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<title>ｼﾞｬｽﾃｨﾝ・ｺｰﾋｰ</title>
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<description>現代小説です</description>
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<title>第十話</title>
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<![CDATA[ 霧の晴れた僕の前には、制服を着た女の子が立っていた。<br><br>「あ…ごほっ、りがと…ごめ…なさい。あの赤い…マフラー。あなたのですよね‥線路に…」<br><br>だめだ、私利滅劣で。こんなんじゃ伝わんないよな。<br><br>一息ついて顔を上げた僕は、命の恩人をまじまじと見た。<br>僕と同じ高校の制服を着ている。<br>まさか同じ高校とは驚きだ。<br><br>よかった。<br><br>同じ学校なら、連絡先を聞き出す手間もかからないし、マフラーの弁償も簡単に渡せそうだ。<br><br>「あ、同じ学校…？ですか。よかった。俺マフラー弁償…」<br><br>マフラー弁償しますよ<br>僕が言いかけたところで、それまで黙ったまま白い顔で立ちすくんでいた女の子が、急にぱかっと口を開いた。<br>その様子はどこか、親鳥に餌をねだる孵化したての雛に似ていた。<br><br>そして彼女は僕のイメージ通り、孵化したての雛同様、口を開いた途端、震える大きな声で留めどなくしゃべりだした。<br><br>「あ、あ、あのあの、だ、だ、だっ、大丈夫だった？！？！わ、わ、わたし、わた――」<br><br>ものすごい早口のせいでろれつが回っておらす、白黒した目を一杯に開いている。<br>そのときはまだ僕も、恐怖の余韻のせいで心臓を踊らせていたのだが、彼女のパニックぶりを見ていると、却って落ち着いてくる。<br><br>「あ、うん。大丈夫です。本当にありがとうございました」<br><br>僕は丁寧に頭を下げた。<br>心のほうは落ち着いたものの、未だに息苦しさを感じ、見てみると、彼女はまだ僕のマフラーを掴んだままである。<br><br>「あの、もう大丈夫だから…」（マフラーを離してくれ）<br><br>しかし、僕が言っても彼女はその意味を認識しておらず…<br>というよりも、僕の話など、彼女の耳には全く入っていないようで、何度も何度も僕のマフラーを引っ張っては、激しくどもりながら僕に問いただしてくる。<br><br>「ほ、ほ、ほ、本当に大丈夫？ねねね、ね、ね、大丈夫？大丈夫、大丈夫？！」<br><br>「え…あの、いや。本当に大丈夫ですから」<br><br>「いいい、いやいや、いやって？ど、ど、ど、どこかけ、け、けがとか？？」<br><br>「してませんよ。大丈夫です。」<br><br>「うう、ウソウソ、ホント？！ま、まって、た、大変。か、か顔色が…」<br><br>もちろん睡眠時間が短い僕の顔色が悪いのは今に始まったことではないし、多少、いや、かなり、彼女が僕の首を絞めていることが影響しているのだが。<br><br>こいつ、わざとやってんのか？<br><br>全く成立しない目の前の会話に僕はだんだん苛立ち始め、とにかく黙らせようと思い、少し大きな声を出した。<br><br>「本当に、大丈夫ですから！」<br><br>しかし、彼女のパニックは収まらなかった。<br>より混乱が増しただけだった。<br>マフラーをしっかりと掴んだまま、少女は慌てふためいている。<br><br>「ごご、ごめんなさ‥ち、ちょっとちょっと待ってね！き、きゅうきゅうきゅう、救急車!!」<br><br>救急車？<br><br>このとき、僕は理解した。<br><br>この子はわざとやってるんじゃない。<br>この子の慌てぶりは、女の子特有の、あのわざとらしい大袈裟なリアクションとは違う。<br>この子は僕の話を聞いていないんじゃない。<br>僕の声が<br>聞こえていない<br>のだ。<br>僕の言葉は、彼女にとってはただの音としてしか聞こえていないに違いない。<br>マフラー掴んでるのは、おそらく混乱のあまり、無意識のうちにしがみついてるんだ。<br>溺れるなんとかは藁をも掴むってやつだ。きっと。<br><br>だって、いくらなんだって、冗談で救急車は呼べないだろ。<br>マンガみたいだ。<br>こんな人いたんだ。<br><br>それがわかった瞬間、僕の苛立ちはどこかへ行ってしまった。<br>むしろ、彼女に対して申し訳ないと思った。<br>だって、彼女をこんなにも慌てさせる原因を作ったのは、他ならぬ僕なのだ。<br>きっとすごく恐かったのだろう。<br>仮にも命の恩人なのだ。<br>どうして僕に彼女を怒鳴る権利がある？<br>そう考えると、苦しいのも我慢できる。<br>僕は今にも金切り声を上げだしそうな彼女の目を、しっかりと覗き込んだ。<br><br><br>「落ち着いて」
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10030919652.html</link>
<pubDate>Mon, 16 Apr 2007 01:16:39 +0900</pubDate>
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<title>第九話</title>
