<?xml version="1.0" encoding="utf-8" ?>
<rss version="2.0" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom">
<channel>
<title>Girl</title>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/</link>
<atom:link href="https://rssblog.ameba.jp/remon1018/rss20.xml" rel="self" type="application/rss+xml" />
<atom:link rel="hub" href="http://pubsubhubbub.appspot.com" />
<description>自分の作品をあげています。</description>
<language>ja</language>
<item>
<title>君のつづき</title>
<description>
<![CDATA[ <p>&nbsp;</p><div class="ogpCard_root"><article class="ogpCard_wrap" contenteditable="false" style="display:inline-block;max-width:100%"><a class="ogpCard_link" data-ogp-card-log="" href="https://note.com/osakana795/n/n6c0c6dbbdf0a" rel="noopener noreferrer" style="display:flex;justify-content:space-between;overflow:hidden;box-sizing:border-box;width:620px;max-width:100%;height:120px;border:1px solid #e2e2e2;border-radius:4px;background-color:#fff;text-decoration:none" target="_blank"><span class="ogpCard_content" style="display:flex;flex-direction:column;overflow:hidden;width:100%;padding:16px"><span class="ogpCard_title" style="-webkit-box-orient:vertical;display:-webkit-box;-webkit-line-clamp:2;max-height:48px;line-height:1.4;font-size:16px;color:#333;text-align:left;font-weight:bold;overflow:hidden">君のつづき｜Osakana｜note</span><span class="ogpCard_description" style="overflow:hidden;text-overflow:ellipsis;white-space:nowrap;line-height:1.6;margin-top:4px;color:#757575;text-align:left;font-size:12px">１ 　きょう生きることをあきらめたかった。 　だれかとか、なにかを思い出してしまう予感のする祝日の月曜日。 　席についた商業施設内の喫茶店のテーブルにて黙りこむ、クリームソーダのアイスをぼんやりと見つめることでどうにか会話ができた。向かいに座る彼女は、おそらく僕の顔をみつめているのであろう。「あなたって、人の目をみることが苦手なのね」と数分前に指摘されたば…</span><span class="ogpCard_url" style="display:flex;align-items:center;margin-top:auto"><span class="ogpCard_iconWrap" style="position:relative;width:20px;height:20px;flex-shrink:0"><img alt="リンク" class="ogpCard_icon" height="20" loading="lazy" src="https://c.stat100.ameba.jp/ameblo/symbols/v3.20.0/svg/gray/editor_link.svg" style="position:absolute;top:0;bottom:0;right:0;left:0;height:100%;max-height:100%" width="20"></span><span class="ogpCard_urlText" style="overflow:hidden;text-overflow:ellipsis;white-space:nowrap;color:#757575;font-size:12px;text-align:left">note.com</span></span></span><span class="ogpCard_imageWrap" style="position:relative;width:120px;height:120px;flex-shrink:0"><img alt="" class="ogpCard_image" data-ogp-card-image="" height="120" loading="lazy" src="https://assets.st-note.com/production/uploads/images/88781026/rectangle_large_type_2_d993eaf2e8ff3653cf839b14438bd614.png?fit=bounds&amp;quality=85&amp;width=1280" style="position:absolute;top:50%;left:50%;object-fit:cover;min-height:100%;min-width:100%;transform:translate(-50%,-50%)" width="120"></span></a></article></div><p>&nbsp;</p><p>お久しぶりです。</p><p>またこの場所に帰ってきました。</p><p>&nbsp;</p><p>というのも、実にひさしぶりに短編小説を書いてみたのです。</p><p>小説というものを、また書きたくなったのです。</p><p>&nbsp;</p><p>昔の感覚を掘り起こしながら、どうにか着地できました。</p><p>&nbsp;</p><p>『君のつづき』という題名です。</p><p>&nbsp;</p><p>ここで小説を書いていた頃の僕が、星の光みたいに今の僕に届く。</p><p>&nbsp;</p><p>そんなお話です。よろしければ、是非。</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12768946639.html</link>
<pubDate>Wed, 12 Oct 2022 01:18:34 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>今ここにある、失くしたあとの空っぽ。</title>
<description>
