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<title>耳をすますな</title>
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<description>小説を載せていきます。毎週土曜日か日曜日に更新します。</description>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　13</title>
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<![CDATA[ １３ <br><br>山田は谷を歩いて回っている。市長がお見舞いに来た日に勢いでこの谷を守ると言ってしまったことを激しく後悔していた。あの時、自分を見つめるユリの表情を見て、なんとかしてあげたいと思った気持ちは本物だけど、実際どうすれば言いかなんて考えてもいなかったし、この谷を救うことが出来るような大きな仕事をしている自分なんて想像も出来ない。 <br><br>そんなわけであれから５日間、山田はアイデアを考えている振りをしながら谷を歩きまわっている。どこからか噂が広がったみたいで、谷の住人とすれ違うと、「頑張ってください」と声をかけられたりするようになった。なんだか頼られてるみたいで気持ちがいいが、申し訳なさで胸がいっぱいになったりもする。 <br><br>一ツ橋電機のほかの人たちは、それぞれの時間の過ごし方を見つけて、山田に協力する気は全くないようだ。頼りにならないとは思ってたけど、実際一人にされると心細くてたまらない。 <br><br>今日は普段は公務で忙しいユリが、時間を作ってくれて一緒に歩いてくれている。ユリは山田の不安なんてまったく気にしないで、期待のこもった顔で山田の隣を歩いて、谷のあちこちを説明しながら歩いている。 <br><br>この５日間で谷の地理が結構分かってきた。ちょうど谷の真ん中に南北に流れる川があって、谷は東と西に分かれている。川には無数の小さな橋が架かっていて東西を繋いでいる。西側にはユリの家、風車、昔海を渡ってきた職人たちが住んでいたという工房なんかが集落を作っている。東側は主に田んぼや畑が集まっている。畑では、小麦や野菜や様々な果物を育てている。東西には大きな山がそびえていて、山の斜面でははっさく畑が広がっている。半日あれば徒歩で一周できてしまうくらいの大きさだ。 <br><br>谷のほとんどの地面はレンガで舗装されていて、全ての道は谷の中心にあるユリの屋敷のある丘に続いているので、その道をたどって歩けば、道に迷うことはまずなかった。 <br><br>ユリと二人きりで歩けるのはうれしかったけど、山田は心苦しかった。５日間谷を歩き回って出した結論は、「僕には無理です」と謝ることだった。今日は、どこかのタイミングでユリに謝ろうと考えていた。 <br><br>谷を守るために一生懸命仕事をしているユリを見るたびに申し訳なくなった。自分にはそれほど何かにかける情熱はないし、アイデアも力もない。ユリの村を変えたい気持ちは痛いほど伝わってきたけど、自分にはそれを手助けする力はきっとない。 <br><br>どこかのタイミングで言おうと、ずっと考えながらレンガの道を歩き続けているが、なかなか言い出す勇気がなく、結局日が暮れかけてきた。 <br><br>この５日間で山田以外の一ツ橋電機の人たちはすっかり谷の暮らしに溶け込んでしまった。朝起きるとみんなそれぞれの仕事に出かけてしまう。 <br><br>城田部長は焼け落ちた風車小屋のある丘に向かっていって、大工仕事をしている。瓦礫を運んだり、森から切ってきたり、オフィスで椅子に座ってる姿を見慣れた山田には、汗を流して力仕事をしている部長の姿は新鮮だった。最初はパチンコ屋がないことに文句を言われたが、今はすっかり健康的に肉体労働にせいを出している。 <br><br>近藤は、お祭りの後からすっかり谷の女の子と子供たちの人気者になってしまった。ユリたんブログにアップする為にカメラを持って谷の写真を取って回っていると、近藤の姿を見つけた人は写真を撮ってとお願いされる。「しょうがねえな、メス豚ども」とつぶやきながらも親切に写真を撮ってあげている。 <br><br>メイリンは昔の工房に通って、はっさ君人形の作り方を教えてもらっている。夜の街でつちかったトーク術で職人のおじさんたちに大人気だ。 <br><br>池田課長と和田は村の北側の山の斜面にある牧場で、羊飼いをしている。一日中羊を見ているのが、池田課長の精神衛生的に好影響をもたらしているようで、池田課長はだいぶ表情が豊かになってきた。羊はかわいいのでいくら見ていても飽きないようだ。そんな羊に癒される池田課長がかわいくて、和田は池田課長と一緒に過ごして、一日中池田を観察している。 <br><br>そんなわけで、みんななんだか自分の居場所を見つけて、自分の好きなことをはじめだした。山田に協力しようとしてくれる人はまったくいない。山田は、谷の生活を満喫しだしたみんなの姿を思い描いて楽しそうでいいな、と一時間に３回くらい思うようになった。 <br><br>「山田さん、どうしたんですか？ぼーっとして」少し前を歩いているユリが振り返って、自分を見つめてくる。今日は普段着だ。普段着と言っても、谷の人たちが着ている服で、アンデス山脈の民族衣装みたいだと山田は思う。アンデス山脈がどこにあるかも良くわからないけど、そんな感じがする。スーツ姿もいいけど、こっちのほうがユリの持つ雰囲気にあっている。 <br>「ごめん。ちょっと考え事をしてて」 <br>「ごめんなさい。邪魔しちゃって。せっかく谷のために考えてくれてるのに」 <br>「まあ、うん、大丈夫」 <br><br>また大丈夫とか言っちゃったと後悔しながら、ユリの後をついていく。さっきからそればっかりだ。謝ろう謝ろうと思いながらも、ユリの顔を見ると言い出せない。結局、朝から夕方までそんなことをしながら歩き続けている。コレが普通のデートなら、こんな幸せなことはないのに。惜しすぎる。 <br><br>「ずっと歩いてて疲れちゃいましたか？」 <br>「大丈夫。そんなことないよ」 <br>「じゃあ、最後に見てもらいたいところがあるんですけど。いいですか？」 <br>「うん。なに？」 <br>「それは、今は秘密です。じゃあ、ちょっと急ぎましょ。日が暮れちゃうから」 <br>「そうだね。」 <br><br>谷の真ん中にあるユリの屋敷から、北側の海沿いの道を歩いて、工房のある丘、風車小屋のある丘を越えて、今は南の端っこだ。すぐ後ろには谷を囲む山がそびえている。目の前には、収穫後の畑が延々と続いている。 <br><br>ユリはレンガの道から外れて森の中に入っていく。 <br><br>「どこ行くの？」すっとレンガの道を歩いてきた山田はびっくりして聞く。 <br>「この先に見せたいものがあるんです」ユリの後ろには、森の中に入っていく道がつづいている。 <br><br>ユリは薄暗い森の中をどんどん進んでいく。ユリの後ろをついていく山田。ユリは簡単にどんどん進んでいくけど、山田は山道は歩きなれていない。そろそろ息が切れてきた頃、いきなり視界が開けた。 <br><br>「すごいな」と山田は思わずつぶやく。 <br><br>目の前には森に囲まれた湖が広がっていた。真ん中に小さな島があって樹齢何百年だよってくらい大きな気が一本立っている。なんだか人面鹿とかが出てきそうな幻想的な湖。 <br><br>「きれいでしょ？」 <br>「うん。びっくりした」 <br>「ここは村の人もあんまり知らない、私の秘密の場所なんですよ。子供の頃から一人でよく来てたの。村の外の人ではここにつれてきたのは山田さんが初めてですよ」 <br><br>湖のほとりでユリがしゃがみこんで手を水につけながら言う。なんだかきれいな絵画みたい。 <br><br>「ここも、市長の計画が通るとトンネルが通ってなくなってしまうの」 <br>「そうなんだ」 <br>「約束したんです。ここはずっと守るって。」 <br>「約束？」 <br>「そう」 <br>「それって、たかしって人と？」 <br>「そう。なんで知ってるの？」 <br>「僕の家に泊まったとき、言ってた。寝言で」 <br>「そうなんですか？恥ずかしいな」 <br>「たかしって誰？」 <br>「それは、秘密です」 <br>「谷の人？」 <br>「まあ、そうかな」 <br>「ふーん」 <br>「ねえ、もうすぐ。見てて。」 <br><br>日が沈んで本当に真っ暗になってくる。そのとき湖から青いぼんやりした無数の光が浮かんできた。 <br><br>「湖が光ってる」 <br>「そう。これを見せたのは山田さんが初めてですよ。」 <br>「なんで？すげー」 <br>「オオグロサンショウモドキです。こいつらこの時間になると光るの。昔発見したんです」 <br>「すげー。ライトアップされてるみたい」 <br><br>なんだかきれいな景色に興奮する山田。そういえば、こんなにきれいな景色を見たのは最近なかった。オフィスからみる東京の人工的な夜景なんかより数倍きれいだ。ずっとこんなところにいたいなって気がした。 <br><br>「良かった」隣でユリがつぶやく。 <br>「え？」 <br>「少し元気になってくれました？なんだか山田さん思い悩んでるみたいだったから。あんまり谷のために頑張ってくれてるのに、私たちは何も出来ないから。」 <br>「僕の為に、連れてきてくれたの」 <br>「うん。」 <br><br>青く光る澄んだ湖と、そのほとりで微笑むユリの姿。これ以上ないってくらいの組み合わせだ。思わず好きですって言ってしまいたい。が、その後のことを考えると怖くて何もいえない。「は？何勘違いしてんですか？」とか言われたら立ち直れない。 <br><br>二人は青い光が消えるまでほとりに座って湖を見ていた。山田はユリの為に何かをしたいとそればかり考えていた。 <br><br>帰り道は月明かりを元にレンガ道を進んでいった。あんまり話すことはなくなってしまったので、会話は少なくて、だまって二人で並んで歩いていた。山田はそれだけでも十分満足だったが、ユリが何を考えているのかがとても気になる。 <br><br>ユリの屋敷に帰り着くと、二人のほっこりした空気とは対照的にみんながあわただしく動いていた。山田たちが鉄砲玉と名づけたサルのような小さい老人があわただしく廊下を駆けて行く。 <br><br>「どうしたの？」 <br><br>すれ違いざまユリが聞く。 <br><br>「ユリ様。水戸が襲われて、それにあんたの連れも襲われて。大変じゃあ。」 <br><br>そういうとまたどこかへ駆けて行ってしまう。 <br><br>二人は慌てて、鉄砲玉の後を追った。
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<link>https://ameblo.jp/rivewide/entry-10971533997.html</link>
<pubDate>Mon, 01 Aug 2011 00:34:08 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　12</title>
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<![CDATA[ <br>黒塗りのベンツが３台続いて谷に入ってくる。市長の金田とお付の人たちだ。金田は谷を見るたびに気に入らなかった。他の市民はうまく手なずけているのに、この谷だけ言うことを聞かない。グレーのスーツ、ボリュームの少なくなってきた髪をオールバックに撫で付けている。飲み屋に行くと、若い頃のジェンキンスさんとか、ロシアのプーチン大統領に似てるって言われて、ちょっと意識していたりする。六本木のキャバクラでのあだ名はプーちんだった。 <br><br>この谷に産業廃棄物の処理場を完成させるのが、当面の自分の大きな仕事だ。官製談合の話は完璧にまとめてあるので、この計画が頓挫すると結構ややこしい話になる。後は、谷を説得するだけ。ただ、この谷の議員が強く反対するので、決定が遅れている。２期目の市長選挙も迫ってきており、多少の犠牲とか強硬な手段は仕方ないと考えるようになってきた。 <br><br>計画は着々と進行しており、谷の住人の何人かを協力者として手なずけてある。力を効果的に使えば人を動かすのはどの世界でもそんなに難しいことではない。谷の協力者から、大きな祭りが開かれているという情報を入手した金田は、その隙をねらって部下にちょっと暴れるように指示を出していた。今日は、そのお見舞いの為に朝から山越えだ。 <br><br>ユリの屋敷の玄関の前で車が止まる。秘書のヤスがドアを開く。吸いかけのタバコを地面に投げ捨て、磨き上げられたエルメスの革靴で踏みつけながら車を降りる。 <br><br>なんども交渉に来ているけど、いつ見ても腹が立つほど大きな屋敷だ。そのうちここを買収して、市の特別公舎として使ってやろうと思った。 <br><br>玄関の前には水戸と２人の老人が腕を組んで怖い顔でこちらを睨み付けている。年よりは頭が固いから嫌いだ。 <br><br>「おはようございます。昨日は大変でしたね」 <br>「何をしに来た？」 <br>「あれ、連絡行ってないかな？お見舞いに訪問させていただいたんですけど。」 <br>「聞いとらん。帰れ。」 <br>「ヤス君。」 <br>「はい！」 <br>「どうなってんの？聞いてないとおっしゃってるよ？」 <br>「いえ、あのちゃんと電話した・・・」 <br>「言い訳しないでよ。」 <br><br>いきなりヤスを殴りつける。地面に倒れたヤスを靴で踏みつける。 <br><br>「困るよ。ちゃんと事前にご連絡差し上げないと。みなさん迷惑されてるだろ。」 <br>「ぐふっ」 <br><br>ヤスの腹を蹴り上げる。素人の目の前で暴力を見せ付けるのはどの世界でも効果的だ。この谷の住人のように平和に生きてきた人間の前では特に。ヤスの「ぐふっ」って声も、痛みを想像させて同情を呼び起こす絶妙のニュアンスで、秘書としての成長を感じさせる。 <br><br>市民の前では、革新的で紳士的な頭の切れるビジネスマンのような市長を演じているが、この谷の人間には通用しないので、怖い一面を見せるのもやむを得ない。 <br><br>「すみませんね。秘書が間抜けで。後でイワシときますから、ちょっと中でお話させてくれやしませんかね？」 <br>「無駄じゃ。話すことなんて無いから帰れ」 <br>「そうじゃ」 <br>「そうじゃ」 <br><br>２人の老人がわめく。こいつらは犬か。頭の悪い番犬。向こうが折れるまでヤスに頑張ってもらうしかない。ヤスをにらみつける金田。怯えるような目で見つめるヤス。が、その奥にはちょっと期待の光も見える気がする。前々から思ってたけど、こいつはきっとドＭなんだろう。最近ちょっと怖い。 <br><br>「お前のせいで皆さんが怒ってらっしゃるじゃないか」蹴ろうとする金田。 <br>「ヒ、ヒィ～」北斗の拳の雑魚キャラのような悲鳴を上げるヤス。 <br><br>「もうやめてください。水戸爺案内して差し上げて」 <br><br>きれいな声が聞こえる。顔を上げると金田の目の前に、ユリが悲しそうな顔をして立てっいる。こんな田舎の議員にしとくには惜しいくらいの美貌。ただ、自分の意のままに動かないのは許せない。いつか、自分の愛人ラインナップに加えたい。 <br><br>「佐藤先生。すみませんね。こちらの不手際で連絡が行ってなかったようですが、昨日の事件のことを聞いて、お見舞いに上がりました。」 <br>「わざわざありがとうございます。どうぞ。私たちからもお話がありますから。」 <br><br>水戸爺とに連れられて、屋敷の廊下を進む、金田とその秘書たち。でかい老人と小さい老人はどこか違うところに行ったようだ。会議室のような部屋に通される。席に座りユリと水戸に向かい合う金田。 <br><br>「昨日は大変だったようで。私たちも心配してたんですよ。」 <br>「谷のみんなのおかげで火も消えましたし、落ち着きました。」 <br>「そうですか。でも、風車が焼け落ちたらしいですね。」 <br>「情報が早いな。内通者がいるんじゃろ」水戸爺が口を挟む。 <br>「さあ、何のことか」 <br>「ただの火事じゃ、あれほど急に燃え広がらん。それに、爆発音も聞こえた。誰かが、意図的にやらないとあんな火事は起こらん。この谷にお前らに協力する者がいるんじゃろ。絶対に見つけ出してやる」 <br>「水戸爺、やめなさい。この谷の人を疑うことはしません。」 <br>「そうですよ。そんなに起こるとまた、この前みたいに倒れますよ」 <br>「うるさい！」立ち上がって叫ぶが、めまいがして座ってしまう。 <br>「それより、そろそろ考え直してもらえないですか？風車がなくなると生活が困るでしょ。私たちの計画に賛同してもらえれば、皆さんの生活を今とは比べ物にならないくらい便利にできますよ」 <br>「それは、あなたたちの基準です。私たちは私たちの基準で考えます。」 <br>「そうも言ってられないんじゃないですか？先生の考えに反対している人もいるんじゃないですか？昨日の火事もそういう人たちの抗議活動かもしれませんよ？」 <br>「産業が必要だって言うのは、私たちにもわかっています。そのための準備も進めています」 <br><br>そのときドアが開いて、２人の老人に連れられて６人の男女がぞろぞろと入ってくる。みんななんで自分がここにつれて来られてるか良くわかってないような表情をしている。一番最後に入ってきた妙に露出の高い女がじろじろ見つめてくる。俺のかっこ良さに惚れたのか？と思っていると、女が口を開く。 <br><br>「プーちんジャナイ。久しぶりアルネ。ナンデコンナトコロにいるの？」 <br><br>と言って手を振りながら近づいてくる。何でこいつは俺の昔のあだ名を知っているんだ？頭をフル回転してどこであったかを思い出そうとするけど、思い出せない。周りのみんなの不審げな視線が自分に集まっているのを感じる。 <br><br>「プーちん、ドウシタカ？」 <br>「メイリン知り合いなの？」隣の男が女に聞く。 <br>「うん。ギロッポンで働イテル時によくお店にキタヨ。ヤクザの人ダヨ」 <br><br>思い出した。東京にいたときに仕事で世話をしてたＣＰ（チャイナパブ）のホステスだ。何でこんなところにいるんだ。ここで素性を明かされると困るので、白を切ることにした。 <br><br>「誰かと勘違いしてるんじゃないですか？大体この人たちは誰？」 <br>「一ツ橋電機の皆さんです。協力してこの谷に新しい産業を作るんです。市長のご提案とは違って、谷の自然を守りながら、みんなが共存できるような事業を作るんです。ね。」 <br><br>ユリが６人の中で一番偉そうな男に同意を求める。男は困った顔でおろおろしながら隣の男に声をかける。 <br><br>「どうなんだね、池田君？」 <br>「そ、そ、そ、それは、ど、ど、どうでしょう和田君」 <br>「どうなのかしら？山田ちゃん？」 <br><br>伝言ゲームのように話が振られていく。山田という男は、「え、俺？」というような顔をしながら、隣を見る。隣の若者はゲームに熱中しているし、さらに隣の女は金田の顔をまだ不思議そうに見つめている。 <br><br>山田は視線をユリに向ける。ユリはすがるように山田を見つめている。 <br><br>「やりますよ。僕らがこの谷を守ります」 <br><br>山田がそういうと周りが「おおー」といいながら拍手をする。なんだか照れてる山田。なんなんだこいつらは。 <br><br>「そういうわけなので、もう私たちにかまわないでください。」 <br><br>強気になったユリが言う。こんなわけのわからない奴らがやってきても計画に影響はないと思うが、今日は引き下がることにした。 <br><br>「そうですか。とりあえず今日はお見舞いに来ただけなので、これで帰ります。だが、この谷を開発することは市の決定事項だから、あまり無駄なことはしない方がいいですよ。また、思わぬ事故が起きるかもしれない。あまり私を怒らせないほうがいい。」 <br><br>そういい残して席を立つ。 <br><br>「塩じゃ。塩まいとけ。」 <br><br>背後で水戸爺の声がする。 <br><br>金田の今日の目的は、昨日の火事の反応を探ることだったが、どうやらまだまだ脅しが足りないようだった。一ツ橋電機の動きも気になる。次の方法を考えながら、金田は車に乗り込んだ。
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<pubDate>Mon, 04 Jul 2011 00:06:16 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　11</title>
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<![CDATA[ <br>大きな焚き火を囲んで、あちこちで音楽が奏でられていて、村人たちが踊っている。歓迎会は山田が想像していた、会社の飲み会的なものとはぜんぜん違った。なんだかお祭りみたいだ。 <br><br>部屋に入って少し寝ていると、三間坂が迎えに来てくれて、庭に案内され一列に並ばされた。庭には大勢の村人が一ツ橋電機の6人を見るために詰め掛けていた。ちょっと有名人になった気分。 <br><br>列のはじっこにいる山田の横には、ユリがいた。その奥にはさっきの3人の老人が立っている。 <br><br>「すごいね」小さくユリに話しかけてみる山田。 <br>「ええ、みんな都会の話が聞きたいんですよ。みんなこの谷から出たことがないから。いろいろお話してあげてください」ユリが微笑みながら答える。君と話せれば他の人はいいんだけどと思いながらも頷く山田。 <br><br>視界に城田部長がもぞもぞ動いている姿が入ってきたので、城田部長を見てみると、スーツの内ポケットから、A4用紙10枚くらいのレジュメを取り出して、読む準備をしている。どれだけ長い挨拶をするつもりだろう。 <br><br>最初に、ひげの水戸爺がみんなの前に出て挨拶をする。 <br>「種まきのすんだ日に、遠くから友人が訪ねてきてくれた。今宵は村の食糧庫を開け放って大いに楽しもう」 <br><br>シンプルな挨拶に続いて、谷の人たちの歓声が聞こえる。自分の挨拶の番が来たと思った城田部長は、用意した原稿を読もうと一歩前に出た。が、押し寄せてきた谷の人たちに手を引かれて、6人はそれぞれ、人の輪の中に連れて行かれてしまった。 <br><br>山田は谷の人たちに手を引っ張られながらも、ユリに向かって叫んだ。 <br><br>「あの、後で話せる？」 <br>「もちろん」ユリが手を振りながら答える。 <br>「じゃあ、後で」 <br><br>大きな焚き火に火がつけられて、宴会が始まる。いたるところでグラスをぶつける音がする。女の人はみんな大皿に、見たこともない料理を載せて運んでくる。ギターに似た弦楽器を演奏する人たち、オルガンみたいなのを演奏している人たち、あんまり見たことのない楽器だ。音楽はアイリッシュな感じ。タイタニックの3等客室のパーティーのシーンでこんな音楽が流れてた。 <br><br>音楽にあわせてひたすら踊る人たちや、乾杯ばかりしている人たち。みんな楽しそうに笑っている。最初緊張していた一ツ橋電機の6人も、しばらくするとみんなと打ち解けてきた。 <br><br>城田部長は三人の老人に囲まれて飲んでいる。あんなに怯えてたのに、今は「まあ、まあ、どうぞ、どうぞ」とお酒を注ぎあっている。水戸爺たちも「いや、かたじけない」とか言いながら、返杯している。なんだか打ち解けているみたいだ。会長の飲み友達として管理職の地位を守っているだけあって、飲み会で相手の懐に入りこむ技はさすがだ。 <br><br>部長たちの隣には、人の輪が出来ていて、その中心では池田課長がぼそぼそと自分の経歴を話している。転職活動の面接でする職務経歴の説明みたいだけど、村の人たちはみんな興味深く池田課長の話に聞き入っている。自分の話をこんなに聞いてもらえた経験のない池田課長は、いつもよりほんの少し楽しそうな表情をしているように見える。言葉もスムーズに出てくるみたいだ。 <br><br>和田とメイリンは谷の人たちと手をつないで輪になってくるくる回りながら踊っている。和田は誰かから借りた、女の人の服を着ている。全く似合ってないけど本人は楽しそう。周りの人たちは2人にステップを教えている。メイリンは一瞬で覚えるんだけど、和田は全くうまく踊れない。でも、たどたどしい姿がみんなにうけてるみたい。 <br><br>近藤は子供たちに大人気だ。デジカメが珍しいみたいで、女の子に写真を撮ってってせがまれている。近藤は三次元の女の子は苦手なくせに、ちょっと困りながらも写真を撮ってあげてる。男の子たちには、宴会中に一人でやろうと思って持ってきたＰＳＰとＤＳを奪われている。使い方を教えてあげて、子供たちからちょっぴり英雄扱いされてる。 <br><br>山田は谷の人たちから谷での生活をヒアリングしている。なんだか聞けば聞くほど日本の村とは思えないような生活だ。少しでも、ユリを助けるアイデアになればと思って聞いているが、どうやってもここでの生活と一ツ橋電機のビジネスを結びつけることが出来ない。楽しそうに自分たちの生活を話す谷の人たちは少しうらやましかった。 <br><br>夜が更けて来て、歌って踊り続けてた谷の人たちにもだんだん脱落者が出てきて、そこら辺で眠りだした。谷の人たちと話しながらも、ユリの姿を追っていた山田はユリが一人で丘の上に上がっていくのを見つけた。みんなに気付かれないように席をたって後を追う。 <br><br>「ユリちゃん」丘の上のユリの後ろ姿に声をかける山田。ユリがゆっくり振り返る。ユリの後ろには星空が見えて、絵みたいにきれいだ。 <br><br>「どうしたんですか？山田さん。」 <br>「歩いてるのが見えたから。どこ行くのかなと思って。」 <br>「ちょっと酔いを覚まそうと思って。私お酒をあまり飲みすぎると、いつもその後の記憶がなくなっちゃうんですよ」 <br><br>家に泊めたとき、コンビニに使いっ走りさせられたことを思いだした。あのときはまさかこんなところまで来る事になって、こんな所でユリと二人で並んでるなんて思いもしなかった。 <br><br>「俺もいっしょに行っていい？」 <br>「いいですけど。お酒は飲まなくていいんですか？」 <br>「本当は俺もあんまり飲めないんだ」 <br>「そう。じゃあ一緒に行きましょ。」 <br><br>ユリは屋敷とは反対方向に進んでいく。先には石作りの塔が見える。 <br><br>「あそこに行くの？」 <br>「そう。この谷で一番高い場所なんですよ。風が気持ちいいの」 <br><br>二人は塔を目指して歩く。あんなところに行っちゃったら、みんなの目も届かないし、いろんなことが出来てしまうんじゃないかと、ちょっと期待に胸を膨らませる山田。ひょっとしてさっきの妄想が現実になるかもしれない。この前読んだ自己啓発本にも思考は現実化するって書いてあったし。 <br>「何考えてるんですか？」突然ユリに聞かれてびっくりする。 <br>「え、なんで？」妄想が顔に出てたんだろうか？ <br>「なんだか、ぼーっとしながら歩いてるから」 <br>「どうすればこの村を守れるか考えてて」 <br>「今日は楽しんでくれればいいのに。山田さん、まじめなんですね」素敵とか好きとか語尾にくっつけて欲しい。 <br><br>窓から差し込む月明かりを頼りに塔の螺旋階段を登る。塔の上からは谷が一望できた。少し下では、焚き火の明かりの周りで踊っている谷の人たちが見える。その向こうには、海へと続く街の谷の町並みが一望できる。こうしてみるとドラクエに出てきそうな街並みだ。ユリが言っていたように風が心地好い。 <br><br>「ここは、古くて危ないから本当はあんまり入っちゃダメって言われてるんです。でも、一人になりたいときはここに来るの。きっと私以外に登ったのは山田さんだけですよ」 <br>「そうなんだ。」 <br>「村はどうですか？」 <br>「きれいでびっくりした。もっと田舎の何も無いところかと思ってた。」 <br>「山田さんが住んでるところに比べたら何もないでしょ？」 <br>「モノがありすぎて、本当に必要なものはきっとあんまり無いんだよ。だから、谷の人たちみたいな顔をしている人はあんまりいない。」 <br>「でも、谷にももっと便利でモノが溢れてる生活を求めてる人もいるんですよ」 <br>「俺の生活と変わってあげたいよ」 <br>「私はどうしたらいいんだろう。私はこのままの姿を守りたいんだけど、本当にそれがいいのかよくわからなくなるんです。」 <br>「ユリちゃんはさ、ユリちゃんが正しいと思うことをやればいいんじゃないかな。」 <br>「そうでしょうか。」 <br>「うん。この谷の生活は守るべきだよ」 <br>「私の自分勝手な思いかもしれないって思うんです。私は昔からあんまり家から出してもらえなかったから、友達もいなくて、いつも一人で遊んでたんです。だから、この谷の自然とか動物とかが私の全てなんです。でも、谷にはそうじゃない人もいるし。それに、約束したんです。大事な人と、ここから見える姿を守るって。だから、ひょっとしたら私は自分の為にその約束を守ることにこだわって、自分の為に頑張ってて、他の人の気持ちを考えてないんじゃないかって思ったりするんです」 <br><br>大事な人ってのは誰だ！と激しく気になったが、山田は質問するのをぐっとこらえて、意見を言った。 <br><br>「全員が納得する正解なんてあんまり無いけど、本気でやったことはきっと伝わると思うよ。」 <br><br>それは、山田の本心だった。自分がここまで来たって言うのは、きっとユリの気持ちの強さの結果だと思った。問題は、自分がここで何を出来るかがノーアイデアだってこと。そんな山田の気持ちをよそに、ユリはにっこり笑って言う。 <br>「期待してますよ、山田さん」 <br><br>自分を頼ってくれる女の子がいるってのはとっても嬉しい。ユリの無邪気な笑顔を見ると、胸が痛くなって思わず抱きしめたくなる。いや、もしかしたらこのシチュエーションなら何でも出来てしまうんじゃないか？「チャンスの神様には前髪しか生えてない、だから通り過ぎてしまってからじゃもう捕まえることはできない」って、この前読んだ自己啓発本にも書いてあったけど、今まさに神様が目の前を全速力で駆け抜けようとしている気もしないでもない。 <br><br>山田は、勇気を出して、隣で谷を見下ろしているユリの肩にそっと手を伸ばした。後3ミリくらいで肩に触れちゃうって時に、遠くで大きな爆発音がした。 <br><br>下では、音楽と歌声がやんで、代わりに火事だって叫び声が聞こえて、あわただしく動く村の人たちが見えた。
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<pubDate>Thu, 30 Jun 2011 21:15:16 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　10</title>
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<![CDATA[ <br>村の中に入っていくリムジン。石畳の舗装された坂道をゆっくりと上がっていく。地中海の沿岸の街並みみたい。地中海行ったことないけど。丘の上に広大な緑の敷地が見える。 <br><br>「ここがユリ様の家です。皆さんはここで宿泊していただきます」三間坂が教えてくれる。左手に低い塀が見え、その向こうでは羊が草を食べている。その奥の丘の上に白い大きな屋敷が見える。みんな口々に感想を言っている。 <br><br>「こりゃすごいな」部長。 <br>「す、す、す、す、す、す」圧倒されてうまくしゃべれない課長。 <br>「すげー。ホワイトハウスみたい」近藤。さっきからずっと写真を撮っている。 <br>「きっと、廊下にはよろいが整列してるのよ。それで、お風呂ではライオンの口からお湯がでるのよ。」和田。 <br>「カネメのモノ、ホシイ」メイリン。 <br><br>大きな門が自動で開いて、リムジンが敷地の中に入っていく。広大な丘のはるか上の大きな白い家を目指して、進んでいく。庭だけで、牧場なんじゃないかってくらいの大きさだ。中腹に噴水と池があって、池の真ん中には石像が立っている。歴史の教科書に出てくるギリシャ時代の石像みたいな感じなんだけど、よく見ると着物を着て、髷を結って遠くを見ている。坂本竜馬の写真みたいな感じだ。 <br><br>「あの石像は、さっきお話した、北はっさく村中興の祖、佐藤喜之助です。ユリ様の１４代前の先祖にあたります。」 <br><br>石像からさらに２分くらい進むと屋敷のエントランスについた。車を降りる６人。外に出ると海からのやわらかい風を感じた。三間坂に案内されて、屋敷の中に入る。これもまた映画で見たことのあるような、エントランス。高い天井とシャンデリア。目の前には二回に続く階段。１０人くらいのメイドがドンキホーテで売ってるようなメイド服を着て、お迎えしてくれている。 <br><br>「お帰りなさいご主人様って言って。お帰りなさいご主人様って言って。」 <br><br>写真を取りながら、メイドに興奮した近藤が手当たり次第声を掛けている。近藤の服の襟を掴んで、引き戻す。「すいません。こいつ幼少期に両親からの愛情が足りてなくて」謝る山田。三間坂もメイドさんたちも微笑みながら見ている。寛大だ。 <br><br>応接室のような部屋に通されて、待たされる６人。部屋はシンプルだけどどこと無く気品が漂っている。 <br><br>「挨拶のことばは考えてあるかね、池田君？」 <br>「は、は、は、はい。電車の中で、で、で、原稿を書きました。」 <br>かばんを開いて原稿を探す課長。緊張で手がうまく動かなくてかばんの中身をぶちまける。ますますあわてながら書類を拾う池田課長。なんでこんなに書類を持って来てるんだ。 <br><br>「勝手に取っちゃダメでしょ」 <br>「ばれなきゃダイジョウブダヨ」 <br>部屋を動きまわって部屋の中のものを物色していたメイリンは、旅行かばんの中に高そうな壷を入れようとして、和田にひきとめられている。 <br><br>部屋の写真を撮っていた近藤は、壁にかかっている絵の前で立ち止まっている。夕暮れの収穫後の田んぼの中で腰を曲げて、散らばった稲穂を拾っている三人の農婦の油絵。二人は正面を向いて腰をかがめ落ち穂を拾い、１人は背中を向け、手には落ち穂をもちやや腰を曲げて立っている。背景には風車が見える。北はっさく村を描いた絵だろう。日本の光景なのにどこかの外国の畑みたいに見える。 <br><br>「ねえねえ、この絵のサイン、ミレーって書いてない？」 <br>「いいから大人しく座れよ」 <br><br>近藤とメイリンと和田を座らせて、ユリを待つ山田。ようやく原稿を探し当てて、暗記しようとしている城田部長と池田課長を見て、この人たちには期待できないと思った山田は、自分がこれから始まるユリとのミーティングを仕切る決意をした。 <br><br>ドアがノックされて、三間坂が入ってくる。席から立ち上がって、姿勢を正して、村の人たちを迎える部長以下６人。三間坂の後ろには、３人のおじいちゃんが続いて、最後に出会ったときと同じ黒いスーツを着ているユリが続く。久しぶりに会ったユリはやっぱりきれいだ。ちょっと山田と目が合って、少し微笑む。なんだか幸せな気分になる山田。小さくユリに手を振ってみる。ふと、鋭い視線を感じる。なんだかおじいちゃん３人がにらんでる。とっさに手を隠す山田。 <br><br>「は、は、は、はじめまして。一ツ橋電機です、す、す、す。まずは、ご、ご、ご挨拶を」池田課長が頑張って挨拶をする。３人の老人はなんだこいつはって目で見ている。みんなの先頭を切って、城田部長が名刺を配りだす。緊張していたくせに、こういう行動は、長年のサラリーマン生活で体に染み付いているようだ。低姿勢で、適度な笑顔を顔に張り付かせて、相手の下から自分の名刺を差し出す。その後ろに池田課長が続いて、されに山田が続く。トラディショナル・ジャパニーズスタイル。 <br><br>私服の和田とメイリンと近藤は名刺なんて持ってきていないので、名刺交換をぼけーっと見つめている。 <br><br>３人の老人はとても怖い顔をしていて、なんだかシチリア島出身のマフィアの幹部みたいな感じがしていたけど、名刺をみると北はっさく村の議員だった。上座にユリ、その横に座っているのが、水戸鉄二。真っ黒なスーツで、長い髭が印象的。歴史の教科書でみた板垣退助の人相を悪くした感じ。城田部長をとってもにらんでいる。 <br><br>その隣に座っているのは、かなり体格がいい。なんだか和田と同じくらいの恰幅のよさだ。名前は伊豆大蔵。大蔵も人相が悪い。なんだかゴッド・ファーザーのマーロン・ブロンドに似ている。本物のマフィアみたい。大蔵も城田部長をにらんでる。 <br><br>マーロン・ブロンドの隣には、これもまた人相の悪い老人。この人は小さい。年取った日本猿みたい。となりの大蔵の半分くらい。でも、今にも襲い掛かりそうに体が机に乗り出している。きっと、若いころのあだ名はサブか鉄砲玉だろう。 <br><br>なんだかみんなの敵意むき出しな視線が集中してしまった城田部長。緊張で汗が吹きだしている。 <br><br>「あのー、弊社は売上高１兆円を目指す一部上場企業でして、従業員は連結で３０００人を超えて、海外拠点も・・・」突然会社概要を誇張して説明しだす城田部長。「・・・であり、わが経営企画室分室ではグローバルなイノベーションをサブミットするソリューションをマネージメントして・・・」 <br><br>「日本語で分かりやすく話せ！」大声で一喝する板垣退助似の老人。縮み上がる城田部長。部長の肩書きで圧倒する作戦は見事に失敗。 <br><br>「水戸爺、そんな大声出さないで。」 <br>「ごめんなさい、お嬢様。ですが・・・」 <br>「せっかく遠くからいらしてくれたんですから、堅苦しい話は後にしましょう。」 <br>ユリに怒られて、急にしょんぼりする水戸爺。一ツ橋電機の６人はみんなユリを尊敬のまなざしで見つめる。 <br><br>「ご挨拶は済んだから、ここはこれくらいにしましょう。みなさんのお部屋を用意してありますから、そちらに移動してください。三間坂、皆さんをご案内して」 <br>「はい」壁際に置物のように立ってた三間坂が返事をする。 <br><br>「今日はうちの庭を村のみんなに開放して、村をあげて皆さんの歓迎会を予定してるんです。部屋に戻ってゆっくりしてから、夕方庭に集合してください。」 <br><br>「さあ、みんなも歓迎会の準備をしなきゃ。」 <br>「はい。」 <br><br>マフィアの重鎮のような老人たちがユリの言葉に従って、ぞろぞろと部屋を出ていく。すげーなユリちゃん。 <br><br>「では、皆さん後でお会いしましょう」そういって、ユリも部屋を出ていった。 <br><br>一ツ橋電機の６人は三間坂の案内で、屋敷の中を移動する。長い廊下を歩きながら、飾ってある壷や絵画を見るたびにメイリンが「ネエネエ、コレモラッテモイイ？」と三間坂に質問している。 <br><br>池田課長は城田部長の隣を歩きながら、 <br>「す、す、す、素晴らしい挨拶でしたよ、部長」 <br>「そうかね。君の原稿は完成度が低いから、アドリブで対応しちゃったよ」 <br>なんて会話をしている。中間管理職はたいへんだ。 <br><br>そんな池田課長の後姿を見ながら、和田は「旅のしおり」でこれからの予定を確認している。きっと、二人きりになるタイミングを計っているんだろう。 <br><br>「生ユリたんですよ。山田さん。生ユリたんが僕を見て微笑んでました。」初めてリアルユリを見た近藤が興奮している。 <br>「そう。よかったね」ユリは俺を見て微笑んだんだ、って思いながらも山田は適当に返事をして会話を合わせる。 <br>「いやー、来て良かったですよ。メイドもかわいいけど、やっぱりユリたんですよね。夜の歓迎会ではお話しちゃおう。」 <br>夜に、ユリと２人で話す機会ができたら最高だろうな、と考えながら、山田は近藤の話を上の空で聞き流している。 <br><br>ユリの生まれ育った、美しい風の谷の村の夜。酔い覚ましに１人少し離れた丘のうえに行ってみる。空には東京では見ることが出来ないほどの数の無数の星が輝いていて、涼しい海からの風が谷を駆け抜けていく。遠くには焚き火を囲んで村の人たちが踊っている。風に乗って村の人たちが奏でる音楽と歌い声が聞こえる。 <br><br>芝生に寝転がって星を見ていると、「何やってるんですか？」とユリが顔を覗き込んでくる。「ちょっと酔い覚ましに。ユリちゃんこそ何やってるの？」「私も、少しよってしまって。大勢が居るところはちょっと苦手なんです」ユリの顔はお酒で少し赤くなっていて、瞳が潤んでてちょっとぐっと来る。 <br><br>丘の上に隣同士座って、谷の向こうに広がる夜の海を見つめる２人。空には大きな満月。海の上に月の光が反射して見える。ユリが首を傾けて自分の肩に頭を置いてくる。風が吹くと髪の毛からいいにおいがする。少し横を向くとユリと目が合う。少し下から自分の目を見つめてくるユリの大きな瞳。２人はゆっくりと唇を近づける。山田はそっとユリの肩を抱きしめる。幸せで泣きそうだ。 <br><br>感動をかみ締めていると、「山田さんのへその下のポニョはどうなってるんですかぁ？」と言って股間に手を伸ばしてくるユリ。 <br><br>「ちょっと、それは、心の準備が出来てないし」と言って逃れようとするけど酔っ払っているユリの勢いは止まらない。 <br>「ユリちゃん、それはまずいって、段階っていうものがあるからさ。あーれー。」 <br><br>「ここです」 <br>三間坂の声で、妄想から戻ってくる。回りを見るとみんな自分の部屋に入ったみたいで、廊下には山田と三間坂しかいない。 <br><br>「あ、どうもありがとうございます」 <br><br>不審者を見るような三間坂の視線から逃れる為に、ドアを開いて用意された部屋に入った。
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<link>https://ameblo.jp/rivewide/entry-10905516413.html</link>
<pubDate>Sat, 28 May 2011 11:58:39 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　9</title>