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<![CDATA[ そのとき彼女が僕のマフラーをしっかりと掴んでくれていなかったら。<br>そして僕が咄嗟に彼女の赤いマフラーを掴んでいなかったら、僕は一体どうなっていただろう？<br><br>きっと、また、多くの誰かに代償を払わせていたに違いない。<br><br>死は平等だから。<br><br>そう。<br>バランスを崩した僕は、咄嗟に、目の前に飛び出てきた、赤い何かを掴んだ。<br><br>そのときはそれが何かわからなかったが、それは赤いマフラーだった。<br><br>そして彼女の方は(これは後から聞いた話だが。)、人ごみに押されて今にもバランスを崩しそうだった少年をよく見ると、それがクラスメイトだということに気付いた。(これは驚くべき事実だか、進級三日目にして、彼女はクラス全員の名前と顔を覚えていたのだ。)<br>心配になって声をかけようとしたが、そのとき、彼の体がふらりと大きく線路側に傾いた。<br>とっさに体を捕まえようと、彼女の伸ばした手が掴んだのが、僕のマフラーだった、というわけだ。<br><br>つまり僕は初対面のクラスメイトに（クラスメイトなのに初対面というのも妙な話だが）命を救われたのだ。<br>その光景は、旗から見ればきっと、滑稽なディズニー・アニメのように見えた違いない。<br>何しろそのときの僕等は、線路ギリギリのホームの端で、まるでダンスでも踊っているかのように互いに互いの首を絞め、体を支え合っていたのだから。<br><br>しかしそれもほんの少しの間のことだった。<br>彼女のマフラーは、僕に引っ張られると実にあっさりとほどけてしまい、すぐ下の線路に舞い降りた。<br><br><br>霧の中でただ一つの目印だった赤い何かが、手をかけた途端にひらりと飛んで行ってしまう。<br><br>あぁ…行ってしまう…<br>僕の赤い…<br><br><br>首が絞まったと同時に、僕の周りに取り巻いていた白い霧はさっと晴れた。<br><br>その直後、まさに取り計らったかのように、電車がホームに滑り込んできた。<br><br>本当に取り計らったかのように。<br><br>僕は正気を取り戻し、咳き込み、喘ぎながら顔を上げた。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10030043360.html</link>
<pubDate>Fri, 06 Apr 2007 16:04:05 +0900</pubDate>
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<title>第八話</title>
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<![CDATA[ 次々と降りてくる彼らの頭から、おびただしい量の湯気が立ち上っていたのだ。<br><br>湯気は開かれたドアからももうもうと這い出ては、ホームに立ち込める。<br>途端に視界が悪くなり、僕は吐き気を堪えながら、むっとする生温かい湯気を吸い込まないよう、硬く手で口を覆った。<br><br>人の頭から立ちのぼった湯気なんか、冗談じゃない。<br><br>このときの僕はまだ、落ち着いていた方だ。<br>雨が降っているし、湿気の関係で起こる自然現象か何かだろうと高をくくって、別段気に留めていなかった。<br>しかし、湯気はみるみる濃さを増していく。<br>あっという間にホームは３６０度、真っ白になってしまい、すぐ隣に立っていた人の顔すらおぼろげにしか見えない。<br><br>おかしいな。<br><br>僕は慌てて耳を済ませた。<br>しかし、悲鳴やパニックに陥った人間の叫び声は聞こえない。<br>誰もが押し黙って、ぞろぞろと歩いている。<br>確かに大勢の人間がそこにいる気配は感じるのに。<br><br>誰も気がついてないのか？<br><br>そう思い至ったところで、ようやく、僕の頭も高速で回転し始めた。<br><br>おかしいだろ？<br><br>いくら自然現象だからといって、湯気が散ることなく、いつまでも…こんなにも長い間大気中に留まっているはずがない。<br>それに、ここには大勢の人間がいるのだ。<br>誰一人として騒ぎ出さないなんて、ちょっと考えられない。<br>いよいよ恐ろしくなってきた。<br>僕は指が冷たくなるほど鞄の柄を握り締め、これから自分が飲み込まれてしまうであろうパニックの大津波に備えて、大きく息を吸い込んだ。<br><br>……。<br><br>………。<br><br>と、突然、それまで真っ白だった目の前に、何か赤いものが飛び出してきた。<br><br>その出現の仕方があまりにも唐突だったので、僕は大きく後ろに仰け反ってしまい、バランスを崩した。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029753081.html</link>
<pubDate>Tue, 03 Apr 2007 15:24:11 +0900</pubDate>
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<title>第七話</title>
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<![CDATA[ 「品川駅で人身事故が発生したため、上下線の運行を見合わせております……」<br><br>もうずっと長い間、カズは僕の顔を見ようとしない。<br><br>線路は細かい雨に塗らされててらてらと光り、朝だと言うのに薄暗く、灰色をした横浜駅のホームは陰気な匂いが立ち込めていた。<br><br>不敵に光る線路の下を雨宿りしながら、突然ぶり返した寒さに震える溝鼠が、足早に走り抜けて行くのが見える。<br><br>雨の日の横浜駅は、僕に現代社会の縮図のようなものを連想させた。<br><br>こことは別のところで起こった事故も人の死も、必ず全部ここに集まってくる。<br>毎日遠くで誰かが線路に身を投げては、残された多くの人間が少しずつその代償を払う。<br>それでもしばらくするとまた電車は流れ出し、また誰かが線路に身を投げる。<br>そんな風にして動き続ける。<br>誰も電車を永遠に止めてしまおうとは思わない。<br>巨大で危険な可動物を捨てようとはしない。<br>代償はあまりにも多くの人々に分散されてしまい、我々はその小さな代償のために痛みを感じることすらないからだ。<br>でも代償は払われている。<br>間違いなく僕たちの人生に影響を及ぼしている。<br>どんなに離れていても死の匂いはここに運ばれてくる。<br>その匂いは少しずつホームのコンクリートに染みこみ、僕たちはそれを少しずつ吸い込む。<br>そして撒き散らしながらそれぞれの目的地に到着し、何も知らずに平凡な生活を送る。<br>そうやって代償を負っている。<br>横浜駅のホームは墓場だ。<br>呪いめいたものが染み付いている。<br><br><br>不快だった。<br><br>この世の全てが不快でたまらなく、<br>かといってこの状況をどうすることもできない僕に向かって、<br>世界は黄ばんだ歯を剥き出しにして微笑んでいた。<br><br>かまうもんか。<br><br>僕は思った。<br><br>かまうもんか。<br>その吐気がするような醜いお前の笑顔と、僕は一生ずっとだってにらめっこし続けてやる。<br><br><br>ゆっくりと電車がホームに滑り込む。<br>ドアが開き、すし詰めにされた乗客の群れが我先にと飛び出してくる。<br>もみくちゃにされる不快感に耐えようと身を硬くしていると、僕は奇妙な光景を目にした。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029721080.html</link>
