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<description>ショーセツ、書いてます。そのほかも、何かかくかも・・・。</description>
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<title>終末の唄_070</title>
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<![CDATA[ <font size="2">　わたしは、何もしらずに彼女を呪ったことが恥ずかしくなり、ひどく後悔しました。<br><br>　手紙の消印は、ここからそう遠い場所ではありません。<br>　わたしはいますぐにでも彼女を探しにいき、またふたりで、どこかで静かにひっそりと暮らしていきたいと思っています。<br>　そのためにも、彼女が生きているこの世界を、これからふたりで生きていくこの世界を、<font color="#FF1493"><font size="3"><strong>このままなくしてしまうわけにはいなかいんです</strong></font></font>。<br><br>　けれども、<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>とのこの恐ろしい契約は、どうやっても、決して反故にはできないのだということが、わたしにもはっきりとわかっています。<br>　これは、そういう<font color="#FF1493"><font size="3"><strong>あと戻りのできない種類の契約</strong></font></font>なのです。<br><br>　よわったわたしは、以前どこかで読んだ雑誌の記事をふと思い出したのです。<br>　不思議なちからを持った先生の、<font color="#FFD700"><font size="3"><strong>シャンプーメソッド</strong></font></font>のことを。<br>　それからわたしは、あらゆる情報をかき集めて、必死で先生の居場所を探しました。<br>　そしてやっと、ここまでたどり着くことができたのです。<br><br><font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>はゆっくりと、でも確実に、わたしに向かってきています。<br>　もうすぐわたしは、わたしを明け渡さなければならなくなるでしょう。<br>　その前に、チェン先生、どうか先生のちからで、わたしの中から<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>を消してほしいんです。<br>　先生なら、きっとできる。さっきも<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>が発した念に、先生は負けなかったんだから」<br><br>「わたしは<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>を、しっています」<br><br>「え？」<br><br>「<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>のために苦しんでいるひとを、しっているんです」<br><br>　と、チェン先生が、言った。<br><br>「まさか、そのひとも、ヤツと契約を？」<br><br>　男は大きく目を見開いて、訊いた。<br><br>「いいえ。彼は、夢に<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>が現れて、あまりにもひどい悪事をはたらくために、もう眠りたくないと睡眠障害になっているだけよ。<br>　でも彼は、<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>のことを、ただの夢とは思えない、と言っていたわ」<br><br>「彼もこのクリニックの患者ですか？」<br><br>「そうよ」<br><br>「何か、偶然ですね」<br><br>「そうね。でもそれは<font color="#FFD700"><font size="3"><strong>偶然ではなくて、必然なのよ</strong></font></font>。<br>　なぜなら彼は、わたしに<font color="#FF1493"><font size="3"><strong>伝えるという役目を担って、ここにきたのだから</strong></font></font>」<br><br>「先生に、伝える、役目――。<br>　いったい、何を？」<br><br>「もちろん、<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>〈銀色の男〉</strong></font></font>の出現、をよ」<br><br>　チェン先生は男を見据えながらも、それを通り越して、<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>その中にいるもの</strong></font></font>に対して、言った。<br>　外の雷雨は激しさを増すばかりで、大粒の雨が窓を激しく叩いている。<br><br>「チェン先生、<font color="#FFD700"><font size="3"><strong>特別なメソッド</strong></font></font>があると聞きました。<br>　先生、お願いです。どうかそれを、やってくれませんか？」<br><br>To be continued.<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10322035098.html</link>
<pubDate>Sun, 16 Aug 2009 15:56:48 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_069</title>
