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<title>Pandaemonium</title>
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<description>目指せ一日一更新。色々書きたいですが、基本ライトノベル。</description>
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<title>その六。ローニン・ソード・ショウ</title>
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<![CDATA[ 　サキとフリッツが、犬を見つける少しだけ前。<br>　ナガマサは、五階のとある居酒屋で、ご機嫌がよろしくなっていた。<br>「いやあ、良い酒だ。ここでこんな良いのが飲めるなんて知らなかった。通おう。是非通わせて貰おう」<br>「はっはっは。アンタの飲みっぷりは気持ちがいいぜ。大歓迎だ、オサムライ！」<br>　酒を求めてふらふらしていると、この店の主人に、おいおいそこ行く旦那の腰にあるのは何だいと誘われた。<br>　ナガマサは剣だと答え、主人がその剣はカタナというんだろうと指摘した。<br>　それから二言三言で、二人は意気投合し、ナガマサが話をして聞かせる代わりに、いくらか酒代は割引いてくれることになったのであった。<br>　しかも、蒸留酒かブドウ酒が主流のキュービーにあって、ナガマサの故郷の酒を出す店だったのが、彼の心を射止めた。<br>「ご主人、ワシみたいなのは、サムライとは言わん」<br>「へえ、じゃあ、何て言うんだい？」<br>「スローニンと言うんだ」<br>「ほう」<br>「スカンピンとも言う」<br>「なるほど、スカンピンか！」<br>　勿論お代は払うつもりだが、ナガマサ、ノリノリであった。<br>「いやいや、しかしオサムライ、いやスカンピンさんよ。あんたがデビルド・バスターズの人だってなら、酒代割引どころか、俺のオゴリでもいいんだぜ？」<br>「そいつはワシが困る。飲んだ分は払わんと」<br>「何でだい」<br>「財布があるから、酔い潰れんで済むのさ」<br>「はっははは！　なるほど！　でも心配すんな、金も仕事もなくなったらウチに来ればいい。メシと酒はあるぜ」<br>　聞けば、何度か、大きな違法建築に襲われそうになったところを、デビルド・バスターズに助けられたのだと言う。<br>　卵を投げつけてくる奴もいれば、こうして恩を感じ、接してくれる人もいる。<br>　世の中、広いのか狭いのか。面白いものだと、ナガマサは思う。<br>「いかん。飲みすぎだ」<br>「今日くらいはいいじゃねえか。ほれほれ」<br>「いやいや、いつ何時、何が起こるか……どうした、ご主人」<br>　手にした酒瓶を突き出したまま、妙な顔をして固まった主人を、ナガマサは訝しげに見やった。<br>「なんか、変な音がしなかったかい？」<br>「ん？」<br>　言われてみれば、確かに、壁や柱が時たま、みしりと軋むような音を立てている。<br>「古い建物だからな……」<br>　家鳴りにしては、おかしい。ナガマサの勘が告げる。これは尋常の音に非ず。<br>「出ろ。ご主人」<br>「あん？」<br>「出るんだ。ここから離れろ」<br>　目を白黒させる主人を引っ張って、外へ。人は居ない、薄暗い路地だ。夜になれば、それなりに賑わうように思える。<br>「ちょっちょっちょ、何だよ。一体」<br>「古いんだろう。この家」<br>　二階建ての小さな家だ。一階が丸ごと店になっている。建て付けは、どうもよろしくない。<br>「あ？　まあ、そうだな」<br>「最近は見なくなった。だからといって、居なくなったわけではないのさ」<br>「何が？」<br>「古いと、なり易い。何にだって？　違法建築さ。ご主人」<br>　途端、入り口の引き戸が粉砕した。<br>　上下から生えているのは、コンクリートの牙。木製の骨組みを、土がごりごり不快な音をあげて覆い隠してゆく。<br>「な、何だぁ？」<br>「中型だな」<br>　家一軒分の材料で体を作った違法建築。<br>　違法建築に意思は無い。あるのは高密度に圧縮された怨霊の塊だ。どういうわけか様々な形態をとる違法建築だが、その性質をあえて喩えるなら、昆虫のそれに似ている。<br>　ナガマサの前に現れた違法建築は、巨大な蟷螂のようだった。ただし腕は四本あり、足は六対あった。頭は複眼ではなく、巨大な口が開いて、コンクリートの牙を打ち鳴らしていた。<br>「羽が無くてよかった」<br>　ぽつりと呟く。後ろで、主人が叫ぶ。<br>「わ、わ、わぁぁーッ！　俺の店が！」<br>「命あってのモノダネだ、ご主人。補助金もある。終わったらウチの事務所に来るといい」<br>　わざと思い切り、力を入れて肩を掴む。そうやると、落ち着く人は多い。<br>「……あ、あんた」<br>「心配はせんでいいさ。割り引いてくれた御礼もあるし」<br>　剣――カタナの鯉口を切る。<br>「見てな、ご主人」<br>　岩同士がぶつかりあうような、凄まじい音。恐らくは、違法建築の口から出ているのだろう。鳴き声だ。<br>　それと同時に繰り出される、四本腕。その先端は、凶悪かつ無骨、鎌のように曲がっている。<br>「ハン」<br>　一閃。<br>　主人の目にはそう映った。<br>　その実、違法建築の鎌が三つ、粉微塵になっている。三閃であった。<br>　切断したのではなく、衝撃力が最も集中する一点を突き、塞き止めた勢いをそのまま反転させて、割り砕いたのである。違法建築は、自らの力でもって、自らの腕を失ったようなものだ。<br>　それは、ほんの数瞬。否、あるいは一瞬にも満たないかも知れない、そんな極小単位の間に行われた、超々精密作業。<br>　身の丈を越すカタナは、鞘に納められている。まさに、目にも止まらぬ早業。<br>　まさしく、神技と言うべき領域の剣術であった。<br>「お、オサムライ！」<br>　残った鎌を突き出し、巨大な口を備えた頭を突き出して、一二本足を撓める違法建築に、ナガマサは尚、笑みで応える。<br>　巨体が、掻き消えたかと思うような速度で突進。<br>　カタナが鞘走った。