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<title>日本一短いチーママへの手紙</title>
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<description>ローラ！！！</description>
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<title>お引越ししました。</title>
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<![CDATA[ また戻るかもですけども。<br><br><a href="http://blog.livedoor.jp/kamezo88/" target="_self">日本一短いチーママへの手紙 V3</a><br><br>途中から内容をちょっと変えるつもりです。<br>よろしくどうぞー♥
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<pubDate>Thu, 26 May 2011 00:26:19 +0900</pubDate>
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<title>ウスバカゲロウ</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFCC" size="3">チーママ。だんだんじゃなくて、くるりとなんだ。<br><br><br><br>・scene 1<br><br><br><br>大通公園を背にしてメインストリートを南へ。コンビニエンスストアを目印に、信号は渡らず、右に折れる。そして、三棟め。セクキャバ、スナック、バーが入居する八階建ての雑居ビル。それは、歓楽街薄野においてはあまりにも特徴の無いビルだ。ただし。一階のエレベーターエントランスの隅でパイプ椅子に腰掛けたブラックスーツの存在を除いて。<br><br>闘争か逃走か。<br><br>それを決するのは、アドレナリンの分泌による危機回避行動に相当するストレス応答。即ち、本能。<br><br><br>「9、8、バンカー」<br><br><br>ディーラーのコール。分泌されるアドレナリン。<br><br>そのビルのエレベーターは、三階に停まらない。いや、正確には、停まれない。1から8まである各階のボタンのうち、3だけはプッシュしても反応しない。<br><br>三階には気軽なレストランバーがあるはずだ。エントランスのガイドパネルでも可愛らしいバニーガールのイラストレーションがお気軽にどうぞ、と誘っている。だが、レストランバーまでの道程は容易ではない。<br>用のある者はまず、エントランスのブラックスーツに歩み寄り会員カードを提示する必要がある。ブラックスーツは会員カードを受け取ると、記載されているID番号と氏名をインカムを通して何処かに伝える。そして許可が下りるとエレベーター内のパネルを小さな鍵で開き、操作し、三階へと昇らせて、停める。<br>三階。エレベーターが開くとそこは、天井からダウンライトが一灯だけ照らされた小部屋。正面には重そうな扉とインターホンがあるだけで、他には何も無い。背後からインターホンに向かってID番号を読み上げるようブラックスーツに指示される。それに従うと、扉が、やっと、開かれる。<br><br>扉の向こう側。手前には、所狭しと並べられたスロットマシン。そして中央には数台のバカラテーブル。奥にルーレット。金歯の老人。全身を外資ブランドで固めた厚化粧。一攫千金を狙う若者。香水と煙草の匂い。そして渦巻く欲望の煙を払うように闊歩するバニーガール。<br><br>レストランバーに偽装した闇カジノ。<br><br><br>「ナイスキャッチ」<br><br><br>賭けがおよそ倍になって戻ってくる。これで三連続でシューターを勝ち抜けた。目前に積み上げられた、まるで摩天楼のようなコイン。まだだ、まだイケる。<br><br>その夜、タキムラは、バカラに興じていた。<br><br><br><br>・scene 2<br><br><br><br>タキムラはIT企業に勤める営業マンだ。経営者や水商売風俗関係者、そして暴力団組員。いわゆるやくざ者が多く集まる闇カジノにあって、タキムラのようなビジネススーツの一般人は異色の存在だ。<br><br>タキムラがこの世界の存在を知ったのは去年の夏、いつもの料亭でのいつもの接待の後。これでいつものキャバクラでは面白味が無いからと、取引先の重役に連れられて来たのがきっかけだ。最初のうちは、果実酒を片手に5点バランスのテーブルでちびちび遊んでいる程度だった。それが、回数を重ねる毎にだんだんレートが大きくなって、一年経った今では、今夜のように独りでやって来て、一晩で数百万円の勝ち負けをするまでになっていた。<br><br><br><br>・scene 3<br><br><br><br>「少しお時間よろしいですか？」<br><br><br>ディーラーが新品のトランプの封を切り、シャッフルを始める。次のシューターが開始されるまで、もう少し時間がある。タキムラは、レストルームで用を足していた。<br><br><br>「なんですか」<br><br><br>ちろちろと用を足しながら、応える。こんなときに全く失礼なヤツだ。股間に添えた手元から視線を外し、僅かに顔を振り、失礼なヤツを視界に捉える。ラグジュアリーなブラックスーツ。135番手3子撚りで織られた最高級シャツ。高身長。痩せ型。そして恐ろしく日に焼けたオールバックの色男が、タキムラを見下ろしていた。<br><br><br>「調子は芳しくなさそうですね」<br><br>「そうでもないですよ」<br><br><br>そう言うとタキムラは、身体をぶるぶるっと震わせ、用を終えた。<br><br><br>「濃い色のお小水は、肝臓が弱っている証拠です。ご自愛を」<br><br>「ああ、そっちですか。どうも」<br><br>「だが、しかし。先程のシューターを拝見していましたが、此方の方は頗る好調のご様子」<br><br><br>チャックを上げて振り返ると、恐ろしく日に焼けたオールバックの色男は両の手でトランプを捲る仕草をしながら、口元から犬歯を覗かせて微笑んでいる。右腕には、ダイヤモンドで装飾されたスイス名門メーカーの特別モデル。なんだこいつ。バブリーな、ホモ？<br><br><br>「ああ、どうも」<br><br>「そこで、です。今夜、大金を獲得されるであろう貴方に、是非、ご紹介差し上げたい女性がいるのです」<br><br>「は？」<br><br>「最上級の女性です。きっと気に入っていただけると思います」<br><br><br>そう言って、恐ろしく日に焼けた色男は、ジャケットの内ポケットから一枚の写真を取出した。それを見た、瞬間。タキムラの脳内から大量のアドレナリンが分泌され、心拍数が一気に上昇した。瞳孔が散大する。思わず、声を上げそうになった。<br><br>リサ・・・ッ！