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<title>リオ(RIO)@Rosa blancaのブログ</title>
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<description>Centuriaまとめですが、時々短編も載せます。</description>
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<title>Centuria83</title>
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<![CDATA[ <br>「ノーラ、どうやら僕はもうダメだ。君にはつくづく迷惑を掛けるけど、面倒でない範囲でうちのじいさまとカミロを気にかけてやってくれると嬉しいよ」<br><br>「シャルル、大丈夫よ。大丈夫。私の目を見て？息を吸って、吐いて…」<br><br>「すううううう、すううううう…う…」<br><br>「ねえシャルル、吐かないと駄目よ」<br><br>控え室の二人は相変わらずの調子だ。<br>詩乃たちが去って気が紛れなくなったか、単純に開演を間近にして追い詰められたか。部屋の片隅、角の小さなスペースにうずくまり丸まっている。<br><br>言動はもはや遺言に等しい。<br>顔にはもう血の気がまるで通わなくなって、その顔色は髪と似た灰色にさえ見える。<br>しかしノーラも慣れたもので、呼吸の仕方を忘れて過呼吸になりかけているシャルル、その口元へとすぐに紙袋をあてがっている。いつものことなのだろう。<br><br>ハンカチを取り出し、シャルルの額に滲む脂汗を優しく拭う。<br>詩乃や兵馬たちは青年のそんな様子にすっかり呆れてしまっていたが、ノーラは甲斐甲斐しく世話を焼くこの時間を愛していた。<br><br>「大丈夫よ、シャルル。あなたは天才…私は誰よりあなたの凄さを知ってる」<br><br>「……ノーラ。君の目を見てると、少しだけ落ち着く。…いつもごめん。ありがとう」<br><br>「ええ、いいの。私はあなたの隣にいたい。それだけでいいから…」<br><br><br>その時、控え室の扉が唐突に開かれた。<br>大勢の足音、その先陣を切って現れたスタッフが大声を張り上げる。<br><br>「リーリヤ様入ります！」<br><br>大勢の人々を引き連れ、その中心に存在の異彩を放ちながら現れたのは歌姫リーリヤ。<br>少し前に詩乃たちがすれ違った、シャルルの共演相手だ。<br><br>現れるなり、淑やかに礼を一つ。<br><br>「皆様、今日はよろしくお願いしますわ」<br><br>歌姫の名は伊達ではない。<br>畏まった口調で上品に、それでいて軽やかな挨拶を一つ。<br>ただそれだけで、涼やかな聖鈴の音色が耳を撫でたような感覚が居合わせた人々を包み込む。<br><br>声質という絶対的な才能。それは天からのギフト。<br><br>“宮廷歌手”<br>彼女が現人神である教皇エフラインに認められた、聖恩のディーヴァであることは誰の耳にも明らかだった。<br><br>「……あれがリーリヤか。確かに、良い声だ」<br><br>怯えきっていたシャルルまでも顔を上げ、その存在感には気を取られざるを得なかったらしい。<br><br>目線を奪われていて、音楽に携わる同業者としての感覚で彼女を高く評価していた。<br>似た職ではあるが、直に会うのはこれが初めてなのだ。<br><br>「そうね…」とノーラ。<br>彼女の姉であるカタリナはリーリヤの大ファンであり、そんな姉妹の関係は極めて良好。<br><br>であれば必然、ノーラも彼女の歌を聴く機会が多くなる。空で歌える曲もある。<br>ただ姉とは違い、それほどファンと言うわけでもない。<br>良い歌…だとは思うのだが、聴くと何故か胸の奥がざわざわと波立つのだ。<br><br>（どうしてかは全然わからないのだけれど…）<br><br>そんな微妙な感情のままにリーリヤを見ていると、視線がこちらへと向けられた。<br>リーリヤの目はノーラを滑り、隣のシャルルで止まる。<br><br>「あら…あなたが宮廷音楽家のシャルル・アルベールさんでよろしいでしょうか？」<br><br>「…ああ。今日はよろしく頼みます」<br><br>共演者の前ともなれば、流石に震えてばかりはいられない。仮にもプロなのだ。<br>おぼつかない脚でどうにか立ち、リーリヤへと目線を合わせた。<br><br>向けられる微笑。ぎこちない笑みで返す。<br><br>「ところで…体調が優れないようですけれど、大丈夫ですの？」<br><br>必死に体裁を取り繕っているが、リーリヤはそれを見抜いたらしい。<br>あくまで上品に小首を傾げて尋ね、媚びを感じさせない程度、少しの上目遣いでシャルルの顔色を窺う。<br><br>「大丈夫です。お気遣いなく」<br><br>答えたのはシャルルではなくノーラだ。<br><br>合間に入り込み、歌姫の言葉を遮るようにして返事を返した。<br>あらゆる女性が恋敵に見える、そんな悪癖を持つノーラにとっては宮廷歌手だろうと警戒すべき相手。決して近寄らせまいと視線を尖らせる。<br><br>が、リーリヤは敵意にも余裕。穏やかにスタッフへ声を掛ける。<br><br>「私、本番前は静かに集中を高めたい性格なのです。大部屋ではなく個室はありませんか？」<br><br>その要求は周囲に嫌味を感じさせない。<br>彼女の待遇がこんな大部屋であるべきでない。<br>ここに留まるべきでない格上、大物であると、誰もが既に認識していた。<br><br>「すぐに準備しますので！」<br><br>「ありがとう。それと…シャルルさん。ここが落ち着かなければ、共演のご縁もあることですし、ご一緒の部屋へいかが？」<br><br>ノーラは当然キレる！<br>途端、その視線は刃の輝きを。牙獣の雰囲気を纏い、リーリヤへ眼光を飛ばす！<br><br>だが、歌姫は慌てない。<br><br>「もちろん、お連れ様もご一緒に」<br><br>「……私も、ですか？」<br><br>予想外の誘いを受け、感情の矛を収める。<br>恋敵ではない？親切心からの言葉なのかもしれない？<br>測りかねるノーラの隣、シャルルは冴えない表情のままに小さく頷く。<br><br>「そうだな…お誘いに甘えようか、ノーラ。静かな方が落ち着くかもしれない…」<br>「私は、シャルルが行くなら行くわ」<br><br>「決まりですね。それでは、個室へと移動しましょう？」<br><br>軽くポンと手を打ち鳴らし、リーリヤは二人をするすると先導していく。<br><br>やがて係員に通されたのは小さな個室。普段は監督室のようで、歌姫の要求で急ぎ準備されたと見える。<br><br>部屋へと入り、扉を閉め、室内には三人だけ。<br>リーリヤは鍵を掛け、そして…<br>勝気な表情へと豹変する！<br><br>「言っとくけど…今日の“主役”はこの私だから！」<br><br><br>「は…え、なんだって？」<br><br>シャルルは思わず聞き返す。<br>淑やか、優艶、エレガンス。<br>そんな形容が相応しい印象だった歌姫リーリヤ。<br>秘めやかな物腰には神秘性を見ていた。<br><br>それがお付きの人々がいなくなった途端に眼前、まるで態度を変えている！<br><br>椅子にドカリと背を預け、傍のテーブルに両脚を乗せる。猫を被っていたのだ。<br>表情は不遜。シャルルとノーラを睥睨し、“理解が悪いのね”とばかりにわざとらしい溜息を一つ吐いた。<br><br>「いい？もう一度言うわよ。アンタ、今日は控えなさい」<br><br>「……待ってくれ、言っている意味が今一つわからない」<br>「シャルルに控えなさいって、それはどういう意味ですか」<br><br>リーリヤは二人からの問いを聞き流しつつ、置いてあった楽屋菓子の包みを荒々しく破いて口へ放り込む。<br><br>あられのような米菓子で、バリンボリンと盛大に噛み砕く様子には雅の欠片もない。<br><br>「この私とアンタが同格として扱われてるけど…失ッッッ礼、極まりないわ！<br>今日ブリリアントに輝く主役はこの私！リーリヤ様よ！」<br><br>「な、なんだ…この女…」<br><br>優雅？とんでもない。取り繕っていただけだ。<br>この歌姫の本性は気品を持ち合わせない目立ちたがり！<br>舞台に上がれば全ての耳目、あらゆるスポットライトは自分へと集められるべきであり、“全ての人間は私を好きなはず”と心底から考えている自己中心主義の極み！<br><br>これにはシャルルも呆れ返る。<br><br>「げ、下品な女め…！」<br><br>そもそも彼は控え目でない女性が嫌いだ。<br>ノーラと長らく良い関係を築けているのは、彼女が支える立場を良しとする性格なのが大きい。<br>それが目の前の、この女はどうだ？<br><br>そもそも彼は控え目でない女性が嫌いだ。<br>ノーラと友人関係を築けているのは、彼女が支える立場を良しとする性格なのが大きい。<br>それがこの女はどうだ？<br>表情、言動、物の食べ方に至るまで、まるで劣悪！<br>本性を包み隠している点もマイナス！マイナス100点だ！<br><br>そもそも彼は控え目でない女性が嫌いだ。<br>ノーラと友人関係を築けているのは、彼女が支える立場を良しとする性格なのが大きい。<br>それがこの女はどうだ？<br>表情、言動、物の食べ方に至るまで、まるで劣悪！<br>本性を包み隠している点もマイナス！マイナス100点だ！<br><br>「教皇猊下の面前での演奏だぞ！自分が目立つのが最優先とでも言いたげな態度…恥を知れ！」<br><br>「恥ぃ～？ハッ、クソザコ音楽家に言われたくないわね」<br><br>「く、クソザコだと！？」<br><br>「部屋の隅でガタガタ怯えて女の子に慰めてもらって繊細なアーティスト気取り？」<br><br>「何を…！」<br><br>「そんな雑魚メンタルでよく宮廷音楽家を名乗れてるモンね～？はー信じられない。ゴミねゴミ！」<br><br>見下して切り捨てて一笑。<br>髪飾りを指で弄り、浮かべる表情は自らが世界の中心だと信じきっている類の優越。<br>歌姫リーリヤ、性格が悪い！！<br><br>「なんて女だ…お前はエフライン様の前で歌うのに相応しくない！」<br><br>「言っとくけど、歌に対しては本気よ。教皇猊下に捧ぐ、とびきりの歌を全国民に突き付けてやるわ。少なくとも、アンタみたいにビビってる奴よりは相応しいと思うけど？」<br><br>「なんて女だ…お前はエフライン様の前で歌うのに相応しくない！」<br><br>「言っとくけど、歌に対しては本気よ。教皇猊下に捧ぐ、とびきりの歌を全国民に突き付けてやるわ。少なくとも、アンタみたいにビビってる奴よりは相応しいと思うけど？」<br><br>睨み合う二人。お互いの間には敵意しかない。<br>共演を前にこんな状態で大丈夫なのだろうか。いや、それよりも心配しなければならないことが一つ。<br>途中からノーラが一言も喋っていない。敵と見なせばすぐに噛み付く、狂犬めいた本性のノーラが。<br><br>それはつまり、リーリヤを既に排除の対象と見なしているということ。<br>手には重みのある置き時計が握られていて、それは鈍器には十分だ！<br><br>頭に血が上った彼女に理屈は通じない。<br>そんなことをすれば大騒ぎになるが関係なし。理性のブレーキは破損済み！<br><br>「シャルルの敵！！！」<br>「あ、やめるんだノーラ！」