抜き打ちに、鎌を半ばから両断し、その勢いのまま、ナガマサは違法建築の背に跳び上がる。足をつき、踏みしめる。一二本足が停止。その前に、渾身に振り下ろした斬撃が、異様な頭部を切断する。<br>　声も無く、ただ凄まじい軋みをあげて、残った体が持ち上がる。馬のように、棹立ちになっているのだ。<br>　ふんと鼻を鳴らし、ナガマサは跳んだ。<br>　滞空する間、一体何度、その周囲に銀円がきらめいたか、主人は数えることもしなかった。<br>　ナガマサが着地する。カタナを納める。ちん、と澄んだ音が響き、同時に、轟音とともに、岩の蟷螂がバラバラになって路地に散乱した。<br>「…………す、すげえ」<br>「あのくらいの大きさなら、何とかな。痛てて……」<br>　呻いて蹲るナガマサに、主人が駆け寄った。<br>「お、おい、どしたィ」<br>「ちょっと肩と腹をぶつけて……」<br>　咳き込む。血は混じっていないと安心した主人が、やれやれと空を見上げた。<br>「なあ、オサムライ」<br>「何だ」<br>「今日は、厄日だねェ」<br>　ん、とナガマサも空を見上げた。映像の消えた、黒い円柱状の、空だった部分が落ちてきた。酷い音と衝撃と粉塵だった。<br>　二度と昼酒はすまいと、ナガマサは思った。
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<link>https://ameblo.jp/obun-renji33/entry-10091295417.html</link>
<pubDate>Fri, 25 Apr 2008 23:43:25 +0900</pubDate>
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<title>その五。お仕事アンドトラブル。</title>
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<![CDATA[ 　第五層六階。デビルド･バスターズ本部事務所は閑散としている。<br>　ナガマサはどこかへ行き、フリッツとサキが買い物へ行き、ギンガは警察の厄介になっている。<br>　本当に厄介だろう。もうすこし押し付けておけばよい。<br>　ゼンはちょっぴり酷めなことを考えながら、三〇〇キログラムのウェイトリフティングに勤しんでいた。<br>　筋骨隆々、という言葉でも、彼の肉体を表現するには足りない。<br>　恵まれた骨格に、鍛えに鍛えた鋼線の束の如き筋肉。適度な皮下脂肪。鞣革じみた強靭な皮膚。<br>　まさに、それは、格闘家や軍人と同質の、戦うための体に他ならない。<br>「ゼン君は努力家ですね」<br>　社長が言った。彼だけは、毎日尽きることなく仕事がある。報告だ、と説明されているが、それだけだ。何処に、何を報告しているのかは、ゼン達社員は知らない。いわば「知る必要が無い」ことなのだ。だから社長もあえて説明しない。<br>　その理解があれば、社員全員は納得する。<br>　探って知っても仕方が無い。時間が無駄になっておなかが減るだけだ。<br>「社長もプロテインを」<br>「いや、いいです」<br>「ではこのココアを」<br>「紅茶飲んでますから」<br>　ゼンは残念そうだった。社長が話しかけたのは、単に会話がしたいからだろう。<br>「社長は鍛えないのか？」<br>　返事が返ってきた。最初から、社長の手はかりかりと何かを書いている。目線もそこに落としたままだ。<br>「私はここに居るのが仕事です。仕事が終わったら飲んで食って寝ます。鍛える暇がありません」<br>「不健康な。飲む時間を削って走ろう。俺のランニングに付き合えば三日で生まれ変わる」<br>「二日目で死ぬのが前提？」<br>「そうかもしれないが問題ないだろう」<br>「死ぬのは嫌だ」<br>「為せば成るさ」<br>　無駄話に花が咲く。<br>　電話が鳴った。<br>「はい、デビルド・バスターズ」<br>「お前のとこのクソアフロを殺してやる」<br>「そりゃどうも、できるもんなら是非どうぞ」<br>　受話器を置く。<br>「困ったもんですね」<br>「そろそろ電話を変えようよ。大昔の黒電話なんて博物館に入れてさ」<br>「このダイアルがたまらないんです」<br>　伸ばした腕一杯にダンベルをぶら下げて空気椅子に座るゼンの、深い溜息。社長は全員がレトロ趣味だった。<br>　また電話が鳴る。<br>「はい、デビルド・バスターズ」<br>「怪しげな柱があるんだ、見に来てくれないか？」<br>「お名前とご住所を」<br>「五階層五階、アルバトロス」<br>「すぐに向かいます」<br>　受話器を置く。<br>　ゼンは既に、仕事着を纏っていた。<br>「五階層五階、ミスタ・アルバトロス」<br>「了解。変わった名前だ」<br>　言って、走り出る。単車は三台。うちフリッツの二輪はお出かけ中。<br>　ゼンは単輪車に跨ると、キーをひねった。キー表面からゼンの指紋及び生体反応が吸い出され、発動機にかけられたストッパーが解除。霊子エンジンが手当たり次第に低級怨霊を吸引し、内部でその怨恨を燃焼。<br>　単輪車は、車体というよりも車輪自体に跨っている格好で走る乗り物だ。小回りが利くが、速度は出せない重いと乗れない燃費は悪いの三拍子が揃っているため、よっぽどの物好きか、特殊な仕事でしか使われない。<br>　デビルド・バスターズのロゴマークが入った単輪車はしかし、闘大寺謹製の霊子エンジンを積んでいる。<br>　社内においては、社長くらいしか、霊子エンジンがどうやって常識外れの大出力を実現しているか理解していない。問題はないのだ。<br>　理屈は知らずとも、実際に使えて役に立つ。それで充分なのだった。<br>「五階、五階か。近道は」<br>　暗記してある地図を、頭の中で大きく広げ、<br>「こっちか」<br>　猫くらいしか使わないような狭い路地を、たまに壁に擦って火花を散らしながら、ゼンの跨った単輪車はひた走る。<br>　<br>　さて、五階層七階。<br>「フリッツー。ボリボリ様は品切れだってさ」<br>「あー。じゃあいいや。社長だし。代わりに、超凍結牛乳バーを買っていこう」<br>「知ってる。それ、下手にさわると皮膚が剥がれるから危険なんだよね」<br>「年齢制限つきだ。