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<title>てのひらの雨</title>
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<description>『ちいさいｱｷちゃんはあたしをﾋﾟｯﾋﾟと呼ぶ黄色いｶｯﾊﾟかぶってお稽古かばんに絵本と自由帳をつめこんでお茶しにいきましょと、いう。あたしはｱｷちゃんとおそろいの長靴をはいて空色のﾏｰﾁに乗り込む。……』小説を書きます。</description>
<language>ja</language>
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<title>7.</title>
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<![CDATA[ 書くのは好きだ。<br><br>でも、書いたあとそれをきちんとまとめて封筒に入れて、紐で口をくくって…という作業は大嫌いだ。<br><br>正直、綺麗に製本された本を見るのもどうしても好きになれない。<br><br>ﾊｰﾄﾞｶﾊﾞｰの素材、裏地のこだわり、栞の色、端正込めて考え抜かれた帯の言葉たち。<br><br>外側を彩る本のｻﾎﾟｰﾀｰは大好き。<br><br>でも、中の無機質な紙に間の抜けたﾌｫﾝﾄで緩い行間をたもった気だるい中身が、大嫌い。<br><br>いつも、そうならないようにﾅｲｰﾌﾞなところまでこんつめて考えて、まわりも巻き込む大忙しの作業を経る割に、毎回納得できなかった。<br><br>納得できなくて、あたしはしまいに自分の字を印刷してくれと無茶を言う。<br><br>あんなまるきりｾﾝｽのないだけの貧弱なﾚﾊﾟｰﾄﾘｰから字体を選ぶくらいなら、妹尾河童さんに、なりたかった。<br><br>いつもぶつぶつ文句を言うあたしに、いつも客間で延々話を聞きながらじっと待つ柴田は、穏やかに笑って<br><br>「はい、じゃあ近々考えましょう」<br><br>と茶封筒を持って帰る。<br><br>あたしはアキちゃんと違って、伊東さんより柴田の方が大嫌い。<br><br>「柴田」はあたしが高校生の時に初めて原稿を送ったときからの、あたしの担当さん。<br><br>あたしは12年前から物語を書く仕事をしている。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10262018431.html</link>
<pubDate>Sat, 16 May 2009 16:14:58 +0900</pubDate>
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<title>6.</title>
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<![CDATA[ 筆記用具にも「年相応」ってやつがあると思う。<br><br>保育園や幼稚園ではｸﾚﾖﾝかｸｰﾋﾟｰ。<br><br>小学生にあがると自分の「筆箱」を持つようになって、大抵の子は12色や24色の色鉛筆をお道具箱に入れるようになる。<br><br>学年が上がるごとに、赤鉛筆がﾎﾞｰﾙﾍﾟﾝでもよくなって、鉛筆はHBでも良くなって、中学生になるとｼｬｰﾌﾟﾍﾟﾝが主流になる。<br><br>そのうち高校や大学に進むとﾎﾞｰﾙﾍﾟﾝをｼｬｰﾌﾟﾍﾟﾝの代わりに使う派閥も生まれる。<br><br>社会に出ると、ﾎﾞｰﾙﾍﾟﾝが主になることが多い。<br><br>でも、あたしは中学生の時から筆記具をｼﾌﾄするのをやめてしまった。<br><br>ｼｬｰﾌﾟﾍﾟﾝと消しｺﾞﾑと、絶対使わないくせに定規を筆箱に入れているのが、一番落ち着くのだ。<br><br>ﾎﾞｰﾙﾍﾟﾝだと自分の字がぶれて滑って、あんまりつるつると書き上がってしまうので、不安になる。<br><br>紙に食い込む鉛の方が、自分の足跡になっていい。<br><br>ﾜｰﾌﾟﾛやﾊﾟｿｺﾝもさんざ薦められたけど、問題外だ。<br><br>やつらの字はあたしのじゃないから怖い。<br><br>ﾊﾟｿｺﾝを使うときは、ｲﾝﾀｰﾈｯﾄで検索するときと、ﾏｲﾝｽｲｰﾊﾟをするときだけ。<br><br>そんなわけで、あたしとあきちゃんは文字や絵の落書きを存分にやるものだから、消しくずがあっちこっち波のように打ち寄せる。<br><br>最初、消しくずをつまんで灰皿に入れていたけど、ｺﾞﾑが燃えるときな臭くてたまらない。<br><br>何年前からか、あたしの座るﾃｰﾌﾞﾙの下には小さな屑籠が置かれるようになった。<br><br>伊東さんは文字を書かないので「わからねぇな」と言いながら、店に来るときはもうちゃんと席の脇に用意してくれる。<br><br>アキちゃんには少しむつかしい優しさだけど、あたしにはあとからじんわり気付くそれなので、あたしは伊東さんが好きだ。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10261864170.html</link>
<pubDate>Sat, 16 May 2009 10:36:31 +0900</pubDate>
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<title>5.</title>
