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<title>交換小説のブログ</title>
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<title>ムササビガール</title>
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<![CDATA[ なんかもう泣けてきた。帰りたい。<br>赤や黄色に染まった木々を横目に黙々と斜面を歩いている。<br>先を行く二人はおしゃべりに夢中で、１m2mと徐々に遅れをとっている私を振り返りもしない。<br>ちょっと、私もいるんですけど。<br>そもそも私がお願いした高尾山ムササビハイキングなのに。<br>ちょうど2週間前、バイトの休憩が裕也くんと一緒になった時に奇跡がおきた。<br>裕也くんは一週間違いでバイトに入ってきた、役者をめざしててひとひねりありつつも素朴なイケメンで完全に私のストライクゾーン。<br>とはいっても、昔も今も、地味で暗くて、向上心も協調性も存在感も個性も華もない、パッとしない自分の<br>立ち位置はよくわかってるので、他の華やかな裕也くん狙いの女の子達みたいにはなれないってことは、<br>百も承知で立場をわきまえつつ、色気のないキノコやムササビの話なんかしてたんだけど。<br><br>裕也くん、めちゃめちゃムササビに詳しくて、キノコなんかにも精通してて聞けば山梨のおじいちゃんちの裏山で、いつも遊んでいたそうな！<br><br>もう楽しくて楽しくて、つい「高尾山にムササビを見に行きたい！連れてって」なんて身の程知らずなおねがい<br>に「いいよ！行こう」なんて最高の笑顔でこたえてくれるから動揺して「別に裕也くんと行きたいんじゃないですよ。ムササビが…」何て言ってたら、すかさず裕也くん狙い女子に検知されて「わたしも行くー」ということで今、こうしてさびしく斜面を歩くことになったというわけです。<br><br>「えー裕也くん、すごーい」<br>半年もいっしょに働いてるけど一言もしゃべったことのない女子の声(ついでにいえば名前も知らない)が耳障りで、落ち葉をがさがさいわせながら歩いた。<br><br>…身の程知らずに夢をみたからこんなことになったんだ。裕也くんと休憩の時は特に話をしなくてもいい感じで、たいした話をしなくても通じてるなって感じがしてて裕也くんも、もしかしたらそう感じてるんじゃないかな？って勘違いをしてしまった。<br>うつむいて歩いていると、裕也くんが私を待っていた。<br>「疲れた？ここで休憩しよう」<br>名も知らぬ女子はベンチで手作りスイートポテトと紅茶を広げ、裕也くんここと呼んだ。<br><br>左から裕也くん、スイートポテト、名も知らぬ女子、<br>私と横一列にベンチに座り彼女の手作りスイートポテトと紅茶をいただく。すごく、おいしい。<br>私の背中のリュックには自分の分のおにぎりとお茶が入<br>っているだけだった。<br>裕也くんが、わたしに話しかけてるのが聞こえたけどしゃべると、泣いてしまいそうで返事もしなかった。<br>みじめだった。<br>もう、これ以上ふたりの邪魔にならないように<br>「急に具合が悪くなったみたいで、ごめんなさい。そこにケーブルカーもあるようなので先に帰ります」立ち上がると裕也くんが私の腕をつかんだ。<br>途端に私は「わー」とさけんでてを振り回し走った。<br><br>ケーブルカーに乗り込み振り返ると二人は立ち上がってこっちをみていた。<br><br>最低。最悪。勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んで、自爆か。<br>もう、裕也くんに会わせる顔なんてない。<br>ケーブルカーを降りて駅に向かって歩いていると、ポケットの中でメールの着信を知らせるベルがなった。<br>裕也くんからだった。<br><br>あーぁ。覚悟を決めてメールを開く。<br><br>田中さん<br>大丈夫ですか？僕たちも今日は、帰ります。<br>ムササビは、田中さんの調子のいいときに今度は二人で探しにきましょう。<br>ムササビは、意外と狂暴でそして臆病なんですよ。<br>田中さんはムササビ好きなだけあって、ちょっとムササビに似ています。しかも僕は、そんなムササビが大好きなんですよ。じゃあまた明日、遅番で、お大事にしてください。<br><br>……………………………………………………………!!<br><br>まだ………よく…わかんないけど…今度、来るときはお弁当は裕也くんのお弁当も作って来ようと思う。絶対。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11700394013.html</link>
<pubDate>Mon, 18 Nov 2013 02:06:00 +0900</pubDate>
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<title>里山と道</title>
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<![CDATA[ 「分かった、今すぐ向かうよ」<br><br>4日前、家を飛び出したまま行方しれずになっていた息子を迎えに車に乗り込んだ。富ヶ谷から首都高に乗り、西新宿で左に折れる。小雨が降り出す中央道を西に向かう。実家に帰るのはいつぶりだろうか。調布を過ぎたあたりから雨がフロントガラスに目立つようになって来た。西に向かえば、さらに天気は悪くなるだろう。<br><br>自分もその年頃に家を飛び出して東京に出た。電車を降りて一番驚いたのは秋なのにコートが要らないくらい暖かかったことだった。地元では霜が降りて、手袋が手放せない中、降り立った原宿はとにかく暖かかった。何だか自分を歓迎してくれているみたいで、嬉しかったことを思い出す。外気温を移すメーターに目を移すと、都内の温度よりも5度ほど低くなっていた。<br><br>18歳の自分が一人で行きて行くには、東京は厳しい世界だった。親には絶縁状態でお金の無心もでできず、ホームレスに交じって来る日も来る日も怪しい日雇いバイトを点々とした。<br><br>運送業やら、港での荷下ろしなど力仕事が主だったが、時には人に言えないような仕事もした。そうしたなか、テレビの制作会社に転がり込んで、大道具の仕事にありつけたのも奇跡的だった。もともと何かを作る事が好きだったから仕事もよく覚えた。1年もするとバイト仲間の敦子とも仲良くなり、家に転がり込んだ。ほどなく裕也ができた。今で言うできちゃった婚だ。<br><br>「子供ができたなら、3人分頑張らないとな」<br><br>当時の上司はアルバイトの自分を、社員に引っ張ってくれた。嬉しくて涙が出た。ありがとうございます、ありがとうございますと何度も頭を下げた。これを機に絶縁状態だった親とも孫の顔を見せたいと懇願して、勘当を解いてもらった。顔をくしゃくしゃにして喜ぶ母親が少し年老いて見えた。苦労をかけたと、初めて実感した。孫を挟んで敦子と父と母の姿を縁側から眺めると、これまで以上に頑張らないといけないと心に誓った。あれから18年…<br><br>高速が山梨にはいると景色はコンクリに囲まれた防音壁か山並みしか目に入らなくなる。山しかないくせに何がヤマナシだと嫌った故郷。あの頃と何も変わらない景色。車のコンソールが光って電話の着信を知らせる。ハンドルのボタンを押すと敦子の声が車内に響いた。<br><br>「裕也はだいじょうだって？」<br>「ああ、心配ない。家を出て友達の家にでもいたんだろうよ。さすがに何日もは友達も泊めてくれなくなって、ばあちゃんちを思いついたんだろうな。アマちゃんだよ。まだまだ子供だ。」<br>「また、そんな言い方して。子供扱いするから反発するんじゃない。あなたも裕也の気持ちちゃんと聞いてあげなきゃ。いつも頭ごなしなんだから。それで、ご飯は食べてるって？」<br>「子供扱いはオレとかわらないぞ。そりゃ、おふくろが嫌というほど喰わせるだろうよ。裕也は相変わらず帰りたくないってダダこねてるらしいけどな、じゃ、高速おりるからまたかけるよ」<br><br>ぶどうの産地として有名な地元のICから下道におりると、雨は上がっていた。2車線の幹線道路はガラガラで、地元の車が高速と同じようなスピードですれ違ってゆく。日も大分傾きかけ、すすめどもすすめども山ばかりの景色が続く。コンビニも商店もない通りを、さらに山道に折れ、里山が広がる田舎道に車を進めてゆく。<br><br>家に続くあぜ道に車をすすめると「目的地周辺につきました、おつかれさまでした」とカーナビが伝える。カーナビには山しか写っていなかった。すっかり暗くなった中、両手を挙げて父母は車を迎えてくれた。<br><br>「裕ちゃんね、今ご飯を食べてねむってるわ。よっぽど疲れたんだろね」<br>「おまんも疲れたずら、今日はうちに泊まっていきなし」<br><br>夕食を終え、簡単にいきさつを親に話した後、今日のところは寝かしておいてあげなさいという母の言葉に従って、自分も客間に布団を敷いて横になった。壁掛け時計がチクタクチクタク時を刻んでゆく。天井の木目を見つめていると、木星の渦の様で吸い込まれそうな恐ろしい気持ちになる。なんだか子供の頃に戻ったようで、身体は疲れているはずなのに眠りに着くことができなかった。<br><br>カーテンをあけると、ぼんやり山の端から明るくなって来て、朝霧を柔らかく照らしてきていた。サンダルをつっかけて庭に出ると父がラジオ体操をしている。<br><br>「おいオヤジ、もう起きてるのかよ」<br>「寝られんら？ほんなら…ちょっと2人で山でもぶらついてみるか」<br><br>家の裏は緩やかな里山で、子供の頃はカブトムシを取りに行ったり、ドングリを集めたり近所の子供達とよく駆け巡っていた場所だ。自分が出て行ってしまってからは、初めてこの里山にも足を踏み入れる。<br><br>「おまんは、しょっちゅう山さ入ったな」<br>「ああ、オヤジがあそんでくれんかったからね」<br><br>「しょおんねェ、喰わすため仕事で忙しかったべ。そんなこと言うが、おまんも裕也をちゃんとみてやってるら？」<br><br>「もちろん。おれは、自分が勝手に家を出て苦労した分、あいつに同じ苦労をさせたくないんだよ。だからあいつには充分な教育も受けさせたし、やりたいこともさせてきた。それが急に大学やめて役者になるなんて…そんなふわふわした話、絶対賛成できねぇ。オレはな、大学でて会社に入って毎月の給料をちゃんともらえる堅い仕事に就いてほしいんら！」<br><br>興奮するうちに、いつのまにか自分も山梨弁が出てきてしまった。父は立ち止まり、<br><br>「子供に苦労させたくねぇ、いい言葉だべな。おらもな、お前にも同じことを思ってた。でも、おまんは出て行った。でもしっかり会社の御偉いさんになって、立派に帰って来ているら。先は見えなくとも、人生はなるようになる。頭ごなしに叱りつけても言うことは聞いてくれねぇべ。おまんなら分かるら」<br>「それは結果論だろ、オレはたまたま運が良かったんだよ。オヤジには言えないような苦労もたくさんあったし、ボンボンのあいつは何の苦労もわかっちゃいねぇ」<br><br>沈黙が続き、2つの枯れ葉を踏む音がただただ続く。<br><br>「…お前はな、この山な勝手に草木が生えてるものだと思っとるんだべ。でもな、違うんだべ。人が入った里山ってのはな先人がこつこつと植樹したり、道を造ったりしてできたもんなんだ。ただな、山にも個性ってもんがある。木を植えても生えてこない場所、逆に道を造ってもすぐ木が生える場所と様々だ。目には見えないが、木が生えてこない場所には下に石があったりして根が張りづらいとか、理由はいろいろあんべぇ。人間がどんなにそこに穴ボッコこしらえたって木は生えねぇんだわ。昔の人はその土地の個性を見抜いてドングリ植えたり、松を植えたり、木が生えねぇとこには道を造ったりしてきたんら」<br><br>「オヤジ、何の話してんだ？」<br><br>「えーから聞けって。人間も同じってことだべ。お前が裕也にお堅い人生を押し付けてもそこに木は生えネェかもしれんぞってことら。おらもお前に畑さ継いでもらいたいって木を植えようとしてたみてぇだな。やっぱり木は生えなかった。すまんな」<br><br>「…オヤジ」<br><br>「裕也な、ここまで東京からてくてく4日かけて歩いてきたらしいんだわ。いろいろ考えながらお前の来た道をさかのぼってきたんだろうよ。自分はこれからどう生きたらいいんだって考えながらな。お前が運だと思ってるもんが実は違って、土の中の石ころみたいなもんだったらどうする？あいつにも自然とできる道があるかもしれんし。目が覚めたら話だけでも聞いてやったらどうだ」<br><br>返事はしなかった。澄み切った里山の空気を大きく深呼吸して肺に吸い込んでみた。山には朝に光が満ちてきていた。<br><br>「そろそろ帰るか」<br>「ああ、そうするべ」<br><br>家に帰ると猛烈な眠気が襲ってきた。そのまま布団に入ると泥のような眠りが訪れ、目を覚ますと時計は正午を廻っていた。帰り支度をしてリビングに出ると裕也は既に起きており、話を話をしたそうにチラチラとこちらを気にしていたので、ぶっきらぼうに声を掛ける。<br><br>「さ、帰るぞ」<br><br>モゾモゾしている裕也を両親にきちんと挨拶させ、駐車場まで歩いた。<br>後ろから着いてくる裕也に車のキーを投げる。<br><br>「帰り道はお前が運転しろ、あと母さんには心配かけるなよ」<br><br>自分の息子はどんな道を通って東京へ向かうのだろうか。まだまだ頼りないがナビもある。<br>自分は黙って見守ることにした。<br><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11651692760.html</link>
<pubDate>Fri, 25 Oct 2013 14:24:32 +0900</pubDate>