一八禁」<br>「エローい」<br>「お買い上げありがとうございます」<br>　買い物を終えたサキとフリッツが店を出る。二人は同時に、あるものを見て固まった。<br>「……」<br>「フリッツ。あれって」<br>「うん。小さいけど」<br>　一見、野良犬かと思った。人もそれなりに多い通りの隅っこに、その白い四本足は立っていた。<br>「違法建築だ」<br>　各階、各所に建造された五重塔から、般若心経が流れ始めた。<br>　大小種々の悪霊･怨霊を浄化する筈の、幾重にも重なる五百羅漢が発する重低音。小さな違法建築に、何の反応も無い。<br>　まるで本物の犬のような。<br>「あ。逃げる」<br>「追おう、フリッツ」<br>　サキが駆け出す。フリッツもその後を追った。止めたほうがいい気がしたが、既に動き出している。<br>　通りを走る白い犬、もとい違法建築。それを追う少女と少年。二輪のエンジン、かけっぱなしにしとけばよかった。フリッツは心底思った。<br>　三叉路を右へ。すぐに脇道へ。すぐに行き止まりだ。<br>「……誘い込み？」<br>「いや、て言うか」<br>　フリッツは一目見て、そこがどういう場所なのかを理解する。<br>「吹き溜まりだよ」<br>「つまり？」<br>「小さな体に、凄いエンジンと燃料積んでる感じ」<br>「逃げよう」<br>「逃げるさ」<br>　来た道を走る。それよりも早く、見た目は変わらない白い犬が迫る。<br>　吹き溜まり――浄化されそこねた低級霊がすし詰めになっていた場所に飛び込んだ鉄骨とセメントの塊は、そこにいた分の霊を取り込み、喰らって、大層元気になっていた。<br>　物理法則を捻じ曲げて鉄骨は柔軟かつ歪に捻じ曲がり、化学によって造られた素材は魔の法によって獣の筋肉に等しい性能を得る。<br>　通行人の悲鳴。サキとフリッツはそれよりも、自身の心臓の音のほうが大きい。いやちょっと待て、悲鳴？<br>　サキが振り返ると、中年男性に飛び掛っている白犬の姿。<br>「バイク取ってきて！」<br>「サキっ？」<br>「早く！」<br>　フリッツに怒鳴りながら、上着の裾を払う。わざわざ後ろに回して隠した、古めかしいホルスター。西部劇そのままの一品から、これまた年代物のシングルアクション・リボルバーを引き抜く。<br>　相手は人ではない。<br>　問答、無用。<br>　猛烈な硝煙を噴き上げて、四五口径弾が飛翔。着弾。二メートルある大男でも一発で薙ぎ倒す弾丸は、セメントの破片を飛び散らせ、僅かに違法建築をよろめかせるだけだった。<br>　もう一発。ぐらりと四本足の体が浮く。<br>　もう一発。殆ど零距離。撃ちながら、中年男性の襟首を引っつかみ、後ろ向きに放り投げる。<br>　驚くべきことに、左手一本で人一人を軽々と投げ飛ばしたサキは、すぐさま右手を腰だめの位置へ。三度の銃撃に、殆どダメージの無い違法建築に、更なる火力を叩き込む。<br>　初弾。跳ね上がる銃口を抑え、打ち下ろす左手小指で撃鉄を起こす。次弾。撃発と同時に、左手、親指で押し出した人差し指がハンマーコック。<br>　同じ場所に、間を置かず、また三度襲う約半インチの灼熱打撃。<br>　動きが止まる。サキの耳に軽い電子音。誰からかの通信。今は無視！　電子音より大きく聞こえる、背後からの叫び。<br>「サキ、そいつは？」<br>「轢いて、フリッツ！」<br>「おっしゃ」<br>　良いタイミングで二輪に跨り戻ってきたフリッツが、サキに応えて速度を上げる。<br>　小型の違法建築は初めての相手ではない。小さい奴らは、バラバラにしてしまえば大概、そのまま動かなくなる。<br>　そういうわけで、デビルド・バスターズが所有する車輌は全て、硬いものにぶつけて壊せるように改造されているのだ。<br>　控えめな破城鎚――曲がりなりにも破城鎚と言うべき二輪車が、まさに、白いセメント製の胴体部分を踏み拉こうと接触した、刹那。<br>「何？」<br>「はぇ？」<br>　ずごん、と音を立てて、違法建築を中心に、半径三メートルほどの地面が沈んだ。その衝撃で二輪の車体は浮き上がり、そして、<br>「嘘だろ、おいッ」<br>「お、おお、落ちる、落ちるっ！」<br>　円形に切り抜かれた格好で滑落する足場。<br>　フリッツはハンドルから手を離し、飛んだ。<br>　壁が出来ていた。それは、立方都市キュービーの五階層七階、その一角の道路面であり、その下を走る水道管や電送線、整備用通路等の地下施設であり、更にその下は、五階層六階の、空なのだ。<br>　急速上昇する壁面にぶつかって、大破する二輪。フリッツもサキも、最早それを気にしては居ない。<br>「ねえ、フリッツ」<br>「何」<br>「これって、もしかして、貫通してるのかしら？」<br>「多分ね。つまり多分、僕らは六階の空から落ちる。ロマンチックだね」<br>「な、何で！」<br>「原因は、生き残ってから考えよう」<br>　冷や汗を隠そうともせず、しかし飄々と言うフリッツの足元で、何故か、白い犬のような違法建築が、ぼろぼろ崩れて朽ちていた。
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<pubDate>Sat, 22 Mar 2008 23:53:41 +0900</pubDate>
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<title>その四。青二才ボーイズ。</title>