<br><br>化粧が濃いが、間違いない。タキムラと同じ会社の総務部の。社内のアイドル的存在の。<br>そして、密かな関係の。リサが、艶めかしいドレスを纏い、写真の中で微笑を浮かべていた。<br><br><br>「良い娘だね。次のシューターが終わったら詳しい話を」<br><br><br>それは、身体の中で暴れる歪みを押さえ込み、やっとの思いで吐いた台詞だった。<br><br><br><br>・scene 4<br><br><br><br>最悪だ。<br><br><br>「2、7、プレイヤー」<br><br><br>ディーラーのコール。九連続プレイヤーに、どよめきが起きる。そのどよめきに触発されて、他のテーブルからギャラリーが寄って来る。その群れの中に恐ろしく日に焼けた色男。<br><br><br>「8、9、プレイヤー」<br><br><br>これで十連続。摩天楼がまた切り崩される。タキムラの賭けは、出だしからずっとバンカー。このシューターで、タキムラは既に120万円を溶かしていた。<br><br>タキムラの本能は麻痺していた。脳がヒリヒリする。過剰なアドレナリンによる脳内麻薬物質の分泌が原因だ。ただ､少しの間が欲しかっただけなのに。この無常を前にしてタキムラの思考回路は完全に分断されていた。ルックすらできない。理性までも麻痺している。更に30万円を、バンカー。<br><br><br>「4、6、プレイヤー」<br><br><br>もがけばもがくほど<br><br><br>「0、2、プレイヤー」<br><br><br>十二連続。そうだ蟻地獄に似ている。<br><br>もう、ギャラリーの無言の嘲笑も気にならない。タキムラのバッドラックに感付き逆張りを仕掛ける金歯の老人への憤りも消えた。捕食者さん､好きなだけ得てね。回避不能のストレスに晒され続けた餌食に訪れる最期の救い。無痛覚。<br><br>摩天楼は消滅した。プレイヤーに、残りを全部。<br><br><br>「9、0、バンカー」<br><br><br>非現実感。寧ろ、笑いが込み上げる。<br><br><br>「残念でしたね。先程の件は、またの機会に」<br><br><br>肩越しに小声でそう言って、恐ろしく日に焼けた色男は、金歯の老人の背後に憑いた。<br><br><br><br>・scene 5<br><br><br><br>夜風が心地よく頬を撫でる。<br><br>さっきから、それに呼応するように眼球だけがゆらゆらと揺れている。タキムラは歩道の縁石に膝を曲げて腰をおろし、例の雑居ビルを眺めていた。<br><br>左の鎖骨のほくろ、そして胸元のベビートリニティ。リサと肌を重ねる度にキスをした、そしてリサの誕生日に贈った、タキムラだけが知る証拠。あの女性はリサ。他人の空似である可能性は限りなくゼロに近い。真実を悟る恐怖。だが、それよりもっとタキムラを苦しめていたのは、写真の中のリサの首筋に青く残ったふたつの小さな痣。未知なる存在だった。足元には煙草の吸殻が四本。徐に、五本目に火を付ける。<br><br>歓楽街の喧騒。気分は最悪だが、随分と落ち着いては、きた。<br><br>この街での女性の容姿は、俗世の男性の学歴と同義だ。それさえ良ければなんにだってなれる。モデル、フロアレディ、エステティシャン。そして、風俗嬢。薄野で、リサは一体何になったというのか。<br><br>風俗嬢。<br><br>否定はできない。寧ろ、あの恐ろしく日に焼けた色男のアプローチ手法から察するに、残念ながらそれか、若しくは想像を超えた何かの可能性が高い。いずれにしろ、一体何の為に？愚問が過ぎた。勿論、金だろう。<br><br>そして、最も重要なのは恐ろしく日に焼けた色男。ヤツは一体何者か。なのだが。<br>まあ、試してみるか。<br><br>タキムラは、五本目の煙草をアスファルトで揉み消すと、一棟隔てたコンビニエンスストアで缶コーヒーとファンデーションを購入して踵を返し、歩道から、ビルに背を向け、ファンデーションの鏡でブラックスーツを映し、確信を得た。そして、一階のエレベーターエントランスの隅でパイプ椅子に腰掛けたブラックスーツに歩み寄った。<br><br><br>「ほい、差し入れ。ブラック飲めたよな？」<br><br>「聞きましたよ、プレイヤーの十二連荘ですってね。ご愁傷様です」<br><br><br>左耳のインカムを中指でトントンとやりながら、ブラックスーツは人懐こい笑顔を浮かべる。<br><br><br>「ああ、参ったよ。ここ最近のプラスをほとんど持ってかれちまった」<br><br>「マイナスじゃないなら良かったです。もう一度登ります？」<br><br>「いやいや、もうやめとくわ。それよりさっき上の便所でキャッチされたんだけどさ。なんか知ってる？」<br><br>「ああ、マツザキさんですかね？」<br><br>「名前は聞いてないな。特徴は、色黒で、俺よりも背が高くて」<br><br>「ちょいワルな？」<br><br>「ハハハ、そうそう」<br><br>「それならマツザキさんですね。ちなみにあのクルマ、マツザキさんのですよ」<br><br><br>ブラックスーツの中指は、ビルに横付けされたオブシディアン・ブラックのメルセデスを示していた。CLS63AMG。4915×1875×1430ミリメートル。その流麗なロープロポーションは、息を飲むほど。アート作品とも言うべき美しさだ。だが、繊細な印象とは裏腹にボンネットの内側にはDOHC6.3リッターV型8気筒のモンスターエンジンが搭載されている。<br><br><br>「ちょいワルな彼にピッタリだな」<br><br>「ですよね、ハハハ」<br><br>「で、彼の店。どこにあるか知ってる？」<br><br>「あら。それ、聞いちゃいます？」<br><br>「なんだよ。ヤバイわけ？」<br><br>「うーん、どうなんだろ。でもマツザキさんに声を掛けられたんですもんね？」<br><br>「そう、写真もみせてもらった。一度は断ったんだけどそのコが気になっちゃってさ。やっぱりお願いしようかなってね」<br><br><br>ブラフ。<br><br><br>「それなら。じゃあ、まあいいか。お店は無いです」<br><br>「無店舗なのか。デリヘル？」<br><br>「とも違います」<br><br>「じゃあ、なんなのよ？」<br><br>「自動販売機です」<br><br><br>ブラックスーツの悪戯な笑顔。上目遣いに、鋭い犬歯を覗かせて。<br><br><br>「ああ、それでテレビ塔なわけな」<br><br><br>ギャンブル。<br><br><br>「そうですそうです。あ、でも、テレビ塔は警察沙汰になっちゃってもう使えないはずですよ」<br><br><br>ナイスキャッチ。分泌されるアドレナリン。<br><br><br>「警察沙汰？」<br><br>「知りませんか？コインロッカーのニュース」<br><br>「ああ、赤ん坊のか。警察沙汰は面倒だな。やっぱ他の店にしとくわ。じゃあな」<br><br>「え？あ、はい。コーヒーご馳走様でした」<br><br><br>繋がった。脳内に積み上がる、情報のコイン。<br><br>こいつら、吸血鬼だ。<br><br><br><br>・scene 9<br><br><br><br>・</font>
