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<title>短編小説のふきだまり</title>
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<description>小説を書いてます。</description>
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<title>シアワセノヒト</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>目が覚めたときいつものように微かな香りが鼻をくすぐる。その匂いが薫子の思考を覚醒へと導く。<br>ああ、おなかすいた！<br>思いっきりよく布団を跳ね除けると、ベットから飛び降りる。自分の部屋を出て台所で忙しそうにしている母親におはようと声をかけると、はやく顔を洗っといでと顔も見ずにたしなめられる。いつものことと思いつつ、朝の身支度をして朝食の用意してあるテーブルにつく。<br>今日はこんがり焼かれたトーストとオレンジジュースね。<br>芳ばしい香りが董子の食欲をそそる。<br>「早く食べちゃわないと遅刻するわよ！」<br>母親というのは何かと小言を言わないと気がすまない性質なのだ。<br>董子はいつもそう思うようにしている。別に母親が嫌いなわけでもなく、間違ったことを言われているわけでもないのだが、食事ぐらいゆっくり楽しみたいと思っている。だが現実は厳しい。ちらりと壁掛け時計を見ると、あまり余裕がない事が理解できてしまった。<br>たいへん！<br>あわててトーストにマーマレードを塗り、オレンジジュースを一気に飲み干し、トーストをくわえたままカバンを手にとった。<br>「ちょっと！忘れ物！」<br>大慌てで玄関で靴を履いていると、母親が弁当箱を手に追いかけてくる。<br>「まったくこの子はどうしてこんなに忘れっぽいのかね。やっぱりお父さんのせいかしら・・・。」<br>それは毎度のこと聞かされる父親の失敗談である。董子が生まれる時に産院までの道順を忘れてしまったとか、慌てていたので持っていくべきバックを忘れてしまったとかその程度のことである。<br>「それともあの時飲んでた栄養剤のせいかしら・・・ああ、生まれた後に使ってたシャンプーのせいかもね。」<br>ともかく母親の言うことを一々気にはしてられないのだ。<br>弁当箱を受け取ると、董子はさも行ってきますと言わんばかりに手を振って、扉の外へと逃げ出した。<br><br>確かに董子は忘れっぽい。これまで学校の通信簿にも一度たりとも忘れ物のことを書かれなかったことがないほどである。いや忘れ物だけではない。時には大事な学校行事や人の名前すら忘れてしまったことがある。<br>ちょっと忘れんぼさんなだけじゃない。<br>董子はそれも愛嬌のうちなどと韜晦してはみても、その度に自己嫌悪に陥るのである。<br>なぜ自分がこれほどまでに色々なことを忘れ易いのか、理由は全く持ってわからない。<br>「おはよう！」<br>曲がり角に差し掛かるとわき道から見覚えのある顔が董子に声をかけた。クラスメートの智川朋子・・・通称トモトモである。董子も反射的に片手を振り、おはよう！と応える。<br>だが、同時にトモトモの表情が小さく驚きを浮かべ、その視線は董子の足元へと注がれていた。董子は何事が起きたのか理解できずにトモトモの視線の先である自分の足元を見る。そこには家を出るときに口にくわえていたであろうこんがりと焼かれたトーストが落ちていた。<br>「あっ！」<br>董子の心はやはり自責の念で満たされる。<br><br>「董子ってさ、微妙にいい匂いするよね。なんかコロンでも使ってるの？」<br>トモトモは鼻をヒクヒクとさせながら顔を近づけてくるが、教室にいる女子の何人かがそれに同意するように頷いている。自分では全く自覚の無いことを言われ、董子はただただ首を傾げるだけである。<br>「そうそう！なんかさ、董子のそばにいるだけで幸せな感じになるわ。」<br>トモトモの言葉に同調するように明日菜が言う。なんか拝みたくなるわね・・・とトモトモが言うと一斉にみんながパンパンと拍手を鳴らし、董子に一礼をする。<br>「やめてよ、まるで仏像みたいじゃない。」<br>董子はしかめっ面で頬を膨らますが、みんな小波のように含み笑いをしてそれぞれの席へ戻っていく。<br>私だって幸せになりたいわよっ！<br>董子にしてみたら今朝のトーストを食べることができずに、空腹のまま二限目まで過ごしているのだ。幸せとは対極の状態なのよっ！・・・と、董子は思っていた。<br><br>昼休みになりようやくお弁当を食べることができ、幸せに満たされた董子に明日菜が唐突に話を蒸し返してきた。<br>「今気付いたんだけど、董子の匂いってさ・・・今はしないよね？」<br>さっきまで匂ってたのにさ・・・と残念そうに明日菜が言うが、元々自覚がない上にそんなこと言われても戸惑うばかりである。<br>「ほんとだ！さっきまであんなにいい匂いだったのに・・・。」<br>トモトモの言葉に董子は少々むっとするが、悪気があっていってるわけではないので表情に出すことは控えた。<br>「でもさ、今朝は焦ったわよ。まさかトモトモと同じ時間になるとは思わなかったし・・・。」<br>遅刻常習犯のトモトモは舌をペロリと出し、笑顔でごまかす。<br>「だからびっくりしてパン落としたわけ？」<br>まさか口にくわえていたのを忘れたとも言えず、にこりと頷く董子であった。<br><br>午後の授業は何事もなく無事に過ぎていった。<br>「・・・明日までに進路希望調査票を提出するように！」<br>最後の授業終了後に担任が叫んでいるが、董子には何のことだかわからない。<br>何だっけ？・・・と聞く董子に、明日菜が少し困った顔をする。<br>「ほら、先週プリントもらったでしょ？卒業後どうするかってやつ。」<br>董子にはそんな記憶が全くないが、卒業後と言われてあらためて自分が全く何も考えてなかったことに気付く。まだ高校２年生とはいえ、将来のことを考えてなくてはいけないことは重々承知していた。<br>「ねぇ、明日菜はどうするの？」<br>董子は自分の事は棚に上げ、隣で帰り支度をしている親友に聞いてみる。<br>「そうねぇ・・・多分、短大か専門学校かな。あたしって要領悪いからさ、資格でも取らないと就職できそうにないし。」<br>友達の大人な発言に驚きつつ、董子はため息をつく。<br>あたしって何になりたいのかしら・・・？<br>将来の希望というものをあまり真面目に考えたことがなかったせいか、自分がどうしたいのかが全くわからない。<br>「あたしは決まってるわよ。」<br>明日菜の向こうからトモトモも顔を出す。いかにも自慢げに胸を張るトモトモは聞かれもしないのに、二人に断言した。<br>「お気楽な主婦になるのよっ！」<br>董子も明日菜も呆気に取られて、一瞬黙ってしまった。<br>「そんなこと進路調査票に書いたら怒られるわよ。」<br>明日菜は半ばあきれたように言う。その点は董子も同意見なのだが、トモトモのそんなあっけらかんとした明るさが見ていてすがすがしくも思う。<br>トモトモは明日菜の肩をたたきながら、大丈夫よ！・・・と言い放つ。<br>「あたしの意思はカタイのよっ！」<br><br>学校からの帰り道で二人と別れ、一人きりになった時、あらためて董子は自分の進路について考え始めた。明日菜の言う通り就職するには資格でも取っていた方がよさげな気はする。だが、資格を取るにしたって、何の資格を取ればいいのか全く想像もつかない。専門学校へ行くにしても短大に行くにしてもある程度の方向性が決まっていないと、どこへ行けばいいのかもわからないのだ。<br>まあ、これから考えればいいか・・・。<br>董子はそれほど悩む性格ではない。むしろ悩んでいたことさえ忘れてしまうほどなのである。<br>でも進路希望調査票は出さねばならない。<br>どうしよう・・・。<br>その時、路地から急に車が飛び出してくる。暴走気味なそのスピードに董子は一瞬体を固くした。<br>あぶないわねぇ・・・。<br>走り去っていくその車をちらりと見ながら、その路地を曲がると見覚えのある女の子が歩道で座り込み泣いていた。<br>「どうしたの？怪我でもしたの？」<br>思わず駆け寄り、その子の顔を覗き込む。その頬には涙が流れている。<br>「みぃちゃんが・・・みぃちゃんが・・・。」<br>その子の指し示した先には血を流しピクリとも動かない子猫が、道路の中央に横たわっていた。<br>その子猫はこの子大事にしていたペットであった。<br>女の子の悲しみがまるで伝わってくるように、董子の心を締め付ける。董子は思わずその子を抱きしめていた。<br>「大丈夫よ、みぃちゃんは天国へ行けるわ。」<br>そう董子がつぶやくと、董子の中で何かがはじけた気がした。それは女の子の悲しみに共鳴しつつ、抱きしめた董子の腕に小さなエネルギーを伝える。<br>董子の頭の中で起こっている現象は余人には理解のしがたいものであった。脳内に蓄積されていた記憶の一片が、まるで何かに蝕まれるように消えていく。もちろん本人にさえわからない現象ではあったが、その対価とでも言うべき何かが同時に董子の体からまるでオーラのように噴出し始める。もちろん、無色透明なそれを目にすることができる者はどこにもいない。本人にはただただ自覚のないことである。しかし、董子の腕の中の女の子にはその影響が現れたようであった。<br>「ほんとう？」<br>女の子の涙は自然と止まっていた。董子を見上げるその瞳は赤く腫れあがっていたが、悲しみは別の何かへと変りつつあるようだった。<br>「お姉ちゃんっていい匂いがする・・・。」<br><br>朝の目覚めはいつも朝食の香りである。董子はいつものように食欲を刺激する微かな香りに、ベッドから勢いよく飛び起きる。<br>今日はおみそ汁ね。<br>急いでいつものように身支度を整え、台所へ顔を出す。<br>いつものように早く顔を洗ってきなさい！という母親の声に、はぁいと生返事をしつつ、洗顔を済ませ食卓テーブルへつく。<br>目の前には一膳のご飯と大根のみそ汁、そして目玉焼きとウインナ－。<br>今日も幸せを感じる一瞬を満喫する。<br>「早くしないとまた遅刻よ！」<br>母親の容赦ない声はいつものように董子を現実へといざなう。慌てて全てを平らげて、カバンを右手に玄関へと急ぐ。<br>「忘れ物はない？」<br>お弁当箱を受け取りながら、母親へ首を振ってみせる。<br>「あんたはほんとに忘れっぽいんだから、もう一度確認した方がいいわよ。」<br>この後にいつものセリフが続くことは董子は重々承知している。あわてて玄関の扉から転がり出ると、学校へと走り出した。<br><br>昨日と同じく曲がり角でトモトモと遭遇する。今度は董子からおはようと声をかけた。<br>「どうするか決めてきた？」<br>そう問われた董子は歩きながら戸惑う。何のことを言われているのか皆目見当もつかないのだ。不思議そうな顔している董子にトモトモは、仕方ないわね・・・と少し困った顔をする。<br>「あなたもあたしと一緒に主婦になる？」<br>董子の記憶には進路希望調査票のことなど微塵も残っておらず、戸惑いは増すばかりであった。だが、主婦と聞いて母親のことを思い出すと自然と笑いがこみ上げてくる。<br>そう言えば、お母さんって幸せだわ。<br>いつも小言ばかり言っているようでも、割と笑顔が多いのだ。それを幸せと言わずに何を幸せと言うのだ。<br>そう考えている董子がふふふと笑うと、つられるようにトモトモも笑い出す。<br>幸せなのが一番だわ！<br>董子は心の底からそう思っていた。<br><br>提出された進路希望調査票の中に、２通だけ不明瞭な進路がかかれた物が発覚し、その二者二様の文言は担任をひどく怒らせることになる。むろん提出者は後でこっぴどく叱られたことは言うまでもない。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-11319132204.html</link>
<pubDate>Sun, 05 Aug 2012 18:10:43 +0900</pubDate>
