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<title>それでも赤ちゃんは産まれてくる</title>
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<description>毎日のように繰り広げられるドラマをつぶやく場所</description>
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<title>腎臓か、17週の赤ちゃんか。</title>
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<![CDATA[ <p>今入院している患者さんで、話を聞いていると泣きたくなってくるような方がいる。彼女は数年前ループス(SLE, 全身性エリテマトーデス) と診断された。ループスはラテン語でおおかみを意味する、自己免疫疾患の一つだ。普段は外部から入ってきた異物を無力化するためにつくられる抗体が、体のいろんな組織に反応しそこに免疫系細胞を呼び攻撃させるようになる。根本的なループスのメカニズムをざっくり説明するとこんな感じだが、以下もう少し突っ込んで簡潔に説明してみたい。DNAや体内のたんぱく質に直接作用する抗体が作られ、体中の血管や組織に蓄積されていく。そこで免疫系細胞を呼び寄せて、皮膚、心臓、内臓、脳などで炎症を引き起こして組織を破壊しようとする。影響の度合いや攻撃される組織の対象はルーパスの種類によって違う。ただ、ルーパスにかかって３年から５年もすると、ほぼみな腎臓に影響が出る。血液中のたんぱく質にくっついた抗体はどこかに蓄積しない限りいつか腎臓にたどり着く。腎臓は一日180リットルの血液をろ過していらないものを取り除く役割を担っているからだ。腎臓に流れていった抗体は、そこに蓄積して炎症を起こし、じわじわと腎臓を破壊する。腎臓が機能しなくなると、排泄されるべき物質が血液中に増え、それがまた健康に被害を及ぼす。それと同時に、腎臓が機能しないと、私たちの体は腎臓への血流が不十分になっていると思い、血圧を以上に上げて対応する。その結果、ループスの腎炎を患っている患者さんは血圧が高くなる。</p><p>この患者さんは、ループスの診断がついていたので、血液検査を普通の人より頻繁に行う必要があった。妊娠前から飲んでいた薬を続けており、妊娠第一期は特に問題もなかった。だから、先週の血液検査でクレアチニンの数値が、彼女のベースライン値の3倍以上になっていると知らされた彼女は驚きを隠せなかった。血中クレアチニン値は腎臓の機能をはかるのに一番よく使われ、妊娠中は普段よりも少ない0.3‐0.6といった値をよく見る。1.1以下なら普通だ。彼女の数値は3.2だった。その数日後、腎臓の生体組織検査が行われた。腎臓に針を刺して、組織のサンプルを採取し、顕微鏡で観察するのだ。その当日調子はどうかと聞くと、「色々みんなに心配されて、腎機能が低下しているって言われるけど、実際私は元気で普段と何も変わらないから正直とまどっているんです。」と彼女は答えた。診断結果は進行したループス糸球対腎炎。すぐに入院となった。腎臓やリウマチ学の専門医たちと共にループスをコントロールするための治療にあたったが、毎日クレアチニンの値は上がっていき、３日後には3.9になった。同時に血圧もどんどん上がり、高血圧症治療薬の量も増えていった。まだ二十代で、何の症状もないまま腎不全一歩手前と診断された彼女。彼女にとって、青天の霹靂としか言いようがなかった。今回は、彼女にとって２度目の妊娠だった。１人目は、膣からの出血が止まらず救急救命センターを訪れた際、流産しかけていると告げられ妊娠していたと知った。今回は絶対に自分の赤ちゃんのためにできることをすべてしようと、彼女は生活のすべてを妊娠に集中できるよう変えた。二階に住んでいたマンションから一階に引っ越し、大学で児童心理学の講義を受講し始めた。いい母親になれるためもっと子どもの発達について学びたいとの思いからだった。仕事も休職した。母親になることが嬉しくて仕方がないという彼女の様子は誰の目にも明らかだった。</p><p>その翌日、私たちはとても厳しい会話をすることを強いられていた。彼女の赤ちゃんが生き延びる週数になるまで、あと２か月弱ある。それまでに、彼女の腎臓は手遅れなところまで破壊されて、もしかしたら彼女は一生透析をするか、腎臓移植を待った生活をしなくてはいけなくなるかもしれない。その上、赤ちゃんが無事に生まれてくる保証はない。死産の確率が圧倒的に一番高い病気はループスだ。もし24週までもっても、24週で生まれてきた赤ちゃんの半数以上は亡くなり、生き延びても一生ついて回る障害を負う赤ちゃんは45～61％になる。それを知ったうえで、中絶をするか、このまま妊娠を続けるかどう思うだろうかという話を旦那さんを交えて静かな病室で行った。旦那さんは、彼女がどれだけ子供を待ち望んでいたか知っていたから、全面的に彼女の決断を支えると言った。彼女は静かに泣き、その翌日まで考える時間が欲しいと言った。彼女の出す答えはほぼ明らかだった。その翌日彼女は、もし中絶をしたらその罪悪感で生きていける自信がないと私たちに言った。だから、妊娠を続けますと。彼女が死ぬか、赤ちゃんが死ぬか。その前に24週が来るか。誰にも結果のわからないレースが幕を上げた。</p><p>彼女が妊娠を続ける限り、24週未満の妊婦さんで経口で薬を飲める患者さんを入院させておく理由は特になかったので、彼女は退院することになった。もちろん、血液検査や妊娠の経過をみる通院は細目に行うという条件で。退院当日、赤ちゃんの成長をみる超音波をもう一度行うことにした。2週間前にもしていたが、彼女の容態の急変もあり、赤ちゃんの成長に影響が出ていないか確認しておきたかった。その結果は、悲惨なものだった。赤ちゃんの心臓はまだ動いていて、羊水もわずかながら残っている。でも、赤ちゃんは前の超音波検査から全くと言っていいほど成長していなかった。頭の周囲は0.1パーセンタイル以下。お腹の周囲は0.2パーセンタイル。大腿骨の長さも0.1パーセンタイル以下。推定体重とお腹の周囲が10パーセンタイル以下だと胎児発育不全と診断されるが、超音波の映像を見る限り、この赤ちゃんが24週を迎える可能性は本当に1％に満たないだろうと思われた。そのあと生き延びる可能性は万の一もないだろう。</p><p>ご両親にはすべて包み隠さず話した。それでも彼女は妊娠を続けることを選んだ。次の検診は１週間後。みんなが全力を尽くしてもこういう結果にしかならなかった悔しさは本当にやり場がない。</p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12783712772.html</link>
<pubDate>Wed, 11 Jan 2023 09:06:10 +0900</pubDate>
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<title>元旦手術中に痛い！</title>
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<![CDATA[ <p>今回は不安障害のあるお母さんの話。このお母さんは27歳で今回が初めての妊娠。双子妊娠だったのだが、15週目に双子の一人が亡くなって、そのまま妊娠を続けてようやく37週になった。37週は正期産になり、赤ちゃんは十分育っているため大抵NICUに行く必要がない。ただこの赤ちゃんは大きさが1パーセンタイル以下で、心臓にも欠陥があることから、話し合って帝王切開での出産ということになった。こういう場合は37週0日に出産をする。赤ちゃんが安定している限り36週6日でもなく、ちょっと伸ばして37週1日でもなく、37週0日きっかり。長い間妊娠させておきたくないけど、何とか37週まで踏ん張ってほしいという思いで経過を見守り続ける。元旦だろうとクリスマスだろうと関係ない。お祝いは待てるが、赤ちゃんに何かあったらその子と家族の一生がめちゃくちゃになることだってある。私は元旦当直だったので、このお母さんの帝王切開を執刀することになった。</p><p><br></p><p>お母さんは、ものすごく不安が強くて励ました直後は落ち着くんだけど、ちょっとしたらすぐじっとしていられないくらい不安になるようだった。初めての妊娠は困難なことばかりで、その上初めての手術だ。気持ちは分からないでもない。脊椎麻酔をしたのち、手術台の上に横たわってからもずっと目を閉じて深呼吸を繰り返していた。</p><p><br></p><p>さて、いざ手術が始まると初めての開腹手術ということもあり、癒着もなくこちらとしてはとてもやりやすい。