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<title>小田井歴史研究所別館</title>
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<description>小説を書いていきます。小田井の歴史とは何ら関係ありませんので、ご了承ください。また、大変な遅筆であり、思いつきで書いていくので、完結するのかどうか、不明です。</description>
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<title>暗中飛躍　4</title>
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<![CDATA[ 大蔵の屋敷は、駿府城下のはずれにあった。<br>本領は、駿河国安部郡にある。常時、駿府屋敷に住んでいて、本領は「ご隠居様」とよばれる、<br>安倍信真が取り仕切っていた。<br>大蔵は、淨慶に向かって、<br>「お前に引き合わせたい男がいてな」<br>そういうと、奥へ下がった。<br>大蔵に仕える小姓が白湯を運んでくる。<br>その白湯を飲んで、しばし待っていると、大蔵が数人の男を連れてきた。<br>その中の一人は、淨慶の良く知る男だった。<br>「七之助ではないか」<br>淨慶が寺を破門になるきっかけになった少年だ。<br>淨慶は気にしていなかったが、七之助はそうは行かなかったようだ。<br>「淨慶兄、すまなかった。俺のせいで…」<br>と言い、泣きながら抱きついてきた。<br>「立派になったな、七之助」<br>成長した七之助を見て、うれしさに笑顔がこぼれる。<br>「今は俺の屋敷の小者として働いてもらっている」<br>大蔵が言う。なんでも、小姓として取り立てると言うのを断って、小者として仕えているようだった。<br>「そして、この子が、三河の土豪の倅、本多鍋之助だ」<br>まだ幼い少年がお辞儀をした。後の本多平八郎忠勝だ。<br>今はまだ、11歳の少年でしかない。<br>「本多鍋之助にございます」<br>と、挨拶した。<br>「拙僧は淨慶。大蔵殿の弟分と言ったところかな」<br>淨慶は、そういうと、大蔵を見て笑った。<br>「この子の叔父が本多肥後守忠真という松平に仕える男じゃ」<br>本多忠真は、三河欠城城主で、鍋之助の母を保護していた。<br>鍋之助の養育係を自任し、厳しく育てられていた。<br>今は、忠真に言われて、駿府へ一人旅に来ている途中であった。<br>「なるほど、肥後守殿の甥御殿か。肥後殿は、息災か？」<br>「叔父上をご存知か？」<br>「もちろん。拙僧も欠城へは出入りしたことがある」<br>淨慶は、三河の監視目的で出入りしていたのだが、そんな事はおくびにも出さない。<br>「肥後殿には世話になっておってな」<br>それは事実だった。<br>松平の内情を具に報じてくれるのは、忠真の仕事だった。<br>元康の親今川政策に反感を抱いている一人だ。<br>今川より織田に将来性を感じている様子は、淨慶も摑んでいた。<br>「この子をお前の大事の際に連れて行ってもらおうと思ってな。本人も、それを望んでおる」<br>大蔵の言葉に、鍋之助はうなずいていた。<br>「構わんが。茨の道だぞ」<br>「望むところです」<br>淨慶の言葉に鍋之助は、頷いて言った。<br>「そうか。大蔵よ。先日、知らせた話。どうだ？」<br>「話したいのは、その事よ。俺も今川様の禄を食む人間だ。<br>その俺に伝えたからには、本気なのだろう？」<br>大蔵は、淨慶を見据えて、いった。<br><br><br><br><br><br>
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<pubDate>Sat, 16 Jul 2011 15:45:11 +0900</pubDate>
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<title>暗中飛躍　3</title>