<![CDATA[ 　21歳になって、もうすぐ22歳になります。<br>　懐かしさを求めていたら、こんなところに辿りつきました。<br>記憶というものは不思議で、ふっとログインIDやらパスワードを思い出せるものなのですね。<br>　もう誰も見ていない、誰もいない。もう昔みたいな回りくどい言い回しは恥ずかしくてできないですが、この遠くなって霞みつつあった過去がちゃんと現在にも残ってること、すごく不思議で、ちょっと嬉しくて、美しい感情を抱きます。<br>　当時は中学生でした。なんだか下手くそで恥ずかしい文章の小説が並んでいますが、紛れもなく、この場所は僕の青春だったといえます。この場所から足跡は伸びて、いまも僕は僕を続けています。もうここは空っぽだけど、空っぽがちゃんと在る。ここに残ってる。もう触れないし、話せないし、あったかどうかも曖昧になるような記憶だったのに、ちゃんと触れた。話せた。ちゃんとあった。<br>　今はもう小説という媒体での表現はしていませんが、別の形であるところで活動しています。URLは……まあいいか。あんまり書くと、この不思議な感覚がこぼれてしまう気がする。<br>　中学生の僕、久しぶりに何作か流し読みしたけど、文章も回りくどいし内容も矛盾してたり登場人物もわかりづらい。でも、楽しんで書いてるのが伝わってくる。今でも、カチャカチャとキーボードを叩く記憶の音がきこえてくるみたい。<br>　<br>　またたまに、覗こうかな。小説を通して仲良くさせていただいていた皆んなは元気にいるのかな。<br>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12703485436.html</link>
<pubDate>Wed, 13 Oct 2021 00:19:00 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>夕方少女の透明感</title>
<description>
<![CDATA[ 　午後７時を過ぎて、ようやく手触りのある夕暮れを知れるようになった街の信号が点滅しはじめた、縞馬柄を踏み歩く僕は、きっと夏になれるものだと思っていた。窓をすこしだけひらけて、透明なカーテンがゆらゆら、床にねじれた影を泳がせた春風のさよならを眼で聴いたときから、僕は夏になれるのだと信じ込んでいた。<br>　約束どおり来ないバスを待ちながら、僕はたった数分前の風景を脳内でデジャヴしている。君が僕に打ち明けて言ってくれたこと、それはきっと僕のことを彼女は信じていて、僕のことを好きでいてくれていて、僕が君のことを好きだということを信じてくれているから、言ってくれたのだと思う。僕は、彼女の告白を聞いた。僕はいつからか、君のことを透明な少女だと思っていた。黒髪で、ショートヘアーで、何かを見ていて、何も言わない、透明な少女なのだと、思いはじめてしまっていたのだ。<br>　だから、彼女が明かしてくれたその悩みは、僕の中の彼女の人間色を取り戻してくれたような気がした。彼女だって、一人の１６歳だった。僕と同じように、春の終わりに気づいていて、夏になれるのだと思っている一人の少女に過ぎないことを知った。そのことに、僕はそこはかとない安心を抱けた。今まですこしだけ素直に本物だと思えなくて、頭に引っかかって取れなかった恋人（彼女）からの愛の言葉にも、今は十割素直な感情で受け取れた。<br>　そして、君がその渦巻く軋轢の何割かを話し終えたとき、僕は何も言うことはできなかった。あれだけ彼女の半透明部分を知りたいと求めていた僕なのに、いざとなると何も言葉はなかった。　　　本当に短い間。なにかを言わなければ、と僕は当たり障りのない言葉を選ぶ。そんな言葉はすぐに色濃くなった街の中に吸い込まれて消えていって、何ひとつとして彼女に寄り添わない。<br>　やがて君は嘘っぽく笑って自転車をこぎだす。僕に嘘っぽく手を振って、さよなら夕方の底のほうへと帰ってゆく。取り残された僕は、もどかしく手を振りかえしながら、届くこともない「ごめん」の一言を繰りかえした。<br>　その短い髪がひらりと風で弾んだ。そこの街角を曲がって見えなくなった君に、僕はあげていた手も下ろして、文字どおり透明になった彼女に背をむけて１７歳前の横断歩道をわたる。すぐにバス亭を見つけて、約束どおり来ないバスを待った。<br>　バスが到着するとき、僕は君に会いたくなっている。何も言えなかった僕を君は「優しい」って言ってくれるけど、それは何もないのと同じで。僕はバスに乗り込んで、整理券を引きぬいてテキトウに座席に座る。動き出したバスの窓からは、赤信号がぼやけた十字架と、それに従った車のランプが消えかかりそうな煙になっているのが見える。<br>　午後７時を超えてしまう、梅雨の隙間っている天気が女の子の軋轢をごまかしてしまいそうだ。僕はそのことを強く願う。空っぽなまま僕は夏になれるのだと思い込んでいた。きっと、夏にはなれない。春の終わりにもなれない。<br>　夕方少女のつよがり色に街がなる、やがて夜。　　END<br>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12171006120.html</link>
<pubDate>Wed, 15 Jun 2016 19:18:02 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>Girl</title>
<description>
<![CDATA[ <p>　春も近くなった。そう思い始めた。昨日の夜からだ。部屋の電気を消し、テレビの灯りもない僕の部屋には、その暗闇で見えるものは無く、あるのは温度と、音だけだ。僕は布団にもぐりこんで、その柔らかいに抱かれる。電気毛布の電源を点けるのを忘れていたから、布団の中はやや暖が足りていない。そうなると僕は足を胸元まで持ち上げ、膝を抱くように体勢をとる。死んだフリみたいで、生まれてくる前のような。しかし、今日はそれをしない。急いで電気毛布の電源を入れようともしない。春も近くなった。そう思い始めた。<br>　電話から、好きな人の声が聴こえる。真っ暗な部屋なのに、なぜか眩しく射してくるものがある。カーテンとカーテンの間に、白い月が挟まっていた。枕元からの僕の角度が、いい具合に月を絡め取っていた。射してくる。月の光。瞼を歪ませてしまうくらいの、月の光の一方通行だった。電話からしてくる好きな人の声に、僕は答える。僕が笑う。彼女が笑う。互いに笑う。また声がして、また笑う。「好きだ」と言って、「好きだ」と言われる。また笑う。月の光が射してくる。会いたくなる。<br>　桜の開花宣言をニュースで見かけるようになって、僕の街もそろそろ春を始めるだろう。その春は限りなく透明な薄い青を朝に飾り、その下で桜の森が笑い、夜にはライトアップさせる。そこに屋台などが並んで、街の恋人たちや男たちや女たちや子供たちが流れる。桜の森に雨が降りはじめた頃に、次は春の言葉が死体になってゆくのをニュースが届けるのだ。そうやって街は続き、そうやって街は続く。好きな人に「会いたい」と言う。それから、小さく約束をする。<br>　春も近くなりつつ、それを気にせず僕は眠る。柔らかいに抱かれている。そこで柔らかい春の夢を見る。抱かれるように、月の光のように。フィルムカメラの写真のような曖昧さを、僕が見ている春の夢は佩びた。<br>　久しぶりに僕は彼女と会った。言葉はなかった。僕は昔彼女のことを好きだった。言葉は聴こえないのか、それとも何も話していないのか、わからない。曖昧な画質と音質のまま、彼女は僕となにも求めない沈黙の中で手を繋いだ。細く、月の光のように柔らかいその右手がすり抜けるように僕の左手を汲む。僕は何も言わず、彼女も何も言わず、なのにどうしてか悲しみが見えている。どうして悲しいのかが、僕には言葉を言えない。その春の夢に言葉はなかったから、僕に言葉はなかった。だから言えない。