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<title>ふたしかなるにちにち</title>
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<description>日々の出来事を記す、私小説的散文「あたし文体」</description>
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<title>かごと金髪とヒラヒラのスカート</title>
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<![CDATA[ <p>　それは平日の昼下がり。</p><p>　エレベーターの中で金髪美女と二人っきりになった。二人きりだったが、「めし　どこか　たのむ」ということにはならなかった。モデル体系な上にジュリア・ロバーツみたいだったが、理性もすっ飛ばなかった。薄手の生地がヒラヒラたなびくロングスカートだったが誰も神風の術とか使ってくれなかったし、スカーフを頭にかけたそのスタイリッシュなオシャレさんは、あたしに振り返ることもなかった。 <br>　だってジュリア・ロバーツだもの。きっとこのビルのレストランフロアでダーリンと遅めの昼食をといった風情なのだろう。しかし、残念。このエレベーターはオフィスフロア専用。レストランフロアには止まらない。かごの中には二人きり。日本語が不自由に見受けられるジュリアにとって、ここに存在するインターナショナルはあたしのギリギリイングリッシュのみ。 <br>　こうして、彼女の不幸が幕を開けた。 <br>　 <br>　まずはじめにジュリアがとった行動は困ることだった。レストランフロアと思しき階のボタンを何度も押し、点灯しないことを確認する。その横には「このエレベータはこの階には止まりません」と書いてある。ジャパニーズで。ジュリアには読めない。あたしには読める。 <br>　次にジュリアがとった行動はあたしを見ることだった。ジュリアが押したボタンは光らないが、あたしが押したボタンは光ったからだろう。「このエレベーターはジャップ専用ですか？」声に出さなくてもジュリアの青い瞳が訴えている。しかし海の向こうの人とアイコンタクト可能なほどあたしの心は開いていない。むしろ自分以外には閉じている。青い瞳はあたしを見るが、あたしの頭の中は先ほどからmp3プレイヤーが流すサンボマスターでいっぱいだ。「もう少しテンションがあがれば歌いだすよ？」黒い眼で切り返した。 <br><br>　成立しないコミュニケーションに、いくら押しても答えてくれない操作盤。かごの中には無愛想なジャパニーズ。湖面を移したような青い瞳が時計の針に向けられ、徐々に曇っていく。 <br>　エレベーターは速くはないが着実に上を目指す。光を発しない階に止まるわけがない。ああニューヨークのお母さん！そのときジュリアが何か言った。と思われた。ほんのりと赤い口紅があたしに向けられ、薄い唇が動いたのだ。しかしあたしの耳には山口隆の大絶叫。「～世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜええええええええええ！！」 <br><br>　そうです。世界じゃそれを愛と呼びますが、コミュニケーションは相変わらず不成立のまま。しかし、ここはあたしもジャップなおのこ！山口隆が愛を呼ぶなら、あたしだって薄紅色の唇に答えないわけにはいかない。愛だって叫んじゃえ。とはいえいきなりジュリアの青い瞳を見つめて「ハロー！ハイ！チャオ！ボンジュール！ボンジョルノ！愛してる！」とはじめても混乱必死なので、要点だけのコミュニケーションでスタートしてみることにした。 <br>「restaurant?（レストラン？）」 <br>　ジュリアには視線を投げず、あくまでクールに。エレベータのドアを見たまま聞いてみる。 <br>「yah…（うん…）」 <br>　まるでハミングバードの羽音のような、微かだがしかし喜びを感じられる返事が返ってくる。意思疎通完了。あとは愛を囁くだけで、世界はそれを以下略なのだ。OKジュリア！さーあたしを頼ってくれ。あたしこそ世界に誇れるジャップだ！さーあたしに何でも聞いてくれ。ギリギリのイングリッシュだけど君へのラヴにまみれているよ。さージュリア！さぁさぁさぁ！ <br><br>　あたしは絶好調だった。あたしのインターナショナルがジュリアに通じたから。あたしは有頂天だった。ジュリアが返事してくれたから。ただ絶好調だったのはあたしだけではなかった。まさに絶好のタイミングでエレベータはあたしが降りる階に二人を運んでくれた。神の奇跡！オーマイジーザス！これはジュリアを誘うしかない。ジュリアを誘ってエレベータを降りて、レストランフロアに止まるエレベータまで！ジュリアと二人、愛のランデブー！ <br>　ゆっくりとエレベータの扉は開かれ、あたしがジュリアに視線を向けるその刹那。青い瞳のハミングバードは飛び出した。まさに絶好のタイミングで！ <br>　かごから飛び立つ幸せの青い鳥。 <br>　あたしのギリギリイングリッシュがその後を追う。 <br>「ああ！ジュリアここはオフィスフロアで、君の目指すレストランフロアは…」 <br>　しかしジュリアは一目散に非常口に向かって走る。