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<![CDATA[ 淨慶は、駿府の町をふらついていた。<br>このまちは活気にあふれていて、さまざまな人が出入りしていた。<br>その中では、淨慶のような法体の者もいた。<br>街の中に、見知った顔を見つけた。<br>その男、安倍川の大蔵は、淨慶の兄貴分で、何かと面倒を見てくれていた。<br>もう数年も会っていないのだが、<br>「淨慶！淨慶じゃないか！」<br>大蔵は、淨慶を見つけると駆け寄ってきた。<br>その大柄な体は見る者を圧倒するが、その眼差しは、人を安心させるものだった。<br>「大蔵。久しいな」<br>「立派な僧侶か。淨慶は、頭が良いからな」<br>大蔵は、淨慶が何をしているのか知らなかった。<br>ただ淨慶は、大蔵が何をしているのかを知っていた。<br>「俺は、今川様に仕えているのよ。まだまだ末席だがな」<br>「安倍大蔵尉元真。立派な名じゃないか」<br>淨慶が言うと、<br>「なんだ、知っていたのか？」<br>「ああ。俺も今川様の御家中には知り合いが多くてね」<br>淨慶が義元の諜報を担っている事は、一部の重臣を除いて内密になっていた。<br>兄貴分とはいえ、大蔵にも黙っていなければならなかった。<br>「淨慶。今、時間はあるか？」<br>「どうした？」<br>声を潜めた大蔵に合わせて、淨慶も声を潜める。<br>「聞きたいことがある。俺の仲間も一緒だ」<br>大蔵の言葉に、淨慶はうなずいた。<br>「仲間とは？」<br>「会ってからのお楽しみだ。お前の知っている顔もいる」<br>大蔵は笑って言った。<br>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10954336295.html</link>
<pubDate>Fri, 15 Jul 2011 16:00:27 +0900</pubDate>
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<title>暗中飛躍　2</title>
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<![CDATA[ 淨慶が去った後、親永は瀬名を呼んだ。<br>瀬名は、竹千代を生んだばかりだが、<br>元気に歩き回っている様子だった。<br>「お呼びですか？」<br>瀬名が言う。<br>「昔から活発なのは良いが、お前も松平の奥方なのだ。少しは落ち着いたらどうだ？」<br>「父上様、そんな事を言うために呼んだのですか？」<br>瀬名は首をかしげる。<br>いつまでたっても少女のような瀬名だった。<br>これでも松平元康より年長なのだ。<br>「蔵人佐殿が屋敷に来たら、会わせようと思う」<br>「淨慶が事ですね」<br>「ああ。ただ、蔵人殿が淨慶の話を飲むとは思えぬがな」<br>「蔵人様は、お屋形様への思慕の情が強すぎます」<br>瀬名は困った顔をして言った。<br>お屋形様とは、今川義元のことだ。<br>元康の義元に対する尊敬の念の抱き方は、<br>瀬名に嫉妬心を抱かせるほどのものだった。<br>「淨慶は、もう帰ったのですか？」<br>「ああ。瀬名に、よろしくと言うておったわ」<br>親永が言う。<br>瀬名は無邪気に淨慶と付き合っていたが、<br>はたから見ると、淨慶という怪しい男と密通しているのではないか、<br>との疑いを持たれるように仲が良かった。<br>本人にその気は無くとも、義元の養女として元康に嫁いでいる以上、<br>そういう疑いがもたれることを親永は、恐れていた。<br>「まもなく蔵人佐殿が駿府に来る。そうなったら、淨慶と会うのは控えよ」<br>「父上様、瀬名がお二人の橋渡し役を勤めましょう」<br>親永の不安をよそに瀬名は言った。<br>瀬名にとって義元や今川氏よりも、元康の命が大事だった。<br>元康の命が助かるのであれば、今川を裏切っても良いと思っていた。<br>だが、元康の考えは、自分とは違うと思っていた。<br>だからこそ、自分が間に立とうと言うのだ。<br>瀬名の決意は固い。<br>それは、普段から淨慶によって作られた考え方であろうか、<br>と親永は思った。<br>だが、そんな親永の考えを瀬名は否定した。<br>「父上様は、瀬名が淨慶に影響されて織田に味方せよ、<br>と蔵人様を説得させようとしていると、お考えでしょう」<br>親永は、うなずいた。瀬名は、勘の鋭い女性であった。<br>「瀬名は、淨慶の話を鵜呑みにして、蔵人様の説得に当たるような単純な女ではありません」<br>と、言い切った。<br>「今川家家老の娘で、お屋形様の養女ですよ」<br>瀬名はそういうと、笑った。<br>「ご安心ください。淨慶に不審な動きがあったときは、葛葉がいますから」<br>瀬名の言葉に、親永はうなずくしかなかった。<br>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10951459930.html</link>