<br><br>わかりやすく一声、接近！<br>頭上高く時計を振り上げ、あくまで傲岸な歌姫リーリヤへと振り下ろす！<br><br>それでも、宮廷歌手は動じない。<br>尊大に三日月を描く、形の良い唇。それがおもむろに開かれる。<br><br>「ラ…ララ…」と奏でられるハミング。<br>歌詞はなくとも、その音は情感に満ち溢れている。<br><br>「……ッ、ぐ…！？」<br><br>調べは美しさの中に凶兆を孕んで、そして濃密な魔力が込められている。<br>呻いたのはノーラ。音は耳へと滑り込み、骨身へ浸透。<br><br>まるで血中へ重黒なコールタールを流し込んだかのように、彼女の全身へ猛烈な負荷が掛かる！<br><br>重力が数倍に高まったのではないかと錯誤するほどの猛烈な効果に、ノーラは鋭い眼光を保ったまま膝を屈する。<br>リーリヤの歌は魔術としての側面も有しているのだ。<br><br>「フフン、どうしたの？転んだりして」<br>「この、女ァ…！！」<br><br>嘲笑するリーリヤ、睨み上げるノーラ。<br>敵意が燃え上がり、怒気に空気が揺らぐ…そんな錯覚。<br>すっかり対立構造を形成してしまった二人を前に、シャルルは酷く困った様子でノーラを助け起こした。<br><br>「大丈夫かい…あの、ノーラ。すぐに殴りかかる癖だけはどうかと…」<br>「安心して。この女は私が絶対に…！」<br><br>「ハッ。震え、止まってんじゃない」<br><br>指摘されて気付く。<br>暴言を浴び、眼前で喧嘩。気を取られているうちに、本番への恐怖心が消え失せていた。<br><br>今の状況を思い出した瞬間に恐怖心がぶり返す…ということもなし。<br>一度意識が他へ向いたことで、腹が据わったのかもしれない。<br><br>「もう一度言うわ、主役は私。けどヘマをされても困るのよね。共演する以上、ベストは尽くしなさいよ」<br><br>「………わかったよ」<br><br>主役云々はともかく、ベストを尽くすべきなのは事実だ。<br>この女に言われるのは癪だが、渋々ながらシャルルは頷き返す。<br><br>ふと、リーリヤはノーラへ目を向けた。<br><br>「その男、アンタが甘やかすせいでダメになってんじゃないの」<br><br>「…！」<br><br>続く息苦しさに言い返せないまま、ノーラは床からリーリヤを見上げている。<br><br>いや、言い返せなかったのは体の不自由ばかりではない。<br>毅然を取り戻したシャルルを前に、責任を自問している。<br><br>遠く、会場から巨大な歓声が湧き上がる。ついに式典が幕を開けたのだ。<br><br>【おまけ/初期絵リーリヤ】<br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/c6/55/j/o0800078513687510993.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/c6/55/j/t02200216_0800078513687510993.jpg" alt="" width="220" height="215" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 18:56:32 +0900</pubDate>
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<title>Centuria82</title>
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<![CDATA[ リュイスとカタリナ、二人は共に23歳。<br>そんな二人から見て、幼馴染で20歳のシャルルは弟のような存在だ。<br>その性格の欠点も知りすぎるほどに知っていて、大舞台を前にパニックに陥っている様子がありありと目に浮かぶ。<br><br>「……あいつ、倒れるんじゃねえの」<br><br>「心配だな…心配だなぁ…」<br><br>そんなシャルルも宮廷音楽家として演奏の舞台は幾度か踏んでいるが、まだ拝命して日が浅い。<br>全国民の目に晒されているのを明確に意識する規模でのイベントは今回が初めてなのだ。<br><br>蒼白、過呼吸。<br>弾き間違え、ミスに動揺を募らせ、そのまま卒倒。<br>そんな悲惨な光景が想像に難くない。<br><br>心配だな…と、カタリナの口からは同じ言葉が幾度も幾度も溢れて出る。<br>ボキャ貧な彼女の心に不安が募った結果、まるで壊れたスピーカーに。<br><br>が、リュイスも内心には同じ感情のため突っ込みは入れない。<br><br>「うーん…ま、まあ。ノーラが付いてるだろ？大丈夫だろ、大丈夫…」<br><br>「そう、だよね。うん…」<br><br>わずかに言い淀むカタリナ。<br>続く言葉は、“それがまた心配なんだけど…”だ。<br><br>付き合いの長い二人、リュイスはカタリナの表情から言外の意思を読んで取る。<br><br>同じく幼馴染、そして実妹。二人は当然ノーラの気質もまた熟知している。<br><br>燃えるような悋気屋。嫉妬深い気性。<br>基本は良い子なのだが、時たま…いや、それなりの頻度で暴走気味。<br><br>（トラブルにならねえといいけどな…）<br><br>せっかくゼラが二人での会話でも、と気を回してくれたのだが、状況が状況。<br>楽しい語らいには程遠い会話が交わされ、気が気でないまま、二人は会場の盛り上がりへと耳を傾けるのだった。<br><br>…<br><br>「すごい顔してたね！シャルル」<br>面白い物を見たとプリムラ。<br><br>「あのまま死ぬんじゃ…脳の血管とか切れて」<br>そこそこ本気で言っている詩乃。<br><br>「地震起きろ。隕石落ちろ。って呟いてたな。人が死なない程度の…って補足してたけど」<br>呆れ、兵馬が語る。<br><br>三人は出演者控え室を出て、スタンドへの廊下を歩いている。<br>ついに開演時間を間近にして、出演者以外の付き添いは部屋から出るよう係員に促されたのだ。<br><br>ただシャルルの様子がおかしいのは係員にも伝わったようで、ノーラだけは許可を得て部屋に残った。<br><br>なので、三人は移動している。<br><br>席はシャルルが手配してくれていた。酒浸りの自堕落人間に見えて、案外気が利く面もあるらしい。<br><br>部屋を出てしまえば手助けできることもなし。<br>用意してくれたのは特等席とのことで、三人はすっかり観覧ムードだ。<br><br>出演者はシャルルだけではない。<br>国中のパフォーマーが集まるとなれば、陽気なプリムラ、大道芸を志す兵馬はもちろん、素っ気ない気質の詩乃でさえ期待に胸が躍る。<br><br>（けっこう楽しみかも…）<br><br>と、そこへ騒がしい声。<br>廊下の向かいから大所帯が現れた。<br><br>バタバタとやけに急いでいて、異様なのは集団のほとんどが進行方向ではなく、人垣の中心へと目を向けているという点だ。<br><br>詩乃たちは邪魔にならないよう、壁際に寄って彼らをやり過ごす。<br><br>すれ違いざま、集団の中心にいる女性が詩乃の目に垣間見えた。<br><br>自分と同じくらいか少し歳上、美しい少女だ。<br>周囲の人々は彼女へ化粧を、ヘアメイクを、衣装の調整をと忙しなく動いていて、その少女が集団の核であることは一目に明らかだった。<br><br>「なんだろ、あれ」<br><br>行き違い、プリムラが不思議そうに呟く。<br><br>詩乃はその少女を知っている。<br><br>「今の、リーリヤだよ」<br><br>そう、彼女こそがシャルルと並ぶ今日のメイン。正真正銘のスーパースター。<br>その圧倒的な歌唱力で国中に熱狂的なファンを抱える、宮廷歌手のリーリヤだった。<br><br>芸能にそれほど興味のない詩乃でさえ一瞬で認識できる知名度、そして存在感。<br>ほんの一瞬横顔を見ただけなのに、確かに“特別”な人間であると感じさせる何かがあった。<br><br>どうやらプリムラからは人影で死角だったようで、「えー、見たかった…」と悔しがっている。<br><br>そんなプリムラの隣…<br><br>「…兵馬、どうかした？」<br><br>奇妙な表情。<br>兵馬はいつもの飄々とした様子とは違い、黙りこくったままに深刻な雰囲気を漂わせている。<br>そして詩乃の問いかけに気付いた様子もなく、小さく呟く。<br><br>「……ライラ」<br><br>（……え、誰？）<br><br>ライラ？<br>彼女はリーリヤ、人違いだ。<br><br>詩乃は疑問を抱くが、その一言の真意を尋ねようとして思い留まる。<br><br>（聞くほどじゃない…どう聞けばいいかもわかんないし）<br><br>単なる人違いかも。疑問符は胸の奥へ。<br>観衆の期待が渦巻くスタンドへと三人は辿り着いた。<br><br>【歌姫リーリヤ】<br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/f3/52/j/o0800080013687504056.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/f3/52/j/t02200220_0800080013687504056.jpg" alt="" width="220" height="220" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 18:43:52 +0900</pubDate>
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<title>Centuria81</title>
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<![CDATA[ <br>（生意気な…淫売め…罰を…刺す？そう…そこの櫛で…刺すしかない…刺す…刺す）<br><br>「の、ノーラさん」<br><br>あからさまに危険な表情を浮かべるノーラ。<br>彼女の視線は化粧台に並べられた色々な道具に向けられていて、例えば香水瓶。例えばドライヤー。スプレー缶。<br><br>そのつもりで見ればどれもこれも凶器になりそうで、大惨事の予感が脳裏をよぎる。<br><br>シャルルへと艶のある視線を向けているのは式典の出演者、踊り子に舞台女優と派手な見た目の女性が多く、ノーラが敵愾心を燃やすのもわからないではない。<br><br>それだけに、放っておくわけにもいかない。<br><br>仕方なし、詩乃は果敢に声を掛ける。<br><br>「…刺…、って詩乃ちゃん。何かしら」<br><br>「あ。いや…じ、ジュース飲みますか？」<br><br>「……ジュース」<br><br>「ほ、ほら。シャルルも一緒に。ね？」<br><br>「……そうね。飲もうかしら…」<br><br>「こ、こっちこっち。コーラとか、オレンジジュースとか。兵馬！プリムラ！シャルルを引っ張って！」<br><br>へらりへらりと笑みを浮かべて話しかけ、無料で使えるドリンクサーバーのある廊下へとノーラを誘う。<br><br>「ありがとうね、詩乃ちゃん」<br><br>気遣いを感じ取ったのか、ノーラは素直な表情で礼を言う。<br>燃えるような悋気さえ発動しなければ一応は良い人なのだ。<br>内に秘めた激情の制御に自分でも困っているのか、疲れた表情で額に手を当てている。