あたしが駆使したインターナショナルはさびしくオフィスフロアに取り残され、その残響すら許さないかのように鉄製の扉が閉まる重々しい低音が響き渡った。 <br><br>　そうだねジュリア。非常口の向こうには非常階段がある。それさえ使えばきっとどこにだって行けるし、誰からだって逃げられる。走り去るヒラヒラの青い鳥。それはとてもきれいで、あたしはそこを動けなかった。金髪でスタイリッシュでスカーフなジュリア。ヒラヒラがロングスカートでオシャレなジュリア。青い瞳とまた会えるかな？でもきっと薄紅色の唇はこう言うよね？ <br><br>「I'll see you dead！（まっぴらごめんよ！）」 <br><br>　世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜぇ。山口隆はもう愛を叫んではいなかった。いつの間にかあたしに語りかけているのはスピッツで、侭ならない想いについて草野正宗が、切なげに歌ってくれていた。 <br></p>
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10220701737.html</link>
<pubDate>Sun, 08 Mar 2009 19:00:25 +0900</pubDate>
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<title>モミアゲに告ぐ</title>
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<![CDATA[ 　モミアゲに告ぐ。 <br>　モミアゲに告ぐ。 <br>　オマエはどこからアゴヒゲなのだ？ <br>　と、そんなワケなのである。 <br>　なんて突然言われても何がどういうワケでそんなワケなのか、ココをお読みの諸氏には何がなにやらだろうから、ココで説明を付け加えさせていただくと、あたしにはアゴヒゲが生えているということなのだ。 <br>　そして、更に説明を継ぐならそのアゴヒゲが顔の横を通ってモミアゲとくっついているのだが、そのあたりがまさに微妙な境界。河口付近の海と川を分けるよりも難しい問題なのであるということなのだ。 <br>　何しろ鏡で見たってモミアゲとアゴヒゲはしっかりくっつき、もちろん境界線とか入っていないのだから。 <br>　せめて毛の色やらチヂレ具合が違うのかと思えばそんなこともなく、ビッとした明確なものがまるで存在しないので、ひとたびモミアゲとアゴヒゲについて悩みはじめると、シェービングクリームを手につけたままのあたしは、洗面台の前で一人、鏡を覗き込みながらウンウン唸っちゃうのだ。 <br>　しかし、あたしがいくらヒマでも、そんな状態でいつまでも待っていられるほどヒマではない。 <br>　髭を剃ったり整えたりなんて時は大抵その後に重大な用事が控えているものだから、まさかモミアゲとアゴヒゲで遅れましたなんて言い訳が通用するワケもない。よしんば通用したとしても、そんな言い訳をするあたしはオトナとしてどうかということである。 <br>　ので、そんなオトナにならないためにも、いつもいつもは気付かないフリで見逃してきたこのモミアゲ・アゴヒゲ問題も、この度とうとう解決に向けて動き出すに至った、ということなのである。パンパカパーン。 <br>　そして、その第一解決策として選ばれたのが、辞書。双方の領土を明確にすべく、ソイツで調べてみようと思い立ったのだ。 <br>　何しろ辞書なんてものはどこぞのエライ先生によって作られるものであるからして、そんな先生にしてみればモミアゲとアゴヒゲの境界なんてチョチョイのチョイのスモールプロブレムに違いない。 <br>　答えはいつだってエライ学者さんの頭の中にあるのだ。 <br>　そして、早速辞書を引いてみれば、 <br>　もみあげ：「鬢の毛が耳に沿って生え下がった部分」（岩波国語辞典第四版） <br>　なんて書いてある。なるほどなるほど。耳に沿って下がった部分がモミアゲであるか。さすが学者先生様である。そう思って自分のモミアゲをツツーッと指でなでていったら、なんと！アゴを通りこして反対のモミアゲまで届いてしまった。 <br>「なるほどなるほど。あたしのモミアゲはずいぶん長いのだなあ」 <br>　なんて考えるワケがない。ツツーッと指が通り過ぎていくどこかで、それはアゴヒゲに変わって再びモミアゲに戻っているではないか！ <br>　問題は、モミアゲとアゴヒゲが繋がっちゃってるｌということ。生え下がったなんて言われても、あたしのモミアゲは反対側のモミアゲまで生え下がっているのだ。 <br>　なんとも頼りない辞書ではないか。学者先生様も頼りにならない。 <br>　しかし、こんなコトであきらめるあたしではない。辞書がダメなら、別の角度から調べてやろうというものである。 <br>　何しろ情報化社会の昨今。調べる手段は山のようにあるのだ。例えばインターネットとかインターネットとかインターネットとか。情報の坩堝にこそ答えはあるのだ。学者先生なんてクソクラエ。在野に散らばる一般識者のチカラを見よ！である。 <br>　そして調べること数時間。意気揚々と情報の海に漕ぎ出したはいいが、出てくるのは「もみあげ部」だの「もみあげ三丁目」だのそんなトンチキなものばかり。一向にモミアゲの本質に触れてこない。