<?xml version="1.0" encoding="utf-8" ?>
<rss version="2.0" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom">
<channel>
<title>皐月晴レ</title>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/</link>
<atom:link href="https://rssblog.ameba.jp/shatuki/rss20.xml" rel="self" type="application/rss+xml" />
<atom:link rel="hub" href="http://pubsubhubbub.appspot.com" />
<description>テイルズのことだったり、小説だったり、ライブのレポとか、諸々雑食デス。</description>
<language>ja</language>
<item>
<title>願いは届かない 後編③</title>
<description>
<![CDATA[ <div><br></div><div>※こちらのお話は<a href="https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407456923.html">後編②</a>の続きとなっております。ご注意下さい。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><div><br></div><div>──夢は所詮夢。</div><div>だが悪夢は現実のままだった。</div><div>本当はもう少し早い時間に攻め込みたかったのだが、焦って葉月の体調が完全でないうちに挑むのは賢明ではないと判断したのだ。</div><div>そして連中が本陣を構えて居るであろう…光助が銅蔵に戦いを挑んだ場所まで戻ってきた。</div><div>つい数時間前…裏切りに遭い、殺し合った場所。</div><div>死体はそのまま転がっていた。</div><div>どうやらあの戦いは気付かれていないらしい。</div><div>だがその方が好都合だ。</div><div>気付かれていないのなら、奇襲を仕掛けられる。</div><div>それに幸か不幸か、今にも雨が降りそうな空。</div><div>こちら側に有利な状況を作れるかもしれない。</div><div>光助の提案に、しかし彼女は首を横に振り、自身の胸に手を当て、</div><div>「藤花の団、鉄の掟。誇り高き名を名乗り、正々堂々と盗め」</div><div>はっきりと、紡ぐ。</div><div>真っ直ぐにこちらを見つめるその姿に、なんだか自分が恥ずかしくなる。</div><div>どこにいたって、たとえ藤花の団が無くなったとしたって、彼女は藤花なのだ。誇り高く、気高い。</div><div>「…わぁったよ。けど、死んじまったら意味がない。それだけは、誓ってくれ」</div><div>そんな彼女に、今も昔も憧れていた。</div><div>妬むくらい、羨ましいと思った。</div><div>真っ直ぐに生きる彼女のように、自分もなれるだろうか。</div><div>菊川という一族の罪を告げようかと思った。</div><div>言えばきっと、彼女はわかったと受け入れてくれるだろう。</div><div>だが、なにも変わらない。</div><div>原因を知ってところで、現状が変わるわけではない。</div><div>光助は唇を噛み、それから口を開く。</div><div>「葉月。今回、藤花に恨みのあるヨソの山賊も参加してるって話だ。首を取っても、気は抜くなよ」</div><div>「ヨソの山賊…土佐組の竜さんは、大丈夫かな…」</div><div>光助の言葉に僅かに表情を曇らせた葉月。</div><div>土佐組の頭領とは今もまだ交流は続いている。</div><div>公に交流しているわけでもないし、個人的に、仲良くしているだけだ。</div><div>けどまぁ…</div><div>「あそこは守備固めに向いてる。あのおっさんのことだ、それくらいの危険は想定内だろう。それに…確認に行くことは出来ない」</div><div>助けを求めれば、彼らとの関係を知られることになる。</div><div>もっと言えば、自分たちの仲間を守るために見捨てられたっておかしくない。</div><div>そんな決断を、竜にさせたくはない。</div><div>…と、葉月が身を低くし、息を殺す。</div><div>「…行こう。戦い、終わらせる」</div><div>「ああ。頼むぞ、葉月」</div><div>葉月が刀に手をかけ、再び、歩き出した。</div><div>息が詰まりそうな空気。</div><div>この戦いを終わらせるのだ。</div><div>全てを彼女に背負わせるつもりはない。</div><div>湿った香りを身にまといながら、地面を蹴り駆け出した葉月を横目に気配を消す。</div><div>目を凝らし、奥に立つ男の顔をじっ、と見つめ…その堂々とした佇まいとこんな状況にも臆することのない表情に、一度目を閉じた。</div><div>良かった。</div><div>自分の知っている人だ。</div><div>菊川の屋敷に仕える、良識のある──面識のある人間だ。</div><div>気付かれないように地に伏せ、背後を取れる位置まで移動するために慎重に慎重を重ね地を這う。</div><div>途中甲高い金属音が何度も響くが、決して顔を上げることはしなかった。</div><div>葉月が簡単にやられることはない。</div><div>断言しても良い。</div><div>だが、ただ彼らに勝つだけではこの戦いは終わらない。</div><div>戦う彼女を、ただ見つめているわけにはいかないのだ。</div><div>大将の男の後ろまで回り込み、ゆっくりと身体を起こし、そのときが来るのをじっと待つ。</div><div>くるくると踊るように刀を振るう少女の姿は、酷く美しく、その動きに目が離せなくなる。文字通り、釘付け。</div><div>そしてそれは、自分だけじゃない。</div><div>光助は手を伸ばしながら息をゆっくりと吸い、</div><div>「動くな」</div><div>低く、言葉を紡ぐ。</div><div>手に握るは、菊川の家紋の刻まれた懐刀。</div><div>「…光助…？」</div><div>びっくりしたような葉月の声を無視し、大将の喉元に突きつけた刃に意識を向ける。</div><div>どんな些細な動きも見逃すわけにはいかない。</div><div>僅かな油断が、命取りになる。</div><div>「…お久しぶりです、倫太郎おじさん」</div><div>そして、呟く。</div><div>その言葉にぴくりと肩を揺らした大将の男──篠崎倫太郎は、僅かにこちらを振り返った。</div><div>「光助…坊ちゃん…なのですか…？」</div><div>「坊ちゃんなんて歳じゃないよ、もう二十二だ」</div><div>倫太郎が声を震わせ、その声に肩をすくめた。</div><div>幼い頃…まだ屋敷にいた頃、勉学を教えてくれたり、常識や作法を教えてくれた。風呂に一緒に入ったり、雪合戦したときもあった。</div><div>もしかしたら、実父よりも長い時間を接していたかもしれない。</div><div>「坊ちゃんは…いくつになっても、坊ちゃんです」</div><div>そんな光助の想いを感じ取ってなのか、疑うことなく、彼は慈しむように紡いだ。</div><div>これなら、これ以上無駄に命を散らせる事を防げるかもしれない。</div><div>光助はあくまで刃を突きつけたまま、口を開く。</div><div>「もうこれ以上誰も死なせたくない。頼む、こんな戦い…」</div><div>終わらせよう。</div><div>そう言葉を吐き出そうとし、だが不自然なほど自然に歩み寄ってくる男の姿に思わず意識を向ける。</div><div>なんだ？と眉を寄せ、そのすぐあと葉月が男に向けて刀を振り上げた。</div><div>敵だ。</div><div>光助が理解できたのはそれだけ。</div><div>葉月の刀より数瞬早くこちらの間合いに踏み込んだ男は、体当たりをするように倫太郎の腹に刃を突き刺し、さらに力を込めてきて。</div><div>やばいと思った。</div><div>よろめく倫太郎を支えていては、一緒に貫かれる。</div><div>光助は一緒になって後退りながら、葉月が刀を振り下ろしたタイミングに合わせ地面を転がり距離を取る。</div><div>さらに葉月が小刀を投げつけ自分と男の間に身体を滑り込ませれば、光助は男を睨みつける。</div><div>「藤花の団参謀…菊川光助…その首、俺が貰い受ける…」</div><div>しかし狂気の笑みを浮かべながら男が刀を構え、その身のこなしに眉を寄せた。</div><div>この男…どこかで…</div><div>思考を巡らせ、記憶と照らし合わせ、光助は目を見開いた。</div><div>「お前、あの時の糞野郎かっ！！」</div><div>刹那、光助は叫んでいた。</div><div>葉月の腕を掴み、こみ上げてくる怒りに意識が遠のくほどなにも考えられなくなった。</div><div>四年前のあの日──なにも知らぬ葉月を襲い、光助が決死の思いで追い払った、啄木鳥という山賊団の男。</div><div>また自分は、この男に全てを奪われようとしているというのか。</div><div>大切なもの、全てを。</div><div>「──っ！！！」</div><div>すぐ隣で、引き攣った悲鳴が上がり、硬直し、異常なほど見開かれた瞳がそこにはあって。</div><div>また、彼女を苦しめようというのか。</div><div>そんな事…させない！</div><div>「飲まれんな葉月！！！」</div><div>強く腕を引き、倫太郎の腹から引き抜き振り上げられた刀を、持っていた懐刀で受ける。</div><div>重い一撃。</div><div>武器を使った戦闘は、自分でも意味が分からないほど下手くそだ。</div><div>だが、それでも。</div><div>「もう誰にも、葉月は触らせねぇ！！！」</div><div>歯を食いしばり、押し切られまいと競り合いながら、光助は男を睨みつける。</div><div>もうこれ以上、この男に好き勝手やられるつもりはない。</div><div>過去の産物は、ここで消えるべきだ。</div><div>それに自分は…──自分たちは、あの頃とは違う。</div><div>「葉月は俺の女で、藤花の若頭だ。てめぇ如きが気安く話しかけてんじゃねーよ」</div><div>無知で無力だったあの頃とは、違うのだ。</div><div>「さようなら」</div><div>光助の背中越し。</div><div>葉月が、刀を振り下ろした。</div><div>「ぐぁっ！」</div><div>肩口を抉る一振りは、誰が見たって致命傷で、ふらふらと後退する姿に少しずつ距離を取る。</div><div>油断はしない。</div><div>完全に間合いが外れるまで様子を見つめ、足下でかすれた声が聞こえれば目を向けた。こちらを見上げる、倫太郎の鈍い瞳。</div><div>「これが、貴方様の出した、答え、ですか…」</div><div>死を目前にして、彼は静かに呟いた。</div><div>これ…ね。</div><div>光助は、肩をすくめた。</div><div>「理解してもらえるなんて思ってはないよ。けど、後悔はしていない」</div><div>自分が屋敷にいた頃は、毎日楽しいことばかりで…遊びも勉学も、料理や洗濯の手伝いだって、なんだって、光助には興味深い事だった。</div><div>何一つ、苦労のない日々だ。</div><div>そんな平穏を捨てて、山賊として生きる。</div><div>こんな滑稽な話はない。それくらい光助にだってわかってる。</div><div>光助は倫太郎に向け微笑み、傍らにしゃがみ込む。</div><div>こんな形になってしまったが、ようやく自分の口から伝えることが出来た。</div><div>一緒になってしゃがみ込み倫太郎のために祈ろうとしてくれる最愛の人との未来を、ようやく。</div><div>懐刀を仕舞い、目を閉じた光助は、不意に葉月が動く気配に顔を上げ──背中を走る衝撃に、前へとつんのめる。</div><div>なんだ？</div><div>そう呟こうと口を開き、しかし零れ落ちた呻き声と共に焼けるような強烈な痛みに襲われ息が出来なくなる。</div><div>一瞬で身体が制御できなくなり、見開いた視界の端に映る血に塗れた白銀が自分の体の中に消えていけば再び痛みが襲う。今度は痛みを掻き回す、強烈で陰湿な痛み。</div><div>意識が飛びそうな痛みに為す術もなく、歯を食いしばり呻くしかなかった。</div><div>「はは、ははははは！！！」</div><div>そんな光助の意識に、突如として響き渡る嗤い声。</div><div>耳障りな、嗤い声。</div><div>ああ、葉月を守らなくては。</div><div>光助は痛みを堪え、うっすらと目を開く。</div><div>ぼやける視界には、こちらを見つめ、光助の頬に手を伸ばす彼女の姿。</div><div>今にも泣きそうな──感情を吐き出せないでいる、小さな女の子。</div><div>ほら、また。</div><div>不甲斐ない自分が、嫌になる。</div><div>こんな表情を、させたくないのに。</div><div>光助は葉月の頬に手を伸ばし、上手くできているかわからないけど、微笑んでみせる。</div><div>「泣かないでくれ、葉月」</div><div>そんな顔しないでくれ。</div><div>俺のために、そんな顔しないでくれ。</div><div>光助は体制を整え、泣いてなんかいないと意地を張る彼女のすぐ側に小瓶が落ちていることに気付く。</div><div>解毒効果のある、特製薬。</div><div>「つーか、傷口に指突っ込んじゃだめだろ。めっちゃ痛ぇ」</div><div>おそらく…傷を掻き混ぜるあの痛みは、そういうことだ。</div><div>光助は痛みに震えそうな声を必死に押さえ、不意に視界に入る男の姿に眉を寄せた。</div><div>今度こそ、殺すべきだ。</div><div>もう二度と…この男に邪魔されたくない。</div><div>だが光助や葉月が動くより早く──とん、と男の胸に刀が突き刺さった。</div><div>まさかと視線を彼に…倫太郎に向ければ、体を起こし虚ろな瞳で光助を見つめ…力なくその場に倒れ込んだ。</div><div>開かれたままの瞳。</div><div>光助は、唇を噛みしめた。</div><div>意識の遠くで、醜い笑い声が聞こえる。</div><div>まだ生きているのか。</div><div>ああでも、だめだ。</div><div>もう、動けそうにない。</div><div>終わったのね、と小さく呟く声も、水の中で聞いているみたいだ。</div><div>動かしづらい身体と、雲の隙間から射し込む光。</div><div>長い戦いが、終わったのだ。</div><div>日にちにすれば、ほんの一日程度の。</div><div>彼女が光助から離れ、勝利の咆哮を上げる。</div><div>藤花の団を統べる者としての、やらなくてはいけないこと。</div><div>そんな様子を見て、成長したな。なんて、思ったりして。</div><div>血塗れの地面から見上げた俯く彼女の後ろ姿。髪の隙間から覗いた口元は、淋しげに弧を描いていた。</div><div>「…葉月」</div><div>光助は、愛しい名を呼ぶ。</div><div>傷口を布で押さえ、笑う。</div><div>「ここに居たって、仕様がねぇし、少し…休もうぜ。俺も、ちゃんと血止めしないと」</div><div>もう片方の手を伸ばせば、華奢な手が触れ、苦しそうに、辛そうに、表情を歪ませる。</div><div>ふわりと風が吹けば、どこからか藤の花の匂いがする。</div><div>いつか二人で見に行こうという他愛のない約束が、今になって蘇ってくる。</div><div>葉月に身体を預けながら、光助は目を細めた。</div><div>襲い来る強烈な眠気に抗いながら、ぼんやりと、天を仰いだ。</div><div>これが、自分たちが守ろうとしていた世界か。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>血痕を残さないように細心の注意を払いながら、二人きりの時間を多く過ごした秘密基地へと逃げ延びた光助は、しかし強烈な眠気に耐えられず、意識を失った。</div><div>なにか夢を見ていたような気もするが、なにも思い出せない。</div><div>ゆっくりと目を開け、薄暗い岩穴の中葉月の泣き腫らした顔に覗き込まれればもう一度、瞬きをする。</div><div>じんじんと鼓動と共に痛みが広がり、霞んだ視界で彼女がまた、涙を零す。</div></div><div><div>けれどその涙を拭い、葉月は静かな声で、楽しげに言う。</div><div>これから二人、どうしようか。</div><div>遠く離れた地で暮らす静に会いに行くのも良いね。</div><div>それともどこか知らない場所で暮らす？</div><div>逃げ延びた子たちを捜して、またイチから始めるのもきっと楽しいわ。</div><div>少し辛そうに、でも楽しげに未来を描く少女。</div><div>当たり前のように、彼女の未来には自分が居て。</div><div>不自然なまでに自然な彼女の微笑みに、こっちまで幸せな気持ちになる。</div><div>幸せな…本当に、幸せすぎて困るくらい、愛おしい…</div><div>「なぁ葉月」</div><div>「なぁに？」</div><div>光助は相槌を打つのを止め、</div><div>「今、寒いか？」</div><div>そう、問い掛けた。</div><div>「…？ううん、平気。でももうすぐお日様沈むから、火を焚かないとかな」</div><div>少し不思議そうに彼女は答え、外を見ようとしているのか僅かに身体が離れる。</div><div>「じゃあ、まだ、明るい？」</div><div>「……空、橙色…だよ？」</div><div>薄暗い秘密基地の中。</div><div>光助は橙色だという世界を見ようと起きあがろうとするも、ぴくりともしない身体に自嘲じみた笑みを浮かべた。</div><div>「あ〜、そっかぁ…夕焼けか〜…」</div><div>自分の身体のことは、自分が一番わかっているのだ。</div><div>リミットが迫ってきていることは、自分が、一番…</div><div>「…こーすけ…？」</div><div>自分の名を呼ぶ彼女の声が、微かに震えていた。</div><div>葉月に名前を呼ばれるのが好きだった。</div><div>彼女の声で名を紡がれると、自分が此処にいて、彼女が自分を求めてくれていて、自分だけを見てくれている。そんな錯覚に酔えるのだ。</div><div>「光助っ！！」</div><div>なのに、そんな辛そうな声で呼ばれても、全然嬉しくない。</div><div>光助は深く息を吐き、</div><div>「ああ、くそ、こんな簡単に、終わっちまうのかよ…」</div><div>どうしようもない結末に唇を噛みしめた。</div><div>恐る恐る触れてくる手は温かく、そっと握り返せば光助にすがりつくように葉月が表情を歪ませる。</div><div>「光助、あたし、どうすればいい？どうすれば、光助、元気になる？」</div><div>こんな状態でも、自分と共に生きる未来を信じてくれるのか。</div><div>こんなにも…絶対的な別れが、迫ってきているというのに。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>絶対的な、死が。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>「葉月、よく、聞け」</div><div>光助は唇を動かし、葉月に伝えなくてはならない言葉を、吐き出す。</div><div>きっと、どうすればいいのか、考えているであろう彼女に。</div><div>これから彼女がどうすればいいのかという、最期の。</div><div>息を吸い、全身に回る痛みに顔を歪め、言いたくないと叫ぶ感情を押し殺し…微笑んだ。</div><div>「お前は、幸せになれ」</div><div>その言葉が彼女をどれほど苦しめるのか、理解した上で。</div><div>徐々に黒く染まっていく世界で、ただただ微笑む。</div><div>「まだまだ世界には葉月の知らないことがたくさんある。楽しいことや…旨い飯も、そりゃたくさん、な」</div><div>良いことばかりではない。</div><div>きっとたくさん辛いことがあって、でもそんな彼女を支えることは出来ないから。</div><div>「そういう知らないことをたくさん経験して、自分の感情をちゃんと吐き出せるようになって…誰よりも、幸せになれ」</div><div>鉛のような腕を持ち上げ、彼女の頬に触れ、一つ息を吐く。</div><div>残り少ない時間で、出来る限りの言葉を…</div><div>「葉月は……、俺の自慢の嫁さんだ。知らないことは多いけど、相手を思いやれる、優しい…」</div><div>と、彼女の手が光助の手に重ねられ、こつんと額同士が触れ合う。葉月の涙が──落ちる。</div><div>また、泣かせた。</div><div>ただ彼女に、幸せになってほしいだけなのに。</div><div>ぼたぼたと頬に落ちる雫。</div><div>「光助がいれば、あたしは、それだけで幸せ…他に何もいらない。光助さえ居てくれれば、あたしは、なにも…」</div><div>嗚咽混じりに彼女は光助にすがりつき、お願い。と強く手を握って。</div><div>その言葉だけで、もう、十分すぎるくらい幸せで。</div><div>「しっかりしろ葉月！俺は、もう、むりだ…。でも、おまえは…歩き続けなきゃいけないんだよ…っ」</div><div>光助は彼女の手を握り返し、力を振り絞り叫ぶ。</div><div>葉月が一人で、歩いていけるように。</div><div>それが彼女を傷付けることだとしても</div><div>「やだっ！！こーすけ言ってくれたもん！ずっと一緒だって！ずっと守ってくれるって！！俺が、幸せに、するって…」</div><div>駄々をこね、何度も交わした約束に涙するその姿は、幼い少女のようだ。</div><div>月夜に誓った、永遠の約束。</div><div>彼女にとって光助との約束は、どれほどの存在であれたのだろうか。</div><div>自分という存在は、彼女にとって…</div><div>「お願い…側にいて…」</div><div>「はづ、き…」</div><div>光助の胸に突っ伏し駄々をこねる葉月の頬に、もう一度手を伸ばす。</div><div>「一人にしないで…もう、怖いのはやだよ…」</div><div>怖いのはやだ。</div><div>そうだ。</div><div>一人は怖い。</div><div>誰もいなくなった世界で生きていくことは、きっと、とても怖いことだ。</div><div><br></div><div><br></div><div>「葉月」</div><div><br></div><div><br></div><div>真っ黒に染まった世界に、声を、落とす。</div><div>残された時間で、伝えなくては。</div><div>「愛してる」</div><div>例え自分が死んでも、変わることのない感情を。</div><div>「これからお前が出会うどんな奴よりも、葉月のことを愛してる」</div><div>彼女が決して、独りではないということを。</div><div>「これからおまえを愛するどんな奴より、葉月のことを愛してる」</div><div>自分が彼女のことをどれほど愛していて、</div><div>「一緒に居れなくても、ずっと…永遠に、葉月だけを、愛し続ける」</div><div>どれほど強く想っていて、</div><div>「葉月…生きてくれ…」</div><div>どれほど彼女に生きてほしいと願っているかを。</div><div>「こー…すけ…」</div><div>何度も鼻をすすり、しゃくりあげながら、葉月の唇が…触れる。</div><div>もうなにも見えないのに、それが彼女の唇だって事がすぐわかってしまう。</div><div>何度も重ね合わせた、彼女の温もり。</div><div>「あたし、も…こーすけのことが、好き。あたし、わからないことたくさんで、愛…せてるのかも、わかんない。でも、あたしには、こーすけしか居なくって、あたしは、あたしは…」</div><div>何度もつっかえながら言葉を吐き出す彼女の声は、震えていた。</div><div>きっと葉月は…今もまだ、自分には感情が無くて相手の気持ちをわかってやることも汲み取り理解してやることも出来ないと思っているのだろう。</div><div>何一つ上手に伝えられないと、自分の無力さを悔いているのだろう。</div><div>自分の気持ちを伝える方法は、言葉だけではないのに。</div><div>痛いくらいに、伝わってるのに。</div><div>こんなにも葉月の想いは伝わってるのに。</div><div>くそったれ…</div><div>何でこんな事になってしまった？</div><div>幸せになれって？</div><div>自分じゃない、他の誰かと？</div><div>ふざけんな。</div><div>「俺が…っ、葉月を幸せにしたいのに…っ」</div><div>ずっと側にいて、一緒に歳取って。</div><div>二人でしか見つけられない幸せを、手にするはずだったのに。</div><div>それを、自分じゃない他の奴なんかに…</div><div>「取られてたまるか……俺の、葉月…」</div><div>指を絡ませ、真っ直ぐに葉月を見つめてくる光助の瞳から、涙が、溢れた。</div><div>彼女の顔が、見えない。</div><div>愛しい彼女が…</div><div>「くそ…死にたくねーよ…葉月と、生きていくって…決めたのに…っ」</div><div>何度も誓った永遠を、約束を、決意を。</div><div>もっと、見せたい世界があるんだ。</div><div>もっと、知らない世界を。</div><div>もっと、ずっと、一緒に。</div><div>「くそ…葉月…俺は……」</div><div>「こーすけ、あたし…っ」</div><div>ごめん。</div><div>そう謝ろうとした光助の唇に、また、温もりが触れる。</div><div>「あたし、こーすけに出会えて、一緒に過ごせて、夫婦になれて、本当に、本当に…」</div><div>葉月が紡ぐ精一杯の言葉は、悲しいくらい遠くで響く。</div><div>どこまでも、この真っ黒な世界は、残酷で。</div><div>「光、助…っ」</div><div>「ごめん…ごめんな、はづ、き…ずっと、お前だけを、想って…」</div><div>「やだ…まって、いかないで…！」</div><div>「は、づき…俺の、葉月…」</div><div>意識が、世界が、なにもかもが──遠く、遠く。</div><div>「………いきろ」</div><div>恐怖はない。</div><div>ただこの胸にあるものは、</div><div>「幸せに、なって、く…れ…」</div><div>自分では叶えられない、ちっぽけな願い。</div><div>ああ…くそ………</div><div>葉月。</div><div>俺の、葉月。</div><div>どうか、どうか。</div><div>そして全てが、白に変わった。</div><div>世界の全てか、白に。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>そして真っ白な世界で、聞き慣れた声が明確な殺意を持って、</div><div>「てめぇまじでふざけんなよ」</div><div>そう、怒鳴る。</div><div>顔を上げれば、やはり見慣れた顔。</div><div>見慣れた…怒った顔。</div><div>「葉月をっ！！！守るんじゃねーのかよっ！！！幸せにっ、すんだろ！！お前がっ！！」</div><div>座り込む光助の胸倉を掴み、無理矢理身体を引き上げる彼の目は、泣き腫らしたように、赤い。</div><div>真っ白な世界。</div><div>真っ白で、気を抜くと自分が消えてしまいそうな、そんな空間に…忍と、七郎と、ヤスと、文男と。</div><div>同じように怒った顔をしている七郎と、オロオロしているヤスと、なんとか場を宥めようとしている文男を見上げ、光助は口を尖らせた。</div><div>こっちだって好きで死んだ訳じゃないのに、いきなり怒鳴られたって。</div><div>これでも、がんばったんだぜ？</div><div>光助は「悪かったよ」と降参するように両の手を挙げ、</div><div>『───…！』</div><div>響く声に、視線を向けた。</div><div>遠く、遠く、遙か向こうで、必死に何かを叫んでいる…その姿に。</div><div>暗闇から手を伸ばす、その姿に。</div><div>「光助」</div><div>「光助兄さん」</div><div>「ちゃんと、言ってやれ」</div><div>「…おう」</div><div>最期に、彼女に残せる言葉を、紡いだ。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>「今日も、最高に美人だな」</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>ありふれた日常を。</div><div>何でもない幸せを。</div><div>届くことのない、最愛の願いを。</div><div>そして光助は、目を閉じる。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>全て、お仕舞い。</div><div>統べて、お終い。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>…───────────────…</div><div><br></div><div>長い長いお噺を、読んで頂き、本当にありがとうございます。</div><div>彼女と彼の紡ぐ、十数年の何でもない日々は、これにてお終いとなります。</div><div>葉月、という少女に出会って5年…</div><div>彼女の生きた軌跡をこうして形に出来て、本当に、本当に…。</div><div>けど、もうしばらく、『願う』シリーズにお付き合いいただければ幸いです。</div></div><div>彼と過ごした日々と、友人と過ごした日々に、彼女が何を感じ、何を掴むのか。</div><div>蛇足にならないように、頑張ります。</div><div><br></div><div>改めて。</div><div>ここまで読んでくださった貴方様に最大級の感謝を。</div><div>誤字脱字乱文ご容赦願います。</div><div>今度は近いうちに更新出来ると良いなという希望を込めつつ。</div><div><br></div><div><br></div><div>…2018.09.24…</div><div>……柊 皐月……</div><div><br></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407457413.html</link>
<pubDate>Tue, 25 Sep 2018 13:16:52 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>願いは届かない 後編②</title>
<description>
<![CDATA[ <div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto;">※こちらのお話は&nbsp;</span><a href="https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407456367.html">後編①</a>&nbsp;の続きとなっております。ご注意下さい。</div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">中に足を踏み入れた光助は、数時間前に別れた自分の部下、幹夫と辰巳に再会を果たした。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">どうやら彼らが、女たちを守りながらここまで移動してくれたらしい。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">集まった女たちを前に、光助は今まで見てきたモノをすべて伝えた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">毒を武器に仕込んでいること。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">もう何人もの仲間たちがやられてしまったこと。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">奴らの方が上手であること。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">自分たちも、無事に逃げられる保証はないということ。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">黙って光助の言葉を聞いていた彼女らは、涙を流し、それでも、取り乱すことなく頷いてくれた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">不安と。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">恐怖と。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">それぞれにいたであろう大切な人たちへの想いを、飲み込んで、光助の言葉を受け入れてくれた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「すまないみんな…俺の、認識不足だ…もっと、警戒していれば、ここまで酷い状況にはならなかったのに…」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">謝って何かが変わるわけではない。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">けど彼女たちの強い表情を前に、少し、甘えたくなった。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">案の定、彼女らは謝る光助の背をバシンと叩き、豪快に笑う。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「私たちは、藤花として生き、藤花として死ぬ。とっくにその覚悟は決まってんだよ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">不安も、恐怖も、なにもかも受け入れた上で、信じると、言ってくれたのだ。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「こんな所で弱音吐いてる男に、若姫様は任せられないね」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「ほんと、男って追い詰められるとすーぐ駄目になるんだから」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「大丈夫です。光助さんがもし間違ったら、私たちが怒ってあげますから」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">口々に、彼女らは笑う。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「私は、藤花のみなさんに…若姫様や、光助様に、救っていただきました。死んでしまいたいと思っていた毎日から、もっと生きていたいと思えるこの場所に連れてきてくださったのは、みなさんです。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">だから…バラバラになったって、平気」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「…これ以上くよくよするなら、殺すわよ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">ああ、参ったな。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">追い詰められたときの女たちはどうしてこうも強いのか。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">ガリガリと髪をかき混ぜ、光助は低くて今にもぶつかりそうな天井を見上げた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">近すぎてなにも見えない岩の塊。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">大きく息をすれば、自分に跳ね返ってくる。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「じゃあ…そうだな、なんか、飯くれ。腹減っちまったわ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">に、っと笑い腹をさすれば、彼女たちからドッと笑いが起こる。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">緊張の糸が切れたかのように、涙目になりながらみんなして笑う。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「なんだか、若姫様みたい」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「葉月さん、帰ってくるなりいっつも『おなかすいちゃった…』ですもんね」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「今日もきっと、腹ぺこで帰ってくるわよ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「なら、たくさん食べさせてあげないとね」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">大量に持ち込んだのであろう食料袋をがさがさと探り始めた彼女たちは、火を使えないこの狭い洞穴の中で出来る限りのご馳走を、光助や数人の男達に振る舞った。