<pubDate>Tue, 03 Apr 2007 01:50:19 +0900</pubDate>
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<title>第六話</title>
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<![CDATA[ 「お前、ガキだな」<br><br>カズは僕の方を向きもせず、せせら笑うような口ぶりで言った。<br><br>薄暗い部屋の中では、テレビ画面の青白い光だけが異様に輝いている。<br><br>僕はカズの言葉にむっとしたものの、それには答えずに話題を変えた。<br><br>カズもタカダアユムも、本質はほとんど同じタイプの人間なのだ。<br>タカダアユムの奇妙さをカズに話したところで、結局何も伝わるわけがなかった。<br><br><br>「…タチとは会ってるのかよ」<br><br><br>「……。」<br><br>「やべっ！」<br><br><br>大袈裟な叫び声を上げ、カズはコントローラーのボタンを信じられない速さで連打しだした。<br><br>何となくわざとらしい。<br><br>僕の質問には答えないつもりなのかと思ったが、しばらくして落ち着くと、カズは<br>「う～ん…」<br>といううなり声と共に、意外なことを言った。<br><br>「…そういや…この前、ケンカした」<br><br><br>「え？ケンカ？」<br><br><br>「ん～…たぶん。ケンカ。かな」<br><br>他人事のような、確認しているみたいなカズの言い方に、僕はため息を吐いた。<br><br>「喧嘩じゃなくて、どうせカズが一方的にキレたんだろ？」<br><br>タチが怒っているところなんて、僕は今まで一度も見たことがない。<br><br>カズと僕がケンカをすることならよくあった。<br><br>…そんなときのタチの役目は、背中を付き合わせたままの僕らの間に立って、僕らを放っておく代わりに、憩と楽しそうにおしゃべりすることなのだ。<br><br>僕とカズはいつもそれに我慢できなくなって結局二人の会話に加わってしまい、いつの間にかケンカをしていたことなど忘れてしまっていたのだ。<br><br><br>憩はもういないけど。<br><br>でもタチの性格は変わっていない。<br>本当に年頃の少年かと疑ってしまうくらいの温厚さで、争いというものを起こすことも、加わることも一切好まないタイプの人間なのだ。<br>そんなタチがケンカなんて、僕にはちょっと考えられない。<br>でもカズの言い分は逆だった。<br><br>「キレたのはあいつだよ」<br><br>キレる??タチが??<br><br>「なんで？」<br><br>僕が寝そべっている場所からは、カズの表情は見えない。<br><br>僕は小刻みに振動しているカズの背中に、疑いの視線を投げた。<br><br>どうせまたカズが、いつもみたいに行き過ぎたことを言ったに違いない。<br><br>基本的に、カズは無神経なのだ。<br><br>いくらタチが温厚だからと言って、さすがに度を越えたことを言われれば、たまには怒ることだってあるに決っている。<br><br>「別に」<br><br>カズの声には、ふてくされているのとも少し違った、冷たい響きが含まれていた。<br><br>「別に?…タチがキレるなんて、よっぽどのことだろ？」<br><br>「別に…ただ俺は本当のことを言っただけ」<br><br>相変わらず、カズの声音に変化はない。<br><br>だが、しきりに首を傾げている。<br><br>何かを隠しているときのカズの癖だ。<br><br>伊達に３年も付き合っているわけではない。<br>僕等が互いの嘘を見抜くのが朝飯前なことくらい、カズだって十分わかってるはずだ。<br><br>僕の体内にほんのわずかだけ残っている愚鈍な好奇心が、このとき初めて頭をもたげた。<br><br>カズは何かを隠してる。<br><br>「本当のことって？」<br>「……」<br><br>カズは答えない。<br><br>やけに陽気な電子音と、コントローラーのカチカチいう音だけが聞こえる。<br><br>「おい」<br><br>「………」<br><br>沈黙。<br><br>カズはあくまで黙殺するつもりらしい。<br><br>きっと教えたくないことなんだ。<br><br>僕には。<br><br>僕は立ち上がって、腹立ち紛れに勢いよく部屋の窓を開けた。<br><br>一気に冷たい風が吹き込んでくる。<br><br>「さみぃよ」<br><br>カズが文句を言った。<br>確かに、放課後校舎を出たときよりも、ぐっと気温が下がっている。<br><br>が、そんなこと知るもんか。<br>僕はカズの背中に冷ややかな視線を投げた。<br><br>「俺は人の煙は嫌いなんだよ」<br><br><br>「…ふん、ガキ。」<br><br><br>「…っ」<br>僕は開きかけた口をつぐんだ。<br>またガキと言われてしまうからだ。<br><br>「俺帰るよ」<br><br>「だったらわざわざ窓開けることなかっただろ？」<br><br>ぶちぶち文句を垂れるカズに追い討ちをかけるため、わざと蛍光灯のスイッチを入れると、光を受けたカズの金色の髪が、部屋の中でパッと輝く。<br><br>「う～…まぶしい」<br><br>「やっぱそれ、頭悪く見えるぞ」<br>「どうもありがとう」<br>「ふん」<br><br>ふてぶてしいカズの態度に、僕は鼻を鳴らした。<br><br>屈んで床に転がった鞄を拾うと、埃まみれになっている。<br>僕は顔をしかめて、無造作に鞄から埃を払った。<br><br>「カズ」<br>「なぁ、サッカー。しないのか」<br><br>「………」<br><br>「あんまりタチを困らせるなよな」<br><br>「………」<br><br>「じゃあな」<br><br>青白い顔は画面に釘付けのまま、カズは片手を上げて僕に別れを告げた。<br><br>カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……<br><br>背後から聞こえてくるコントローラーの音に追われるようにして、僕は足早に階段を下りた。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029525996.html</link>