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<![CDATA[ <font size="2">　わたしの中の<font color="#FF1493"><font size="3"><strong>諦め</strong></font></font>が、次第に大きくなりつつあった、ある日のことです。<br><br>　いつものように夕食を作らされていると、いよいよ彼が、あなたのお金に手をつけようとしていたのです。<br>　そのときわたしは、はっと我に返ることができたのです。<br>　そのお金には、絶対に手をつけさせない。<br>　わたしはフライパンをコンロの火にかけたまま、必死で彼の手からあなたの通帳を取り戻そうとしました。　けれど彼は、わたしの腕を捻り上げ、殴り飛ばし、そして床に倒れたわたしの身体を蹴り上げました。<br>　それでもわたしは、いつものわたしとは違いました。<br>　何度殴られようが、何度蹴り飛ばされようが、わたしは何度も立ち上がり、何度も彼に立ち向かいました。<br>　それでも、とうとう立ち上がれなくなったとき、彼はわたしに背中を向けて、通帳を持って部屋を出ていこうとしました。<br>　わたしは最後の最後のちからを振り絞って立ち上がり、コンロの上の焼けついたフライパンを掴み、もう無我夢中で彼の頭を殴りつけました。<br>　炒めていた野菜が飛び散り、鈍い音と、髪の毛が焼ける嫌な臭いがしました。<br>　彼はぎゃっ、と悲鳴をあげました。<br>　わたしは彼が倒れ込んだその隙に、通帳と印鑑を取り戻し、そのままとうとう彼のもとから逃げ出したのです。<br><br>　<font size="3"><font color="#FF1493"><strong>見知らぬ夜へと。自由を求めて――</strong></font></font>。<br><br><br>　ここに、通帳と印鑑をお返しします。<br>　お金には一切、手をつけていません。どうか、お許しください。<br><br>　あなたとの生活はほんとうに楽しく、充実した日々でした。<br>　もう一度また、あなたとふたりで生きていきたいとも思いましたが、<font size="3"><font color="#FF1493"><strong>そうするには、わたしはほんとうに、何もかもに疲れきってしまいました</strong></font></font>。<br>　わたしはこれから先、どこか遠い町で、ひっそりと身を隠して、ひとりで生きていこうと思っています。<br>　あなたもどうか、お身体には気をつけて、お幸せに暮らしてください。<br><br>　それでは、サヨウナラ』<br><br><br>　　　　　　＊＊＊<br><br>　<br>　いったい、どこが駆け落ちなんだ？<br>　どこが彼女の裏切りなんだ？<br>　由加の痛みも苦しみもしらないで、まったくどうしようもない噂話に惑わされ、彼女を信じることもできなかったわたしは、<font color="#0000FF"><font size="3"><strong>まったく愚かで、救いようもない、やはりただのダメ人間</strong></font></font>だったんだ。<br><br>To be continued.<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10321409083.html</link>
<pubDate>Sat, 15 Aug 2009 17:21:29 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_068</title>
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<![CDATA[ <font size="2"><br>　＊＊＊<br><br>　お久しぶりです。お元気ですか？<br>　突然こんな手紙を送りつけて、いまさらそんなこと、言えた義理ではありませんよね？<br>　ごめんなさい。<br><br>　いま頃は、突然消えたわたしたちのことを、工場のみんなが好き勝手に噂をしていて、あなたもそういう事情だと承知して、わたしのことをさぞ恨んでいることでしょうね？<br>　当然のことです。<br><br>　でも、あなたにだけは、どうしてもほんとうのことをわかってもらいたくて、勇気をだしてこうして手紙を書くことにしました。<br><br>　どうかお願いですから、破り捨てたりしないで、最後まで読んでください。<br><br><br>　<br>　わたしが消えた夜のことです。<br>　わたしは夕食を作りながら、いつものようにあなたの帰りを待っていました。<br>　ちょうどチャーハンができあがったとき、玄関のチャイムが鳴りました。<br>　ドアを開けると、そこに、工場の班長が立っていたのです。<br>　彼は、仕事のことで少し話がある、と言いました。<br>　彼は上司で、わたしたちの人事データを持っているわけですから、住んでる家をしっていてもおかしくはないのですが、わざわざ訪れてくるなんて少し変だな、と思いながらも、わたしは仕方なく彼を部屋にあげました。<br><br>　お茶をいれようとしていると、彼は突然、台所に立つわたしをうしろからいきなり羽交い締めにし、ちからいっぱい床に突き飛ばしたのです。<br>　そのあと、彼はわたしを殴り、蹴り飛ばし、ひどい暴力をふるいました。<br>　わたしは、いったい何がどうなったのか、頭の中が真っ白でわけがわかりませんでした。<br>　ただ恐怖と痛みで、そのまま床に倒れ込んでいるしかありませんでした。<br><br>　しばらくすると、彼は部屋の中を物色しだしました。<br>　程なく彼は、タンスの中から、あなたの通帳と印鑑を見つけだしたのです。<br>　わたしは彼を止めようとして、何とか立ち上がろうとしました。けれど、そこでちから尽きて、そのまま気を失ってしまったのです。<br><br>　わたしはそのまま、彼のクルマに乗せられて、どこかしらない場所にある、しらないアパートに運ばれたようです。<br>　気がつくと、わたしはそのアパートの一室のある狭い部屋の中に、外から鍵をかけられて監禁されていました。<br><br>　もちろん、わたしは何日もの間、何度も大声で助けを求めたり、部屋から逃げ出そうとも試みてみました。