曖昧な画質と、漠然としている悲しみが左手と右手に糸のようなものを延ばして漂っている。<br>　僕らは切符も買わずに電車に乗り込み、そのとき手がほどける。乗客の少ない電車に、昔好きだった彼女と僕は乗り込んで、座席に座る。そしてすぐに、まるでカーテンのように空いた二人の間の左手に、右手が重なってきてまた絡めとるように繋がれる。電車が動いて、僕らはすこし揺れる。昼か夜かもわからない。車窓から照らしている外の明かりがわからない。月の光のように白くて、言葉がない。夜なのか昼なのか朝なのかわからないそれを抜けてゆく。僕と思い出の彼女は手を繋いだまま、何も言わないまま、何もないさよなら。春のように。</p><br><p>　そうして部屋の天井に眼が飛び込んだとき、僕はまだ余白の街に取り残されている。まだ暗くて、でも真っ暗じゃなくて、夜明け前の寂しい色使いが街の春を近づけている。カーテンの隙間からはもう月が見えなくなっていて、射していた光が見当たらない。それについて言葉が見当たらない。<br>　愛、と呼んだ。恋、と呼んだ。柔らかいに抱かれたまま、もう会わなくなった彼女をすこし思い出した。右手が布団からはみ出ていた。カーテンの隙間の、彼女のような夜明け前が染まっている。彼女は夜明け前だった。　　　　　　　　END<br></p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12143297018.html</link>
<pubDate>Tue, 29 Mar 2016 11:33:39 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>「短編」宵子</title>
<description>
<![CDATA[ <p>　１<br>　夜明け前。街の中をすり寄った弱い風は、つまりはこの街の寝息だと名前を貰っている。まだ宵子が踊っている。とても静かな公園、とても静かなコンビニエンスストア、とても静かな団地、とても静かな住宅街。何の季節も問わず必然的に設けられたその街の静寂は、いつも通りの脈絡を歩いている。当たり前のなかで――眠りながらも――街は、人は、虫は、花は、昨日の訃報をすでに知っている。十階建てのマンション。その五階の左から二番目の部屋。ベランダへの窓が開いている部屋の隣。そこに二人の彼氏彼女がいた。<br>　彼女は上下ともグレーのスウェットを着ていた。髪は長く、そしてくどい色をしている。まるで金木犀のような色だ。そこから覗ける顔は頬がやや突っ張っており、目は小さく、その位置も互いに離れている。屈んだかのように平らな鼻から唇までの距離は近く、顎が三割も語っていない。小さい。そんな彼女の顔を、涙が埋めていた。それを拭おうとする手の指にはピンク色のこてこてとしたネイルが塗られている。「どうして」、と彼女が言った。何度目かの、「どうして」だった。<br>　向かい合って、男がいた。男もまた、彼女とよく似た髪色をしていた。しかしその髪は短く切り刈られ、剥き出しの耳には幾つかのピアスの穴があった。肌が若干黒く、彼もまた目が小さい。唇も小さい。服は彼女と色違いのスウェットを着ていた。しかし男の顔はなにも飾られてなかった。ただ咽びながら大粒の涙を繰りかえし流す彼女を正面から、見つめているだけだった。彼氏彼女の、泣き顔と真顔。「どうしてなの」また、彼女が無理やり絞ったような声で男に訊いた。「ねえ、なんで」<br>　男はそれまで黙っていた上唇を、ようやく持ち上げた。「ごめん」「……でも」<br>「でも……何？」女がそのまま訊ねる。<br>　そのとき、吸殻が積まれた灰皿のとなりにあった男の携帯電話がバイブ音を鳴らした。メール。そこには、彼女ではない名前の女が表示されている。「別れたい」、男はそれを無視して、その言葉を言う。<br>　また、彼女は大量の涙をともないながら喚いた。雪崩れているかのような滑舌で、「なんで」と言っていた。右足を上げては床に叩きつけるのを二回した。鈍い音が鳴る。確実に下の階に響いている。そのまま女は力が抜け、床にしゃがんだ。留まる区切りも見つけられず、涙が溢れてしまう。床にびしゃびしゃと落ちた涙の溜まりを見ながら、彼女は男との日々をひとしきり掘り起こしていた。彼のバイクの荷台、彼がつけていたチェーンのネックレス。削り取られた日々が、化石になっている。「じゃあ」、しゃがんだ頭の上から、男のそんな声と言葉が落ちてきた。「今までありがとな」<br>　男は去った。彼女はしばらくそのまま泣いていた。時刻は午前四時を終えようとしている。夜明け前、窓から鳥が何羽か鳴きはじめた。声が高い。彼女はすこし顔を上げた。振り向いてみると、宵子が踊るのをやめていた。<br><br>　２<br>　夜明け前。ジャケットの袖をすこしまくり、時計に目をやると午前四時も終わりそうだった。俺は何をしてるんだろうな、なんて俺はコンビニエンスストアの駐車場でそう思い、呟いた。するとそこからこぼれた息が白く色づいていて、どおりで肌寒いわけだと真顔の奥ですこし笑った。そしてすぐ嫌になった。<br>　いつもとは違う煙草を買った。さっそく一本吸ってみることにした。ライターの火が小さくて、捻り切れてない蛇口の先の雫に見えた。火を点けると、すぐに煙が冬の近い空に首を仰いだ。一口吸う。そして必要以上に吐いてやった。存分に煙を吐きだしてやった。それから俺は頭でうん、と頷いてから「不味いな」と呟いた。<br>　まだ何も終わっていなかった。過ぎってほしくないものに限って、脳裏に過ぎる。書き上がらない長編小説の断片、喧嘩したままの友人、無断で休んだことに怒るバイト先の店長からの留守電、まだ何も終わっていない。次は煙もなく、息を吐く。何だか面白くなって、もういちど煙草を吸って吐いた。煙が四方にただよう。それから何もなく息を吐く。すると白い息が煙草の煙みたいで、ほんのすこし笑える。<br>　時間をあらためて確認すると、午前五時にまたごうとしている。横断歩道の向こうにある十階建てマンションの辺りで鳥が何羽かいる。夜明け前。宵子が靴を脱ぎ、帰ってゆく。<br><br>　３<br>　夜明け前。人を殺した。廃れたデパートの三階。ほこりまみれの窓ガラスに散った彼の血に目をやる。僕が、殺した。まだ奥歯がうるさい。誰かに見られているかもしれない。こんなところで、人を殺してしまった。右手にある感触が、今になって激しい動悸をもたらしてくる。ナイフ。血だらけの、ナイフ。今まで彼だった死体に、今まで流れていた血。僕はナイフを床に落としてしまう。それでも右手には彼の血がこびりついてしまっていて、心情に凪を作ることができない！　<br>　僕はとりあえずその現場から走って逃げ、その廃れたデパートから外へ出た。誰かに見られるかもしれないから、右手をポケットに突っ込んで、とりあえず逃げた。十階建てのマンションを通り過ぎる。横断歩道の信号が赤だ。その色が、血に似ている。そう思って、また僕が殺した彼の死体が、投げつけられたように脳内全面に貼りだされる。どうすることもできなくて、過去に戻れないということをこの瞬間に誰よりも、今までの僕よりも思い知らされて、そして思い知って、次は、次は、と考え込もうとしてもできなくて、何の意味もないけれど叫びたくなったから、僕は叫ぶ！　僕はまるで今に殺されそうな悲鳴のような声で、叫ぼうとした。<br>　けれど、叫ばなかった。叫べなかった。叫ぼうとしたら、それを食い止められた。横断歩道の赤が点滅している。コンビニエンスストアの駐車場にいる男が僕を見ていた。僕が人殺しだとばれたのかもしれない。しかし、だからどうするかは何も考えられなかった。行動に起こせなかった。<br>僕の向こうで、宵子が踊っていたのだ。なぜか笑っている。なんで笑っている？　信号が青になり、変に落ち着いてしまった僕はのそのそと道を歩きはじめる。宵子が踊っている。