<pubDate>Tue, 12 Jul 2011 18:50:25 +0900</pubDate>
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<title>父と娘　2</title>
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<![CDATA[ <p>「それゆえに、清須家を見限り、上総介殿にお味方することにしたのじゃ」<br>源蔵が言う。柏木は、<br>「賢明なご判断にございます。三位は、うつけに付くなんぞ愚の骨頂と罵っておりましたが」<br>と、答えた。<br>と、そこへ、<br>「源蔵、ご苦労であったな」<br>と、声をかけて来る者がいた。<br>「殿」<br>と、源蔵が言う。<br>この男こそ、織田太郎左衛門尉寛廉であった。<br>この年、25歳。小田井城主をついで2年経っていた。<br>「柏木、更早。良く参った。ついてきなさい」<br>寛廉は、言ってからゆっくり歩き出した。</p><p>「二人には申し訳ないが」</p><p>と、寛廉が話し始めた。</p><p>柏木は、警戒心をあらわにし、身構えた。</p><p>自分の後ろに更早を隠した。</p><p>何としても更早だけは守ろうとしていた。</p><p>「柏木。警戒しなくていい。約束はちゃんと守る」</p><p>柏木の様子を見て、寛廉は苦笑しながら言った。<br>「申し訳ないというのは、戦う相手に父親である、織田三位がいる事じゃ」</p><p>「もはや父親ではありません」</p><p>柏木が答える。</p><p>「更早はどうじゃ？」</p><p>寛廉は、更早の顔をみた。更早は、目があった途端に目をそむけた。</p><p>「私は、姉上に任せております。私の願いは、織田三位からの解放」</p><p>更早は答えた。</p><p>「分かった。その願いは、私たちが叶えてやろう。だが、三位は死んでしまうかもしれん」</p><p>寛廉が更早を見た。それでも良いのか、とその瞳が語っていた。</p><p>更早は、その瞳を見返し、うなずいた。</p><p><br></p>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10950347606.html</link>
<pubDate>Mon, 11 Jul 2011 16:10:39 +0900</pubDate>
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<title>暗中飛躍　1</title>
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<![CDATA[ 人買いによって売られた淨慶は、駿河の願人を勤める酒井淨光坊に引き取られた。<br>淨光坊のもとには、淨賢坊と言う兄弟子がいた。<br>淨光坊の子で、淨慶の十八年長であった。<br>淨光坊は、願人として尾張から駿河、相模から上野へと回っていた。<br>今川氏の密偵としての役割もある。諸国の情勢を見て、報告していた。<br>淨慶は、淨賢坊について諸国を回っていた。<br>主に駿河から尾張にかけて回るように命じられていた。<br><br>尾張の織田備後守信秀。嫡男の三郎信長。信長の悪仲間の又六郎寛廉。<br><br>三河の松平広忠。家老の阿部大蔵定吉、酒井将監忠尚。<br><br>回っていて気になったのは、三河松平氏の内訌だった。織田派と今川派に分かれているようだった。<br>淨慶は、一人で回るようになってから、尾張織田氏と三河松平氏を丹念に調べるようになった。<br>15歳になった淨慶は、密かに今川氏の重臣、関口刑部少輔親永に接近を図った。<br>彼の娘が松平元康の室であったからだ。<br>もちろん、今川家の重臣である親永は、淨慶の正体を知る一人だが、<br>こうして二人で相対するのは珍しかった。<br>「刑部様、前から話していた件についてですが、良き返事はお聞かせいただけるのでしょうか？」<br>淨慶は言う。<br>「淨慶。そう急くでない。三郎とて今ようやく尾張を統一できたにすぎぬではないか」<br>「早くに決断をしておいた方が、後々のためにございます。それと」<br>と、淨慶は言葉を切る。親永は、<br>「何じゃ？」<br>と、先を促した。<br>「三河の松平蔵人佐様との会談の件は、如何なりましょうか？」<br>淨慶は、親永の娘婿である元康との会談を申し込んでいた。<br>手筈は、親永がとる事になっていたのである。<br>「それは、次の蔵人佐の駿府入りのときじゃ。