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<title>創作のブログ</title>
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<description>いろんな人の人生を切り取った創作話。</description>
<language>ja</language>
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<title>仕事に行けなくなった話</title>
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<![CDATA[ <p>僕は地方都市に住むアラフォーの独身男性だ。</p><p>最近、有名な感染症にかかってしまった。</p><p>&nbsp;</p><p>それまでも僕は仕事に「行きたい」と思える日がないほどに、この仕事が嫌だった。</p><p>そんな中、あの感染症にかかった。</p><p>&nbsp;</p><p>４０度近い高熱にうなされ、一週間ほど休みをもらうことになった。</p><p>僕は症状が重い方だったみたいで、なかなか体調が元に戻らない。でも仕事に行けないほどではなかったので</p><p>頑張って職場復帰した。しかし、だ。</p><p>&nbsp;</p><p>数日後、感じたことのないだるさに襲われた。</p><p>なんだこれは？免疫が弱るとこんな感じになるのかな。軽く考えていたという方が正しいだろうか。</p><p>会社に連絡して休みをもらう。ほとんど1日横になっているだけの時間だ。スマホを見て、動画を見て過ごすだけの時間。</p><p>なんて無駄なんだろうかと思いながらも時間を浪費してしまう。</p><p>&nbsp;</p><p>そして復帰した2日後。また体をだるさが襲った。もう何が何だかわからない状況だ。</p><p>これが後遺症ってやつなのか？思えば味覚も戻ってこないし、いつまでたってもどろっとした鼻水が出てくる。</p><p>これが原因だろうなぁとは思っているけれど、それにしてもひどいじゃないか。</p><p>&nbsp;</p><p>世の中がインフルエンザと同じ扱いになったことで、特別休暇はもらえない。休んだら休んだだけ、ただ有給がなくなっていくのだ。</p><p>遊びにも行けない。とにかくだるい。イライラが募り、部屋の壁でもぶん殴りたくなる。補償が怖くてできないけど。</p><p>&nbsp;</p><p>仕事に行けない申し訳なさと、良くならない体調に精神的な不調が襲うようになってきた。いつまでこうなのか。</p><p>世の中で自分だけがこんな思いをしているという被害妄想が一人歩きしてしまう。</p><p>すると会社に行きたいという気持ちすら無くなってくる。</p><p>&nbsp;</p><p>突然、僕は会社に行けなくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>体調が戻ってこないことは事実。でも朝起きれない。あと１０分、あと５分というリミットを計算しながら着替える。</p><p>時間ギリギリになって家を出る。ちょっと渋滞をしている。次の瞬間、近くのコンビニに寄り車を停めスマホを取り出す。</p><p>&nbsp;</p><p>会社に電話をする。</p><p>最大限の申し訳ないという演技をして電話を切った瞬間に気持ちがスッと軽くなったような気分になる。</p><p>&nbsp;</p><p>これはやばい。</p><p>&nbsp;</p><p>うつ病かもしれない。不安が襲う。</p><p>違う、そんなものじゃない。ただ休みが続いて会社に行きづらくなっているだけだ。そう自分に言い聞かす。</p><p>そのまま少し遠くまでドライブをして昼ごはんを食べて家に帰る。一体自分は何をしているんだろう。</p><p>部屋に入った途端、疲労が襲ってくる。後悔と恥ずかしさと「でもしょうがないじゃん」という諦めの気持ちがごちゃごちゃになっている。</p><p>&nbsp;</p><p>でもこのままじゃダメなことはわかっているから、不安ばかりが大きくなる。</p><p>明日は会社に行けるだろうか。そんなことばかり考える。</p><p>&nbsp;</p><p>今思えば、療養中からその兆候はあった。</p><p>だって、あと一週間休んでいいんだってわかったら、体は辛いのに、メンタルはびっくりするほど楽になったから。</p><p>そして３日、2日と時間が減っていくにつれて、心のモヤモヤが大きくなっていくのを感じていた。</p><p>仕事に行きたくない。なんで仕事に行かなきゃならないんだ。そんな被害妄想のような気持ちが大きくなっていく。</p><p>&nbsp;</p><p>結局、僕はこの仕事が合ってないんだろうな。</p><p>&nbsp;</p><p>仕事に行かなきゃならないのは、しょうがないことだ。だって憲法で国民の義務として設定されているのだから。</p><p>でも「この仕事じゃなくちゃダメ」という制限はない。法に違反した仕事でなければ、なんでも構わないのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>こうやって仕事に行けなくなる人は世の中にどのくらいいるんだろうと考える。</p><p>これまで張り裂けそうな気持ちに蓋をしてなんとか仕事をこなしてきたけれど、こうやって療養中に心が完全に途切れてしまう人とか絶対にいるはずなんだ。それは数人とかいう単位ではなくて、きっとたくさんいるはずだ。</p><p>&nbsp;</p><p>都合の良い人間だなと思いつつ、自分の心に正直になって考えると当たり前のことでもあると納得できる。</p><p>向いてない、やりたくない仕事をいつまでもやり続けるのは、自分にとっても会社にとってもメリットは無い。</p><p>そもそも、これだけやりたく無い仕事を10年以上も続けているのだから、これからも騙し騙し、この仕事ができるだろうなとは思っている。しかし給料が一円も上がらない中で、給料以外に何をやりがいにすれば良いのかがわからない。やりたくない仕事だからこそ「対価」を求めてしまう。給料で自分の人生を補償してほしいと思ってしまう。会社からすればただの、わがままオヤジだ。</p><p>&nbsp;</p><p>僕の思考を会社が知ったら「大した生産性もないくせに、対価ばかり求めるような人材」に映っているのだろう。それも事実。</p><p>&nbsp;</p><p>明日は会社に行けるだろうか？</p><p>傾き始めた夕日を眺めながら考える。</p><p>夕方になると、また不安が襲ってくる。この不安から逃げるように、缶ビールをあおる自分がいる。</p><p>体力が落ちて大して量も食べられない胃に流し込むお酒は背徳の味。というか、味覚が戻ってないのでただ頭を撹乱させたいだけの時間。</p><p>今度の休みは心療内科に行こうかと思っている。でも近所に良さそうな病院はなかった。</p><p>自宅から車で１時間の距離にある診療内科になんか行けるかよ。悪態をつきながら、さらに缶ビールをあける。</p><p>&nbsp;</p><p>明日仕事をやめてしまったら、今の貯金であと何本このビールが買えるだろうか、なんてことを考える。</p><p>働かなくても貯金が一円も減らない生活が、あと10年続いてほしいと願っている。そんな生活がやって来るはずもないのに。</p><p>&nbsp;</p><p>世の中の人は優秀過ぎるよな、と思っている。</p><p>就きたくもない職業と、やりたくもない仕事を毎日毎日繰り返して生きている。責任ばかり増えて一円も上がらない給料なのに文句も言わない。それでもって家庭を持って数千万というローンを抱えている人もたくさんいる。というか、この国のほとんどの人がそんな人生だ。</p><p>なんでそんなリスクを何重にも背負って平気な顔して生きていられるんだ？と思う。強過ぎるだろ。</p><p>&nbsp;</p><p>これがみんなの求める人生なのかなぁ、と次の缶ビールに手を伸ばす。</p><p>ほとんど沈みかけた夕日は何も語らない。</p><p>&nbsp;</p><p>明日仕事に行けなかったらどうしようかと考える。</p><p>どうもしないんだけどさ。自分がいなくたって。</p><p>総理大臣にだって代わりがいるんだから。</p><p>僕の仕事の代わりなんて誰でもできる。</p><p>みんなやりたくないから僕に戻ってきてほしいだけ。</p><p>&nbsp;</p><p>今の僕は生きるチカラが圧倒的に足りてない。</p><p>単純に体調もそうだし、生命力という部分で圧倒的に弱っている。</p><p>そうだ、きっと運勢も悪いはずだと思って占いを見たら、この上ない大吉だった。</p><p>今が大吉だったら、きっと凶の人生になったら僕はその辺の石につまづいて頭とか打って死ぬんだろう。</p><p>「そんなんで死にますか？」と笑われる死に方をするんだろうな。</p><p>&nbsp;</p><p>明日は今日より良い日になると信じたい。</p><p>でも信じられないことばかりで信じることができない。</p><p>信じようと思っても信じられない。</p><p>何を信じれば良いのだ？わからなくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>明日死んだらきっと後悔するだろうな。</p><p>いつか必要になると貯めておいた貯金は全部葬式の費用になるんだな。</p><p>&nbsp;</p><p>さびしいな。</p><p>人生ってなんなんだろうな。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12825159537.html</link>
<pubDate>Thu, 19 Oct 2023 14:37:45 +0900</pubDate>
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<title>これだから深夜は</title>