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">そのご馳走を食べ、光助は吉助に目を向ける。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「吉さんは此処に残って、彼女たちを守ってほしい。俺は、他の奴らを連れて大将を叩きにいく」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「……何処にいるのか、見当は付いてんだろうな？」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「川沿いに戦闘の跡はほとんどなかった。月望みの丘の方は行ってないからわかんねぇけど、たぶん、居ないと思う」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「根拠は？」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「背水の陣を好んで選ぶ奴は居ない。それに土地はこっちに利がある。罠だって、いくつも配置してある。内通者がいたとしたら、あえて選ぶなんてリスクは負わないはずだろ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">もちろん、そう思わせて…なんて裏を掻く可能性がないとは言えないが…むしろある程度の戦力を整えて人数で圧しつつこちらの攻撃に構えて備えた方がよっぽど効率的だ。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">そうできるだけの戦力は、揃えてきているのだから。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">飯を食べた後だからなのか、頭の回転がさっきまでと違うのが自分でも分かる。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">僅かな灯火の向こうで、吉助が伸びをしようと両手を持ち上げ、「いて！」と声を漏らす。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">格好がつかねぇなぁ、と笑い、彼は光助の肩を叩いた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「行ってこい。留守の間は俺が女達と楽しんどくぜ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「ヨメさんに半殺しにされるぞ？」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「良いんだよ。あいつだって俺に内緒で勝手してたんだ。勝手に、死にやがって」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">嗚呼。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">彼の伴侶は、もう…</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">光助は叫び出しそうなくらい溢れてくる感情を喉に押し込め、肩をすくめた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「化けて出てくるぞ〜」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「けっ、来れるもんなら化けてみやがれってんだ。文句言わなきゃ腹の虫が収まらねぇんだ」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">ほら行ってこい。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">吉助は光助を追い払うように手を動かすと、暗闇の奥へと、進んでいく。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「…おし、お前ら。覚悟はいいか？」</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">その姿を見送り、光助はそれぞれに武器を手にした十人程度しかいない男たちに目を向けた。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">正直、名前すら知らない奴ら…恐らく戦闘を苦手とする連中ばかりだ。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">光助の問い掛けに返ってくる言葉はない。</span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">だがその瞳には決意が見れる。</span></div></div><div><div>「行くぞ、大将の首をもぎ取る」</div><div>そして光助たちは洞穴から飛び出した。</div><div>橙に染まる森を駆け抜け、"見当"を付けたポイントへと最短のルートを選択する。</div><div>これ以上、好き勝手はさせない。</div><div>だが当たり前のように待ち構えている大男の姿に、光助は目を細める。</div><div>此処に彼らが居るということは、この先に大将が居る可能性は高い。</div><div>だったら、こんなところで立ち止まってなんかいられない。</div><div>「幹夫、辰巳。此処は任せるぞ」</div><div>「合点！」</div><div>「任せてください。片付けたら、すぐに追いつきます」</div><div>光助は信頼できる自分の部下を、振り返り、返ってくる答えに笑みを浮かべた。</div><div>闇色の着物の懐からクナイを取り出し、低く構える二人。</div><div>大男を前に、ビビる様子はない。</div><div>自分と同じく隠密行動を得意とする二人は、接近戦を好み、その度胸は藤花の中でも抜きん出ている。クナイ捌きも、どんな相手でも容赦のない冷徹さも、そのどれもが信頼に値する。</div><div>「頼んだぞ」</div><div>走りながら彼らの肩に両手を乗せ、一歩前へ出る。</div><div>向こうもこちらの存在に気づき、いかにも重そうな武器を振り上げた。</div><div>「させねぇぞ！！」</div><div>そんな大男に幹夫と辰巳がクナイを投げ付け、牽制をし、その横を光助たちは駆け抜ける。</div><div>襲いかかってくる数人の男たちを幹夫と辰巳それぞれが切り捨て、足を止め振り返り背を向け…──低く、低く、嗤う。</div><div>その死神のような衣がはためき、どろりと嗤う声が、暮れゆく森の中に反響し異様な空気が満ちていく。</div><div>そんな異様さを背に、光助は足を止めない。</div><div>どんどんと距離が離れ、聞こえてくる金属音は酷く遠い。</div><div>次々と襲いかかってくる輩を共に走る仲間たちが払いのけ、刀を振らせる前に、攻撃を仕掛ける。</div><div>刀に毒が仕込まれているのなら、刀を使わせなければいい。</div><div>それでも、一人減り、二人減り。</div><div>光助を残して次々死んでいく仲間たちに、唇を噛みしめる。</div><div>悪態ばかり、口から漏れる。</div><div>振り返ることも弱音を吐くことも、足を止めることすら出来ない。前に進むしか、道はないのだ。</div><div>前に。</div><div>奴らの大将がいるであろう、その場所に。</div><div>光助が葉月を妻として貰い受ける為銅蔵に戦いを挑んだ…あの場所に。</div><div>「光助さん」</div><div>と、名を呼ばれ、光助は少しだけ速度を落とす。目を向ければ、自分より若い青年が難しい顔をして近づいてくる。最近入ったのか、名前の見当もつかない。</div><div>「この人数で攻め込んでも、正直、厳しいと思います」</div><div>その彼が、はっきりと言う。</div><div>その言葉に、光助も肩をすくめた。</div><div>「だろうな」</div><div>光助の後ろには、五人の仲間。</div><div>その中で、戦力になるのは四人…いや、三人か。</div><div>それに対して、相手は数十を越える守りでこちらを出迎えようとするはずだ。</div><div>勝ち目はない。馬鹿でも分かる。</div><div>「じゃあ…」</div><div>「相手の陣形を確認する。幹夫と辰巳が合流して…日が暮れれば、葉月も帰ってくる。そしたら、一気に攻め込むぞ」</div><div>一応考えてるんだぜ、と笑ってみせれば、彼は小さく謝り、ぐ、と拳を握った。</div><div>「謝んなって。今みたいに意見を言ってくれると、こっちも冷静になれる」</div><div>光助はそういって笑いかけると、全員に目を向け、既に顔も分からないくらい暗くなっている木々の間で足を止めた。</div><div>僅かだが、傾斜がある。</div><div>此処をもう少し上れば、奴らが居るであろうポイントに着く。</div><div>いったんここで体制を整えて、それから…</div><div>光助は近くに身を隠せそうな場所はないかとぐるりと辺りを見回し、異様な金属音にその場を飛び退いた。</div><div>一瞬の間を置いて、風を切る音と…飛沫が、舞う。</div><div>呻く声が足下から聞こえ、僅かな光を纏った銀色が、光助に狙いを定める。</div><div>なにが起きたのかは、一瞬で理解出来た。</div><div>「裏切り者がいるとは思っていたが…まさかこんなに近くにいたとはな。驚きだ」</div><div>仲間が死んだのだ。</div><div>その刃を見つめながら、光助は肩をすくめた。</div><div>今さっき会話をし、一緒に戦う仲間として心強くすら感じた青年。</div><div>刀を構え、</div><div>「…殺せたと、思ったんだけどな…」</div><div>青年は悔しそうに呟き、すでに息絶えた──仲間だった男に、刀を突き立てた。</div><div>肉を切る、嫌な音。</div><div>今日何度目かの、仲間の死。</div><div>脳の奥が痺れるようで、呼吸が荒くなる。</div><div>けれど、幾分か、冷静でいられた。</div><div>仲間が死ぬことに、慣れてしまったのかもしれない。</div><div>もしかしたら死んでいった彼らの、名前すら知らないからかもしれない。</div><div>でも、そのお陰で、冷静でいられる。</div><div>今取り乱してはいけない。</div><div>この先に居るであろう本体の奴らに、気付かれてはいけないのだ。</div><div>光助はゆっくり息を吐き、全身の力を抜いていく。</div><div>僅かな動きも見逃さぬよう神経を尖らせ、暗闇を睨みつける。</div><div>月明かりは、木々の青葉に遮られ殆ど入ってこない。</div><div>幸か不幸か…山賊の──光助の最も得意とする環境だった。</div><div>青年の身体が微かに、沈む。</div><div>大きな一歩を踏み出す、その瞬間より僅かに速く光助は地面を蹴った。</div><div>「っ！」</div><div>タイミングを完璧にずらされた青年は、しかし踏み込んだ間合いで刀を振るう。</div><div>その刀を半身を捻りながらかわし、捻った半身を元に戻しながら拳を突き出す。相手の右肩を狙った一撃。足下でかちゃりと刀が鳴った。</div><div>「おっと」</div><div>光助は咄嗟に握っていた拳を開き、頭を垂れるように青年の右手を押さえつけた。</div><div>「燕返しってか？」</div><div>振り下ろした刀を握り直し、斜め上に向かって振り上げ斬り付けてくるその太刀筋をかわすのは、容易なことではない。</div><div>だったら振らせなければいいのだ。</div><div>「くそっ」</div><div>悪態を吐きながら左の拳で殴りかかってくる青年。その表情には苛立ちが。段々に余裕がなくなっているのが見て取れる。</div><div>だが余裕がないのはこちらも同じ。</div><div>長期戦を得意とする光助の戦闘スタイルは、"攻撃を受けることを前提とした"モノだ。斬られたら即死の戦い方など、したことがない。</div><div>寸前で拳を避け大きく距離を取りながら、光助はぐるりと目だけで周辺を見回し、少し離れたところに落ちている刀に眉を寄せる。</div><div>刀は不得手だ。</div><div>だが、素手での立ち回りには限界がある。</div><div>光助は細く息を吐き、斬り掛かってくる攻撃を避けながら刀を拾い上げ──喉元めがけ放り投げた。</div><div>「このっ！」</div><div>体勢を崩しながらも青年は自分に向かって飛んでくる刀を叩き落とし、その隙に光助は一気に間合いを詰める。かちゃりと刀が鳴る。燕返しだ。</div><div>対処法は、わかってる。</div><div>だが同じやり方は通用しないはずだ。</div><div>光助はもう一度刀を握る腕を押さえるために手を伸ばし、けれど案の定こちらの手を警戒し肘で牽制してくるその動きに…光助は歪む口元を抑えられなかった。</div><div>「つーかまーえた」</div><div>伸ばした手を強く握りしめ、文字通り全力で肘に拳を叩き込む──力に圧され青年の身体が限界まで捻られ、握る刀の切っ先が揺らぐ。もう一歩、踏み込み──至近距離よりさらに近くへ──伸び上がるように側頭部めがけ頭をぶつけ合わせた。</div><div>目から星が飛び出るほど痛い。</div><div>その痛みに思わず顔をしかめ、けれどふらつく相手を前にさらに体を動かす。懐に仕舞われた大切な刀を掴み、青年の刀を握る手に向け叩きつけた。</div><div>刀が、地面に落ちる。</div><div>咄嗟に刀を拾おうと身体を折る青年の顎。思い切り蹴り上げた。</div><div>ゴッ、と爪先に固い感触が伝わり、大きく間合いを取りながらその手応えに息を吐き出す。</div><div>ふらりと揺れた青年はそのまま仰向けに倒れ、動かなくなる。</div><div>脳を揺らすほどの衝撃を与えたのだ。狙い通り、気を失ったようだ。</div><div>それでも慎重に青年との距離を縮め、光助は彼が持っていた刀に目を向ける。</div><div>暗くて見えないが、恐らく毒の塗ってある…血に染まった刀。</div><div>拾い上げ、月明かりを受け浮かび上がる白銀を…青年の首に、突き刺した。</div><div>刀越しに骨を抉る感触。</div><div>断末魔はない。</div><div>光助は刀を突き刺したまま放置し、息と、気配を殺す。</div><div>此処に留まるのは得策ではない。一刻も早く離れるべきだ。</div><div>これ以上の戦闘は、乗り切れる気がしない。</div><div>光助は懐刀を仕舞い、月望みの丘の方へと方向転換すれば進み始める。</div><div>頭の中がごちゃごちゃになってきた。</div><div>裏切り者は、殺した。</div><div>だが裏切ったのは彼だけなのか？</div><div>名前も知らない青年一人が、ここまで大きな事を成せるのだろうか。</div><div>これからどうすればいい？</div><div>藤花の団は、自分は、どうするべきだ？</div><div>草を踏む音。</div><div>枝を払う音。</div><div>虫の鳴く音。</div><div>自分の息づかい。</div><div>なんとか心折れないように保ってはいるが、このまま癇癪を起こした駄々をこねたい気分だ。</div><div>木々を抜け、視界が晴れるその手前。</div><div>光助はどすんと腰を下ろし、膝を抱えうずくまる。</div><div>上手く行かないことばかりだ。</div><div>逃げ出したい。</div><div>考えるのも面倒だ。</div><div>わかってる。</div><div>逃げたらきっと後悔する。</div><div>一生悔やんで…銅蔵にも、文にも、死んでいったみんなにも、顔向け出来ない。</div><div>それだけは、嫌だ。</div><div>藤花として生きる道を選んだ。</div><div>だったら、自分の選んだ道からは…</div><div>折れるな。</div><div>まだ、折れるな。</div><div>膝を抱え小さくなりながら念じる光助は、耳に届く草木の音に、ゆっくりと顔を上げる。</div><div>人の、足音。</div><div>敵かもしれない。</div><div>逃げるか、もしくは迎え撃てる体制を取らなければ。</div><div>でも、もう身体が動かない。</div><div>光助は息を殺し音の主を見上げ…──息を飲んだ。</div><div>見間違えるはずなんかない。</div><div>最愛の…誰よりも会いたかった人。</div><div>手を伸ばし、彼女の手首を掴み、</div><div>「んん…っ！！」</div><div>しかしあまりの勢いで引っ張って来るもんだから、思わず大きな声を出してしまう。</div><div>その声に動きを止めた彼女は…葉月は、大きな目をさらに見開き、光助の名を呼ぶ。</div><div>信じられない、といった表情だ。</div><div>「ほ、ホントに…光助…？」</div><div>けどそれは、彼女が此処に来るまでにどれほどの光景を見てきたのか知るには十分だった。</div><div>藤花の仲間を、家族を、本当に大事に思っている彼女には、とても辛かったはずだ。</div><div>彼女の痛みを思い、光助は自分が今まで抱えていた絶望に似た苦しさがどうでも良くなっていることに気付く。</div><div>逃げ出したかったはずの感情は、まだ折れるなと念じていた気持ちは、彼女を守りたいという想いを前に消え失せてしまっていた。</div><div>光助は一瞬の間を開け、微笑んだ。</div><div>「こんな色男、俺以外にいるか？」</div><div>「…いない」</div><div>ほら。</div><div>両手を開き、今にも泣きそうに瞳を濡らす少女を迎え入れ、抱きしめた。</div><div>「こ、すけ…っ！！」</div><div>「おうおう、光助さんですよーっと」</div><div>軽口を叩きながら、彼女の痛みをどうしたら拭ってやれるのか、考える。どうすればいいのか、考え、</div><div>「今日も最高に可愛いな」</div><div>いつも言っている言葉しか出てこなかった。</div><div>ああだめだな、と自分が情けなくなる。</div><div>こんなところで、こんな状況になっても、彼女の前では格好付けたいみたいだ。</div><div>葉月を抱き締めながら顔を覗き込み、</div><div>「一人にさせて、ごめん。辛かったろ？」</div><div>そう呟きながら瞳を閉じる。</div><div>彼女が戻ってくるまで何とかみんなを、藤花の仲間達を守りたかった。</div><div>けど葉月に見せた景色は、こんなに血に汚れていて。</div><div>「あたしこそ、光助を独りぼっちにして、ごめんね？」</div><div>けれど目を開けば、紅蓮色をした穏やかな瞳がそこにはあって。</div><div>頬に触れれば、微笑み、光助の手に自分の手を重ね合わせてくる。</div><div>「…ちょっと会わなかっただけなのに、すっげー良い女になってるんだけど」</div><div>なんだか、悔しい。</div><div>自分の知らないところで、こんなに、こんなに。</div><div>ガバリと覆い被さるように抱きつき、きょとんと首を傾げる葉月の首筋に鼻先を押しつける。</div><div>…と、彼女が小さく…不自然に、声を上げた。</div><div>ハッと顔を上げ、その強張った表情に気付く。</div><div>「お前、怪我してんじゃねーかよ！！毒！毒は平気なのか！？」</div><div>ぐるんと体を回し、羽織代わりの布をめくり上げられれば、葉月は一つ頷いた。</div><div>「毒は大丈夫よ」</div><div>「何でそう言いきれる？」</div></div><div><div>「…この傷は、忍の刀で付けられたものだから。忍の刀には、毒は付いてなかったもの」</div><div>詰め寄るような光助の言葉に、やはり彼女は笑みを浮かべて、それから小瓶を取り出す。</div><div>「これ、もみじからもらったの。二刻程度だけらしいけど、毒の進行を遅められるって」</div><div>「もみじが…？」</div><div>「ええ。そのときに、手当もしてもらった。だから…問題ないよ」</div><div>だいじょうぶ。</div><div>小さく呟いた言葉は、まるで自分に言い聞かせるかのようで。</div><div>きっともみじは…藤花イチ薬草や薬の調合に詳しかった彼女は、もう、この世にいないのだろう。それくらい、容易に想像できた。</div><div>と、彼女は光助の髪に指を絡ませ、目を細める。</div><div>「それより、他のみんなはどうなったの？女子供は…」</div><div>「俺の隊が女子供の護衛に回った。だが状況は良くない。他の隊には、各自待避を言ってあるが、どれだけ逃げられたか…」</div><div>洞穴に立てこもった彼女たちは、無事だろうか。</div><div>幹夫や辰巳も、どうなっただろう。</div><div>考えれば考えるほど、息苦しくなる。</div><div>その苦しみを、強く拳を握り、堪える。</div><div>「ならあたしは…ちゃんと決断しなくちゃね」</div><div>そんな光助の拳を包むように両手で覆い、笑い、葉月は背を向けて歩き出した。</div><div>「葉月…？」</div><div>はっきりと、しかしどこか弱々しい声に…彼女がなにを考えているのか、わかってしまう。</div><div>決めたのだ。</div><div>藤花の団の…未来を。</div><div>「ねぇ光助」</div><div>立ち止まり、振り返り、眉尻を下げ、</div><div>「例え藤花がなくなっても、ずっと、一緒にいてくれる？」</div><div>いつものように、笑う。</div><div>辛いときほど、彼女は笑うのだ。</div><div>光助は葉月の問いに、目を閉じる。</div><div>風が吹き抜け、ここが月望みの丘のすぐ手前だということを、思い出す。</div><div>──彼女と永遠を誓った、場所。</div><div>光助は無言のまま葉月の腕を掴み、そのまま森を抜け、月望みの丘を目指し歩き出す。</div><div>「こ、光助…？」</div><div>戸惑った声。</div><div>当たり前だ。</div><div>岩場まで行けば身を隠すことは出来るが、その岩場までは見通しがいい。見つかれば、戦闘は避けられない。</div><div>抵抗する葉月の声に立ち止まり──目的の場所で足を止めれば、</div><div>「ここが何処だか、覚えてるか？」</div><div>そう口にした。</div><div>その言葉に彼女は首を傾げ、</div><div>「あ…」</div><div>光助が言わんとしていることに気が付いたのか、僅かに俯いた。</div><div>あの日彼女が知ったのは、恐怖という絶対的な感情だ。</div><div>一瞬で身を強張らせるほどの、消せないモノ。</div><div>でも、それだけじゃない。</div><div>「俺はあの日、葉月に永遠を誓った。ずっと、お前を守るって。ずっと、側に居るって」</div><div>その恐怖ごと、包み込みたいと思った。</div><div>守りたいと思った。</div><div>彼女が知ったのは、恐怖だけじゃないはずだ。</div><div>「だから葉月。もう一度、誓わせてくれ」</div><div>あの日と同じようにもう一度手を取り、月明かりの下で。</div><div>「命の限り、お前を愛し続ける」</div><div>あの日と同じ約束を、</div><div>あの日より強い意志で。</div><div>「葉月は、自分の信じた道を進めばいい。自分が正しいと思った道を、前だけ見て歩いていけばいいさ」</div><div>額を合わせ、微笑む。</div><div>大丈夫だからと、想いを込める。</div><div>もし信じた道が間違っていたとしたら…</div><div>その時は、一緒に怒られてやるさ。</div><div>にしし、と声に出して笑えば、葉月は小さく頷き、そっと唇を重ね合わせた。</div><div>なにも迷う必要なんてない。</div><div>月望みの丘の──崖のように突き出した先端に並び立てば、互いに繋ぎ合った手を強く握る──闇夜に向け、低く、吼えた。</div><div>それは狼が遠吠えをするかのように、空高く何処までも響くように、三回。</div><div>それは…藤花の仲間達が知る、合図。</div><div>藤花の団を解散するという、酷く無責任な、最悪なモノ。</div><div>葉月に続き、自身も吼え…何よりも大切にしていた居場所を、自分たちの手で壊してしまったのだと理解する。</div><div>大切だから、壊すのだ。</div><div>失いたくないから、無くすのだ。</div><div>葉月が光助の手を離し、一歩、前に出る。</div><div>崖の、先の、端。</div><div>「我が名は藤花の団若頭、藤花葉月！！！」</div><div>高台から見渡せる森の、山の、どこかに居るであろう仲間に向けて。</div><div>「──生きて！！！」</div><div>すべての想いを詰め込んだ最後の命令を。</div><div>祈るように感情を吐き出した彼女は、力なくその場に座り込んだ。</div><div>赤子の頃から此処で育った葉月にとって、藤花が無くなってしまう喪失感は光助の感じるそれとは比べようのない…計り知れないものだろう。</div><div>藤花として、山賊として居きる方法しか、知らないのだから。</div><div>暗闇に叩きつけられたように感じてるのかもしれない。</div><div>「葉月、立て。こんなところで、立ち止まってらんねーぞ」</div><div>「…光助…」</div><div>「ここから、また始まるんだ。藤花葉月としてじゃなくて、菊川葉月として」</div><div>でも、だったら。</div><div>光助は葉月の腕を取り、立ち上がらせる。</div><div>藤花の団の若頭としてではなく、菊川光助の妻として、生きていけばいい。</div><div>見えなくなってしまった未来を、一緒に歩けばいい。</div><div>それに。</div><div>光助は彼女から視線を外し、目を閉じ、耳元に手を持っていく。</div><div>聞こえるのだ。彼らの声が。</div><div>至る所から響く、狼の咆哮が。</div><div>「ちゃあんと、みんなには伝わってると思うぜ？お前の想い」</div><div>空気を震わせるかのように果てなく広がる幾重もの想いは、反響し、じんわりと染み渡っていく。</div><div>「大丈夫だって。俺たちみんな、大事な家族だろ？こんなもんで、終わったりなんかしないって」</div><div>いつだって、繋がってる。</div><div>口の中だけでそう紡ぎ、肩をすくめた。</div><div>ひとまず、この場所からは離れた方がいいだろう。</div><div>今のやりとりを聞いて、誰か来るかもしれない。</div><div>そうでなくとも、</div><div>「まだ話さなきゃいけないことはあるしな」</div><div>話さなくては。</div><div>誰が逃げ切って、誰が死んで、誰が裏切っているのか。</div><div>葉月が一人きりで戻ってきた、その理由を。</div><div>今自分に出来ることは、誰よりも正確に、今の状況を把握すること。</div><div>そして、彼女を不安にさせないこと。</div><div>落ち着ける場所を探すために動き出しながら、光助は暖かな手を強く握った。</div><div>まだ、守るべきモノは此処にある。</div><div>まだ、負けるわけにはいかない。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>大きな木の根本に腰を下ろし、互いの温もりを求め身を寄せ合いながら今までのことを話した。</div><div>洞穴に残してきた女達も、無事にしているかもわからない。</div><div>光助がこれまでのことを話し終え、今度は彼女が、口を開く。</div><div>危険を知らせようと七郎とお絹夫婦の家を訪ね、しかし既に惨殺された後であったこと。</div><div>忍を助けに行くも、あと一歩のところで間に合わなかったのだと。</div><div>何度も何度も声を詰まらせ、彼女は紡ぐ。</div><div>ただ形見として彼らの刀を持ち帰ることしかできなかった…と。</div><div>葉月は、自分の背中の傷のことは何も言わなかった。</div><div>それがどういう意味なのか光助にはわからなかったが、彼女が言うべきではないと決めたのなら、それで良いと思った。</div><div>それに…いまいち、実感が沸かなくて。</div><div>忍と七郎は、ずっと一緒にいたのだ。</div><div>喧嘩も、何度もした。</div><div>本気の喧嘩だ。</div><div>でもその度に、仲直りをした。</div><div>忍も七郎も、頑固で。いつも光助が折れたのだ。</div><div>葉月と四人、何度も団を抜けて遊びに行けば、しょっちゅう静に怒られ、銅蔵に怒られ、その度に全員分の洗濯の罰を受けて。</div><div>葉月と結婚を前提とした交際を始めたと報告したときの忍の喜びようは、今でも昨日のことのように思い出せる。</div><div>そんな大事な、『最愛』とも呼べる彼らが…死んだ？</div><div>感情が、付いてきていない。</div><div>他の仲間達が死んだときよりもずっと…</div><div>光助は葉月を抱きしめ、遠退く平衡感覚に眉を寄せる。</div><div>だめだ、気を抜けば倒れてしまいそうだ。</div><div>光助は唇を噛みしめ、しかし葉月が</div><div>「そうだ葉月。もう一つお願い。アイツに伝言頼めるか？」</div><div>と呟けば、彼女の顔を覗き込んだ。</div><div>「伝言…？」</div><div>聞き返す光助を見つめ返し、さらに続ける。</div><div>「そ。そんな大した内容じゃねーけどよ」</div><div>それは明らかに葉月の口調ではない。</div><div>だがそれが誰の言葉なのかすぐに理解し──思わず喉が鳴った。</div><div>脳裏によぎるのは、にかっと笑う、彼の笑顔。</div><div>「地獄で待ってる。遠い未来に、地獄で会おうぜ」</div><div>力なく笑う葉月の大きな瞳からは、今にも涙が零れそうで。</div><div>光助を見上げ、泣かないように堪えながら、困った顔をするのだ。</div><div>「忍、最後まで、笑ってた」</div><div>光助の服を強く握り、</div><div>「ありがとうって、笑って…」</div><div>声を震わせながら。</div><div>「あたしのこと、自慢の妹で、自慢の、頭領だって」</div><div>それでも言葉を吐き出し続ける。</div><div>──彼女の瞳から、涙が溢れた。</div><div>それを見て、光助はぼやける視界を袖で拭い、</div><div>「ったく、馬鹿じゃねーの」</div><div>盛大にため息をついた。</div><div>「…光助…？」</div><div>「あいつ、ほんと、なんにもわかってねーなぁ」</div><div>片手で葉月を抱きしめ、もう片方の手で自分の髪をかき混ぜながら、空を見上げる。木に阻まれてなにも見えない、闇色の空。</div><div>風が葉を鳴らす音と、僅かに香る、藤の花の匂い。</div><div>今の今まで気付かなかった、世界の色。</div><div>「俺たちみたいな超優等生が、地獄になんて行くわけねーだろっつーの。美男美女は天国に行くって決まってんだよ」</div><div>自分でも無茶苦茶言ってるのがわかる。</div><div>でも、悲しみ涙することを、彼らは望んでいないはずだから。</div><div>目を閉じ、今にも騒がしく戻ってきそうな悪友達の顔を思い出す。</div><div>どうしようもなく馬鹿で煩わしい、切っても切れない、かけがえのない絆で繋がってしまった、彼らを。</div><div>そして、</div><div>「葉月、もう寝ろ。この戦いを切り抜けるには、お前だけが頼りなんだ。ゆっくり、休んどけって」</div><div>光助は、そう微笑んだ。</div><div>光助も…と渋る彼女を無理矢理自分の膝に倒しぽんぽんと頭を撫でる。</div><div>しばらくなにか考えこみ、それから小さく頷いた彼女は、刀を抱え、目を伏せる。</div><div>長い睫毛。</div><div>段々と、葉月の意識が遠退いているのが手に取るようにわかる。…と、</div><div>「ねぇ、光助…」</div><div>葉月が小さく名を呼ぶ。</div><div>力ない、ぼんやりとした声だ。</div><div>「……なんで…こんな事になっちゃったのかなぁ…」</div><div>そんな声で吐き出されたのは…疑問とも後悔とも取れる、独り言。</div><div>光助は口を開き、しかし眠りについた様子に唇を噛みしめた。</div><div>何でこんな事になったのか。</div><div>光助はどうしても彼女に言えなかった事実に、拳を握る。</div><div>──ヤスを看取り、葉月を見送り、敵陣の偵察に向かったあのとき。</div><div>聞こえてきたのは、複数の貴族が結託し、藤花の団を壊滅させようとしているという話だった。</div><div>そしてその貴族の中に…菊川という商家の名が、入っていたのだ。</div><div>菊川という…光助の、生家が。</div><div>一瞬、意味がわからなかった。</div><div>けど思考が停止したのはその一瞬だけで、すぐに状況を理解し、冷静に、そのことを分析している自分が居た。</div><div>どういう経緯があったかは知らないが、この件に実父が噛んでいることは明白。</div><div>なんでこんなことになったか。</div><div>答えは一つだ。</div><div>父親に見捨てられた日の、続き。</div><div>あの日死ぬはずだった運命が、急速に、動き始めたのだ。</div><div>「…負けらんねぇ」</div><div>今更菊川の連中がどうなろうと興味はない。</div><div>けど、この戦いはこの手で終わらせる。</div><div>自分が招いた戦いは、自分で。</div><div>握りしめた拳をゆっくりと解し、光助は夜風に目を閉じた。</div><div>このまま朝がきて…なにもかも、嘘だったらいいのに…なんて、くだらない夢を思い描きながら。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div></div><div><a href="https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407457413.html">後編③</a>へ続く…</div><div><br></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407456923.html</link>
<pubDate>Tue, 25 Sep 2018 13:13:00 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>願いは届かない 後編①</title>
<description>