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<![CDATA[ 伊東さんは歩み寄るあたしのﾊｲﾋｰﾙの音を聞くと、重い腰をあげてやっとｴﾌﾟﾛﾝをつけた。<br><br>「はい、はい」<br><br>少し面倒くさそうに豆をひき、ｻｲﾎﾝにかける。<br><br>彼が面倒がるから豆たちがおおらかに染み入って、美味しくなるのだと、あたしは思う。<br><br>アキちゃんのためのﾎｯﾄﾐﾙｸは、小さな鍋にかけて作る。<br><br>アキちゃんが去年の父の日にﾌﾟﾚｾﾞﾝﾄした、ﾄﾄﾛの刻印がかわいい木べらでゆっくりかきまぜてくれる。<br><br>席に戻ってしばらくアキちゃんとお喋りをしていると、ｶｳﾝﾀｰから「おう」と声がした。<br><br>まったく、客使いの荒い店で、あたしとアキちゃんは出来た飲み物を取りに行く。<br><br>最初の一口は、自分で。<br><br>二口目は交換して。<br><br>アキちゃんが「おーいしーい」とほっぺたを赤くすると、伊東さんが片方の眉をあげた。<br><br>三口目を味わうと、あたしたちはお喋りをやめて、おのおの鞄から本だの筆記具などを出しにかかる。<br><br>次にお喋りをするのは、伊東さんがｹｰｷを出すとき。<br><br>こうして、あたしたちは何時間も何時間もこの喫茶店で過ごす。<br><br>アキちゃんのお父さんを待つ、練習だ。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10260844192.html</link>
<pubDate>Thu, 14 May 2009 17:39:07 +0900</pubDate>
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<title>4.</title>
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<![CDATA[ その喫茶店は、あたしが大学生の頃から今とまったく変わらない姿で営まれている。<br><br>店主の伊東さんは銀に近い白髪を綺麗に肩の下まで伸ばして、鼻に髭をたくわえ金の指輪をはめている。<br><br>無口で慎重な伊東さんは、アキちゃんとなかなか「お友だち」になれない。<br><br>店内に前衛的なｼﾞｬｽﾞばかり流すし、あたしにとっても決して落ち着きを与えてくれるわけではないが、彼がぼそぼそと挨拶をすると少しほっとする。<br><br>「おはようさん」<br><br>伊東さんは、ｶｳﾝﾀｰの隅で英字新聞を広げていた。<br><br>「おはようございます」<br><br>あたしとアキちゃんは、窓際の2人掛けのﾃｰﾌﾞﾙに荷物を置き、新聞から目を離さない彼の脇にあるﾒﾆｭｰを拝借した。<br><br>飲み物の注文はいつも決まっている。<br><br>アキちゃんはたまにいろいろと冒険しようとするが、いつもさんざ迷ったあげくいつもと同じものに行き着くので、とうとう諦めて「いつもの」に落ち着かせた。<br><br>あたしはｷﾘﾏﾝｼﾞｬﾛ、アキちゃんはﾎｯﾄﾐﾙｸ。<br><br>ｾｯﾄにするｹｰｷは、いつもあたしとアキちゃんをあらゆる種類で誘惑する。<br><br>あたしたちはそれを「伊東さんの愛人」と呼んで、こっそり面白がっているのだが。<br><br>今日は伊東さんが藤色のﾈｸﾀｲをしていたので、ﾌﾞﾙｰﾍﾞﾘｰﾁｰｽﾞｹｰｷにすることにした。<br><br>ﾃｰﾌﾞﾙの端にかけてある伝票に、2人分の注文を書いて、ｼﾞｬﾝｹﾝで負けたあたしが伊東さんのところへ持っていった。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10260154619.html</link>
<pubDate>Wed, 13 May 2009 14:36:19 +0900</pubDate>
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<title>3.</title>
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<![CDATA[ 15分の儀式が終わるとあたしたちは、いよいよ家を出る準備をする。<br><br>アキちゃんは家じゅうの戸締まりを確認して、ｶﾒのｵﾍﾟﾗに行ってきますを行って、部屋の奥から玄関までの電気を順序よく消しておく。<br><br>その間にあたしは近くの駐車場まで行って、家の前まで車を回してくる。<br><br>我が家は比較的大きなﾏﾝｼｮﾝで、併設の駐車場は抽選でもれると借りられない。<br><br>晴れた日はごみ捨てのついでで丁度よく歩けるから好きだが、よりによって大切な雨の日だと、たまらない。<br><br>来年度こそきちんと住民会に出て抽選に挑まなければ。<br><br>ﾏﾝｼｮﾝの玄関ﾎｰﾙの前でﾊｻﾞｰﾄﾞを出すと、すぐに中から戸締まり完了のアキちゃんが出てきた。<br><br>「アキちゃん、鍵閉めしてくれた？」<br><br>「うん、アキちゃんの使ったよ」<br><br>アキちゃんは小学校にあがると自分の鍵を持つようになった。<br><br>今は可愛い金のﾁｪｰﾝに鈴といっしょに通され、首からかけられるようにしてある。<br><br>「ありがとう、アキちゃんの鍵可愛いもんね」<br><br>「でしょ」<br><br>アキちゃんはTｼｬﾂの中にしまっている鍵を、服の上からそっとなでる。<br><br>「ピッピの鍵は？おしゃれ？」<br><br>あたしはびっくりして首を振った。<br><br>「ぜんぜん。車の鍵といっしょにつけてるから、持ってるのも忘れてたかんじ」<br><br>「えーおしゃれしないとダメだよー」<br><br>アキちゃんはあたしよりずっと女の子らしい意見を述べた。<br><br>それじゃあ、行こっか。<br><br>そうして、やっと空色のﾏｰﾁはあたしたちを乗せて雨の中走り出す。<br><br>いつもだいたい行くところは決まっていた。<br><br>あたしはアキちゃんが生まれる少し前から、雨の日はずっと同じ行き先を辿っていた。<br><br>近くの国道に出て北にまっすぐしばらく進み、ﾏｸﾄﾞﾅﾙﾄﾞを右折、3つめの信号を左折。<br><br>ﾃﾆｽｺｰﾄを過ぎ、少し大きな高校の突き当たりを曲がると、細い細い道の先に小さな喫茶店がある。<br><br>最寄りの駅から歩いて10分、駐車場には車は2台しか停められない。<br><br>ここが、雨の日のあたしとアキちゃんの隠れ家だ。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10260039457.html</link>