しかも、調べているあたしの方はどんどん疲弊してきて、 <br>「もうモミアゲなんてどこでもいいわー。なんなら、全身モミアゲでも結構よー」 <br>　なんて独り言が出る始末である。 <br>　なんたることだろうか！ <br>　せっかく問題解決に乗り出したのに、早くもこのザマである。しかし、このモミアゲ・アゴヒゲ問題はこんな中途半端なキモチで終わらすわけにはいかないのだ。疲労はねっとりと脳ミソを覆い、広大なインターネット網のトンチキな情報はあたしを失意のどん底にたたき落とすが、あきらめるわけにはいかないのだ。 <br>　が、今回はこの辺がガマンの限界だろうと思う。 <br>　別に弱音を吐いたわけではなくて、モミアゲ部とかにウンザリしたわけではなくて、そういうのとはまったく違う次元で判断したと考えていただきたい。 <br>　しかし、正直なところ、この問題そのものを捨て置くわけにはいかない。せっかくのモミアゲ・アゴヒゲ問題なのだ。なので、今回はその曖昧な境界部分に当面の呼び名をつけるという妥協案で終わりたく思う。 <br>　その名も「モミアヒゲ」 <br>　モミアゲとアゴヒゲの曖昧な部分だからこそ、二つの良いとこ取りで「モミアヒゲ」。今回からはそう呼ぶコトとして、国境争いは一時お預けなのである。いわゆる不可侵地域の適用なのだ。 <br>　いずれこの問題を解決する日まで。 <br><br>　そうしてあたしは今日もヒゲをそる。曖昧なカタチとはいえモミアヒゲという不可侵領域の設置により、二人には仲良くしていただきたいのである。モミアヒゲ協定。なかなか満足のいく解決案だ。来るモミアゲ・アゴヒゲ問題解決への偉大な一歩である。 <br>　そして、満足げにヒゲを剃る鏡の中の自分を見て思った。 <br>　あれ？ <br>　モミアゲとアゴヒゲの間はモミアヒゲだが、モミアヒゲとモミアゲ、アゴヒゲの境はどうなるのだ？ <br>　モミアゲに告ぐ。 <br>　モミアゲに告ぐ。 <br>　オマエはどこからアゴヒゲなのだ？ <br>
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<pubDate>Sun, 01 Mar 2009 20:40:10 +0900</pubDate>
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<title>飯の言霊</title>
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<![CDATA[ 　言霊という言葉がある。 <br>　言葉に宿ると信じられた霊的な力のことを指すが、古来より日本では声に出した言葉が現実の事象に対して何らかの影響を与えると信じられてきた。良い言葉を発するとよいことが起こり、不吉な言葉を発すると凶事がおこるとされ、祝詞や忌み言葉などもこの言霊の思想に基づくものだ。 <br>　また、名前についても同じようなことがいえる。人間は身の回りの様々なものに名前をつけ、その事象を決定してきた。無名のものに名前をつける行為を「命名」というが、この作業によって与えられる「名前」により、人は「それをどう呼ぶか」ということを認識し、且つ与えられた名前から受ける印象や、そこから得られる発想や思想等により事象そのものの本質を知ろう、そして伝えようとしてきたのではないだろうか。 <br>　 <br>　以前、あたしが書いたモミアゲとアゴヒゲについての考察。現在もそうなのだが、あたしのモミアゲとアゴヒゲは繋がっているため、モミアゲをなぞっていくといつの間にかアゴヒゲに変わっている。どこで変わったかはわからないが、確実にモミアゲはアゴヒゲに変わっているのだ！まぁその顛末に関しては過去のログを参照していただくとして、今回はそれら位置や状態により名称が変化する事象・物質の名前に関する話だ。 <br>　例えるなら氷と水、湯気の関係とでも言おうか、状態によって様々に名前を変えるそれらも元はすべて同じものだ。しかし、先にも述べたように名前には意味がある。氷が氷と呼ばれ、湯気が湯気と呼ばれるようになったのには相応の理由があるのだ。THE言霊！ <br>　 <br>　というわけで、以下に具体的な例を挙げてみる。内容はハンバーグの調理過程における名称の変化だ。材料の名称がどのように変化していくかに重点を置いて説明するので、手順等を著しく省いている箇所もあるが気にしたら負けである。 <br><br>1.材料を用意する。「玉ねぎ・ひき肉・ナツメグ・パン粉・卵・塩こしょう・黒こしょう」 <br>　この段階ではまだ各材料の名前に変化はない。 <br><br>2.玉ねぎをみじん切りにして炒める。 <br>　この段階で名称が「玉ねぎ」から「玉ねぎのみじん切り」に変化する。とはいえ、玉ねぎのみじん切りも玉ねぎと呼べなくはない。「玉ねぎをみじん切りにしたもの」「みじん切りにした玉ねぎ」と呼ぶこともできる。また「みじん切り」は調理法の名称であると同時に省略されて状態の名称になっていることにも注意。 <br><br>3.ひき肉とかさっきの玉ねぎとかつなぎとかを混ぜる。 <br>　さてここからがややこしくなるのだが「ひき肉」「炒めたみじん切りの玉ねぎ」「パン粉」「卵」等々、それぞれ名前があったものは、ここで混ぜられひとつになって「ハンバーグのタネ」もしくは「パテ」という名前に変わる。