<![CDATA[ <div><br></div><div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>　　◆◇◆◇◆</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>銅蔵が死んでから、藤花の団は少し形を変えていた。</div><div>葉月の姉代わりだった静は、銅蔵が死ぬ数日前に──光助と葉月が夫婦となったのを見届けたすぐ後に藤花を出ており、死んだことを告げたときはひどく動揺していた。</div><div>心配して戻ってこようとした彼女を、葉月は追い返し、それ以来、会ってはいない。手紙のやりとり程度だ。</div><div>腐れ縁の一人である七郎も、結婚を境に藤花から離れ、もしもの時の援護隊として山の麓の村に移り住んだ。</div><div>逆に、ヤスと名乗る少年が、藤花に入ってきた。</div><div>幼い頃に親を失い、ひもじさから田畑の野菜を盗って食ったところをとっ捕まり殺され掛けていたのだという。</div><div>怒りで我を忘れた畑の主達を持ち前のおちゃらけた話術で宥め、その少年を忍が拾ってきたのだ。</div><div>このヤスという少年がなかなか面白くて。</div><div>女が自分のお頭になるなんて嫌だ！なんて言いながら葉月に決闘を申し込んで、こてんぱんにされると、今度は光助に向かってきたのだ。</div><div>自分より弱い男にお頭の右腕は任せられない！と。</div><div>仕方なしに相手をすることになった光助は、十近く歳の違う少年相手に一切の手を抜かず拳を振るった。</div><div>十とちょっとの歳にしては、なかなかの腕であった。</div><div>だが所詮子供は子供。</div><div>葉月との戦い方で大体の動きは読めていたし、そもそも、だ。</div><div>こちらとて銅蔵を相手に、"負けなかった"男だ。</div><div>体力、場数、体格…負ける要素はどこにもなかった。</div><div>圧倒的な戦力差を見せつけると、ころりと態度を変え、子犬のようにこちらを慕い始めるのだ。</div><div>子供故の単純さ。</div><div>けれど、思い通りにいかず頑張り続けることに疲れ切っていた光助や葉月には、その単純さが有り難かった。</div><div>疑いを持たずに話すことの出来る、たいせつな家族の一人になった。</div><div>慌ただしく巡る日々の中で、山を下りては七郎の家に入り浸り散らかして帰ったり、土佐組の竜のところに行ってはくだんねぇことで悩むなと不安を笑い飛ばしてもらったり。</div><div>誰かの背中を追いかけ続けていたから、どこを目指せばいいのか、何が正解なのか解らなくなったりして。</div><div>それでも隣には葉月が居て、見回せば忍もヤスも、信じて付いてきてくれた仲間たちも、みんなが居て。</div><div>そうしているうちに、二年という年月が経っていたのだ。</div><div>団を忍たちに任せて葉月と街に出掛けに行くことも増えた。</div><div>いつもは頭領として──本人は若頭と名乗り続けているが──凛とした態度を取っている葉月の、へにゃりとした気の抜けた表情は、光助のなにもかもを幸せにしてくれて。</div><div>そんな中、忍と、ヤスと、ずっと藤花の団で葉月に好意を寄せ続けている文男というおっさんが、光助と葉月の挙式をしようと言ってくれたのだ。</div><div>銅蔵の一件があってから、ずっと先延ばしにしてきたのだ。</div><div>正直そんなものなくても愛し合っていける自信はあったし、山賊として生きている自分たちのはあまり意味のないことではあったのだが、女たちの圧倒的な賛成意見に圧され、執り行うことになったのだ。</div><div>何でも、東の山に変わり者の神主がいる神社があるらしく、そこなら立場も行いも関係なく式を挙げさせてくれるとか。</div><div>せっかく式を挙げれるなら、藤の花が咲く頃が良いな。なんて言ったら、異様なほど盛り上がってしまい、こちらが呆れるほどの夢を描くのだ。</div><div>神主にお願いしてくる！と意気揚々と山を下りていった三人は、だが一人しか戻ることはなかった。</div><div>ただ一人、ヤスだけが戻ってきた。</div><div>まだ幼さを覗かせる表情を痛みに歪ませ、血塗れの身体と虚ろな瞳は、誰が見ても彼の最期を悟らせた。</div><div>そして、彼は言う。</div><div>「文男の兄貴は、死にました」</div><div>喉から漏れる息がヤスの言葉を掠らせ、その場の全員が一音も聞き逃すまいと呼吸を殺す。</div><div>「忍兄さんは、奴らに捕らえられてます」</div><div>聞きたくなくて耳を塞ぎたかった。</div><div>この先の展開なんて、容易に想像できる。</div><div>北東の塔に捉えられているという、親友の末路が。</div><div>宣戦布告をし、山狩りを…山賊狩りを始めようとしている奴らがいったいどこの誰なのか。</div><div>次第に弱々しくなってくる声で、彼は涙を流し、それでも伝えなくてはいけない言葉を吐ききると…葉月の手を掴む。そして、</div><div>「…もっと、生きたかったなぁ…」</div><div>そう呟いた彼は、悔しそうに幼い顔を歪め、死んでいった。</div><div>死ぬ間際、泣きながら、こんなクソみたいな世界をまだ生きたかったと…そう言いながら。</div><div>ああ、まただ。</div><div>また、目の前で大切な人が死んでいく。</div><div>また自分は、何も出来ずにそれを見送るしかないのか。</div><div>出来ることなら忍を助けに行きたい。</div><div>だがその先には罠が仕掛けられているのが目に見えている。</div><div>もし自分が逆の立場でも、同じように人質を使い相手の戦力を分断させるだろう。</div><div>なら、自分たちはどうするべきなのだろうか。</div><div>ヤスの身体を抱きしめただひたすら"痛み"を耐えている葉月の背中。僅かだが、震えているように見える。</div><div>いつかは死ぬ。こんな生き方をしているなら尚更。</div><div>何度も仲間の死を目の当たりにして、そうやって言い聞かせるように目をそらして傷つかないようにしてきたのに。</div><div>どうすれば彼女を、仲間たちを、守れる？</div><div>光助は拳を握りしめ、考え、今すべき最善を、選択していく。</div><div>彼女と、忍と、藤花の団のために何をするべきなのか。</div><div>…と、彼女が険しい顔でこちらを振り返り、光助の名を紡ぐ。</div><div>「ああ、わかってる」</div><div>そんな彼女の声に光助は頷き、自分を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。そしてその場にいる面々を見回して、今すべき最善を、</div><div>「これより待避を始める。今日中には移動を開始するぞ！各隊長は伝達と準備！」</div><div>はっきりとした声で叫んだ。</div><div>「逃げるって言うんですか！？」</div><div>だが光助の吐き出した"逃げの一手"に、男たちが詰め寄り、掴み掛かってくる。</div><div>言いたいことはわかる。</div><div>立ち上がる葉月を横目に、光助は怒りに満ちた彼らの瞳を真っ直ぐに受け止める。</div><div>「逃げる？馬鹿言うな。俺達は山賊だぞ？武装した連中とマトモに斬り合って勝つ気でいるのか？」</div><div>「じゃあこのまま忍兄さんの事は諦めろって言うんですか！？兄さん達の敵討ちもしないで！？」</div><div>わかってる。</div><div>でも、今弔い合戦をすれば、犠牲は増える一方だ。</div><div>声を僅かに震わせ、次第に涙を溜める彼ら。</div><div>唇を噛みしめ、光助を睨みつけてくる。</div><div>ああもう、こんな事をしている場合ではないのに。</div><div>「あのな、もうちょっと俺の話を…」</div><div>「あたし、無能は嫌いなの」</div><div>一旦落ち着かせるため諭す言葉を口にした光助は、けれど掴み掛かる腕を掴み捻り上げる葉月の声に続きを遮られた。</div><div>しん、と全員が口を噤む。</div><div>「犠牲を増やさないために一時待避って言っているの。それとも、女子供も一緒に戦わせるつもりかしら？」</div><div>こういうときの葉月の言葉は重い。</div><div>彼女の言う通り藤花の団には、女子供が多い。</div><div>そうじゃなくとも、自分のように、戦闘を不得手とする者もいるのだ。</div><div>「相手の人数も分からないのに、思考も無しに攻め込むのは無能そのものよ。…あたしや光助の言いたいことの意味、わかる？」</div><div>葉月は掴んでいた手を離せば、彼に静かに問い掛ける。</div><div>ふんわりしてて何も考えていないような少女とは思えない、はっきりとした言葉。</div><div>この団を統べる者として、本当に成長したな、とこんな時なのに思ってしまう。それくらい、力強い瞳。</div><div>「安心しな。俺達だって、忍を見捨てる気はねーよ」</div><div>光助はまだ胸中を渦巻いているであろう不安を汲み取り、肩をすくめた。</div><div>「少人数で部隊組んで救出に…」</div><div>「あたし一人で忍のところに行くわ」</div><div>だが葉月は二振りの刀を手に取り、真っ直ぐに、こちらを見つめる。</div><div>その瞳は、揺るがない。</div><div>「は！？おま、何言ってんだよ。葉月が居なくちゃこの戦場は…」</div><div>「待避するだけなら、あたしの必要はないと思うの。それよりも、何人も戦闘要員を忍のところに向かわせるのは、ええっと、人が…勿体ない？」</div><div>言いたいことは分かるが、だってそんな。</div><div>光助は自分の中にある感情を上手いこと説明しようと口を開閉させ、しかし正論すぎて打破できない理性的な提案に頭をがしがしをかき回す。</div><div>こういう、感情論を含まない葉月の意見は、正しいのだ。</div><div>最善だけを選び、だからこそ…側に居たいとか、居ないと不安だ。なんて、情けないことが言えなくなってしまう。</div><div>「それが一番効率いいのは分かるけどよー…俺らの若頭を一人で行かせるわけにはいかねーだろうが」</div><div>「でも、何人も人を割けるほど…」</div><div>精一杯の抵抗も、彼女の言葉の前では無意味だ。</div><div>一人唸り声を零し、それから彼女の華奢な身体を抱きしめた。</div><div>「いいか、絶対に無茶はするなよ。それと、日が昇るまでには帰ってこい」</div><div>腹を括るしかない。</div><div>光助は覚悟を決め、葉月の匂いを胸一杯に吸い込む。</div><div>大丈夫、彼女は強い。</div><div>きっと忍と一緒に、いつも通りの笑顔で戻ってきてくれるはずだ。</div><div>葉月を、信じるしかないのだ。</div><div>「あたしが戻ってくるまで、生きて。あたしは…忍のお馬鹿さんを連れて、戻ってくるから」</div><div>彼女はこちらを見上げ微笑み、それから荷を確認すれば塔がある方向へ目を向けた。北東。光助もつられて目を向ける。</div><div>…一歩離れ、頭を下げた。</div><div>「…若様、御武運を」</div><div>「ええ、行ってくるわ」</div><div>光助の言葉に仲間たちも頭を下げ、葉月は歌うように返事をすればくるりと背を向ける。</div><div>僅かに重心を下げ、そのまま地面を強く蹴った華奢な肢体は一気に飛び上がり、今度は木を足場に強く蹴り出せばさらに上へ。</div><div>一瞬で見えなくなる、愛おしい人。</div><div>光助は馬鹿みたいに同じ顔をして空を…葉月が消えていった方向を見上げている彼らに苦笑いを浮かべると、深く息を吸う。</div><div>「ボサっとすんな！各隊に分かれて行動を開始しろ！上手いこと逃げ切れよ！」</div><div>「女たちに、伝えてきます！」</div><div>「頼む、俺も後から追いかける」</div><div>光助は、我に返ったのか緊張した顔で頷く彼らに片手を上げ、足下に横たわる少年に目を向けた。</div><div>「…ヤス…」</div><div>何をするのも真っ直ぐで、全然、山賊なんて向いてない…良い奴だったのに。</div><div>まだ成長しきっていないその身体は──死体特有の──…酷く重く冷たい。傷だらけで、赤黒く淀んだ肌と異常な形に盛り上がった骨。</div><div>こんなになってでも、よく戻ってきてくれた。</div><div>きっとすごく痛かっただろうに、よく知らせに戻ってきてくれた。</div><div>光助は彼の身体を見下ろしながら、肩をすくめた。</div><div>「悪いが、地獄で待っててくれ。んで、他の奴がそっちに行きそうになったら…追い返しておいてくれ」</div><div>こんなこと、信頼できる奴にしか頼めないことだからな。</div><div>光助は唇を噛み、きちんと埋葬してやれないことを心の中で詫びながら、顔を上げる。</div><div>自分の隊に所属する、四人。</div><div>「幹夫と辰巳は、忍とヤスの隊のところに行ってくれ。落ち合う場所は分かるな？」</div><div>「応よ」</div><div>「任せろ」</div><div>「吉さんと与作は、俺と一緒に頼む。何が起きてるのか、偵察に行く」</div><div>「ああ」</div><div>「了解です」</div><div>たった一言で光助が言いたいことを理解してくれる、有能な部下たち。</div><div>光助はヤスの身体を茂みに隠すと、吉助と与作に目配せをし、静かに地面を蹴った。</div><div>彼らは立場上光助に仕える形にはなっているが、実際の所光助なんかより全然強い上に、吉助に至っては十近く年上だ。与作も、年は一つ下だが体は光助より一回り大きい。</div><div>いざという時は、二人だけでもやっていけるだろう。</div><div>だがそうならないためにも…まずは何が起きているのかを把握し、現状を乗り切る。</div><div>そして全員揃って、葉月を迎えるのだ。</div><div>隠密で培った無駄のない動きで高く飛び上がり、音も立てず木の上を移動していく。もうすぐ山道に出るはずだ。</div></div><div><div>光助は風の中に紛れる音を聞き逃さないように感覚を研ぎ澄ましながら、視界の端で光った何かに瞳を釣られ──不安定な木の上でブレーキを掛けた。何事かと吉助と与作も動きを止める。</div><div>「目を凝らせ…鳴子だ。罠が仕掛けられてるぞ」</div><div>「鳴子ぉ？そんなもん、いったい誰が…」</div><div>「決まってるだろ。俺たちを狩ろうとしている連中だ。山から出さないつもりか？」</div><div>光助は目を凝らし糸の出所を慎重に見極めながら再び動き出せば、不自然に立ち止まっている数人の男の姿に息を殺す。</div><div>風に乗る会話に耳を澄ませれば、眉を寄せた。</div><div>「光助…」</div><div>「ああ、わかってる」</div><div>「貴族たちが、手を組んで…」</div><div>「連合軍ってか？冗談キツいぜ」</div><div>冗談ならどれだけ良いか。</div><div>聞こえてきた会話は、複数の貴族が藤花の団を潰すために手を組み、ゴロツキや傭兵など腕に覚えのある者を雇って仕掛けているという…たった一つの山賊団を潰すためとは思えない規模で。</div><div>分かってる。</div><div>自分たちが貴族や金持ちばかりを狙っていたからだ。</div><div>自分のような隠密が、相手の懐に入って裏切っていくから。</div><div>唇を噛み、拳を強く握り、目の前が真っ暗になるような吐き気をただひたすらに耐える。</div><div>「…光助さん…」</div><div>「…行こう。ここで戦闘になるのは避けたい。もっと敵のことを探るぞ」</div><div>奴らの策を、人数を、戦力を。</div><div>自分たちがどう動けば奴らを追い返し、どう動けば…最低限の犠牲で事を終わらせることが出来るのか。</div><div>どうすれば、またみんなで笑って過ごす日々を取り戻せるのか。</div><div>考えるのだ。</div><div>ここには葉月も、忍も、七郎も…銅蔵だって居ないのだ。</div><div>再び木の上を移動しながら、光助はぐるぐる、ぐるぐる、思考を巡らせる。</div><div>戦力にならない自分がやるべき事。</div><div>葉月が帰ってきたとき、無事に…笑って迎え入れるのだ。</div><div>まだ日は高い。</div><div>自分たちに有利な時間がくるまでは、かなりの時間がある。</div><div>木漏れ日すら、今は鬱陶しい。</div><div>「ある程度等間隔に兵を配置してるみたいだな。気付かれずにどこか一ヶ所でも穴を開けられれば、出し抜く足掛かりに…」</div><div>と、何度目かの見張りの存在に吉助が考えながら呟き、</div><div>「でもそれじゃあ、見張り同士の定期報告みたいなのがあったときに面倒ですよ。交代の時とか、合い言葉みたいのもあるでしょうし」</div><div>それに対し与作が難しそうに眉間にしわを寄せ言葉を返す。</div><div>「だが見張りの交代までここで待つって訳にはいかねぇだろ。運勝負ってのは俺も好きではないが、こればっかりは急がねぇと…」</div><div>そう。</div><div>急がなくてはいけない。</div><div>自分たちが住み着いたこの山は、ぐるりと川が囲むように麓の村まで流れている。</div><div>渡れないほど大きな川ではないが、状況が状況だ。ちんたら渡っていられるほどの余裕はない。</div><div>奴らに完全に取り囲まれる前に、山を下り、体制を整え、自分たちの家に土足で踏み込む無礼者たちを追い払うのだ。</div><div>勝手なのはお互い様。</div><div>何とかして先手を打たなくては。</div><div>光助は少し上がった息を整えながら、何か方法はないかと思考を巡らせ、正解を探し、二人組の見張りの男の顔をじっと見つめる。</div><div>二人とも体格が良く、引き締まった体はひと目で武術の心得があるだろうと思わせるほどだ。</div><div>小綺麗な顔をしているところから見ると、彼らは貴族が雇ったというゴロツキとは違うようだ。</div><div>つまり、彼らは金持ち連中の衛兵。</div><div>「…狙うなら、こいつらか…」</div><div>山道を囲う彼らの司令塔になっている可能性は高い。</div><div>ここを落とせば、多少の時間を、もしかしたら綻びを作ることも出来るかもしれない。</div><div>「やろう。ここを落として、道をこじ開けるぞ」</div><div>「がってん！」</div><div>「…やるからには、加減はしませんよ」</div><div>「ああ、一気に片を付けよう」</div><div>視線を交わし、呼吸を合わせ、二人が音もなく──彼らの目の前に降り立つ。間合いに半歩分踏み込んだ、危険な距離。</div><div>「なっ！！！」</div><div>驚き、目を見開いた男二人。与作の躊躇のない一閃が喉元を裂き、紡ごうとしていた声が消えていく。</div><div>「おっとお前は動くなよ。それとも一緒に死にたいか？」</div><div>崩れ落ちる片方の姿に帯刀していた獲物に手を掛けるも、吉助が獣のような眼光で睨め付けるとぴたりと動きが止まる。</div><div>良い反応だ。</div><div>だが、だからこそ、この男は自分たちみたいな悪党に利用されるのだ。</div><div>「質問は三つ。</div><div>今回の山賊狩り…首謀者は誰だ？」</div><div>光助は木の上から彼らを見下ろしながら、静かに、問う。</div><div>「その言い方、気にくわないな。まるでこちらが悪いことをしているみたいじゃないか」</div><div>「主観の違いだ。次に無駄口を叩いたなら、殺す」</div><div>こんな状況にあっても、奴の意志は折れることはない。大した男だ。</div><div>油断はするなと自らに言い聞かせ、言えとド突く吉助に目を向ける。</div><div>手加減はしているが、決して相手を気遣う力加減ではない。痛みに耐えれる、ギリギリを知っているのだ。</div><div>「例えこの命散ろうとも、我が主を売ることなど、あり得ない。木の上から、仲間たちが死んでいくのを見ていればいい」</div><div>ゆらり、と体を傾かせながら男は吉助に向かって唾を吐き、薄く、嗤った。</div><div>怒鳴り声を上げ、今にも殴りかかろうと拳を握る吉助。</div><div>なんだ？</div><div>だが光助は、その異質な笑みに言葉に言い表しようのない不安を感じ、眉を寄せながら意識をもっと広い範囲に向け…目を見開いた。</div><div>「与作その男から離れろっ！！！」</div><div>「は…？」</div><div>ぽかん、と驚いた顔でこちらを見上げ、数瞬後に与作は吉助と男から距離を取り、</div><div>「馬鹿そっちじゃない！！！」</div><div>怒鳴りながら光助は木を蹴り与作に手を伸ばしていた。</div><div>何がなんだか分からない、といった表情の与作。</div><div>そんな彼の足下で…首をかっ裂かれたはずの男が、いつの間にか握っていた短刀を振るった。</div><div>「っ！！」</div><div>弱々しく振るわれた刃は、与作のふくらはぎを斬り、しかしそこで力尽きたのかカランと金属音が響く。</div><div>「いって…まだ生きてたのかよ…」</div><div>傷は深くはないのか、痛みに顔を歪めながらも与作は何でもないように言い、必死な光助に肩をすくめる。</div><div>「大袈裟ですよ、問題ないです」</div><div>心配しすぎですよ、なんて笑う与作を見つめ、光助は拭い去れない胸の不安にぐるりと辺りを見渡す。</div><div>なんだ？</div><div>この違和感は、どこから来るものだ？</div><div>光助は訝しげにこちらを見てくる二人の視線を無視し、思考を巡らせ、地面に転がったままの短刀に、瞳を止める。</div><div>僅かに血が付着した刃。</div><div>その刃に…なにか、油のようなモノがてらてら鈍く光って。</div><div>最初、ソレが何なのか、分からなかった。</div><div>だが隣に立っていた与作の体が不自然に揺らめき、「あ、あれ…？」という小さな声と共に崩れていけばハッと息を飲んだ。</div><div>「毒っ！？」</div><div>与作を振り返ったときには時すでに遅し。</div><div>傷口は赤紫に変色し、血の気の引いた顔と虚ろな瞳は"その時"を告げていた。</div><div>すなわち…──最期の刻を。</div><div>「光助、さん…お、れ…」</div><div>「まてっ、しっかりしろ！駄目だ、死ぬな与作！！」</div><div>しゃがみ込み肩を強く掴む。</div><div>何が起きているのか分からないと言うような戸惑った表情で、与作は空を仰いだ。その瞳には涙が溜まり、彼は何かを紡ごうと口を開く。</div><div>しかしぴたりと動きを止めたかと思えば、そのまま全身の筋肉を弛緩させていき。</div><div>「おい…与作…？与作、おまえ、ばか…なんか言えよ、おいって！！」</div><div>乱暴に肩を揺さぶれば、開いたままの両の目から涙が零れ、頭を殴られたかのような鈍痛とめまいが光助の意識を混濁させる。</div><div>与作が死んだ？</div><div>目の前で、さっきまで普通に笑っていたのに？</div><div>当たり前のように、そこに居た奴が、目の前に横たわる彼が、もう目を覚まして喋って笑って一緒に何かをすることが出来ない？</div><div>意味が、解らなかった。</div><div>「おい…光助…与作は、どうした」</div><div>けれど、現実は何も変わらない。</div><div>震える吉助の声。</div><div>光助の体が邪魔で、何が起きているのか見えてはいないはずだ。</div><div>だが彼は馬鹿じゃない。</div><div>理解しているはずだ。</div><div>「何か言えよ光助っ！！！」</div><div>唇を噛みしめ、現実に、堪える。</div><div>逃げ出せない現実を、痛みで繋ぎ止める。</div><div>立ち上がり、吉助を振り返り、光助は口を開く。</div><div>「ははは、こんなに即効性の毒だったなんて、主様は、とんでもないお人だ。はは、これも優しさか」</div><div>しかしそれより早く聞こえてきた言葉に、一瞬で頭が真っ白になる。</div><div>気が付けば大きく足を踏み出し、拳を握り、男の頬を振り抜いていた。</div><div>咄嗟に手を離した吉助の後方へ飛んでいった男は、笑いながらふらりと立ち上がり、柄に手を掛けると抜刀する。</div><div>「てめぇ、やる気かよ…」</div><div>その姿に吉助も自らの獲物に手を掛け…煌めく白銀の刃が白い喉をかっ裂く様子を呆然と見送っていた。</div><div>男が自らの刀で自害するその姿を。</div><div>「お前…！！」</div><div>ごぼ、と息と共に血を零し、仰向けに倒れた男はにやりと笑う。そして不自然に体を震わせ、そののまま痙攣を繰り返し…やがて動きを止める。</div><div>地面に赤黒い液体が広がり、吸い込まれていく。</div><div>「…悪ぃ…堪えらんなかった…」</div><div>光助は、痛む拳を強く握り締め…俯いた。</div><div>殴るべきではなかった。</div><div>拷問して、もっと情報を聞き出すべきだったのだ。</div><div>なのに、我慢が出来なかった。</div><div>結果、何の情報も聞き出せないまま死なせてしまった。</div><div>「…俺だったら殺してたわ」</div><div>そんな光助の肩にぽんと手を置いた吉助は、しゃがみ込み、開かれたままの与作の瞳を閉じてやれば大きく息を吐いた。</div><div>「光助」</div><div>「…なんだ？」</div><div>「与作が死んだこと、無駄にしねぇぞ。早くみんなに知らせるんだ。毒のことも、囲まれてることも、全部伝えて、てめぇが完璧な作戦立てろ」</div><div>「吉さんは？」</div><div>「俺は、こいつを奥に隠してから合流する。それまで、死ぬんじゃねーぞ」</div><div>行け。</div><div>強い光を灯すその瞳が、真っ直ぐにこちらを見、頷く。</div><div>「…分かった。あんまり遅ぇと置いてくからな」</div><div>「おう」</div><div>「与作のこと、頼むな」</div><div>「任せとけって。おらさっさと行け、若姫様に悲しい顔させる気か」</div><div>「るせー」</div><div>光助は吉助に背を向け、助走を付け近くの木に飛び乗ると、強く唇を噛む。</div><div>もう会えないかもしれない。</div><div>それでも、行かなくては。</div><div>藤花の団の一人として、誇り高く、一度決めた決意を貫き通すのだ。</div><div>それにもし戦闘になったとしたら、自分はただの足手まとい。一緒にいない方が、吉助の生存率は上がるはずだ。</div><div>なにより…この奇襲、不可解点が多すぎる。</div><div>忍もヤスも、文男だって、それなりに腕は立つ。</div><div>よっぽどの奇襲を仕掛けない限り、三人をどうにかするなんて無理だ。</div><div>山道をぐるりと、しかも完璧なまでに藤花の住処を囲うように人員を配置させるなんて、不可能と言っていい。</div><div>けれど実際に、奴らはそれをやっている。</div><div>考えたくもないが、藤花の中に──それも親しい者の中に、間者がいる可能性が高い。</div><div>もしくは、銅蔵が…頭領が殺された際葉月には従えないと抜けた奴らか。</div><div>どちらにせよ、これ以上先手を打たれるわけにはいかない。</div><div>木の枝を移動しながら、光助は先に逃げた仲間たちを追う。</div><div>避難場所はいくつか在る。</div><div>とりあえず一番近い岩場の窪みに…</div><div>辺りを慎重に観察しながら強く枝を蹴り、木漏れ日に目を細める。</div><div>こうしてると、今まさに山賊狩りが行われようとしているなんて、誰が思おうか。</div><div>何もない平和な、いつもの光景。</div><div>いや、違う。</div><div>くん、と鼻を鳴らし、僅かに漂ってくる鉄臭い匂いに焦りが胸に広がる。</div><div>何か起きているのだ。</div><div>敵か味方か、どちらが血を流したのかは分からないが、戦闘になったのは事実。</div><div>さっきの男たちが使った毒が使われた可能性は十分にある。</div><div>敵にしろ味方にしろ、きっと誰かしら死んだのだ。正直胸糞悪い。</div><div>山賊として悪事を働いている以上、いつ誰に恨まれたっておかしくないのは理解しているし、人を殺めたことだって一度や二度じゃない。</div><div>でも、嫌なものは嫌だ。</div></div><div><div>光助は足を止め、静かに息を吐く。</div><div>太い木の枝の上、意識を遠くまで広げていく。薄く、広く、遠くまで。</div><div>きっと近くに、仲間たちがいるはずだ。</div><div>感情を鎮め雑念を振り払いながら意識を広げていき、僅かに空気を震わせる振動に瞳を開く。</div><div>音までは聞こえないが、怒号のような、不規則な揺らぎ。</div><div>「…こっちか」</div><div>光助は一人呟けば再び駆け出し慎重に振動の中心点へと距離を積めれば、広がる惨劇に息が詰まりそうになる。</div><div>敵も味方も関係なく…人の形をしたモノが、転がっていた。</div><div>その中で、ひとり、その場に立ち尽くしている男。</div><div>「…良太」</div><div>その男の名を、光助は静かに呼ぶ。</div><div>ぴくり、と肩が動き、ゆっくりとした動きでこちらを見上げると、</div><div>「光助…さん…？」</div><div>小さく名前を呼んだ。</div><div>「おう」</div><div>虚ろな瞳が光助の姿を捉え、彼の手から刀が落ちる。ガシャンと音が響けば、彼はその場にしゃがみ込み両の手で顔を隠し小さく声を漏らした。</div><div>「ああ…ひとりじゃない…」</div><div>血塗れになったその顔には、穏やかな──安堵の表情。</div><div>「俺、独りで死んでいくのだけは、絶対ヤだったんですよね…」</div><div>真っ赤に染まった着物。</div><div>返り血だけではない。腹部をえぐる傷が、生々しく、また痛々しい。</div><div>「すみま、せん…俺、みんなに…恩、返し…したかったん、です、けど…」</div><div>明らかに助からない出血の量。</div><div>毒も回っているだろう。</div><div>傍らに膝を付き、その傷に唇を噛みしめる。</div><div>それでも彼は、言葉を紡ぐ。</div><div>「こうすけ、さん…お、れ…」</div><div>良太は顔を上げ、口を開き…息を飲む。そのまま良太の手がこちらに伸ばされ、光助は背後の気配に振り返った。</div><div>刀を振り上げ、今にも斬り掛からんとする狂気に満ちた瞳と数瞬見つめ合う。──まずい。</div><div>咄嗟に懐に仕舞われたソレに手を伸ばし…しかし体がくんっ、と引っ張られれば後ろ手を地面に付き、背後から飛び出した良太の影に目を見開いた。</div><div>斬、と刀が良太の体を切り裂き、彼はそのままその場に倒れ込む。</div><div>声一つ、出なかった。</div><div>倒れた良太の向こう側に、良太によって刀を突き立てられ絶命している男の姿。</div><div>「はは…ざまぁ、みろ…」</div><div>うつ伏せに倒れ込んだまま力なく笑った良太は、ゆっくりと体を弛緩させていく。</div><div>「バカ野郎…」</div><div>ようやく呟けた言葉。</div><div>消えゆく灯火を前に、それしか言えなかった。</div><div>尻餅を付いたような体制で、仲間の死をただ見つめて。</div><div>なんて愚かなんだ。</div><div>なんて無様なんだ。</div><div>何でこんなに自分は、無力なんだ。</div><div>もう何度目かも分からない自問自答と後悔。</div><div>光助は立ち上がり、良太や、他の仲間たちを見下ろせば、息を吸う。</div><div>「俺は前に進むぞ。お前らの死を、踏み越えて」</div><div>血生臭い空気を、彼らの生きていた証を、肺一杯に飲み込む。</div><div>今ここで立ち止まるわけにはいかない。</div><div>まだ、折れるわけにはいかないのだ。</div><div>再び走り出した光助は、他の仲間たちと合流するために幾つか在る集合場所を巡り、しかしことごとく潰されている様子に苛立ちが募る。</div><div>途中、争った形跡も幾つか見かけた。</div><div>やはり、身内の中に内通者が、裏切り者がいるのだ。</div><div>そうでなかったとしたら、先回りして合流地点を潰したり、住処であるこの山を潜んで逃げる仲間たちに何度も遭遇出来るわけがない。</div><div>もちろん、生存者がいなかったわけじゃない。</div><div>危険を冒しながらも川を渡り山から離れたという連絡もあった。</div><div>襲い来る奴らを何とか追い払い、逃げ隠れてた者も多い。</div><div>だが想定より圧倒的に少ない。</div><div>何より、忍とヤスの隊の所に行った幹夫と辰巳、それに戦えない女たちの姿が見つからない。</div><div>無事に逃げられてるのならいいのだが、そんな楽観的な状況ではない。</div><div>人数が人数だ。</div><div>全員で移動をしようとしたなら、行ける場所は限られている。</div><div>光助は川沿いから方向転換をし、山を少し登ったところに在る洞穴を目指す。</div><div>女子供が目指すとしたら、そこしかない。</div><div>光助は木から降り、辺りを警戒しながらも木々を抜けて山を登る。</div><div>よく見れば、無数の足跡と獣道のように僅かに開けた道が続いている。</div><div>この先に、誰かがいる証拠だ。</div><div>急かす心を抑え、一歩一歩確実に斜面を登る。</div><div>息が上がり、少しだけ、注意が散漫になるのが分かる。</div><div>しっかりしなければと言い聞かせ、似たような景色を見送りながらようやく見えてきた洞穴。</div><div>誰か居る。</div><div>一瞬疲れが消え、思わず頬を緩めながら坂を駆け上がり…</div><div>音もなく現れた気配がダンっ、と後頭部を押さえつけ、地面に押し倒され組み敷かれてしまう。ざわり、と背中を恐怖が駆け上がる。</div><div>「馬鹿が」</div><div>訳も分からず目の前に突きつけられた『死』の予感に目を見開き、しかし降ってくる声に、動きを止めた。</div><div>「…吉さん…？」</div><div>「おう。少し遅くなっちまった」</div><div>こちらが落ち着いたのを確認してか、ゆっくりと力を抜いていった声の主は、数時間前別れた自分の部下、吉助だった。</div><div>あのときの言葉通り、追い付いてきたのだ。</div><div>「仲間が生きてるかもっていくら嬉しくてもな、そのまま突っ込む馬鹿がどこにいる。散漫になってんじゃねーのか？」</div><div>吉助に言われ、ハッとなる。</div><div>気を付けていたつもりだったが、彼の言う通り注意が足りなかったようだ。</div><div>「まあ？あそこにいるのはミッちゃんだし、問題はないんだけどよ」</div><div>「ちょ…俺を殴った意味ないじゃんかよ」</div><div>「まぁな。それより、状況は？」</div><div>起き上がり、服に付いた土を払う。と、自分の着物が酷く汚れていることに気付き、肩をすくめた。</div><div>「最悪に近いよ。毒の件を伝えようにも、かなりの人数がやられてる。思ってた以上に…追い詰められてる」</div><div>「やっぱりな…こっちも、ろくに生存者に会えやしねぇ。こりゃあ、マジでやばいぜ」</div><div>何でもないように吉助は言うが、その表情からは悔しさが滲み出ている。恐らく彼もまた…与作以外の仲間達の死を見送ってきたのだ。</div><div>それでもこうやって再会できたのだから、まだ諦めるわけにはいかない。まだ、立ち止まるわけにはいかないのだ。</div><div>「とりあえず、女たちを何とか逃がす方法を考えよう。あとちょっとで日が暮れる。そしたら、反撃開始だ」</div><div>光助が低く紡いだ言葉に、吉助も"悪い"顔で嗤う。</div><div>「よし、ならまずは…腹ごしらえだな。お前も、なにも食ってないんだろ？」</div><div>ああ、そういえば。</div><div>朝適当に果実を食って、それっきりだ。</div><div>緊張と疲労で気付かなかったが、思い出してしまったが最後、空腹が酷い。のども渇いている。</div><div>茂みから顔を出し、辺りを警戒しているミッちゃんに手を振れば、光助は吉助と共に洞穴に足を踏み入れた。</div><div>例え此処の存在が奴らに知られていたとしても、そう簡単には攻められまい。</div><div>中は暗く、天井が低い。</div><div>入り口こそ今にも崩れそうだが、中の地盤は固く、火薬を積まれたところでそうそう崩れることもないだろう。籠城に適した場所である。</div><div>安心できるほど何か状況が変わったわけではないが、ひとりじゃないだけで、心強い。</div><div>迎え入れてくれる女たちのほころんだ顔に笑みを返しながら、光助はひとりで戦っているであろう彼女へと、思いを馳せる。</div><div>どうか、無事でいてくれ。</div><div>ただそれだけを、願う。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><a href="https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407456923.html">後編②</a>へ続く…<br></div></div><div><br></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12407456367.html</link>
<pubDate>Tue, 25 Sep 2018 13:12:11 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>テイルズオブVRカフェ ver.ユーリ</title>
<description>