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<![CDATA[ <br>数年前、北はっさく村のほかに、南はっさく村、東はっさく村、西はっさく村と中央はっさく村の5つの村が合併して「新はっさく市」が生まれた。それぞれのはっさく村の人々は、8割がはっさく農家。みんな細々とはっさくを育てながら質素だけど、穏やかに暮らしていた。新はっさく市の誕生に伴って市長に就任した、金田満は新はっさく市民に大きな夢を与えた。はっさく栽培からの脱皮し、近代都市への飛躍を目指す。インフラを充実させて、人々の所得も倍増させて、裕福な生活を作るというマニュフェストを掲げて、そもそもマニュフェストなんて概念さえ知らなかったはっさく市民に大きな衝撃を与えた。金田は東京出身の東京育ちで、新はっさく市に縁もゆかりも無かったが、都市化への憧れを抱く北はっさく市民の支持を集めて、選挙の結果、42歳の若さで新はっさく村の市長に当選する。 <br><br>金田が市長に就任してからは、村の姿は様変わりした。村の中心地の旧中央はっさく村ではあちこちで、国からの補助金での工事が始まった。片側3車線の幹線道路が市内を全て網羅し、山のあちこちでトンネルがほられ、地上27階建ての市庁舎が建設された。庁舎では、エレベーターを始めて見る新はっさく市民が見学にやってきて、一時期観光スポットと化していたが、市の規模のわりに大きすぎるその庁舎は今は閑散としている。道路が出来たときには、信号を見たことの無い市民を教育する為に、道路横断講習会が開かれたりしたけど、今は片側３車線の幹線道路には、ヤンマーのトラクターが一日10台ほど通るだけだ。 <br><br>新はっさく市の中で、北はっさく村だけは異例だった。北はっさく村は南北を山に囲まれた、谷の底にあるので、昔から他のはっさく村との交流はあまりなく、独自の文化を築いていた。特に北はっさく村は他の村に比べて裕福だったので、他の村からは疎まれていた。そんなわけで、次の開発案件として市長が提唱している、産業廃棄物処理場の建設では、他のはっさく村からのひがみもあり、北はっさく村が候補地に挙げられてしまった。産業廃棄物処理場を建設することで、開発の為の補助金が交付されることになっていた。北はっさく村出身の議員たちは、反対していたが、中心人物だったユリの父親が亡くなった後は、金田市長の勢力に押されて、村の開発が進められようとしていた。そこで、起死回生の案として、北はっさく村独自に、村の産業を発展させる為の案を必死に検討していた。 <br><br>そんなわけで、北はっさく村のホワイトナイトになりそうな一ツ橋電機は、新はっさく市の人間からはあまり歓迎されていない。さっき襲ってきた奴らも、北はっさく村をあまりよく思ってない連中だと思われるらしい。 <br><br>リムジンの中で、そんな北はっさく市の事情をユリの秘書の三間坂が熱く語っていた。が、まじめに聞いているのは山田だけ。城田部長と池田課長は、ものすごいスピードで山道のカーブを走りぬけるリムジンの揺れで、深刻な車酔いにやられてグロッキーになっている。和田とメイリンは、車に備え付けられている高級アルコールを片っ端から飲んで、2人だけで大宴会をしていた。さっきまで２人でウィンクを踊りながら熱唱していて、今はどっちが相田翔子でどっちが鈴木早智子をやるべきか議論している。うるさい。近藤は車の中でもゲームに熱中している。ヘッドフォンをつけても、和田とメイリンの歌声は聞こえてくるようで、「黙れ黙れ」とつぶやいていた。 <br><br>父親亡き後、父親の後を継いで村のリーダーになってしまったユリの姿を三間坂から聞いて、山田はますますユリに好感を持つようになった。あんなに頼りなさそうな子だったのに、背負っているものは重過ぎる気がした。そんなユリにもうすぐ会えると思うと、なんだかうれしい気がしてくる。 <br><br>「もうすぐで山の頂上ですから、村が見えてきますよ」 <br><br>三間坂が教えてくれる。はるばるやってきた目的地の姿がようやく見える。みんなが窓の外を覗き込む。山の頂上を過ぎて、下り坂が始まる。視界が開けて、木々の間から谷の底が見える。はじめてみる北はっさく村の姿は、山田たちの田舎の村という想像をはるかに凌駕するものだった。 <br><br>一番最初に見えたのは、谷の中心に立つ、石造りの白い大きな塔。いくつもの白いレンガつくりの家が、その周りを取り囲むように建っている。まるで、ふしぎ発見で見たことのある、ヨーロッパの街並みみたい。その奥には風車がついた塔がいくつも見え、手前には整然と区画された緑の畑。谷の真ん中に１本の小さな川が流れていて、水車も見える。川の先には、きれいな海が広がっている。 <br><br>「風の谷だ！」 <br><br>ゲームに熱中していた近藤が興奮して叫ぶ。山田は、シルバニアファミリーが住んでそうって言おうとしたけど、近藤の表現の方がしっくりくる。この街並みは風の谷だ。 <br><br>グロッキーだった部長と課長も、酔っ払った和田とメイリンも、窓の下に広がる谷の姿に目を奪われている。近藤はゲームを放り出して、山田は車の窓から身を乗り出して、まるで日本の山奥の村とは思えない、北はっさく村の姿を眺めている。三間坂はそんな６人をちょっと誇らしげに見ている。 <br><br>山を下るにつれて、北はっさく村の姿がよく見えてくる。ますます、日本の田舎の村とは思えない風景だ。海から吹きぬける風が、谷の木々を揺らしている。 <br><br>「昔の北はっさく村は、工房の街で、村で作った工芸品はとても質がよかったんです。北はっさく村中興の祖とたたえられている、佐藤喜之助が谷のはずれの海から、海外に向けてその工芸品を輸出し始めたんです。北はっさくの工芸品はシルクロードをわたってヨーロッパまで届いて、とても高い評価を受けていたそうです。そのうち、北はっさくに憧れを抱いた、海外の職人たちがこの村に集まってきて、あちこちに小さなギルドを作ったんです。他の村と交流の無かった、北はっさくの人たちは、つい最近まで日本が鎖国をしてたことに気がつかなかったんですよ。でも、時間がたつにつれて、過疎化が進んできて、技術を受け継ぐ人も少なくなって、今では昔貿易で稼いだ、遺産を食い潰してなんとかやっているようなものです。ですから、ぜひ皆さんのお力でこの村を守っていただきたい」 <br><br>三間坂が説明をしてくれる。どうやら、昔は外国人がいっぱい住んでたみたいだ。外国のような街並みが出来た理由が分かった。鎖国とかって言葉が出てきたけど、聞き間違えだろう。 <br><br>美しい谷の姿に一同は言葉もなく窓の外を見つめていた。
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<link>https://ameblo.jp/rivewide/entry-10891696672.html</link>
<pubDate>Sat, 14 May 2011 21:09:54 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　8</title>
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<![CDATA[ ８ <br><br>分室が会社を留守にする間、業務を担当する派遣社員としてやってきたのは、受付のマリちゃんだった。きっと稲川が人事に根回しをして、受付専門派遣のマリちゃんを分室に飛ばしたんだろう。人事部の部長は、稲川の出身大学の先輩だからその人脈を生かしたみたいだ。10年たっても自分たちに不都合な人間は飛ばしてしまうっていう会社の体質は変わらない。 <br><br>マリちゃんが挨拶に来た日、美人を見て興奮した城田部長が、 <br>「引継ぎをしたいんで、今夜歓迎会をかねて食事でもどうかね？」 <br>と誘ってたけど、まりちゃんは、 <br>「気安く話しかけんなハゲ」 <br>とにっこり笑いながら断っていた。どうやら出世の可能性のない分室の部長に愛想を振りまく気はないらしい。池田課長が作成したマニュアル集は、受け取った2分後にゴミ箱の中に入っていた。 <br><br>留守をマリちゃんに任せて、分室のメンバーは朝の東京駅に集合した。朝一番の新幹線に乗って、北を目指す。北はっさく村までの道のりは新幹線で３時間、そこからローカルの単線電車で３時間、さらに車で１時間。超遠い。部長と課長と山田はスーツ、和田と近藤とメイリンは私服。みんな2週間分の荷物を旅行かばんに詰め込んでいる。 <br><br>わくわくしていたのは、新幹線に乗っている間だけで、ローカル電車に乗り換えてからはみんな疲れと退屈でぐったりしてきた。昼ごはんに食べた、和田が早起きして作ったお弁当が驚くほどまずかったせいかもしれない。 <br><br>城田部長は、本屋を探し回ってようやく見つけた北はっさく村の観光ガイドを熟読している。仕事では決して見せない真剣な表情だ。池田課長は、電車の中でもよく分からない書類を読んで、忙しそうに仕事をしている。一体何の仕事をしているかはよく分からない。和田はメイリンと缶ビールを飲んで、楽しそうにおしゃべりしていたけど、飲みすぎて今は爆睡している。無防備なその寝顔は、どう見ても年相応のおっさんだ。いびきがうるさい。 <br><br>和田が寝てしまって、しゃべる相手がいなくなってしまったメイリンは、ゲームに熱中している近藤にちょっかいを出している。 <br><br>「ネエネエ」 <br>「・・・」 <br>「ネエネエ」 <br>「・・・」 <br>「ネエッテバ」 <br>「何だよ。うるさいな。」 <br>「何ヤッテルノ？」 <br>「うちが出してる新作ゲーム」 <br>「ポートアイランド連続殺人事件デスカ？」 <br>「そう」 <br>「ワタシモやったよ。シャチョサンと」 <br><br>一ツ橋電機ゲーム事業部の新作、『ポートアイランド連続殺人事件』は、プレーヤーがコマンドを入力して殺人事件を解決していく推理ゲーム。異常に難しくてまったく人気が無い。ゲーム事業部の製品は全般的に人気が無くて、赤字を垂れ流している部署なんだけど、ゲーム大好きな今の社長の趣味で存続している。 <br><br>「難しいんだよなあ」 <br>「ハンニンはサブだよ。助手のサブだよ。」 <br>「お前なんで言うんだよ！」 <br>「だってクリアシタイデショ？」 <br>「自分でやらなきゃ意味無いだろ！」 <br>「山田サン、セッカク親切に教エテアゲタノニ怒ってくるよ」 <br>「山田さん、こいつもう降ろそうよ。次の駅で降ろそうよ」 <br><br>喧嘩を始める2人。引率の先生みたいな気分になってくる山田。 <br><br>「オマエガ降リロ。このSSDT」メイリンが近藤へ言い返す。 <br>「何だよ、SSDTって」 <br>「死ぬまでシロウトドウテイ」 <br>「ぶっ殺す」 <br>「AKTP」 <br>「AKTPって何だよ？」 <br>「暴れるなこの天然パーマ」 <br>「天然パーマ関係ないだろ」 <br><br>こんな感じでずっと喧嘩している。山田は面倒くさいので放置しておくことにした。 <br><br>山田は会社から持って来たキングファイルを読んでいる。ずっと読んでるんだけど、ユリを助けることが出来るような企画はまだ見つけられていない。ただ、この前、新橋の持つ鍋やで聞いた和田の話が頭から離れていなくて、何かアイデアが浮かびそうな予感は感じていた。 <br><br>降りる予定の新はっさく駅に近づくにつれて、窓から見える景色は田んぼか森だけになってきた。やることもやりつくしたみんなは、それぞれの席で居眠りを始めて、危うく新はっさく駅を寝過ごすところだった。新はっさく駅より奥に行ってしまうと、逆方面に戻る電車はきっと明日まで待たないとやって来ない。 <br><br>「次は新はっさく駅～」というアナウンスで目が覚めた山田は、あわててみんなを起こして、電車を降りた。 <br><br>重い荷物を持って、ホームに降り立つ6人。みんなそれぞれ、伸びをして、長い長い列車の旅で固まった体を伸ばしている。周りを見回すと後ろには山が迫っている。反対側は一面の田んぼと空き地。 <br><br>ホームの端っこに、昭和の前から立ってんじゃないかってくらい古い木造の小さな駅舎がある。もちろん無人駅だ。駅舎をくぐって外に出る。目の前には延々とひろがる田んぼと背の高い草が生い茂った空き地。「新はっさく駅前ビル建設予定地」とかかれた、大きな看板が空き地の真ん中にたっているのが見えるだけで、驚くほど何も無い。 <br><br>山田がユリと話していた感じでは、村をあげて歓迎すると言われていたので、駅前には「歓迎！一ツ橋電機様ご一行」と書かれた大弾幕が掲げられていて、沿道には子供たちが並んで一ツ橋電機のシンボルマークの入った小旗を振っている光景をイメージしていたのになんだか拍子抜けだった。 <br><br>「われわれは村人に歓迎されてるって話じゃないのか、池田君！」 <br>「そ、そ、そう聞いてます」 <br>「誰も居ないじゃないか、池田君！」城田部長が池田課長にクレームをつけてる。 <br>「そ、そ、そ、そうですね」 <br>「どうなってるんだ！池田君」部長が長旅の疲れからか苛立ちをあらわにして、課長にあたる。 <br>「す、す、すみません」課長は部長にビビッてしまって、あたふたしている。 <br><br>「お迎えの車が来るって聞いてるんで、車で移動した先で歓迎してくれるんでしょう」山田はそう答えたが、さっきから探しているけど、車は陰も形もない。 <br><br>6人が途方にくれていると、看板の奥の道から、軽トラらしき車のシルエットが見えて来た。やっとお迎えが来てくれたみたいだ。見ると軽トラの荷台には、何人かの人が立っていて、こちらを指差して何か叫んでいる。きっと自分たちを見つけてくれて、歓迎してくれているんだろうと思った山田は、「おーい」と言いながら大きく手を振る。山田につられて、他の5人もみんな手を振って、お迎えに答える。 <br><br>だが、みんなの期待に反して、トラックはだいぶ手前で止まってしまう。不思議に思っていると、トラックから3人の男が降りてきて、こっちに向かってくる。みんな、よれよれのTシャツと作業用のズボン、頭には帽子をかぶって、見るからに農家の人という感じがする。