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<title>雨やどり</title>
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<description>妄想小説『雨やどり』</description>
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<title>は　じ　め　に</title>
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<![CDATA[ <font size="3">　この度は、幸運(？)なのかどうかは別にしてにも、 ご縁あってこの小説に巡り逢った事と思います。(小説と呼べる代物では決してありませんが…)<br>　このお話は、さだまさし氏の楽曲『雨やどり』をモチーフに、さらに、同氏の『パンプキン・パイとシナモン・ティー』をミックスさせ、自らの妄想力を(大した頭ではありませんが)フル稼働させるため、キャスティング(あくまでイメージです)を設定し描いてみました。<br>　ただ、私は日本人であるにも関わらず、学生時代から国語という教科が不得意でありまして、中でも作文という分野は大の苦手でしたから、拙い文章力で上手く表現出来ないところも、多々見受けられる事と思います。甚だ申し訳ない次第でありますが、最後までお読みいただけると幸いです。<br>　なお、お調子者ゆえ、図に乗って続編(その後なるもの)を書いてしまったのでそれも記載したいと思います。その続編は、さだまさし氏のグレープ時代の楽曲『朝刊』をベースにしたものと目論みましたので是非お楽しみ下さい。<br>　最後に、このお話の表現するにあたって、横書きを採用しております。昨今のデジタル化により横書きが主流であり、そのような観点から横書き形式といたしました。本当のところは、ブログの縦書きなどまずもってありえませんし、そんなことをしたら非常に使い辛いというか、読み辛いのですね。<br>　なお、通常のブログと順番が違い、話が進む毎に記事は過去になります。あしからずご了承ください。<br><br>《主なイメージキャスト》<br>国東みずほ(女子大生)　－多部未華子　<br>松風ちどり(女子大生)　－桐谷美玲<br>浅間あすか(大学准教授)－綾瀬はるか　<br>大淀　赤城(大学教授)　－福山雅治<br>瀬戸　梓　(マスター)　－鈴木浩介　<br>国東　北斗(みずほの兄)－勝地諒<br>国東　八雲(みずほの父)－石塚英彦<br>国東みどり(みずほの母)－未知やすえ<br>ほか<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207341750.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅰ.後ろでブツブツ言っているお二人さん(前)</title>
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<![CDATA[ <font size="3">　彼女は、ひたすら走っていた。 <br>「うちの大学は、なんでこんなところに建てたんだよ。よりによって丘の上なんかに。こんなところに建てるなら、エスカレータぐらい付けろうっぅんだよ！ <br>それになんだよ、もう秋のお彼岸も終わったつうのに…この残暑。でも、秋に残暑ってのも変だよな～？」 <br>などとボヤキながら、長い坂道を駆け上がって行く。 <br>「あﾞぁ～、ダメだ！気が紛れない。きっと、ぃゃ絶対ちーちゃん怒っているよ。神様も、仏様も、信じないけれどちーちゃんが元ヤンでないことを・・・アーメン！って、あたし、キリスト教じゃなかった。えっと、南無・・・なんだっけ？えぃ～！とにかくなんでもいいや、クワバラクワバラ」<br><br>　一方、ちーちゃんと呼ばれている女の子は、もう30分以上も待たされていた。<br>少々いらだち彼女に電話をすると<br>『こちらは、MTT kocomoです。おかけになった電話は、電波の届かない場所におられるか、電源が入っていないためかかりません』<br>とメッセージが流れるので、しかたなく何度かメールを送信した。<br><br>　一度目は、<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『いつもの所で待っていま～す <img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/054.gif" alt="クローバー">。早く来てね <img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/031.gif" alt="ドキドキ">』<br><br>だったが、返信がないのでちょっと心配になり、二度目は、<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『どこか身体の調子でも悪いの <img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/301.gif" alt="注意">？連絡ください』<br><br>になり、とうとう14度目には<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『てめ～！いつまで待たせる気だ!! <img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/280.gif" alt="ドンッ">』<br><br>と本文ではなく件名の方に打ち込んで送信していた。<br><br>　しかし、どんなにイライラしていても、表情に出せない事情があった。だから、学友に会っても満面の笑みで「おはよう！じゃ、また後でね」などと愛想よく振舞っていたが、よく見ると若干引きつっていた。<br><br>　やがて…<br><br>♪キン♬コン♬カン♬コン♪　♪キン♬コン♬カン♬コン♪<br><br>　校内にチャイムが響きわたる。<br><br>「ちーちゃん、ゴメン！ゴメン」<br>「みずほ！遅い！早く！早く！」<br>　メガネの女の子は、駅から走って来たらしく汗だくで息を切らせていた。<br>「スマホのバッテリー切れで…、アラームが鳴らなくて…目が覚めたら８時半で……」<br>「そんな言い訳いいから！この講義、落としたら、また留年だよ！！！！！！！！！」<br>「でもさ～、大学って何回生までOK何だろうね」<br>「つべこべ言わすに教室まで走るよ！！！」<br>「えぇ～また走るの～!?」<br><br>　はてさて、この二人ですが、寝坊したメガネの女の子が、国東みずほ。そして彼女の親友、ちーちゃんこと松風ちどり、共にこの大学の６回生(？) なお、６回生とは、みずほの言い分、つまり２年留年しているわけでして・・・・・。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>　Ｔシャツにオーバーオール。ファッションセンスなんてなんのその、いつもすっぴん、メガネをかけているんだけれど、お世辞にも知的には見えない。髪は、自称ポニーテールということだが、鴨がネギ背負った髪型で、あえて言うならぱっと見、トリプルテールだ。<br>　そんな彼女の趣味は、迷子になること。でも勘だけはいいそうだ。よって特技は、根拠のない漫然とした自信家。国東みずほとは、そんな女の子だ。<br>　ただ、妄想癖が高じて書いた小説が高校生の時、入選。以来、小説家でもある。なお、恋愛小説は書けないのでもっぱら空想専門のＳＦ小説なのだ。<br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　一方、松風ちどりは、ファッションセンス抜群の超美形女子。セミロングの髪は、風になびくとシルクのようで、大抵の男子は、そのうなじに見とれる。そのためか、ミス・キャンパスを６年連続して選ばれている。よって大学では知らない人がいないほどの超有名人。<br>中学生の時に、読者モデルに選ばれたことがあり、それ以来、ファッションモデルとしても活躍している。<br>　ただ、名前に少々コンプレックスがあり“ちどり”とは絶対呼ばせない信条を持つが、これだけは思うようにはいかない。親友みずほだけがちどりとは呼ばず“ちーちゃん”とよんでいるのが現実だった。<br>　趣味は、極秘なんだけど、未だにリカちゃん人形での着せ替え。まぁそれがモデルになったきっかけでもあるのだが・・・。<br>　特技は、意図せず物が勝手に壊れること、特に電化製品はてきめん。決して彼女自身は壊したとは思っていない。あくまで、ぃゃ絶対、勝手に壊れたのだと信じて疑わないし、壊れるような製品の方が悪いと言い張っている。<br>　またみずほとは、気が合いすぎて留年まで付き合うほどの仲だ。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>　さて、二人の自己紹介はここまでにして・・・・・<br><br>　二人はひたすら廊下を走っていた。 <br>「やっぱり、神も仏もあったもんじゃない。一瞬でも期待した私がバカだった」 <br>　走りずくめで、疲れ切ったみずほは、とうとう歩き出し<br>「ねぇねぇ…ちーちゃん…今日の講義って…、浅間あすか先生の『仏教概論』だよね…」<br>と話し出した。<br>　先を走っていた、ちどりが、立ち止まり<br>「そうだけど…なんで？」<br>「だったらさぁ、もう走らなくていいんじゃない？」<br>「どうして？７回生目指すことにしたの!?でも、私はゴメンだよ！」<br>と言うやいなや、振り返り、再び走り出そうとして、目の前の教室から人が出て来た人と接触、間一髪避けて転倒しそうになった。<br>「きゃっ!!」<br>「あっ!!ゴメンナサイ。大丈夫？」<br>　教室から出て来た女性は、あわてて謝った。<br>「あっハイ！大丈夫です。こちらこそすみませんでした」と言って頭を上げた時、ちどりは相手の顔見て驚いた。なんと、浅間准教授だったからだ。<br>「先生の講義って、この教室でした？確か第８講義室だったような～」<br>「ぃゃ…、私、おっちょこちょいだから、教室を間違えちゃった。３と８は似ているでしょう」と言い訳して舌を出した。なんともその姿がいじらしい。<br>「ちーちゃん、だから走らなくていいって言ったんじゃん。だって、あすか先生、教室間違えて入って行くの見えたんだもん。それにここ第３教室じゃなくて第３視聴覚室だし…」<br>「だったら、それを早く言え！」<br>　ちどりは、イラついたが、みずほは、相変わらずマイペースで、あすかに話かけた。<br>「私達これから、先生の講義受けるんです。逃すとめでたく留年決定！ 」そう言ってニッコリ笑いＶサインを出した。<br>「すいません。彼女、危機感がなくて…」<br>ちどりの言葉と重なるように、あすかは、話し出した。<br>「そうなの？でも私に出会えてラッキーだったね。じゃ、一緒に行きましょう。これで遅刻にもならないでしょー」<br>「ハ～イ。ありがとうございます」<br>　三人は揃って歩き出した。<br><br>　やがて、講義予定の教室の扉の前に着いたが、あすかは気付かず、二人と共に先に進もうとした。<br>「先生、そっちじゃなくて、ここですよ。私達は講師の扉から入るわけに行かないので、後ろの扉からこっそり入ります」<br>　ちどりの声で、あすかは慌てて戻って来た。ちどりは内心“ホント、根っからのおっちょこちょいだね”と思ったが、みずほは「まったく、天然ですね～」と口走っていた。あわててみずほの口を塞いだが、あすかは、その言葉を気にすることなく「そうなのよ～。小さい頃からこの調子なの…」と言い出した。ちどりは、さらに話しが続きそうだったので「先生！時間過ぎています!!」と口を挟んだ。<br>「あっ！いけない」<br>そう言ってあすかは扉を開けた。そしてみずほとちどりは、会釈して別の扉に向かった。<br><br>　さて、講義室内では、担当の講師が時間になっても現れないので、騒がしくなっていた。と言っても、誰も講師を心配しているわけではなく、いつものことだと思われていた。 <br>　こちらの女子三人組の、大山希、谷川あおば、西海サクラは内輪で盛り上がっていた。 <br>「のっちで～す！」 <br>「あーちゃんです！」 <br>「サクラ、で～す！３人合わせて“Perfume”です!!」 <br>「って、何でやねん！“Perfume”に“サクラ”なんておれへんし、“かしゆか”って言わんとあかんやん！」と、希がツッコミを入れた。 <br>「そりゃー、希は“のっち”だし、あおばは“あーちゃん”でそのまんまやから、ええけど…」 <br>「兎に角もう一度やり直し。サクラは“かしゆか”って言うこと！」 <br>「じゃー、今度はサクラからね」 <br>「かしゆかでーす」 <br>「のっちで～す！」 <br>「あーちゃんです！」 <br>「３人合わせて『Perfume』です!!」 <br>「ありがとうございました～」 <br>「サクラが閉めてどうすんねん！」 <br>　などとお笑いコントのネタ仕込みしているようだった。<br> <br>　また、前の方に陣取った、男三人組の“ケン”こと児玉剣と“バッサン”こと土佐翼、そして“しらやん”こと白根燕は、文学部の講義には、少々不似合いだった。<br>　服装や髪型が、というわけではない。身形ではなく雰囲気に若干の違和感があったのだ。 <br>「ケン？本当に大丈夫かよ!?あの講義、落としたら、留年になるぞ」 <br>　燕は、心配そうに言った。しかし、剣はあっけらかんと<br>「大丈夫！大丈夫!!レポートさえ出せばOKさ。抜かりはないぜ。そんなことより、ボン・キュッキュッキュ。楽しみだぜ。まだ来ないのか？」 <br>「ホント、お前は巨乳好きだな」 <br>「バッサンは、巨乳好きじゃないのか？ひょっとして貧乳好きか？」 <br>「こいつは、デブ専貧乳好きのロリコン野郎だからな」と燕がちゃかした。 <br>「うるさい!!」と翼が大きな声を出したため、一瞬視線が集中した。あわてて、小さな声で<br>「勘違いされるだろうが！そういうお前は、熟女好きなくせに」と反撃をはじめた。 <br>「まあ～まあ～。いいじゃないの。バッサンはデブ専貧乳で、しらやんは熟女殺し、俺は、乳お化けマニアということで」<br>　そう言って剣がなだめていた。<br><br>　やがて、あすかがようやくたどり着いたようで、突然、扉が開いた。三人は、なぜかあわてて顔を伏せた。 <br>「おはようございます。遅くなりすみません。それでは早速、講義をはじめます。 え～と、前回は『釈迦の誕生と出家』でしたね。覚えていますか？大丈夫ですね。今日は『初転法輪と涅槃』です…」 <br>　あすかは、男三人組の前を行ったり来たりする。そのたびに彼らの視線も、行ったり来たり。その姿を後ろから見ている、希たち女子三人組は、「男子って、ホント単純で、バカだよね～」と共感しあっていた。 <br><br>　そのころ、みずほとちどりは、後ろの扉からこっそり入り、何事もなかったかのように、席に着いた。そして何やら、言い合っていた。 <br>「遅れるなら、メールぐらいしてよ!!どれほど心配して、どれだけ待っていたと思ってんのかよ!!」 <br>　ちどりはかなりイラ立っている。 <br>「だって、スマホのバッテリーがなくなっちゃったんだもん。だからメールしたくてもできないじゃない。それとも通勤途中のオジサンに『スイマセーン。携帯貸してくれませんか？メッチャ可愛い女の子にメールしたいので』って声かけて、ちーちゃんにメールすりゃ良かった訳!?」 <br>「やめてよ。知らないオヤジにアドレス教えるなんて！」 <br>「でしょう。だからしょうがないじゃん!!」 <br>「なに言ってんの！みずほがちゃんと充電しないからでしょうが！」 <br>「ちゃんとやったもん。パソコンのUSBに繋いで、充電して寝たんだもん」 <br>「パソコンは起動した状態で？」 <br>「えっぇ！起動してないと充電できないの!?」 <br>「当たり前じゃん！機械音痴の私でも知っているよ。ひょっとしてそんなことも知らなかったの!?ブツブツ…」 <br>「だって、昨日ちーちゃんが触ったでしょう、あのパソコン。だから、てっきり壊れちゃったんだと…ブツブツ…」 <br>「私が壊し屋だからといっても、あの程度じゃ壊れないもん…ブツブツ…」 <br>「でも…ブツブツ…だって…ブツブツ…」 <br>「なによ…ブツブツ…」</font> <br><font size="4">「ブツブツ…ブツブツ…」 <br>「ブツブツ…ブツブツ…」</font> <br><font size="5">「ブツブツ…ブツブツ…」 <br>「ブツブツブツブツ！」</font> <br><font size="6">「ブーツブツブツブツブツブツ！」 <br>「ブ～ツブツブツブツブツブツブツブツ！」</font><br> <br><font size="3">「後ろでブツブツ言っているお二人さん。そろそろクールダウンして静かにしてくれるかな？それとも今日のところは退出して、また来年も頑張ってみる？」 <br>　あすかがそう声を掛けたため、笑いが起き、二人はばつ悪くなり黙り込んだ。 <br>「さて、静かになったところで気を取り直して。鹿野苑でお釈迦さまは、四諦八正道を説かれます…」 <br>　あすかは、何事もなかったように講義を続けようとしたその時、 <br>“バサ!バサバサ!!バサバサバサ!!!” <br>　突然大きな音がして、教卓の上の資料が床に落下してしまったのだ。どうやら教壇に戻る際に、引っ掛けてしまったようだ。彼女は、慌てることなく「四諦とは、苦諦・集諦・滅諦・道諦の４つのことで…」などと話しながら、しゃがみ込んで資料をかき集めた。その刹那、剣たち男三人組は、小さくガッツポーズをした。 <br>「ケン、お前の場所からだとバッチリだったろう」と燕が問いかけると「もち、バッチリ。間違いなく“おっぱい星人”だよ」とＶサイン と巨乳ジェスチャー。<br>　さらに、翼も口を挟んだ。 <br>「俺のところからも、見えたぜ。あの、見えそうで見えない。そんでもって、見えないようで見える」 <br>「おっおぉ～！白か？ベージュか？」 <br>「まさに“男のロマン”だね～」となどと意気投合していた。しかし、後ろに座っている、希たち女子三人組からは、手に取るように見えており彼女らはすっかり呆れかえっていた。<br><br>　はたして、みずほとちどりの二人と言えば“男のロマン”に更ける男どもに気付くこともなく、小声で話していた。<br>「今朝は、かなり待たしちゃってゴメン」<br>「もういいよ」<br>「それで…お詫びと言っちゃーなんだけどさぁ。兄貴に素敵な喫茶店？ぃゃコーヒー・ベーカリか。教えてもらったんだ。ランチしに行ってみない？」<br>「兄貴って、デリカシーの欠片も持ち合わせていないアイツかよ！」<br>「ほかにいないからそうだけど。でもちーちゃんにかかったら、ウチの兄貴もボロクソだね」<br>「わかったよ。でもみずほのおごりだからね。OK！」<br>「じゃー決まりだね」<br><br>　やがて、講義時間終了のチャイムが鳴った。<br>「じゃー今日はここまで！」<br>そう言ってあすかは、男三人組の方を向き、なぜか交互にウインクをした。男三人組は、しばし呆然となったが、我に返ると、逃げ去るようにそそくさと教室を出て行った。<br>　みずほとちどりは、「あすか先生！」と言いながら、駆け寄り「講義中は、申し訳ありませんでした」と頭を下げたが、あすかは、ハトが豆鉄砲を喰らったように、きょとんとしていた。<br>「何かあったのかしら？」<br>そう尋ねると、ニッコリ微笑んだ。<br>「いや、二人でブツブツ言い合って、ご迷惑をかけたようで…」<br>ちどりは、恐縮していた。<br>「そうだっけ？まぁいいんじゃないの。済んだことだし気にしない気にしない」<br>続いて、みずほも恐る恐る話し出す。<br>「もしお昼、ご予定が空いておりましたら、ランチご一緒しませんか？」<br>「申し訳ないね。誘っていただいたのに。今日のお昼、お弁当持って来たの。だから、後日誘ってくれるかな？」<br>「そうですか。ではまたの機会ということで。」<br>「失礼します」<br>そう言って、二人は頭を下げ、立ち去ろうとした時「必ず、誘ってよ！」と言ってあすかは、手を振っていた。<br><br>「あすか先生って、いい人だね」<br>「ホントそうだよ。それに笑顔も素敵だし。スタイルいいし。」<br>「ミス・キャンパスのちーちゃんのお墨付き、いただきました！絶対あすか先生とランチしようね」<br>「そうだね。もしランチが無理ならお茶だけでもね」<br>「あすか先生だったら、きっと素敵彼氏いるんだろうな～」<br>「えぇえぇ、どうせ私には、彼氏なんて縁遠いですよ」<br>「なにもそんなこと言ってないじゃん。それに、ちーちゃんなら大丈夫。あたしが保障する」<br>「みずほに言われても説得力ないんだな～」<br>　二人は笑いながら、次の講義場所に向かった。<br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　潜入を成功させた翼たち男三人組は、いつものたまり場、コーヒー・ベーカリ『安眠』にやって来た。<br>「いらっしゃいませ」<br>「あやめちゃん、暑いのに頑張るね～」<br>　翼は、レジにいたアルバイトの春日あやめに声をかけた。<br>「ここは、エアコンかかっていますから、快適ですよ」<br>　そう言って、ニッコリ微笑んだ。剣は、挨拶もそこそこに、真っ先に喫茶室に向かった。<br>「マスター、アイスコーヒー３つね」<br>　そう言うといつもの席に座った。<br>「今日も暑いな～！来週は、もう10月だせ、ありえねー」<br>　汗をハンカチで拭きながら最後に入って来たのは燕だった。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>　コーヒー・ベーカリ『安眠』のマスター、瀬戸梓とは、36才で未だ独身。お人好しだが、引っ込み思案だ。それは、名前に一因があった。梓という、女の子のような名前のためよく勘違いされ、恥ずかしい思いもしてきたそうで、さらに、そのせいかどうか、わからないが、照れ屋でマヌケの複雑な性格である。<br>　パン作りのセンスというか興味はないが、コーヒーに関しては、妥協を許さない。また、自ら手掛けた“かぼちゃパイ”には、自己満足している。<br>レジを担当する春日あやめは、父親である光が昨年アルバイトに雇った。笑顔がとってもチャーミングな女の子だ。この店の看板娘と言っても過言ではないだろう。マスターの妹あきが若狭家に嫁いだためにアルバイトに入ったわけだが、あやめが休みの日にはあきが戻って来てレジに立つこともあるそうだ。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>　しばらくの沈黙の時間が過ぎ、剣が口火を切った。<br>「でもさー、文学部のあすか先生って、噂以上のナイスバディだったよな！」<br>「そういえばバッサンもバッチリだったんだよな。先生がしゃがんだ時“男のロマン”が見えたんだろ～」<br>「まぁな」翼はそう言って、親指を立てた <br>「で！色は？何色だった!?」<br>「おっと、ちょっとその前に。マスター！マスター!!アイスコーヒーまだかよ～!?」<br>　剣は、マスターの瀬戸梓を呼んだ。<br>「えっ!?君たち、いつからここに!?」<br>　マスターは、あわてて駆け寄ったが、椅子の脚に爪先を強打、さらにその爪先を庇おうとして、今度は、脛をテーブルの縁で打った。なおかつその弾みで転倒しもがき苦しんでいる。あまりの激痛に声も出ず喘いでいた。<br>「マスター、なにやってんだよ。昼間からそんなところに寝転がって」<br>　剣が、必死に笑い声を押し殺して話しかける。さらに翼は、我慢できず、吹き出しながら「大丈夫かよ!?」と気遣った。<br>「あっはっはっは～！マスターは、ホント、ドジでマヌケだね～」<br>　燕は、呆れかえり、腹を抱えて笑っていた。<br>「ぁ…ぇ…ぃ…ぉ…ぅ…」<br>　彼は、声にならない呻きを上げるのが精一杯だった。<br>「おーい！あやめちゃん!!マスターが大変なことに!!助けてあげて!!!」<br>　剣は、大声でレジにいた、あやめを呼びに行った。呼ばれてやって来たあやめは、あまり驚いた様子もなく冷ややかな感じで、<br>「不意に、足の指や脛を打つと、ホント声も出ないほど、痛いんですよね。でもね意外と、傷とかないのですよ」<br>　と、全くと言っていいほど心配していない。マスターも、マスターで、少々痛みをこらえて<br>「あやめちゃん、だ、だ、大丈夫だから。心配しないで…」そう言って、足を引きずりながらカウンターの奥に戻って行った。<br>「ウチのマスター、月に１・２度、同じようなこと、やっているのですよ。ボーとしている時に声かけられると、慌てちゃってさぁ。心配して駆け寄ってあげると『大丈夫、大丈夫』って、私が、ここのバイトに入ってからしょっちゅうですよ」<br>　彼女は、独り言のように話すと、レジに戻って行った。<br>「ホント、マスターも人騒がせだぜ」 <br>「たぶんあやめちゃんに見とれてたんじゃないの？」 <br>「きっとあきさんが結婚したものだから、マスターも焦りだしたんだよ」<br>　とそれぞれマスターの悪口を口すると、指定席に座り直した。 <br><br>「ところで、例の“男のロマン”の話し、白なのか？ベージュか？それとも黒？」<br>　と燕が尋ねる。 <br>「ブッブー」二人口を揃えた。 <br>「正解は？ケン、教えてやってやれ」 <br>「なんと！、なんと!!」 <br>　丁度その時、カウンター越しにマスターが声をかけてきた。 <br>「アイスコーヒー、お待ち！取りに来て!!」 <br>「ちょっとマスター、水差さないてくれよ」 <br>　燕は椅子から転げるかと思うほど、ずっこけた。翼は翼で「へぇ～、いつからセルフサービスになったんだよ、この店は？」とボヤいた。 <br>「ハイ、ハイ、わかりました。お持ちしますよ」 <br>　翼たちは、顔を寄せ合って、また話し込んでいる。 <br>「最近の若い者は、ケガ人をいたわる気がないのかね～って、おぃおぃ！聞いてないのかよ」 <br>　マスターのことなど眼中になく三人は話し続けていた。<br>「で!!何色だったんだよ!?もったい付けずに早く教えてくれよ？」 <br>「では、発表します。バッサンどうぞ」 <br>「なんと驚きの…ピンク!!」 <br>「オォォ…!!」 <br>　燕が雄叫びを上げると、レジからあやめが喫茶室の方をちらっとのぞき見た。すかさず翼が慌てて指を口に当てた。 <br>「シーッ！あやめちゃんに聞こえる！」 <br>「ワリーワリー」 <br>「あの～？ピンク！ってなにが？」 <br>　そこには、アイスコーヒーを３つ持ったままマスターが突っ立っていた。<br>「あつ！びっくりした!!」 <br>「なんでもない！なんでもない！」 <br>「マスターには関係ないから」 <br>「さぁーお仕事！お仕事！」 <br>「えっぇ！俺邪魔者？」<br>　マスターはそう言うと「ピンク…ピンク…ピンク…」とつぶやきながら戻って行った。<br> <br>　翼たちはまたまた、顔をつき合わせて話し出した。 <br>「といっても、チラッとだけどな」 <br>「お前ら、いいよな～！俺の場所からは見えなかったぜ」 <br>「でも、谷間はバッチリだろう」 <br>「まぁな」 <br>「ケンは、そこまでは見えなかったんだってな」 <br>「ということは…バッサンは両方ってこと？」 <br>「らしいぜ」 <br>　剣は、翼をこついた。 <br>「でも、こんな話し、あやめちゃんに聞かれたら、俺たちひんしゅくもんだよな」 <br>「まぁな。セクハラで訴えられるかもな」 <br>「ところでさぁ、講義終わった後、あすか先生ウインクしたよな！」 <br>　燕が言い出した。剣も頷きながら <br>「そうそう、俺たちに向かってさぁ。それも、交互にだぜ」 <br>「文学部の講義に全く関係のない工学部の俺たちが、エロ心で潜入しているのに注意する訳でもなく、あれだろう～」 <br>　翼は不思議に思っていた。 <br><br>「いらっしゃいませ！」<br>　突然、あやめの元気な声が響いた。 <br>「よっ！」 <br>　そう言って入ってきたのは、国東北斗だった。「マスター、いつもの頼むは！」そう言って、カウンター席に座った。 <br>「ハイハイ！いつもの“モカ・マタリ”だね」 <br>　北斗に気付いた、剣が声をかけた。 <br>「国東先輩！おはようございます。ぃゃもうお昼前ですがね」 <br>「おっ！なんだよ、男三人雁首そろえて」 <br>「先輩なら、女心ってやつわかりますよね？」 <br>「どうした？恋の悩みか？そうか好きな子でもできたか！そう言うことなら、百選練磨の俺に何でも聞いてくれや！」 <br>「いやそう言うことじゃなくて…」 <br>　燕は、今までの経緯を北斗に話した。 <br><br>「そりゃーあれだな、年下のお前たちがだなぁ、可愛かったからからかったんじゃねーの。でも年上の女性は気をつけねーとヤケドするぜ」 <br>「さすが、先輩！人生経験豊富ですね」 <br>「まぁな。こう見えても伊達に生きちゃいないし、見掛けに寄らず意外と苦労しているんだぜ」 <br>　ふと時計に目をやった翼が、慌てて言った。 <br>「ケン！そろそろ行かないと、午後からの大淀教授の講義間に合わねーぞ」 <br>「あの教授の試験は厳しいから、講義受けてねーと大変だぜ」 <br>「先輩、会ったばかりなのにすいません。失礼します。午後の講義、サボる訳にいかないんで…」 <br>「おぉ！学業、頑張れよ！大淀教授にもよろしくな」<br><br>　北斗とマスターは三人の後姿を見送った。<br>「学生さんは大変だね」<br>　マスターは、コーヒーを出しながら言った。<br>「ところで社会人の君は、平日の昼間っから暇そうだね。仕事してないの？」<br>「ご安心を、先程まで働いておりました。今日は非番なもので、こちらにお邪魔しております」<br>　そう言って、ありがとうの意味なのか、右手を上げた。<br>「へ～、働いていたんだ。何の仕事しているの？」<br>「それは、個人情報にあたりますから、ノーコメント」そう答えると、小さなカップのコーヒーを一口飲んだ。<br>「美味い！マスターの入れたコーヒーは最高だね」<br>　片隅にあったスポーツ紙を手にとりパラパラとめくって気になる紙面を読み終えると、再びコーヒーを口にし、おもむろに席を立った。<br>「トイレ、借りるよ」<br>　部屋の奥にある、トイレに入って行った。<br><br>(つづく)<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207341394.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅰ.後ろでブツブツ言っているお二人さん(後)</title>