すいすい進むのだけど、腹筋の筋膜を左右に引っ張って穴を広げた瞬間、患者さんが痛い！！と叫んだ。帝王切開の時、皮膚から子宮まで一層一層切って進んで行くと思う人がほとんどだと思うのだけど、実際は脂肪の層の下にある筋膜も、内臓を包む腹膜も、中央に開けた穴に指を入れて、二人がかりで左右に引っ張りその穴を広げる。これには理由があって、メスで切っていったら、大抵の場合は元々弱い組織をピンポイントでは切れない。そのため丈夫な組織を切ってしまい、元々弱い部分に加えて新しい弱い部分を作ってしまい、例えば筋膜だったらヘルニアになりかねない部分が２ヶ所できてしまう。その点、腕と体重を使って組織を引きのばしつつ切開部分を拡張すると、元々弱かった部分が千切れて、赤ちゃんを取り上げたあとその弱い部分を修復すればいいことになる。同じ理由で、最近は経膣出産の場合、会陰切開をせず、裂ける部分を自然に裂けさせて(精一杯防ぐ努力はした上で)、それを後から縫合するのが推奨されている。</p><p><br></p><p>それはさておき、痛いと言われた直後、患者さんに、鋭い痛みですか、それとも押されているような感じがするだけですかと聞くと、分からないと言う返事が返ってきた。その後筋膜を金属の歯のついた器具で掴んで、その下の筋肉を筋膜からがしがし引き剥がしてみたが、全く痛くないという。なので、大丈夫かと思い腹膜を引っ張って子宮を露出させると、彼女はまた痛いと叫んだ。お腹を左右に引っ張られると痛いらしい。メスで切ったりは全く痛くないのだから、麻酔は効いているはずだが、患者さんは麻酔の影響下でも圧迫感を感じる。不安と恐怖からか、その圧迫感を痛いと感じるのだろうか。何はともあれこのまま手術を続けるのは人道的ではないので脊椎麻酔を全身麻酔に切り替えることになった。全身麻酔になると、患者さんは眠ってしまう。ただこれは手術に関わっている麻酔科、産婦人科、そして小児科みんなの緊張を増大させることになる。お母さんはすでに低血圧で、全身麻酔はさらに血圧を下げる可能性がある。あと、挿管して呼吸器を繋ぐので、麻酔医は手術後経過を長めに見ることにもなるし、全身麻酔は脊椎麻酔より問題も起こりやすい。産婦人科としては、麻酔が始まったらそれは血管を通して胎盤に送られ、つまりは赤ちゃんに到達するのでよーいどんのスピード勝負で赤ちゃんを取り出す必要がある。躊躇なく普段より一回ごとの切り込みを深くして子宮にメスを入れていき、みんな二倍速くらいで動くことになる。ちんたらしていてたくさんの麻酔が赤ちゃんに達すると、ちゃんと呼吸をしてくれないからだ。それが分かっているNICUチームも、1パーセンタイル以下の体重の、心臓に異常のあることが分かっている赤ちゃんが体内に阿片ベースの麻酔を送り込まれた状態で手渡されるわけで手に汗握るという感じ。一秒も無駄にできないという構えでパスされる赤ちゃんを待ち構える。</p><p><br></p><p>さて、いざ麻酔を切り換えようという瞬間、手術室の外でものすごい叫び声が響いた。それに続いて大勢の人がばたばた動く音がする。看護婦が飛び込んできて、緊急手術です、すぐ来てください！と私たちの麻酔医に言った。その間もものすごい叫び声が向かいの手術室から聞こえてくる。指導医は研修医にこの場を任せて、急いでそちらの手術室に行き、大急ぎで全身麻酔の準備をすることになった。緊急手術の場合、悠長に脊椎麻酔をする時間などないからだ。取り残された私たちは、どうすることもできない。研修医は技術的には可能だが、ルールとして指導医がいない間全身麻酔を始めることを許されていない。産婦人科は、麻酔が切り替わらない限りどうしようもないので、目の前にさらけ出された子宮に濡れたガーゼをかけ、開腹された患者さんの横に立っているしかない。患者さんに、頑張ってますね、もうすぐですからね、強いですよ、その調子です、ありがとうございます等、たまに励ましの言葉をかけてみる。患者さんも、あっちの患者さんも大変そうですね、私は今のところ大丈夫です、痛みもありませんとか言いながら、どうしたものかという感じで横たわっている。元旦で人手不足のNICUチームはてんやわんやで隣の手術室で産まれてくる赤ちゃんを迎える準備にかかっているようだった。心配な状態の赤ちゃんたちが、全身麻酔の患者さんたちから産まれてきて、それを間を開けることなく立て続けに渡されるのだ。正直気の毒この上ない。麻酔科の他の医師は事故やらなんやらが担ぎ込まれて色んな手術室に駆り出され、オフの人々はほぼみんな国内にいないという有り様でとりあえず隣の手術室に別の医師がこれるのを待つしかなかった。15分くらいして、ようやく指導医が戻ってきた。</p><p><br></p><p>さあ、麻酔を切り替えましょう、と指導医が言い、研修医は素早く全身麻酔の薬をIVを通して注射した。患者さんの意識が瞬く間になくなる。気道確保の確認の合図を今かと待ちながら、私たちは器機を再び手にした。はい、いいです！と麻酔科が言って1分もしない間に、私たちは赤ちゃんを取り出した。全身が出た瞬間へその緒を切って小児科に赤ちゃんを渡す。泣いていないし、肌もすこし灰色がかっているが、動いてはいる赤ちゃんだった。15週で亡くなった双子は判別できない状態で胎盤と一緒に出てきたようだ。死んだ子の小さな胎盤は真っ白になって、産まれてきた子の胎盤の横に引っ付いていた。</p><p><br></p><p>ここから先は、普段通りの手術で全て順調に終わった。赤ちゃんも自力で呼吸できていて、心臓の異常は少なくともすぐに命に危険を及ぼすようなものではなさそうだった。トラウマになりそうな出産経験をした彼女がどう回復していくか、それをどう支えていけるかは私たちのチームの課題だと思う。そんな感じで私の2023年が始まった。</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12782949909.html</link>
<pubDate>Fri, 06 Jan 2023 14:54:34 +0900</pubDate>
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<title>1センチと3センチのへその緒</title>
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<![CDATA[ <p>今日は朝一番に双子の帝王切開をした。この双子は胎盤ひとつをシェアしてはいるものの、別々の袋のなかで育っている男の子たちだった。お母さんは28週の時に双子Bの大きさが1パーセンタイル以下な上、へその緒の動脈の血流が時々逆流してるということもあって、入院して経過観察ということで先週から入院していた。この子たちは、双胎間輸血症候群と診断されていた。</p><p><br></p><p>胎盤をシェアする赤ちゃんは10%~15%ほどの確率で双胎間輸血症候群を発症する。これは、胎盤内で双子の一人から相手の双子に血液を送る血管が作られ、ドナーは血液が減るので成長が遅れ、腎不全で尿を作る量が減り、羊水がすごく少なくなる。受け取り側は必要以上の血液を循環させるため心臓に負担がかかり、心不全になると同時に、フィルターされたたくさんの血から沢山の尿が作られ、羊水過多になる。これが双胎間輸血症候群の一番最初のサインだ。</p><p><br></p><p>ちなみに、輸血のパターンはドナーとレシピエント側の動脈と静脈の繋がりかたによって4種類ある。ドナーの動脈とレシピエントの静脈に繋がりがある場合、それが一定以上の大きさで、かつレシピエントの動脈とドナーの静脈の繋がりがない場合、もしくはあっても小さい場合、結果的に総体的な血液の動きのベクトルはドナーからレシピエントに向く。その場合に、双胎間輸血症候群は起こる。この動脈と静脈つなぐ血管は胎盤の深い部分で形成される。それに対し、ドナーとレシピエントの動脈同士もしくは静脈同士が繋がっている場合は少し違う。動脈同士や静脈同士は胎盤の表面でしか繋がらない。そして、血流は血圧の違いがほぼないため、どちらの方向にも流れることができる。そのため、動脈同士や静脈同士が繋がっているだけの場合は双胎間輸血症候群は起きない。</p><p><br></p><p>双胎間輸血症候群のステージがまだ低い場合は、レシピエントの羊水を注射器で取り除き減らす治療が可能だ。ひどくないケースではこれだけで対処できる。ステージが2に進むと、ドナーの膀胱が超音波で見えなくなる。そうすると、レーザーで繋がった血管を焼ききる治療が必要になる。そうしないと、まだ妊娠週の早い赤ちゃんは大きくなる前に二人とも死んでしまうからだ。<br></p><p><br></p><p>このお母さんの場合は、今朝の段階で5ステージある双胎間輸血症候群のステージ3だった。ドナーの赤ちゃんの膀胱は確認できず、赤ちゃんから胎盤に送られお母さんの体を通して綺麗にされるはずの血液が、たまに胎盤から赤ちゃんに向けて押し返されていた。