<br><br>「言われてみれば喉も渇いてるし…」<br><br>「の、飲みましょう、甘いやつ。えはへへへ」<br><br>気の焦りについつい変な笑いが漏れるが、とりあえず気を逸らすことには成功したようだ。<br>ぐいぐいと手を引き、部屋を出た廊下にあるドリンク機へと引っ張っていく。<br><br>後ろからは兵馬とプリムラに抱えられたシャルルが続き、部屋中の女性から集まる視線から逃れるべく扉を出る。<br><br>「歩きたくない…放っておいてくれ…」<br><br>か細い声で呟くシャルルに苛立つ。<br>あんたのせいでややこしくなってんの！<br>と、言わずに堪えて廊下へ出た。<br><br><br><br>詩乃らが出た廊下、その打ち放しのコンクリートの長い長い球場通路を抜けた位置。<br>グラウンドとの中間部、日陰の位置にはリュイスの姿がある。<br>アイネとロネットが見下ろしていた時と変わらず、どこか手持ち無沙汰な様子で警備を担当している。<br><br>同僚のニコラや別の隊の友人のエミリオと雑談を交わしていて、その表情には今ひとつ気が入っていない。<br><br>「警備ってのはなぁ。どうもつまんねえ」<br><br>「はは、隊長に見られたらゲンコツで殴られるぞ。それじゃ、そろそろ持ち場に移るよ」<br><br>「じゃあな、リュイス」<br><br>友人の二人が去って行き、溜息を一つ。<br>リュイスがどうしてこうもやる気を出せずにいるかと言えば、警備場所の“ハズレ”っぷりに限る。<br><br>なにせ、これから始まる演目も一切見えない死角。<br>かと言って外部からの侵入者が来る可能性がある場所でもない。<br><br>つまり式典が続く三時間あまりの退屈が約束されているわけで、それでも騎士が座り込むわけにもいかない。<br>ただ淡々と立ち続けるしかなく、友人二人もどこかへ行き、本当にやることがなくなってしまった。<br><br>「くっそ、暇だ…」<br><br>しかも、この位置の上には雨除けの屋根がある。<br>快晴の空やアイネが打ち上げている花火を眺めることさえできない。<br><br>「ったく、ルカの奴はどこに行っちまったんだ。朝から姿が…」<br><br>「おいリュイス。サボってないー？」<br><br>背後から女性の声。<br>リュイスは振り向き、良い話し相手が現れたと声を返す。<br><br>「ゼラさん。マジメにやってますよ、マジメに」<br><br>「嘘つけ」<br><br>ロングスカート型の特殊な軍服、頭に目立つ花飾りをあしらった女性軍人が歩いてくる。<br><br>ゼラと呼ばれた彼女はかなり派手な顔立ちをしていて、雑に言い表すなら若干“ギャルっぽい”、あるいは“ヤンキー感のある”系統。<br><br>そんな彼女は見た目にそぐわずシャラフ隊の副官の一人。<br>リュイスよりも上の立場だが、話せばあまり堅苦しさのないタイプ。<br><br>上官にしては珍しく、砕けた会話のできる相手なのだ。<br>そのゼラが、強気な瞳に茶目っ気を浮かべて口を開く。<br><br>「リュイス、感謝しなよ？」<br><br>「何がっすか」<br><br>「警備場所、決めたの私だから」<br><br>どこに感謝する要素があるのか。思い切り顔をしかめてみせる。<br><br><br>リュイスの冴えない表情を前に、ゼラは上機嫌から一転。<br>グーを作って前へと突き出してみせる。<br><br>「何、その顔は。上官批判ならブン殴るけど？」<br><br>「す、すいません。いやでも、場所が悪いっすよ。こんな何も見えない場所に割り当てなくたって…」<br><br>謝りつつも抗議の態度を引っ込めない。<br>ただ暇な場所というならともかく、楽しげな歓声や音楽だけは聞こえてくる位置だからタチが悪いのだ。<br>と、そこでゼラは得心した様子で「あー」と一言。<br><br>「持ち場の担当割り。あんた自分の名前しか見てないね？」<br><br>「見てないっすよ。それが何か…」<br><br>「はいはい、なるほどね。言っとくけど、この場所は二人担当だから」<br><br>それは知っている。相手の名前には興味がなかったので見ていないが、暇な中でせめてもの雑談相手になってくれるもう一人が来るのをずっと待っていたのだ。<br><br>しかし、そのもう一人が遅い。<br>その事もあってリュイスの不満が募っている。<br><br>「まだ来ないんすかね、もう一人は」<br><br>「さっき向こうで客のヨボついた婆さんを座席に案内してんのを見たけどね。もう来るんじゃない…っと、来た来た」<br><br>「ごめんなさい！遅くなって…、あれ？リュイス？」<br><br>「っと…お前！」<br><br>現れたのは彼女ギリギリ未満の幼馴染、カタリナだ。<br>ゼラの“感謝しろ”とはこの事を言っていたようで、お節介な笑顔を浮かべて早々と去っていく。<br>背越しにひらりと手を振るのが見えた。<br><br>人の色恋沙汰に気を利かせるのが趣味、と言うタイプなのだ。ゼラは。<br><br>「そっか、今日はリュイスと仕事か」<br><br>「そ、そうだな」<br><br>「珍しいね、こういうの」<br><br>「真面目にやらねえとな」<br><br>共に騎士、同じ職場で働いているのだが、顔を合わせる機会は少ない。<br><br>リュイスはアルメル隊、カタリナはザシャ隊。<br><br>企業で言えば部署違いといった感覚に近いかもしれない。人数も膨大だ。<br>とりわけ、ザシャ隊の職務は魔術関連で特殊なため、意識して会いにでも行かなければ一週間顔を合わせないことも少なくない。<br><br>それだけに、いざ騎士服のカタリナと隣に並ぶとついついぎこちなくなってしまう。素っ気ない言葉に終始してしまう。<br>ロネットがアイネとの会話でリュイスを称した“ガキ”という言葉は、それなりに的確なのかもしれない。<br><br>ただ、それはリュイス側の話。<br><br>カタリナはその穏やかな顔立ちをにこにこと綻ばせていて、喜色に満ちた様子を隠そうともしていない。<br>妹のノーラとは逆、クセがなくわかりやすい性格なのだ。<br><br>「嬉しいな。リュイスと一緒に仕事だなんて。ゼラさんにお礼言わなきゃ…ふふ」<br>「……そ、そうだな」<br><br>別に女性と喋るのが苦手だとかではない。カタリナを前にすると、途端に口下手へと変身してしまうのだ。<br>それでもなんとか同意の相槌を打てた。リュイスにしては頑張った方だろう。<br><br>それから、ぽつぽつと雑談を。<br>辺鄙な場所の警備だ。見咎める者もいない。<br><br>職務中に騒ぐわけにもいかない。<br>話す内容はとりとめもないことばかり。<br>共通の話題となれば、必然二人の会話は幼馴染の心配へと流れていく。<br><br>「シャルル、大丈夫かな…」<br><br>「ガキの頃から上がり症は治ってねえし…やらかさないといいけどな」<br><br>【おまけ/アイネとロネット】<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/31/ed/j/o0800072313687499632.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/31/ed/j/t02200199_0800072313687499632.jpg" alt="" width="220" height="198" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 18:38:28 +0900</pubDate>
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<title>Centuria80</title>
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<![CDATA[ <br>「そろそろ、そのガタガタ歯を鳴らすのをやめたらどうだい」<br><br>兵馬がシャルルへと声を掛ける。<br>が、怯えからの震えを止めろと言われて止められれば苦労はしない。<br>繊細な青年は灰色の髪を神経質に弄り、“歯の根が合わない”という慣用句を忠実に体現してみせる。<br><br>「これ食べる？」<br>「食べなよー。落ち着くかもよ？」<br><br>もごもごと口を動かし、詩乃とプリムラは出店で買った10個入りの小籠包をシャルルへ差し出してみる。<br>もちもちとした生地には肉汁がたっぷり染みていて、ひき肉にキクラゲに春雨、具材の旨味が炸裂する。<br><br>兵馬を含めて三人が全員、一口目に唸り声をあげたほどの美味さの逸品だ。<br><br>国内では西方を中心に食べられている料理なのだが、離れた土地にしてこのクオリティ。<br>期待しすぎずに買った露天料理に、聖都の食文化の奥深さを思い知らされていた。<br><br>「………ぃ」<br><br>「え、なんて」<br><br>「いらないってさ。もう少し大きな声で喋れよシャルル。僕は一個もらうよ」<br><br>ヒョイパクと口に放り込み、咀嚼しながら呆れ顔の兵馬。<br>三人はゲオルグに頼まれ、出演者の控え室までシャルルの付き添いで同伴していた。<br><br>カミロは面白がって付いてくるかと思いきや、ゲオルグと客席に座ることを大人しく選択した。<br>どことなく上機嫌だった様子を思い出すに、きっと多忙な祖父と一緒に過ごせるというだけで嬉しいのだろう。<br><br>祖父と孫、水入らずの時間を過ごしてくれればいい。<br><br>そんな経緯で出演者でないにも関わらず控え室にいるわけだが、ここは劇場などではなくあくまでスタジアム。<br>個室の控え室などの設備はないため、必然大部屋での待機となる。<br>ロッカーが並んでいて、普段行われている競技の選手たちのロッカールームだと窺い知れた。<br><br>チームのファンであれば感動の体験なのかもしれないが、あいにく詩乃やプリムラ、それに兵馬もスポーツ観戦の趣味はない。<br><br>周りの様子よりもシャルルの介護で忙しい。<br>連れてきた時はゲオルグの秘薬で仮死状態だったから良かった。<br><br>のだが、本番前にいつまでもその状態のままとも行かず、もう一つ渡された気付け薬を飲ませて目覚めさせたのが30分前。<br><br>それからは状況を察し、差し迫る演奏を前に、すっかり黙りこくって歯を鳴らしているのだ。<br><br>処刑前の人間はこんな顔をするのかもしれない。<br>詩乃の脳裏にそんな考えが過るほど、シャルルの顔色には色濃い死相さえ浮かんでいる。と、そこへ。<br><br>「ごめんなさい、待たせたかしら」<br><br>シャルルのバイオリンを抱えて歩いてきたのは彼の幼馴染、ノーラだ。<br><br>教皇がいる場で使用する楽器。<br>間違ってもテロが起こらぬよう、危険物が仕込まれていないか事前の検品が義務付けられている。<br><br>しかし当人はこの有様で、それなら大切な楽器を誰に運ばせるか、シャルルが挙げるのはノーラ以外にいない。<br><br>シャルルとの間には共に過ごした時間に見合った信頼関係が築かれている。<br><br>バイオリンが収められたケースを丁寧な手付きでシャルルに手渡し、「大丈夫？」と一声を掛ける。<br><br>「………ぁぁ」<br><br>「声ちっさ！」<br><br>プリムラがぴしゃりとツッコミを入れ、しかし反応は返ってこない。<br>それでも「ああ」と答えたのは大きな進歩だろう。ノーラの存在は多少なりとシャルルを落ち着かせるのかもしれない。