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<pubDate>Mon, 07 Mar 2011 00:36:46 +0900</pubDate>
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<title>スーパーシューター</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFCC" size="3">チーママ。おばけなんて、ないんだ。<br><br><br><br>・scene 1<br><br><br><br>かつてオリンピックの舞台となったシャンテを右に望みながら山道を往くと、富裕層の令嬢が通うリセ。更にくねくねとアップダウンを往くと、それは現れる。心霊スポット、Kトンネル。<br>草木も眠る丑三つ時。入口から30m離れた砂利の空地に、タカギは車を停めた。<br><br><br>「おお、雰囲気あるじゃん。スガワラ、カメラカメラ」<br><br><br>助手席のスガワラは半身を捻って、後部座席のナップザックからデジタル一眼レフカメラを取り出そうとゴソゴソとやっている。タカギが運転、スガワラがカメラ。いつもの役割分担だ。<br><br>タカギとスガワラは、心霊スポットを紹介するウェブサイトを運営している。親切で丁寧なインデックスとマップ付きの詳細情報ページ、そして、おどろおどろしい文章と高解像度の画像で構成された管理人突撃レポートが評価され、人気サイトとして雑誌に紹介されたこともある。そのレポートにアフィリエイトを設置することで、サイトは月に数万円の収益を上げていた。<br>夏はトップシーズン。気温の上昇と共にアクセスも上昇する。稼ぎ時だ。タカギとスガワラは、突撃レポートの新作をアップする為、このトンネルやってきた。<br><br>スガワラは、ナップザックからデジタル一眼レフカメラを取り出すと、おどけた表情でタカギに敬礼し、独り、心霊スポットに向かって行った。これも、いつも通り。<br><br><br>「しかし、まあ」<br><br><br>タカギはステアリングを抱き抱えるように組んだ両腕に顎を乗せ、トンネルを眺める。<br><br>トンネルは、ただ単に山を刳り貫きましたといった体裁で、ヘッドライトで照らされた内部には剥き出しになった岩盤が見えている。延長100m程。横幅は、多分、大排気量の車同士だとすれ違うことはできないだろう。そして、その内部はカラフルなペンキで埋め尽くされていた。無数の落書き。勇気の誇示のつもりなのだろうか。心霊スポットは有名になってしまうと必ずと言って良いほど落書きに侵食されてしまう。そして、心霊スポットを人々に紹介して小銭を稼ぐ浅ましい存在、自分達がその侵食を更に加速させている。もし本当に幽霊なんてものがいるのなら、怨まれるのは、落書きをした者だろうか、それとも自分達だろうか。ともあれ。<br><br><br>「雰囲気あるじゃん」<br><br><br>スガワラは、入口付近でパシャパシャと数回スピードライトを炊いた後、トンネルの闇の中へ消えて行った。<br><br><br><br>・scene 2<br> <br><br><br>Nikon D3X。スガワラのカメラだ。カメラグランプリで大賞を受賞したフラグシップ機D3の高画素バージョンで、最大の特徴は、D3の約2倍の画素数となる約2,450万画素のCMOSイメージセンサーを搭載していることであり、現時点で同社のデジタル一眼レフカメラ最多画素を誇っている。D3Xは、無職のスガワラには分不相応なハイエンドカメラだ。<br><br>スガワラは、この春、12年勤めた食品加工会社を退職した。業績悪化による臨時的な早期優遇退職の募集に応じてのものだった。スガワラは、その退職金のほとんどをD3X購入費に充てた。レンズやアクセサリーを併せると、100万円強。生まれて初めての大きな買い物で、家電量販店のレジで現金を支払うときには手がプルプルと震えた。<br><br>僕は、僕である証を、撮りたい。<br><br>退職には、大した理由など無い。それでも強いてあげるとすれば、それが理由だ。<br>毎日毎日、代わり映えの無いライン作業。休日は、一人暮らしの万年床で、ただ寝るだけ。恋愛にいたっては、気配すらない。アパートの窓から見える風景は、彩度を失っている。<br>少年時代は、違った。もっともっと、僕の眼に映る世界は輝いていた。夏空のヒコーキ雲に、夕焼けに染まる街並みに、雨上がり、笹の葉に残った水滴に。いちいち感動し、それを心に刻んでいた。そうだ。心に残る忘られぬ場面こそが、生きた証。<br><br>今からでも、遅くはない。もう一度。スガワラは、強く思っていた。<br><br><br><br>・scene 3<br><br><br><br>少女は、絵を描いていた。<br><br>真夜中に、こんな場所で、しかも、素っ裸で。最初は、本当に幽霊がでたのかと思った。スガワラに気づいた少女は、にっこりと微笑んだ。<br><br><br>「こんなところでどうしたの？歩いてきたの？パパとママは？」<br><br><br>スガワラは吃音症だ。周囲に人がいなければスムーズに話せるが、会話となるとどうしても緊張してしまい、どもってしまう。吃音のことがいつも頭から離れない。だから、どもりそうな言葉や場面をできるだけ避けたり、話すこと自体や人付き合いを避けている。だが、不思議とこのときだけは、スムーズに会話をすることができた。<br><br><br>「うん、あるいてきたの」<br><br>「パパとママは？」<br><br>「わかんない」<br><br><br>少女はそう言うと、また、トンネルの岩肌に塗り固められたコンクリートの壁と向き合い、絵を描き始める。色とりどりのクレヨンで描かれた花畑。そこに立つのは、三角形と円と直線で表現された女の子。そして、女の子の傍らには、三角形をふたつ向き合わせた浮遊物。<br><br><br>「これは蝶々？」<br><br>「うん、ちょうちょ」<br><br><br>しかし。なぜ、こんなところにひとりで？洋服は？スガワラは辺りを見廻したが、誰も居ない。そして、何も無い。<br><br><br>「なんでお絵かきしてるの？」<br><br>「んーとねえ、わすれちゃうから」<br><br>「え、忘れちゃう？」<br><br>「うん、ぜーんぶ」<br><br>「なにを忘れちゃうのかな？」<br><br>「んーと、ようせいさんと、あとまおう」<br><br>「どうして忘れちゃうんだろ？」<br><br>「おこられたから」<br><br><br>そう言って少女は、今にも泣き出してしまいそうな顔をした。妖精？魔王？怒られる？なにがなんだか、意味がわからない。だが。スガワラは、その場から少し下がって構図を決め、シャッターを切り、D3Xに少女と絵を収めた。<br><br><br>「ほら、こうすれば、忘れない。もう大丈夫。