ステージ4になるとどちらかの赤ちゃんの内臓や皮膚に浮腫ができ始め、ステージ5ではどちらかもしくは両方の赤ちゃんが死ぬことになる。朝のNSTも赤ちゃんの心拍数のパターンからドナーにかなり負担がかかっていることを示していた。29週はまだ小さいが、すでに妊娠第三期であり、かつこれ以上待ったら二人とも生きて産まれてくることはできないかもしれない。そのためご両親と話し合い、帝王切開での出産が決まった。</p><p><br></p><p>手術自体はスムーズに進んだ。最初に産まれたのは大きい方の赤ちゃんで、産まれてすぐ元気に泣きはじめた。手術室では患者さんも付き添いの家族の方(大抵お父さん)も、心配そうに赤ちゃんが元気かドレープの向こうから耳を傾けている。NICUに行く必要のない元気な赤ちゃんは、チェックを受けたらすぐ手術室の中でご両親に手渡せるが (お父さんが赤ちゃんを抱いて手術中のお母さんに付き添っている感じ)、今回のケースのようにNICUに行くことが分かっている赤ちゃんは、もし赤ちゃんに余裕があればご両親に一瞬見せ、余裕がなければ産まれた瞬間へその緒を切り、そのままNICUチームに手渡すことになる。呼吸補助や、体温維持などが重要になってくるからだ。だからこそ、ご両親は産まれた瞬間赤ちゃんの泣き声が聞こえるかどうか神経を研ぎ澄ませて耳を傾けている。まるで祈るように。次に産まれた小さな赤ちゃんは、最初の子と比べて一回りか二回り小さく、皮膚は赤黒かった。でも、一卵性双生児なだけあって、顔の作りはよく似ていた。手術をアシストしていた同僚が大急ぎでへその緒を切ろうとしていると、赤ちゃんはおぎゃあと一回泣いた。聞こえましたか！赤ちゃん泣きましたよ！と言い、一瞬だけ万歳するように手のひらを広げた赤ちゃんご両親に見せると、お母さんは安心したように微笑み、隣にいたお父さんは緊張の糸が切れたように泣きはじめた。運ばれていく赤ちゃんは静かで、手術室で泣いたのはその一回きりだったが、私は心の中で赤ちゃんよくやったとガッツポーズを送っていた。完璧なタイミングでみんなに最高の頑張りを見せてくれたたった29週の命。</p><p><br></p><p>赤ちゃんが産まれた後、子宮をマッサージしていると結構すぐ胎盤が出てくる。今回は胎盤ひとつのケースだったので二本のへその緒繋がった大きな塊がぼろんと出てきたわけだが、本当に面白いことになっていた。小さい赤ちゃんのへその緒の直径はわずか１センチほど。強く引っ張ったら簡単に千切れてしまう代物。それに引き換え、大きい方の赤ちゃんは直径３センチを越える頑丈なへその緒。その上、胎盤の血管はへその緒に向けて放射状に延びているのだが、表面を覆う血管の70%以上が全部大きい赤ちゃんの方に向かっていた。小さい赤ちゃんの命を支えていた残り30%ほどの丸いエリアの胎盤は男の人の握りこぶしくらいの大きさしかなく、所々白くなっていた。これは、血栓ができてその部分の胎盤組織が壊死したサインだ。大きい子の領地にはこんなのはない。よくこれでここまで育って泣き声まであげたものだと、胎盤を見た後余計感心せざるを得なかった。</p><p><br></p><p>今のところ二人とも順調で、安定しているとのこと。数週間後に彼らが元気に退院できますように。二人とも数年もしたら同じ大きさになって、どっちが小さく産まれたかなんて分からないくらい元気に育っていってほしいものだ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12781602821.html</link>
<pubDate>Thu, 29 Dec 2022 13:27:12 +0900</pubDate>
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<title>妊娠第二期の中絶は</title>
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<![CDATA[ <p>中絶は合法か違法か。もし合法なら、第何週までを合法にすべきか。そういった議論は、世界では盛んに行われている。日本では22週、そして22週以降は延命措置をする。アメリカでは、大抵の病院は赤ちゃんの蘇生を24週以降から肯定する。痛みや不快感を伴い、一生続く障害を負うことになることもあり、合併症から長く辛い死を迎える可能性のある蘇生措置を肯定できるだけの生存のチャンスが24週の赤ちゃんにはあると認識されている。それもケースバイケースなので一概には言えないが、24週以降に産まれてくる赤ちゃんの場合、事前にご両親とどれくらい蘇生措置を行うか等の話し合いがされる。22週から24週まではそれぞれの病院によって対応が違う。うちの病院では、24週未満で産まれてきた赤ちゃんは気道確保等をせず、おくるみにくるんでご両親に手渡す。赤ちゃんはお母さん、お父さん、その他家族の腕の中で静かに息を引き取る。</p><p><br></p><p>中絶可能な週の規制は州ごとに違い、中絶が違法な州も多々ある。ひどいケースでは、アラバマ州で妊娠中のお母さんがボーイフレンドに拳銃でお腹を撃たれて流産した。その際、法廷はお母さんが喧嘩を仕掛けたとしてお母さんに胎児の死の責任を負わせて逮捕したなんてこともある。テキサスも中絶禁止でよく挙げられる州のひとつだ。メキシコとの国境近くに住むテキサス在住の医者から聞いた話では、メキシコの薬局で中絶を誘導する薬を買って飲んで (薬局で普通に売られているのにも驚きだが)出血多量で運ばれてきたケースなどもあるらしい。最近は、医者を介さなくても通販のようにネットで薬と手順を説明したパンフレットを買えるようになっていたりもする。オンライン診療で薬を出すことも比較的安全とされ許可されているので、手順さえ守れば95%くらいの人は、14週未満ならあまり問題もなく家で中絶の処置ができる。</p><p><br></p><p>妊娠第一期は、薬を使って流産を誘発するか、もしくは手術室で寝ている間に子宮内容除去術で子宮内容物を取り除く方法がある。これは真空管をつかって子宮内容物を吸い出し、超音波で全て除去されたか最終確認するというものだ。この段階では赤ちゃんは小さく、骨もそこまで発達していないので吸引は一瞬の作業になる。</p><p><br></p><p>妊娠第二期も同じように、薬を使う場合と手術による堕胎の2つの方法がある。とくに第二期後半にかけて流産を誘発する薬を使うだけで堕胎を完了することがきない場合は、お産を誘導するのと同じようにオキシトシンを投与する。もうひとつの手段はD&amp;Eと言って、お母さんが静脈麻酔で眠っている間に、赤ちゃんと胎盤等を器具を使って取り出すというもの。その後で真空管で残留物を吸い出す作業をする。赤ちゃんが生きたまま処置をすることもあれば、心臓を停止させる薬を先に羊水に投与して赤ちゃんの心臓が止まっていることを確認してから処置をすることもある。カリウムを心臓に注射して同じように心停止させることもできる。赤ちゃんが生きている場合、へその緒を切って出血多量で赤ちゃんが亡くなってから、体を取り出すこともある。どのような処置をするかは医者によって違い、研究によって裏打ちされたガイドラインはまだ存在しない。</p><p><br></p><p>妊娠第二期は14週から26週までだが、24週までは上記の方法を使って中絶が許されている。中絶は可能週を過ぎていても行われる場合がある。医療的見解からお母さんの命を救うためだったり、もしくは赤ちゃんの染色体異常や形態異常のため赤ちゃんの死ぬ可能性が高かったり、重大な精神的もしくは身体的障害が残る可能性が極めて高い場合など。<br></p><p><br></p><p>妊娠第三期になると、母体への影響から妊娠を継続できない場合、大抵のお母さんはギリギリまで妊娠期間を伸ばして、産まれてきた赤ちゃんには最善の処置を願う。中絶を望んだ患者さんには会ったことがないのだが、赤ちゃんに命に関わる重大な障害があると分かっている場合で誘導出産をして、赤ちゃんに蘇生措置をしないというケースは何度かあった。このクリスマスには、腎臓がない赤ちゃんを誘発分娩した。33週で産まれてきた小さな赤黒い赤ちゃんは、私が取り上げてお母さんの胸の上にそっと置くとすぐに小さく泣いた。その子は3時間後に家族に看取られて亡くなった。</p><p><br></p><p>今回のケースは、先週あった胎児発育不全の赤ちゃんの中絶について。赤ちゃんは26週だったが、18週くらいの大きさしかなかった。大動脈の一部が細くなる疾患がありそのせいだと疑われた。生き延びる可能性は十分にあったが、度重なる手術が必要になるだろうと予測された。お母さんは19歳。赤ちゃんはお腹のなかにいる限りでは元気だったが、お母さんの強い希望から中絶することになった。