<br>　けれど、うまくいかず、そのたびにひどく暴力をふるわれ、死ぬほど恐ろしい目にあわされました。<br>　恐くて、恐ろしくて……、結局、彼に従うしかなかったのです。<br><br>　ただ幸いなことに、彼に性的な暴力を受けることはありませんでした。<br>　なぜなら彼は、ああ見えても、ゲイで、おまけにインポーテンツだったものですから。<br><br>　わたしは一日に三度のトイレと、何日かに一度の入浴と、毎食の食事を作るとき以外は、ずっと狭い部屋の中に監禁されていました。<br><br>　時のない部屋の中で、わたしはどれだけあなたのことを思ったことか。<br>　あなたのもとに帰りたいと、どれだけ願ったことか。<br>　けれど、その願いも叶わぬままに、何日もの、何週間もの日が過ぎていきました。<br><br>To be continued.</font>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10320730701.html</link>
<pubDate>Fri, 14 Aug 2009 17:11:16 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_067</title>
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<![CDATA[ <font size="2">　わたしは半信半疑ながらも、世の中のことが心配になり、意を決してその日仕事にいくことにしました。<br>　押し入れの中から大きなマスクを探し出して、それをはめて工場へいきました。<br>　少しの間仕事を休んでいたこともあり、みんなはわたしの大きなマスクを見て、えらくひどい風邪をこじらせたもんだな、と呑気なことを言っていました。<br><br>　午前中はとくに何事もなく、平凡に過ぎました。<br>　なんだ、やはり取り越し苦労だったんだな、とほっとして、わたしは食堂でカレーライスを食べました。マスクを取ることができないので、食べ終えるまでにひどく時間がかかりました。<br><br>　昼休みが終わるサイレンが鳴り、またラインにつくと、わたしは<strong><font color="#FF1493"><font size="3">突然身体の不自由を感じました</font></font></strong>。<br>　意識ははっきりとしています。けれど、身体の自由がまったくきかないのです。<br>　わたしは<strong><font color="#FF1493"><font size="3">だれかに操られるように</font></font></strong>、不意にマスクを顎のあたりまでずらし、何かを話しだしました。<br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">だれにもわからない言語で、だれにも聞こえない声で――</font></font></strong>。<br><br>　すると突然、由加の替わりに入ったという新人の男が、由加と駆け落ちした鬼班長の替わりにこれまた新しく班長に昇格した男（この男も、鬼班長に負けないくらいに口うるさい性格だ）に、襲いかかったのです。<br>　新人の男は大柄で、ちからだけは人一倍あったので、小さな新班長を軽々持ち上げると、プレス機へと続いているベルトコンベアの上に叩きつけました。<br>　新班長は気を失ったまま、ベルトコンベアの上を一個の部品のように流れていきます。<br>　そして、そのまま、彼はプレス機に潰されてしまいました。<br>　わたしははじめ、日頃の鬱憤が積もりに積もって、男がキレたのだ、と思っていました。なぜなら、この男はわたしと同じくらい手先が不器用で、わたしが休んでいる間にも、新班長にこっぴどく痛めつけられていたと聞いたからです。<br>　けれど、どうもただそれだけのことではなかったのだということが、あとになってだんだんとわかってきたのです。<br>　それは、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">こういう事件が、わたしのまわりで何度も起こりはじめたからなんです</font>。</font></strong><br>　わたしの身体が勝手に動き、マスクをずらし、醜く裂けた口で、だれにもわからない、聞こえない言葉を口にすると、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">まわりの人間が狂いだす</font></font></strong>のです。<br><br>　これが、あの<strong><font color="#0000FF"><font size="3">〈銀色の男〉</font></font></strong>が言っていたことなのか、とわたしは怖くなりました。<br><br>　それ以来、わたしは仕事にもいかずに、部屋にじっと閉じこもってしまいました。<br>　わたしが動けば、ひとが死ぬ。<br>　けれど、そんなわたしの意志とは関係なく、次第に足までもが勝手に動きだし、部屋からふらっとどこかへ出ていってしまうのでした。<br>　そうはいっても、そのときのわたしは、世界を、すべての人間を呪っていたので、だれが狂おうが、だれが死のうが殺されようが、どうでもいいとも思っていました。<br>　どうせこのわたしも、そのうち<strong><font color="#0000FF"><font size="3">〈銀色の男〉</font></font></strong>に身体を乗っ取られて消えてしまうんだから、と。<br><br>　そんなある日のこと、突然由加からの書留が届いたのです。<br>　その中には、消えた通帳と印鑑が入っていました。<br>　そして、彼女からの手紙が、添えられていました。<br><br>To be continued.<br></font><br>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10244535888.html</link>
<pubDate>Sat, 18 Apr 2009 08:00:42 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_066</title>
