作り出せるこの技術は、家庭用にこそ向かないものの、このように広大なイベント会場にはうってつけの最新技術だ。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　ただ、ここまで巨大な霧を一箇所に固定させるとなると、おそらくモルガンI.N.Cの開発部の連中が直接会場に来ているに違いない。<br>　いったいどれだけの予算がつぎ込まれているのやら。</font></p><font size="4"><p><br>　――いや、採算に関しては問題ないか。<br>　イベントが始まると、各会場の中に入った挑戦者の様子が、この霧のモニターに映し出され、誰がこの迷宮をクリアするかで賭け事も行われるのだ。<br>　胴元である大会委員会には、うなるほど金が転がり込んでくるとだろう。</p><br><p><font size="4">「うわぁ、大げさになってきたね。　これ、中の様子全部映されちゃうんでしょ？」<br>　アルルナが楽しくて仕方がないと言った表情でミスト･ビジョンに向かって駆け出してゆくが、この画像投射器、実はあまり近くで見る事はお勧めできない。<br>　ずっと上を見続ける姿勢となるため首が痛くなるのだ。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「映るのは目立つ選手のあたりだけだよ。　ちなみに、撮影した映像は別のモニター室で一度チェックしていて、実は5秒遅れで広場のミスト・ビジョン投影されているらしい」<br>「放送事故対策ってやつね。　……個人的にはドキドキ感がなくて面白くないなー　放送事故とかって、見たときちょっと得した気分にならない？」<br>「不謹慎なヤツだな。　まぁ、知ってたけど」<br>　ミスト･ビジョンを固定させる水の魔法円の最外殻の縁のあたりで足を止めると、アルルナはようやく至近距離で画像を見る際の問題点に気付いたらしい。</font></p><font size="4"><p><br>　何かを思いついたようにポケットをまさぐると、"愚者"と"力"のタロットカードを取り出して、なにやら魔術を使い出した。<br>　どうやら、ミスト・ビジョンのために集められた水と風の魔術エネルギーを横から拝借して、雲で出来た足場を創るつもりらしい。<br></p><p>　なんともアルルナらしい身勝手な魔法……と言うか、軽く犯罪だぞ。<br>　ジロリと横目で睨むが、アルルナは我関せずとばかりに完成した雲の小船にヒラリと飛び乗る。</p><br><p><font size="4">「で、最高の叡智を持つと名高い、ギルド"おしゃべりモカシン"のギルドマスターとして聞きたいんだけど、今年のダンジョンの出来はどうなの？」<br>　雲でできた小船の上にアベロットを乗せると、アルルナは指を鳴らして小船をゆっくりと舞い上がらせた。</font></p><font size="4"><p><br>「まぁ、見てろ。　今年はウチのギルドメンバーが腕によりをかけた自信作だ」<br>　仕事にはやたらと厳しいアベロットが満足しているところを見ると、どうやら期待してもいいらしい。<br>　<br>「火力の高いモンスターが、ダンジョンの価値では無いことを思い知らせてやる」<br>　遠くを見つめ、アベロットは誰に聞かせるでもなく一人そう呟く。</p><br><p><font size="4">　このイベントで作成されるダンジョンにはいくつかの趣旨が存在し、子供でも遊べるような純粋な迷路だったり、内部で繰り広げられるショーを全て見て回るようなウォークラリー式のアトラクションと言う者が非常に多い。<br>　</font><font size="4"><br>　だが、トップレベルのアビス・メイカーの作るダンジョンともなるとかなり本格的で、実際に戦闘が発生したり、下手に手を出せば大怪我ではすまないものがほとんどである。<br>　参加者も、ほとんどは傭兵を生業とするものや腕試しが目的であり、最高級のアビスメイカーのダンジョンをクリアできたともなれば、少なくとも数年は仕事に困る事が無い。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　そのなかでもおしゃべりモカシンのダンジョンはもっとも難易度が高い事で知られ、１００年に一度達成者が出るかどうかと言う名のうての魔窟である。<br>　ちなみにアベロットの代になってからは、未だにクリアしたものが居ないのが密かな自慢だ。