おそらく仔細に見ていくのであれば「炒めたみじん切りの玉ねぎ」も「ひき肉」も「パン粉」も「卵」だって見えるのだろうが、量子論でいうならここはマクロの世界だ。ある程度いい加減に見てこれらの事象は「ハンバーグのタネ」もしくは「パテ」となった。 <br><br>4.形作る。 <br>　さっきの「ハンバーグのタネ」もしくは「パテ」をハンバーグっぽく見えるように整形するのだが例えハンバーグっぽく見えてもこの段階では、未だ「ハンバーグのタネ」もしくは「パテ」であろう。 <br><br>5.焼く <br>　はい。できた。こんがりおいしそうに焦げ目までついて焼きあがった「ハンバーグのタネ」もしくは「パテ」は、ここで初めてハンバーグと名前を変える。ハンバーグと名乗ることを許される。ハンバーグと名付けられた事象に変化したのである。 <br>　 <br>　このように料理の過程においてもその材料たる物質、もしくは事象は状況に応じて様々に名前を変える。今回の例では焼き上がり料理として完成した際、ハンバーグとなるのである。途中で「ハンバーグのタネ」もしくは「パテ」に衣をつけて油で揚げたのなら、それはハンバーグではなくメンチカツだ。同じ材料でも名前が違うまったく別のものに仕上がる。言霊の国の人間として、その意味を考え、名前に存在に敬意を表すべきであろう。 <br>　 <br>　ところで、本日の昼食は「宮本むなし」なるワンコイン定食屋チェーンだった。 <br>　頼んだものは、「ハンバーグカツ定食」 <br>　出てきたものは、「メンチカツ定食」 <br>　 <br>　おまえらなんて死ね。そう思った言霊の国在住三十路の昼下がり。
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10210585298.html</link>
<pubDate>Wed, 18 Feb 2009 15:24:02 +0900</pubDate>
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<title>或る日の出来事</title>
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<![CDATA[ <div id="diary_body" _extended="true"><br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/fc/13/10139907740.jpg"><img height="293" alt="ふたしかなるにちにち" src="https://stat.ameba.jp/user_images/fc/13/10139907740_s.jpg" width="220" border="0"></a><br></div><div _extended="true"><br></div><div _extended="true">　朝。 <br>　タバコを吸おうと喫煙室にいったら水浸しになっていた。 <br>　天井も窓も壊れてはいなかったが、雨でも降ったのだろうということにして一服した。水浸しのフロアマットを踏む度にビチャビチャと音がしたが雨が降れば水溜りもできるだろう。そう考えひとり納得し窓から外を眺めると、目に入った曇天が今にも雨を降らそうとしていた。 <br><br>　昼。 <br>　昼食は近くのファミレスで簡単に済ませた。手軽な値段だけあって味も手軽だ。運ばれてきたハンバーグにデミグラスソースをたっぷりかけ口に含むと、甘い味が口腔内に広がった。ふと数日前に考案したダイエットプランが一切守られてないことを思い出したが、テーブルの端に置かれたレシートに目が行き、残りを無言で口に放り込んだ。最後に残った目玉焼きを潰したら、冷めたプレートの上に黄身が広がっていった。 <br><br>　食後。 <br>　喫煙室に戻ると床一面に新聞紙が敷いてあった。 <br>　ずいぶんと水を吸っているようなので、明日には適当に乾いているだろう。窓際に腰掛け階下の建物を眺める。タバコの煙を燻らせて、食事時に思い出したダイエットプランについて考えた。 <br>　食欲も性欲も睡眠欲も三大欲求といわれるものは思いのほか金を食う。時間単位で考えるなら睡眠が最もひどい。それらに振り回されず生活できないものか。食事も睡眠も必要のない身体に進化できないものか。そして欲求というものを排除できないだろうかと考えた。しかし咽頭から肺に渡るニコチンに至福を感じてしまってる今、それらの思考はまるで身の丈にあっていない。 <br><br>　タバコの吸殻を灰皿に捨て、喫煙室を後にした。 <br>　トイレに入ると個室の上が煙っていた。次から次に個室から天井に湧き上がる紫煙は、さながらそこに留まる雨雲のようだ。個室のドアの前に立ちしばらくその雲を見ていたが、当然ながら雨を降らすことはなかった。八つ当たり気味に軽く個室のドアを蹴ると、中から「ひゃーッ」という声がした。天井の雨雲は散り散りになり、何度も水を流す音が聞こえた。 <br>　 <br>　喫煙室に戻ると、床にきれいに敷かれたあった新聞紙が様々な位置に散っていた。交換用に置いてあった新聞紙を取り上げ、あいた場所に敷いていく。まだ水気を含んだフロアマットにはらりと落ちた新聞紙が徐々に水分を吸っていく様は、喫煙所に出来た水溜りが消えるのにもうそれほど時間がかからないだろうことを予感させた。ふと外を見るとねずみ色の雲間から青空がのぞいていた。これからきっと晴れるだろう。<br></div>