来月になろうの」<br>「来月にございまするか。分かり申した。奥方様のご様子は如何でございますか？」<br>「うむ。産後の肥立ちも良く、まもなく屋敷へ戻ることになろう」<br>瀬名姫は、3月に子を産んでいた。名を竹千代と言う。今は、関口屋敷にて療養していた。<br>「それはおめでたい事にございます」<br>「うむ。瀬名は、おぬしの話を聞くのが楽しみのようだが、蔵人佐の手前、自重するようにな」<br>「分かっております。姫は、蔵人佐様の奥方様にございますれば」<br>瀬名は、いろいろな事を知っている淨慶の話しを聞くことが楽しみだった。<br>夫の元康が岡崎にいて、駿府の松平屋敷には、瀬名と数名の侍女、<br>元康の傅役だった久島土佐守が住むだけであった。<br>「では、蔵人佐様に会う日にまた参ります」<br>そういうと、淨慶は出て行った。<br>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10948082054.html</link>
<pubDate>Sat, 09 Jul 2011 11:46:45 +0900</pubDate>
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<title>哀毀骨立　６</title>
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<![CDATA[ 天野賢景は、佐久間全孝を討てなかった。<br>だが、無事に帰りついた賢景を、元康は責めなかった。<br>誰がやっても難しい任務なのは間違えない。<br>それは、元康をはじめ正豊・氏明も同じ考えだった。<br>「孫七郎、良くやってくれた。弥七郎、あれを」<br>元康に言われて弥七郎は、褒美を持ってきた。<br>「五十貫文与える。これからも私のために働いてくれ」<br>元康から褒美を受けた賢景は、恭しく受け取った。<br>「弥七郎も新六郎もわが片腕として働いてくれる。これからも孫七郎には働いてもらわねばな」<br>元康は笑った。<br><br>佐久間全孝は、賢景の負わせた傷がもとで死んだ。<br>それを知った忠尚は、兵を動かして広瀬城に残る佐久間の残兵を追い出すことにした。<br>このとき、佐久間信盛は、尾張山崎城にいて兵を出すのが遅れた。<br>兵数で勝る信盛だが、兵を先に動かした忠尚に分があった。<br>もともと戦が得意ではない信盛の虚を衝くために伏兵を用意しておいたのだ。<br>「伏兵かっ。退け！」<br>信盛は、兵を犠牲にしたくは無いと、すぐに退く事になった。<br>それを見た城兵は、忠尚に降伏した。<br>そして、兵を返してすぐさま佐崎の松平忠倫を討った。<br>忠倫からすれば、忠尚の裏切りであり、<br>まったく考えもつかないことだった。<br>「将監め、俺を討とうというのか」<br>忠倫は悔しがったが、既に手遅れである。<br>「くそ。蔵人佐を上手く動かしおって。大叔父である俺を攻めようとは」<br>そうしている間にも忠尚が上和田城を取り囲む。<br>既に本貫である佐々木城も囲まれており、どちらも劣勢だった。<br>忠倫は、悔しがるだけで何の手も打てなかった。<br>ただ敵兵の流入を許してしまった。<br>忠尚が降伏をを呼びかけていた事も不利に働いてしまった。<br>手を打たない主君では駄目だと、続々と兵が投降していった。<br>無抵抗であった忠倫は、忠尚軍の兵に討たれてしまった。<br>もはや諦めていたのだ。<br>生き残る事を諦めた忠倫は、また自分で死を選ぶ事もできなかった。<br>「佐崎三左衛門、討ち取った！！」<br>酒井軍に勝鬨が広がる。<br>忠尚は、これで一応の目的は達成できたと、ほくそえむのだった。<br>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10947322503.html</link>
<pubDate>Fri, 08 Jul 2011 17:32:31 +0900</pubDate>
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<title>父と娘　1</title>