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<![CDATA[ <p>　モーターの静かな駆動音とは裏腹に、フリッツ愛用の小型二輪は、人間二人分の重さなど問題にしない登攀力を有する。<br>　二人乗りというおいしいシチュエーションながら、しかし少年の顔は赤らんでいないし、嬉しそうでもなく、普段どおりだった。<br>　なんといっても、二人乗りするならやはり腰に手を回すとか、肩をぎゅっとつかむとか、そういう甘酸っぱい感じのアクションがないと、こう、良くないのだ。そうフリッツは思う。<br>　荷台で、揺れも傾きもものともせずに仁王立ちするサキは、少なくとも青春いっぱい夢いっぱいな二人乗りドリームを実現するには傑物すぎる。<br>「ねー。どこまでいくの？」<br>「一つ上にいい店があるんだ。安い」<br>「へー」<br>　立方都市キュービーは、多重積層構造を持つ高層都市である。夕焼けや夜の星すら再現する、精巧な擬似空が広がる内部に、それを思わせる重圧は殆ど無い。<br>　最下層から第三層までの中枢および工業生産階層と、第四層から第七層の生活圏階層。最上階・第八層は、階層が丸ごと武装本山闘大寺と呼ばれる最高意思決定機関。<br>　一層は平均して、十階から成る。デビルド･バスターズが本部事務所を構えるのは第五層六階。適度なコンクリートとセメントと鉄筋、そして適度に再生された自然環境が同居する、生活圏階層の見本のようなところだ。<br>「フリッツ。あんたあたしをどう思う？」<br>　コケそうになった。時速三〇キロメートルでもコケたら一大事だ。<br>「な、何を？　いきなり何を訊くの？」<br>　後ろから、頭を踏まれる。つまり一本足で、走行中の二輪の荷台に立っているわけだが、全く不安定な素振りも見せない。<br>「さっきのよ。大丈夫だとか心配ないとか、あれどういう意味なのかなと思ってさ」<br>「そりゃあサキ。みんな紳士だから大丈夫なんだよ」<br>　天蓋付きベッドのあたりがオイルと黒色火薬のにおいでいっぱいだからだよ、とは言わないのが、フリッツの優しさだった。<br>「嘘ね？」<br>　見抜かれた。<br>「あたしは女っぽくない？」<br>「ああ……いや、そんなことないよサキ」<br>「なんで棒読み？」<br>「そりゃだって……なんでもないよ。棒読みじゃないよ」<br>　気のせいか、頭にかかる重みが増しているような嫌な感じ。<br>「あたしは陰口とか嫌いだけど」<br>　ぐいぐい踏まれる頭。ヘルメットがありがたくて仕方が無い。<br>「面と向かって言われるのも嫌い」<br>「つ、つまり？」<br>「気を使って」<br>「なんで」<br>「あたしは女の子だから」<br>「男女は平等だし」<br>「じゃあ、あたしはナイーヴな女の子だから。これでどう」<br>「わ、わかったよ。気をつける。ごめん」<br>　気難しい女の子だと思ったが、まぁ、傷ついたのなら謝罪せねばなるまいとフリッツは思った次第である。<br>　なにせフリッツは男で、サキは女なのだ。仕事になると頼りっぱなしな弱みもある。休日はやはり女の子として接さねばならぬ。<br>「む、難しい」<br>「何が」<br>「いや、独り言だよ」<br>　今はどこにいるのやら。父親の教えを反芻しながら、フリッツは息を吐いた。<br>　曰く、男は女を守って立てろ。<br>　格好良く守れる日はくるのだろうか。少年の悩みと少女の憤りを乗せて、自動二輪はひた走る。</p><br><p>「お客様、当店ではそのような物騒な荷物はちょっと」<br>　そういってナガマサは放り出された。<br>「ワシは酒買いに来ただけなんだがなぁ」<br>　言って、ぼりぼり頭を掻く。縦に押し潰したかのような矮躯。古いポンチョを纏って、自身よりも長い剣を佩く。<br>　有体に言って怪しいわけだが、ナガマサとしては譲れない。ポンチョは、昔、命を助けられた恩人からの贈り物であり、剣は武器であると同時にナガマサ自身でもある。<br>　昼夜を問わずアルコールを求める、万人が認めるアル中なのだが、酔っ払いではない。<br>　複雑な男であった。<br>「よー、汚いオッサン。カネくれよ」<br>　近寄る五人組。<br>　どこの町にもチンピラはいて、連中は弱そうなカモを見つけるのがうまい。ナガマサは確かにみすぼらしい、ぼろっちい格好をしている。<br>　チビで小汚い格好をしているからといって、自分より強いとは夢にも思わないのがそういう輩だ。<br>「おい、聞こえなかったの？」<br>　へらへら笑いながら蹴ってきた足を、がっしと掴んで、捻る。半回転して地面に叩きつけられたそいつは、泡を吹いて失神した。<br>「え？」<br>「は？」<br>「何？」<br>　残った四人と、目をそむけたり足元を見て通り過ぎようとしていたその他大勢が、思考停止した。<br>　その隙に、三人の意識を断つ。転ばせて脳を震盪させ、膝を打ってよろめかせてから顎を叩き、股間を掴んでひねって打った。<br>「あんまり、悪さばかりせずにな。鍛えるとか勉強するとか、したほうがええぞ」<br>　静かに諭す。最後の一人に聞こえているかどうかは怪しいところだ。<br>「しっかし、ゼンの奴は顔も知られてるのにな。ワシももうちょっと露出していくべきか。むぅ」<br>　何か独り言を言い始めたので、愚かにもチャーンスと目を輝かせてナイフを取り出すチンピラその五。<br>　ぴょいとナイフを取り上げられ、目の前で、ぐにっと曲げられた。<br>　早業である。ナガマサにとっては大した力も技も使ってはいない。<br>「刃物は、あぶない」<br>「うわ、わ、うわぁぁぁぁぁあああ」<br>　逃げていった。<br>「……ワシもまだまだ」<br>　こんな連中に狙われるとは。酒を控えて気を張っていれば解決するかもしれない。だが禁酒は駄目だ。<br>　何故駄目なのかといわれても困るが、駄目なのである。<br>　自制は難しく、護身は険しい。<br>　斬るだけならば童でもできる。己が師匠の一喝を思い出し、やれやれと肩をすくめ、もっと気さくで怪しげでうら寂れた酒屋を目指して、ナガマサは歩き出した。<br>　いかんいかん、と思いつつ、酒だけは止められそうにもなかった。<br>　お前は俺の、駄目なところの集大成だ。そう言って笑った師匠の声が、ふと頭を掠めて消えた。</p>
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<pubDate>Thu, 20 Mar 2008 00:11:35 +0900</pubDate>
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<title>その三。昼下がりの生卵</title>