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<![CDATA[ <font size="3">（つづき）<br><br>　一方、みずほとちどりは、２丁目の交差点に立っていた。 <br>「兄貴の話しでは、ここの交差点から17軒目で、おおよそ112～3歩目にあるらしい。時々走って２分と15秒だって」 <br>「何で時々走らなきゃなんないだよ！普通徒歩での時間だろうが！あいつはいったい何考えているんだよ」 <br>　ちどりは、みずほの兄のことになるとやけに批判的になる。 <br>「では、数えて行きたいと思います。角のコンビニが１です。２・３‥４…５…？」 <br>　みずほは、口ごもった。 <br>「どうしたの??」 <br>「ぃゃ…交差点になったんだけど…、こういう場合って、道路を渡って続きを数えるべきか？それとも建物沿いに角を曲がって数えるべきか？」 <br>「なに悩んでいるんだよ。普通、道渡って数えるだろうが…」 <br>「やっぱり、そうだよね…」 <br>　でも、みずほは、納得していないようだ。 <br><br>「10・11‥12…??」<br>　またまた、みずほが口ごもった。 <br>「今度は何？どうしたの??」 <br>「あの…駐車場も数に入るのかね～？」 <br>　ちどりは、一瞬“なるほど”と思ったが“１～２軒ズレていてもわかるだろう”と思い、<br>「入るんじゃないの。料金とって営業しているんだし」と適当なことを言った。 <br>「なるほどね～」 <br>　みずほは、妙に納得していた。 <br><br>「15・16‥17…??なぜなんだろう?!コーヒー･ベーカリがブティックに変身した」 <br>「何が変身だよ。間違えたんじゃないの？でも、なかなかいい雰囲気のお店じゃない。ちょっと寄ってかない？」 <br>　ちどり好みの可愛いブティックだったため、つい覗きたくなったのだろう。しかし <br>「だ～め！ちーちゃん、こういうお店に入ると、時間忘れちゃうんだもん」 <br>「えぇ～！ブツブツ…」 <br>「ブツブツ言わないの。ハーイ！戻りますよ」<br> ちどりは後ろ髪を引かれる思いでみずほに急かされて戻って行った。<br><br>「ハイ！ここは振り出しのコンビニで～す」 <br>「何もここまで、戻らなくてもいいんじゃね～の？」 <br>　ちどりは、可愛いブティックに入ることもできず、再び２丁目の交差点まで歩かされたためか、少々ご機嫌斜め。 <br>「今度は、建物沿いを行くわよ」そう言って角を曲がり進んで行く。 <br>「14…15…??」 <br>　またまた交差点になったが、角を曲がった所に、コーヒー・ベーカリらしきお店が目に入ってきた。 <br>「確かに17軒目だが、あいつは本当に捻くれてやがる」 <br>　ちどりは、思わずつぶやいた。 <br><br>　そしてそのコーヒー・ベーカリらしき店から、翼たち三人が出て来た。 <br>　みずほとちどりは、彼らを気にはしていなかったが、翼は気付いていた。 <br>「おい、おい、あの娘、ミス・キャンパスの松風嬢じゃないか？」 <br>　と剣と燕に声をかけると、一瞬にして彼らの視線は集中する。続けて燕がつぶやいた。 <br>「そうだな。あの風になびいた時に、チラリと見える、うなじがたまらないよな～。ところでさあ。隣のメガネの娘はだれなんだ？なんだか対照的な感じで、かえって松風嬢が引き立っているよな～！」 <br>「お～ぃ！いつまで、見とれているだよ。講義に遅れるぞー！まだ、昼飯も食ってねぇんだし。行くぞ!!」 <br>　剣が二人を追い立てた。名残惜しいのか、後ろ髪を引かれる思いで、彼らは立ち去った。 <br><br>　みずほとちどりは、すでに店の前に立っていた。 <br>　ハナミズキだろうか、シンボルツリーが一本、その周りに草花が植えられている。いわゆる、イングリッシュガーデンになっていた。店の軒先には『coffee bakery 安眠』と書かれた木の看板が下がっていた。『安眠』の文字の上には“あみん”とご丁寧にルビまでふってある。 <br>「あいつのお勧めにしては、なかなか雰囲気のいいお店じゃない」 <br>「とりあえず、入ろうよ」 <br>　みずほは木製の扉の真鍮のドアノブを回した。扉を開けた途端、パンの焼きあがった香りが湧き出て来て、全身が香ばしさに包まれた。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>　このコーヒー・ベーカリ『安眠』だが、大きく分けて３つからなっていて、ちょうどＴ形になっている。 <br>　扉を入ると、まず焼きたてパンがズラリと並んだ、販売コーナーがあり、その一角のレジには、あやめが立っている。ここは、マスターの妹あきの担当だったが、今は看板娘のあやめの担当だ。 <br>　しかし、あきも独身の兄貴のことが気になるのか、あやめの『代打だ』と言っては時々この店に顔を出す。というか、あやめの都合がつかない日はほとんど来ているといっていい。 <br>　あやめによると、この店のお勧めは、ドライイチジクを練り込んだ“イチジクパン”である。ほかにも、女子好みのマンゴーなどを使った、スイーツ風のものあるがバケットがメインである。 <br>　右手奥には、パン工房。パン窯の前にはマスターの父、瀬戸光がいる。厳しい表情で、今焼きあがったパンの出来映えを確かめているが、理想が高くいつも今一つ納得はいかないようだ。当初は、夫婦で店を開く予定だったが、光がパン職人の修行中に、妻の美保が急逝した。店名の『安眠』は、そのような思いがこもっているのかも知れない。 <br>　また左手奥には、喫茶室があり、窓辺にテーブル席、壁際にカウンター席ある。販売コーナーとの仕切りのところには、純喫茶の定番ゴムの木の鉢植えがおいてある。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>「いらっしゃいませ」 <br>　あやめの元気な声に、みずほは思わず<br>「こんにちは」<br>と挨拶をした。ちどりは会釈したあとあやめにと尋ねた。<br>「こちらで買った商品を、中でいただくことはできますか？」<br> 「奥の喫茶室で召し上がれますよ。お飲み物はマスターに言ってくださいね」 <br>　早速ちどりは、トレイとトングを手に取り、品定めをはじめた。そして目に留まったのが“神戸メロンパン”だった。 <br>「みずほ、決まった？私、これにしようと思う」 <br>「へぇー、なんかラグビーボールみたいな形だね」<br>「中に白餡が入ったメロンパンだって。珍しいいでしょう」<br>「私は、激辛明太子ソーセージに決定！」 <br>　お目当てが決まると二人はレジに向かった。<br>「会計はご一緒でよろしいですか？」 <br>「ハーイ！彼女のおごりなんで」 <br>「580円になります。こちらでお召し上がりでしたね」 <br>　そう言うと、かわいい花柄のトレイに移し替えた。<br><br>　喫茶室に入った二人は、テーブル席に座った。 <br>　やがて、マスターがお冷やを持って来たが、二人はメニューに見入っていた。 <br>「お飲み物など、必要でしたら、お声掛け下さい」 <br>そう言って立ち去ろうとした時、ちどりがありがとうの意味を込めてニッコリ笑った。これが、マスターの動揺を誘うとは露知らず。 <br>　飲み物が決まったらしく、みずほがカウンターの方を向いて、声をかけた。 <br>「スミマセン。コーヒーとシナモンティー、お願いします」 <br>　その時、また目が合ってしまった。そして習慣なんだろうかちどりはまたニッコリ微笑んだ。<br>「コ…コーヒーは…、ホッ…ホットで、いい…よろしいですか？」 <br>もう完全に舞い上がってしまっているマスターに、さらなる追い討ちでちどりが、可愛らしく「ハ～イ！」と答えるものだから、ただただうろたえている。そこへ、こともあろうか北斗がトレイから出て来た。 <br>「あ～、スッキリした。マスター、どうしたの？顔が赤いし、震えているけど、風邪でも引いた？」 <br>　そう言って、マスターの視線の先を見た。 <br>「ヨッ！みずほ」 <br>「お兄ちゃん」 <br>「おっと！これは、これは、ちどり足のちどりちゃんじゃないですか～」 <br>となど言って、大げさなちどり足で二人のもとにやって来た。しかし、ちどりは、そんな北斗のことを完全に無視。だが北斗は、さらにちょっかいを出す。 <br>「ミス・キャンパスのちどりちゃん。大学のアイドルのちどりちゃんが、そんな冷たい態度でいいのかな～。でも、意外とプンプンしたお顔も、かわいいんだよね～」 <br>　たまりかねた、ちどりも「意外とは余計です。意外とは」と言い出す。 <br>「ほー。認めたね～。そんなにむきになって怒ると、彼氏できないゾー！」 <br>「うるさい！ほっとけ!!この御都合主義の傍若無人野郎ー！おめーだって彼女いないくせに!!」 <br>「お兄ちゃん!!いい加減にしなよ」 <br>　見かねた、みずほが止めに入った。すると北斗は、素直に引き下がり、残っていたコーヒーを飲み干すと、マスターに挨拶をし、なぜか「ちどり、またな」と言って去って行った。<br>「ちーちゃん、ホント兄貴のことになると、むきになるね。仲いいんだか悪いんだか」 <br>「うるせー、仲いい訳ないだろう！アッ、ゴメン私としたことが…。でもしゃくに障るよな～」 <br><br>「お…お待たせしました。ホッ…ホットコーヒーとシ…シナモンティーです」 <br>心なしか、マスターの手は震えている。ちどりは、今までのことが嘘のように「ありがとうございます」と、満面の笑顔で答えたものだから、焦ったマスター、コーヒーを少しこぼしてしまった。カップの隅に置かれた、バラの形の角砂糖が褐色に染まっていく。 <br>「す…すみません。今取り替えます…」 <br>「大丈夫ですよ。こうやってすぐに入れちゃえば」 <br>　みずほは、何事もなかったように、スプーンで崩さないようにすくうと、カップに入れた。さらに「素敵なカップですね。花柄がとってもかわいいです」と話し、まったく気にしていない様子だ。ちどりも「バラの形の角砂糖ってオシャレですね。白とピンクのペアもセンスいいですよね」<br>と話したが、マスターの頭の中には、またもや“ピンク”というキーワードが蘇った。<br> <br>　二人は、買ったパンを頬張った。 <br>「辛い！さすが激辛だね。でも美味しい」 <br>「このメロンパンも美味しいよ。アンパンとメロンパンの融合というか、絶妙なコンビネーション。でもシナモンティーに砂糖はいらないよね。カロリー取り過ぎちゃうから」 <br>　ちどりは、そう言って、おもむろに角砂糖をハンカチに包んだ。<br>　みずほは、そのハンカチを見て何かを思い出した。 <br>「ちーちゃん。先週の木曜日のことだけれども…」 <br>「先週の木曜日って…。アッー！私がファッション誌の撮影で休んだ日じゃない！」 <br>「でも、その日は講師の先生が急用で、結局休講になっちゃったんだよ」 <br>「私を見捨てて、抜け駆けするからだよ。それで、その日、何があったの？」 <br>　みずほは、その時のことを話した。<br><br>☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆<br><br>　急遽、休講になったため、みずほは一人、駅に向かって歩いていた。もう少しで、駅に着くというところで、雨が降り出した。走ればなんとかなったのかも知れないが、軒先で雨やどりすることにした。学生らしきカップルは、うれしそうに相合い傘で、通り過ぎて行く。ちどりと一緒に歩いていたときは気付かなかったが、この日に限って、そんな姿がやけに目立つように思えた。雨は時折、強くなったり弱くなったりしたが、うまくタイミングがとれず、立ち尽くしていた。<br>しばらくすると、雨が弱まった隙を狙って男性が駅を飛び出した。しかし、無常にも突然強くなり、やまれずみずほのいる軒先に飛び込ん来た。若い男ではないが、40才くらいだろうか？かと言って、オヤジ臭いわけでもなく、いわいるイケメンだった。彼は、笑顔で「すいませんね」と言って上着の雫を払った。みずほは、その凛々しい笑顔につい見惚れてしまった。なんと言っても、イケメンの彼からは想像できないことに、笑うと前歯から右に４本目の虫歯が印象的だったので、脳裏に焼き付いてしまった。 <br>　そんな彼であったが、時折、空を見上げたり、時計を気にしていた。きっと、急いでいるのだと思い、彼に買ったばかりのハンカチを貸してあげた。彼は、お礼を言うと、そのキティーちゃんのハンカチを頭に乗せて、雨の中を走り去って行った。<br><br>☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆<br><br>　みずほの話が、一区切りするタイミングを待っていたようで、再びマスターがやって来た。 <br>「さ…先程は、失礼しました。良かったら食べて下さい。サービスです」 <br>「ありがとうございます。いいんですか？」 <br>　みずほがお礼を言った。マスターは、嬉しそうに自慢した。 <br>「どうぞ、どうぞ。これは、ここでしか食べられない“パンプキン・パイ”です。僕が作った自家製です」 <br>「“僕が作った自家製”って、日本語おかしくない？自信作だよね」 <br>　ちどりは、そう言ってからしまったと思った。 <br>「あっ、ごめんなさい。余計なこと言ってしまって」 <br>　しかしマスターは、笑みを浮かべている。 <br>「あいつのせいだ…」ちどりは小さくつぶやいた。 <br>「意外に女性には人気なのですよ。でもパンの場所での販売はしてないのですし、持ち帰ることも出来ないですから」 <br>「へぇー。じゃーレアメニューですね」 <br>　ちどりはヨイショした。マスターもまんざらでもないようで、テレている。そんな二人をよそに、みずほはフォークてひとすくい口の中に。 <br>「う～ぅん。美味しい～!!ちーちゃん、これ、めっちゃ美味しいよ」 <br>「こら！先に勝手に食べるな！私も一口。う～ぅ、美味しい～!!」 <br>　マスターは、ただただ、微笑んでいた。 <br><br>　かぼちゃパイを食べ終えるまでの二人は、ほぼ無口になっていたが、何かを思い出したかのように、ちどりが口を開いた。 <br>「その男性に惚れちゃったんだ。で、イケメン？どんな人？名前とか聞いた？何している人なの？私も会って見たかったな～」 <br>　矢継ぎ早に、話すものだから、口を挟むことができない。 <br>「みずほにもついに春が来たってことだねぇ。ねーねー、黙ってないで、ちょっとぐらい教えてくれてもいいんじゃない」 <br>　一通り、ちどりのおしゃべりが終わるのを待ってから、みずほは話し出した。 <br>「あの時はそんな余裕なんてないし、連絡先も知らないし、名前すら聞いてないの」 <br>「な、なんで！ハンカチ貸してあげたんでしょう。それも買ったばかりの」 <br>「うぅん。傘、貸してあげようと思ったけど、返してもらえなかったら、困るし…」 <br>「えぇぇー!!傘、持っているのに、雨やどりしていたの!?」 <br>「うん。だって三段折りのって、乾いた後、たたむの大変でしょう。だから、使わない方がいいんじゃないかな～って思って…」 <br>「はぁーあ。まったくみずほらしいよ。と言うことはですね。その男性はどこのどなたか、全くわからない訳なんだ」 <br>「早い話しがそう言うことです。もう会えないのかな～」 <br>「困ったもんだ。神様にでも、お願いするしかないね」 <br>「・・・・・」 <br>「落ち込まないの！そのうち、いい事もあるよ」 <br>ちどりは、戸惑いながらも、みずほを慰めた。 <br>「しょうがない、帰りに５丁目の“大空神社”寄って、神頼みしに行こう」 <br>「うん」 <br>「現金なやつ…」<br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>「ただいまー」 <br>　北斗が帰って来た。<br>　あまりにも唐突だったのか、母親の国東みどりは“おかえり”も忘れて「あらっ？今日休みだった？」と言ってしまった。 <br>「おかえりもなしかよ。今日は非番。今から少し横になるから、晩飯できたら呼んでくれ」そう言うと、２階に上がり自分の部屋にこもってしまった。 <br>「本当に、あの子ときたら…、朝帰って来たと思ったら、夜出て行くし、かとおもえば、一日中ゴロゴロしてるし…、ちゃんと仕事しているのかしらねー。近所の人に『お宅の息子さん、お仕事辞められたの？』って言われているの知らないのかしら…」 <br>　みどりは、一人愚痴った。 <br><br>　夕方になりみどりは、夕飯の用意を始めたその時、みずほが帰ってきた。 <br>「ただいま！ちーちゃんとお茶して来た」 <br>　みずほは『安眠』での落ち込みが嘘のように元気にだった。気持ちの切り替えが早いと言うか、楽天的と言うべきか、まぁ、そういうところが、彼女の良いところでもある。 <br>「おかえり。あなたに何か届いているよ」 <br>「きっと“奇天烈小説”だー!!」 <br>　リビングに駆け込むと、出版社からの包みを開け始めた。 <br>「先に、手洗い、うがいしなさい！」 <br>　みどりの言葉も耳に入らないようだ。 <br>「やった！ほらほら、お母さん、あたしの小説“悪魔と天使の顛末記”載ってるよ。ほらココに。そうだ、明日ちーちゃんに見せなきゃ。ところで、お母さん、今日の夕飯何？」 <br>「カレーよ。手洗い、うがいしたの？」 <br>「まーだ」 <br>「早くして来なさい」 <br>「ハーイ」 <br>　手洗いうがいを終えたみずほは、珍しくキッチンに入って来た。<br>「何か手伝おうか？」 <br>「じゃー、野菜切ってくれる？今日はお父さんの帰りが早いから、久し振りにそろっての夕食ね」 <br>「お母さん。一応野菜切ったんだけど、このジャガイモの皮が剥けないっ」 <br>　見るとまな板には、1/4～1/6に分割されたジャガイモが転がっていた。 <br>「あなた！何やってんの？なんで、皮剥いてから切らないの？先に切ってしまったら、剥きづらいに決まってんでしょうが!!これじゃーピーラーも使えないじゃないの」 <br>「だってさ、リンゴは切ってから剥くもん」 <br>「リンゴとジャガイモを一緒にしないの！それに、タマネギを輪切りにしちゃうし…」 <br>「だって、その方がかわいいもん。じゃーお肉炒めるよね」 <br>　そう言って、コンロにフライパンを乗せると火をつけた。これ以上みずほが係わると返って面倒になると思ったみどりは「さわらない!!あなたがさわると、カレーがスイーツになっちゅう。あーぁ！お料理もできないようじゃ、お嫁のもらい手ないわ」 <br>　こういう言葉に対して、屁理屈だけは達者なみずほだ。 <br>「大丈夫、料理好きの彼氏見付けるから」 <br>　みどりも負けていない。血は争えないのだ。 <br>「何言ってんの。洗濯させれば、柔軟剤と洗剤間違えて、せっかくすすぎしたのに泡だらけだし、掃除させれば、そこら中のタオルや小物全部吸っちゃうし…ブツブツブツブツ…」 <br>「あれは…柔軟剤の表示が…、掃除機だって何でも吸い込むのがイケナイ…。イジイジ」 <br>さらにみどり小言は続く。ここまで徹底的に言われると、みずほもさすがに言い返すこともできない。 <br>「もういいから、お兄ちゃん起こして来て」 <br>「ファーィ！」 <br><br>　みずほは、北斗の部屋の扉をノックした。 <br>「お兄ちゃん、そろそろ起きて！」 <br>「オォ!!もう起きているぞ！」 <br>「ちょっといい？」 <br>　そう言って、扉をそっと開けた。北斗の部屋は、予想に反してきれいに片付いている。みずほとは大違いだ。 <br>「なんだ？」 <br>「お兄ちゃん、あのさ。思っていたんだけれど、今日、ちょっとちーちゃん、イジメ過ぎじやない？ かなり怒ってたよー」 <br>「いゃ～、悪い悪い。さすがに今日はちょっとやり過ぎだったな～」 <br>「どうして？今日に限らずいつも、あんなことばかりするの？」 <br>「いゃ～悪気はないんだよ。ホントに。ただ…」 <br>「ただ？」 <br>「いゃな、彼女、ミス・キャンパスだし、モデルもやっているんだろう。だからさぁ、なんか自分に嘘ついて、いつもニコニコしている。そんな風に見えるんだよな～」 <br>「まぁー確かにそう言うとこあると思う。」 <br>　みずほは、うなずいた。 <br>「でな、もっと自分に素直になって欲しいんだよ。彼女の笑顔は、確かにかわいいよ。いつもニコニコしていることは良いことだと思う。でもな、怒った顔だって、俺は充分かわいいと思うぜ。まぁ、泣いた顔はかわいいと言うよりも、可哀想になっちまうからな、あまり見たかないがなー」 <br>　みずほは、思わず感心した。 <br>「お兄ちゃんって、意外とちーちゃんのこと気に掛けているんだね」 <br>「意外とは心外だな～」 <br>「ひょっとして！ちーちゃんのこと、いいなーとか思っていたりして」 <br>「バ、バカ言え！俺が彼女に“お願しますって”握手求めても、“ゴメンナサイ！”ではすまないだろう。むしろ“てめーどの面下げて言ってんだよ！おととい来やがれ!!この、カス!!!”って、罵声を浴びるのが関の山だよ」 <br>「そうだね」 <br>　妙に納得する、みずほであった。 <br><br>「ただいま！」<br>　父親の国東八雲が帰って来た。<br>「お疲れさま！」<br>そう言いながら、みどりが玄関先まで出てきた。リビングからは、みずほの声が聞こえた。<br>「パパ、おかえり」<br>「あぁ、疲れた。でも今日は早く帰れてよかったよ」<br>「ご苦労様でした。先にお風呂に入りますか？」<br>「おっ！この香りは！今日はカレーだよな～。先に飯にしよう」<br>「ハイハイ」<br>　八雲は、居間で服を着替えると、リビングにやって来た。真新しい作務衣が似合っていた。みずほは、改めて声をかけた。<br>「パパ、お疲れさま」<br>「ただいま」<br>「おつかれ！」<br>　北斗は、軽く言った。相変わらずのぶっきらぼうだ。みずほは男同士って仲が良いのか？悪いのか？さっぱり分からなかった。八雲は、よっぽど娘が可愛いようで、みずほに向かって微笑んだ。<br>「パパ、これ見てー」 <br>　みずほは、今日送られてきた本を八雲に見せた。八雲は、手渡された本をパラパラとめくり出した。 <br>「パパ、ちゃんと見て。ここ！」 <br>　そう言うと、自分の書いた小説が載ったところを指し示した。 <br>「おぉーおー、すごいなー。みずほちゃんが書いた小説がちゃんと載っているじゃないか」 <br>　みずほは、少々自慢げだった。 <br>「この“悪魔と天使の顛末記”って、どんなお話なんだ？」 <br>「それはね、気弱な悪魔と高飛車な天使のお話で、二人は壷の中に閉じ込められていて、海に浮いているの。男の人が拾って開けると悪魔が、女の人だと天使が出てくるの。悪魔は３つの願いを、天使は1つだけ願いを叶える事ができるのよ・・・」 <br>　みずほは、長々と自分の書いた物語のあらすじを話し出した。八雲は“しまった”と後悔し、北斗に目で合図した。 <br>「親父！ビールでも飲もうか」 <br>　北斗が割って入った。 <br>「あたしもー！」 <br>　すると八雲が答える前に、みずほが答えていた。八雲は、北斗とみずほの顔を交互に見比べ、うなずいていた。北斗が冷蔵庫から、缶ビールを３本取り出そうとすると、みどりが“私もよ”と眼で訴えていた。 <br>「お父さん。ビール飲むのでしたら何かおつまみ要りましたねー？」 <br>「母さん、いいよ、いいよ。一杯だけだし」 <br>「みずほ、ちょっと手伝って、サラダ持って行ってちょうだい。おつまみにはならないかも知れないけれど、スモークサーモンが入っているから」 <br>「ハーイ！」 <br>　北斗は、缶ビールを食卓に置き、グラスを４つ並べた。みずほは、サラダを並べ、カレー皿にご飯を盛った。<br>「お父さん、すいませんねー。ビールとカレーになちゃって…」<br>「いいじゃないか。国東家らしくて。まずは乾杯」 <br>「おつかれさま、カンパーイ！」 <br>　四人は、グラスのビールを一気に飲み干すと、まるで“この一杯のために、今日も一日頑張った”という表情をしていた。 <br>　北斗は、人差し指を立てて“もう一本いく？”と合図した。八雲も“いいね”の意味合いを込めニッコリ笑った。そして、北斗がビールを持って来る合間に、目の前のカレーライスに手を着けた。 <br>「母さんのカレーは最高だね。お肉たっぷりで、コクがあって、うぅーん！まぃうー」 <br>　みずほとみどりは笑った。 <br>「ありがとう。色々凝っているのよ。隠し味にすりおろしたリンゴいれて、あと挽き肉は絶対入れないとね。仕上げはホイップクリームね…」 <br>　みどりは、自慢気に話した。<br> <br>　そんな二人の話をよそにみずほは、スマホを充電していたことを思い出した。 <br>「あっ！メール着てる」 <br>　そう言って、スマホをいじりだした。着信履歴が５件、メールが14件入っていた。そして、メールを開くと、本文がなく件名のみで入っていた。<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『てめ～！いつまで待たせる気だ!!』<br><br>　後ろから覗き見していた、北斗が「まったく、あいつらしいぜ」と言った。 <br>「お兄ちゃん！勝手に見ないの!!」 <br>　兄妹が、言い争っていることをよそに、八雲が一言。 <br>「でも、タマネギが輪切りなのは珍しいな～」 <br>「あっ、それはみずほが切ったヤツだわ～。この子にお料理させると何するかわからないのよー。こんなのでお嫁にいけるかどうか、心配だわ」 <br>　さっきまで、北斗と言い争っていたみずほは、あわてて夫婦の会話に入ってきた。 <br>「お母さん、ひどいよ。この方がかわいいよね～パパ」 <br>「あっあぁー。かわいい、かわいい。みずほちゃんの言うとおりだよ。みずほちゃんの言うことに間違いはない」 <br>「お父さん、あまりみずほを甘やかさないで下さい。この子、本当に家事ができないんですから。これじゃ、お嫁にもいけない」とみどりが言えば、北斗も口を挟んだ。<br>「化粧気もしないし、服装も地味って言うか、まったくセンスないし…」 <br>「いいもん。お嫁になんて行かないもん。パパもその方がいいでしょう」 <br>「そ、そうだな。みずほちゃんは、ずっとパパのもとに居ていいよ」<br> みどりと北斗は“ヤレヤレ”と思った。その思いを察した八雲は、話題を変えようと「飯済んだら、風呂に入ろうかな～」と独り言のように言った。 <br>　しかし、みずほは、すかさず言い出した。<br>「パパが先に入ったらダメだよ。だってさー、湯船のお湯がほとんどなくなっちゃうんだもん」<br>「あなたは、これからドラマ見るんでしょが…。パパが疲れているのに、入るのが遅くなるでしょう」 <br>　みどりが苦言を呈した。 <br>「じゃー、そのドラマ俺が録画しておいてやるよ」<br>　北斗の心遣いも<br>「あたしは、デッキのリモコン操作できないし…。もし、万が一再生に失敗してお兄ちゃんの大事な映画、消去しても知らないよ。いいの？」と言い出す始末。 <br>「運動音痴に、方向音痴、その上、味覚音痴の機械音痴、さらに恋愛音痴。ヤレヤレ、嫁のもらい手なんてありえねーな。母さんの言うとおりだ」そう言ってさじを投げた。その様子を終始みていた八雲は“うちのお姫様には叶わないな～”と苦笑いした。<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207341269.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅱ.ゆっくりとその胸元に抱かれる(前)</title>