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<![CDATA[ <p>彼と連絡が取れなくなった。</p><p>いや、取れなくなったというか、連絡が来なくなった。同じことか。</p><p>&nbsp;</p><p>私は一目散にインスタグラムを開き、こういうときの対処法を探した。たくさん出て来た対処法のほとんどは「待つ」「まっすぐ問いただして納得いかなければ切る」というものだった。私にそんなこと、できるだろうか。</p><p>&nbsp;</p><p>いやいや、何を考えているんだ。とすぐに我に帰る。きっと仕事が忙しいのだろう。最近は残業続きだと言っていた。きっとまだ仕事中に違いない。</p><p>いや、どうなのかメールでも電話でもして聞けばいいだけなのでは？</p><p>そんなことを繰り返して悶々としているうちに、日付が変わった。</p><p>&nbsp;</p><p>彼からのメールの返信はもう２日来ていない。今までは少なくとも１２時間以内には返信があった。でもこちらから、メールをして重たいと思われたらどうしよう、なんてことも考える。</p><p>&nbsp;</p><p>でも彼が帰ってくるのはここでは無い。ここは私が一人で暮らしている部屋だ。</p><p>彼とこんな関係になって、もう２年になる。何度も話した「一緒になろう」という言葉に私は踊らされていただけだったのかもしれない。ということも何度も思った。でも答えは出なかった。</p><p>&nbsp;</p><p>聞くのが怖かったから。ただそれだけだ。</p><p>&nbsp;</p><p>私は意思が弱いと思う。誰かに依存していないと不安だ。誰かに頼っていたい。でも高校を卒業して早くから一人暮らしをしたいと思っていたし、現実にその通りにしてきた。依存したいのか、自立したいのか、自分でもよく分かっていない。</p><p>&nbsp;</p><p>彼に勢いで連絡をしたら、どんな返事が返ってくるだろうか。いや、返ってこないだろうか。</p><p>&nbsp;</p><p>LINEを開く。アプリ、バグってないよね、なんてことを無駄に確認したりする。うん大丈夫。何もバグってない。いたって快調だ。一体何を心配しているのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>なんとなく、ここ最近ちょっとそっけないな、というのは感じていた。でもそれが、どんな理由でなのかは理解していなかった。これも聞くのが怖かった、ただそれだけだ。</p><p>&nbsp;</p><p>そのままLINEのプロフィール欄を開く。彼のプロフィールが表示される。アイコンは彼が飼っているという犬の写真だ。この犬がどんな名前で、何歳で、どんな食事が好きなのかも私は知っている。でも会ったことはない。</p><p>&nbsp;</p><p>ふと、タイムライン、という表示があることに気づいた。彼は「自分の生活を見せびらかすようなことは好きじゃ無い」という理由で、このサービスは使ってないと言っていた。もちろん、今まで彼の投稿が表示されることはなかったし（もし、私が一緒に写っている写真がアップされてたらどうしよう、なんていうワクワクした気持ちもあったが）だったら、非公開にしなくてもいいじゃないの、なんてことも思っていた。</p><p>それがどうしたんだ？アップデートして急に表示されるようになったのか？</p><p>&nbsp;</p><p>私は心臓がドクドク言っているのを感じながら、少し震えた指で画面をタップした。</p><p>&nbsp;</p><p>そこには、私と知り合う前からつい最近まで、彼が投稿していた情報が一気に表示されていた。私はさらに心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、画面をスクロールした。</p><p>&nbsp;</p><p>”犬が散歩をいやがる”</p><p>”会社の歓送迎会があった”</p><p>&nbsp;</p><p>あ、この話知ってる。ここまではまだ安心して見れた。</p><p>しかし少しスクロールを進めたときだった。</p><p>&nbsp;</p><p>”今日は娘の運動会”</p><p>”10回目の結婚記念日”</p><p>&nbsp;</p><p>こんな投稿が写真付きで表示された瞬間、心臓が「バクン」と跳ね上がるのを感じた。血圧が高くなり、頭がぼーっとする。このまま見ててもいいことはない。それはわかっている。</p><p>&nbsp;</p><p>でも手が止まってくれない。</p><p>&nbsp;</p><p>これ以上見ちゃだめだ。そう思う心とは反対に、指が勝手に、奥深くまで知りたいという気持ちに耐えられず、動いていく。</p><p>&nbsp;</p><p>次</p><p>次</p><p>次</p><p>&nbsp;</p><p>投稿が出てくるたび、この日は私と会っていた日、などと自分でも驚くほどの記憶力とともに、彼の生活がつまびらかになっていく。</p><p>&nbsp;</p><p>震えが強くなって来た。でも手は止まらない。</p><p>&nbsp;</p><p>一番古い投稿は”娘が生まれた”というものだった。</p><p>そこには長々と彼の、娘に対する愛のこもった文章が展開されている。</p><p>&nbsp;</p><p>帝王切開だったこと。</p><p>アレルギーがあること。</p><p>&nbsp;</p><p>なぜか涙が出て来た。</p><p>私の知りたい情報だったはずなのに、涙が止まらない。</p><p>その理由が自分にもわからない。</p><p>&nbsp;</p><p>だめだ。</p><p>&nbsp;</p><p>私はスマホをソファに放り投げ、キッチンへ向かった。</p><p>キッチンペーパーを取り、鼻をかむ。</p><p>&nbsp;</p><p>なんで。どうして。</p><p>望んでも手に入らないものとわかっていながら、私はほんの少しの希望を何十倍にも勘違いしたまま、増幅させている。そうやって、この２年を生きて来た。その現実をまんまと見せつけられた。</p><p>&nbsp;</p><p>ひとしきり泣いたら、２０分ほどが経っていた。</p><p>もう寝よう。</p><p>&nbsp;</p><p>一気に睡魔が襲って来た、まるで脳がシャットダウンを始めたかのようだ。</p><p>ソファでひっくり返っているスマホを持ち上げる。</p><p>画面には、２件の通知があった。</p><p>&nbsp;</p><p>ひっく。</p><p>なんかしゃっくりまで出て来た。</p><p>&nbsp;</p><p>きっとこのメールを見たらまた泣いてしまうかもしれない。</p><p>もういい加減、こんなことで泣く人生からおさらばしたい。</p><p>何度も、何度も、そう心に誓ってきたのに。</p><p>&nbsp;</p><p>時計を見る。夜中の１時を過ぎたところだ。</p><p>「明日はスタバ行こ。あ、もう今日か」</p><p>&nbsp;</p><p>お気に入りのドリンク。</p><p>トッピング山盛りにしたら幾らするんだろう。</p><p>そんなことを考えながら眠りについた。</p><p>&nbsp;</p><p>遠くの方でスマホが震えている音が聞こえたけど、もういいや。</p><p>&nbsp;</p><p>これだから深夜はなぁ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12680064386.html</link>
<pubDate>Sat, 12 Jun 2021 00:32:32 +0900</pubDate>
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<title>引越しの朝</title>
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<![CDATA[ <p>ここでは辛いことばかりだった。</p><p>でも今日でお別れ。</p><p>少し心残りはあるけれど、きっとすぐに忘れるだろう。</p><p>それが人間というものだ。</p><p>&nbsp;</p><p>ここではいろんなことがあった。</p><p>&nbsp;</p><p>転勤してこの部屋を借りたときは一人だった。</p><p>テレビも小さくて</p><p>食器もコップとお箸くらいしかなくて。</p><p>それが一人暮らしなんだと思っていた。</p><p>でもいつか大切な人ができて。</p><p>なんとなく一緒に住むようになって。</p><p>カラフルなカーテンや食器が増えていった。</p><p>&nbsp;</p><p>でももう全部処分したけど。</p><p>&nbsp;</p><p>転勤願いを出した。</p><p>もうこの部屋にはいたくないと思った。</p><p>この部屋で７年暮らした。</p><p>地元に帰っても、もう実家に部屋はない。</p><p>だから、少しだけ居候させてもらって、すぐ家を借りるつもりだ。</p><p>それまではちょっとだけ休憩。</p><p>&nbsp;</p><p>昨日、リサイクル業者が家財道具を引き取りに来た。</p><p>無料で引き取ってもらえるのは本当にありがたいな。</p><p>&nbsp;</p><p>ベッド、冷蔵庫、電子レンジ、トースター、テーブル、洗濯機。</p><p>&nbsp;</p><p>大きなものは全部処分した。</p><p>なんだか、家を追い出された人みたいだなと思った。</p><p>残された家具はなんだか寂しそうで、新しい友達をすぐに用意してあげないと、という気持ちになった。</p><p>&nbsp;</p><p>このまま一人でいるのかな。</p><p>まぁそれも仕方ないか。</p><p>無理して、背伸びしていた自分がいたことに気がついた。</p><p>いや、背伸びすることでしか成長できないし、それが正しいんだと思っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>自分に正直な自分、でいるつもりだった。</p><p>&nbsp;</p><p>でも自分は全く正直ではなかった。</p><p>いろんなものを心の中に押し込めて。</p><p>それが正しいのだと錯覚していたんだ。</p><p>それに気づかない自分もいた。それが真実。</p><p>&nbsp;</p><p>伝わっているなんて嘘だ。</p><p>全て言葉にしないと、何一つ伝わらない。</p><p>それが人間というものなんだ。</p><p>&nbsp;</p><p>本当は一緒にいたかった自分もいる。</p><p>いや、本当は一緒にいたかった。</p><p>自分だけが苦しいはずだったのに。</p><p>それでも一緒にいたいと思ってしまう自分がいた。</p><p>&nbsp;</p><p>この気持ちも長続きはしないだろう。</p><p>それが人間というものだ。</p><p>しかし、なにかのきっかけで、急に記憶の扉が開いて思い出したりするんだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>そんなときには空を見上げて、深呼吸をしよう。</p><p>おいしいものを食べて、好きな本を読んで音楽を聴こう。</p><p>新しい場所の周りには何が待っているだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>残りの家具を車に押し込んで、汗だくになった状態で玄関を出る。</p><p>サンダルを手に持ち、トントン、とスニーカーを履く。</p><p>何度となく、繰り返されて来た光景だ。でもこれが最後。</p><p>&nbsp;</p><p>何も無い部屋は少し寂しそうに見えた。</p><p>すぐに、次の住人が見つかるといいな、なんてことを考えた。</p><p>&nbsp;</p><p>どこまでも優しいのが自分の欠点かもしれないな。</p><p>でも人間急には変われない。</p><p>こんな自分を受け入れて生きていくしか無いんだ。</p><p>&nbsp;</p><p>玄関の扉を閉める。「ギイ」と音がした。</p><p>あ、油差そうと思ってたんだ。でももういいや。</p><p>&nbsp;</p><p>外は晴れていた。</p><p>まるで門出をお祝いしてくれているみたいだな、なんて都合の良いことを考えた。</p><p>&nbsp;</p><p>最後にあそこのパン屋に寄って行こう。</p><p>何度となく一緒に食べた、あの「塩パン」を記憶に焼き付けておこう。</p><p>&nbsp;</p><p>最後くらい泣いたっていいよな。</p><p>後悔がないように、生きるだけ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12678147094.html</link>