<br><br>「……ん？」<br><br>ふと、詩乃は周囲から漏れ聞こえる密やかな声に気付く。<br><br>ひそひそ、ひそひそと。その声は詩乃たちの方向へと向いている。<br><br>（何の話…？）<br><br>この手の声は決して心地の良い物ではない。<br>ただ、この声色は…<br><br>「黄色い声ってやつだね」<br>「プリムラ。話の内容聞こえてるの？」<br><br>「私、人形だし。人間よりは耳いいんだよ」<br><br>プリムラ曰く。<br><br>「ほら見て、あの物憂げな眼差し」<br>「きっと難しいことを考えていらっしゃるのよ」<br>「細くすらりとした指先、はぁぁ」<br>「爪まで美しい…バイオリニストの繊細な指先よ」<br>「はぁ、シャルル様ぁ…」<br><br>「そんな内容だよー」<br>「ははあ、モテるんだ。シャルルって」<br><br>それを聞いても詩乃にとっては不思議でしかない。<br>酒浸りの神経質なヘタレ野郎。<br>偶然の成り行きで実家での様子を見てしまった詩乃にとってはそんな印象でしかないが、端から見れば<br><br>“儚げな”<br>“美形の”<br>“天才音楽家”なのだ。<br><br>なるほど、モテる要素しかない。<br><br>いまいち納得がいかないながらも、頭では理解できた。<br>それでも詩乃が不思議を克服できないままにいると、<br><br>ギシリ。ギシリ。<br><br>何かが強く擦れる音が聞こえてくる。<br><br>何の音だろうか。<br>詩乃は周囲に目を向ける。その音の出所は…ノーラだ。<br><br>「……シャルルのことを何も知らないくせに…ミーハーな低脳女共…！」<br><br>その音は強烈な歯軋り！<br>ああ、そうだった。嫉妬深いノーラは他の女性がシャルルへ近づくのを極度に嫌っている。<br><br>その好意は下手をすれば刃物を持ち出しかねないほどで、詩乃はすっかり困ってしまう。<br><br>（穏便に済ませなきゃ…）<br><br>ローテンションな性格ではあるが、あくまで常識人。コミュ嫌いの原因を突き詰めれば気遣い屋なため。<br><br>余計な気苦労を背負い込むタイプなのだ。<br><br>【おまけ/セグウェイを買ったけど止まり方がわからないよ】<br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/91/c2/j/o0800079013687495730.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/91/c2/j/t02200217_0800079013687495730.jpg" alt="" width="220" height="217" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 18:36:12 +0900</pubDate>
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<title>Centuria79</title>
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<![CDATA[ <br>開演に向けてボルテージの高まるスタジアムの端、花火を高空へ打ち上げるためのスペースはスタンドの外壁上部に位置している。<br>そこには幾人もの魔術師が詰めていて、宮廷魔術師であるアイネを中心として火力と色彩の管理が行われていた。<br><br>いかに宮廷魔術師とはいえ、アイネはまだ歳若い。<br>そのため責任を軽くしてもらえたのだろうか、比較的楽なポジションに割り振られたと感じていた。<br><br>周囲にお偉方がいるでもなく顔を見知った同僚だけ。<br>火術に優れたアイネにとっては花火の管理程度は朝飯前。<br><br>マナの出力バランスをが表示されている計器類に目を配るだけの簡単なお仕事だった。<br><br>そのため、おしゃべりをしている。<br><br>話相手はロネット。今回の警備主任であるシャラフ隊の中で、高所から全体の監視を担当ということでアイネの隣で地上を見下ろしていた。<br><br>とはいえ、そうそう危険な事態が起きるわけでなし。双眼鏡でせわしなくくるくると客席を見渡しながら、二人でとりとめもない会話を続けている。<br><br>「ねえアイネ」<br><br>「なあにロネット」<br><br>「見なさいよ、あそこ。あんたのとこのお仲間がサボってる」<br><br>「あ、ホントだ。リュイスとニコラさん、それにもう一人…影になっててよく見えないや」<br><br>「あれはダヴィデ隊のエミリオかな。ったく、大人が三人雁首揃えてペラペラおしゃべりって…」<br><br>「私とロネットも喋ってるけどね！」<br><br>「こっちは仕事してるからいいの」<br><br>不機嫌なロネットとあっけらかんとしたアイネ。<br>タイプの異なる二人だが、いつも隣にいるので周囲からは不思議に見られている。<br>とは言え、友情に理由はないのが世の常だ。<br><br>共に14歳。そんな年齢の二人が暇潰しをするとなれば、恋愛トークが手頃な話題だ。<br><br>不機嫌なロネットとあっけらかんとしたアイネ。<br>タイプの異なる二人だが、いつも隣にいるので周囲からは不思議に見られている。<br>とは言え、友情に理由はないのが世の常だ。<br><br>共に14歳。そんな年齢の二人が暇潰しをするとなれば、恋愛トークが手頃な話題だ。<br><br>が、二人に彼氏はいない。なので、ロネットは双眼鏡の視界をリュイスらへと合わせる。<br><br>「アイネはさ、あの連中とかどうなわけ？」<br><br>「どうって？」<br><br>「彼氏としてアリかナシかって話よ」<br><br>「ううん…歳が離れすぎててピンとこないよ。10歳近く違うし」<br><br>「はぁ、アイネはまだまだ子供ね」<br><br>眉を上げて首を斜めに、ロネットは訳知り顔でやれやれとわざとらしい溜息を吐いてみせる。<br>恋愛絡みの話題になるといつもやたらに上から目線になるのだ。<br>だが実際のところは単なる耳年増。彼女も未だ彼氏がいたことはない。<br><br><br>そんな調子のロネットはかなり癖のある性格とも言えるが、田舎出身の寛容さを持ち合わせているアイネからすれば“面白い子”の範疇に留まる。<br>その辺りが上手く噛み合い、二人は良い友人関係を築けているのだろう。<br><br>「じゃあロネット。どんな人がタイプなの？」<br><br>「私はね、モテる男が好きなの」<br><br>「へ、なにそれ」<br><br>「モテる男はね、女の扱いに慣れてる。相手を楽しませるサービス精神に溢れた人間なの。<br>逆に、真面目で浮気もしない、彼女もいない男は女の扱いが下手なのよね。遊んでもつまんないし、すぐに飽きちゃうわ」<br><br>「はえ～」<br><br>「だったら最初からモテる男に行くのが正しいでしょ？」<br><br>賢しらに語るロネット、曖昧な相槌を打つアイネ。<br><br>（ロネット、また変な本を読んだのかなぁ）<br><br>親友のそんな本心はいざ知らず、賢しらに語る少女は青年たちを指して採点を始める。<br><br>「リュイス、あれは35点。エリートで顔もまずまずだけど、男同士でつるんでるのが楽しいってタイプでしょ。ガキよね。モテなさそう」<br><br>「でも、リュイスには彼女…みたいな人がいるよ？モテないってわけでもないんじゃないかなぁ」<br><br>「知ってる知ってる。幼馴染で、はっきり付き合ってないんでしょ？じゃあやっぱガキよ。子供の頃の関係性を引きずってるだけかも。はい35点。隣のニコラさんはマシね、68点？」<br><br>なんとも辛辣な物言いだ。それならとアイネは別の方向、貴賓席を指差してみせる。<br><br>「じゃあ、アルメル隊長のお兄さんのテオドールさんは？有名人だよ」<br><br>「有名人って言っても悪評じゃない…0点。顔良し、家良し、財力良し。でもシスコンの変態じゃね」<br><br>「んー…ザシャ隊長は？六騎士だし、頭いいし、強くてファンも結構いるよ」<br><br>「50点。なんかなよっちいのよね。確かにファンはいるみたいけど、“一部にモテる”タイプでしょ？理想とは違うなー」<br><br>「他に…あ、兵馬さんとか。ロネットも会ったでしょ。大道芸人の」<br><br>「あの胡散臭い男ね。…45点。稼がなさそう。甲斐性のなさが出てる」<br><br>指す相手指す相手、まるでロクな点数が提示されない。<br>アイネはふにゃりとした苦笑いを浮かべつつ、やたらにバサバサと切り捨てる辛口な親友へと問いかける。<br><br>「もー。誰なら高いの？」<br><br>「そうね、うちのシャラフ隊長はいい線いってると思う！85点は付けられるかな」<br><br>「わぁ、高いね」<br><br>「あの大人びた雰囲気はその辺の男には出せないわねー。経歴が不公開だったり、影があるけどそこも魅力よ。顔立ちが少しエキゾチックなとこで減点付いてるけど、微妙に好みが別れるかも？ってだけで美形なのは間違いないし！」<br><br>ロネットのテンションがやにわに上がる。<br>結局はシンプルに顔の好みで語っているように見えるのだが、アイネは特にツッコむことはなく笑いながら話を聞いている。<br><br>そんな間にも、澄み切った青空へと盛大な花火は打ち上げられ続けている。<br><br>式典の準備は既に全てが終えられていて、あとは開始の合図を待つばかり。<br>客席は満席、一般席には人がぎっしりと埋まっていて、ロネットの監視の目にも目立った動きはこれといってなし。<br><br>そこでふと、彼女の手にしている双眼鏡が横滑りを止めた。<br><br>その視線は貴賓席の空席へ。遅まきに入場してきた大柄な青年の顔を凝視している。<br><br>「見て！見てよアイネ！あれが100点！かっこいい！超モテそうじゃない！？」<br><br>「え、どれどれ？」<br><br>「見なさいよ早く！……っと、待った、ストップ」<br><br>浮き立った表情を沈め、アイネへ手渡そうとした双眼鏡を引き戻す。<br>フライトジャケットにゴーグル、男は飛行士なのだろうか。<br>体格はそこらの兵士よりも良好。貴賓席に入れる以上、どこかの貴族か富豪の子息なのだろうが…<br><br>ロネットは男の横顔へ、鋭い視線を飛ばしている。<br><br>「100点はやっぱなし。92点かな」<br><br>「そのマイナス8点はなに？」<br><br>「……なーんかキナ臭いから、減点。ちょっと行ってくるね」<br><br>そう言い残し、ロネットは足早に高所から降りて行った。<br><br>彼女は危機感知能力に優れている。<br>そんなところが特殊任務を主とするシャラフ隊に抜擢された理由であり、その能力に疑いの余地はない。<br><br><br>残されたアイネは波乱の予感を感じずにはいられず、ロネットの背へと大声で呼びかける。<br><br>「気をつけてねー！！」<br><br>【おまけ/兵馬と詩乃】<br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/f8/73/j/o0800080013687494153.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/f8/73/j/t02200220_0800080013687494153.jpg" alt="" width="220" height="220" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 18:32:58 +0900</pubDate>