けれど僕が渡り終えた頃には消えていて、宵子はもう見えない。<br>　そのまま歩くと、公園が見えた。何となくその公園に向かう。どうしてか、僕はあれほど人を殺したという実感を覚えていたというのに、今は不自然なくらい夢見心地になっていた。まるで閃光だ。僕は夢を見ていたのかもしれない。ポケットから右手をだし、もういちど手の平を広げてみたらやっぱり血痕が大きく残っていて、夢ではないと失望させられる。けれど、それまでだ。さっきまでの興奮が、今はない。作れていなかった凪が、今は心にたたずんでいる。<br>　僕はブランコに座って、すこし揺れる。これからどうしよう、と僕はブランコの錆びたチェーンを握りながら考える。夜明け前。宵子が踊っていた横断歩道より向こうの十階建てのマンションの壁から、すこしだけ陰が除かれはじめている。夜がゆっくり、なのか速いのかわからないけれど色が剥げていっている。まるで神様か誰かに慰められているように。ブランコに揺られながら考えた未来なんて、多分実現しない。僕がこれからどうなるのか、何となくわかっている。公園の出入り口から見える横断歩道の信号の青が、点滅しはじめる。宵子はもう見えない。信号が赤になり、その色がまるで。<br><br>　４<br>　夜明け前。気がつけば、また夜が終わりそうだ。朝をすこし先走って電線に止まった数羽の鳥を、街は目をやる。刳り貫かれたような丸い雲の色が、朝の一秒一秒が摘まれてゆくにつれて分かってくる。街灯の明りも、それに比例して見えなくなってくる。街中で踊っている宵子は、もうすぐ帰るだろう。夜明け色が、廃れたデパートの窓ガラスに映される。コンビニエンスストア前の横断歩道をすり抜けてゆく。公園の誰もいない錆びついたブランコを風で揺する。十階建てのマンションにも、夜明け色は平等に配られる。五階にも届く、窓が開き、カーテンの踊り方がわかるその部屋にも色は滑りこむ。上の階の大きな騒音で目が覚めた子供は、閉じていたカーテンを両手でひらける。そして、ちゃんと夜明け色は飛びついてくる。<br>　夜明け前。もうすぐ午前は五時となり、街はすこしずつ瞼を上げてゆく。<br><br>　５<br>　私が自殺しようと思った理由。理由の理由。そんなものをわざわざ言い残して死ぬなんて恥ずかしいと思った。だから結局、置手紙の一つとして書かないことにした。ある日突然自殺していた、それだけの情報だけでいいだろう。両親は隣室で眠っている。私は首吊り用のロープをカーテンレールに巻きながら、今までの人生で思い残すことはないかなどを暢気に考えていた。一つだけあった。そうだ、自作の詩は捨てておこう。見られると死んだ後でも死にたくなるだろうから。私はカーテンレールにロープを吊るしたあと、机の引き出しに入れておいたノートを手にとった。無作為にページを開くと、これまで自分が突発的に綴ってきた詩が書かれている。一ページ、一詩。そう決めてある。書いているときは勢いで押し切っちゃうけれど、いざ読み返してみると拙い。けれど、特別な羞恥心も生まれない。過去の私と、今の私について考える。きっと今の私が詩を書いたとしても、ここに並べられた詩とよく似ているものだろうと思う。私は、昔の私が書いた詩に、共感していた。笑ってしまう。けれど、笑えない。どのページの詩も、大体言い包めてしまえば「死にたい」と言っているのだから。やっぱり、笑ってしまう。<br>　ひとしきり読んでいたら、何だかこれは残しておいてもいいかな、なんて気分になってきた。そうだ、なんならこの（なんちゃって）詩集を置手紙代わりにしよう。多分読まれている間は死にたくなるだろうけれど、もう死んじゃってるし。また私は笑った。さて、死ぬか。私はノートを机に置き、いちど水を飲みにいった。グラスに水道水を注ぐ。そして一気に飲み込む。どうして水なんて飲んでいるのか、私はわからなかった。いや、わかっていた。さっきから無性に喉が渇く理由、きっと私は、怖がっているのだ。首を吊るということに。自殺するということに。<br>　私は部屋にもどり、何回か息を整えた。呼吸し、呼吸し、深呼吸をし、また呼吸し、何となくまた深呼吸し、呼吸して、呼吸して、呼吸して、噎せた。ところで隣の部屋の住人がうるさい。たしか金髪のカップルだったと思うけれど、なにをこんな時間から話しているのだろう。興味はないけれど、私の自殺する瞬間を見られるのは困る。私は椅子をロープの前に持って来、その上に立った。椅子の上に立って眺めてみる部屋の景色は、ただ高さが変わっただけだというのに、いつもと違った。いつもは顔を上げて見ていた掛け時計も真っ直ぐで見える。俯瞰して自分の部屋を眺めながら死んでゆくのも悪くないかもしれない。何もないこの部屋でも、何かあるように思えてくる。<br><br>　逃げないで　宵子<br>　逃げないで　宵子<br>　私が追いかけるわ　今から　<br>　だから夜の崖で待ってて　ねえ宵子　<br>　背中をぽんと押して　ねえ宵子<br><br>　私は、自分で書いた詩を詠んでいた。たしか題名は「夜明け前」だった。時間を確認すると、詩の題名どおりの時間だった。私は椅子から降りて厚いカーテンを左右に投げ、窓をあけた。するとレースカーテンが風で踊りだした。笑っている。意味もなく。私はベランダに出て、夜明け前の街をただ傍観した。夕暮れのような夜明け色をしている。街は、街のままで、電線に並んだ鳥もなにも変わらない。いつも通りで、当たり前なのに、私は――私たちは――あまりその景色を見ない。よく意味がわからないけれど、「美しいな」なんて思えてきて、私が自殺しようと思った理由にも、なんの暗喩も無いことに気づいて、またすこし笑って。きっと朝になるだろう。すこし息が白くなっていて、煙草を吸ったあとみたいな気分になって、私は窓を開けっぱなしにしたままもう一度、<br><br>　椅子の上に立ったとさ。　　　　　END </p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12114453230.html</link>
<pubDate>Wed, 06 Jan 2016 21:41:17 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>さよならは、海と月に。　最終話</title>
<description>
<![CDATA[ <p><strong><font size="2">　さよなら</font></strong></p><br><br><p>　窓にしがみついては剥がれていく雨粒が、景色も冷静な息で奪っていった。車両の中はよどんだ空気が蒸れていて、居心地が悪い。もうあの無人駅は小さくなって見えない。まだ佳代がそこで立っているのかどうかも、関わりを切り捨てた窓は映してくれない。今の車窓はぬかるんだ道と、田んぼをひとしきり流し込んでいき、やがて赤い鋼橋の上をわたる。途切れ途切れでみえる深い川面は、雨が殴りかかって騒がしい。不規則な振動で肩から一気に重力で持っていかれる。<br>　暑い。額に芯から張りついた前髪を指でつまんで離す。溶けたヘアスプレーが中途半端に毛先に残っている。電車が各駅に止まるたびに、つよく焦燥感で内側を押される。全力で走った体が、まだ状況を理解しきれずにひたすら汗をほのめかしてくる。汗を袖で拭う。携帯電話に目をやるけれど、やはり帆音に宛てて送ったメールは未送信になっている。<br>　つり革を握りしめる手の力が軽くなる。送信できなかったメールの内容をひらいて、その文面を読み直す。いい具合に自我の海底に溶けこんでくる気持ち悪さがあらためた姿勢で清楚な格好をしてやってきて、送信されなかったことに思わず安堵する気持ちもいささか生まれた。僕らしくないメールだ。まずこんなに長文で文章なんてあまり書かない。僕の物語なんて、文章に起こしてみても短いものだ。