<pubDate>Wed, 02 Jun 2021 10:00:32 +0900</pubDate>
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<title>ちょっとどうして</title>
<description>
<![CDATA[ <p>毎朝、７時にめざましをセットしている。でも大事なプレゼンが控えている日の朝に限って、目覚ましが鳴らない。ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>でも頑張って起きるしかない。急いで顔を洗ってテーブルへ。</p><p>朝ごはんに食べようと思っていたパンの袋が空いていた。</p><p>パン、干からびてんじゃんよ。ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>お湯を沸かしてインスタントのコーンスープを作る。そこにパンを無理やり浸してみる。</p><p>「あっつ！！」</p><p>火傷したかと思った。いやしたわ。ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>着替える。最後にピアスをつける。でも片方ない。なんで？</p><p>アクセサリーの入ったアンティークの皿をかき回す。やっぱない。昨日も付けていたのに。ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>適当にピアスを付けて家を出る。</p><p>今日は夜に雨が降るらしい。折り畳みの傘を鞄に忍ばせてきたけど、満員電車の中で、隣のサラリーマンの持っている傘が私の爪先に突き刺さった。何してくれんのよ。キッと睨みを効かすのだけど、思ったよりサラリーマンの背が高くて、思いっきりサラリーマンの肩をミランダ、あ、睨んだだけになってしまった。一人で恥ずかしい。ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>頑張ったプレゼン。なんとか通ってくれ。</p><p>そう思いながら同僚と近所の喫茶店に。でも私の頼んだセットにだけ、付け合わせのマカロニサラダが無いの、なんで？</p><p>気を利かした後輩が「マカロニサラダ付いてないんです」とお店の人に言ってくれたけど、私がものすごいマカロニサラダ好きな人みたいに思われてんだろうなぁ、と思ってなんだか気まずかった。ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>仕事終わり。天気予報は当たっていた。折り畳み傘を持って来てよかった。</p><p>さて、明日は休みだし、途中のコンビニでお酒でも買って帰ろうかしら。そんなことを考えていたら、折り畳み傘を開いた瞬間、風が吹いて、そのままひっくり返りそうになった。傘を見るときれいに逆さになっていた。なかなか戻らない。人通りの多い中、必死に傘をいじる光景は、ちょっとどうして。</p><p>&nbsp;</p><p>途中でどっか寄って帰ろうと思ってたんだよな、なんて脳の片隅にあったけど、帰って来てしまった。でも思い出せないから、そんな大事な用事でもなかったんだろうと思うことにした。</p><p>&nbsp;</p><p>しかし今日はいろんなことがある日だった。</p><p>でもプレゼンはなんとかなったし、帰りのコンビニで新作のビールがちょうど補充されているところだったし、レジに行ったら店員さんが「今日はチキンが３割引です」と案内してたし、お会計のときはお財布の小銭をちょうど使い切った。</p><p>&nbsp;</p><p>ちょっとどうして、が多い１日だったけど、悪い日でもなかったな。</p><p>まずは風呂に入ろう。駆けつけ一杯やりたい気持ちを押さえ込んで、冷蔵庫に買って来たお酒を入れる。</p><p>そのまま服を脱ぎながら風呂場へ向かう。こんな光景、誰にも見せられないななんて思いながら、シャワーを出す。</p><p>お湯が出始めたところで、頭からシャワーの下に。最高だ。１日の疲れを全部洗い流す気分だ。</p><p>シャンプーボトルに手を伸ばす。そしてノズルを押した瞬間だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「ズコッズコッ」</p><p>&nbsp;</p><p>ドラッグストアに寄りたかったことを思い出した。</p><p>今、ここでアマゾンに発注したら５分くらいで届けてくれないかしら、なんてことを瞬間的に思った。うん、無理だって分かってる。</p><p>&nbsp;</p><p>頭からシャワーを浴びながら壁に手をつく。思わずあの言葉が出てくる。</p><p>&nbsp;</p><p>「ちょっとどうして！」</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12675225609.html</link>
<pubDate>Tue, 18 May 2021 12:51:00 +0900</pubDate>
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<title>私がそこにいたら</title>
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<![CDATA[ <p>あの人が新しく車を買ったんだって。</p><p>嬉しそうに新車の横で笑っている写真が送られて来た。</p><p>&nbsp;</p><p>でもその場に私はいない。きっとこの車の助手席に最初に乗るのは私ではない。それは分かっている。でもこのモヤモヤした気持ちをどうすればいいんだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>私は適当に「おめでとう、よかったね」とだけ返して布団に潜り込んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>彼とこんな関係になって２年になる。</p><p>奥さんと娘さんがいるのは知っている。でもさぁ、区切り、つけられんのよ。</p><p>最初はうまいこといったなぁって思ってた。初恋が実ったみたいな感じで、毎日が楽しかった。でも娘さんの運動会とか、奥さんの誕生日とか、あなたの誕生日とか、私の誕生日とか。</p><p>&nbsp;</p><p>私の誕生日にあなたは横にいなかったし、あなたの誕生日にも私は横にいれなかった。でも２年経った。</p><p>&nbsp;</p><p>きっとその笑顔の横にある車の助手席には、この写真を撮っているんだろう奥さんが乗るんだろうな。そんなことを延々と考えてしまう。</p><p>&nbsp;</p><p>考えないようにしても、考えてしまう。そんな割り切れない自分のことを本当にクズだなと思ったりもする。だけどこれが人間だ。私という人間なのだ。</p><p>&nbsp;</p><p>淡白な返事を返して布団に潜り込んだが数分としないうちに返事が来た。さっさと寝とけよ、と思いながら画面を見てしまう。</p><p>&nbsp;</p><p>「ドライブいこうよ」</p><p>&nbsp;</p><p>うわー、行きたい。遠くに行きたい。連れてってくれるならどこでもいいわ、なんてことを考えてしまう。そんなこと、起こるわけないのに。どうせ行かないし、めっちゃ遠くを指定してやろ。</p><p>&nbsp;</p><p>「名古屋とか行きたい」</p><p>&nbsp;</p><p>これなら「それは遠い」とか送ってくるだろうな。</p><p>しかし返って来たメールには「いいね！」と表示されている。</p><p>ん？なぜだ？なぜ？</p><p>そんな遠くに行ける時間もお金もあんたには無いだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>「天むすとか食べたい」</p><p>続けて通知が表示される。なぜ、そんなこちらをワクワクさせるようなことを言ってくるのか。そんな遠くに行けるはずないって思ってるはずなのに、なぜそんなに軽い感じで私を弄ぶのか。</p><p>&nbsp;</p><p>返事をするのも面倒くさくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>もし私が一緒に納車に行ってたら「このままドライブに行こうよ」とか言ってただろうなと思った。</p><p>一緒に写真をたくさん撮って、すぐに待ち受けとかにしちゃうんだろうな、って。いやいや、３０歳近い女がなに考えてんだ。自分でも呆れるわ。</p><p>&nbsp;</p><p>今日、彼が車の納車で連絡してくるだろうなということは、なんとなく分かっていた。納車の話もされていたし「仕事終わりに行ってくる」ということも知っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>めんどくさくなり、私はスマホを手の届かないソファの方へ投げた。</p><p>ブン、と画面が光ってる。きっと彼だろう。でももういいや。最初に助手席に乗るのが私じゃないなら意味はないの。</p><p>&nbsp;</p><p>興味のないニュースと一緒。右から左に通り過ぎていくだけ。</p><p>&nbsp;</p><p>どんな内容のメールが来ているかな、と少し想像した。</p><p>「もう寝ちゃった？」とか来てるんだろうな。まぁいいや。</p><p>&nbsp;</p><p>こんな気持ち、あと何回繰り返すんだろう。</p><p>こうやって自分の人生をすり減らしていくだけなの？</p><p>&nbsp;</p><p>自分が悪いのは分かっている。</p><p>でもこれも自分、これが自分。</p><p>&nbsp;</p><p>とりあえず事故れ。</p><p>そう願って私は眠りについた。</p><p>&nbsp;</p><p>きっと良い人生は送れないな、私。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12673750449.html</link>