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<title>Centuria78</title>
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<![CDATA[ 「だっさ」<br><br>辛辣な一言を飛ばしたのはプリムラだ。<br>普段は温厚、どちらかと言えば性格の良い人形なのだが、普段シニカルな言動の多いシャルルに怯えきった姿を見せられたのでは流石に呆れたようだ。<br>結果、身も蓋もない苦言が飛んだ。<br><br>「わかる。ださい」<br><br>詩乃もシンプルな言葉でこれに追従、兵馬はその横で苦笑を浮かべている。<br>罵倒を受けて、それでもシャルルは反論の様子すら示さない。示せない。そんな余裕はない。<br><br>「なんとでも言え、なんとでも…ううああああ見てくれこの震える手を！最悪だ、最悪だ、本番で指が動かないかもしれない！はっ、まさか僕を妬んだ誰かが呪いを掛けて…！」<br><br>「うわぁ」「うわぁ」<br><br>ついに思考を現実逃避と妄言へとシフトさせてしまっている。<br><br>そんな目も当てられない様子に、詩乃とプリムラはついに掛ける暴言さえ失った。<br><br>「ほら、ゲオルグさんが精神安定剤を調合したって」<br>「ありがたい！」<br><br>兵馬が差し出したそれをひったくり、猛然と口へ流し込む。<br><br>妙なとろみがあって、お世辞にも美味しそうには見えない。だがシャルルはそれを命の水とばかりに勢いよく飲み干して一息。<br><br>「プハァ！うっ！？」<br><br>「あ、おい…」<br><br>ゆらりとよろめき、背後へ仰け反り倒れてしまった。<br>これは一体どうしたことだろう。<br><br>詩乃たち三人は顔を見合わせ、首を傾げ、不思議そうに床に昏倒したシャルルを見下ろした。<br>すっかり困惑したままに、プリムラがしゃがみこんで青年の首筋に手を当てた。脈拍を見ているのだ。<br><br>数秒の間を置き…彼女の印象的な太眉が斜めに下がった。<br><br>「なにこれ、息してない」<br><br>「え。兵馬まさか…殺したの」<br><br>予想外の事態！<br>詩乃が胡乱げな目つきで兵馬を見る。これには飄々としたスタンスの兵馬も焦る！<br>両手を手をぶんと振り回し、必死の表情で弁解を試みる！<br><br>「ぼ、僕はやってない！二人も見てただろ！ゲオルグさんから受け取った薬をそのまま渡しただけだ！」<br><br>「すり替えたんじゃ…」<br><br>「変な疑いはやめてくれ！」<br><br>と、そんなところへ入ってきたのはゲオルグだ。<br><br>「おや…」<br><br>「ま、待ってくださいゲオルグさん！これは！僕は何もやっていない！」<br><br>「よしよし、効いたか」<br><br>「え！？」<br><br>慌てふためく三人をよそに、床へと倒れ伏したシャルルを見て悠然の一言。<br><br>「へ！？ゲオルグさんが殺したの！？」<br><br>「仮死状態だよ。こうでもしなければ可哀想になるほど怯えるのでな…」<br><br>「な、なんだ…それなら説明しておいてくださいよ」<br><br>兵馬は抗議するも、「すまんすまん」の一言で流されてしまった。<br>ドタバタと足音、カミロが二階へと駆け上がってきた。<br><br>「お！シャルルがまた死んでんじゃん！」<br><br>「はは、背負って運んでやらんとな」<br><br>白目を剥いた姿を見てゲラゲラと爆笑する少年。同じく笑う老人。<br>詩乃は溜息を一つ、アルベール家に全員に対しての認識を共通のものへ改めた。<br><br>「この家族めんどくさい…」<br><br><br>晴天快晴、雲一点ない空が青々と広がっている。<br><br>そこへ打ち上げられた彩りに富んだ花火が、ドン、ズドンと軽やかに空気を揺らす。<br>国を挙げた式典を前に、優れた魔術師たちによって造られた特製の火薬だ。真昼の空にも大輪の華を咲かせ、光の雨を降らせてみせる。<br><br>宮廷魔術師、火を操ることにかけては最高峰の腕前であるアイネもその作成に関わっていた。<br>「上手くいってよかったー」とは、会場の片隅で空を眺める彼女の弁。<br><br>首都セントメリアの街並み、その繁華街の中心区には10万人を収容できるスタジアムがある。<br><br>普段は球技が行われているその場所は、今日は先代の教皇を偲ぶ法要の会場へと姿を変えるのだ。<br><br>法要、とは言え人々の雰囲気は明るい。<br><br>西国ペイシェンとの長い戦争を主導していた前教皇は、国民からの人気に欠ける面があった。<br><br>比べ、現教皇であるエフライン14世は幼くして聡明な賢王として国民からの人気が高い。<br>信心深い人間はもちろん、教皇が現人神であるとまでには崇めていない人々の中にも悪く言うものがいない。<br><br>実際の執政は少年教皇ではなく周囲の文官たちによる部分が大きいのだが、何よりエフライン14世の幼くして淡麗な外見、そして現状の平和が国民の心を惹きつけていた。<br><br>そんなエフラインは会場の中、一際高く位置した観覧席に座している。<br><br>隣にはアルメル、そして数人の近衛兵たち。<br>傍目にはわからないが透明な魔力障壁が張られていて、狙撃されても弾が届くことはない。盤石の警備体制というわけだ。<br><br>そこより一段低い席には、国の主たる貴族、政治家に軍人たち。そうそうたる面々が顔を並べている。<br><br>議員席にはアルメルの兄、重度のシスコンことテオドールの姿も。<br>しきりに顔を上へ向け、エフラインとアルメルが会話を交わす様子を警戒たっぷりの瞳で見据えている。<br>そう、彼はわずか12歳の少年教皇にさえ妹を取られるのではないかと警戒を抱いている！狂気！<br><br>「アルメル…くっ！」<br><br>「おやテオドール君、顔が怖いなぁ。笑って笑って！」<br><br>そんなテオドールへと声を掛けたのも同じく政治家、現在最も有力な議員の一人であるドミニク・エルベだ。<br>高い知性を感じさせながらも、その口調は穏やかにして気さく。<br><br>策謀渦巻く議員たちの中で、慈善事業に力を入れるなど人格者で通っている中年男性だ。外見は若々しいが。<br>そんな彼が二つ隣の席からぬるりと腕を伸ばし、テオドールの頬へと掌を当てる。そして押し上げ、強引に笑顔を作らせた！<br><br>「スマイル！」<br><br>「うぐっ」<br><br>くしゃりとウェービーな髪を揺らすドミニク議員。<br>彼の議員としての権力はテオドールよりも上。笑顔がモットーの人物だ。悪意からの行動でもない。<br>下手な反論もできず、テオドールは渋々ながら無理な笑顔を作った。<br><br>軍人らの席にはリュイスを叩きのめしたシャラフや魔術師ザシャなど、アルメル以外の六騎士が腰を据えている。<br>さらに広大なユーライヤ国内、各地方の軍を統括する将軍たちの姿も。<br>六騎士たちは首都を拠点とする教皇の手足。対して将軍たちは、都市の防衛が役割だ。<br><br>権限は同等。<br>六騎士と同じく、六人の将軍が存在している。<br><br>そこでふと、テオドールとアルメルの視線が交錯した。<br>彼らはなんだかんだで仲の悪くない兄妹だ。<br>短いアイコンタクトだけで互いの意図を汲み取り、過不足なく理解する。<br><br>（兄上、“彼女”の動向に注意を）<br><br>（ああ、わかっているよ。アルメル）<br><br>ブロムダール兄妹が目を向けているのは列した将軍の一人、国土中央の大都市リリエベリを治める女性将軍アナスターシャだ。<br>冷めきった美貌、鋭い瞳。将軍にして議員。そして枢機卿。<br><br>枢機卿とは教皇に次ぐ国のナンバー2であり、多方面に強い影響力を持っている。<br><br>ブロムダールに並ぶ大貴族の一つ、パリス家の子女である彼女には黒い噂が絶えない。<br>王家を倒すべくクーデターの画策をしている。そんな物騒な噂まで。<br><br>（この国を貴様の好きにはさせないさ。そう、アルメルのために！！）<br><br>敵愾心たっぷりに枢機卿アナスターシャを睨みつけるテオドール。<br>そんな彼へ、再びドミニク議員の両腕がするると伸びた。<br><br>「ほうらスマイルスマイル！」<br><br>「うっく、これは失礼…」<br><br>強引な笑顔を作らされつつ、テオドールは使命に燃えている。<br>アナスターシャは政敵でもある。彼女を追い落とすことで妹との愛を深められると信じているのだ！<br><br>貴族、軍人、政治家。<br>様々な思惑が交錯する中、式典の開幕が近付いてくる。<br><br><br>【おまけ】<br>ユーライヤ生物図鑑:キングダック<br>王者の風格。大量のアヒルを引き連れ、馬車等が通る道を横断するのでちょっぴり迷惑。<a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/08/5a/j/o0800063513687492197.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/18/riorosablanca/08/5a/j/t02200175_0800063513687492197.jpg" alt="" width="220" height="174" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 18:30:39 +0900</pubDate>
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<title>Centuria77</title>