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<![CDATA[ 清須城下にある織田三位の屋敷。<br>織田彦五郎の家老である大膳に次いで大きな屋敷である。<br>そこに三位は、娘と三人で暮らしていた。<br>侍女も置かない、変わった父であった。<br>「柏木、更早。わしはお城へ行く。おとなしくしておれ」<br>三位は言う。<br>娘たちに厳しく忍の術を伝授していたが、<br>私生活においては全く自由を与えず、<br>屋敷内においてさえ行動を制限していた。<br>「更早。大丈夫だから。私がなんとかしてあげるから」<br>と、姉の柏木は言う。無言でうなずき返すと、柏木は満足そうに笑った。<br>だが、更早には分かっていたのだ。<br>姉の力では、どうにもならないことは。<br>無理と分かっていても、期待せずにはいられなかった。<br>姉妹にとって父は、憎むべき敵でしかなかった。<br><br>「柏木、更早。お前たちに仕事だ。至急、この書を持って今川治部大輔様の下へ行け」<br>三位が帰ってくるなり、言った。<br>今、三位が率いる忍軍は、小田井城主の織田太郎左衛門寛廉の調略にあい殆ど人がいなくなっていた。<br>「決して逃げようとは思うな」<br>三位は言った。三位は、実の娘とて信用はしていなかった。<br>「お任せください」<br>柏木は答えた。<br>柏木は、屋敷を出ると、まっすぐに坂井戸城に向かった。<br>更早には、柏木がどこへ行くのか伝えられていない。<br>ただ、今川へは向かっていないのは分かる。黙って姉について行くのみだ。<br>坂井戸城は、寛廉の支城で、今は家老の渡辺摂津守が城代を務めていた。<br>本来は、兄の藤左衛門寛維が小田井城を継ぎ、弟である寛廉が坂井戸城主として寛維を支える予定であった。<br>だが、寛維が大垣城の戦いで討死してしまい、急遽寛廉が小田井城主となる事が決まったのだ。<br>柏木更早姉妹は、その坂井戸城下に住む、源蔵と言う男に会いに行くのだ。<br>源蔵は、織田寛廉配下の忍びであり、三位の敵であった。<br>柏木は、既に寛廉の配下の忍び、津田設永と接触していた。<br>「源蔵！」<br>坂井戸の城下に入ると、一人の老人が立っていた。<br>柏木の言葉で、老人が振り返る。<br>「約束は守ってもらえるのでしょうね？」<br>「もちろんです、柏木様。殿様も玄蕃様も嘘をつく様なお方ではありませんぞ」<br>好々爺然とした源蔵が言った。<br>更早には、話が見えてこなかったが、柏木が行動を起こそうとしている事は分かった。<br>「さ、一緒に来てくだされ。殿様がお待ちです」<br>源蔵が駆け出すと、柏木と更早も慌てて追いかけた。<br>年の割りに早い、と更早が思っていると、<br>「源蔵の年は不詳って玄蕃様が言っていた。早くて追いつけないなんて」<br>柏木が声をかけてきた。<br>二人も、腕前は一流と評されていたが、源蔵などの津田忍には上手がいた。<br>「玄蕃様って？」<br>更早が言う。三位が、敵の首領と言っていたのを聞いたことがある程度だった。<br>「玄蕃さまは、織田太郎左衛門様に仕える忍頭よ。津田玄蕃允様」<br>津田玄蕃允設永。有事の際には織田信長の影武者を勤める寛廉の配下だ。<br>父親は織田信秀。母は土田御前と言われている。<br>母である土田御前が、双子を忌み嫌って捨てたところを寛廉が拾ったと言われている。<br>事実を知っているのは、今や土田御前のみとなっている。<br>「あれが小田井城の城下よ」<br>柏木が指をさした。<br>城下は、一ノ条から九ノ条までに整備されていて、その外に東雲寺と五所社と呼ばれる神社が建っている。<br>その寺と社が坂井戸城から目と鼻の先にある小田井城下の入り口だ。<br>源蔵と柏木・更早の三人は、歩みを緩めつつ城下の人々に紛れ込んだ。<br>「小田井城主の織田太郎左衛門様は、本来ならば清須彦五郎の家老なんだがな」<br>源蔵が、並んだ柏木と更早に話し始めた。<br>「彦五郎は、愚物じゃ。坂井大膳の言いなりになっておる」<br>坂井大膳は、小守護代と呼ばれている。権力をかさに、守護斯波氏をも見下していた。<br>「お手前たちの父である織田三位も曲者じゃ。大膳の意のままに動く」<br>「織田三位は、大膳の意のままに動き、残忍な振る舞いが多くございます。大膳の悪評の半分は、三位のせいでしょう」<br>柏木が答える。<br>「ふむ。確かにな。だが、大膳が気づかぬ筈は無い。見て見ぬ振りをしておる。同罪じゃ」<br>源蔵が憤って言う。更早は、二人の会話に耳を傾けていた。<br>こんなに三位を批判する柏木を初めて見た更早は驚きを禁じえなかった。<br>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10944230709.html</link>
<pubDate>Tue, 05 Jul 2011 16:36:26 +0900</pubDate>