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<title>悪を長じて悛めずば</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>朝は嫌いだ。大きな声、机や椅子が床にすれて軋む音、扉を開け閉めする乱暴な級友たちの笑い声・・・全てが耳の奥を通り抜け頭の中の何かを揺さぶり、僕を苛立たせる。<br>だからといって学校を休む気にもなれないのは、単に勇気が足りないせいかもしれないとも思う。別に人が嫌いなわけではないし、引きこもりになるつもりもない。<br>「ちょっと、聞いてよ！」<br>隣の席に集う女子たちの否応なしに、僕の耳に入ってくる。女子特有の高い音階は僕の頭の中を隅々まで駆け巡り、精神を苛立たせるには絶好のアイテムだ。<br>「・・・チカン・・・ムカツク・・・。」<br>断片的に聞こえてくる会話を無視しようとするが、ところどころ意味を理解してしまうのは仕方がないとしても、その意味がまた僕を苛立たせるのだ。<br>「なんとかしたいわね！」<br>はっきりと意味のある言葉として初めて聞こえたそれは、僕に背を向けて仁王立ちに立っている菊田陽子のセリフであった。<br>「そいえばさ、そいうの前に柏田が捕まえたんじゃなかったっけ？」<br>やはり隣の席を取り囲むように立っていた城田紗江が唐突に言った言葉が引き金となり、そこに集った全員の目が僕を射す。<br>僕は嫌な過去を思い出されてしまい、ためいきをつく。<br>朝が大嫌いだ・・・あらためてそう認識するには充分だった。<br><br>「今朝ね、いつものように電車に乗ったの・・・。」<br>トツトツと語りだす隣の席の早崎香織の声が怒りに震えている。いつもの車両にいつもの扉の場所・・・そこが定位置なのと、語る声には悔しさと悲しさが入り混じっているように聞こえるのは確かだ。<br>「もう、いいわよ！」<br>陽子が声を荒げて香織の言葉を静止する。そのタイミングは絶妙すぎて、誰も何も言えない。<br>「そういうわけだから、明日の朝そいつ捕まえるから。いいわね！」<br>僕の意思も意見も聞かずに、陽子の言葉がその場を支配する。そこに居合わせた僕以外の人間は誰もそれに疑いを持っていないかのごとく、ただ呆然としている僕を見つめた。<br>確かに昔電車の中で、チカンを捕まえたことはあった。だが、それ以来僕は電車に乗ったことがない。というより乗り物全般が苦手なのである。<br>「ちょっと、僕にどうしろって・・・？」<br>全員の視線が痛い。<br>僕はこの状況から逃れることが出来ないのか・・・。<br>どうにもならない事態に、思わず溜息が出る。その時、予鈴が鳴る。その音がまた僕をうなだれさせる。それを僕の同意と受け取ったのか、やがて全員自分の席へと散っていった。<br>「・・・ごめんね。」<br>香織が僕を見つめて、申し訳なさそうに言う。<br>僕はいよいよ逃げ場がなくなったことを悟った。<br><br>早崎香織の住む町の駅は僕の家からはさほど遠くない。むしろ、学校からは僕の家の方が遠いくらいなのだが、僕は普段から自転車通学をしている。何しろ僕は乗り物が苦手なのだ。中学の１年生ぐらいまでは別にそうでもなかったのだが、例のチカン事件以来電車のみならずバスや車も、僕にとっては鬼門となってしまったのだ。なので多少遠くても、早起きして自転車で通うことにしていた。<br>僕は早崎香織の待つ駅まで自転車に乗り、自転車を駐輪場に停める。かつてはこの駅も僕は利用していたのだと思うと、多少懐かしくもある。だが、これから電車に乗らねばならないかと思うと、そんなノスタルジーもどこかへ吹き飛んでしまう。<br>待ち合わせの場所は改札の前である。僕がそこへ到着すると、すでに陽子と香織が僕を待ち構えていた。<br><br>「誰が犯人かよくわからないの。」<br>香織はこれまでも時々被害にあっていた事を告白する。満員電車の中で、その手がどこから伸びてきているのかまるでわからないというのだ。声をあげようにも声は出ず、されるがままに我慢するしかない自分が悔しい・・・と、香織は言う。<br>「私たちが香織の近くにいると警戒されるから、すぐに動ける位置に離れてるわ。」<br>何かあったら私を見て・・・と、陽子が頼もしげに胸をたたく。だが、僕はそれほど使命感に燃えているわけでもない。それよりも満員電車に乗らねばならないということの方が、僕にとって一大事なのだ。最後に電車に乗ってからだいぶ経つからひょっとして体質が変っているかも・・・と、淡い期待がないこともない。むしろ、そうであって欲しいと僕は願っていた。<br>やがて三人はホームへと立ち、さほど間をおかずに電車が軋みながらやってくる。香織はいつものようにいつもの扉から電車に乗る。僕と陽子は一応念のためにその隣の扉から電車に乗り込んだ。万が一、犯人が見ていたら警戒する可能性があるからだ。<br><br>電車の中は酸素が薄く、ギュウギュウヅメの状態である。それでも陽子は人を掻き分けながら、電車の中央へと強引に進んでいく。僕はそれについて行くので精一杯である。<br>やがて香織の顔が見えるところまで来ると、僕を無理矢理隣に引っ張り陽子が耳元にささやく。<br>「どいつが犯人なのか、見逃さないでよ。」<br>発射のベルが鳴る。ドアが閉まる音と共に、電車が動き出す。人々がそれにつられて、一瞬後ろの方へ傾く。僕はいよいよ来る時が来たと観念する。<br>足元から振動が伝わり、薄い空気の中で、心臓が早鐘のように鳴り出す。脳が揺られ、やがて顔が青ざめていくのがわかった。<br>「あんた顔色悪いわよ。」<br>痛いほど脈打つ心臓、目眩、そして頭痛が僕を少しずつ蝕んでいく。それまで微かに抱いていた淡い期待が木っ端微塵に消えたのを自覚する。むろん、それらが三重奏を奏で僕を地獄の淵へ追い込むのにそうは時間はかからない。<br>「来たわよ。」<br>陽子の声が僕の耳に届くが、すでに僕はそれどころではなかった。苦痛に苛まれながら香織の方に目をやると、香織が顔をしかめながら必死にこちらへ視線を送っていた。<br>香織のすぐ後ろには若いサラリーマン風の男と眼鏡をかけた中年、そして大学生のような男など数人が取り囲んでいる。むろん、その近くにも幾人かがいるのだ。陽子はそいつらを見逃すまいと必死で見つめていた。<br>「もう我慢できないわ！」<br>陽子は痺れを切らしたように動き始めた。次の駅に到着するまで１分あるかないかである。僕はそれを制止することも出来ずに、ただ苦痛に耐えていた。<br>そして、その時は来た。<br><br>僕の視界からありとあらゆる色が失せ、いきなり白黒のモノローグのように２色の世界に変質してしまった。それまで赤や緑やカラフルな色の服や窓の外の看板でさえも、色が溶け出しいずこかへ消え去ってしまう・・・あの時の再現であった。初めてこの状態になった時も、最初は色が何も無い世界に放り出された気がしたのだった。僕には次に来るのが何かわかっていた。そして思ったとおり、それがじわりと白黒の世界に新しい色をつけていく。電車の中に乗っている人々の白い顔が、それぞれの気分によって色分けされていくのだ。疲れている人は茶、怒っている人は赤、具合が悪い人は紫などに僕の目には、だんだんと変っていくのがわかる。<br>そして香織の周りの人も例外ではない。個人差はあるが皆一様に三色のいずれかに近い色をしていた。ただ一人を除いて・・・。その人の顔はピンクと黄色と赤の入り混じったようなまだらをしている。僕はそれが犯人であることを確信した。<br>車両にショックが走る。駅へ着いたのだ。扉が開くと同時に人が流れ出す。その中で陽子の声が微かに聞こえる。<br>「あんた、ちょっと一緒に降りなさい！」<br>陽子はそう一喝すると、一人の男をホームへと引っ張る。一緒に何人かが降りるが、何事も無かったかのようにそれぞれ出口へと急いで行った。僕もあわてて電車を飛び降り、そのうちの一人を呼び止めた。<br><br>「あんたさぁ、こんなことしてただで済むと思ってんの？」<br>陽子は回りの状況にお構いなしで、怒声をその男に浴びせていた。男はいったい何事が起こったのか理解できないかのように、呆けているばかりである。そんな様子に周りを行き交う人々は奇異の目を向けるが、自分たちに関係の無いことと通り過ぎていく。やがて、人気もまばらになった頃、僕はようやくその場に合流することが出来た。<br>「あんたたちもなんか言ってやんなさいよ！」<br>陽子が呆気に取られている香織とようやく現れた僕に向かって言い放つが、何か様子がおかしいことに気づいたようだ。<br>「陽子・・・多分その人じゃないよ。」<br>香織が申し訳なさそうに言う。それを聞いて陽子は一瞬表情が固まってしまった。僕は気分の悪さによろけながら、無理矢理引っ張ってきた人を彼らの前に押し出しながら言い放つ。<br>「この人が犯人だよ。」<br>僕の言葉にその場の全員の視線が集中する。そして、同時に驚きの表情を浮かべたのだった。<br><br>その人は・・・スーツを着た年の頃は30代前後の女性だった。<br>「・・・ごめんなさい・・・。」<br>その女性は素直に頭を下げる。すでに観念しているようであった。いや、むしろ観念しているからこそ僕に付き従ってきたのだろう。<br>「いけないことをしてしまったといつも思ってたの・・・ほんと、ごめんなさい。」<br>その女性が頭を下げたまま、涙をこぼしていた。それを全員が息をのんで見守るだけである。理解不能の事態に戸惑うのも当然であった。男が痴漢をするのならともかくうら若き女性が女子高生を・・・それは倒錯以外の何者でもない。<br>そんな雰囲気の中、僕はいきなり腹腔からこみ上げてくるものを堪えきれずに、ホームの外・・・線路に胃の内容物をぶちまけてしまった。頭痛と吐き気と目眩が同時に僕を襲い、汚物を撒き散らしながら意識が薄れていくのを感じていた。<br><br>意識を取り戻した時、僕は病院のベットの上に寝かされていた。一瞬状況がつかめず、一気に起き上がる。なにやら口元にすっぱいものを感じながら、徐々に意識がはっきりしてきた。<br>「あぁ、やっと起きたのね。」<br>菊田陽子がベットの脇で椅子に座ったまま、僕を見ていた。<br>「具合が悪いなら悪いっていいなさいよね！」<br>びっくりするじゃない・・・と、僕を責め立てるがその口調は妙に優しい。それがおかしくてつい笑ってしまう。<br>「あの後、大変だったのよ・・・。」<br>陽子は僕に語りだしたことは、想像していたことと想像も出来なかったことが入り混じっていた。<br><br>駆けつけてきた駅員に救急車を頼むと、陽子はまず自分が捕まえたサラリーマン風の若い男に頭を下げる。<br>「ごめんなさい！勘違いでした。」<br>男は苦笑いをしながら、いいよ・・・と頭を掻きながら応じる。<br>「ところでさ、想像で悪いんだけどこういうことかな？その子が痴漢をされてて、僕がその犯人と間違えられてた。そして、そこの彼女が実は犯人だった。違う？」<br>男は倒れてしまった少年を介抱している香織と犯人の女性を指差しながら、陽子に確認した。それに陽子は一々頷きながら、申し訳なさそうな顔していた。<br>「で、どうする？一応、警察に届けるかい？」<br>陽子と香織は顔を見合わせ、そしてその女性を再び見た。<br>「もうこんな真似二度としないと約束してくれるなら・・・。」<br>香織がつぶやくように言った。その言葉に陽子は不満足そうにうなずく。<br>「そうかい・・・実は僕、警察官なんだ。」<br>男は胸のポケットから警察バッジを取り出し、全員に見せた。<br><br>「ほんと、驚いたわよ。あの人が警察だったなんてさ。」<br>堀さんって言ってたっけ・・・と、陽子が思い出すようなしぐさをする。僕は偶然にも陽子が警察官を捕まえてしまったことに驚き、そして陽子らしいとも思う。<br>「今年警官になったばっかりなんだって。」<br>陽子はまるで何かの自慢話のように話し出す。だから、あまり公にしたくないって言ってたわ・・・と、陽子は何かに納得したように頷く。<br>「痴漢に間違われたなんて知られたら、カッコ悪いんだって。」<br>僕は今度こそ声を出して笑った。<br><br>その後、午後から学校に行き、先生に事情を説明すると教室で拍手で迎えられる。<br>「ありがとう・・・柏田君。」<br>そう隣の席の香織に言われて悪い気はしなかった。だが、それもつかの間のことでしかなかった。次の日から僕はひそかにゲロ王子と呼ばれていることに気付いたからだ。<br>「ごめ～ん。」<br>陽子が僕に両手を合わせて謝るが、ちっとも悪いと思っていないことが明白だ。陽子が例の事件を面白おかしく話しているうちに、最大のオチとして語られてしまい、脚色も含めて学校中に広まってしまったのだ。<br>僕は陽子をにらむ。陽子はそれを無視して、そそくさと逃げるように去っていく。僕は天を見上げ、自分の体質をうらんだ。<br><br>世界の理不尽はそれが全てではないにしても、僕の体質が僕自身のためになったことは一度もない。だからといって世界の理不尽を呪う気になれないのは、僕の弱さなのだろうか。<br>あの警察の人は人にばれるとカッコ悪いと言ったらしいが、僕こそいい面の皮だ。こんな体質のせいでカッコ悪いどころではない。<br>だけど悪いことをしたわけでもないし・・・とも思う。少なくとも人の役に立ったような気はするし、一度はそれでもいいとも思ったのは確かだ。<br>でも・・・。<br>今日も自転車をこぎながら、僕は思う。<br>電車になんか二度と乗るものか！<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-11067870616.html</link>
<pubDate>Fri, 04 Nov 2011 07:44:35 +0900</pubDate>