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<![CDATA[ <font size="3">♪キン♬コン♬カン♬コン♪　♪キン♬コン♬カン♬コン♪<br> <br>　授業終了のチャイムが鳴り、みずほとちどりは、椅子に座ったまま背伸びをした。 <br>「うぃー！やっと終わった」 <br>「あーぁ！解放され…あぁっ!!はずれた」 <br>「ちーちゃん、どうしたの？」 <br>「背伸びしたら、ホックがはずれた」 <br>「付けてあげるよ。でも、大きく見せようって魂胆でしょ。サイズの大きいヤツにするから外れるんだよ～」 <br>「悪かったね。見栄っ張りで！」 <br>「ハイ。付いたよ」 <br>「ありがとう。ところで、これから行ってみる？」 <br>「ちーちゃん、あの店気に入ったんだね。あたしもだよ。行ってみようか」 <br>「せっかくだから、あすか先生誘ってみよう？」 <br>「アルカリ性の反対、酸性じゃなくて賛成」<br>(ちどり絶句)<br><br>　二人は、校内をうろつきまくった末、やっとあすかを見つけ出すことができた。 <br>「先生！やっと会えた。ここにいたのですか」 <br>「あたしたち、これから『安眠』に行こうと話していたんですが、一緒に行きませか？」 <br>「今から？ちょっと待ってね」そう言うとあすかは手帳を見た。 <br>「うん！大丈夫いいわよ。帰り支度して来るから、もうちょっと待っていて」 <br>そして部屋に入って行った。 <br>「ちーちゃん、良かったね」 <br>「ん！なんか楽しみ！」 <br>　やがて、あすかはピンクのワンピースに着替えて部屋から出て来た。講義の時とは全く違うこの姿にちどりが、喰いつかない訳がなく <br>「先生、素敵はワンピースですね。めっちゃ似合っています」 <br>「そう、ありがとう。ウィンドウショッピングしていたら見つけてね。衝動買いしちゃった」 <br>「袖口と胸元のレースがオシャレでかわいいですよ」 <br>「でしょう？でもちょっと若作りしちゃったかも…」 <br>「ぜんぜん、ゼンゼン。十分若いですよ！」 <br>　しかし、ファッションに余りぃゃ全く興味のないみずほは、かごの外だった。そして、そんなことより聞いてみたいことがあった。 <br>「あの～、盛り上がっている時にすみません。あすか先生、この大学の由来って…？」 <br>　みずほが言い出すと、今度はちどりが口を挟んだ。 <br>「なんで水を差すんだよ」 <br>「だって、ちーちゃんだけ盛り上がっていて、あたしはつまんないんだもん」 <br>「しょうがないな～。そう言えば、大学の名前なんだっけ？まだ一度も出てこなかったよね？」 <br>「“バカ田大学”だったりして。♪都の西北、早稲田の隣…♪」 <br>「それは、“バカボンのパパ”の出身校だろーが」 <br>　そんな二人を見て、あすかは、微笑ながら言った。 <br>「私たちの大学は『暁曙学園大学』ですよ」 <br>　ちどりは、みずほを小突きながら尋ねた。 <br>「みずほ。暁とか曙とか、いったいなんて意味なんだよ」 <br>「アカツキ…アホ・ボケ大学？バカ田じゃないんだー」 <br>「まだボケるか？…」 <br>「訓読みじゃなくて“ギョウショガクエン”です。暁も曙も夜明け前の状況を表す言葉ですね。つまり、近未来を開き、担う人になって欲しいという願いが込められているのです」 <br>　あすかは、優しく答えた。 <br>「へぇ！へぇ！へぇ～」 <br>「こら、トリビアじゃねーの！マジメにやれ！まして、トリビアって言葉もう死語だし」 <br>　あすかは、吹き出しそうになっていた。 <br>「漫才聞いているみたいで、とても面白いわ。本当に仲の良いお二人なのですね」 <br>「ありがとうございます」 <br>　二人は、なぜかお礼を言った。 <br>「あすか先生は、『安眠』ってカフェ・ベーカリ、ご存知ですか？」みずほが尋ねた。 <br>「学生たちが時々そのお店の名前話しているのを、聞いたような気がするけど、正直知らないの」 <br>「あたしたちも、ついこの前まで知らなかったですよ。とっても雰囲気が良くて、いい感じのお店なんです」 <br>「みずほの兄貴、ぃゃお兄さんが教えて下さったのです」 <br>「そう。優しいお兄さまですね」 <br>「お兄さま!?とんでもない！身の程知らずで、自分勝手、理不尽野郎の嫌みなヤツです。人の嫌がることばっかりするし…。あすか先生もあいつには気を付けた方が絶対いいですよ。超サイテー男…」 <br>「ちーちゃん！ちーちゃん!!もう、ホント兄貴のことになるとムキになるんだから」そう言ってちどりを落ち着かせた。 <br>「お話聞いていると、小学生の男の子みたいですね」 <br>「まったく、小学生のガキ以下だよ！」 <br>「ちーちゃん!!!」 <br>「あっ、ゴメン、ゴメン」 <br>「きっと、みずほさんのお兄さまは、ちどりさんに気があるのじゃないかしら。小学生の男の子って、好きな女の子に、ついついちょっかい出すでしょう」 <br>「あすか先生、冗談は止めてくださいよー。絶対ありえねー。もし、万が一、ぃゃ億、兆、京が一、告られても、おととい来やがれーって言ってやりますよ。まったく！」 <br>　またまた、ヒートアップするちどりであった。 <br>「そうそう、兄貴も、同じこと言ってた。でも、ちょっぴり、いいところもあるんだけどな～」 <br>　みずほもちょっと北斗をフォロー。 <br>「ないっ!!!!!!!!!」 <br>　結局、玉砕。 <br>「ハックション！」 <br>　北斗はくしゃみをした。 <br>「誰だ？俺の噂するヤツは…」<br> <br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　一方、『安眠』の常連、翼たちも店先まで来ていた。 <br>　剣が、扉を開けるといつものように「いらっしゃいませ」と声が響く…。<br>　しかし、いつもと声のトーンが違う。 <br>「何だ、おばちゃんかー」 <br>「ありゃっ？あやめちゃんじゃないんだ…」 <br>「誰が、おばさんなの？ピチピチの女子高生あやめちゃんじゃなくて、悪かったわね！」 <br>　剣と翼の言葉に、あきは嫌味を言いながら、彼らのほっぺたを指でつまんで引っ張った。<br>「イィテテテテ！ゴメンナサイ!!」 <br>　一歩遅れて入って来た燕は、 <br>「あきさんじゃないですか！お久しぶりです。しばらく見ないうちにお綺麗になりましたね」 <br>とヨイショしたものだがら、あきはあわててその指を離し「さすが燕くんは、正直で良い子だわ。君にはこれを上げよう」そう言って“焼きそばパン”を手渡した。 <br>「熟女好きのしらやんには、恐れ入りました」そう言い残して燕がもらった“焼きそばパン”を横取りし、一目散に喫茶室に向かう二人。さらにその後を「それ、俺の～！」叫び追い駆ける燕。その叫びをかき消すかのように「お二人さん、まだ何か言い足りないの？」と、さらに追い討ちを掛けるあき。“すっげー地獄耳”を思った剣と翼だった。<br><br>　喫茶室に入ると、いつもの指定席には、希たち女子三人組が座っていて、学園祭の話しに夢中だった。<br>「今度の学園祭、三人でステージに出ない？」と希が言い出した。<br>「学園祭って“暁曙学園☆明星祭☆”のイベントステージに出るの？ひょっとして『Perfume』の歌まねで～？」サクラが答える。<br>「いいねー！そして、学園の素敵な男子をメロメロにしてやろうよ」あおばも同意した。<br>「じゃー決まりね。で、曲は何にしようか？」サクラが言うと「“Hurly Burly”か“Sweet Refrain”がいいかな。でも“未来のミューシアム”もいいよね」とあおばも言った。<br>「そうね、ちょっと調べてみて、振り付けが覚えやすい方がいいと思うの。練習するにしてもあまり時間のないしね。それに衣装も作らなきゃならないしさ」希は、計画性があるようだ。 <br>「ステージ衣装か～。セクシーな雰囲気の衣装で男性陣を釘付けにするか？それともフリフリで可愛くきめるか？う～ん悩むな～。でも、なんかワクワクしてきたー！素敵な彼氏見つけるぞ！」 と、張り切るあおば。「おいおい。そっちがメインかよ！」とつっこむサクラ。 <br>　希も負けじと言う。 <br>「でも、あーちゃん、最近甘いの食べ過ぎじゃない？ピッチピチの衣装は、ちょっとまずいんじゃないの？」 <br>「誰が、ボンレスハムやねん！」 <br>　あおばの一言に、一同大笑い。 <br>「でさ、のっけは、やっぱあれだね」 <br>「あれって？」と希とあおばが尋ねた。 <br>「キメゼリフ」 <br>「なんだっけ？」 <br>「“のっちで～す！あーちゃんです！サクラ、で～す！３人合わせて『Perfume』でーす!!って、何でやねん！”ってボケだよ」 <br>　サクラも絶好調。 <br>「それいいかも」 <br>などと言いながら、三人は子供のように笑った。 <br>「そしてね。最後の仕上げは、この小杖で魔法を掛けるの…」と言って、サクラはシナモンの枝を振り回した。 <br>「え～なになに？その話初めて聞く。くわしく教えて」とあおばが言い出し「えっ！あーちゃん知らないの？有名な話よ～」と希は驚いた。そして、その意味を話し出した。 <br>「このシナモンの枝でさ、このガラス窓に大好きな人の名前を３回書くと、恋が愛に変わるんだよ」<br>　さらに、サクラがその由来を話し出した。<br>「それはね。ここのコーヒー･ベーカリーが、開店してしばらく経ったころの出来事で、私たちの大学の先輩の逸話なの…」<br><br>☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆<br><br>　ぽっちゃり系の、正直に言うとかなりぽっちゃり系と言うか、はっきり言ってぼっちゃり系の女子大生の守岡伊代は、偶然にもこの店を見つけると、よほど気に入ったらしく足繁く通っていた。<br>　ある日、大学の門のところでつまずき、ぶざまに転んでしまった。見事に鞄の中身が散乱し周りの視線と笑い声が気になり、あまりの恥ずかしさにしばらく起き上がれなかった。そんなところに一人の男性がやって来て、鞄の中身を拾い集め「大丈夫？怪我してない？」と優しく声を掛けてくれただけでなく手を差し伸べてくれた。<br>　恐る恐る顔を上げた伊代は、彼と目が合い手を握られた瞬間、不覚にも心を奪われてしまった。なぜなら彼は、女子大生の中で有名な、イケメン学生白鳥筑馬だったからだ。<br><br>　それ以来伊代は、ここ『安眠』この席に座ると、窓の外を眺めては叶わぬ恋にため息をついていた。そんな彼女を気遣ってマスターは、何も言わず一杯のシナモン･ティーをそっと差し出した。<br>「ありがとう。マスター」そうつぶやくように礼を言うと、バラの形の角砂糖をカップに落としては、ため息ひとつ。シナモンの枝でかき回しながら、またひとつついた。<br>シナモン･ティーがすっかり冷めたころ、手に持っていた枝で、何気なく“ちくま”と窓ガラスに書くと、一気に飲み干し席を立った。<br><br>　次の日も、彼女は同じように、そっと出されたシナモン・ティーがすっかり冷めるころまでかき回し、ガラスに名前を書くと、一気に飲み干した。<br><br>　そして次の日も…<br><br>　この日は、いつもと違った。それはいつものようにシナモンの枝で、彼の名前を書いた直後のこと、この店の前を自転車で偶然通った筑馬に、見つかってしまったようだった。しかし、彼はなぜか走り去ってしまった。<br>　虚ろな目でボーっと外を眺めている彼女にとって、一瞬、白昼夢のような出来事であり、事実か幻想かわからず仕舞いまま“夢でも幻でも会えて良かった”と思えた。<br>　そして、残ったシナモン･ティーを飲み干すと店を後にした。<br><br>　やがて、用事を済ませたらしく筑馬が、息を切らして『安眠』にやって来るとマスターに尋ねた。 <br>「すいません。こちらの席に座っていた女性は…？」 <br>「30分ほど前にお帰りになられました」 <br>　その言葉を聞き、少々落胆した彼は、先ほどまで彼女の座っていた席に座り込んだ。そして、ふと窓辺に目を向けた時ガラスに“ちくま”と薄っすらと書かれていることに気付いた。 <br>　注文することすら忘れていたのだが、いつのまにかシナモン･ティーがそっと差し出されていた。 <br>　しばらくすると彼は何かを思い付いたように“ここで待っています”と、シナモンの枝でガラスに書いた。そして、書いた後が乾くとその上をなぞり、それが乾くとまたなぞった。もちろんシナモン・ティーは完全に冷め切ってしまっていた。 <br><br>　翌日、彼は開店と同時に『安眠』に入った。 <br>　朝のパン売り場は賑わっていたが、喫茶室は客もおらず閑散としたカウンター席についた。窓際のテーブル席でも良かったのだが、一人陣取るのもはばかられるし、むしろ顔見知りに見つかりたくなかったからだ。 <br>　程なく初老の男が一人やって来て、コーヒーを注文すると、朝刊をマガジンラックから取り上げ窓際のテーブル席に座った。 <br>　マスターの「ご注文は？」の言葉に我に返った筑馬は<br>「モーニングってあります？」と尋ねた。<br>マスターは、肯定する代わりに「トーストに、バターとジャムを塗ってもよろしいですか？」と尋ねた。 <br>「あっ、はい。お願いします」そう答えると、先程の男性の方を見た。なぜなら新聞をめくるたびに、その端が窓ガラスの文字に摺れるからだった。<br>やがて「おじゃましまんにゃ〜わ」と、先ほどの初老の連れらしき男がやって来た。<br>「田沢さん、おはよーさん」<br>「えっと、どちらさんです？」<br>「水上ですがなー」<br>「あーぁ、水上さん。あーぁー」<br>「思い出してくれました？」<br>「いや、わからん。って冗談です」<br>　などと彼らは一通りのボケツッコミで挨拶を交わすと、向かい合わせに座りかみ合わない話をしていた。<br>　しばらくするとモーニングセットが運ばれて来た。プレートには2.5cmほどの厚さのトーストが半分に切られ、一方にはバターが、もう一方にはジャムが塗られていた。ちょっとした野菜サラダと湯で玉子も付いている。その傍らでコーヒーが良い香りをあげていた。 <br>　彼が、モーニングを食べ終わったころには、先ほどの二人の姿はすでになかった。 <br><br>　やがてプレートを下げに来たマスターが声をかけた。 <br>「コーヒー、お替りお持ちしましょうか？」 <br>「あっ、いや…」口ごもる筑馬に気を使ってか <br>「サービスですから、ご遠慮なく」 <br>「すみません。では１杯だけ」 <br>　湯気のたったコーヒーカップを持って来てくれたマスターに、彼は申し訳なさそうに言った。 <br>「マスター。ぃゃ、いきなりマスターは失礼ですね」 <br>「いえ、そう呼んでいただけると私もうれしいです。ご覧の通りパン屋は賑わっているのですが、　私の喫茶室はこんな状態で“マスター”なんて呼んでくれるお客さんもいませんから、本当にうれしいですね」 <br>「そうですか。じゃーせっかくなので、マスターに聞いて欲しいのですが…？」 <br>「彼女のことですか？」 <br>「まぁ、そんなところですね。彼女はよくこのお店に来られるのですか？そしてどうして虚ろな目で窓の外を眺めているのですかね？」 <br>「彼女は、この店の唯一って言ってもいい常連さんです。２、３日前ぐらいからかな、なぜか落ち込んでいるような、思いにふけっているような感じです。気分転換になればと思い、シナモン･ティーを差し出したのですが、あまり効果はなかったようですね」<br>　マスターは笑みをこぼした。<br>「そうなのですか。実は、ぼく彼女のことが…」 <br>「言わなくてもわかりますよ」 <br>「でも、周りのみんなに言われるのです。“おまえの趣味はおかしい”って。確かに彼女の容姿は整っているとは言い難いですが、いくら美人でスタイルよくても、それが素敵な女性だとは言い切れないと思うのです」 <br>「あなたのおっしゃるとおりですね。よく言うじゃないですか“美人は三日で飽きる。ブスは三日で慣れるって”あっ、これは失礼。前言撤回ですね」 <br>「いや、いいですよ。でも、僕にとっては彼女みたいな女性が一番素敵に見えるのです」 <br>「そう！それでいいと思います。信念を貫くことが大事ですよね」 <br>「ですよね」 <br>「彼女、来るといいですね」 <br>「ところでマスター、奥さんはきれいな方なのでしょう？」 <br>「まさか。まだ独身ですよ。性格が災いして…。君のような強い信念と勇気があれば…。なんてね…」 <br>　ほかに客が来ないまま、彼はマスターと話し続けていた。お替りは、１杯だけと言っていたコーヒーも、３杯は飲んでいただろうか、時間もお昼をとっくに過ぎていた。 <br><br>「いらっしゃいませ」 <br>　とあきの声が突然店内に響いた。<br>　筑馬とマスターは、一瞬にして黙り込んだ。入ってきたのは、やはり伊代だった。うつむき加減の彼女は、筑馬に気付くことなく、窓際の席に座った。そして、いつものように外を眺めようとしたとき“ちくま”のあとに“ここで待っています”の文字を見つけた。<br>　そしてその瞬間を待っていたかのように、シナモン･ティーが運ばれて来た。<br>「待ち人が、朝からお越しですよ」<br>　その言葉を聞いて振り向くとそこには、筑馬がニッコリ笑って立っていた。<br><br>☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆<br><br>「彼女らの話って、白鳥先輩のことだよな～」 <br>　聞き耳を立てていた燕が言った。 <br>「そうだな。まぁ、うちの大学ではソコソコ有名な話だからな」翼が答えた。 <br>「でもさ、さっきから聞いていたら、ロマンチックかなんだか知らないけれど、とどのつまりが、　先輩は“デブ専だった”ってことだろうが…」 <br>　剣が余計な口を挟んだことが、希たちの耳に入り「人それぞれだから…」と言いかけた翼の言葉を打ち消す如く声がした。 <br>「女性の話を盗み聞きするなんて失礼ですね！」 <br>「ホント、工学部の男ってデリカシーないんだから！」 <br>「最低！最悪！一昨日来やがれ！」 <br>　希たち三人はそれぞれ、捨てゼリフを放つと店を出て行った。 <br>「ありがとうございました」 <br>　お礼を言うあきの声も、心なしか虚しく聞こえた。 <br><br>「ワリぃ、ワリぃ。でもあれだね、サクラって子、かわいいんじゃない？のっちって子もいいね～。あーちゃんって子も捨てがたい…」 <br>　希たちの言葉にめげることなく剣は話し出した。 <br>「ケン！ひょっとしてそっち系!?」翼が尋ねた。 <br>「てっきり巨乳好きだけだと思っていたが、ドＳ好きだったとは…。俺たちのことを“熟女好き”だの“デブ専貧乳ロリコン”だの言っていたが“デカ乳ドＭ野郎”だったって訳か!!」 <br>燕がさらに覆い被さってきたが翼は、ただ笑っていた。 <br>「ぃゃ…だから…そういう…。バッサン！笑ってないで助けてくれよ～」 <br>「バッサンも、超ドＭのケンになんか言ってやれ！」 <br>　翼は、ただ笑い転げていた。<br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br> <br>　みずほたちが『安眠』にやって来た。 <br>「あすか先生。ここですよ。素敵でしょう」 <br>　みずほが自慢気に話した。あすかは、その店の外観に見惚れて、口をポカーンと開けたままだった。 <br>「店内も素敵なんですよ」<br>　ちどりが扉を開いた。 <br><br>「いらっしゃいませ」 <br>　あきの声が響く。 <br>　ちどりは、レジにいたのがあやめじゃなくて戸惑ったが、みずほは、そんなこと気にもとめず「かわいーぃ。今日のエプロン素敵ですね。 すごっくお似合いですよ」と誉めたものだから、あきは“えぇ？エプロン??”と戸惑いながらも、自分に都合よく“似合っている？私がカワイイ”と思い込みテレれた。 <br>　しかし、おもむろに顔を上げた時にはみずほたち三人の姿はなく、すでに喫茶室に入って行った。 <br><br>「俺はただ、一度でいいからデカオッパイで責められてはみたいと言うか…」 <br>「だから責めて欲しいんだろう。イジメられたいんだろうが！それが本心なんだろう!!」 <br>　剣と燕は言い合い、翼は大ウケして、相変わらず騒いでいた。 <br>　やがて、剣と翼がみずほたちに気付いた。 <br>「あぁぁぁ！ピンクの巨…ムグムグ」 <br>　翼があわてて剣の口をふさぎ、空いた手の人差し指を立てて唇に当てた。 <br>「しーっ。声が大きい。聞こえる」 <br>　燕も一瞬にして黙った。 <br>「バッサン、スマンスマン。オォ今日はピンクのワンピースじゃないか」剣は小声で言った。 <br><br>　みずほたちは、そんな彼らを意識することなく、窓際のテーブル席に座った。カウンターからは、ゴムの木が邪魔していて、あすかの表情が今ひとつ見づらい。良く見えるのは、向かいに座ったみずほとちどりの背中だけだった。 <br>　さて、そのあすかは、この店が思いのほか、と言うよりは度肝を抜かれるほど気に入ったようだった。 <br>「あすか先生？」 <br>「先生？先生？」 <br>　呼びかける二人の声も届かず、視線を遮る目の前の手が数回見えて我に返った。 <br>「あすか先生、このお店、気に入ったみたいですね」 <br>「私たちのこと忘れて、完全に自分の世界に入っちゃうだもん」 <br>「ごめんなさい。本当に素敵なのですもの。どこもかもね」<br>　三人は、思わず笑った。 <br><br>「マスター！お客さんだよ」 <br>「ミスキャンのちどりちゃんが来たよ」 <br>「それも、うわさの『ピンクの…』連れで…」 <br>　翼たちは、マスターを急かした。 <br>「あっ、ぁー」 <br>　“ミスキャン”に“ピンク”と言われて動揺しない訳はなく、その上ピンクのワンピースが目に入ったものだから、緊張と興奮に変な汗は出るわ、足はガクガクと震え、手も自分の腕でないかのように小刻みに震え出し、お冷のグラスに氷を入れようとしてもうまく入らず落としてしまい、何とか入ったものの注ぎ込んだ水は大半がグラスの外な訳で床は水浸し。意識が朦朧とする中、やっとのことでステンレスの丸盆にグラスを３つ載せ、両手でしっかり持ち、震える足をなんとか押さえて一歩一歩と踏み出す。そんなマスターを面白がり、ちゃちゃを入れる翼たち三人。 <br>「早くもって行かないとお冷が温まるよ」 <br>「お客さんお待ちかねだよ～！」 <br>「ピンクのお姉ちゃん帰っちゃう前に、早く行ってあげな！」 <br>　剣がマスターの背中をポンとたたいた。その拍子に案の定、マスターすってんころりんよろしく、丸盆をひっくり返して無様に転んだ。 <br>「大丈夫ですか？」 <br>　あわてて駆け寄り、転んだマスターを起こそうとしたのは、あすかだった。<br>「あなたたち！なんてことするの！」 <br>　三人を叱り付けた瞬間、マスターが我に返った。 <br>　目の前にはピンクのベール、ぃゃワンピースから垣間見えるみごとな谷間が…。あまりの衝撃に再び意識は薄れていき、顔面はゆっくりとその胸元に抱かれるのであった。 <br>　剣は、その光景に声にならない声を上げ、翼は広げた掌を顔に当て隙間から覗き、燕はあわててあきを呼びに行く。 <br>「なにしてるの！早く手伝いなさい!!」あすかの檄が飛ぶ。みずほとちどりは、テーブル同士をつないでベッドを作り、あすかは剣と翼の三人でマスターをその即席ベッドに横たわらせた。あきがおしぼりを冷やして額に載せると、気が付いたようで微かにうなり声を上げた。 <br>「お兄ちゃん！大丈夫？」 <br>　あきの声に目を開けた。 <br>　その時まぶたの奥に飛び込んできたものは、頭上から覗き込むあすかの顔と胸元だった。そして、鼻からは真紅の液体がゆっくりと流れ出てきた。 <br><br>「ホント、お兄ちゃんはドジというかマヌケというか」 <br>　鼻の穴にティッシュを詰めたマスターは、あきによってカウンターの奥に連れて行かれた。 <br>　やがて、あきがお冷を持ってみずほたちの席にやって来た。 <br>「ご迷惑をかけてすみませんでした。もう大丈夫ですからご心配なさらずに。ご注文は何になさいますか？」 <br>「えっと、メッチャおいしいパンプキン･パイを3つ」 <br>　みずほは、まるで何事もなかったかのように答えた。 <br>「お飲み物は、いかがいたします？」 <br>「おすすめってあります？」　ちどりが尋ねた。 <br>「おすすめはコーヒーなのですが、兄があの状態なので、シナモン･ティーでもよろしいでしょうか？」 <br>「えっ、シナモン･ティーがあるのですか？今時珍しいですよね。私好きなんですシナモン･ティー」あすかはそう言った。 <br>「では、パンプキン･パイとシナモン･ティーをそれぞれ3つお持ちしますね。それからご迷惑を掛けたうえ、お世話になりましたので代金は結構です。サービスいたしますのでゆっくりしていって下さい」 <br>「いや、そんな…」 <br>　言いかけたちどりの横で、みずほは「ラッキー！」とはしゃいでいた。 <br>　ちどりは“何がラッキーだっんだよ”と思いながらも、あすかの手前、口にすることもできず、苦虫を噛み潰したよう顔をした。そのことを察したあすかが、クスリと笑ったことをきっかけにみずほも笑い出し、結局ちどりもつられて笑った。<br><br>「みんなに迷惑掛けたのだから、あなたたちも手伝ってよ。返事は？」 <br>あきは翼たちに言った。 <br>「は～ぃ」 <br>　仕方なく返事する三人。 <br>「じゃー剣くんは、このパイを運んでちょうだい。翼くんはこの紅茶ね」 <br>「あの～僕は…？」 <br>「燕くんはね。シナモン・スティックとこの角砂糖」 <br>「これって、カップに添えるものじゃ…」 <br>「もし翼くんがこぼしたら、ダメになっちゃうでしょ。彼がテーブルにカップを並べたら、スティック１本と角砂糖赤白ひとつずつ置いてくれる。手で触っちゃダメよ。シュガートング使ってね」 <br>「はい、わかりました」そう答えると、スティック３本と角砂糖の入った瓶を、大事そうに持って行った。 <br><br>「先ほどはすみませんでした」 <br>　剣がバイを並べ、翼もガタガタと音を立てながらカップをなんとかこぼすことなく並べた。そして「ごめんなさい」と頭を下げた。 <br>　燕も手の震えを気にしながら、シナモン・スティックとバラの形の角砂糖を２個ずつ並べ「申し訳ありませんでした」と謝った。 <br>　すると、あすかは「大丈夫よ。気にしていないから。そんな暗い顔しないで元気だしなさい」そう声をかけると、交互ウィンクした。 <br>　それを見ていたみずほは「あすか先生、かっこいーぃ。こうやったらいいのかな？難しいぃな～、口が釣りそう。ちーちゃんどう。できてる？」と一生懸命真似をしょうとした。 <br>「みずほ、両目閉じて何がしたいんだい。ちょっとちょっと、口は開けなくていいよ。あーぁ、なんて顔しているんだよ」 <br>　ちどりが言ったので、翼たちも思わず笑ってしまった。 <br><br>　カウンターに戻って来た翼たちをあきは、笑顔でむかえた。 <br>「ご苦労様。意外と緊張したでしょう。お兄ちゃんは、マヌケなところあるからから、からかいたくなるだろうけど、そこそこにしてね。お客さんに迷惑かかるからね」 <br>「すみませんでした」 <br>　三人は声をそろえ頭を下げた。 <br>「済んだことはもう気にしない。あなたたちも飲む？紅茶」 <br>「ありがとうございます。いただきます」 <br>「ハイどうぞ。サービスよ。その代わりちょっとここお願いね。レジの方に行かなきゃならないから」あきはそう言って、パン売り場の方へ小走りで行った。 <br><br>　翼たちはいただいた紅茶を飲みながら話していた。 <br>「あきさんって、ホントいい人だよな～。優しくて、思いやりがあって…」 <br>「しらやん、ダメだよ。あきさんはもう人妻なんだから。バッサン、ところでマスターは？」 <br>　翼はカウンター越しに身を乗り出し、奥にいるマスターの様子を覗き見た。マスターは、椅子に寄りかかるように座り、鼻にはティッシュが、目の上にはあきが載せたおしぼりがあり、うわごとを言っているようだった。 <br>「ダメだ。完全に別世界を旅行中。きっといい夢見てるよ」翼はそう言うと、ヤレヤレという感じで両手を上げた。「あ～ぁ、マスターがうらやまし～ぃ！」剣は嘆いた。 <br><br>　一方、みずほたちと言えば、マスターのことなどすっかり忘れ去られ話しに夢中だった。 <br>「どうもこうも、見てられないよ。なにやってんだか…」 <br>「どうやったら、あすか先生みたいに上手にウィンク出来るんですか？」 <br>　みずほは相変わらず顔を歪ませながら尋ねた。たまりかねたあすかは丁寧に教えた。<br>「そうね～。じゃーゆっくり目を閉じて。そして片方だけ開いてみて。どう、できた？」 <br>「はい。それは出来ました」 <br>「じゃー、今度はゆっくり片方の目だけ閉じてみて。ゆっくりだよ。ゆっくり」 <br>「あぁ！できた!!ちーちゃんできたよ！」 <br>「まぁ、普通それぐらいできるものだけど…」 <br>「じゃー、ちーちゃんは出来るの？あすか先生みたいに」 <br>「交互にウィンクはちょっと自信ないけど、片方なら、ほら」 <br>「スッゴい。メッチャかっこいい！じゃー、ウィンクして投げキッス、やってみて！」 <br>　ちどりは、ポーズを決めてウィンクのあと投げキッスをした。 <br>「ちどりさん、素敵」 <br>　あすかが思わず言ったその直後<br>「仕事柄、この程度なら…」と言いかけたちどりの言葉をさえぎってみずほがちゃちゃをいれた。 <br>「ちーちゃんって、おだてたらついその気になって、何でもやっちゃぅんだよね～」 <br>「コラーッ」 <br>「ゴメン、ゴメン。でも、ちーちゃんにウィンクと投げキッスされたら、男子はみんな虜だよ」 <br>「そーか？それほどでも…」 <br>「だけど、彼氏はいませーん。あーら不思議！」 <br>「悪かったな！ここの男子学生の見る目がないだけだよ！」 <br>　そんなやりとりをする二人を見て、あすかはたまらず吹出した。 <br><br>「ところで、もうすぐ学園祭だね。あすか先生、今年の“☆明星祭☆”誰が来るかご存知ですか？」ちどりが尋ねた。 <br>「ちーちゃん、なんであたしに聞かないのよ？」みずほはちょっと不機嫌になった。 <br>「だってみずほ、そう言うことに疎いんだもの」 <br>「確か…女の子だったと思うな。私もみずほさんと同じで、あまり芸能人のことは良く知らないのだけれど、実行委員の話しだと『許してにゃん♡』とか言う、ギャグ持っている子みたい」あすかが答えた。 <br>「それって“ももち”じゃない。ほらイラドルの嗣永桃子ちゃん」 <br>「あ～ぁ、なるほど。ギャグ持っているっておっしゃるから、お笑い芸人かと思っちゃいましたよ。でも、なんで男性じゃないんだよ。男どもの趣味で選びすぎなんだよ。あ～ぁ、綾野剛くんか、佐藤健くんだったら、気合入ったのになぁ～」ちどりが言い出すと、またみずほが、「えぇ～！あたしは、俳優より、池井戸潤先生か、和田竜先生がいいなぁ～」 <br>「誰それ？」 <br>「えっ！知らないの？あんなに有名なのに？池井戸潤先生はね『半沢直樹』や『花咲舞が黙っていない』の作者で、和田竜先生は『村上海賊の娘』の作者だよ」 <br>「それだったら、石井あゆみ先生とか尾田栄一郎先生の方がいいな～」 <br>「えっ!?それってだれ～？」 <br>「ウソでしょう？みずほ知らないの？『ONE PIECE』の作者の尾田英一郎先生だよ！石井あゆみ先生は、小栗旬くん主演でテレビドラマ化された『信長協奏曲』の作者だよ。映画にもなっているんだから。そもそも知らないなんて信じられない、冗談はヨシコちゃんだよ」 <br>「『ONE PIECE』だったら“トニートニー・チョッパー”の方がいい。かっこいい角があるからね…」 <br>「“チョッパー”は女性に興味がないからダメ。それだったら“くまもん”だよね～」 <br>「ブーだもん！“くまもん”より“ピグモン”」 <br>「なんだよ“ピグモン”って？」 <br>「友好珍獣の“ピグモン”だよ。その昔、ウルトラマンのお話の中で人間を助けるために、レットキングに殺害された、あの伝説の“ピグモン”だよー」 <br>「ウルトラマンだの、レットキングだのって半世紀ほど昔の話だろう。あんたいったいいくつだよ!?」 <br>「24だけど。ダメ？」 <br>「じゃなくて。50過ぎているならともかく、おかしくネェ？」 <br>「でも、ちーちゃんレットキング知ってんでしょうが」 <br>「知らなーいもーん」 <br>　そんな二人の会話を聞いていた、あすかはとうとう笑い転げてしまった。もちろん、カウンター席の翼たちも「松風嬢って意外な一面あるよな。結構ユニークな娘じゃん」などと言いながら笑っていた。 <br>　あすかの予想外の状況と翼たちの笑い声に、二人の目は点に。「あすか先生？そんなに面白いですか？」二人は声を揃えて言った。 <br>「アハハハハァ。みずほさんとちどりさんのお二人見ていると、漫才みたいで…面白いのよ。あっそうだ。あのね、あなたたち学園祭で漫才してみない？実行委員からイベントステージの参加者紹介して欲しいって頼まれているの」 <br>　しかし、ちどりは 「でも、人を笑わせる自信ないし…」 <br>「ちーちゃん、やってみようよ。面白そうだし。学生時代の思い出になるしさー」 <br>「みずほは、ステージに立ったことないからわからないと思うけれど、かなり緊張するんだよ。それにネタも考えなきゃいけないし…」 <br>「エッヘン！あたし、曲がりなりにもこう見えて小説家なので、大丈夫、大丈夫。大舟に乗ったつもりで！」 <br>「本当に大丈夫かよ～？ドロ舟に乗ったことになるんじゃねーの？まぁ、とりあえず期待しているよ」 <br>「じゃー、決まりね。楽しみだわ。実行委員に伝えとくわね」<br><br>(つづく)<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207341136.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅱ.ゆっくりとその胸元に抱かれる(後)</title>