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<title>冷たさと静けさの中で</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="3" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　「結婚記念日ですか？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">若いギャルソンは会計時に尋ねた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">曖昧に頷く聡史の横で、私は笑って嘘をついた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「二年目なの」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ギャルソンは今日最初の客である私達を店のエントランスで迎え入れたときに、乗ってきた車の後部座席にあるチャイルドシートを確認したのだろう。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">左薬指に指輪をはめた男と、チャイルドシートをのせた車。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">私が指輪をはめていなくても赤ん坊を傷つけないようにアクセサリーを控える女と推測したのかもしれない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">紺色のふわりとしたワンピースにヒールの低いパンプスは良き妻のようにも見える。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">しかし、チャイルドシートの主は私の子供ではなく、彼と妻の子供だ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">満足そうに頷きながらおめでとうございますとギャルソンが言うので、私はにこやかに礼を言った。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">この店の花ズッキーニのフリットがあんなに美味しくなければ笑えなかったかもしれない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ノンアルコールを頼む聡史をよそ目にひとりシャンパンをあけていたのも良かった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">私はシャンパンにとても酔うのだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">それに店に向かう車中で見た、あの冬枯れの空に焼けるような太陽が沈む美しい景色も私の心を満たしていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">聡史と会う日はいつだって嬉しくて悲しい。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">だからそういうほんの少しの喜びが必要なのだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">悲しみにとらわれないように。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">聡史はギャルソンに浅く頭を下げると、私の肩を抱き足早に車に向った。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「恵理香、ごめんね」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">小さく呟く聡史の顔を見上げると、泣いているようにも、ほろ苦く笑っているようにも見えた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">謝罪の言葉を無視して助手席のドアを開けると後部座席のチャイルドシートが目に飛び込んできた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">つい子供と妻を乗せて車を運転する聡史を想像して、悲しくなった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">しかしそんな気持ちを振り払うように口角を上げ嬉しい顔を作ってから車に乗り込んだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">妻でない女が相手の家庭の領域を侵すには、悲しみがつきものだし、それを顔に出すほど若くもない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">私は今年で３５歳になる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">聡史は５歳上だから、４０歳だ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><font size="2"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">他人からみたらいい歳の</span><span lang="EN-US"><font face="Century">2</font></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">人が一緒にいれば夫婦に間違うのも当然と思う。</span></font></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">背徳行為の果てに喜びが待つ事はない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">わかっていたのに、二年前のあの日私はうっかり結婚指輪がはまった手を払うことができなかった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">仕事で始めて会ったとき、挨拶と共に浮かべた聡史の屈託ない子供のような大きな笑顔が悪かったのだと思う。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">その夜は奥さんと子供が里帰りをしているので、外に泊まろうと聡史が言い出し急遽新宿のホテルに泊まった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">チャイルドシートをのせた車で迎えに来た自分のデリカシーのなさに気づいたのか、ギャルソンの言葉に笑って頷いた私を不憫に思ったのか。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">どっちにしろ、彼も何かしらの罪悪感を私に対して持っている事がわかり意地悪くも喜びが胸を満たした。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">大きなベッドで眠る聡史の穏やかな規則正しい寝息を聞きながら、眠れない私は高層ホテルの一室で明けてゆく空を眺めていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">窓から見えるいくつもの高層ビルやホテルがそびえたつさまはまるで山のようだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">短くも儚い都会の静けさの中に連なり夜明けを待つ高層ビル群は、ときに命を奪いまた糧を与える山々のように荘厳で神々しくもある。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">私は聡史のシャツをはおり、通りを眺める猫のように窓辺に腰を下ろし、朝になるほんの少し前の時間に身をゆだね、そっと窓ガラスに触れた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">てのひらからはひんやりとした冬の気配と静けさが体の中に流れ込んできた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">冷たさと静けさが私を満たすと、まるで自分が外の大気の一部のような気持ちになる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">毎日の日課なのであろう。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">はるか下では街頭に照らされ朝を待たずにジョギングをする人たちが見える。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">正常な時間を過ごす、規則正しい人達。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">彼らがとてもまともで正しい人間に思え、ふと私は自分の背徳行為に強い嫌悪を感じた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">彼の妻が洗ったシャツは清潔で、まくった袖口の裏も垢染みていない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">きっと洗濯の度にいちいち袖をまくりあげ手もみで洗ってから洗濯機にいれるという、細やかな気配りができる女なのだろう。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">そんな妻を平気で裏切る聡史を夫として最低だと思いつつも、その裏切りの相手が自分だという事が急に大罪に思え怖くなった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">秘密の恋は始まったときから、終わりしかない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">続く事はないのだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ただ、終わりへとむかうだけ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">私達はなんて、うれしくて悲しくて正しくない関係なのだろう。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">虚しさに襲われ、私は捨てられた猫のように小さく泣き声をあげた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">寝返りをうつ聡史の気配を感じ、思わず両手で口を覆うとますます惨めになった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">聡史のシャツで涙を拭い清潔な洗剤の匂いを嗅いだとき、私は別れを決めた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">外はもう夜明けで、都会の山々に光が差し込み新しい一日が始まろうとしていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2" face="Century"> </font></p><p></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="3" face="Century"> </font></p><p></p>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11622390980.html</link>
<pubDate>Thu, 26 Sep 2013 22:37:56 +0900</pubDate>
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<title>尾瀬と健斗</title>
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<![CDATA[ <p>山の鼻と呼ばれる山小屋で簡単な休憩をとることにして、近くのベンチに腰かけて早めの昼食を摂った。<br>まだまだ残暑の厳しい9月だったが、標高が高いせいか時折吹く風は冷たいくらいで、かき始めてきた汗がいっきに引いてきた。<br>歩いているときに快適と感じていた気温が、今では少し肌寒く感じる。<br>ただ、上着の中にもう1枚肌着を着込むほどの寒さではない。</p><p>息子の健斗の体力が心配だったが、まだ余力は残しているようだ。<br>食欲もあるらしく、嫌いな野菜だけを残して妻の作った弁当を美味しそうに頬張っている。</p><br><p>「野菜だけ残すと、またお母さんに怒られるぞ。」<br>「大丈夫。野菜はごみ箱に捨てて、弁当箱には残さないようにするから。」<br>普段からこんなことをしているのか、何の悪びれもなく、健斗は平気でそう呟いた。</p><p>「お父さんの前でそれを言っちゃダメなんじゃないか。<br>それに山の中では、ごみ箱は設置されていないし、自分たちで出したごみはきちんと自分達で持ち帰らなきゃダメなんだぞ。」</p><br><p>そう、ここ尾瀬は貴重な自然を守るためにハイカー達に対して、いろいろなマナーを設けている。<br>例えば、野生生物を守るため、犬などのペットの持ち込みや動植物を採取することも、落枝を杖にすることさえも禁止されている。<br>もちろんゴミを捨てることなんてもっての他だ。<br>登山では一人ひとりがマナーを守り、自然と触れ合うことが大切なのだ。</p><br><p>「こっそり土の中に埋めちゃえばいいじゃん。野菜だから自然に還るでしょ。」<br>「自然の生態系を守るために、野菜を土に埋めるのもダメ。ここに来るまでも車の排気ガスから緑を守るためにわざわざバスで来たくらいだろ。」<br>「ちぇっ、わかったよ。帰りのコンビニで捨てていくからいいよ。」</p><p>そんな面倒なことをするのならば、今ここで食べてしまえばいいのに。<br>ただ、妻ほどコミュニケーションを図ってきていない僕からその言葉を放つと、せっかくいい感じになってきた登山が水の泡となってしまう。<br>深呼吸をして、水筒の中のポカリスエットとその言葉を一気に飲み込んだ。今日の目的を忘れないようにしないと。</p><br><p><br>「今日、健斗の担任の先生に呼び出されて学校に行ってきたのよ。」<br>仕事から帰宅して、脱いだジャケットをハンガーにかけようと手を伸ばしたときに、後ろから急に妻に声をかけられた。</p><p>「健斗が何か問題でも起こしたのか！？」<br>「違うの。クラスメイトや先生に迷惑をかけたとかそういう話じゃなくて、むしろその逆。」<br>妻の表情が少しだけ不安そうに翳った。</p><p>「逆って、どういうこと。」<br>「先生が言うには、健斗学校の中であまり友達がいないらしいの。休み時間はずっと一人で、本読んでいるんだって。」<br>「別に休み時間に友達と外で遊ばなきゃいけないってことはないだろう。それだけで友達がいないっていうのも早計すぎないか。」<br>「それだけじゃないの。遠足のバスの席決めのとき、仲のいい子同士で隣に座るってなっても、健斗だけ最後まで隣に座る子を見つけられなかったんだって。<br>たまたま隣に座ってもいいって言う子が現れて、事なきを得たみたいだったけど。」<br>「それに最近、健斗が休みの日に友達と遊んでいるところ、全然見ていないのよ。」<br>「・・言われてみると確かにそうだな。健斗が外にでかけるところは全然見ていない。」<br>「健斗、たまに友達から声をかけられたりはしているみたいなんだけど、自分から人に声をかけていることはほとんどないって先生言ってたわ。<br>なんか友達と距離を置こうとしているみたいって。ちょっと積極性にかけるので、ご家族にも協力願えないかって。」