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<title>だって、どうにもならないじゃない？</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>ああ、まただ・・・。<br>廊下の向こうでは誰かと立ち話をしたままその姿を硬直させてしまった八島先生が、まるで彫像のように立ち尽くしている。何度となく自分の身に降りかかる現実に、溜息が出そうだ・・・と高峰由貴は思う。だが、幸か不幸か実際には溜息は出ない。こうなってしまっては、溜息どころか何一つできないのだ。指も手も顔の表情さえも動かない。<br>動かないというのは少し言い過ぎかもしれない。風景さえも絵画のように止まっているかに見えて、実は少しずつ微かに動いていることを、由貴は知っていた。<br>そう言えば最近多いわよねぇ。<br>由貴は体が思うように制御できないこの状態が、割と頻繁に起こっていることを思い出す。由貴がちょうど教室から体半分出たところでいきなりいつものこの状態に陥ってしまったのだが、この状態になっていることを知っているのはたぶん由貴一人なのである。つまり、他の人々はごく普通に過ごしているだけなのだ。ただ一人まるで時間が止まってしまったような世界に取り残されてしまった由貴は、こんな時はまた元の通り時間が動き出すのを待つばかりである。<br>目の端に空中を飛んでいるサッカーボールが映る。<br>なんか面白いわね。<br>思わず心の中でくすりと笑ってしまった。よく見るとそのサッカーボールは回転しながら、ゆっくりと由貴の目の前を通り過ぎる軌道を描いているようだ。<br>初めて時間が止まってしまった時も、確かサッカーボールが飛んでいたわ。<br><br>それは由貴が高校に入って間もなくの頃であった。<br>部活勧誘が校内で盛んな頃、由貴は友達の坂井奈々子と校庭の端にあるベンチに座っておしゃべりを楽しんでいた。たわいもない話は放課後の楽しみのひとつでもある。<br>「部活どうする？」<br>奈々子は屈託のない笑顔で由貴に問い掛けた。由貴は首を横に振り、まだ決めてないと告げた。<br>奈々子とは中学の時からいつも一緒に行動することが多かった。部活もバレーボールで一緒だったし、クラスも一度も離れたことがない。とにかく大の仲良しなのである。<br>グランドの方を見ると、各運動部がそろそろ練習の準備に入っているところである。野球部にサッカー部、陸上部・・・テニスウェアを来た先輩たちも横切っていく。<br>中学の時と同じくバレーボールでも良かったのだが、高校に入る前に奈々子と一緒にバレーボールとは違う部活に入ろうと約束していたのである。<br>「やっぱ色々な経験が必要よね。」<br>奈々子の言葉にその時は由貴も大いに賛成したのであった。<br>テニスラケットを片手に談笑しながら通り過ぎていく先輩たちを見て、由貴がテニスなんかどう？と奈々子に告げようとした時である。<br>唐突に時間が止まった。<br>最初何が起こっているのか由貴には全く理解できなかった。いきなり起こった出来事に面くらい、そしてすぐに体が動かないジレンマにあせる。<br>なに？なんなの？金縛りってやつ？<br>目は見開いたままグランドではサッカーボールが空中に浮かんでるのが見えるが、由貴にはその事実さえ理解できない。<br>奈々子は口を開いたままでその笑顔も凍ったように固まってしまっている。<br>私だけじゃないんだわ。<br>だが、そこで初めて奈々子の口も空中のサッカーボールもわずかだが動いていることに気づいた。<br>そして、それは始まった時と同じく唐突に終わった。<br>サッカーボールが校舎の方へ猛スピードで飛んでいき、由貴たちの座っているベンチの傍の窓ガラスに激突する。<br>凄い音とともに窓ガラスが飛び散った。<br>校舎の中では、先生が驚いた顔して立っているのが見える。<br>奈々子も体をびくりとさせ、振り返っていた。<br>由貴はその事故の衝撃よりも、むしろ体が動いたことに安堵の溜息をもらす。<br><br>あの時も八島先生がいたのね。<br>由貴はその時のことを思い出しながら、割れた窓ガラスの奥にすごい顔して立っていたのが八島先生であることに今初めて気づく。<br>目の前をサッカーボールがゆっくりと通り抜けていく。<br>まるであの時の再現ね。<br>由貴はその軌道が確実に八島先生の方へ向かって伸びていることに、確信を持った。<br>思えばあの時から考えると、時がゆっくりと過ぎるのも長くなっているようだ。最初の時はほんのわずかな時間だったはずだ。<br>だが頻繁に起こるようになったこの頃は、一定の時間とは言いがたいが確実にあの時よりは長い。<br>そう言えば奈々子はあの時のこと憶えているかしら？<br><br>「びっくりしたわねぇ・・・。」<br>奈々子が苦笑いしながら、ちらちらと先生に謝っているサッカー部員を横目で見ている。<br>確かにあんなことがなければ由貴も窓ガラスが割れてしまったことに驚いていただろう。だが由貴の心はそれどころではない。<br>「ねぇ、今変じゃなかった？」<br>奈々子にそう問いかけたが、問われた奈々子は首をかしげる。由貴の言ってることがまるでわからないようだ。<br>「なんか今時間が止まったよね？」<br>たたみかけるように由貴は自分に起こった事を説明しようと試みるが、うまく伝わるはずもない。なにせ常識では考えられないようなことなのだ。<br>「そうよねぇ、一瞬心臓が止まるかと思った。」<br>奈々子は笑いながら、そう由貴の言葉を受け流すのだ。由貴はそれ以上の説明をあきらめ、小さく溜息をつく。<br>気のせいだったかもしれないわ。<br>奈々子に伝わらないせいで、なんだかついさっきのことが現実のこととは思えなくなりつつもあった。<br><br>そんなことがあって１週間もたった頃だったろうか、未だに部活を決めきれない二人は日曜日を持て余し、買い物に出かけることにした。<br>特に何か欲しいものがあったわけじゃない。ただ、由貴は少しのおしゃべりとウィンドウショッピングと気晴らしが欲しかっただけである。気晴らし・・・とは言ってもそれほどストレスを溜め込む方でもない。<br>何か面白い本でもあったら買おうかしら・・・。<br>その程度のことである。奈々子を駅前の噴水の横で待ちながら、目の前の通りを自動車が通り過ぎていくのを眺めていた。<br>街の雑踏は心地よいリズムがあった。少なくとも由貴には人々の雑多な話し声や自動車の通り過ぎていくエンジン音が、まるでＢＧＭのように心を爽快にしてくれるように聞こえるのだ。<br>たくさん人が集まるところって、なんだか楽しい・・・。<br>由貴が思うほど大勢の人々が行き交ってるわけではない。だが、由貴の心は自然とウキウキとしてくるのだった。<br>お母さんと手をつないで歩いている女の子、何やらせわしなげに携帯電話を手に画面を覗き込んでいるサラリーマン、腕を組んで楽しそうにおしゃべりしながら歩いている若いカップル・・・それらの人々を眺めながら、由貴は勝手に想像の翼をはばたかせる。<br>きっとあの子はお母さんと歩くのがうれしくてたまらないのね・・・あの人は仕事が大変できっと日曜日も大忙しなんだわ・・・カップルでこれから映画にでも行くのかしら・・・。<br>そんな空想も由貴の頭の中では現実なのである。<br>右の方から凄い音を立てながら赤い車が走ってくる。<br>きっとあの車にはすごい美人が乗ってるのね。<br>それを横目で見ながら、由貴は正面の通りの向こうから奈々子が手を振っているのにやがて気づいた。奈々子が笑顔で通りを横断しようと右足を歩道から車道へ出す。<br>危ない！<br>奈々子からは建物の陰になって、右側から来る赤い車が見えないのだ。由貴は思わず大声を出そうと、口を開く。<br>その時、唐突にそれが起こった。<br>由貴は時間が止まってしまった事にゆっくりと気づく。体の自由が利かなくなると同時に、由貴の頭の中では再び起こってしまった変事に少しずつ対応しているようだった。<br>どうすればいい？<br>赤い車はやはりゆっくりと、奈々子が飛び出そうとしているところへ近づいてくる。奈々子の動きはそれと同じくゆっくりと前へ進んでいるようだ。このままでは大変なことになる。その思いで由貴の頭は焦燥感に支配されていた。<br>車を見る・・・奈々子を見る・・・車を見る・・・体が動かないまでも、自然と視線が移っていたようだ。<br>そして、また唐突過ぎる終了は由貴の思考を混乱させる。<br>「危ない！」<br>由貴の声は辺り中に響き渡る。そして、車が轟音と共に通り過ぎる。由貴は思わず目をつぶった。<br><br>ゆっくりと目を開くと、そこには奈々子が立っていた。<br>「由貴ちゃん、大丈夫？」<br>奈々子の心配そうな顔が、由貴を覗き込む。由貴はほっとしてその場へ座り込んでしまった。<br>「由貴ちゃん、具合悪いの？」<br>奈々子の言葉が理解できない由貴は、首を横に振る。<br>どうして？<br>言葉にならない由貴の問いが聞こえたのか、奈々子が語り始めた。<br><br>「由貴ちゃんが、いきなり変な顔して目を右に左に凄い勢いで動かしてるのが見えたの・・・。」<br>奈々子の言葉に由貴は、はっとした。確かに時間が止まっている間、車と奈々子を交互に何度も見ていた。それが、奈々子にはそういう風に見えたということなのだ。<br>「だから、びっくりして立ち止まっちゃったのよ。」<br>そしたら急に車が飛び出してくるじゃない・・・と、奈々子は胸をなでおろす。<br>由貴は何が起こったのか、ようやく理解した。<br>驚いちゃったわね・・・と笑う奈々子に、由貴は安堵の溜息と笑顔で応じた。<br><br>そう！あの時はびっくりしちゃったわね。<br>由貴の思考は過去から再び戻ってくる。サッカーボールはもう八島先生の頭まで数センチの所まで迫っていた。<br>ああ、やっぱり直撃ね・・・。<br>声が出れば教えてあげることもできるのにとも思うのだが、由貴にはそれが出来ないことが経験上わかっていた。時間がゆっくりすぎて、声が言葉にならないのだ。<br>まあ、あれで死ぬわけでもないし・・・ごめんね、先生。<br>由貴は自分にできることがそれほど多くないことを実感していた。<br><br>やがて・・・時間が動き出すと同時に静かなる彫像たちの世界は崩壊し、新たな世界に悲鳴が響き渡る。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-11055124809.html</link>
<pubDate>Fri, 21 Oct 2011 23:22:42 +0900</pubDate>
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<title>ヒトを好きになる理由</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>俺はしがない高校教師。世界史を担当教科に持ち、たまに倫理や政経を教えたりもするが、あくまで世界史が専門職である。世界史とは人類の発生から、地球上で起こったありとあらゆる事象を網羅する、壮大なスケールの学問である。どれとは言わないが地球の辺境である一小国のちっぽけな国史をちまちまと教える教科とは、まるで規模もその存在意義さえも次元が違うのである。その素晴らしい学問を後の世を支える若い学生に伝える尊い・・・そう、尊い職業が世界史の教師なのである。<br>「八島先生、来年度の授業計画書を早めに提出していただけますか？」<br>校長は校長室へ呼びつけた俺に、笑顔でのたまう。俺はその問いかけに、えっ？という表情で応じてしまった。「・・・か？」と疑問形で終わっているその問いかけは、むろん俺の許可を求めているのではなく、あきらかに命令形である。<br>「来年度の・・・まだ時期的には早いんではないですか？」<br>今年度もまだだいぶ残しているというのにいくらなんでも早すぎる要求に、俺は面食らっていた。例年通りならば提出期限は３ヶ月も先の話である。それを今この時点で作成しろとは、ちょっと納得がいかない。<br>「いや、最近の社会科の成績が芳しくないので理事会の方で問題になってるんですよ。それで、進学校としては放って置けないということになりまして。」<br>つまりその出来次第では俺が首を切られるということなのか？<br>「ああ、誤解しないでください。先生の責任というわけではなくて、やはり学校の問題として放って置けないという意味ですから。」<br>校長は口の端をゆがめて薄ら笑いをしてみせる。その姿はまるで悪魔のように見える。<br>言葉通り受け取ってしまうのはあまりにも危険である。やはり、これは俺を貶める手始めと思うべきかも知れない。<br>俺は素直に了承し、校長室を後にした。<br><br>「八島先生、校長のお話何でした？」<br>職員室に戻るといかにも気さくそうに日本史の武井先生が話しかけてくる。俺が社会科の問題だという校長の話をありのままに武井先生に伝えると、武井先生は図太い首をかしげながら不思議そうな顔をする。<br>「実は先ほど私も校長室へ呼ばれたんですがね・・・そんなお話は一言もなさってなかったなぁ。」<br>その言葉を聞いてなおさら俺の疑念は深まった。つまり、世界史が問題だと校長が考えているということに他ならないのだ。俺の額に冷たいものが流れるような気がした。<br><br>まずい・・・ほんとにまずいぞ。<br>心の中で焦りの雄叫びを叫びながら、俺は廊下を歩く。<br>先日来の焦燥感が再び俺の精神を苛み始めている。<br>ここはひとつ画期的な素晴らしい授業計画書を作成し、八島が必要だと認めさせなければならない。<br>自然と両足の歩みが速度を増していたことに、俺は気づかなかった。<br>「ぎゃっ！」<br>俺は突然の衝撃に驚きのあまり、叫び声をあげてしまった。ふと目の前を見るとそこには一人の男子生徒が尻餅を付いていた。俺は思考をめぐらすあまり生徒とぶつかってしまったようだ。<br>「悪い、悪い。大丈夫か？」<br>俺は右手を差し出し、その男子生徒を起こそうとした。だがその生徒は俺をじっと見つめたまま、ぴくりとも動かない。<br>「おい、どうした？どこか痛いのか？」<br>心配になった俺は中腰になり、その生徒の肩をつかもうとした。<br>するとその生徒はびくっと体を硬直させ、怯えた表情をした。あまりにも異常な反応に俺も思わず動きを止める。<br>「・・・大丈夫ですから。」<br>その生徒の顔をよく見たが、俺の記憶にはあまりなかった。少なくとも俺の授業を選択してないということだろうが、その過敏な反応が気になってしまう。<br>俺は何か嫌われるようなことをしたのだろうか？<br>つい危機的な状況にリンクさせて考えてしまう。<br>やがてその生徒はすっくと立ち上がり、一礼をして足早に去っていった。<br>やはり世界史の信者を増やそう。<br>新たに俺の心に芽生えた決意は、しっかりとその大きな根を張ったのだった。<br><br>何かがおかしいことに気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。その間、来年度の授業計画書の作成といかにして世界史の虜を増やすかに頭を悩まし、試行錯誤しては「八島ちゃん、うざっ！」という心にもない生徒の声を無視しつつ、あらゆる布石を惜しまぬ心境に達していた頃、唐突にその事実を発見し軽い驚きを覚えた。<br>時々であるが物陰から俺を見ている生徒がいることに気づいてしまったのだ。<br>俺がふとそちらを見ると、その生徒はそ知らぬ風を装って去っていく。<br>「なぁ、あいつ誰だっけ？」