お母さんは中絶中に絶対に起きていたくないと言い、D&amp;E</p><p>を希望した。本音を言ってしまうと、生きている妊娠第二期の赤ちゃんの中絶を手術で行うのは精神的に簡単ではない。薬で陣痛を誘発し生きたまま産まれてきた赤ちゃんをそのまま看取る方が医者としては心苦しさが少ない。今回私は、同僚の補佐役として手術室にいたのだが、同僚は赤ちゃんが生きたままでの中絶を選んだ。赤ちゃんは逆子だった。子宮口を開く施術を事前にしていたお陰で、子宮口拡張はすんなりと進んだ。それから頭を器具で掴んで引きずり出すため、超音波を使って、頭と器具の位置を確認しながら作業が進んだ。赤ちゃんの心臓が元気に動いているのが嫌でも目に焼き付く。常時手足が動いているのも見える。当然だ。こんな状況で寝ている赤ちゃんなんているはずがない。同僚が何度か頭を掴もうとするが、滑って掴めない。一度目に引き出した器具にはちぎれた腕が引っ掛かっていた。赤ちゃんの心臓はまだ動いている。同僚の顔は強ばり、同時に焦りも出てそれは私にも伝染する。腕のちぎれた生きている赤ちゃん。早くこの悲惨な時間を終わらせてあげたい。同僚は、また頭を掴むために器具を子宮内に進めた。しっかりと赤ちゃんの頭を掴んで全てを一度に取り出さないと、壊れた頭蓋骨の破片が子宮を貫通してしまうこともある。ただ、この週の赤ちゃんの頭をそのようにして挟むということは、頭蓋骨を圧で潰すのと同じことでもある。超音波の画面から赤ちゃんの心臓が少し遅くなっているのが見てとれた。数分して、同僚は正しい位置に器具を設置し、一度の動作で残りの体を取り出した。頭蓋骨は潰れ、両目玉が飛び出し、顎も壊れて左右にずれていた。D&amp;Eをする際は、頭と四肢が全部揃っているかを確認しなければいけない。私たちは念のために二度数えて確認を終え、吸引作業に入った。小さく完璧な手と足の指は、この子が人間である証のようにも見えた。お母さんは遺伝子の検査を望んだため、私たちは手術後亡くなった赤ちゃんの小さな太ももから組織をメスで切り取って試験所に送付した。残りの赤ちゃんは小さい容器に入れられ病理学科に送られた。</p><p><br></p><p>お母さんの堕胎の権利は守られるべきだと思う。ただ、胎児や私たちがどんな体験をするかも、知ってもらえたらとも思う。これはお母さんだけでなく、お母さんを妊娠させる男性にも知ってもらいたい。</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12781578320.html</link>
<pubDate>Thu, 29 Dec 2022 10:39:56 +0900</pubDate>
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<title>薬物の影響を受けたお母さんたちの緊急出産3連発の夜</title>
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<![CDATA[ <p>今日のシフトは長かった。救急の患者さんが立て続けに来て、結局28時間休みなしで働いた。</p><p><br></p><p>一人目のお母さんは別の都市で２回くらい産婦人科に行ったけど、それから数ヵ月は何のケアも受けなかったそう。メタンフェタミンと陣痛のせいであまり会話が続かない。救急に来たときにはもう子宮口は４センチ開いていて破水もしていた。超音波で赤ちゃんの大きさを推定したら37週。よかったちゃんと育ってる。そう思ってほっとした瞬間、彼女は２年前に帝王切開をしたから、また帝王切開がいいのと私に告げた。こういう場合は、お産と手術の準備のどちらが早いか競争になる。彼女は幸か不幸か最後に固形物を食べたのは8時間以上前。多分無事経膣出産ができそうだが、どうしても帝王切開がいいと言う。そこで皆早速大急ぎで手術の準備にかかるのだが、血液検査をしたりIVを入れるための静脈にアクセスができない。薬物を常用する人に良くあるのだが、血管がどれも傷つけられ過ぎているのだ。結局麻酔科医を呼んできてIVを入れてもらう。その間他の病院から集めた資料によると、C型肝炎と心不全を患っていて、前の妊娠では<span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">妊娠高血圧腎症もあったようだ。大丈夫だろうかと思いつつ、テレメトリー式心電計を頼むもリード全部引きちぎられてしまう。</span><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">麻酔をしようにもまったくじっとしてくれず、</span><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">検査結果を待っている間に子宮口は10センチ。彼女が叫ぶ中いきむように指導するのだが、ベットでのたうちまわるので看護師が4人がかりで足を持ち、私が蹴られるのを防ぎつつ脚を開くサポート、２人がお母さんの手を握り、そこら中のものを掴むのを防ぎつつ励ます。その間1人が必死で赤ちゃんの心音をモニター。１時間くらいかかって吸引器をつかって出産補助し、元気な女の子が産まれた。途中お母さんがIVを引き抜いたせいで薬をIV投与できず、出産後に子宮がなかなか縮小せず出血。その際も動きまわるのでみんな彼女の</span><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">鼻水、唾、そして血まみれ。ハンセン病の患者さんたちと共同生活して自らも罹患したダミアン神父とか、病人に手袋等なしで寄り添ったキリストはすごいなとか考えつつ、なんとか膣を縫い終わった。</span></p><p><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;"><br></span></p><p><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">それからもドラマは続く。次に来たのは24週というお母さん。痛みに耐えかね叫びつづけている。なんでも、なにかがお腹を蹴ってるなと思って昨日病院に行った際妊娠していることを知ったらしい。それにも驚いたが、チェックすると子宮口は完全に開いている。かわいそうなNICUチームはさっき産まれたばかりの赤ちゃんを輸送する前にまたフル装備で走ってくることに。救急にきて20分ほどで、24週の小さくてだけど細部まで完璧に人間のかたちをした赤ちゃんが産まれた。２４週の赤ちゃん生き延びる確率は半々だ。赤ちゃんはすぐにバッグに入れられ呼吸補助が始まった。少しして戻ってきた尿検査ではコカイン陽性。旦那さんには言わないでと懇願されるも、赤ちゃんをお母さんに渡せない時点で何かしらの説明は必要になってくるだろう。コカインを使う人は、</span><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">胎盤剥離のリスクが上がる。もし血液が胎盤の後ろに集まっていた場合、膣からの大出血が見られないままで出産に至ることもある。幸いお母さんは貧血ではなく、容態は安定していた。</span></p><p><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;"><br></span></p><p><font face="Roboto, Helvetica Neue, Arial, sans-serif">それから帝王切開2つを終え、何人か救急に来た患者さんを診て(そのうち一人はコロナ陽性)ようやく朝がやってきたと伸びをしていると、電話が鳴り看護師が切羽詰まった声ですぐ救急に来いという。ホームレスのお母さんで、妊娠何週か分からない人が今まさに陣痛を訴えながら叫んでいるとのこと。急いで部屋に行くと、痩せ細って手足が泥で汚れたお母さんが痛い、痛い、助けてどうにかしてと叫んでいる。一人目の赤ちゃんらしい。動きまわるからなかなか詳しい測定は難しいが、超音波での推定は35週。赤ちゃんの頭はすぐそこまで出かかっている。赤ちゃんの心音は遅めでボーダラインすれすれ。またもや大勢のナースとNICUチームに集合がかけられた。お母さんは彼氏が来るまでこの子は産めないと泣きわめくが、どれだけかけても彼氏は電話に出てくれない。シフト変更でやって来た同僚を含め産婦人科医３人がかりで説得して、なんとかお母さんは5秒くらいずついきむようになった。その際しばらくおしっこをしていなかったようで、すごい勢いで尿噴射。私たちは皆そのお母さんのおしっこにまみれながら励ますのだが、2秒から5秒で力尽きるので赤ちゃんが全く下りてこない。しかも心音が低下していく。今回もまた、吸引器を使って二人がかりで赤ちゃんを引っ張り出すようにして出産。