中学のときはかなり自分はおしゃべりでたまに迷惑がられるくらいにうるさい奴だと思っていたけれど、今になってあまりそういったタイプじゃないのかもしれないなんて自分を見つめ直せたりした。あまり自分という人間に、言葉を多くは必要ないのかもしれない、と。しかし、帆音に送るメールには、それだけの言葉を使用せざるを得なかった。それは、これからも。帆音はもう僕のことなんてほぼ全部知ってしまったのかもしれないが、僕は何も彼女を知らない。まだ訊きたいこともあるし、そして彼女を助けられていない。僕と帆音は、外面はなにも似ていなくても内側の隅っこに咲いた花の種類くらいは同じだと思うのだ（それは僕だけが思っていることかもしれないけれど）。<br>　僕が帆音に訊きたいこと。たくさんある。僕が帆音のことを忘れている分、いろいろとある。中学の頃、僕らはどうやって知り合ったのか、だとか彼女と僕の間に、強い思い出などはあるのだろうか。それと――どうして彼女は、僕が「忘れられた」ことを最初から知っていたのか？　だとか。景色に、建物が増えてきた。そろそろ最終駅だ。別にそこで降りたからといって、帆音がいるかなんてわからない。根拠なんて何も無いのだ。<br>　そして駅に到着する。そうだ、綿谷海のことも訊きたい。決して、興味が無いわけではないから。<br><br></p><p>　ホームのいささか長い階段を降り、改札で整理券をわたしてそこからの乗車金を払った。外にでると、石畳のまるい広場があり、円型の木のベンチが二つほど設けられていた。雨で誰も座ってなどいなかった。外壁がすべてガラス張りのショッピングモールが建っていて、その前にはタクシーの駐車場があり、その後ろでバス停がL字で並んでいた。ショッピングモールの中にある洋服屋の袋をもっている女子高生や、傘をさしながら会話している女子高生たちの姿も、少しだけどいた。僕はそのなかで帆音の姿を探してみるけれど、帆音はいなかった。僕はバス停とは反対側のほうへと歩いた。反対にはJRの駅があり、中に入ると、ここら辺でやっている地方テレビのキャスターとそのゲストが生中継をしていた。カメラマンの前でとても作り物くさい笑顔をみせてなにか喋っている女性キャスターを通りすぎ、僕はJRの駅を抜けた。ビジネスホテルや、居酒屋、商店街に繋がる横断歩道などが、駅のガラスドアをでた途端に僕にこの街について前のめりの姿勢で語ってきた。見慣れた景色だ。どこか都会になり切れなくて、垢抜けない駅前だと、僕はいつも思う。雨は梅雨らしく偉そうな顔で雨を降らしてそれらを濡らしていた。古臭い音が癒着している横断歩道を、ビニール傘をさしてわたり、暗い色合いになった石畳の道路をはさんだ歩道の右側の方をあるいた。屋根があったから傘をしぼめる。しぼめた傘からしたたった雨粒がスラックスの裾にかかって、足元をみると今更さした傘の意味なんて皆無なくらいにすでに全身が濡れていることに気づいた。<br>　ふとサイゼリアに入っていく女子高生がみえて、目をやってみるが帆音じゃなかった。プリクラを撮ろうとゲームセンターを指差している女子高生のグループにも、帆音はいない。僕とおなじ高校の制服をきた子もいくらか見かけた。アイスクリームを挿んだパンを頬張る男子高校生に混じっている女子高生も、帆音とは違う。商店街のほうも探したが、いない。帆音、どこにいるんだよ。いままで僕の頭でくすぶっていた煙は、消える際に彼女まで消してしまった。あるいは、隠してしまった。不意に散った桜みたいに。今日の選択が違っていた場合の明日みたいに。あるいは。<br>　汗は乾いたのに、雨でシャツは濡れていた。偶然でしかない雨なのだろうけれど、僕は何かしらこの雨に暗示的なものを感じてしまう。そんなもの、何も無いのに。何かを伝えているような沈黙が、ひたすら降りてくる。帆音は僕のことを、忘れてしまったのかもしれない。いや、違う。僕は振りかえり、駅に戻ろうと思った。ここに彼女はいない。くらげ町に、彼女はもういない。そう思ってしまえば足取りも軽くなるかなとか思ったけれど、雨が染み込んでやはり重かった。それも、何となくわかっていたことだ。<br>　雨の音がぼやけて、静かな隙間があったような気がした。うまく記憶が握れなかったその隙間で、僕にまたたいたのは彼女らしき横顔だった。横断歩道をはさんだはす向かいにあるマクドナルドから、彼女の無駄に大きな話し声が聴こえた。目を凝らしてみると、彼女と似たような容姿をした女子高生の足が数人みえた。そこにいるのか、僕はまた走りだして、横断歩道の信号が変わるのを待った。焦りがひどく胸を叩いてきた。足裏を浮かしたり落としたりと落ち着くことができなかった。信号が青になり、やや駆け足で僕は横断歩道をわたる。一階のレジで注文していた女子高生たちが二階のテーブル席へと階段を上がろうとしている。待ってくれ、どうして僕に気づかない？<br>　扉を押してマクドナルドに前のめりで入店したとき、その息を切らした僕の、慌てように思わず階段を上がろうとしていた女子高生たちが止まった。僕に目をやっている。ひそひそと何か言っているような気もする。僕はその軍団に帆音の姿を探した。とても明るい栗色の髪、ピンでとめた前髪、目元の大きさが釣り合っていないカラーコンタクトの瞳、リップを執拗にぬった唇、たしかに彼女はいた。しかし、すぐに彼女は帆音でないと思った。そして、すぐに彼女は帆音ではないと言えた。<br>「綿谷……？」<br>　それは僕の初恋の相手だった。綿谷、海。しかし今僕が目にしている彼女は、まるで僕が知っている彼女ではなかった。帆音、どこに行ったんだ？　やはり探してしまう。綿谷海が僕をじっと見ていた。ひび割れてささくれた呼吸が、やや暴力的に洩れる。雨で寒い。暑い。すこし笑いたくなった。さよなら、だ。さよならが途切れる。音も生まれず。腹の中から泣きじゃくる声も無い。<br>　さよなら。気づくと僕は、彼女を忘れてしまっていた。　　END　　　</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12087586144.html</link>
<pubDate>Tue, 17 Nov 2015 21:53:09 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>さよならは、海と月に。　１３</title>
<description>
<![CDATA[ <p><strong><font size="2">　衣替え・さよなら</font></strong></p><br><br><p>　午後から雨が降る、と天気予報士は言っていた。傘を持ち歩いた方がいい、と。僕はそんな忠告を耳の縁あたりに付着させとき、ビニール傘を持って外にでた。二年生になってからの思い入れなんて染みていないままブレザーは片づけて、久しぶりに着ようと思った制服は白いシャツにやや薄生地となったスラックスだった。三ヶ月ほどの期間が、僕に感触の悪い緊張を投げてくる。春休み明けのあの日が、振り返ってくる。ヤギ顔のあいつの顔や、僕が必死になって腕を掴んで呼びとめた人たちの顔が、僕の歩みに比例して振り返ってくる。初めて学校をサボった日と同じような、雲の押し詰められた空に鳥が数羽ほど流れる。<br>　僕と同じ制服をきた生徒が、何人も僕と同じように歩いている。それは学校に近づいていくにつれて増えていく。僕は三人で歩く男子生徒の後ろで歩いていた。前にいる男子生徒たちは、僕に気づかず、朝から大きな声でくだらない会話をしている。僕も以前はそこにいた。僕もそういう日々にいたのだ。三人組のなかの一人が、後ろを振り向むいて、そいつと目が合うこととなる。ヤギ顔の、そいつと。<br><br></p><p>「帆音、今どこにいる？　バイト中ならそれでいい。今から会いに行っても、いいかな。この前僕にした質問、答えに行きたいし。君のおかげで、いろいろ考えられた気がするよ。ありがとう。