<br>たまたまそばにいた智川朋子・・・通称トモトモにその生徒を指差し聞くと、トモトモは、ああ、あいつね・・・と面白くもなさそうに応えた。<br>「隣のクラスのエリートくんよ。確かねぇ、昨日お昼にカレーパン食べてたわ。」<br>聞いてもいない情報をすらすらと探偵のごとく意味ありげに話すトモトモは、俺の傍らで腕組みをする。<br>「それで名前はなんと言うのかね？」<br>賀来沢隆一よっ・・・トモトモはまるで舞台俳優のごとく両手を広げて、ポーズをとる。<br>かっこいい？・・・と聞くトモトモに、俺ははいはいと適当に相槌を打った。<br><br>賀来沢隆一という名前には聞き覚えがある。確か学年主席の超がつくほどの英才の名である。その名前は成績優秀者として他の先生方から聞いてはいたが、なにぶん世界史を選択していないので俺が実物を見る機会はあまりなかった。<br>だが、その時例の廊下で男子生徒と衝突した事件を思い出したのである。<br>そう言えばあの時のあいつだ。<br>俺はあの過剰な反応と物陰から俺を見つめる視線を思い浮かべ、嫌ぁな感覚を覚えた。まさかとは思うが想像通りの事態ならば、まさに大問題である。<br>ここはひとつ大人の対応をせねば・・・。<br>万が一にも変なことになって、学校中の笑い者になっても困るし、校長の耳に入っても困るのだ。<br><br>ところが次の日に新たな事件が俺を襲った。<br>「八島先生っ、どういうことですか！」<br>日本史の武井が職員室中に響き渡るほどの大声で、俺を詰問する。俺には何のことだかまるでわからず、はぁ？と首をひねることしか出来ない。<br>「賀来沢隆一が日本史から世界史に転向すると言ってるんですよ！」<br>俺は一瞬何のことだかわからずに呆然としてしまったが、やがて事態の深刻さにじわりと気づいてしまった。<br>我が校は学年の途中からでも、選択科目は本人の強い希望があれば変更することができる。本人の志向というか向き不向きもあるので仕方ないことではあるが、日本史の武井にしてみれば常に成績優秀者である賀来沢隆一が離脱するというのは屈辱そのものであるのだろう。それ自体は世界史の信者を増やすべく布教活動中の俺には朗報なのだが、先日来の一件がある。素直に喜べないのだ。<br>「とにかく、本人の話を聞いてみましょう。」<br>俺は武井先生にそう約束をし、職員室を出た。<br><br>俺はすぐさま賀来沢隆一を探して、教室で捕まえた。そして屋上へと連れ出し、なぜ世界史に転向するのかと問いただす。<br>「ああ、僕なら大丈夫ですよ。多少の遅れは自力で何とかしますから。」<br>賀来沢は自信たっぷりに笑顔で応じた。<br>「そりゃ頼もしい・・・じゃなくて、日本史が嫌いなのか？」<br>俺がそう言うと、賀来沢は目を空に向け小さく溜息をついた。その姿はまるで少女漫画にでも出てきそうな哀愁が漂っている。<br>俺はちょっとこの後の展開に恐れをなした。<br>まずい・・・。<br>その俺の焦りを知らずに、賀来沢は告白をする。<br>「僕の話を聞いてくれますか？」<br><br>小さい頃から・・・と賀来沢は話し始めた。<br>「僕には人の悪い心が見えてしまうんです。」<br>呆気に取られた俺はあぁそう・・・と、場違いな相槌を打ってしまった。それを無視して賀来沢は続ける。<br>「もちろんいつも見えるわけじゃなく、なんかの拍子に相手に触れたとき黒いイメージで伝わってくるんですよ。」<br>どうやら賀来沢は人のそういう部分が怖くて今まで友人を作れなかったらしい。そう言えばトモトモも、あいつ友達いないわよと言ってたことを思い出した。<br>「人には必ずそう言う部分があるとは理屈ではわかっているんですよ。でも、どうしても僕はそれが怖かった・・・。」<br>ひょっとしてこの間の廊下でぶつかった時も、それで怯えていたのか・・・と、今にして俺は合点がいった。<br>「そうなんです・・・だけど、先生は別です。」<br>なんか雲行きが怪しいぞ？<br>俺は賀来沢の口から出る次の言葉に、少し怯えた。<br>「先生には今まで感じたことのない何かがあるんです。」<br><br>「そりゃ、どういう意味だかわからないが、それが世界史に選択科目を変える理由なのか？」<br>なんとか変な方向へ話が進まないように苦心し、俺は展開に軌道修正をかける。<br>賀来沢は小さく、だがはっきりとうなずく。<br>「わかった、ならばこれ以上は聞かない。」<br>俺はその場をとりあえずそうまとめ、屋上から職員室へと帰った。そして賀来沢の意思は固いと武井先生に報告する。もちろん、途中経過は意図的にはしょる。<br>仕方ありませんね・・・と、武井は臍をかむ。俺は少しだけ痛快な心持になった。<br><br>「八島先生、武井先生に恨まれてますよ。」<br>賀来沢は小さな声で俺にささやく。廊下の角を曲がって出会い頭に秘密めいた雰囲気で、賀来沢の声が俺を苛む。<br>そりゃ、おまえのせいだろ？<br>俺は心の中でそうつぶやくが、あえて口には出さなかった。<br>「あっ、今ひどいこと考えたでしょ？」<br>賀来沢は見透かしたように笑う。<br><br>「なぁお前、人に触れなくてもわかったりするのか？」<br>誰も聞いてないことを確認しつつ俺が聞くと、賀来沢は笑顔で頷く。<br>「その人が直前に持ってた物に触っただけでイメージが見えたりしますよ。」<br>それじゃあ、これはどうだ？・・・と言って、俺は今しがた回収したばかりのトモトモのプリントを裏返したまま見せた。すると、賀来沢は人差し指でそっとそのプリントに触れ、笑う。<br>「大丈夫ですよ、何も見えません。」<br>それを聞いても俺の心は休まることはなかった。トモトモのプリントには意味不明の解答がずらりと並んでいたのだ。<br><br>その直後、俺の頭に衝撃が走る。何が起こったのかわからない俺は前のめりに倒れた。<br>「ごめ～ん、八島先生！」<br>後ろの方から聞いたことのある声が、笑いながら近づいてくる。<br>目の前には俺の後頭部に衝撃を与えたであろう凶器が転がっている。賀来沢がその凶器・・・サッカーボールを手にとり、笑いながら断言した。<br>「先生に悪意があったわけではありません。」<br>後ろを振り返ると笑顔で申し訳なさそうに近づく岡部博之がいた。俺は岡部と賀来沢の顔を交互に見つめながら、溜息をつく。<br>賀来沢よ、それぐらい俺にもわかるぞ。<br>俺はゆっくり立ち上がりながら、二人の優秀な生徒が世界史を専攻してくれていることに気づく。能天気で世界史だけは点数になる岡部と世界史能力は未知数だが全科目トップの賀来沢…二人だけではあるが確実にこれは俺の布教の成果と言えなくもない。<br><br>なんにせよ、世界史の未来はほんの少しだけ明るいようだ。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-11038836349.html</link>
<pubDate>Wed, 05 Oct 2011 16:21:10 +0900</pubDate>
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<title>我が心の内に刻まれるのは</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>スターターの手が振り下ろされるまでの間、まるで晋の心臓音だけが世界の全てであるかのように、晋は感じていた。１００メートル先のゴールではタイムキーパーのキャプテンが、こちらを見ている。<br>負けたくない。<br>その思いが晋の全身の緊張感を一瞬にして高める。自分の心音とは別にスターターの呼吸音が聞こえてくる。<br>「用意っ！」<br>掛け声共に晋は腰を上げダッシュの体勢をとった。<br>一気にスターターの挙げられた手が振り下ろされる。その瞬間、全身のばねが解き放たれたように前へ出る。<br>風の音が聞こえる。<br>足や手を前に出す一瞬一瞬が、スローモーに感じられ、まるで水中を走っているようだ。ゴールまではほんの１０秒ぐらいであるが、晋の感覚ではそれが異常に長く感じられた。<br>ゴールの直前、キャプテンの険しい表情が一瞬見えたが、晋はラストダッシュをかけた。<br><br>「悪い、悪い。寝坊した。」<br>宇阪純一は悪びれもせずに、待ち合わせの場所へとやってきた。それを冷ややかな目で及川晋は迎え撃つ。純一が時間にルーズなのは毎度のことなのだ。だから待ち合わせもそれを見越して時間を決めているつもりであった。<br>今日はいくらなんでもひどすぎる・・・。<br>晋はもうかれこれ小一時間、この寒空の下で純一を待っていたのだ。<br>「お前さ、なんでそういつもいつも人を待たせるの？」<br>怒っている晋の言葉に両手を合わせて謝る純一は、なんかおごるからさ・・・と頭を下げる。<br>「昼飯お前のおごりだからな。」<br>今日は純一と連れ立って、スパイクを買い、ついでに映画を見る約束をしていたのだ。<br>「で、昨日のタイムはどうだったんだ？」<br>純一はパスタを頬張りながら、聞いた。食ってから聞けよ・・・と言わんばかりに晋はしかめ面をする。<br>「１１秒５１・・・。」<br>ふ～んと言いながら、純一は水を飲む。<br>「あんまり調子良いとは言えないな。」<br>お前だったらインハイ優勝もありだと思ってたけど・・・と、真顔で言う。それを聞いて晋は、はいはい、ありがとよ・・・と受け流した。<br>「でもさ、俺自身はそんなに調子悪いとは思ってないんだけどね。」<br>インハイなんて来年さ・・・と、晋ははき捨てるように言う。<br>その頃にはキャプテンは卒業していない。県予選に出場できるのはまちがいないが、晋は自身を納得させることが出来ていなかった。<br>「次の大会の代表に出たかったけどなぁ。」<br>昨日のタイムではどうあってもキャプテンにはかなわない。<br>「無理なのか？」<br>純一はサラダを口いっぱいに頬張りながら無遠慮に聞くが、晋は苦笑いをするしかなかった。<br><br>我が校の陸上部では代表選手の枠を、各競技毎に一人と決めている。その枠をめぐって来週からの計測でいいタイムを出さなければいけないのだ。<br>そして今のところ１００メートル走の候補は晋とキャプテンの二人。<br>キャプテンが３年生でありながら夏を過ぎても未だ引退していないのは、陸上で大学推薦が決まっており、なおかつ今度の大会で優勝するとユニバーシアードの強化選手に来年呼ばれる可能性があるからだ。春の選考で選ばれるためには少しでも実績がほしいのだ。<br>その気持ちはわかるが、晋にしてみればキャプテンがいつまでもその枠を独占していれば、出番は今年のうちに回ってこない。<br>同じ陸上部とはいえ、負けるのは悔しい・・・。<br>晋はとにかく勝たねばならないと、心に決めていた。<br><br>「くそっ！」<br>晋の口から思わず出た悪態に、キャプテンは顔をしかめる。<br>「気持ちはわかるがな・・・フォームもスピードも見た目には悪くないんだ。そんなに落ち込むことないぞ。」<br>キャプテンの慰めは晋の耳には痛いほど突き刺さる。<br>今日の計測でもいいタイムが出ないのは何かしら原因があるはずなのだが、結局は誰にもそれが何であるのかわからない。そのジレンマが思わず晋の口から悪態となって発露されたのだ。<br>「もう、あまり時間はないが、とにかく納得のいくまで走りこめよ。」<br>キャプテンのアドバイスは、至極まっとうなものであった。<br><br>「ふーん、それで今日も機嫌が悪いんだな。」<br>純一の言葉がささくれだった晋の心を逆なでする。<br>「だって、何が悪いのか全くわからないんだぜ。もうどうすればいいのか・・・。」<br>晋は思わず言ってしまった自分の声に驚く。純一を見ると、その表情が晋の荒んだ心をまるで反射してるかのようだった。<br>「悪いのが何かわからないけどさ、スパイクにスプリングでも付けてみる？」<br>純一は苦笑いをしながら、軽口をたたく。晋は、悪い・・・と素直に謝った。純一との付き合いは小学校からなのでお互いのことは知り尽くしていたが、純一が親友であったことが晋にはありがたいと思った。<br><br>キャプテンが走る時は必ず晋はタイムキーパーをする。逆に晋が走る時はキャプテンが計測するのだ。<br>スターターが用意の声をあげる。晋はストップウォッチのボタンに親指をかける。<br>その時、晋の心の中に黒い疑念が突然湧きあがってきた。<br>もし、キャプテンが故意にストップウォッチのスタートボタンを押すタイミングを遅らせていたなら・・・。<br>スターターがこちらの合図を待っているのが見えた。晋の準備がいいか確認しているのだ。晋は慌てて手を振る。<br>スターターの掛け声と同時に手が振り下ろされるのが見える。晋はとっさに親指に力を入れた。<br><br>「１０秒５２です。」<br>晋は心を押し殺し、肩で息をしているキャプテンに告げる。片目で晋を見て軽く手を挙げ、キャプテンは首を振る。<br>「スタートでしくじった。」<br>次は晋の番だ。キャプテンにストップウォッチを手渡し、晋は後ろを振り返る。<br>もし、キャプテンが不正行為をしているのなら・・・そう思うと、晋の心にふつふつと怒りが込み上げてくる。だが、何の確証も証拠もないのだ。<br>とにかく全力で走ろう。<br><br>「それで昨日はどうだったんだよ？」<br>純一はいつものように軽く聞いてくる。晋は思わずどんよりとした気持ちを声に出していた。<br>「１１秒２８・・・。」<br>あの後、力の入れすぎで体が思うように動かず、自滅してしまったのだ。そのことを考えると晋は後悔でため息が出てしまう。<br>「ふ～ん、この間よりも良いけど、その様子じゃ何かやらかしたろ？」<br>純一は晋をよく知っているのだ。キャプテンへの疑念とその結果自滅してしまったことを告げると、純一はやはり苦笑いをする。<br>「晋らしいな、まったく。」