山田たちの20メートル手前で立ち止まって、口々に何かを叫んでいる。 <br><br>良くわからないが、とりあえず笑顔で手を振ってみる山田。すると、向こう側の3人がリュックサックから何かを取り出して、こちらに向かって放り投げてきた。びっくりする6人。とっさに隠れようとするけど、どこにも体を隠すようなところはない。「ひゃっ」という声が聞こえる。どうやら城田部長の顔に命中したみたいだ。べちょべちょの液体が顔について、テカリが増している。どうやら卵みたいだ。なんだか、歓迎されてるわけじゃないみたい。 <br><br>近藤の顔にも命中した。急にキレて奇声を発しながら3人を追いかける近藤。3人は、後ろを向いてトラックへ逃げていく。近藤を呆然と見つめる一ツ橋電機の5人。3人を乗せたトラックはＵターンして、地平線のかなたに逃げていく。追いかけ続ける近藤も道の向こうに見えなくなってしまった。 <br><br>しばらくみんな事態を把握できず、ボーっと地平線を見送っていた。すると、近藤が遠くからこちらに走ってくる姿が徐々に大きくなってくる。なんだか、あわててるみたいだ。しばらくすると近藤の後ろから、バイクの集団が姿を現す。どう見てもオールドスタイルの伝統的な暴走族だ。みんな、何かを叫びながら近藤を追っている。 <br><br>さらに呆然とする5人。あんまり歓迎されてないことだけはわかった。というか、ここにとどまっていると危ない気がする。 <br><br>「ど、ど、ど、どうしましょう。部長」池田課長が泣きそうな顔で城田部長を見つめている。城田部長は、卵をハンカチでぬぐいながら、「君、とりあえず交渉してきたまえ。」とわけのわからない指示を出す。 <br><br>正面から迫ってくる、暴走族の集団にビビッていると、右手から黒い車がやってくる。よく見ると、黒塗りのリムジンだ。もう何がなんだかわからない。5人の前にリムジンが横付けになって、ドアが開く。「早く乗ってください」中から初老の男が現れて、手招きしている。5人はとりあえず言われるがまま飛び乗る。 <br><br>リムジンは逃げてくる近藤の方に走っていき、ドリフトで近藤に横付けする。ドアを開けて近藤が飛び乗ってくる。暴走族たちが何かを叫びながら、追ってくる。リムジンはものすごいスピードで、来た道を戻っていった。 <br><br>「いやー、間に合ってよかった。シャンパンでも飲みますか？」 <br><br>こんなときなのに、初老の男は余裕で冷蔵庫を開いている。事態が飲み込めず呆然としている一ツ橋電機の6人。山田は初老の男に見覚えがあった。しばらくして気がつく。あの時ユリの秘書として応接室にいた男だった。
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<link>https://ameblo.jp/rivewide/entry-10885954856.html</link>
<pubDate>Mon, 09 May 2011 00:17:08 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　7</title>
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<![CDATA[ 10年前。一ツ橋電機は珍しく大ヒットする製品を世に送り出した。マーギー人形という名前のその人形は、当時アメリカのおもちゃ会社が売り出したペット型ロボットの類似品。アメリカのおもちゃ会社の人形は、グレムリンに出てくるギズモに似た外観でふわふわして瞳が大きくてかわいらしいんだけど、マーギー人形は緑色でしわくちゃでスターウォーズのヨーダみたいな外観にしていた。当時老衰で病院のベッドに寝ていた、一ツ橋電機創業者の栄一郎の「最後に世界中の子供たちを笑顔にするものを作りたい」という考えで、社内の優秀な技術者を集めて行われたプロジェクトだったので、マーギー人形のデザインは当時の栄一郎の姿が参考にされていた。 <br><br>全長は20センチくらいで、腰がまがって杖をついている。頭や腹、背中などに5種類のセンサーが内蔵されていて、耳、まぶた、口、体が動く。相手をすると成長して、マーギー語や日本語などの言葉を話すようになって、歌ったり踊ったりしてくれる。 <br><br>その頃はまだ体力のあった一ツ橋電機は総力を結集して、マーギーの人工知能機能を開発した。アメリカの本家の語数は800語だけど、マーギーはその100倍の8万語をしゃべる。マーギー人形の成長パターンは無数にあって、子供たちの個性に合わせてマーギー人形も一台一台まったく違った人格に成長していく。 <br><br>幹部から神様のように崇められていた、栄一郎の指示により採算度外視で作られた製品なので、超高性能なわりに低価格で販売されて、マーギー人形は爆発的にヒットした。子供たちは誰もがマーギー人形をプレゼントにおねだりしたし、一人暮らしの学生やOLにもうけた。海外での販売も好調でマーギー人形は36ヶ国語に翻訳されて世界中に売れた。 <br><br>栄一郎は最後にマーギー人形の大ヒットと世界中の子供たちの笑顔を見届けて、その生涯を全うした。 <br><br>一ツ橋電機最大のヒット商品になったマーギー人形人気は永遠に続くんじゃないかと思われていたが、一年後に致命的な欠陥が発見される。マーギー人形の人工知能をつかさどるマイクロコンピューターの設計不具合で、一年が経過すると、マーギー人形が発狂したように動き出す不具合が続発した。 <br><br>突然「僕マーギー、僕マーギー、マーギィィィィィィィィ」と叫びだして、走り回った。わけのわからない言語をつぶやきだして気持ちが悪い。 <br>真夜中にひとりでに動き出して、朝起きたら横に寝てて心臓が止まるかと思った。 <br>踊ってたら首が360度回転しだして怖い。 <br>床に落としたら、ものすごい勢いでお説教された。 <br>悩み事を相談したら、人格を否定されるようなことを言われた。 <br>遊んでいたら「ファビョス！」みたいな断末魔の叫び声をあげて、目と耳から血みたいなオイルが流れてきて、頭からは煙が出てきた。 <br><br>等々、苦情が殺到した。特に突然発狂したように動きだしたり、しゃべりだしたりするマーギー人形は驚くほど不気味で、世界中の子供たちにトラウマを植え付けた。 <br><br>一ツ橋電機の修理工場には、毎日世界中から1000体以上のマーギー人形が送り込まれてきた。工場内には、修理待ちのマーギー人形があふれかえり、数千体の発狂したマーギー人形の奇声が一日中鳴り響いて、地獄絵図のような光景だった。 <br><br>その頃は、栄一郎の意向が強く影響しており、修理工場も人員が豊富だったし、やる気に満ち溢れていた。修理工場の三雲工場長は、一ツ橋電機が町工場だったころから栄一郎とともに仕事をしてきた人物で、栄一郎の意思をよく理解していた。 <br><br>修理部隊は三雲工場長の下、世界中の子供たちの笑顔を救う為に、24時間稼動を続けてマーギー人形を修理し続けた。マーギー人形は、それぞれ個性を持っていたので、三雲工場長の出した指令は、マーギー人形のメモリーを消去せずに、故障前のマーギー人形の人格を回復させて子供たちに送り返してあげる、というかなり難易度の高いものだった。が、優秀な工場の技術者たちはほぼ１００％のマーギー人形を元通りに直して、子供たちに送り返した。 <br><br>栄一郎亡き後、台頭してきた無駄なコストを掛けたくないという経営陣の、不良品は廃棄して新品を送り返せという意向に対して、何回も激しい議論を繰り広げて、なんとか三雲工場長は修理をし続けた。 <br><br>マーギー人形への対処は、栄一郎亡き後の会社の政権争いとセットになって、会社を二分する上層部の争いの代理戦争となった。栄一郎が起こした町工場時代からの役員と、上場後に入社してきた新世代。コストを省きたい新上層部派と、コストを掛けても子供たちにマーギー人形を返してあげるべきと考える栄一郎の意思をつぐ理想派。大論争の末、結局、栄一郎の死後、影響力を失った理想派には大粛清が行われ、次々と子会社に出向にだされ、新上層部が会社の実質的な政権をとることになった。新上層部の意向で、マーギー事業部は解散させられ、最後までマーギー人形ユーザーをサポートしようとした人たちは、お客様相談室マーギー係りという小さな組織に追いやられ、嫌がらせに近い状態で冷遇されることになった。 <br><br>マーギー人形はいつの間にか販売中止になり、数年後には世間から忘れ去られた。最後まで修理を続けた、三雲工場長も子会社の物流会社への出向が決まって、工場長の部下たちも次々と会社を去っていった。残ったのは、世界中の子供たちから寄せられた、マーギーを元に戻してくれたことへの感謝の手紙だけだった。 <br><br>マーギー人形での大失敗は会社のタブーとなり、そこに関わった人たちは反栄一郎派によって大部分が会社を去るか、出世の望めないポジションに着かされて、いまでは当時その騒動にかかわった社員はほとんどいなくなってしまった。 <br><br>サラリーマンで埋め尽くされた、金曜日の新橋のモツ鍋屋で泣きながら、熱く昔の話をしている和田を眺めている山田。和田から渡された企画書を読んだ山田は、内容に興味を持って詳しく和田に話を聞こうと思い、飲みに誘った。自分の会社の権力闘争の歴史を聞くのは初めてだった。 <br><br>当時、入社して3年目の若手社員だった和田は、営業企画部でマーギー人形のマーケティングを担当していた。当時の和田はまだ本当の自分を隠して、まじめに仕事に打ち込む好青年だった。マーケティングチームでの上司は池田課長だったらしい。山田は、和田と池田課長の付き合いがそんなに長いってことを始めて知った。 <br><br>マーギー人形のマーケティングチームは解散させられ、その後の行き先は個人の選択に任された。そのまま、何事もなくほかの製品のマーケティングに携わるのも自由だし、マーギー人形騒動を最後まで面倒を見るのも自由だった。 <br><br>まだ今のように精神的に病んでいなかった池田は、そのころ3歳だった自分の娘が修理されたマーギー人形を抱きしめて眠る姿を見て、マーギー人形に最後まで付き合うことを決めた。そんな子供の夢を守るのが、自分が一ツ橋電機で働くことを選んだ理由だと思ったそうだ。そんな池田の心意気に打たれて和田も池田課長と行動をともにした。 <br><br>2人は花形部署からお客様相談室のマーギー係というかなり日陰のチームに異動になり、そこで工場の人たちと一緒に、発狂したマーギー人形の対応に追われた。 <br><br>「あのときの池田課長と、工場の人たちは何よりも素敵だったわ。私たちがしなきゃいけない仕事はああいうものよ。」 <br><br>酔っ払った和田が熱く語っている。 <br><br>「そのときの私たちの、何かを直すって技術は世界一のレベルだったのよ。それなのに、マーギー事件で、修理工場の人たちはみんなどこかに左遷されて、やめて行った人もいっぱいいたわ。それから、一ツ橋電機は低迷してきたのよ。」 <br><br>この道に進めば負けるとわかっていても、理想の為にその道を選んだ人たちはすこしカッコいい気がした。自分がそんな選択を迫られたらどういう行動をとるんだろう。こんな会社にでも、醜くくしがみつく気がする。 <br><br>「あの企画書は、池田課長がずっと心に思い描いている会社の理想の姿なのよ。まだ、山田ちゃんがうちの部署に入ってくる前に、私たち2人で時間をかけて作った案なの。あの頃の池田課長はまだ理想を失ってなくて、かっこよかったわ・・・」 <br><br>遠い目をして、タバコの煙と鍋の湯気で曇る、汚い天井を眺める和田は、なんだか恋する乙女のような感じがした。自分が狙われてるんじゃないかと恐れてたけど、山田は気がついた。和田も自分と同じだ。大切な誰かの夢の為に、何かをしてあげたいんだ。 <br><br>この先、池田課長と和田の夢がどうなるか分からないけど、和田とはちょっと分かり合えた気がした。が、帰り際酔った勢いで下半身を触ってこようとするので、駅に捨てて帰った。 <br><br>来週にはユリの北はっさくへ出発だ。酔っ払ったサラリーマンであふれる新橋駅へ続く道を歩きながら、山田はそれまでに、できることは何でもしておこうと思った。
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<pubDate>Mon, 02 May 2011 23:24:56 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　6</title>