<![CDATA[ <br><div>タイトルにもある通り。</div><div>現在好評開催中のVRカフェに行ってきました〜</div><div>なんのこっちゃって人は、テイルズオブザレイズってアプリ調べて下さい。で、カフェについても調べてください。</div><div><br></div><div>ホントはTwitterで感想を垂れ流そうかと思ったんだけど、流石に行ったことない人ばかりな中ネタバレが過ぎるので、こちらに吐き出そうかな、と。</div><div><br></div><div>なので、完全なるネタバレです。</div><div>内容ガッツリなので、これから楽しみー(*´艸`)って方はご遠慮いただいた方が良いかと。</div><div>あ、初参加のユーリ回のスペシャルコースになります。</div><div><br></div><div>今回チケットがQRコードなので、あいぱどで読み込まれてそのままスンスンっと入店。</div><div>なにやら全員にユーリの回に来るのは初めてですか？と聞いていた…参加回数によって内容が変わるという噂があるけど…まさかそんな雑な事はない…よね？</div><div><br></div><div>で、個人的に今回のイベント、説明が不明瞭というかわかりにくかったので、自分用として書き出しておきます。</div><div><br></div><div>・特別ゲスト＝予約時に選んだキャラの呼び方</div><div><br></div><div>・スペシャルコースには、ドリンクorフードの好きなものを選べるチケットが1枚。</div><div>・VRスキットチケットが1枚</div><div>・VRお土産チケットが1枚</div><div><br></div><div>上記3枚が付いてくる。</div><div>スキットチケットとお土産チケットは、特別ゲスト(今回はユーリ)以外のキャラを選び、同時に使用する。</div><div><br></div><div><br></div><div><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/96/ad/j/o0480036014142753151.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/96/ad/j/o0480036014142753151.jpg" border="0" width="400" height="300" alt="{EBA84AF9-73E2-48C1-B3AB-A098DAB70AAD}"></a></div><br></div><div><br></div><div>フードの追加は5ガルド(1000円)</div><div>ドリンクの追加は4ガルド(800円)</div><div>ミリーナの占い1ガルド(200円)</div><div><br></div><div>ガルドは各自で日本円から換金が必要。</div><div>ガルドは持ち帰れないし使い切る必要がある。</div><div><br></div><div><br></div><div>こんなところかな？</div><div>ほいで、店員さんからVRの使用方法の説明があります。<br></div><div>機器の右側にタッチパネルがあるから、そこは触らないでくださいーと言われたものの…自分、頭が小さいせいか、全然フィットしない…それどころか目を通り過ぎて鼻に装着みたいなアホな展開で、1人であせあせ。</div><div>店員さんを呼べばサイズも直してくれました_(:3ゝ∠)_</div><div><br></div><div>メガネあっても大丈夫だとは思うけど、コンタクトを持ってるならツルでこめかみとか痛くなくて良いかと。</div><div>一応ピント調節機能(双眼鏡的なやつ)もあるから、調節の範囲に収まってる視力の方はメガネ外してそれもアリ？</div><div>あと前髪が目元に掛かるひとは、視界の邪魔にな<br>るので先に退けておくことをお勧めします。チラチラ邪魔だったー！！</div><div><br></div><div><br></div><div>店員さんの指示を待たずに始めてしまっても大丈夫！店員さん呼べば最初からやり直してくれるので！！(お手数お掛けしました…)</div><div><br></div><div><br></div><div>で、いざVRの世界へ！</div><div>最初はミリーナから軽く案内があるんだけど…この時点でユーリ以外のキャラがそれぞれ過ごしていて、キョロキョロ。</div><div>と、ユーリさんが扉を開け放ち、逆光の中から登場。</div><div>カッコいいかよ…！</div><div><br></div><div>お前さんの隣空いてるみたいだな。と隣(というか正面)に腰掛けるユーリ…</div><div><br></div><div>ヒィ、腰細！！！！</div><div>腕も細い！！！</div><div>というか、近いなお前！！！</div><div>普通相席する相手とこんなに近く座るか！？完全に私のパーソナルスペースに入ってるぞ！？</div><div>と1人混乱。</div><div><br></div><div>しかもガン見してくるから、耐えられずいろんなところをキョロキョロ。</div><div><br></div><div><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/92/38/j/o0480036014142753155.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/92/38/j/o0480036014142753155.jpg" border="0" width="400" height="300" alt="{49433BC4-0B15-4CAB-8682-5A3E70BA3EAE}"></a></div><br><br></div><div>キャラ配置はこんなでした。雑。</div><div>ミリーナは終始ニコニコしてて、こちらの視線に気付いたのかミクリオが手を振ってくれるという楽しい現象。</div><div>ルークは飲み物飲む動作とかはわかるんだけど、こちらの視線に気付く気配はなし。背中向けてるからかな？</div><div>リオンも全然だし、アスベルは時々伸びをしてるくらい。ああイクスはとにかくずっとアセアセしてて面白かったデス。</div><div><br></div><div><br></div><div>話の流れとしては、ミリーナに何か注文は？と聞かれた鳥海ユーリ浩輔が、「アンタと同じやつで良いぜ」と囁くけど、こちらには発言権が与えられてないから、「悩んでるみたいだし、ユーリさんが決めた方が良いかも」とフォロー。</div><div><br></div><div>そもそもカルボナーラを食べる気満々だったから、余計なお世話じゃ！と思いつつ…</div><div>「じゃあアンタにぴったりなやつ、選んでやるよ」とドヤ顔するユーリさんから、いくつか質問をされるわけです。</div><div><br></div><div>質問と言っても、「欲しい武器があったら、どうする？」「欲しい称号は？」「術を使えるならどんな戦い方をしたい？」みたいな問いに対して3択の中から選んでいくって感じ。視線の先に＋マークがあって、それがカーソルになってるから見つめる事で決定…</div><div>すぐ終わっちゃうと勿体無いから、めっちゃ余所見しながら選んだ結果…</div><div><br></div><div>「お前さんにオススメなのは…こいつたな」</div><div>カルボナーラの絵がどーん！</div><div><br></div><div>な ぜ わ か っ た！？！？</div><div><br></div><div>なぜだ…</div><div>あれは心理テストだったのだろうか…</div><div>何故当てられたのかはわからないけど、ここまでてスキットは終了。</div><div>悔しいけど、オススメされたものを食べました。</div><div><br></div><div><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/d6/11/j/o0480036014142753160.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/d6/11/j/o0480036014142753160.jpg" border="0" width="400" height="300" alt="{E3B1BC08-24C6-4A62-B80C-585AFE9DD80B}"></a></div><br><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/3f/72/j/o0480064114142753162.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/3f/72/j/o0480064114142753162.jpg" border="0" width="400" height="534" alt="{8EA09A39-CF02-4750-89E6-EB5DA93C1BA4}"></a></div><br><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/84/6a/j/o0480064114142753165.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/84/6a/j/o0480064114142753165.jpg" border="0" width="400" height="534" alt="{CC8AE9F8-468B-4ADA-B74F-23F10C72552A}"></a></div><br>ドリンクはリオン、あとお土産付きのパフェ。</div><div>空腹で行ったから食べ切れたけど、なかなかにお腹いっぱいになりました…</div><div><br></div><div>んでVRスキットチケットとお土産チケットを使うぞ！と店員さんに自己申告すると…</div><div>モード切り替えてくれて、再びゴーグルとヘッドホン装着。</div><div>パートナーにはリオンを選びまして。</div><div>ユーリはそこにいてくれるんだけど、とにかくこちらを見つめ過ぎるから心臓が痛くなってくるから、キョロキョロしまくっていっぱいミクリオと、振り返ってくれたミラ様に手を振ってもらえた…(´ ∀｀)</div><div><br></div><div>で、ミリーナにせっかくだから誰か他の方もお呼びしましょうか？と聞かれ、『ソーディアンのストラップ』という選択肢が表示されるのよ。</div><div>なんだ？と思ったら、どうやら自分がソーディアンのストラップを持っていて、それをミリーナが発見する、という流れ。</div><div>リオンさん喜ぶわ！とリオンのところにミリーナが向かったタイミングで、何故か自分はユーリにプレゼントを貢ぎます。貢ぎます。四角い箱を貢いでたけどきっとあれは予約した時に払った目には見えない電子マネーなのね…</div><div><br></div><div>するとどうでしょう、ユーリさんから「お返ししねーとな、」と可愛らしいラッピング(映像)された小箱をくれるわけです。</div><div><br></div><div><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/03/36/j/o0480036014142753170.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/03/36/j/o0480036014142753170.jpg" border="0" width="400" height="300" alt="{75733FCF-080E-49E5-A2E5-8510C266869F}"></a></div><br><br></div><div>中身はこれ。</div><div>ひゅ〜イケメン〜！</div><div>ここまでくると、ノリノリで夢女子体験を楽しんでしまった…</div><div><br></div><div>プレゼント交換が終わった頃に、リオンがミリーナに連れられて来てくれたんだけど、ほっっっそい！！！</div><div>背もちっちゃいし！！！</div><div>細い！！！！！</div><div>セインガルドの薔薇！！！！！！！</div><div><br></div><div>椅子に座って足組んで左手で前髪いじるその姿…及川のミッチーかと思うくらい、王子様スタイルでしたわ…</div><div><br></div><div>ウチがリオンの華奢さに感動してると、「ふん、少しだけなら話に付き合ってやらなくもない」と言ってくるから、にやにや。ツンツンしてますなぁ…！</div><div><br></div><div>ユーリ「どうしたリオン、機嫌悪そうだな」</div><div>リオン「別に。スタンと少し言い争いになっただけだ」</div><div>ユーリ「へぇ？」</div><div>リオン「目的のためなら、多少の犠牲は仕方ない。切り捨てるべきだと言った僕を、アイツは冷たいやつだと言ったんだ」</div><div><br></div><div>皐月(あれ、これ、DC版の…)</div><div><br></div><div>ユーリ「…まぁ、時には厳しい決断をしなけりゃいけない時もあるよな」(アッ…察した)</div><div>リオン(ユーリだったかも…)「お前はどう思う？」</div><div><br></div><div>ここで選択肢が２つ。</div><div>リオンと同じ、時には厳しい決断をする必要もある。と、スタンと同じ、それでも諦めずに頑張るべき。みたいなやつ。</div><div><br></div><div>ほらーーーーー！</div><div>DC版の選択肢ーーー！！</div><div>任務絶対リオンと、任務より大切なものがある！なスタンーーー！！！</div><div>あああやめてくれ、こういう選択肢は、メンタルを削る…！！！</div><div><br></div><div>一応、リオン派にしました。</div><div><br></div><div>ユーリ「…ま、泥を被るのが自分だけなら、それで良いんじゃねーか？それで大切なものが守れるなら」</div><div>リオン「…そうか」</div><div><br></div><div>憂げに呟いて、リオンさんは席を離れていきます…</div><div>うううう、ちょっとだいぶしんどい…</div><div>不意打ち食らった…</div><div>でもデレを出してくるリオンさんあんまり好きじゃないから、その辺に関してはあからさまなデレじゃなくて良かったなって。</div><div><br></div><div><br></div><div>いろんな意味で心臓を痛めていると、スキット終了。</div><div>しばらく放心状態でした…</div><div><br></div><div>けど、選択肢を時間ギリギリになるまで選ばず、時間かけて本編やスキットをちゃんと見てるとなかなかに時間がなくなってる…！</div><div>慌てて料理詰め込んで、店内の写真撮ったりして、最後にユーリから「今度はフレンや他の奴らと来ようかね。お前も、また来いよな」みたいなこと言われて、ふふってなりながら終了…</div><div><br></div><div>正直、すっっげーーーニヤニヤした。</div><div>マスク持っててほんと良かったってレベル。</div><div>ユーリから渡されたプレゼントも、ゴーグル装備中にそっと置かれてるから、ありがてぇ…ってなったし。</div><div><br></div><div><br></div><div>ただ、映像酔いが……_:(´ཀ`」 ∠):_</div><div>乗り物酔いも結構する(吐くほどではないけどずーっと気持ち悪さを感じている)タイプだから、うええ…ってなったかな。</div><div>目と画面の位置が近いから、ピントが合わせにくかったのも映像酔いの原因かもしれない。</div><div>VRプレイ中にゴーグル少し顔から離したらピントも合って見やすくなったから、各自微調整した方が良いのかな？という素人感覚での感想。</div><div><br></div><div>あと、1人で行ってもそこまでしんどくはなかったかな。どうせプレイ中は1人だし。</div><div>ニヤニヤしてところを見られない分、むしろ良かったかも。</div><div>そもそも複数人で行っても横並びに座らされるから、ちょっと変な感じだったよ。感想を言い合えない悲しみは仕方ないけど。</div><div><br></div><div><br></div><div><div><a href="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/6d/b8/j/o0480036014142753176.jpg"><img src="https://stat.ameba.jp/user_images/20180304/11/shatuki/6d/b8/j/o0480036014142753176.jpg" border="0" width="400" height="300" alt="{3D2E84F5-F050-453E-9613-6526446D7F6C}"></a></div><br><br></div><div>ちなみに、入場特典？のポスカは、結局いつものミクリオさんでした。</div><div>だからなぜいつも君！？</div><div>人気投票第1位なんだから、君を好きだと思ってる人のところに行ってくれよ！！！</div><div><br></div><div><br></div><div>そんな感じの初VR体験のネタバレレポ、この辺で終了〜</div><div>文体が安定してないけど、まぁその辺はもう仕方ないよね。</div><div>機会があったら別のキャラも行ってみたいなぁ…</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12357464157.html</link>
<pubDate>Sun, 04 Mar 2018 00:32:04 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>願いは届かない 中編</title>
<description>
<![CDATA[ <div>願いは届かない 中編</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>　　◆◇◆◇◆</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>この場所に何もかもを捨てたのは、もう十年以上前の記憶。</div><div>光助は、駆け巡る様々な記憶を飲み込み、何の変哲もない山道に立っていた。</div><div>此処から見えるモノは、木と、整備されていない道。</div><div>あの日と何も変わらない、あの町へ繋がっているであろう、道。</div><div>ああ、唯一違っているとしたら…馬車が導く二本の線が、見えないことくらいだろうか。</div><div>此処に大切なモノを置いてきたあの日から、この道を通らないようにしていた。</div><div>此処に来ると、置いてきた何もかもを拾い集めてしまいそうだったから。</div><div>まだ何一つ叶えていないのに、捨ててきた大切なモノにすがりついてしまいそうだったから。</div><div>でも。</div><div>捨ててきた、置いてきた、大切な、何もかもを…拾いに来たのだ。</div><div>彼女のことを、守ると決めたから。</div><div>自分の弱さも、卑怯さも、全部受け入れて、飲み込んで、長い長い未来を生きていこうと誓ったから。</div><div>そのためには、どうしても此処にくる必要があった。</div><div>此処に置いてきた『菊川』という名を、背負う必要があった。</div><div>「…光助」</div><div>「…ああ、もう、大丈夫だ。行こう」</div><div>何もかもを失ってから、もうずいぶん経ってしまったけれど、ようやく、またこの名を背負うことが出来るようになった。</div><div>いや違う。</div><div>この名を背負うことで、前に、真っ直ぐに、進む覚悟をしているのかも知れない。</div><div>隣に駆け寄りこちらを見上げる彼女に微笑みを向け、木々に遮られた空を見上げる。</div><div>青々と茂る葉の隙間からきらきらと光が煌めき、あの日には気付かなかった景色が、此処には在った。</div><div>それは、きっと、彼女が気付かせてくれたモノだ。</div><div>菊川光助は、また此処から、歩き始める。</div><div>今度は、二人で。</div><div>全てを飲み込んで。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>頭領と、女頭の静。それに、幼なじみの忍と七郎。</div><div>自分とその五人だけが集まり、葉月の身に何が起きたのかを打ち明けたのは、月望みの丘からねぐらに戻ってすぐのことだった。</div><div>葉月を一人にすることに多少の不安を覚えはしたが、流石に、彼女の前では話し辛かった。</div><div>───家族同然の藤花の団員に襲われ、強姦される寸前であっただなんて。</div><div>一様に息を飲み、しかし全身傷だらけの光助の姿に嘘偽りがないと判断したのか、それぞれに拳を握りしめる。</div><div>「啄木鳥だ。啄木鳥の連中を、何人か受け入れてただろ。何人居るのか知らねぇが、今すぐ所在を調べるべきだ。静は、女たちが全員居るかどうか確認を取ってくれ」</div><div>だが悔いている場合ではない。</div><div>事を起こすのなら、同時に、多発に。</div><div>葉月だけがターゲットだったとは考えにくい。</div><div>少なくとも、事を起こすことを、仲間内だけには知らせているはずなのだ。</div><div>そうでなければ、たとえ無関係なのだとしても…間者として拷問は避けられないだろう。</div><div>自分のところの若頭がこんな目に遭って笑って許せるほど、心の広い連中は、此処には居ない。</div><div>啄木鳥の連中の一人や二人死んだって、誰も気にしないだろう。</div><div>ここは、そういう場所だ。</div><div>光助の言葉に静と七郎が立ち上がり、忍はその場に座ったまま肩を震わせる。</div><div>「頭領…許可をください…葉月を怖い目に遭わせたヤツ、ぶっ殺してやる…」</div><div>「おい忍…」</div><div>「ふざけんなよ…くそ、くそ…っ！許せるかよ…っ！葉月も、光助も！俺の大事なヤツを傷付けた奴を…！！」</div><div>「頭を冷やせ馬鹿忍」</div><div>声を震わせ唸るように憎悪を吐き出した忍は、しかし七郎が放つ手刀を脳天に受ければ暗闇の中で彼を睨め上げた。</div><div>「感情的になって何になる。今出来る最善は、これ以上被害が広がらないように…」</div><div>「だから啄木鳥の連中ぶっ殺すって言ってるんだろうがっ！！」</div><div>「だからなんでそうなる！？なんでお前はいつも！！」</div><div>二人して声を荒げ、次第には取っ組み合いの喧嘩でも始めるんじゃないかというくらい緊迫した空気が張りつめてしまい。</div><div>「頭領…」</div><div>自分には止められそうもないこの状況に、光助は自分たちの頭領を務める彼に視線を送り…</div><div>「殺したきゃ勝手に殺せ」</div><div>そんな言葉に思わず眉を寄せた。</div><div>七郎の言うとおり、今はそんなことをしている場合ではないのだ。</div><div>葉月と同じように、藤花の誰かが嫌な思いをする可能性がある以上、啄木鳥の連中を追いかけるのは得策ではない。</div><div>異議を申しつけようと口を開き、</div><div>「だがそれは全て終わってからだ。静はそのまま女たちのところへ行け。七郎、この馬鹿は頼んだぞ」</div><div>「頭領！！」</div><div>「うるせえガキは嫌いだっていつも言ってるだろうが。文句があるなら、俺に勝ってからにしろ」</div><div>しっしっ、と面倒くさそうに忍を追い払った頭領は、だが自身も拳を強く握りしめる。この暗がりの中でも、その鋭い眼光からははっきりと憎しみが伺い知れる。</div><div>「光助」</div><div>「…はい」</div><div>「後悔はいらん。あいつのことを、頼む」</div><div>そんな憎しみを押し殺しそう言い放った彼も立ち上がり、それ以上何も言うことなく闇へと姿を消す。</div><div>頭領もまた、今回の件で、それこそ啄木鳥の連中を八つ裂きにしてやりたいと思っているに違いない。</div><div>それでも、それをしないのは…</div><div>「こー、すけ…？」</div><div>暗闇の中全身の痛みを感じながら思考を巡らせていた光助だったが、か細い声に我に返れば答えるように声を挙げる。</div><div>「ここにいるよ」</div><div>自分が今一番しなくてはいけないこと。</div><div>それは、葉月という少女の中に芽生えた不安を、摘み取ってやることだけ。</div><div>光助は痛む身体で立ち上がりながら、拳を強く握った。</div><div>後悔はいらない。</div><div>彼女を守るために、前へ。</div><div>この胸にある想いを、貫けるほど、強くなるのだ。</div><div>月下に彼女に愛を誓い、暗闇に決意を抱き…それからの日々は目まぐるしく過ぎていった。</div><div>出来る限りの時間を彼女と共に過ごし、その中で、逃げていたこと、避けて通っていたことに目を向けなくてはと思うようになって。</div><div>二人だけで過ごせる時間を求め、幼少期に秘密基地として使っていた洞窟のような岩穴に行くことも増えた。</div><div>藤花のねぐらからそう離れているわけでもないから、その岩穴のことに気付いている者達も居たとは思うが、気を利かせてくれていたのだろうか。ゆっくりとした時間を過ごすことが出来た。</div><div>正直な話、自分がこんなにも不器用な生き方しか出来ないとは思っていなかった。</div><div>一人の女を愛し抜くと決めただけで、こんなにも、胸が苦しくなるのだ。</div><div>きらきらした未来より、誰にも吐き出せない不安の方が大きかった。</div><div>自分に彼女を守ることが出来るのだろうかという不安。</div><div>悪夢にうなされ泣きながら目を覚ます彼女の心を、どう救えばいいのか、わからなくて。</div><div>悩み、考え、それでもやっぱりわからなくって。</div><div>そんなとき、悪友の一人が言うのだ。</div><div>「お前のその顔、すっげーむかつく」</div><div>いつも一緒になって悪ふざけしてきた、忍が、言葉の通り苛ついたような顔で口を尖らせて。</div><div>「お前、いっつも大事なことは言ってくんねーしよ。何でも一人で解決できるとか思ってんのかも知んねーけどさ、そうやって背負い込んでる顔、ホント腹立つ」</div><div>がりがりと頭を掻き、それから彼は自身の獲物に手をかける。</div><div>この山賊団に来たときに唯一彼が持っていた、大切な小刀。</div><div>マメじゃない彼が、唯一怠ることなく手入れをする想いのこもった一振り。</div><div>「構えろど阿呆。負け犬根性叩っ切ってやる」</div><div>そして白銀に輝く小刀を、抜き放つのだ。</div><div>何も知らないくせに、勝手言いやがって。</div><div>その言い草に、腹が立った。</div><div>勿論、本気で殺しに来ているわけではない。だが気を抜いて相手をしていたら怪我は避けられない。</div><div>そんなギリギリのやりとりの中でどんどんと苛立ちは増していく。</div><div>だが、すぐにその苛立ちは見当違いなのだと気付く。</div><div>何も知らない？</div><div>当たり前だ、何も言ってない。</div><div>ちゃんと向き合うとか言っておいて、まだ、逃げようとしているのだ。</div><div>何もかも胸の内に仕舞うことで、彼らと向き合うことから、弱い自分をさらけ出すことから、逃げようとしているのだ。</div><div>光助は大きく間合いを取り、それから降参するように両手を上に挙げ大きくため息を吐き出した。</div><div>「やめようぜ、これ以上やったら、頭領に怒られちまう」</div><div>「ふざけんな、頭領が怖くてこんなことやってられっかよ！！」</div><div>「ちげーよバカ。俺が悪かったって言ってんの」</div><div>がりがりと髪をかき回し、ゆっくりと、彼へと歩み寄る。</div><div>「全部、ちゃんと言う。でも、もう少しだけ待ってくれないか？もう少しだけ、時間をくれ」</div><div>でもまずは、しっかりと伝えなくてはいけない。</div><div>愛おしい、彼女に。</div><div>「……絶対だろうな」</div><div>「ああ、約束する。ちゃんと、お前らには話すから」</div><div>だから。</div><div>光助は忍に背を向け、ひらりと手を振った。</div><div>「あいつらにも言っておいてくれ。何度も襲われちゃたまらん」</div><div>「あ？」</div><div>「無鉄砲馬鹿は忍一人で十分だっての」</div><div>後ろで怒鳴り声を上げる忍を無視し、光助は、見慣れた姿を探し、木々の中に足を踏み入れた。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>そして。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>葉月が、自分のモノになった。</div><div>あんなに勢い込んで、強い覚悟を持って想いを告げたのに、彼女はあっさりと微笑むのだ。</div><div>自分のことを支える！なんて力強く言う彼女になんだかなぁ、なんて思いつつも、素直に嬉しいと、幸せだと、思える時だった。</div><div>それからいろんな出来事に巻き込まれながらも、静や、他の女達、忍や七郎にも、自分たちのことを告げた。</div><div>忍に至っては告げた途端、わんわんと泣き出したのだ。</div><div>顔をぐちゃぐちゃにしながらも、「よかった」「おめでとう」と何度も何度も繰り返すもんだから…こちらも釣られて泣いてしまったのだ。</div><div>まるで自分のことのように喜ぶ彼らの存在が本当に心強く感じ、また、背負った重荷を忘れてしまうほど、心地良い時間だった。</div><div>そんな時間は、深く傷付いた葉月の心も癒していき、まだ強張るときはあるものの前と同じように振る舞う時が多くなった。</div><div>けれど、今のままじゃダメだと、忍や七郎は言うのだ。</div><div>きちんと、頭領に二人の関係を…夫婦として契りを結びたいということを、伝えるべきだと。</div><div>確かに、自分と葉月の関係については、一切頭領には告げていなかった。</div><div>気付いているのではないかという思いはあったが、それを確認する術は光助たちにはなかった。</div><div>丁度同じタイミングで、静が仲間内の一人と婚姻し団を出て行くという話しが出れば、一層二人は声を上げるのだ。</div><div>だがそれは、きっと、簡単なことではないだろう。</div><div>なにせ彼女の父親は、この藤花の団で誰よりも…それこそ葉月よりも強い男なのだ。</div><div>勝負の勝ち負けなど関係ない。</div><div>自分の示せる総てを、彼に、ぶつけなければ。</div><div>考えれば考えるほど恐怖に支配されていく心を、どうしようも出来なくて、みっともなく葉月に吐き出したりして。</div><div>そしたら彼女は、何もわかっていない顔で、微笑むのだ。</div><div>「なら、駆け落ち、すればいいんじゃないかな？」</div><div>もう、笑うしかなかった。</div><div>駆け落ちの意味さえ分かっていないくせに、あっさりと、光助の悩みを吹き飛ばす。どこの誰に吹き込まれたのかは知らないが、彼女が言うと、本当になんでもないようなそんな気がしてしまう。</div><div>「はは、なら…俺がボロ雑巾みたいになってたら回収してくれる？」</div><div>「雑巾…？お洗濯すればいいの？」</div><div>「んー…じゃあ、それで頼むわ」</div><div>光助は毛布の敷かれた秘密基地の中で葉月の手を取り、それから、大きく息を吐き出す。</div><div>「葉月。俺と、結婚してください」</div><div>覚悟は決まった。</div><div>後は、この覚悟を、藤花銅蔵に叩きつけるのみ。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>「頭領。大切な話があります」</div><div>彼が朝食と兼用の昼食を取り、煙管の煙を吸い終わった頃。</div><div>葉月と二人改まり、藤花の団頭領の男の前に膝を付いた。</div><div>「……言ってみろ」</div><div>途端、彼の顔は強張り、辺りを支配する空気が重くなる。</div><div>だがこの程度の重圧、想定済みである。</div><div><div>光助は鋭い眼光から目を逸らさず、一呼吸置いてから、</div><div>「葉月を俺にくれ。葉月を、嫁にしたい」</div><div>はっきりとそう言葉を紡いだ。</div><div>しかし光助の言葉に対しぴくりとも動かない彼は、しばらく見つめ合った後こちらを見つめたまま自身の獲物に手を伸ばす。</div><div>「…覚悟は、出来てんだろうな？」</div><div>ああ、くそ、これだから山賊ってのは。</div><div>咄嗟に身構えた光助は、しかし同席していたジジイ達の声に動きを止めた。</div><div>「藤花の団の鉄の掟によれば…異議申し立て時は団員がその勝負の方法を決められるんじゃったよのぅ？」</div><div>ああ、そうだ。</div><div>『意見があるなら頭に勝て』</div><div>この掟は、なにも戦闘に縛られた勝負ではない。</div><div>自分が、銅蔵相手にこれなら勝てるという勝負を、挑みにいくのだ。</div><div>にや、とこちらを見て…少し嬉しそうに、ジジイ達が笑む。</div><div>応援してくれているのだ。</div><div>彼らは、自分と葉月のことを、認めてくれているのだ。</div><div>…だが、</div><div>「なら俺は、頭領と…殴り合いの勝負を申し込むっ！！」</div><div>それに甘えるつもりはない。</div><div>ばんっ、と地面に手のひらを打ち当て大きな音を立てながら光助は立ち上がる───周りにどよめきが広がる。</div><div>そのどよめきは、「無謀な勝負」に挑むことに対する、非難。</div><div>無茶だ、</div><div>正気かお前、</div><div>無謀にも程がある、</div><div>藤花の中で一番弱いお前が、</div><div>口々に言われる言葉にちらりと葉月を振り返れば、彼女も驚いた顔でこちらを見返していて。</div><div>まぁ、そりゃそうなるよな。</div><div>もし自分が葉月や他の団員達と同じ立場だったら、同じ反応をするだろう。</div><div>けれど、これはただの「鉄の掟に則った勝負」じゃないのだ。</div><div>頭領としての銅蔵と、葉月の父親としての銅蔵を、認めさせる勝負なのだ。</div><div>ただ勝負に勝だけだったら、方法はいくらでもあるのだ。</div><div>けどそれじゃ意味がない。</div><div>大切に育てた大事な一人娘を、もらい受けたいと、申し出た。</div><div>藤花一弱い男が、自分の覚悟を、示さなくてはならないのだ。</div><div>だったら。</div><div>彼の一番得意な分野で。</div><div>自分の一番苦手な分野で。</div><div>自分がどれほどの想いでこの場所に立っているのかを、わからせてやるのだ。</div><div>そして、出来れば───…二人の関係を認めてもらいたい。</div><div>心の底から、祝福をしてもらいたいのだ。</div><div>「その代わり、幾つかハンデを付けさせてほしい」</div><div>光助は拳に布切れを巻き付けながら、そう切り出した。</div><div>「良いだろう。言ってみろ」</div><div>そして銅蔵の了承に頭を下げれば、その場にいる全員に聞こえるように声を張る。</div><div>一つ目は、第三者が戦闘に参加することは認めないこと。</div><div>二つ目は、刀などの刃物を使うことは禁止とすること。</div><div>三つ目は…勝利の定義を分けること。</div><div>簡単に言えば…勝ちと判定する条件を、光助と銅蔵で別にする事。</div><div>「具体的に言え」</div><div>「頭領は、俺を戦闘不能状態…つまり、戦意喪失か気絶かのどちらかに陥らせれば勝ち。</div><div>俺は、頭領の膝を、一度でも地面に付けさせれば勝ち」</div><div>この条件を飲んでほしい。</div><div>光助の申し出に、周りの連中がざわつき、一斉に銅蔵へと目が向けられる。</div><div>彼がどういう答えを出すのか、その場にいた全員が固唾を飲んで放たれる言葉を待つ───にやり、と口元が歪む。</div><div>「一度でも俺の顔に拳を入れられたら、負けを認めてやるよ」</div><div>それはわかりやすい挑発。</div><div>こちらの提示以上に難易度を下げてきたのだ。</div><div>けれど、勝ちの条件が優しくなったのなら…その挑発、全力で乗っかってやる。</div><div>「いいぜ、顔面ぶん殴ってやる」</div><div>光助は拳を握り、それからもう一度葉月を振り返れば片目を瞑って微笑んでみせた。</div><div>「大丈夫だ葉月。絶対、お前を俺のお嫁さんにしてやるからな」</div><div>「…絶対？」</div><div>「ああ、絶対だ。だから、そんな顔すんなって」</div><div>そっと彼女の頬に触れ、しかしすぐに拳を構えれば細く息を吐き出す。</div><div>この戦い、そう簡単には終わらないだろう。</div><div>どんなに条件が易しくなろうとも、相手が最強の男であることに変わりはないのだ。</div><div>それに…光助が勝つためには持久戦に持ち込む必要がある。</div><div>攻撃を掻い潜り、拳を一発叩き込む一瞬の隙を待ち続けるのだ。</div><div>「ジジイ、始まりの合図を出せ」</div><div>のらり、と立ち上がった銅蔵は、鋭い眼光で光助を射抜けば、両の腕をだらんと下げ言い放つ。</div><div>全身の力を抜くことで、どんな攻撃にも柔軟に対応できる…光助相手にも全くの隙を見せない彼の構え。</div><div>だがやるしかない。</div><div>「藤花の団の掟に則り、銅蔵と光助の勝負を執り行う。両者構えて───始めっ！！」</div><div>合図と同時に地面を蹴り、光助は地面の土をかっ掴めば銅蔵目掛け思い切り投げつけた。非難の声が上がる。</div><div>だがそんなことはどうでもいい。</div><div>刃物の使用は禁止したが、他の武器については何も言っていない。</div><div>咄嗟に顔面を覆った銅蔵の懐に入り込み、拳を握り両手を揃え勢いよく突き上げた───腕の隙間から顎を狙った一撃。</div><div>「ふんっ」</div><div>軽い掛け声。</div><div>ねじ込んだ腕の隙間が一瞬で閉じられ、両手を挟まれれば何をどうされたのか身体が投げ飛ばされそうになっていて。</div><div>「っ、んのぉ！！！」</div><div>身体をひねり受け身を取りながら、次のモーションに移行する銅蔵を睨みつける。</div><div>葉月の動きを見てどんだけバケモンなんだと思っていたが、血は繋がっていなくともやはり親子か。完璧なタイミングからの攻撃を、いとも簡単に回避してきやがった。</div><div>すぐさま立ち上がり、突進してくるかのような勢いの銅蔵へ拳を構えれば、繰り出される強烈な一撃を受け流すように身を捻る。</div><div>肉弾戦が続けばこちらは圧倒的に不利になる。一度距離を取って体制を整えたい。</div><div>光助は捻った身体を元に戻しながらフェイクの拳を突き放ち、しかし視界の上の方をかすめる何かの影に気付けば我に返った。</div><div>銅蔵の体勢が、元に戻っていない。それどころか、何をするつもりなのか前転をするかのように上半身を折り片手を地面に伸ばし…気付く。</div><div>上方から叩き込まれる強烈な踵落とし。</div><div>「がぁ…っ！！」</div><div>避ける余裕すらなくまともに背中に食らえば、地面に顔面から叩きつけられ、続けざまに脇腹に鈍痛が走れば吹き飛ばされる。</div><div>遠くで、自分の名を呼ぶ声がする。</div><div>「…いってぇ…」</div><div>なんとか立ち上がるも、改めて思い知らされる力の差にため息が漏れる。</div><div>やっぱり、得意分野で戦いに挑むべきだったか。</div><div>だが今更後悔などしても遅い。</div><div>打たれ強いところが、自分の売りだ。</div><div>ぴょんぴょん、とその場で飛び、もう一度、踏み込む。</div><div>何度振り払われようとも、何度吹き飛ばされようとも。</div><div>掴み所のない戦い方をする人だが、法則がないわけではない。</div><div>基本の戦い方は、葉月と同じなのだ。</div><div>武器や力に頼るわけではなく、体術で相手を去なし間合いに踏み込みあるいは体勢を崩し、自分の得意の形に持って行くのだ。</div><div>銅蔵が得意とする形───足技。</div><div>拳も十分脅威なのだが、それ以上に彼の放つ蹴りは、当たり所次第では一撃で意識が飛びかねない。</div><div>傷が増え痛みが増し、それでも立ち上がり。</div><div>気が付けば、辺りは真っ暗になっていて。</div><div>月明かりに浮かび上がる二人の影。</div><div>木々に遮られながらも、相手の姿が認識できるほどに、明るい。</div><div>振るわれる拳を避け、僅かに沈む銅蔵の身体に光助は後ろへ飛び退く───足下に風が渦巻き、足払いを放ったのだと理解するより早く、光助は背後の木を蹴り体当たりを仕掛けた。