<br>今日の部活ではうまくいくさ・・・と、肩をたたく純一に晋はやはり溜息で応じるのだった。<br><br>「さあ、今日はどっちから行く？」<br>キャプテンは軽く屈伸をしながら、晋に尋ねた。晋は自分から行きます・・・と応え、返事を待たずにスタート地点へ歩き出す。キャプテンの顔を見ていたら、再び昨日のように自滅しそうな気がしたのだ。<br>軽くジャンプをして体の緊張をほぐす。両手両足を交互に振り、最後に伸びをする。<br>今日こそはキャプテンを抜く。<br>晋の決意はキャプテンへの疑念を吹き飛ばすかのごとく、強く激しかった。<br>「晋っ！がんばれよぉ！」<br>突然、声をかけられて驚くと、そこには手を振っている純一の姿があった。<br>まるで決勝戦であるかのごとく大げさに両手を振る純一の様子を見て、晋は思わずくすりと笑う。<br>スターターが咳払いをした。慌てて晋はポジションにつく。<br>スターターの手が振り下ろされた。<br><br>「１１秒３５だ。」<br>キャプテンの声は晋にまるで死刑宣告のように聞こえた。<br>今の走りは晋にとって、最高の走りだった。ゴールを走り抜けた時、まるで空気が違うかのような錯覚まで感じたのだ。ところが、結果は最悪だった。<br>「キャプテン、今のタイムおかしくないですか？」<br>晋は思わず語気を荒げてキャプテンをにらむ。<br>「何がだ？」<br>張り詰めた空気が二人の間に出現する。晋は怒りで自分が制御できなくなりつつある自覚があった。が、あえてそれを押しとどめようとも思わなかった。<br>あきらかに最高の走りをしたはずなのに、タイムが出ないのはキャプテンに原因があると確信したからだ。<br>「まあ、待てよ。晋。」<br>二人の間に純一が割って入ってきた。<br>晋はキャプテンをにらんだまま、純一がなぜ割って入ってきたのか考えることもしなかったが、やがて純一の手が晋の肩に触れるとはっと我に返る。<br>「先輩、つかぬ事をお聞きしますが、ひょっとして先輩も最近タイムが悪い時があったりしませんか？」<br>純一のセリフは唐突過ぎて、晋には理解しがたかった。<br>キャプテンは純一に先輩と呼ばれて一瞬顔をしかめたが、うなずく。<br>「時々な・・・それがどうかしたか？」<br>純一はそれを聞きながらうんうんと首を縦に振る。<br>「原因はそれですよ。」<br>純一が指差したのは、キャプテンが握り締めているストップウォッチであった。<br><br>純一はキャプテンの持っていたストップウォッチを右手に、そしてもう一つ左手に持ち数字の出るパネルの方を二人に向けて、ささげるように見せた。<br>「見ててくださいよ。」<br>そう言うと同時にスタートボタンを押し、そして同時にもう一度ボタンを押した。<br>キャプテンの表情があきらかに驚いているのが晋にはわかった。そして、晋にもその理由がゆっくりと理解できていった。<br>左手のストップウォッチは１０秒００、そして右手のストップウォッチは１１秒０２であったのだ。<br>純一は晋に向かって、片目をつぶってみせる。<br><br>「なぁ、どうしてあれが故障してるってわかったんだ？」<br>部活が終了して純一と一緒に下校した晋は、感謝しつつも不思議に思ってた疑問を口にしてみた。あの時純一が割って入ってこなければ、ひょっとしたら晋はキャプテンに殴りかかっていたかもしれない。そうなっていれば、言い訳は出来ない。まず間違いなく代表にはなれなかっただろう。<br>「さあてねぇ。」<br>純一は済ました顔でそっぽを向く。<br>明日あらためて計測をしそこで代表を決めるとキャプテンに言い渡された時、晋は純一に感謝してもしきれないと思っていたのだ。<br>「そういえば、故障してない方が１０秒００って驚きだな。お前にあんな特技があるとはなぁ。」<br>晋はあの時の純一の顔を思い出した。今にして思えば、あの時純一は確信を持ってボタンを押したように思える。<br>１０秒００・・・。<br>「純一、白状しろよ。」<br>晋はにらみながら、純一の肩を軽くつかんだ。<br>「ああ、もう！しょうがねぇなぁ・・・。」<br><br>純一の話はすぐには信じられなかった。だが、いつになく純一が真面目に話していると理解した晋は、信じることにした。<br>「俺さ、頭の中に時計があるんだよね・・・。」<br>だから正確に時間がわかっちゃうわけ・・・と軽く言ってはいるが、嘘でないと晋にはわかっているのだ。別に時計が埋め込まれているわけじゃなく、ただ見えるのだと純一は言う。<br>「だからさ、あの時ぴんと来ちゃったわけ。」<br>物心ついたときから正確な時間がわかってしまうのだと、溜息をつきながら純一は告白する。そう言いながら晋に携帯電話出させ、時間を確認しろと指示した。<br>「・・・はい、今７時１５分ちょうど！」<br>晋は驚きのあまり、携帯電話を落としそうになった。確かに秒数まで正確に当たっているのだ。<br>「お前すごいな！」<br><br>「悪い悪い！待った？」<br>純一は悪びれずに駅前で待っていた晋に、片手を上げて謝る。今日は買い物に付き合う約束をしていたのだ。<br>「お前さ・・・。」<br>晋は思わず溜息をつく。<br>毎度のことだが晋は純一に待たされることに慣れてしまった自分が、ちょっとだけ情けなく思っていたのだ。<br>駅前の雑踏で待たされている間、待ち合わせ場所を間違えてしまったと後悔していたのも確かに影響している。周りはまるでカップルばかりで、まさか遅れてくるのが男だと周りが気づいたらきっとみんな笑うに違いない。<br>「今日こそは遅れずに来るんじゃなかったのか？」<br>そうは言ってみたが本気で怒るつもりは晋にはない。先日の一件以来、未だに純一への感謝の念は消えていないのだ。<br>「いやぁ、目覚ましが壊れてさ、寝坊しちゃった。」<br>まぁいいか・・・と、晋はあきらめて一・二歩歩いたところで立ち止まり、急に振り返る。<br>「お前、時計が見えるんじゃなかったっけ？」<br>すると純一はばれたかとでも言うようにペロリと舌を出す。<br>晋は思わず笑ってしまった。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-11029448767.html</link>
<pubDate>Sun, 25 Sep 2011 22:31:29 +0900</pubDate>
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<title>夢の器</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>斜め前の窓際の席にはいつも外を眺めている女子が座っている。彼女は何を見ているのだろうと、同じ方向を見たりもするが、特に何の変哲もない校庭がそこにあるだけだ。<br>「おい、弓場！よそみすんなよ、一応授業中だぞ。」<br>世界史の八島先生が注意するが、黒板を見るふりをしたと思ったらまたすぐに外へと視線を移す。<br>別に世界史だけではなく、授業のほとんどを外を眺めて過ごす・・・そんな彼女がいつの間にか気になってしまう。<br>「それは恋だな。」<br>陽子はにこやかに私の肩をたたく。<br>「その冗談・・・笑えない。」<br>私は冷たく返すが、陽子はおかまいなしに笑い声を上げる。<br><br>クラスの女子は全員が仲がいいわけじゃない。いつも話をするのはほんの数人・・・その他の人たちとはあまり話したことがない。彼女・・・弓場加奈子ともわずかばかりの言葉を交したことがある程度で、彼女のことはほとんど何も知らない。<br>「そうね・・・あたしも話したことないなぁ。」<br>菊田陽子は思い出すふりをする。だが、考えているのは別のことに違いないと私は思った。<br>私は休み時間も一人で外を見つめている彼女を見つめながら、誰かと仲良くしているのを見たことはないと思い出す。<br>「聞いてみるしかないわね・・・、行くわよ！」<br>陽子は動き出したら止まらない。私も仕方なく、陽子に引きずられるまま彼女の席へと近づいた。<br><br>「窓の外になんかあるの？」<br>陽子は物憂げに窓の外を見つめる彼女と同じ方を見ながら、ずけずけと話し掛ける。<br>私はそれを横で見ながら苦笑する。<br>陽子の性格はほんとトクね。<br>いきなり話し掛けられて驚くかと思っていたのに、彼女は落ち着いて私たちの方へと向き直る。<br>「特に何もないわね・・・。」<br>彼女の声が少しハスキーだったことに、私は驚く。<br>そんなことさえ私は知らなかったんだわ。<br>「あのね、弓場さんっていつも外ばっかり見てるじゃない？何を見てるのか気になってるんだって、紗江がさ。」<br>陽子はすっかり私のせいにしてしまった。二人の視線を受け止めながら、私はため息をつく。<br>加奈子でいいわよ・・・と、彼女は笑った。<br>「色々と悩みがあるのよ。」<br>なになに？話してみなさい・・・と、陽子はノリノリで身を乗り出した。<br><br>「私ね・・・夢を見るのよ。」<br>かなりリアルな夢・・・そういう加奈子の声は疲れているようだった。<br>「夢は私も見るけど・・・そんなに大変な夢なの？」<br>私はそう聞いたが、夢ぐらいで・・・と軽く考えていたのも確かである。だが、加奈子の様子はそんな軽い悩みではないと物語っていた。<br>「私ね、見た夢全部憶えてられる体質なのよ。しかも、全てリアルだから疲れるの。」<br>今ここにこうしてるのも夢と区別がつかない・・・と、加奈子は真剣に言う。私は思わず陽子と顔を見合わせる。<br>どんな夢見るの？・・・と、陽子が聞く。<br>「それが普通の生活なのよ。朝起きて、学校行って、家に帰ってご飯食べて寝る・・・それだけ。」<br>つまり寝ると起きて目が覚めて、夜寝ると夢の中で起きて、その繰り返しよ・・・と、加奈子はため息混じりに話した。<br><br>「脳みそが沸騰しそうね。」<br>陽子の表現はちょっと理解しがたいが、私は今回ばかりは賛同した。<br>つまり加奈子は２４時間ずっと起きてる状態ということなのである。その辛さは並大抵ではないだろう。<br>「病院とかに行ってみた？」<br>加奈子は首を横に振る。<br>精神病とでも診断されてしまうのがオチだわ・・・と、ため息混じりにつぶやく。<br>「実はね・・・それだけじゃないのよ。」<br>あまり言いたくなさそうに俯く加奈子に、陽子がわざとらしく耳を向ける。<br>「私の見る夢ね・・・予知夢なのよ。」<br><br>加奈子の告白に陽子は明らかに興ざめしたようだったが、私は逆に興味が沸いてしまった。<br>「予知ね・・・あたしの友達にも空見ながらそういうこと言うのがいるけど・・・。」<br>陽子はそう言いながら、目を細める。明らかにその手の話が嫌いなのだ。<br>予知夢・・・夢の中でこれから起きることを体験することができるのなら、それはすごいことだと思う。<br>「でもね、私の見る夢は必ず実現しないのよ。」<br>加奈子はため息をつきながら、そう言った。未来というのはいくつかの可能性を持っている。その中のひとつを実現させることがその他の可能性を消滅させることだと。そして、加奈子が見るのは消滅してしまう未来だというのである。<br>「なんでそんなことがわかるのよ。夢は単なる夢に過ぎないじゃない。」<br>そう言い切る陽子に加奈子は怒ると思いきや、逆に同調するようにうなずく。<br>「そうなのよ、実現しない予知夢はしょせん夢に過ぎないわ。」<br>だから、夢の中でも別の生活をしている自分の徒労感も理解できるでしょ？・・・加奈子はそう言った。<br><br>「ともかく・・・脳みそが沸騰しなきゃいいわけよね？」<br>陽子は予知夢の話を無視しつつ、そう言い放った。<br>「ねぇ、お昼寝しても夢は見るの？」<br>私は気になって聞いてみたが、加奈子はやはりため息をつきながらうなずく。授業中とかに居眠りしてみたこともあったそうだが、結果同じであったという。<br>「だから、あまり頭を使わないように外を見てるのよ。」<br>私は納得する。もし今の話が本当ならば、どうやっても陽子的に言えば脳みそが沸騰してしまうに違いない。<br>「わかったぁ！」<br>唐突に陽子が声を上げる。驚いて私たちは顔を見合わせた。<br><br>「何がわかったの？」<br>私の問いに陽子は実にすがすがしい顔でにこやかに笑顔を返す。<br>「要はちゃんと脳みそを休ませられればいいのよ。」<br>それはわかってるよ、陽子。<br>私は言葉にしなかったが、目で訴えかける。しかし、陽子はそんなことはおかまいなしだ。<br>「どうすればいいの？」<br>加奈子は真剣に問いかける。よっぽど切羽詰ってるんだわ・・・私はそう理解した。<br>「簡単よ。」<br>陽子は誇らしげに胸を張る。<br>「寝ればいいんだわ。」<br><br>寝れば夢を見ちゃうじゃない・・・私はそう言ったが、陽子は人差し指を立ててそれをさえぎる。<br>「寝るのは夢の中でよ。現実でじゃないわ。」<br>やはり陽子の言ってることが理解できない私は、首をひねる。<br>陽子は、まあ聞きなさい・・・と自信ありげに言い放った。<br>「つまりこうよ。加奈子の見る夢は実現しない予知夢だから、夢で見たことは実現しない。現実では寝れば夢を見るのだから、夢の中で寝れば夢は見ないはずよ。」<br>どう？と自慢げな陽子に加奈子は目を輝かせる。なんだかなぞなぞのような話で、私にはよくわからなかった。<br>「やってみる！」<br>加奈子はうなずく。<br>まあ、それでうまくいくなら私が口出すことでないわね。<br>私はそう思って、がんばって・・・とだけ言っておいた。<br><br>次の日、加奈子のすがすがしい顔を見るまで実はうまくいくとは思っていなかった。だが、加奈子は昨日までの疲れきった様子がうそのように明るい笑顔で登校してきた。そして、陽子の顔を見るなり、うれしそうに両手をとってありがとうと言った。