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<![CDATA[ <font size="3">(つづき)<br><br>「あすか先生に質問！」 <br>　みずほとちどりは、偶然にもハモった。 <br>「ちーちゃん、あたしが先！」 <br>「私が先だよ！」 <br>　あすかは“まぁまぁ、落ち着いて”という感じのジェスチャーをした。 <br>「出身大学はどこですか？」 <br>「どうして仏教学を専攻したのですか？」 <br>　それでも同時に質問されたものだから、圧倒されていた。 <br>「ちょっと、ちょっと待って！私が順を追って話すね」<br>　そう答えるあすかに、みずほとちどりはかぶりつくように構えた。 <br>「まず、私の出身大学ですが、それは“鈴蘭女学院”なの」 <br>「えっ！超お嬢様学校じゃないですか！もしかして小学校からですか？」ちどりは驚いて尋ねた。 <br>「そうね、実は幼稚園からずっとなのよ。だから、本当に世間知らずなの。周りは女の子ばかりで、この大学に赴任してはじめて男の子と接した感じかな。だから毎日、戸惑ってばかりで…」 <br>「いえいえ、そんなことないですよ」みずほが言った。 <br>「そう見える？ありがとう。それから、仏教学を専攻したのは、高校修学旅行で、奈良に行ったことがきっかけだったの。その時に“人の言葉を話す鹿さんがいるらしい”と言う噂を聞いて、どうしてもその鹿さんに会ってみたいと思ったの。だけど、修学旅行って団体行動が基本でしょ」 <br>「で、結局見つかんなかった」 <br>　みずほが口をはさんだものだから、ちどりが人差し指を口に当てたが、みずほは相変わらず気にすることなく話した。 <br>「なんだかそのお話、聞いたことあるような…。奈良は鹿で、京都が狐。大阪では鼠だったかな。なんだっただろうかな？“あかよろし”ちょっと違うな～…」 <br>「おしい！“あかよろし” じゃなくて正解は“あをによし”だったと思うわよ。だから高校卒業してすぐ奈良に一人旅にでたの。鹿さん捜しに」 <br>「それで、見つかったんですか？人の言葉を話す鹿さん」 <br>　ちどりが尋ねたので、今度はみずほが諌めた。<br><br>☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆<br><br>　高校を卒業したあすかは、大学入学までの休み期間に、ひとりで奈良に来ていた。名前が“あすか”なので人一倍奈良への思い入れは強かったし、絶対見つけ出す自信はあった。 <br>　奈良に着いた直後、真っ先に奈良公園に行き、それらしき鹿を探し回ったが、とてもじゃないが見当もつかない。どの鹿も同じような顔つきだし、まじまじと見つめられることに慣れていないようで、どうしても避けられてしまう。その日は歩き疲れてしまい、日が暮れる前に予約していた宿“大和路”向かうことにした。 <br>　宿に着くと、女将の美笹が出迎えてくれた。案内された部屋は、こぢんまりとした温かみのある和室だった。 <br>「ようお越しになられました。さぞお疲れでしょう」 <br>　美笹はそう言うと、お茶を注ぎあすかに差し出した。<br>「ありがとうございます」 <br>「お風呂はいつでもご利用いただけます。ご夕食は一階のお食事処にお越しください。何かお聞きしたいことはございますか？」 <br>「あっ、はい。つかぬことをお尋ねします。お宿のことではないのですが、奈良公園の鹿さんのことなのです。人の言葉を話す鹿さんがいると聞いたのですが、どこに行けば会えるのでしょうか？」 <br>「人の言葉を話す鹿ですか？人の言葉がわかる鹿ならいると思いますが、話せるとなると、ちょっとわかりかねますね」 <br>「そうですか…。あっそうですよね。変なこと聞いてすみません。ありがとうございました」 <br>　美笹の話を聞いて、変な人だと思われてしまったと思い、話しを切り上げた。 <br>「では、ごゆっくりお過ごしくださいね。失礼しました」そう言って、女将は部屋を出て行った。 <br><br>　あすかは、とりあえず風呂に入って汗を流すことにした。ヒノキ風呂で、窓越しに坪庭があった。そんな湯船に入り、明日はどのように捜すか、模索したが思いつかず、眠りに吸い込まれそうになった。 <br>　風呂から上がり部屋に戻ると、すでに寝床が用意されていて、思わず倒れこむと眠ってしまった。 <br>　どれほど眠ったのだろうか？ふと、お腹が空いて目が覚めると部屋の前に女将の気遣いでおにぎりが置いてあった。<br>『お疲れでしょう。気兼ねなくごゆっくりお休みください』とメモが傍らに添えられていた。 <br>　彼女は、おにぎりを頬張りながら“先に京都へ行って、動物園の狐さんに会って、鹿さんの居所を聞けばよかった”と後悔したが、気を取り直して、明日はもっと積極的に行こうと心決めした。 <br><br>　翌朝、朝食前の散歩に出かけ「鹿さん、鹿さん」っと声かけたとき、首を縦に振ってお辞儀する鹿に出会ったが見失ってしまった。、散歩を終え、宿に帰って朝食のとき美笹にそのことを話した。 <br>「それは、きっと人の言葉がわかる鹿だったのかも知れませんよね。鹿せんべいを手に持っていると、そのせんべい欲しさにお辞儀する鹿もいるそうですよ。一度試されてみては。中には人の言葉を話す鹿がいるかも知れませんよ。『おせんべいくれ』って」そんな美笹の言葉に、あすかは、今日も一日頑張って捜してみることにした。 <br><br>　しかし鹿せんべいを片手に「鹿さん、鹿さんお話しましょう」と声をかけまくったが、鹿せんべいがなくなると、みんな知らんぷり。それでも、若草山に東大寺、春日大社と人の言葉を話す鹿を捜しまわった。 <br><br>　三日目の陽が傾きだしたころだった。人の言葉を話す鹿さんなんているはずがないと、心が折れそうになり諦めかけていたころ。二月堂だったか三月堂だったか、そのあたりでぼんやりして寝そべる鹿たちを見ていたその時、奇跡が起きた。彼女の真後ろあたりで『おい。ポッキーないのかよ』っと言う声がしたように思えた。いや、確かに聞こえた。彼女はそう確信した。<br>　振り返るとそこには、一頭の牝鹿がいて、まるで“俺じゃないぞ”“違う違う”という雰囲気で、首を横に振っていた。いかにも怪しいと思った彼女は、その場を立ち去ろうとする牝鹿を尾行することにした。 <br>　牝鹿は後ろからつけて来るあすかを気にしながらも、黙ったまま歩き出し、懸命にまこうとしている様子だった。 <br>　結局、最後までその牝鹿は口を割らなかったが、着いた所はあるお寺の大きなお堂の前だった。そしてその牝鹿は、なぜかそのお堂の中に入ってしまった。<br>あわてて後を追い中に入ったが、牝鹿の姿はなく大きなみ仏様が鎮座されているだけだった。 <br>　あすかは、思わずみ仏様に手を合わすと『人の言葉が話せる鹿が見つかりますように』とお願いしていた。そして、目を開けみ仏様を拝したとき、自分自身がちっぽけな存在のように思え、その自分の小さな願いを、み仏様は聞いて下さっていると感じた。たくさんの人々の中から、たった一人この自分が選ばれ、取るに足らない願いを真摯に受け止めてくださっている、その有り難さを全身に感じ、気が付くと頬を涙が伝った。 <br><br>　翌日からのあすかは、鹿捜しが吹っ切れたようになり、飛鳥路・斑鳩の里を巡り、旅を満喫していた。もちろん彼女は、今まで感じ得られなかった幸せにつつまれていた。 <br><br>　いよいよ最後の日、宿の女将のすすめで、薬師寺・唐招提寺に寄って奈良を後にすることにした。 <br>　薬師寺の金堂に安置された薬師三尊像は、とても1300年以上昔に造られたものとは思えぬほど黒光りし、その威容に圧倒された。　また、唐招提寺の金堂内には、中央に本尊・廬舎那仏坐像、右に薬師如来立像、左に千手観音立像の巨像を安置されていて、薬師寺とは全く異なった趣があった。 <br>　あすかは、堂内で手を合わせて祈っていると、近くにいた一人の男:男鹿が、独り言のように話し出した。 <br>「この千手観音さまはね、本当に千本の腕があったのですよ。でも修復を繰り返すうちについていた場所がわからなくなって、現在は、953本なんだそうです」 <br>　その声は、聞き覚えのあるものだったが、つい相槌を打ってしまった。 <br>「へぇ～！じゃ、九百五十三手観音さまなのですね」あすかの言葉に、その男は笑ったが質問をしてきた。 <br>「なるほど面白いことをおっしゃるお嬢さんだ。では、千手観音さまなぜ腕が千本おありかわかりますか？」 <br>　あすかは、しばらく考えて「一人でも多くの人を救いたいから」そう答えた。 <br>「すばらし、そうですね。仏の世界では、人々のことを衆生と言いますが、どのような衆生をも漏らさず救済する誓願なのですね。千手観音様とは、観音様の変化身で餓鬼道の救済に当たられている仏様なのです。ところで観音様ってわかりますか？」 <br>「観音様っていう言葉は耳にしますが、正直あまりよく知りません」 <br>「観音様はまたの名を、観自在菩薩と言ってその名の如く自在に変化して応現します。実は“般若心経”に登場していますよ」 <br>「そうなのですか。今度“般若心経”勉強してみます」 <br>「悟りって知っていますか？」 <br>「難しくて、今の私にはよくわかりませんが…」 <br>「たとえば、一生懸命頑張っても失敗して、また最初からやり直さなければならなかった時、人は“不向きなのだろうか”“なぜこんな目に…”などと愚痴が出たり、ネガティブになってしまう。でも、考え方を変えれば“初心忘れるべからず”あるいは“初心貫徹なんだ”などと思えたら、それが一種の悟りなのかも知れない。仏様のみこころを知れば知るほど、気付かなかったことに気付き、いつも傍らで応援してくださっていると思えるようになると、前向きになるようのではないかな」 <br>　あすかは、仏様を見て“なるほど”と思った。そして、仏様からその男の方を見ると、彼の姿はすでになかった。 <br>　それ以来、あすかは、仏教という教えが、み仏様のみこころが知りたくなり、仏教学を専攻したのだった。<br><br>☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆<br><br>「なん～だ！言葉がしゃべれる鹿さん見つからなかったんだ」 <br>「みずほ！おめぇー、せっかくあすか先生がいい話しして下さったの、聞いてなかったのかよ?!」ついつい、ちどりの口も悪くなってしまった。 <br>「聞いていたよ。み仏様は慈悲深いってことでしょ」 <br>「まったく！」 <br>「ちどりさん。いいのよ、人それぞれ個性があるから、世の中は面白いのよ。みずほさんだって、言葉がしゃべれる鹿さんのお話に興味があって“そんなお話が書けたらいいなー”って思っていたんじゃないかしら」 <br>「さすが、あすか先生。でもすっごく参考になりました。言葉がしゃべれる鹿さんか…」SF小説の参考になると思ったみずほ深く感心した。そしてちどりは「仏教学って奥が深いのですね。私もお寺参りしてみようかな～」と言った。<br><br>「あっ！もうこんな時間だ。先生色々お話ありがとうございました」 <br>　ちどりが時計を見てそう言った。 <br>「そうね、じゃそろそろ出ましょうか」 <br>「今日は、ありがとうございました」 <br>　お礼を言うと、みずほたちは、おもむろに席を立った。それを見た剣は、マスターに声をかけた。 <br>「マスター！いつまで夢見ているんだよ！お客さんお帰りだよ」 <br>　あすかは、翼たちの方に足を運び、声をかけた。 <br>「君たち、大淀教授にそそのかされて、私の講義、受けていたみたいだけれど、そんな余裕ないんじゃないの。ちゃんと勉強しないと、追試験になるわよ。では、お先に失礼するね。あっ！店長さん。もうお加減大丈夫ですか？今日はご馳走様でした。また、寄せていただきますね」 <br>　そして、マスターにウィンクをした。 <br>「・・・・・」 <br>　翼たち三人は絶句し、マスターはぼう然としていた。ちどりは、ちょっぴり赤面したマスターを小突いた。我に返ったマスターは、あすかに一言「毎度ありがとう」そう言って頭を下げた。その言葉にちどりは言い放った。 <br>「あすか先生は今日初めてのお客さんだよ。それって、おかしくねぇ？」<br>　みずほは、またまたちどりにとって訳のわからない行動に出た。なんと、彼らに「炊飯器！」と言って通り過ぎたのだ。ちどりはあ然としていたが、翼だけが突然吹き出し爆笑した。 <br>「バッサン、なんなんだ？“炊飯器”って！」 <br>　剣が尋ねたが、その意味にようやく気付いた燕が笑いながら答えた。 <br>「“じゃー”って意味。つまり“炊飯器”＝“ジャー”」 <br>「なるほど！」 <br>　剣は感心していたが、遅ればせながら気付いたちどりは、あまりにもバカバカしくて、思わず大笑いしてしまった。 <br>「ちーちゃん、行くよ！」レジの方から、みずほの呼ぶ声がした。 <br>　あすかは、あきに丁寧にお礼を言うと、みずほたちと共に『安眠』をあとにした。 <br>　残された、翼たちはあの講義潜入がバレていたことを知り、話し出した。 <br>「ひょっとしてあの教授にハメられた？」燕が言い出すと <br>「大淀教授が『文学部のあすか准教授の胸はデカい。男のロマンだ。一見の価値あり』なんて言うから、潜入を実行したんだぜ」 <br>「きっと、あすか先生は、その事を知っていたんだよ。もしかしたらそれなりの仲だったりして」 <br>翼が言い出した。 <br>「それはまずい。大淀教授の野望を挫くためにも、ミス・パンプキンを守らなければならない！」　剣は少し慌てた。 <br>「“ミス・パンプキン”かぁ！いい響きだ！」　翼は妙に感心していた。 <br>「なぁなぁ。どうせなら、マスターにはもったいないけれど、いい夢を実現にさせてみようか。普段から世話になっているし。恩返ししないとなぁ」燕が言うと、翼も「確かにもったいない！いや確実にもったいない」 <br>「でも、マスターの意見も聞かないと…。もし、松風嬢の方だったらまずいし…」 <br>　剣は、あすかに若干の思い入れがあるのか、消極的だった。 <br>「だけど、マスターはあすか先生の胸に抱かれたんだぜ。その責任はとってもらわないとね～」 <br>　剣の思いを絶つために、翼が語気を強めて言ったので、剣も覚悟を決めた。 <br>「しょうがない、とにかく本人に聞いてみるか。おーい！マスター！マスター!!なにボケーっとしてんだよ」 <br>「あぁ？呼んだぁ？」 <br>「単刀直入に聞く、マスターは、ミス・パンプキン、ぃゃあすか先生のこと、どう思う？」　剣が尋ねる。 <br>「あすか先生って？誰？」 <br>「マスターを抱きしめて介抱してくれた命の恩人だよ」　燕が言った。 <br>「えぇっ！俺は何もしてない。神に誓って」マスターはそう言いながら赤面した。 <br>「赤くなったということは…」翼が鋭く突っ込む。 <br>「違う！違う!!誤解だ！」必死に弁解するが、さらに、燕がマスターを追い詰める。 <br>「じゃー、髪の綺麗な“ちーちゃん”って娘か？そ・れ・と・も、メガネ女子？」 <br>そして、しびれを切らした剣が一言。「男なら正直に言えよ！」 <br>「あっハイ。今日、初めて来られたら、ピンクの方です…」 <br>　マスターの回答を聞いて、翼と燕は「了解！」「幸運を祈る！」と言うと、成り行き気になるマスターは「なんとなく、いやな予感が…勘弁してくださいよ～ぅ」と唸った。 <br>「なに弱気なこと言ってんだよ」 <br>「ガンバレ！ガンバレ！」 <br>「さて、マスターも生還したことだし、俺たちも帰りますか」そう言うと、翼たちも店をあとにした。<br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　翌日、あすかは一人で『安眠』へ向かっていた。 <br>　扉を開けると、レジにいたあやめが挨拶をした。<br>「いらっしゃいませ」<br>「あれ、昨日のお姉さまと違って、今日は可愛いお嬢様なのね。コーヒーいただきに入ってもいいかな？」 <br>「はぁ。あっ、どうぞ」 <br>「ありがとう」 <br>　あすかはそう声をかけると、昨日と同じ席に座った。別のテーブル席には、常連の翼たちもいたが、話しに夢中であすかが来たことに気付いていなかった。席の座る人影を見たマスターは、すかさずお冷やを丸盆に乗せ、注文を聞きにやって来た。 <br>「いらっしゃいませ。ご注文は？」 <br>　しかし、そこにいたのが、あすかだとわかるとガチガチに緊張した。 <br>「店長さん、昨日はご馳走様でした。お加減は如何かしら。今日は、店長さんお勧めの美味しいコーヒーとあのパンプキン・パイを下さい」 <br>「コッ、コーヒーはブッ、ブレンドとス、ストレート、ど、どちらがよろしいですか？」 <br>「では、飛び切り美味しいストレート・コーヒーをお願いしようかしら」 <br>「お、お勧めのス、ストレート・コーヒーとパ、パンプキン・パイ、お持ちします」 <br>　マスターはそう言うと、カウンターの方に向かった。ただ、歩き方が壊れかけたロボットのようで、右手右足が、続いて左手左足が同時にでていた。さらにその様子を翼たちに目撃されてしまった。彼らは“もしやミス・パンプキンが来ているのでは”とすぐさま感じた。 <br>「なぁ、マスター、ガチガチじゃないか」　燕が呟くと、剣が答えた。「さては、ミス・パンプキンが来ているんじゃないの。ほらやっぱり来ているぜ」 <br>「まぁこの際、マスターのためにも気付かないフリして見守ってあげようぜ」 <br>　そう言ったのは翼だったが、剣は面白半分でこう言った。「おいおい、見守るって、人間ウォッチングってことか？」 <br>「なるほど、意外と面白いかもよ」そう答えたのは、燕だった。 <br><br>　しばらくしてマスターは、コーヒーとパンプキン・パイを、あすかの元に持って行った。 <br>「お、お待たせしました。コ、コーヒーとパ、パンキプン？パイです」 <br>「パンプキンですね。このコーヒー、香りがとっても良いですね。コーヒーの銘柄は？あっちょっと待って下さい。当ててみますね」そう言うと、あすかはコーヒーを一口含んだ。 <br>「う～ん、なんだろう。ブラジル？」 <br>「あっ、いいえ」 <br>「キリマンジャロ？」 <br>「違いますね」 <br>　マスターの顔が少しほころんだ。 <br>「えぇ～なんだろうなぁ。他に何がありましたっけ。UCCじゃなくてNestle。いやそれはインスタントだし。降参、正解を教えて下さい」 <br>　そんなあすかの雰囲気に和まされたマスターは、いつしか緊張もほぐれにこやかに答えた。 <br>「正解は、ブルーマウンテンです。お味は如何ですか？」 <br>「とっても美味しいです。これがブルーマウンテンなんですね」 <br>「ありがとうございます。では、ごゆっくり」そう言ってその場を離れた。よっぽど嬉しかったのだろう、顔つきがニマニマしている。しかし、万悪くと言うか、ウォッチングされている訳なので、翼たちに終始見られてしまっていた。 <br>　剣は、気付かないふりして通り過ぎようとするマスターを、呼び止めた。焦ったマスターは、平静を装っていたが、見るからに動揺している。 <br>「もしかして、ミス・パンプキンが来ているんじゃないの？」燕は白々しく言った。 <br>「いゃ、まぁ…」 <br>「何を動揺しているんだよ。お客さんで来ているだけなんだろうが」 <br>「あぁ！そっ、そうそう。そうだよ。お客さんが来ているだけ」 <br>「でも、チャンス到来。ガンバ！」 <br>「あぁー」 <br>　マスターは“まずい奴らに捕まったな～”と思い肩を落としてカウンターの奥に引っ込んだ。 <br><br>　その後しばらく引っ込んだままのマスターに、痺れを切らした翼たちは、代わる代わる“アタックしろ”と目で合図したが、うまく視線をそらされてしまいイライラし出した。そんなとき、翼がこんなことを言い出した。 <br>「いっそうのこと、ミス・パンプキンにマスターのことどう思うか尋ねてみようか？」 <br>「おぉ、それはいいね～。でも、ミス・パンプキンなら彼氏いてもおかしくないよな～」燕も興味があり乗る気だった。 <br>「だったら、その事は確認しておかないと、マスターいきなり失恋 ってことになるぜ」剣も話しに乗ってきた。 <br>「愛のキューピッドの俺たちにとって大事仕事だからな」 <br>「愛のキューピッドって柄じゃないが、悪くない話だな」 <br>　そう言って三人は笑った。 <br>　剣がおもむろに立ち上がると、あすかの方へ向かった。 <br>「あすか先生、こんにちは」 <br>「あら、剣くんだったわね。他のふたりは？」 <br>「あっ、いますよ。向こうに」そう言われて、視線を向けると翼と燕が手を振っていた。 <br>「あら本当。良かったらこちらに来たらいかが？」 <br>「えっ！いいのですか？じゃー、お言葉に甘えてお邪魔しまーす。おーい！こっち座っていいってよ」 <br>　剣がふたりを呼んだ。「ラッキー！」そして翼と燕は喜んだ。 <br><br>「ケン！なんで、お前があすか先生の隣に座るんだよ！」 <br>　燕は、あすかの隣に陣取った剣が気に入らなかったようだ。 <br>「成り行き。成り行き。お前だって真正面に座っているじゃん」 <br>「あっ！さては胸元…」 <br>　悔し紛れに、燕はちゃちゃを入れる。そして、あわてて言い訳する剣。 <br>「バ、バカ言え！俺は…」 <br>　そんな彼らの下心を察知したあすかは「剣くん、余計なことすると、セクハラで…」と言った。 <br>「し、しません。しません。しませんよ」 <br>「翼くんも、燕くんもだよ」そう言われて燕は、また余計なことを言い出した。「滅相もない。それにコイツは大丈夫だと思いますよ。寧ろセクハラよりたちの悪い、未成年…、児童…」　翼はあわてて燕の口を塞いだ。 <br>「俺は、ロリコンじゃねぃ！」と口走って、“しまった！”と思った。 <br>「バッサン、自爆！」　喜んだのは燕だった。 <br>「あなたたちって、本当に仲が良いのね」あすかはそう言って笑った。 <br>「でもね。因果応報ってことわざ聞いたことあるでしょう。良いことをすれば、よい結果があり、悪いことをすれば、悪い結果があるということね。そしていつか必ずその報いは訪れるものなの。褒められたり、叱られたりするのはその報いかもね。でも往々にして意外な形に変化したものが、忘れた頃にやってくるのよね。だから気をつけた方がいいわよ」と、諭した。 <br>「なるほど、叱られているうちが華ってことですね」翼が答えた。しかし、燕はよく解っていなかった。 <br>「えっ？それってどういう意味??」 <br>「つまり、悪いことをしたから、その報いとして叱られる訳で…ってあすか先生言っていたじゃん。聞いてなかったのか？」 <br>「あっ！なるほど！」燕もやっと解ったようだ。 <br>「あすか先生って博学ですね」剣がヨイショしたが「何言っているの。私はこれでも仏教学の講師なのよ」とあしらわれた。 <br>「恐れ入りました」<br>「ところで、あすか先生ってめっちゃ、チャーミングでセクシーですね」 <br>「あら、そう？でも、おだてても果報はないわよ」 <br>「いえいえ、世の中の男性があすか先生に惹かれない訳がないでしょう～」 <br>「もちろん、彼氏とかいるんですよね」などと、剣に続いて翼や燕も言った。 <br>「えぇ？そう見える？ありがとう。パンプキン・パイならご馳走してあげてもいいわよ」 <br>「いいえ、今日は遠慮しておきます」翼たちは、手を横に振った。 <br>「そう。遠慮しなくていいのに。彼氏だけど残念ながら今はいないのよ。どちらかと言うと奥手なのかな。それとも男の人が私の魅力に気付いていないとか？」そう言って笑い声の絶えないあすかと翼たちが気になるマスターは、しきりにカウンター越しから覗き込んでいた。 <br><br>「いらっしゃいませ」レジの方からあやめの声がした。 <br>「あやめちゃん、今日も元気いいね～！」そう言って入って来たのは、北斗だった。 <br>「若いから、元気だけが取り得ですからね」 <br>「そんなことないよ！」などと話すと、喫茶室にやって来た。 <br>　マスターは、“また厄介な奴が来た”と思い、見つかるまいと奥に引っ込んだ。 <br>　北斗は、翼たちをすぐに見つけると寄って来た。 <br>「おお！みんな盛り上がっているね～！３対１の合コンかい？」 <br>「先輩！」 <br>「あっ！こんちは！」 <br>「お疲れ様です」 <br>　翼たち三人は、かわるがわる挨拶した。 <br>「ところで、この綺麗なお姉ちゃん誰？俺にも紹介しくれよ」 <br>　あすかは、失礼な人だと思ったが「暁曙学園大学の講師の浅間あすかです」と名乗った。<br>「へぇ～。大学の教授さんかい。それにしても、オッパイデカいな」 <br>　翼たち、少しあたふたしていたが、翼は腹をくくって言った。 <br>「先輩。いくらなんでも失礼ですよ」  <br>「そうか？いや、邪魔して悪かったな」 <br>　北斗は意外にもあっさり引き下がった。そして、そそくさとカウンター席に向かった。 <br>「すみません。失礼な先輩で」剣が謝ったが、あすかは気分を害しているようだった。 <br>「うちの大学を卒業した先輩で…名前は国東北斗といいます」 <br>「僕たちにとっては、いろいろ世話になっている先輩なので大目に見て下さい」 <br>「お願いします」 <br>　そんな翼たちの言葉に、あすかも納得したのか「わかったわ」と言った。ただ、どこかで聞き覚えのある名前だったので、ちょっと引っかかったが、深く考えないことにした。<br><br>　燕は場の雰囲気を変えようと尋ねた。 <br>「あすか先生？ここのマスターのこと、どう思います？」 <br>　その言葉は聞き耳を立てていたマスターにも届いたが、あまりの唐突だったため、思わず噴いてしまった。面を食らったのは北斗の方だった。 <br>「おい！マスター大丈夫かい？ひょっとして風邪でも引いたのか？」 <br>「いえいえ、大丈夫です。ちょっと、ちょっとね」 <br>「変なんマスターだなぁ。まぁいつも変だけど。とりあえずいつもの、頼むわ」 <br>「あっ、はい。畏まりました」 <br>　北斗は“畏まりました”って、やっぱりおかしいと思った。 <br><br>　一方、あすかの方は、唐突な質問に臆することなく答えた。<br>「マスターって、店長さんよね。面白い方ですね。生真面目で、純粋で、どこか抜けていて、でも憎めない。心の優しい方のように感じます」  <br>「でも、照れ屋で、引っ込み思案で、かなりのマヌケですよ。あまりいいところないんじゃないですか？」　剣が言うと、打ち消すように「それはちがうわ。長所と短所は、表裏一体なのよ」 <br>　その言葉に、翼と燕は驚いた。 <br>「えっ？そうなんですか？」 <br>「どうしてなんですか？」 <br>「知りたい？」 <br>「ハイ！教えてください」<br>「例えば、ガンコって言うと、欠点のように思えるでしよう」 <br>「確かに、我がままみたいで、気難しそうです」 <br>「でもね、視点を変えるとね、芯がブレないとか、自分自身の考えがしっかりしていると言えるよね」 <br>「なるほど！」 <br>「それに、ちょっと大げさかもしれないけれど、人間国宝とか、世間で認められた人たちってガンコな人が多いと思わないかしら」 <br>「確かにそうですね。でも、照れ屋で、引っ込み思案で、マヌケってかなりの欠点じゃないですか」 <br>　剣がさらに尋ねた。 <br>　そうかな？私は、図々しい人より照れ屋で、引っ込み思案の人の方がいいわね。マヌケなところも愛嬌があるんじゃないかしら。あなたたちも店長さんのそう言うところが好きなのでしょう」 <br>「まぁ、好きと言うか…憎めないですね」翼が言った。 <br>「それに、このお店に入るとわかるような気がするのね。お店のコンセプトと言うか、雰囲気が人柄を物語っているように思えるのよ」 <br>「どう言ったところに、マスターの心の内がこの店に現れているのですか？」今度は燕が尋ねた。 <br>「そうね。まず外観だけれど、春のイメージで、子供の頃の遊び場的なお庭の感じかな。パンの販売コーナーは、夏のイメージで、若者たちの集いの場。そしてこの喫茶室は、秋のイメージで、大人の憩いの処と言う感じかしら。子供から大人あるいはお年寄りまで気に入っていただけるように考えて設計されているんじゃないかしら」 <br>「なるほど、奥が深いんですね」 <br>　翼たちはその洞察力に驚いた。 <br>「まだまだあるわよ。コーヒーカップひとつ取ってもそうだし、シュガーポットではなく、今時珍しい角砂糖でしょう。それもバラの形で白とピンク」 <br>「あすか先生、すごいですね。僕たちは何気なく心地いいからついつい来てしまうけど、それなりの理由があったんだ」 <br>「それに、あすか先生の言う通り、マスターって人がいいよな～」 <br>　三人は妙に納得した。 <br>「あすか先生とマスターって、意外とお似合いのカップルになれるかもね」そう言い放った翼の言葉をさえぎるようにあすかは言った。 <br>「ところで君たち、勉強はしているのかしら。明日か明後日に試験があるんじゃないかしら～」  <br>「あっ、やべ～。完全に忘れていた。バッサン大丈夫かい？」燕が言い出した。 <br>「ケンお前が『安眠』で試験の傾向と対策立てようなんて言うからだせ。はっきり言って俺もマジでヤバイぜ！」 <br>「あすか先生に見惚れてしまって、何のためにここに来たか忘れていた。そろそろおいとまして、ちょっとでもやっておくか。あすか先生、有り難う御座いました。突然でありますが、失礼します」剣が言うと、あすかは「そう。ではお三人さん頑張ってね」と言いながら、ウィンクをした。<br>　翼は「ありがとうございました」と頭を下げたが、燕は下手なウィンクをしたため、あすかは吹いてしまった。とりあえず、手を振って彼らを見送った。 <br>　翼たちは、北斗とマスターに挨拶をすると、レジのあやめに一言声をかけ、そそくさと『安眠』を後にした。<br><br>　あすかは静かになったころ、ため息をついた。そして、窓の外をぼんやり眺めていた。 <br>「マスター！あの先生、なんかブルーな感じだね」北斗が言ったが、マスターは「ああ～」と言ったきりで、カップを洗っていた。 <br>　しばらくすると、あすかはおもむろに立ち上がり、マスターに「ご馳走さま」と声をかけて扉の方に向かった。レジのところでは、あやめとしばらく談笑したあと、手を振って去って行った。<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207340958.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅲ.フリルの付いた洋服が可愛いくて</title>