<pubDate>Mon, 10 May 2021 22:33:36 +0900</pubDate>
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<title>公園のボート</title>
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<![CDATA[ <p>私の名前は猿島公平。あれはもう４０年ほど前のことだろうか。</p><p>高校を卒業して社会人になり、成人式を迎えてすぐくらいだった。</p><p>&nbsp;</p><p>会社の先輩から食事会があるから行かないか、と誘われた。</p><p>他の同期も何人か誘われているらしい。赤い箱のマルボロをくゆらせながら</p><p>「公平、お前もメンバーに入れてあるから」と隣の席の角田先輩は言った。</p><p>&nbsp;</p><p>２０歳になって、お酒とタバコを覚えた。まだ今のように、お酒やタバコが悪だった時代ではない。むしろ、タバコとお酒を嗜んでいることがかっこいいと言われるような時代だった。</p><p>&nbsp;</p><p>本当は社会人になってすぐにお酒とタバコは覚えてしまったが、それはもう時効だろう。あの当時はそれが普通だった。</p><p>&nbsp;</p><p>昔は会社で、今でいう合コンをセッテイングしてくれることが多かった。そこで恋人を見つけて結婚していく同僚も多かった。自分は仕事も面白かったし、まだ自分のために稼いだお金も使いたかった。なので、恋人はいらないと思っていたが、先輩の顔に泥を塗るわけにもいかないし、なにより土曜の夜なんて、会社の寮で、同僚と酒を飲んで終わりだ。そんな生活よりはいいだろうと思っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>迎えた土曜の夕方５時。同僚と一緒に電車で５駅先の飲食店へ向かった。今日は信用金庫の女性社員との食事会らしい。</p><p>&nbsp;</p><p>すでに何人かの参加者とみられる女性が入り口付近のところで立っていた。</p><p>「あ、今日の食事会の方ですか？」</p><p>当時、狙った女性は必ず自分のものにしていた、モテ男と呼ばれていた隆が声をかけた。</p><p>「はい、常磐商事の方と」</p><p>「あ、俺たちその常磐商事です。宜しくお願いします」</p><p>「さ、もっと中に入りましょうよ、たぶん先輩が中にいるはずなんで」</p><p>「あ、でもまだ来てない子がいるので、私はここでもう少し待ちます…」</p><p>そう言ったのが、後に私の妻となる結城朱美だった。</p><p>&nbsp;</p><p>第一印象はなんとなく大人しそうだな、というくらいで、特に気にも止めていなかった。ただ、どこか気の強さも持ち合わせたたたずまいで、きっと彼女たちのリーダー格なんだろうなと思った。</p><p>&nbsp;</p><p>店内に入ると、角田先輩が、女性側の幹事と談笑していた。</p><p>「おお、来たか、こっちこっち」</p><p>「どうもこんばんは」</p><p>綺麗な女性だな、と思ってあいさつをすると「俺の彼女」と角田先輩は言った。</p><p>「え？」</p><p>「驚いたか？俺も去年の食事会で出会ったんだ。その前は進藤さんだよね？」</p><p>そう角田先輩が女性に聞くと小さく「そうね」と女性は頷いた。</p><p>まぁ、この後、角田先輩は浮気がバレてフラれてしまうのだけど、それはいいか。</p><p>&nbsp;</p><p>「女性たちは？まだ来てないか」</p><p>「あ、後から来る人をもう少し待つそうです」</p><p>「なんだよ、一緒に待ってやれよ。こっちは揃ったらいつでも始められるからさ」</p><p>「はぁ」</p><p>「なんだお前、食事会初めてだったっけ」</p><p>「いや、そんなことないすけど」</p><p>&nbsp;</p><p>入り口に戻ると、隆が早速狙った女性に話しかけていた。相変わらずすげえなと思う。さっきの朱美がいなかったので、外だろうと思い、ドアを開ける。</p><p>「きゃ！」</p><p>「あ、ごめん」</p><p>同僚と合流したのか、朱美とドアを開けるタイミングが被ってしまった。一瞬だったが、朱美からは良い匂いがした。</p><p>そのまま立ち尽くしていると朱美が「外、出られます？」と聞いてきた。</p><p>「あ、いや、同僚の子、来たかなと思って確認に」</p><p>「はい、揃いました」</p><p>そこには、走ってきたのだろうと思われる、頬を赤くしたかわいらしい女の子が立っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>「さぁ！始めましょう！」</p><p>すでに飲んでたのでは？と思われる、角田先輩の音頭で始まった食事会は、自己紹介を挟んで、滞りなく進んだ。でも明日は何をしようかなと考えていた自分は、ひたすらビールを口に運び、タバコを吸っていた。</p><p>「なんだ公平、楽しくねえのか。カッコつけてないでもっと声かけろ」</p><p>角田先輩が後ろから肩をつかみ、話しかけてきた。たばこくせえ。自分もこんなに臭いのか？と思ったが考えないことにした。</p><p>「いや、そんなことないっすよ」</p><p>出来る限りの作り笑いをして、目の前に座っている女性たちの方を向いた。</p><p>そこでふと、朱美と目があった。あれ？さっきまでは端の席にいたような？</p><p>&nbsp;</p><p>あわててタバコを消してビールを飲む。何か話したほうがいいのか。でも急に何を話そうか。まともに女性経験のない自分に、そんな上手いことができるわけがないのだけどな。そう困っていると、</p><p>「お酒、好きなんですか？」と朱美が聞いてきた。</p><p>「あ、そうですね。よく飲みます。もっぱらビール」</p><p>「私もお酒好きなんです」</p><p>よくいるよね、お酒飲むと性格変わる子ってさ、と、やけに冷静に考えた。</p><p>&nbsp;</p><p>朱美の隣にいる子が、すでにベロベロに酔っ払って、朱美に絡んでいる。朱美は「ちょっと！」と小さく制しながらもうなだれかかってくる子を何度も椅子に押し戻していた。</p><p>「すみません、この子お酒飲むとこんな感じに」</p><p>隣だったか、豹変しちゃう子は。</p><p>&nbsp;</p><p>自分はタバコに火をつけると「出身はどこなんですか？」と聞いた。</p><p>「山梨です」</p><p>「え？」</p><p>「え？あ、山梨です」</p><p>「俺も山梨です！」</p><p>&nbsp;</p><p>当時は、就職で首都圏に上京してくる人が多かった。自分も朱美もそんな上京組の一人だったようだ。しかも同じ歳、同じ出身地だなんて。急に親近感が湧いてしまった。</p><p>市町村までは同じではなかったが（朱美のほうが都会だった）いつの間にか、次の週末に遊ぶ約束をしている自分がいた。</p><p>&nbsp;</p><p>あれ？これってデートだよな？</p><p>そう気づいたのは、次の日の朝、目を覚ましてからだった。</p><p>&nbsp;</p><p>どうしよう。どこに行こう。集合場所と時間はなんとなく覚えている。服を着たまま寝てしまったのだろう、ズボンのポケットに手を入れると、電話番号と集合場所の書かれたメモ紙が出てきた。</p><p>&nbsp;</p><p>「結城朱美」</p><p>やばい。確実にデートだ。</p><p>そういえば、朱美は行ってみたい場所があると言っていた。それは日本に上陸したばかりのフライドチキンのお店だ。連日、行列になっているとニュースでやっていた。お昼はそこで食べよう。あとはまぁ、なんとかなるか…</p><p>&nbsp;</p><p>でも心配だったので、角田先輩に聞いた。</p><p>「デートってみんなどこにいくんすかね」</p><p>「なんだ、朱美ちゃんとデートすんのか」</p><p>「え？なんで？」</p><p>「なんでって、俺の彼女から聞いた。朱美ちゃんが、公平とデートの約束したって言ってたらしい」</p><p>「はぁ」</p><p>「お前、これからリサーチすんのかよ」</p><p>「いいじゃないっすか別に」</p><p>「いいか、最新スポットだけは押さえておけよ。あとは流れだ。雰囲気というやつだ。男を見せろ」</p><p>「男を？」</p><p>「言ってる意味はわかるな。あとはうまくやれ」</p><p>くわえていたマルボロを灰皿にねじ込むと、角田先輩は会議室へ消えていった。</p><p>&nbsp;</p><p>一人残されたオフィスで天井に向かってタバコの煙を吐き出す。そういえば、あの子どんな顔してたっけか。可愛かったような、そうでもなかったような。いや、失礼か。そうやって考えているうちに、あっという間に週末になった。</p><p>&nbsp;</p><p>「こんにちは」</p><p>ああ、そうだ、こういう顔だった。</p><p>再会した朱美の顔を見て、公平は思った。</p><p>「どこ行きましょうか？」</p><p>朱美はワクワクした目でこちらを見ている。</p><p>「フライドチキンのお店なんてどうですか？」</p><p>恐る恐る聞いてみると「行ってみたかった！」と朱美は笑った。</p><p>&nbsp;</p><p>チキンはとてもおいしかった。こういう味なんだと、やけに感心して食べてしまったが、目の前で「どうやって食べるんですかね」と笑っている朱美の顔は、とても可愛かった。</p><p>&nbsp;</p><p>食べ終わると「美味しかったですね。なんか実家の親にも食べさせてあげたいなぁ」としみじみ言っていたのが印象的だった。</p><p>&nbsp;</p><p>なんとなく流れで映画を観て別れた。映画の最中って、会話をしなくていいから何を話そうか、話題を捻り出さなくて済むな、なんてことを思っていた。でも映画は思ったより面白かった。</p><p>&nbsp;</p><p>次のデートの約束はしなかった。</p><p>どうやって次のデートに誘えばいいかわからなかった。そもそも相手がそれを望んでいるのか分からなかった。ん？ということはどうしようもなくないか。</p><p>&nbsp;</p><p>それを確認するためには…</p><p>&nbsp;</p><p>「なんだ公平。デート失敗したのか」</p><p>話があると角田先輩を呼び止めると、開口一番言われた。</p><p>&nbsp;</p><p>やっぱり、楽しくなかったんだ</p><p>そう考えると、胸が締め付けられた。あれ、なんでだ？なんでこんな気持ちに？</p><p>&nbsp;</p><p>心の中を察したのか、角田先輩が苦笑いしながら言った。</p><p>「朱美ちゃん、デート楽しかったみたいだぞ。でも次の約束してないだろ。楽しくなかったのかなって心配してるようだぞ。言ったろ、男をみせろって」</p><p>「いや、そうなんすけど…」</p><p>「なあにが、そうなんすけどだよ。