さあ、お家に帰ろう」<br><br><br>そう言って、ファインダーから視線を外し、少女に手を差し伸べようとしたスガワラだったが、危うく悲鳴を上げそうになった。<br><br>少女の背が、縮んでいる。<br><br>さっきまで胸の高さで描いていた蝶々に、もう手を伸ばさなければ届かないまでに、少女の背が、縮んでいる。<br><br><br>「あ、あああ・・・ああ」<br><br><br>それからは、あっという間だった。少女は、少女から幼女になり、赤ちゃんになり、赤ちゃんより小さななにかになり、そして、遂に。消えてしまった。<br><br>そこには、壁の絵だけが残った。<br><br><br><br>・scene 4<br><br><br><br>「だから童貞はダメなんだよ」<br><br><br>帰り道。D3Xにメモリーカードを入れ忘れてデータを全く残せていないと告白すると、タカギは沸騰したヤカンの如く頭から湯気でも出しそうな風情で、アパートに到着するまでスガワラに思い付く限りの罵詈雑言を浴びせ続けた。スガワラは、黙って、タカギの罵倒を受けた。<br><br>アパートに戻ると、スガワラはポケットの中のメモリーカードを、箪笥の上の、通帳や印鑑が保管してある、元は海苔の入っていたアルミ缶の一番奥に仕舞った。本当は、データは残されている。タカギには嘘をついた。<br><br>万年床に仰向けに寝転び、天井に貼られたアニメキャラクターのポスターを眺める。消えた少女。妖精。魔王。やっぱりなにがなんだか、さっぱり意味がわからない。彩度の失われた世界では、トンネルでの出来事はすべて、夢だったかのようにさえ思えてくる。メモリーカードを開けば、確認できる。そんなことはわかってる。だけど。<br><br>あの少女は、トンネルの壁を選んで、刻んだ。それでいいじゃない？<br><br>僕にとってのトンネルの壁は、多分、D3X。本当に？それでいい？<br><br>なんだか。無性に人恋しい。<br><br>本日は、花の金曜日。ひと眠りして、出会い系サイトでもやってみましょうか。<br><br><br><br>・END</font>
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<pubDate>Fri, 24 Sep 2010 01:46:10 +0900</pubDate>
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<title>忘れてあげない</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFCC" size="3">チーママ。原点回帰には、勇気が必要なんだ。<br><br><br><br>・scene 1<br><br><br><br>リサを目覚めさせたのはシューベルト。<br><br>ダブルベッドから滑り降りたリサは、寝癖のついてしまった長い髪を掻きながら大股でリビングまで歩いていって携帯電話から鳴り響く歌曲を沈黙させた。そして、彼女の美貌にはとてもそぐわない大きなあくびをした。<br>眠い目を擦りながらモニターを確認する。新着メールが一件。送信者はスガワラ。件名なし、本文なし。ただ、画像が一枚だけ添付されていた。あかりの消えた、真夜中のテレビ塔。<br><br><br>「あの野郎」<br><br><br>リサの唇から、小さな溜息が洩れた。<br><br><br><br>・scene 2<br><br><br><br>スガワラとリサは、出会い系サイトで知り合った。<br><br><br>「ね、実際に会ってみましょうよ」<br><br><br>リサからの嬉しい提案だったが、スガワラはいますぐにという条件だけは拒んだ。その訳は、彼には女性どころかデートの経験すら無かったから。場合に適したお店やマナーの情報を収集する時間が必要だった。しかし、13通目のメールで遂に根負けし、承諾してしまった。<br>待ち合わせには薄野の程近く、屋上に観覧車が据えられたファッションビルが指定された。<br><br><br>「それじゃ18時に。私は花柄のマキシに白のバッグです。ガースーさんの格好は？」<br><br>「はい、今から家を出ます。普通の格好です」<br><br><br>二度の信号無視と交通事故の危機を経て、約束の三分前にスガワラはやって来た。歩道に自転車を停め、乱れた呼吸を整え、胸元にUCLAとレタリングされたトレーナーのネイビーと彼なりにコーディネイトしたつもりのグレーのハンカチで額の汗を拭い終えたとき、自転車の前篭の中の携帯電話がブーブーと振動して彼にメールの着信を知らせた。<br><br><br>「着きました。蛍光パネルの前にいます」<br><br><br>蛍光パネル？スガワラは後ろを振り返る。そこには、目を疑うほどの美女が小さく手を振り、微笑んでいた。<br>均整のとれた体躯。雪のように白い肌と、怜悧な瞳。そして、一見冷たいとも思われがちな容姿とは不釣合いな幼い笑顔。リサは完璧過ぎる美貌の持ち主だった。<br>一方、スガワラの背丈は159cm。男性として恵まれた体格とは言いがたい。その上、強烈な縮毛。更に首筋から背中を通って股下をくぐり胸に至るまで途切れることなく生茂る獣の様な体毛。おまけに無職。彼は、コンプレックスの塊だった。<br><br>そして、リサを一目見た瞬間。スガワラは、堕ちた。恋に、ではなく、自らの心の闇に。<br>美しい。醜い。場違い。恥ずかしい。コンプレックスを逆撫でする数々の形容詞が彼の脳を支配し、自由を奪い、凍りつかせた。<br><br>その場に立ち竦むスガワラとリサの間を、流行のファッションで身を包んだ若者のグループが通り過ぎてゆく。そうだ、僕も。僕も他人の振りで。このまま知らんぷりして逃げよう。<br><br>酷い・・・逃げるだなんて。それを妖精が許したとしても、魔王は許さない。<br><br><br>「あの、ガースーさんですよね？」<br><br>「ふ、ふぁいぷぴゅ」<br><br><br>はい。とスガワラは言おうとしたが失敗した。<br><br><br>「ああ、良かったー想像通りの人で。くまさんみたいでなんかかわいい♪」<br><br>「そそ、そんなこどゅーもなす。フヒヒ」<br><br><br>スガワラは、やっと、恋に堕ちた。<br><br><br><br>・scene 3<br><br><br><br>30歳まで童貞だったら魔法使いになれる。<br><br>発信源が某巨大掲示板というのもあって真しやかに囁かれる都市伝説と思われがちだが、実は本当の話だ。<br>ただ。本当ではあるが、30歳童貞というだけでは残念ながら魔法使いにはなれない。加えてふたつの条件をクリアする必要がある。<br><br><br>30歳の誕生日から一年の間に、妖精に恋をすること。<br><br>30歳の誕生日から一年の間に、魔王へ赤子を献上すること。<br><br><br>一見難しそうに見えるかもしれないが、そうでもない。学校に、職場に、街に。実は、妖精はそこら中にいる。森のイメージ？それは子供の頃に読んだお伽話では？妖精は、人の多く集まる場所にこそ、いる。