<pubDate>Sun, 01 Apr 2007 01:10:13 +0900</pubDate>
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<title>第五話</title>
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<![CDATA[ 新学期<br><br>廊下の窓からはこぼれんばかりに咲き誇る桜の花がのぞいていた。<br>そのうちの何枚かの花びらは、開かれた窓から廊下へと迷い込む。<br><br>その日から２年生に進級することとなった僕は、初々しい気持ちと少しの不安を胸に<br>掲示板の前に立って、張り出されたクラス替えの表から<br>自分と憩の名前を探し出そうと、神妙な面持ちで掲示板を睨んでいた。<br><br>僕等の通っていた公立の中学校は、生徒数が多かった。<br><br>６つもあるクラスの中から自分の名前を見つけ出すのは骨の折れる作業だ。<br><br>浮かれてはしゃぐ同級生の歓声と落胆の叫び声<br><br>そんな声たちに集中力を削がれまいと、必死で耳を閉ざそうと苦心していると、いきなり何者かが僕の肩を強く掴んだ。<br><br>あまりにも唐突で、しかもかなり熱のこもった、力強い掴み方だった。<br><br>驚いて振り向くと、僕の後には、人懐こそうな笑顔の、見るからに<br>“やんちゃです”<br>といった感じの、一人の少年が立っていた。<br><br>「―え？」<br>少年を見て、僕は思わず眉をひそめた。<br>少年の顔に見覚えがなかったからだ。<br>一瞬、人違いをされたのかとも思ったが、まともに正面から僕の顔を見ても、少年の表情に落胆の色は見えない。<br><br>それどころか、少年の僕を見つめる目は、やんちゃなきらめきに満ち満ちている。<br>そのきらめきに不信感を抱きつつも、僕はなんとなく、自分がこの見知らぬ少年に対して、好感のようなものを感じていることに気がついた。<br><br>…なんというか、すごく、ピンときたのだ。<br><br>そうだ…友達だ――<br><br>僕たちはずっと前から友達だったんじゃなかったっけ？<br>ただ、今日まで知り合う機会がなかっただけで……。<br><br>僕の視線を捉えた途端、僕が用を尋ねる暇もなく、少年は目をきらきらさせながら、ものすごい勢いでいきいきとしゃべりだした。<br><br>初めて耳にする、かすれたようなハスキーボイスを聞いているうちに、僕はすっかり彼が好きになっていった。<br><br>「なぁなぁ、お前にそっくりな女の子いるだろ？<br>あの子お前の親戚？<br>隠しても無駄だよ、そっくりだもん。<br>憩ちゃんて言うんだろ？<br>知ってるよ。<br>お前、サッカー上手いだろ。<br>俺と友達になんない？<br>お前の名前だって調べてあんだぜ！<br>残念ながら、お前は俺と同じクラス！<br>お前の名前は　――」<br>　<br>「里見、葉」<br><br><br><br>「え？」<br><br>僕はいつのまにか、タカダアユムに向かって自分から名を名乗り、無意識のうちに微笑んでいた。<br><br>タカダアユムの顔が嬉しそうに輝きだす。<br><br>しまった。<br><br>嫌悪感と罪悪感が一緒くたになって沸きあがり、胃に鈍い吐き気の予感を感じた。<br>もう手遅れなことくらいわかっていたけど、僕は無理矢理笑顔を引っ込めた。<br>無駄だろうが手遅れだろうが、なんだってかまわないから抵抗を示したかったのだ。<br><br>「サトミ、ヨウ？」<br><br>「いや。ちが　――」<br><br>否定しようとする僕の言葉を、タカダアユムは両手を振って遮った。<br><br>「もう遅いぜ、里見。<br>へっへ。実は俺、お前の名前知ってたんだ。<br>座席表で確認済み。<br>一応聞いただけ。<br>あ、そうだ！俺のことはアユムって呼んで！<br>アユでもいいけど！」<br><br>タカダアユムは馴れ馴れしく僕を呼び捨てにすると、当たり前のように椅子を引いて、隣の席にどっかと腰を下ろした。<br><br>「で、今日、空いてる？」<br><br><br>「は？」<br><br><br>「予定ないんだったらカラオケ行かない？女の子誘って！」<br><br><br>「行かない。」<br><br>馴れ馴れしい…<br><br>急に、この教室の何よりもタカダアユムの存在が疎ましくなった。<br><br>カズに似てる??<br>こいつが??<br><br>カズにだと????<br><br><br>こいつが隣に座っていることが、不愉快でたまらない。<br><br><br>「えぇ？じゃあさ、誰誘う？新学期だし、クラスの子が誘いやすいよな、やっぱ！」<br><br><br>タカダアユムには僕の言葉が聞こえないらしい。<br>僕はそれ以上の抵抗を諦めて、閉じかけた本を再び開いた。<br><br>無視するのが、一番手っ取り早い方法なのだ。<br><br>最近は、こうすることが多くなった。<br>最後の手段。<br>こうしてしまえば、不快な世界を遠ざけて、どこか見えないところへ追いやることができる。<br><br>タカダアユムの話し声も、教室の騒ぎも、徐所に僕から遠ざかってゆく。<br><br><br>でも<br><br><br>猫が耳元で囁く。<br><br><br>でも、ごらんよ。<br><br><br>ニタニタ笑いながら、どぎついピンク色の尻尾で、僕の首筋を撫でる。<br><br>皮膚が粟立った。<br><br><br>ねぇ<br><br><br>遠ざかっていくのは、どっち？<br><br>僕は固く目を閉じて、呼吸を止めた。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029352545.html</link>