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<![CDATA[ <font size="3">「ご利益あった？」<br>「ぜんぜん」 <br>「まぁ、でもそんなに日が経ってないからね」 <br>　みずほとちどりが、そんなことを話して校内を歩いていると、突然声をかけられた。 <br>「すみませ～ん。松風ちどりさんですね」 <br>「はい。そうですが？」とちどりは答えた。 <br>「もしかして、こちらは、国東みずほさんですか？」 <br>「はい。そうです」とみずほも答えた。 <br>「申し遅れました。私、☆明星祭☆の実行委員の稲葉ひばりです」 <br>「俺は、実行委員長の赤倉室人よろしくな」 <br>　みずほとちどりは、なぜ彼らが声をかけてきたのかわからなかった。そんなふたりに、ひばりが話し出した。 <br>「あのー、文学部の浅間准教授から推薦いただいたのですが、☆明星祭☆のステージに出演して下さるのですね」 <br>「あっ、はい。確かに」 <br>　そうちどりが言いかけると、みずほが割って入った。 <br>「あすか先生から“漫才してみたら”とお誘いいただきました。よろしくお願いします」 <br>　すると、室人が、 <br>「本当に出てくれるんだよな」 <br>「出るつもりだよ」とちどりが突っかかるように答えた。 <br>「つもりってなんだよ。それにどうすんだよ、ＭＣは？毎年、ミスキャンがする事になっていたんだぜ」<br>「あぁ！しまった。すっかり忘れていた」 <br>　ちどりは焦ったが、ひばりがあっさり言い放った。<br>「ちどりさん、大丈夫ですよ。ＭＣは実行委員会で段取りしますから。と言うことで、委員長、ＭＣ探し、よ・ろ・し・く」 <br>「わかったよ。まあ、どちらにしろ今回の☆明星祭☆ではミス・キャンパス・コンテストするし、お前も出場するんだろう。だったら結果同じことだよ」 <br>「ミスキャン・コンテストって、新入生の歓迎会を込めた“春祭”でのメインイベントじゃなかったですか？」驚いてみずほが尋ねた。 <br>「あぁ、確かにこの春まではな。でも予算削減で来年度から“春祭”は中止に決まったよ」 <br>「えぇ～、そうなんだ～」みずほは、少し残念そうに言った。 <br>「でも、考えようによっては、ちどりさんは７冠が狙える訳で…。ある意味ラッキーかも。だからちどりさんには、今回も是非とも出場して欲しいですね」 <br>「そっか。最後になるかも知れないし…」 <br>　ひばりの言葉にちどりも意欲的だったが、さらにみずほがとんでもないことを言い出した。 <br>「ちーちゃん！あたしも出たい！」 <br>　みずほ以外の三人は一瞬にして固まった。そしてちどりが一言。 <br>「マジで!?」 <br>「ダメ？」<br>「ダメとは言えないけれど…」 <br>　ちどりとみずほがそんなやりとりをしていると、室人があっけなく言った。 <br>「いいじゃん。出場すれば」 <br>「えっ!?」とひばりが驚きの声を上げ、ちどりは「マジでいいのかよ」と言った。 <br>「本人が出たいって言うんなら仕方ないだろ。こういうのを身の程知らずって言うんだよ」 <br>　室人は悪態をついた。その態度にちどりは“カチン”ときたが敢えて何も言わなかった。室人はみずほたちに「じゃー、☆明星祭☆で漫才たのむぞ！」と言いながら手を上げ去って行った。ひばりは「よろしくお願いします。ミスコンであいつを見返してやって下さい」と頭を下げた。先に行った室人が「おぉい！ひばり行くぞー！」と怒鳴っている。ひばりは「ハーイ」と言って走り去った。<br><br>「まったく失礼な奴だ。あの室人とか言う奴。イラドルの“ももち”呼ぶことにしたのもあいつだよ。どうせ“ゲストを誰にするかは委員長の俺の権限”とか言って、強引に決めたんだよ。まったく！」とちどりは腹の虫が治まらない。 <br>「まぁまぁ、そんなに怒らないの。最近のちーちゃん、イライラしすぎだよ。それに意外といい人かもしれないよー。あたしに、ミスコン出てもいいだって！」 <br>　ちどりの気持ちなどまったく意に返せずミス・キャンパス・コンテストに、出場できることを喜ぶみずほだった。 <br>「はっきり言って、あいつ、みずほのことバカにしているだよ。マジで出場するの？」 <br>「うん！一度でいいから、ちーちゃんみたいに、たくさんの人の前に立ってみたい！」 <br>「そっか～。じゃあ仕方がないか。とりあえず今度の日曜、空いているか？」とちどりが尋ねた。 <br>「空いてるよ」 <br>「じゃあ私と付き合って」 <br>「えぇ～！ちーちゃんとデート!?」 <br>「バカ言え！その日はファッション誌の撮影があるから付き合えってこと。でも、本当にあんな言い方されて悔しくないのか？」 <br>「うんん。慣れているから。それよりもステージに立ってみることが目的だからね。気にしてない」 <br>「ステージだったら、ふたりで漫才するから立てるじゃん？」 <br>「あっそうか、忘れてた」 <br>「まっ、いいか。とりあえず日曜、よろしく」 <br>「ＯＫ」 <br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　日曜日、みずほはちどりとの待ち合わせ場所に来ていた。 <br>「みずほ、お待たせ」 <br>「ちーちゃん、おはよう」 <br>「おはよう。待った？」 <br>「うんうん。今さっき来たところ」 <br>「じゃー、行こうか」 <br>「うん」 <br>　そう言って、みずほはちどりとともに歩き出した。 <br><br>「みずほ、着いたよ。ここが撮影スタジオ」 <br>　そこは、一見ただの小さなビルだった。 <br>「ちょっとここで待っていてくれる」 <br>　そう言うと、ちどりはひとり中に入って行った。みずほは待っているあいだ、キョロキョロと周りを見渡した。さっきは気付かなかったが“studio elm”という大きな表札みたいな看板が壁に貼り付いていた。やがて、中からちどりが出て来た。 <br>「ＯＫ。許可取ってきたから、入って」 <br>　みずほは“なんで友達の付き添いで、許可がいるのだろうか？”と思ったが、そんなみずほを察してちどりは「ファッション誌の撮影って、情報が漏れるとマズイしね。場合によっては信用問題になっちゃうのよ。だから今日の撮影現場で見たことは、絶対秘密ね」と答えた。 <br>「わかった。トップシークレットね」 <br>「そう、トップシークレット」 <br>　ちどりは部屋の扉を開けると「おはようございまーす」と言って入って行き、続いてみずほも「こんにちは。失礼します」と言って恐る恐る入った。 <br>「みずほ、この業界では時間に関係なく“おはようございます”って言うのよ」 <br>「えぇ～ぇ。夜でも？」 <br>「そう、夜でもその日初めて会う時はね」 <br>　そんなことを話していると、カメラマンの月山ちとせがやって来た。 <br>「ちどりちゃん、おはよう。今日はよろしくね」 <br>「おはようございます。よろしくお願いします。彼女は友達のみずほです」 <br>「はじめまして。国東みずほです」 <br>　やがてひとりの女性が、あわただしく近づいて来た。 <br>「ちどりちゃん、早くこれに着替えて」 <br>　そう声をかけたのはスタイリストの高山千秋だった。 <br>「ハーイ！」とちどりが返事すると、すぐさま衣装を受け取り更衣室に入って行った。 <br>「おはようございます」みずほは深々とお辞儀した。 <br>「おはよう。あなたがちどりちゃんのお友達ね。まあそんなに気遣いしなくていいわよ。バタバタしていてゴメンね。どこか適当な所に座ってもらっていいよ」 <br>　千秋はそう言うと、あわただしく戻って行き「ちどりちゃん！着替え終わった？どれどれ、う～ん。これでよしと。それじゃ、美絵ちゃんにヘアーメイクしてもらってねー」と指示を出た。そして、みずほの方をチラッと見た。みずほにとって初めて見る世界なのだろうか、興味深そうに見ていた。 <br>　しばらくすると、松嶋美絵が千秋を呼んだ。 <br>「千秋ちゃ～ん！ちどりちゃんのヘアーメイク、これで行こうと思うんだけど！」 <br>「ハーイ！今、行く！」 <br>　美絵の元に走って行った。 <br>　やがてヘアーメイクが決まったちどりがやって来た。そして、撮影が始まり、みずほはその姿に見惚れてしまった。そんなみずほの姿を見た千秋が声をかけてきた。 <br>「今のちどりちゃんの衣装、どう思う？」 <br>「似合っていて、可愛いと思います」 <br>「そう。では、着てみたいと思う？」 <br>「えっ!?ちょっと考えられないですね。ちっちゃいころは、お友達のフリルの付いた洋服が可愛いくて、自分も着てみたかったんです。でもその頃はいつも兄のおさがりばかりで…、いつしかそれが当たり前になっていました。だから中学の制服のスカートが苦手で、いつもジャージを履いていました」 <br>　そう言って、みずほは笑った。 <br>「そっか。まっぁまだまだ色々なパターンが見られるから参考にしてちょうだいね。ちどりちゃん！一本目、終わった？」 <br>「ハーイ！」 <br>「じゃー、次はこちらね」 <br>　千秋が衣装を手渡した。 <br>　<br>　しばらくして再びヘアーメイクを終えたちどりがやって来た。大人ぽい服に、アップにした髪、さっきとは別人のように見える。みずほは口をポカンと開けたまま見入っていた。 <br>「どう？ぜんぜんイメージが違うでしょう」 <br>「はい」 <br>　もう言葉にならないほど魅了されている様子だった。そのような中、カメラマンのちとせのきびしい指示が飛ぶ。 <br>「はい！そこで笑顔！そんなに歯は見せない！そう！そのまま動かない！ハイＯＫ！」 <br>ちどりは、「ふぅー」と息を吐いた。 <br>「気を抜かない!!次のカット、いくよ！…」 <br>　その後、パンツルックやフォーマル風、スポーティーなものなどを撮影し、最後の衣装となった。<br>「ちどりちゃん、お疲れ。これで最後だから」 <br>そう言って、千秋はフリルのたくさん付いた可愛い服を手渡した。ちどりは思わず言った。 <br>「えっ～ぇ、これ、着るんですか？なんか恥ずかしいー！」 <br>「ごちゃごちゃ言わずさっさと着替える！」 <br>「ハァ～ィ」と不機嫌そうに返事をした。<br>　しばらくして、ちどりと一緒にやって来た美絵が「千秋ちゃん！どう？これで。ちどりちゃんのツインテール姿、可愛いでしょう」と言った。 <br>「すごい可愛いじゃない。バッチリ!!」 <br>　そんな千秋のほめ言葉にも、不機嫌なちどりはブーたれていたが、みずほの瞳は輝いていた。向こうでは「ちどりちゃん！まだ～！」とちとせが呼んでいる。 <br>「ハイハイ！とりあえず撮影！撮影！」と千秋がちどりを追い立てた。 <br>　ちとせは乗ってこないちどりに、少々イライラしているようだ。 <br>「あなたそれでもプロのモデルなの!?衣装にナメられてどうするの！」 <br>　その言葉をきっかけにスイッチが入ったのか、満面の笑みで挑んでいた。そんなちどりの姿に刺激を受けたのか、いつしかみずほは自分もやってみたいと思っていた。 <br><br>「ハーイ！お疲れ様。すべて終了」 <br>　ちとせが声をかけた。ちどりはよほど恥ずかしかったのだろうか、一目散に更衣室に走って行った。 <br>　千秋がみずほに声をかけた。 <br>「ちどりちゃんから聞いたけれど、学祭のミスコンに出場するんだって？」 <br>「スミマセン」 <br>「謝ることないわよ。挑戦することは大事なことだし…。それにしても、センスが…言うか、 <br>それ以前の問題ね。でも私に任せておいて」 <br>　みずほは、何のことか訳がわからなかったが、とりあえず 「よろしくお願いします」と言った。 <br>「ところで、服装っていつもそんな感じかな？」 <br>「えぇ、まぁ、だいたい…」と答えつつ“今日はこれでも一生懸命選んだんだけどな～”と思っていたら「でもコンテストにでるのだったら、みんなが驚くほどイメチェンしないとね。頑張ってスカートは挑戦してみよっか」そう言って千秋はみずほの肩をたたいた。そしてそこにちょうど美絵がやって来た。 <br>「美絵ちゃん、彼女だけど、どう？」と千秋は尋ねた。 <br>「ちょっとメガネ外してくれるかな」 <br>　みずほは、おもむろにメガネを外した。 <br>「ＯＫ！今度はちょっと髪触るよ。髪留め外していいね？毛先はちょっと傷んでいるけど、十分大丈夫だね。ありがとう、メガネかけてもらっていいよ」美絵はそう言って笑顔を見せた。 <br>　ちとせが今日の撮った写真の画像をタブレットに表示させて、みずほたちの元にやって来た。 <br>「みずほちゃん、どうだった？参考なった？」 <br>「ハイ！ありがとうございました」 <br>「この中でどれか一番お気に入りかな？」 <br>「二つ目の大人ぽい、ちーちゃんはすごい素敵でした」 <br>「いや、そうじゃなくて…。みずほちゃんなら、どの衣装を着て撮影してみたい？」 <br>「あたしですか？あたしは…」 <br>「自分に正直になって言ってごらん」と美絵が優しく声をかけた。続けて千秋も言った。 <br>「そうだよ。他人の目を気にして遠慮すると後悔するよ」 <br>「正直に言うと、普段まず着ることがない、最後の少女アニメの主人公のようなフリフリがいいです」 <br>　みずほは照れくさそうに言った。それを聞いて、千秋と美絵、そしてちとせは“やっぱり！” と納得した。そして美絵は千秋に「なぜかワクワクしてきた」と嬉しそうに言った。千秋も「そうでしょう。私も楽しみで、腕が鳴るよ。ちどりちゃんにあの服着せた甲斐があったわ」 <br>と言って、ウケたように笑った。<br><br>　千秋はおもむろに最新のスマホを取り出し、ちとせにが言った。<br>「ちとせちゃん、今日の画像、私のスマホに落としてもらってもいいかしら？編集部にもゲラとして送らなきゃなんないし」 <br>「わかりました。今送りますね」 <br>　そこへ着替えを終えたちどりが、やって来た。 <br>「あっあー。千秋さん、新しいスマホ買ったんだ！見せて見せて!!」 <br>「ダーメ！ちどりちゃんがいじくりまわすと大変なことになるんだから」 <br>「大丈―夫ですって」 <br>「でも前のスマホ、こっそり触ったでしょう。アイコンの位置がバラバラになっていて大変だったんだよ」 <br>「バレたか。すみません」とちどりは謝ったが、二人の会話を聞いていた美絵も参戦してきた。 <br>「千秋さんも被害にあっていたのですね」 <br>「えっえー。私なにかしたっけー？」<br>　ちどりはとぼけた。 <br>「何言っているの。私のヘアーカットのハサミで、荷造用のPPバンド切ったでしょうが！」 <br>「あれって、ダメなの??」 <br>「あのはさみ、ダメになったんだからね。あんな硬いもの切るから、もう、髪切れなくなったのよ」 <br>「実は私もあるのよ」 <br>　そう言い出したのはちとせだった。 <br>「私の場合は商売道具のカメラよ。勝手に触ってレンズを落としそうになったんだからね。あの時どれほど冷や汗かいたか」 <br>「ホント、みなさんすみませんでした」 <br>　ちどりは、深々と頭を下げた。 <br>「ちーちゃん、しょうがないよ。壊し屋なんだから。ちーちゃんはその気がなくても、触ったものが勝手に壊れるんだもんね～。壊し屋ちーちゃん、パワー炸裂！」とひとりみずほが笑ったが、それにつられて、みんなもついつい笑った。ただ、ちどりだけは苦笑いだった。 <br><br>「あっそうだ、みずほちゃん、一枚撮ってあげようか？千秋ちゃん、いいよね」とちとせが言い出した。千秋はちょっと驚いたが 「最後のはダメだよ。当日のお楽しみっ！てことで、それ以外でならＯＫ。但し他言無用、絶対発売前に人には見せないこと」 <br>「千秋ちゃん、ありがとう。それで、みずほちゃん、どれにする？」とちとせは言った。 <br>「えっと、フォーマルな感じの…。できれば、デキる女性みたいな感じで…」 <br>「デキる女ね。私に任せて」と美絵は胸を張った。 <br>「じゃ、決まりね。みずほちゃん、ついていらっしゃい」 <br>　千秋は手招きした。みずほは、ワクワク・ドキドキする気持ちを押し止めたかったが無理だった。 <br>　しばらくすると、先ほどちどりが着ていたフォーマルスーツ風の衣装に身を包んだみずほが戻って来た。髪は編み込んだ状態でアップにしてまとめている。その姿に、ちどりは目を丸くした。千秋はみずほに「ちょっとメガネ替えてみようか。これ掛けてみて」と声をかけ、デキる女を演出した。 <br><br>「ハーイ！みずほちゃん、こっち見て！緊張しないで、そう澄まし顔。ＯＫ！撮るよ」 <br>　ちとせの指示がなぜか、気持ち良く感じ、ちどりやみんなの視線が、さらに高揚感を高めた。 <br>「ハイ！お疲れ様。終わりました」 <br>　ちとせのその一言で、一気に普段のみずほに戻った。 <br>「ちょっと待っていて！いまプリントアウトするから」 <br>「ハイ。ありがとうございます。ちーちゃん、どうだった？」 <br>「あっぁー。正直言って、驚いたよ。別人みたいだった」とあっけに取られたようだった。 <br>「ちどりちゃん、お話し中ゴメンね。みずほちゃん、そろそろ着替えようか」と千秋が声をかけた。<br>「あっ！すみません。すぐに着替えます」 <br>　みずほはそう言うと、あわてて更衣室に向かった。 <br><br>　やがてまったくの普段みずほのに戻って、ちどりたちの元にやって来た。そして、千秋や美絵、ちとせにお礼を言うと、出来上がった写真を見た。そこには、まるで別人の綺麗な、そしてデキる女がいた。 <br>「これ、あたしですか!?」 <br>「そうだよ。ほかに誰がいる？」 <br>　ちどりはそう言って、小突いた。 <br>「そ、そうなんだ～！キレイ」 <br>「当たり前だろう。千秋さんのファッションセンスに、美絵さんのヘアーメイク、ちとせさんの写真テクニック。惚れ惚れするだろう」 <br>「うん！本当にありがとうございます」再びみずほは頭を深々と下げた。 <br>「いいのよ。そんなことよりコンテスト頑張ってね。この経験を生かせば大丈夫！」ちとせはそう言うと、親指を立てた。 <br>「当日は私たちも手伝いに行くから安心して」美絵に続いて千秋も「衣装も任しておいて。みずほちゃんを理想の女の子にしてあげるからね」と言った。しかしちどりは「でもこの写真、身内に見せても、みずほだとはわからないだろうな～」とつぶやいた。 <br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　みずほとちどりは、あすかと会うため、『安眠』に向かっていた。 <br>「ちーちゃん、あすか先生、完全にあのお店にハマっちゃったね」 <br>「そうだね。毎日のように通っているみたいだよ」 <br>　ふたりはそんなことを言いながら歩いていた。話が盛り上がると、時間が経つのが早く、すぐに『安眠』に着いた。 <br><br>　一方、あすかはいつもとかわらず、店の雰囲気を楽しみながら、コーヒーを嗜んでいた。しかしそんな安穏とした時間を、苦悩と苦痛に変えてしまう輩が、片隅に潜んでいた。 <br>「いらっしゃいませ」<br>　あやめが言った瞬間、現われたのは、みずほたちではなく、ある意味トラブルメーカーのイントロダクションとなる翼たちだった。 <br>「あやめちゃん、かわいいね～」 <br>「あやめちゃん、キレイだね～」 <br>「あやめちゃん、ステキ！スキ」 <br>「どさくさに紛れて、余計なこと言わないで下さいよ～！」 <br>「冗談、冗談」などと言いながら、喫茶室に向かった。<br> <br>「ヨォ！」そう言って翼たちに声をかけたのは、北斗だった。 <br>「国東先輩！いらしていたんですか」剣が声を上げる。 <br>「お前たちの憧れの先生、今日も来ているぜ！ほら」と言うと、目線で示した。そこには、パンプキン・パイとコーヒーを口にするあすかがいた。 <br>「ミス・パンプキン、今日も来ているんだ。皆勤だね」と翼たちは感心した。 <br><br>　やがて北斗と翼たちは、話に盛り上がっていった。そのためか、声のトーンも次第にヒートアップ「先輩！最高ッスよ!!」「だろう！」そんな声が耳に付くのか、だんだんあすか表情が、しかめっ面になっていく。 <br>「めっちゃオモロい！」「腹がよじれる～！」などと大笑いをはじめた。たまりかねたあすかは、とうとう「すいません！もう少し静かにしてもらえませんか!?」と大きな声を出してしまった。マスターは、一瞬ビクッとしたが、その時偶然あやめの「いらっしゃいませ」の声が重なって聞こえた。ちょうど、みずほたちが『安眠』に着いたのだ。 <br><br>　北斗は大声で話していたことを、あすかの傍らに行き謝まろうとした刹那、あすかが「キャー！」と悲鳴をあげた。あわてた、剣と燕は転倒し、その声を聞いたみずほたちは喫茶室に駆け入った。そして<br>「お兄ちゃん！なにしでかしたの!!」 <br>　みずほが叫んだ。その声に一瞬にしてその場が凍りついた。ただ、ちどりだけが取り残されたようにキョトンとしていた。 <br>　凍りついた空気の中、あすかは“ええっ!?この人がみずほさんのお兄さま？”と思い、北斗は“オレ、マズいことした？”と思った。特に、驚いていたのは翼たちで“このメガネっ子が、先輩の妹…!?”と、目が点になっていた。 <br>　状況を把握したのかちどりは、北斗に向かって「テメー、あすか先生に、何しやがったんだ!!」<br>と息巻き。マスターはその言葉遣いに気後れした。 <br><br>　数秒後の解凍を待って、あすかが謝った。 <br>「窓ガラスに、ヤモリが引っ付いていて、つい…」 <br>　窓を見ると、ヤモリが２匹腹を見せて貼りついていたのだ。 <br>　翼たちは「松風嬢って見掛けによらず…」と小声で話した。ちどりは“しまった”と思い、あわてて「あぁ恐かった…」と言って、口に手を当てた。 <br><br>「みずほさんのお兄さまだったのですね。失礼しました」 <br>「いえ、こちらこそ妹がお世話になっています」 <br>　みずほのお陰(？)で、互いの悪いイメージが変わったと思いたい。 <br>「お兄ちゃん、本当にあすか先生に失礼なことしてない？」 <br>「わかんねえ～よ。“先生、胸おっきいね～”なんてセクハラ発言してんじゃないの」とちどりが横槍を入れた。北斗はあわてて <br>「そ、そんなことないですよね。先生」と否定したが、翼たちは“完全にバレてる”と思った。しかし意外にもあすかは「ちどりちゃん、大丈夫。お誉めはいただいただけだから」と言って笑った。<br>　ちどりは「ホント、みずほの兄貴は…、ぃゃ、お兄さんは、トラブルメーカーなんだから」と言いながら北斗を睨みつけた。居心地が悪くなった北斗は「あっそうだ。もうそろそろ行かねーと。先生、失礼します。マスター、ご馳走さま」と言って、あわてて『安眠』を出て行った。<br>　更に、来たばかりだというのに「いっけねー！オレも急用思い出した」と剣が続いて出て行き<br>「おーいケン。待ってくれ。バッサン後頼むな」と燕も後を追った。ただ、翼だけはあっけにとられ、逃げ去る機会を失いぼんやりたたずんでいた。 <br>「翼くん、そんなところに立ってないで、ここに座ったら」とあすかが優しく声をかけた。 <br>「ちーちゃん、あたしたちも座ろうよ」 <br>「あぁ」 <br><br>　やがて、マスターがおずおずと「あの～、何になさいますか？」 と小さな声で注文を取りに来た。 <br>「えっと、あたしはパンプキン・パイとシナモン・ティー」 <br>「じゃー、私も同じものを」 <br>　ふたりはそう言って注文した。 <br>「翼くんは？おごってあげるよ」 <br>　あすかは気遣った。 <br>「あっ、僕はけっこうです」 <br>「男の子だったら遠慮しないの。コーヒーでいい？パイも食べる？」 <br>「じゃーお言葉に甘えて、コーヒーだけいただきます」翼は遠慮がちにそう答えた。あすかは「では、店長さん、パンプキン・パイとシナモン・ティーを２つ。それとブレンドコーヒーを１つ、追加でお願いしますね」と言って、ウィンクした。 <br>「か、か、かしこまり、まりました」 <br>　マスターは気持ちを落ち着かせようと、窓にへばりついヤモリに向かって話していた。 <br>カウンター奥に戻る姿は、以前の壊れたロボットよりましになったが、それでもC-3POのようだった。 <br><br>「あっ、そうだ。あすか先生、先日、学園祭実行委員の方に合いました。で、ちーちゃんとの漫才、参加決定です」 <br>「そう、良かったわ。あなたたちにお願いして正解だったわね。大助かりよ。ありがとう」とあすかは礼を言った。 <br>「あすか先生！それだけじゃないんです。みずほがとんでもないことを言い出して…」と今度はちどりが話し出した。 <br>「はぁ？なにかあったの？」 <br>「来年度からの“春祭”中止になって、今回の☆明星祭☆で、ミスコン開催が決定したでしょう」 <br>　すると、ちどりの話しをさえぎるようにみずほが「だから、あたし宣言します。学生時代の思い出に、出場することにしました!!」と発言。<br>　なに気に聞いていた翼は「プィッー!!」と口に含んだコーヒーを、思いっきり吹いてしまった。その結果最悪の状況に。なんとみずほの顔が“水も滴るいい女”ではなく、コーヒーが滴る状態になってしまった。<br>　ちどりは「テメー！なにしやがんだよ!!マスター！お手拭き!!早くもって来い!!!」と叫び、翼はあわてて立ち上がり、テーブルの角で股間を打ちつけ、あまりの痛さに手で押さえながらジャンプしている。<br>　あすかは不覚にも三人の三様の姿を見て笑い転げた。しかし当のみずほは、予想に反して「メガネのお陰で助かった」とあっけらかんとしていた。 <br>　とりあえず、マスターが持ってきたお手拭で、めがねをはずして顔や辺りを拭き、改めて席に着くみずほ。翼は、痛みのが少し収まったのか、土下座して頭を下げている。ちどりは、よっぽど腹が立ったのだろう、鬼のような形相をしている。<br>　あすかは、笑いながら「みずほさん、大丈夫。服は汚れなかった？」と気遣った。みずほは相変わらずマイペースで「あすか先生、これくらい大丈夫ですよ。ちーちゃん、そんなに怒んないで。般若面みたいだよ、ほらヤモリも逃げちゃったよ」と笑った。<br>　その言葉に、ちどりは我に返った。 <br>　みずほは「翼くんも気にしないで。あたしおっちょこちょいでしょう、だからこんなのしょっちゅう」と言って、彼の肩に手を置いた。そのとき、翼ははじめてメガネを掛けていないみずほの素顔を見てうっとりしてしまった。<br>　ただ、近視のみずほには彼の表情まで気付くことはなかった。しかし、あすかは「翼くん、顔赤いよ。熱でもあるの？」と言ったため、翼はあわてて顔を伏せた。 <br><br>「あの実行委員長の室人って、ホント、イヤミな人だよ。みずほがミスコン出るって言った時も“身の程知らず”って言いやがる。常に上から目線で、計算高いんだよ」とちどりがぼやいた。 <br>「しょうがないのよ。彼は経済学部だから計算高いのよね」 <br>「あすか先生、うまいことおっしゃりますね」とみずほが感心した。 <br>「へっへぇ、経済学は計算高いっか。と言うことは算数学部じゃなかった。理学部は理屈ポイのかな？法学部は、どうなるんだろう??」 <br>「ちょっと、みずほ！話の論点がずれる！でもね、みずほがミスコンに出たいって言った時は、どうしょうかと思ったけれど、絶対、室人を見返してやるよ」 <br>「あの～、ぼくも、みずほさんなら、大丈夫じゃないかな…って思います」となぜか翼が口を挟んだ。 <br>「翼くん、どうしてそう思うのかしら？」とあすかは尋ねた。<br>　しかし、彼は「ぃゃ、その～…。みずほさん、おもしろいし…」とハッキリしない。 <br>「翼くん。君は適当なことは言わないの。今のままじゃどう見たってダメでしょうが。ここはみずほに大変身してもらわないとね。あっそうだ、あすか先生それでね。この前、みずほを私の撮影の現場に連れて行ったんですよ」 <br>「えっぇ!?ちどりさんって、カメラマンのバイトとかしているのですか？」と翼が思わず聞いた。 <br>「違うの、ちーちゃんはね。ファッション誌のモデルなんだよ。めっちゃかっこいいんだから！」とみずほが話す。 <br>「みずほ、おだてないの。そんな、かっこよくないから。それでね、プロのスタイリストやヘアーメイク、カメラマンに見てもらったら、なんか手応えありそうな感じで、イケそうです。試しに、一枚撮ってもらったんですが、もう、別人のようにかっこよくて！」 <br>「そうなの。その写真とか今、あるの？」 <br>「それは、ちょっと…」 <br>　申し訳なさそうなちどりをさえぎってみずほが答えた。 <br>「トップシークレットだから、“ひ・み・つ”なんですー」 <br>「そうなの、ちょっと残念。でも、みずほさんの大変身、楽しみね」 <br>　あすかは嬉しそうに言った。 <br>「楽しみにして下さい。あたし、大変身して見せますよ」 <br>「みずほさん、およばずながらぼくも応援してます」 <br>「ありがとう！蟻がとう!?蟻が十(ﾄｳ)なら、イモムシはたち(20才)。蟻がたい(鯛)ならイモムシ鯨。見上げたもんだね、屋根屋のフンドシ。大したもんだカエルのしょんべん。ってね」 <br>「なんだそりゃ?????」 <br>　ちどりのあきれ顔をよそに、みずほは上機嫌だった。 <br>「ホント、みずほさんって、おもしろいですね。この前の“炊飯器！”といい」そう言いながら翼は笑った。 <br>「でしょう。みずほさんとちどりさんのふたりが話していると、まるで漫才聞いているみたいで、おもしろいの。だから、☆明星祭☆のステージで漫才していただくことになったのよ。あっそうだ、漫才の台本は大丈夫よね？ネタ合わせとかもやっている？」とあすかが尋ねと、さっきまで上機嫌だったみずほが、急におとなしくなった。 <br>「先生、実はまだぜんぜんなにもできていないのが、現状で…」 <br>　ちどりは正直に言った。 <br>「申し訳ありません。SF小説なら、すぐにいろいろ思い浮かぶのですが、いざ、人を笑わせるためにおもしろいことを…、と考えても思いつかないんです」とみずほも話した。 <br>「でも、いつものようにふたりで、ステージの上でお話しすれば大丈夫じゃないの？」とあすかは楽観的というより、のんきだった。 <br>「あの～、あすか先生」そう言ったのは翼だった。 <br>「やっぱり、初心者がアドリブだけで済ますのは、ちょっと難しいと思います。方向性やたたき台になる台本みたいな物がないと。もし、よかったら僕が書きましょうか？その台本を」 <br>「えっぇ～！」 <br>　まさかの発言に、みずほとちどりは驚いた。 <br>「いいのか？お願いしても??」 <br>「是非、お願いします」 <br>「はい喜んで。みずほさんにはご迷惑をかけてしまった罪滅ぼしです。でも、あんまり期待し過ぎないでくださいよ。ぼくも素人なんですから」 <br>　みずほとちどりは「やった!!!」とよろこび、ハイタッチしている。 <br>「翼くんって、優しいのね」とあすかがウィンクして言った。そして、翼はただただ照れ笑いをしていた。 <br>　そんな、翼にむかって突然みずほが言った。 <br>「翼くん、彼女いないでしょう」 <br>　ちどりは「いきなりそれは失礼だろう」と思わず口にしてしまった。ちどりの言葉にためらうことなく、みずほは話した。 <br>「あたし、妙に勘だけはいいの。翼くん、実行委員のひばりちゃんって知っている？」 <br>「いいえ。知りません」 <br>「知らないのか～？もったいないな～？彼女、とってもカワイイだよ。目がクリッとしていて、あたしなんかとぜんぜん違って、翼くんならお似合いかなって思った。あっ、あすか先生ならご存知ですよね。ひばりちゃん」 <br>「えっえぇ、まぁ。教育学部の稲葉ひばりさんね」 <br>「でも、翼くんにはもったいないよ。彼女は」とちどりは否定的だった。 <br>「そうかな～？翼くん、一度会ってみたら？」 <br>　しかし、当の翼は“メガネをはずしたみずほさんの方が魅力的”と思っていたので、生半可な返事しかできなかった。 <br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　あすかは、ほぼ日課のように、今日も『安眠』にやって来た。真鍮のノブを引くといつものように「いらっしゃいませ」の声がした。だが、図太い声で、レジに立っていたのは、初めて見る強面のオジサンだった。 <br>「こんにちは」と言ったものの、不似合いな可愛いエプロン姿に思わず笑ってしまった。 <br>「やっぱり、似合わないですよね」 <br>　光は苦笑いをして言った。 <br>「ごめんなさいね、笑ってしまって。でもそれ、いつもの女の子のエプロンですよね。あやめちゃんでしたっけ？今日は彼女の代わりにオジサンが店番ですか？店長さんもいらっしゃらないのですか？」 <br>「店長は一応、私なんですが、息子なら今、ちょっと出かけております」 <br>「えっ！お父さまだったのですね。失礼しました」 <br>　あすかは慌てて頭を下げた。 <br>「や、やめてくださいよ、お嬢さん。