奇跡的に膣口は全く破れていなかった。お母さんにかわいい赤ちゃんですよおめでとうというと、お母さんは汗をかいた顔で安心したように満面の笑顔でありがとう言った。</font></p><p><font face="Roboto, Helvetica Neue, Arial, sans-serif"><br></font></p><p><font face="Roboto, Helvetica Neue, Arial, sans-serif">それから私はシャワーを浴びる気力もなく、服を脱いで頭から足まで全身を除菌ワイプで拭いて帰路についた。ダーウィンの言葉に"</font><span style="color: rgb(68, 68, 68); font-family: HelveticaNeue, &quot;Helvetica Neue&quot;, Helvetica, Arial, sans-serif;">生き残</span><span style="font-family: HelveticaNeue, &quot;Helvetica Neue&quot;, Helvetica, Arial, sans-serif;">る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。"というのがあるけれど、そう言う意味でこの赤ちゃんたちは、こんな過酷な妊娠を生き延びられるほどたくましい遺伝子を受け継いでいるのだろうなと思った。</span></p><p><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;"><br></span></p><p><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;"><br></span></p><p><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;"><br></span></p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12777701004.html</link>
<pubDate>Sun, 04 Dec 2022 12:51:54 +0900</pubDate>
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<title>レイプで妊娠</title>
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<![CDATA[ <p>ごく稀にレイプで妊娠してしまった患者さんが来る。一通り同じ質問をしていかなくてはいけないが、たとえそのリストが同じだとしても、患者さん個々の経験や経験の受け止め方は全然違う。だからこそ、自分が持っている先入観と向き合い、その影響を出来るだけ患者さんに投影しないようにする事は大事だ。今回の患者さんは、妊娠第一期に流産の危険があるとのことで救急病棟に来た。2週間前くらいから毎日少し出血するとのこと。彼女は疲れ果てた様子で、点滴を受けながら眠り込んだ。</p><p><br></p><p>膣からの出血イコール子宮から来ているとは限らない。妊娠中は柔らかくなっていて血流も増している子宮頚から出血しやすい。普段通りのセックスの後、小さな傷ができて少し血が出るとかはざらにある。<span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">子宮頚管外反症になるひとも多くて、それも結構簡単に出血する。子宮頚癌やその前段階の</span><span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">子宮頸部異形成から出血しているケースもごく稀にある。</span>性感染症やカンジダ症、もしくは<span style="font-family: Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif;">細菌性腟症など</span>にかかっていたら、やはり子宮頸は出血しやすくなる。出血が子宮頸からの場合は流産の危険は低い。だから患者さんが膣からの出血を訴えている際は必ずどこから血が出ているのか確認しなくてはいけない。膣鏡で見て子宮頸の表面から血が出ているのか、それとも子宮頸口から出血しているのか。子宮頸口から来ている場合、胎盤やへその緒をから出血していることもあれば、子宮から出血していることもある。流産しかけている場合も、子宮頸口からの出血が見られる。流産のただ中であれば、血以外のものが出てきていることもある。あと、逆に膣に一滴の血も見られない場合は、尿道感染のことが多い。たまに痔のこともあるけど、大抵の人は痔になると痛いので、経膣の出血との違いに気づく。</p><p><br></p><p>この患者さんはERに来るのは2回目で、前回はほとんどしゃべらずに帰っていった。私は前回はトリアージの段階で少し会っただけだったけれど、彼女のことはよく覚えていた。赤ちゃんが産まれてきても生き延びられない第一期は、たとえ出血が子宮口を通して出てきているのだとしても、お母さんの容態が安定している限り、産婦人科医にできることは少ない。感染症をチェックして、赤ちゃんを超音波で診て、子宮が痛むようなら薬を処方して、いつ救急に戻ってこなくてはいけないかをカウンセリングして送り出す。今回は2回目だったので、より詳しく家のこととか、仕事のことについて質問した。彼女はあまり目を合わさず、小さな声でぽつりぽつりと返事をしていた。小さな男の子と家で二人暮らしとは知っていたのだけど、家にいて安全と感じますかと聞いた瞬間彼女が静かに泣き出した。全く思いもよらない反応だった。ティッシュの箱を手渡して、彼女が涙を拭ってから、何が怖いのか聞いてみた。すると彼女はこう言った。"元カレが家の外に車を駐車して私に付きまとっていて、怖くて車が停まっていないときしか家にはいれないんです。家にいても、カーテンを締め切って、居留守を使わないといけないくて。"警察には行った?と聞くと、相談したけど危害を加えない限りできることはないと言われたそう。"私を殴るでもいいし、なんでもいいから刑務所にいってほしい。"そう言って、彼女は膝の上でぎゅっと小さな拳を作った。私はちょっとした違和感を覚えた。ただいなくなるのではなく、刑務所に行くというのはかなりはっきりとした願いだ。ただ人を殴るだけではそんなに長い間刑務所には入らない。多分親権のことを考えているんだとすぐに分かった。ゆっくりと、小さな声で訊ねてみる。"その元カレが、この子のお父さん?" 彼女はまた泣きはじめてそうだと言った。"これは望んだ妊娠なの?" 質問を聞いて、彼女は無意識にお腹に手を置いた。その仕草から、彼女はもうこの子のお母さんで、この12週に満たない子に対する愛情が芽生えているんだなと感じた。一分に満たない沈黙を破ったのは彼女だった。彼女がどこまでシェアするかを模索している間、私はじっとその邪魔をしないように待った。"彼は何度も付き合おうと言ってきて、最初は乗り気じゃなかったんです。でも、ずっと誘われて、根負けしたというか、もしかしたら彼と上手く行くかもしれないから試してみようっていう気になったんです。それで、付き合って最初にからだの関係を持った時、彼はそれを録画してたんです。私には言わずに。付き合いはじめてすぐ、私たちが上手くいかないことは明白で、私は２ヶ月足らずで別れを切り出しました。そうしたら、録画をインターネットに流すって脅されました。"静かな彼女が、堰を切ったように早口でそう言った。疲れはてていて打ちのめされたような印象だった彼女が、静かに怒っていた。まだ怒るエネルギーがあること私は少し安心した。妊娠はその時にしたの?彼女は目を閉じて首を横に振った。"いえ、それから何度か脅されて嫌々。"彼女はそれがレイプだということに気づいていない気がした。でも、そんな言葉を今投げつけることに何の意味があるだろう。それは今も続いているの?"いいえ。でも、だから家に帰るのが怖いんです。"最後に関係を持ったのは11週間前。彼女はその時に妊娠した。もう一度念を押すように、彼女に聞いた。もしこれが望まない妊娠なら、まだ中絶は可能だよ。でも、もう数ヵ月したら、中絶はできなくなるよ。その事については考えてみた?と。彼女は少し考えて、でもこの子は殺せませんと言った。出血が始まって、流産したら楽になれるかもしれないとも思ったけど、でもこの子は守りたい。元カレが彼女の妊娠を知っているかと聞くと、彼女はまたいいえと言った。そして、ばれる前に彼がこの世から消えてくれたらいいのにと付け足した。</p><p><br></p><p>私はソーシャルワーカーを呼んだ。