</p><br><p>小さいときはよく近くの公園で健斗と二人でサッカーをしたり、遊具で遊んだりしていたが、<br>さすがに小学校にあがると友達と遊ぶようになり、父親と二人だけで遊ぶということはめっきり少なくなってしまった。<br>共通のアニメや漫画の話となってしまうと、僕も全くついていけず<br>話の合う同年代と遊ぶ方が楽しいのは至極当然のことだと感じて、それからあまり息子を干渉しないようになった。</p><p>子供とのコミュニケーションの機会が減ったことに対して親としては少し寂しくもあったが、<br>健斗が自分から世界を広げている感じがして、このとき今後の成長していく喜びを感じたのを覚えている。<br>ただ、ここ最近は外に遊びに出かけることが少なくなっただけではなく、健斗の笑っている顔をあまり見ていないことにも気が付いた。</p><p><br>10歳とはいえ、まだまだ子供。自分で抱えきれない不安や悩みを持っているのかもしれない。<br>自分が小学4年生のときにどんな生活を送っていたか、記憶を辿ってみたものの<br>25年経った今では全く思い出すこともできない。</p><p>今年に入ってからは仕事が忙しく、休みの日も会社にいることが多かったことで、健斗と接する機会はほとんどなくなっていた。<br>妻ははまだ話をする機会があるようだが、自分から学校のことを話すこともなく、妻から質問をしてかろうじて会話が成り立っているようなものだったという。</p><p>そんなこともあり、息子と本気で向き合うべく二人で尾瀬まで出かけてきたのだ。</p><br><p><br>「よし、健斗。そろそろ行くか。もう尾瀬沼はすぐそこだ。」<br>「はーい。」<br>腰をあげる際、どっこいしょと気づかないうちに自然と口からそんなフレーズがこぼれていた。<br>年をとるとはこういうことのだろうか。最近では、こうしたちょっとしたしぐさから、衰えを感じるようになった。</p><p>小休憩をとった山の鼻から、道は大きく分かれる。</p><p>西へ向かうと至仏山という日本百名山にも数えられる標高2281メートルの山への登山口となり、<br>滑り易い石質に加えて、急な上り坂、鎖場が点在しているため、中級者向けのルートとなっている。<br>こちらのルートを選択するには足元の装備が必須となる。<br>逆に東へ向かうと尾瀬ヶ原という広大な湿地帯が広がり、春にはミズバショウ、夏にはニッコウキスゲやヒツジグサを拝むことができて尾瀬の一般的なハイキングコースとなっている。初心者向けのコースでもあり、今回は健斗とこちらを回る予定だった。</p><br><p>歩き始めて数分もすると、周りを覆っていた木々が開けて、数キロ先も見渡せる大きな湿原が眼前に現れた。<br>「すっげー！お父さん、絶景だねー。東京と全然違う。」<br>健斗は初めて見る景色に興奮して、左右見渡しながら2本に分かれる木道をぴょこぴょこと跳ね回っている。<br>「健斗、周りの方に迷惑になるから、ちゃんと右側の道を歩こう。」<br>「はーい、あ、お父さん見てみて。蓮の花が咲いてる。」<br>健斗の指の先を目で追いかけると、湿原の至るところに白い花が水の上に浮かんでいた。<br>「あぁ、ヒツジグサか。いっぱい咲いてるなー。」<br>「ヒツジグサと蓮って何が違うの？」<br>「蓮の花の方がもっと全然大きいだろ。水面から高く花茎が伸びて、根っこは横に伸びて蓮根になるんだ。」<br>「えー。レンコンって、蓮の根っこだったの！？知らなかった。」<br>「そう、蓮根は水の下に生えているから空気を送るために、中に穴がいくつも空いてるんだよ。」<br>「へー、さすが俺のお父さん。いろいろなことを知ってるね。」<br>「勉強になったろ。今度友達にも自慢してあげろよ。」<br>「・・・。」<br>先ほどまで興奮して高揚していた表情が、少し曇りだした。</p><p>「どうした？急にだまりこんで。」<br>「・・お父さん、あのね。実は最近友達とあんまり遊んでいないんだ。」<br>うつむいていた顔をあげて、健斗は意を決したように近況をゆっくりと話しだした。</p><br><p>要約すると、クラスの中で山田君というリーダー的な存在がいて、<br>体も声も大きいため、周りに対しての発言力がかなり大きく、クラスが彼を中心に回っているとのこと。</p><p>彼はスポーツも万能で頭もそこそこ良かったので、周りからの信頼も厚く<br>初めは健斗も山田君みたいになりたいと尊敬していたようだ。</p><p>しかし、周りからの支持を集めると山田君の態度は傲慢になり、<br>次第にクラスを仕切りだして、理不尽なことを言うことになった。<br>他のクラスメイトはその山田君にへこへこして、それが彼の傲慢さに拍車をかけた。<br>山田君の言うことは鶴の一声となり、誰も逆らえなくなったと言う。</p><p>健斗はそんな山田君から距離ととるようになり、ほかのクラスメイトも<br>ジャイアンの機嫌を窺うスネ夫のように見えてきたみたいで、そんな彼らを情けなく思い<br>かかわらなくなっていったようだ。</p><br><p>「そんなことがあったのか。だからうんちくを披露する友達も今は周りにいないってことか。」<br>「うん。そう。」<br>「山田君はそんなに嫌なやつなのかい？」<br>「最近は体の小さい金子くんとか、テストの点がよくない下田くんをよくバカにしているな。」<br>「確かにそれはよくないな。先生はそれを知ってるの？」<br>「いや、それはクラスの問題だし、先生はそこまでかんよしてこないよ。」<br>不安な表情は先日の健斗の孤立話をしたときの妻の顔とそっくりだなと少し場違いなことを思った。</p><p>「そうか。じゃあ、健斗が山田君にそれは間違っているって言ってみようか。」<br>「え、それじゃあ僕がバカにされる対象になっちゃうよ。お父さんそれでもいいの？」<br>「自分の子供がバカにされていいなんて親なんていないよ。もちろんお父さんも健斗は友達とうまくやってもらいたい。<br>でも、今の健斗はそんな山田君や見て見ぬふりをするクラスメイト達にあきれている訳だし、今の状況がいいとは思わないだろ。」<br>「でも、自信ないし。そんな言葉言えないよ。」</p><p>「さっき山ですれ違った人たちに、健斗は元気よく挨拶できていたじゃないか。<br>知らない人に声をかけることができるんだから、ちゃんと間違っているって一言を健斗だったら言えるはずだよ。」<br>健斗の目をしっかり見てそう伝えた。<br>「挨拶するみたいにその一言ことが言えたら健斗の気持ちはスッキリするはずだよ。」<br>「うん。わかった。今度山田君に言ってみる。どうせ僕、今クラスでも孤立しているようなもんだし。」<br>もともと正義感の強い子だったので、クラスの中で何もできなかった自分が歯がゆかったのだろう。<br>「健斗のその一言で救われる人もいるし、それを見ているクラスメイトも絶対いるはずだ。お父さんもついているぞ。」<br>「うん。」</p><br><p>ゆっくり歩いていたつもりだったが、いつのまにか尾瀬ヶ原を2km近くあるいていたようで<br>牛首分岐というルートの分かれ道まで到達していた。<br>本来であればここで引き返して帰る予定だったが、健斗の今の晴れ晴れしい表情を見ていると<br>もっと自然を堪能したい気持ちになった。</p><p>「健斗、もう少し歩けるか。」<br>「うん。よゆう！」<br>憑き物がとれたような健斗のこの表情を早く妻に見せてあげたかったが、もう少し男二人の時間を楽しもう。</p><p>尾瀬ヶ原は午後の陽光を反射して、湿原がきらきらと輝いていた。<br></p>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11618294270.html</link>
<pubDate>Sat, 21 Sep 2013 09:33:24 +0900</pubDate>
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<title>アフロ大統領とマイク</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">９歳、俺はマイクだった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">名前じゃない、マイクロフォンになりきっていたんだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">６歳上の姉ちゃんは当時憧れていたロッカーの真似をして、俺をマイク代わりに立たせ、よく抱きかかえて歌っていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺は一緒に遊んでもらえるのが嬉しくて楽しくて、マイクになりきっていたよ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">直立不動で頭をぐんとそびえて、一歩も動かない、喋らない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">抱きかかえられて斜めになっても、まっすぐ一本のマイクになりきっていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">頭に赤いバンダナを巻いた姉ちゃんは、よくバランスを崩して俺を床に転がしたが、マイクは喋らないから無言のまま倒れなきゃいけない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">それがなんだか可笑しくて、俺たちはよくこのマイクとロッカーごっこをやっていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span><br></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">だから、学校で将来なりたいものという題材で作文を書かせられたとき、おれは迷わず書いた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「僕は将来、マイクになりたいです」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">最悪な事に作文は授業参観日に親がいる前で発表され、おれはクラスメートと親の爆笑をさらった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">そしてもうひとり、笑いをさらった作文を書いたのが矢島孝則だった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島の作文は北関東の田舎町に住みながら世界を見据えていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「僕は将来、大統領になりたいです」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">小賢しく他人の揚げ足をとるのが得意な香山マコトが言った一言が矢島を後に引かせなかった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「なあ、日本は大統領じゃなくて総理大臣だろ、間違ってんじゃん」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">香山の声は高くクラス中に響きわたり、嘲笑を誘った。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">しかし矢島は一歩もひかず、いやおれは大統領になるんだと言い張ったため、その後のあだ名が決定した。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺、北川悟が「マイク」で矢島孝則は「大統領」。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">どっちもバカみたいなあだ名だろ？</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">もちろんつけたのは香山マコトだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">４０歳を過ぎた今やつは田舎の役場で課長になっていてデカいツラして威張っている。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">と、この前久しぶりに電話をかけてきた母ちゃんが言っていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">そう矢島に話すとフフンと鼻をならした。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「木っ端役人が！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">さすが大統領志望だった男は違う。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">皆の憧れ公務員を木っ端役人と斬り捨てた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><font size="2"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">俺たちは今、東京の空の下、矢島の古くて汚い倉庫を改築した古物屋の中で</span><span lang="EN-US"><font face="Century">T</font></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">シャツを汗で濡らし明日のフリマで売る商品の値札をつけている。</span></font></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">残暑というには暑すぎる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><font size="2"><span lang="EN-US"><font face="Century">9</font></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">月だというのに店の柱にくくりつけられている温度計は３０℃を超え、風通しの悪い元倉庫内は無風状態だ。</span></font></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><font size="2"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">そんな中、ハンドラベラーで</span><span lang="EN-US"><font face="Century">300</font></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">だの、</span><span lang="EN-US"><font face="Century">500</font></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">だのと細かい値段をぺたぺた貼っていると時間の感覚が薄れていく。