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<![CDATA[ <p>　武装警察に連れて行かれるギンガ。</p><p>　それを、デビルド・バスターズ本部事務所の面々は、ぼうっとした顔で見つめていた。<br>　映像端末に映し出されているのは、紛れも無くあの陽気なアフロのナイスガイである。<br>　広い世の中にアフロ多しと言えども、奇抜極まる彼のファッションセンスについていける人間は存在しないのだ。<br>「あいつは何をやっているんだ」<br>「人助けだろう」<br>「所持許可は取ってるけど、発砲はマズくない？」<br>「そんなことは……いや。あいつの銃は普通じゃないもんなあ」<br>「どうしてアイスクリーム店なんかに居たのでしょうね」<br>「食いたかったからだろ」<br>「食べたかったからよね」<br>「食べたかったんじゃないかな」<br>「それ以外に考えられん」<br>「……そう、ですね」<br>　デビルド・バスターズの評判は、真っ二つに分かれている。<br>　一方が曰く、違法建築を的確に、そして迅速に解体するスペシャリストで、立方都市キュービーには必要な人々である。<br>　一方が曰く、その武装は、対違法建築の枠組みを外れた大規模なものであり、それを運用するのも少人数であるから、立方都市キュービーの秩序と平和を乱す要因たり得る。<br>　ギンガが行ったことは、間違いなく人助けである。<br>　人死にも無い。事件に居合わせた一般市民の大活躍、ということになる。<br>　だが、事は、轢かれそうな猫を助けたとか、高所から落下した子供を受け止めたとかいうレベルではない。<br>　武器を取って撃ち合った。それは市民の仕事ではないのだ。<br>　さらに、自衛のための武装がある程度は認められるとはいえ、ギンガの銃が「自衛のため」に携帯しているものかどうかについて、裁判は紛糾するだろう。<br>　要するに派手すぎる。<br>　罪に問われるか？　否。しかし、厳重注意は受けるかもしれない。<br>　司法――最高意思決定機関、武装本山闘大寺がそのように判断したとなると、デビルド・バスターズを快く思わない人々の槍玉に上げられるのは必定だ。<br>　そうでなくとも、この報道を見て、何人かは腐った生卵を投げつける用意をしているかもしれない。<br>「あっ。窓に腐った卵が」<br>「はやいな、おい」<br>　デビルド・バスターズは微妙なバランスの上で運営されている。<br>　故に、社員は皆そのことを心に留め、節度ある行動を求められる。<br>　ギンガとて節度が無いわけではない。<br>「奴のお調子者っぷりにも困ったもんだ」<br>　度外れているのである。<br>「これでまた、カミソリ・レターが来る」<br>「そんなのが来たの？　フリッツ。あたし知らなかった」<br>「うん。暫くペーパーナイフにしてたんだけど、縁起が悪いってナガマサが言うから捨てたんだ」<br>「そういう発想って貴重だと思うわ。近寄らないで」<br>「サキは酷いな」<br>　ナガマサの笑い声。<br>　昼の読経が、各階各地の五重塔から流れ出す。<br>「平和だな」<br>「これで給料が出るのかしら」<br>「スズメの涙だ。まぁ、このオフィスで食住は足るから問題ないな」<br>「うーん。一乙女として、疑問を抱きかけるわ」<br>　オフィス北側の壁に天蓋付きベッドを置くサキの、深刻な一言。<br>「お前は大丈夫だ」<br>　力強いフリッツの声。<br>「そうだ。お前は何も心配ない」<br>　にっと笑って頷くナガマサ。<br>「まったくだ。安心しろ」<br>　ゼンの重々しい同意。<br>　社長だけが何も言わなかった。最後の希望を抱いて彼の顔を見ると、すいません私もみんなと同意見なんですと顔に書いてあった。<br>　どこかで人生を誤ったのだと考えながら、サキは買ってきた弾を予備弾装に詰める作業に戻ったのだった。<br>　<br>　黙ってしまったサキと、筋トレに勤しむゼンを横目に、フリッツは雑誌に目を通しながら、ぼんやりスナックを噛む。<br>　ページをめくる。スナックを口に入れる。ページをめくる。口に入れる。めくる。<br>　暫くすると、袋が空っぽになった。<br>　相変わらずの二人。<br>　社長は意味も無く、紫檀の机に肘をついて厳しそうにしている。<br>　ナガマサは居なかった。いつのまにかどこかへ消えてしまう。それがナガマサという男だ。一度追ってみたいが、猫より難しそうだった。<br>「……仕事無ぇー」<br>　二ヶ月前までの地獄が嘘のようだった。<br>　溜まりにたまっていた報告等の書類仕事も、先日片付けている。<br>　デビルド・バスターズ。<br>　違法建築を解体するためだけに存在するこの組織。違法建築が出てこなければ、何もやることが無い。<br>　機材整備という名目で格納庫へ行こうかとも思ったが、警察の敷地を使わせてもらっている関係で、なんとなく行きづらい。<br>　階層が同じなのでギンガも署内に居るだろう。入るときは窓口に一言声をかける決まりだ。想像する。<br>「こんにちは。デビルド・バスターズのフリッツです」<br>「……ああ、格納庫？」<br>「はい」<br>「あんたら、いいよねぇ。バケモノが出てこなきゃ、仕事しないで金もらえるんだからねぇ」<br>「え、あの」<br>「挙句、町中ではっちゃけてみたりねぇ。いいご身分だよまったく」<br>　想像終了。<br>　被害妄想と言ったほうが近いが、フリッツは気付かない。おおおお、などと呻いて頭を抱えてしまった。秘かな自慢のプラチナ・ブロンドをかきむしる。<br>「ぎ、ギンガめッ。あいつのせいで僕は……僕は」<br>　概ね正しい怒りなのだが、なんとなく、どこかが変だ。フリッツは勿論気付かない。思い込みの激しい少年であった。<br>　さて、ではどうしようか。<br>　何もせず雑誌を読みながら昼寝。昨日やった。ゼンに道具を借りて筋トレ。暑苦しい。サキとおしゃべり。怒ってる。社長……どれも苦手だ。<br>　では、やっぱり外に行こうという気持ちになる。ふと、空のスナック袋を持ち上げた。<br>「社長、何か買ってきます」<br>「お、フリッツ君。お菓子かね」<br>「まぁ、そうです。何かリクエストは？」<br>「ボリボリ様のハバネロ味を」<br>「了解。ゼンと……サキは？」<br>「俺はいい」<br>「あたし暇だから一緒に行く」<br>　意外と、声に怒気は無かった。<br></p>
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<pubDate>Mon, 17 Mar 2008 00:49:43 +0900</pubDate>