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<![CDATA[ <font size="2">「わたしはそのまま、だれにも言わずにアパートへ帰りました。<br>　それから何日か、仕事にもいかずに、わたしはひとりの部屋で、じっとうずくまっていました。<br>　わたしのこころはずたずたに傷ついていました。<br>　やっと掴むことができた希望の光が、また暗黒の中へと消え去ってしまったのです。<br>　おわかりですか？　一度掴んだはずの希望が崩れ落ちてしまうときの絶望は、それを手にする前の絶望よりも、さらに深く、さらに陰険で、さらに呪われているのですよ？<br><br>　わたしはもう、何もかもが、どうでもよくなりました。<br>　ただ、わたしのこころをこんなにした由加が、憎かった。<br>　彼女を含むこの世界のすべてが、憎かった。<br>　わたしはすべてを呪った。<br>　この呪いで、この世をすっかり消し去りたかった――。<br><br>　そしてその夜、あいつが、<strong><font color="#0000FF"><font size="3">〈銀色の男〉</font></font></strong>が、現れたんです」<br><br>「<strong><font color="#0000FF"><font size="3">〈銀色の男〉</font></font></strong>？」<br><br>　チェン先生の指が、一瞬止まった。<br><br>「<strong><font color="#0000FF"><font size="3">〈銀色の男〉</font></font></strong>はどこからともなく現れて、しらぬ間に、わたしの背後に立っていました。<br>　そして彼は、わたしにある提案を持ちかけてきたのです。<br><br><font color="#0000FF">『<font color="#0000FF">よう、どうだい？　オレ様と契約しないかい？<br>　オレ様がこの世界を地獄におとしめて、おまえの無念を晴らしてやるぞ。<br>　そのかわり、おまえのその身体を、オレ様によこせ。<br>　どうだい、いい話だろう？<br>　オレ様にはおまえのこころが読める。<br>　おまえはもうどうせ死んだっていいって、思ってるんだもんな。<br>　さあ、どうだい？</font>』</font><br><br>　わたしは、これはきっと夢だな、と思いました。<br>　それに、ヤツの言うとおり、そのときのわたしは、死んだっていいからこの世界を呪いで破滅させたい、と思っていたんです。<br>　だからわたしはすぐに、いいさ、と答えてしまったんです。<br><br><font color="#0000FF">『<font color="#0000FF">よしきた！</font>』</font><br><br><strong><font color="#0000FF"><font size="3">〈銀色の男〉</font></font></strong>は、契約の証だと言って、おもむろにわたしの口の両端に尖った人差し指を突っ込み、それからちから任せに左右に引っ張り、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">わたしの口を耳元までべりべりっと裂いたんです</font></font></strong>。<br>　わたしはそこで、気を失いました――。<br><br>　朝、目を覚まし、鏡を見てわたしは、全身からちからが全部抜けるぐらい驚きました。<br>　わたしの口が、現実に、実際に、大きく裂けていたのです。<br>　これは何かの間違いなんだ、とわたしは思い込もうとしました。<br>　けれども何度見直しても、やはり間違いなく、わたしの口はみごとに裂けていたのです。<br>　わたしは身震いしました。<br>　これは、大変なことになった、と直感しました」<br><br>To be continued.<br></font><br>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10215713167.html</link>
<pubDate>Sat, 28 Feb 2009 08:00:00 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_065</title>
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<![CDATA[ <font size="2">「彼女は――由加は、やさしいだけじゃなかった。<br>　見た目にも――決して華やかではなかったけれど――控えめな美しさをもっていました。<br>　わたしはとくに、彼女の八重歯が気に入っていました。<br>　わたしはもう、熱病にでもかかったようでした。<br>　なにせいままでに一度も、こういう気持ちになったことがなかったものですから、免疫がぜんぜんなかったんでしょうね。<br><br>　わたしはクリスマスイヴに、勇気を振り絞って、とうとう彼女に告白しました。<br>　失恋するということが、いったいどれだけの痛手を伴うものなのかは、わたしにはぜんぜん想像がつきませんでしたが、失敗や挫折には慣れっこでしたから、おおかた同じようなものだろうと、変な勇気を持っていたんです。<br>　けれどそんな心配はよそに、彼女はすぐにわたしの申し出を受け入れてくれたんです。<br>　クリスマスプレゼントだと渡したピンク色のマフラーを、ふわりと首に巻き、彼女はやさしく微笑んでくれました。<br>　わたしは有頂天でした。<br>　なにしろ、人生において、はじめて自分の願いが叶ったのですから」<br><br>　チェン先生の指先は、深い海の底でゆるやかな流れにたゆたう海藻のように、男の頭の上でやさしく踊っていた。<br><br>「二月になると、貧しいわたしたちは、少しでも節約するために、いっしょに暮らすことにしたんです。<br>　彼女もじつは、家族を助けるために、地方から出稼ぎに出てきたような境遇だったんですよ。