<pubDate>Wed, 13 May 2009 09:44:16 +0900</pubDate>
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<title>2.</title>
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<![CDATA[ <p>アキちゃんは普段はもう家に出ていて見れない時間帯の、朝ドラや教育テレビの番組を一通り見終えると、あたしに「あとなん分？」をこまめに聞くようになる。</p><br><p>あきちゃんはもうとっくに着替えも髪型のセットも終えて、あとは「最後の15分」を待つばかりなのだ。</p><br><p>あたしは大急ぎでまだましな方の服を選んで、普段履かないパンプスを下駄箱の上段から引っ張り出し、いつもより念入りに髪の毛を梳き、いつもより多く睫にマスカラをのせる。</p><br><p>今日は長い一日なのだから、そこそこにめかしこんでいかないといけない。</p><br><p>あたしの方も支度が済んでしまうと、やっとアキちゃんに「あと15分」と答える。</p><br><p>そうして2人は大きな、天井まであるスライド式のかりんの木でできた本棚の前に向かう。</p><br><p>あたしはラルフローレンの肩掛け鞄に原稿と眼鏡、筆箱にポーチと財布と鍵と煙草を放り込むと、あとは全部新書や実用書をどかどかと詰め込んでしまうスタンスだ。</p><br><p>本の内容や著者はあまり見ない。</p><br><p>ここのところあまり読んでいない、あるいは、読んだことのないものばかり適当に選んで、読むか読まないかは別に本の存在だけで自分を安心させてしまう。</p><br><p>反対に、アキちゃんは内容や気分を重視してじっくりと持っていく本、童話、絵本を吟味する派だ。</p><br><p>いつも必ず入れる『かいじゅうたちのいるところ』は別として、アキちゃんは本棚の片隅にある決して多いとはいえない彼女の蔵書を一冊一冊確認し、今日の自分のために的確な本を選び抜く。</p><br><p>やっとアキちゃんが選りすぐった5冊がアキちゃんのおけいこかばんにおさまるまで、それがあたしたちが約束した「15分」なのだ。</p><br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10259893425.html</link>
<pubDate>Wed, 13 May 2009 00:02:05 +0900</pubDate>
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<title>1.</title>
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<![CDATA[ その日の朝雨が降れば、台風じゃなくても、アキちゃんは学校を休む。<br><br>小学校に上がる前から、あたしが雨の日はアキちゃんを幼稚園に連れていかなかったからだった。<br><br>アキちゃんは、登校時間を過ぎてもさも当然のごとく居間でくつろぎ、9時過ぎにあたしが学校に欠席の連絡を入れるのをぼうっと見ている。<br><br>アキちゃんは雨アレルギーかなんかだと思われたら申し訳ないなと思いながら、あたしはいそいそと朝食の後片付けをする。<br><br>今日はゴールデンウィークの「行楽日和」が終わってほっとしたような、疲れた空が降らせた雨だ。<br><br>
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10259847938.html</link>
<pubDate>Tue, 12 May 2009 23:15:11 +0900</pubDate>
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<title>0.</title>
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<![CDATA[ ちいさいアキちゃんは<br>あたしをピッピと呼ぶ<br>黄色いカッパかぶって<br>お稽古かばんに絵本と自由帳をつめこんで<br>お茶しにいきましょ<br>と、いう。<br>あたしはアキちゃんとおそろいの長靴をはいて<br>空色のマーチに乗り込む<br>喫茶店についたら<br>あたしは煙草に珈琲で<br>アキちゃんはホットミルクを注文する<br>台風はあたしたちの避難訓練日<br>さぁ気のむくまま<br>帰り道に虹がかかるまでのあいだ<br>アキちゃんとあたしは<br>アキちゃんのお父さんを待つ練習をする。
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<link>https://ameblo.jp/pippi1945/entry-10259837847.html</link>
<pubDate>Tue, 12 May 2009 23:11:34 +0900</pubDate>
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