</span></font></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">しかし、今の俺にはこの終わりのない作業がありがたかった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">家にいてもひとり落ち込み苦悩の声をあげるばかりで、部屋の空気を淀ませる事しかできない。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">なんでこんな事になったのか。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">あぁ、おもわずまた、ため息が漏れる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「っなぁ、そのため息、幸せが逃げるからやめろよ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島はそう言って掌くらいの小さな箱をおれに投げつけた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「んだよ、俺が落ち込んでんのに。ちょっとは優しくしろよ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">投げつけられた箱から、カーケシと呼ばれていた昔のスーパーカー消しゴムがどばっと飛び出し、バラバラと床に落ちた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「懐かしいなぁ。俺も持ってたよ、こういう箱にしまってさ。自分のがわかるようにいちいち裏に名前を書いてたっけ。クラス中の男子、みんな持ってたかんな」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">赤いカーケシを拾い上げぐるり一周みると、裏に微かに読み取れる文字があった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「おい、このカーケシも名前あるぜ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「え～と、さ・と・る、か！俺と同じ名前だ！！すげえ、偶然！！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">興奮して矢島に話しかけると、奴は無表情のままハンドラベラーを打ちながら言った。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「それお前のだぜ。この前田舎に帰った時、お前の母ちゃんが不用品だから良かったら引き取ってくれって持ってきたんだから」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「なんだよ、それ？なんで俺のものがここにあんだよ！つうか、母ちゃん俺のものを勝手に捨てたのか！くっそ～！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺が悔しがっていると、矢島は面倒臭そうに近くにあった煎餅やの箱を指差した。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「あれ、お前の遺物じゃね？昔、見た事あるものとか入ってたし」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">箱を引き寄せ、中を確かめると忘れていた俺の昭和遺産が入っていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「そういや母ちゃん、電話で断捨離にハマッていて、部屋が綺麗になったと自慢していたっけな。そうか、俺のものまで捨てたのか。そうだ、どうせ俺は捨てられるんだ・・。」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">箱の中のものを確認しながらため息まじりに言うと、今度は汚ねえ女物のサンダルが飛んできた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「あ～、ちっせえ、ちっせえ、ちっせえ！！なんだよ、さっきからため息ばっかり、うざいな。だいたい、お前のため息の原因は嫁が男作って出ていっただけだろ？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「なんだよ、それだけじゃねえぞ。家庭不和のせいで、仕事でミス連発してあのいつもは嫌味な部長に優しくちょっと休めって言われてみろ、絶対いまのプロジェクトから外される！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「わかったから、叫ぶなよ。はいはい、ちょっとウツ気味で僕ちゃん不調なだけですよ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">でもよ、お前の困りごとってさ一流の困りごとなんだよな。電化製品で言えば東芝とかパナソニック。そんな困りごと、コイズミとかヤマデンレベルの俺からしたら笑っちゃうぜ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島はもくもくと値札つけをしていたが、茶のハンドバッグを片手にスッと立ち上がった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">あ、あのバッグ、母ちゃんのだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「俺はな、今！現在！なう！この店を維持できるかどうかの瀬戸際なんだよ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">叫ぶ詩人の会ばりに矢島は雄たけびをあげた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「いいか、お前のは嫁がいたり会社員だからこその困りごとだろ！しかも休暇を二週間とっても、給料は貰える！俺は嫁もない、会社員でもない、何もナイナイシックスティーンなんだよ！この小汚ねえ古物屋しかねえ。必死で貯めた金でやっと店もったけど、いつまでたっても自転車操業、火の車、金もねえ男には女もよってこねえ。この店だって、家賃滞納してんだ、今月分払えないなら出ていけって金のロレックスはめた２５．６才の親の不動産屋で働く土地持ちボンボンに言われてみろや」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島はがっくりと肩を落とし、顎を前につきだした。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">奴が落ち込んだ時には必ず顎が出る。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「な、へこむだろ。お前よりも深刻なんだよ、米買う金もねえんだぞ。これが三流の困りごとだ！４０才過ぎの俺のなう！どうよ？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「お前の自由の象徴、自慢のアフロヘアも泣いてるな。でもお前の困りごとは自由との引き換えだろ？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「あ～、冷たいねぇ。バブルの残り香嗅いで、大量採用時代にうっかり一部上場会社に滑り込んだ奴は。自分の困り事は、全部持っているからこそのものだって自慢してんのか！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺の母ちゃんが昔ヨーカドーで買ったバッグを握り締め、矢島は吠えた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「・・・お前も相当ストレスたまってんだな」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「いや、ストレスとかいうな！俺は何でもストレスのせいにするのは嫌いなんだよ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「あ～。まあな。俺もだ。まっ、明日のフリマで稼いで少しでも家賃払え」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「・・・・がんばりまっす！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島は足を揃え、手を額に敬礼のポーズを決めた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">とても４０代とは思えぬ会話はそこで終わり、矢島は黙々と値札貼りに戻った。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺は田舎の母ちゃんが捨てた昭和遺産が詰まったダンボール箱をひっくり返して見た。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">カピカピになった黒のマディソンバッグや、近鉄バッファローズの野球帽と共に、それは出てきた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">見るまで、すっかり記憶から抜け落ちていた俺の高校時代の青春！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺は涙を流してそれを手にとり、矢島にかざした。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島は顔を上げると、ウオッと叫んだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「そ、それは、あの伝説の学園祭ライブ、横浜国大でチャーミーが投げたガーゼシャツ！！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">お前はそれもあの田舎に置き去りにしていたのか！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「矢島、しかも愛用していたラバーソールもある！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺は泣きながら言った。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島は姉ちゃんが昔よく下げていたピンクのポシェットを首から提げてぴょんと跳ねて両手を広げた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「カモ～ン！！履け！履くんだ！昔のお前を思い出せ！あの輝いていた頃を！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><font size="2"><span lang="EN-US"><font face="Century">T</font></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century">シャツの上にカビ臭いガーゼシャツを被り、アディダスを厚底五センチはあるラバーソールに履き替えると、俺の空洞のようにスカスカの胸に何か熱いものが湧いてきた。</span></font></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「跳ねろ！跳ねるんだ！ロック魂は跳ねてナンボだろ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">何処から持ってきたのか、矢島はポシェットを提げたまま弦の切れたギターを弾く真似をしながら歌を絶叫し始めた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「ゲットザグローリー！！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">矢島がギター片手にとび跳ねる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">あの雨の横浜国立大学の学園祭でラフィンノーズが歌っていたように！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">あの時と同じようにアフロが揺れる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">自由が揺れる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">そうだ！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">誰よりも高く、高く、俺は飛び跳ねて、自分の小さな世界から飛び出したかったんだ！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">中敷がグズグズのラバーソールは足裏がぼこぼことしていたが、おれは跳んだ！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">大きく跳んだ！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">飛び跳ねた！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「俺はこんな事で、へこたりねえぞ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「そうだ、お前はそんな事で悩むために生まれてきた訳じゃねえ。思い出せ、お前のロック魂を！マイク～！！！！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">俺たちは歌いながら、息切れしながら、飛び続けた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">すると、どんどん心が弾み胸の中が嬉しさでいっぱいになった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">いつのまにか忘れていた気持ちが溢れだす。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">その気持ちをなんて言うのかはわからないが、楽しくて嬉しくて飛び跳ねずにはいられない、そんな感じだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">歌い飛び跳ねていると、心のずっと奥のほうで、一度死んでいた自分が生まれてくるような気持ちになっていく。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">なんだろうな、これ、生まれてきたのが嬉しくてしょうがない気分だ！</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ノリノリでエアギターを弾きながら、飛び跳ねアフロを揺らす矢島の後ろでこの前の台風で飛ばされた看板がチラチラ見え隠れする。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「ないものはない！古物屋大統領」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">バカでアホで明日喰うものにも困ってはいるが、矢島は宣言通り大統領になっていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span lang="EN-US"></span><br></p><p><font size="2" face="Century"><br></font></p><p></p><p><font size="2" face="Century"><br></font></p>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11608287110.html</link>