<br>　彼女は自分のアパートを引き払い、両手で間にあうほどのほんの少しの荷物を持って（実際これが、彼女の持ち物のすべてだった）、わたしの狭いアパートに越してきました。<br>　わたしたちは、つつましくも、平和で静かな生活を手に入れたのです。<br><br>　ところが、それから一ヶ月ほどたったある夜、わたしが仕事から帰ると――いやね、少しでも生活を楽にするために、わたしは毎日できるだけ残業するようにしていたんですよ――、由加が部屋にいなかったんです。<br>　玄関のドアの鍵は開いていました。<br>　台所のテーブルの上には、高菜のチャーハンがひとり分だけ、用意されていました。<br>　流しには、それを作ったあとのフライパンが、洗われないままつっこんでありました。<br>　そのとき気づいたことは、部屋の中がいくぶん散らかっているな、ということぐらいでした。<br>　わたしは仕方なく、チャーハンののったテーブルの前に座って、テレビをぼんやりと眺めながらしばらく彼女の帰りを待ちました。<br>　けれども、いくら待っても、彼女は戻ってはきませんでした。<br>　こんなことははじめてのことでした。<br>　高菜のチャーハンはすっかり冷めて、かぴかぴになってしまっています。<br>　わたしはいよいよ心配になってきて、メモだとか、何か手がかりになるようなものがないか、もう一度部屋の中を探してみることにしたんです。<br>　心境的には、母親が死んだときほど心細かったのです。<br>　そしてしばらくして、わたしは、わずかな蓄えである通帳と印鑑が、タンスの引き出しの中から消えていることを発見しました。<br>　まさか、ね。<br>　そんなこと、あるはずがない。きっと、何か事情があってのことに決まっている。<br>　わたしはそう自分に言い聞かせて、もうすぐに布団に入り、その夜を何とかひとりでやり過ごしました。<br>　それでも結局、夜明けまで一睡もできませんでしたけれどね。<br><br>　朝がきて、わたしはいつもより早く工場に出勤しました。<br>　由加がいるかもしれないと思ったからです。<br>　けれど体操の時間になっても、始業のサイレンがなっても、彼女は姿を現しませんでした。<br>　そして、驚いたことに、いままで一度たりとも仕事を欠勤したことがない、我々のラインの鬼班長が、その日無断欠勤をしたのです。<br><br>　昼休憩の時間になって、その理由がわかりました。<br>　食堂で、だれかが話しているのが聞こえたのです。<br>　その班長は妻子を捨てて、由加と駆け落ちしたのだ、と――」<br><br>To be continued.<br></font><br>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10208456125.html</link>
<pubDate>Mon, 16 Feb 2009 08:00:00 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_064</title>
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<![CDATA[ <font size="2">　男はそうは言ったものの、しばらくはきっかけがつかめず、言いあぐねていた。<br>　チェン先生は、再びシャンプーをはじめる。<br>　そして男は、口に溜まった唾をごくんと飲み込むと、ゆっくりと、静かに、口を開いた。<br><br>「<strong><font color="#FF1493"><font size="3">わたしは、何人ものひとを、殺したんです</font></font></strong>」<br><br>「それは、犯罪を犯した――ということ？」<br><br>　チェン先生の声はとても静かで、穏やかで、やさしかった。<br><br>「いえ、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">わたしがこの手で直接的に殺したわけではないんです</font></font></strong>。<br>　実際には、べつの人間が殺人を犯したんです」<br><br>「それじゃあ、あなたが、だれかにそうしろと指示した、ということ？」<br><br>「いいえ、それとも、ちょっと違う。<br>　彼らは、自発的に殺人を犯したのです。<br>　けれど、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">彼らのこころの中の深い闇の奥から、その憎悪を引き出したのは、わたしなんです</font></font></strong>」<br><br>「そうなの？<br>　つまり、あなたには、そういう<strong><font color="#FF1493"><font size="3">ちから</font></font></strong>がある、というわけなのね？」<br><br>　彼女は、男の頭皮をマッサージするようにやさしく指を踊らせながら、訊いた。<br>　マスクがない分、男には昨日以上にシャボンの香りがよく匂っていた。<br><br>「いまは、望んでいるわけではないんです、決して」マスクの男は震えながら、言った。<br><br>「わたしは、幼い頃からずっと、何をやってもうまくいかなかった。<br>　グズで、不器用で、要領が悪く、自分でもどうしようもないほどダメ人間だったんです。<br>　学校では、成績はいつもビリで、運動も苦手だった。<br>　容姿もこのとおり、醜いかぎりです。<br>　だからわたしは、いつもいじめの恰好の対象でした。<br>　くやしいと思うときもあったけれど、これじゃあ仕方ないなと、自分でもあきらめてしまっていたんです。<br>　わたしのようなダメ人間は、隅っこでひっそりと、だれのじゃまにもならないように生きていくしかないのだ、と。<br><br>　それでも何とか高校を卒業して、社会にでて働きだしました。<br>　けれどもやはり、どんな仕事をやってもうまくいかず、長続きせず、いくつもの職を転々としなければならなかったんです。<br><br>　そうして、ある町工場に勤めたときのことです。<br>　何かの機械の部品を作るラインに入ったわたしは、相変わらず不器用で、なかなかうまく仕事を覚えることができないでいました。