</div><div>迎え撃とうとする銅蔵の振り上げる蹴り───想定済みだ。</div><div>ぱんっ、と顎を振り抜かれる寸前で払い、ぐらりと傾いた彼の懐に…ぞわり。</div><div>「ぐっ…！」</div><div>全身が総毛立つほどの寒気に身体を丸め腕を眼前に構え、刹那襲い来る衝撃に息が詰まりそうになる。</div><div>「よく気付いたなぁ！！！」</div><div>身構えていたお陰で何とか堪えたものの、何が起きたかなんてわかりっこない。</div><div>完全に体勢を崩したはずなのに、なぜこんなダメージを喰らわにゃならん。</div><div>ああ、これは勝てない。</div><div>暗闇の向こうで笑う、大きすぎる男の姿に、勝ちを掴むことが無理なのだと、思い知らされてしまう。</div><div>痛い。</div><div>全身が痛いのだ。</div><div>疲れたし、もう、眠い。</div><div>葉月をこの腕に抱いて寝ることが出来たら、どれだけ幸せだろうか。</div><div>ああ、でもそうか。</div><div>戦わなくては、それも叶わないのか。</div><div>葉月は、どこにいるのだろうか。</div><div>距離を取り、辺りを見回し、一切目を反らすことなくこちらをを見つめている彼女の姿が…なんだか、無性に可愛くて。</div><div>「葉月〜」</div><div>「…なぁに…？」</div><div>「寝てて良いぞ〜。寝てる間にやられてるなんてこと、ねーから」</div><div>今が何時なのかはわからないが、葉月はもう寝ていてもおかしくない時間だろう。</div><div>「でも…」</div><div>「飯は食ったか？ちゃんと食わねーと、倒れちゃうぞ？」</div><div>「……うん」</div><div>折れそうになる心が、こんな他愛のない会話で満たされていく。</div><div>大丈夫。</div><div>まだ戦える。</div><div>諦めるなんて選択肢は、持ち合わせていないのだ。</div><div>勝って、覚悟を、認めてもらうまで。</div><div><br></div><div><br></div><div>&nbsp; ◆◇◆</div><div><br></div><div><div><br></div><div>時間の感覚は遠に無くなった。</div><div>ただ、まぶしい朝日が明け方であると云うことを告げていた。</div><div>何回目かの、朝。</div><div>もう、立っているだけで限界だった。</div><div>立てているのが奇跡なんじゃないかと思えるくらい、張り詰めた細い糸が光助の気持ちを繋いでいた。</div><div>体中が熱い。</div><div>全身が痛い。</div><div>腫れているのか、視界も狭い。</div><div>眠気も尋常じゃない。</div><div>だが、体力の限界だけでいうのなら…向こうも同じはず。</div><div>そもそも、突発的な攻撃を得意とする銅蔵に、この長期間の持久戦は相当辛いはずなのだ。</div><div>拳を握り、作戦もへったくれもない一撃を放とうと右足を踏み出す。踏み出した右足が沈み、それを何とか堪え伸び上がるようにもう一歩。</div><div>完全に座った目でこちらを見返す銅蔵の瞳に射抜かれ、それでも振りかぶった拳。</div><div>「──はぁ」</div><div>ため息が聞こえ、自分でもびっくりするくらい弱々しい一撃が、銅蔵の頬をとらえた。</div><div>付き合ってらんねーよ、と言いたげな、呆れた表情をこちらに向け、わっ、と上がる歓声に銅蔵は背を向けた。</div><div>ああ、やっと。</div><div>やっと、認めてもらえたのだ。</div><div>やっと、やっと。</div><div>呆然と彼の背中を見送っていた光助は、しかし頭を深く下げ、残っている力を振り絞るように、叫ぶ。</div><div>「俺…っ！絶対、葉月を幸せにしますからっ！！！」</div><div>銅蔵に対してだけでない。</div><div>自分自身に対する誓い。</div><div>その声が届いたかはわからない。</div><div>だけど涙を目に溜め自分のことのように喜んでくれる仲間たちに囲まれ、支えられ、こんなにも愛されていることにただただ感謝しかなかった。</div><div>倒れ込みそうになる身体を支えてくれる忍と七郎が、嬉しそうに笑いながら「なげーんだよ」なんて文句を言ってくれば、「るせー」なんて軽口を言い合いながら葉月の方を見やる。</div><div>「これから、よろしく…お願いします」</div><div>「はい、よろしくお願いします。ええっと…旦那様？」</div><div>「んんっ…！！！」</div><div>予想外過ぎる不意打ちに変な声が漏れ、それを聞いたみんなが笑い、ヤケになって葉月の頬に唇を押しつければ歩き去って行ったはずの銅蔵が怒りながら戻ってきて。</div><div>心の底から、幸せを感じれる、そんな瞬間だった。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>けどまぁ、それはほんの一瞬の話で。</div><div>日が暮れる頃には興奮状態が収まったのか、とにかく全身が痛いし至る所から血が出てるし肌は内出血で変色しているし。</div><div>息を吸うだけで肺が痛むから、もしかしなくても肋骨が折れているのだろう。</div><div>仲間たちは嬉しそうに酒を酌み交わしているが、正直それどころではない。</div><div>心配して手当をしてくれていた葉月は主役として忍に連れて行かれ、つまらなさそうに光助に包帯を巻くのは七郎一人だけ。</div><div>まともに起きあがれない光助は、されるがまま文句も言わず楽しげな輪を遠くから眺めることしかできなくて。</div><div>それでも、どこから話を聞きつけたのか。以前とある事件で知り合って以来親しくさせてもらっている山賊…土佐組の頭領・竜が訪れた頃にはだいぶマシにはなっていた。</div><div>彼はボロボロの光助を見た途端お祝いに持ってきたという旨い酒を豪快に吹き出し、腹を抱えて笑うのだ。</div><div>「あんな大見栄切って嫁だなんだ言ってたってのに、ひでーザマだなぁ。おい嬢ちゃん、頼りねぇコイツで良いのかぁ？」</div><div>にやにやしながら彼は言い、隣に座る葉月の顔を覗き込んだ。</div><div>「…？光助は、弱いけど、頼りなくなんかないわ。いつだって、守ってくれるもの」</div><div>「おーおー、惚れてんねぇ。お熱いこった！」</div><div>「はいちょっと失礼！」</div><div>ぐい、と葉月と竜の間に割り入って押し退ければ、酒を引っ掴む。一口呷れば、その芳醇な香りに目を見開いた。</div><div>「はっはっは！その酒、旨ぇだろ！秘蔵の酒だ、よく味わって飲めよ〜」</div><div>秘蔵というだけあって、かなり旨い酒だ。</div><div>正直、自分たちのために開けてしまうのが申し訳なくなるほどに。</div><div>「なら、俺も貰おうかね」</div><div>まじまじと酒の入った壷を見つめていると、ずい、と身体を乗り出した銅蔵。</div><div>「え…でも頭領お酒は…」</div><div>けれど光助は知ってる。</div><div>自分たちの頭領は、見た目に反して一切酒が飲めない。</div><div>光助が覚えている限り、酒を飲んだことは一度もない。</div><div>昔からいる仲間たちと、親しい連中しか知らない情報ではあるのだが…</div><div>「うるせぇ！これが呑まずにやってられっか！」</div><div>戸惑う光助の手から酒壷を取り、豪快に椀に注げば、一気に喉へと流し込んだ。</div><div>一瞬驚いたように動きを止めた彼は、口元を拭い、それから、</div><div>「こいつぁ旨ぇ…こんな旨い酒、呑んだことないぞ…」</div><div>ぼそりと呟いた。</div><div>「お気に召したなら何より。祝いの時くらい、大判振る舞いと行こうじゃねーか！」</div><div>がはは、と豪快に笑いながら竜は力強く光助の背を叩き、一緒になって酒を呷る。</div><div>ああ、旨い。</div><div>わかってないような顔で、けれどどこか楽しそうな葉月の横顔を眺めれば、その葉月の向こう側…早くも酔いが回り始めているらしき銅蔵の姿に苦笑いを浮かべた。</div><div>こんな情けない姿、滅多に見れるものではない。</div><div>水を用意しながらも、心地よい宴の喧噪に身を任せ、痛みすら忘れるような暖かさに目を閉じた。</div><div>認めてもらえなかったら駆け落ちでもすればいいなんて考えていたのが、馬鹿みたいだ。</div><div>飲み明かし、それでも飲み続け、竜が帰った後も、幸せの余韻に浸る。</div><div>夜は冷え込むが、それ以上に大切な仲間たちと一緒に居れられることに幸せを感じていた。</div><div>寝る時間も惜しいくらいだ。</div><div>しかしながら流石の銅蔵も限界が来たのか、それとも酒のせいか。</div><div>勢い任せに葉月を抱き寄せ、なにか、話している。</div><div>なにを言っているのかはわからないが、葉月がゆっくり目を閉じ、微笑み、口を開く。</div><div>「あたし、銅蔵がおとーさんで、よかった」</div><div>ぴくり、と銅蔵の肩が揺れる。</div><div>なんだ？と全員が二人の方に目を向け、耳を傾ける。</div><div>「あたし、銅蔵と、おかーさんの娘になれて、よかった」</div><div>そして紡がれる言葉に、顔を見合わせた。</div><div>父親の胸に頬をすり寄せ、微笑むその表情に、じん、と目頭が熱くなる。</div><div>彼女がどういう気持ちでいるかを吐き出すことは多くない。</div><div>特に葉月は、生まれたときから藤花の団に育てられ、血の繋がりもまるでない仲間たちと暮らしていた。それ以外の道が、彼女の前にはなかったのだ。</div><div>銅蔵だって、彼女の真っ直ぐな気持ちを聞いたことはなかったはずだ。</div><div>光助は背を伸ばし、葉月を見やる。</div><div>また、口を開いた。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>「──あなたに出会えて、私は幸せよ──」</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>「っ！！」</div><div>その言葉が意味することに、頭の芯が痺れるような震えが走った。</div><div>言葉通りの意味ではない。</div><div>そこにあるのは、懐かしい言葉。</div><div>葉月の母、文がよく言っていた、暖かな言葉。</div><div>紡がれた言葉の意味にみるみるうちに銅蔵の目には涙が溜まり、それを隠すように葉月を力強く抱き締めた。</div><div>「ねぇ銅蔵…力強い…痛いわ…」</div><div>「うるせぇ。黙ってろ」</div><div>葉月が口を尖らせると彼は鼻声で吐き捨て、しかし仲間たちが、楽しげに、幸せそうに、同じように涙を浮かべながら、野次を入れる。</div><div>隣に座る忍に至っては隠す素振りすら見せず、光助の肩を何度も叩いて涙を滴らせている。手を乱暴に払いのける。</div><div>勿論…例外なく、光助も、泣きそうだった。</div><div>ふと葉月がこちらを向けば、なぜみんなが泣きそうな顔をしているのかわからない、といった表情を浮かべている。</div><div>光助が微笑んでみせれば、彼女は銅蔵の腕に抱かれ…そのまま目を閉じた。</div><div>安心しきった、穏やかな表情。</div><div>光助と銅蔵の戦いも、連日の馬鹿騒ぎも、ずっと気を張っていたはずだ。</div><div>彼女は目を閉じた途端全身の力を抜き、そのまま、眠ってしまったらしい。</div><div>銅蔵の唇がなにか言葉を紡ぎ、しかし光助の位置からはそれを聞き取ることは出来ず、忍と顔を見合わせる。</div><div>ぐちゃぐちゃの、汚らしい泣き顔だ。</div><div>「てめぇら、お開きだ。葉月を起こした奴は、一人残らずぶっ飛ばす」</div><div>と、葉月の頭を優しくなでながら銅蔵が低く告げ、こちらに目を向ける。</div><div>「火に薪くべておけ。俺は先に寝る」</div><div>「わかりました」</div><div>賑やかな宴の表情とは違い、少し、強張っているようにも見える。</div><div>久々の酒のせいか。それとも、葉月とのやりとりか。</div><div>どちらにせよ…光助がこれ以上なにか言ったら、殴られそうな気がする。大人しく言うことを聞こう。</div><div>光助は重い身体を持ち上げ薪になる小枝を集める為にぐるりと辺りを見回す───名を呼ばれた。</div><div>「明日からは、葉月に指揮を取らせる」</div><div>「葉月に…？」</div><div>「意味、解るな？」</div><div>一瞬、なんのことか分からなかった。</div><div>けれどすぐに彼の言わんとしている事の意味を理解し…目を見開く。</div><div>「見せてみろ。お前たち二人が作る、藤花を」</div><div>「…はいっ！！」</div><div>深く頭を下げ、光助は拳を握りしめた。</div><div>認められた。</div><div>認められたのだ。</div><div>自分が最も尊敬する、憧れる、誰よりも認めてもらいたかった最強の男に。</div><div>葉月が藤花を束ね、そんな彼女の隣で一緒に重荷を背負って、彼らの先頭に立ち…前へ前へと進んでいくのだ。</div><div>ばん、と忍に強く肩をたたかれ、また泣きそうになっている顔を見ればこっちまで、胸がいっぱいになってしまう。</div><div>忍は馬鹿みたいに真っ直ぐ暑苦しい男だが、だからこそ、側にいてくれることが頼もしかった。</div><div>光助は目を閉じ、これ以上喋る気のない銅蔵にもう一度頭を下げ…強く、強く、拳を握る。</div><div>こんなに嬉しくて、幸せなことがあって、良いのだろうか。</div><div>決して、真面目に生きていたわけじゃない。</div><div>曲がったこともしたし、正しい生き方なんてクソ食らえとさえ思っていた時期もあった。</div><div>それでも、葉月に沢山のことを気付かされて、彼女を好きになって、彼女のことを心から愛して、彼女の幸せのためならどんな痛みも背負おうと、彼女を守ろうと誓って、不器用なりにがむしゃらに突き進んで…</div><div>その先に、こんなにも幸せに思えることがあって。</div><div>神が居るのなら、ちょっと与えすぎなんじゃないか？って疑いたくなるくらい…言葉では言い表しきれないほどの幸せが、此処にはあった。</div><div>大切な人と、大事な家族と、信頼できる仲間と。</div><div>もうこれ以上なにもいらない。</div><div>これ以上の幸せは、きっとバチが当たる。</div><div>此処から先の幸せは、自分の力で手に入れるから。</div><div>自分の足で、探しに行くから。</div><div>光助は銅蔵の腕の中で眠る少女の穏やかな表情を見つめ、ひんやりと湿った木の根に背を預ける。</div><div>木々に囲まれ、焚き火の光と熱が籠もる整えられたねぐら。</div><div>痛みを堪え空を見上げれば、満天の星空。</div><div>「光助」</div><div>隣から、自分を呼ぶ声。</div><div>「気負わず行こうぜ。俺らも居るから」</div><div>「…おう」</div><div>こちらを見ずに彼は笑いそのさらに向こうで七郎が肩をすくめた。</div><div>「で、お前もさっさと寝ちまえ。明日から、取り仕切らなくちゃいけねーんだろ？」</div><div>ほら、と薄汚れた布切れを差し出してきた彼は、光助の肩を軽く押し休むよう言う。</div><div>「俺は火にくべる枝取ってくるから。七郎も、そろそろ向こうの見張りと交代だろ」</div><div>「ああ、そうだな」</div><div>がさり、音を立てて木の根を越える忍と、続くように立ち上がり背を向ける七郎。</div><div>「悪い…ありがとうな」</div><div>「なに、良いって事よ」</div><div>「さっさと寝ろ。いつまでも甘やかせないからな」</div><div>「…応」</div><div>布を身体に巻き付け、光助は、自分の中にある感情をどうすればいいのか分からず、油断すればにやけてしまいそうな口元を隠した。</div><div>しばらく、寝れそうにない。</div><div>遠くなる悪友たちの背中を見送りながら、光助はもう一度空を見上げる。</div><div>月明かりはない。</div><div>空を照らすのは星の光のみ。</div><div>星の大群を散りばめられた夜色が、この世界を包み込んでいる。</div><div>恋しくて。</div><div>切なくて。</div><div>むず痒く。</div><div>どうしようもなく愛おしい。</div><div>光助は葉月へと視線を戻し、ゆっくり、瞼を閉じた。</div><div>この世界に永遠なんてない。</div></div></div><div><div>けど、出来るだけ永く…叶うなら、最期のその瞬間まで、彼女を守り、愛し、想い続けよう。<br></div><div>弱っちくて、ちっぽけな自分に出来るのは、きっとそれくらいだから。</div><div>微睡む思考で未来を描き、ぼんやりと描かれた世界では誰もが笑っていて。</div><div>誰もが笑う世界で、自分は彼女の隣で、彼女は自分の隣で、微笑んで。</div><div>もぞり、…───何かが、動く気配がした。</div><div>ん、と身動ぎをし、目を開ければ見えていた世界はどこかへ消え、うっすらと明らんだ景色に自分が寝ていたのだと気付く。</div><div>ならさっきの映像は、夢か。</div><div>光助は未だぼんやりとしている思考で、顔を上げ、聞こえた小さな声に目を向ける。</div><div>どうやら葉月が目を覚ましたらしい。</div><div>見れば完全に熟睡しきっている銅蔵の腕の中で身体を…いや、何かおかしい。</div><div>どくん、と心臓が鳴く。</div><div>嫌な汗が背を伝う。</div><div>低速回転だった脳が、一気に、回り始める。</div><div>血の気の引いた白い肌。</div><div>力のこもっていない腕は、しかし妙に重そうで、固まっているようにも見える。</div><div>気が付けば光助は、叫ぶように彼を呼んでいた。</div><div>まだ状況を理解できていない葉月が、彼を見上げ、その巨体が───倒れた。</div><div>どすんと倒れ込んだ身体は、石になってしまったかのようだ。</div><div>葉月がそんな父に、手を伸ばした。</div><div>「銅…蔵…？」</div><div>怖ず怖ず身体を揺さぶる葉月の隣まで跳び寄り、光助は例えようのない吐き気と絶望に、叫ぶ。</div><div>なんで</div><div>なにが</div><div>どうして</div><div>これはいったいなんだ</div><div>分からなくて、なにも、分からなくて。</div><div>ただ一つ分かることと言えば…───銅蔵が、死んでいるという事だけ。</div><div>光助の叫び声に仲間たちが集まってきて、各々状況を理解したのかそれぞれに言葉を吐き出している。</div><div>脳の処理が追いつかなくて、隣の葉月の声を拾い取るので精一杯だった。</div><div>銅蔵の身体にすがりつき、子供のように名を呼び泣きじゃくる彼女のその泣き声を。</div><div>「───ふふふ…っ」</div><div>だが唐突に聞こえたソレは、自分や、葉月や、仲間たちの声に埋もれることなく不愉快なほどその場に響いた。</div><div>顔を上げ、その声の方角に目を向け、この場で一人だけ嗤みを浮かべているそいつの姿に…ぷつん、と糸が切れるような音がした。</div><div>刹那、光助の身体は銅蔵との戦いの痛みさえ無視して飛び出していた。</div><div>「てめえかあああああ！！！！」</div><div>左足で地面を強く捉え、右拳を振り抜いた。</div><div>重い手応えと共に男は後方へとぶっ飛び木に身体を打ち付ける。気は収まらない。</div><div>胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせれば、もう一度拳を振り抜き、</div><div>「答えろ！！！なんで頭領を！！！」</div><div>叫ぶ。</div><div>ぼろぼろと涙が溢れ、崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。</div><div>やっと、認めてもらえたのに。</div><div>やっと、手に入れたのに。</div><div>やっと、やっと…本当の親子になれたのに。</div><div>葉月の泣き声を聞きながら、光助は、どうしようもない現実にただただ絶望を抱えるしかなかった。</div><div>黒く塗りつぶされていく世界を、呆然と、泣きながら、見つめることしか出来なかった。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>銅蔵が死んだ。</div><div>その変えようもない事実を、受け入れたくなんてなかった。</div><div>けれど、否応にも叩きつけられた。</div><div>酔い醒ましにと銅蔵が飲んでいた水に毒を入れたその男は、その理由を笑いながら語ったのだ。</div><div>『葉月は僕の奥さんだって決まってるのに、あの男は、僕が居るのに勝手に光助なんかに！！！』</div><div>嗤いながら、真剣に、狂った眼で。</div><div>『僕たちは愛し合っていたんだ！なのに、取り合ってくれない！挙げ句、光助なんかに！！』</div><div>歪んでいる。</div><div>そう思った。</div><div>勘違いとか、思いこみとか、そういう話しではなく。</div><div>『無能な頭領なんか、要らないんだ！！僕が、僕が、』</div><div>それから先になにを言おうとしていたのかは、知らない。</div><div>光助より早く、忍がその男の顔面に拳を叩き込み、我慢なんて知らない連中が、力任せに怒りと悲しみを吐き出したから。</div><div>その後彼がどうなったかは知らないが、まともに生活出来る程度に収まってるとも思えない。生きていようが死んでいようが、どうでも良かった。</div><div>───銅蔵が死んだのは自分のせいだった。</div><div>自分と葉月が契りを交わさなければ、彼は死なずに済んだのだ。</div><div>しかも、とんだ見当違いだ。</div><div>もし葉月との結婚が許せないのだしたら、銅蔵ではなく自分を殺せばいい。</div><div>毒なんて卑怯な真似をせずに、自身の獲物で、殺しに来ればいい。</div><div>なのに、どうして銅蔵が死ななくてはならない。</div><div>どうして自分は生きているのだ。</div><div>わかってる。</div><div>ただの逆恨みだ。</div><div>誰も光助を責めたりはしないだろう。</div><div>だが何も背負わずにいられるほど…図太くは生きられない。</div><div>どうすれば、この罪を償えるのだろう。</div><div>どうすれば…心を失ってしまったかのように無表情な彼女を、救えるのだろうか。</div><div>悲しみに暮れる光助たちは、しかし立ち止まって涙を流していられる余裕すらなかった。</div><div>藤花を抜けたいと申し出る者達が現れたからだ。</div><div>葉月が自分の頭になるのが嫌だと、認められないと言った奴。</div><div>藤花の団の金を奪い逃げ出した奴もいた。</div><div>俺が藤花の頭になる！なんて言いながら斬り掛かってきた奴も。</div><div>そんな彼らに、葉月はいつもと変わらぬ様子で微笑んだ。</div><div>出て行くのは勝手よ、と凛とした声で紡ぐ。</div><div>「でも、無能は嫌いよ」</div><div>持ち逃げした奴は足を。</div><div>斬り掛かってきた奴は腕を。</div><div>彼女はいつもと変わらぬ笑みのまま、切り落とした。</div><div>いつもと変わらぬ笑みのまま、泣きながら、彼女は言った。</div><div>「銅蔵が作り上げた藤花を壊すつもりなら、あたしが、相手になるわ」</div><div>藤花の名を持つ唯一の少女が、笑いながら、泣きながら、刀を握る。</div><div>藤花の団を、自分の父親が作り上げた温もりを、守るために。</div><div>非難の声はあった。</div><div>けれどそれらを振り払うかのように、彼女は刀を掲げた。</div><div>安定を失った藤花の団を何とか立て直そうと、先頭に立ち続けた。</div><div>そうして気が付けば、彼女を主として、頭として認め従い慕う連中が、藤花になっていた。</div><div>突き進み続ける葉月の憂いが少しでも軽くなるように、光助なりに駆け回っていたつもりだが、正直どこまでしてあげられたのかは分からない。</div><div>ただ、彼女の微笑みを、守らなくてはと。</div><div>これ以上誰にだって彼女の幸せの邪魔はさせまいと、強く誓った。</div><div>せめて彼女が、自分の前だけでは一人の少女として気負わずにいられるよう、強くなろうと、銅蔵の墓前で誓った。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>───銅蔵の死から、二年の月日が流れた。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>願いは届かない</div><div>──中編──</div><div>……End……</div><div><br></div></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12355621716.html</link>
<pubDate>Sun, 25 Feb 2018 11:46:11 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>願いは届かない 前編②</title>
<description>
<![CDATA[ <br>※こちらは後半のお話です。前編を未読の方は<a href="https://s.ameblo.jp/shatuki/entry-12349933070.html">こちら</a>の一読をよろしくお願いします。<div><br></div><div><br></div><div>&nbsp;◆◇◆◇◆<br><br><br>その日は、少しだけ想定外のことが起こっていた。<br>藤花ではない賊が小さな村に下りてきていて、思うように情報を集められなかったのだ。<br>差し迫った調査でもなかったのだが、こうも奴らがでかい顔をしていることは面白くない。<br>それに、このまま山に戻ってからこの村の人たちに何かがあったら、それはそれで後味が悪い。<br>光助は日が暮れるまで、以前夜を重ねて以来何となく付き合いのある女の家に身を潜め、奴らの様子を窺っていた。<br>結局彼らは特に目立った動きをすることなく村を立ち去り、引き留める女にまた今度な。と言い闇しか見えない獣道に足を踏み入れたのだ。<br>草木も眠る丑三つどき。<br>殆ど月明かりの差さない森の中は、本当に山そのものが眠っているかのように静まり返っている。<br>辺りに獣達の気配もない。<br>昼間とはまるで違う様子に、本当にこの道で合っているのかと不安になるほどだ。<br>他の賊のことを頭領たちに報告しようと急いで帰ってきたわけだが、そのことを少しだけ、後悔した。<br>こんな真夜中じゃ、報告しようにもみんな寝ている。<br>起きているとすれば、見張りの連中だけだ。<br>ああ、こんなことなら大人しく、旦那が不在だと言った女の家に転がり込んでおけばよかった。<br>じんわり汗ばむ額を手の甲で拭い、ようやくその姿がわかるくらいまで近付いた藤花の住処にほぅ、と息を吐き出す───突然声が投げられた。<br>ばっ、と声のした方を向き、<br>「おわっ、びっくりした。なんだ、葉月か。起きてたのかよ」<br>光助は彼女の姿に、思わず暗闇を仰ぐ。<br>あまりにも気配がしなかったから、闇討ちでもされるのかと一瞬本気でビビってしまった。しかしまぁ彼女が相手なら気配が分かるはずもない。<br>というか、こんな時間まで起きているとは思わなかった。<br>「今日見張りか？」<br>とりあえず、光助は状況を把握しようと問いを口にする。<br>「ううん。最近入ってきた子達がね、なんか、相談があるって…月望みの丘に来てほしいって…あ、内緒って言われたんだった…」<br>だが返ってきた答えに、光助は思わず気のない返事を返してしまう。<br>「こんな時間にか？」<br>変な奴もいるもんだな。<br>そもそも…葉月に相談するというのも、少々的外れな気もするが…新入りなら仕方ないのかもしれない。<br>光助は辺りをぐるりと見回し、<br>「今日の見張りは誰だ？」<br>と彼女を見やる。<br>「えっと、今日は…七郎と忍がやっていたと思うけど…」<br>光助の問い掛けに少し悩むような素振りを見せながら葉月は答え…暗闇の中で見つめ合う。<br>ああ、そういえば、彼女とこうやってまともに話すのはいつ振りだろうか。<br>思わず記憶を辿り、しかしその感情を押し込めると思考を切り替える。<br>今日の見張りは、昔馴染みの悪友たちのようだ。<br>悪友は悪友でも、二人の性格は正反対。<br>忍はともかく、問題は七郎か。<br>融通の利かないアイツに見つかったら絶対報告されて大目玉だ。<br>どうする？<br>このまま何事もなかったかのように寝床に戻るか？<br>でも見つかる確率のことを考えると…<br>しばらく思考を巡らせていた光助だったが、「よし」と頷き、<br>「俺はもうちょい時間潰してるから、ここで会ったの黙ってろよな」<br>葉月にそう言い放った。<br>共犯になれ、という言葉。<br>「わかった」<br>しかし彼女は特に考える様子もなくこくりと頷き、しかしふと空を仰いだ。<br>「…あたしもそろそろ行かなくちゃ…」<br>こんな真夜中に、森を歩こうという少女。<br>「……ああ、じゃあな」<br>光助は一瞬だけ付いていった方がいいかと考えるも、そのまま葉月に背を向けた。<br>たとえ獣に襲われたとしても、彼女なら心配あるまい。<br>葉月の足音が聞こえ始めると同時に、光助もまた歩き出していた。<br>せめて日が昇るまでどこかで時間を潰したい。<br>こんな時間に足場の悪い道を歩いたのだ、出来れば身体を休めたいのだが…ああ、あそこなら。<br>光助は歩きながら頭の中にこの辺りの地図を思い浮かべ、しかしふと足を止めれば口元に手を持っていく。<br>「最近入ったやつ…って、元はどっか別の賊じゃなかったっけか？」<br>葉月が口にしていた何気ない言葉。<br>さっきは特に気にしてはいなかったが、改めてその言葉に意識を向けてみると、違和感を覚える。<br>───藤花の団員の殆どは天涯孤独で居場所を失った戦いも出来ないような連中だ。<br>そこから生きるために戦いを覚えたり、持ちうる知識を使ってみんなの役に立とうとそれぞれが努力をしている。<br>山の中に居を構えてこそいるが、村や町のようなひとつの集落と同じだと光助は考えていた。<br>そんなところに賊の落ちこぼれ達が流れ込んできて…そんな奴が、葉月に相談…？<br>しかもこんな時間に、だ。<br>光助は今さっき歩いてきた道を振り返り、なにも見えない暗闇に眉を寄せる。<br>深淵のような、暗闇。<br>本当に自分はこんな暗闇を通ってきたのだろうかと思うくらい、なにも見えない。<br>「いやいや…葉月が、誰かにやられるとか、ありえねーから」<br>あんなバケモノ、余程の手練れでもそう簡単に勝てるわけがない。<br>心配するだけ無駄だ。<br>歩き通しで疲れているのに、わざわざ様子を見に行こうだなんて馬鹿げてる。<br>行く必要はない。<br>光助の理性はあっさりと結論を出し、身体を休められる所に行こうと告げてくる。<br>ああ、でも、葉月の奴珍しく嬉しそうな顔してたよなぁ。<br>普段相談なんてされることはなかったんだろうし、若頭らしいことが出来るのが嬉しいんだろうなぁ。<br>じんじんと痛みと熱が足の裏から全身に疲労が広がり、このまま座り込み、横になりたいくらいだ。<br>しかも…いつまで経っても暗闇の奥は見えてこない。<br>早く行こう。<br>理性の言葉に、光助も、頷く。<br>なのに、身体は動こうとしない。<br>あいつ、仲間には…家族には、絶対手は出せない優しすぎる奴だからなぁ…それでも、襲い掛かってきたらなんとかすんだろうし、そうなったとしても、俺じゃなんの役にも立てないしな…<br>どんどん思考が理性を浸食していって、光助は自分がどうしたらいいのか、解らなくなってしまう。<br>この暗闇の先には行きたくないと、理性も、本能も、言っている。<br>でも、感情が…光助の身体を引き留めているのだ。<br>この先には、何かがある。<br>行かないと、後悔する。<br>何があるのかも、何を後悔するのかも分からないけれど、行かなくてはいけない。<br>「…ああ、もう、くそ…！」<br>光助は拳を握り、疲れた足を叱咤すれば、暗闇に向かい勢い良く地面を蹴った。<br>木の枝に手を伸ばし上手く身体を使い木に登れば、暗闇の中目を凝らしながら「月望みの丘」を目指し空を駆ける。<br>丘と言うよりも崖のようなそこは、しかし崖と言うほどの高さはない。草木はなく、大きな岩がごろごろと転がっているそこから月がよく見えるから、その名で親しまれている。<br>崖の下の方には川が流れており、川をもう少し上った所が、月望みの丘の始まりとも言えよう。<br>疲れの溜まった足は思うように動かなくて、それでも光助は彼女が向かったであろうその場所を目指し…僅かに聞こえた物音に足を止めた。<br>音のした方へと木の上を移動し、身を乗り出し、月明かりの下に立つ人影に目を凝らした。<br>男が二人と、その男の向こう側にいるのは…葉月？<br>姿はちゃんと確認できないが、この時間にこの場所にいるのだとしたら、彼女だろう。<br>だがしかし、その様子からは違和感しかない。<br>男の向こう側には、岩があって、その間に葉月がいる。<br>よく聞き取れないが、言い争っているように聞こえる。<br>光助は左側に回り込むように移動し、同時に見えたその光景に目を見開いた。<br>───男が葉月の着物に手を伸ばし、着物の袷目を左右に開きあけたのだ。<br>「───ひっ！！」<br>はっきりと聞こえてくる、葉月の悲鳴。<br>光助はその光景を、酷く冷めた思考で見つめていた。<br>ほら、見ろ。<br>結局、こんなくだらない事じゃないか。<br>光助はさっきまであんなに膨れ上がっていた不安が急に収まっていくのを可笑しく感じながら、木の枝にしゃがみ込んだ。<br>葉月のところに相談だなんて、おかしいと思ったわ。<br>大体、葉月も相談があると本気で思っていたのか。<br>人の心がわからない彼女に誰が何を相談するというのだ。<div>光助はもうすぐ吹き飛ばされるであろう男たちを半眼で見つめながら、ただただ事態を眺めていた。</div><div>しかしすぐに、もう一つの違和感に気付く。</div><div>男たちの手が伸びても、葉月は、逃げようとも打ちのめそうとも、なにもしないのだ。</div><div>見れば、彼女の顔は引き吊り、今にも泣きそうに…</div><div><br></div><div><br></div><div>───どくん…</div><div><br></div><div><br></div><div>光助は、自分の中にある感情が、大きく脈打つのを感じた。</div><div><br></div><div><br></div><div>───どくん…</div><div><br></div><div><br></div><div>彼女の身体をまさぐる薄汚い手と、彼女の表情。</div><div><br></div><div><br></div><div>───どくん…</div><div><br></div><div><br></div><div>涙を流し、恐怖に満ちた…見たこともない表情。</div><div><br></div><div><br></div><div>───何が起きている？</div><div>彼女が、葉月が…何故、泣かなければならない？</div><div>何故、彼女はなにもしない？</div><div>何故…他の男が、葉月に触れている？</div><div>誰の許可があって、こんな事を、している？</div><div>恐怖に震える彼女の唇が、僅かに動く。</div><div>遠くても、はっきりと判る、彼女の聲。</div><div><br></div><div><br></div><div>…たすけて…こうすけ…っ！！！</div><div><br></div><div><br></div><div>刹那、光助は飛び出していた。</div><div>隠密行動が身についた身体は一切の気配を消し去り、あっという間に距離を零に詰めれば全ての力を込めた一撃を、放つ。</div><div>「がぁっ！！！」</div><div>拳に伝わる痛みと男の呻き声を無視し、再び拳を振るう。</div><div>頬を捉えた一撃は、彼らを葉月から遠ざけるには十分だった。</div><div>「てめぇら、葉月泣かすなんて良い度胸じゃねぇか！！！」</div><div>彼女を背中にしそう叫ぶと、弱々しい声で名前を呼ばれる。</div><div>ああ、苛つく。</div><div>光助はちらりと振り返り、その場に崩れ落ちている葉月を見やれば募る苛立ちを吐き出す。</div><div>「情けねぇ声出してんじゃねーよ！いいから、立て！さっさとこいつら撒いてねぐら戻るぞ！」</div><div>前を見つめ、よろよろと立ち上がる男たちに舌打ちをしながら、葉月が動けるようになるのを待つ。</div><div>こんな奴ら、本来の葉月だったら敵でもなんでもないのだ。</div><div>自分一人が相手にするには、少し、荷が重いかもしれないが、彼女が居てくれたなら…</div><div>光助は呼吸を整え、しかし、</div><div>「こーすけ…足、動かない…」</div><div>そんな言葉に、なにも言えなくなってしまう。</div><div>辛うじて「は？」という一文字を吐き出すも、カタカタと震える少女は、涙を流しながらこちらを見上げる。</div><div>恐怖に埋め尽くされた瞳で、精一杯、気持ちを保っていて。</div><div>───嗚呼。</div><div>光助は口の中で、小さく声を上げた。</div><div>どうして彼女が、こんな想いをしているのだろう。</div><div>どうして葉月は、泣いているのだろう。</div><div>どうして俺には、力がないのだろう。</div><div>俺は、葉月を守りたくて強くなったのに。</div><div>彼女が恐怖なんて感情を、知らなくて良いように…</div><div>汚い感情全部、知らないまま、笑っていられるように…</div><div>なのに。</div><div>「そこに居ろ。