<pubDate>Fri, 30 Mar 2007 03:58:58 +0900</pubDate>
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<title>第四話</title>
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<![CDATA[ ２・この世の終わりは昼休みの教室から始まる<br>　<br>あの日、タチと二人で見た映画は最高につまらなかった。<br> <br>　僕は教室でただ一人、頬杖をついて本を読んでいた。<br>ただし、<br><br>教室にいたのが僕一人だけだった<br><br>という意味ではない。<br>教室には、僕以外の人間がうじゃうじゃいた。<br>いたるところで小さな…時に大きな人の塊ができていて、<br>「うっそぉ！」<br>とか<br>「マジィ！？」<br>とか<br>「サイテー！！」<br>とかいう言葉を、気が振れたみたいな笑い声とともに発していたり、携帯で写真を撮り合ってはきゃーきゃー叫び合っていたり。<br>僕は後ろの方の窓際の席だったために被害はまぬがれているが、数名の男子は黒板付近でブレイク（どこか体の一部を支点にしてくるくると回る、ダンスのあの技）にチャレンジして失敗し、団子状になって机に突っ込んでいたりと、教室の中はこの世の終わりみたいに騒がしかった。<br>ただ、その中でおとなしく本を読んでいたのは僕だけだった。<br>という意味だ。<br>僕もついさっきまでは、この騒ぎに気付いていなかった。<br>本を読んでいると熱中しすぎて、周りの音が一切聞こえなくなるのだ。<br>ではなぜ今、顔を上げてこの教室を見渡し、この有様を目にすることになってしまったのか、という疑問の答えは、僕のこの机の上に散乱している。<br>いつのまにか僕の机の上には、ちぎられた消しゴムの破片が、無数、転がっていた。<br>僕は、おそらくこの消しゴムの破片のどれか一つがこめかみに当たったことによって、こちらの現実離れした騒がしさの真っ只中に呼び戻されてしまったのだ。<br>小説のほうが、よっぽどリアルじゃないか？<br>僕は前を向き、読みかけのページを手で押えたまま、首をかしげた。<br>誰がこの消しゴムを僕に投げたんだろう――<br>なんてことは正直、どうだってよかった。<br><br>では何故、僕は首をかしげたのか。<br><br>僕が入学したこの学校は、それなりにレベルはまぁまぁの学校のはずだ。<br>たしかに校則は緩いけど、それは生徒が一人一人、自分自身に責任を持てるという判断の元での緩さなのである。<br><br>自主規制<br><br>進級してまだ２日目とはいえ…<br>いや、２日目だからこそ、なぜこんな…<br>教室が、餌を放り込まれたサル山みたいな惨状になっているんだろう？<br>その素朴な疑問が、僕の首を約３０度という傾きのまま停止させているのだ。<br>サルはある程度、入学試験で振り落とされているはずだった。<br>一年のクラスはもっと落ち着いていて、こんなひどい状態じゃなかった。<br>それにクラス分けは成績ではなく、ランダムに振り分けられているはずなのに…。<br>僕は純粋に疑問を感じていた。<br><br>決して彼らを馬鹿にしているわけではない。<br>僕の成績だって、誉められたものじゃないどころか、いつだってどん底だ。<br>僕以外の人間が何らかの作用で、マリファナの成分を含んだ煙でも吸い込んでしまったのだろうか？<br>ふむ。<br>そういう理由だったら納得できる。<br>前を向いたまま首を傾げて考え込んでいると、クラスメイトが一人、こちらに近寄ってくるのが見えた。<br>彼は僕の机の前で立ち止まると、にっこりと人懐こい笑みを浮かべて僕を見た。<br><br>「君、相当にぶいね」<br>「俺タカダアユムって言うんだけど、友達になってくれない？」<br><br><br>「？」<br><br>僕は何も言わずにタカダアユムを見つめ返した。<br>短くて茶色い髪の所々が、金色に光っている。<br>右に二つ、左に一つ。<br>耳たぶには四角いシルバーのピアスがくっついていて、身長は多分、僕よりも少しでかいようだ。<br>肌は健康的に浅黒い。<br>いわゆるイケメンの部類だ。<br>しかし、真っ直ぐ顔を横切る凛々しい眉も、くっきりとした二重の目も、軽薄そうな薄い唇のおかげで随分と軽薄そうに見える。<br><br>今、その唇でゆるやかな弧を描いたまま、彼は僕の顔を見つめていた。<br>形の良い左の手の中で、ちぎれて五分の1くらいの大きさになってしまった消しゴムを転がしている。<br>教室の絶望的な騒音が、少し小さくなったように感じた。<br><br>「…なんのために？」<br><br>僕はそう言って、踊る消しゴムを睨みながら、眉をひそめた。<br><br>なんなんだ？こいつ。<br><br>「なんのためにって…」<br><br>タカダアユムは口ごもった。<br>僕はてっきり、彼がそのまま立ち去るだろうと思った。<br>どこからどう見たって、僕の態度は彼の申し出を歓迎しているとは思えなかっただろうから。<br>でも彼は立ち去らずに、僕の前につっ立ったまま、一生懸命言葉を捜しているようだ。<br><br>「なんのためにって…いわれてもなぁ」<br><br>言葉を捜しているタカダアユムの目と、疑わしげに睨んでいる僕の目が、空中でぶつかった。<br>僕たちはたぶん、１０秒くらい見詰め合っていたと思う。<br>先に、タカダアユムが目を逸らした。<br>それでも僕が睨み続けていると、ふいに、タカダアユムは大きな声で笑い出した。<br><br>「おっまえ、変な奴！シロそっくり！」<br><br><br>シロ??<br><br>僕は一層眉をひそめた。<br>何かおかしいのか、タカダアユムは体を二つに折って、心底おもしろそうにげらげら笑っている。<br>でも、彼の笑い声は不思議と不快ではなかった。<br>むしろ一種の清々しさを持っている。<br>他の連中の狂気じみた笑い方とは異なった、気持の良いものだ。