普段はあやめちゃんか娘のあきに任せ切りなもので、レジ打ちなんて冷や汗ものですよ。本当、ふたりとも都合がつかないなんて…、そのうえ息子は出かけちまうし…」 <br>「じゃ、私がお手伝いしましょうか？おもしろそうだし」 <br>「えっ！よろしいのですか？じゃ、お願いしようかな」 <br>「はい、どうぞどうぞ任せてください」 <br>「では、お願いします。私は工房でパンを仕込んでいますので、なにかあったらすぐ呼んでください」そう言って、光はエプロンをあすかに渡し工房に入って行った。<br> <br>　しかし、この日はいつもと違って、ほとんど、いやまったくお客さんが来なかった。あまりにも暇を持てあましたあすかは、工房を覗きに行った。光は、一生懸命パン生地をこねていた。 <br>　一通り作業を終えた光は、ふと視線を感じ振り向くと、窓越しに、あすかの姿が見えた。 <br>「あっ、すいません。勝手に覗いてしまって…」 <br>　扉越に、あすかはあわてて頭を下げたが、光は工房の扉を開け、あすかに声をかけた。 <br>「あいつ、どこまで行ってんだか、いや申し訳ない。でも、今日はいつになく閑散としてますな…。もし良かったら、ちょっと、やってみますか？パン作り」 <br>「えっ、よろしいのですか？レジ番がいなくなりますが…」 <br>「大丈夫でしょう。今日はお客さんも来なさそうだし。そのうち、息子も帰ってくるでしょうから」 <br>「では、お言葉に甘えて、失礼します」 <br>「服が白く汚れますから、これ使ってください」光はそう言って、作業用の前掛けを手渡すと、先ほどまでこねていた生地を、切り分け、あすかとともに丸めた。 <br>「私、パン作りって一度やってみたかったのです。あの～ところで奥様は、お店にはお越しならないのですか？」 <br>「家内ですか。亡くなりました」 <br>　光は、あっさり言った。そして、まずいことを聞いてしまったと、あすかは謝った。 <br>「す、すいません」 <br>「お気になさらないで下さい。もう10年前になりますから」 <br>「そんなに経つのですか。もし差し付けなければ、どんな方だったのか教えていただけませんか？」 <br>　すると、光は壁に掛けられたら額に目をやった。そこには、家族４人が写った写真が飾ってあった。前列には、あきとマスターが座り、後ろには光と美保がいて、にこやかに笑っていた。 <br>「奥さまは、可愛らしい方だったのですね」 <br>「まぁ、古い写真ですから、生きていたら結構オバサンですよ」と笑って言ってみせた。 <br>「あの頃、脱サラし一念発起してパン屋になろうと思い立ちましてね。猛反対を喰らう覚悟で話すと、意外とあっさり家内も賛成してくれました。むしろ反対したのは、息子の梓でしたが、家内が説得してくれましてね。私が修行中は、パートで家計を支えてくれていました…」 <br>「ご理解のある奥さまだったのですね」 <br>「ええ。いつか家族でパン屋をと思っていた矢先だったんですが、急に体調を崩しました。修行中の私を気遣って、息子や娘には口止めしていたみたいでね。事実を知った時には、手遅れでした。本当に、私には過ぎた嫁でした」 <br>　光の声は少し涙声になっていた。 <br>「家内の最後の言葉は『夢をあきらめるな』でした」 <br>　あすかの瞳も潤んでいた。 <br>「いや、失礼。湿っぽくなってしまって」と言うとティッシュを探しだした。あすかは、自らの服が汚れることもいとわず、ポケットからハンカチを出し、光の目元を拭った。 <br>「すいませんね。息子にあなたのような、優しい嫁さんでもいたらいいが、不器用というか、情けないヤツですよ。未だに独身でね…。あっいゃ、せっかくのお洋服、汚してしまいましたな」 <br>　あすかの服は、粉で一部が白くなっていた。 <br>「服なら大丈夫ですよ。こうすれば」と言って、２、３度はたいてみせた。 <br>「私は、心の優しい店長さん、いや息子さんだと思いますよ」 <br>　ちょうどそのとき、店の扉の開く音がして「今、戻りました」と言う声がした。光とあすかは、工房から出て行くと、マスターは、面を食らった顔をした。光は何事もなかったように <br>「遅かったな。お嬢さんがお待ちかねだ」と言った。あすかも動ずることなく「お帰りなさい。遅いですよ。待ちくたびれて、パン作りしておりました」と言った。<br>　マスターとしては、訳が分からず“なぜ、親父とあすかさんが、パンを作っているんだ!?いったいふたりはどう言う関係なんだ!?”と動揺している。<br>　そんなことを察してかどうかわからないが、光は「いつまでも突っ立っていないで、お嬢さんにコーヒーでも出したらどうだ」と言った。 <br><br>　まもなく喫茶室に入ったあすかは、一連のこと話した。しかし、いつになく楽しそうに話すあすかの姿に、マスターも自分が引っ込み思案で照れ屋でマヌケな性格であったことすら忘れていた。むしろ、忘れていること自体が、マヌケなんだが…。 <br>　あすかは、一通り話し終えるとマスターに問いかけた。 <br>「店長さん、いや店長さんはお父さまですよね。えぇーと、梓さん。そうそう梓さんはどうしてご結婚なさらないのですか？お父さまもご心配なさっておりますよ」 <br>　マスターは、あすかが知らないはずの自分の名前を口にしたものだから、あたふたしてしまい、引っ込み思案で照れ屋な性格が復活してしまった。 <br>「ぃゃ、あの～その～。えっと～。実は…いや・・・・・」 <br>「どなたか、好きな人でも…いらっしゃるのですか？」 <br>　マスターとしては“はい、あなたです”とも言えず、ただうろたえた。 <br>「その様子だと、いらっしゃるみたいですね。どのような方なのですか？」 <br>　こうなると、あすかも人が悪いとしか言いようがない。マスターはまるで蛇に睨まれたカエル状態だった。 <br><br>　そんな状況だとは露知らず、やって来たのは、翼たちトラブルメーカーだった。 <br>「あれ？今日、あやめちゃん、いないんだ!?」 <br>「と言うことは、あきさんってこと？」 <br>「あきさんも、いないみたいだね」 <br>　なんだかんだ言いながら、喫茶室にやって来た。そして、見上げるあすかと立ちつくすマスターの姿を見つけた剣が思わず言ってしまった。 <br>「あっ、わりー。ふたりの世界を邪魔しちまったな～！」 <br>　その言葉に、我に返ったふたり、急に気まずくなり、あすかは翼たちに声をかけた。 <br>「あれ、今日はいつもより早いのね。ここに座る？」 <br>一方マスターは「コーヒー、コーヒー…」と言いながら、カウンタ奥に引っ込んだ。 <br>「あすか先生、もう５時まえですよ。早いと言うよりは遅いと思いますが…」剣はいじわるそうに答えた。 <br>「あっ、そ、そうね。ちょうど良かったは、ところで翼くん例のものできた？」あすかは、とっさに話しを翼に振った。 <br>「バッサン、なんだよ例のものって。ひょっとして抜け駆け？」燕は、翼に尋ねた。 <br>「違う違う。松風嬢たちが☆明星祭☆で漫才するから、その台本書いてほしいって頼まれたんだよ」 <br>「なんだよそれ？今度は、松風嬢を口説くことにしたのか？」こんどは剣が詰め寄った。 <br>「だから、違うって！」 <br>　そんな様子を、カウンタ奥から見ていたマスターは、胸をなでおろしていたが、コーヒーを出すタイミングを失っていることすら気付かなかった。 <br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　それはお昼過ぎのことだった。昼食を終えた、みずほとちどりは、いつものように、キャンパスをおしゃべりしながら歩いていた。その時、突然みずほのスマホが鳴った。 <br>「あっ、あすか先生からメールが来た」 <br>「それで、なんて書いてあるの？」 <br>「ちょっと待ってね」<br> <br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『昨日、翼くんから漫才の台本、預かりました。手渡したいので、連絡ください<img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/031.gif" alt="ドキドキ">』<br><br> <br>「漫才の台本ができたんだって。だから連絡欲しいって」 <br>「じゃー、連絡入れて今からもらいに行こうよ」 <br>「“ＯＫ”」 <br>　みずほはローラのマネをしたが、ちどりはあえて流した。<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『ありがとうございます。今からいただきに上がりたいのですが、ご都合はよろしいでしょうか』<br> <br>「これでよしっと。送信」 <br>　しばらく待つこともなく、すぐに返信されてきた。<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『わかりました。今、学食<img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/192.gif" alt="ラーメン">にいますので、もし差し支えなければ、ここに来て下さい』<br><br>「あすか先生、学食にいるんだって。行こうか」 <br>みずほは言い終わるなり、きびすを返し歩き出した。あっけにとられたちどりが後を追う。 <br>「みずほ！学食はこっち！」 <br><br>　うどんだろうか？そばなのか？何かそういった麺類を食べているあすかを見つけ出したみずほは駆け寄って言った。 <br>「あすか先生、こんにちは。遅いお昼なんですね」 <br>　一歩遅れて、ちどりも挨拶した。 <br>「こんにちは。お食事中、本当にすみません」 <br>「みずほさんにちどりさん、こんにちは。気になさらないで全然大丈夫ですよ。それよりわざわざ来てもらって悪かったわね。そうそう、これを渡しておかないとね」 <br>　そう言って、クリアファイルを出してきた。到底あすかの物とは思えない。味気ないクリアファイル中身は、翼から預かった漫才の台本だった。みずほとちどりは、早速中身を取り出し、読み出した。 <br>「なにこれ。ほとんど関西弁じゃない」とちどりがグチり、みずほも「なんだか古風な話だよね～」と言い出した。<br>　あすかは言い訳がましく言った。 <br>「実はね、翼くんもうまく書けなかったのよ。そこで、大阪ご出身のお父さまにお力添えしてもらったそうで、そのお父さまもお祖父さまに相談されたらしいの。だから昭和の漫才みたいなのよね。でも、慌てて作った割には、そこそこいいと思うよ」 <br>　みずほとちどりは、飽きれ返り言葉も出なかったが、あすかはそんなことに動じることなく、相変わらずのマイペースであった。 <br>「でもよかったじゃない。これでナントか間に合った訳だし…。あれ？どうしたの？これじゃーダメ？」 <br>「いえいえ」 <br>　みずほとちどりは、ハモるように首まで振って否定した。それは、言葉の否定を動作で更に否定する二重否定だったが、<br>「先生、大丈夫です。今日から練習すれば、ナンとか行けます」 <br>「も、勿論ですよ。み、みずほと一緒だから、うまくいきますよ。ねぇ～」 <br>　そう言って顔を見合わせた。 <br>「そうよね～。じゃ頑張って練習してね。当日は必ず見に行くから。更に面白くなっていることを期待しているねっ！」 <br>「ありがとうございます」 <br>「では早速練習して来ま～す。ちーちゃん特訓だね」 <br>　ふたりはそう言って学食を後にした。 <br>　あすかはふたりを見送ると、食べかけのうどんをすすった。 <br><br>　一方台本をもらったみずほとちどりは、安請け合いしたことを後悔していた。 <br>「あすか先生“当日は必ず見に行くから。期待しているねっ！”って、プレッシャ掛けてくれちゃってさぁ…」 <br>「それも“更に面白くなっていることを”って、で、ちーちゃん、どうする？」 <br>「どうするって、やるっきゃないだろうが…」 <br>「そうだよね…」 <br>　テンションダダ下がりのみずほとちどりは、頭を抱えていた。 <br>「でもなんだよこれ。ゲバゲバ“ピィーッ”って。こんなのウケるのかねー？」 <br>「まぁ、おじいちゃんが絡んでいるからね～しょうがないよね」 <br>「全く古典漫才って感じ。みずほ！あとたのむよ。君の腕でいいように編集してくれ！」 <br>「ちーちゃん、ムチャ振りしないでよ。あんまり期待応えられないかもしれないよ。だって、基本このままでいくから」 <br>「マジかよ!?それこそ“ダメよ×！ダメダメ!!”って言っちゃうよ」 <br>とちどりが、日本エレキテル連合のマネをすると、みずほも負けじと <br>「“ジョーダンじゃないよ”、“ジョーダンはよし子ちゃん”なんてね。」 <br>とおどけた。 <br>「いいね～！Good job!!」 <br>　ふたりの冗談もどこか空回りをしていた。 <br>「ちーちゃんは、関西弁大丈夫でしょう」 <br>「どうして？」 <br>「だって、一時期大阪に住んでいたんでしょ」 <br>「まぁそうだけど、小学生のころだよ。でもぜんぜん自信ないよ。みずほだって和歌山だっけ？じいちゃんとばあちゃんがいるんでしょうが～」 <br>「そうだけど、向こうにいる時は、みんな地元の言葉で話すから、うつっちゃって話せるけれど、今は正直ムリだよ。それに和歌山は関西弁と違った方言があるしね。あとは野となれ山となれって感じ。何とかなればいいんだけど、ならないと思うな～」 <br>「あぃよ」とちどりはあきらめムードで返事した。<br></font>
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<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅳ.笑え笑え笑う門に福来る(前)</title>
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<![CDATA[ <font size="3">　いよいよ待ちに待った、☆明星祭☆の日がやって来た。ステージ上では、希たちがパフォーマンスを披露している。そしてステージの袖には、ひばりが待機している。そこに出番が迫り、みずほとちどりがやって来た。 <br>「あれ!?ひばりちゃん、ＭＣやってんだ」 <br>　みずほは、驚いたように言った。その声に振り返ったひばりは、 <br>「みずほさん、ちどりさんこんにちは。次なのでよろしくお願いします」と言った。 <br>「あっ、はい。でも確か、ＭＣは室人が探すってことじゃなかったけ？」とちどりが問いかけると <br>「結局、見付かんなかったみたいで“お前がやれ”って、室人に言われました。正直無茶振りですよ」と嘆き気味に話した。 <br>「ホント、あいつは無責任だよな。オイシイとこだけ持って行きやがる」 <br>　そんなちどりの言葉に、ひばりは、 <br>「いいんですよ。どうせこうなるだろうと予想していましたから」と諦めモードだった。<br>　ちどりは落ち着いていたが、みずほは「でも、ひばりちゃんがＭＣでよかった。緊張しちゃって…」と掌に“人”を書いては飲んでいた。 <br>「大丈夫ですよ。所詮☆明星祭☆ですから。気楽にやっていただければ、それで十分です。区切りが着いたみたいなので、行って来ますね」とひばりはステージに向かった。 <br><br>「ありがとうございました。文学部の大山希さん、谷川あおばさん、西海サクラさんによる“Perfume”の歌マネでした。みなさん、今一度盛大な拍手を！」 <br>　パチパチパチ… <br>「続きましては、我が学園アイドル、ミス・キャンパスの松風ちどりさん、そしてそのお友だちの国東みずほさんによります、漫才です。ちどりさん、みずほさんよろしくお願いします」 <br>　ひばりはそうコメントするとステージの袖に引っ込んだ。入れ替わりに、みずほとちどりが手を振りながらステージ中央に駆け出した。ちどりは慣れたものだが、みずほは少しこわばっている。<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br>※ 凡例　<br>み：国東みずほのセリフ　ち：松風ちどりのセリフ　二：二人同時のセリフ<br><br>二：「どーもー！みなさん！こんにちは!!」<br>み：「みずほちゃんです」<br>ち：「ち～ちゃんです」<br>二：「……３人合わせて『Perfume』です!」<br>ち：「って、なんでやねん。ウチらふたりやし」<br>み：「じゃーあらためて」<br>み：「みーずでーす」<br>ち：「ち～でーす」<br>二：「……２人そろって、ももいろクローバーーZ!!!!!」<br>　　（ポーズを決めるふたり）<br>ち：「って、人数ふえとるやん！」<br>み：「メンゴ、メンゴ」<br>　　（ちどりは、ちょっとあきれ顔）<br>ち：「気を取り直して、もう一回いくべー！」<br>み：「いくベー！って!?」<br>ち：「いいのっ！これが最後だからね」<br>み：「みーです」<br>ち：「ケイです」<br>み：「ペッパー警部よ」（振り付き）<br>ち：「ペッパー警部よってあんたいくつやねん？」<br>み：「UFO！」（振り付き）<br>　　（ちどりは、みずほの上げた手を振り払い）<br>ち：「やめなさい！みんな知らんから静まりかえってしもたがな～」<br>　　（みずほは、それを待っていたかのように）<br>み：「え～、静かになったところで、どうぞよろしくお願いしますっ。みーちゃ<br>　んです」<br>ち：「あんた、ホンママイペースやな～」<br>　　（あきれながら、みずほの頭からつま先まで見下ろすちどり）<br>ち：「それじゃー気を取り直して…」<br>ち：「ところで、みずほは、最近どんなドラマ見てる？」<br>み：「あたし？そうね～『私、テレヒドラマ見ませんから！』なんてね」<br>ち：「あっ、それってドクターＸ大門未知子だよね。あれは確かに面白いよね。<br>私はねぇ～、武井咲ちゃんの『すべてがＦになる』」<br>み：「えっ!?すべてがアホになる？」<br>ち：「違う！アホになってどうすんねん」<br>　　（ちどりは、みずほの頭をはたき、メガネが落ちる）<br>み：「メガネ？メガネ??メガネ？メガネ??」<br>　　（手探りでめがねを探すみずほ）<br>ち：「ようそこまでやりはるな～。しまいに、メガネ踏むよ」<br>　　（その言葉をきっかけに素に戻り、メガネを掛ける）<br>ち：「で、何の話やった？」<br>み：「アホになる」<br>ち：「そうそう、アホになる。なるかい！すべてＦになる!!」<br>み：「すべてをOFFにする？」<br>ち：「みんな休んでどうすんねん！OFFじゃなくて“Ｆ”。ＡＢＣのＦ!!」<br>み：「ＡＢＣにＦはないけど!?すべてがAになる？Bになる!?Cになる!!」<br>ち：「だから！ＡＢＣＤＥＦの“Ｆ”!!」<br>み：「なんや、そう言ってくれたら分かるわー。ＥＦＧのＦやろ」<br>ち：「そーです。なんかあんたとドラマの話しようと思ったけど、疲れてきたわ」<br>み：「そんなんやったら、すべてをOFFにする？」<br>ち：「ホンマあんたにかかったら“鬼に金棒 耳に綿棒”やで」<br>み：「うまいこと言うな～。じゃあ、鼻は？」<br>ち：「鼻にはティッシュ！」<br>み：「なるぼど。メモしとこ」<br>　　（メモをとるマネをするみずほ）<br>ち：「メモとらんでもええ！話題かえさせてもらうわ。ほな～どんな歌が好き？<br>　　ジャニーズ系とかＡＫＢとかいろいろあるやん？」<br>み：「そやね～。あんまりよー知らんけどな～。『エビガエル』ってグループあ<br>るやん」<br>ち：「エビガエル？」<br>み：「ほら、ＡＫＢの男性版みたいで、たくさんのおっさんが踊りながら歌って<br>いるヤツ」<br>ち：「おっさんって、失礼な。かっこえぇ男の人か？」<br>み：「そ、そうとも言う。とにかくめっちゃ踊ってんねんや」<br>ち：「ひょっとして『EXILE』？」<br>み：「そうそう、そうとも言うかな？エコ猿ル」<br>ち：「あんたホンマに、うといな」<br>　　（首をかしげるちどり）<br>み：「しゃないやん。あたしもともとおじいちゃんっ子やから。若い子の歌はよ<br>ーわからんけど、でもあれは好きやね」<br>ち：「あれってなーに？」<br>み：「そりゃー八代亜紀の“舟歌”でしょうよ」<br>ち：「へー、あんた演歌好きやったや～、って、あんたいくつや？ホンマに平成<br>生まれか？」<br>み：「当年25歳でーす」<br>　　（直立不動で敬礼するみずほ）<br>ち：「と言うことは平成やね」<br>み：「平成元年１月生まれでーす。20日前まで昭和でーす」<br>ち：「ギリ昭和みたいなもんやん！ひょっとして歌えんのん？」<br>み：「もちろん。まかしとてんかー」<br>ち：「では、一曲よろしくお願いします」<br>　　（突然、歌の司会をするちどり）<br>ち：「世は歌に連れ、歌は世に連れ…<br>それでは歌っていただきしょう、国東みずほで“舟歌”！」<br>　　「♪チャン、チャラリン。チャン、チャラリン。チャラチャラチャラ、<br>チャラチャララー♪」<br>　　（ちどりがイントロを口ずさむ）<br>み：「“お酒はぬるめの　冷がいい”」<br>　　（ちどり、ズッコケる）<br>み：「“肴はあぶった　生でいい”」<br>　　（ちどり再び、ズッコケる）<br>み：「“女は無口な　しゃべりがいい”」<br>ち：「ちょい！ちょい!!ちょいっ!!!」<br>み：「何よ～！これからええとことなのに～」<br>ち：「でも、歌詞おかしくないか？“ぬるめの冷”はありそうだけど、ない！“あ<br>ぶった生”はないと思うわ。あぶったイカと違うんか？それに、“無口なし<br>ゃべり”ってそれどんな人？」<br>　　（みずほは、口に手を当てながらモゴモゴ言った）<br>ち：「あんた、なにしてん。エンディングのサザエさんやないんやから」<br>　　(ちどりはみずほの手をはらった)<br>み：「あぁ～、窒息死するかと思たわ～」<br>ち：「あんたホンマに楽しそうやな。そやけど、歌詞違ったんは、あんたのじい<br>ちゃんが認知症やったから違うか？」<br>み：「そんなことないで～。そもそも演歌の歌詞ってええかげんなもんやねんで」<br>ち：「そうか？そんなことはないと思うけどな～」<br>み：「じゃー、都はるみの“北の宿から”歌える？」<br>ち：「まあ、有名な曲やからねぇ。でも、言っときますけど、私は正真正銘の平<br>成生まれですからね。有名だから知っているだけで…」<br>み：「はい、はい」<br>　　「♪チャラリーチャララー、チャラリーチャララー、<br>チャンチャンチャンチャッチャラララ、チャララララララー♪」<br>　　（みずほがイントロを口ずさむ）<br>ち：「“あなた変わりはないですか”」<br>み：「おかげさまで」<br>ち：「“日ごと寒さがつのります”」<br>み：「もう秋も終わりやからね」<br>　　（ちどりは突然歌うのをやめ）<br>ち：「ちょっと、横でごちゃごちゃ言わんといて！気が散るわ！」<br>み：「アイムソーリー、ひげそーり」<br>　　（ちどりに睨まれたので、小声で）<br>み：「ソーリー、ソーリー、安倍総理！」<br>ち：「ごめん、ラーメン、チャーシュー麺」<br>　　（みずほ、一瞬あっけに取られ）<br>み：「びっくり、しゃっくり、ごゆっくり」<br>　　（ちどり、ズッコケる）<br>ち：「ゆっくりしてられんわ！このあと“ももち”オン・ステージがあるん！」<br>み：「これまた失礼ーしました」<br>み：「では、気を取り直してはじめから…」<br>　　「♪チャラリーチャララー、チャラリーチャララー、<br>　　チャンチャンチャンチャッチャラララ、チャララララララー♪」<br>　　（再びみずほがイントロを口ずさむ）<br>ち：「“あなた変わりはないですか”」<br>ち：「“日ごと寒さがつのります”」<br>ち：「“着てはもらえぬセーターを”」<br>ち：「“寒さこらえて編んでます”」<br>　　（ちどりが“女心の”と力を入れて歌おうとした瞬間）<br>み：「風邪引くよ！！！って！着てはもらえへんもん、寒いのん我慢して編んど<br>ったら、風邪引くっちゅうねん。ほんまアホちゃうか？」<br>ち：「それを言ったらおしまいよ。アッ驚く為五郎！」<br>み：「ゲバゲバ、ピィーッ」<br>　　（ここで、二人は区切りをつけ、ステージ中央に並んだ）<br>み：「さて、みなさん“そんなおもろない漫才聞きとうないぞー！”というお叱<br>りの声もなく、最後までご鑑賞いただきましたこと誠にありがとうござい<br>ます」<br>ち：「みなさま、笑いは人間の潤滑油にしてコリと疲労の回復剤、健康への栄養<br>素。そして笑いこそ生活へのエネルギー」<br>二：「笑え笑え笑う門に福来る。これにて“みずどり”漫才終了でーす。ありが<br>とうございました～」<br>み：「おおきに！」<br><br>＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊<br><br>　会場の大きな拍手の中、みずほとちどりの漫才は無事終わった。ステージには、ふたりと入れ替わりに、ひばりが駆け出していた。<br>「おふたりのコンビ名“みずどり”さんって言うんですね。“みずどり”さんに、あらためて拍手を!!ありがとうございました」<br>　盛大な拍手に、一旦は引っ込んだふたりも、ステージの袖から再び姿を現して、深くお辞儀をした。ひばりはふたりの姿が再び消えたのを確認すると、会場に向けて話し出した。<br>「さて、次はいよいよ男性諸君のお待ちかね、“ももち”こと嗣永桃子さんの登場です。それではみなさん、イッセーノーで呼びましょう。“イッセーノー！”」<br>　会場内は、図太い声が響きわたった。<br>「みなさん！こんにちは!!みんなのアイドルももちだよ！カワイすぎて許してニャン…」<br>　ももちはステージ中央に駆け出した。<br><br>　一方、あすかのムチャ振り漫才を終えた、みずほとちどりは変な緊張がほぐれたらしく、くつろいでいた。<br>「あすか先生、来ていたね」とみずほが言った。<br>「一番前で、あんなに大笑いしている、あすか先生見たの初めてだよね」とちどりも答える。<br>「あすか先生の姿見ていたら、緊張していることすっかり忘れちゃったよ。ある意味、あすか先生のおかげ」<br>「でも、ちょっとウケすぎて周りの人引いてたね」<br>「だよね～。ところで、ちーちゃんこの後どうするの？」<br>「どうするのって!?ももちショーが終わったら、ミスコンだよ！ひょっとしてエントリーしていること、忘れていた!?」<br>「あっ、いっけね～！忘れていた!!急いで着替えないと！」と、言い終わる前には、会場外に駆け出すみずほだった。ちどりは、呆れて両手首を曲げて、ヤレヤレと言うポーズをしたその途端、みずほが走って戻って来た。<br>「ちーちゃん、千秋さんたちどこにいるんだっけ!?」<br>　この言葉に、ちどりは驚いた。<br>「えぇ～!!!!!!!!!もしかして、千秋さんと待ち合わせしていないの?????」<br>「漫才のことで頭がいっぱいで…。しまった！しまった！島倉千代子。こまった！こまった！こまどり姉妹。なんてね」<br>「まいった！まいった！マイケル・ジャクソン。ホント、冗談はよし子ちゃんだよ」<br>「スミマセン」<br>「ちょっと待ってね。電話してみるから」<br><br>　千秋の携帯が鳴った。しかし、そばに千秋はいなかった。美絵は思わずこう言った。<br>「電話、だれも出んわ！なんてね」<br>　電話が切れるとほぼ同時に、千秋が戻ってきた。<br>「千秋さん、携帯鳴っていましたよ」と伝えた途端、再び鳴った。<br>「千秋さん、電話、電話(善は)急げ！」<br>　そんな美絵のダジャレに微笑みながら、携帯をとった。<br><br>「今リトライのコールしているからもうちょっと待ってね」<br>　ちどりは、動揺するみずほに優しく言った。<br><br>『あっ、もしもし』<br>『カメよ、カメよカメさんよ』<br>『なにをおっしゃるウサギさん。って言葉遊びしている場合じゃないんです。ちどりです。千秋さん、今どちらにおられますか？』<br>『大丈夫よ。そんなに慌てなくても。みんなであなたたちの漫才見て楽しませていただきました。あぁ、みずほちゃんに伝えておいて。正門前の駐車場にワンボックスカー止めているから、そこに来てって』<br>『わかりました。そちらに行かせます。ちなみに、私の分はないですよね？』<br>『ちどりちゃんのことは知らないわよ～。それに私たちがいなくても大丈夫でしょ。頑張ってね。じゃ、４６４９じゃない、ヨロシクね』<br><br>「正門前の駐車場にワンボックスカーが止まっているから、そこで待っているって」<br>「ありがとう。ありがとうなら…」<br>「もういい！さっさと行きなさーい！」<br>「ラジャー！」そう言うと、脱兎のごとく駆け出すみずほだった。<br>「おーぃ！そっちは裏門!!」そんなちどりの叫び声も届かなかった。<br><br>　駐車場の車の中では、千秋と美絵が待っていた。<br>「それにしてもみずほちゃん、遅いわね～」<br>「今度は私が電話して聞いてみましょうか」と美絵が言った時、ちどりからメールが入った。<br><br><img src="https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/172.gif" alt="手紙">『スミマセン。みずほ裏門の方に駆けて行きました。先ほど彼女に連絡して返事が来たので、もうすぐ着くと思います。お世話をかけますがよろしくお願いします』<br><br>「美絵ちゃん、みずほちゃんテンパっているみたい。でも、もうすぐ来るみたいね」<br>「アハハハハ！なんかみずほちゃんらしい」<br>　美絵はうれしそうに笑った。<br><br>　ほどなくして、みずほが駆け込んで来た。<br>「すみません。遅くなりました」<br>　その姿にふたりは、あ然とし、顔を見合わせると笑いだした。<br>「えっ？どうしたんですか？」とみずほは怪訝な様子。<br>「笑ってしまってごめんなさい。みずほちゃん相当走って来たんだね」美絵は笑いをこらえながら言った。<br>「正門と、裏門、間違えちゃって。正反対だから、かなり、走りました」みずほは息を切らせながら答えた。<br>「汗で髪までびっしょりだから、アヒルのマネをしたニワトリが、池で溺れたみたいで…」と、実に失礼なことを笑いながら言う千秋だった。でもそんなふたりにつられて、みずほも笑いだした。<br><br>　一方、みずほとちどりの漫才を見終わったあすかは、席を立とうとしていた。その時、偶然にも空いた席がないか探し回る翼の姿が目に入った。<br>「あれ？翼くん、今頃どうしたの？みずほちゃんとちどりちゃんの漫才、終わっちゃったよ」<br>「いや、その、ちょっと恥ずかしくて、後ろの方でこっそり聞いていました」<br>「なに言っているのよ。君のセンスなかなかよかったよ。久し振りに大笑いしちゃった。ところで、剣くんと燕くんは？」<br>「あぁ、ふたりならあそこです」と指差した。そこには、ももちのステージに盛り上がるふたりの姿があった。<br>「翼くんはどうして加わらなかったの？」<br>「別に深い意味はありません。席が２つしか空いていなかったのと、アイドルにはあまり興味なくて…。