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<title>哀毀骨立　５</title>
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<![CDATA[ 元康の命に服した氏明は、正豊を見て<br>「弥七郎殿。お願いいたします」<br>と言って平伏した。<br>氏明にとって正豊は、家老の嫡男であり、立場の違う存在であった。<br>「弥七郎に新六郎。おぬしたちに私を支えていってもらいたい。家老職も世代交代だ」<br>元康の言葉に、二人は平伏した。<br><br>正豊と氏明は、元康の下をさがり、阿部屋敷に来ていた。<br>「八弥を逃がした私を側に置いて下さるとはな」<br>氏明は言う。<br>「それを言うなら俺も同じだ。父は失態を犯したのだからな」<br>「お前は、父親が原因だが、私は、自身の問題だ。意味が違う」<br>氏明が言う。家を継いだ者と継いでいない者の違いだ。<br>「だが、お互い傷物だ。ここで挽回するしかないのだろうな」<br>「ああ。俺とお前で、しっかりと殿を支えていかなければな」<br>二人は、そう確認しあった。<br><br>松平家中は、元康の家督継承をすんなり認める土壌にはなかった。<br>もともと元康は、安祥松平氏と呼ばれ、宗家を継ぐことが決定しているわけではないのだ。<br>佐崎松平忠倫は、すでに織田方につき、反旗を翻している。<br>ほかに、桜井松平清定は、その父信定の代から安城松平には反抗的であり、<br>三木松平の松平重忠も広忠の行いを恨みに思い、反抗していた。<br>そのような状況の中、安祥松平広忠の子である元康が、松平宗家の家督につけたのは、<br>今川義元の力によってであった。<br>三河国内に義元に逆らうだけの力を持っている者は誰もいない。<br>だれもが黙って従う素振りを見せた。<br>そこへ、今回の佐久間攻めの失敗が起こったのだ。<br>一気に松平一族内での元康の立場は悪化した。<br>元康は挽回しなければならなかった。<br>それが、天野賢景の派遣であった。<br>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10933237935.html</link>
<pubDate>Fri, 24 Jun 2011 18:17:04 +0900</pubDate>
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<title>哀毀骨立　４</title>
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<![CDATA[ <p>元康は、さっそく天野賢景を召しだした。<br>「孫七郎。頼むぞ」<br>元康の言葉に、賢景はうなずく。<br>元康は、無口な様子の賢景に不安を感じていたが、<br>（将監の見込んだ男だ。きっと大丈夫であろう）<br>と、思うことにした。<br>「では。殿、しばらくの間、お待ちください」<br>賢景は、そう言うと出て行った。<br>元康を主君として敬う気持ちを感じさせない態度に、<br>元康は腹を立てた。<br>だが、言っても仕方の無いことだ。<br>まだ元康は子供なのだ。<br>主君として尊敬されるべきことを何もしていない。<br>どころか、己が命じて送り出した定吉が、<br>戦に負けてほうほうの体で逃げ帰ってくる有様だった。<br>「弥七郎はおらぬか」<br>元康が呼ぶ。弥七郎とは、阿部正豊の事で、定吉の嫡男であった。<br>今、非常に微妙な立ち位置にいる男だ。</p><p>だが、元康は未だに信頼している様だった。</p><p>「殿。お呼びでございましょうや？」</p><p>青い顔をした弥七郎がやってきた。</p><p>この男、岡崎松平を支える家老の嫡男にしては、精神的に脆い性質をしていた。</p><p>今も、元康から追放を命じられるのではないか、と不安を抱きながらやってきたのだ。</p><p>「うむ。将監の意見を入れてな…」</p><p>と、元康が口にすると、</p><p>「殿！追放だけはお許しください！」</p><p>と、大声をあげてしまった。</p><p>驚いたのは、元康だった。</p><p>何を言われたのか、一瞬理解できなかった。</p><p>だが、だんだん理解できてきて、笑い声をあげながら、</p><p>「何を言っているのだ？私がお前を追放するわけがないではないか」</p><p>と言った。</p><p>「父を討った佐久間全孝を、同じ手で以って討つことにした。