片付けてくる」</div><div>光助は低く告げると、拳を握りへらへらとした笑みを浮かべる二人と向き合った。</div><div>じゃり…、と足下で小石が鳴り、月明かりに照らされた岩場に異様な空気が満ちていく。</div><div>…口元を拭い、彼らが嗤う。</div><div>「初めましてなのに痛いじゃないっスかァ、参謀殿」</div><div>初めまして？</div><div>笑わせるな。</div><div>光助は舌打ちをしながら二人を睨み付ける。</div><div>「てめぇら啄木鳥で散々非道ぇ事して役人にしょっぴかれた糞野郎共の残党だろうが。その面、見たことあるぜ」</div><div>啄木鳥と名乗る、山向こうの廃れた寺跡をねぐらにしていた悪党たち。</div><div>つい最近、奴らの縄張りで抗争が起き、そのごたごたが原因で親分たちが役人にとっ捕まったという話は耳に入っている。</div><div>様子見に啄木鳥のねぐらを探ったときに、彼らの顔を見た記憶がある。</div><div>…と、彼らは苛立ったように足下の砂を鳴らし、息を吐く。</div><div>「…あーあ、興が冷めるぜ。たかが女の一人や二人。俺らに遊ばせてくれたって良いだろ？アンタだって、散々その女で遊んでんだろ」</div><div>「ざけんな。てめぇらみてェな連中に誰が渡すかよ」</div><div>確かに自分は、散々女遊びをしてきた。</div><div>そこに関しては、誉められた人生を歩んだなんて思っていない。</div><div>だが今まで一度だって、彼女をそういう風な目で見たことはない。</div><div>彼女はそんな、薄汚い言葉も感情も、似合わない。</div><div>光助は重心を低く置き、一気に地面を蹴る。</div><div>迎え撃つような拳を避け、身体を捻りながら拳を突き出し、</div><div>「へなちょこなパンチじゃないっスか。舐めてるんスかァ？」</div><div>あっさりと止められた一撃に、内心焦りを感じていた。</div><div>こんなに簡単に止められてしまうと云う事は、実力差は圧倒的という事だ。</div><div>繰り出される攻撃を防ぎながらその重みに思わず声が漏れる。</div><div>入れ替わりながら叩き込まれる拳に堪えるために半歩片足を下げ、彼らの動きをじっと見つめる。</div><div>ただひたすら防御に徹し、襲い来る痛みに顔をしかめる。</div><div>だがその痛みが、光助の思考を鋭く研ぎ澄ませていくのが解る。</div><div>それは、普段眠っている…極限状態にのみ開かれる、唯一光助が助かるために特化された才。生存本能。</div><div>見えている景色のなにもかもが理解できる。</div><div>だから光助は、拳を避け、或いは受け止めながらただじっと"その時"を待つ。</div><div>足の動きを、身体の動きを、拳の動きを、彼らの表情を…睨みつける。</div><div>蓄積するダメージに鈍る身体を叱咤し、飛びそうになる意識を握り締め…</div><div>「こ…す、け…」</div><div>小さく自分の名を呼ぶ声に、思わず笑みが零れた。</div><div>彼女の不安に満ちた声を聞くのは、いつ以来だろうか。</div><div>こんな状況だというのに、なんだか懐かしくって、目を閉じる。</div><div>よく、嫌な夢を見たから一緒に寝たいとお願いされたっけか。</div><div>着物が上手く着られなくって、半べそで自分の所に来てたときもあったな。</div><div>半べそって言えば、飯当番が美味しくない飯を用意してきた時なんて、今にも泣きそうなくらい目に涙をためながらも食べてたっけ。</div><div>本当に、食べ物のことになるとすぐムキになって、しかも頑固で。</div><div>ちらりと振り返り、子供のように何度も光助の名を呼びながらぼろぼろと涙を零す彼女に笑みを向ければ、</div><div>「大丈夫だ。正解は視えてる」</div><div>だから、そんな顔すんな。</div><div>光助は少し距離を取り拳を構え直すと、小さく深呼吸をする。</div><div>彼らの表情からは、焦りや苛立ちが見て取れる。</div><div>…と、一人が声を上げながら殴りかかってくる。</div><div>僅かに右に傾いた後、左足を踏み出し捻りながら繰り出される右の拳。</div><div>その動きに、光助も同じように左足を、拳よりも外に踏み出し───身体を捻りながら拳を避けながら、捻る回転力をそのまま自らの拳に乗せを叩き込んむ。相手の肘に向け、人間の身体の構造上決して曲がることのない方向へと力一杯に押し込んだのだ。</div><div>ごぎゅり、鈍い音が拳から伝わる。</div><div>激痛に悲鳴が上がり、しかし光助は止まることなく踏み出していた左足を軸にして、捻った身体を元に戻しながら右膝を鳩尾に叩き込む───肋骨の折れた感触。</div><div>「てめぇ！！」</div><div>荒げられた声に光助はひらりと倒れ込む男を盾にするように立ち回り、続く攻撃も寸前でかわしながら今度は前へ、足を踏み込む。</div><div>防御の体勢を取る相手に、思わず笑みが浮かぶ───その場にしゃがみ込めば足を払い、よろめいたところに低い体勢のまま体当たりを食らわせた。</div><div>もつれ合うように地面に押し倒し、両膝で男の腕を踏みつければ、その馬乗りになった状態から顔面に向けて一発。さらに肋に向けて二発拳を叩き込む。</div><div>フラフラになってきた身体で立ち上がり、無造作に投げ出された腕を踏みつけ…大きく息を吐き出した。</div><div>ここまで打ちのめせば、しばらくは立ち上がれまい。</div><div>ああ…なんとか、勝つことが出来た…</div><div>光助はフラフラと定まらない足下で呻く男たちを見下しながら、自分の中に安堵が広がっていくのを感じていた。</div><div>殴られ続け、意識が飛びかけたことは何度もあった。</div><div>けれど決定打を避け続けることで、何とか勝利に漕ぎ着けた。</div><div>…どんなに圧倒的に勝っている状況でも、自分の放つ「渾身の一撃」が不発に終われば、相手は苛立ち、冷静を欠く。</div><div>光助は荒い息を吐きながら、自分の戦い方は間違っていなかったのだと天を仰いだ。</div><div>人間は誰しも、癖や習慣的な行動が存在し、それは喧嘩や殺し合いにおいても言えることで。</div><div>普段は考えながらあらゆる手段を用いて攻め込んでいたとしても、戦いを終わらせようとする『最後の一撃』や、『使い慣れた立ち回り』、さらには『勝利の方程式』と呼ばれる絶対的な信頼を置いているパターンは必ずある。</div><div>そしてそれは、冷静を欠くほどに、わかりやすく、行動に現れる。</div><div>だから光助は反撃に出ることなく、ただひたすらに攻撃を堪え続けていたのだ。</div><div>反撃も出来ないほどに疲弊した弱者が、何度殴っても、倒れない事への苛立ち。</div><div>勝負を決めようと力を込めるも、不発に終わり、溜まるばかりの鬱憤。</div><div>長引けば藤花の団の誰かに気付かれてしまうという焦り。</div><div>これらすべての状況が、彼らの行動の粗さを際立たせ、それを光助は利用することが出来たのだ。</div><div>───大人の顔色を見続けていた光助の、相手を観察することに特化した才。</div><div>堪えながら、相手の癖を見抜き、それを逆手に取る。</div><div>右に僅かに傾いた後、左足を踏み込み繰り出される右の拳。</div><div>攻撃の際に疎かになる足下。</div><div>すでに分かり切った答えなら、光助にだって簡単に解くことが出来る。</div><div>ああでも、もう無理だ。</div><div>あんなに好き勝手殴られて、立っていられるのが不思議なくらいだ。</div><div>それでも、まだ倒れるわけにはいかない。</div><div>それは自分が男で、彼女は自分が守らなくちゃいけない奴で、それが今こんなになっても立ち続けている理由だから。</div><div>「…な？大丈夫って言ったろ？」</div><div>汗なのか血なのかわからないナニカが左目を塞いでいるせいでぼやけた視界。それでもにっ、と笑って見せ…身体中に走る痛みに思わず顔を引き攣らてしまう。</div><div>ああもう、自分が嫌になるな。</div><div>光助は一人苦笑いを浮かべると葉月の方に歩み寄り、涙でぐちゃぐちゃになった彼女の頭を撫で回す。</div><div>そして、自分の後ろで呻きながら立ち上がろうとする男たちに、</div><div>「てめぇらみたいな屑を引き入れちまったのは、藤花の責任だ。死にたくなきゃさっさと消えろ」</div><div>低く、言葉を吐き付けた。</div><div>本当は、今すぐにでも殺して終いたいと思っている。</div><div>けど、もう身体が動きそうにない。</div><div>だから強がって見逃してやることしか、出来そうにない。</div><div>恐怖を瞳に宿す彼女の視界から、男たちを消し去ることしか出来ない。</div><div>自分の身体で視線を妨げながら、光助は彼女の頭を撫でていた手を縛られた腕を解放してやるためゆっくりと伸ばし、</div><div>「やだっ！」</div><div>縛られたままの腕で振り払われれば、僅かに目を見開いた。</div><div>彼女は身を縮こませ、大きく首を振る。</div><div>「こわい…やだ…」</div><div>光助という存在に、怯え、涙する少女。</div><div>それほどまでに…彼女は、追いつめられていたのだ。</div><div>「……はづき…」</div><div>光助はその名を呼び、それから、</div><div>「…大丈夫、大丈夫だ」</div><div>葉月の身体に手を伸ばす。</div><div>呪文のように、言い聞かせるかのように、言葉を吐き出す。</div><div>恐怖に支配された彼女が、必死に光助の手を払おうと身を捩り、けれどそれすらも自身の腕に抱き収めた。</div><div>「大丈夫…俺は、ここにいる…もう、怖い事なんてねーよ」</div><div>ぽんぽんと、背中を叩きながら、なんどもなんども、語りかける。</div><div>大丈夫だから。</div><div>俺が守るから。</div><div>暴れようとする彼女の心に届くように、ゆっくりと、柔らかな声で紡ぎ、腕の中で大人しくなったころ…光助は彼女を縛る紐を解こうと手を伸ばし、しかし自分の手が震えている事に気付けば心底情けなくてため息が漏れそうになる。手が震えているせいで、上手く解けない。</div><div>…と、ようやく落ち着いてきたのか、葉月は光助の額を見上げ不安そうに大丈夫なのかと尋ねてくる。</div><div>「んぁ？大丈夫だ、これくらい、問題ねーよ」</div><div>ああ、垂れていたのは血だったのか。</div><div>どうやら興奮してるせいか感覚が鈍っているらしい。額の傷口をゴシゴシと擦り、そう言って微笑む。</div>なんとか紐を解くと、改めて彼女の身体をそっと抱きしめ、ぽん、ぽん、と背中を叩いてやる。<br>華奢な身体は腕の中にすっぽりと収まり、刀を振り回しているとは思えないほど年相応に感じた。<br>しばらくそうしていた光助だったが、堰を切ったように泣き出ししがみついてくるその様子に、<br>「来るのが遅くなって、悪かった」<br>強く、強く、抱きしめる。<br>「こ、すけ…、怖、怖かっ…、あたし、怖く、て…っ！！」<br>「怖い思いさせて、すまん。ほんと、すまん」<br>光助は謝りながら、自己嫌悪に唇を噛みしめた。<br>もっと早く、彼女の所に来ることは出来たはずなのに。<br>そんなはずないと、彼女に限っては大丈夫だと、逃げていた。<br>自分勝手な理由で、逃げて、挙げ句彼女を怖い目に遭わせて。<br>しかも。<br>気付いてしまった。<br>自分が彼女に対してどんな感情を抱いていたのかを。<br>知ってしまった。<br>目をそらし続けていた感情の名前を。<br>解ってしまった。<br>自分がどうしたいのかを。<br>葉月を抱きしめ背中をさすってやりながら、込み上げてくる感情にぐ、と奥歯を噛みしめる。<br>…と、彼女は何度も深呼吸をし、ゆっくりと顔を上げた。<br>泣きはらした目で、こちらを見つめ、<br>「こーすけ」<br>名前を呼んでくる。<br>「…落ち着いたか？」<br>「うん。来てくれて、ありがとう」<br>光助の問い掛けに小さく頷くと、彼女は少しだけ離れ手の甲で頬を拭う。<br>そのことではだけた胸元が露わになり、僅かに目をそらしながら着物に手を伸ばし光助は乱れた胸元を直してやる。そのまま、縛られていた両の手を取れば、<br>「親指、痣になっちまってるな…痛かったろ」<br>月明かりの下でもはっきりと解る痕に眉を寄せた。<br>「でも、光助の方が、もっと…」<br>「俺は…別にいいんだよ」<br>手を撫で、心配そうにこちらを見上げる葉月に微笑んで見せ、しかし自分の着物が泥だらけなことに気が付けば、しまった。と彼女の着物を見やる。光助の着物からの泥汚れが移ってしまっている。<br>当たり前だ。<br>何度も地面に倒れ込み、身体中あちこち傷だらけなのだ。<br>「なんか、ごめん」<br>「ううん。光助は、悪くない。あたしが、動けてれば…光助だって、イタイイタイ、しなかったのに」<br>葉月は彼の額に手を伸ばし、傷口に滲む血をそっと拭いそれから頭を垂れる。<br>こんな状況でも、彼女は自分を責めるのか。<br>いや、きっと、わからないのだ。<br>今まで何の苦労もなく押し込めていた感情に…身体を支配されるということが。<br>恐怖は、呼吸すら許してくれない…自分の中にいる最大の敵であるという事を、彼女は知らなかったのだ。<br>「葉月」<br>光助は、俯く彼女の名をそっと、呼ぶ。<br>ゆっくりと顔を上げる葉月。<br>「今から言うのは、俺の本心だから、そういうつもりで聞いてくれるか？」<br>「…？うん。わかった」<br>ゆっくりと、彼女にも伝わる言葉を選びながら問い掛け、月明かりに照らされた白い頬に触れる。<br>手のひらに冷えた体温が伝わり、言葉を紡ごうと口を開く。<br>「…えっと、その…」<br>ここにある気持ちを吐き出そうと頭の中に言葉を並べ、しかしなにも浮かび上がってこなくて、代わりに脳の奥の方から熱が込み上げてくる。<br>「その、だから…」<br>伝えたい言葉は、たった一言なのに。<br>そのたった一言が、どうにも、出てこない。<br>…ああくそ、ダサ過ぎんだろ、これ。<br>ここまで来ると、情けないとかそういうのを通り越して、自分に呆れてしまう。<br>「…光助？」<br>なにも伝えられないでいる光助をきょとんとした紅蓮で見上げる葉月。<br>ああもう、こうなりゃ自棄だ。<br>「葉月、手ぇ出して」<br>「うん」<br>差し出された両手を強く握り、真っ直ぐに彼女と見つめ合う───口を、開く。<br>「ずっと、葉月のこと避けてたんだ。向き合うのが怖かった。嫉妬もあったし、自分が情けなくて、みっともなくて、側に居ちゃいけない気がしてた」<br>心の中を何一つ隠さない、取り繕わない、感情そのものの吐露。<br>「そんな言い訳して、なにも出来ない自分から、逃げたかったんだ」<br>きっと彼女には伝わらない感情だろう。<br>でも、伝えなきゃいけない気がした。<br>自分がどういう人間なのかを、知っていて欲しいと思った。<br>「勝手に距離置いて、でも、葉月の事、自分のモノだって思い込んで、お前は誰のモノにもなる訳ないって決めつけてて。ホント、勝手でさ」<br>仲間たちが葉月のことを話していても、理解できるのは自分だけだ。なんて横柄で傲慢で、高を括って。<br>「葉月があいつらに汚されるって思った時、気付いたんだよ。逃げてた事にも、目を背け続けてた気持ちにも、本当に望みにも」<br>この手の中にあったはずの彼女に、自分で背を向けていたのだ。<br>自分で手放して、逃げて、勝手に…気付いてしまった。<br>吐き出していく言葉を、視線を、感情を、ただ静かに受け止めてくれる少女は、強く握る光助の手を、優しく握り返してくれる。<br>「葉月」<br>「…なぁに…？」<br>「俺は。お前より、ずっと弱い。何度挑んでも、きっと勝てない。他の連中だって、葉月にはかなわないだろうさ」<br>葉月は強い。<br>彼女にかなう相手なんて、そうそう現れない。<br>でもな。<br>「俺は…お前を守りたい。一番近くで、葉月に笑っててほしい。一番近くで、生きていきたい」<br>自分にも、出来ることがあるから。<br>自分にしか出来ないことが、まだ残っているから。<br><br><br>「だから葉月。俺の、お嫁さんになってくれ」<br><br><br>───…これは、月下の誓い。<br>自分の気持ちから、彼女から、もう逃げないと決めたから。<br>この想いを貫きたいと、強く、思ったから。<br>だから、蒼の月に誓うのだ。<br>「お嫁、さん…」<br>「ああ、そうだ。頭領と、文さんのような、夫婦になるんだ」<br>「夫婦…銅蔵と…お母さんのような…」<br>光助の言葉を復唱し、自分の中に溶かすように飲み込む彼女は、なにかを言いたそうに視線をさまよわせ、口を開閉させる。<br>きっと、上手く心を吐き出せないのだろう。<br>「すぐに答えは出さなくて良い。急いで出すものでもないし、これから、ゆっくり知っていけばいいと思う」<br>悩むように黙り込む葉月にそう言って微笑めば、そっと頭を撫で、優しく抱き寄せる。<br>「でも、俺が葉月を想う気持ちは…葉月を好きだと想う気持ちは、変わらないから。ずっと側で守っていくって気持ちは、変わらないから」<br>「光助…」<br>「だから、側にいても良いか…？今まで散々、勝手してきた俺だけど、お前の側にいても…」<br>見上げてくる視線がなんだかくすぐったくて、光助は彼女を抱く腕に力を込めれば指先に触れる桜色の髪に頬を押し当てる。<br>そんな光助の背に…葉月の手が回される。<br>「葉月…？」<br>「あたし、光助の側にいたい。光助が側にいてくれれば、何もいらない」<br>思わず名前を呼ぶと、彼女は僅かに身を反らし微笑みながら光助の頬に手を添えてくる。<br>「あたしの中にある気持ち。光助じゃなきゃヤだ。光助が、良い」<br>ひとつひとつ確かめるように、言葉を紡いでいく。<br>「うまく、応えられてる…かなぁ？」<br>そして葉月は、こちらを見上げ不安げに首を傾げた。<br>そんな様子を受け止め、傾げられた表情に、なにも言えなくなってしまう。<br>…っていうか…<br>「あああああもう可愛過ぎんだろ好きだ葉月！！！！」<br>反則だろおおおおおおお！！！！<br>意味が分からん、意味が分からんくらい可愛い！！<br>光助は我慢できずに力いっぱい彼女を抱きしめ、小さく上がる悲鳴に別の思考を巡らせる。<br>まて、まてまて。<br>本心か？<br>俺が言ったから、それに釣られてるわけじゃない？<br>この状況に流されてる可能性はないか？？<br>そもそも彼女は昔から光助の真似っこをする事が多かった。<br>今回のもそうじゃないと言い切れるのか？<br>冷静になろう、と自分に言い聞かせ、彼女に対する想いが膨らんでいることに深呼吸をする。<br>このままだと、一線越えちまいかねんぞ。<br>いや俺はそれでも良いけど、これは、そういう問題じゃねーぞ。<br>むむむ、と考え込み、しばらく思案した光助は顔を上げた。<br>「よし、葉月、こうしよう」<br>「…？なぁに？」<br>「これは、大事なことだ。恋仲になるって事だ。いずれ夫婦だとかそういうことにも繋がる大切なことだ。だから、一旦落ち着いた頃に…半月とか、それくらい経った頃に、もう一回葉月の中にある言葉を聞かせてくれ。それでも、気持ちが変わらないでいてくれるなら…」<br>そのときは。<br>光助はその先の言葉を飲み込み、視線に精一杯の想いを込めた。<br>「…わかった」<br>葉月は小さく頷き、それから青白い光を見上げ、目を閉じる。<br>「ねぇ、光助」<br>しばらくそうしていた彼女は、細く息を吐き出し、柔らかな声を紡ぐ。<br>「今日は、手、つないで寝ても、良い…？」<br>閉じられた瞳。<br>長い睫毛が、微かに震えていた。<br>昔みたいに…一緒に。<br>「ああ、勿論」<br>光助は幼き日と同じように頷き、目を開けた彼女に微笑んだ。<br>同じように微笑みを向けてくれる彼女は、一瞬動きを止め、瞬きをする。<br>どうした？なんて問い掛けるも、葉月は何でもないと首を振り、立ち上がりながら自身の胸に手を当てる。<br>きっと、彼女なりにいろいろ考えているのだろう。<br>光助はその邪魔をしないように追求はせず、蒼白の月を見上げた。<br>痛みを押し殺し、歩き出しながら、目を閉じる。<br>そして胸の奥の方から浮かび上がってきた想いに、苦笑いを浮かべた。<br><br><br><br>───このまま、此処ではない何処か遠くに行けたらいいのに───<br><br><br><br>─前編─<br>…END…<br></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12349933768.html</link>
<pubDate>Sun, 04 Feb 2018 01:11:56 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>願いは届かない 前編①</title>
<description>
<![CDATA[ <br><br><br>　　◆◇◆◇◆<br><br><br><br>菊川家長男、菊川光助。<br>物心付く前から、彼は家業を継ぐものとして未来を決められていた。<br>それは、望めば何でも手に入ったし、どんな願いも聞き入れられた。<br>ただ一つ、『自由になりたい』という願いを除いて。<br>彼は、賢い子供だった。<br>自分の家を囲む塀より先の世界を望んではいけないのだと、幼心ながらに理解していた。<br>自分という存在は、菊川家の長男という大きな価値と、それに釣り合うほどの『我慢』が作り出している事なのだと、理解していた。<br><br><br><br>物心付いた頃から自分は『菊川光助』という駒だった。<br>自由など無く、家の中と、庭と、離れにある物置き小屋にだけ行くことを許された、父の思い通りに動かされる、駒。<br>ただ逆に言えば、自分はそうされるほどに価値のある人間なのだと気付いた。<br>光助は、とても賢い子供だった。<br>自分に『駒』としての価値があるのなら、父もまた、光助の『駒』であるということだった。<br>何も知らないフリ。<br>何も気付かないフリ。<br>父の逆鱗に触れぬ限り、自分には、それだけの価値がある。<br>賢い故に、光助は自分という存在を最大限に利用した───当時はそんな風には思ってなかったのかもしれないが。<br>五つを前にして、文字の読み書きを行えるほどの才に恵まれ、商家の生まれとして胸を張れるほど物事への理解も頭の回転も早かった。<br>何より…頑張れば頑張るほど…大好きな母が、喜んでくれた。<br>頭を撫で、本当に嬉しそうに笑ってくれた。<br>そんな母が、大好きだった。<br>日に日に横柄になり空回っていく夫を悲しそうに見つめながら、それでも母は光助にたくさんのことを教えてくれた。<br>自分を愛しなさい。<br>誰かを愛しなさい。<br>自分自身を、誰かに誇れる人になりなさい。<br>母が、自慢できるような、優しい人になりなさい。<br>そしていつか、誰よりも愛してくれる人を、守り抜きなさい。<br>優しく強く、誇り高く。<br>母の言葉を信じ、そうなりたいと、光助は願う。<br>そうなれると、信じてやまなかった。<br><br><br><br>ある日、光助は父に呼ばれた。<br>「これから、お前の許嫁に会いに行く」<br>それは、突然の言葉だった。<br>自分の許嫁に会いに行くという話を、光助はどこか他人事のように聞いていたのを覚えている。<br>もともと父は、菊川家の一人娘であった母の元に婿入りしてきた、肩身の狭い立ち位置であり、その分人一倍努力をし認めてもらおうともがいていた。<br>どんなに横柄な態度を取られようとも嫌いになれなかったのは、それが理由だったのかもしれない。<br>菊川家の長男として…───正当な後継者、世継ぎとして期待されていた自分を誰よりも疎んでいたとしても。<br>後継者としての『価値』が、どんなモノからも自分を守ってくれていることを知っていたから。<br>駒としての役割を甘んじて受けるつもりであった光助だったが、自分も、父に同行していいのだと知れば、どんなに抑えようとしても心が踊り、嬉しくて、母に報告しに行ったものだ。<br>光助が───記憶している限り───初めて町を出るのだ。<br>許嫁が居るという隣の町までは馬を引いて半日足らずで着くとしても、それでも、冒険に出かけるような気分だった。<br>だが一方で母は少し心配そうに眉をハの字にし、それから、父には内緒で懐刀を一振り寄越した。<br>「これは貴方が生まれたときに造らせた、貴方の御守りです。これを肌身離さず持ち、無事家に帰ったら、母に返すのです」<br>布袋を開けば菊川家の家紋が鞘と柄頭に刻まれた、漆黒が美しい刀だった。<br>鞘から僅かに刀身を覗かせれば、白銀が光を反射させる。<br>いいですね？と問い掛けてくる瞳に、光助は頷き、母の眼差しを背に荷車に乗り込んだ。<br>でこぼこの参道は、光助の乗る車の荷物を揺らし、高価そうな荷を運ぶ父の乗る車は酷くゆっくりだ。<br>背の高い荷に囲まれ、光助は積み荷の隙間から景色を眺める。<br>あぜ道を過ぎ、何もない一本道をしばらく進めば太陽の日差しを背の高い木が遮り、光は風に揺られてきらきらと輝く。<br>それだけで、光助は楽しかった。<br>まだ体験したことのない様々が、光助の胸を躍らせた。<br>次第に木々は数を増やし、少し、肌寒い風が隙間から吹き付けてくる───ひとつ前を走る荷車の方で大きな音が鳴った。<br>なんの音だろう。<br>光助は積み荷を少し動かし前を覗こうと体勢を変え、しかし同時に荷車が傾きバランスを崩す。思いっ切り顔面を強打すれば、光助は痛みを堪えるためにうずくまり顔と声を押さえる。<br>…悲鳴が上がった。<br>否。悲鳴よりも魂から吐き出されたような野太い声───断末魔だった。<br>次々に怒号と悲鳴、金属音と下品な笑い声が辺りを埋め尽くしていき、騒音に背を向ければ沸き上がる恐怖に耳を塞いだ。<br>ようやく光助は、何が起こっているのかを理解した。<br>自分たちは、何者かに襲われているのだ。<br>こんな所で自分たちを襲ってくる者が居るとしたら、すなわちそれは…<br>「賊だーっ、山賊だーっ！！」<br>この辺りを縄張りとする彼らのみ。<br>光助は身を強張らせ、後ろの荷車の馬に乗っていた父に助けを求め目を向ける。<br>「お前達！わかっているだろうな！！なんとしても荷を守れ！！」<br>だが父の目はこちらを向くことはない。<br>従えていた男達に対して声を荒げ、自身は手綱を握ったまま馬を方向転換させる。<br>「父上！」<br>そう叫ぼうとした。<br>だが恐怖に竦んだ声は掠れ、騒音に紛れかき消されてしまう。<br>気付けば体も動かない。<br>本能的に死を予感し、けれど光助はそれ以上に───父が助けに来てくれないことに絶望を感じていた。<br>光助は、賢い少年だった。<br>これから何が起きるのか、わかってしまった。<br>『婿養子』である父にとって、『正当な跡継ぎ』である光助は、ただの『邪魔者』でしかないのだ。<br>後ろを確認するように見回した父と、一瞬だけ視線が交わる。<br>そしてその一瞬は、すべてを理解するのには十分すぎる時間だった。<br>父は…この男は、光助を助けるつもりなどない。<br>光助という『邪魔者』を捨て、積み荷を選んだ。<br>金を選んだ。<br>予想外の襲撃なのだと思う。<br>現に、前を走っていた荷車の積み荷の殆どが奪われ、もう幾らもしない内に自分が乗っているこの荷車も襲われるだろう。前の荷と光助を取り囲む荷を捨ててでも、自分が乗る荷を守ろうと、光助ごと見捨てるのだ。<br>もし光助を消したいだけなら…───考えたくもないが───端から山に置き去りにすればいい。<br>こんなに荷を持ってくる必要もない。<br>光助は、呆然と父の視線を受け、微笑むことしかできなかった。<br>なぜあの時自分が笑ったのかはわからなかったが、最後に見た父の顔は苛立ちに歪んでいて、そのすぐ後には衝撃が走る。<br>賊が、光助の乗った荷車を襲ったのだ。<br>ああ、死ぬんだ。<br>光助は漠然と崩れ落ちてくる積み荷を見上げ目を閉じる。<br>痛くないと良いな。<br>苦しくないと良いな。<br>荷物に押しつぶされ、身動きの取れぬまま、ぼんやりと思う。<br>死んだらどうなるんだろう。<br>死にたくないなぁ。<br>痛いのも苦しいのも、怖いのも、嫌だった。<br>光助は閉じられた視界で襲い来る恐怖に怯え、刹那響く怒声に我に返った。<br>「てめぇら藤花の島でなにしとんじゃあ！！」<br>そんな叫びと、荷車まで倒される程力強く放たれたナニカ。<br>それが大男の放った蹴りだと気付くまで、数瞬の時間を要した。<br>今度は荷車に押し潰され、思わず声が漏れる。<br>その声を…大男は聞き逃さなかった。<br>「誰か居るのか？」<br>低く射るような声。<br>意識は完全に光助の方に向けられ、歩み寄る足音にどうすることも出来なかった。荷車が除けられ、身体にのし掛かっていた重みが遠退く───ぼさぼさの髪と無精ひげの男が驚いた顔でこちらを見下ろした。<br>「…その格好…この積み荷の家の子か？」<br>体が自由になっても、動けずなにも喋れないでいる光助に対し、男は眉を寄せる。<br>「あ…え、と…」<br>「ああ、良い良い。無理に喋んな。町まで送ってやるよ。菊川の御紋ってこたぁ、あの町だろ？」<br>腕を強く引かれ立ち上がった光助の身体は、ひょいと担がれ、元来た道を辿って運ばれ始める。<br>この男が一体何者なのかわからないが、町まで連れてってくれるのだという。<br>町に、屋敷に、母の元に、戻れるのだ。<br>男の言葉に光助は心の底から安堵し、しかし同時に…最後に視た苛立った父の顔が脳裏に浮かべば───「いやだ！」叫んでいた。<br>男は驚いたように光助を見上げ、再び、眉を寄せる。<br>屋敷に戻れば、母も、祖父も、世話係の女中も、みんなが喜んでくれるだろう。<br>多分それが光助にとっても一番良い。<br>でも。<br>だけど。<br>自分を見捨てた父は、どう思うだろうか。<br>父に見捨てられたことに気付いてしまった自分を、どんな心境で、迎え入れるのだろうか。<br>自分は…───今までみたいに笑えるだろうか。<br>なにも気付かないフリを。<br>なにも知らないフリを。<br>演じ続けることが出来るだろうか。<br>父にとって『価値のない』人間になってしまった自分を、受け入れることが出来るだろうか。<br>光助は、自分を担ぎ上げる男の腕にしがみつき、首を振る。<br>「おれは、もう、帰れない」<br>ただ自分は、認められたかったのだ。<br>他の誰でもなく、父に。<br>生まれてきたことを、息子であることを、背中を追い駆けることを、許されたかったのだ。<br>「おれは…っ、もう…」<br>「それで？どうやって一人で生きようってんだ？」<br>乱暴に地面に下ろされ、光助はよろめきながらも男を見上げた。<br>一人ではなにも出来ない。<br>だが光助は…自分が賢いことを知っていた。<br>一人じゃなければ、自分に価値が生み出せることを、知っていた。<br>「おれを、アンタの弟子にしてくれ。舎弟でも良い。なんだっていい。アンタの…藤花の、一員にしてくれ」<br>男が口走った、「藤花」という言葉に、聞き覚えがあった。<br>貴族ばかりを狙い、滅多なことでは命を奪わないと云う…変わった山賊の名だ。<br>「冗談は寝て言うんだな餓鬼。お前を仲間にして、俺らになんの得がある？」<br>見下す視線。<br>心底、面倒だと思っているのが言葉から、視線から、滲み出ている。<br>「むしろ誘拐だなんだで面倒事の方が多いじゃねえか。俺ぁ嫌だね」<br>面倒事を追い払うようにしっしっ、と手を振り、森の奥へ目を向ける男は、しかし何かを考えるようにゆっくりと瞬きをする。<br>「でもそれはおれが証言すればいいだけだ。少なくとも、母上は、俺の言葉を信じてくれる。母上が味方になってくれれば、かなりの人数が話を聞いてくれると思う」<br>「あ？なんでそうなる？」<br>「父上は、婿養子だから…古くから仕えてくれている人の多くは、父上のことを敬遠してる」<br>「なるほどな、お前の意見が通る事はわかった。だが餓鬼のお世話はお断りだ」<br>光助は自分の思ったことを口にしながら、ちいさく「ああ」と呟いた。<br>この男は、"子供だから"という理由で光助の話を突っぱねたりしない。<br>相手が誰であれ、どんな意見であれ、話を聞いてくれる。<br>聞いた上で、有りか、無しか、思考を巡らせてくれる。<br>「おれは…大人に囲まれてきたから、嘘、わかる。勉学も、たくさんやってきた。文字の読み書きも出来るし、おれ、なんだってする。一生懸命、山賊も、覚えるから…藤花の団に、入れてくれ！」<br>これが藤花の団にとって利点になるのかはわからない。<br>価値になれるか、わからない。<br>けど、それでも、それ以外になにもないのだ。<br>価値を生み出すためには、彼らの中に入るしか…<br>「藤花の団には働かない奴は必要ない。子供だからって甘やかすつもりはない。覚悟は出来ているんだろうな」<br>「！！よ、よろしくおねがいします！！」<br>くしゃり、と頭を撫でられ、光助はその大きな手に唇をかみしめた。<br>いろんな感情がごちゃ混ぜになって、なんだか、泣きそうだ。<br>光助は散乱した荷物を漁り始める男を尻目に、荷車で通った道を振り返る。<br>荷車の車輪が地面に平行な線を書き、辿れば母の元まで戻れるだろう。<br>今ならまだ、帰れる。<br>「餓鬼、行くぞ」<br>思い出される、母の優しい笑顔。<br>優しくて、温かくて、光助の大好きな微笑み。<br>光助は…母の笑みに背を向けた。<br>「今、行きます」<br>自分が誰にでも認められるような人になれたら。<br>菊川家の跡取りとしてではなく、光助という一人の人間として、価値を見いだせたなら。<br>その時は、胸を張って、母の元に帰ろう。<br>母の元に戻り、その時は、これから起きるであろう様々を話そう。<br>光助は未来を思い描き、それから、男の後を追って歩き始めた。<br>いつか自分を誇れるようになるその時まで、菊川という名は、此処に捨てていこう。<br>ただの山賊として。<br>ただの子供として。<br>ただの、光助というニンゲンとして。<br>自分は藤花で、生きていくのだ。<br>「ああ、お前、名前は？」<br>「おれは……光助だ。藤花の団の、光助」<br>「…いい度胸だ」<br>ほら、持て。と男は積んであった荷物のひとつを光助に渡し、獣道のような、決して道ではないその茂みに足を踏み入れていく。<br>覚悟を決めていたつもりだが、それでもやはり、躊躇している自分。<br>「…おれは、藤花の団の…光助だ…」<br>自分を奮い立たせるように呟けば、一歩、踏み出した。<br>それは…光助にとって、小さな、しかし運命を変える大きな、一歩だった。<br><br><br><br>それからは、目まぐるしく日々が過ぎていった。<br>彼らの住処に連れて行かれ───大きな岩を中心としたそこは洞窟とも呼べない岩穴に居を構えており───そこで藤花の団の面々に紹介された光助は、早々に手厳しい言葉を受けることとなった。<br>なにせ、自分を拾った男は…藤花の団の頭領・銅蔵だったのだ。<br>そしてその男が、まるで役に立たない金持ちの子供を、仲間に入れると言い出したのだから。<br>面倒事を増やしてどうする、俺はごめんだぜ、誰が育てるんだ。<br>口々に発せられる言葉。<br>面倒なことに巻き込まれる前に殺しちまった方がいい。<br>そんな一言が光助の胸を抉り───だが銅蔵が、その拳を振るった。<br>「藤花の団鉄の掟！！<br>意見がある奴ぁ、俺に勝ってから言え。なにも出来ない奴が口ばっかり動かしてんじゃねぇ！」<br>喰らってもいないのに、重い一撃だと判る一発。<br>あんなの脳天に喰らったら、首が縮んでしまう。<br>「こいつには、アイツの世話係をやらせる」<br>思わず首を縮込ませた光助は、次の言葉に眉を寄せた。<br>やはり口々に吐き出される不満を、ジロリと睨み付け黙らせると、光助はさらに奥へと連れて行かれた。<br>そこで、小さな…本当に小さな赤ん坊に出逢う。<br>桜色の髪と、紅蓮の瞳。<br>ひどく綺麗な女性の胸に抱かれたその子は、光助の顔をじっと見上げ、それからきゃっきゃと笑い、何かを掴もうとするかのように両の手をじたばたと動かして。<br>「あら、初めまして。私は文。この子は葉月。キミの名前を聞かせてくれるかしら」<br>「お、おれは…」<br>それが…彼女との、出逢いだった。<br>光助の運命を大きく変えることとなった、藤花葉月との、最初の記憶。<br><br><br><br><br>葉月という少女の世話は、案外簡単だった。<br>基本的に、彼女はよく食べよく眠る子で、あまり泣くことのない子だった。<br>また、常に文が、光助の手助けをしてくれていたのも心強かった。<br>文は頭領である銅蔵の妻であり、森に捨てられていたのだという葉月を二人の子として迎え入れたのだとか。<br>なにより…彼女の纏う雰囲気が…どことなく、母に似ていた。<br>それを言うと、彼女はとても嬉しそうに光助の身体を抱き寄せ、<br>「いつか、キミのお母様にお会いしたいわ。きっと良いお友達になれるわ」<br>そう微笑んだのだ。<br>後で知ったことだが、文は元々光助と同じように裕福な家の一人娘で、駆け落ち同然に銅蔵とこの場所に暮らし始めたのだという。<br>身体が弱く、子供を産めない文にとって、葉月や、光助との日々はとても満ち足りた時間だったのかもしれない。<br>葉月の世話をしながら、彼女にはたくさんのことを教わった。<br>それは山賊のことだけでなく、森のことや、この辺りの縄張りのこと。<br>それに、彼女はとても博学だった。<br>身体が弱く小さな頃から本ばかり読んでいたと言い笑う彼女は、たくさんの話を、学問を、知識を、光助に話してくれた。<br>彼女と過ごす日々は、光助にとっても、とても満ち足りた時間だった。<br>…藤花の団に来てから、三年ほど経っただろうか。<br>葉月も一人で動き回れるほど成長し、光助の事をよく慕ってくれている。<br>光助も、山賊として少しはそれらしくなった頃。<br>文はしきりに、光助のことを「自分の子供」であると言うようになった。<br>それ自体は、とても嬉しく思っているし、文が自分の母親だったらとても幸せなことだと思う。<br>けれど、素直にそれを受け入れられない自分がいた。<br>本当の母に対する想いもある。<br>でもそれ以上に…彼女を受け入れてしまったら、菊川という名を名乗れるようになる"いつか"が、どうでもよくなってしまうような気がした。<br>幸せというぬるま湯から、出れなくなってしまうような…そんな気がしていた。<br>だが、そんな自分勝手な理由が、光助の胸に突き刺さることとなった。<br>文が、死んだのだ。<br>身体の弱かった彼女は、体調を崩し、そのまま…帰らぬ人となった。<br>最期は、頭領と、葉月と、自分と…それと彼女の生家の者達に囲まれ、微笑みながら、息を引き取った。<br>「いつか、キミが、私の本当の息子になる日を、楽しみにしているわ」<br>こみ上げてくる想いに何も紡げなくなってしまった光助の頬を撫で、彼女は何もないかのように言うのだ。<br>ただ眠りにつくかのように目を閉じ、『おやすみ』と言うかのように愛を紡ぎ、そして…死んだ。