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「じゃあ、今年もエイブんところのダンジョンをクリアする猛者は出ないって事ね」<br>「あぁ、安心して賭けてこい。　万が一しくじったら俺が立て替えてやるよ」<br>　自身たっぷりな様子でそう告げると、アベロットは挑戦権を買い求める来場者を見下ろした。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　ダンジョンへの挑戦者は会場の入り口で挑戦権を購入し、必要な物資をそろえてから目的地へと潜り込む。<br>　というのも、彼らが用意したダンジョンはどれも日帰りで制覇できるようなものではなく、制限時間はなんと３日。<br>　ちなみに一番緩いダンジョンでも、一泊二日のスケジュールを組む必要がある。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　それもそのはず。<br>　彼らの挑むダンジョンはこの盆地を取り囲む山々……その名もルーサナー山脈そのものを利用したものであり、その山脈を構成する七つの大きな峰の一つ一つが大手ギルドによってダンジョンへと改造されているのだ。</font></p><font size="4"><p><br>　中小ギルドに与えられているダンジョン用のエリアも、その麓に点在する山一つといった規模であり、その広さたるや半端ではない。</p><br><p><font size="4">　そのため、スタート地点の盆地では、保存食や冒険のアイテムを売る露店が立ち並んでおり、毛布、保存食、武器、防具、キャンプ用品などをうる店のランプが闇の中に瞬いている。</font></p><font size="4"><p><br>　むろん、観客用の食べ物の屋台も存在しており、他にもダンジョンの中で営業を許されていない大道芸人たちが稼ぎ時とばかりに入り口付近で己の持ちネタを披露しているため、観客は皆、休む間もなく見物に勤しんでいた。</p><br><p><font size="4">「今年も賑やかになりそうだな」<br>　ポツリと呟いたアベロットの声は、まるで大河に一滴の雫を落としたかのように、周囲の騒音の中へと消えてゆく。</font></p><p><font size="4"><br>　祭りに酔いしれる人々の歓声は、重なり、うねり、まるで海鳴りのようなざわめきとなって人々のの心をさらに高ぶらせ、熱帯夜の熱はさらに高まるばかりであった。</font></p></font></font></font></font></font></font></font>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11332706801.html</link>
<pubDate>Sun, 19 Aug 2012 20:42:00 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲　第一章</title>
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<![CDATA[ <p><font size="4">　花火といえば、誰もが色とりどりの炎が天を彩る光の祭典を思い浮かべるだろう。<br>　だが、意外な事に花火に色がつき始めたのはわりとと最近のことである。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　そもそもなぜ花火に色があるかといえば、金属を加熱すると"炎色反応"という物理現象によって炎に様々な色がつくからなのだが、これがなかなか奥が深い。</font></p><font size="4"><p><br>　原色に近い色ならばともかく自分の望む色の炎を出そうとするならば、その作業は至難を極めるのだ。<br>　さらに望む色の炎色反応を見つけ出す事が出来たとしても、爆発時の温度が高すぎる場合は色が明るくなりすぎて淡くなってしまったりと、なかなか思い通りに行かないものなのである。</p><p><br>　よって、その色彩の出し方は非常に高度な科学技術の産物であり、剣と魔法の世界においては高度な錬金術の産物にあたるのだ。</p><br><br><p><font size="4">「……というわけで、エイブ。　ピンクの花火を作りたいんだけど、ピンクに燃える炎色反応のレシピ知らないか？」<br>　そう切り出してきたのは、身なりと体格のいい一人の青年だった。