でも、このあとのミスコンは誰になるか？すごく興味ありますよ」<br>「そっか。君はみずほちゃんオシだものね」<br>「いっ、いえいえ！そんなことないんです!!」<br>「紅い顔して、ムキにならなくていいのよ、冗談だから。どうぞ、ここ座って。ここならよく見えるから」<br>「あ、ありがとうございます」<br>「じゃーね」<br>「あっ、失礼します」<br>　あすかは翼に席を譲ると、人ごみに消え去った。<br><br>　さてももちを☆明星祭☆に招いた張本人の室人はというと、ステージ袖に潜んでつぶやいていた。<br>「ひばりめ！何のためにお前をＭＣにしたのかこれじゃー意味がないだろう」<br>　どうやら立場を利用して、控え室に入り込んでなんとか仲良くなろうと言う魂胆だったが、ひばりの策によって拒まれ、ほぼ計画は失敗したようだ。やがてももちのワンマンショーも終わり、盛大な拍手と声援が飛んでいた。袖に引っ込もうとするももちをひばりが呼び止めた。<br>「嗣永桃子さん！」<br>　その声にももちが振り返った。袖では室人が舌打ちした。<br>「実は、なんとこのあと『暁曙学園』のミス・キャンパスコンテストがありまーす。もしよかった嗣永桃子さんにもコメンテイターとしてご参加いただけませんか？」<br>「えぇ～、いいですか？でも、ももちよりカワイイ子がいたら、嫉妬しちゃうかも。その時は、許してニャン！」<br>「会場のみなさんいかがでしょうか？」<br>　会場からは、声援と拍手で満場一致となった。<br>「ありがとうございます。それでは『暁曙学園』の女王、ミス・キャンパスコンテスト、開催します!!今回のエントリーは15名です。もちろん、前回まで女王、６冠の松風ちどりさんもエントリーされています。さて、はたして松風ちどりさんの７冠が実現するのか？はたまた、今回は新人が現れるのか？はてさて、晴れの栄冠に輝やくのは誰か!?では、さっそくまいりましょう。まずはこの方、エントリーナンバー１番、教育学部２年の米山由乃香さんです。どうぞ！」<br>　ついにももちをコメンテーターに仕立てて、ミス・キャンパスコンテストがはじまった。<br><br>　ステージには、全身黒ずくめ姿で長い髪をなびかせて、トップバッターの由乃香が登場。まるで“銀河鉄道999”のメーテルのコスプレの出で立ちに、会場内は割れんばかりの拍手が響いた。<br>やがて、中央に立った由乃香に、ひばりとももちが駆け寄った。<br>「本物のメーテルが登場したのかと思いました」とひばりが話しマイクを向けた。<br>「今回こそは優勝狙っていますからね。思いきってメーテルになりきってみました」と由乃香が答え、ももちは「すごっく似合っています。ももちが男の子だったら、絶対恋しちゃいます」と褒め称えた。<br>　ステージ袖の片隅では、室人がひとり苦虫を噛んだ顔をしていた。<br><br>　一方、ミスコンがはじまったころ、あすかは再び会場に向かっていた。<br>　☆明星祭☆のメインイベントだけあって、すでに会場内は立ち見もでていて、混雑していた。あすかは、必死で場所を探し回り、なんとか見える場所を確保した。すると、よほど暑いのか、ハローキティのハンカチで扇ぐ男性が隣にいた。よく見ると、それは工学部の大淀赤城教授だった。<br>「こんにちは、大淀教授。意外にカワイイ系のご趣味なのですね」<br>　大淀教授は突然声をかけられ、不本意なことを言われため、戸惑い気味に挨拶した。<br>「あぁ、こんにちは、あすか先生。」<br>　あすかは、視線を彼の手にあるハンカチに向けていた。<br>「こ、これは僕のではないです。ゼミか何かの忘れ物で、声をかけられたときに返そうと思って…」<br>「そうなのですか？てっきり大淀教授は少女趣味なのかと思いました」<br>「勘弁して下さいょ」<br>　大淀教授は笑って答えた。<br>「ところで今日は、このミス・キャンパスコンテストが目的ですよね」<br>「まぁ男性陣にとって興味のないやつはいないでしょう」<br>「下心見え見えですね。あっ、そう言えば、ゼミの学生に変なこと吹き込まないで下さいね」<br>「もしや、あいつら…」<br>「そうです。この前私の講義に潜入した学生いましたよ。それも男のロマンとか言って…」<br>「すみません。よく言っておきます」<br>「それは違うと思いますよね。誰さんが嗾けたのではないでしょうかね～？」<br>「面目ない」そう言って大淀教授は頭を下げた。<br><br>　さて、バックステージで出番を待っているちどりは、少々焦っていた。見慣れない、派手な女の子が一人いた。しかし、みずほの姿が見えないのだ。ミスコンの方は順調に進み、エントリーナンバー13番の出番となった。<br>「続いては、エントリーナンバー13番、工学部１年石見きいさんです」とひばりが紹介した矢先、ステージ袖からちどりが手招きしている姿が目に入った。傍らには、ちどりに突き飛ばされた室人が転がっていた。<br>　ひばりは小声で「すみません、ちょっと外れますので、お願いできますか」とももちにマイクを渡すと、バックステージに駆けて行き、立ち上がろうとする室人を再び突き飛ばした。<br>「ちどりさん、どうされたんですか？」<br>「この次、みずほの番でしょう…。でも彼女着替えに行ったまま、まだ来てないみたいなの。どうしよう!?」<br>「えっ！」<br>　ひばりは思わず大きな声を出した。ちどりはあわてて、指を唇に当てた。<br>「すみません。では、ちどりさんとみずほさんの順番を入れ換えましょう。ちどりさんが時間稼ぎをしている間に、私が捜してきます」<br>「わかった。次、私が出て、ミスコン６冠の魅力を振りまいて来るよ」<br>「お願いします。とりあえず、私は一旦ステージに戻りますね」そう言うと、ひばりは急いでステージに戻った。そのついでに室人を突き飛ばして…。<br>「おい、今のはワザとだろう！」<br>　室人の声は届かなかった。<br>　ステージでは、ももちがきいと和やかに話していた。<br>「嗣永さん、ありがとうございました。またお願いしますね」<br>　ひばりは小さな声でお礼を言った。<br><br>(つづく)<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207326047.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅳ.笑え笑え笑う門に福来る(後)</title>
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<![CDATA[ <font size="3">(つづき)<br><br>「あすか先生、13番の彼女、僕のゼミの学生なんですよ。スタイルいいでしょう。身長170cmですよ」<br>「大淀教授は、ああいうお嬢さんがタイプなんですか？でも、胸は余り大きくは見えませんが…」<br>「いえいえ。彼女みたいなタイプは、どちらかと言えば苦手ですね。うかつに話を真に受けると、とんでもない結果になりますからね…。それにグラマーな女性もちょっと…」<br>「あら、意外！学生にはあれほど焚き付けておいて…。ひょっとして、私、ふられましたね」あすかはそう言って笑った。<br>「そう言う訳ではないのですが…」大淀教授も苦笑いした。<br>「この歳まで独り身でいると、何かにつけて楽ですからね」<br>「よほど、夜遊びがお好きなのですね」<br>「そんなことはないですよ。見た目通り真面目ですから。ドが付くほど」<br>「ハイハイ。ドスケベ教授さん」<br><br>　ステージでは、なにやらひばりが話し出した。<br>「次はエントリーナンバー14ですが、ここでサプライズです！なんとミス・キャンパス６冠の松風ちどりさんが、少しでも早くみなさまの登場したいということで、トリを譲っての登場です。それではご紹介しましょう。エントリーナンバー15番、文学部４年、松風ちどりさん。どうぞ!!」<br>　ステージ袖にいた室人は、また突き飛ばされてはかなわないと思い、あわてて階段を駆け下りたところ、足を滑らせ転落、激痛が走り動けなくなった。一方、ちどりは室人のいた側とは逆から登場、場内は拍手の嵐で室人の叫び声はむなしくかき消された。<br>「皆さん、こんにちは！学園のアイドル、松風ちどりで～す!!本当ならトリに一番ふさわしい私ですが、皆さんに一秒でもお目にかかりたく登場しました」<br>　真っ白なセーラー服に身を包んだちどりは、会場を見渡し、翼の姿を見つけ出た。そして耳に手を当て「なになに、そこの翼くん」ちどりはそう言うと、指差した。<br>　ただ、ボーと見ていた翼だったが、突然名出しされ、ビックリして立ち上がってしまった。<br>「さっき漫才であきるほど拝見したって!?甘いよキ・ミ・は」そう言うと、翼を手招きした。<br>　彼は、必死に首を横に振ったが、意に反して会場の拍手が手拍子に変わっていった。仕方なくステージに上がることになってしまった翼。緊張のあまり意識が飛びそうだった。<br>「皆さ～ん！ステージに上がってくれた工学部の土佐翼くんに拍手を！」<br>　ちどりがさらに盛り上げる。翼の顔はさらに紅潮した。<br>「翼くん！どうですか？今日この、わ・た・し!?」<br>「か、かわいいです」<br>　緊張のあまり声が出ない。そんな翼をからかうように、ちどりは耳に手を当て尋ねる。<br>「もう少し大きな声で」<br>「とってもお似合いで、かわいいです」<br>　翼にとっては、もう半分脅迫されている気分だったが、その程度で許すちどりではなかった。<br>「ももちー！」とステージの端にいた、ももちを手招きし、ステージ中央に呼んだ。<br>「さーて、翼くん！こちらのももちと私、どちらがかわいいでしょうか？」とちどりが言い出すと、ももちも負けじと、翼と腕を組み「ミス・キャンパスのちどりさんには申し訳ないですが、もちろんももちですよね～！つ・ば・さ・くん」と甘えた。これには、翼も参いったようで、少し鼻の下が伸びた。するとすかさず、ちどりも翼の空いた方の腕を取り組んだ。<br>「ももちよりわ・た・し、だよね～！」と言ったあと、小声で「どっちなんだよ！男ならはっきりしろよ!!」とすごんだ。<br><br>　一方、ステージを後にしたひばりは、寝っ転がっている室人をひょいっと飛び越え、控え室に向かった。控え室には、見慣れない女の子がひとりたたずんでいた。そしてこの女の子に声をかけてみた。<br>「すみませーん、国東みずほさんはどちらにおられるか、ご存知ないですか？」<br>　すると、その女の子は<br>「ひばりちゃん！あ・た・し」<br>　その言葉にひばりは驚いた。あの漫才のときの面影が全くなく、別人のように思えたからだ。<br>「えっ！えぇぇ～！本当にみずほさんですか？メガネは??」<br>「メガネね～、かけると髪型に癖が付いちゃうからダメなの。だからよく見えなくて、間近でないと誰だけわかんなくて…。ところでちーちゃんは？」<br>「変身したみずほさんに気付かず“まだ来てない”って言い出して、急遽順番変更。今ステージに立っています」<br>「そうなの、ゴメンね」<br>「大丈夫ですよ。でもみずほさん、とってもかわいいですよ。ちどりさんよりも」<br>「ありがとう」<br>「じゃー私と一緒にバックステージまで行きましょう」<br><br>　さて、ステージ上では相変わらず翼がもてあそばれていた。<br>「おーい！バッサンどうした!!」と剣がヤジを飛ばし、燕は<br>「バッサンはいいよな～…」とため息ついた。しかし、翼にしてみれば会場を見ることもできず、逃げ出したい気分いっぱいでいた。ふと袖の方を見ると、激痛に必死に耐えながら恨めしそうに視線を送る室人が目に入った。<br>「ちどりさん、ももちさん、決めました。僕は…！あっ！」翼は返事をする振りして、わざとすっ転び腕が離れた瞬間、ステージ袖に逃げ出した。<br>「あっ！逃げちゃった。許さないニャン！」とももちが残念そうに言うと、ちどりも「プロには恥かかす訳にはいませんよね。ももちの方がかわいいってことで…」と譲った。<br>「ちどりちゃん、許してニャン」<br>ステージ袖に逃げ込んだ翼は、室人に声をかけた。<br>「どうしたんですか？」<br>　室人は「足が、足が、痛い!!」と必死で訴えた。<br>　翼は室人に肩を貸して、救護室に急いだ。その時、ひばりとみずほとすれ違ったが、気にする余裕はなかった。結局、骨折の恐れがあると言うことで、室人は救急車で運ばれ、翼も付き添うはめになった。<br><br>　あすかは急遽ちどりが出て来たので、みずほのことが気になっていた。<br>「確か、松風ちどりさんって言えば、歴代トップの連続記録を持つミス・キャンパスですよね」<br>大淀教授はあすかに話しかけた。しかし首を立てに振るだけで返事がないため<br>「どうかされました？」と尋ねた。<br>「あぁ、いや大したことではないのですが…。本来ならちどりさんの友人のみずほさんの出番だったものだから、どうしたのだろうと思いまして…」とあすかは口を開いた。<br>「たぶん大丈夫ですよ」<br>「どうしてそんなことが言えるのですか!?」<br>　あすかは大淀教授の無責任な発言に少しイラついた。<br>「あぁ、すみません。余計なことを言いました」<br>　ふたりの間には、少し険悪な雰囲気が漂った。<br><br>　千秋と美絵は、みずほの仕度を終えると会場に足を運んだ。<br>「満員御礼だね。座るところなんて全くないし、立って見るのもやっとだね」と美絵が言った。<br>「後片付けで遅れちゃったからね。ほら、今ちどりちゃんがステージに立っているよ。あの男の子、かわいそうにいいようにいじられている」<br>　ちどりの性格を知ってか、千秋は笑いながら言った。<br>「本当だ。そうそう、その瞬間に逃げなきゃ！上手上手!!」美絵も手をたたいて楽しそうに話した。<br>「でも、ちどりちゃんも考えたわね。真っ白なセーラー服で勝負とは。でも私も負けてないわよ。みずほちゃんに本気て挑んだだもの」と千秋は息巻いた。<br><br>　ひばりはステージ袖からちどりに合図を送った。ちどりも安心したのか「さて、大トリの方の準備も整ったようなので、最後の方にこの場を譲りたいと思います。皆さん！ありがとう！」と言って手を振りながらステージの袖に下がって行った。<br>　すかさずひばりは、最後の出場者を紹介した。<br>「それでは最後の方です。エントリーナンバー14番文学部４年国東みずほさん！どうぞ!!」<br>　みずほはちどりが下がったステージ袖とは逆の方からゆっくり歩き出した。彼女の衣装は、フリフリがたくさんついた淡いピンクのワンピースに白のアウター、頭にはこれまたピンクのちっちゃな帽子がちょこんと乗っている、いわゆるゴシック＆ロリータファッションだったが、見事に違和感なく着こなしている。 <br>　会場は、一瞬静まり返り、かつてないほどの拍手が湧き上がった。あまりの会場の雰囲気に、控え室に戻りかけたちどりもステージ袖に駆け戻り、ステージ上を覗いた。そこには、先ほど見かけた女の子が立っていた。<br>「えっ！みずほだったんだ!!」 <br>　ひばりはマイクを持ってみずほのもとに向かおうと思った時には、隣にいるはずのももちの姿は既になく、一足先にみずほの元にいた。さらにももちはみずほの周りを一周すると「かわいい!!」と叫んで、抱きしめた。これには、さすがにみずほも驚いた。 <br><br>　千秋と美絵は予想以上の反応に大満足だった。まさかタレントが喰いつくとは思っても見なかったからだ。 <br>「千秋ちゃん、大成功だね」 <br>「結果次第では、ちどりちゃんが悔しがるかな？」 <br>「もう悔しがっていますよ。きっと。ほら袖口で覗いているみたいだし」 <br>「ホントだ」そう言ってふたりは笑った。 <br><br>　一歩出遅れていたひばりは、ふたりにマイクを向けると、素早くももちにマイクを奪われた。 <br>「スッゴくカワイイです。まるでお人形さんみたいで、持って帰りたいですね」と話し、さらに「ねぇねぇ、スカートの裾を両手でつまんで、右足を前にクロスしてみて」とポーズを決めさせた。<br>　こうなるとももちの独壇場。ネコ手をさせて“許してニャン”をさせ、挙げ句の果てには“許してニャン体操”をさせるという 有り様だった。メガネのないみずほにとって、マネをするのは至難のワザ、ついていくのがやっとで、これには、会場もバカウケ。ただ、ももちの暴走ぶりにはひばりも傍観するしかなかった。 <br><br>　あすかはみずほの登場に「みずほちゃん！」と思わずちゃん付けで手を振りながら叫んでいた。その姿に大淀教授はあっけにとられていたが、ステージに立つ彼女を見て、何か気にかかるものがあった。あすかはさらにエキサイトし「ほら教授！みずほちゃんですよ！カワイイでしょう!!」などと連呼し大淀教授の身体をバンバン叩いて興奮していた。大淀教授と言えば、ただただ痛みに耐え、頷くだけであった。 <br><br>　なんとかももちからマイクを奪還したひばりは「そろそろ時間も迫ってきました。国東みずほさんに温かい拍手を」とコメントしその場を収拾しようとした。その言葉に従い、みずほは一礼し、ステージ袖に向かったが、なぜかももちも付いて行き、そのままふたりの姿は消え去った。 <br>　ホッとしたひばりは、気を取り直してコメントを続けた。 <br>「それでは、改めて今回のミス・キャンパスコンテスト参加者を、ご紹介します」 <br>　そのアナウンスに誘われるように、16人(？)が再び登場した。 <br>「エントリーナンバー１番、教育学部２年、米山由乃香さん。つづいて、エントリーナンバー２番・・・・・。エントリーナンバー７番、経済学部２年、秋吉いなほさん。・・・・・エントリーナンバー13番、工学部１年、石見きいさん。エントリーナンバー14番、文学部４年、国東みずほさん。エントリーナンバー15番、文学部４年、松風ちどりさん。以上…」 <br>「エントリーナンバー16番、嗣永桃子。よろしくニャン！」 <br>「すいません。最後の嗣永さんにはエントリーされていませんので、投票しないで下さい。っていうか、投票できません。ももち！ハウス!!」 <br>「ももち、許してニャン！」 <br>　ももちはそう言って、ひばりのもとに来てお手をした。 <br>「えっと、なんだっけ？そうそう、あっ失礼しました。なお、今回都合により14番の国東みずほさんと15番の松風ちどりさんの順番が入れ替わっております。投票の際には充分ご注意ください」 <br>　とりあえずひばりのコメントが終わると、参加者たちは、控え室へと戻って行った。 <br>「以上でミス・キャンパスコンテスト参加者の披露を終了します。これより投票に入らせていただきます。投票方法は、当学園サイトにアクセスしていただき、ログインの後、学園祭のバナーからミス・キャンパスコンテストの投票ページを開き投票して下さい。なお投票後の変更はできません。また、当学園関係者以外の方は投票できません。あしからずご了承下さい。なお投票の締切は只今より30分後です。速やかにお済ませ下さい。それではこれより30分の休憩に入ります」とアナウンスすると、ひばりとももちは袖へと消えて行った。 <br><br>「大学関係者しか投票できないのは、残念」千秋はそう言ってため息をついた。 <br>「千秋ちゃん、しょうがないですね。学生たちのイベントですからね…」 <br>　内心、美絵も残念がっていることが感じられた。 <br>「でも結果が30分後にはわかるのでしょう」 <br>　突然、ふたりの後ろから声がしたので驚いて振り返るとそこには、ちとせが立っていた。 <br>「ちとせちゃんじゃないですか」 <br>「今日は来られなかったはずでは」 <br>「なんとかみずほちゃんの出番には間に合ったの。ちどりちゃんには申し訳ないけれどね。でも、あなたたちを捜すのにホント苦労したわ。まさかこんなにたくさんの人だとは…」 <br>「ところでみずほちゃんの衣装とメイク、どうでした？」と言う美絵の質問に、ちとせは親指を立てて合図した。 <br>「よかったー」そう言ったのは千秋だった。 <br><br>　一方、あすかと大淀教授と言えば、誰に投票するか決められずにいた。まわりの学生達は、スマホやタブレットを出して、なんだかんだ言いながら投票していた。 <br>「あすか先生は、やはりみずほさんですか？」 <br>「えっ!?どうしてですか？」 <br>「あれほどはしゃげば、想像がつきますよ」 <br>「私、そんなにはしゃいでいました？」 <br>「ええ。けっこう。アザができるのではないかと思うほど…」 <br>「私にアザですか？別にどこも痛くはありませんが…」 <br>　大淀教授は頭をかかえた。そんなことを気にすることなく、あすかはさらに話しを続けた。 <br>「教授は誰に投票するのですか？」 <br>「僕ですか？僕は７番の秋吉いなほさんですかね」 <br>「えっ！ちどりさんじゃないのですか？」 <br>「ダメですか？」 <br>「いや、私がみずほさんに入れて、教授にはちどりさんをお願いしようかと…」 <br>「それはダメでしょう」 <br>「では、私がちどりさんに入れて、教授にはみずほさんに入れて下されば…」 <br>「どっちも一緒でしょ！だめです。僕の一票をあすか先生に差し上げるわけにはいきません。僕は秋吉いなほさんです」 <br>「さては、彼女と※※※の関係だったりして」 <br>「そんなことはありません。僕の独断と偏見です」 <br>「はぁぁ…」 <br>うなだれるあすかであった。 <br><br>　方や剣と燕は、翼を待っていた。 <br>「バッサン、いったいどこまで行ってんだよ!?」と剣が言い出すと、燕は「さぁーな。でもいいよな～、バッサンは」とまだ嘆いている。その時偶然にも、剣と燕のスマホが同時に鳴った。 <br>「バッサンからメッセージが来たぜ」<br><br>“救急車で病院にいる”<br>「なんで病院にいるんだよ!?」 <br>「美女ふたりに挟まれて、のぼせたんじゃないのか？」 <br>「とりあえず、聞いてみよう」 <br>“どうしたんだ？事故にでもあったか？” <br>“おれじゃない。実行委員長が骨折したみたいで、付き添いだ” <br>「付き添いで病院にいるみたいだぜ」と剣が言えば、燕は「じゃー俺からメッセージさせてくれ」 <br>と言った。 <br>“美女に囲まれていい思いしたんだから、せいぜい看病してやりな！” <br>“そりゃーないよ～” <br><br>　控え室では、ちどりとみずほが話していた。 <br>「見事に変身したね！スタジオの時と真反対の変身でぜんぜんわからなかった。でも、めっちゃかわいい!!ももちの気持ちがよくわかるよ」 <br>「ちーちゃん、ありがとう。学生生活のいい思い出になったよ」 <br>「なに言ってんだよ。まだこれから結果発表もあるんだし、いいセンいってると思うよ」 <br>ふたりがそんなことを話していると、いなほがやって来た。 <br>　「お疲れさまです。みずほ先輩、とってもかわいかったです。ひょっとすると、優勝するんじゃないですか。私なんて足元にも及びません」ちどりは思わず咳払いをした。 <br>「あっ、ちどり先輩の真っ白なセーラー服には驚きましたよ。でも彼氏を利用するなんて考えましたね」 <br>「あれは、彼氏ではありません！あんなのが彼氏だったらミス・キャンパスとして恥ずかしいよーだ!!」と言って口をとがらせた。 <br>「すみません。そうですよね。ちどり先輩ならもっと背が高くて足が長くてハンサムな人がお似合いですよね」その時みずほが口をはさんだ。 <br>「そうなの、理想が高すぎて未だに彼氏がいないのよ。不思議でしょう」 <br>「なに言ってんだよ。そんなみずほも、いないじゃん」とちどりはつぶやいた。 <br>「あたしは、ちーちゃんみたいに美人じゃないもん」 <br>　みずほもやり返す。いなほはふたりの会話に愛想笑いしたのち、ちどりに尋ねた。 <br>「ちどり先輩ってモデルされているのですよね。やっぱり芸能人のお友達とかいらっしゃるのですか？」 <br>「いや、いないよ。私の場合、ほとんど雑誌関係のモデルだからそういう接点はないよな～」 <br>「そうなのですね」と言うと、いなほは残念そうな顔をした。<br>　そんな彼女の表情を察して、みずほが話し出した。 <br>「どうしてそんなこと聞くの？大好きなタレントさんに会いたいとか？」 <br>　いなほは首を横に振った。 <br>「笑わないで下さいね。実は、私、女優さんになりたいと思っているんです」 <br>「そうなんだ」 <br>　みずほとちどりはハモった。 <br>「一応、事務所には登録しているのですが、実際のところエキストラばっかりで。オーディションの情報も少ないし、運よくオーディションを受けることができてもテクニックというか、アピールの方法がよくわからなくて…。それに、ちどり先輩やみずほ先輩みたいに、綺麗でも可愛くもないし…」 <br>「そんなことないよ。十分カワイイよ。メガネ姿も似合っているし。あっそうだ！ねぇねぇ、ちーちゃん。千秋さんや美絵さんなら、何かそういった情報があるんじゃない」 <br>「そうかもね。私よりもたくさんのモデルと接している訳だし、何か得られるかもね」 <br>「じゃー、いなほちゃん。これが終わったら、あたし衣装とか返さなくちゃならないから、一緒についておいでよ。ちーちゃんいいでしょう」 <br>「あぁ、って私が決めることでもないような気がするけど…。でも期待しない方がいいよ」 <br>「ありがとうございます。では後ほどよろしくお願いします」 <br>　いなほは深々とお辞儀をした。そしてほどなくして、ひばりが休憩時間の終了を伝えに来た。 <br><br>　いよいよ、『暁曙学園大学』のミス・キャンパスコンテストの結果発表の時となった。<br>　ひばりがステージに立ち、エントリーされた15名を改めて招き入れた。ひばりの隣には、ももちがワクワクした表情で立っている。 <br>「大変ながらくお待たせしました。それでは、いよいよミス・キャンパスの結果発表です。今回の投票総数は、1532票です。では、まず第３位の方からです。第３位の方は２名おられます。まず、最初の方、得票数149票、エントリーナンバー13番、石見きいさん。おめでとうございます！続いて、エントリーナンバー７番、秋吉いなほさん。おめでとうございます！」 <br>　ふたりは驚きの表情を見せた後、前に進み出て深々とお辞儀をすると、会場内に拍手が響き渡った。ひばりは、拍手が落ち着くのを待ってから話し出した。 <br>「つづいて、準優勝の方です。得票数181票、エントリーナンバー１番、米山由乃香さんです。おめでとうございます！」 <br>　まさにメーテルそっくりのコスプレをした由乃香が前に進み出て、お辞儀をした。再び会場内に拍手が響き渡った。ももちは由乃香のもとに進み出て、準優勝の盾を手渡した。拍手が一段落すると、ひばりが優勝者の発表に入った。 <br>「さて、お待ちかねのミス・キャンパス優勝者ですが…。とりあえず、ここで一旦深呼吸しましょう」 <br>　ひばりのもったいぶりに、会場内は、期待と不安、そして緊張で静まり返った。 <br>「ワクワクしてきましたね。誰かな？誰かな？」 <br>　ももちも待ち遠しいようだ。 <br>「今年のミス・キャンパス優勝者は!!」そう言うとまた、口をつぐんでしまった。さすがに会場内は、ざわめきだした。<br> <br>「そんなに引っ張らないで、早く発表してよ！」と美絵はつぶやいた。千秋にいたっては「もったいぶらずに、さっさと発表しろ!!」と叫んでしまったため、かえって視線を浴びてしまった。<br><br>　あすかは、隣にいた大淀教授を相変わらず叩きながら言った。<br>「ねぇねぇ！大淀教授、誰だっと思います!?」<br>「あすか先生、お願いですから叩かない下さい」<br>「あっ、すみません。興奮するとつい…」我に返っると、とりあえず謝った。<br>「あすか先生は誰だと思います？」<br>「えぇぇぇ～。そんなことわかりませんよ」<br><br>　ざわつく会場を尻目に、ステージ上ではなにやらひばりとももちが話し合っていた。やがて、ひばりがマイクを握った。<br>「お待たせしました。では気を取り直してまいります。優勝者の得票数214票。優勝はエントリーナンバー15番、松風ちどりさん。そして…」と言った途端、会場内はどっと湧き上がった。その時、ももちが叫んだ。<br>「みなさ～ん!!お静かに!!!!!最後まで聞いてくださーい!!!!!」<br>　しかし、その程度ではおさまるはずもなく『前代未聞の７達成！』『おめでとう！』などと言う声も聞こえた。<br>「じゃかましいわ！てめーら！静かにしろってんのが聞こえんのか!!わいの話しの続きを最後まで聞け!!!」とひばりがキレた。<br>　さすがにこれには、ももちもたじろいだ。すかさず、ひばりは「あぁ怖かった～」とボケたため、ステージ上のみんながこけた。<br>「失礼しました。ご協力ありがとうございます。では続けさせていただきます。優勝は松風ちどりさん！そして、もうお一方！エントリーナンバー14番。国東みずほさんです！」<br>　盛大な拍手そして歓声、会場を見渡すとみんな立ち上がっていた。みずほとちどりは、手を取り合って、前に進み出た。すかさずももちが駆け寄り「おめでとうございます！」と、優勝トロフィーを手渡した。みずほとちどりは、ひとつのトロフィーをふたりで掲げた。<br><br>「大淀教授！やりましたよ、ふたりとも優勝ですよ!!」<br>　あすかは、もう大喜びで飛び跳ね、またまた、大淀教授をバシバシ叩きまくっている。<br>「わかりました。わかりましたから、そんなに叩かないで下さいよ」<br>“あすか先生がこんな方だとは…”そう思った彼は、退散することを選んだ。<br>「すみませんが、僕はこのあたりで失礼させていただきます」<br>「えっ!?帰ってしまうのですか？」<br>「はい。あすか先生はどうぞごゆっくり」そう言うと、大淀教授は手を振って会場を後にした。<br><br>　ひばりはちどりにマイクを向けた。<br>「このたびはおめでとうございます！今のお気持ちをどうぞ。まずは、７冠を達成された松風ちどりさんから」<br>「みなさん！ありがとうございます！こんな私を７回も支持していただきありがとうございました。」とちどりは会場に向けて頭を下げた。<br>「では続いて、国東みずほさん。お願いします」<br>　思ってもいない結果に、みずほは戸惑っていたが、ひばりにマイクを向けられたため話し出した。<br>「このたびはこんなあたしを選んでくださり、本当に申し訳ありません。ちーちゃんと、もとい。ちどりさんと一緒にここに立てたことだけでうれしいのに、このような結果まで…」<br>　最後は涙声で何を言っているかわからないというより、本人もわかっていないように思えた。<br><br>　ステージでは、ひばりからみずほたちのインタビューが一段落して、ももちの総評が終わると、閉幕の案内になった。しばらく余韻に浸っていたあすかだったが、バックステージに向かうことを思い付き、会場を後にした。バックステージに着くと、ちょうどみずほたちが控え室に向かうところだった。あすかは思わず手を振って声をかけた。<br>「みずほさん！ちどりさん！」<br>　その声に気付いたみずほは、振り返ったが、あいにくメガネをかけていないため誰かわからなかった。あすかはみずほの表情に、思わず引いてしまった。目を細めて睨みつける怖い表情のみずほの姿に、ちどりが声をかけた。<br>「なんで目を細めて睨みつけているんだよ。こぇーよ。衣装のイメージが台無しだよ」<br>「でも、誰か、呼んでいたから…」<br>「どこ？どこ？なんだ、あすか先生じゃん。