<br>人の死を目の当たりにするのは、初めてだった。<br>恐怖と、悲しみと、喪失感が胸を締め付ける。<br>頭領に抱かれるその痛みと相俟って、逃げ出したいと思った。<br>だがその一方で…羨ましいとも思った。<br>こんなにも誰かに想われている彼女を。<br>そして自分も、もう一人の母のようになりたいと思った。<br>それから…光助は、葉月に文字を教えた。<br>此処で役に立つ知識を、町に出て必要な知識を。<br>文の代わりにはなれないが、彼女が淋しくないように側にいた。<br>その中で、彼女が食に対して異常なまでの興味を持っていること、逆に感情に対してこれっぽっちの興味を持っていないことに気が付いた。<br>感情は、ある。<br>泣いたり、笑ったり、怒ることもある。<br>だが感情を表に出すときはごく僅かで、一人で居るときの大半はぼんやりとしているようだった。<br>「楽しいか？」<br>と聞いても、<br>「わからない」<br>と返ってくることが殆どで、子供特有の我が儘を言うことはなかった。<br>時が経つにつれて藤花の団の人数は増え、光助は彼女が大勢の中でも上手くやっていけるように、感情を教えることにした。<br>いずれこの団の頭領になるであろう者が、人の心だけでなく自分の心までも判らなかったら、やっていけないから。<br>町に出たとして、誰の心も判らなかったら、生きていけないから。<br>それと平行して、光助は武術を習い始めた。<br>武術といっても、彼らがきちんと型を知っている訳はない。<br>彼らの経験を元に作り上げられた喧嘩術。<br>心理戦だったり、仲間たちとの連携だったり。<br>知識としては、十分に理解できたし、もっと効率よく立ち回れる方法も見えてきた。<br>だが…致命的なまでに、光助に武術の才能はなかった───否。武器を扱う才能がまるでなかったのだ。<br>運動神経は、あるのだ。<br>反射も反応も、相手の攻撃を見る目も咄嗟の判断力もちゃんと。<br>なのに、刀も弓矢も、彼らが扱う特殊な武器も、なにもかも…扱えなかった。<br>はじめは、理解が出来なかった。<br>どんな事でもそつなくこなしてきた光助にとって、"出来ない"ということが不思議でならなかった。<br>そもそも、彼らの言う『武器を身体の一部のように感じろ』という言葉が、ピンとこないのだ。<br>知識として、情報としては、理解できる。<br>だがその感覚が、一向に理解できなかった。<br>逆に、体術そのものは少しずつだが上達はしていった。<br>毎日ボロボロになりながらも、自分の身を守れるように…自分を慕ってくれている幼子を守れるように、自らの身体に動きを叩き込んだ。<br>けれど、光助の人生の中で、大きな誤算がもう一つ。<br>守りたいと思った少女は…───バケモノだった。<br>まだ十になったばかりの彼女は、あっさりと、光助の数年間の努力を追い越した。<br>手加減なんてする余裕もなかった。<br>嬉々として戦うその姿は、戦うために生まれてきたかのように輝き、溢れる笑みは光助に恐怖すら感じさせた。<br>大男ですら、彼女の繰り出す鋭い攻撃とそのスピードに翻弄され、あっさりと背後を取られてしまうのだ。<br>大人たちは伸び悩む光助から、興味の矛先を変えた。<br>多分、自分が同じ立場だったとしてもそうなっただろう。<br>仕方ないことだ。<br>そうやって自分を言い聞かせることくらい、賢い少年には造作もないことだった。<br>言い聞かせ、なんでもない事だと…自分の中に渦巻く感情から、目をそらした。<br>醜い、汚い、決して表に出すべきではない感情。<br>感情を抑え込む光助に、頭領は言った。<br>「お前に、頼みがある」<br>誰も居ないところに呼び出され、静かに、彼は言った。<br>「光助。お前に、密偵部隊に入ってほしい」<br>密偵部隊。<br>密偵部隊？<br>「貴族たちの情報を、どうやって集めていると思う？」<br>「え…それは…」<br>「藤花の団には隠密行動に長けている連中がいる。間者になれって言ってるわけじゃない。正しい情報を、正確に、集める。それが奴らの仕事だ」<br>情報収集を目的とした、諜報活動？<br>そんな部隊が居るなんて、聞いたことがない。<br>「戦闘に長けているわけでも、特に目立った才能もない、そんな連中なんだが…」<br>ああ。<br>光助は彼の言わんとしている事を、理解した。<br>抑え込もうとしている感情を、ほじくり返されているのだ。<br>俯き、拳を握り、唇を噛みしめる。<br>「だがまぁ、山賊は所詮山賊。貴族たちの中に入れば、怪しまれちまう」<br>ぽん。<br>光助の頭に、大きな手が、置かれる。<br>「お前は身体能力も高いし、頭の回転も速い。おまけに良いところの生まれだ。これほどの適材はいねーだろ」<br>初めて彼に会ったときそうしてくれたように…くしゃりと頭を撫で、光助の進むべき道を、示してくれた。<br>密偵部隊には、光助を入れて五人。<br>男が三人と、女が一人。男の一人は怪我をしている。見かけない顔だ。<br>「お前はとにかく、体術を極めろ。俺たちみたいな喧嘩は覚えなくて良い。その代わり、避ける、逃げる、身を守る。その三点に重点を置け」<br>光助が四人を見ているとそれだけ言い、彼はその場から離れていってしまう。<br>反論も質問も、なにかをする隙など、与えてはくれないのだ。<br>───意見がある奴は、頭領に勝たなければならない。<br>「大丈夫よ。此処にいるのは、戦うことしか脳のない筋肉馬鹿たちと違って、戦わないことでみんなを守る…誇り高い連中だから」<br>誇り高い？<br>そんなの、ただ戦闘が出来ない奴らの言い訳じゃないか。<br>「言っとくが、一番危険な部隊だぞ。この前も、一人死んだ。俺もこのざまだ」<br>む、と口を尖らせる光助に、怪我をしている男が肩をすくめた。<br>「アイツらなんかより、みっちり、戦闘について教え込む。隠密行動についても、徹底的にやるぞ」<br>「私たちは弱い。でもだからこそ生き残れるように鍛えていくから、覚悟しておきなさいね」<br>女は、厚みのある唇で弧を描き、それから、自己紹介を始めた。<br>戦いの出来ない光助は島流しかの如く、あまり知られていない部隊の一員となり、しかし、そこでもたくさんのことを学ぶこととなった。<br>だが一方で、一度生まれてしまった幼い少女への劣等感は拭い去ることが出来ず、なんとなく、距離を取ってしまう自分がいた。<br>決して、嫌いになんてなっていない。<br>むしろ密偵部隊に入って、適材適所、役割が違うんだ。なんて言い聞かせることも出来るようになった。<br>ただ、強いて言うのなら…意地だ。<br>年上としての、男としての、意地。<br>言葉にするのもくだらない、仕様もない自尊心を守るため。<br>葉月に気遣わしげな目を向けられでもしたら、立ち直れなくなるような…そんな気がした。<br>彼女がそんな醜い感情を理解しているわけもないのに。<br>そうして生まれた距離は、少しずつ、光助と葉月の間に影を作り、気が付いたときには顔を合わせることすら億劫になっていた。<br>密偵部隊のことも言わぬまま一年が過ぎ、二年が過ぎ…光助は、自分が影の中にいるんじゃないかという思いを一層強めていた。<br>光の中にいる葉月と、影の中でしか生きられない自分。<br>名前とは裏腹な現実。<br>葉月が藤花の団の若頭として活躍すればするほど、余計に、その思いは強くなっていく。<br>くだらない。<br>もともとそんなことは解っていたじゃないか。<br>それに密偵の仕事とは、そういうものだ。<br>なのに、光が欲しくなる。<br>どうしようもなく、心が渇くのだ。<br>いつからだろうか。<br>光助は、密偵とは関係なく町へ繰り出す回数が増えていった。<br>仕事は仕事。<br>油断も、妥協も、なにひとつするつもりはない。<br>だが仕事以外の殆どを、光助は渇く心を満たすために使った。<br>すなわち…───女に。<br>もともと人の嘘を見破るのは得意だったのだ。<br>密偵部隊で磨いた話術と、立ち振る舞い。<br>自分の欲望を抑え込む女たちを引き込むなんて、造作もなかった。<br>淫らに堕ちていく感覚に、光助は自嘲じみた嗤みを自身に向けていた。<br>どこの誰かもわからない相手と一夜を重ね、光助は自分の中でルールを作った。<br>手を出す相手は、既婚者であること。<br>責任を取るつもりがないことや、一晩限りの関係であることを先に告げること。<br>自分が山賊であると名乗ること。<br>そして…もし誰かにバレたときは、躊躇せず、自分を売って欲しい、と。<br>自分は山賊だ。<br>本来彼女らとは深い関わりを持ってはいけないのだ。<br>だからもし自分に好意を抱かれたとしても応えることは出来ない。<br>相手が既婚者であるならば、戻る場所がある。<br>山賊に無理矢理襲われたとでも言ってくれればいいのだ。<br>彼女らはなにも悪くない。<br>ただ二度と消えぬ罪悪感を持ち続ければいい。<br>実際に、バレたこともあった。<br>殴られ、蹴られ、殺されかけながらも、それでも町へ行くことは続けた。<br>いろんな町で、何人もの女を抱き、中には割り切った関係を続け楽しむことを望む者もいた。<br>何かが変わるわけではなかったが、一時的に、心は満たされた。<br>なにより、知らない誰かといる間は…なにもかもを忘れ、逃げることが出来た。<br>もう、何から逃げたいのかも判らなくなっていたというのに。<br>そして、どれくらいの時間が経ったのだろうか。<br>光助は十九になって、密偵としてだけでなく藤花の団の参謀として作戦を立てることが増えた。<br>頭領にまだ信頼してもらえていることは素直に嬉しかったし、真っ当に生きようと、何度も思った。<br>少しずつ、女遊びの回数を減らそうなんて、思い始めもしていた。<br>そんな、桜が散り始めた…春。<br>その日はやってきた。<br>光助にとって───光助と葉月にとって、忘れられない出来事が。<br><br><br><br>…後半へ続く…
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12349933070.html</link>
<pubDate>Sun, 04 Feb 2018 01:06:17 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>永遠を願う 後編②</title>
<description>
<![CDATA[ ※こちらは<a href="https://ameblo.jp/shatuki/entry-12325215805.html">永遠を願う 後編①</a>の続きとなっております。ご注意ください。<br><br><br><br>  ◆◇◆◇◆<br><br><br><br>戦いが終わり、残党に遭遇することもなく、葉月と光助は二人だけの秘密基地に身を隠していた。<br>恋仲になったときから足繁く通ったこの場所までは、彼らの手は伸びていなかったようだ。<br>葉月は光助を寝かせ、水を汲み、久しぶりの食事にあり付いた。いつもは正確な腹時計は完全に狂い、今がいつくらいなのかよくわからなくなっていた。<br>それに、おなかが空いているはずなのに、まったく食べたいという感情が湧いてこないのだ。<br>森に散らばる家族たちの亡骸も供養しなければならないのに、やる気というものが、何処にも見つからなくて。<br>ただ静かに時間が流れ、過ぎていく。<br>彼の隣に座り、ごつごつとした大きな手に、指に、自分の指を絡める。<br>早く目を覚ましてくれと、念じながら。<br>ようやく光助が目を覚ませば、たくさん話をした。<br>彼に触れ、たくさん話をし、これからのことを考えた。<br>もう藤花の団はない。<br>この場所を離れ静の元に向かい、しばらく身を隠しても良い。<br>夫婦として、どこか知らない場所で暮らすのも良い。<br>逃げ延びた家族を捜して新しく集落を作っても良い。<br>彼と一緒にいられるなら、どんな未来を選んでも、きっと自分は幸せになれるだろう。<br>彼がいれば、大丈夫。<br>この胸はまだ痛むけど、光助さえ、側にいてくれたなら。<br>「なぁ葉月」<br>「なぁに？」<br>「今、寒いか？」<br>「…？ううん、平気。でももうすぐお日様沈むから、火を焚かないとかな」<br>「じゃあ、まだ、明るい？」<br>「……空、橙色…だよ？」<br>「あ〜、そっかぁ…夕焼けか〜…」<br>「…こーすけ…？」<br>彼さえ、側に、居てくれたなら。<br>葉月は秘密基地から見える夕日から目を光助に向け、力なく微笑むその姿に息を飲んだ。<br>「光助っ！！」<br>困ったように眉を八の字にし、彼は深い息を吐く。<br>「ああ、くそ、こんな簡単に、終わっちまうのかよ…」<br>そして天井を見上げ、ぽつりと言葉を吐き出した。<br>じんわりと汗ばむ彼の身体はその様子に反して冷たい。<br>肩の傷から滲み出た血は黒く染まり、握りしめた手が、弱々しく握り返してくれる。<br>「光助、あたし、どうすればいい？どうすれば、光助、元気になる？」<br>両手で彼の手を握り、わがままを言うようにすがりつく。<br>──ずっと、考えないようにしていた。<br>その可能性を。<br>寄り添い歩き共に生きる未来が永遠に続くだと、信じ込ませていたのだ。<br>気付かない振りを続けながら、目をそらしながら、否定しながら、しかし今まで歩いてきた過去が、"知っていた"。<br>他の誰でもない自分自身が、未来を、告げていた。<br>彼は……死ぬのだ。<br>自分が歩く未来から、消えて終うのだ。<br>刹那、葉月は初めて『死』というモノを理解した。<br>今まで散々、死を目撃していたというのに。<br>母が死に、父が死に、仲間が死に。<br>斬り、殺し、奪ってきた。<br>それなのに、その意味を、葉月は全く理解していなかったのだ。<br>『死』とは、絶対的な別れ。<br>その絶対的な別れが…目の前に、迫っている。<br><br><br><br>彼の居ない未来になど、価値はない。<br><br><br><br>葉月は零れる涙を拭うこともせず、もがく。あらがう。<br>今まで散々『死』を目撃してきて…彼の死を目前に、初めて『死』を恐怖した。<br>みんながなぜ死を悲しんでいたのか、死を畏れていたのか。<br>命を奪うと云う事が、どれだけ重たいモノを背負うことなのかを、ようやく、理解した。理解してしまった。<br>のし掛かる、これまで奪ってきた命。<br>苦しいと思った。<br>色々なことが脳裏を駆け巡り、しかし光助の表情に「ちがう」と口の中で呟く。<br>そんなの、どうだって良い。<br>奪った命が幾つあろうと、それがどれほどの重荷になろうと、何も変わらない。<br>ただ願う事は…<br>「葉月、よく、聞け」<br>どうすれば、彼と少しでも永く居られる？<br>どうすれば、彼の命を引き延ばせる？<br>自分が差し出せるものなら、喜んで差し出そう。<br>悪魔と契約して願いが叶うのなら、それでも構わない。<br>光助の命を救えるのなら…<br><br><br>「お前は幸せになれ」<br><br><br>「…え？」<br>刹那世界が、白く染まった。<br>理解が出来なかった。<br>微笑み、痛みに顔を歪め、しかし穏やかな口調で、彼は吐き出した。<br>「まだまだ世界には葉月の知らないことがたくさんある。楽しいことや…旨い飯も、そりゃたくさん、な」<br>ゆっくり息を吐き、戸惑う葉月に光助は紡いでいく。<br>「そういう知らないことをたくさん経験して、自分の感情をちゃんと吐き出せるようになって…誰よりも、幸せになれ」<br>なにも言えないでいる葉月に彼はやはり困ったような笑みで頬に触れてくる。<br>冷たい手。<br>「葉月は、俺の自慢のお嫁さんだ。知らないことは多いけど、相手を思いやれる、優しい…」<br>光助の手に自分の手を重ね、声を詰まらせる彼のおでこに自分のおでこを押し当てる。彼の頬に涙が落ちる。<br>「だから、お前は…幸せに…」<br>「光助がいれば、あたしは、それだけで幸せ…他に何もいらない。光助さえ居てくれれば、あたしは、なにも…」<br>「しっかりしろ葉月。俺は、もう、むりだ…。でも、おまえは…歩き続けなきゃいけないんだ…っ」<br>途切れ途切れに言葉は紡がれ、けれどその内容は到底受け入れられるモノではなくて。<br>「やだっ！！こーすけ言ってくれたもん！ずっと一緒だって！ずっと守ってくれるって！！俺が、幸せに、するって…」<br>葉月は、もう光助の顔を見ていられなかった。<br>血の気の引いた、真っ白な顔を。<br>こんなにも苦しいのに、こんなにも彼の生を願っているのに、誰も葉月の願いを叶えてくれない。<br>誰も、彼を助けてくれない。<br>願うことは、ただ一つきりなのに。<br>たった一つの願いを、誰も、誰も…<br>「お願い…側にいて…」<br>「はづ、き…」<br>再び頬に手を添えられ、葉月はそれでも駄々をこねる。<br>いやだ、いやだと、現実から目をそらす。<br>このまま彼の居ない世界で生きていくなんて、自分には出来ない。<br>「一人にしないで…もう、怖いのはやだよ…」<br>一人きりで生きていくくらいなら。<br>いっそ、自分も…<br>「葉月」<br>真っ白に染まった世界に、彼の声が響く。<br>「愛してる」<br>苦しそうに、けれどはっきりと、彼は葉月の耳元で囁く。<br>「これからお前が出会うどんな奴よりも、葉月のことを愛してる」<br>頬に添えられた手が優しく髪を撫で、強い想いを吐き出す。<br>「これからおまえを愛するどんな奴より、葉月のことを愛してる」<br>目を開ければ、微笑む彼の優しい表情。<br>「一緒に居れなくても、ずっと…永遠に、葉月だけを、愛し続ける」<br>痛みに堪えながら、愛を紡ぐ。<br>「葉月…生きてくれ…」<br>葉月の涙を受け止めながら、その願いを唇から零した。<br>「こー…すけ…」<br>気付けば、彼の瞳にも涙が溜まっていた。<br>それでも、微笑み続けている。<br>葉月は、彼の唇に自分の唇を重ね合わせ、今度は、葉月が、言葉を紡ぐ。<br>「あたし、も…こーすけのことが、好き。あたし、わからないことたくさんで、愛…せてるのかも、わかんない。でも、あたしには、こーすけしか居なくって、あたしは、あたしは…」<br>この胸の中にある感情を吐き出したくて、伝えたくて、でも、どうやって吐き出せばいいのかもわからなくて、葉月は拳を握りしめる。<br>自分は、なにも出来ない。<br>なに一つ、伝えることすら出来ないのだ。<br>彼の傍らに跪き、彼の身体に触れ、頭を垂れる。<br>痛くて、辛くて、苦しくて…怖い。<br>ぐるぐると感情が渦巻き、でもそれをなんて呼ぶのかも、わからない。<br>こんな感情、誰も教えてくれなかった。<br>恐怖以上に怖いこの気持ちを、だれも…<br>「ああもうくそったれ…」<br>自分のすすり泣く声に満ちた秘密基地に、彼の呻き声が落ちた。<br>なんだろうかと顔を上げようとし、しかしすぐに"気付く"。<br>彼の癖。<br>いろんな事を考えているときに、零れてしまう彼の本音。<br>「俺が、葉月を幸せにしたいのに…っ」<br>苦しそうに、葉月の手を握りながら、眉を寄せる。<br>「ずっと側にいて、一緒に歳取って、一緒に…っ」<br>「こーすけ…」<br>「他の奴なんかに、取られてたまるかよ…俺の葉月…」<br>指を絡ませ、真っ直ぐに葉月を見つめてくる光助の瞳から、涙が、溢れた。<br>「くそ…死にたくねーよ…葉月と、生きていくって…決めたのに…っ」<br>何度も何度も悪態を吐き、抗うように彼は呻く。<br>「くそ、くそ…おれが、もっと、たくさん世界を見せて、やるんだ…もっと、いっしょ、に…知らないこと、いっしょに…」<br>光助の言葉に、また、涙が零れた。<br>彼も、同じ気持ちでいたのだ。<br>同じくらい、辛いのだ。<br>「くそ…葉月…俺は……」<br>「こーすけ、あたし…っ」<br>唇を強く噛み、それから、葉月はめいいっぱい微笑んだ。<br>「あたし、こーすけに出会えて、一緒に過ごせて、夫婦になれて、本当に、本当に…」<br>言わなくちゃ。<br>自分の気持ちを。<br>彼に伝えなくちゃいけない、心の奥底からの叫びを。<br>嫌だと我が儘を言うだけで、終わりにしたくなんかないから。<br>「ああ、くそ…なにも、見えなく…」<br>なのに、この真っ白な世界は、残酷で。<br>「光、助…っ」<br>「ごめん…ごめんな、はづ、き…ずっと、お前だけを、想って…」<br>「やだ…まって、いかないで…！」<br>「は、づき…俺の、葉月…」<br>手を握り、頬に触れ、おでこを重ね、唇を噛みしめる。<br>「………いきろ」<br>次第に光を失い虚ろに濁っていく瞳で、それでも彼は希望を紡ぐ。<br>「幸せに、なって、く…れ…」<br>かさついた唇で、聞き取りづらい声で、それでも彼は願いを紡ぐ。<br>「ああ…くそ………はづき………はづ……」<br>共に誓った永遠が……途切れた。<br>握りしめていた手から力が抜け、彼の紡ぐ声は途絶え、その瞳はもうなにも写さない。<br>そこに横たわるは、葉月と共に生き、葉月を誰よりも愛してくれた最愛の人の…──亡骸。<br>「光…助…？こー…す、け……こー……あ、あ…あああ、ああああああああ…」<br>手を握り、頬に触れ…<br>「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！」<br>絶望がほとばしった。<br>口から吐き出される言葉に自らの意志はない。<br>ただ、葉月は理解したのだ。<br>今まで感じたことのない絶望を。<br>死が連れてくる、絶望という呪いを。<br>「あああ、ああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああ」<br>顔面を両の手で覆い、身を折り、彼の胸に突っ伏し、ただひたすらに絶望を吐き出した。<br>この世のすべてが、苦痛に変わった。<br>真っ白だった世界が、真っ黒に染まった。<br>葉月の時が……──止まった。<br><br><br><br><br>それからどのくらい経ったのだろうか。<br>声が枯れ、涙が涸れ、それでも泣き叫び続け…いつの間にか眠ってしまった葉月は、僅かに照らされる月明かりに体を起こした。<br>手に触れるのは…彼の身体から伝わるぬくもり。<br>嗚呼。<br>すべて夢だったのか。<br>悪い夢を見ていたのか。<br>葉月はままならない思考で、痛む喉と泣き腫らし狭くなった視界に眉を寄せ…秘密基地の奥に足を進めた。<br>蔓がぶら下がりぽっかりと口を開けた反対側の出口──その先は断崖絶壁で──蔓を左右に分ければ、月明かりが差し込む。<br>照らされる、彼の身体。<br>愛おしい…彼の亡骸。<br>…また、涙が溢れた。<br>「こ、す…け…」<br>掠れた声で彼の名を呼び、ぬくもりを確かめるように再び彼の傍らに膝を付く。<br>触れれば…先ほどよりも明らかに冷たくなった彼の身体。<br>触れていたぬくもりが自分の体温なのだと、知らされる。<br>「あ、ああ…」<br>溢れる涙で彼の着物を濡らし、抱きしめた指先に堅いモノが触れる。指でなぞればすぐにそれがなんなのか思い当たった。<br>…彼が生涯大事に持ち歩いていた、懐刀。<br>彼の生家の、菊川の家紋の刻まれた…大切なモノ。<br>葉月は僅かに体を起こし懐刀を取り出すと、漆黒を指で撫で、ゆっくりと…白銀を抜き放つ。<br>僅かな月明かりに浮かび上がる、輪郭。<br>刃こぼれのない綺麗な刀身は、青白い光を受けカタカタと揺れ──葉月は自分が震えていることに気付く。恐怖か、絶望か。<br>柄を握り締め、自らの喉に運び、目を閉じる。<br>よく、この懐刀を眺めながら、彼は言ったものだ。<br>『俺が菊川光助であることの証明なんだ』<br>と。<br>それがなにを意味するのか葉月にはわからなかったが、とても大切なモノだと云う事は理解出来た。<br>なにより、彼は母親のことを酷く気にかけており…「いつか、葉月を紹介しに、生家に帰りたい。そこで、母に自分の無事を知らせたい」と少し辛そうに言っていた。<br>そのせいか。<br>彼はこの懐刀で殺生をしたことがなかった。<br>それどころか、抜くことも、懐から取り出す事だって、滅多になかった。<br>…その懐刀で、これから命を絶つのだ。<br>少し、胸が痛む気がした。<br>けれど、それ以上に…彼の居ない世界など、堪えられない。<br>彼は、彼らは、葉月に生きろと言ってくれた。<br>生きて、幸せになれと、願ってくれた。<br>けれど、もう、生きるための意味も、目的も、なにもかもを、失ってしまった。<br>この手の中には、なにもないのだ。<br>「こー…すけ…」<br>混濁した意識の中、葉月は思う。<br>このまま命を絶っても、彼に会える保証なんてどこにもない。<br>けど、此処に居たら、絶対に、会えない。<br>冷たい刃を強く押しつけ、葉月は目を開ける。<br>青白い彼の寝顔を目に焼き付け、胸元に身を預けた。<br>今、会いに行くから。<br>押しつけた白銀を強く引こうとし、しかし、葉月の意識は突如として強烈な…眠気にも似た怠惰に包まれる。<br>「…こー…す……」<br>言葉も吐き出せないまま、葉月はソレに打ち勝つことも出来ず、あっさりと、意識が飲み込まれていく。<br>…光の向こう側で、彼が、拗ねたような顔をしている。<br>その隣には、怒ったように怖い顔をしている忍と七郎。<br>文男が三人をなだめ、ヤスが今にも泣きそうにオロオロ視線をさまよわせている。<br>──みんなが、そこには居た。<br>自分も、そこに行きたい。<br>葉月はきらきらとした向こう側に焦がれ、手を伸ばす。<br>必死に足を動かし、彼の名を呼び、光を越えようともがく。<br>逢いたくて触れたくて、まえへ、まえへ。<br>「────っ！」<br>声を張り上げ、しかし葉月の喉は何も紡ぐことは出来ず、息だけの悲鳴が掠れて消える。<br>身体が、重い。<br>強い光に近寄れば近寄るほど…自らの影が、足を引っ張る。<br>何度も何度も、名前を呼び、手を伸ばし、なのにどうしても辿り着かなくて、涙が零れる。<br>お願い。<br>あたしも混ぜて。<br>あたしも、そこに行かせて。<br>葉月はその場に膝を付き、それでも、手を伸ばす。<br>光に触れる手は、しかし何も掴めない。<br>「こ、す、け…！」<br>ようやく吐き出した声。<br>彼が、彼らが、こちらに顔を向けた。<br>彼らはなにか言葉を交わし、それから、いつものように微笑んだ。<br><br><br><br>『──、────』<br><br><br><br>そして葉月は、目を覚ます。<br>懐刀を握り締めたまま、彼の胸で。<br>退けた蔓の向こうから、眩しい光が射し込んでいる。<br>世界に、色が戻った。<br>葉月の世界に、鮮やかな色が、降り注ぐ。<br>ぼんやりと視線を巡らせ、土気色の彼の眠った顔。<br>頭ががんがんと痛む。<br>泣き腫らした目が、泣き叫んだ喉が、痛い。<br>胸の奥の方も、やっぱり、痛い。<br>けど。<br>ぐるるるる、とおなかが鳴る。<br>何か食べたいと、おなかが葉月に告げてくる。<br>…こんな時でも、おなかは空くものだ。<br>そういえば、昨日の朝食べてから、何も口にしていない。<br>葉月は立ち上がり、彼のために汲んでおいた水をひと口、ふた口。<br>もう一度彼を見やり葉月は、小さく、微笑んだ。<br>「ずるいよ、光助は」<br>生きろと願ってくれた彼は、葉月が自ら命を絶つことを許してくれなかった。<br>あんな夢視させて、時間稼いで。<br>「お腹空いたら、死ねないよ」<br>空腹のまま死を迎えることなんて、葉月には出来ない。<br>このまま死んだら、空腹のまま、地獄に行くのだ。<br>空腹で、地獄を過ごすのだ。<br>きっと葉月は、それを耐えられないだろう。<br>食べると云う事は、生きると云う事だ。<br>葉月は彼の懐刀を鞘に収めると、自分の懐に仕舞い、深く、深呼吸をした。<br>「…ごはん、探しに行こう」<br>そして葉月は、あっけなく…生きることを始めた。<br>彼が、彼らが、願ってくれた…命を、再び歩き出した。<br>たった、独りで。<br><br><br><br>それからは、あっという間に時間が過ぎた。<br>森の中で息絶えた仲間たちを探し、みなを埋葬した。<br>本当はみな同じ場所に寝かせてやりたかったのだが、森の中でそんな広い場所はなく…彼は、父と母が眠る場所の隣に、埋めることにした。<br>もともと藤花の団には戦える者はそう多くなかったため、遺体に虫が湧く前に、なんとか供養することが出来た。<br>また、女子供の亡骸はほとんど見つけられず、ただ不自然な土砂崩れが起きている所を見つけただけだった。<br>もしかしたらこの土砂の中に…とも思ったが、葉月一人ではどうすることも出来ず、祈りだけをその場に捧げてきた。<br>仲間たちの御霊を土に還し、彼らの武器を共に連れて行くことに決めた。<br>この苦しみを忘れないために。<br>この痛みを忘れないために。<br>…背負った命の重みを、忘れないために。<br>淡々と、成すべき事を成した。<br>淋しいだなんて、考える余裕もないくらい、他に考えることがたくさんあったのだ。<br>みんな居なくなってしまった今、やるべき事はなんなのだろうか。<br>背中の傷を治す？<br>忍や文男の亡骸を回収しにいく？<br>まだ生きているかもしれない仲間を捜す？<br>こんなことになってしまった元凶を突き止める？<br>藤花と付き合いのあった土佐組の頭領に、状況を説明しにいく？<br>みんなを守れなかった事を、遙か遠くで暮らす静や他の仲間たちにも告げにいく？<br>それとも…──もう何もかも忘れて自由に生きてみようか。<br>葉月は武器を肩掛けに仕舞い、ぼんやりと空を見上げる。<br>何をするべきなのだろう。<br>全部、彼が、決めてくれていたから。<br>みんなが決めたことなら、自分はそれを信じて先頭を歩くだけ。<br>葉月は墓の前に腰掛け、手で地面の土をなぞる。<br>自分が何をするのが正しいのか。<br>たくさん考え、けれど答えは出ず、それでも…葉月は考え続ける。<br>そして。<br>「…おなか、すいたな…」<br>葉月は立ち上がり、振り返ることなく歩き始めた。<br>まずは、町に出て、美味しい物を食べよう。<br>彼が言っていたように、自分がまだ知らない美味しい物が、この世には沢山あるのだから。<br>その中で…自分がやらなければならないことを見つけよう。<br>彼が生きろと願ってくれたこの命で、彼の居ない世界で、幸せを探すのだ。<br>「…ふふ、何を食べようかしら」<br>葉月はようやく、笑みを浮かべた。<br>ここから、始まる。<br>永遠を叶えられなかった一人の少女が、幸せを探すために。<br>一人きりの世界で、生きる意味を探すために。<br><br><br><br>これは山賊少女が絶望を知るための物語。<br>心を失い、感情を亡くし、嗤いながら泣く少女が。<br>永遠を願い続けた物語。<br><br><br><br>永遠を願う<br>…END…<br>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12325217763.html</link>
<pubDate>Fri, 03 Nov 2017 13:28:16 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>永遠を願う 後編①</title>
<description>
<![CDATA[ <div><br></div><div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>　　　◆◇◆◇◆</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>強く腕を掴まれ、初めて自分が己の思考に飲まれていたことに気付いた。</div><div>同時に、気付かない内に自分の間合いに誰かが侵入し、さらに自分に危害を加えられる位置取りをやってのけていたことに…絶望した。</div><div>短い唸りと共に組み手に持ち込もうと力一杯腕を引き寄せ、しかし放たれた声に、目を見開いた。</div><div>「っ…、光助…？」</div><div>振り返れば、少しだけビビったように表情を引き攣らせている青年の顔。見慣れた、最愛の人。</div><div>「ほ、ホントに…光助…？」</div><div>なのに、零れ落ちたのはそんな言葉で。</div><div>葉月の言葉に彼は一瞬の間を開け、柔らかい笑顔を浮かべた。</div><div>「こんな色男、俺以外にいるか？」</div><div>「…いない」</div><div>ほら。</div><div>彼は掴んでいた腕を放し、それから両手を開き葉月を招く──その腕の中に飛び込んだ。</div><div>「こ、すけ…っ！！」</div><div>「おうおう、光助さんですよーっと」</div><div>ぎゅっと力強く抱きしめられれば、今まで張り詰めていた神経がぷつりと切れたようで、なにもかもが嫌になった。</div><div>苦しい。</div><div>くるしいくるしい。</div><div>胸の中にある感情を吐き出したくて、けれどそのやり方もわからなくて、葉月は彼の着物の裾を掴みただただ耐えるしかなくて。</div><div>「…葉月」</div><div>「……なぁに…？」</div><div>「今日も最高に可愛いな」</div><div>体を少し離し彼を見上げれば、両頬を手で挟まれ、おでこをコツンとぶつける。彼の温もりが流れ込んでくる。</div><div>「…あたし…」</div><div>「一人にさせて、ごめん。辛かったろ？」</div><div>ピントも合わないくらいの距離で、彼がその瞳を閉じる。葉月に触れる手に力がこもる。</div><div>──嗚呼、そうか。</div><div>葉月は立ち尽くしたまま、不意に気が付いた感情に、同じように目を伏せた。</div><div>「あたしこそ、光助を独りぼっちにして、ごめんね？」</div><div>そして次に目を開いたときには…驚いたように目をまん丸にした彼の瞳。</div><div>光助だって、怖いのだ。</div><div>彼だって、失いながら、此処まで生き延びてきたのだ。</div><div>自分と同じように、二度と会えないかもしれないと、震えていたのだ。</div><div>葉月は頬を挟む温もりに微笑んでみせた。</div><div>「…ちょっと会わなかっただけなのに、すっげー良い女になってるんだけど」</div><div>と、彼がガバっと覆い被さるように抱きしめてきて、葉月は言葉の意味がよくわからず首を傾げる。</div><div>「？そうなの？」</div><div>「そーなの！」</div><div>でもまぁ、光助がそう言うのならそうなのだろう。</div><div>葉月は彼の背に手を回そうと腕を動かし、走る痛みに小さく声を上げる──光助の表情が歪んだ。</div><div>「お前、怪我してんじゃねーかよ！！毒！毒は平気なのか！？」</div><div>ぐるんと体を回され、羽織代わりの布をめくり上げられれば、葉月は一つ頷いた。</div><div>「毒は大丈夫よ」</div><div>「何でそう言いきれる？」</div><div>「…この傷は、忍の刀で付けられたものだから。忍の刀には、毒は付いてなかったもの」</div><div>葉月は光助の勢いに思わず笑みを浮かべ、それから着物の袂から小瓶を取り出す。</div><div>「これ、もみじからもらったの。二刻程度だけらしいけど、毒の進行を遅められるって」</div><div>「もみじが…？」</div><div>「ええ。そのときに、手当もしてもらった。だから…問題ないよ」</div><div>だいじょうぶ。</div><div>葉月はそう言って彼の方へ向き直り、暗闇のせいで真っ黒に見える髪を撫でた。</div><div>「それより、他のみんなはどうなったの？女子供は…」</div><div>「俺の隊が女子供の護衛に回った。だが状況は良くない。他の隊には、各自待避を言ってあるが、どれだけ逃げられたか…」</div><div>葉月の問いに、低く唸るように答える光助。</div><div>ぎり、と奥歯が鳴る音がする。</div><div>彼の責任ではないのに、本当に苦しそうに拳を握る。</div><div>「ならあたしは…ちゃんと決断しなくちゃね」</div><div>その拳を包むように両手で覆い、葉月は彼に背を向けて歩き出す。</div><div>ずっと、考えていたのだ。</div><div>どうすれば、これ以上大切な家族を失わずに済むだろうか…と。</div><div>どうすれば、みんなが幸せになれるだろうか…と。</div><div>「葉月…？」</div><div>「ねぇ光助。例え藤花がなくなっても、ずっと、一緒にいてくれる？」</div><div>立ち止まり、振り返り、葉月は少し、意地の悪い問い掛けをする。</div><div>それは答えのわかった、永遠を確かめ合うだけの問い掛け。</div><div>葉月の問いは、風に流され、らしくない沈黙が広がる。</div><div>そして彼は無言のままこちらに向かって歩き出し、腕を掴んだかと思えば、そのまま葉月を引っ張り森を抜ける。</div><div>「こ、光助…？」</div><div>今森を出るのは危険だ。</div><div>日が暮れ戦闘が一時的に中断しているとは思う。戦っている音はもうしない。</div><div>だが暗闇で見つかりにくいとは言え、この先は身を隠す場所の少ない崖である。見つかれば、戦闘は避けられない。</div><div>「こーすけ、ほんとに、だめ…！」</div><div>そんなところを、こんな堂々と。</div><div>森を出、そのままずんずんと足を進めた彼は、葉月の制止にようやく振り返り、掴んでいた腕を放す。</div><div>「ここが何処だか、覚えてるか？」</div><div>そして唐突に、そう口にした。</div><div>「どこ？此処は月望みの丘で……あっ！」</div><div>葉月は首を傾げ、しかし不意に彼の言わんとしている事に気が付けば、拳を握った。</div><div>今も鮮明に思い出される、あの日の記憶。</div><div>疑うことすら知らなかった葉月に延ばされた、あの、真っ黒に澱んだ手の平。</div><div>恐怖という感情を知った。</div><div>「俺はあの日、葉月に永遠を誓った。ずっと、お前を守るって。ずっと、側に居るって」</div><div>もう一度、彼は葉月の手を取る。</div><div>恐怖を知ったあの日、葉月は『ぬくもり』を知った。</div><div>ぬくもりを知ったあの日、葉月は『恋』を知った。</div><div>恋を知ったあの日、葉月は彼のモノになった。</div><div>そして二人は、永遠を誓った。</div><div>「だから葉月。もう一度、誓わせてくれ」</div><div>その永遠を、</div><div>「命の限り、お前を愛し続ける」</div><div>あの日と同じ最悪の一日に、彼は約束を重ね合わせた。</div><div>「葉月は、自分の信じた道を進めばいい。自分が正しいと思った道を、前だけ見て歩いていけばいいさ」</div><div>視界いっぱいに彼の顔が写り、葉月は瞼を閉じる。</div><div>「もし間違えてたら？」</div><div>「そんときは、俺も一緒に怒られてやるさ。なに、怒られるのは慣れてるからな」</div><div>にしし、と彼が笑えば、葉月も目を開け、それから引き合うように唇を触れ合わせた。</div><div>大丈夫だと、そのぬくもりが囁いていた。</div><div>葉月は彼に向けはにかみ、頷き、虚空に向けて息を吸い込む。