しのごの言わないで電話しとけ」</p><p>「はぁ」</p><p>&nbsp;</p><p>電話をして相手の寮の管理人さんに断られないでよかった、と思った。電話先の声はこの前会ったときよりも、少し不安そうだった。</p><p>「あ、あの結城さん、次の週末なんですけど、ご予定ってありますか？」</p><p>少しの間があって、朱美は言った。</p><p>「ごめんなさい、親の体調が悪くって、週末は帰省することになりそうなんです」</p><p>「あ、そうなんだ。それは大変だ。うん、気をつけてね。はい」</p><p>それだけ言うのが精一杯だった。</p><p>&nbsp;</p><p>しかし５分後、すぐにこちらの寮に電話がかかってきた。</p><p>「ど、どうしました？」</p><p>慌てた感じで出ると、朱美は早口で</p><p>「来週は大丈夫です。予定はありませんよ。なんで今週がダメだって聞いて電話切っちゃうのかって思っていました。でも少し考えて、このままだと猿島さんは電話して来ないだろうなって思ったので。それは嫌だなって」</p><p>&nbsp;</p><p>図星だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「あ、ごめんなさい。なんか。じゃあまた電話します」</p><p>「はい、お願いしますね」</p><p>受話器を置いて指の先を追うと、吸いかけのタバコの灰が床に丸ごと落ちていた。</p><p>「ちゃんと掃除しといてね」</p><p>通りかかった管理人のおばちゃんにボソッと言われて、小さく「はい」としか言えなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>２週間後、朱美の顔を見ると、なぜかほっとした自分がいた。なんだろうこの感覚はと思ったが、その理由はよく分からなかった。今思えばつくづく鈍感な人間だなと思う。</p><p>&nbsp;</p><p>「親御さんの調子は？」</p><p>「あーなんかちょっと風邪をこじらせてしまったみたいで。元々体が弱いんです。それで就職のとき、地元に残ることも考えたんですけど、自分のやりたいことをやれ、って都会に送り出してくれたんです。感謝しかありません、だからいつかは、私が面倒を見るつもりです」</p><p>しっかりした子なんだな。どんどんと自分の中で朱美に対する気持ちが高まっていくのを感じていた。</p><p>その日のデートの最後は次の約束をした。朱美は「じゃあまた来週」と言って、電車に乗り込んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>１週間この気持ちを考えた。これはなんだろう。ずっとモヤモヤしている。朱美のことが好きだと気づいたのは、デートの朝のことだった。角田先輩には頼らない。自分で答えを出す必要があった。</p><p>&nbsp;</p><p>その日は公園でボートに乗った。</p><p>「気持ちいいですね」</p><p>そう言って、朱美が髪をかきあげる。遠くを見つめるその横顔を見て、覚悟を決めた。</p><p>「結城さん」</p><p>「え？」</p><p>なにごと？と言う感じでこちらを見ている。</p><p>「お話があります」</p><p>ボートの上で正座をしようとするが、ボートが揺れてうまくいかない。すぐにやめた。</p><p>「いきなりどうしたんですか」</p><p>ボートのへりを掴んだ状態で朱美は大きく目を見開いている。</p><p>「いやあの、結城さん。あの、正直に言います。今、お付き合いしている男性はいますか？」</p><p>朱美は答えない。</p><p>「あ、そうですよね」</p><p>「いや何がそうなんですか」</p><p>「え？」</p><p>朱美は怒ったようにこちらを見ている。</p><p>「お付き合いしている人がいるのに、こんな風にボート乗ってるって、そんなことしてたら私、とんでもない女じゃないですか」</p><p>「あ、ええ…」</p><p>「お付き合いしている人はいません」</p><p>「あ、そうなんですね」</p><p>「猿島さんはいるんですか？」</p><p>「いえ、いません」</p><p>「だと思いました」</p><p>「ええ…？」</p><p>「…私たち、そこそこ良いカップルになれると思いません？」</p><p>ボートのへりを掴んだまま朱美は言った。でもその顔は笑っている。</p><p>「そうですね」</p><p>「んふふ」</p><p>「結城さん」</p><p>「はい？」</p><p>「僕とお付き合いしてもらえませんか？」</p><p>「はい、喜んで」</p><p>とびきりの笑顔でうなずいてくれた朱美は、そのままこちらへ身を寄せた。</p><p>「え！？」</p><p>ボートのバランスが崩れる。必死に転覆しないように支える。しかし時すでに遅し。そのままボートは綺麗にひっくり返った。</p><p>&nbsp;</p><p>結婚式のスピーチで角田先輩がこの「ボート事件」を語ったときは、会場が爆笑に包まれた。隣で顔を真っ赤にしている朱美の顔を、一生忘れることはないだろうなと思った。そして角田先輩にはボートの話はしないほうがよかったな、と少し後悔した。</p><p>&nbsp;</p><p>あれから月日は流れた。子供も２人生まれた。40歳の年に郊外に庭付き一軒家を買った。自分はずっと朱美の尻に敷かれたままだ。でも幸せだ。</p><p>&nbsp;</p><p>そして今でも自分は朱美の声で目覚める。毎日毎日、同じ声で。</p><p>「朝だよー、起きてー。寝坊しちゃダメー」</p><p>繰り返し流れる声の先にはスマートフォンがある。画面をタップして声を止める。</p><p>&nbsp;</p><p>朱美は２年間の闘病の末、がんで半年前に亡くなった。</p><p>スマートフォンから流れる音声は、生前録音したものだ。</p><p>「私が起こさなくなっても、あなたが寝坊しないようにね」</p><p>そう言って「一晩スマホを預かる」と、病室にスマホを置いて帰った。</p><p>そして次の日「もし私がこの世からいなくなったら聞いていい」と言われ、どうしようかと思ったが、我慢できずに、録音されたファイルをタップしてしまった。</p><p>そこには時折、声をつまらせながら２時間に渡って録音された朱美の声があった。</p><p>&nbsp;</p><p>出会ったときのこと。これまでの人生のこと。子供のこと、孫のこと。</p><p>&nbsp;</p><p>涙が止まらなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>そして別のファイルには「おはよう」というものや「おやすみ」といったものまで、数多くの言葉が詰め込まれていた。そして最後のファイルをタップすると</p><p>「公平さん、愛してるよ」</p><p>という優しい朱美の声が流れた。</p><p>&nbsp;</p><p>午後、朱美のお見舞いに行くと、目が腫れているのを見破られたのか「聞いたでしょ」と言われた。「聞くと思って吹き込んだだろ」とこちらも笑って反論した。すると朱美は「その通り」と言った。</p><p>&nbsp;</p><p>自分たち以外には誰もいない、緩和ケア病棟の個室。</p><p>ベットの端に腰かけると「ん」と朱美に向かって両手を広げた。</p><p>「え、なによ」</p><p>朱美は困った顔をしている。</p><p>「いいから、ほら」</p><p>「えーーやだよ」</p><p>「なんでやなの」</p><p>そのまま朱美を抱きしめる。出会ったときのいい匂いを思い出した。</p><p>「朱美、愛してる」</p><p>「…うん。私も」</p><p>&nbsp;</p><p>コンコンとドアを叩く音がする。慌てて離れ、服を直すと朱美は「どうぞ」と言った。</p><p>そのいたずらっぽい笑顔は、あのときひっくり返ったボートにしがみついて、思わず大笑いしたときと全く変わっていなかった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12670894710.html</link>
<pubDate>Mon, 26 Apr 2021 19:55:35 +0900</pubDate>
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<title>わたしは猫である</title>
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<![CDATA[ <p>私の名前は「むぎ」というんだそうだ。</p><p>でも本当の名前はわからない。</p><p>それは今の飼い主の人が決めた名前だから。</p><p>&nbsp;</p><p>一番古い記憶は兄弟と一緒に、大きな車に乗って移動しているときかな。</p><p>そのあとすぐに、私たちは離れ離れになってしまった。</p><p>本当のお母さんの顔もお父さんの顔も知らない。それが私の人生です。</p><p>&nbsp;</p><p>私は透明なアクリル版の内側から、人間の人を眺める生活が始まりました。</p><p>話し相手がいない自分にとって、いろんな人が私のことを見て手を振っていく光景が面白かった。</p><p>そんなに手を振ってくれるなら遊ぼうよ、と思ったけど、それを人間に伝える術を私は持っていなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>そんなある日、1組の夫婦が買い物袋をぶらさげながら、私のことを覗き込んできました。ずいぶんと長いこと、私をみてきます。口の周り、何かついてるかな。</p><p>&nbsp;</p><p>何か話しているけど、私には聞こえない。「なに？」と伝えたけど、きっと伝わってないだろうなと思った。</p><p>&nbsp;</p><p>しかし夫婦が消えたかと思ったら、すぐにペットショップの人が私に近づいてきた。その後ろにはさっきの夫婦がいた。ちょっと怖い。</p><p>&nbsp;</p><p>だいたいこういうときは抱っこされるんだ。私は抱っこされるのが嫌いだ。だから、いつまで経っても、ここにいるのかな、なんてことも思った。</p><p>&nbsp;</p><p>でも奥さんの手に抱かれた瞬間「あ、私はこの人と家族になるな」と思った。直感だけはいいのよ、私。でも夫婦は帰って行ってしまった。なんだ、違ったか。私はふて寝をすることにした。</p><p>&nbsp;</p><p>その日から、私のアクリル板の前には変な貼り紙がつくようになった。すっごい邪魔。外見えないじゃん。なにしてくれてんのよ、くらいのことを思った。でも私はそれを伝える術を持っていない。</p><p>&nbsp;</p><p>数日後、またあの夫婦がやってきた。今日は買い物袋はぶら下げていないようだ。何しに来たんだ、冷やかしか、くらいのことを思っていたけど、ペットショップのお姉さんに抱っこされて「お？」と思っていたら、着地したのはあの奥さんの手の中だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「あれ？