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<pubDate>Wed, 11 Feb 2009 23:40:38 +0900</pubDate>
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<title>グランパのハーゲンダッツ</title>
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<![CDATA[ 　身内に病人がいる。愛しのマイグランパだ。実家の方の病院に入院してるのだが、まあ、年が年だけに仕方がない。あたしが生まれたての頃など、バイクの荷カゴにあたしを詰めて、そりゃー、イロイロとドライブに連れていっていただいたモノだ。老年入り口の頃の彼は、カクシャクとしてて紫煙と黒い噂の絶えないイカしたジジイだったが、寄る年波には勝てずとうとう入院の憂き目、ベッドの上で余生を消費する身となった。 <br>　もっともただただベッドの上で寝ているワケではなく、看護婦を怒鳴りつけたり、聞こえないフリをしたり、自ら点滴を外したりと、いつ何時医療ミスを犯されても文句が言えないようなその入院態度は、さすがマイグランパ！と孫として感慨も一塩だ。正味の話、本当に病気なのだろうかと疑いすら沸いてくる。 <br>　しかし、担当医の言葉を借りるなら「自然に任せるか機械に頼るかの選択をする時期」に差し掛かっているのだから、退っ引きならない状態なのは間違いないだろう。 <br>　ちなみに、本日もそんなグランパの見舞いに行って来たのだが、本日はお茶が熱いことでご立腹なされていて、あたしより年下に見える看護婦さんはタイヘン辟易していた。 <br>「こんな熱いお茶が飲めるかー！」 <br>まるで雷のような一言で、見ず知らずのお嬢さんを威嚇する様はまさに在りし日のグランパを彷彿とさせる。しかし、熱かろうが冷たかろうがお茶に限らずほとんどの食べ物を受け付けない彼にとって、その一言はつまりはままならない自分への苛立ちというか、そういう意味ではハラが減ったので泣く赤子のようなモノだが、ただ赤子と違って意識はしっかりしていて、今まで普通だったモノを突然取り上げられたようなモノなのだろうから、その苛立ちは、想像こそすれ、理解は難しい。 <br>　ところで、本日のグランパの昼食はアイス5口というものだった。粗食にも程があろうというものだが、「食べたくない！」と言い、頑としてきかないので仕方がない。コレでそのアイスがハーゲンダッツでなければ、あたしも無力感や悲壮感やら寂寥感やらそういった類の感慨を相当に抱きつつ看護に当たれるのだが、冷凍庫の中に整然と並ぶハーゲンダッツバニラには、羨ましさこそあれ、やるせなさは感じられない。誠に遺憾ではあるのだが。 <br>　打ち明けるなら、そんなハーゲンダッツバニラ群、一つくらい頂いてもわからないだろうと思うのだが、以前バニラが売り切れだった折り、リッチミルクを差し出したら、蓋を開けるなりその違いを見分け、 <br>「オレはバニラ以外食わねー」 <br>と大宣言をなさったので、きっと寝ている時ですらバニラの匂いはかぎ分けるだろう。なまじ一日ベッドにいるものだからその目覚めの早さと言ったらあたしの理解の範疇を越える。そんなわけなのであたしは冷凍庫の中に整然と並ぶハーゲンダッツ達を触れるマボロシ程度に思うようにしている。 <br>　我がグランパにしか食せないマボロシのハーゲンダッツ。父親とあたしの区別は付かなくても、バニラとリッチミルクの違いを嗅ぎ分ける愛しのマイグランパ。ハーゲンダッツバニラで動く機械みたいだが、そんなになってもやはり生きていてほしいと、切にそう感じるのだ。 <br><br><br><br>※これは2002年5月19日に書かれたものです。
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10204106927.html</link>
<pubDate>Fri, 06 Feb 2009 21:49:22 +0900</pubDate>
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<title>引越し狂想曲</title>