<br>　暗く、狭っ苦しく、ひどく埃っぽい工場の中で、わたしはいつものようにひとりぼっちで途方に暮れていました。<br>　わたしのラインの前では、ひとりの少女が同じように部品を組み立てていました。<br>　グレーの帽子に、ブルーの作業着を着て、その上に紺のエプロンをつけた彼女は、とても手際よく、わたしの何倍も速く部品を組み立てていました。<br>　わたしは彼女の作業を、しらずしらず、羨望の眼差しで眺めていたものです。<br><br>　十二月のある寒い日のことでした。<br>　軍手をした指がその寒さでかじかんで、ボルトを床に転げ落としてしまったんです。<br>　すると、彼女がそれを拾って、わたしの方へゆっくりとやってきたんです。<br>　彼女は小さく微笑んで、それからわたしに、なんと、部品の組み立て方の要領をやさしく教えてくれたんですよ。<br>　この工場の寒さのせいではなく、そのときわたしは、なぜかぶるぶると震えていました。<br><br>　それ以来、わたしは彼女に恋をしました。<br>　なぜなら、わたしの不器用さをバカにしないで、あんなにやさしく、丁寧に接してくれたのは、わたしの生涯で、彼女がはじめてだったからです。<br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">彼女だけが、わたしを、はじめてひととして、扱ってくれたんですよ</font></font></strong>」<br><br>To be continued.</font>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10208449632.html</link>
<pubDate>Sun, 15 Feb 2009 08:00:00 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_063</title>
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<![CDATA[ <font size="2">　チェン先生は、洗面台の横にあるフロアスタンドのスイッチを入れて、明かりをつけた。<br>　そのあと、部屋の照明を消した。<br>　真っ白な部屋はすぐに、フロアスタンドのほのかな明かり以外の光を失った。<br>　外はますます荒れてきていて、ついに雷雨になったようだ。<br>　遠くで、転がる雷鳴がかすかに聞こえる。<br>　そして閉ざされたカーテンの隙間から、眩しい稲光がときどきもれてくる。<br>　この部屋の中も、少し肌寒くもなってきたようだ。<br><br>　男は、ウィンドブレイカーのフードを、自分で静かに頭のうしろへずらした。<br>　すると中から、いくぶん尖り気味の、でこぼことした頭と、ロバのような極端に面長な顔が現れた。<br>　そしてそのあと、男はゆっくりと左腕をあげ、口元を覆った大きなマスクに手をかけた。<br>　それを喉元の方へ静かにずらすと、そこに不快な臭いを伴いながら、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">耳元まで裂けた不吉で不気味な口が現れた</font></font></strong>。<br>　チェン先生はその男の醜い口を見ても、驚きもしなかった。<br><br>「先生よ、怖くないんか？」<br><br>　と、男が裂けた口元をいやらしくにやりと歪ませて、訊く。<br><br>「ええ。もちろん」と先生が、言った。<br><br>　そして彼女は、何ごともなかったかのように、いつもと同じ調子でシャンプーをはじめるのだった。<br>　男はシャンプーされながら、大きく裂けた口を振るわせるようにして、小刻みに動かしていた。<br>　声は出してはいないけれど、それは確かに何かを話しているような様子だ。<br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">男はチェン先生に、何かの念を送っているのだ</font></font></strong>。<br><br><font color="#0000FF">〈どうだ？　先生よ。どう感じる？　さあ、さあ。どうなる、どうなる？〉</font><br><br>　男はそう思いながら、チェン先生の様子を目を細めて眺めていた。<br>　けれどいつまで待っても、彼女には何の変化も現れてはこなかった。<br><br>「ちょっと、待ってくれ、先生よ」<br><br>　と、男はたまりかねて、言った。<br>　チェン先生はシャンプーをやめて、シャワーの蛇口を止めた。<br><br>「先生よ？　何ともないんか？」<br><br>「何が？」<br><br>「いや、そのう、気分とか、なんか変じゃないか？」<br><br>　男の左のこめかみを、あぶくが一筋首元へ流れ落ちる。<br><br>「いいえ。何とも。どこも変じゃないわよ？」とチェン先生は、言った。<br><br>「ねえ、どうしたって言うの？」<br><br>「いや、いいんだ。何でもないんだ。<br>　続けてくれ」<br><br>「いいわ」<br><br>　チェン先生は、再びシャワーの蛇口を捻った。<br><br><font color="#0000FF">〈いったい、どうしたっていうんだ？<br>　オレ様の邪悪な念が、この女には通じないとでもいうのか？<br>　まさか！　この念に触れると、どんな人間でも、もともとその中に持ち合わせている隠された邪悪さが増幅されて、表出するというのに。<br>　この女のこころには、ひとかけらも、邪悪なものがないというのか？<br>　ばかな！〉</font><br><br>　チェン先生が再びシャンプーをはじめると、男は自分の緊張した身体が次第に解きほぐされていくのを感じた。<br>　そして、男は思う――ひょっとして、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">ほんとうにチェン先生のこころの中に、邪悪なものがひとかけらもないとしたら、もしほんとうにそうだとしたら、彼女はわたしを救えるかもしれない</font></font></strong>。<br>　そしてそれは、わたしによって引き起こされる未来の殺し合いを、未然に防ぐという意味で、ひいては世界の人々をも救うことにもなるのだ。