<br>彼は不信の色を隠していない僕の態度なんかおかまいなく、ひーひーと苦しそうに息継ぎをしながら呼吸を整えると、今度はものすごい勢いでべらべらと喋り出した。<br><br>マシンガン・トーク<br><br>ってのはまさにこのことだということを、僕はこのとき初めて知った。<br><br>「あーおもしれ！うち猫にそっくりなんだもん！警戒しすぎだっつーの。あ、そか、ごめんごめん、消しゴムぶつけてさ！いやー、なんっか超スカしたやつがいんなーと思って見てたら、そいつがめっちゃカッコよかったからさぁ、無償にスゲー腹たってきて、消しゴムぶつけ始めたんだ。<br>最初は気付かれないようにやってたけど、いくらやっても全っ然気付かないから、だんだんマジになってきて。<br>でも、やっと気付いたと思ったら、お前、消しゴムなんか気にしないで、ずーっと正面向いたままぼーっとしてんだもん。<br>あーなるほどねぇ!これ天然かって思って。<br>あ、友達になりたい理由はねぇ、俺、女の子が好きだから。<br>お前カッコイイから、お前といたら女の子寄ってくると思って。<br>なぁなぁ、お前さ、モテるだろ。<br>ずるいなぁ！<br>どうせ、愛想振りまかなくても寄ってくるタイプだろ？<br>てゆうか、名前教えてよ。<br>あ、隠しても無駄だよ、どうせ同じクラスなんだから。調べりゃすぐわかんだぜ。」<br><br><br>動きまくるその口に見入っていた僕は、とっさに返事をすることができずに、ただ唖然としていた。<br>するとまたしても彼はそんな僕の様子を勘違いして、少し口を尖らせると、またぺちゃくちゃとやりだす。<br><br>「ねぇ、警戒するにもほどがあるんじゃないの？俺そんな怪しいもんじゃないよ。<br>もしかしてまだ怒ってんの？<br>謝ったじゃん頑固だなぁー。<br>てゆうかむしろ褒めてんでしょ。<br>称賛してるでしょ。<br>あ、ウソかと思ってんの？<br>嘘じゃないよホントに。<br>ほら見てみなよあそこの女子。<br>こっちちらちら見てるし。<br>ほら、あそこも。<br>あ、あそこもだ！<br>やっりー！<br>やっぱ当たりだね！<br>決定だよ、お前今日から俺の友達な！<br>な！な！な？だめ？<br>却下？！<br>そんなこと言わないでー、お願い！な！な？いや、俺だって十分カッコイイよ?<br>でもなんっか俺すぐ胡散臭がられるんだよね。<br>そこで思ったわけ!!<br>俺には可愛い感じの相棒が必要だなってさ。<br>俺とお前だったら――」<br> <br><br>…なんだっけ？<br><br>まるで本当の馬鹿みたいにしゃべりまくるタカダアユムの様子は、微かに昔見た何かに似ている。<br><br>なんだっけ？<br><br><br>ぺらぺらと動く唇が、僕の記憶の水面に雫を落とした。<br><br><br>なんだっけ？
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029315737.html</link>
<pubDate>Thu, 29 Mar 2007 20:35:53 +0900</pubDate>
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<title>第三話</title>
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<![CDATA[ 《ピンク》<br><br>ビデオ屋からの帰り道、たばこを吸おうとしてポケットを探ると、ライターがなかった。<br>行きは確かにあったのに、どこかで落としてしまったらしい。<br>ただライターを無くさずにビデオ屋まで行き、そのままビデオを返して帰ってくるだけのことなのに、それすらできないなんて。<br>僕はどんなことをするにも、ちいさなミス無しではできないのだ。<br>そんなミスに気がついたときの癖で、夜道で一人、眉を片方下げて、口の端を上げた笑い顔を作った。<br>そして何気なく右側を向きかけて、首筋が固まる。<br>笑い顔は僕の顔からはがれ、乾燥した夜の空気にぽっかりと浮かぶ。<br>そしていつまでもそこに漂い、歩き去る僕の背中に向かって、しつこくにやにや笑いをし続ける。<br><br>僕の右隣。<br><br>その定位置に、憩はいない。<br>何も言わなくたってわかってる。<br>片眉を上げて口の端をきゅっと上げる共犯めいた微笑を返してくれるはずの、<br><br>相棒。片割れ。僕の半身…<br><br>“それにしても！”<br><br>あの底なし沼にはまっていきそうになった自分に気付いて、僕は慌てて頭を切り替えた。<br>足を動かして、深呼吸して、無理やり幻影を追い出す。<br><br>まぁまぁ上手くいった。<br>（ポイントは案外、体を動かすことなのかもしれない）<br>それにしても、どこかでライターを落としてしまったことは確かだ。<br>落とす以外に無くす理由がないから。<br>でもどこで？<br>落とすような行動を取った覚えはない。<br><br>まぁいいや。<br><br>めんどくさくなって、すぐに考えるのをやめた。<br><br>別に惜しい物じゃなかったし。<br><br>僕は“S”という飾り文字の彫られた、銀色に光るジッポライターのことをあっさり忘れ、<br>目の前のコンビニで、１００円のライターを買うことにした。<br><br>蛍光灯の眩しい店の中に入ると、割と可愛い顔立ちの、しかしかなり派手な雰囲気の女子高生の店員が、ぼんやりとレジに立っていた。<br>僕は顔をしかめた。<br><br>別に、彼女の髪がかなり明るい茶色だったからでも、小さな耳たぶにびっしりとピアスがくっついていたからでも、彼女が<br>「いらっしゃいませ」<br>を言わなかったからでもない。<br><br>彼女の身を案じたからだ。<br>だって、そのとき、僕の腕時計は１１時４０分を指していたのだ。<br>もちろん夜の。　<br>こんなに遅い時間に女の子が一人でこんなところにいるという事実に、僕は少し困惑した。<br>彼女の顔立ちが可愛らしかったから、尚更だ。<br>でも彼女にとって僕は赤の他人であり、僕にとっても同じことなので、僕がいくら彼女を心配してもそれは意味のないことである。<br>ただ、ちらっと思っただけだ。<br>他に買い物もなかったので、僕はすぐ。<br>店員に向かって言った。