待ちながら、もし彼がまた性的関係を迫ってきたら絶対に警察に助けを求めること。彼が無理矢理関係を持とうとしたり、ビデオで脅して関係をもとうとしたらそれは犯罪だから、絶対にセックスには応じず通報すること。もしそうなったら、彼はレイプをしようとしたとして刑務所に行くことになるかもしれないと。私が未来形で話しているのを聞きながら、彼女は何かを考えていた。それが私にできる精一杯だった。彼女の過去の経験にレッテルを貼るのは私の役目ではない気がした。彼女が子供を愛する思いに、レイプという言葉で消えない溝を作る権利は私にはないと思った。もし彼女が妊娠したときにそう感じていなかったとしたら、もしくそう思い込もうと決断したのであれば、それは私がとやかく言うことではない。ただ今後に起こりうることを防ぐ手助けをする責任は間違いなくある。</p><p><br></p><p>性の問題は難しい。人間の人生の大きな一部で、美しいものであれるはずなのに、暴力となって一生癒えない傷を残す。たった数分のそれが私たちの人格まで変えてしまうほどの精神的外傷を追わせる。そんな経験を多くの人が持っている。女性はその上妊娠のリスクがある。中高の時にコンドーム以外の避妊について、そして性について徹底的な教育をすることがどれだけ大事か分かってない人がルールを作る。妊娠できる女性には絶対に知っていてほしい。親にも恋人にもばれない避妊方なんて今は沢山ある。3ヶ月に一度のデポ注射、二の腕の裏に隠れる3年もつネクスプラノン。3年、5年、10年もつIUD。</p><p><br></p><p>それから一度も彼女は救急に来ていない。併設のクリニック以外に通っているのかもしれないし、もしかしたら流産してしまったのかもしれない。たまに彼女のことを考えて、彼女の小さな男の子と安全に暮らしていてほしいと思う。</p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12777652413.html</link>
<pubDate>Wed, 30 Nov 2022 05:25:50 +0900</pubDate>
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<title>糖尿病のお母さんから産まれた赤ちゃん</title>
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<![CDATA[ <p>糖尿病は怖い病気だ。友達の感染症専門医４人にHIV と糖尿病、自分がかかるとしたらどっちがましかと聞いたら、みんな即座にHIVと答えるくらい。私も手術しない部類の医者であったら、そう答えると思う。手術中に間違えて針で指を刺される等のアクシデントはいつでもあり得るわけで、信頼してくださった患者さんのことを考えると、自分だけが困る糖尿病の方がましかなと思うのだが、もしこういう職業についてなかったら絶対HIVのほうが生活に影響が少ない。HIVは今いい薬がいくつもあって、最近では月に一回とか、ふた月に一回筋肉注射をすればいい薬なんかも作られていて便利になりつつある。それに引き換え、感染症専門医が看る人の多くは、糖尿病を患っている。<span style="background-color: rgb(248, 249, 250); color: rgb(32, 33, 36); font-family: &quot;Google Sans&quot;, Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif; white-space: pre-wrap;">褥</span><span style="background-color: rgb(248, 249, 250); color: rgb(32, 33, 36); font-family: &quot;Google Sans&quot;, Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif; white-space: pre-wrap;">瘡から始まって、</span>骨に達する感染をした患者さんが足の親指を切除したとする。傷の治りは、血流が悪くて非常に遅い。糖尿病のせいで抹消血管が細くなっているからだ。その上神経がダメージを受けている患者さんは痛くないから、アドバイスに忠実に従わずその足に体重をかけて歩いたりする。血糖値が高い場合細菌は断然繁殖しやすい。これらの要因が重なって、沢山の抗生物質に抵抗力のある細菌が少しずつ患者さんの足を侵食していく。最初は親指、それから足首まで、そして次は膝下全部と、切除が繰り返される。それだけではない。骨に達した細菌は血流にのって身体中に広がることもあり、それで死ぬ人も多い。毎日そんな患者さんを看ているからこそ、糖尿病の怖さを痛感しているのだろう。</p><p><br></p><p>産婦人科医にとっても、糖尿病はかなり怖い。1型糖尿病の場合、ちゃんと血糖値がコントロールされていないと、赤ちゃんのに内蔵の発達に影響が出たり、お母さんがDKAを発症したりしてとても深刻な問題になる。2型糖尿病は1型ほど血糖値のコントロールが難しくないが、妊娠中に様々なリスクがある。赤ちゃんが大きく育ちすぎて出産のとき肩が引っ掛かったり、帝王切開になるリスクも大きくなる。羊水が多すぎる場合は赤ちゃんの頭位がお産の最中に変わることもあって、注意が必要だ。どちらの場合も、早産、死産、流産、妊娠高血圧腎症、心臓や腎臓の異常等が一般的なリスクより高くなる。高い血糖値は胎盤の発達にも影響があり、赤ちゃんがとても小さくなることもある。妊娠糖尿病は、薬が必要になってくる人と、そうでない人がいて深刻さの度合いは人それぞれだが、基本的に1型や2型とは違い、赤ちゃんの体が形成される時期はお母さんは普通の血糖値を維持していたため、内臓の発達には大きな影響はない。</p><p><br></p><p>薬を使う糖尿病の患者さんで、お産の前に心配しなくてはいけないのは、低血糖症だ。赤ちゃんは多少お母さんの血糖値が高い状態でも、インスリンを余分に作ったりしてやっていける。でもお母さんが極度に低血糖になってしまった場合、赤ちゃんには蓄えがない。だからお母さんの気づかないまま、お腹の中で亡くなってしまうことがある。今までに何人も、多分それが原因で妊娠第三期の赤ちゃんを失くした家族を見てきたけれど、本当にこれ程悲しい場面はあまりないと思う。</p><p><br></p><p>前置きがかなり長くなってしまったけれど、今回の患者さんは2型糖尿病のお母さんだった。どうしても経膣分娩を希望とのことで38週で分娩誘発。赤ちゃんはすでに４キロ弱と予測されたけど、お母さんもかなり背が高くて大きい人だった。<span style="background-color: rgb(248, 249, 250); color: rgb(32, 33, 36); font-family: &quot;Google Sans&quot;, Roboto, &quot;Helvetica Neue&quot;, Arial, sans-serif; white-space: pre-wrap;">硬膜外</span>麻酔もして、お産は順調に進んでいた。妊娠中血糖値のコントロールに薬を使っていた糖尿病の患者さんたちは、出産中は系静脈のインスリンを使って血糖値をコントロールする。お産の最中は血糖値が高くても低くてもいけない。もしお母さんの血糖値が高くなりすぎたら、赤ちゃんはそれをカバーするため沢山のインスリンを作る。その状態で産まれてくるのは非常に危険だ。へその緒を切った瞬間、赤ちゃんは自力で食べていかなくてはいけない。でも、産まれたての赤ちゃんはいきなりすごい勢いでお乳を飲んだりしないし、大抵のお母さんはまだお乳が出ていない。つまり、何が起こるかというと赤ちゃんの血糖値が急激に下がってしまい、昏倒、てんかん、対処が遅れると死もありうる。</p><p><br></p><p>このお母さんは、大きすぎる赤ちゃんを３時間かけて必死で押し出した。この3時間は本当に長かった。人によって赤ちゃんを押し出すのが上手い人とそうでない人がいるが、彼女は体力がなかった。10秒押すところをどれだけ励ましても5秒でやめてしまう。帝王切開に切り替えるべきかと何度も思った。それでも血糖値はかなり厳しくコントロールされていたし、胎児心拍数図も完璧ではないにせよ、ひどくもないといった感じだったから、お母さんの体勢を変えたりを繰り返して、なんとか器具を使わず赤ちゃんを取り上げた。最後はもう頭が長く伸びてしまった大きな赤ちゃんを同僚と二人がかりで引っ張り出すような感じ。赤ちゃんは、出産のストレスで子宮内でうんちをしてしまっていた。灰色で、四肢をぶらんと垂れたままお母さんの胸の上で動かない。私たちがマッサージをしても泣かないどころか何の音も出さない。すぐにへその緒を切って、新生児救急医に赤ちゃんを手渡した。スタッフが蘇生を始める横で、お母さんは私が膣を縫う間も泣き続けた。</p><p><br></p><p>赤ちゃんは数日呼吸器に繋がれて2週間弱入院したが、無事だった。驚いたのは赤ちゃんの血糖値。産まれてきて数分でチェックされた値は12だった。こんな低い数値は正直初めて聞いた。あれだけ細かくお母さんの血糖値を管理していたのに。どうしたら、もっとスムーズな出産をサポートできていただろうと振り返ったが、帝王切開を勧める以外でやれることはすべてやった思う。お母さんの子宮口が完全に開いた後での帝王切開はそれからの時間が経ちすぎているか、患者さんが全面的に希望するか、もしくは緊急事態でない限りはなかなか勧めがたい。それでも帝王切開を強く勧めていたら違う結果になっていただろうか。こういうケースは本当に難しいと思う。ただ、これだけは言える。赤ちゃんが生きてくれて本当によかった。</p><p><br></p><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12775213282.html</link>