誰もが妖精を目にしたことがあると言っても過言ではないだろう。例えば、最近TVでよく見かけるオタク層に人気のアイドルグループの、中心的存在の。そう、彼女が妖精だ。<br>そして現に、スガワラは妖精に恋までをクリアしている。<br><br>妖精は、条件に見合う男を探し、誘惑し、魔王の元へ導く。何故か。そうしないと、妖精の王である魔王の怒りに触れ、妖精にとって一番大切なものを奪われてしまうから。それを失ってしまうと、妖精は生きていくことができない。<br>それは美貌。妖精にとって、美貌は命そのものを意味している。<br><br><br><br>・scene 4<br><br><br><br>夕焼けに染まる美しい街並を期待して乗り込んだのだが、薄汚い雑居ビルや企業の看板やぼちぼち点灯し始めた薄野のネオンばかりが目に付いてしまって、お世辞にも美しい景観とは言えなかった。観覧車は期待外れ。18:32。ビルの向こうにテレビ塔が見える。<br><br><br>「ここまで理解できました？」<br><br><br>リサは心配そうに、スガワラの顔を覗き込む。スガワラが、黙ったまま、頷く。<br><br><br>「ほんとうに？」<br><br><br>スガワラは、リサとは視線をあわそうとせず、ケミカルウォッシュのジーンズの膝で握られた拳から、更に下方、ゴンドラの床に視線を落として、もう一度、カクンと頷いた。<br>　　<br><br>「じゃあ、理解したことを言ってみて」<br><br>「・・・」<br><br>「ねえ、聞こえてる？」<br><br>「・・・ぷゅし」<br><br>「ねえ、はやく」<br><br>「ご、僕が、選ばれし民で・・・」<br><br>「うん、それで？」<br><br>「導かれ。特殊能力によ、の、を・・・僕に、不思議な力が宿る」<br><br>「そう、私の言うことに従えば魔法が使えるようになります♪」<br><br>「・・・」<br><br>「もしかして、なんか怪しいとか思ってます？」<br><br>「・・・少し」<br><br>「あの、たまに勘違いされるんですけど、へんてこりんな宗教とかネットワークビジネスとかの勧誘じゃないですからね？」<br><br>「・・・」<br><br><br>スガワラは、さっきから視線を落としたまま。まずい。恋が消えかけている。ふたりを乗せたゴンドラは、ゆっくりと頂上に近づいている。<br>　　<br><br>「ねえ、みて」<br><br><br>頭を垂れたまま、スガワラが横目でチラリとゴンドラの外をみる。<br>　　<br><br>「そっちじゃなくて、こっち。私をみて」<br><br><br>視線は、露に濡れてひっそりと咲く花のような、リサの唇へ。<br>　　<br><br>「出会ったばかりでこんなこと言って、変な女だと思うかもだけど、でも、私を信じて」<br><br><br>蛍光灯に照らされたピンクパールのグロスが艶めかしい。<br><br><br>「ガースーさんの気持ちが知りたいの。ねえ、私のこと、好き？」<br><br>「・・・」<br>　　<br>「嫌い」<br><br>「・・・いやいやいや」<br>　　<br>「普通」<br><br>「・・・」<br>　　<br>「じゃあ、好き？」<br><br>「・・・ん、でゅくし」<br><br><br>そして。唇が、最終手段に動く。<br><br><br>「大好き」<br><br><br>ふたりは、キスをした。ゴンドラが頂上に達した。<br><br><br><br>・scene 5<br><br><br><br>キスの後、ゴンドラの中でふたりは付き合い始めの恋人の様にお互いのことを語り合った。リサからは、リサは妖精だということと、妖精も普通の人と変わらぬ暮らしをしていて、リサの場合はIT企業に勤めているということ。スガワラからは、趣味はアニメ鑑賞で、よくわからないがプリキュア的な意味合いで魔法には強い関心があることと、明日は誕生日だということ。<br><br><br>「え？明日で31歳？」<br><br><br>リサは狼狽した。<br>30歳のスガワラでなくては意味が無い。たとえ童貞で妖精に恋心を抱いていたとしても、31歳になってしまっては魔王の元へ導くことができない。しかもキスまでしちゃって、ああもう！それよりなにより妖精としての禁則事項までペラペラと喋ってしまった。魔界の掟は絶対だ。この男だけは絶対に導かなくては。魔王に美貌を奪われてしまう！<br><br>残された時間があと数時間と知ると、リサはバッグから携帯電話を取り出して何処かに電話を掛けた。そしてしばらくボソボソと話し込んだ後、それでは21:00に、と見えない電話相手にペコペコとお辞儀をしながら電話を切った。<br><br><br><br>・scene 6<br><br><br><br>金曜の夜だというのに通りを行き交う人の数は少ない。少し前に降り出した大雨のせいだ。リサとスガワラは、観覧車のビルの入口で、雨を避けながら電話の男を待っている。<br>観覧車を降りたふたりは、同じビルの地階に移動して海鮮居酒屋で食事をした。そこでスガワラは、リサから魔法使いになる為の最後の条件、赤子の献上についての説明を受けた。本来は、選ばれし者と妖精との間に授かった赤子を魔王に献上し、その見返りとして、妖精には美貌、選ばれし者には魔力が与えられるというのが伝統的であり正式なのだそうだが、今回は時間が無いので別の手段を用意したらしい。<br>別の手段。それが電話の男というわけだ。近頃は魔界だってサービスが充実しているのよと言って、リサは笑った。<br><br>雨が上がり、空に星が戻った。21:00。時間きっかりに、オブシディアン・ブラックのメルセデスに乗って、電話の男は現れた。ラグジュアリーなブラックスーツに135番手3子撚りで織られた最高級シャツをノーネクタイで。革靴はハザードランプが映り込むほど磨き抜かれ、腕にはダイヤモンドで装飾されたスイス名門メーカーの特別モデルが無造作に。常識的に考えて、安全なサービスでないことだけはスガワラにもわかった。<br><br><br>「貴女がリサさん？」<br><br>「そうです。すみません、急なお願いで」<br><br>「いいんですよ。私は困っている美女を見ると放っておけない性分なんです。プライベートはもちろん、ビジネスとしてもね」<br><br><br>そう言って電話の男は、恐ろしく日焼けした顔から白い牙を覗かせて、微笑んだ。<br><br><br>「で。彼が貴女の？」<br><br>「はい」<br><br>「私の役目は、彼の献上のお膳立てをする。で、間違いないですね？」<br><br>「はい」<br><br>「オーケー。御代は200万円で結構です」<br><br>「え、そんなにするんですか？」<br><br>「いいですかリサさん、リサさんからお電話を頂いてから、まさに今、この時間も。書入れ時だというのに、私はビジネスをストップさせて此処に居るんです」<br><br>「はい、あの、すみません」<br><br>「お止めになりますか？それでもキャンセル料として100万円は頂戴しますが」<br><br>「あの、私、そんなに持ち合わせがなくって」<br><br>「ああ、そう言う事でしたか。