<br><br>「ライターください」<br><br>「何色ですか」<br><br>めんどくさそうな態度を、彼女は隠そうともしていなかった。<br>だってクエスチョンマークすらつけてない。<br>もし、いやな気分を隠しているつもりでいるなら、彼女の肉体と神経を繋ぐ経路には、何らかの問題があるに違いない。<br>でも、僕はそんな彼女に対して、反感を抱いたりしない。<br>なぜなら、僕も彼女に負けず劣らずめんどくさがりな人間だからだ。<br>でもその面倒臭がりが仇となって、僕は次の言葉で、彼女に大きな不快感を与えてしまう。<br><br>「何色でも」<br><br>純粋に、色なんてどうでもいいと思っていただけなのに僕がそう答えると、彼女の表情が<br>“めんどくさい”<br>から<br>“この客死ねばいいのに”<br>に変わった。<br>本当に一瞬にして、すごく嫌そうな表情に変化したのだ。<br>理由はわからないけど、僕の返事がお気に召さなかったらしい。<br>店に入ってからまだ３秒くらいしか断っていないのに、僕は完璧に一人の人間から嫌われてしまったというわけだ。<br>友達をつくるのは得意じゃないけど、悪気もないのにこんなに早く誰かから嫌われたのは、たぶん初めてなんじゃないだろうか。<br><br>新記録<br><br>でも全然嬉しくない。<br>パックの中にきちんと並んでいた色とりどりのライターの青色を、彼女は最初、掴んでいた。<br>たぶん、<br>「ライターください」<br>と言われて、反射的に掴んだのがそれだったのだ。<br>でも彼女は一応僕に色を尋ねてみて、<br>「何色でも」<br>という答えを聞くと、それをわざわざ元の場所に戻して、きれいに並んでいるライターの真ん中あたりからどぎついピンク色のものを抜き出すと、すかさずバーコードを押し付けた。<br><br>ピッ、<br>「１０５円です。」<br><br>それは、誰もが<br>“うっ”<br>と思うようなピンク色をしていた。<br>世の中には数え切れないほどのピンク色が存在していると思うけど、たぶんその中で一番見苦しくて、一番下品なピンク色に違いなかった。<br>たった１０５円なのに。<br>ライターとしてはきちんと機能するだろうに、財布からお金をだすのをためらってしまうほどの色をしている。<br>でももう遅い。<br>彼女は僕に色を変える時間も、文句をつける隙もくれなかった。<br>僕はしぶしぶ、そのライターにお金を払った。<br><br>「ありがとうごさいました」<br><br>彼女の声は心なしか弾んでいて、ほっぺたは緩み、顔全体に広がる晴れやかな表情からは、ずる賢さがぷんぷん漂っていた。<br><br>「あーあ」<br>店を出てから、僕は思わずため息をついた。<br>そしてその気色の悪い色のライターでたばこに火をつけ、一口吸い込んで、顔をしかめた。<br>なんとなく、ライターの下品な成分がたばこに影響を及ぼして、たばこの味が変わってしまったんじゃないかというような気がしたのだ。<br><br><br>「ま。あの青い方だって、褒められた色じゃなかったけどさ。」<br> <br>僕は憩に触れる部分だけを端折って、タチに話した。<br>最後に、<br><br>「くだらねぇよな」<br><br>と付け加えると、それまで真剣に耳を傾けていたタチが、ゆっくりと身を起こした。<br><br>「それだけ？」<br><br>僕は頷く。<br><br>「ふぅん。面白かったよ、結構。」<br><br>タチの感覚に疑問を抱きつつ、僕は立ち上がり、鼻を鳴らした。<br><br>「ふん、」<br><br>「ま、これから見る映画よりはつまらないことを祈るよ」<br><br>カップを返却口に戻し、ガラスの扉を押し開ける。<br>途端に、たばこ臭いもったりとした空気は吹き飛ばされて、少しだけ春のにおいの混じった、冬の空気に包まれた。<br><br>「それ」<br><br>僕の隣でタチが口を開く。<br><br>「それ、嫌がらせで間違いないよ」<br><br>思いのほか冷たかった風に震えながら、僕はつぶやいた。<br><br>「くだらねぇよな」<br> <br>まぁ、くだらなくない人間なんていないんだろうな。<br><br>たぶん。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029306745.html</link>
<pubDate>Thu, 29 Mar 2007 18:46:34 +0900</pubDate>
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<title>第二話</title>
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<![CDATA[ １・プロローグ<br>　<br>「恋っていいもんなのかなぁ」<br><br><br>僕らは<br>いささかボリュームの大きすぎるBGMのかかる喫茶店で向かい合ったソファに座り、コーヒーを飲んでいた。<br>もちろん、タチの声は僕にちゃんと聞こえていた。<br>でも僕は眉間に皺を寄せて聞こえないふりを決め込み、知らん顔でたばこに火をつけた。<br>ハロウ、ハロウ!<br>ビーチボーイズが歌っている。<br>店内のむせ返るような暖かさは案外、このBGMのおかげなのかもしれない。<br>煙を吸い込みながらぼんやりとそんなことを思う。<br>あの黄ばんだ天井にくっついているエアコンはさっきから絶え間なくガタガタと耳障りな音を発していて、どう考えたって壊れているか、上手く機能していないに違いないから。<br>僕からの返事がなかったので、タチは黙ってコーヒーを見つめている。<br>たぶん、僕がわざと聞こえないふりをしているのか、それとも大きすぎるBGMのせいで本当に聞こえていなかったのかを考えているのだろう。<br><br>本当に聞こえていなかったのなら、もう一度言うべきだろうか。<br>しかし、聞こえていて無視したのなら、ちょっとしつこいかな…<br>もしかして…もしかしてひょっとすると、俺は、何かこいつの心の中にあった地雷を、踏んでしまったのだろうか？<br>だったら、まずかったかな…怒ってるかもしれない…腹を立てているかも…<br>いや、考えすぎか…？<br><br>こんな感じで、今、タチの頭の中はフル回転してる。（はずだ。）