喫茶店のあと、ちゃんと佳代に会えたよ。しかもいろいろ話せた。僕が忘れられている、と思っていたけれど、案外自分の方がいろいろと忘れていたのかもしれないなんて思ったよ。ありがとな、ほんとに。それとさ、帆音。<br>　これからも、仲良くしてくれたりしないかな？<br>　多分、僕にとって帆音は結構大きい存在になっていると思うんだ。今日、こうして学校に行けたのも、帆音が言ってくれた言葉のおかげだし。いや、多分じゃないな。多分じゃないよ。帆音の存在は絶対、大きい。だから、これからもよろしくしてくれないかな？　しかも、ほら。帆音も僕と同じだろ？　次は僕が、みんなが帆音を思い出せることができるように手伝いたいんだよ。まあ、僕このとおり馬鹿だから、君みたいに頭は良くないから、力になれるかどうかと訊かれれば肯けないけど。それに、まだいろいろと帆音に訊きたいことがあるし。<br>　とりあえず、今から会いに行くよ。質問に答える他に、もう一つ、君に言いたこともあるんだ。」<br>　僕はメールを送信し、スラックスのポケットに携帯電話を戻してコンビニエンスストアへと足を運んだ。波がすこし荒んだ音をしていた。湿気を含んだやや強い風が、梅雨の時期を証明させるように吹いて僕のビニール傘ががたがたと暴れた。雨はまだ降りはじめてはいなかったけれど、曇り空は朝よりも深く暗みを滲ませ、動作がにぶい雲が灰色に苔を生やしはじめた。傘を飛ばされないように、持ち手を握る手に力をこめる。<br>　コンビニエンスストアに入ると、男店員の「いらっしゃいませー」だけが聞こえた。あとは何も聞こえない。店内には曲もかかっていなかったし、レジの男店員以外の人は見当たらない。帆音の姿はなかった。それでも僕は本当か確かめるため店内をぐるりと回った。商品棚でサンドウィッチを並べている店員もいないし、トイレにも誰もいない。いつも僕が買う瓶サイダーがならんだ冷蔵庫のほうへ目をやってみるが、誰としていなかった。それでも僕が瓶サイダーが並んでいる箇所まで近づいたのには、また違った理由があった。<br>　その冷蔵庫には、瓶サイダーなど販売していなかったのだ。そこにはペットボトルの炭酸水があって、瓶の容器である飲み物など何もなかった。ポケットからまた携帯電話を手にとって開くと、メールが送信されなかったという報告が伝えられていた。アドレス帳を開いて、急いで「あ行」にいる名前を確認する。<br>　おいどういうことだよ、そう声になるかならないかの呟きを洩らした頃には僕はコンビニエンスストアを飛び出していた。早歩きで駅のほうへと足を運んでいた。意識よりも、直感が先に身体を侵略してしまっていた。早歩きはやがて駆け足になり、なぜこんなに自分は焦っているのか理由もわからないまま僕は走った。ローファーのつま先でつよくアスファルトを蹴った。粘着質のあるぬるい風が肌にへばりつき、セットしていた髪の毛もくしゃくしゃと崩れた。いそいで巻き上がった前髪を戻そうとしたけれど、それほど僕の気が回っていなかったことに気がついた。全力で駆けている。湿気で汗ばみ、シャツが鬱陶しくて嘆息を吐きつける。あまり運動していなかった身体がすぐに限界だと嘯く。うるせえ、とそんな弱音の胸倉を掴んで殴りかかる。そんな僕を待っていたと言うみたいに雨がこぼれてくる。雫がぽつぽつと頬を叩いてきて、赤いランドセルを担いだ女の子が僕を見ていた。どうしてこのタイミングで綿谷海なんて思い出したのだろうか、自分の思想がどう蠢いているのか把握できない。海花帆音がショコラケーキを食べていて、小学生の女の子がジャンプしてランドセルをがくんと極端に揺らしている。踏切が近づき僕だけに強く吹いている風が思考よりも意識よりも早く駆ける足を叩いて踏み切りをこえた。無人駅が見えてくる。もうすぐ時刻が十七時になる。今こえたばかりの踏切が後ろで甲高く音を放りはじめ、雨で輪郭の外がぼやっとした赤いランプが点滅する。向かいの方から、電車がやってくる。<br>　僕はホームへ上がり、到着したその車両から海花帆音の姿を目で探した。いない、二車両あるから、後ろの方にいるかもしれない。二車両目のほうへ行こうとしたときに、「一浪！」という声が聴こえた。佳代だ。振り向くと佳代が傘を差して僕を見つめている。「どうしたの？」と訊ねながら僕の方へと近づいてきた。<br>「いや、……何でもないよ。あ、それとおかえり」<br>「うん、ただいま。誰か探しているの？」<br>「いや……、」そうだ、僕は帆音を探しているのだ。しかし、佳代にそれを伝えるのはあまりよくないと思った。「ち、違うよ」<br>「じゃあ、また……」<br>　電車がふたたび動きはじめる。それに焦って二車両の車窓から中にいる乗客の顔を見てゆく。しかし最後まで確認できないまま、電車は次の駅へと去っていってしまった。「ねえ、どうしたの一浪」佳代は落ち着きのない僕の視界にいちいち入り込んでくる。「なにをそんなに急いでるの？」<br>　次はいま電車がきた方面に向かう電車がやってくる。僕はその電車に乗ることにした。僕は佳代の顔をつよく見つめ、言った。「ごめん佳代、今僕はすごく後悔しようとしている。きっとこれは後悔になる。わかっているよ。でも、どうしても今は行かなくちゃいけないような気がするんだ。行かなくちゃ、後悔する。もう、自分でも何となくわかっているんだ。だけど――」<br>　また踏切が鳴り始める。「ごめん」と佳代に目を合わせて伝えてから、向かいのホームへと走った。向かいのホームに立ったとき、佳代が線路ごしに僕をずっと見つめていて再び視線が繋がることとなった。佳代が何か言っている。雨で口元が見えづらい。風で声が聞こえづらい。すこし笑っている。すこし、泣いている。僕は佳代に、言わなくちゃいけないことがあるのだ。何を言おう、どの言葉を叫ぶ？　瞼が持ち上がったまま熱い、佳代が僕との視線から逸れる。そしてホームを降りようとするその表情とその姿を、容赦なく電車が喰った。</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12087585734.html</link>
<pubDate>Sun, 15 Nov 2015 20:36:30 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>さよならは、海と月に。　１２</title>
<description>
<![CDATA[ <p><strong><font size="2">　月</font></strong></p><br><br><p>　いつもより瓶サイダーの炭酸がきつかった。防波堤に座って海へと足を放っていると、足元の感覚が麻痺してくる。同じ海なのに、肌で得る感覚などが異なっている。背中からも潮が薫り、視界は星空をうつした水面しかない。夜だけど、明るい。埋めこまれた星が夏を語っている。このまま、梅雨の時期も通りすぎてゆく。生ぬるい風が凪をすべって、僕らは風の中で息づいている生き物だと知る。やや紫の混じった不思議な夜の色と、水面の遠くでぽつぽつと色づいた街の光がサイダー瓶によってより曖昧になる。一口飲んで、となりに置くと、水面に月の化身ができていることに気づいた。それは帆音が言っていた「偽者の月」の光ではなく、「春休み前に見た月」のものだと、僕はすぐに気づいた。僕が春休み前に出逢った、金色の月だ。<br>　春休み前のあの日と同じような波の音で、同じような静けさと同じような風が走っては休息をとっている。瓶サイダーを一本、飲み干す。空っぽになった瓶に、僕は水面に坐ったあの月の影を重ねてみたりする。半透明の向こうで月が浮かんでいるのをじっと見つめて、僕の心が同じような状態であることにまだ消えていない炭酸の気配を連れていった。うまく位置を取り戻せていない心が、夜に含まれた紫色よりぼんやりとある。頭か、心臓部分か、手か、腹か、わからないけれど、どこかに。