<br>「うまくいったのよ！夢の中でちゃんと寝れたわ。」<br>よかったわね・・・そう言いつつ陽子は何のことかわからない様子であった。<br>自分で言ったことをもうすで忘れているのである。陽子らしいといえば陽子らしい。私はそれに気づいて代わりに加奈子に尋ねた。<br>「夢の中で寝て、夢は見なくて済んだのね？」<br>私の言葉で陽子はようやく思い出したようで、納得した顔つきになった。だが、加奈子は首を横に振る。<br>「夢はやっぱり見たわ・・・。」<br>そう言った加奈子の顔はすっきりしていた。私は納得できない応えに、首をひねる。<br>「見たのは普通の夢っぽかったのよ。リアル感は全くなかったわ。」<br>こんなにすっきりしたのは何年ぶりかしら・・・そう加奈子はうれしそうに言う。陽子は私のおかげね・・・と誇らしげであったが、妙に納得のいかない私はため息をつく。<br>まぁ、これでよかったのかしらね。<br>「で、どんな夢だったの？」<br>つい聞いてはみたが、私はそれほど気になっていたわけじゃない。陽子はすでに興味をなくしている様で、自分の席へと戻ってしまっていた。<br>「それがね・・・明日から学校が休みになるのよ。理由はわからないけどね。」<br>廊下の外でうれしそうな声で奇声をあげる男子の声が聞こえ、加奈子の言葉の後半はあまり聞こえなかった。廊下を見ると、隣のクラスの岡部が万歳をしながら走り回っている。会った人間全てに握手をしてまわってる姿は、まるで選挙にでも当選したかのような勢いであった。<br>おかしなやつだとは思ってたけど、関わりたくないわね。<br>そう思いつつ、加奈子を見遣り笑顔で頷いた。<br>「ともかく、心配事がなくなってよかったわね。」<br>私の言葉に加奈子も、やはり大きく頷いた。<br><br>次の日から一週間学校はインフルエンザで休校となり、夢は正夢となる。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-10776722150.html</link>
<pubDate>Sat, 22 Jan 2011 23:38:01 +0900</pubDate>
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<title>犬には犬のわけがある</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>また俺を見てる。<br>登校途中で散歩途中のドーベルマンが、飼い主の意思を無視して道路の中央で立ち止まり、俺の方をじーっと見たまま動かない。口元は舌をたらしたまま、俺が動くのに合わせて頭を動かす。<br>気のせいかもしれない。<br>俺も少し立ち止まってみる。すると、なめらかに動いていたドーベルマンの頭が俺の方を見たまま、ピタリと止まる。<br>それだけではない、俺が見返しているがわかったかのように、ドーベルマンは真一文字に閉じた口の端を吊り上げる。まるで人がするような冷笑だ。<br>やがて満足したかのように、飼い主のリードに従い、ドーベルマンは去っていく。<br>俺は複雑な気持ちのまま、再び歩き出す。<br>俺の周りではこんなことがしょっちゅうある。<br><br>「犬ってさ、笑ってるように見えても実はそれ、威嚇の場合が多いんだぜ。」<br>一也は物知り顔に人差し指を立てる。どこで覚えてきたかわからないうんちくは、湯水のように一也の口から漏れてくる。<br>「それに犬が笑うのはおかしいからじゃなくて、うれしいからなのさ。」<br>そうだろうか・・・俺にはそうは見えなかった。今朝のあれはどう考えても威嚇にも喜びの表現にも見えない。<br>「そう考えるとさ、健って犬によっぽど好かれるのか嫌われるのかどっちかだよな。」<br>笑いながら一也は断定する。どっちにしろうれしくもない。<br><br>その日の帰り道、土手傍の道を一人で歩いていた時である。すぐ脇の叢に囲まれた空き地で叫び声を聞いた。道の方からは何が起きているのか見えないが、子供の泣き声混じりの声である。俺は慌ててその空き地へ飛び込んだ。<br>「たすけて！」<br>３匹の野良犬に囲まれたランドセルを背負った少女が、泣きながら空き地の隅へ追い詰められていた。<br>「何をしてる！あっちへ行け！」<br>俺が叫んだ途端、四組の目が俺に向けられることになった。一組は少女の涙のたたえられた懇願するような瞳である。残る三組の獰猛そうな目が俺を見つめる。<br>それまで聞こえていた唸り声が、一斉に止む。三匹はむき出していた牙を引っ込め口を閉じ、俺の方へと向き直る。その状態が１分も続いただろうか。一匹が口の端を少し吊り上げ、顔をゆがめたかと思うとその場を後にして空き地から撤退していった。他の犬たちもそれにならう。<br>後に残された少女はその場にへたり込み、涙を流していた。<br>「大丈夫かい？」<br>俺が少女に声をかけるよりも早く、後ろから一人の男が少女へと声をかけた。少女はしゃくりあげながらも頷き立ち上がる。<br>「保健所か警察に連絡しておいた方がいいな・・・。」<br>俺に向かって同意を求めるようにその男は言った。俺はそうですね・・・と、さっきの野良犬たちの去った方を見ながら応えた。<br>「それはボクがやっておくよ。それよりも、君・・・。」<br>男は眼鏡をフレームを右手で少し上げながら、俺をじっと見る。<br>「あの犬たちに何かしたのかい？」<br><br>確かに傍から見れば、あの野良犬たちの行動は少しおかしく見えるだろう。場合によっては俺自身が指示を出しているように見えなくもない。<br>「特に何もしてません。」<br>何かをする前に犬たちは去っていったのは間違いない事実である。<br>「あいつら何か君をじっと見つめていたように見えたんだけど、気のせいかな？」<br>威嚇していたようには見えない・・・とその男は言った。<br>「昔から犬とは相性が悪いんです。」<br>そう・・・相性が悪いと言ってしまえば、何もかもそれで片付けられる。だが、俺自身が感じているようにその男も納得できない何かを感じたようだ。<br>男は携帯電話を取り出し、数箇所電話をかけた。その後数分してパトカーが来て、少女は警官に送られていった。後に残された俺と・・・若林と名乗るその男は、残った警官に事情聴取を受け解放されたのは結局３０分後であった。<br><br>「ちょっと話があるんだ。どっかでお茶でも？」<br>どう？・・・と若林は俺に聞く。警官からようやく解放されて、とにかくすぐにでもこの場所から離れたかった。だからといって、これ以上の詮索はされたくもない。<br>「最近このあたりで、野良犬の集団が人を襲ったりしてるの聞いたことがない？」<br>誘いを断ろうとした矢先に、若林はそう俺に言った。<br>すると、今のやつらが・・・？<br>「実はボクもそう思ったんだけどね、もっと多い数なんだ。ひょっとしたらその一部かもしれないけど。」<br>若林はそう言いながらポケットから名刺を取り出し、俺に渡した。<br>「・・・フリーライター？」<br>若林はうなずく。<br>つまりこの事件を調査しているということか・・・。<br>「さっ、行こうか。」<br><br>強引に若林に連れてこられたのは、近くのファミレスである。勧められるまま、コーヒーを注文する。<br>「君がさっき犬たちに立ち向かってた時、実はちょっと不思議に思ったことがあるんだ。」<br>おもむろに若林はそう話し始める。<br>「犬というのは元来威嚇をする時は吠えるなり、唸るなりするもんだろう？ところがやつらは君の姿を見るなり、唸るのを止めてしまった。」<br>俺はやっぱり疑われてるのか？<br>「いやいや、そんな怖い顔しなくてもいいよ。別に君を疑っているわけじゃないから。」<br>若林は笑いながら、そう言った。<br>「むしろ、君は彼らにとってあまりうれしくない相手なのかもしれないと思ってさ。」<br>君だってそうだと言ったじゃないか・・・そう言いながら、若林は来たばっかりのコーヒーに砂糖とクリームを入れ掻き混ぜずに一口すする。<br>この人、何が言いたいんだろう？<br>俺は疑問をそのまま表情に出していたことに気づかなかったが、若林はそれを見てみぬふりをする。<br>「犬と相性が悪いと言ったよね・・・それ、どういう意味？」<br><br>仕方なく、俺は身の回りで起こる犬の不思議な行動を少しずつ話した。それを聞きながら若林は合間合間にうなずく。<br>「つまり、君が思うに犬たちは、君をじっと見て去っていくと言うんだね？」<br>犬だけかい？と聞く若林に、思わずはいと返事をしてしまった。それが悪いと言うわけではないが、いつの間にか若林のペースに乗せられてしまっている気がしたのだ。<br>「ちょっと、実験をしてみないか？」<br>若林はそう言うと、伝票をおもむろにつかみ、立ち上がる。俺は若林にせかされるまま、店を出る。<br><br>目の前の通りの向こう側にペットショップが見えていた。若林は想像通り、俺を連れてそこへ行こうとしていた。<br>「ちょっと待ってください。なんとなくわかりますが、そんなことしてなんになるんです？」<br>若林は歯を見せて笑う。眼鏡の銀縁が日差しにきらめいて、怪しく見える。<br>「興味ないのかい？君がなぜ犬たちに注目されているのか。」<br>確かに気にはなっていた。だが、どうしたら答えが見つかると言うのだろう。<br>言われるまま、俺はペットショップに入った。<br>店の中は獣のにおいで充満している。左手にはたくさんの子犬たちが入れられた檻が並べられていた。それまで思い思いに鳴いたり寝転んだりしていた子犬たちは、俺の姿を見るなり一様にそのまま静止する。そして俺が動くのに合わせて、視線を移動させていった。<br>「すごいね・・・正直驚いた。」<br>若林は右手であごを触りながら、そう言った。<br>「次行こう、次。」<br>ペットショップを出て、タクシーを停め、俺を中へと押し込むように乗り込んだ。<br><br>着いた先は動物保護センターだった。近隣の野犬や野良猫を保護という名のもとに集積される施設である。<br>若林は所員と話をつけに事務所に入って行ったが、数分もかからずに所員と供に戻ってきた。やがて、その所員に案内されるままに犬の保護所へと向かう。<br>離れていても犬たちの鳴き声がうるさいぐらいに聞こえてくる。<br>扉が開き、所員が先に入り、次に若林、最後に入っていくと檻に入れられた小汚い犬たちが一斉に俺を見る。それまで耳を劈くような泣き声が見事に止み、その場に静寂が訪れる。<br>その様子を見ていた所員がまるで妖怪にでも会ったかのように呆然とする。<br>「君には犬たちに注目されるような何かがあるんだよ。」<br>そこを出た後、歩きながら若林はそう言う。<br>「犬は聴覚や嗅覚に優れている。君から犬笛のような超音波や特殊な匂いがするのかとも思ったが、どうも違うな。そうであれば離れたところからでも同じ効果があったはずだ。だけど、犬たちは明らかに君を見た上で何かを感じたようだ。」<br>そう言いつつ俺をなめまわすように見るが、若林は首をひねるばかりである。<br>結局のところ、何も解かりはしないのだ。<br>「君は人間だよね？」<br>若林はそう言って笑う。<br><br>俺と言う存在は犬たちにとって目障りなのだろうか？<br>日常的な生活の中で街には犬が溢れている。俺が行く先々で犬のいない場所はない。シェパードやレトリバーのような大型犬からスピッツのような小型犬までが、一様な反応を見せる。俺には何がなんだかわからないが、彼らにとってそれは意味のあることなのかもしれない。もちろん、そうでないかもしれない。<br><br>今も通りの反対側の二階の窓から、薄茶色のフォックステリアが俺をじっと見ている。<br>俺はそれを立ち止まって見返していた。<br>俺に何か言いたいことがあるのか？<br>フォックステリアはニヤリと笑ったように見えた。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-10752768388.html</link>
<pubDate>Thu, 30 Dec 2010 19:23:53 +0900</pubDate>