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<![CDATA[ 「むむ……」<br><br>「早く早く！兵馬はいちいち長えんだよ！」<br><br>「まあ待て待て、落ち着けよカミロ。まだ僕のターンだろ」<br><br>「ヘタクソが長考したって何も変わんねーよ」<br><br>「うるさいぞ！思考を妨害するな！」<br><br>「へっ、無駄だってのに」<br><br>時刻はまだ朝早く。<br>アルベール家の居間、カーペットの上では兵馬とカミロが二人、仲良く頭を突き合わせてカードゲームに興じている。<br>なにやら子供に人気のアニメカードらしく、年相応のカミロはともかく兵馬までもが割と真剣な表情で対戦に集中しているようだ。<br><br>そんな光景を真横に、食卓についたプリムラがじっとりと白い目を向けている。<br><br>「へい兵馬。子供相手にムキになるのはどうなのさー」<br><br>スクランブルエッグをケチャップと絡め、口へと運びながら茶々を入れていく。<br><br><br>その隣の詩乃も同じく、子供との遊びに熱中する兵馬の姿はなかなか理解に遠いようだ。<br><br>「床に座り込んでまでやるのはどうかと思う」<br><br>「うるさいな、こういうのはやるからには勝つ主義なんだよ僕は…そうか！わかったぞ！」<br><br>パチンと指を鳴らし、兵馬は手札から一枚を場へ。<br><br>「僕はこのスペルを発動だ！通るかい？」<br><br>「はい打ち消しー。さらに一枚ドローしてもらうぜ」<br><br>「くっ…」<br><br>「これで兵馬のデッキは０。次のターンで俺の勝ち…」<br><br>「まだだ！このスペルは効果を打ち消されても、コストで手札を一枚セメタリーへ送ることが可能！」<br><br>「なにぃ！まさか、兵馬ァ！」<br><br>「そう、僕のセメタリーのクリーチャーを数えてみるがいいさ！」<br><br>「クッソー！！」<br><br>やけに盛り上がっている様子だが、端から見れば紙切れを片手に珍妙なカタカナ語を交えてやんやと騒ぎ、バカバカしい光景でしかない。<br>詩乃とプリムラはやれやれとばかり、顔を見合わせオレンジジュースを口に含んだ。<br><br><br>一応、兵馬がこんな遊びをしているのには理由がある。<br>この少年の面倒を見始てから数日、最初のうちは彼の派手に極まる爆薬遊びや機械いじりに付き合っていたのだが、やはりそれは体力的に厳しいものがあった。<br>ので、徐々にインドアな遊びへとシフトしていった。<br><br>まずはトランプ。そこから発展し、巷で流行りのカードゲーム、その構築済みデッキを買い与えることで兵馬は平穏を手に入れたのだった。<br><br>カミロは兵馬によく懐いている。<br>今になって思えば、彼の爆破遊びは暴力衝動ではなく、少しでも派手なことをやって周りの関心を引きたい気持ちの表れだったのかもしれない。そう兵馬は考えていた。<br>現に、仲良くなってしまえばこうして大人しく遊ぶことができている。<br><br>そんな光景を目に、詩乃は兵馬へとほんの少しだけ感心していた。<br><br>（子供と仲良くなれるなんて、意外にまともなとこあるんだ）<br><br>ゲオルグとの初対面時に言葉に窮したように、詩乃は老人が得意ではない。<br>そして子供に気を使うのも苦手なのだ。<br>考えてみれば苦手意識のある相手だらけ、コミュニケーション音痴ここに極まれり。<br><br>それはさておき、二人がこんな場所で遊んでいるのにもワケがある。<br>本来のカミロの部屋がある二階は、今はとても立ち入れる状況ではない。と言うのも…<br><br>「ううああ！まるで駄目だぁぁぁ！！！」<br><br>二階からは酷い、悲鳴じみた奇声が降ってくる。シャルルだ。<br><br>続けて、ギキキキィとバイオリンを掻き鳴らす怪音が響き渡る。<br>いつもの流麗な音色とはまるで異なり、音楽素人の詩乃や兵馬たちでも精神の集中が乱れているのがありありと感じ取れるノイズ。<br><br>居間の四人は揃って顔をしかめ、うんざりとした様子で天井を見上げた。<br><br>「シャルルのやつ、超ガラスのハートなんだよなー」<br><br>カミロは呆れ果てた口ぶり。きっと演奏の本番前になるといつもこの様子なのだろう。それが国を挙げての大舞台となればなおさらだ。<br>普段なら二階で遊んでいる二人も、この音に追い出されたような格好。<br><br>逃げるように一階へと避難してきているのだった。<br><br>「む…これはいかんな」<br><br>奥の部屋からゲオルグがひょっこりと姿を現した。<br>その手には青い液体が入った角瓶が乗せられていて、居間の一同を見回して兵馬へと瓶を渡す。<br><br>「精神の落ち着く魔術薬を調合してみたんだが、シャルルに渡してやってくれないか」<br><br>「僕がですか？ゲオルグさんが行かれた方がいいんじゃ」<br><br>「いや、あの子は…シャルルは昔から上がり症なんだか、親や私が見ているのを意識すると余計に緊張するタイプでな」<br><br>「はあ、なるほど」<br><br>「ここは一つ、君たちに頼みたい」<br><br>請われて断る理由もなし。<br>数日の居候の間に寝食を共にし、兵馬たちとシャルルの間にはそれなりの友誼も結ばれた、ような気がする。<br><br>兵馬を先頭に、詩乃とプリムラも興味本位で後についてきた。<br><br>恐る恐る二階へ上がり、そして目に入ってきた彼の姿は…<br><br>「Aの音…Aの音をチューニング…Aの音…Aの音を…」<br><br>血の気がすっかり引いた表情だ。<br>一睡もできなかったらしく、ぼさついた髪で弦へと弓を滑らせ続ける姿は幽鬼じみている。<br><br>この国の信仰の対象は現人神とされるエフライン14世。<br>つまり、今日は神の面前での演奏なのだ。<br><br>「Aの…A…A…ひぁぁあっ！！失敗したら…失敗してしまったら！！」<br><br>「これはひどい」<br><br>三人の気持ちを代表するように、プリムラがぼそりと呟いた。<br><br><br>【おまけ/リュイス】<br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/13/riorosablanca/5e/83/j/o0800080013687301826.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/13/riorosablanca/5e/83/j/t02200220_0800080013687301826.jpg" alt="" width="220" height="220" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 13:53:46 +0900</pubDate>
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<title>Centuria76</title>
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<![CDATA[ 柔らかな陽光。<br>上質なカーテン越しに、春の朝日は心地よく“神”の寝室を暖めていく。<br><br>「……朝か」<br><br>午前七時。<br>目覚ましに頼ることもなく、ユーライヤの国主たる少年、エフライン14世がベッドから身を起こした。<br><br>艶めいた黒髪、くしゃりとした質感は寝癖ではなく生来のもの。歳に見合わず高い理知を感じさせる眼差し。<br>髪色と表情を除けば、少年教皇エフラインの容姿は不気味なほどにカミロと瓜二つだ。<br><br>しかし境遇は天地ほどに違う。<br><br>貧民街で気ままに生きるカミロは好きなに起き、好きに遊び、好きに食べて眠っている。<br>同年代の友人に恵まれない不幸こそあれど、自由には事欠かない生活だ。<br><br>対し、エフライン。彼が身を起こすと、その気配を室外で窺っていた侍女たちがすぐさま扉をノックする。<br><br>「お目覚めになられましたか」<br>「ああ、起きているよ」<br><br>扉が開く。“起床の儀”の時間だ。<br>大勢の侍女たちが部屋へと入る。<br>エフラインが床に降り立つやいなや、恭しく両腕が抱えられて寝間着が脱がされる。<br><br>湯に浸された布で顔や体の寝汗を拭かれ、髪を整えられ、歯を磨かれ、正装である法衣を着せられ、ただ立っているだけで朝の支度が全て完了する。腕に力を込める必要さえない。<br><br>同時に、貴族の子女から選び出された親衛隊が室内へと入る。<br><br>夜のうちに部屋や窓、テラスなどに異変がないかの点検が済まされる。<br><br>医師も数名。国で屈指の名医たちだ。<br>顔色、舌の色、体温、脈拍。<br>仔細の確認が行われ、少年の体調に変化がないか、綿密なチェックが行われる。<br><br>まさに至れり尽くせり。だが不自由だ。<br><br><br>少年は寝覚めの微睡みの、二度寝の幸福を知らない。<br><br>わずかな時間を経て、エフラインは広間の食卓へと足を運ぶ。<br>お付きの従者たちが背後にずらりと立ち並ぶ中、トースト、サラダ、スープに果物。<br>成長期の少年に必要な栄養を考慮されつつも、朝は存外に質素だ。<br><br>「いつも同じメニューでつまらないな」<br><br>気まぐれに傍の侍女へと声を掛けてみるも、誰もがおざなりの答えしか返さない。<br>主権者である教皇に取り入ることができないよう、個人の考えを言ってはならないと教育を受けているのだ。<br><br>「…つまらない」<br><br>もう一度呟く。<br>朝食だけに向けた言葉ではない。自身を取り巻く全てに対しての言葉だ。<br>黙したまま彫像のように佇む家来たちは不愉快でさえある。<br>スープ皿の底にスプーンが触れ、カチャリと音を立てたところで朝食を打ち切るべく口を拭った。<br><br>トーストを二齧り、スープを三口、サラダを少々。<br>それで終わり。少食に周囲が色めき立つ。<br><br>体調が優れないのですか？医師を呼べ！<br>お口に合いませんでしたか？シェフを呼べ！<br><br>食が進まない日くらい誰にでもあるだろう。それがこの大騒ぎ、馬鹿げている。<br><br>ますます不興を深め、腹いせのようにトーストの残り半分を口へと押し込んだ。<br><br>「猊下！いけませんぞ！喉に詰まらせてしまいます！」<br>「咀嚼を！しっかり咀嚼なさってください！」<br>「ああ、窒息されては大変だ…！水を！誰か水を！」<br><br>「くだらない。僕は物心の付かぬ乳飲み子か？」<br><br>寄り集った医師に従者たちを押し退け、エフラインは食卓を立つ。<br><br>「アルメルを呼べ」<br><br>六騎士が一人アルメル。<br>彼女は大貴族ブロムダール家の出という立場から、六騎士でありながら親衛隊の筆頭でもある。<br><br>まるで区別の付かない没個性的な家臣たちの中で、少年は唯一アルメルのことだけは気に入っていた。<br><br><br>何故なら…<br><br>「お呼びですか猊下！」<br>「来たか」<br><br>スタスタと軍靴の足音を響かせながら、やたらに凛とした表情でアルメルが現れる。<br><br>いつも呼べばすぐに来る。呼びつける側なので移動の様子を知らないが、走っているのだろうか？<br>微かに息が上がっているので、きっとそうなのだろう。<br><br>と、アルメルは食卓を目にしてキリリと目元を鋭くする。<br><br>「猊下！野菜を残しているではありませんか！」<br><br>「あらかた食べてあるだろう」<br><br>「キュウリが残っています！」<br><br>「アレは栄養がない。だから食べる必要がない」<br><br>わけ知り顔で述べるエフライン。<br>王であるべく日々英才教育を受けている彼は、年齢よりよほど賢しい。<br>だが、アルメルはそれを良しとしない！<br><br>「こらっ！」<br>「痛っ！？」<br><br>ゴツンと、アルメルのげんこつが少年の頭を小突いた。<br>途端！とんでもないことだと周囲から悲鳴が上がる！<br>宗教国家であるユーライヤ教皇国においては、教皇の座にある者が現人神だ。つまりアルメルは神の頭を殴ったのだ！！<br><br>なのだが、当のアルメルは知ったことかとどこ吹く風。<br><br>「栄養価うんぬんではありません！好き嫌いをする者が優れた国主たりえるかという話をしているのです！」<br><br>「ぐ…別にこれぐらい…」<br><br>「言い訳をするのも良くありません！」<br><br>「……いいだろう。食せばいいのだな」<br><br>渋々、エフラインはキュウリを口へと運んだ。<br>屁理屈をこねたが実際のところ、彼はこの野菜の風味が嫌いなのだ。<br><br>シャリ…と咀嚼し、嚥下し、アルメルを見上げる。<br><br>「…これで良いか」<br><br>「うむ、天晴れです！