それなら心配いりませんよ。貴女は美しい。妖精の中でもトップクラスの美貌だ。だから逆に私から貴女にビジネスを提案できるとも考えている。お金の問題なんて、後からなんとでも成る」<br><br>「あ、えっと」<br><br>「それに。これは老婆心ながらですが、貴女は今、迷っている場合では無いのでは？」<br><br><br>そうなのだ。リミットまで、もう、3時間を切っている。他に手はない。美貌を200万円で買えるなら安いものだと、このときのリサは、思った。<br><br><br>「どうされますか？」<br><br>「はい、あの、お願いします」<br><br><br>商談成立。電話の男がリサに握手を求める。金縁眼鏡の奥で、欲望が漆黒に輝いていた。<br><br><br>「お疲れになったでしょう。後は私に任せて、リサさんはご自宅に戻られて、安心してお休みなさい。夜更かしは美貌の大敵ですからね。ビジネスの提案はまた明日にでも」<br><br><br>そうしてオブシディアン・ブラックのメルセデスは、スガワラを乗せて夜の闇に溶けていった。<br><br><br><br>・scene 7<br><br><br><br>観覧車のビルから僅か3分。目的の地に到着した。<br><br><br>「さ、着きましたよ。赤子の手配はできています。後は魔王の到着を待つだけです。あそこに自動販売機が見えますよね？そこにそれっぽいのが来たら起こしてください」<br><br><br>電話の男はそう言って、オーディオのミュートボタンをプッシュし、電動リクライニングシートの背凭れを倒して寝床を整え、胸に両の手を組んでスヤスヤと居眠りを始めてしまった。<br>なんだ。魔王に赤子を献上するだなんて言うから、もっと仰々しい場所に連れて行かれるのかと思った。到着したのは、この街のど真ん中。テレビ塔の真ん前。完全に拍子抜けだ。<br><br>オブシディアン・ブラックのメルセデスは、雨に濡れた路面に、静かに、一定のリズムでハザードランプを反射させている。<br><br>車窓からテレビ塔を見上げる。21:22。ぼんやりとした橙色が時を示している。まだ、魔王は来ない。さっき、二人組の男が自動販売機に近づいた。だけど、全然それっぽくはなかった。どこからどう見てもサラリーマン。どうやらジュースを買いに来ただけのようだった。<br><br>明日から僕も魔法使いか。ムフフ、悪くない。一体どんな魔法を使えるようになるんだろう？魔王はどんな格好？黒いマントのイメージ。ンフンフ。日付が変わるまでには来るのだろう。というより、こういった展開の場合は、ギリギリに現れるのが定石。慌てるなかれーヌフフフ。ああ待ち遠しい。スガワラは、果て無き妄想を繰り広げていた。<br><br>それにしても静かな夜だ。カッチッカッチッカッ。雨上がりの夜空にハザードランプの光だけが響いている。<br><br>だが、それは長くは続かなかった。静寂と妄想を破ったのは不協和音。サイレンだ。遠くで、複数の緊急車両のサイレンが鳴っている。スガワラは耳を澄ます。これは救急車、そして、これは警察車両。それは、だんだんはっきりと、だんだん大きくなっている・・・近づいてくる！見廻せば、大通りの赤信号を突っ切ってをこちらへ向かって進んでくる複数の赤い回転灯！<br><br><br>「ちょ・・・ちょちょと！」<br><br><br>スガワラは、隣で眠っている電話の男を起こそうとした。<br><br><br>「ちょっと！・・・ちょと！ちょと！」<br><br><br>電話の男の肩に指先を押し付けて起こそうとする、スガワラ。<br><br><br>「あ？なんですか！これは！」<br><br><br>電話の男が目覚めた。コンコン。だが遅かった。コンコン。何者かが車窓をノックしている。警察による職務質問だった。オブシディアン・ブラックのメルセデスの周囲は、到着した緊急車両で埋め尽くされていた。テレビ塔は、21:37を示していた。<br><br><br><br>・scene 8<br><br><br><br>「どうします、この状況」<br><br><br>テレビ塔を望む公園脇に停められた、オブシディアン・ブラックのメルセデス。電話の男が、スガワラに問いかける。スガワラはさっきから押し黙ったままだ。スガワラに打開策などあるわけがない。電話の男もそんなことはわかっている。ただ、わからせたかっただけだ。<br><br>職務質問からは割と簡単に抜けられた。警察には、友人を待っていますとすっ呆けた。身分証を求められ、免許証を提示したとき。電話の男は警察官から情報を引き出した。<br><br><br>「それにしても凄い数のパトカーだ。一体、何が起きたんです？殺人事件かなにかで？」<br><br>「いやいや、ただの乳児の置き去りですわ」<br><br><br>現在もテレビ塔は完全に封鎖されたままだ。近づくことはできない。<br><br>腕時計。22:30。あと一時間半。時間が無い。<br><br>ふう、とひとつ溜息をついて、電話の男は、携帯電話からリサに連絡を入れた。そして、隠しておいた赤子が何者かに発見され、警察に保護されてしまったこと、別の赤子という手段は時間的に間に合わない可能性が極めて高いこと、自分にはひとつだけ考えがあるのだが、それを実行するには更に400万円の追加金が発生するということ告げた。<br><br><br>「全部で600万円？」<br><br>「いえ、当初のプランは履行できませんでしたので、100万円で結構。それにプラスですから、500万円ですね」<br><br>「それで、その、考えというのを聞かせてもらえますか？」<br><br>「はい。こうなったらもう、原点回帰です」<br><br>「原点回帰？」<br><br>「はい、無かったことにしましょう。今日を」<br><br>「そんなことできるんでしょうか」<br><br>「できます。御代さえお支払いいただければ」<br><br>「あの、さっきも言いましたけど、私、そんなにお金は」<br><br>「大丈夫です。あなたの美貌が、明日以降も保たれてさえいれば」<br><br><br>電話を切った後、電話の男は、今度はスガワラに告げた。<br><br><br>「いいですか。この数時間で、私は、取引先の信用とビジネスの拠点を失いました。そして、あと一時間半後には、このまま時が過ぎれば、私は新しいビジネスを失い、更に数百万円の負債を負ってしまいます」<br><br><br>電話の男は、更に続ける。<br><br><br>「リサさんは、このままでは、美貌を失ってしまいます。妖精にとって、美貌は命と同義です。ご存知ですよね？それに、どうにかなったとしても、500万円を失うことは、確定です。普通のOLをしながらの返済。これからが大変です」<br><br><br>そして、切り出す。<br><br><br>「貴方、何も失ってないでしょう。貴方も失って下さい。リサさんへの恋心です」<br><br><br><br>・scene 9<br><br><br><br>「失恋の痛みというのは、普通、何年もの時間を要して癒されるものですからね」<br><br><br>死神は続ける。