<br>　高そうなスーツをこなれた感じで着こなし、涼しげに整った男性的な顔立ちは、すれ違う女性が10人いれば8人ぐらいは振り返り――そしてその半分ぐらいは警戒を覚えるに違いない。</font></p><font size="4"><p><br>　その傲慢で不遜なニヤケ面をあえて何かに例えるならば、遊びなれた若社長。　二つ名に"夜の帝王"とでも呼ばれていても、何の違和感も感じないに違いない。</p><br><p><font size="4">「なんで他所のギルドのギルドマスターであるお前に、俺がそんなこと教えにゃならんのだ、ガーフィー。　はっきりいってソレは第三階梯以上の機密事項だぞ？」<br>　エイブと呼ばれた青年……アビス・メイカーのギルドの一つ"おしゃべりモカシン"を束ねるギルドマスターであるところのアベロットは、その深緑の瞳に苛立ちを隠そうともせず、相手の申し出をはねつけた。<br>　すでにまともに相手をするつもりがないのか、仕事机に書類を広げたまま相手の顔を見ようともしない。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「固い事言うなよ。　同じ腹から生まれた仲だろ？　ここは、この兄を助けると思ってだなぁ……」<br>「好きでお前の弟に生まれた訳じゃねぇよ。　それに自分の所で受けた仕事だろ？　自分のギルドの中でケジメをつけろ。　しかもお前のところ、ウチと違って最大手の一つだろ」<br>「それが出来ないからこうして頭下げに来てるんだろ？」<br>　そう言いつつ、ガーフィーと呼ばれた青年は腰に手を当てたままアベロットの横に近づくと、そのテーブルの上に腰をかけた。</font></p><font size="4"><p><br>　そのまま覆いかぶさるようにして視界に入ろうとするが、仕事中のアベロットからすると鬱陶しくて仕方が無い。<br>　額に血管を浮かばせながら、ジロリと相手の顔を見上げる。</p><br><p><font size="4">「一つ聞くが……お前、いつ頭下げたっけ？　我らがレプラホーンの王にして、ギルド"荒くれピンヒール"のギルドマスター！　ガナルハナル・ドン・アッハ妖精王閣下！　そういえば、この間はよくも難儀な仕事押し付けやがったな!?」<br>　このガーフィーの頼みごとを引き受けたせいで、ダンジョンの最下層に雷を落とすという難事業に手を出すハメになったのは、ほんの一月ほど前の話だ。<br>　その結果、アベロットは今まで仕事で造ってきたダンジョンの運営方法の記憶に欠落が発生し、こうして今もその欠落を補うべく記録を読み漁っている。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「そんな細けぇ事はいいんだよ！　それより依頼だよエイブ！　もちろん受けてくれるよな？　こんな無茶な依頼、お前のところ以外のどこが出来るって言うんだ!!」<br>　ぷちっ<br>　――細かいことだと？　ふざけるな！</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「勝手にウチに仕事回すな！　そもそも、そんな仕事請けるんじゃねぇ!!　節操が無いのは、その無駄にタフな下半身だけにしろ!!」<br>　椅子から立ち上がったアベロットが青年の顔面に拳を叩き込むと、<br>「テメェ、王の顔を殴りやがったな!?」<br>　ヨロリと起き上がった青年はアベロットを殴り返し、さらに殴り返そうとしたアベロットの腰に、低い姿勢からガナルハナルが飛びつき……あとは取っ組み合いの大喧嘩が開始される。</font></p><p><font size="4"><br>　そんな子供のような喧嘩を続ける二人を、当人たちの部下はただひたすら生温く見守るしかなかった。</font></p><p><font size="4">　そもそもこの二人、決して中は悪くないのだが、困った事に顔をあわせるたびにいつもこんな調子で喧嘩を繰り返す。<br>　今では部下たちも二人を止めることを諦めており、ただ大怪我をしないか見張りを立てるのみである。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　喧嘩をしていた大妖精二人が壮絶なダブルＫＯで仲良くひっくり返った後……おしゃべりモカシンの事務所では、ギルドメンバーがノビたアベロットを介抱しながら揃って溜息をつき、雑談に興じていた。<br>　ちなみに同じくぶっ倒れたガナルハナルは、先方のギルドの構成員によって速やかにお引取りいただいている。