<pubDate>Sat, 07 Sep 2013 00:17:18 +0900</pubDate>
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<title>交換日記</title>
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<![CDATA[ <p>「明日早いんだから、早く休みなさい。さすがに寝坊はできないわよ。」<br>階下から母、美代子の声が届いた。</p><p>「はーい。1時までにはちゃんと寝るから、大丈夫。」<br>自室のクローゼットから昔のアルバムやノートを引っ張りながら、マミは返事をした。<br>26歳にもなって母に寝起きの心配をされている娘も娘だが、明日結婚式という大イベントを控えている身であればその慮る気持ちも当然なのだろう。</p><br><p>それにしても昔の写真や手紙は出てくるのだが、さっきから探し続けている目当てのノートだけがいっこうに見つからない。</p><p>学生時代に使用していた淡い思い出は、クローゼットの奥に仕舞いこんだままのはずだったので、<br>すぐに目的のものは見るかるはずだったのに。</p><p>自室とはいえ、マミが大学入学に合わせて実家を離れてから8年。<br>毎年正月やお盆には必ず実家に帰省はしていたが、クローゼットを開くことなど皆無に等しかった。</p><p>目的のものとはマミが7歳から15歳まで綴っていた日記なのだが、<br>ただの日記ではなく、父の正晴と続けていた二人の交換日記だった。</p><br><p>かれこれ1時間も探しているのだが、いっこうに見つかる気配がない。<br>このまま日記が見つからないまま明日を迎えるのは気持ちが悪かったので、階段を降り、まだ居間でテレビを見ていた母に駄目元で尋ねてみた。</p><br><p>「お母さん、ゴメン。わたしの昔の日記、知らないよね？」</p><p><br>「あら、まだ起きてたの。日記・・ああ、例の日記でしょ。確かお父さんの書斎にあったわよ。」</p><p><br>「うそ、あんな日記残しておいても恥ずかしいから、封印しておいたのに・・なんで。」</p><p><br>「マミの日記は15歳で止まっちゃってたけど、マミが家を出てから、お父さんまた一人で続けていたのよ。」<br></p><p>「え、お父さんが一人で？お母さん私の代わりに付き合ってあげれば良かったのに」</p><p><br>「何バカなこと言ってるのよ。そんな恥ずかしいことできるわけないじゃない。」<br>それから母は、もう寝るよと言ってそのまま寝室へ消えてしまった。</p><br><p>父の書斎へ勝手に足を踏み入れることは、家族の中ではタブーとなっていたが<br>ここまで探して諦めきれず父の書斎にこっそり入って、本棚を調べてから机の中を確認してみると<br>二人で綴った交換日記、8冊分が出てきた。<br>正確にいうと日記の数は12冊あり、見慣れないノートの4冊が父の一人の日記となっていたようだ。</p><p>表紙に『1994』と書かれたノートをめくってみると、懐かしい父の文字とまだ拙かったマミの文字が目に入った。</p><br><p>日記を始めたきっかけは単純な理由で、当時クラスのほとんどの女子が持っていた手帳がどうしても欲しくて、散々父にねだり、買ってもらう交換条件として持ち出されたのが、この父娘間での交換日記だった。</p><br><p>父の職業が中学校の国語教師ということもあり、日記を始めた当初、漢字の勉強や<br>文法の練習を兼ねて日々の出来事を綴ることはマミにとって正直楽しかった。</p><p>再三指摘をされた結果『ら抜き言葉』を克服することができたし、<br>父の日記の中で知らない漢字が山ほど出てきて、それらを毎日目にすることで<br>自然と漢字が身に付き、おかげで漢字テストではほとんど満点をとることだできた。<br>その点では正しい日本語を教示してくれた父に感謝をしてはいるのだが、<br>反面、父側の日記の内容は、確実に小学生の娘に見せられるものではなく、<br>平気で教え子を誹謗中傷したり、罵るようなことも多く見られた。</p><br><p>本当に変わった父親だった。</p><br><p>一緒にテレビを見ていて、ニュース番組が始まり、キャスターが誤った日本語を言ったものなら<br>「ほんとに大学でているのか、このアホは。」「もっと言葉に責任を持って話せ。」などと罵ったいたかと思うと、その後に始まった動物の特集番組で、白クマ親子の過酷な一生を見ていたら、感動してわんわん泣いてしまうような人だった。</p><p>マミとしては、男の人は滅多に涙を見せることのない人種と勝手に思い込んでいたので<br>父親が声を出して泣いている姿を見て、妙に興ざめしたほどだ。</p><br><p>教師という立場だからかどうか不明ではあるが、人と一線を置いて冷静に観察することのある人でもあった。</p><br><p>マミが小学5年生のとき、夏休み入ってすぐだったと思う。<br>仲の良かった友達数人とプールへ出かけて、自宅に帰ってみると家の前に知らない女の子が一人立っていた。<br>背はマミよりもずっと高く、服装や雰囲気からして、中学生だなとぱっと見た感じで判断することができた。<br>近づくとその女の子は目が大きく、顔が整っていて、同性のマミが見てもうっとりするほどの美少女だった。<br>ただ、その美少女は不機嫌な様子で、マミをしたためると開口一番、<br>「あなたが噂のマミちゃんね？」と決して感じの良いとはいえないぞんざいな言葉を投げかけた。</p><p><br>「え、はい。そうですけど・・」<br>突然の質問に動揺しつつもそう答えるしかなく、目をそらしながら答えると<br>「先生が自慢するほどの子じゃないじゃない。わたしの方がずっとかわいくて聡明じゃないの。」<br>そう言うとその美少女はフンと鼻を鳴らして、マミには一瞥もくれず、スタスタと駅方面へ歩いて行ってしまった。<br>ほんの数分の出来事だったが、マミからしてみれば知らない人に自分を否定されたような<br>微妙な居心地の悪さだけが残った。</p><br><p>後々知ったのだがその子は西里ほのかという父の教え子だった。</p><p><br>日記の中で父が面倒くさい女子として綴っていた子がこの西里ほのかだった。<br>容姿や特徴を確認してみると、一度だけ会ったあの美少女と見事に一致していた。</p><p>言動を見る限り、明らかに父に気があったようで、<br>毎日手紙を渡したり、相談があると言ってしょっちゅう父を進路相談室に呼び出していたらしい。<br>その生徒に対して、『ませたガキ』だの『調子にのっている』だの明らかにその教え子に辟易しているようだった。</p><p>父の魅力に理解が得られないマミからしてみれば、何故あんなに可愛い子がこんな父に憧れているのかが本当に謎だった。</p><p><br>ただ、不思議なことに父は昔から女子生徒に人気があったようで<br>マミの母である美代子もその一人であったと母に聞かされたことがある。</p><br><p>厳格ではあるが、どこか可愛げのある父の正確に次第に惹かれ<br>母の猛アタックの末、交際が始まったらしい。</p><p>もちろん教師と生徒という立場上、母が在学中はさすがに弁えていたようだが<br>母が中学を卒業してから本格的に交際が始まり、そして三年後に母が高校を卒業を待って結婚をしたようだ。<br>交際期間中、周りの目を気にして堂々と付き合うことはなかったが<br>毎日二人で交換日記を行って、愛を育んでいたようだ。</p><br><p>さすがに両親の交換日記を覗いたことはなかったが、父は当時からこんな感じだったのだろう。<br>この母との交換日記が、マミとの交換日記を始める原型となっていたことは間違いないようだだった。</p><p>マミが高校に入ると、身近な異性が煩わしいと感じる一般的に反抗期と呼ばれる時期が始まり<br>さすがに父親と日記をしていることが無性に恥ずかしくなり、自然と交換日記を開くことはなくなり、<br>気が付くとクローゼットの奥に封印されてしまった。</p><p><br>まさか父が改めて日記を引っ張り出し、一人で綴っていたなどとは考えもしなかった。</p><p>11年ぶりにぱらぱらと昔の交換日記を捲っていると、当時のマミの初恋について記していた一文が目に止まった。<br>今見返してみると顔から火が出るくらい恥ずかしいことをよくもまぁ、父親に見せることができたなと<br>複雑な気持ちでいると、そのあとの父の日記が気になって覗いてみた。</p><p>すると、『マミは見せかけだけの魅力にとらわれているだけで、この男の本質をまだ理解できていない。男を知るにはまだ若すぎる』と教師らしい感想を綴っていた。<br>そのあとの自分の感想も気になり、あとを見てみると、その父の達観したコメントが気に入らなくて、3日間ふてくされて日記をボイコットしていたようだ。<br>父は教師としての威厳をふるっていたのかもしれないが、今見返してみるとただ、マミの初恋の男の子に嫉妬しているようにしか見えなかった。</p><br><p>こういったことを含め、過去の出来事を振り返ると父の傍若無人ぶりが本当に懐かしく感じられた。</p><br><p>それから後ろめたさを感じながらも、マミが家を出てから父が一人で綴っていた日記を覗いてみると<br>ほとんどがほそぼそとした夫婦のくらしが載っているだけだったが、たまにマミが帰省したときの歓喜の一文やマミが滅多に連絡をよこさないことへの不満などがたまに記載されていた。</p><br><p>そんな中でも、いたるところに母やマミのことを本当に気遣い二人のことを本当に愛してくれていると感じとることができた。</p><br><p>ふと気が付くと、時計の針はすでに夜中の二時を回っていた。<br>さすがにそろそろ床に就かないと明日の結婚式に遅刻してしまうと、日記を持って父の書斎から出ようとしたとき隣の両親の寝室から大きな父の鼾が響いた。</p><br><p>もう、ほんとに困った父親だ。</p><br><p>明日の結婚式では母への感謝の手紙を読み上げることになっていたが、父への感謝の気持ちを言葉で伝えるのはやっぱり恥ずかしいので、この日記にこっそり残しておこう。</p><br><br><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11598610376.html</link>
<pubDate>Sat, 24 Aug 2013 02:03:50 +0900</pubDate>
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<title>パンケーキ</title>
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<![CDATA[ 静江が戻ってこない。<br>旦那の目をくらますために山奥の断食道場にこもって、そこを抜け出して落ち合う予定が、<br>もう2週間もたってしまった。携帯に電話しても全く通じない…やっぱり…旦那の所に帰ったのかな。<br>それならそれで仕方のないことだ。<br>もともと、ことの発端は静江がDVの旦那に殴られて可哀想だからいっしょに逃げようかということになっただけのことで恋愛感情は、欠片もなかった。<br>昔ひどい別れ方をして、悪かったなと心のどこかで思っていたところでボロボロの静江と再会して罪滅ぼしのような気持ちだった。<br><br>今の毎日を惜しいとも思わなかったし、DV旦那から逃げるつもりで、会社を辞めてアパートも解約して手元に残っているのは、わずかばかりの貯金と軽のキャンピングカーが一台。ボロボロの静江があんまり俺にしがみついてくるから、それが心地よくて、このまま二人で逃げるところまで一緒に逃げて、どこかほどほどの所で心中でもすればいいと思ってたのに、困ったな。<br>一人では死ぬ気にならないし、帰るところも、行くところもない。<br><br>断食道場を離れる気にもなれず、とりあえず近くの大型ショッピングモールに入りぶらぶらとフードコートに向かうことにした。<br>平日のショッピングモールのフードコートはがらんとしていた。給水機の水をコップに入れ4人がけのテーブルにつく。<br>広々としたフードコートの中に、てんてんと幼児を連れた母親と、30代くらいの女たち、80歳くらいの男が食事をしていた。<br><br>こんなところで一人で飯を食っている年寄りってのは、どういう生活してんだろうな。<br>やっぱり孤独なんだろうか。このままの生活を続けてたら俺もあんな風になったのかもしれないな。<br>考えると気持ちが、ずーんと暗くなる。<br>こんな気持ちになるのが嫌だから、静江と逃げたかったのかもしれないな。<br><br>と向かいの席に誰かの気配を感じた。<br>「お父さん」<br>驚いて顔をあげると、そこに座っていたのは元娘だった。<br>いや、娘に元はない。元妻の娘…?<br>元妻が連れて行った俺の娘だった。<br>「真由…ほんとに？どうして？」<br>「テスト休みで友達と買い物に来てた」<br>真由の視線の方向を見ると少し離れたテーブルに女子高生が5人座って<br>ペコリと会釈をしていた。<br><br>戸惑いつつ会釈を返し考える。<br>そうか、この街は妻の実家からそう遠くなかったな。<br>「お父さんに似てるなって思ってずっと見てたのに、全然こっち見ないから」つぶやく。