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<title>その二。ホリデイアンド愉快なアフロ</title>
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<![CDATA[ <p>「お金がない」<br>「で？」<br>「今月はこれで我慢してくれ給え」<br>　ずしりとした声。威圧的な口ひげに隠れた優しげな顔。豪奢な紫檀の机に肘をついて、規定の金額の十分の一しか入っていない給料袋を差し出した『社長』。<br>「ざっけんなハゲ」<br>　容赦なく労働者の権利をその一言に込めて吐き出す小兵。普通の人間を、縦に押し潰したかのような矮躯。不釣合いに長い剣を腰に佩いた彼の顔は、苦虫を噛んだほうがマシだといわんばかりに歪められている。<br>「仕方がないだろう。今月は支出も多かったのだし」<br>「支出？」<br>「この机さ。どうだい、いいだろう。君の年収の三倍だ」<br>「よし。殺す。お前を殺してワシぁ逃げるぞ」<br>「はっはっは。熱烈なラヴ・コールじゃないか」<br>　矮躯が跳ねて、腰間がぎらりと閃く。ひょいと首を曲げ、抜き打ちを躱す。<br>「がぁッ、避けるな！」<br>　首を狙う。引いて躱す。顔を突く。右に躱す。<br>「はっはっは。甘い。甘いな」<br>「こ、こ、こ、この人間外生物め！　駆逐してやる！　駆逐してやるゥ！」</p><br><p>　昼前のオフィスの情景としては、修羅場しすぎている。<br>　オフィスといっても、がらんどうの部屋に机を七つ並べただけの空間だ。<br>　部屋の四隅には東西南北それぞれ、寝床とトレーニング器具、寝袋と青年向け雑誌、雑多な小火器、天蓋付きベッドが配置されており、人が暮らすにおいを放っている。<br>　ただ一つの扉を外から見ると、プレートには「ＤｅｂｕｌｉｄＢａｓｔｅｒＳ」と書かれており、つまりこのよく言えば家庭的な、悪く言うなら小汚い十×十五米の長方形をした部屋が、知る人ぞ知る違法建築解体業者、デビルド・バスターズの本部事務所なのだ。<br>「あっ。また社長がナガマサをいじめて遊んでる。ゼン、ゼーン。早く止めないとまた部屋が傷だらけになるよ」<br>「何ィ、またかよ」<br>　髪の長い小柄な女が入ってきて、次に、両手一杯に荷物を抱えた大男がやってきた。<br>「お前ら、もう良いトシだろうが。ちょっと落ち着けよ。ほら。ココアを飲めよ」</p><p>　手際よくココアをいれる。</p><p>　その粉末ココアは、ビタミンとプロテインが増強されているものだった。<br>「ワシは甘いもの嫌いだ」<br>「私のココアはもっとよく練ってくれ給え」<br>「黙れ手前ら」<br>　剣を振り回す小兵と、それをおちょくる口ひげを視線で射竦め、マグカップを置く。<br>　粛々とココアを口に運ぶ二人。<br>　原因を問い詰めてから、社長を無言で縊る大男。<br>「よし。解決」<br>「こいつをばらばらにして下水に流そう」<br>「よして下さい。そんな酷いことをするなんて私が何をしたっていうんです」<br>「もう復活した。最近調子がいいな」<br>　大男と小兵が顔を見合わせ、溜息。<br>　目の前の人間、あるいは人間ではないもの。デビルド・バスターズの『社長』であり『指揮官』であり『お荷物』の多重人格者。<br>　それぞれが各々の名を持つため、社員からの呼称は「社長」で統一。人格切り替えスイッチは、肉体の死亡。死と復活を繰り返す、命に対する大いなる冒涜。<br>「……聖人だって紹介されたのにな」<br>「ワシもだ。まあ、生き返るが、よく考えると聖人だって人なんだから生き返ったらおかしいよな」<br>「そこんとこ、シューキョーの不思議だよね」<br>　頷きあう二人。<br>　大男の名は、ゼン。デビルド・バスターズの社員であり実働部隊隊長――部隊は社員全員なので、実質的なリーダー。好きなものは肉と子供。趣味は筋トレと公園めぐり。<br>　小兵のほうは、ナガマサという移民。同じく社員で、剣士。根っからの風来坊。どこで暮らしているのかも不明。必要なときにそこに居るので、誰も文句はつけない。<br>「ねー、ナガマサ。他の連中は？」<br>「ワシが来たときは社長の野郎しか居なかった」<br>「そう。じゃあ社長は知ってる？」<br>「ちょっと待ってください、今思い出しますから……ああ。フリッツは映画です。ギンガは山へ籠もると」<br>「……山？」<br>「何かのスラングでしょう。気にしないほうが良い」<br>　むうと頷きつつ唸りながら、買ってきたものを床に並べて整理をつけようと孤軍奮闘する女は、サキ。真っ白い肌と眼鏡が特徴的な美少女。勿論、社員。<br>「何を買ってきたんだ、サキ」<br>「ナガマサには縁の無いものねー」<br>「弾薬。確かに縁が無いが、お前さんくらいの年頃の女の子にも、普通は縁が無いな」<br>「そうでもないよ。今時女の子だって五十口径くらい持つよ」<br>「あー。それは無いな」<br>　眼鏡少女、サキは銃士である。<br>　立方都市キュービーでは、剣士と同じくらい珍しい。<br>　銃も剣も、不健全極まりないことに巷には溢れているが、これをで生計をたてる者となれば、十指で足りるかも知れないのだ。<br>「でも、そっかー。フリッツは映画かー。デートかなぁー。振られればいいのに」<br>「サキは酷いな」<br>　からからと笑うナガマサ。彼の肩越しに見ると、さっそくゼンは新発売のプロテインを摂取している。<br>「ねー、ゼンゼン。それ何味？」<br>「ゼンゼン言うな。これはチョコバナナ・プラス・ツナフレーク・フレーバーだ」<br>「聞いただけで吐気がしますね」<br>「美味い」<br>「マジか」<br>　混ぜるな危険の文字は無いのだろうか。<br>　無い。<br>「しっかし、魔法注意報が出てないと本当ーにダレるな。この会社」<br>「そもそも会社という組織名で合ってるのかもわからねえ」<br>「ていうか、あたしやナガマサを雇ってる時点で堅気っぽくないわ」<br>「皆さん、一応私、社長なんですが、そういうの目の前で言われると傷つきますよ？」<br>「ただいまー。うっわ何この超すごい湿り気」<br>　フリッツの帰還。<br>　ハリネズミのように逆立ったアッシュ・ブロンドは、別に何かで立てているわけではなく生来のもの。