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「あれ、どうなると思います？　先輩」<br>　残業で残っていた妖精のうち、年若い方がそんな疑問を口にする。<br>　"あれ"とは、当然ガナルハナルからの依頼のことだ。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「さぁ？　たぶん、下請け扱いでこっちでやる事になるんじゃないのか？　いくら見知った相手でも、知識の切り売りは出来ないからな」<br>　断りたいのは山々だが、相手は大手ギルドにして妖精王である。<br>　いくに父親違いの兄弟とはいえ、簡単に仕事を断っていい相手ではない。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「まぁ、そんな所でしょうね。　しかし、ウチのギルドマスターがあのガナルハナル陛下の父親違いの弟だなんて初めて知りましたよ」<br>「そうなのか？　けっこう有名な話だぞ。　なんでも、先代のギルドマスターと先代の妖精王との間で派手に女の取り合いをしたそうだ」<br>　聞くところによると、先代同士は顔をあわせると今でも血の雨が降るほど仲が悪いらしい。</font></p><font size="4"><p><br>　まぁ、アベロットとガナルハナルの場合は喧嘩こそすれ、たまには一緒に飲みに行ったり、お互いの仕事の手助けをするのだから、それに比べればむしろ仲がよいと言うべきだろう。</p><br><p><font size="4">「そんなことよりも、今度の夏祭りのアトラクション作成だ」<br>　大人気ないギルドマスターの事を頭の中から追い出し、先輩妖精は作り終わった書類を束ねると、消しゴムのカスをトントン払い落とし、後輩妖精をチラリと見遣った。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">　彼の言う"夏祭り"とは年に一度のイベントの事で、そのイベントでは毎年一般の妖精達や魔族のみなさんが楽しむためのダンジョンが設置される。<br>「前回のプランじゃ死人が出かねないから、代替案を用意しとけと言っておいたよな？」<br>「ええ、出来てますよ。　今回はテーマが変だったから、かなり大変でしたけど」<br>　先輩妖精にむかって一つ頷くと、後輩妖精は鞄の中からいくつもの書類を取り出してテーブルの上に並べる。<br>　その内容を逐一チェックしながら、先輩妖精は訂正箇所を記すためにペンを走らせた。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「だよなぁ。　誰だよ、夏祭りのアトラクション用のダンジョンのテーマに"カキ氷"なんて選んだヤツは！」<br>「噂によると、大ババ様らしいですよ？」<br>　彼の言う"大ババ様"とは、冬の妖精達の大君主にして魔女の盟主である<ruby><rb />蒼褪めた老婆<rt>カリアッハ・ヴェーラ</rt></ruby>女王閣下のことである。<br>　普段ならば夏場は眠りについているはずなのだが、今年は蒸し暑さのあまり途中で起き出してしまったらしい。</font></p><p><font size="4"><br></font></p><p><font size="4">「げぇっ、カリアッハ・ヴェーラの御大かよ！　冬の女王め、何を考えてやがる!!」<br>　思わず口から出た大声に、後輩妖精が顔をゆがめる。<br>　どうやら書類に唾が飛んだらしい。<br></font></p><p><font size="4">「さぁ？　単に暑いのが嫌だったんじゃないですか？　閣下の夏嫌いは有名だし」<br>「ま、大方そんなところだろうな」<br>　上位の妖精達の我侭は今に始まったことではないが、つき合わされるほうの苦労も少しは考えてほしいものだ。<br>　一際深く溜息をつくと、先輩妖精は手にした書類を後輩へとつき返した。</font></p><p><font size="4"><br>「ほれ、添削終わったぞ。　時間が無いから、これ、明日中に仕上げとけよ」<br>「えぇっ？　先輩、後生です！　俺に、俺に睡眠時間を!!」<br>「無理だな。　徹昼しないと納期がまにあわんぞ」<br>「そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」<br>　後輩の悲鳴を背中に浴びながら、先輩妖精は無常にもタイムカードに判を押し、鞄を肩に引っ掛けてオフィスを後にした。<br></font></p></font></font></font></font>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11332343475.html</link>