<br><br><br>「殺すつもりはありませんでしたが、こんな短時間でですもの。そりゃ、死にもしますよ」<br><br><br>23:57。胸が、胸が張り裂けるように苦しい。スガワラは、テレビ塔を望む公園の芝生の上で転げ廻り、そして断末魔の声を上げた。観覧車でのキス、居酒屋での食事、雨宿り。想い出は、たったこれだけだけど、スガワラは恋をしていた。そして、恋に命を奪われてしまった。<br><br>死神の釜を受ける前、スガワラは、観覧車のビルに置きっ放しの自転車を取りに行きたいと言ったが、死神に断られた。忘れる者が、忘れ物。と、言って死神は笑ったが、電話の男は笑う気にはなれなかった。<br><br>そして迎えた24:00。スガワラの携帯電話から、突如音楽が流れだした。ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー。それはスガワラが、自らがアラーム設定していた自らへの祝福だった。スガワラだけが、今日の日が来るのを楽しみに待っていた。<br><br><br><br>・scene 10<br><br><br><br>ビジネスは成立した。翌日、電話の男がリサの部屋を訪ねたとき、リサは不思議なことを言い出した。真っ暗なテレビ塔の画像が、夜中にスガワラの携帯電話から送られてきたと。<br>テレビ塔をビジネスの拠点としていた電話の男にはわかる。それを撮ったのも、送ったのもスガワラではない。なぜなら、電光時計の消灯時間は毎日決まった時間、24:10。<br>スガワラは、その13分前に、目の前で死んだのだ。<br><br>魔王の悪戯だ。<br><br><br>「あの野郎」<br><br><br>リサが激昂の表情を露にした。だが、電話の男が、リサをぎゅっと抱きしめ、静めさせた。<br>これから最期のスガワラの言葉を伝えますから。落ち着いて。はい、深呼吸。<br><br><br>「忘れてください」<br><br><br>リサの唇から、小さな溜息が洩れた。<br><br><br>「忘れてあげない」<br><br><br>遅すぎた恋の話。<br><br><br><br>・END</font>
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<link>https://ameblo.jp/o3kg/entry-10649831051.html</link>
<pubDate>Mon, 20 Sep 2010 03:19:11 +0900</pubDate>
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<title>あったか～い</title>
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<![CDATA[ <font color="#FFFFCC" size="3">チーママ。おもしろいは、正義なんだ。<br><br><br><br>・scene 1<br><br><br><br>「女を買える自動販売機があるらしいぜ」<br><br><br><br>ある朝、いつもの様に出社すると喫煙コーナーが消滅していた。<br>喫煙者の減少と社内環境の改善がその理由です。今後は四階非常階段の踊り場でどうぞ。と印字されたA4が壁にセロハンテープで貼りつけられていた。<br><br>非常階段は外に在る。築37年。老朽化したビルの外壁にへばりついている。手摺のペンキは所々剥げていて赤茶色に錆びついている。ここでは皆しゃがんで火をつける。胸の高さ程の手摺側の壁に身を隠さなければ、吹きつけるビル風に邪魔されてしまうから。新しい喫煙コーナーの環境は、酷過ぎて逆に笑えた。<br><br>話しかけてきたのは、同期のタキムラだ。<br>僕は三階のシステム制作部で、タキムラは四階の営業部。住む世界が全く違うから、喫煙コーナーがこんなことになるまでは会話をしたことが無かった。ただ、噂はよく耳にしていた。<br>タキムラは、社内のアイドル総務部のリサちゃんと不倫関係にあるらしいとか、真昼間から薄野の風俗街で遅番のヘルス嬢と同伴デートをしていたとか闇カジノに出入りしてるとか。<br>しかし、社内でのダークなイメージとは裏腹にクライアントからの信頼は絶大で、営業部ではトップの座にもう何年も君臨し続けている。<br><br><br>「ふむ。近頃はデリヘルも色々と考えてるんだね。おもしろい」<br><br>「だろ？てゆーかお前もそーゆうのに興味あんのな。俺は安心したよハハハ」<br><br><br>タキムラに限らず営業職にはこのタイプが多い。初端にインパクトのある言葉を叩きつけて聞き手の心を揺さぶりミスを誘い優位に立とうとする。要するに会話の構成がいやらしい。<br><br><br>「うん。筐体にCCDを実装すれば利用者の容姿を記録できるしWebと連動させてケータイの端末情報を手に入ることもできる。会員カードも電子化できるし、ポイントシステムも容易に導入できる。それに人件費削減にもなるのかな。でもこれ、仕様によっては利用者は丸裸にされちゃうね。そんなことは僕の知ったことじゃないけど。要するに店側にとって都合の良いシステムなんだから、やらない理由が無い。おもしろいと思うよ」<br><br>「はぁ、お前のおもしろいはそっちかよ。つまらん」<br><br><br>そんなこと言われても仕様が無い。これは一種の職業病なのだ。何を見ても、聞いても、こんな風に思考を巡らす癖が染み付いてしまっている。<br>タキムラは溜息をひとつついて、続ける。<br><br><br>「テレビ塔の真下にさ、自販機が沢山並んでるだろ？右端のがそれらしい」<br><br>「テレビ塔？薄野じゃないの？」<br><br>「な、意外だろ？俺も人伝に聞いただけだから確かなことはアレだけどな」<br><br>「それが本当なら本格的に終わってる」<br><br><br>どんな事情があってか知らないが、この街のランドマークであり重要な収入源、観光の中核でもあるテレビ塔での風俗営業を許可した行政に僕は少しだけイラついた。<br><br><br>「俺もテレビ塔ってとこが気になっちゃっててさ、グーグルで検索してみたんだけどそれらしきページが一件もヒットしないんだぜ？さすがのお前もこれにはちょっとそそられるだろ？」<br><br>「ふむ」<br><br>「で、だ。確かめに行ってみようぜ。今夜、俺とお前で」<br><br><br><br>・scene 2<br><br><br><br>その夜、僕はタキムラと肩を並べて大通公園を歩いていた。<br><br>大通公園はこの街の中心部を東西に横切る巨大な公園だ。街は、大通公園を軸として北にオフィスビルやシティホテル、南に歓楽街や商業施設といった色分けがなされている。いや、正確には、されていた。近年は南北の色が混じりあい、この街は混沌としはじめている。<br>テレビ塔はこの公園の東端に聳え立ち、今も昔も変わらずこの街のシンボルとして市民から親しまれている。<br>僕が勤める会社は大通公園沿いの道路の西端に位置している。