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<title>素敵な人生</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力が全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>俺は高校のしがない世界史担当の教員である。たまに政治経済や倫理も教えたりする。だが、社会科というのは元来人気のない科目である。唯一、生徒の興味をひく社会と言えば日本史なのだが、昨今の歴史ブームと大河ドラマの影響で日本史の担当はちょっとした人気者になっている。一方、同じ歴史とはいえ世界史はというと意味のわからないカタカナ名詞のせいで全くの不人気。当然、俺もその影響を被っている。<br>「いやぁ、最近の女生徒の興味はわかりませんなぁ。」<br>おおらかな笑い声と共に日本史の武井先生が職員室へ帰ってきた。授業が終わってからも教室で質問攻めにあっていたようだ。俺は誰にも気づかれないように、小さく舌打ちをする。<br>一昨年までは俺と同じフィールドに立っていたくせに・・・。<br>思い返せば、去年からなんだか日本史と世界史の差が出てしまっていたような気がする。特に今年は極端だ。<br>「八島先生、今日は終わりですか？」<br>ええ、まぁ・・・と曖昧な返事をして、俺は席を立つ。あんたがグズグズと女生徒の人気取りをしているから、遅くなったんだろう？・・・とは言えるはずもない。愛想笑いをしながらお先にと職員室を出る。<br>最近の世の中は何かが間違ってる。<br><br>職員室を出ると、誰もいない廊下で一人佇む女生徒を発見した。どうやら職員室に入ろうかどうしようかと迷っているようだ。<br>「何をやっているんだ？こんなところで・・・。」<br>俺はどうせまた日本史の武井にでも質問しに来たんだろうと勝手な解釈のもとに、ぶっきらぼうに詰問する。すると、その生徒はパッと俺の顔を見て目を輝かせた。<br>おや？<br>俺は何か様子がおかしいことにようやく気づいた。<br>「よかったぁ、八島ちゃん探してたのよ！」<br>よく見るとその生徒は俺が教えている２年の智川朋子・・・通称トモトモである。<br>「職員室ってなんだか気がひけるじゃない？もう、帰ろうかと思ったわよ。」<br>そんなのは俺のせいじゃない・・・と思いつつも、俺はこいつに質問されるような興味をひく授業をした憶えがないとも思った。<br>「なんで俺を探してたんだ？」<br>猜疑心の塊となった俺は、下げた目じりをキリリと上げ、再び詰問モードへと変ったのだった。<br>「あのね・・・八島ちゃんを見込んでさ、相談があるんだよねぇ。」<br><br>「進路相談なら担任か進路指導の先生にしろよ。」<br>俺がそう吐き捨てるように言うと、トモトモは違うよっ！と即座に否定する。<br>「八島ちゃんじゃないとダメなのよっ。」<br>そうまで言われてうれしくないわけがない。俺はわかったとうなずく。ここでいいところを見せておけば、また一人世界史の信者を増やせるかも・・・と俺は計算したのだ。<br>「・・・で、相談ってなんだ？」<br>俺がこれ以上もないくらいやさしく聞くと、トモトモは急にモジモジし始めた。<br>「あのさ・・・笑わないで聞いてくれる？」<br>なんだかよくある会話の展開に少し辟易しながら、大げさにうなずく。するとトモトモは意を決したように語り始めた。<br>「あたしさ・・・幻覚が見えるの・・・。」<br>俺はとっさに病院へいけ！と、叫びそうになって止めた。先日同じこと言ったために学校中が酷い目にあったばかりだ。俺の言葉を真に受けた一生徒が病院からインフルエンザを持ち帰ってきたために、学年閉鎖になってしまったのだ。かく言う俺も３日ほど入院した。<br>ここはひとつ慎重になるべきだ。<br>「あー、幻覚ってどんなモノが見えるんだ？」<br>どうせ幽霊が見えるとか、ちいさいおじさんが踊ってるとか、そんなやつだろうと俺は想像した。<br>「最初はさぁ、なんか色付きのガスかなんかだと思ったんだよね。ほら、よくあるじゃん。サリンとかの・・・。」<br>サリンがよくあったら困るが、舞台とかの演出用スモークのことだろうと勝手に解釈した。<br>「でもさ、ああいうのって必要があるから出るじゃん。」<br>まあ、確かにそうだろうな・・・と、俺も同意する。細かい突込みどころを全部気にしてたらキリがないからだ。<br>「でもさ、どこにでも出るんだ。色つきのガス・・・。」<br><br>いつも見えるわけじゃない・・・と、智川朋子（通称トモトモ）は力説する。<br>「すっごい集中した時とか、体育した後とかに見えるんだ。」<br>やはり専門外の相談であると、俺は心の中で思った。だが、ここで引き下がっては教師の面目が立たない。<br>「集中すると見えるわけか・・・じゃあ、授業中とかテストの時も見えるってわけだな。」<br>トモトモは悪びれなく、首を横に振る。<br>「全然。」<br>一瞬、口をあんぐりと開けてフリーズしてしまったが、気を取り直して引き続き質問した。<br>「今も見えるのか？」<br>トモトモはやはり首を横に振る。<br>「だって今集中してないし。」<br>ちょっと複雑な気持ちで俺はうなだれた。<br>「そういえばさ、この間学校休みになったじゃん。あの前の日が一番すごかったよ。」<br>思い出したくもないが、あの日は俺も体調が最悪で授業が終わった後昏倒し、救急車で病院に運び込まれたのだ。その時、ひとつの事実を俺は思い出す。<br>「あれ？お前あの日休んでただろ？」<br>確か倒れる直前の授業はトモトモのクラスであった。しかし、記憶に間違いがなければ教室にトモトモの姿はなかったはず。<br>「あの日さ・・・。」<br>トモトモは厳かに語り始めた。<br><br>私ちょっと寝坊しちゃったんだ・・・と、トモトモは舌を出す。<br>「朝ご飯を食べて家を出るとバスは行っちゃうし、しょうがないから走ったのね。」<br>近道をして２０分間走りつづけ、ようやく校門にたどり着いたとトモトモはその時の苦労を語る。<br>「校門が見えるところからちょっと変だなって思ったんだ。だってさ、歩くと何かが足元から飛び散ってるし、ぱふって感じで。」<br>我が校の校門前は全舗装道路である。砂や土の道路であればひょっとすると土ぼこりが、ぱふっと舞い上がるかもしれないが、そんな要素は全くないはずである。<br>「で、校門入る瞬間に見えちゃったのっ。校舎がぁ。」<br>当たり前のことを平然と言うやつだなと思いつつ、この話はどこまで聞けば終着点を迎えるのだろうと不安がよぎった。<br>「校舎がなんだって？」<br>トモトモはまるで汚物でも見るようないやぁな顔つきで、声をひそめる。<br>「校舎の中から、じわっと何か黒いガスみたいのが出てるじゃない。もう、あたし気持ち悪くなっちゃってさ。そのまま、帰っちゃったのよ。」<br>色がきれいならまだ我慢できるけどさ・・・とか言いながら、トモトモはやだやだと首を横に振る。<br>幻覚にかこつけた登校拒否じゃないかと思ったが、気にかかったことを口にしてみた。<br>「お前はインフルエンザにはかからなかったんだな？」<br>ははは・・・と笑うトモトモに少しイラッとくるが、俺は心を静めて考える。あの時は２年生全員がインフルエンザにかかったのだ。少なくともトモトモを除いた全員が。<br><br>「ひょっとして、お前が見える幻覚ってウィルスとか菌なんじゃないか？」<br>確かこの前そんなマンガ読んだなと思いつつ、突拍子もないことを言ってる自覚が俺にはあった。<br>「え～っ、わかんなぁい。」<br>まるで天然モノの女子高生みたいな声でありがちなセリフを言う女子高生のトモトモは、不思議そうな顔をする。<br>「ともかくお前が見えるのは幻覚じゃないぞ。それがホントだったら、世紀の大発見だ！」<br>そうなの？とでも言いたげなきょとんとした顔をしたまま、トモトモは俺をじっと見る。<br>「でもさ、あんな気持ち悪いの、あたし見たくなぁい。」<br>見たくなぁいじゃないだろ！世界中の科学者から垂涎の的になるほどの素晴らしい力だぞ・・・俺はそう言いかけて、思いとどまる。そんなことを言えば、あたし改造とかされちゃうの？そんなのいやぁ！・・・ぐらい言いかねない。<br>「お前、大学受験するんだよな？」<br>我ながらいいアプローチだ。<br>「無試験で行ける学校あるかもしれないぞ。」<br>む・し・け・ん、そう繰り返すと確かにトモトモは目を輝かせる。<br>俺の勝ちだ。<br>「うん、あたしがんばっちゃおうかな。」<br>何を？とは、もはや俺には突っ込む気はなかった。それよりもこの状況をどう利用するかが肝心だ。<br>ともかくこのことはまだ秘密にしとけよ・・・と言って、俺はトモトモに帰宅を促した。<br>とにかくだ、まずは専門家に相談しよう。俺はそう決め、明日にでも理系の大学を訪問することにした。<br><br>「トモトモ・・・いやさ、智川！喜べ、お前大学に行けるぞ！」<br>翌々日、俺は喜び勇んで帰宅前のトモトモを見つけ、吉報を知らせた。理系大学の教授に面会を申し込み一切合財を話したところ、興味を持ってくれたのだ。そして、無試験入学も有りだと言ってくれた。<br>「それがほんとならね。」<br>その言葉は多量の嫌味成分も含まれているのかもしれない。だが、そんなことはかまわない。智川朋子というごく平凡な平均以下の生徒を理系大学へ送り込めるということこそが大事なのだ。そして、それをお膳立てしたのは、何を隠そうこの俺なのだ。<br>最初、トモトモはきょとんとしていたが、思い出したかのようにゆっくりと頷く。だが、その反応は俺の予想を全く裏切るものであった。<br>「ああ、あの話ね。あたし、パス。」<br>せんせい、ありがとう！このごおんはいっしょうわすれないわっ・・・などと大げさな反応を俺は期待していたわけではない。だが、この俺の努力をむげにする態度に腹を立てない者はいないだろう。<br>「パスってお前、あんなレベルの高い学校が無試験で行けるんだぞ！」<br>なぜだぁ！と切れ気味に言う俺を、にこやかにまぁまぁと両手で抑えるポーズをとるトモトモは澄まして続ける。<br>「だってさ、集中するの苦手だしさ。運動もやだ。」<br>俺は肩を落とし、その時点で反論する気も失せていた。<br>「それに・・・。」<br>それに？まだ何かあるのか？<br>「あんな気持ち悪いもの、もう見たくない。」<br>だから、あたし集中も運動ももうしないんだ・・・そう語るトモトモの顔は妙にさわやかだった。<br>「だから、あたしぼーっとしてられる主婦になる。」<br>そして、全国千３百万人の主婦が怒りそうなことを平気で言ってのけたのだった。<br><br>後日、俺は相談に行った大学の教授へ謝りに行って冷笑を受けて帰ってきた。<br>「うそつき。」<br>教授の笑顔はそう語っていた気がする。<br>何日か経って、俺はふと思っていた疑問をトモトモにこっそりぶつけてみた。<br>何で俺じゃなきゃダメだったのか・・・？<br>「だってさ、あたしみたいな悩みを持っている人、世の中に他にもいるかもって思って・・・。」<br>ますます、理解不能な回答に俺は次の言葉を待つ。その態度に煮え切れなく思ったのか、トモトモは言葉を続ける。<br>「だぁかぁらぁ、世の中に一番くわしいのは八島ちゃんでしょ？世界教えてんじゃん！」<br>だめねぇ・・・と、笑いながら去るトモトモの後姿に俺は敗北感を味わった。<br><br>世界史はそういう科目ではないのだよ、トモトモ。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-10747002293.html</link>
<pubDate>Sat, 25 Dec 2010 00:08:53 +0900</pubDate>
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<title>バカじゃないっ！</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力は全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>子供の頃からよく風邪をひいた。熱を出すたびに、母親はやさしくなり、父親も妙に気を使ってくれたのを憶えている。他界した祖母は俺がくしゃみをするたびに、何がうれしいのかニコニコしながらよくこう言ったものだった。<br>「よかったねぇ、隆志は馬鹿じゃなかったねぇ。」<br>最初はそれがどういうことなのかわからなかったが、ある程度大きくなってから古くから伝わるある金言を知り、その意味も理解した。<br>馬鹿は風邪をひかない。<br>それがどうしてなのかは未だにわからないが、その言葉は俺の頭にこびりついて離れない。<br><br>俺は祖母の言葉を証明するかのごとく、小中高と学校をそこそこの成績で卒業し、公立大学の教育学部で教員免許を取った。<br>そして、今は高校の教師である。専門は世界史、たまに政治経済と倫理も教えることもある。どの科目も生徒には人気が全くない。<br>「先生、教えてて面白い？」<br>ある生徒が授業中にあくびをしながら俺にそう聞いたが、俺の授業がつまらないことぐらい言われるまでもなく俺自身がよく知っている。<br>「だからと言って、大学受験の選択科目から消えることはないからな。」<br>俺の言葉は負け惜しみであることもよくわかっているのだ。しょせん選択じゃん・・・と言う生徒たちのつぶやきを無視して、淡々と十字軍の進軍について語る。<br>そう、俺にもわかっているのだ。過去の出来事や年号をいくら詰め込んだところで、生徒たちに感謝されないと言うことは・・・。<br><br>ある日、校長が俺を呼び止めた。<br>「八島先生、生徒たちの成績どう？」<br>あまり良いとは言えない状況である。テストの成績は安定してみな高くはないし、極端に低くなることもない。高くないには高くないなりの、低くならないには低くならないなりの理由がある。前者は授業がつまらないせいであろう。後者については俺が試験問題の中にやさしい問題を紛れさせているからなのだ。要は良くもなければ悪くもない原因は、全て俺のおかげなのである。<br>「業者模試の結果なんだけど・・・あまり社会の成績がね・・・。」<br>校長が言葉を濁しながら、俺にプレッシャーをかけるのは当然であろうと俺も理解できる。がんばりますとその場を取り繕うことぐらいしか、俺にはできない。<br>だが、このままではいけない。<br>俺は必死に考えた。どうしたら生徒たちは社会科を好きになってくれるだろう？そもそもおれが世界史の教員を目指したのは、高校の時に面白い先生がいてくれたからであった。その先生がいなければきっと他の科目を選択していたに違いない。<br>生徒に好かれる教師になればいいのか？<br>俺には全く自信がない。見た目もしゃべりもうまくない俺に、生徒たちが好感を持ってくれるはずもない。<br>どうしたものか・・・？<br><br>答えの出ない悶々とした日々を過ごしていたある寒い冬の日、校舎の屋上をふと校庭から見上げるとこちらを見下ろすように人影が覗いていた。見るからに手すりを乗り越えそうな勢いである。<br>やばいっ！<br>俺は手に持っていた世界史の教科書を放り投げ、あわてて屋上への階段を駆け上る。体力には自信がない俺がこんなにも素早く駆け上がれるものかと感心しつつ、やがて屋上への扉を開いた。<br>吹き荒ぶ冬の寒波は息を切らしてほてった俺の体にも容赦なく、思わず身震いをする。