エフライン様！」<br><br>にっこりと微笑むアルメル。<br>良くも悪くも裏表のない、腹芸のこなせないタイプ。<br>ブロムダールは代々謀略に長けた一族なのだが、きっとその才は議員の兄に譲ったのだろう。<br><br>ともかく、そんな彼女をエフラインは最も重用していた。<br><br>「アルメル、今日は共に観覧するぞ」<br><br>「は。元より警護は私の予定ですので」<br><br>「うん、ならいい」<br><br>多少ゴツンと頭を小突かれようが、息の詰まる無個性な臣下たちよりよほど良い。<br><br><br>今日は国を挙げて行われる法要の日。<br>だが、亡き父への弔いよりも盛大に催される様々な出し物にエフラインの興味は向いている。<br>彼の中に、戦と職務に追われていた前王の記憶は薄い。<br>決して口にはしないが、いつの間にかいなくなっていた人間でしかないのだ。<br><br>幼くして芸術を愛するエフラインにとっては、宮廷歌手リーリヤと宮廷音楽家シャルルの初めての共演の方がよほどの関心事。<br><br>窓の陽光に目を向け、少年教皇はどこか儚げに笑みを浮かべる。そして小さく呟いた。<br><br>「うん、今日は楽しみだ」<br><br>【おまけ/アルメルとエフライン】<br><br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160702/17/riorosablanca/8c/28/j/o0800080013687467919.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160702/17/riorosablanca/8c/28/j/t02200220_0800080013687467919.jpg" alt="" width="220" height="220" border="0"></a><br>
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<pubDate>Sat, 02 Jul 2016 13:39:50 +0900</pubDate>
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<title>Centuria75</title>
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<![CDATA[ <br>夜が訪れ、詩乃らの滞在するアルベール家にも就寝の時間が訪れていた。<br>ゲオルグは老人らしく、夕食を終えた頃には早々に寝室へ引き上げる。カミロは電池が切れるように椅子で眠りこけていたのを兵馬が寝室へと運んでいった。<br><br>詩乃にプリムラも今日は疲れたようで、あくびを連発しながら自室へと引き上げて行った。<br><br>居間には夜型人間のシャルルだけが残っている。<br>貝の干物のような物をアテに、透明感のある蒸留酒でチビチビと口元を湿らせている。まるで若さのない、呑んべえの飲み方だ。<br><br>コツコツと足音。兵馬が階段を降りてきたのだ。<br><br>「や、お疲れ」<br><br>軽く手を上げ、彼はシャルルの差し向かいへと腰を下ろした。<br><br>「なんだ。飲むかい」<br><br>シャルルはふらつく手付きで空のコップを向かいへ滑らせ、手酌で注ごうとする。が、兵馬はそれを断った。<br><br>「僕はこいつで構わない」<br><br>そう言い、どこからともなく取り出したのは大瓶の牛乳、それに茶色の紙袋に盛られたポテトチップス。市中のマーケットでいつも揚げたてが売られている商品だ。昼に買っていたのだろうか。<br><br>さすがに冷めてはいるが、それでも良質な油と芋を使って揚げられたそれはなかなか美味しそうに見える。<br><br>「シャルル、君も食べていいぜ」<br>「そう言うなら遠慮なく」<br><br>パリリ。冷めていてもそれなりの食感が残っている。<br><br>口に含めば程よい塩気が口に広がり、まさに良い塩梅だ。そして舌の上の油分をアルコールで流し込む。<br><br>「くぅっ…！やっぱり酒には油物があるといいなァ！」<br>「オヤジ臭いな、君」<br><br>呆れ顔を浮かべつつ、兵馬は芋を口に運んでは牛乳を飲む。<br><br>晩酌の隣で、こちらはまるで食べ盛りの子供のおやつ。<br><br>「そういうそっちは随分とガキ臭い食い方だ。カミロと変わらないじゃないか」<br><br>シャルルはハハ、と軽く笑う。兵馬はそれを意に介さず、断りなしにシャルルのつまみの干し貝を口へ放り込んだ。<br><br>「別に、酒も飲むけどね。それほど好きってわけじゃない」<br>「ふぅん。リュイスみたいに下戸ってわけじゃないのか」<br><br>相槌を打ち、空けたコップへ酒を注ぎ直す。<br>そしてまた一息に煽った。<br>アルコールのペースはいつにも増して速い。<br><br>それも兵馬の目には、日に日に酒量が増えていっているように見える。<br>その感覚は誤りではない。事実、半月は持つはずの大瓶が五日ほどで空になりかけていた。<br><br>シャルルは繊細な男だ。普通に生きていてはすぐ精神のバランスを崩してしまう。<br><br>とりわけ、夜の闇と静けさは人間の精神にマイナスをもたらすものだ。<br><br>自らの音楽家としての未来に不安を抱き、才能がないのではと恐れを抱き、両親と死別した寂しさを思い起こしては頭を抱える。<br>鬱々とした気性をしている。<br><br>そして今は盛大な国事の前。<br>自分の演奏が国民の耳目に晒される機会を明後日に控え、ガラスのメンタルは重圧にひび割れていた。<br><br>やっていられないから酒を飲む。<br>酒浸り、アルコール中毒と人は責めるが、市井に蔓延る薬物に手を出さないだけマシだと考えている。<br><br>同業者には薬に救いを求める者も少なくない。シャルル自身は刹那的な生き方の中にせめてもの主義として、薬には手を出さないと固く誓っていた。<br><br>さておき、たまには酒の肴に会話もいいだろう。シャルルは兵馬へと疑問を投げる。<br><br>「君はどうして大道芸人に拘るんだ？率直に言って見込みはないと思うけど」<br>「ひ、酷いな…もっと言い方があるだろ…」<br><br>身も蓋もない暴言に顔をしかめつつ、兵馬はその“何故”に対する答えを脳内で整理する。<br><br>「イヴェルって知ってるかい」<br>「いゔぇる、イヴェル…」<br><br>少しの間を置き、兵馬が口を開いた。それを受け、シャルルは酩酊にいまひとつ巡らない頭で天井を仰ぐ。<br>おぼろげな記憶をゆっくりと手繰り、あまり自信を持っていない様子で答える。<br><br>「イヴェル。確か、芸に特化した移動民族…だったな」<br>「そうそう」<br><br>兵馬はピシリと指を突きつける。まるで正解を指摘する教師のようだ。<br>シャルルはその仕草に若干の鬱陶しさを覚えるが、構わず話の続きを促す。<br><br>「その民族がどうしたんだ。まさか兵馬、イヴェル出身だって言うんじゃないよな？」<br><br>「いや、そういうわけじゃない」<br><br>「ハハ、安心したよ。あのクソみたいなジャグリングでイヴェルを名乗られたんじゃ、とんだ幻滅だ」<br><br>「嫌な酔い方をするなぁ、君」<br><br>酒の入らない素面なら割に常識人のシャルルなのだが、それが彼の本質かと言えばそうではなく、少なからず抑圧された姿なのだろう。<br>酒が入ると振り子が真逆に揺れるように、辛辣でアイロニカルな物言いを繰り返す性格が顔を覗かせる。<br><br>ただ、それはあくまで口を開けばの話。一人で飲ませていればダウナーに酔い潰れているだけで害はないのだが。<br><br>まあ、酔っ払いの台詞をいちいち間に受けるほど兵馬は繊細な性格をしていない。<br>適当な相槌でシャルルの嘲笑を聞き流し、話を続ける。<br><br>「前に、イヴェルのサーカスを目にしたことがあってね。僕は彼らにもう一度会いたいんだ」<br><br>「感銘を受けたってわけかい、子供の頃に見たのか？」<br><br>「まあ、昔さ」<br><br>「ふぅん。なんだか普通の話でつまらないな。さっさと会いに行けばいいじゃないか」<br><br>軽い調子で告げるシャルルへ、兵馬は首を左右に振ってみせる。それは不可能なのだと。<br><br>「彼らはこの広大な大陸を常に移動し続けている。イヴェルのサーカスは当日限り。会えたならそれは幸運。翌日には姿を消しているのさ」<br><br>「一日だけ？本当に？馬鹿げた話だな。いくら移動民族って言っても加減があるだろ」<br><br>掌を上に、呆れたとばかり片手を浮かべるジェスチャー。さらに言葉を続ける。<br><br>「荷物の運搬や会場の設営、色々作業があるだろ？たった一日で移動する意味がわからない」<br><br>「事実それをこなしているのがイヴェルさ。神出鬼没、正体不明。興味深いだろ？<br>僕が大道芸をやっている理由の一つは、彼らにもう一度会うためなんだ」<br><br>言葉を切り、兵馬は時計へと目を向ける。<br>日付は変わっている。一時を過ぎ、二時に迫ろうとしている。<br><br>昼の諸々で疲労したのは兵馬も同じ。<br>お開きにしようと一言。瓶に直接口を付け、底に残った牛乳を食道へ流し込んだ。<br><br>「同じ業界に身を置けば、彼らの移動の傾向が掴めるかもしれない…とね」<br><br>「待った待った、そこが結び付かない」<br><br>引き留め、問い掛ける。<br><br>「いくら一日で移動すると言っても、最近どの地方で公演しているかとか、おおよその地域はわかるわけだろ？」<br>その地方で一月も探せば見つかりそうなものじゃないか」<br><br>真っ当な考えだが、兵馬はまた首を左右に。それも不可能なのだ。<br><br>「昨日は北、今日は東、明日は西。そんな具合に、彼らは一日で数千キロを移動できるんだ。<br>移動手段は不明。唯一わかるのはこの国ユーライヤからは出ないという一点だけ。つくづく謎めいた民族なのさ。会いたければ幸運を待つか、先読みするかの二択って訳だよ」<br><br>背越しにヒラヒラと手を振り、兵馬は歯磨きをするべく洗面所へと去っていった。<br>シャルルはテーブルに一人、釈然としない感情だけが胸中に残されている。<br><br>「…結局、イヴェルに憧れてるってだけの話なのか？」<br><br>脳裏の言葉を呟いてみるが、腑に落ちない。<br><br>結局、兵馬がイヴェルに会う目的は何なのかという肝心な部分は煙に巻かれてしまった印象が残る。<br>成り行きで泊めているだけの旅人、そこまで気にする必要もないはずなのだが…<br><br><br>優れた術師である祖父の血か、音楽家の感性からか、シャルルは幼い頃から勘が鋭い。<br><br>その感覚が、兵馬樹という青年に得体の知れない何かを感じ取っているのだ。<br><br>ただ、今のシャルルは単なる酔いどれ。研ぎ澄まされた思考など望むべくもなく、去っていく兵馬の背を見送りながら机へと顔面を突っ伏した。<br><br>意識が泥へ沈みかけ、まずいと一念発起。ここで寝るのは流石に風邪を引く。<br>無理やりに体を起こし、ソファーへと倒れこんで毛布を被る。酒に火照った体が柔らかな布に包まれ、すぐに微睡みが訪れる。<br><br><br>そして明かりが消え、アルベール家の一日が終わりを告げた。