妻と別れたのは7年前。真由はその時10歳だった。<br>「そうか。まさか真由に会えるなんて思わなくて気づかなかった。こんな大きい真由なんて想像もできなかった。元気か？」<br>「はは…だよね。元気元気。お父さんは？…」<br>真由の視線が俺のシワシワのTシャツからテーブルの上の紙コップへと移る。<br>「わたし、ランチしに来たんだけど、お父さんも何か食べる？お金あるよ」<br>「お金は、お父さんだってあるよ。こんなところ来たことないから何食べようか迷ってたんだよ」<br>「あはは。そっかごめん、お父さんすごい落ち込んでるみたいだったから、お金が全然ないのかと思った」<br>その時、5人組の女子高生が真由～と呼んだ。<br>「わたし、もう少しお父さんといる～」と手を振りながら真由が返すと、<br>女子高生たちは立ち上がり手を振りながらショッピングフロアの方に出て行った。<br>俺は内心慌てた。7年ぶりの娘と何を話していいかわからないし<br>こんな自分の状況を知られてはまずい。口をついて出たのは<br>「いいのか友達といかなくて」という言葉だった。<br><br>真由は、俺をまっすぐに見つめている。気まずさを感じるくらいの沈黙の後<br>「お父さんと、一緒にご飯を食べたいんだけど…だめかな」<br><br>視線を受け止めきれず、下を向く。<br>俺が悪い。俺は夫としても、父親としても失格だった。<br>こんな俺は、妻や娘に二度と会うことは許されない。<br>7年間、そう言い聞かせてきた。<br><br>「やっぱり…だよね」真由が泣きそうな声でつぶやく。<br><br>自業自得だから、もうあわせる顔がない。<br>俺とは別の世界のことだあきらめよう。<br><br>「いいよ。ごめんね。だめかなと思ったけど、もしかしたらと思って言ってみただけだから」<br>真由は慌てたように言い笑ってみせる。指先が震えている。<br><br>俺は…自業自得を言い訳にして娘を傷つけている。<br>別の世界とあきらめるふりをして、逃げている。<br>目の前にいる娘が震えるほど勇気を振り絞っている時に。<br><br>「何が食べたい？」<br>真由の驚く気配が伝わってくる。ぱーっと明るくなる気配が。<br>「こうゆうところはよくわからないんだ。真由のおすすめを食べよう。」<br>「パンケーキにする？すごく流行ってるんだよ！」<br>「じゃあそれにしよう」一万円札を渡すと真由は嬉しそうに立ち上がり、<br>カウンターに走っていった。<br><br>ずっと、傷つけたくないんだと言い訳して、傷つけてきたのかもしれない。<br>傷つきたくなかったのは俺だったんだな…<br><br>満面の笑みを浮かべて真由が運んできたのは<br>山のような生クリームをのせたパンケーキだった。<br><br>甘さに閉口しながらも、2人で食べるパンケーキは格別の味がした。<br>「この近くに住んでるの？また、いっしょにごはん食べたりできる？」<br>小さな声で、真由が聞く。<br>「もちろんだよ」俺は答える。<br><br>早急に、仕事と住むところを探さなくては。<br>「そうか、ごちそうさまでした。」<br>真由は満足げな声で、俺に向かって手を合わせた。<br><br>2人で立ち上がって歩きだすと右手に真由の左手がそっと繋がれた。<br>小さくて、柔らかくて緊張したその手を、ぎゅっと握りしめると<br>ぎゅっと握りしめ返してきた。<br><br>困ったな。嬉しくて涙が溢れてきてしまった。<br>こんなみっともないところを真由に見られるなんて困る。<br>真由の顔をそっとうかがうと、真由も泣いていた。<br>気配を感じて、顔をあげ目が合うと真由が笑った。<br>涙でくしゃくしゃになった顔をさらにくしゃくしゃにして真由が笑っていた。<br><br>この世界に初めて生まれてきた時と同じ顔で真由は笑っていた。<br>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11584824529.html</link>
<pubDate>Fri, 02 Aug 2013 12:11:00 +0900</pubDate>
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<title>道場にて [ 後編 ] （けんたろう）</title>
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<![CDATA[ <font size="2">野良作業から戻り、お風呂で汗を流すとあたりは夕暮れにかわっていた。<br><br>いつもなら夕飯の時刻だが、食事という一大イベントがないので、参加者4人は広間でテレビを見ながらゴロゴロしている。DV男の襲来があったので、中森さんになんと声を掛けて良いのか分からず、それぞれ微妙な距離を保ちながら過ごしている。おじさんは昼間の一件が気になるのかチラチラと中森さんを見ているが、結局他のメンバーも中森さんにはあれ以降、いっさい声をかけなかった。<br><br>「あー、ひま」<br><br>ギャルのアスカちゃんはこっちに来て喋りたそうにしているが、中森さんの手前、彼氏の話を続ける訳にもいかず、つまらなそうにしている。一応、そのあたりの気の遣える所がこの子を憎めない所なのかもしれないなとぼんやり思った。私は、時おりテレビを見て話し出すアスカちゃんの芸能人のうわさ話に適当な相づちを打ちながら、聞き流している。空腹で喋る元気もない私にはそれが今できる精一杯だった。<br><br>あと半日頑張れば、念願の食事にありつける。<br><br>食事を制限するためにここに来たのに、結局食事の事しか考えられないなんて、アスカちゃんのことをバカにできない。アスカちゃんは彼氏の事、私は食事の事。目をつぶれば、焼きたての甘ーい香りのパンやら、鰹節が踊るお好み焼きなどやたら味の濃い食べ物ばかりがまぶたの裏を駆け巡っていた。<br><br>食事の事で頭がいっぱいな私なんかよりよっぽど、彼氏の事で食事ものどを通らないというアスカちゃんの方が男の人にはかわいく映るだろう。こんな事では断食道場なんて何の意味もない、なんて弱気な気持ちになってくる。<br><br>そんなことを考えていると、スーッとふすまが開き、お茶を持った坊さんが広間に入ってくる。<br><br>「こんばんは。みなさん、いかがですか？今が一番つらい時間とちゃいますか？普段、あれやコレや食べ過ぎて負担をかけてる胃腸をお休みさせてると思たらね、明日から自分の身体に感謝して過ごせると思いますよ」<br><br>お茶を配りながら坊さんは、ありがたいお言葉を投げかけてくるのだけれど、残念ながら私以外にはあまり響いていないはずだ。<br><br>「あとね、昼間お騒がせした男の方ね、もうおらんかったわ。ひと立ち回りしはったんも、空腹にはかなんかったかな。もう山を下りてはるやろ。安心し」<br><br>中森さんの表情がパッと明るくなった。<br>おじさんも中森さんを見つめていて、アスカちゃんもキャっと小さく手を叩いた。<br><br>「ありがとうございます」<br><br>中森さんが礼を言うと、坊さんはウインクしながら手をふった。坊さんらしからぬ態度だ。<br><br>「山やからね、いろんな動物もおるし、夜は冷えよる。風邪ひかれても困るんで外には出んといて下さいね。戸締まりしときますさかいに。私らも上のお寺の宿房に帰るんで、9時になったらそれぞれお部屋に帰って寝て下さいね。朝の9時ちゃいますよ。ハハハ」<br><br>そう言うと、坊主はふすまを閉めて広間を後にした。テレビではスポーツの結果などを放送していたが、おじさんは明るい表情になった中森さんの方を変わらずじっと見つめていた。<br><br>---<br><br>部屋に帰っても、窓のない宿房で布団に入るが眠れる訳がない。遠くで小さくブゥンとエンジン音のようなものが聞こえた。昼間お手伝いをしていたパートのおばさんでも帰るのだろうか、都会では気にならないが、こんな小さな音でも気になって眠れない。<br><br>夜の9時。普段夜更かししていない私でも、早すぎる就寝時間。<br>布団の中で寝返りを打ちながら、今日一日の騒動を思い出している。<br><br>あのDV男は手ぶらで帰ったんだろうか…<br><br>執拗に携帯も繋がらない所にまで妻を追って来たのに、<br>坊さんに追い払われたくらいで簡単に帰るのだろうか…<br><br>殴るほど嫌いなら、妻が出てゆくなんて都合が良いじゃないか？<br><br>そもそも、なんで殴られたんだろう…<br><br>そんなことをしばらく、ぐるぐると考えていると、空腹がさらに目を冴えさせてしまっていた。<br>狭苦しい宿房の息苦しさと空腹に耐えきれず、衝動的に廊下に出るとひんやりした夜風が吹き込んで来ている。<br><br>廊下に面した縁側の窓が開いている。少し外に出てみると、満月が光っていた。<br>庭にはツツジが咲いており、花をちぎって蜜を吸ってみた。甘い。<br><br>夜空は星をさえぎるネオンもなく、暗闇はどこまでも暗く、そして星の光に満ちている。<br>見上げるとダイエットなんてとってもちっぽけな事に感じて、気がつくと月夜に照らされた赤く魅惑的なツツジの甘い密を随分長い時間むさぼっていた。<br><br>「グラヤノトキシン」<br><br>不意に声をかけられビックリして振り向くと、タバコをふかしたおじさんが縁側に腰掛けていた。<br><br>「えっ？あっ、タバコ！ダメですよー。断食中にタバコなんて」<br>「堅い事言うなよ。おれも腹へって眠れないのよ。鞄にあるのがコレだけだったから、腹は膨れないけどタバコくらい許してよ」<br><br>おじさんは旨そうにタバコを肺いっぱいに吸い込んだ。<br><br>「さっき、何か言ってましたけど、あれなんですか？」<br>「グラヤノトキシン、ツツジに含まれる毒だよ。蜜は甘いけど、ツツジには毒があるんだ」<br>「蜜吸ってる所見られてました？恥ずかしい」<br><br>にやっと笑うおじさんに顔がほころんだ。<br><br>「私もお腹すきすぎて眠れなくって。昼間はあんなことがあったし…怖いですよね」<br>「中森亮一っていうんだ」<br>「えっ？」<br>「DV男、中森の旦那だよ。オレのクライアント」<br><br>おじさんの目つきが急に真剣になった。<br><br>「クライアントって、どういう事ですか？」<br>「依頼主ってことだよ。あんた、昼間おばさんと話してただろ。何言ってた？」<br>「え、あの…旦那にDVを受けて大変とか、そんな…」<br>「なるほどね…その旦那が悪いって話、ホントに信じるか？」<br><br>急な展開で何をおじさんが話し始めたのかついて行くので頭が精一杯だった。<br>蜜の毒？中森亮一？依頼主？<br><br>「殴られるには理由がある、そうは思わないか？」<br>「ちょっと、急にどうしたんですか。雲行きが怪しくなってきましたけど、あの</font><font size="2"><font size="2">DV男が</font>依頼主ってどういう事ですか？」<br>「奥さんが中にいるから聞かれちゃ困るな。小さな声で話すから、あくまでも暇つぶしのヨタ話だと思って聞いてくれよな。実はオレ、あのDV男に奥さんの素行調査を依頼されてるの。要は探偵だな」<br>「はぁ、やっぱりおじさんもダイエット目的じゃないんですね」<br><br>すまんなというような顔をして、おじさんは話を続ける。<br><br>「中森亮一は昔浮気をしてたんだよ。あのDV男ね。それが見つかって奥さんと離婚しそうになった」<br>「うわ、サイテー。それで、もめて奥さんを殴ったと？」<br>「それだと、オレは要らなくなっちゃうな」<br>「ま、そうなりますね」<br>「話を急ぐなよ。それからというものDV男は心を入れ替えて真面目に働いた、浮気もせずに。ま、世間では、当たり前だけどな。でも奥さんの信用は勝ち取れなかったらしいんだな」<br>「一度失った信用は、なかなか戻らないと」<br>「そう、そう言う事。奥さんは夫の浮気を悩んでいる間、ある男に相談してたんだ、よくある話、元カレだな」<br><br>夜風がふわっと通り過ぎ、何かが倒れたのか宿房の方でゴトッと音がした。<br><br>「DV男はさ、昔浮気をしてたけど、なんだかんだ言って奥さんの事を愛してたんだよね。だから、今度は妻の様子が気になってしょうがない」<br>「それで、探偵を雇ったと」<br>「そう言う事」<br>「で、奥さんの方はどうだったんですか？もしかして…」<br>「あぁ、勘がいいねぇクロだよ。あんたDV男が一方的に悪いと思ってただろ。あいつだってバカじゃない、様子がおかしいって奥さんを問いつめたそうだよ。あんたが見たのは、きっとそのときのアザなんじゃないのかな。世の中にはいろんな側面がある。知らない方がいいこと、気が付かない方がいいこと。残念ながら、奥さんの方は浮気じゃなくて、本気だけどな」<br><br>そう言うと、おじさんはもう一本のタバコに火をつけた。<br><br>「今まで、中森さんに同情してたけど…何か愛とか結婚とかよくわからなくなっちゃった」<br>「女の嘘は男と違って隙がないからな」<br><br>あの地味なおばさんの中森さんが、そんな事になってるとは…<br>驚きを隠せず、惚けていると宿房の方でゴソゴソと音がする。<br><br>「そういえば、君はどうやって外に出たの？」<br>「廊下に出たら、窓がいてたのでフラーっと」<br>「窓があいてた？」<br>「まずいっ！」<br><br>おじさんは火のついたタバコを投げ捨てると急に宿房の方に駆け出していった。<br>もしかして…そんな事がと最悪の事態が頭をよぎる。<br>私もおじさんを追って、宿房に駆け寄った。<br><br>あのエンジン音が、<br>戸締まりしたはずの窓があいてたのも、<br>時おり聞こえる物音も、<br>誰かの仕業だったら…<br><br>いやな予感がだんだん確信に変わってゆく。<br><br>自分の宿房の2つとなりの部屋でDV男が中森さんを羽交い締めにしていた。<br>首にはナイフを突きつけて、中森さんは泣きながら懇願している。<br><br>「お願い、お願いだから。もうこんなことしないで、私はあなたを裏切ってないわ」<br>「いいや、お前は男と繋がってる。オレは知っているんだ」<br>「あれは、あなたが…」<br><br>ナイフを当てた中森さんの首から少し血がにじむ。<br><br>「中森さん、落ち着いて。私です、探偵の北村です。ナイフを置いて下さい」<br>「北村さん、もう妻が信じられないんです。妻を殺して私も死にます」<br>「落ち着いて、一階冷静になりましょう、ね。ね。」<br><br>おじさんが低いトーンでなだめようとしている。<br><br>「あなたが疑っている人は男友達で、あなたの浮気の相談をしていたの、信じてお願い！」<br>「いいや、あの人もお前の不貞は知っているよ、何しろお前を調べてもらっている探偵だからな」<br><br>DV男がナイフの先でおじさんを指すと中森さんの顔が引きつった。<br>震えるナイフの先に血が滲み、赤く月夜に照らされている。<br><br>ナイフを持った腕がまた中森さんの首に戻ろうとする刹那、おじさんがDV男の顔に拳を入れる。すかさず腕を掴み関節を極める。ナイフが音を立てて宿房の床を転がった。DV男はあらぬ方向に曲がった腕を痛みに顔を歪め、悲鳴にも似た、うめき声を出している。突っ伏したDV男に馬乗りになりながら、おじさんは続ける。<br><br>「中森さん、よーく聞いて下さいね。奥さんはその方とあなた浮気の相談をしていただけです。私も何ヶ月も張っていましたし、こうして断食道場までこっそりついてきましたが、シロでした。中森さん、どうか落ち着いて」<br><br>DV男は自分の情けなさに涙しているのか、<br>痛みに涙しているのか分からないような、ボロボロの表情で、嗚咽を漏らしている。<br><br>「どこから入って来たか知りませんが、今日はこっそり街に帰って下さい。警察沙汰にしたくないんです、奥さんもいいですね」<br><br>恐怖にブルブル震えながら中森さんはうなづいた。<br><br>「中森さん、奥さんとうまくやって下さい。お互いを信じる事、そこから始めましょう」<br>「私、私…うぅっ…妻を失いたくないんです」<br>「あなた…」<br><br>ゆっくりおじさんが泣き腫らしたDV男から離れると、男はおじさんに一度振り向き会釈をすると、腕をさすりながら廊下から外へ出て行った。私はただただ嵐の様に起こった一部始終を見ている傍観者に過ぎず、恐怖に震える中森さんに寄り添ってあげる事しかできなかった。<br><br>宿房にはすすり泣く中森さんの声だけがシクシクと響いていた。<br><br>しばらくするとおじさんは中森さんを乱暴に立ち上がらせ、横腹に拳を突き立てた。<br>手には中森さんと男が写っている一枚の写真が握られていた。<br><br>「嘘は墓場まで持って行けよ」<br><br>ウッという軽いうめきが宿房に響くとおじさんは引きつった笑顔で、<br>月明かりが照らす廊下に出て来た。<br><br>「依頼主が捕まっちゃうと報酬がもらえないんでね。お金っていう甘い蜜ですわ。あんたも内緒にしてくれると助かるわ」<br><br>そう私の耳元でおじさんはささやいた。<br>少し困ったようなおじさんの顔が月夜に照らされて、悲しく見えた。<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11570983085.html</link>