<br>「人が何かを忘れるとき、それは何がきっかけだと思う？」<br>　何も見えていないんだね、と帆音は言った。こんな奴じゃなかったのに、ヤギ顔のあいつが言った。海はいつ見ても広い。それに比べて、ここから見上げる月なんてとても小さい。水面に落ちた金色の影が、今にもその海に呑まれてしまいそうだ。瓶サイダーが映している。ずっと言葉で燻られている僕は、唐突にできてしまった空白に、まだ上手く触れていないのだ。サイダー瓶を持っていない方の手が、ずっと携帯電話を握っている。すこし瞼を閉じてみれば、まだ僕の時間は先ほどの夕景で止まっている。<br>　一浪はなにも変わらないままだよ、佳代がそう言ってドアの鍵を開ける。僕の中の、変わってしまったもの。僕の中で、変わらないもの。サイダーの空き瓶に落とした言葉は、まだ僕の家の、僕の部屋の窓際に並べられている。僕は腰をもちあげて、防波堤のうえに足で立った。次第に月が、月の影が水面から消えてゆく。仰ぐと夜に、月なんて初めからなかったことに気づかされた。<br>　携帯電話をひらくと、「斉藤伊月」の名前が目にはいる。電話の鳴る音がしている。僕はそれを耳に当て、その電話を出た。「……伊月」<br>　彼がなにか話している。僕はずっと黙って、ひとしきり彼が話し終えるのを待った。そして彼が用件を言い終えたとき、ようやく僕が口を開くのだ。<br>「伊月。話がある」　<br>　さよなら、の大概はどれも途切れさせるようなものだ。それは今も。それは僕も。さよならは、海と月に。<br><br></p><p>　それから僕は、母の煙草の箱を靴で潰した。それから僕は、窓際に並べていたサイダーの瓶を淡々と叩き割っていった。「なにしてんの」と母の怒鳴り声が聞こえたが、そんなこと気にしていられない。夜が明けてしまう前に、僕は髪も染めたいところなのだ。</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12087585342.html</link>
<pubDate>Fri, 13 Nov 2015 00:00:13 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>さよならは、海と月に。　１１</title>
<description>
<![CDATA[ <p><strong><font size="2">　多分、じゃないよ。</font></strong></p><br><br><p>　スカートを折っていて短い。それは中学のときからだ。真っ直ぐで背中を覆うくらいに髪が長い。それも中学のときから。ヘアーアイロンで痛んで色が落ちたのか、毛先あたりが日の光で茶色くなっている。睫毛がすこしくどい。これは中学のときと違う。頬が最初からそうであったようにピンク色をしている。これも中学のときと違う。高校生になって二年目にもなると、彼女の性格だから化粧くらいは齧っていると予想できていた。長袖の白いブラウスの袖を折っていて、ベージュのベストを着ている。色とデザインの派手なケースに入ったスマートフォンを片手に持って、右肩にスクールバックを担いでいる。そして、僕をずっと見ていた。僕が映る彼女の瞳には、僕の各部分へと飛んでゆく。まず顔、次に服、ちらりと足元、そして頭。<br>「一浪、だよね？」<br>「そう、だけど」つい僕から視線を外してしまう。彼女と最後にした話は別れ話だったから、すこし気まずい。<br>「どうしたの、その」<br>　僕はうまく彼女と顔を合わすことができなかった。「ああ、いや、別に理由は自分でもわかっていないんだけど、さ」つい中学のときと同じような態度になってしまう。「え、何がわかんないの？　……っていうか一浪、通学かなんかで電車乗ってたっけ？」佳代は僕との距離を詰めてくる。これも中学のときと同じようだ。多分、彼女は僕が思っている以上に気まずさなんて感じていないのだろうと思った。「ほんと、久しぶりだね」<br>「ああ、うん。いや、この電車は使ってない。久しぶりにここ来たし、」<br>「でも制服じゃないし、どっか行くの？　くらげ町方面ならこの電車に乗らないと駄目だよ？　駅前の方に行くなら今にあっちのホームに電車がくるからそっちに」<br>「いや、違うんだ」と僕は彼女からの質問を断ち切った。「この電車に乗るとかじゃなくてさ」<br>　彼女は「うん？」とした顔で僕を待っていた。なんと説明したらわからない。視点がころころと変更される。一度として視界が定まらない。頭の後ろを掻く癖がつい出てしまう。<br>「その……、佳代に会いにきた、みたいな」<br>　へ？　と彼女は声を洩らした。ちらっと目をやると、チークとは違う赤みが頬に滲んでいて、わかりやすく照れをまたたかせていた。「いやいや、ちょっとよく分かっていないんだけど私」だからそれは俺もだって、と僕も言いたくなった。<br>「いきなりどうした一浪」佳代はまだ顔を赤らめたまま、いささか無理して平然とした態度に戻した。<br>「いや、ごめん」何となく僕は謝る。<br>　「えーと……」佳代はぎこちない瞳で僕を見たりして、はにかみを振り切ったように大きな声で「ねっ！」と声を上げた。「一緒に帰ろうよ。私の家と一浪の家、同じ方面だし」　　　<br>　佳代は中学のときと同じような態度で、同じような笑みが魅力的な表情で僕に接してくれた。「お、おう」僕と佳代はちいさな階段をおり、そのまま歩いた。「ほんとに久しぶりだけど、一浪、変わったね。なんか」佳代は僕のほうを何度か目をやりながら、そう言った。そうかな、と僕は返した。帆音にも言われたし、ヤギ顔のあいつにも言われた台詞だ。<br>「どこらへんが変わった？」<br>　「んー、わかんないけど。なんか変わった」佳代はずっと持っていたスマートフォンを鞄のなかに片づけた。それから右の僕に顔をむけた。まだ頬が明るんでいる。チークなのか、照れなのか、底の浅い夕日だけで区別がつかなくなる。化粧とかは関係なく、僕は中学のときより佳代がなんだか綺麗に見えた。二人で歩くのも久しぶりだし、この道も久しぶりに歩いた。線路と道を隔てるガードレールも錆が増えている。その下で僕らの歩みによって流れてゆく季節の花や草も懐かしい。佳代は今、どんな感覚でどんな気分なのか、僕には読めなかった。別れたときのことなど、もうどうでもよくなっているのかもしれない。それでも僕はこうしてまた隣同士で佳代と歩いていることに、とても懐かしさと当時とよく似た気恥ずかしさを感じている。変わった、と僕は言われたけれど、何も変わったものなんて無いような気がしてくる。<br>「よかった」<br>「え？」<br>　突然、佳代はそんなことを言った。知らぬ間に僕は左を向いて、簡単に佳代の横顔を見られるようになっていた。「いま私、嬉しいな」もっと左を見れば、夕日がくらげ町の海の方面から、僕らまで達している。<br><br></p><p>　先ほどとは反対方向の電車が僕らを通り過ぎていった。ほんのすこしだけ、風が残った。この踏切をこえれば、すぐに佳代の家がある。とくに交わした会話といっても、深い意味なんて持たないものばかりだけど、ほのかに心が戻ってきたような気になっていた。「なあ、佳代」<br>「ん？」踏切音が終わり、遮断機がゆっくりと上がっていく。<br>「さっき、俺が「変わった」って、言っていたけど、やっぱり詳しくは説明できないか？」<br>　佳代は小さくうなって、すこしの間険しい顔をした。「んー、ごめん。やっぱりわかんないな」ごめんね、と佳代は言った。<br>「そうか。いや、別にいいよ」僕は佳代の家の前で足をとめて、佳代に手を振った。「じゃあ、また」<br>　うん、と佳代は肯いた。「でも一浪。変わった、って言っても何もかも変わったわけじゃないよ。むしろ変わったものなんてたいしたことないところだよ。確かにちょっとは変わっちゃったかもしれないけどさ、一浪はなにも変わらないままだよ」<br>　僕はおもわず曖昧に振っていた手を止めてしまう。