<br>そうだ、さっきのやつ！<br>俺は屋上を見回すと、端の方でさっきと同じ格好をした男子生徒の後姿が見える。刺激しないようにゆっくりと近づき、そしてフランクに声をかけた。<br>「やあ、寒いよなぁ・・・。」<br>声をかけた俺にようやく気づき、その男子生徒が振り向く。その生徒は俺の知っている生徒だった。<br>「なんだ・・・八島先生か。」<br>なんだとはなんだ！・・・とは言えずに、俺の顔は半笑いの状態にあった。<br>その生徒・・・２年の岡部博之は、世界史はもちろんのことありとあらゆる科目で悪評の高い成績不優秀者だった。性格が陽気なのでいじめられることはなさそうであったが、それも俺の認識不足だったのだろうか？こんな寒い日に屋上から飛び降りようだなんて・・・。<br>「顔色わるいね、八島先生・・・あっひょっとして、俺がここから飛び降りるとでも思った？」<br>笑いながら岡部は手すりから離れた。<br>「違うのか？」<br>俺の声は寒さのせいで、少し震えている。岡部はそれに首を横に振って応える。その表情は陽気な彼の性格には似合わず、どこか寂しげであった。<br>「なぁ、先生。寒いだろう？風邪ひくよ。」<br>俺は逆に心配されているのか・・・。<br>少し自嘲気味にため息をついた。お前の方が先にここにいたんだろ？・・・と、俺は岡部に言う。<br>「風邪をひくなら、お前が先だ・・・。」<br><br>「岡部、お前何か悩んでいるのか？」<br>思い切って俺は聞いてみた。屋上に一人佇む岡部・・・それはあまりにも不似合いな構図である。もし悩みを解決してやれるなら、俺にもまだ教師としてやれることがあるという証明である。<br>悪いがここは状況を利用させてもらうが、吉だ。<br>そう思うと、俄然やる気が出てきた。<br>「先生さ、俺頭悪いだろ。」<br>予想外な言葉であったが、完全にアウトではない。<br>「成績がどうだって言うんだ？お前の良さはそんなことではないだろう・・・。」<br>俺は教師にあるまじきことを言っていると、言ってから気づく。<br>「俺がみんなになんて言われているか知ってる？」<br>そら来た！いよいよ、カウンセリングの入り口に俺は立っている・・・。<br>ここで間違うわけにはいかない。一言でも言葉を間違えれば、一人の迷える子羊を世界史好きの生徒に変えることはかなわないのだ。<br>「みんなはお前のことが好きなんだろう？」<br>俺がそう言うと岡部は黙ったまま、俺のことを見つめる。<br>今のは正解だったのか？それとも不正解？<br>審判が下るのを待つ思いで、俺は岡部の次の言葉に耳を澄ます。<br>「俺さ・・・。」<br>岡部はゆっくりと言葉をつむいだ。その言葉は俺にとってまさに想定できる範疇を超えたものであった。<br>「生まれてから一度も風邪ひいたことないんだ。」<br><br>馬鹿は風邪をひかない。<br>その言葉が俺の頭をかすめる。一瞬で岡部の言いたい事を理解した俺は、死んだ祖母に感謝した。まさか言葉のままを具現化した人間が存在するとは、死んだ祖母も思わなかったであろう。<br>「頭が悪いのはいいんだ・・・。」<br>岡部は寂しげな表情をしたまま、つぶやく。<br>良くはないぞ・・・と、俺は即座に思う。いいか、今から俺がお前を生まれ変わらせてやるぞ。<br>「じゃあ、何が不満なんだ？お前がその気なら、成績なんか俺が上げてやるぞ。」<br>そうだ、とにかくこいつの成績を一科目でも上げてやれば、俺の面目も立つじゃないか。<br>「俺さ、風邪をひいてみたい・・・。」<br>岡部はこともなげに俺に無理難題を押し付ける。<br><br>生まれて一度も風邪をひいたことがない岡部は、これまで何度も風邪をひくべく、努力をしてきたと語った。俺としてはその無駄なエネルギーを勉強に向けて欲しいと願ったが、ともかく話を聞く。<br>寒い日に川に飛び込む、裸で庭に一日中寝転ぶ、風邪をひいてる友達の見舞いと称して友達の部屋に入り浸る・・・。それらの努力は涙を誘うとも言えなくもない。<br>「風邪をひいた元カノを押し倒したこともあったなぁ・・・。」<br>俺は何か大変な告白を聞かされているのではなかろうかと、目眩を覚える。そこまでしても風邪をひかない体質というのは人類にとって大変な発見ではないかとさえ思い始めた俺は、岡部に一つの提案をしてみた。<br>「お前のその強靭さはひょっとすると人類を救うかも知れんぞ。」<br>俺がそう言うと、岡部は俺をじっと見つめる。岡部は俺に期待しているのだ。<br>「病院へ行け。」<br>そして調べてもらうのだ。岡部のその風邪をひかない能力を。<br>岡部は何かに気づいたかのように、目を輝かせて頷いた。<br><br>次の日、体のだるさに四苦八苦しながら登校した。さては昨日の屋上の一件で風邪でもひいたか・・・と思いつつ、鼻をすする。<br>職員室で授業のプリントをチェックしている時に、唐突に一人の生徒が駆け込んできた。<br>岡部である。岡部はうれしそうに目を輝かせ、俺に向かって走ってくる。<br>「せんせいっ、やったよ！」<br>岡部は大声でまくしたてる。俺の手を握り締め、目を潤ませた。<br>「どうした？岡部・・・。」<br>そう言う俺は岡部の鼻から一筋のきらめく液体が流れるのを見てしまった。<br>「昨日先生に言われた通り、あの後病院に行ったんだ。そしたら、この通り！熱もあるんだぜ。」<br>病気になって喜ぶのもどうかと思うが、俺は仕方なく乞われるままに岡部の額を手の平で触れる。確かに熱い。<br>「ありがとう。先生のおかげで風邪をひいたよ。」<br>岡部の言葉は職員室中に響き渡る。視線の一つ一つに否定を込めた苦笑いを投げかけながら、これでよかったのだろうか・・・と俺は自分自身熱が上がりそうな思いをしていた。<br><br>翌々日、インフルエンザのため学年閉鎖が実施され、俺は一週間ほど授業から解放された。俺は病院のベッドで３日ほど入院したのだが、隣のベッドには自嘲気味に不貞寝をする岡部がいた。<br>「気にするな、岡部。」<br>俺は毎日のように、岡部を慰める羽目になった。残念ながら岡部の希望はかなえられなかったのだ。<br>その後、俺の決死の努力により岡部は世界史だけは優秀な成績を修めることになる。そのことにより岡部は馬鹿でないことを証明したのだ。<br><br>だが、あいも変わらず岡部は風邪をひかない。<br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<pubDate>Thu, 23 Dec 2010 00:09:01 +0900</pubDate>
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<title>雲のカタチがわかる女</title>
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<![CDATA[ 世の中には色んな人間がいる・・・当たり前のように使われるそんな慣用句も、世界の真実をあらわしてはいない。人の認識力は全ての真実を目撃するには、その受容力が足りないのだ。常識的な目には常識的な物事しか見えない。非常識であると認識された瞬間から、その事実は脳の前頭葉によってフィルターをかけられ、加工されてしまうからである。<br>だが、人の脳は機械ではない。正確さが無いのと同時にその制限の振れ幅は多様に変化する。そして、その非常識が振れ幅の中に入った時、人はそこに奇跡を見る・・・。<br><br>私の目に映る空は限りなく広い。<br>この空には世界中の全ての物が納まっても、まだ十分な広さと奥行きがある。<br>どうして神様はこんなに世界を広くしてしまったのだろう・・・。<br>世界がもっと小さければ、色んなものが手の届くところにあったかもしれない。<br>「ねぇ、あなたにはわかる？もうすぐ、あそこに飛行機が通るわ。」<br>私の指差したあたりの空には、ただ青空が広がっているだけ。<br>だけど、やがてそこに一本の筋できることを私は知っている。<br>「はいはい、遥の予言ね。」<br>陽子の投げやりなセリフは、私の言葉をそのまま受け取るつもりがない事を物語っている。私は挙げた右手をゆっくり降ろし、小さく深呼吸をした。<br>「ねぇ、どうすんの？」<br>陽子が私に訊いていることは、私にも答えが見つからない。私は首を横に振ることしかできなかった。土手の傍を通る道の周りには、草の生えた空き地以外の何も存在しない。見渡す限り構造物の無い自然そのものである。<br>「まったく、優柔不断って言葉知ってる？」<br>陽子は少し口を尖らせて、そっぽを向く。私はそれを黙って受け入れる。<br>私にはわからないことだらけ・・・。<br>世の中のことも陽子のことも、自分のことさえも。<br>そして微かな爆音が聞こえる。<br>私にわかるのは、空にある雲のカタチだけ。<br>爆音よりも先に一筋の飛行機雲が、私の指差したあたりに走る。陽子を見ると、私のさっきの言葉をまるで聞いてなかったかのように、飛行機雲には無関心だった。<br>あの雲のカタチが私のわかることの全てなのよ。<br>私は心の中でそう断言する。<br><br>いつの頃からだろうか・・・私にやがてできる雲や変化する雲の未来のカタチがわかるようになったのは。物心ついたときはすでに普通に未来の雲のカタチが見えていた気はする。それを自然と口にしてはいたが、周りの人間たちは夢見がちな少女の虚言としか受け止めていなかった。私自身もそれほど気にしていたわけではない。ちょっとだけ未来の雲のカタチがわかったからといって、何も得をすることがないからだ。雲のカタチなど無限に存在する。見えた雲のカタチを人に説明するのが難しいこともあり、自然とそのことを口にすることは少なくなったのだ。<br>やがて、友達も幼い頃の私の言葉など忘れ去り、夢見る少女はごく普通の女子高生となった。<br>「別に嫌いじゃないんでしょう？」<br>陽子が私に問いかける言葉は、少しだけ苛ついているような気がした。私は小さく頷く。それを見て陽子はたたみかけるように私の同意を求めた。<br>「それじゃあ、一回だけデートしてみよっ、ねっ。」<br>反対する理由を私は見つけられなかった。<br><br>智也は隣のクラスの男子である。特に親しく話したこともなければ、同じクラスになったこともない。どうして私に興味を持ったのか不思議でならなかった。<br>「君のことが気になってた。」<br>ありがちな言葉で告白された時、陽子も傍で聞いていたのだ。私は呆気にとられ、返す言葉も見つからないまま、その場を急いで離れてしまった。陽子が後を追ってきたが、動転した私はどこをどう通ってクラスの自分の席に戻ったのかまるで憶えていない。<br>「遥、だいじょうぶ？」<br>陽子は席に付いて少し俯いている私に、心配げな声をかけて来たが、私にはまるで他の人に言っているかのように聞こえた。<br>そして、その日の帰りがけに土手の側道で陽子とそんな会話をしたのだ。<br>「あたしが智也君と話をしてあげるから、映画でも見に行きな。」<br><br>次の日曜日にそれは実施された。陽子の行動は素早く、あらゆる手段を用いて私と彼のデートをセッティングしてくれた。<br>「やあ、おはよう。」<br>待ち合わせ場所の学校の近くの公園で早く着いていた私に、後ろから声をかけた智也ははにかむような笑顔を見せた。その笑顔に私はデジャビューを感じる。<br>「知ってるかい？君とここで会うのは初めてじゃないんだぜ。」<br>智也は私の心を見透かしたように、そう言った。<br>むかし・・・智也は語り始める。<br>「幼稚園に入る前だったかな。ここで君とよく遊んでいたんだ。憶えていないだろ？」<br>確かにこの公園はよく小さい頃来ていたような気がする。私はベンチやブランコなどを見回す。ひとつひとつには確かに思い出がある。<br>「その頃、君は空を見るのが好きだったよね。」<br>智也はそう言いながら、空を見上げる。<br>その時、私は当時誰かに雲の話を時々していたことを微かな記憶の中に発見した。それは、小さな驚きだった。<br>「それで私のことを・・・？」<br>私の言葉に照れくさそうに智也が頷く。私はなんとなく私の中の何かが理解できたような気がした。<br>そして、空を見上げる。<br>「そのとき話していたことって、何か憶えてる？」<br>智也は笑顔でその問いに応える。<br>「雲のカタチさ。」<br>私はその応えに満足し、自然と笑顔になった。<br>そう、雲のカタチ。<br>今、智也が見上げている空には雲がある。何の変哲もない雲だが、やがてそれはカタチを変えることを私は知っている。<br>あの雲が見える？あの雲はカタチが変るのよ・・・。<br>言葉にはしなかったが、智也はそれを知っているかのように笑った。<br><br>やがて、あの雲のカタチは・・・。<font size="3"></font><br><br><div align="center"><a href="http://peta.ameba.jp/p/addPeta.do?targetAmebaId=osamu-n"><img alt="ペタしてね" src="https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/decoPeta/pc/decoPeta_07.gif"></a></div>
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<link>https://ameblo.jp/osamu-n3/entry-10743831813.html</link>
<pubDate>Tue, 21 Dec 2010 22:49:31 +0900</pubDate>
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