<pubDate>Fri, 12 Jul 2013 05:43:26 +0900</pubDate>
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<title>道場にて [ 前編 ] （けんたろう）</title>
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<![CDATA[ <font size="2">お堂の板間で私は足のしびれに悶絶している。足がしびれてしまっていて空腹が少しだけ和らいでいるのは、ありがたい。今日でやっと2日目、あと一日半の我慢だ。この空腹感からするとよっぽどダイエットもはかどっているに違いないと思う、いや、思いたい。<br><br>断食道場とか言っているけれど、2泊3日で10万円も取るんだからよっぽど高級なホテルのような寝室を期待したが、現実は残酷だ。独居房のような1畳あまりの宿房と呼ばれるスペースにお布団が1組敷いてあるだけだった。もちろんおトイレも共同、断食なので食事もない。<br><br>暇を持て余す自由時間も初日は参加者が微妙な距離感を保ちつつ、会話もなく座敷でただゴロゴロするだけだった。一緒にツアーに来たメンバーは疲れきったおばちゃんに、おじさん、後はけばけばしいギャルと私。何だか思い詰めたような顔の人ばかりでとても愉しく会話できる雰囲気ではないのだ。お互い挨拶も無し。ま、修行やら野良作業で忙しく、仲良くなるとかそれどころじゃないんだけど。<br><br>このままだと私の虎の子の10万円は水の泡ときえてゆく。もう、何なのよ！イケメンなんて影も形もない。寺の坊さんは怪しい関西弁のおっさんだし、他にいるのは壮年で強面の修行僧が数人。もしかしたら体型に気を遣う素敵なイケメンに出会えるかも…なんて淡い期待もあったのに。こうなったら、私もHINATAみたいにガッツリ痩せてやるんだから。あ、これもまた雑念か。<br><br>そう思っていると、後ろに人の気配がする。頬の横をふわっと風が通り、肩をやさしくポンポンと警策で叩かれる。この棒が”キョウサク”という事も初めて知ったくらい、私は寺についても、座禅についてほとんど何も知らなかった。このポンポンがきたら首を傾けるのだそうだ。<br><br>「喝ッ！」<br><br>煩悩だらけの私の右肩に警策が鋭く振り下ろされる。もう足のしびれが勝っていて、肩の痛みはどうでも良かった。これが『無』の境地なの？もう何も考えられない。感覚が無くなってから時間はどのくらい経ったのだろうか。<br><br>煩悩と無の境地の間を懊悩しているうちに初夏の日がどんどん上がってゆく。<br>背を向けていた僧侶が振り向く衣擦れの音が、静寂から私を現実に連れ戻す。<br><br>「はい、おつかれさまでした」<br><br>目を開けるとお堂にいる参加者4人それぞれが足を崩していた。生まれたての子鹿のように足をぷるぷるさせ、それぞれ悶絶している。隣にいるおばさんは生気がない顔を浮かべこちらに笑みを送ってくる。<br><br>「わたし足がしびれちゃって、あなたも？」<br>「あたしもですよ。もうガクガクで。座禅ってこんなにもきついんですね。あ、あたし美奈って言います、細野美奈。ほそくないんですけど、細野って名前負けで恥ずかしい」<br>「あらそんな事ないわよ、私は中森っていうの。短い間だけどよろしくね」<br><br>断食道場始まって以来、1日ぶりの人との会話だ。中森さんも少し寂しそうな顔から笑みがこぼれている。中森さんが足を崩すと、はだけた作務衣の下から痣だらけの足が見え隠れしている。<br><br>「あ、痣だらけじゃないですか？こんな板間に何時間も座ってたら、お肌が弱い人は痣ができちゃいますよね。まったく10万も払ったのに！ふっかふかの座布団くらい用意しとけっての、ねぇ～」<br><br>私がおばさんのような口調で問いかけると、中森さんは作務衣の下をそそくさと直して、ガクガクした足で立ち上がろうとするが立ち上がれない。あきらめた様子で私に背を向けた。ん、何なのだろう、なにか気に触る事でも言っちゃっただろうか？しばらく間があいてこちらを向き、おばさんはため息をつきながら、ゆっくり口を開いた。<br><br>「これね、座禅のせいじゃないのよ。旦那にね、蹴られ殴られてできたの。洋服きてたら見えない所よね、ひどいでしょ？私旦那から隠れる為にここにきたの。ここ田舎だし電話も通じないから…外からの人もお寺だから入れないし、私逃げてるのよ」<br><br>そう言うとゆっくり中森さんは立ち上がり、俯いてヨロヨロお堂を出て行った。<br><br>え？ここってダイエット道場じゃないの？初会話が随分ヘビーなんですけど。耳が痛いくらいに静寂なお堂にいた外のメンバーもきっと聞き耳を立てていたに違いない。みんなも、よそよそしく動き始めた。<br><br>中森さんが出てしばらくするとお堂の中の外の面子もゆっくり立ち上がり、外に向かっている。このあとは敷地内にある畑で野良作業だ。せめてこのつらい修行中、少しでも愉しく同じダイエット仲間と過ごそうと思ったのに、目的すら違うとは…残りに時間を考えると、さらにどんよりした気持ちになった。<br><br>この寺は伊豆半島にある膨大な土地を有するお寺だ。前日の自由時間に何もする事がないのでぶらぶらと敷地を散歩してみたのだが、とても数時間では廻りきれそうになかった。<br><br>崖から海に面する南面には太平洋が一望でき、日当りの良い斜面には畑が広がっていて畑の周りをツツジが彩っている。北面は急な斜面に面していて、敷地の周りをぐるりと囲いが設けてある。まさに要塞のような寺である。<br><br>野良作業に向かう為、お堂の外に出ると、門の外から激しく門を叩く音と男の声が聞こえる。中森さんがおびえた様子で柱の影にへたり込んでいた。<br><br>「おらぁ、開けろや！いるのは分かってんだぞ！静江、開けなさい！」<br>「帰って下さい。お願いですから」<br>蚊の鳴くような声で中森さんが答えている。<br><br>「いいから、ここ開けろ！」<br><br>怒鳴り散らしていた男は急に門の向こうから優しい声にかわり、諭すような声で中森さんに語りかける。<br><br>「な、静江、話すれば分かるって」<br>「もう無理なんです。許して下さい」<br><br>野次馬根性というのはおそろしいもので、退屈な修行中にこんな大イベントが不意に訪れたら容易にはあらがえない。それは誰もが一緒のようで、気が付けば昨日まで一言も交わさなかったメンバーも重なるようにして柱の影から門の様子を覗いていた。<br><br>「え、なになに？さっき話してた旦那がきたの？」<br><br>おじさんが小声でこちらに顔を向ける。やはり聞こえていたのだ。いい歳したオヤジが野次馬かよと思うが私も首を縦に振り、唇に人差し指を当てシーっとポーズした。<br><br>門の方ではしばらくやんでいた門を叩く音がまた激しくなる。<br><br>「おらぁ、開けろや！」<br><br>乱暴な声の向こうに向かって、法衣をまとった小太りの坊さんが向かってゆく。<br><br>「あいあい、そない大声出さんでもきこえとりますがな。今開けます、開けますよ～。もううるさくてかなんな、自分」<br><br>中森さんが坊さんに近づいてゆき、手を掴んで首を振っている。坊さんは中森さんの肩を優しく叩き、耳元で小さな声で何か伝えると、中森さんはお堂の方に小走りで消えていった。<br><br>門を開けると男が中に乗り込んでくる。<br><br>「ウチの嫁がここに隠れてるだろ、隠しても無駄だぞ。さっき声が聞こえたからな」<br>「何を言わはってるか、わかりませんな。ここは女人禁制のお寺や。女の人などおりませんよ。もし、百歩譲ってお宅の奥さんがかくまわれてるとしたら、その態度はあかんのとちゃいますかな？」<br><br>この坊主も相当とぼけたオヤジだ。女人禁制って。ダイエット目的の断食道場ってネットでも簡単に予約できるほどなのに。ひょうひょうと嘘をつく。<br><br>「は？お前何だよ。いいから、静江をつれてこいや！何なら力づくでも」<br>「そないにすごまれても、おらへんもんは出されへんわ、さ、帰り」<br><br>坊さんとの小競り合いはしばらく続き、いる、いないと禅問答のような会話が境内に響く。<br>隠れてそっと見ていたが、力づくで中に入ろうとした男が組み伏せられている。それでもDV男は地べたにあぐらをかいて動こうとしない。<br><br>「あぁ！こうなったら居座ってやる。警察でも何でも呼べば良い。警察は民事不介入だからな、夫婦喧嘩に口出しはできないんだよ」<br>「そうでっか、敷地に入ってるってことで不法侵入っちゅうことで警察呼べますけどな」<br><br>警察はまずいと思ったのか、不満そうな顔で門の外に後ずさりするDV男。<br>「ここなら文句ないだろ。嫁が出てくるまで、オレはここを一歩も動かないからな」<br><br>坊さんがニヤニヤして門を閉めながら、<br>「ウチも断食道場やってるさかいな、飯は出されへんけど、堪忍な。あんたもいつまで腹ペコで座ってられるか見物やな」<br>「うるせぇ、オレは門の外で待たせてもらうからな」<br>「どうぞ、ご自由に」<br><br>大きな音がして門にかんぬきがかけられた。<br><br>「さあさ、皆さんも農作業の時間やで、畑にいかな」<br><br>追い立てられて、中森さんを除く私達3人は畑に向かった。<br><br>一面続くダイコン畑の収穫を昼過ぎから行うのだが、さっきの騒動を見てしまった為か、皆惚けたように手が動かない。ギャル風のメイクをした女の子に至っては泣き出してしまっている。おじさんはそれをみてオロオロしている、頼りないけど私がここは彼女の力になってやるしかない。<br><br>「ねぇ、大丈夫？怖い人見ちゃって、驚いちゃった？」<br><br>ギャルは泣きじゃくってしまって軍手で顔を拭うから、マスカラが落ちるのと畑の土がつくのが相まって汚れたパンダのような顔になってしまっている。<br><br>「つらかったらさ、農作業は無理してやらなくてもいいんじゃない？私達お金払ってここに来てる訳だし、言うなればお客さんな訳じゃん。ね、大根なんていじってないでちょっと大自然でも見てさ、のんびりしようよ」<br><br>我ながらなんと説得力の無い、的外れな慰めなんだろうと思うけど、なんで泣いてるか分からないんだからしょうがない。パンダみたいな顔の女がこちらを向き、私の手を握る。<br><br>「アスカね、おばさんの旦那さんがどんな人か知らないよ。でもこんなド田舎までたった一人の為に迎えに来てくれて…アスカいいなと思っちゃって」<br><br>そう言ってまたパンダは泣き出した。パンダはアスカというらしい。そしてきっとバカだ。<br><br>「いやいやいやー。でも旦那さんが暴力ふるう人なんだよ。アスカちゃんが思うような好き嫌いってそう言うレベルじゃと思うんだけど。下手したら殺されちゃうよストーカーみたいなもんだからね」<br><br>私がすごむと、アスカちゃんは目をうるうるさせてこちらを見る。<br><br>「違うの、アスカね、アスカね、彼とお別れしたばっかりなの。だから彼が迎えに来てくれるって場面を見ただけで泣けてきちゃっうの。私の彼ね、板前さんなの。毎日おいしいお料理作ってくれたから、食事の時間になると彼の事ばかり思い出しちゃって、それでアスカ泣いてばっかりで」<br><br>聞いてもいない恋愛話が繰り広げられる中、おじさんは後はまかせたよ、と言う感じでトボトボと農作業に戻っていった。ああ、おじさん、私を一人にしないで。<br><br>「でね、でね、食べる時間になると料理してる彼の事思い出しちゃうからいっその事、食べないって決めたの。そしたら彼の事思い出さないでいられるでしょ、それでね断食道場に」<br>「あーそう、そうなんだ…もういい？」<br><br>話もそこそこに私も農作業に戻ることにした。泣きじゃくる若い子をほっとくのは自分でも冷たいと思ったけど、空腹も相まって、急速にバカバカしくなり聞いていられなくなった。その後も大根を見ると桂剥きを思い出すだの聞いてもいない思い出話をしながら後をついてくるので、適当に相づちを打って黙々と大根を引き抜く事に集中した。<br><br>結局の所、ダイエット目的でこの道場に来ているのは私だけなのだろうか。この調子で行くと一番ダイエット効果を上げてげっそりするのは、門の外にいるDV男なのではないかと思うと、私はだんだん頭が痛くなってきた。<br><br>後半に続く。<br><br></font>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11562147149.html</link>
<pubDate>Fri, 28 Jun 2013 05:09:08 +0900</pubDate>
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<title>道場魂（s.kaneko)</title>