<pubDate>Sun, 19 Aug 2012 11:57:13 +0900</pubDate>
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<title>第二話　真夏の夜の狂想曲 プロローグ</title>
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<![CDATA[ <p><font size="4">「好みのタイプ？　そうね、強くて逞しい人が好きよ」<br>　彼女は笑顔でそう告げると、その頬を薄っすらと赤らめた。</font></p><p><font size="4">「たとえば、ダンジョンの奥深くに囚われた私をたった一人で助けに来てくれるような人がいないかなんて夢想することもあるわ」<br>　その言葉に、心の奥底が暗くざわめく。<br>　生憎と、自分は姫を助けるほうではなく、そのダンジョンで挑戦者を待ち構えるほうの存在だ。<br>　だが、それは目の前の彼女も同じ。</font></p><p><font size="4">「想像するぐらいいいでしょ？　たまに、ダンジョンの奥底までやってきた冒険者の男の人に、ドキドキしちゃう事があるのよねぇ……やっぱり、あの人たちカッコいいわ」<br>　ほんと、食べちゃいたいぐらい。<br>　そう小声で付け加えると、彼女は唇の周りをその舌でなめ取った。<br>　その仕草を見て、彼女もまた自分と同じ側の存在である事に安堵を覚える。</font></p><p><font size="4">「でも、彼らがダンジョンを突き進む姿って、ほんとかっこいいのよねぇ。　私、なんで魔物なんかに生まれちゃったのかしら？」<br>　その彼らを前にしたら食欲しかわかないだろうに、今日も彼女は懸想する。<br>　全てが無意味だとは知りながらも。</font></p><p><font size="4">　自分たちが彼らと交わる事は永遠に無い。<br>　なぜならば、彼らは昼の住人であり、自分達は夜の住人だからだ。<br>　共にあらんとすれば、自ずと無理が生ずる。</font></p><p><font size="4">　だが、彼女の心を射止めるならば、その昼の住人である冒険者のようにダンジョンに挑む必要があるのだろうか？<br>　ダンジョンを蹂躙し、自らの力を見せ付けたならば、彼女は自分に振り向いてくれるのだろうか？</font></p><p><font size="4">　そこに思考がたどり着くや否や、彼は何の気兼ねもなくダンジョンに挑む事が出来る機会がある事を思い出す。</font></p><p><font size="4">「なら、俺が冒険者のようにダンジョンに挑み、踏破する事が出来たならどうする？」<br>　彼がそんな言葉を口にすると、彼女もまた「あぁ」と呟いてその機会を思い出した。<br>「そういえばそんな時期ね」<br>　その愉悦のひと時、真夏に行われる熱帯夜の祭典を思い出し、その頬が軽く緩む。</font></p><p><font size="4">「もし、俺がダンジョンを攻略し、その証を見せる事が出来たなら……」<br>「そうね、その時は考えてもいいわ」<br>　恍惚とした表情を浮かべた彼女が、浮ついた声でそう返事を返すと、彼は<br>その目にギラギラとした光を宿し、自ら誓いを立てた。</font></p><p><font size="4">「わかった。　俺はダンジョンに挑む。　そしてダンジョンを攻略できた暁には、俺は君への思いの証を天に打ち上げるよ」</font></p><p><font size="4">　とある魔物の、魔物たちによる、魔物のための祭典が間もなく始まる。</font></p>
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<link>https://ameblo.jp/n-udoh/entry-11322721463.html</link>
<pubDate>Tue, 07 Aug 2012 21:46:35 +0900</pubDate>
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