<pubDate>Sat, 19 Nov 2022 05:38:41 +0900</pubDate>
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<title>ちっちゃな足に掴まれた指先</title>
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<![CDATA[ <p>これは私が最初に体験した、ベッドに乗ったまま患者さんと一緒に手術室直行エピソード。ベッドに産婦人科医が乗っている場合、その人は十中八九赤ちゃんの頭を指先で持ち上げている。頭が膣に飛び出してしまったへその緒を圧迫し、血流を遮断するのを防ぐためだ。緊急手術始まったら、ドレープの下でできるだけ縮こまって、手術してる医者の邪魔にならないようにして、赤ちゃんが帝王切開で取り上げられるまで、手を患者さんの膣に入れたままじっと耐える。へその緒が赤ちゃんの頭と子宮頚に挟まるのは破水の時に起きやすい。ふわふわと羊水のなかを漂っているへその緒が羊水が漏れる際頭より先に飛び出してしまうのだ。</p><p><br></p><p>私が体験したケースは、ちょっと違った珍しいパターンだった。お母さんは妊娠35週、お母さんの自己申告によると、赤ちゃんはすごく小さくて3パーセンタイル以下。頻繁な陣痛の末家で破水して、旦那さんが大慌てで病院に連れてきた。うちの病院の患者さんじゃなかったので、カルテは真っ白。超音波で赤ちゃんをチェックすると、逆子だ。間違いなく緊急手術のパターン。どれくらい時間があるかを確かめるためにも、子宮頚内口の開き具合をチェックしなくてはいけない。お産の痛みで叫ぶお母さんに謝りつつ、手を膣に入れた。もう8センチくらい開いている。本気で時間がないと思った矢先、指先を何かがつかんだ。小さい、かわいい、手のひらのような。というか、これは足だ。赤ちゃんの小さな小さな両足が、私の人差し指と中指をきゅっと握っては離しを繰り返している。私のピースサインの上に赤ちゃんが直立していて、そのまま陣痛の度に出てこようとしている状態。なんともシュールな絵面に、赤ちゃんが私の指先を足先で弄る度にちょっと微笑んでしまう。私の周りはそれどころではない。お母さんは苦痛に悶え、お父さん心配で青ざめ、同僚や看護師はバタバタと手術室に駆けていく。その後ろから、患者さんのベッドに不恰好な体勢で乗ったままの私も運ばれていく。途中頭にはネット帽が被せられ、患者さんが膀胱にカテーテル挿入されたり、お腹に消毒液をかけられたりしている間も、赤ちゃんを指二本で押し上げたままじっと待機だ。手術台は狭いので、手術室では手を患者さんの膣に入れたまま中腰の半立ち。そんな苦労も知らない赤ちゃんはもう動く動く。足踏みをしたり結んで開いてをしたり、やりたい放題。最終的に、私はドレープをかけられて、執刀医ができるだけ患者さんの近くに立てるよう最大限縮こまった。構図的には、今まで一度も会ったことのない、病歴もなにも知らない患者さんの裸の太もも側面に顔をくっつけたまま、患者さんの膣のなかでピースサイン、そのまま中腰スクワット維持。手術開始から10分ほどで、子宮に入れた同僚の指が膣に入っている私の指に触れた。そのまま赤ちゃんが掬い出され、ようやく私はお役ごめんとなった。お母さんも赤ちゃんも無事だった。</p><p><br></p><p>産婦人科は結構体育会系で、体力勝負な面があるが、これもその一例かもしれない。</p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12774404165.html</link>
<pubDate>Mon, 14 Nov 2022 03:49:27 +0900</pubDate>
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<title>子宮頚癌のはなし</title>
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<![CDATA[ <p>最近は婦人科のケースが多かった。今回は出産じゃないけれど、私が心から伝えたい子宮頚癌の話。子宮頚癌の原因の99%以上はHPVウイルスに感染していることだ。これは性感染症のひとつで、子宮頚癌のみならず<span style="color: rgb(43, 43, 43); font-family: Roboto, &quot;游ゴシック Medium&quot;, &quot;Yu Gothic Medium&quot;, 游ゴシック体, YuGothic, メイリオ, sans-serif;">咽頭がんや口腔がん、肛門がんを引き起こすこともある。癌を引き起こす一番の原因となるのはHPV 16と</span><span style="color: rgb(43, 43, 43); font-family: Roboto, &quot;游ゴシック Medium&quot;, &quot;Yu Gothic Medium&quot;, 游ゴシック体, YuGothic, メイリオ, sans-serif;">18。コンドームをしていれば感染は大抵防げる。あと、もしHPVを持っている人と性交渉をしても、確実に感染するわけではない。大抵の人は何らかの形でHPVに接触したことがあり、自己免疫でそれらを殺してきており、そのため癌を発症することはない。でも、だからといってHPVが私たちの健康をおびやかすものであるという事実は変わらない。</span></p><p><br></p><p>今日話す患者さんは29歳。子供が2人いて、子宮頚癌の再発と診断された。子宮頚癌は世界的にみて、癌で亡くなる女性の5番目に多い死因として挙げられる。3０代から４０代になって診断されることがもっとも多いが、２０代での診断もよくある。何度放射線治療を繰り返しても出血が止まらない人も多い。尿管が塞がれて、腎臓から直接尿を排出するための腎臓チューブ、大腸がブロックされ、便の迂回路として作られるオストミー。吐き気や嘔吐でご飯が食べれなくなると、胃に直接穴を開け、そこから流動食を流したりたまったガスや未消化物を出すGチューブ。度重なる感染症。それらを経て、痩せ細って亡くなっていく、自分と年の変わらない患者さんたち。見ていて本当につらい。ステージ1だと子宮頚に留まっている段階。ステージ2Aだと膣の上部まで侵食している状態で、2Bになると、膣や子宮頚の外側まで広がった状態。2Aまでは手術ができる。でも、2Bを越えたら治療は化学療法と放射線治療になる。</p><p><br></p><p>少し話が逸れるのだけど、最近診た患者さんで、どうしても化学療法と放射線治療が嫌な方がいた。散々の忠告と話し合いにも関わらず、ステージ2Bか3の(PETスキャンはまだなのでCTベースでの推測)子宮頚癌を食生活の改善とアロマオイル、鍼灸で治すのだと言いその決断を貫いた。その上その人は海外で子宮と子宮頚摘出の手術を受けた。がんに侵された組織は普通の組織のようにきちんと治癒しない。その上、子宮頚癌に切り込むことで、がん細胞は腹腔内に飛散する。3ヶ月後彼女は肝臓への転移、大腸と尿管の閉塞、腸穿孔(腸がぱんぱんになって破裂しそうな状態)寸前で救急救命に戻ってきた。膣からの出血も止まらなかった。子宮はもうないため、がん腫瘍からの出血だ。延命のため何度も輸血と放射線治療を受けた。一週間後彼女はホスピスを選び、帰路に着いた。41歳、十代の子供が二人いた。