こんにちは」私はそう伝えるために鳴いた。うわ、何の匂いだろう。後から知ったのは旦那さんがつけている香水だった。それやめてーって今でも思う。</p><p>&nbsp;</p><p>その匂い、嫌い。</p><p>&nbsp;</p><p>とは言いつつも、あっさり私はこの夫婦の家族になった。「サメジマ」という言葉を最初たくさん聞いたから、この人たちはサメジマさんなんだろうなと思った。</p><p>&nbsp;</p><p>でも家族になってしばらくすると、全然違う名前を聞くことが多くなった。これも後から知ったのだけど、サメジマさんは私が生まれた家の名前だったらしい。ということは本当のお父さんもお母さんもサメジマという名前だったのか？</p><p>&nbsp;</p><p>私には「むぎ」という名前がつけられた。私の方を向いて「むぎー」と言うのできっと私の名前は「むぎ」なんだろうなと認識して覚えていった。</p><p>新しい家の元には、いろんな人が来る。それがこの家のお兄さんやお姉さんなんだと分かるのに時間はかからなかった。だって匂いが同じだもん。</p><p>&nbsp;</p><p>でもお姉さんが連れてくる、小さな子供はあまり好きじゃない。すぐに抱っこするんだもん。言ってるでしょ。私は抱っこされるのが嫌いなの。</p><p>&nbsp;</p><p>私はこの家の暮らしにだいたい満足している。新しいお父さんとお母さんは優しいし、どこで爪とぎをしても叩かれることもない（たまにマジギレされるけど、それは私が悪いので、反省してるフリをする）</p><p>&nbsp;</p><p>ただ、ご飯が少ない！私はまだ育ち盛りだ！もっと大盛りでご飯を食べたい！</p><p>獣医さんに何を言われたか知らないが、私の不満はお腹いっぱいごはんを食べられないことだ。これは永遠に抗議し続けます。</p><p>&nbsp;</p><p>ただ私は働いていない。労働という対価でお金やごはんを食べる人間とは違う。</p><p>私はお父さんやお母さんからご飯をもらわないと生きていけないし、家の外に出たこともないから、一人で生きていく方法も知らない。</p><p>&nbsp;</p><p>眠くなったら寝て、食べたくなったら、さっき少しだけ残しておいたごはんを口に入れる。うま。</p><p>&nbsp;</p><p>新しいお布団やクッションを買ってくれたけど、私はあまり好きじゃない。</p><p>お父さんとお母さんがいつも座っているソファの一番いい席で横になるのが、心地よい。昼間は日も当たって、最高の場所だ。</p><p>&nbsp;</p><p>外を眺めるのも好き。蝶々や鳥を眺めては「おいしいのかな。欲しい」と思う。最近、私が野生児だったら、どう生きていたんだろうと考える。</p><p>&nbsp;</p><p>何を食べて、どこで寝るんだろう。世界はもっと広いのかな。いや、そんな勇気もないな。私はこのソファで今日も横になる。</p><p>&nbsp;</p><p>最近、ネコとしての危機感は全く無くなった。自分でも思う。だって仰向けで寝ることが多くなった。お父さんは言う</p><p>「緊張感のない寝方だ。本当に猫なのかな」</p><p>&nbsp;</p><p>お父さんよ、はっきり言っておく。</p><p>&nbsp;</p><p>わたしは、猫である。</p><p>&nbsp;</p><p>こんな寝相をさらしていても、私は猫だ。</p><p>私は猫に生まれたことを誇りに思っている。いや、本当は誇りになんか思ったことはない。毎日、ご飯を食べて寝る場所があって、たまにねこじゃらしで遊んでもらって運動する。そんな日々の生活に満足しているから、考える必要もない。</p><p>&nbsp;</p><p>私はこの家が好き。お父さんとお母さんが好き。</p><p>誰にも愛されないと嘆いている人間諸君にお伝えしておこう。</p><p>&nbsp;</p><p>そんなときは、飼い猫に生まれ変わったら良い。どんな生活が待っているかは微妙なところだが、だいたいは私のように寝て過ごすだけでも、ご飯は自動的に食べられることが多いだろう。</p><p>&nbsp;</p><p>人間がうらやむ、働かずに食べる人生だ。</p><p>たまの愛想笑いとスキンシップは忘れるな。</p><p>追いかけさせて「なんだよ」となったところで、甘えればこっちのもんさ。</p><p>&nbsp;</p><p>わたしは、猫である。</p><p>さて、寝る。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12670796040.html</link>
<pubDate>Mon, 26 Apr 2021 10:05:02 +0900</pubDate>
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<title>人生の役割③</title>
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<![CDATA[ <p>宮森さんと男女の関係になるのに、そこから時間はかからなかった。</p><p>仕事帰りにいつでもアパートに寄れるし。でもいつも一緒というわけにはいかない。</p><p>私は今「３股」をしている。なぜ？自分でも怖い。なぜこんなことに？</p><p>&nbsp;</p><p>そして恐れていたことが起きる。</p><p>「君と一緒になりたい」と宮森さんから言われた。</p><p>私は困った。「はい」とも言えない。でも「いいえ」とも言えない。</p><p>答えが出せないのだ。まだ、私は彼のことが好きだ一緒になりたいのは、どちらかというとそっちだ。でも旦那とも別れるという現実味がない。どうやったら別れることができる？と思っているくらいなのだから。</p><p>頭の中ではわかっている。慰謝料も養育費もいらないから別れてくれ、と言えばいいだけの話なのかもしれない。でも怖い。できない。でも彼と一緒になりたい。そして宮森さんからは一緒になろうと言われた。どうしたらいい？</p><p>&nbsp;</p><p>私は吐きそうになりながらも、解決策を探すことにした。</p><p>しかし日々の生活でいっぱいいっぱいで、なかなか思考がまとまらない。</p><p>あせって彼に「どう考えてるの？」と聞いたら、何も返事はなかった。もうダメだろうか。宮森さんは粘り強く、私に想いを伝えてくれる。息子のことも面倒を見ると言ってくれた。これは嬉しい。だけど、どうやったら旦那と別れることができる？</p><p>いやそれより、旦那と別れることが本当に正しいのか？そこまで考えたらどうにもならない。</p><p>&nbsp;</p><p>考えあぐねているうちに、一年が経った。彼とも宮森さんとも関係を続けたままだ。私なりによく頑張っていると思う。でも疲れてきたな、というのもある。</p><p>最近、宮森さんからはあたりが強いメールばかりがくる。その気持ちもわかる。だって、私が答えを知りたい相手に、私は同じことをしているから。</p><p>&nbsp;</p><p>もうダメかな。そう思っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>天罰が下った。</p><p>宮森さんに話があると言われた。</p><p>「もうダメだ。自分と一緒になるか、旦那と別れるか決めてくれ」</p><p>やっぱりな。そうくると思っていた。</p><p>「もう少し時間が欲しいの。本当に考えているから」</p><p>「いや、もう無理だと思う。君は結局、何も決めることができないから」</p><p>「え？」</p><p>「今までの話を聞いてそう思っていた。進路の話も結婚の話も仕事のこともそうだ。君は何一つ、大事な決定をしてこないで、環境に頼ってきた。誰かの人生に寄生しているような感じだ」</p><p>「寄生…」</p><p>「そう。自分で考えることすら拒んで、何も決められない。考えたフリをしているだけだ」</p><p>ちょっと怒りそうになった。でもそのまま話を聞く。</p><p>「自分のことだってそうだし、旦那のこともそうだ。愚痴ばかりで、何も自分で解決しようとしない。結局何も変わっていない。何か変わるかも、と思っていたけど、思い違いだった」</p><p>「ちょっと待ってよ、ちゃんと考えてるから」</p><p>「じゃあ今聞かせてくれ。そして答えが出ないならここで、終わりにしよう」</p><p>「そんな…」</p><p>「あともう一つ。条件をつけたい」</p><p>「条件？」</p><p>「この関係に足を踏み入れた以上、もう泣くことも許されないよ。自分と一緒になるか、もう一人の関係を選ぶか、旦那との関係か、選んでくれ」</p><p>「ちょっと待って、もう一人って」</p><p>「俺が知らないとでも思っていたか？」</p><p>「あ、いや…」</p><p>「自分を選ばないんだったら、３日以内にもう一人か、旦那さんか、どちらかとは別れるんだ。別れたら連絡をくれ。これはけじめだ。もし連絡が来ない場合は、何日かしたら、二人に確認の連絡をする。口裏を合わせてもいいけど、自分とのこともその時点で全部バレるからね」</p><p>「なんで…」</p><p>涙が溢れてきた。どうして、何で今決めなきゃ行けないの</p><p>「時間をこれ以上かけても、もう５年も１０年も変わらないだろうと思った。これだけ話をしても無駄だったんだから。さぁ、この場で決めて」</p><p>私はその場で崩れ落ちた。大泣き。宮森さんはしばらく黙っていたが「泣くのは終わりだ」と私の腕を掴んで立ち上がらせた。</p><p>「二人のけじめ」</p><p>宮森さんも顔にも涙があった。ああ、私はこんなにこの人のことを傷つけていたんだ、と思った。</p><p>&nbsp;</p><p>本当は宮森さんと一緒になりたい、という気持ちが強かった。だけど、未練があるから。旦那とそうやって別れたらいいかわからないから。結局自分が全部悪いのだ。その結果が今日だ。</p><p>「もう1日だけ時間を欲しい」</p><p>そう言って、私はその場を後にした。</p><p>&nbsp;</p><p>2日後「遅れてごめん」と電話をした。メールだとよく分かんなくなるから。</p><p>私は旦那と彼と別れることを選んだ。この結果が間違っていたのか、正しいのかはよくわからない。でも一歩を踏み出すことにした。自分の気持ちに正直になって考えたら、自然と答えは出た。号泣しながら彼に別れ話をしたら、あっさりと受け入れられた。私は今までのことはなんだったんだろうと思った。</p><p>&nbsp;</p><p>旦那とはもめた。でも一緒になりたい人がいるというのは言わなかった。</p><p>もう一歩を踏み出したんだから。</p><p>宮森さんはその後、転職をした。そして私たちは一緒になった。息子も一緒だ。</p><p>旦那と別れたと伝えたその日、私は宮森さんのアパートに行った。宮森さんは私を強く求めた。</p><p>&nbsp;</p><p>もうすぐ私にとって二人目の子供が生まれる。これだから人生はわからない。</p><p>苗字も変わったが、私は元の苗字で働くことにした。元旦那の苗字だ。生活も変わった。でもまた産休をとることにした。</p><p>&nbsp;</p><p>自分で選んだ人生だから。そう言える決断を私はした。</p><p>人生の役割を思う。私はちょっと他の人より容姿が良い人生に生まれて、３股をする人生だった。そして違う男性との間に２人の子供を産んで育てる役割だ。クズだw</p><p>&nbsp;</p><p>相変わらず仕事はポンコツで、世の中の役には立っていないかもしれない。それでもやってくる毎日の中で、私はこの道を、役割を選んだ。</p><p>これからの人生を悲観も達観もしない形でなだらかに歩んでいきたい。</p><p>&nbsp;</p><p>２年がたった頃、元旦那が新しい奥さんと結婚したという話を聞いた。よかった、と思った。もっと早くでも、もっと遅くでもない、あのタイミングで決断をしたことが今の人生につながっている。だから、元旦那に感謝もしている。</p><p>&nbsp;</p><p>私は、この役割を全うしながら生きていく。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12667864577.html</link>