</div><div>視界の端で光助が目を伏せ、しかし何も言わず同じように横に並び繋いだ手を強く握る──闇夜に向け、低く、吼えた。</div><div>それは狼が遠吠えをするかのように、空高く何処までも響くように、三回。</div><div>続くように彼が三度、空に吼える。</div><div>──藤花には、『鉄の掟』の他に大切な決め事があった。</div><div>それは藤花の団員のみが知る、合図。</div><div>二人一組で行われるそれは、遠吠えの回数で告げられる、簡単すぎる伝達。</div><div>一度ずつ吼えれば、敵襲の合図。</div><div>二度ずつ吼えれば、攻撃の合図。</div><div>三度ずつ吼えれば…藤花の団の、解団の合図。</div><div>──葉月は、つよくつよく光助の手を握り、三度、吼えた。</div><div>それに倣って、光助が、三度吼えたのだ。</div><div>すなわちたった今この瞬間から…藤花の団は、無くなってしまったのだ。</div><div>父が作り母と出会い葉月が拾われ光助と生き、共に過ごしてきた時間は、終わりを迎えたのだ。</div><div>自分が、終わりにしたのだ。</div><div>大切な、自分の居場所を。</div><div>「…葉月…」</div><div>それでも、間違っているとは思わない。</div><div>藤花の団が無くなったとしても、みんなが生きていられるなら。</div><div>葉月は握りしめていた彼の手を離し、崖の、一番端に立つ。</div><div>そして、もう一度大きく息を吸う。</div><div>「我が名は藤花の団若頭、藤花葉月！！！」</div><div>この森に、この山に、遙か広がる心を繋げた皆に、叫ぶ。</div><div>「──生きて！！！」</div><div>この団を取り仕切る者として告げる、最後の命令を。</div><div>例えどんなに惨めでも無様でも。</div><div>例え、怨まれたとしても。</div><div>「お願い…生きて…」</div><div>葉月は胸の中にある感情を吐き出し、それでも吐き出しきれなくて、力なくその場に座り込んだ。</div><div>そんな葉月を優しく抱き寄せてくれる彼のぬくもり。</div><div>「葉月、立て。こんなところで、立ち止まってらんねーぞ」</div><div>「…光助…」</div><div>「ここから、また始まるんだ。藤花葉月としてじゃなくて、菊川葉月として」</div><div>彼は葉月の腕を掴み立ち上がらせ、やはり変わらぬ笑顔で葉月と向き合うのだ。</div><div>月明かりしかないこの場所で、またこうして二人で立って、また此処から、全てを始める。</div><div>「なに、心配いらないって」</div><div>光助は葉月から視線を外し、目を閉じ、耳元に手を持っていく。</div><div>なんだろう。</div><div>葉月は彼の行動に首を傾げ──その聲に両目を見開いた。</div><div>至る所から、狼の咆哮が、轟く。</div><div>「ちゃあんと、みんなには伝わってると思うぜ？お前の想い」</div><div>空気を震わせるかのように果てなく広がる幾重もの聲は、反響し、葉月の身体に染み渡っていく。</div><div>「大丈夫だって。俺たちみんな、大事な家族だろ？こんなもんで、終わったりなんかしないって」</div><div>だから。</div><div>光助はそう言って、けれどその先を紡ぐことはせず、森の方に向かって歩き出した。</div><div>「ま、とりあえず、この場所から離れようや。今の声聞いて、奴等ぜってー此処目指してくるから」</div><div>「あ、うん…」</div><div>「それに…まだ話さなきゃいけないことはあるしな」</div><div>話さなきゃいけないこと…</div><div>葉月は彼が忍のことを言っているのだと気付き、俯き、しかしすぐに顔を上げれば森の中静かに意識を張り巡らせる。</div><div>彼の言うとおり、この場所からは早急に離れる必要がある。</div><div>まずは身の安全を確保して、そのあと、きちんと忍のことや七朗のことを彼に話すのだ。</div><div>大丈夫。</div><div>彼が言ってくれた言葉を頭の中で繰り返し、葉月は二人並びながら暗闇に溶けていく。</div><div>不思議と、不安はない。</div><div>絶望も、どこにもいない。</div><div>大丈夫。</div><div>根拠のない光に、葉月は、力強く前を見つめるのだった。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>大きな木の根本に腰を下ろし、火を起こせぬ為寒さに身を寄せながら葉月は今までのことを紡いだ。</div><div>七郎のこと、忍のこと、マサシやもみじのこと。</div><div>何度も何度も声を詰まらせ、光助に再会できるまでのことを紡いで。</div><div>唯一、この背中の傷を付けたのが大切な家族だということだけ、言えなかった。</div><div>彼もそのことはなにも聞かず、ただぎゅっと、葉月を抱きしめ、自身も感情をこらえるかのように黙り込んだ。</div><div>光助と、忍と、七郎は、ずっと葉月の記憶の中では一緒にいた。</div><div>年も近く、葉月を含め四人で、よく川遊びをしたものだ。</div><div>葉月と光助の仲を、一番に喜んでくれたのは、もしかしたら忍と七郎だったかもしれない。</div><div>そんな大切な人たちを、失ってしまった。</div><div>自分なんかより、光助の方が、ずっと辛いはずだ。</div><div>…自分には、感情がないから。</div><div>だからきっと、彼の方が悲しみも苦しみも深い。</div><div>葉月は彼の腕に抱かれながら唇を噛みしめ、それから、</div><div>「『そうだ葉月。もう一つお願い。アイツに伝言頼めるか？』」</div><div>あの時の言葉をそのまま吐き出した。</div><div>「葉月？伝言…？」</div><div>眉を寄せ、突然の事に驚く光助。覗き込んでくる二つの瞳は、心なしかいつもより赤い。</div><div>「『そ。そんな大した内容じゃねーけどよ』」</div><div>明らかに葉月の口調ではない言葉に光助は目を見開き──なにかを察し──細い喉を鳴らし無言のまま葉月を見つめる。</div><div>「『地獄で待ってる』」</div><div>「……」</div><div>「『遠い未来に、地獄で会おうぜ』」</div><div>声が震えないように、ちゃんと彼に届くように、葉月は言葉を吐き出していく。</div><div>溢れそうになる涙を必死に堪え、真っ直ぐ、光助を見つめる。</div><div>別れ際、彼が葉月にそうしたように。</div><div>「忍、最後まで、笑ってた」</div><div>「ああ」</div><div>「ありがとうって、笑って…」</div><div>「ああ」</div><div>「あたしのこと、自慢の妹で、自慢の、頭領だって」</div><div>胸の中に渦巻くこの感情を、どうすればいいのだろうか。</div><div>どうやって吐き出せば、苦しみは消えるのだろうか。</div></div><div><div>葉月が吐き出せぬ感情に言葉を詰まらせれば、一方で光助はごしごしと乱暴に目元を拭い、僅かに声を震わせながら言うのだ。</div><div>「ったく、馬鹿じゃねーの」</div><div>髪に片手を突っ込み、呆れたように、盛大にため息を吐き出して。</div><div>「…光助…？」</div><div>「あいつ、ほんと、なんにもわかってねーなぁ」</div><div>片手で葉月を抱きしめたまま、彼は月明かりの差し込まぬ木々を見上げる。</div><div>風が葉を鳴らし、春の香りが広がる。</div><div>「俺たちみたいな超優等生が、地獄になんて行くわけねーだろっつーの」</div><div>美男美女は天国に行くって決まってんだよ。</div><div>彼はにしし、と笑い、それから黙り込み瞳を閉じた。</div><div>葉月も同じように空を見上げ、彼らの笑みを、思い浮かべた。</div><div>みんなは、銅蔵や他の家族と会えたのだろうか。</div><div>地獄がどんな場所なのかはよくわからないけれど、もしみんなと一緒なら、きっと、楽しくやれるだろう。</div><div>「葉月、もう寝ろ。この戦いを切り抜けるには、お前だけが頼りなんだ。ゆっくり、休んどけって」</div><div>「あ…光助も…」</div><div>「俺は良い。さっき仮眠を取ったんだ。それに、ずっと走り回ってたんだろ？ちゃんと休まねーとぶっ倒れちまう」</div><div>半ば無理矢理体を倒され、彼の膝の上に頭を乗せると、葉月は暗闇を見上げる。うっすらと浮かび上がる愛しい彼の笑みに何度か瞬きをし…</div><div>「…うん、そうする」</div><div>そう言ってぬくもりに身を任せた。</div><div>抱えた刀がガチャリと音を立て、途端、全身から疲れがにじみ出てくるようで。</div><div>張り詰めていた何かが、ゆっくりと彼のぬくもりに溶け、意識はあっという間に遠退いていく。</div><div>「ねぇ、光助…」</div><div>そんな意識の中で、葉月は彼の名を呼ぶ。</div><div>「…ん？」</div><div>「……なんで…こんな事になっちゃったのかなぁ…」</div><div>「…それは…」</div><div>遠ざかり、閉じていく意識。</div><div>葉月は何かを言おうと口を開き、言葉を紡ぎ、しかしそれがなんなのかもわからぬまま、深い眠りに落ちていった。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>起きても、悪夢は終わらなかった。</div><div>むしろ、惨状をより明確に知ることとなった。</div><div>明るくなった森の中は、至る所に戦いの痕が残り、当然のように死体が転がっていた。</div><div>自分が守るべき家族。</div><div>自分が討つはずの敵。</div><div>守るために、殺す。</div><div>殺すことで、守る。</div><div>すぐ側で敵の大将までの道筋を思案してくれる彼が、らしくもなく焦っているようで、葉月は眉尻を下げた。</div><div>感情がなくて良かったとも思うし、感情が無いせいで彼の気持ちを理解出来ないでいることが苦しくもあった。</div><div>自分に出来ることと言えば、光助を守り、出来るだけ早く敵の大将の首を取ることだけ。刀となり盾となり、戦い抜く。それだけである。</div><div>この戦いは、どちらかの首を落とすまでは終わらないのだ。</div><div>「葉月」</div><div>「なぁに？」</div><div>慎重に森の中を進みながら、葉月は光助に名を呼ばれ視線を上に向ける。</div><div>思い詰めたような表情の彼と視線が交わり、しかしその瞳はすぐに外される。</div><div>「……やっぱなんでもない」</div><div>「…なにかあったの？」</div><div>「いや、後で話すわ。それより、これからのことなんだが…」</div><div>言い辛そうに言葉を濁し、話題を逸らすと、敵の隊長が居るであろう方向に目を向けた。</div><div>「今回、もしかしたら総大将の首を取っても戦いが終わらない可能性がある。藤花に恨みのある余所の山賊も参加してるって話だ。首を取っても、気は抜くなよ」</div><div>「他の山賊…土佐組の竜さんは、大丈夫かな…」</div><div>以前町で受けた依頼をきっかけに親しくなった土佐組の頭領、竜。</div><div>それ以降、何かと気にかけてくれ、可愛がってくれた人だ。</div><div>彼らがこの戦いに敵として参加している可能性は微塵も懸念していないが、身内だと思われ戦いに巻き込まれているんじゃないかと心配になるのだ。</div><div>「ぶっちゃけ、わかんねぇ。交流があることを公表はしてないが、隠しているわけでもない。ただ、あの場所そのものが砦として守備固めには向いてるから、そう簡単に落とされることはないと思うが…」</div><div>彼は状況を冷静に話し、それから肩をすくめた。</div><div>「あのおっさんのことだ。それくらいの危険は想定内だろう。それに、確認に行くことは出来ない」</div><div>「…うん。繋がりを、知らせることになっちゃうもんね…」</div><div>葉月は頷き、遠くに感じる人の気配に体勢を低くする。</div><div>気配を消し、光助の前に立つ。</div><div>「…行こう。戦い、終わらせる」</div><div>「ああ。頼むぞ、葉月」</div><div>葉月は刀に手をかけ、再び、歩き出した。</div><div>強く吹き抜ける風は、湿った香りがした。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>　　　◆◇◆◇◆</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>今にも雨が降りそうな空の下、葉月は、血の付いた刀を振るい葉に飛び散る赤に笑む。</div><div>戦いだ。</div><div>命を賭けた、全てがギリギリの戦い。</div><div>極限の状態から繰り出される攻撃は、まさに命そのもの。</div><div>葉月は剥き出しの命を、斬り付け、突き刺し、薙ぎ払う。</div><div>その命のやりとりを、葉月は楽しいと感じていた。</div><div>人を殺したいわけではない。</div><div>だが、死にたくないともがき、抗い、生にしがみつくその様が、たまらなく美しいと思うのだ。</div><div>同じように自分の命を危険に晒しながら戦う事へのぞくぞくとした緊張感が、葉月の脳を興奮させる。</div><div>相手が多ければ多いほど。</div><div>強ければ強いほど。</div><div>葉月は自分の刀をその場に突き刺し、相手が持っていた刀を奪い取れば、それを構える。</div><div>毒は、相手を二、三回斬れば拭い去れる。</div><div>そうすれば、些細な傷で死に至ることはない。</div><div>葉月は木を蹴り飛び上がれば、高さを利用し振り下ろし、斬り付け際にもう一本刀を奪うとその刀を放り投げた。</div><div>「ぐぇ…！」</div><div>僅かに聞こえる呻き声。</div><div>構えた矢がバラバラと零れ落ち、もう一度葉月は高く飛び上がった。</div><div>一番奥にいる大将目掛け、腕を振るう。</div><div>「舐めるな小娘！！」</div><div>葉月が投げつけた刀はあっさりと弾かれ、こちらを睨みつけ吼えるその迫力に肩をすくめた。</div><div>着地と同時に大地を蹴り、自分の刀と落ちていた刀を掴むと、大将までの線上に立つ壁を討ち殺していく。</div><div>相手に攻撃をさせる暇など与えるつもりはない。</div><div>毒が無くなれば刀を取り替え、全身を血で汚しながら、何度も、何度も、刀を振るう。</div><div>心が震えるような、狂喜に満ちた時間。</div><div>だが、葉月は僅かに動く気配に…ハッと顔を上げた。</div><div>「動くな」</div><div>低く紡がれた声は、その場にいた全員の動きを止めるには十分だった。</div><div>「…光助…？」</div><div>いつの間にか大将の背後に回り込み、ずっと大切に仕舞っていた懐刀を突き付け、口を開く。</div><div>「……、…………」</div><div>だがその言葉はあまりに小さく、葉月の耳には届かない。</div><div>なにを話しているのだろうか。</div><div>新しい刀を拾い上げ、葉月は警戒しながらも彼の方へと足を進め、違和感に首を傾げた。</div><div>何故彼は、自ら大将の元に行った？</div><div>光助は、自分が強くないことを知っている。</div><div>特に武器を用いた戦闘は、お世辞でも上手いとは言えない。</div><div>なにか、訳があるのだ。</div><div>そうじゃなければ、危険を伴うような行動を取るわけがない。</div><div>葉月の攻撃から逃れ、血が溢れる森に立ち尽くす兵たちも、この後どうなるのかと固唾を飲んで見守っている──ゆらり、影が動いた。</div><div>その影はあまりに自然で、敵意も殺意もなく葉月の横を通り過ぎたかと思えば、錆びた短刀を抜き、僅かに右へと傾いた。</div><div>その姿を見送り…我に返った。</div><div>葉月は男へ向け間合いを詰めながら刀を振り上げ、しかしそれより一瞬早く…男は葉月の間合いを抜け、握った刀の柄にもう片方の手を添える。そしてその添えた手を腹部に押し当て…体当たりを食らわせるように短刀を突き立てた──自らの大将に向けて。</div><div>「き、さま…！！」</div><div>顔を歪め男の腕を強く掴むも、彼の勢いは止まらず、大将の背後にいた光助をも巻き込んで後退していく。</div><div>「光助っ！！」</div><div>「くそったれ…！」</div><div>葉月は大きく飛び上がり左側から男に斬り掛かった。</div><div>殺すつもりで、迷い無く首元へ。</div><div>だが葉月が放った一撃は弾かれ、光助がその隙に転がって距離を取るも、男は追いかけ右に傾く。</div><div>「させない！！」</div><div>葉月が袂に仕舞っていた七郎の短刀を足下に投げつけると、動きを止めた男と光助の間に体を滑り込ませた。持っていた毒付きの刀を捨て、亡き父の形見を取り出す。</div><div>「藤花の団若頭…参謀菊川光助…その首、俺が貰い受ける…」</div><div>刀を構え、男と正面から向き合えば、彼は狂った笑みで光助を見やり、それから葉月を睨みつける。</div><div>その様子に、葉月は眉を寄せた。</div><div>何故光助のことを知っている？</div><div>調べたのだろうか。</div><div>だとしても、執拗に光助を狙う意味があるのだろうか。</div><div>戦いを勝利で納めたいのなら、若頭である自分だけを狙えばいい。そもそも、自分のところの大将にその刃を突き立てたのは何故？</div><div>ぐるぐると訳の分からないことばかりが頭を回り、葉月は苛立ちに強く刀を握る。</div><div>狂った瞳が、葉月の胸をざわめかせる。</div><div>自分は、この瞳を、知っている。</div><div>自分は、この男を、知っている？</div><div>自分は…</div><div>「お前、あの時の糞野郎かっ！！」</div><div>だが起きあがった光助が叫ぶように言い、葉月の腕を強く掴む。</div><div>あの時の？</div><div>葉月は光助が何のことを言っているのかがわからなくてちらりと彼を振り返り、しかし彼が浮かべる怒りと憎しみの表情が、突如として『あの日』の記憶を呼び覚ます。</div><div>恐怖を知り、</div><div>ぬくもりを知り、</div><div>恋を知り、</div><div>それら全てを作り上げる原因となった、あの日。</div><div>あの真っ黒な手を伸ばしてきた、あの、男。</div><div>「──っ！！！」</div><div>一瞬で、なにもかもが真っ黒に染まった。</div><div>腹の中からこみ上げるのは、あの日取り除かれたはずの恐怖。</div><div>なにも見えない真っ暗な暗闇に、その闇より黒く澱んだ手が伸ばされ、葉月のなにもかもを飲み込もうと思考を蝕み、意識を犯し、一切の動きを封じ、</div><div>「飲まれんな葉月！！！」</div><div>しかしその声が、光となった。</div><div>闇を切り裂き、掴まれていた腕が強く引かれ、戦場が、姿を現した。</div><div>光助が目の前で刀と懐刀をぶつけ合わせ、叫ぶ。</div><div>「もう誰にも、葉月に触らせねぇ！！！」</div><div>ギリギリと競り合いながら、光助は怖いほどの眼で男を睨みつけ歯を食いしばる。</div><div>ハッと我に返れば、あの日のような光助の背中を見つめながら、握ったままの刀に意識を向ける。</div><div>もうあの時とは違う。</div><div>違うのだ。</div><div>彼が、にやりと笑った。</div><div>「葉月は俺の女で、藤花の若頭だ。てめぇ如きが気安く話しかけてんじゃねーよ」</div><div>「さようなら」</div><div>葉月は、その握りしめた刀を…振るった。</div><div>「ぐぁっ！」</div><div>光助の背中越しに振り下ろした、肩口から深々と抉る一撃。</div><div>血が溢れ、葉月と光助はその場を離れながら様子を窺う──足下で、虫の息となった大将が光助を見上げる。</div><div>「これが、貴方様の出した、答え、ですか…」</div><div>その言葉からは、光助に対する何か特別な感情があるようで。</div><div>光助はそんな彼を見下ろし、肩をすくめた。</div><div>「理解してもらえるなんて思ってはないよ。けど、後悔はしていない」</div><div>柔らかく、何か…懐かしむような、優しい声で光助は笑い、傍らにしゃがみ込む。目を閉じ、最期を迎える男に祈るように頭を下げる。</div><div>葉月もそれを真似ししゃがみ込み、しかし背後に生まれた影に振り返った。</div><div>切っ先をこちらに向け、今まさに振り下ろさんと嗤う血塗れの男。</div><div>刀を握り振り向きざまに突き上げ──男の突き出した刀が光助の体を貫いた。</div><div>間髪挟まず葉月の刀が男を貫き、刺された男はヨロヨロと後退し、けれどすぐ近くで呻き声が聞こえれば光助の方に目を向ける。肩口から刀が突き刺さったまま、体を痙攣させている──毒だ。</div><div>葉月は躊躇なく刀を引き抜き、袂から小瓶を取り出せば中に入っている緑色のとろみのある液体を手に取り傷口に塗り込んだ。</div><div>「がぁ…っ！！」</div><div>彼の口から唸り声のような悲鳴が聞こえるも、さらに指で薬を掬い、傷口に指ごと押し込んだ──ぬるりと生温かい液体が手を伝い、光助の絶叫を押し殺した呻きが辺りに響く。</div></div><div><div>正面を向かせ、貫通している正面の傷口にも薬を塗り、葉月は……自分の手が震えていることに気付く。</div><div>真っ赤に染まった両の手と、痛みに荒い息を吐きながら大粒の汗を浮かべる光助を交互に見比べ…意識が再び闇に飲まれていくようだった。</div><div>「はは、ははははは！！！」</div><div>背後で、嗤い声がする。</div><div>葉月は光助を見つめ、なにも考えられない思考で、光助の頬に手を伸ばす。</div><div>彼は、死んでしまうのだろうか。</div><div>いやだ。</div><div>そんなの、いやだ。</div><div>なら、自分も一緒に死のう。</div><div>彼を貫いた刃で、自分も貫いてくれ。</div><div>震える手は光助の頬に血色の手形を付け、吐き出したい感情は言葉にならず、どうしようもなく苦しくて。</div><div>表情を引き吊らせ、彼は微笑んだ。</div><div>「泣かないでくれ、葉月」</div><div>同じように葉月の頬に手を伸ばし、彼は言う。</div><div>「泣いてなんか、ないもん」</div><div>「泣いてんでしょーが。つーか、傷口に指突っ込んじゃだめだろ。めっちゃ痛ぇ」</div><div>ゆっくりと体を起こし、荒くなった息を整えながら、自分を貫いた男に目を向けた。</div><div>ふらふらとよろめきながらも、視線は葉月たちの姿を捉えている。</div><div>…きちんと、殺さなくては。</div><div>葉月は自分が光助から引き抜いた刀を握りしめ、とどめを刺そうと男を睨み付け───とん、と男の胸に刀が突き刺さった。</div><div>ハッと振り返れば、大将の男が虚ろな瞳で体を起こしていて…そのまま力尽きたように崩れ倒れた。</div><div>「………」</div><div>葉月は黙り込み、視線を男に戻す。</div><div>地面を這い蹲り、しかしそれでも笑っている。</div><div>なにがおもしろいのかわからない。</div><div>此処に自分が居ないかのように、ぼんやりとした思考でその嗤い声を聞き、声が聞こえなくなれば、空を見上げた。</div><div>「終わったのね」</div><div>長い戦いが、終わったのだ。</div><div>日にちにすれば、ほんの、一日程度かもしれない。</div><div>しかし、酷く永い…痛みを伴う一日が、戦いが、これでようやく…</div><div>周りを見渡せば、生きている人間は何処にも居らず、そこにいたはずの人たちがどうなったのか、知る術はなくて。</div><div>逃げたのか。それとも、葉月以外の誰か──今さっき生き絶えたばかりの男に殺されたか。</div><div>どちらにせよ、もう葉月を、光助を、藤花を、傷付けようとする者はいないのだ。</div><div>葉月は勝利の咆哮を上げ、大将の体を一番わかりやすいところまで引き擦っていく。こうすれば、これ以上の無駄な争いは起きない。</div><div>葉月は噎せ返るような血腥い臭いに立ち止まり…小さく微笑んだ。</div><div>どうしてこんな事になってしまったのだろう。</div><div>血と、脂と、怨念にまみれ、それでも…戦わなくてはいけない。</div><div>自分が、みんなが、命を賭けて守ろうとしたモノは、もう何処にもないのだ。</div><div>大切な、あの、居場所は。</div><div>「…葉月」</div><div>けれど、彼は変わらず葉月の名を呼ぶ。</div><div>傷口を布で押さえ、困ったように…笑う。</div><div>「ここに居たって、仕様がねぇし、少し…休もうぜ。俺も、ちゃんと血止めしないと」</div><div>そして伸ばされた手を、葉月はそっと掴み、強く、唇を噛みしめた。</div><div>どこからか、藤の花のにおいがする。</div><div>甘く優しく、二人の間を駆け抜け…背中の傷が、ずきりと痛む。</div><div>いや、もしかしたら、痛いのは傷ではなく、胸の奥の…どうしようもないくらい深い暗闇なのかもしれない。</div><div>葉月は光助に肩を貸しながら、ようやく、平穏な日々に戻れるのだと安堵の息を零した。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>平穏など、もう二度と訪れないなんて、考えてもいなかった。</div><div><br></div><div><br></div><div><br></div><div>永遠を願う 後編②へつづく</div></div>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12325215805.html</link>
<pubDate>Fri, 03 Nov 2017 13:19:48 +0900</pubDate>
</item>
<item>
<title>永遠を願う 中編③</title>
<description>
<![CDATA[ <p>&nbsp;</p><p>※こちらは<a href="https://ameblo.jp/shatuki/entry-12319784661.html?frm_id=v.mypage-checklist--article--blog----shatuki_12319784661" target="_blank">永遠を願う 中編②</a>の続きになります。ご注意下さい。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><div>葉月はぐんぐん近付く地面を見つめながら痛む感情を飲み込み、しかし下の様子に眉をひそめる。<br>おかしい。<br>誰もいない。<br>葉月があの塔に行ったときは、あんなにも見張りがいたのに、誰も、いない。<br>考えてみれば、戦っている最中一度も増援がなかった。中の様子を確認に来ることも。<br>やはり…これ自体が…罠？<br>葉月は闇に覆われた森に降り立ち、手早く布を身体に巻き付けると地面を蹴る。矢のように木々を駆け抜け、不意に辺りに広がる橙の明かりにハッと身構えた──一瞬遅れて爆音と爆風が葉月の身体に襲い掛かる。<br>爆発…！<br>葉月は爆発があった方へと方向転換し、辺りに広がる焦げ臭さに、いつでも戦闘に入れるようにと意識を集中させる。視界が拓けた。<br>至る所に火が散って、呻き声が地に沈む。<br>なんだ？<br>なにが起きた？<br>葉月はぐるりと辺りを見回し、背後で動く影に刀に手を伸ばす──<br>「まっ！！抜かないで！！」<br>「っ…！」<br>「ください…っ」<br>言葉ごと影を斬ろうとし、しかしその声に寸前のところで刀を振り止めた。見覚えのある顔。<br>「…武蔵…？」<br>「だからオレはムサシじゃなくてマサシだって何回も言ってるじゃないですか…！」<br>葉月がその名を呟くと、少しだけ拗ねたように男は…マサシは口を尖らせ、けれどどこか安心したように息を吐き出す。<br>そういえば、こんな会話をよくしている気がする。<br>「若様が無事で何よりです。光助さんがとても心配していました」<br>「そう…それで、状況は？」<br>「みんな、一応は無事です。ただ、思っていたより早く、奴らの侵攻が始まりました。待避が完了していません。そもそも…待避先が、ことごとく奴らの手に落ちていました」<br>葉月は大切な人の名に僅かに心動くも、聞かされる状況に眉を寄せた。<br>「内通者…」<br>緊急時の待避先は、末端の団員達は知らない。<br>知っているのは、昔からいる連中か、小隊の副長くらいまでだ。<br>もしくは…既に辞めた者の中に情報を漏らした奴がいるか。<br>なんにせよ、犯人探しは後回しだ。<br>葉月は口元に手を持っていき、しかし小さく首を振ると、彼に目を向ける──腕を掴まれた。<br>「若様…！お怪我を…！！」<br>そして背中を向けさせられ、巻き付けていた布越しに大きな声を上げてくる。<br>「あ、えと…」<br>あまりの反応に戸惑い、けれど葉月はおもむろに足下の石を拾い上げると、爆風により傾いた茂み目掛けて投げつけた。「ぎゃっ、」と声があがる。<br>「さっきの爆発で人が集まってくるわ。キミも一緒に…」<br>「いえ、自分は出来るだけ多くの罠を仕掛けてから町に逃げます。他に罠を仕掛けに向かった連中ともそこで落ち合う予定になっています。それに治療をしなくては…」<br>「だめよ、これ以上はキミ自身が危険だわ。他の面々のところにはあたしが行くから、このまま合流予定の町まで…」<br>「そう言うわけにはいきません。この先に、もみじ姉さんが居ます。姉さんが薬草を集めてます。そこで治療を受けてください。治療が終わり次第…若様は早く光助さんのところに向かってください。自分が最後に聞いたのは川向こうに行く…とのことでした。どうか、先に行ってください」<br>「話を聞きなさい。キミをここに置いていくなんてことは出来ないわ。あれくらいの人数なら、今のあたしでも何ら問題なく対処できる。キミ一人くらい守ってみせるわ」<br>断として譲ろうとしない彼に葉月は僅かな苛立ちを感じ、腕を強く掴む──びくともしない。<br>「ならこうしませんか？若様が治療を終わらせるまで、オレはここで若様をお守りしてます。奴等を近づけさせません。それで…治療が終わったら、迎えに来てください。一緒に、逃げましょう」<br>「でも、それじゃあ…」<br>「しっかりしてください！あなたは、俺たちの大将なんです！光助さんの隣が、あなたの居場所なんでしょう？オレにも、あなたたちを守る手伝いをさせてください」<br>決断しろ。<br>彼は暗にそう言っているのだ。<br>一番大切にしなくてはいけないことを。<br>選択しろ。<br>彼は葉月に迫っているのだ。<br>今すべき最良の行動を。<br>「………っ、なら、治療を受けている間…あたしのこと、守ってくれる？」<br>葉月は吐き出したかった言葉を飲み込み、代わりの言葉を彼に渡すと、向けられる満面の笑みに唇を噛みしめた。<br>「お任せください」<br>その笑みに、葉月は精一杯の笑顔を返してみせた。<br>葉月の笑みに彼は驚いたように目を見開き、それから、目を閉じ頷く。<br>「行ってくるわ」<br>そこまで見届け、葉月はマサシに背を向けると大地を蹴った。<br>一度決めた以上、迷いなんて必要ない。<br>ここまで来て、もう迷うことなど許されない。<br>──もう彼に会えないとしても。<br>マサシの命を見捨ててでも、自分は、行かなくてはならない。<br>刀を抜き、葉月の存在に気づいていない兵を斬り倒しながら、細く息を吐き出す。<br>精神を落ち着かせ、どこかにいるであろうもみじを探すために神経を集中させていく。蜘蛛の巣のように意識を広げ、覚えのある気配にぐるりと目を動かす。<br>見つけた。<br>木々に隠れるように上手く身を隠すその気配に走っていた足の向きを変え、大きく距離を詰め──刀を振り上げた。<br>「っ！！！」<br>葉月は力一杯その刀を振り下ろし、状況がわからず突然のことに目を見開いた彼女に微笑んでみせた。<br>「だめよもみじ。隠れるときは背後にも注意しなきゃ」<br>「わ、若姫様…」<br>血をまき散らし倒れ込む男を蹴飛ばし、葉月はこちらを見上げながら固まってしまう彼女を見つめ返す。<br>そのふくよかな頬を真っ赤に染めるは、緊張か。恐怖か。<br>葉月は自分よりも年上の彼女の頭に手を置き、いつも光助がしてくれるようにぽんぽんと髪の上を滑らせる。<br>「一人でよく頑張ったわ。怖かったよね」<br>「若、姫さま…っ」<br>顔を泥だらけの手で覆い、しかしもみじはすぐに顔を上げ頭を下げた。<br>「状況はかなり悪いです。やつら、武器に毒を塗っているらしく…」<br>「ええ、あたしの方にいた奴等もそうだったわ」<br>「そうでしたか…今中和させられないかと薬草を混ぜ合わせてはいたのですが…よくて、数刻進行を遅らせることしかできなさそうで…」<br>毒を数刻だけ防ぐ？<br>申し訳なさそうに俯く彼女に、葉月は首を振る。<br>「そんなこと無いわ。この短期間でそこまで出来るだなんて、さすがね」<br>「そんなこと…それに、斬られてすぐに塗らないと意味がないんです。毒の効き目が早くて…」<br>「それでも十分よ。ああ、それと、ひとつお願いがあるのだけど…いいかしら？」<br>しゃがみ込み、葉月は視線を合わせながら肩をすくめた。<br>「背中をね、怪我しちゃったの。毒はないから放っておいたんだけど、マサシに怒られちゃったわ。治療をお願いできるかしら」<br>「！！す、すぐに！！」<br>くるりと背中を向け巻き付けていた布を取れば、もみじは息を飲み、しかし手慣れた様子でかちゃかちゃとなにかを取り出すと、葉月の着物に触れる。<br>「少し染みると思いますが…」<br>「構わないわ」<br>少し戸惑うも、彼女が手にしたなにかを背中に塗り、その冷たさと…すぐに襲い来る痛みに拳を強く握りしめる──爆発音が轟いた。<br>「な、なに…！？」<br>「この方角…」<br>葉月は爆風を避けるために腕で顔を覆い、しかし思考が導く結論に、僅かに俯いた。<br>僅かに感じる爆風に心はざわめき、しかしそれを無言で押し込め治療が終わるのをただじっと待つ。少しでも、体を休めなければ。<br>「い、一応の、処置は終わりましたが…まさか、敵がもうすぐそこに…」<br>と、背中になにやら貼り付けた彼女は恐怖からか声を震わせ、葉月は礼を口にしつつもそんな彼女を安心させるように微笑んだ。<br>「心配はいらないわ。それより、急いでここを離れましょう。他のみんなと合流を…」<br>振り返り、その表情を見…言葉を飲み込んだ。<br>ふくよかで血色の良かったはずの頬は、いつの間にか青白く染まり、その額には汗の玉が浮かんでいる。<br>「もみじ…？」<br>「…すみません、若姫様…この薬、二刻くらいしか…保たないかもしれません…」<br>もみじは葉月の胸にもたれるように倒れ込み、その拍子に膝の上に置いていた薬草がこぼれ落ちる──赤黒い血が滲んでいた。<br>声が震えていたのは、恐怖ではなかったのだ。<br>彼女は、毒を…！<br>「もみじ…！！」<br>「若姫様…この、薬で……みんなを、どうか…」<br>薬が入っているであろう小瓶を葉月に差し出し、彼女はどこかほっとしたように表情を緩めた。<br>「わたし…若姫、様に…会えて……良か……」<br>そしてその瞳を閉じ、己の中にあるモノを吐き出すように言葉を紡げば…もう二度とその目を開くことはなかった。<br>あっけなく、彼女の意思は葉月の手の届かないところに消えてしまった。<br>あっけなく、葉月の腕に温もりを遺して。<br>「………」<br>葉月は何も言わず彼女の身体を地面に寝かせ、立ち上がった。<br>誰一人守れないでいる自分に、彼女は…彼女たちは、何故そんなことを言うのだろうか。<br>例えどんなに幸せでも、死んでしまえばそれで終わりだ。<br>全部、ぜんぶ、お終いなのに。<br>葉月は胸の中に渦巻く靄々とした痛みから目をそらし、また、走り出した。<br>その感情に目を向けてしまえば、もう走り出せない気がした。<br>無機質に、無表情に、感情を押し殺して。<br>木の上に登り、耳を澄ませる。<br>彼は…光助は、何処にいるのだろうか。<br>彼を、探さなくては。<br>葉月は辺りを見回しながら、マサシが言っていた川向こうの待避場所を目指し空を駆ける──誰かの悲鳴。<br>慌てて方向転換し悲鳴がした方へと駆けると、しかし一足遅く絶命したその壮絶な表情に唇を噛みしめた。すぐ側には顔面を押さえ獣のような唸り声を上げる大男の姿。<br>顔の左半分は血にまみれ、痛みに狂ったように叫び続けている──もう戦えるとは思えないほど全身傷だらけで、いかに接戦だったのかが伺いしれた。<br>…もう少し早く此処に来れていれば、救えたかもしれない。<br>葉月はもう何度目かの後悔に唇を噛み締め、くるりと踵を返した。<br>木々の間を駆け抜け、幾人もの同胞達の死を見送り、それでも走り続ける。<br>気が付けば、辺りは真っ暗で、木漏れる月明かり以外見えなくなってしまっていて。<br>これじゃあ、敵も味方もわからない。<br>もう少し走れば、月望みの丘につながる高台が見えるはずだ。<br>だが静まり返った森の中。<br>大きな音はもちろん、拓けた場所に出るのは、自分の存在を知らせているだけだ。味方が見付けられないのであれば、日が昇るまでこのまま森の中に潜んでいた方がいい。<br>それでも…皆に知らせなくてはならない。<br>自分が、藤花の団に戻ってきたことを。<br>そして…若頭として、決断をしなければならない。<br>藤花の団の未来を。<br>葉月は地面に着地し、森を抜けようと歩き出し──腕を掴まれた。<br>「んんっ！！！」<br>心臓を鷲掴みされたかのような恐怖。咄嗟に刀に手を伸ばし、<br>「馬鹿っ、俺だっての！！！」<br>その叫び声に、葉月は…──<br><br><br><br><br>中編…END…<p>&nbsp;</p></div><p>&nbsp;</p>
]]>
</description>
<link>https://ameblo.jp/shatuki/entry-12319787565.html</link>
<pubDate>Sun, 15 Oct 2017 18:25:29 +0900</pubDate>
</item>
</channel>
</rss>