会社からテレビ塔までの距離はおよそ1.5km、時間にして20分程となるだろうか。現在は行程の半分ほどに達している。<br><br><br>「スコールさまさまだな。人が少なくてありがたいわ。いくら自販機っても人目があったんじゃ近づきにくいもんな」<br><br><br>タキムラの言うとおりだ。会社を出る直前に降りだした豪雨のせいで大通公園は金曜の夜だというのに静まり返っている。雨は止んだが、木製のベンチはまだずぶずぶに濡れていた。<br>もう暫くの間はカップルも浮浪者も、この公園には近づいてはこないだろう。<br><br><br>「で、だ。俺の知ってる自販機の情報。教えとくわ」<br><br><br>そう。それを知りたくて来たんだ。貴様は女遊びにだろうが、僕はシステムに興味がある。<br><br><br>「その自販機、万札と五千円札は使えないらしい。使えるのは千円札のみ」<br><br>「ふむ」<br><br>「んで、料金がいくらなのかは行ってみないとわからない」<br><br>「ふむふむ」<br><br>「だから営業の途中で銀行に寄って、お前の分も含めて万札4枚分両替しといた」<br><br>「ふむ」<br><br>「ふむ。じゃねーよ。そこはタキムラクンすまないねーかありがとーだろ」<br><br>「いや。僕はサービス受ける気ないし」<br><br>「はぁ、ここまで来てまだ言うか。つまらん」<br><br>「他には？」<br><br>「あ？」<br><br>「情報」<br><br>「もうない。以上だ」<br><br>「ふむ」<br><br><br><br>・scene 3<br><br><br><br>テレビ塔は間近に迫っている。<br><br>あと一区画というところで、信号に捕まってしまった。もどかしい。謎めいた自販機の全てがもう少しで解き明かされようとしているのに。タキムラも、違う意味で同じ気持ちなんだろう。落ち着き無く縁石を靴のつま先でコツコツと蹴っている。<br><br>最後の信号が赤から青に変わり、タキムラが突然走り出した。僕もあわてて後を追う。<br>道路を渡りコインロッカーの脇を抜け階段を一段抜かしで一気に駆け上がるとそこに・・・<br>自動販売機はあった。<br><br>ただし、普通にジュースの。<br><br><br><br>・scene 4<br><br><br><br>絶望、羞恥、憤怒、動揺。タキムラの顔には今、いずれかが浮かんでいることだろう。<br><br><br>「えーと、一番右端のでいいんだっけ？」<br><br><br>僕は、そう言って意地悪な笑顔でタキムラを振り返った。しかし、実際のタキムラは首だけを左に振って、まるで決勝レースに挑むアスリートみたいに大真面目な顔つきで、五台並んだ自販機を左端から一台ずつ目視していた。そして、首が正面に戻ると静かにこう言った。<br><br><br>「おう、多分これだ」<br><br><br><br>・scene 5<br><br><br><br>「こいつだけが他の四台と違ってんだよ。ほら、そこ」<br><br><br>タキムラが指差した先を見て、僕はアッーと声を上げてしまった。サンプルの缶が無いのだ。一箇所だけ、ボタンはあるのにサンプル缶が設置されていない。<br><br><br>「あと、そこだけが、あったか～い」<br><br><br>この時、真夏だというのに僕は背筋にゾクゾクと寒気を感じていた。あったか～いの文字に震え上がった経験がある人って、そうそう居ないんじゃなかろうか。第六感というものが存在するのなら、まさにこの時、僕の中で機能していた。<br><br><br>「というわけで、多分これだ。よし、金を入れてみよう」<br><br>「ちょちょちょ！待てよ！こんなデリヘルありえないって。な？やめとこうぜ」<br><br>「ああ、デリヘルじゃないなこれは。俺もそう思う」<br><br>「絶対怪しいよこれ。さ、帰ろう」<br><br>「いやだ。だってこれはこれでおもしろそうじゃない」<br><br>「あーあーあー、んもう！」<br><br>「お前ってさ、ほんとつまらんわ」<br><br><br>タキムラは、筐体に千円札を飲み込ませた。システムが反応し金額表示器には1000と表示され、サンプル缶のボタンが一斉に点灯した。ただし、あったか～いを除いて。<br><br><br>「なるほど。そーゆうことか」<br><br><br>更に千円を投入。金額表示器が2000に変わった。更に投入。3000。更に。4000。5000、6000、7000、8000、9000。そしてタキムラが10枚目の千円札を投入したその時。<br>遂にあったか～いが、点灯した。<br><br>タキムラは、軽く頷いているような、スロットゲームの目押しの様な仕草を見せて、そのボタンをプッシュした。<br>パコン。聞きなれた缶ジュースの落ちる音ではない。軽い何かを、筐体が吐き出した。<br><br>タキムラの傍に駆け寄る。その手には円柱形の容器が握られていた。容器にはなんの装飾もなされていない。ただの半透明のプラスチック。中がわずかに透けて見える。中には・・・鍵だ。鍵が入っている。<br><br><br><br>・scene 6<br><br><br><br>どちらが、というわけではない。気づいたら、僕達は走り出していた。<br>これは、テレビ塔のコインロッカーの鍵。<br><br>鍵の番号は7。コインロッカーの7番は・・・予想的中、使用中だ。<br><br><br>「開けるぞ」<br><br><br><br>・scene 7<br><br><br><br>警察の聴取は数時間にも及び、僕とタキムラが開放されたときには東の空は白々と開け始めていた。<br><br>7番のコインロッカー。中で赤ん坊が寝ていた。<br><br><br><br>「コインロッカーベイビーズって小説あっただろ？あれ、書いたの誰だっけ」<br><br>「村上龍」<br><br>「おーおーおー。やっとスッキリしたぜ。警察ん中で気になっちゃって気になっちゃって」<br><br>「カツ丼食べたかったなあ。お腹が空いたよ」<br><br>「犯人じゃないと食わせて貰えないんじゃねーの？それに夜中じゃ出前もやってねーよ」<br><br>「ふむ」<br><br>「てゆーか今回のこれに名前付けるとしたらなにがいいだろうな。コインロッカーは村上龍に持ってかれてるからなあ。やっぱり直球勝負で自動販売機ベイビー？」<br><br>「それはつまらない」<br><br>「だよな。俺も自分で言いながら思った」<br><br>「あ、わかった」<br><br>「何が」<br><br>「こどもの児童で、児童販売機」<br><br>「ぶぶぶー！」<br><br><br><br>・END</font>
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<pubDate>Sun, 12 Sep 2010 23:08:04 +0900</pubDate>
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