僕はなにも、変わらないまま。<br>「気持ち悪いかもしれないけど、言っちゃうとね。一浪と会ったとき、とても気まずかったの。ほら、中学のときの最後があれだったし。でも、「佳代に会いにきた」って言われたとき、かなり嬉しかったんだよね。多分、じゃない。言っちゃうけど、さ？　私さ、まだ一浪のこと好きなんだよね。多分、じゃないよ。多分、じゃなくてさ」<br>　僕はなにも言わなかった。夕日によって住宅地にたたずんでいた影がすこしずつ傾いていた。<br>「だからさ」佳代は家の玄関の鍵を開けながら、僕に訊ねた。「また、メールとかしてもいいかな？」<br>　う、うん。そんな声と、そんな仕草しか、僕はできなかった。頭でもつれていた帆音の言葉やいろいろなことが、端っこの部屋まで追い出されていた。ひどく脱力感を占めていた。心が元あった場所をその沈黙で忘れて、透明になっていた。するりするりとそれらは戻ってくるけれど、なにも生まれない空白はじっと残っていた。電車が通り過ぎていったあとの風みたいに。<br>「それじゃあね」佳代はなにも変わらない顔で笑って、家へと入っていった。ドアが閉まる音で、僕の中で変わらないものは何かがすこし見えたような気がした。気がした。瓶サイダーが、飲みたい。</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12087584913.html</link>
<pubDate>Wed, 11 Nov 2015 23:57:29 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>さよならは、海と月に。　１０</title>
<description>
<![CDATA[ <p><strong><font size="2">　「何も見えていないんだね」・多分、じゃないよ。</font></strong></p><br><br><p>「何も見えていないんだね」<br><br>　何も見えていないんだね。僕は黙ってしまった。先ほどのように「え」という声すら、洩れることはなかった。何も見えていない？　僕は自分の声を彼女の声にして、自分に訊ねた。何が見えていない？　そして何も不明なまま、僕は自分の中で呟いてしまう。<br>僕は、何を見ているのだ？<br>「一浪」また名を呼ばれた。次は先ほどと同じ温度の彼女の声だ。<br>「な、なに」僕は彼女の言葉によって、強く動揺していた。彼女の言葉が、また僕を不確かなものにしてしまっていた。特に完璧な沈黙なんてそこには無いはずなのに、僕は深い沈黙のなかに埋まっている感覚になっていた。その沈黙は僕に痛みをぶつけてき、周りの音が音を立てて消える。瓶サイダーが欲しかった。なにも考えられない。僕は変わったのか、僕は何を見ているのか、僕は帆音を見ている。僕はどこにいるのか、僕は喫茶店のテーブル席の一つに座っている。帆音はアイスコーヒーにミルクを注入していた。ストローで弧を描いて混ぜながら、僕にまた話しはじめてくる。<br>「これまでにさ、何人と付き合った？」<br>　「え？」僕はその質問に答えるため、これまで交際してきた女の子の顔を思い浮かべていった。最後に付き合ったのは去年の秋くらいだ。たしか性格が合わなくて、すぐに別れた。「四人、くらい」と僕は沈黙のなかで答えた。<br>「中学校最後に付き合った子は誰か覚えている？」<br>　うん、と僕は肯いた。谷澤佳代という子だ。高校受験に専念したいから別れようと僕から切り出した記憶がある。あまり府に落ちていなさそうな顔をしつつも、別れてくれた子だ。覚えている。「谷澤佳代、だけど」<br>「そーそー」と帆音は言いながら、時計の時間に目をやった。「ここの近くに駅あるじゃん？　無人駅。そこに十七時になったら電車がくるから、待っててみ」<br>「どうして」僕は訊ねた。<br>「さっきの私の質問にちゃんと答えてもらうために」<br><br></p><p>　今年も梅雨になったけど、雨の日が多いような印象は今のところ無いなと思った。空は白に比べて青が多い。駅は誰もいない。この町が田舎だということを剥き出しにわからせてくるこの無人駅は、長くも短くもないホームに面積の合わない屋根があり、その下に古びたベンチが二台設けられている。その隣に自動販売機が一つある。このホームの向かいにも、同じようにホームがある。向かいのホームにも、人はいない。携帯電話をとりだして時間を見ると、もうすぐ左側から電車がやってくる。僕はなんとなくベンチに腰かけ、彼女が僕に落とした言葉の数々の中身をかいさぐることにした。<br>　何も見えていないんだね。<br>　多分僕は本当の意味で、その言葉について自覚なんてしていないのだと思うけれど。そうかもしれない、と内面の一番外側ではそう呟いていた。僕は、何が見えていないのだろう。彼女はそこまで教えてくれない。すこし夏をはねのけたような風が吹いたところで、僕は答えなんてわからない。今からやってくる電車が、乗客にまぎれさせてその答えを運んでくるとは思えない。見えているものから、見えないものを探すというのはどういうことかなんて、馬鹿な自分はわからない。帆音は僕をすこし高く見すぎている。これくらい雰囲気で分かるだろ、というような空気で話してくる。けれど、帆音。僕はそこまで頭は優れていない。あまり僕に期待をしてほしくなかった。帆音は一体、僕になにを伝えたいのだろう。彼女の言葉が僕に贅肉もつかず素直な状態で届くには、補足が足りなさすぎる。だけど、僕もまた同じなのではないかと思うこともある。僕の方も、帆音を高く見すぎているだけなのかもしれない、と。帆音は僕がなぜ「周囲の人から忘れられた」のか、とっくに原因をわかっているような口調で話しているが、帆音も環境は僕と同じところにいるのだ。帆音もまた、僕を含めて周囲の人は皆彼女の存在を忘れてしまっている。それの理由なんて、帆音も理解していないはずだ。なら、偉そうにあんな言葉を僕に言えることなんてできないはずだ。自分もわかっていないことを、僕にわかったフリをして話してくる。いろいろと考えているうちに、僕は自分が苛立っていることに気づいた。どうして同じ立場のお前にいろいろ小馬鹿にされるようなことを言われなきゃならない？　<br>　それからすぐに、宙をステンレス製の何かで叩くような音がなりはじめた。一定な間隔でそれは鳴った。苛立ちはその幅を拡げていっていたけれど、尖っていた神経は踏切の音によってあやふやにされて途切れた。唐突に鳴りだしたものだから僕も思わず驚いた。踏切を見ると赤く点滅し、遮断機がおもむろに下りはじめていた。左へ首をまげると青と白の体に黄色いラインが入った二車両だけの電車が近づいてきていた。二つのホームに挟まれ、速度が落ちてゆく。そして僕の前で止まった。しゅっ、と中のよどみを排出したような音を立てた途端、先頭車両の一番前の扉だけが開いた。降りてきたのは五人ほどの学生で、僕と同じくらいの高校生だった。みんな僕とは違う制服を着ている。その中に一人、僕に目をちらりとやる女子がいた。僕を見た彼女は、すこし驚いた表情をした。僕もすぐに彼女に気づいた。僕は目を合わすことはできなかったが、何か言わなくちゃと心が背中を無理やり押してきて無作為に言葉が選ばれた。<br>「よ、……久しぶり」<br>「……一浪？」<br>　谷澤佳代と会話したのは、二年と言えばお釣りが返ってくるくらいぶりだった。</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/remon1018/entry-12087584297.html</link>
<pubDate>Mon, 09 Nov 2015 17:36:21 +0900</pubDate>
</item>
</channel>
</rss>