<br>くだらねぇよなぁ<br>僕は思う。<br>でも、タチのそうゆうくだらないところが僕は結構気に入ってたりするから、大した問題ではないけど。<br>換気口の方に煙を吐き出しながら、横目でもう一度タチを見てみた。<br>やっぱり真剣にコーヒーを見つめている。アホだ。本当に。<br>タチのことは放っておくことにして、僕はさっきテーブルに置いたばかりのライターを眺めた。<br><br>どぎついピンク色の１００円ライター。<br><br>ずる賢そうな営業スマイルを浮かべた店員の顔が、ふと目に浮かんだ。<br>わざとだったよなぁ、アレは。<br>と思う。<br>いや、実際にわざとだったんだ。<br>一人でにやついていると、コーヒーを見つめているはずのタチが、僕の思考に割り込んできた。<br><br>「なにが？」<br><br>「え？」<br><br>「いや、だから、わざとって？」<br><br>僕は少しあっけにとられてタチを見た。<br>まさかこいつ俺の心を読んだんじゃないだろうな…<br>と、<br>馬鹿馬鹿しいことを考えかけて、自己嫌悪に陥る。<br>またか。<br>なんのことはない。<br>僕だって十分くだらない人間なのだ。<br><br>僕は普段から、少しぼうっとしすぎることがある。<br>そんなとき、無意識のうちに思っていることを口に出していることがあるのだそうだ。<br><br>（憩によく言われていた言葉を借りれば、僕は<br>「油断しすぎている」<br>らしい。）<br><br>そんな調子だから、僕はものすごく口が軽い。<br>普通に会話していてもぼんやりしていることがあるので、つい口が滑って、しょっちゅう、言ってはいけないことを言ってしまう。<br>だから、僕に秘密を打ち明けることはお勧めしない。<br>（でも大抵、秘密を打ち明ける人間はその秘密をみんなに知ってほしがっている。と僕は思うけど）<br>知られたくないなら言わなきゃいいんだ。<br><br>話を進める。<br><br>「ああ、これ。」<br><br>僕はどぎついピンク色のライターを指差した。<br>「近所のコンビニで買ったんだ。すごい色だろ？店員の嫌がらせなんだ。これ。俺が色は何でもいいって言ったから…」<br><br>「色？何で？」<br><br>「そこのコンビニ、ライターがレジの向こうに置いてあるからさ、店員がいちいち何色がいいかって――…<br><br>「何でレジの中に置くんだ？」<br><br>「え？ほら、あれだろ？未成年対策みたいな――」<br><br>「何で？お前買えてるじゃん」<br><br>何なの？こいつ。<br>僕はため息をついた。<br>いつもいつも。<br>タチは人の話の腰を折るのが得意なのだ。<br>それはもう容赦なく、ばきばきと折っていく。<br>ま、本人に自覚はないし、悪気はないんだけど。<br><br>「見えたんじゃないの？ハタチ以上に」<br><br>めんどくさくなって僕がそう言うと、タチはまた、すかさず噛み付いてきた。<br><br>「見えないよ」<br><br>その真剣な表情を見て、僕は少し腹が立ってきた。<br>だから少し、僕はぞんざいな口調になってしまったかもしれないけど、悪気はない。<br><br>「しらねぇよそんなの」<br><br>刺々しく響いた僕の声に、タチははっと身構える。<br>気が弱いのだ。<br>だったらもう少し巧く立ち回ればいいのに。<br>びくついた表情で僕の顔色をうかがっているタチを見ていると、僕はだんだん気の毒になってきた。<br>とことん不器用で、馬鹿なやつ。<br>でも、要領よくってのができないのがこいつなのだ。<br><br>「適当なんだろ、そうゆうとこ。形だけなんだよ」<br><br>僕が言ってやると、タチはようやく納得したように、用心深く頷いた。<br>気が弱いくせに、頑固だから手に負えない。<br><br>本当はいつも、折れてやってるのは俺のほうなんだぞ！<br><br>と肩を揺さぶりながら怒鳴ってやりたい。<br>僕はため息をついて、短くなったたばこをくわえた。<br>フィルターぎりぎりまで吸う。<br>なにせ、金が無いから。<br><br>「で？」<br><br>「何がわざとだったの？」<br><br>店の壁に掛かっている時計は５時４０分を指している。<br>映画が始めるのは６時２０分。<br>時間を潰すにはちょうどいいので、僕はところどころ端折って、先日、コンビニ店員から受けた、嫌がらせの話をすることにした。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029300375.html</link>
<pubDate>Thu, 29 Mar 2007 17:24:48 +0900</pubDate>
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<title>第一話</title>
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<![CDATA[ ＊お断り<br><br>２００６年１１月１６日、僕はこうしてペンを持った。<br>先に断っておくけど、僕は作家になりたいわけでも、これを出版したいわけでもない。<br><br>そもそもこれは“お話”になんてなってないし、僕個人に起こった出来事だから何の面白味もないと思う。<br>読んだって、「時間の無駄だった」って思うだけだ。でも僕は書く。僕は未熟な人間だから、書かずにはいられないんだよね。<br><br>だから、「今、この時間が暇で暇で仕方がない」って人や、「緊張していてどうしようもないから、つまらない話でも読んで気持ちを落ち着けたい」って人なら、まぁ、読んでもいいかもしれない。決して真剣に腰をすえて、側にココアなんかの入ったマグカップを置いて、「さぁ読むぞ」って意気込んで読むような話じゃないんだ、本当の話。
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<link>https://ameblo.jp/owlmen/entry-10029297204.html</link>
<pubDate>Thu, 29 Mar 2007 16:39:28 +0900</pubDate>
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