<br>　だとしたら、わたしが探し求めたとおり、彼女は、ほんとうに、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">メシアなのかもしれない</font></font></strong>。<br><br>「先生、よかったら、わたしの話を聞いてもらえますか？」<br><br>　男のひび割れた声は、先ほどとは違って、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">低い方の声が高い方の声よりも勝っていた</font></font></strong>。<br>　チェン先生は、男の声と態度の変化に、きちんと気づいていた。<br><br>「もちろん。そのために、ここにわたしがいて、あなたがいるんだから」<br><br>To be continued.<br></font><br>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10206468611.html</link>
<pubDate>Thu, 12 Feb 2009 08:30:00 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_062</title>
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<![CDATA[ <font size="2">♯１３<br><br><br>「さて、調子はいかが？」<br><br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">チェン先生</font></font></strong>はいつものスツールに座り、カルテを眺めながら、<strong><font color="#0000FF"><font size="3">マスクの男</font></font></strong>に訊いた。<br>　けれども男は黙ったまま、彼女の質問には答えなかった。<br><br>「昨日の治療で、少しはマシになったかしら？<br>　もっとも、わたしにはまだ、あなたのお悩みがはっきりとはわかっていないんだけれどね？」<br><br>　男は、昨日と同じ黒いウィンドブレイカーを着て、そのフードを目深に被り、昨日と同じように、何も話さない。<br>　チェン先生は男の肩の辺りが少し濡れているのに気づき、ふと窓の外を見た。<br>　そしてはじめて、外は雨が降っているのだとしった。<br><br>「さて――。<br>　そろそろ、第二回目の治療をはじめるけれど、その前にとくに何か言っておくようなことはないかしら？」<br>　<br>　チェン先生は、ボールペンの端をこめかみにとんとんとあてながら、訊いた。<br>　男は相変わらず、石のように押し黙ったままだ。<br><br>「そう、いいわ」チェン先生はため息まじりに、言った。<br><br>「それじゃあ、はじめましょうか」<br><br>　チェン先生は、いつものように、男の座っているチェアを四五度左に回転させてから、ゆっくりとリクライニングさせ、白い陶器製のボウルの縁に男の首を静かに置いた。<br>　マスクの男は、ウィンドブレイカーのフードの陰から、見るとはなしにジプトーンの天井の不規則な模様を見ていた。<br>　エアコンの空調機が、かすかに空気を振るわせているのがわかる。<br>　白すぎる蛍光灯の光が、目に見えないような速さで、チラチラと瞬いている。<br>　視線をそのまま窓の外へ向けると、時刻はもう夕方で、おまけに雨が降っているせいで、ひどく薄暗かった。<br>　チェン先生は窓辺にいき、男のその視線を遮るように、遮光カーテンを閉めた。<br>　そして吊り戸棚のところまで戻り、フェイスタオルを取ろうとした。<br><br>　そのときだった。<br><br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">男が、突然、身体に電気でも流されたかのように、全身をピンと緊張させ、ひとしきり痙攣したあと、はじめて言葉を口にするのだった</font></font></strong>。<br><br>「待ってくれ、先生よ」<br><br>　チェン先生はその瞬間、冷凍されたかのように、そのままのカタチで動作を止めた。<br>　男の声はひどくひび割れていて、聞き取りにくかった。<br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">高い声と、低い声が混じり合っていて、まるでふたりの人間が同時に同じ言葉を話している</font></font></strong>ような、そんな感じだ。<br>　ボリューム的には、高い方の声が、低い方の声より勝っているようにチェン先生には聞こえた。<br>　そしてしばらくしてから――ポーズボタンを解除されたように――彼女は動作の続きをしはじめた。<br><br>「まあ。はじめてしゃべってくれたわね。どうか、した？」<br><br>　彼女はタオルを手にしたあと、男の方を振り返って、訊いた。<br><br>「今日はよ、<strong><font color="#0000FF"><font size="3">このマスクを取ってから、シャンプーしてほしいんだ</font></font></strong>」マスクの男は、言った。<br><br>　チェン先生はしばらく黙っていたあと、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">何かを感じ取ったかのように</font></font></strong>小さく頷いた。<br><br>「もちろん。いいわ」<br><br>To be continued.<br></font><br>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10206461839.html</link>
<pubDate>Wed, 11 Feb 2009 10:04:40 +0900</pubDate>