天野孫七郎に命じた」</p><p>賢景は、正豊の朋友とも言うべき存在で、ともに剣術の修行をしている仲であった。</p><p>正豊ならば、賢景の事が多少は分かるのではないかと思っていた。</p><p>「孫七郎ですか。それは、良い人選だと思います」</p><p>多少落ち着いてきた正豊は言った。</p><p>元康は、駿府にいて知らなかったが、賢景は、家中でも一、二位を争う腕前を持っている男だった。</p><p>天野孫七郎賢景ともう一人、植村新六郎氏明だった。正豊の腕は、この二人には遠く及ばなかった。</p><p>「そうか。おぬし、新六郎を呼んできてくれ」</p><p>元康は、命じる。</p><p>「はっ」</p><p>正豊は、いったん退出した。</p><br><p>しばらくして、氏明を伴って再度出仕してきた。</p><p>氏明は、</p><p>「殿。植村新六郎、お召しにより罷り越しました」</p><p>といった。</p><p>「剣の腕がたつそうだな。私の側に居よ」</p><p>と、命じた。</p>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10926960204.html</link>
<pubDate>Sat, 18 Jun 2011 12:35:25 +0900</pubDate>
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<title>哀毀骨立　３</title>
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<![CDATA[ <p>岡崎城にいる元康の許に、上野城から忠尚が訪ねてきた。</p><p>松平と一族関係にある酒井氏当主である忠尚は、元康にとってやり難い相手であった。</p><p>「これは、将監殿。よくお越しくださいました」</p><p>元康から声をかける。忠尚は、</p><p>「こたびの敗戦は、厳しいですな。大蔵を遣わしたのは誤りですぞ」</p><p>と、厳しい批判を加えた。</p><p>「大蔵は、謹慎しております」</p><p>元康は答える。</p><p>「で、今回のご用は？」</p><p>「うむ。佐久間九郎の処遇について、でございます」</p><p>忠尚は、声を押えて言った。</p><p>「処遇？」</p><p>「刺客を差し向けては？」</p><p>広忠を刺客によって殺されているので、その仕返しをしようというわけだ。</p><p>「だれか適任はいようか？」</p><p>元康が訊く。忠尚は、</p><p>「天野孫七郎にお任せください」</p><p>と、天野賢景を推挙した。賢景は、剣術の腕でもって広忠に仕えていた。</p><p>元康も、賢景から剣術を教わっている身であった。</p><p>「うむ。孫七郎か。よし、やってみよう」</p><p>元康は、忠尚の提案に乗ってみる事にした。</p><p>まさか、忠尚が全孝一派に組している男だとは思いもよらぬ事であろう。</p><p>「孫七郎をこれへ」</p><p>忠尚が言う。すると、すぐに賢景が現れた。</p><p>元康は、</p><p>「よう参った。孫七郎に頼みたい事がある」</p><p>と、全孝の暗殺を頼んだ。</p><p>家臣とは言え、命令を出来ないところが元康の立場の弱さを表していた。</p><p>「かしこまりました。きっと成功させて見せましょう」</p><p>そういうと、賢景は平伏した。</p><p>「私は、佐崎の三左衛門を討とうと思う」</p><p>と、忠尚は言う。忠倫は、忠尚の味方をして全孝と協働していた。</p><p>「頼みますぞ、将監殿」</p><p>元康は、忠尚の手をとって頼み込んだ。</p><br><p>岡崎城から居城である上野城へ戻った忠尚は、</p><p>「単純な男よな、蔵人殿は」</p><p>と、つぶやいた。</p><p>全孝に広忠を討たせ、その味方をしたとして忠倫を討つ。</p><p>忠倫の領地佐崎は、そのまま忠尚のものになる。</p><p>全孝を討てば、広瀬もいただくつもりだった。</p><p>「これで松平から独立する」</p><p>それが、忠尚の宿願であった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/odahyoue/entry-10924769489.html</link>
<pubDate>Thu, 16 Jun 2011 03:44:19 +0900</pubDate>
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