</p><p><br></p><p>話を戻すが、今回話す29歳の患者さんは幾度もの化学療法と放射線治療の後、寛解の診断を受けていた。しかし、数年後経膣での出血が始まり、生検の結果再発の診断となった。再発した子宮頚癌の場合、骨盤側壁に進行しておらず、腫瘍が3センチ以下であれば、骨盤内容除去手術が一番延命の確率が高い選択肢となる。これは本当に大がかりな手術で、いくつかのパターンがあるが、子宮、卵巣、膣、膀胱、肛門、大腸、そしてそれらを支える筋肉や脂肪などの組織からなる骨盤底を全て取り除く。膀胱だけもしくは肛門だけを残すパターンもある。最終的に全てが取り除かれた後、股間から患者さんの体を覗くと横隔膜が見える。のちに足の筋肉や皮膚を使って膣を形成することもできるが、その選択は人それぞれだ。この手術の後、患者さんは一生オストミーと腎臓チューブをつかっての老廃物の排出を余儀なくされる。その場合、体についた袋は3つ。再手術で尿管の軌道を変え、オストミーだけを使って排出物を処理できるようになる場合もある。そうしたら袋は1つだけ。この患者さんは、いつも病室を訪れるたび、私たちにありがとうと何度も頭を下げた。手術後の痛みは出産の痛みなんて何でもないと思えるくらいひどいものだろうし、この若さでオストミーと共に生きていくことを辛く思う人が大概だと思う。生殖器がすべてなくなった後の結婚生活はどうなるのか。不安はつきないはずなのに、彼女は一度も文句をいわず、笑顔を絶やさなかった。こんなに強くて美しい人を私は他に知らないかもしれない。</p><p><br></p><p>HPVに関していうと、今はワクチンもできた。ワクチン(<span style="color: rgb(34, 34, 34); font-family: &quot;Open Sans&quot;, -apple-system, BlinkMacSystemFont, &quot;Segoe UI&quot;, Roboto, Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;Apple Color Emoji&quot;, &quot;Segoe UI Emoji&quot;, &quot;Segoe UI Symbol&quot;; font-size: 16px;">Gardasil 9、最もよく癌を引き起こす原因となるHPV</span><span style="color: rgb(34, 34, 34); font-family: &quot;Open Sans&quot;, -apple-system, BlinkMacSystemFont, &quot;Segoe UI&quot;, Roboto, Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;Apple Color Emoji&quot;, &quot;Segoe UI Emoji&quot;, &quot;Segoe UI Symbol&quot;; font-size: 16px;">16, 18, 31, 33, 45, 52, 58に対して有効)</span>はHPVに感染してない人が受けた場合、子宮頚癌、外陰癌、そして膣癌をほぼ100%の確率で防ぐ。パップテストは陰性の人は3年から5年に一回受ければ良い。それさえしていれば、この患者さんのような人生を歩む必要は全くなくなる。絶対に子宮頚癌で命を落とすこともなくなる。そう言いきれるくらい、定期検診と検査は必要で有効だ。子宮頚癌は防げる病気で、この世から消えなければいけないものの1つだと強く思う。</p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p><br></p><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/obgynkao/entry-12774218266.html</link>
<pubDate>Sat, 12 Nov 2022 23:18:07 +0900</pubDate>
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<title>子宮と腸はおとなりさん、子宮破裂のレアケース</title>
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<![CDATA[ <p>子宮と腸は同じスペースに存在する。腸は常に子宮に乗っかっていて、食べ物を消化しているときとかうねうねとそのまわりで動きまわる。だから内視鏡を使ってやる手術の際は、基本的に患者さんの頭を水平より下、足を上にして腸が肝臓とか胃の方に向けて流れていくようにする。そうしないと、子宮とか卵巣とかが見にくい上、腸を傷つけてしまうことになりかねない。ちなみにお腹を切開してやる手術の場合は、色んな器具で腸やら膀胱やらを手術してるフィールドから遠ざけておけるので、患者さんは水平のまま。</p><p><br></p><p>前置きはさておき、今回のケースは非常に珍しい、子宮破裂を経験された方の話。私の同僚が直接担当したケースなので、一人称は彼女の目線と思って読んでほしい。出産時に子宮破裂が起こることは希だ。モニターで患者さんの陣痛の強さを確認して、過度に子宮が刺激されないよう陣痛促進剤の量を調節したりがお産の際に産婦人科医にできる基本的な処置。過去に帝王切開をされた方や、たくさんの過去の妊娠経験がある方、子宮筋腫をとったりする手術をされた方、未熟児を帝王切開で出産された際、子宮に縦の切り込みを入れなくてはいけなかった方 (基本的にその場合はずっと帝王切開での出産が勧められるが、たまに予定日より早くお産に突入される方もいる)、誘発分娩は一般の人よりも高いリスクを負うが、それでもその確率は子宮に縦の切り込みをされた方以外は1%に満たないので安心してほしい。</p><p><br></p><p>そのお母さんは過去に帝王切開の経験があった方で、今回はどうしても経膣分娩されたいとのこと。健康な方で、前回の帝王切開も逆子が理由だったので、成功率は比較的高そうに思えた。帝王切開をしたお母さんの子宮破裂のリスクが高くなるのは、子宮を切った場所が治癒する際、筋肉繊維に結合組織が混ざり、収縮率が下がるのが理由の１つ。このお母さんは子宮頚が開いたお産がまだなかったため、誘導分娩での出産に挑むことになった。薬で子宮頚を柔らかくしてから、陣痛促進剤を始める。破水するまでは、子宮外のモニターを使って(お腹にバンドでくくりつけるモニター)陣痛の頻度を確認する。子宮内のモニターは、破水後に入れることができて、それを使えば頻度と強さの両方を測れる。陣痛は10分に４回ほど、子宮頚内口は６センチほど開いた。お母さんは自然分娩を望んだので、呼吸整えて陣痛に必死で耐えている。全てがうまく行っているように見えた。そんな時、看護師から報告来た。&nbsp; "患者さん破水しました。でも、血がたくさん出てきてて、尋常じゃない痛がりかたです。"</p><p><br></p><p>陣痛のパターンがモニターから消えて、赤ちゃんの心拍パターンも血流不足のストレス示している。すぐさま部屋に走っていくと、ベッドの上でお腹を抱えて叫んでいるお母さんがいた。羊水に混じった真っ赤な血がパッドとシーツに広がっている。看護師さんに足をもってもらって、お母さんが横になったままへその緒が子宮頚外口から出ていないか手を使ってチェックする。すると、弱く脈打つ何かが飛び出している。へその緒は、結構しっかりした固さがあって、脈も強い。赤ちゃんの頭でないことは確かだ。今触れているのは、柔らかくて、押したら形を変える風船のような。一瞬の内に、血の気が引いた。これは腸だ。子宮入った亀裂が大きすぎて、腸が膣通して出てこようとしているんだ。</p><p><br></p><p>二人の命を救うため、すぐさま緊急手術になった。これ以上腸が出てきて、赤ちゃんの頭に押し潰されて壊死とかしたら大事なので、同僚は赤ちゃんの頭が出てこないよう手で押し上げて(膣に手が入っている状態)、ベッドに乗ったまま患者さんと一緒に手術室へ。幸い迅速な対応ができたお陰で、二人とも無事だった。お母さんは輸血が必要だったけど。亀裂は子宮頚と子宮の継ぎ目近くだったらしい。普通の子宮破裂の場合、赤ちゃんが骨盤に降りてきていて、はまっているせいで腸が出てくることはまずない。聞いてて怖い一方勉強にもなるケースだった。</p><p><br></p>
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<pubDate>Sat, 12 Nov 2022 22:43:32 +0900</pubDate>
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