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<title>終末の唄_061</title>
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<![CDATA[ <font size="2">「彼女は――かをりは、ぼくがしりうる限りの人間の中で、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">最もまじめで、つよく、潔くて、潔白で、清らかで、正しく、迷いのない人間</font></font></strong>です。<br>　ぼくが四歳のときに、彼女の通う幼稚園に転園してきて以来、ずっと彼女のそばにいて、彼女を見てきたぼくが言うんだから、間違いはありません」<br><br>　男は、二歩ほど長谷ににじり寄った。<br><br>「彼女が何かの事件に関わっている？　まったくばかげた話だ。<br>　騙すんなら、もうちょっとマシな騙し方をしたらどうです？<br>　だいたい、<strong><font color="#FF1493"><font size="3">あなた、だれなんですか？</font></font></strong>　何のためにこんなことをしているんですか？<br>　あなた、先日もかをりの会社に現れて、こんな風にひとを騙して、いろいろとかをりのことを探っていたそうですね？<br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">いったい、彼女の何がしりたいんですか？</font></font></strong>」<br><br>　そのとき、隣の部屋のドアが開き、中から住人の女が出てきた。<br>　彼女は隣人である男と、もうひとりのしらない男を交互に見て、それから隣人の男の方に軽く会釈をして階段を下りていった。そして自転車置き場から自分の自転車を引きずり出して、それに乗ってどこかに消えた。<br>　長谷は口をつぐんだまま、黙っていた。<br><br>「まあいい。<br>　とにかく、あなたがだれであれ、何のためにかをりのことを調べているにせよ、いまぼくがかをりについて言ったことは、ぜんぶ真実です。<br>　それが、ぼくがかをりについてしっているすべてです。<br>　さあ、もう帰ってくれませんか？　ぼくはいま、ひどく疲れているんですよ」<br><br>「わかりました。そうしましょう。<br>　ただ、最後に――もうこうなったからには、すべてをお話してから帰りましょう。<br>　じつはわたし、私立探偵なんです。ある依頼人から、かをりさんについて調べて欲しいと依頼がありまして、それで彼女についていろいろと調べさせていただいておりました」<br><br>「かをりについて、調べてくれ？<br>　<strong><font color="#FF1493"><font size="3">その依頼人って、いったいだれなんです？</font></font></strong>」<br><br>「さあ？　それはわたしにもよくわかりません。<br>　変な変装をしていて、顔もわかりません。<br>　ですが、どうぞご心配なく。あなたが最後の調査対象だったんですが、かをりさんはあなたが言うとおり、非の打ち所のないひとでした。だれに訊いても、どの場面を見ても。<br>　だからわたしは、調査報告書に、そのように書きます。どこに出したとしても、彼女に不利益な報告ではありません。まったく問題なしです。<br>　それではこれで、わたしは失礼させていただきます。いろいろとお騒がせしました」<br><br>　長谷は帽子を少し上にあげて、男に背を向けた。<br>　そして階段を二、三段下りたところで、もう一度男の方を向いた。<br><br>「まったく問題なし、と言いましたが、もしひとつ、問題があるとすれば――いやこれは、あくまで私見なんですが――<strong><font color="#FF1493"><font size="3">彼女は完全過ぎる</font></font></strong>、ということでしょうか」<br><br>「完全過ぎる？」<br><br>「<strong><font color="#FF1493"><font size="3">完全な状態というのは、裏返して言えば、とても不安定な状態なんですよ</font></font></strong>。<br>　変に聞こえるかもしれませんが、あらゆるものは、常に、壊れたがっているんです。<br>　それをみんな苦労して、なだめて、すかして、バランスを保っているんですよ。<br>　けれどどうしても、いつかは、どこか小さな部分で、何かが壊れてしまいます。<br>　するとそれはもう、完全ではなくなります。完全というのは、そういう脆い状態のことなんです。<br>　完全を保とうとすると、ひどくエネルギーがいります。強靱な精神力も必要とされます。<br>　だから、それに<strong><font color="#FF1493"><font size="3">疲れて、バランスが崩れたときが、一番こわい</font></font></strong>。<br>　わたしはかをりさんを見ていて、それがとても心配になりました。<br>　できたら、その辺のところを少し気にしてあげてはどうかな、なんて思いました。<br>　わたしが言いたかったのは、それだけです。いや、これは蛇足でしたな」<br><br>　長谷はそう言って、また階段の続きをカンカンカンと下りていった。<br><br>　オレは、アカの他人にそんな偉そうなことを言って、自分はいったいどうなんだ？　理子のことを、少しでも理解してやっていたというのか？　バカヤロー！　<br><br>　と、長谷はこころの中で呟いた。<br><br>To be continued.<br></font><br>
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<link>https://ameblo.jp/s-talk/entry-10204646122.html</link>
<pubDate>Sun, 08 Feb 2009 08:00:00 +0900</pubDate>
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