普通の若者の皮を被った変人。好きなものは空を飛ぶ機械全般。<br>「おお、フリッツ。デートだったんだろう」<br>「違うよ。どこの女が好き好んで〈メン・イン・シャイニング～失われし大いなる二十八年後～〉なんて観たがるんだよ」<br>「あ。あたし観たいそれ」<br>「サキは例外として」<br>「酷ッ」<br>「お前ら趣味は似通ってるじゃねぇか」<br>「でも僕はこんな脳の代わりに炸薬と劇物が詰まったＡ級危険物女は怖いよ」<br>　銃声。<br>「お前が悪いな。フリッツ」<br>「そうだ。全面的にお前が悪い」<br>「ものすごい脳震盪だったよ。かすっただけで。すごいね。銃って」<br>　デビルド・バスターズの休日である。本当は休日なんて無いのだが、二ヶ月ほど前に不眠不休で働いた結果、現在、キュービー市内で違法建築が暴れだすような事態に至っていない。<br>　そんなわけで、彼らはのんべんだらりと金の少ない節約生活を、それなりに楽しんで送っているのだった。</p><br><p>　そしてここにも一人。<br>「イェア」<br>　道の真ん中でガンスピン。<br>　決まった。<br>　クラクションを鳴らして走り去る車、バス、タクシー、車、車。<br>「ノリが悪いなー」<br>　すたすた歩いて歩道へ戻る。<br>　急ブレーキをかけた車を先頭に玉突き事故発生。まったく意に介さず。<br>「皆、車なんて使うから消費電力が減らないんだ。もっと歩こうぜ。ヘイ」<br>　ヘイ、だけ、たまたま隣を歩いていた老婆に向けて。<br>「あたしゃカミサマだよ」<br>「そうだな。その通りだ。オーマイゴッド。世の中は無駄な消費と排ガスに溢れています」<br>　天を仰ぐ。視線を戻すと、カミサマこと老婆はどこかへ行っていた。<br>「すげェ。消えた」<br>　テンションが上がってきたのか、ガンベルトから一閃。合計六挺のオートマチック・ピストルをジャグリング。<br>　右、左、上、下、回す。縦、横、斜め。前、後。跳ね上げる。両手を広げる。太腿、左右の腰、腰の後ろに装着したホルスターに全てを同時に収納。<br>　いつの間にか出来ていた人だかりから拍手喝采、何枚かのコインが放られる。<br>「何てこった。知らないうちに金を稼いでいたぜ」<br>　全て地面に落ちる前にキャッチし、手の中で弄ぶ。<br>「そうだ。こいつでアイスクリームでも買っていってやろう」<br>　にっと微笑む。<br>　彼の名はギンガ。紙一重で頭のおかしいファッションに身を包んだ、アフロのナイスガイ。ナイスガイが自称ではないあたりが素晴らしい。今日は真っ赤に染めたギンギツネのマフラーと、黒光り加工でぎらぎら光るレッドドラゴンの革のジャケットだった。<br>　そして、彼もまた、デビルド・バスターズの社員である。<br>　その足は真っ直ぐアイスクリーム専門店へと向いている。アイスクリームは好きだ。いくらでも食える。金が無いからいくらでもは無理だ。<br>　財布さえパンパンなら！<br>「そうだ、俺はこの世のアイスと言うアイスを食い尽くしてやる」<br>　口にしてみると出来そうな気分がむくむく沸いてきた。財布を膨らませるアイデアは出てこない。<br>「ん？」<br>　今日も大繁盛のアイスクリーム専門店、サーティーン階段の店先には、常とは違う雰囲気がぷんぷん漂っていた。<br>「何だ、何があったんだ？」<br>　手近な人を捕まえて聞く。見事なアフロとすごい服装に目をしばたたかせながら、その人はこう言った。<br>「強盗だよ。アイスクリーム屋に」</p><br><p>　強盗たちは、いきなり窓ガラスをブチ破って現れたアフロの黒人に、眉を跳ね上げた。<br>　着ているものが凄いと思った。まともなら、すごい殺し屋でもやってきたかと思えるような、そうでもないような、なんとも微妙な具合が凄いと思った。全員一致でそう思ったのだから間違いなかろう。<br>「お前達」<br>　主に服装が凄いアフロが、大きな声を出す。<br>「アイスクリームがそんなに食いたいのか」<br>「違うわアホたれ。繁盛してる、警備が甘い、店員が弱い。だから襲ったのさ」<br>「えっ」<br>　本気で毒気を抜かれた声を出すのは、勿論、ギンガだ。<br>「何だよ」<br>「あ、アイスクリーム屋にアイスクリーム以外の目的で来るとは、只者じゃないな」<br>「ああそうだよ強盗だよ悪党だよ悪者だよもうお前黙れこの馬鹿野郎」<br>　もともとピリピリと緊張していた強盗たちは、一斉に銃口を向けた。粗雑な密造品だが、殺傷能力が無い筈がない。<br>　それでも、ギンガはふっと口元に笑みを浮かべた。<br>　そして、目にも止まらぬ速さで、太腿と腰にぶら下げた六挺のピストルを一斉に抜き放つ！<br>「な、」<br>「何ィィっ！」<br>　強盗たちの狼狽に、六つ重なる六つの銃声。<br>　三十六発もの小口径高速弾は、正確無比に、強盗たちの手足と武器を貫いたりはしなかった。<br>「……お前、アイスに恨みでもあるのか」<br>「いや。アイスは大好きさ。でも俺、ノーコンなんだ。拳銃」<br>　ずたずたになったウィンドーの中で、銃弾の熱にどろどろ溶けていくアイスクリームを悲しげな目で見やりながら、ギンガが呟く。<br>　爆笑が起こった。<br>「とんだヒーローだな！」<br>「何しに来たんだお前！」<br>「抜くのだけが取り得ですってか、ひゃひゃひゃ！」<br>　ピストルをホルスターに収め、ギンガ。<br>「後ろに飛ばなかっただけ、マシになってるんだよ。本当だ」<br>　火に油を注いで、爆発させた。<br>　どうも、余程強烈に、強盗達のツボを突いたらしい。<br>　笑いまくる強盗に、やれやれと頭を振りながら、<br>「やっぱり拳銃は、いくら習っても軽すぎて駄目だ。これじゃないと」<br>　革ジャケットの背中から、何かを取り出した。<br>　一枚板のように見えた。長く引き伸ばした、黒い鉄板のようだった。その片方の端には穴が開いており、もう片方には、バイクのそれじみたグリップがあった。<br>　ギンガは、鉄板の真ん中辺りを左手で支え持ち、右手でグリップを握った。グリップのすぐ傍には、幾つかのプラグが伸びており、そのうち二つがケーブルと接続され、彼の背中の何かに繋がっている。<br>　まさしく、拳銃などとは比較にもならない超重量の、それは銃だった。