<pubDate>Sun, 11 Apr 2021 09:53:30 +0900</pubDate>
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<title>人生の役割②</title>
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<![CDATA[ <p>旦那には、もう何の感情もない。息子への愛はあるけれど、それも完全じゃない。彼とは一緒になれないかもしれない。このまま自分だけおばさんになっていくの？そんなのあんまりじゃないの。そんなことばかり考えていた。旦那は私たちが結婚したときに転勤をして別の支店で働いているが、彼とは嫌でも職場で顔を合わせなくてはならない。会いたいんだけど、やっぱり嫌だという、わけのわからない感情。</p><p>&nbsp;</p><p>そんなとき、他の支店から転勤者が来た。宮森さんというらしい。</p><p>30歳を超えて独身らしい。特に興味もないし、何よりタイプじゃないし。我ながらひどい人間だと思うが、私は今の彼と一緒になることで頭がいっぱいだった。</p><p>&nbsp;</p><p>でもあるとき、気になっていたミュージシャンの音楽が事務所に流れた。</p><p>「あ、すみません」</p><p>そう言うと、宮森さんはスマホを取り出して電話に出た。</p><p>「その着信音、好きなんですか？」</p><p>「え？」</p><p>「いや、その着信のミュージシャン」</p><p>「ああ、そうなんです。もうかれこれ５年くらい」</p><p>「私も気になってたんです！」</p><p>なんだ、いいやつじゃん。私って単純だな。て、つくづく思う。</p><p>&nbsp;</p><p>彼と一緒になれないかもしれないという気持ちを押し込めるかのように、私はそのミュージシャンにのめり込んだ。そして、ある日、ライブを行う、という情報をTwitterで発見した。</p><p>「今度ライブやるらしいです」</p><p>スマホの画面を見せながら、私は事務所で宮森さんに話しかけた。</p><p>「あ、本当だ、情報早いですねw」</p><p>「任せてください」</p><p>「僕、この人のライブ行ったことないんです。まぁいつか行けたらいいかなとは思ってるけど」</p><p>「じゃあ、一緒にいっちゃいます？」</p><p>言ってすぐに、いやいや何言ってんだと思ったが、時すでに遅し。</p><p>「お！いいですね！」</p><p>宮森さんは乗り気だった。</p><p>まぁ、別に宮森さんのことは好きじゃないし、一回くらいライブ楽しんだっていいだろう。彼のことも旦那のことも忘れてさ。</p><p>&nbsp;</p><p>ライブは楽しかった。息子が家を出る時にぐずって、遅刻しそうになるのだけが心配だった。義母に息子を預けて、車に乗り込む瞬間だけは心が痛んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>私は宮森さんに好意を抱きつつあった。旦那や今の彼に満たされない感情をぶつけるかのように宮森さんにのめり込んでいった。でももう同じようなことにはなりたくないので、私は完璧に精神上に線を引いて、そこから気持ちが出ないようにした。</p><p>&nbsp;</p><p>そうやって半年が経った時だった。</p><p>「繁忙期が終わったら食事にでも行きましょう！」</p><p>私は「みんなで」というのを言い忘れていた気もするが、よく覚えていない。</p><p>とにかく辛そうに働く宮森さんをなんとかしてあげたい。それだけ思っていた。</p><p>その間も彼との関係は続いた。たまに休みが合うとホテルで会った。彼に抱きしめられると、全てがどうでもよくなった。もうこの関係のままでもいいや。そう思うようにして。これ以上考えないようにした。でもやっぱり最後は泣いてしまう。一緒になりたい。そう思ってしまう。</p><p>&nbsp;</p><p>宮森さんに食事に誘われたのは繁忙期が過ぎてしばらく経ったときだった。</p><p>あれ？二人で？と思ったが、深く考えないことにした。好意は受けておこう。旦那に「会社の人と食事してくる」とだけ言って、私は朝、家を出た。嘘はついていない。</p><p>&nbsp;</p><p>宮森さんは近所のビストロみたいなところを予約してくれた。すごい。こんなところ来たことない。だって、旦那とのデートはショッピングモールだったし、彼とはそんなに人目のつくところには行けないし。私は初めて、大人のデートをしたような気分になった。話は盛り上がり、そのままスタバまで行った。</p><p>&nbsp;</p><p>こんな人がパートナーだったら、毎日楽しいだろうな。そう思った矢先だ。</p><p>「好きです」</p><p>そう言われたのは、私が「帰ります」と車の鍵を開けた瞬間だった。</p><p>&nbsp;</p><p>心の隙間、とでもいうのかもしれない。私は宮森さんの「好き」という言葉に反応してしまった。でも私には旦那が、いや、一緒になりたい人がいる。だからこれはダメだ。</p><p>「ありがとうございます。嬉しいです」とだけ言った。</p><p>次の瞬間、強引に引き寄せられ、キスをされた。</p><p>「！？」</p><p>わずか数秒のことだった。頭が真っ白になった。</p><p>「すみません」</p><p>彼はそう言ったが、私はなにも答えないまま車に乗り込んだ。</p><p>&nbsp;</p><p>次の日、何事もなかったかのように、仕事に行った。きっとこういうのは慌てふためいちゃダメだろうと思ったから。案の定、宮森さんも同じだった。</p><p>&nbsp;</p><p>もう食事に行くことはないな。そう思っていた。</p><p>しかし数日後、私は旦那と息子のことで大喧嘩した。イライラ。なんでこんにイライラすることばかりなのか。生理前なのもあったかもしれない。</p><p>私は彼にこんなことがあって、とメールした。しかし彼からはふわっとした短い返事しか返ってこなかった。</p><p>その日、宮森さんは休みだった。私は仕事終わりにこの鬱憤を晴らすためにドライブをしようと思っていた。仕事のことで連絡する用事があったので、なんとなく宮森さんに「どこ行こうかな」と送ると「飛行機でも見に行く？」と言う返事があった。</p><p>「僕はお酒飲んじゃったんで、もし連れてってくれるなら案内しますよ」</p><p>これはいいかもしれない。でもこの前のことがあったし、という思いもちらついた。</p><p>&nbsp;</p><p>でも行きたい、という気持ちが上回った。</p><p>宮森さんの住んでいるアパートまで迎えに行き、そこから２０分くらいのドライブ。そこは空港の夜景が綺麗に見える公園だった。あまり人もいない。バズーカみたいなカメラを持った人がちらほらいる程度だった。</p><p>「こんな場所があったんだ。綺麗ですね。初めて来ました」</p><p>「そうなんですか？僕は悩み事とかあるとよく来ます」</p><p>「宮森さんにも悩み事とかあるんですね」</p><p>「なんすか、バカにしてるんですか？」</p><p>「そんなことないですw」</p><p>そのまま１５分くらいだろうか。二人は何も話さずに飛行機を見つめた。</p><p>「最近、悩みとかあるんですか？」</p><p>宮森さんは、私の表情を察するように聞いてきた。</p><p>「んー、どうなんでしょうね。よくわかりません」</p><p>「そですか」</p><p>わかってないわけはないのだが、宮森さんに話すことでもないだろうと思った。</p><p>手すりに背を預け、宮森さんは遠くを見つめた。私はその姿を横目で見ていた。</p><p>&nbsp;</p><p>次第に、宮森さんが近づいてくるのがわかる。そしてほっぺたをつんつんしてきた。私はほっぺを風船のように膨らませた。指があたり、口から空気が抜ける。面白い。</p><p>「悩み事は話すに限ります。僕はため込むタイプなので、あまり話しませんが」</p><p>「私も同じです。だからぐるぐる悩んでる」</p><p>「やっぱ悩みあるんじゃないですか」</p><p>「いや、人間は誰しもあるでしょう」</p><p>また少し宮森さんの体が近くなった。お風呂に入ってきたのかな。いい匂いがする。そして宮森さんは私の脇腹をつんつんしてきた。</p><p>「僕で良ければ聞きますけど」</p><p>「いーえ、大丈夫です」</p><p>そう言って私は笑った。</p><p>「そうですか」</p><p>宮森さんも空を見つめ笑った。バズーカみたいなカメラを持ってた人は帰ったようだ。公園にはさっき来たカップルと私たちだけだ。あの人から見たら私たちはカップルに見えるんだろうなと思った。</p><p>宮森さんは私のお腹をポンポンと優しく叩くと、そのまま撫で始めた。なんだか心地よいな。そう思っていると、宮森さんは体を密着させ、胸を触ってきた。なんだろう、抵抗できない。でも抵抗しようとも思わない。</p><p>宮森さんはカップルから死角になるような形で、そのまま私の乳を揉んできた。</p><p>「一回５万円です」</p><p>私は悪戯っぽく、言った。</p><p>宮森さんはもう一方の乳にも手を伸ばした。</p><p>「じゃあこれで１０万だ」</p><p>そのまま私のアゴに手をやり、上に向ける。私は、ん？と気づいてないようなフリをして宮森さんを見つめる。そのままキス。そしてまた乳を触り出した。</p><p>&nbsp;</p><p>５分くらいそのままだったろうか。</p><p>「もう帰りましょう。寒くなってきた」</p><p>そう言ったのは宮森さんだ。</p><p>今のことは何もなかったかのように、宮森さんをアパートまで送り届けた。</p><p>「じゃあね」</p><p>帰り道、コンビニの駐車場に車を止めた私はハンドルに突っ伏していた。どうしよう。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12667858140.html</link>