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<![CDATA[ <p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">見上げると、鬱蒼と茂った緑の木々の隙間から眩しいほどの青空が見えた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタは流れる汗を手の平でぬぐい、曇っためがねをシャツの裾で拭いた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">バアサンちの裏庭で薪を割り終えると、土間をぬけ台所にいき家用の冷蔵庫から麦茶を取り出し、喉を鳴らしてコップ二杯を飲み干した。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　「終わったか？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">振り向くとバアサンが土間の上がりかまちから白い割烹着姿で仁王立ちしていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">白髪頭をひとつにくるりと巻き上げ、浅黒い顔には皺が刻まれ、目だけがギョロギョロと光るバアサンは妖怪染みていて、ナオタが物心ついた頃から年齢不詳であった。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">今は８０歳を過ぎているはずだが。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">このバアサンはナオタにとっては父方の祖母であり、５年前に死んだジイサンが２０年前に始めた断食道場の名物ババアだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　「終わったよ、薪割りは済んだ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　「そうけ、じゃ、こっちこい」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">鋭く光るギョロ目でナオタを圧すると、年寄りとは思えぬ軽い足取りで道場に歩いていく。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">慌てて追いかけていくとナオタは道場に着くまでに、覇気がねえ！と言いがかりとしかいえない理由でバアサンが「入魂棒」と呼ぶ２０センチほどの木の棒で二回こづかれた。</font></span><span lang="EN-US"><br></span><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">道場に着くとバアサンは雑巾を二枚絞り、一枚をナオタに渡すと入魂棒を白髪頭に差し込み、ふいに用意ドンと掛け声をかけ軽快に板の間に雑巾を滑らせ拭き始めた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　どちらが先に道場の半分を拭き終わるかで、今日の昼飯当番が決まる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">大抵、ズルをして道場を丸く拭いて終わるバアサンに、几帳面に端まで拭くナオタが負けるのでこの勝負はあってないようなものだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタは一度バアサンを真似て丸く拭き、１００年早えわ！と入魂棒でこれでもかと小突かれてからは、端まで拭くように心がけている。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">入魂棒は案外痛いのだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　「今日も負けはおめえけ、おれはそうめんが食いてえな」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">バアサンは昔から自分のことをおれといい、ナオタをおめえと呼ぶ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ちなみに他人の事は「あんたさん」だ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">バアサンからすると「あんた」だけでは失礼なので「さん」をつけて、丁寧語だと思っているのだろうと父親が以前解説してくれた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><font size="2"><br></font><span lang="EN-US"></span></p><p><font size="2"><br></font></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">大学を一年休んで見聞を広げるためにアメリカ留学をしたいと夢みたいな計画をナオタが両親に相談すると、なら１０万やるから田舎のバアサンちにいって見聞を広げてこいと両親に丸めこまれこの山奥の断食道場に住み込んで早二ヶ月。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">両親は勝手に大学に休学届けを出し、バアサンにはナオタの性根を叩きなおしてくれと連絡を入れていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　ナオタはそれまでつるんでいたマルチ商法勧誘のバイト友達や、大学の「シティ冒険サークル」の仲間から引き剥がされ、携帯の電波も届かぬ山奥で絵本のじいさんみたいに薪割りをしたり、道場の床を磨いたりの毎日を送っていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　目の前につるされた人参の１０万に目がくらみ、うっかりバアサンの所にきたナオタだからこの生活に１日で音をあげ逃げ出そうとしたが、バアサンはなかなか手強く逃げ出す機会を見つけられぬまま二ヶ月がたっていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　しかしナオタも道場にやってくるデブの世話を焼いたり、バアサンとのくだらない勝負をするうちに何故かこの道場に居心地の良さを見出してもいた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">東京の生活はいつも何かに急かされ、消費に追われ金が必要な日々だったが、田舎の暮らしは流れる時間が違い、圧倒的に多い緑に自然の雄大さの懐に抱かれるような気分になる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタはこれが癒しというのかもなぁと、最近では思い始めていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　「なあ、バアサン。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　どうして死んだジイサンは断食道場なんてはじめたんだ？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　そうめんをすすりながら、歯茎が歯と化したばあさんにきいた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「そりゃおめえ、ジイサンがメシの用意もなくてデブを泊めれば金儲けできるって言い始めたからよ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタは入れ歯を出し入れ自由に飛び出させるという得意技をよく披露していたジイサンの顔を思い出していた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">顔は似ていないが、テレビで高田純二をみるたびに死んだジイサンを思い出す。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「なんだ、それ？もっと立派な理由とかねえのかよ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「なんだ、おめえ。じゃ、おめえは生きてるのに立派な理由でもあんのか？あっ？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　バアサンはひからびた胸の谷間から入魂棒をとりだすと片手にあてがいながらチラつかせ、ナオタを見据えた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「おめえは大学なんかいきくさったクセに、人様を騙す片棒担いだり、街ん中でビルに上って大勢で騒いだりして、親に迷惑かけた挙句、外国いきてえから金だせって言ったんだろ？そんな若造が、自分の力で稼いで食ってるおれに意見なんかいえんのか？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「確かに、マルチ商法を紹介したし、サークルの仲間と新宿のビルに登ったけど、どれも悪気はなかったし、留学だって本当にしたかったんだよ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタは口をとがらせ言い訳した。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「んあ？悪気がなければ、それでいいってか？バカか、おめえ。人を殺して悪気がねえっていえば、警察につかまんねえか？あっ？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">入魂棒でこづかれ、ナオタは眉をしかめた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「おめえがしたことは、他人様を陥れたし、迷惑もかけたし、挙句に親不幸してんのがまだわかんねえのか？誰に似た？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタは不意打ちで入れ歯を飛ばし人が驚く顔をみて喜ぶじいさんを思い浮かべていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「この道場に来るデブだってな、み～んな自分の力でやってきて、変わりてえってメシも喰わねえでがんばんだよ。自分が変わるためには、人様の金や力では、変われねえんだってわかってんだ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">確かに、デブ達は汗を拭き拭き山奥まできてメシを抜き、運動をするだけなのだが帰りにはナゼかどいつもこいつも晴れ晴れとした顔をしている。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「一キロ、二キロ、痩せたくれえで見た目がそんなに変わるわけもねえが、デブ達はな、その数キロ痩せる努力ができた自分が嬉しいんだよ、できそこないでダメな自分から抜け出て変われたっておもうんだ、わかっか？考えの浅いおめえに？」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「うーん。おれデブじゃねえし、まだよくわかんねえな」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">そう言ってそうめんをすすると、バアサンは入魂棒で肩を叩きながらナオタを見据えていた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「おめえはここにくるデブとおんなじじゃ、デブは身体は肥えてるが心が飢えているのが多い、おめえは心のどっかが飢えていて人様の痛みがわかんねえんだな。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ここでたっぷり人生について考えてみろ！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">バアサンは麦茶を一気飲みして、立ち上がると首をコキコキならした。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「おい、おめえ、明日はなんとかっつう輩がやってきてイベントつうのをやるんだからよ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　風呂を洗ったり、布団用意したり、忘れんなよ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「おう！」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">ナオタは箸を持ち上げ、バアサンにこたえた。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">「それから手伝いに美幸と朝子も朝からくっからよ」</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">数キロ離れた隣家の大仏パーマのオバサンと、その妹は忙しい時にだけ頼むパートだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">なんと明日はダイエットアイドルのヒナタがやってきて、デブ達から金を巻き上げるのだ。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">宿泊予定者の中にはあきらかにヒナタのおっかけであろうオッサンや、親子で参加するやつらもいる。</font></span></p><p style="MARGIN: 0mm 0mm 0pt" class="MsoNormal"><span style="FONT-FAMILY: &quot;ＭＳ 明朝&quot;; mso-ascii-font-family: Century; mso-hansi-font-family: Century"><font size="2">　ナオタは芸能人に接するめったにない機会だというのに、ツイートできない事が一番残念だった。</font></span></p><p></p><p><font size="2" face="Century"><br></font></p>
]]>
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<link>https://ameblo.jp/numabeaxistool/entry-11553590736.html</link>
<pubDate>Sun, 16 Jun 2013 15:48:37 +0900</pubDate>
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