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<![CDATA[ 　まったく引越しなんて決めるんじゃなかった。<br>　あたしは引越しのたびにそう思い、引越しが終わるたびに「ああ、本当に引っ越してよかった」そう思う。<br>　人生初の火災から6年目の初春、人生何度目かの引越しをあたしは行おうとしていた。相棒は同棲相手の愛しのハニー。荷物はほとんどあたしのもの。パソコン、モニター1、モニター2、マンガ、CD、その他モロモロモロモロ…。なんとも6年という期間はあたしの身体に脂肪をつけただけでなく、物など何もなかった部屋をここまで肥えさせるものかと感慨もひとしおだ。見ただけでやる気がうせる。<br>　しかし、住処の契約期限はギリギリにせまっている。ついでに引越し業者が来る日も目前だ。やらなければならないやらなければならない。そんな状況の中、今回の引越しはスタートした。<br>　まずはマンガの箱詰め。続いてマンガの箱詰め。更にマンガを箱につめ、生活に関係ないと思われるものからどんどん梱包して行く引越しの5日前。部屋中のものの7割方箱詰め終了時点で一息。なんと余裕のペースじゃないか。我ながら自分の女を見る目に感心してしまう。何しろ梱包作業でがんばっていたのは、愛しのハニーなのだから。あたしはというと「ねーこれどこいれる？ねーこっちはなにいれたの？ねー？ねー？ねー？」である。全く使えない。ダメな男の典型と化していた。<br>　そして、徐々に続く引越しの日。片付けられていく部屋。積みあがるダンボール。使える彼女と使えない彼氏。8割方引越し作業が終了したところで、今回のメインイベントが訪れた。それは助っ人募集。しかもインターネットを使っての。引越し前日にだ！　この当たりからあたしの記憶はあやふやになるのだが、それは後述するとして、二人じゃ荷物の積み込み時の人手が足りないということで前述したとおりインターネッツを使って引越しの助っ人を募集した。方法は簡単。ミナサンご存知のニコニコ動画のサービスの一つニコニコ生放送を用いて、ストリーミング放送を行い、リスナーから助っ人を募ろうというのだ。なんともイベンタフルな企画じゃないか。文筆にて何かを表現するものとして、こんなに胸踊る企画はない。助っ人が来れば引越しは成功、来なければ引越しは失敗に終わるのだ。もっとも引越しは成功とか失敗で語るものではないような気もするのだが。<br>　果たして助っ人は訪れた。ニコニコ生放送大勝利である。現れた助っ人は残り2割の梱包を速やかに行い、荷物の積み込み運び出しまでやってのけた。すごい！かっこいい！すばらしい！<br>　おかげさまで引越しは無事終了し、今は新居でその顛末をゆっくり書けるような環境も整った。<br>　ただ一つの問題を除いては。ちなみにその問題とは、引越し前日、徹夜で梱包作業をしなければならないあたしが眠りこけ、愛しのマイハニーが助っ人を募集し、助っ人とハニーで残りの梱包が行われたということだ。朝がた寝ぼけた頭で積み込み運び出しをやったのさえ記憶があやふやという体たらく。<br>　荷物は無事に運び終えたが、記憶を旧居に忘れてきてしまったのではないだろうか。なお蛇足になるが、あたしの彼氏としての尊厳も引越しと同時に旧居に忘れてきたようである。
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10201894093.html</link>
<pubDate>Mon, 02 Feb 2009 18:55:24 +0900</pubDate>
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<title>生保をマジメに考える</title>
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<![CDATA[ <p><br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/62/17/10134569702.jpg"><img height="293" alt="ふたしかなるにちにち" src="https://stat.ameba.jp/user_images/62/17/10134569702_s.jpg" width="220" border="0"></a><br></p><br><p>　九州やら中国やら近畿やら東北やら、日本のどの辺までそれがあるのかは知らないが、東京にはあった。少なくともあたしのウロウロする、たいして広くもない行動範囲の中には、「三井住友海上きらめき生命」というなんだかわからないが妙に豪華な名前のその生保はあったのだ。 <br>　ちなみに三件。そこそこの大きさの、別にきらきらときらめいちゃってるワケでもない程良く汚れたビルに、やっぱり程良く汚れた看板が掛かっている。 <br><br>　そして、そこに「三井住友海上きらめき生命」の名前。もう一回書くが、「三井住友海上きらめき生命」。さらに書くが「三井住友海上きらめき～」うーん、何度書いても慣れないなぁとあたしを思わしむ、すばらしく違和感のある名前だ。初めて見たときからビリビリッとカラダに電気が走り、それ以来あたしのアタマを離れることはない。どう考えても疑問が残る名前。 <br><br>「誰か止めなかったのかなー？」 <br><br>と未だに思っている。 <br>　まぁそりゃ、海上はきらきらきらめくし、生命だって消える直前はきらめくと聞く。だからといって「三井住友海上きらめき生命」とは。 <br>　イロイロ会社の事情もおありだろう。合併やらなにやらで社員の確執やらなにやら、会社のメンツとかそういったなにやらの狭間で、 <br>「ココはひとつ受け入れやすい名前を！」 <br>とかそのあたりの事情も察しなくはないが、果たして「きらめき」が適当であったのかどうか。いまいちというかかなりの疑問が残らないでもない。 <br><br>　しかしながら、あたしも「ダメだ！ダメだ！」と言うばかりの心の狭い男ではない。