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<![CDATA[ 北はっさく市への視察兼部内旅行は10月の第１週から2週間の予定に決定した。和田が部長に話を持ちかけてから、一週間でのスピード決済。稟議書を回すと偉い人の判子が10個以上ついて、平均で2ヵ月後に帰ってくる、一ツ橋電機の体質からすると異例のスピードだ。このスピードは部長の尽力のおかげ。こういう時の城田部長の行動力はすばらしい。だてに会長の飲み友達じゃないなと、山田は感心した。ただ、その行動力を他に生かせば、分室に飛ばされることも無かったのに。 <br><br>ついでに、城田部長が人事部に掛け合って、2週間の留守になる分室の業務を処理する為に、派遣社員を1人獲得することにも成功していた。赤字に苦しむ会社がこんな部署に派遣社員をよこすのも異例。実は、部長はなかなか社内に人脈を持っていることがわかった。ただ、分室の業務が派遣社員1人で足りてしまうんだから、山田は自分の仕事の無意味さも再確認した。 <br><br>2週間後に迫った出発日に向けて、分室のメンバーは準備に余念がない。城田部長は最近よく外出して、北はっさく市の観光案内書を探しに行っている。丸の内の書店を探しつくしたんだけど、どこにも売ってないようで、今日は八重洲ブックセンターに足を伸ばしている。そのフットワークの軽さをなぜ仕事で生かせなかったのか不思議だ。 <br><br>ワーカホリックの池田課長は留守中にやってくる派遣社員のために、分室の業務を体系的にまとめた、職務マニュアルを作成している。半日で終わりそうな作業だけど、先週からそれにかかりっきりだ。山田が課長にチェックを頼まれた、修理品を工場に転送する業務のマニュアルは、携帯電話のマニュアルくらいの分量で、宛名ラベルを張り替えるだけの作業をここまで複雑に解説できるのは逆にすごいと思った。きっと、このマニュアルも携帯のマニュアルと同じ運命で読まれないんだろうなと思ったけど、課長に言うのはやめといた。今日は、経営会議の書類のコピーの仕方のマニュアルを作成中。きっと、コピー機の使い方から、コピー機のマニュアルより詳しく解説しているはずだ。 <br><br>近藤は最近購入した、1200万画素のニコンのデジタル一眼レフを和田主任に向けてためし撮りをしている。レンズに向かってセクシーポーズを決める和田主任。白目をむいてレンズをにらみつけている。上目遣いのつもりなんだろう。近藤は、ユリが生まれ育った北はっさくを写真に収めてユリたんブログを充実させるつもりらしい。今まで実際に北はっさくまで足を運んだユリたんブロガーはまだいないので、今回の訪問で、他のユリたんブログから一歩抜け出ようとしているらしい。 <br><br>和田主任は、カラ出張を控えて、「旅行のしおり」の作成に取り掛かっている。今回もしっかりお風呂の時間はタイムスケジュールに組み込まれている。今回は一応村の視察のスケジュールも組んでいるので、ユリとの連絡役をまかされている山田は和田主任との打合せの時間が多くなった。打ち合わせ中熱い視線を感じるんだけど、気のせいだろう。 <br><br>メイリンはお土産リストを作成している。故郷の兄弟たちにお土産を頼まれたらしい。兄弟たちは15人いるらしい。大変なんだな。今回の旅行用に、社長からエルメスの旅行バックをプレゼントされて、早速ヤフオクに出品していた。きっとこのバックも会社の経費で落とされてるんだろうと思うと悲しくなってくる。 <br><br>山田はまじめに稲川から渡された、新規投資案件の書類に目を通している。一ツ橋電機の数ある事業部の中から、環境に優しくて、採算が取れそうで、現実的で小規模な新規工場の立ち上げ案件を探しているが、無駄に拡張してきた一ツ橋電機の数ある事業のなかでも、なかなかそんなに都合のいいものは出てこない。2週間後までには、アイデアだけでも形にした状態で行きたいと考えていた。 <br><br>旅行が正式に決定した日に、城田部長から北はっさく市との連絡役を任された山田は、一緒に働きだしてから初めて「僕が仕事変わりましょうか？」と提案してきた近藤を無視して、先日会ったときに聞いていたユリの携帯番号に電話をしてみた。気になる女の子に電話するのは、なんだかどきどきする。が、何回かけても、「お客様のおかけになった電話は、電波の入らないところにあるか、電源が入っていないためかかりません」というアナウンスが流れるばかりで、一向につながらない。 <br><br>もしかしたら自分は何だか分からないうちに、ユリに嫌われてしまったんじゃないかと不安になってくる。普段の山田なら気になる女の子に電話をして一回でも繋がらなかった時点であきらめるけど、今回は一応仕事が絡んでいるので何とか連絡を取る方法を考えた。名刺交換した時の名刺を取り出してみる。思ったとおり、事務所らしい固定電話の電話番号が書いてあり、山田はそこに電話をかける。今度は簡単に繋がった。呼び出し音を聞きながら本人が出てくれたらいいなと思った。なんだか、中学時代に携帯電話を持ってない頃、好きだった美樹ちゃんの実家に電話をかけてデートに誘った時以来のどきどきだ。あのときのデートは、綿密に計画を立てたスケジュールを立てたけど、美樹ちゃんが遅刻してきて、その後のタイムテーブルがぐちゃぐちゃになってぐだぐだで終わった。 <br><br>そんなことを思い出していると、「はい、佐藤ユリ事務所です」と男の声がした。緊張しながら「一ツ橋電機の山田と申しますが、佐藤さんはいらっしゃいますか？」と返事をする。「少々お待ちください」といって保留音が鳴る。保留音は「スターライトはっさく」だった。いつ聞いてもまったく魅力を感じない音楽だ。「もしもし」久しぶりに聞くユリの声。そういえばこんな声だったと思って、ユリのことを思い出した。なんだか、心の奥がぎゅっとする感じがした。 <br><br>「山田さん！電話待ってました。」ユリが嬉しそうな声で話す。仕事のことだとしても、自分の電話を待ってたって言われるのは嬉しい。 <br>「久しぶりです。何回か携帯に電話してみたんだけど」 <br>「ごめんなさい。北はっさく村はアンテナ立ってないからいつも圏外なんです。南のほうに行ったら入るんだけど。」よかった。拒否られてるわけじゃなかったみたいだ。 <br>「あの、工場のことなんですけど、実は具体的に検討していまして、今度検討チームで北はっさく市の見学に行きたいと考えてるんですけど・・・」 <br>「本当ですか！ぜひ来てください。村をあげて歓迎しますよ！」 <br><br>ユリはとても喜んでいて期待をしてくれているみたいで、部内旅行を兼ねてるなんてことは言えなかった。日程を伝えて、宿泊施設の手配をお願いした。視察の予定はユリの方で考えて組んでくれることになった。部長から必ず確認するように言われていた、娯楽施設の有無を確認したら、徒歩２時間くらいのところに北はっさく唯一のパチンコ屋があるらしい。娯楽施設があることだけ伝えて、所要時間については報告しなかった。 <br><br>仕事の打ち合わせとは言え、ユリと話を出来るのはとても楽しくて、なんだか話してるだけで幸せな気分になった。ユリの期待を裏切らないためにも、形だけでもちゃんとした視察が出来るように、山田は必死に各事業部からの書類に目を通すようになった。 <br><br>キングファイル6冊分くらいの書類を見ていると、一ツ橋電機の体質が良くわかる。薄型テレビ、ブルーレイディスク、携帯電話、ゲーム、パソコン、MP3プレーヤー、カーナビ、デジカメ、太陽電池、エアコン、洗濯機、炊飯器、住宅設備、等々、とりあえず電機メーカーがやっている事業は何でも手を出している。それが、全て業界首位の企業の物まねで、どの事業についても業界でのシェアは下から数えたほうが早い。チャンピオンカンパニーの類似品を安く売る。戦略としては完全にフォロアーに甘んじてて、核となる事業がまったくない。その上、金融や不動産なんかのビジネスもなんとなく始めてしまって、ますます本質が見えなくなっている。20世紀はそれで乗り越えてこれたが、21世紀に入ったらいくらがんばってもその戦略では新興国には勝てなくなってきた。どの事業部も体質転換のために予算を必要としてるんだけど、どうがんばっても会社にそんなお金は調達できない。稲川が「つぶれるんじゃないか」って言ってた気持ちもわかる気がした。 <br><br>絶望的な気持ちで書類を眺めていると、いつの間にか定時が過ぎていた。城田部長は帰ってこないし、マニュアル作成に必死だった池田課長はチャイムがなると同時に席を立って帰っていった。今日はグループセラピーは無くて、一ヶ月に一度の分かれた奥さんが連れて行った小学生になったばかりの娘と会える日。珍しく明るい表情で帰っていった。 <br><br>メイリンはいつものように秘書室からの電話に呼ばれて出て行ったし、近藤はニコンを持って夜景をためし撮りしに六本木に旅立った。残っているのは、和田だけ。和田は山田の隣の机でパソコンに向かって「旅行のしおり」を作成中だ。 <br><br>「ねえ、山田ちゃん最近毎日何を読んでるの？」和田が話しかけてくる。 <br>「いろんな事業部から来てる投資案件の計画書です」 <br>「そんなのどうしたの？」 <br>「上の稲川さんにお願いして借りてきたんです。なんか北はっさくに持っていけるような案件ないかと思って」 <br>「ふーん。そんなのまじめに見なくてもいいじゃない。それより、電車の席順を決めましょうよ」 <br>「いや、忙しいんで。和田さん勝手に決めていいですよ」 <br>「冷たいわね。昔は和田さん和田さんってあんなに慕ってきたのに」 <br>昔は和田さんもそんなに本性を全開にしてなかったし、ネタでやってるんだと思ってたからだ。本物だってわかったのは最近だ。身の危険を感じ出したのも最近だ。 <br>「本当に忙しいんで。これ来週中には全部目を通しておきたいから」 <br>「山田ちゃんが選んだって、どうせまた上の連中が自分たちで選びなおして、私たちの意見なんてなんの影響も無いわよ」 <br>「そうでもないですよ。いいのがあったら稲川さんの印鑑押しといて良いって言われてるし。ほら」 <br><br>山田は稲川から預かっている印鑑を見せる。経営企画室での稲川の評価は高いので、稲川がOKした書類なら、経営企画室の室長はメクラ判を押す可能性がある。そうなると、次は経営会議の議題に上がるまで行ける可能性は結構あると山田は考えていた。ただ、経営会議で一蹴されるんだろうけど。 <br>「いいもん持ってんじゃないの」和田が怪しくつぶやく。 <br>「どうしたんですか？」 <br>「ちょっとコレにその判子押しといてよ」 <br><br>そう言って和田は自分のキャビネットからクリアファイルに入った書類を取り出して、山田に手渡す。 <br><br>「なんですか、これ？」 <br>「昔から提案しようとしてるんだけどさ、部長が見ようともしてくれないの」 <br>「なにかの企画書？」 <br>「そうよ」 <br>「和田さんそんなの作ってたんですか？」 <br>「そう。部長に何回も再検討しろって言われて、何回も作り直してるから、だいぶ完璧よ。部長に会長と飲んでるときにこっそり渡して承認させちゃいなさいよって言ってるんだけど、ぜんぜん動かないのよね。あのハゲ」 <br>「何の企画書ですか？」 <br>「私たちの本分を発展させる為の投資よ」 <br>「僕たちの本分？なに？」 <br>「山田ちゃん私たちの本分をわかってないの？私たち分室の最大の仕事は？」 <br>「雑用？」 <br>「何言ってるの！」怒られた。 <br>「すいません」 <br>「私たちは一ツ橋電機創業の事業を受けついで守っていく部署でしょ。」 <br>「修理？」 <br>「そう。修理。私たちの修理技術は世界に誇れるレベルなの。それを最近の偉い人はぜんぜんわかってないんだから。とりあえずその企画書を読ませれば目が覚めると思うの」 <br>「へー。」 <br>「とりあえず読んでみてよ。」 <br>「はい」 <br><br>和田がこんなにまじめに書類を作っていたということにちょっと驚きと興味を覚えて、企画書を読んでみることにした。この企画書が、経営企画室分室のメンバーと北はっさくの人々の運命を大きく変えるなんてのは、まだ気づいてもいなかった。
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<pubDate>Thu, 21 Apr 2011 08:04:42 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　5</title>
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<![CDATA[ <br>いろいろあった為に、珍しく始業時間ぎりぎりに会社についた。山田は自分のフロアの２７階ではなくて、３０階に直接向かった。受付を通って、経営企画室に向かう。受付にはマリちゃんがいた。昨日の事なんて無かったみたいな笑顔で「おはようございます」と挨拶してくれる。ただ、目が全く笑ってない。怖い。山田は一応「おはよう」と声をかけてそそくさと受付を通り抜ける。マリちゃんが来てるってことは、きっと稲川も来てるんだろう。 <br><br>稲川のオフィスに入る。経営企画室は、下のフロアと違って、外資系のオフィスみたいに一人ひとりのデスクがパーテーションで仕切ってある。高度経済成長期からかわらない、一ツ橋電機の超日本的な体質からすると異例。稲川のデスクを覗くと稲川は鏡を見ながら髭剃りで髭を剃っていた。山田の顔を見ると思ったより元気な声で「よう」と声をかけてくる。 <br><br>「おはようございます」 <br>「昨日はやったか？」 <br>「やったって？」 <br>「ユリちゃんと」 <br>「何もしてないっすよ」 <br>「何だ。せっかくチャンスをあげたのに。じゃあ、ユリちゃんあのまま帰っちゃったのか？」 <br>「今日の朝の電車で帰りました」 <br>「何だ。じゃあ家に泊めたの？」 <br>「はい。」 <br>「じゃあ、やったんじゃん。恥ずかしがるなよ」 <br>「泊めたけど、やってないんです」 <br>「え、泊めたけど何もしてないの？お前大丈夫か？どこか悪いのか？」なんだか本気で心配してくれてるみたいだ。 <br>「大丈夫です。元気です。」 <br>「そうか。じゃあ、あの子じゃダメだったか？だいぶ贅沢な奴だな」 <br>「そういうんじゃないんですって。それより、稲川さん大丈夫でした？」 <br>「大丈夫じゃねーよ。死ぬかと思ったよ。お詫びにレインボーブリッジからバンジーさせられたからね。ひも無しで。死ぬかと思ったよ。」よく見るとスーツが湿ってる気がする。嘘なのか本当なのかよく分からない。 <br>「まあ、自業自得ですよ。無事に会社これてよかったですね。」 <br>「本当にあいつ怒ると怖いからな。彼女と別れないと、会社にバラすって言うしさ。どうしよう」 <br>「僕に聞かれても、それより相談があるんですけど」 <br>「何？マリと付き合いたいとか？」 <br>「もうマリちゃんはいいです。あのここじゃちょっと」 <br>「じゃあ、会議室に行くか。」 <br><br>稲川の後を着いて、経営企画室のミーティングルームに入る。ここも、他のフロアとは格差があって、円卓の周りを役員用の高そうなイスが囲んでいる。なんだか、映画に出てくるFBIが作戦を練る部屋みたいな感じだ。稲川は机の上に腰掛けて山田を見る。 <br><br>「そうだ、今日の夕方から役員会議なんだよ。後で資料のコピー分室に頼むからよろしく」会議資料の作成も分室の大事な業務のひとつ。作成って言っても、原稿を作るのは経営企画室の人たち、分室はそれを出席人数分コピーするだけだ。 <br><br>「また、下方修正だって。そのうちこの会社つぶれるんだろうな」稲川が他人事みたいにつぶやく。 <br>「で、話ってなんだよ」 <br>「ユリちゃんが言ってたことなんですけど。うちの工場を誘致したいって話」 <br>「そんなこと言ってたね。」 <br>「それを、ちょっと検討してみたいなと思って。」 <br>「なんで？」 <br>「なんか真剣だったし。」 <br>「そんなのほっとけばいいんだよ。馬鹿だな」 <br>「でも約束しちゃったし」 <br>「お前ほんとに馬鹿だな。約束ってのは破る為にするんだよ。それにお前にそんな決定権あるわけ無いだろ」 <br>「でも、一応経営企画室の分室だし、検討する権利はあるでしょ。ちょっとやってみたいんです」 <br>「ふーん」ちょっと考えてから、稲川が怪しく笑った。 <br>「そうか、じゃあ山田の熱意を見込んでいい資料を見せてあげよう。ちょっと待ってて」 <br><br>稲川がオフィスに行ってから、山盛りの書類を抱えながら戻ってくる。 <br><br>「これ、読んで」 <br>「何ですかこれ？」 <br>「各事業部からの新規投資案件の趣意書」 <br>「こんなに？」 <br>「うちの会社、古いおっさんが多いからさ、添付資料付けすぎなんだよ。データで送って来いよな。おかげでぜんぜん片付かなくてさ。これ読んで、見込みありそうなのと、だめそうなの分けといてよ。あとこれ、俺の判子預けとくから、読んだら押しといて」 <br>「はあ。」 <br><br>結局、うまく稲川に仕事を押し付けられた気がした。でも、無理でも誰かのために役に立つかもしれない仕事を出来ることはちょっとうれしかった。 <br><br>階段で3階下の自分のオフィスに帰る。一日が始まってあわただしく動く営業のシマを通り過ぎて、フロアの端っこの分室に向かう。 <br><br>「いいじゃん。頂戴よ」 <br>「ダメデス！ハナシテ！」 <br>「いいじゃん。君にはこれの価値はわからないんだからさ！」 <br>「ワカルヨ」 <br>「わからないよ！」 <br><br>なんだか大きな声が聞こえる。どうやらメイリンと近藤の声のようだ。2人が何かを取り合っているようだ。 <br><br>「どうしたの？」積み上げられたダンボールの壁の上からのぞいてみる。 <br>「山田さんタスケテ。近藤サンがワタシをイジメマスカ？」メイリンは疑問系の使い方が良くわかってない。山田はダンボールの隙間から中に入っていった。 <br><br>「近藤君どうしたの？」 <br>「それ」近藤がメイリンの手を指差す。メイリンの手の中には、この前あげたはっさ君人形があった。 <br>「これがどうしたの？」 <br>「欲しい」お前は子供か？ <br>「コレ山田さんからのミツギモノだからダメ。」貢いでねーよ。 <br><br>2人がにらみ合う。城田部長はひな壇で新聞の株式欄を熟読しているし、池田課長は部長の隣の席で、書類を読んでいる振りをしている。二人とも部下のいざこざに介入する気はゼロみたい。素敵な上司だ。 <br><br>「そんな欲しいなら今度、近藤君にもあげるからさ」 <br>「本当に？」近藤の顔がぱっと輝く。 <br>「うん。そのうちね」きっとそのうちもう一度ユリに会うときが来るはずだ。 <br>「本当に？コレと一緒じゃなきゃダメですよ」 <br>「コレと一緒のだろ。わかったよ」 <br>「すげー。何で山田さんそんなの入手できるんですか？まさか、山田さんが僕より太いルートを持ってるとは。というか、山田さんも結構マニアなんですね。畏敬を表して、山田烈士って呼んでいいですか？」 <br>「やだよ。何わけのわかんないこと言ってるんだよ？」 <br>「でも、本当に凄いな。一体どこで手に入れたんですか？」 <br>「もらったの。」 <br>「誰に？」 <br>「昨日さ、なんか田舎の議員の人がうちの工場を誘致したいって行ってきてさ、その人がＰＲの為にくれたんだよ。」 <br>「もしかして、ユリたんに会ったんですか！」 <br>「ユリたん？」 <br>「うん。ユリたん。」 <br>「確かにユリって名前だったけど」 <br>「じゃあ、生ユリたんがうちに来てたの？」 <br>「生ユリたん？」 <br>「何で僕を呼んでくれないんですか！」近藤が結構本気で怒り出した。 <br>「何でそんなに怒ってんだよ。」 <br>「何ですか？ユリたんを独占するつもりですか？みんなのユリたんじゃないですか！ユリたんの独占禁止法で訴えますよ」近くで大声でしゃべるから唾がいっぱい飛んでくる。 <br>「なんか汁が飛んでくるんだけど。」 <br>「汁ぐらい飛ぶでしょ、そりゃ」 <br>「何なんだよ。君は知り合いなの？」 <br>「え、ていうか山田さん知らないの？」 <br>「何を？」 <br>「え、本当にユリたん知らないの？」 <br>「昨日会ったけどさ、何で近藤君がそんな興奮してるのかがよく分からない」 <br>「えー！ダメだなあ。山田さんは。ちょっとこっちに来てみて」 <br><br>そういうと近藤は自分の机のパソコンの前に座って、山田を手招きする。近藤の隣からディスプレイを覗き込む山田。ついでにメイリンも反対側から覗き込む。メイリンからは夜のお店って感じの香水のにおいがする。 <br><br>「とりあえずこのホームページ見てください。」 <br><br>それは、新聞のサイトだった。「北はっさく市の新人議員が美しすぎるとネットで話題に」というヘッドラインの下に、インタビューに答えているユリの写真が掲載されている。写真で見てもやっぱり可愛い。 <br><br>「あ、この子だ。こんなに話題になってるんだ。」 <br>「全然ダメだな。もっとネットやったほうがいいですよ」 <br>「近藤君はもっと仕事したほうがいいと思うよ。」 <br>「ネットからの情報収集も僕たちの大事な業務ですから」 <br>「そう。」 <br>「で、これが僕が管理人してるユリたんの情報収集ブログ。毎日ネットで情報収集して更新してるんですよ。」近藤は誇らしげだ。 <br>「仕事シテナイデスネ」メイリンが突っ込む。 <br>「黙れ！三次元の分際で！二次元以外の女なんて存在価値ないんだよ」 <br>「意味がワカラナイケドいらっとします。ぶってイイデスカ？」 <br>「二人とも仲良くしてよ」なんだか、近藤はメイリンに厳しい。メイリンと言うか女性に一方的に敵意を持ってる。きっと嫌なことがあったんだろう。 <br>「とにかく、こんなブログが何１０個もあるくらいユリたんは人気者なんですよ。３次元の女で唯一生きてていい子ですね」 <br>「すごいなあ」 <br><br>山田は昨日のユリの話を思い出していた。たしかに、よく分からないオーラがあった気がする。 <br><br>「ちょっと見せて」 <br><br>山田は近藤を立たせて、パソコンの前に座った。ユリのプロフィールのページを開く。見ると、詳しくユリの経歴が載っていた。年齢は山田と同じ２８歳。高校を卒業後、市会議員だった父親の秘書として、父親の仕事を手伝う。が、去年、父親が急死して、後を継ぐ形で突然補欠選挙に立候補することになった。投票の結果は、２位に大差をつけて、ぶっちぎりで当選。 <br><br>選挙の公示の時の５人の候補者の顔写真一覧が掲載されていた。上から、禿げ、禿げ、禿げ、ユリ、禿げ。ユリ以外は６０歳以上のおっさんばっかり。ユリに投票した、北はっさく市の市民の人たちの気持ちが分かった気がした。 <br><br>当選後、顔写真がネットに載って、議員にしては美人過ぎると話題になって大人気になる。ルックスだけではなくて、政策もしっかりしていて、父親が主張していた、産業廃棄物処理場の建設に反対して、市長派の議員と激しく論争を繰り広げていることが分かった。ネットの意見はたいていユリに肯定的だった。 <br><br>「ねえ、パソコン取らないでくださいよ」近藤の声で、パソコンに集中していたことに気がつく。 <br>「ああ、ごめん」 <br>「メイリンが持ってるあのはっさ君人形は、ユリたんがデザインした奴ですよ。で、あの形は初期のロットでユリたんが手作りで作ってた奴なんですよ。これは、超レアですよ」 <br>「そうなんだ」 <br>「ヤフオクで売れマスカ？」メイリンの目が輝いてる。 <br>「売るくらいなら僕に頂戴よ」 <br>「ヤダ」 <br>「じゃあ、しゃべるな。三次元」 <br>「ウルサイキモオタ」 <br>「何だと。この野郎」 <br><br>またケンカをはじめそうになる２人。 <br><br>「ちゃんともう一体もらうように頼んどくから、落ち着けって」近藤をなだめる。 <br>「絶対ですよ。っていうか、ユリたんと会うとき僕も連れてってください。ていうか何で山田さんが会ったんですか？」 <br>「それは、上の稲川課長に頼まれてさ」 <br>「じゃあ、うちでその誘致の仕事やるの？」 <br>「検討だけはしてみようと思ってんだけど」 <br>「よし、まずは視察にユリたんの住んでるところに行きましょう。」 <br>「ダメだよそんなの。うちに予算あるわけ無いだろ」 <br><br>「大丈夫よ」 <br><br>突然後ろで声が聞こえる。振り返ると和田主任が立っていた。 <br><br>「ヨウちゃんヒサシブリー」 <br>「メイリンちゃんオヒサー」 <br><br>メイリンと和田さんがきゃぴきゃぴしてる。和田主任も分室のメンバーなんだけど、いつもどこかに出張に行ってて、ほとんど会社にいるのを見たことがない。陽三という名前で、かなり体格もよくて、角刈りなんだけど、心は結構乙女。 <br><br>昔は、将来を期待されてエリート街道を歩いてたんだけど、何かがあって分室に送られてきたらしい。分室に来てからは、自由気ままに生きていて、隠してた本性も全開になっている。 <br><br>「山田ちゃん、行きましょ。その村」 <br>「和田さん、そんなの無理に決まってるでしょ。そんなことより、今月どこに行ってたんですか？」 <br>「ちょっと出張でマカオに。それより、そろそろ部内旅行の時期でしょ。みんなとその相談をしに来たんだけど、ちょうどいいじゃない。そこに行きましょうよ。視察も兼ねてるから、２週間くらいいっちゃいましょ！」 <br><br>部内旅行も社長の思いつきで始まった社内行事。職場のコミュニケーションを図る為に、一年に一回、週末と有休を利用して、必ず部内で旅行に行かなければ行けない。みんな強制参加なので、ほとんどの人が迷惑してるんだけど、旅行への参加も人事の評価に影響してくるので、いやいやながらも参加している。仕事が忙しい部署なんかは、温泉旅館で一日中みんなで仕事をしてるところもあるらしい。無駄なことでも、決まっていることはやってしまう会社の体質がここにも現れている。 <br><br>山田は部内旅行は非常に気が進まない。自分の時間を潰されるのも嫌だけど、なんだか和田さんが自分に熱い視線を送ってくる気がして、旅行期間中、全く気が抜けない。だいたい、みんなが嫌がる旅行の幹事をやりたがるし、選ぶところは絶対温泉だし、和田さん作成の「旅行のしおり」には、タイムテーブルにお風呂の時間がきっちり組み込まれてるし、お風呂に一緒に入る組み合わせまで詳細に決まっている。去年の３泊４日の温泉旅行でも、和田さんから逃れるのが大変だったのに、２週間も一緒に過ごすとなると、逃れ切れない気がする。２週間は長すぎるから、反対しようと思ったら、すでに和田は城田部長と池田課長の席に行って、相談を始めている。 <br><br>「そこには娯楽施設はあるのかね？」部長がパチンコ屋の有無を確認している。 <br>「さあ、いくら田舎でも一軒くらいあるんじゃないの？」和田が適当に答えてる。 <br>「じゃあ、そこ行っちゃおうか池田君？」 <br>「で、で、で、でも、２週間も行ったら、し、し、仕事に支障をきたしますよ、よ、よ」 <br>頑張れ池田課長。 <br>「どうせ、仕事なんてしてないんだから、いいじゃない。それにこれも、経営企画室の連中が我が分室の機動力を見込んで頼んできた仕事だと推測するよ、僕は。」 <br>「ぶ、ぶ、部長がそうおっしゃるなら」その間のグループセラピーはどうするんだ？と思ったけど、課長も納得したみたいだ。 <br><br>こんな短期間で、計画を決めて、部長と課長を説得するとは、元エリートだけあって和田の交渉力は結構すごい。部長がただ２週間会社さぼってパチンコしたいだけなような気もするけど。 <br><br>どうやら、みんなの思惑が重なり合って、北はっさくへの旅行が決まりそうな感じになってきた。 <br>
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<pubDate>Mon, 11 Apr 2011 00:27:57 +0900</pubDate>
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<title>チェンジ・ザ・ワールド　4</title>