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<link>https://ameblo.jp/riorosablanca/entry-12151690773.html</link>
<pubDate>Tue, 19 Apr 2016 03:09:14 +0900</pubDate>
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<title>Centuria74</title>
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<![CDATA[ <br>詩乃は促されるままに掛け、続いて渋々とプリムラが腰を下ろす。<br>ザシャが座り…兵馬の椅子がない。<br><br>一体何の嫌がらせだろう。兵馬がザシャに視線を向けると、魔術師はいつの間にか手にしていた小包を差し出してきている。<br><br>「君はこれを持ってゲオルグさんへと届けてくれ」<br>「…なるほど」<br><br>兵馬ははっきりと彼の意思を感じ取る。それは敵意。<br>お前の席などない。ここから去れ、と告げているのがわかる。<br>プリムラ、それにいつも素っ気ない詩乃も、心配げに兵馬を見上げている。<br><br>大人しく座したものの、やはり状況に不安はあるようだ。<br><br><br>さて、この男。ますますキナ臭い。<br>兵馬はさらに警戒を強め、同時に彼への興味を深める。<br><br>（明らかに詩乃に興味を示している。それはプリムラが考えるような、安っぽい好意からのものなのか？）<br><br>黙し、一人立ったままに思考を巡らせる。<br>詩乃の顔を見た途端に態度を変えた。そして同行の男を追い払おうとしている。素直に受け取ればプリムラの発想は間違いではないかもしれない。だが…<br><br>兵馬は華麗な手捌き、どこからともなく赤布をはためかせる。<br><br>久々、生成能力を行使しようというのだ。プリムラは驚きに目を見開く！<br><br>（ちょっ、いきなり攻撃を仕掛けるつもりー！？）<br><br>その赤布は手品めいて武器を出す技だ！対抗しろと言ったがそこまでは求めてない！<br>暴力沙汰を予見し、泡を食った表情を見せる人形少女。<br><br>が、ゴトンと。兵馬が生成したのは一台の椅子だった。<br><br>「あいにく。自前の椅子がありまして」<br><br>煽るような手つきと共に、挑戦的な口調でザシャへ告げ、招かれざる食卓へと割って入る。<br>卓上からスコーンを一つ手に。大口を開けて齧って見せた。<br><br>「腹が減ってたんです。美味しいですねコレ」<br><br>無礼には無礼で返せとばかりの態度を見せつけられ、ここで追い払うのも面倒だと考えたか。ザシャは含みのある微笑を浮かべ、兵馬の着座を受け入れた。<br><br>「美味しいだろう。部下の一人が茶菓子にと差し入れてくれた」<br><br>「都会っぽい味ですねえ」<br><br>兵馬は褒め言葉もそこそこに、次いでクッキーへ手を伸ばす。<br>蔑ろにされたのが彼なりに腹立たしかったのか、ボリボリと噛み砕き、やたらふてぶてしい態度を決め込んでいる。<br><br><br>ザシャは兵馬から視線を切り、そして詩乃の瞳を覗き込む。<br><br>「………」<br>「む…」<br><br>無言のまま、詩乃の瞳を見つめるザシャ。その眼光は瞳孔を通して深奥へ。<br>詩乃はそれを受け、奇妙な感覚に目を逸らせずにいる。<br><br>（なんだろう。不快じゃないけど…変な感じだ）<br><br>プリムラが警戒してくれているのはわかる。<br>兵馬も護衛らしく、菓子を貪りながらもザシャの様子を窺っている。<br>だが…この魔術師の眼差しからは、何か別の感情を感じる。<br><br><br>やがて、ザシャがゆっくりと口を開いた。<br><br>「詩乃…君は」<br><br>「っ…！痛っ！いた…っ…！？」<br><br>突然、詩乃が頭を抱えて卓上へと突っ伏した。<br>あまり泣き言を言わない詩乃だが、酷い顔色で額に脂汗を浮かべている。<br><br>「何をしたァァー！！！！」<br><br>プリムラが机へと片足を乗り上げた！腕の砲身をザシャへ突き付けている！<br><br>彼が怪しげな術を用い、詩乃へ辛苦を与えていると考えたのだ！<br>対し、兵馬は詩乃が痛がり始めた瞬間にも反応を示さず、穴が開くほどザシャを凝視し続けていた。<br>故に見逃さなかった。痛みを訴える詩乃を前に、ザシャはほんの一瞬だけ酷く狼狽える表情を見せたのだ。<br><br>「プリムラ、この人が何かをしたわけじゃない」<br><br>兵馬は片腕で憤る人形を制する。<br>だが彼女の激昂は収まらず、痛みに苦しむ詩乃を見て泣きそうな顔になり、ザシャを脅すべく天井へと銃弾を撃つ！<br><br>「あなた！すごい魔術師なんでしょ！詩乃を助けて！！」<br><br>プリムラの怒声を受けつつ、ザシャは既に平静を取り戻している。<br>立ち上がり、棚に並べてある瓶から一錠の薬剤を手に乗せ、そして詩乃へと差し出した。<br><br>「これを飲みなさい。痛みが治まる」<br>「っ…んぐ…」<br><br>促されるまま、指先ほどの粒を一息に飲み下す。<br><br>「変な薬だったら殴るから！詩乃に何かあったらぶん殴るから！」<br><br>ギャアギャアと叫ぶプリムラを横目に、薬は素早い効き目を見せる。<br>詩乃の顔から苦悶の色が失せ、すう…と一つ深呼吸をして顔を上げた。<br><br>「…大丈夫、痛くなくなったよ。効いたみたい」<br><br>「よかったー！詩乃よかったぁぁ！！」<br>「プリムラうるさい…頭に響く…」<br><br>いつもの二人はざっくばらんな友人関係にも見えるのだが、いざ詩乃が苦しげにするとプリムラの保護者の側面が顔を見せる。<br><br>過保護にも思えるほど大仰な騒ぎようで、心配されている当人の詩乃が呆れ顔だ。<br><br>しかしザシャに渡された薬の効き目は覿面だったらしく、すっかり顔に血色が戻っている。一安心だ。<br><br>突然の頭痛の理由が気になるが…<br><br>兵馬は依然、ザシャから目を離していない。席を立ち、歩み寄る。<br><br>「随分、心配そうな顔をするんですね」<br><br>詩乃たちには聞こえない小声。ひそりと、耳元で囁いた。<br><br>「……おや、何の話かな」<br><br>魔術師は“おかしな事を言うね”とばかりの表情でシラを切る。<br><br>だが、兵馬は垣間見た彼の狼狽に確信を得ている。この男は詩乃の記憶に何らかの関係を有している。彼女の過去に関係のある人物だ。<br><br>血縁者？疑いを持って見れば容姿はどことなく似ている。<br>外見から見るに、この男の歳は20代後半から三十路ほど。<br><br>親類だとすれば兄か、従兄弟か。<br><br>問い詰めてみるか？<br><br>…いや、不用意な言動は慎むべきだ。<br>さっきの詩乃はザシャを見て何かを思い出しかけ、そして頭痛に襲われた。<br>おそらく記憶に作為的な鍵が掛けられていて、それが外れかけた事で痛みに襲われたのだろう。<br><br>それなら、迂闊に記憶を掘り起こそうとするのは好ましくない。<br><br>「どうしたのかな、兵馬君。人の顔を穴が開くほどに見つめて」<br><br>「……」<br><br>ザシャの口調、表情には、問われたとして何を語るつもりもないのがありありと現れている。<br><br>そもそも。記憶を封印するには魔術を用いるはずで、目の前にいる国内最高峰の魔術師たる六騎士はそんな芸当をこなすに最も相応しい人物のように思える。<br><br>「何でもありませんよ」<br><br>真偽がどうであれ、現時点での追求は無理だ。<br><br>少なくとも、詩乃に対して敵意を持っている人間ではないように思える。それなら放置で構わないだろう…というのが兵馬の判断だった。<br><br>仕事机に置かれている内線がメロディを奏でる。ザシャは立ち上がり、それを取って二、三会話を交わす。<br><br>漏れ聞こえた声は慌ただしげ。六騎士である彼はよほど多忙なようで、短い会談はそれで終わりを迎えた。<br><br>「すまないね。まともにもてなせず」<br><br>「…こっちこそごめんなさい」<br><br>詩乃は相変わらず殊勝な態度で、ぺこりと小さく頭を下げる。<br><br>頭痛で驚かせてしまった事を謝罪しているのだ。<br>それを受け、ザシャは相変わらずのボソボソとした声で「いや、構わないよ」と告げる。<br><br>そして再び指を鳴らす。<br>どこからか小さな小箱が現れ、詩乃へとそれを手渡した。<br><br>「お土産だよ。持って帰って食べるといい」<br>「あ、いや…」<br><br>詩乃は遠慮するが、構わず押し付けられる。礼を言い、魔法陣を踏み、元来た道を帰り、城を出て。時刻は夕方になっていた。<br><br><br>「初対面の人ばっかりでつっかれたぁぁぁ～……」<br><br>間延びした声、プリムラがぼやくのも無理はない。人と会うのがそれほど苦でない兵馬でさえ気疲れしている。ましてやコミュニケーションが苦手な詩乃の疲労ぶりは一目に明らかだった。<br>明らかに口数少なく、ぼんやりと口を半開きに歩いている。<br><br>ふと思い立ったように、プリムラは務めて元気な口調で詩乃へと尋ねかける。<br><br>「ねえ、あのザシャって人から貰ったお土産の中身は？」<br>「僕も気になるな」<br><br>「ん」<br><br>詩乃も頷いた。夕刻の雑踏から外れ、ベンチに腰掛け、ガサガサと荒っぽく包みを破く。<br><br>パッケージは東の国で用いられている字体、大きく記されている商品名を目に、兵馬は物珍しげな顔を浮かべてみせた。<br><br>「ぜんざいじゃないか。瓶に入ってる食べきりの」<br>「や、やったあ…！」<br><br>詩乃の声を聞き、兵馬はますます珍しげな顔になる。<br><br>あまりテンションを上げない彼女の語尾が上がっている。エクスクラメーションマークが付いている。同行を始めてから少し経つが、こういう声色は初めてだ。<br><br>「ぜんざい！私ぜんざい好きなの！」<br><br>目をキラキラと、意味なく拳を上下させて兵馬へと主張している。<br><br>そんな様子に兵馬は困惑と苦笑を浮かべつつ、ザシャへの疑心を一層深める。<br><br>（好物まで知っている…か）<br><br>ガラン、ガランと、聖堂からの鐘の音が夕暮れの街に響き渡る。<br>橙に染められた宮殿を遠目に、兵馬は視線を鋭く細めるのだった。<br><br>おまけ【ザシャ・エーヴェルト】<br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/20160419/02/riorosablanca/18/b0/j/o0800233113623741953.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20160419/02/riorosablanca/18/b0/j/t02200641_0800233113623741953.jpg" alt="" border="0"></a><br>
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<pubDate>Tue, 19 Apr 2016 02:55:06 +0900</pubDate>
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