やはり、他人の名前に疑問符を投げかけたのであれば、よりよい代替案というヤツを提示しないでもない。 <br>　その名も、 <br><br>「三井住友海上ときめき生命」 <br><br>　さぁ、いかがなものか！栄えある候補第一位。 <br><br>『お客様の人生と死んだり生きたり事故ったりをめくるめく「ときめき」でやさしくサポート。胸がキュンとなっちゃう切ないパートナー。アナタのおそばに「三井住友海上ときめき生命」』 <br><br>である。 <br>　顧客倍増間違いなしのこのネーミングに、あたしもはなはだ自分の才能が恐ろしいというもの。 <br><br>　こんな名前を付けられてしまっては、何口でも加入したくなってしまう。ときめき不足のアナタから、人生に疲れたアナタ、今まさに屋上で覚悟を決めたアナタまで。みんなを守るベストパートナー「三井住友海上ときめき生命」をみなさまもよろしくしてやっていただきたい。 <br><br>　ちなみに他の代替案として、「三井住友海上めきめき生命」とか「三井住友海上むきむき生命」とかあったが、どれもキュンとならないので、やはり「ときめき生命」。 <br>　それで行っていただきたいものだ。</p>
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<pubDate>Wed, 28 Jan 2009 21:06:58 +0900</pubDate>
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<title>月光</title>
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<![CDATA[ <p><br><a href="http://stat.ameba.jp/user_images/b5/4a/10134249449.jpg"><img height="170" alt="ふたしかなるにちにち" src="https://stat.ameba.jp/user_images/b5/4a/10134249449_s.jpg" width="220" border="0"></a><br></p><br><p>わずかに開いたカーテンから <br>差し込む青白い月の光が　君と部屋を染め <br><br>透けた肢体(からだ)に残る熱も <br>耳に残る息遣いさえ　奪い去って行く <br><br>それはまるで死体のよう <br>月の光にかたどられた <br><br>タオルケットを抱きかかえ <br>丸めた背中とうなじ <br><br>微かに上下する肩が　最後に残った生の証 <br><br>ああ　たとえばこのまま時が止まったとして <br>眠る君を見続けたまま <br>あの日描いた未来に追いつけるだろうか <br><br>ああ　たとえばここでその首を絞めて <br>君が呼吸をやめたら <br>あの日話してくれた夢に届くだろうか <br><br>わずかに開いたカーテンから差し込む月の光は　 <br>すべてを青白く照らし <br>過ぎ行く時間が　ゆっくりと明日をつれてくる <br><br>世界がまだ夜のうちに <br>君が体温を取り戻す前に <br><br>僕らはどうしたら　幸せになれるんだろう </p>
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10198903193.html</link>
<pubDate>Tue, 27 Jan 2009 21:25:52 +0900</pubDate>
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<title>ネコの缶詰め</title>
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<![CDATA[ 日中またもペットコーナーへ。<br>そして、本日はネコ缶をイロイロ見て回った。ちなみに断っておくが、ネコ缶とはネコの缶詰ではなくて、ネコのエサの缶詰のコトだ。<br>ところで、このネコ缶。最近はかなりの種類が出ているようで、ペットコーナーのネコ缶棚を見渡せばそこはお魚系味覚の宝庫となっている。「かつお節入りマグロ」とか「サーモン入りツナ」とか「しらす入りマグロ」とか。空腹時に訪れれば間違いなく涎を垂らすだろう美味そうな名前に、あたしも本日見事に不覚をとり、ネコ缶棚を見ていてじゅるると喉を鳴らしてしまったのである。<br>コレは人間としてどうかと思う。しかし、これほど美味そうな名前が並んでいては、口の中に溢れ出る涎が止まるわけはない。人間の尊厳の危機なのである！<br>が、そんな折り、ネコ缶棚の美味そうなネコ缶群に紛れて一つおかしな味のものを見つけた。<br>その味も「ツナ入りマグロ」<br>さてどうしたものか。なにしろマグロの洋名はツナである。日本語訳すれば「マグロ入りマグロ」と言うことになるのだが、コレはつまり<br>「このネコ缶はイヤだって程マグロだらけですよー」<br>とアッピールしたいのか、はたまたあたしも知らない「ツナ」という新種の海産物がいるのか。この降って湧いた疑問に今までの涎もどこへやら、あたしの頭は支配されてしまった。実にぎりぎりセーフ。<br>「マグロいっぱい」だろうが「新海産物ツナ」であろうが、どちらにせよこのマグロ入りマグロのおかげであたしの人間としての尊厳は守られたのだ。<br>ニャーと叫んでネコ缶を食べ始めるに至らなかったコトをこのネコ缶に感謝しなければなるまい。<br>