<pubDate>Sun, 11 Apr 2021 09:15:53 +0900</pubDate>
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<title>人生の役割①</title>
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<![CDATA[ <p>私は誰かに寄生していないと生きられない人間だ。</p><p>それは私が、末っ子なのが影響しているのかもしれない。</p><p>それは私が小さい頃に親が離婚しているのが影響しているのかもしれない。</p><p>何が理由かはわからない。きっと甘えなんだろうなと思ってもいるけどさ。</p><p>&nbsp;</p><p>まだ私が小学校低学年くらいのときは、家族の仲も良かった気がする。</p><p>でもそのうち、父親と同居していた母方の祖母の折り合いが悪くなっていった。</p><p>後から聞いた話では、どうやらお金がらみのことだったらしいけど。</p><p>そしてある日、父親はみんなで住んでいる家からいなくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>父親がいなくなると、今度は祖母と母親の折り合いが悪くなっていった。</p><p>どうしてこういうことになるんだろう？と子供ながらに思っていた。でもよく考えたら、それは祖母の暴走だということがよくわかった。詳しいことはよくわからない。ただただ、毎日のように喧嘩をしていた。それだけ。</p><p>&nbsp;</p><p>母親が病んでしまい、逃げるように親戚を頼って、今の場所に母、姉、兄、私で引っ越してきたのは私が中学生のときだ。そのとき、もう姉も兄も高校生で、自分でアルバイトをしてお小遣いを稼いでいた。私は転校する前に「あっちでも続けるね！」と勢いで言ってしまったバスケット部の入部届けを書いて、しぶしぶバスケットをやっていた。環境が変わることに抵抗はあったけど、母が幸せなら、それでよかった。ずっと家族で暮らしていけるのなら。</p><p>&nbsp;</p><p>私は高校を卒業すると、特にやりたいこともないので就職の道を選んだ。進学校ではなかったし、周りもみんなそうだった。受けられそうな求人票のところに応募したら、一発で受かったのでそこに入った。</p><p>&nbsp;</p><p>自分では「そんなことないですよ」と言うが、心のなかではちょっと思っている。私はかわいい。特に努力をしてきたわけではないから、生まれ持ったものだ。姉も美人だ。これで得をするのは、自分で好きにならなくても男性側がこちらに寄ってきてくれることだった。すぐに私は10歳年齢の離れた先輩と仲良くなった。</p><p>&nbsp;</p><p>就職して３年目の冬、お腹に赤ちゃんがいることがわかった。実は子供は苦手だ。でもそのときは単純に嬉しかった。適当に決めた仕事だし、上司のお局さんとは気が合わないし、別にやりがいもない。このまま仕事をやめようかと思ったけど、続けられるんだったらその方がいいかと思って産休を使った。人生は順風満帆。なんの意思決定をする必要もないまま、私は流れで結婚するべくして結婚した。</p><p>&nbsp;</p><p>生まれた息子のことを、義母もかわいがってくれた。なんだ、私にも普通に家族作れるんじゃん。そんな風に思った。人生ってこんな楽勝に進むものなんだな、って。</p><p>&nbsp;</p><p>だけど、生活をして行くにつれて、どんどん嫌な部分が目に入ってくるようになった。私だけが育児をしている。家のことも全部だ。旦那は仕事の帰りも遅い。まぁ職場が一緒だし、遅い理由もわかるんだけどさ。</p><p>&nbsp;</p><p>ずっと一人で子供と一緒にいるのは疲れるようになった。あれ？私、子供好きだったんだっけ？嫌いだったんだっけ？わからなくなった。</p><p>&nbsp;</p><p>ある日、突然旦那に爆発した。初めてのことだ。自分でも何が引き金になったのかわからない。泣きながら日々の不満をぶつけた。旦那は苦笑いしながら私の話を聞いていた。あれ？そのとき心のなかに、何かしこりのようなものができた。</p><p>&nbsp;</p><p>産休明け、職場復帰したら、新しい人が転勤してきていた。旦那より年上の細身の男性だった。なんだかとっつきにくい人だなと思っていたが、話してみると優しかった。彼はアイドルが好きだという。かくいう私もアイドル好きだ。ずっと家にいる間、ネットでアイドルの動画を片っ端からチェックするのがストレス解消になっていたくらい。</p><p>&nbsp;</p><p>「こんな人たち知ってる？」と教えてもらったのは最近デビューした話題のアイドルだった。</p><p>「私も気になっていたんです」</p><p>「俺、すでにファンクラブ入っちゃった」</p><p>「もうですか？すごいなぁ」</p><p>&nbsp;</p><p>生活から逃げたかったのかもしれない。育児から逃げたかったのかもしれない。ドキドキがほしかったのかもしれない。</p><p>&nbsp;</p><p>好きになるのに、時間はかからなかった。</p><p>&nbsp;</p><p>一年ほど、片思いが続いた。相手も家庭があるし、私は大丈夫。一線を超えるようなことはない。大丈夫。そう思った。しかしある日「他の支店の人たちとライブに行こうと思ってるんだけど、一緒に行く？」と誘われた。</p><p>「行きます！」</p><p>私は何も考えないまま、返事をしていた。でも仕事帰りの車の中で思った。旦那になんて言って話そうか。</p><p>&nbsp;</p><p>まぁ、いろんな人たちと行くわけだし、問題ないか。そう思って忘れることにした。やった、一緒に出かけるチャンスができた。それだけが私の体を包んでいた。</p><p>&nbsp;</p><p>ライブは楽しかった。そのときに連絡先を交換したので、グループでメールをするようになった。でも私は隠れて、単独でその人に連絡をしていた。ツイッターのスクリーンショットで送っては「新曲が出るそうです！」とか、相手も既に知っているだろう情報を押し付けて、なんとか連絡を続けた。一年が経った時だった。</p><p>&nbsp;</p><p>「みんなで応募したチケットなんですけど、僕とあなたの分しか当たらなかったんです。どうします？」と言われた。私はドキドキが止まらなかった。</p><p>「まぁ、仕方ないですね。二人で行きます？」</p><p>もはやライブのことなんてどうでもよかった。二人っきりになれる。いろんなこと聞いてやろう。何を聞こうかばかり考えていた。</p><p>&nbsp;</p><p>ライブの帰りに食事をした。勢いで少しだけお酒を飲んでしまった。</p><p>これが良くなかったのかもしれない。</p><p>&nbsp;</p><p>「好きです」</p><p>&nbsp;</p><p>その日、彼からの返事はなかった。</p><p>次の日、仕事に行くのが本当に嫌だった。私は出勤だったが、彼は有給を取っていて休みだった。家で用事があるとかで。よかった、と思った。</p><p>&nbsp;</p><p>お昼を食べていると、メールが入った。</p><p>「明日の夜、空いてる？」という内容だった。</p><p>ドキン、とした。なんだろう？お断りの話かな。いろんな想像が働く。</p><p>&nbsp;</p><p>旦那に「ちょっと仕事で遅くなる」と告げて出てきた次の日、職場から少し離れたファミレスに入った。そして彼は言った</p><p>「一緒にはなることはできないと思います」</p><p>「はい、それは分かっています。すみません」</p><p>今にも私は泣き出しそうだった。</p><p>「でもあなたと仲良くなりたい、と言う気持ちは僕にもある」</p><p>「…え？」</p><p>「ありがとね」</p><p>&nbsp;</p><p>一週間後、休みが合った私たちはホテルの一室にいた。</p><p>もう理性とか、倫理とかどうでもよかった。この人と一緒になりたい。それだけを考えるようになっていた。</p><p>「次はどっか行きたいなぁ」</p><p>「でも、そんなに遠くには」</p><p>「近くでいいです。デートしたい」</p><p>「今の時間は？」</p><p>「今もデートですけどね」</p><p>そう言って私は彼にキスをした。</p><p>&nbsp;</p><p>毎日が潤っていた。なんだか世の中が明るく見える。私は旦那と別れて、この人と一緒になる。表面上は「わかってます」という顔をしていたが、裏ではどうやったら旦那と別れることができるかばかり考えた。</p><p>&nbsp;</p><p>でも半年もすると、その熱い気持ちは自分だけだったのではないか？という気持ちになってきた。</p><p>「今度休み、合います？」</p><p>「んー、ちょっとわからない」</p><p>「なんで？」</p><p>「家の用事があってさ」</p><p>そうだ。彼にも奥さんがいるのだ。そして娘もいる。それはわかっている。</p><p>「何の用事なの？」</p><p>彼はなかなか答えようとしない。そうか、言えない用事なのか。</p><p>私は心の中で黒いものが溢れてくるのを感じていた。私と一緒になるんでしょ？私は自分のことは全部話してるよ？一緒になりたくないの？そう思ったら泣けてきた。</p><p>「何で泣くのw」</p><p>「だって、だってさぁ…」</p><p>自分でも何で泣いてるのかわからない。でも未来のことを考えると泣けてくる。私の未来はあなたとあるのに。それだけなのに。この頃、私はもしかしたらこの人と一緒になれないの？私だけ取り残されるの？という被害妄想に付き纏わられていた。</p><p>&nbsp;</p><p>彼は具体的な話をしようとすると、話を濁すようになっていった。</p><p>私が家の話をしても「ふーん」と言うだけで、心はどこか別の場所にあるようだった。そのたびに私は泣いた。今考えてるのは奥さんなの？奥さんのことなの？でも怖くて聞けなかった。「そうだよ」と言われたら、全てが壊れてしまうような気がしたから。</p><p>&nbsp;</p><p>でも次の日、職場で会うと「やっぱり好きだな」と思ってしまう。顔を見ると、どうでもよくなってしまう。その繰り返し。一体自分は何をしているのか？だんだん分からなくなっていった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/sousakubeya/entry-12667848780.html</link>
<pubDate>Sun, 11 Apr 2021 08:13:35 +0900</pubDate>
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