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<![CDATA[ 4<br><br>ドアの向こうには、ユリに手をねじり上げられて、うつぶせに床に押さえつけられている稲川がいた。稲川の手には、なまなましい形をした棒が握られていた。マリちゃんもよく状況を飲み込めていないみたいだ。 <br><br>「稲川さん、何してるんですか？」 <br>「お前らこそ何してるんだよ？」 <br><br>ユリに組み敷かれたままの姿で稲川が答える。なんだか分からないけど、山田の顔を見たユリが山田のほうに駆け寄ってきて、山田の背中に隠れる。服をつかみながら、ユリが山田に話しかける。 <br><br>「山田さん。怖かった。」 <br>「急に稲川さんが襲いかかってきて」 <br><br>服をつかむユリの手はちょっと震えている。 <br><br>「稲川さん何やってるんですか」 <br>「まてよ。俺のほうが被害者だって。」 <br><br>映画で警察に拳銃を向けられた容疑者のように、稲川が両手を上げてアピールする。左手にはカリダカダンコンモドキが。 <br><br>「そんな道具まで用意して何やってんだよ！」マリちゃんが怒る。怖い。 <br>「誤解だって。これはきのこだって」 <br>「いいからちょっと表に出ろ」 <br><br>マリちゃんが稲川をつかんで玄関の外に引っ張っていく。 <br><br>「助けて。山田君、助けて」 <br><br>山田とユリはマリちゃんの勢いに圧倒されて、呆然と見送った。稲川とマリちゃんが出て行って、部屋に静寂が戻る。ふと気がついた、ユリが山田のスーツを掴んでいた手を離す。 <br><br>「すみません」 <br>「いや」 <br>「でも、どうして山田さんがここにいるんですか？」 <br>「ここ俺の家だから」 <br>「え、何で？稲川さんの家じゃないの？」 <br>「いろいろ諸般の事情があって。でも、なんであんな状態になってたの？」 <br>「なんだか、突然稲川さんが抱きついてきたから、びっくりして、思わず昔やってた合気道の技をかけてしまいました。大丈夫かな、稲川さん」 <br>「まあ、これからのほうが大変だと思うな。」 <br>「大丈夫かな？」 <br><br>２人で稲川とマリちゃんが出て行ったドアの方に顔を向ける。さっきの喧騒が嘘のようにしずかだ。気まずい沈黙が流れる。 <br><br>「あの、とりあえず座ろうか？」立ちっぱなしもへんなので床に座ることにした。 <br><br>「さっきの女の人はだれですか？」 <br>「あれは、稲川さんの彼女」 <br>「稲川さん、彼女いたんだ。」 <br>「うん」何人もねって言おうとしたけど、ユリのすこし悲しそうな顔を見て、言うのはやめて、他の話題にすることにした。 <br><br>「なんか悪いことをしてしまいましたね。稲川さんの彼女さんに。」 <br>「あんまり気にしなくてもいいと思うよ。」 <br>「私はただ純粋に北はっさく村への誘致の話をしようとしただけなのに。結構前向きに話を聞いてもらえたから、つい調子に乗って家まで来ちゃって・・・」 <br><br>どんどんユリの表情がしょんぼりしてくる。山田はこういうときにどうしたらいいのか全くアイデアが無い。 <br><br>「あの、稲川さんたち帰ってくるまで待たせてもらっても良いですか？」 <br>「うん。良いけど」今日は帰ってこない気がするけど。 <br><br>あんまり会話が続かない。会社には片言しか話せないメイリンしかいないし、会社以外で女の子と話す機会の無い山田は、自分の家で女の子と２人で過ごすのは初めてだった。会話が続かなくて、沈黙に耐えるのがつらいので稲川に早く帰って欲しい反面、ユリのような可愛い女の子と過ごせる時間が嬉しくもあった。とはいえ、いつ帰ってくるか分からない稲川さんたちを待つ間、時間を持たせられるかかなり自信がなかった。また、沈黙がはじまる。 <br><br>「あの、なんか飲む？」そういって、冷蔵庫に向かう。こういうときは酒の力を借りればなんとかなるのではなかろうかと思って、山田は冷蔵庫から缶ビールを取り出す。 <br>「ありがとうございます。それなら、これおつまみにちょうど良いですよ」そういって、ユリはお皿に盛られた、黒いつぶつぶを差し出す。 <br><br>「何これ？」 <br>「北はっさくの名産品なんです。とってもおいしいんですよ」 <br><br>二人は、よく分からないけど乾杯をして、飲みながら稲川を待つことにした。ビールを飲むと言う山田の作戦は当たって、飲んでいるとユリはだんだん元気になってきて、どんどんしゃべりはじめた。山田は８割がた話を聞いているだけ、それはそれで楽だった。生き生きしながら北はっさくの未来を語りだす、ユリを見ていて変に期待を持たせるのが気の毒になってきた山田は、本当のことを言うことにした。 <br><br>「あのさ、誘致の話だけど、きっとダメだと思うよ。」 <br>「え？」 <br>「他を探したほうがいいと思うよ。うちの会社はダメだよ」 <br>「何でですか？昼間山田さんもちゃんと話聞いてくれたじゃないですか？稲川さんだって前向きに考えるっていってくれたし」 <br>「それは口で言ってるだけで、本当はそんなこと考える時間も余裕もうちの会社には無いよ。」 <br>「そうなんですか？」 <br><br>本当にショックを受けてるみたいだ。大体、普通の企業が進出するには北はっさくは田舎過ぎる。村おこしの為に企業を誘致するなら、まずはインフラの整備が必要だ。あきらめさせてあげるのもやさしさかも知れないと山田は思った。 <br><br>「なんで、そんなに誘致にこだわるの？村おこしなら他の方法を考えたほうが早いと思うんだけど」 <br>「守りたいの。」 <br>「守りたい？何を？」 <br>「空とか。村から見る星空は本当にきれいなんですよ。このままだと、私たちの育った村がなくなっちゃうんです。それを守りたいの。」 <br>「工場を誘致したら守れるの？」 <br>「今の市長は市の為に、私たちの村の森を全部切り開いて産業廃棄物の処理場を作ろうとしてるんです。それが出来れば、いろいろ助成金がもらえるんだって。でもそうなると、街は豊かになっても、きっと自然はなくなっちゃうでしょ。環境にだってよくないでしょ。だから、山田さんのところの会社みたいに、環境を大事にする会社に来てもらえば、きっとみんなの仕事も増えるし、自然も守れると思ったんです。」 <br><br>確かに一ツ橋電機はエコとか環境に異常なほど興味を示している。これも、創業者一族の思いつき。ちょっと前までは、ITがテーマだった。とりあえず流行ってるものには無計画に飛びついて、後で失敗するのが会社のいつものパターンだった。 <br><br>「それに、約束したんです。きっと守るって。だから守りたいんです」 <br><br>どうせ無理だろうと思いながら、ユリの一生懸命な姿はちょっとうらやましかった。自分はそこまで何かをしようと思ったことは生まれてから今まできっと無かった。いや、昔、本気で練習したら波動拳くらい出せるんじゃないかって思って、放課後ひそかにチャレンジして２週間であきらめたことがあった。スタンド出そうと思って、挫折したこともあった。それ以来あまり何かに真剣になることなく、今まで生きてきた。ちょっと力になってあげたかった。 <br><br>「それなら、俺から稲川さんや上司にもう一度言ってみるよ。」 <br>「本当ですか？」 <br>「うん。力になれるか分からないけど。」 <br>「ありがとうございます。」 <br><br>その場限りの約束で彼女を喜ばせて、それでいいのかよく分からないけど、ユリの笑顔を見るのは嬉しかった。ふとユリがビールの缶を持った手をこちらに向けてきて、口を開く。 <br><br>「もういっぱい」 <br><br>なんだか、酔っ払ってるみたいだ。いつの間にかユリの前には５００ｍｍ缶が５本並んでいる。結構なペース。冷蔵庫にはもうビールのストックがない。 <br><br>「ちょっとペースが速くない？」 <br>「大丈夫。もういっぱい持って来い。」 <br>「多分さっきので最後なんだけど。」 <br>「じゃあ、かって来い」 <br>「まだ飲むの？」 <br>「うん。コンビニ行ってきて。コンビニなら夜でもやってるんでしょ。村にもコンビニ作るぞー！」 <br><br>さっきのマリちゃんがフラッシュバックした。暴れられたら困るので、山田はおとなしく外にむかった。ミネラルウォーターが欲しかった。なんだかオオグロサンショウモドキが辛すぎる。 <br><br>外に出ると夜の空気が気持ちよかった。エントランスの前に停めてあった、マリちゃんがパクったバイクはなくなっていた。きっと稲川はどこかへ拉致られたんだろう。無事だといいけど、自業自得だから仕方ない。ユリのことを考えた。自分と同じくらいの年齢なのに、そんなに守りたいものに一生懸命になれることが少しうらやましかった。大きな成功もなければ、大きな失敗もしない、勉強したいことなんて別に無いけど、そこそこ有名な大学に入り、どんな仕事がしたいかもわからないまま、一応誰もが名前を知っている会社に入って、平凡に暮らしてきた山田には、何かを大事なものが無かった。いつの間にか稲川のミスの責任をかぶらされて分室に飛ばされ、誰でも代わりのいる作業をえんえんとこなす。何も考えない単純作業は楽だけど、それだけで終わる一日にも疑問を感じていた。きっとユリの願いはかなわないだろうけど、なにかやるべき事があるユリは少しまぶしかった。 <br><br>マンションの下のコンビニで買い物をして戻ってくると、机の上に顔をうずめてユリが寝ていた。 <br><br>「あのー」 <br><br>少し肩をゆすっても全く起きる気配が無い。稲川は嫌と言うほど女の子をこの家に泊めているが、山田はそんな経験がない。寝ているユリの横に座って、困ってしまった。起こすべきか、それはかわいそうか。かといって勝手に家に泊まらせていいものか。よく分からない。とりあえず、このまま寝かせとくのもかわいそうだと思ったので起こすことにした。 <br><br>「ねえ、おきてよ」 <br>「いや」 <br>「帰らないの？」 <br>「うるさい。しね。」 <br><br>何なんだこいつは。 <br><br>「おい、起きろ！」ちょっと厳しく言ってみた。 <br>「眠い」 <br><br>そう言ってまた、組んだ腕の中に顔を載せる。今度は顔が山田のほうに向いている。近くで、こんなに無防備に寝てる女の子を見るのは初めてだ。何もしゃべらなければ、なんだかとても可愛い寝顔だった。見るだけならいいだろうと思って、山田はユリと同じ姿勢で腕に顔を乗せて覗き込んでみた。俺は何をしてるんだと思いつつも、顔を近づけていく。二人の距離は１５センチくらい。静かな部屋の中で、壁にかけた時計のカチカチという針の進む音と、ユリの寝息だけが聞こえる。さらに間合いをつめようと思ったら、ユリが目を開けた。びっくりする山田。強姦未遂で訴えられて、つかまって、実家の母親が泣いている姿が思い浮かんだ。稲川が笑いながら「やっちまったな」って言ってる、マリちゃんは汚物を見るような視線を送ってくる。みんなから痴漢って思われて、満員電車に乗ったら、自分の周り３０センチくらいだけ、人が寄ってこない。そんな絶望的な想像が頭を駆け巡った。ここは、あやまるべきか。 <br><br>「たかし・・・」 <br>そういって、酔っ払って寝ぼけたユリがにっこり微笑んで、また寝てしまう。なんだか分からないけど、自分に向けられた笑顔。恋人みたいに幸せな気分になった。なんてかわいいんだ。心臓がどきどきしている。でも、たかしって誰だ。それのおかげで劣情を振り払った山田は、とりあえずベッドを貸してあげることにした。 <br><br>「こんなとこで寝てたら風邪引くから、あっちに移動して」 <br>「ここでいい」 <br><br>おきようとしないユリの腕を掴んで立たせて、ベッドまで引っ張っていくことにした。ユリは腕を引っ張られて、片方の腕で目をこすりながらついてくる。その姿はちょっと萌える。 <br><br>ベッドまでたどり着くと、ユリは眠いからか大人しく言うことを聞いて、もの凄い勢いで寝転がる。 <br><br>「じゃあ、お休み」 <br>「うん」 <br><br>明かりをけして、山田はリビングのソファーの上で眠ることにした。自分の部屋で女の子が寝てるっていうのはとても不思議な気分だ。天井を見ながら、ユリのために自分のできることについて考えていると、いつの間にか眠ってしまった。 <br><br>翌朝、物音で目が覚めた。包丁でまな板をたたく音と鍋が火にかかる音。自分の為に誰かが、朝ごはんを用意してくれてる音。子供の頃の朝みたいだ。あの頃は毎朝起きて、一日が始まるのが楽しかった。寝てる時間のほうが大切になってきたのはいつからだろう。そういえば、昨日は大変な日だった。稲川さんは無事なんだろうか？ユリちゃんの寝顔かわいかったなあ、などと昨日のことを思い出していると、完全に目が覚めて、ソファーから飛び起きた。 <br><br>机を見ると、昨日の缶ビールの空き缶はきれいに片付けられていて、キッチンではユリが料理をしている。おきてきた山田の姿に気がつく。 <br><br>「おはようございます」 <br>「あ、おはよう」 <br>「昨日はすみません。どうなったかなんだかあんまり覚えてないんです。」 <br>「そうなの？」 <br>「はい、ご迷惑かけちゃったんじゃないかと思って。で、これもご迷惑かも知れないと思ったんですけど、お詫びに朝ごはん作ってみました。」 <br>「あ、ありがとう」これは結構うれしい。毎日こんな生活だったら超幸せかもしれない。 <br>「もうすぐお味噌汁が出来るから座って」 <br>「うん」 <br><br>山田は言われるがままイスに座る。ユリは忙しく動き回って、徐々に食卓に朝食が並んでいく。ご飯と味噌汁と目玉焼き。味噌汁からは昨日稲川さんが持っていたきのこの小さいのが潜望鏡のように顔を出している。山田はぼーっとユリの動く姿を目で追っていた。準備が終わったようで、ユリが席にすわる。 <br><br>「じゃあ、たべましょうか」 <br>「うん。いただきます」 <br>「いただきます。」 <br><br>味噌汁を一口飲んでみるがうまい。 <br><br>「でも、凄いですね。」 <br>「なにが？」 <br>「食材も調理道具も何でもそろってるから。料理好きなんですか？」 <br>「うん。まあ。」本当は料理なんてしたことが無い。全部、稲川の彼女たちが、稲川に作る料理に使うために買い揃えさせられたものだ。 <br>「エプロンもかわいいし」 <br>「まあね。」エプロンは、稲川が夜に彼女たちに着用させるためのコスチューム用に買ってきたやつだ。服の上から着るのは、使用方法を間違ってるけど、そんなことは言うのはやめた。なんだか、朝起きたらユリみたいな可愛い子が朝ごはんを用意してくれてて、一緒に食べてから会社に行くとか、幸せすぎる。 <br><br>朝ごはんを食べ終わって、２人で家を出た。ユリは朝の電車で家に帰るらしい。もう一度連絡する為に電話番号を聞いた。新幹線に乗り換えるユリと駅の中で別れて、山田は会社に向かった。鞄の中には、ユリがついでに作ってくれたお弁当が入っている。ユリの為に、できることは何でもやってやろうと思う気になった。誰かの為に自分の力を使って、何かをしようとする。そういう気持ちで向かう会社への道のりは少しいつもと違って、すこし足が軽い感じがした。
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<pubDate>Sat, 02 Apr 2011 16:27:21 +0900</pubDate>
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