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10198706700.html</link>
<pubDate>Tue, 27 Jan 2009 13:47:47 +0900</pubDate>
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<title>彼と彼女のいる世界</title>
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<![CDATA[ 　祖母の四十九日はゴールデンウィークに行われることになった。 <br>　晩年、痴呆症を患うも凛と生きていた祖母ではあったが、やはり寄る年波には勝てず入院の憂き目にあった。それが一昨年のこと。あたしの顔を忘れても鍬を担いで畑を耕していた日は遠く、病院での祖母の生活は実に静かな、まるで無声映画を見ているかのようであった。きっともう家に帰ってくることはないだろう。ベッドに横たわる祖母の姿を見てあたしは感じた。そしてしばらくの入院生活が続き、担当医からもって三ヶ月との申告。祖父を入院生活の末、病院のベッドで無くしていたからだろうか、父と母は祖母を自宅看護に切り替えた。あたしのもっとも望まない形で祖母は実家に帰ってきた。そして、三ヶ月の余生を実家の、祖父母が寝ていた部屋で送ることになったのだが。 <br>　なんと、祖母はそれから一年も生きていた。まったくすごいことである。実質4倍。その間介護を続けた母は相当たいへんであっただろうが、母親を亡くした父には申し訳ないが、さらに不謹慎でもあるのだが、祖母の葬式のときあたしは密かに思った。 <br>「ぐっじょぶグランマ！お疲れ様でした！！」 <br><br>　思い返せば4年前。グランパの葬儀の時、すでに相当に痴呆の進行していたグランマには、あたしが誰だかわからなかった。大学進学とともに東京に出てきて、そのままほぼ実家には帰らず、悠悠自適に生活していたのだ。たまに帰って思い出してくださいと言うのも自分勝手な話である。だから、祖母があたしをわからないことに関して憤りは覚えない。もともとおじいちゃんっ子であったあたしと祖母の間には微妙な距離感があり、彼女が健在な折りそれは顕著に表れていた。同じ家族でありながら打ち解けられない微妙な壁が存在していた。そしてそれをあたしが排除する努力をしたのかといえば疑問である。きっと家族という関係に安心しそれ以上の歩みよりはしなかったのであろう。だから祖母との思い出も限られたものになってしまう。写真の中で笑う祖母を見ることはできるが、あたしの中で彼女の笑った顔はおぼろげなままなのだ。 <br>　しかし、今でも強く覚えている出来事がある。それはあたしが当時彼女が熱心に行っていたゲートボールの道具を隠してしまったときのことだ。なぜ当時のあたしがそんなことをしたのか。今では思い出せないが、その時の悲しげな祖母の顔だけは忘れることが出来ない。きっとこれから先も決して忘れないだろう。 <br>　 <br>　祖母の棺桶の中にはいくつかの品物と彼女の半纏、杖が収められた。杖をつきながらどこまででも歩いていった彼女愛用の木製の杖だ。出棺時はきれいに焼かれてしまい跡形もなくなっていたが、きっとあちらの世界を元気で歩き回るのに重宝していることだろう。祖母の遺骨を拾いながらそんなことを考えた。そして、ゲートボールの道具が一緒に収められなかったことをふと思いだした。痴呆を患ってからゲートボールは行っていなかったので、ゲートボールの道具はきっとどこかにしまわれたまま、忘れられているのだろう。しかしあちらの世界ですることがなくてはきっとヒマをもてあましてしまうだろう。肺を患っても尚タバコを吸いつづけた祖父のお棺には、山のようにタバコを入れた覚えがある。 <br>　 <br>　現実がすべて。元来無信心者のあたしでも祖父母を亡くした今、ふと彼らのことを考えると、死んだあとの世界の存在を完全に否定する気にはならない。願望として在ってくれるとうれしいと考える。そこに祖父母がいるならなら尚更。絶対にある！なんて口が裂けても言う気はないが、慎ましやかな気持ちで、また彼らと一緒にいられるなら在って欲しいと思う。今度はゲートボールの道具も隠さないし、ちゃんとした関係を築けるように努力してみるつもりだ。　 <br>　死は決して順番には訪れない。しかし次は誰かなんて考えたくもない。だからいずれあたしに順番が回ってきたとき、少しの希望を込めてたくさんのゲーム機、ゲームソフトと一緒にゲートボールの道具をあたしのお棺に入れてもらおう。そんなことを考えた。
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<link>https://ameblo.jp/sakuraix/entry-10198014699.html</link>
<pubDate>Sun, 25 Jan 2009 22:45:49 +0900</pubDate>
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