<br>　背負ったバッテリーが静かに唸り、そっと引かれたトリガーは、手ごたえも、クリック音も、雲かと思うばかりに軽かった。<br>　グリップ前方に内蔵された超加速加圧装置がほんの数ミリだけ押し出され、そこへ砂粒のような弾体が装填されると、殆ど同時に加速が始まり、超力場によってコーティングされる。<br>　銃身内にせり出した物質弾頭用のライフリングに沿って回転しながら、四十八個の電磁加速リングを通過した弾体は、火薬を使う銃の銃声とは程とおい、怪鳥が啼きさけぶ様な音を上げて空気を切り裂いた。<br>　強盗の持った銃に着弾すると、コーティングされた力場が展開し、万有引力を無視して全方位から対象物を加圧、歪曲する。<br>　そうやって、何度かの絶叫じみた銃声ののち、利き手を銃とぐちゃぐちゃに捏ね回されてのたうつ強盗と、呆然とする店員。そして、白い歯を見せ、得物を担いで親指を立てる、ギンガの姿が店内にはあった。<br></p>
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<pubDate>Sun, 16 Mar 2008 03:02:48 +0900</pubDate>
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<title>早速その一。その名はデビルド・バスターズ</title>
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<![CDATA[ <p>　魔法とは『魔』の『法』である。それは尋常の理にあらざる外道。故に、尋常に生きるものたちに害を為すことこそあれ、益なることなど何もない。</p><br><p>　だがしかし世の中は綺麗事だけでは回らないのだ。<br>　純粋なハートを持つ子供達には絶対に見せられない大人な部分が必ずあるのだ。<br>　例えばそれは、魔法を禁じていながら、例外と称して動力源に魔導炉心を使っていたりする都市システムだ。<br>　人工百万を超える巨大都市に、前時代的な発電装置は需要を満たすことが出来ないのだ。<br>　そこのところが分かっているから、誰も、何も言わない。魔導炉心が唸りをあげる、立方都市キュービーが孕む大きな闇の一つは、そんなわけで、百年ほどまるっきり黙認されていた。</p><p>　</p><p>　魔法とは『魔』の『法』である。『魔』は侵すもの、冒すもの、犯すものを言う。ならば、それによって生きる巨大な都市システムはどうなるのだろう？</p><p>　</p><p>　魔導炉心という魔法は無為無策に百年間、その内に極彩色の火を灯し続けた。<br>　その結果として、結界を冒涜し決壊せしめた『魔』の『法』は、人の住む尋常なる世間へ、じくじくと膿の如く侵入した。<br>　そこらじゅうに『魔』は溢れた。とはいえ、人の心に棲みついたものの排除は、比較的簡単だった。<br>　立方都市キュービーのそこかしこに建造された五重塔から、般若心経を詠みあげる五百羅漢が、その任にあたった。<br>　彼らの声は、住人の認識にとりついた『魔』を、容易く調伏することができた。人は元々、『魔』とは相容れぬようにできているのだ。<br>　問題になるのは、人以外にとりついた『魔』である。<br>　厄介なことに、人の認識からはじき出されても尚、正しき法に帰依せぬ穏なるものどもは、今度は人ではなく、人とともに在り、人を収めて佇立するものを依代とした。<br>　即ち、鉄筋とセメントとコンクリートと木材でできた建築物の、魔物化である。<br>　最初の建築物魔物化で、対人・対機甲・対鬼戦闘の超熟練たる羅漢二百人が、一撃にして粉砕された。<br>　さらに悪いことには、最初に魔物化した建築物は、住人の生活を支える送波塔のうちの一基であった。<br>　巨大なコンクリートの怪物を、対都市火器すら投入して撃破してから、立方都市キュービーの意思決定機関は、一つの解を導き出した。</p><p>　</p><p>　魔法とは『魔』の『法』である。『魔』は人とは相容れぬものであり、故に人こそが『魔』に対する最も有力な対抗手段たり得る。</p><br><p>　それは、『魔』に対する、住人自身による自衛を奨励するという宣言だった。<br>　キュービー市民は皆武装し、建築物を侵食する『魔』を片っ端から摘み取るのだ。やってみるとこれは実に有効で、ほんの小さな柱や壁を壊すだけで事は足りた。<br>　なら万々歳ではないかということになりそうなものだが、そうでもない。<br>　人は『魔』と相容れないだけで、基本的に怠け者の愚か者である。<br>「こんなもんで済むなら、大したことないじゃないか」<br>　侮り。倦み。怠け。<br>　そうした要素が、『魔』の排除を滞らせた。意思決定機関――武装本山闘大寺は警告したが、耳を貸したのは少数だった。<br>　結局、最初の災禍を遥かに上回る大惨事となった。<br>　一言で済ませなければ、語るも聞くも嫌になってしまうような事態だった。<br>　そこで本山は、ある男に一つのことを要請した。<br>「人は俗なものである。故に倦み、故に怠ける。そこで、俗な人という生き物を動かすために最も必要で、最も効果のあるものを出すので、人材を集めてもらいたい」<br>「なるほど、私も俗な者ですけれど」<br>「一生、食と娯楽に困らないよう計らう」<br>「ええ、ようございますとも」<br>　そんなわけで、『魔』の駆除、即ち、時に命の危険すらともなう、魔物化した建築物を専門に取り壊す集団が現れた。<br>　口八丁手八丁で集められた男女、合わせて五名。<br>　彼らこそ、魔によって法を違えた違法建築専門の解体業者。<br>　彼らこそ人呼んで、デビルド・バスターズ。<br></p>
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<link>https://ameblo.jp/obun-renji33/entry-10080274393.html</link>
<pubDate>Sun, 16 Mar 2008 01:50:51 +0900</pubDate>
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