ほらみずほの睨みでどん引きしてんじゃん」そう言って、ちどりはあすかに手を振った。ホッとした、あすかはみずほとちどりの元に駆け寄った。<br>「みずほさん、ちどりさん、おめでとう!!」<br>「ありがとうございます」<br>　ふたりは同時にお礼を言った。さらにみずほは、<br>「さっきはすみません。睨むつもりはなかったのですが、メガネがないと見えなくて…」<br>「いいのよ、気にしなくて。でも可愛く変身したわよね～。別人みたい」<br>「別人28号なんてね。私もみずほがここまで変わるとは想像すらできませんでした。ある意味、この女、怖いです」とちどりが言った。<br>「そう言うちどりさんも、女子高生みたいにセーラー服なのだから、あなたもある意味怖いわよ～」<br>　あすかのその言葉に、三人は笑った。<br>「あっ、ごめんなさい。足止めさせて。これから着替えないといけないわよね」<br>「すみません」<br>　みずほとちどりは謝った。<br>「いいのよ。おめでとうの一言が言いたかっただけだから。どうぞ、行ってちょうだい」<br>「では、失礼します」そう言うと、あすかと別れた。<br><br>　控え室では千秋と美絵、そしてちとせが待っていた。<br>「みずほちゃんに、ちどりちゃん。お疲れさま」<br>　先に声をかけたのは美絵だった。<br>　その姿に気付いたちどりは「美絵さん。千秋さんにちとせさん」そう言いながら、手を振って駆け寄った。<br>「ちどりちゃん、どう？彼女可愛く変身したでしょう」<br>「千秋さんのテクニックには参りました」と千秋の言葉に答えると、美絵が<br>「私もがんばったんだけどな～」と言った。<br>「みずほちゃんもお疲れさま。みんなで写真撮ろうか」そう言ってちとせはカメラを取り出した。<br>「じゃー、みんな並んでー！」<br>「いなほちゃんもおいでよ。いいでしょうみなさん」<br>　みずほはいなほを招き入れた。<br>「ハイ、チーズ。ＯＫ」<br>「今度は私がシャッター押しましょうか」<br>　いなほは気遣ってちとせからカメラを預かった。<br>「半押ししてピントが合ったら“ピピ”って鳴るから、そしたら押し切って」<br>「わかりました。では撮りま～す。ハイ笑って！１＋１は？」<br>「にー！ありがとうございました」<br>　写真を取り終わるや否や、ちどりがいなほの元に駆け寄った。<br>「今日の画像見せて下さいね」<br>　そう言いながらカメラをいなほから受け取ろうとした瞬間、ちとせが血相を変えて言った。<br>「ダメ！ちどりちゃん渡したらダメ!!」<br>　そのきびしい言葉に、いなほは差し出しかけたカメラを慌てて引っ込めた。<br>「あぁ、良かった。寿命が縮まるよ」<br>　ちとせは安堵した。<br>「ちーちゃん、ダメだよ。壊し屋なんだから。画像転送して貰ってからにしなよ」<br>　みずほは笑って言った。するとこんどは、千秋から声がかかった。<br>「みずほちゃん、そろそろ着替えてちょうだい。車をこっちにまわしているから来て」<br>「ハーイ」<br>「ハイ、メガネ。これがないと見えないのでしょう。忘れて行っちゃうんだから。あっ、髪はどうする？そのままでいい？」<br>　美絵が声をかけ、メガネを手渡した。<br>「あぁ、このままでいいです。自分で勝手にまとめまーす」そう言うと、千秋とともに出て行った。<br>　ちどりはいなほのために、美絵とちとせに尋ねた。 <br>「彼女ね、今回のミスキャン３位だったんだよ。そして彼女の夢は、女優になんだって。そこで、何かアドバイスとか…、コネ？ってないですか？」 <br>「初めまして、秋吉いなほです。一応事務所には登録しているのですが、なかなかいいお仕事がなくて…、エキストラの依頼はたくさん来るのですが、エキストラじゃなくて、もっと演じる側になりたいのです。でも、たまにあるオーディションもあまりうまくいかなくて…」 <br>と話し出した。 <br>「美絵さん、業界の人とつながりないですか」ちどりが美絵に尋ねた。 <br>「そうね～、私自身はないのよね。でもお店を持っている友達なら芸能界の人と接点があるかもね。今度聞いておいてあげるね」 <br>「ありがとうございます」 <br>　いなほは美絵に礼を言った。 <br>「ちとせさんは、ないですか？」 <br>　ちどりは続いてちとせにも尋ねた。 <br>「私も滅多にないわね。でも朗報かもよ。今度スペシャルドラマのスチール写真を頼まれたの。いつも撮っている子がほかに引っ張られちゃって、急遽代役お願いされたから受けることにしたの。良かったら一緒に来る？あなた次第だけれど」 <br>「ハイ！お願いします」いなほは即答した。 <br>「いなほちゃん、良かったね。ところで、オーディションの時など今みたいな感じかな？」美絵がいなほに尋ねた。 <br>「はい、大体そうですね」 <br>　いなほのあっけない言葉に、美絵は <br>「そうなんだ～。３位ということはベースの面では、十分張り合えるって訳だけど…」と残念そうな顔をした。 <br>「いなほちゃんちょっといいかな。メガネ外してみてくれる？」 <br>　美絵のその言葉にいなほは恐る恐るメガネを外した。 <br>「ＯＫ。ちょっと髪触るわよ」 <br>　美絵はいなほの髪を触りだし、持っていたヘアーピンで要所を止めると「これでヨシ！」と言った。そばにいたちどりが「いなほちゃん、すごく可愛くてステキ。これだったら優勝していたかもよ！」と思わず声をあげた。 <br>「手鏡じゃー見せても多分わからないよね。ちとせちゃん！一枚撮ってくれない？」 <br>　ちとせは再びカメラを取り出すと、いなほにポーズをとらせシャッターを切った。いなほはメガネをかけると、ちとせのカメラの画像を覗き込んだ。 <br>「えっ!?」 <br>「どう？驚いた？メガネはアイテムとしてはいいけれど、もう少し個性的な方がいいわね。どちらかと言えばコンタクトをお勧めするわ。それだけでまったく印象が変わってくるからね」と美絵はいなほにアドバイスした。 <br>　その時ちょうど、着替えを終えたみずほがやって来た。いなほはみずほの姿を見て、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をして固まっている。一緒にやって来た千秋がいなほの目の前に手をかざして声をかけた。 <br>「どうしたの？驚いた？千秋＆美絵マジック」 <br>　我に返ったいなほは <br>「はい。ビックリしました。みずほ先輩っていつもこんな感じなんですか？」 <br>　するとみずほが答える前に、ちどりが先に答えた。 <br>「まだましな方だよ。私からすれば女性の魅力、いや女の子らしさゼロなんだから。むしろマイナス気味！」 <br>「ちーちゃん、ひどーい！あたしだって…」 <br>　ふたりが言い争っているのを横目に、美絵がいなほに話し出した。 <br>「いなほちゃん、わかった？衣装や髪型、メガネだけでイメージってずいぶんかわるものなのよ。そういったところをもうちょっと勉強しないとね」 <br>「ハイ。よくわかりました」 <br>　そして美絵は千秋にいなほのことを話し出した。 <br>「千秋ちゃん、彼女女優目指しているのよ。何かアドバイスない？」 <br>「ウソでしょう！マジこれで？」千秋は思わず口走ってしまった。 <br>「すいません。秋吉いなほと言います。よろしくお願いします」 <br>　いなほはばつ悪そうに頭を下げた。 <br>「あっごめんね。そう言う意味じゃないのよ。でもひょっとしてその格好でオーディションとか 受けている訳じゃないよね」 <br>　千秋の言葉にいなほは、申し訳なさげに首を横に振った。正直、千秋はあきれている。 <br>「図星か～。それじゃダメだわ。どうせ何のオーディションかも把握していないのでしょう？」 <br>「はぁ…。チャンスを逃したくないで、できるだけたくさん受けようと思って…」 <br>　いなほは言い訳したが、千秋は容赦しなかった。それは、いなほのためを思ってあえて厳しく接していることが、いなほ自身もわかっていた。 <br>「いい。数打ちゃ当たるなんて思ちゃダメ。ちゃんと的を射ないと。例えば、ドラマのオーディションだったら、恋愛物か、サスペンスなのか、それともコメディなのか。そういったことを事前に調べて、その状況に合った格好をしなきゃ。わかるでしょう」 <br>「はい。でも…」 <br>「でもってなに？」 <br>「オーディションって極秘事項が多くて、内容がわからない場合がほとんどで…」 <br>「基本的に同じじゃないの」 <br>「同じ…？」 <br>「いなほちゃんが、どんなキャラクターを演じたいのか、ってこと。今日のみずほちゃんの姿見たでしょう。それなりキャラクターの格好になれば、気持ちの入りも違ってくるし、それによって選考する人の印象も上向くものなの。上手に振る舞うことではなく、どう印象付けるのかだよね」 <br>「ありがとうございます。次のオーディションでは、もっと勉強して頑張ります」 <br>　いなほは千秋に礼を言った。 <br>「頑張ってね。良い結果報告を待っているわ」 <br>　千秋は笑って言った。そして今度は、ちどりの方を見て言った。 <br>「ちどりちゃん、もしかしてその格好で帰宅するの？コンテストではOKでも、街中じゃ変なコスプレヤーみたいで注目浴びること間違いなし。エロエロおじさんが声かけてくるかもよ～！」 <br>　ちどりは自分の姿を再確認すると「しまった！着替えてきま～す!!」そう言い残してちどりは走り去った。 <br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207325868.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅴ.いつもよりアフリカンですね</title>
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<![CDATA[ <font size="3">　あすかは☆明星祭☆のメインイベントも終わったので、身仕度をして帰ることにした。ひとり、キャンパスをぶらぶら歩いていると、見たことがある人影が目に入った。あすかは駆け寄り、彼の腕に自らの腕をまわし胸元に引き寄せた。 <br>「大淀教授！今からお帰りですか？」 <br>　大淀教授は、突然腕を組まれて話しかけられたものだから、慌てて振りほどこうとしたが、思いのほか力強くはずせなかった。 <br>「あすか先生！なんですか？突然!!」 <br>「怒らせちゃいました？でも、こんな機会めったにないですよ～。美女と腕組みな・ん・て」 <br>「すみません。つい取り乱してしまって…」 <br>　なぜか謝る大淀教授だったが“なんで僕が謝らなきゃなんないだ”と思っていた。 <br>「大淀教授、ちょっと私に付き合っていただけませんか？」 <br>「いや、今日は急いで帰らないと…」 <br>「歯医者さんに行かれるのですか？」 <br>「いやぁ～、歯医者では…」 <br>「そろそろその前歯から右に４本目の虫歯、治療した方がよろしいですよ。そうしないと将来、総入れ歯になっちゃいますよ」 <br>「あっ、はい」 <br>「歯医者さんでないなら、独身の教授にご予定などないはずでしょう。さては、ご自宅に急いで帰って、返却期限の迫ったアダルトＤＶＤを急いで返さなきゃならない訳ですね」 <br>「そ、そんなことはな…」 <br>「はっはぁー、図星ですね」 <br>「だから、違いますって。それより、胸当たっていますって」 <br>　大淀教授は、動揺と焦りと男のロマンで赤面していた。 <br>「よろしいじゃないですか。本当は嬉しいくせに。とにかく行きましょう。美味しいコーヒーをご馳走しますわよ。アダルトＤＶＤの返却はそれからでも間に合うでしょうから」 <br>「わかりました。わかりましたから、腕は離していただけないでしょうか。学生たちに勘違いされても困りますので…」 <br>「ハイ、ハイ」 <br>　あすかはそう言ったものの、半ば強引に大淀教授を連れて行った。 <br><br>　あすかが大淀教授を連れてやって来たのは、行きつけのあの店だった。 <br>「コーヒー・ベーカリ『安眠』 パン屋にしてはなかなか雰囲気のいい店ですね」 <br>「どうぞ」 <br>　あすかは店の扉を開けて、大淀教授を招き入れた。 <br>「いらっしゃいませ」 <br>　明るく声をかけたのはあやめだった。 <br>「あやめちゃん、こんにちは。もうこんばんは、かな？」 <br>　あすかはニッコリして挨拶した。大淀教授は、軽く会釈してあすかに続いた。あやめは男連れのあすかを見るのが初めてだったので、少し戸惑った。 <br>　喫茶室ではマスターが、あすかの声にニンマリしたが、男の姿が目に入ると、一瞬にして表情がかたくなった。 <br>「大淀教授、こちらへどうぞ」 <br>　あすかは大淀教授を喫茶室に招き入れた。突然のライバル出現にマスターも気合いのスイッチが入ったようだ。 <br>「いらっしゃいませ。何になさいますか？」 <br>　その声はいつになく男らしく聞こえる。 <br>「店長さん、あっごめんなさい。マ、マスターさん、私はいつものコーヒーをお願いします。大淀教授はなにになさいます？」 <br>「では、僕も同じものを」 <br>「かしこまりました。少々お待ち下さい」 <br>　マスターは大淀教授が予想以上に男前だったため、萎える気持ちと必死に戦っていた。しかし、コーヒー豆を挽きながら、横目に見るふたりは楽しげである。 <br>「あすか先生、あの…、僕のこと“大淀教授”って呼ばれますが、何か違和感があって…」 <br>「では、“赤城くん”とでも呼びましょうか？」 <br>「いや、そう言う意味では…」 <br>　そんなことを話していると、マスターができあがったコーヒーをふたりの元に運こんで来た。 <br>「どうぞ。熱いので気をつけてください」 <br>　大淀教授は一口含むと思わず「ニッガッ！」と言ってしまった。あすかも続いて口に含んだ。確かにいつもよりかなり濃い。だが、大淀教授のように“苦い”とは感じず、寧ろおいしく感じた。 <br>「とっても美味しい。いつもよりアフリカンですね。だけど私はどうやら濃いめが好きみたいなのですね」 <br>　“アフリカン？”その言葉に大淀教授はまたまた違和感がした。 <br>「アメリカンならわかるのですが、アフリカンってなんですか？」 <br>「薄めがアメリカンなら、濃いめはアフリカンかなって。なんとなくそんな感じしませんか？」 <br>「いや、でも…」 <br>　しかしそんなふたりの会話を尻目に、カウンターに戻ったマスターは頭をかかえていた。“しまった！豆の分量を間違えてしまった。もうダメだ!!アフリカンなんて、アフリカンなんて言わせてしまった”まるで奈落に堕ちてしまったようだった。彼の頭の中は、走馬灯のように“アフリカン”とう言う言葉が鳴り響いていた。 <br><br>　しばらくして、撃沈状態のマスターを気遣って、あやめがやって来た。 <br>「マスター！大丈夫ですか？」 <br>　その言葉に、気が付くとふたりの姿はすでになかった。 <br>「あやめちゃん？さっき来たお客さんは??」 <br>「もう会計すませて帰られましたよ。“今日のコーヒーは格別おいしかった”って言って…」 <br>　その言葉に、再びショックを受け完全に沈没した。 <br><br>　あすかと大淀教授は『安眠』を出ると店先でわかれた。しかし、その瞬間を剣と燕に目撃されていた。 <br>「おい！しらやん!!いまのミス・パンプキンとエロ教授だよな？」 <br>「確かにそうだな。でも、エロ教授はないだろう。大淀教授の耳入ったら追試間違いなしだぜ」 <br>「まぁな。とりあえず中に入ろうぜ。そのうちバッサンも来るだろうからな」 <br>「了解」 <br>　ふたりは『安眠』に入って行りあやめに挨拶し喫茶室に向かうと、いつもより、ぃゃかなりテンション低めの、とう言うか沈没して埋没したマスターがへたり込んでいた。 <br>「マスター！絶好調って言うか。撃沈状態じゃね～の。いや、もう埋没して海の藻屑だな」 <br>　燕は冷やかし半分に声をかけた。 <br>「しっかりしねーと、ミス・パンプキンをエロ教授に取られちまうぜ」 <br>　さらに剣が追い討ちをかける。 <br>「あぁぁぁ…。もうダメだ…」 <br>　マスターは辛うじて呻くような声をあげた。 <br>「そう嘆くなって。男なら潔くってな」 <br>「思い切ってコクってみたらどうなんだよ！」 <br>　ふたりは勇気づけようと追い立ててみたが <br>「あんな男前に勝てるわけないよ…」 <br>「あ～ぁ！ダメだこりゃ」 <br>「これじゃ、今日はもう店じまいだな」 <br>　ふたりはコーヒーを飲むことをあきらめ、レジのあやめと話しながら翼を待つことにした。 <br><br>「いらっしゃい…」 <br>　あやめの挨拶も言い終えないうちに <br>「遅くなってすまねー」と翼が駆け込んで来た。 <br>「バッサン、無事でなによりだよ」剣は気遣った。 <br>「でも、かなりいい思いしたんだからしょうがねぇよな」<br>　燕は嫌みの一つも言わないと気が済まなかったようだ。 <br>「なにがいい思いだよ。松風嬢にもてあそばれた挙げ句、病院送りまで付き添わされたんだぜ。とんだ災難だよ」 <br>　剣はそんなふたりを「まぁまぁ、落ち着いてくれよ」となだめ「そんなことより…」とマスターを指差した。<br>　海の藻屑状態のマスターを見た翼は「何があったんだ？」と尋ねた。そして、剣と燕、さらにあやめがいきさつを話した。 <br><br>「なるほど。これはマスターのために、俺たちが一肌脱ぐ時だな。いつも世話になっているわけだしな」と翼が言い出し「それで、どうするんだよ？」と燕が聞いて来た。 <br>「マスターの思いを俺たちが代弁しようってか？」と剣が言い出すと、翼も「いいねー」とうなずいた。 <br>「一層のこと、ラブレターでも書くか!?」と燕が提案。 <br>「となると、伝説のシナモン・ティーでラブレターということになりますかね」 <br>「おおー！それいいねー！」 <br>　三人は意気投合した。そして、ミス・パンプキンの指定席の窓ガラスに何やら細工を施した。 <br><br>　翌日、あすかは日課のように『安眠』にやって来た。今ではほとんど気を止めることもなくなった、真鍮のドアノブを回し、扉を開けるとやたらと明るく元気なあやめの声が店内に響いた。 <br>「いらっしゃいませ」 <br>「こんにちは」 <br>　お客さんがあすかだと知ったあやめは、申し訳なさげに <br>「すみません。今日喫茶室はお休みなんです」 <br>　あすかはその言葉を一瞬疑ったが、灯りの消えた喫茶室を目にして納得するしかなかった。 <br>「マスターさん、どこか具合でも悪いのでしょうか？」 <br>　あすかの質問にあやめは怪訝な顔をした。 <br>「先生が彼氏を連れて来るからですよ。マスター、ショックで寝込んだみたいですよ」 <br>「ええっ？私に彼氏なんて…。ああ。あの人。あの人は彼氏なんかではないですよ。マスターさんに勘違いさせてしまいましたね。申し訳ありません」 <br>「まぁ、いいんですけどね。マスターの性格的なものの方が大きいですから…」 <br>「でも…、何とかしてあげないと…」 <br>「あまり余計なことはしない方がいいと思いますよ。また、勘違いしますから」 <br>　あやめの言葉が少しきびしく聞こえ、あすかは肩を落として店を出た。 <br><br>　いつになくうつむき加減で歩いていると <br>「ちょっとそこのお嬢さん」と声をかけてきたオジサンがいた。マスターの父、光だった。 <br>「こんにちは。梓さんのお加減はいかがですか？今日、お店に伺ったらお休みだったもので…」 <br>　光はあすかを気遣かってか「お気を遣わせて申し訳ない。お嬢さんまで巻き込んでしまったようで、本当に情けない息子ですよ。私の方からバシッと言っておきますよ。なーに、いつものことですからご心配なく」と言った。 <br>「いえ、私にはお気遣いなく。今はそっとしてあげてください。ただ、昨日の男性は大学の教授仲間で、特別な関係ではありませんので…。あぁ、言い訳じゃないですよ」 <br>　あすかは、話しているうちに何を言っているかわからなくなった。 <br>「いえいえ、ありがとうございます。本当にお優しい方ですね。これに懲りずにまた来て下さい。２，３日経ったらまた立ち直ると思いますから」 <br>「必ず伺います。すごく居心地がいいですからね。では、失礼します」そう言って光とわかれた。 <br><br>　マスターが休んだことは、翼たちにとっても話題となっていた。<br>　それは、翼たちが午前の講義を終えて、いつものように『安眠』に向かっている時のことだった。前方から北斗がやって来た。 <br>「先輩、こんちは」 <br>「よっ！お前らこれからあの店に行くのか？」 <br>　北斗の問いかけに剣が「はぁ、いつものようにマスターを冷やかしにね」と答えた。 <br>「なら今日はやめときな！」 <br>「えっ！なんかあったんすか？」 <br>　北斗の以外な言葉に翼は驚きの声をあげた。 <br>「今日は休みだったよ」 <br>「あの店って定休日あったんすか？」 <br>　今度は燕が尋ねた。 <br>「いや、正確にはパン屋はやっているが、サテン部屋だけが休みだ」 <br>「それじゃーマスター、風邪でも引いたんすかね？」と言って、ふと昨日のことを思い出した。 <br>「そう言えば昨日、かなり落ち込んでいたよな」 <br>「そうそう、失恋したわけでもないのにさー」 <br>「単にミス・パンプキンがエロ教授とコーヒーを飲みに来ただけじゃないか…」 <br>「まるでこの世の終わりみたいにショボくれて…」 <br>　三人の会話を聞いていた北斗が「おいおい、それマジかよ!?だったらちょっとヤベーかもな」と驚いた。 <br>「俺たち、何かまずかったですか？」 <br>「いや、お前たちは別にまずかぁないが、どおりで休むはずだよ。どうせ寝込んでいるんだろうからな」 <br>「えぇぇ！あの程度でそこまで落ち込みますかぁ？」と今度は翼たち三人が驚いた。 <br>「あぁ！何年か前にも似たようなことがあったんだよなー」 <br>「先輩、是非教えてくださいよ」そう言ったのは剣だった。 <br>「それはなぁ。あの先生みたいに『安眠』が気に入って女性がいてさぁ」 <br>「それで！」 <br>「ただ違ったのは、左手の薬指に指輪が光っていたんだよ。なのに“素敵な指輪ですね”なんて言っちゃってさぁ。あろうことか、その女性に片思いしちまったのさ」 <br>「マスターらしいな」と燕が相づちを打った。 <br>「それでさぁ。ある日のこと、なんとその女性が『安眠』でフィアンセと待ち合わせ。その結果マスターと鉢合わせになり、もろくも彼の恋が終わったのさ」 <br>「それで、その時も店を休んで寝込んじまったと」翼が言った。 <br>「その通り。２、３日は休んだかな」と北斗が言えば、剣も「だとしたら、今回はもう少し長いかもな。それってある意味、マスターにとっちゃでデジャヴだもんな」と言った。<br>　続いて、翼と燕も「そうだろうな。イヤな思い出が蘇ったってことだものな」「確かに。トラウマにならなきゃいいんだが…」と言った。 <br>「残念だが、当分は、お休みってことだな。でも、気にすることはない」 <br>　北斗の言葉に三人は「これだけは治す薬もないってことですね」「時が解決することを待つしかないか～」「まるで中島みゆきの“時代”だね」と言って、四人は大きくため息をついた。 <br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　翌日、翼たち三人は大淀教授に呼び出され教授室に来ていた。 <br>「君たち、この前の試験のことだが、あの結果じゃ卒業は難しいぞ。学園祭も終わったことだから、もうすこし本腰を据えてもらわないと…」 <br>「すみません。次回は頑張りますので…」 <br>　三人は謝ったが、剣が言い訳をはじめた。 <br>「でも、今回はエロ、いや大淀教授が“文学部のあすか先生のオッパイはデカイ”なんてそそのかすから…」 <br>　それにつられて燕も言い訳した。 <br>「あんな話、聞かされたら、やっぱ気になるじゃないですか。なあ、バッサン」 <br>　成り行き上、翼もうなずくしかなかった。 <br>「児玉くんだったかな。白根くんに土佐くんだよね。それはあくまで話の潤滑油としてのことであり、君たちのしたことはある意味セクハラ行為じゃないのかね？君たちの言い分を聞いていると、僕が助長したように聞こえるのだが、どうなんだね？」 <br>「・・・・・・」 <br>　三人は黙ったままだった。 <br>「文武両道という言葉があるが、君たちの武勇は認めてあげよう。よくやった。確かによくやった。だが、それと同じだけ学問の方も成果を出して欲しいものだね。わかるだろう。」 <br>　大淀教授の少し的が外れた話に翼は「あの～、文武両道の意味が…」と言い出したが、剣と燕よってたしなめられた。<br>　なんとか大淀教授の説教が終わり、教授室を出る間際、剣は大淀教授に向かって一言言った。 <br>「教授！☆明星祭☆のあと、あすか先生とサテンでデートしていましたよね」 <br>　その言葉に、大淀教授は口に含んだ冷めたコーヒーを吹出してしまった。 <br>「バカ言え！僕は被害者だ!!」 <br>　その言葉を聞き終える前に、翼たちは逃げ出していた。 <br><br>「何が、文武両道だよ」翼は愚痴った。 <br>「文武両道ってのは、勉学と運動の両面に秀でた人のことを指す言葉で、勉強も趣味みたいに一生懸命打ち込めって言う意味じゃねぇ！」 <br>「まあまぁ」 <br>　燕は翼をなだめたが、気が治まらない。 <br>「それに、俺の趣味はのぞきじゃねぇつうの」 <br>「エロ教授からすれば、男の趣味はみんな一緒って訳なんでしょうよ」 <br>　つい、剣も愚痴った。 <br>「『安眠』が開いていればなぁ～」燕はため息がちに言った。 <br>「そう言うな！」翼が言うと、剣も「マスターを落ち込ませた張本人はエロ教授だつうのに、あれはないわ」と嘆いた。 <br><br>　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※<br><br>　あすかはよほどマスターのことが気にかかるのか、毎日様子をうかがったが、喫茶室の灯り消えたままだった。<br>　翼たちも同様に気にはかけていたが、日曜日に北斗から連絡が入ったので、彼らはメッセージアプリで連絡を取り合った。<br> <br>『マスター復帰したらしいぞ』 <br><br>『じゃー、『安眠』に集合』<br> <br>『今すぐでいいよな』 <br><br>『ＯＫ』<br> <br>『Roger!』 <br><br>　一番初めに『安眠』に到着したのは翼だった。焦る気持ちを抑えて、扉を開くとあやめの明るい声が響いた。 <br>「いらっしゃいませ」 <br>「あやめちゃん!?」の問いかけに「来ていますよ。復活したみたいです」と微笑みなが答えた。 <br>　喫茶室のカウンターでは北斗が手を上げて呼んでいる。 <br>「連絡ありがとうございます」そう言って北斗の隣に座った。 <br>「マスター…」と言ったものの、なんて声をかければいいのかわからず、口籠もった。 <br>「心配するなって！」 <br>　北斗は翼の肩を叩いた。マスターも北斗に諭されたようで、少々気まずいようで、苦笑いをした。 <br>「翼、来たばっかりなのに悪いが、俺、そろそろ仕事に行かなきゃなんないだ。だから、みんなによろしく言っておいてくれや。あと、頼む！じゃーな」そう言って北斗は去って行った。そして、入れ代わるように剣がやって来た。 <br>「いらっしゃいませ」 <br>「よっ！あやめちゃん、今日はいつもよりかわいさ倍増だね」 <br>　あやめは「もう、調子いいこと言っちゃって」と笑ってごまかしたが、どうやらまんざらでもなさそうだった。 <br>「よっ！バッサンお待たせ」 <br>「おぉ！今し方国東先輩、帰ったよ」 <br>「あぁさっき、店先で会った。これから仕事だってさ。今日は遅番なんだとか言っていたな。で、しらやんは？」 <br>「まだ来てねぇよ」 <br>「そっか」剣はそう言うとマスターの様子を伺い見て「マスター！いつものホット、たのむわ」と言った。すると思い出したように翼も「じゃー俺も同じものを」と注文した。 <br>「おめーまだ注文してなかったの？」 <br>「先輩と話し込んでいて…。忘れていた」 <br>　本当はマスターを気遣って、話しかけることをためらっていたのだ。<br>　しかし剣はまったく臆することなく「ところでもう復活した？みんな心配したんだぜ」と言い出した。 <br>「あぁ…」 <br>　マスター小さくうなずくように言った。翼はマスターと剣の顔を交互に見たが、なんら剣は気にすることなく話し続けた。 <br>「元気ねーなー！まっ、振られた訳じゃないし、チャンスはまだまだあるさ。なぁバッサン」 <br>「あ、あぁ…」 <br>　突然、話しを振られ翼は動揺したが、とりあえずうなずいた。 <br>「マスターいいか！告白してダメだったなら、それはしかたがない。そん時は思いっきり落ち込め！だが、妄想で落ち込むのは勘弁な」 <br>　そんな剣の言葉に、 <br>「心配していただきありがとう」とは意外にも素直に礼を言った。それには翼も驚いた。 <br><br>　そんなことを話しているうちに、あやめの元気な声が三度響いた。 <br>「いらっしゃいませ」 <br>「なんだ今日はあやめちゃんか～。あきさんじゃないんだ」 <br>「なんだだってなんですか！もう、いきなり失礼ですよ。ベーだ」 <br>　どうやら燕がやって来たみたいだ。 <br>「ケンにバッサン、遅くなってスマン、スマン。電車が事故か故障で遅れていてひでーめにあったよ。あぁ、とりあえずホット」 <br>　お冷やを差し出したマスターにそう言った。 <br>　燕はマスターに聞こえないように、小さな声で二人に話しかけた。 <br>「ところで、あれは大丈夫だよな!?」 <br>「あれって？」 <br>　剣が聞き返した。 <br>「窓に書いたあれだよ」 <br>「大丈夫だ。来てすぐ確認した。でも今日は日曜日だからあすか先生来るかな～？」と翼が答えた。 <br>「シーッ！今はその名前をだすな！禁句だぞ」燕がいさめた。 <br>「ミス・パンプキンな」剣が続いて言った。その時、折り良くマスターが、ホットコーヒーを差し出した。 <br>「ああ！びっくりした～!!」 <br>　三人は驚いた。 <br>「何の話ししていたのかな？さては大きな声では言えないこと？」と言うマスターの問いかけに、剣は「そうそう、大きな声では言えないこと。大きな声では言えないけれど、小さな声では聞こえません、てな」などと、ごまかした。 <br>　三人はコーヒーを飲みながら、いつになくくつろいでいた。 <br>「やっばー、ここが一番落ち着くよな」と剣が言い出すと、燕も「ここは俺たちにとっちゃー、我が家みたいなものだからな。言いたいことが言えて、うまいコーヒーが飲めて」と言い出した。さらに翼が「マスターいて、この店が開いている。当たり前のように思っていたが、そうじゃない。俺たちはやっば、マスターに感謝しなきゃな」と言った。<br>　三人の話しを耳にしたマスターは、なぜか天を仰いでいた。 <br>「おい、マスター！泣いているのか？」 <br>　剣が尋ねた。 <br>「いや、ちょっと目にホコリが…」 <br>　すると燕が「しばらく掃除していないからな～。ホコリがたまっていてもしょうがないんじゃないの。なんてね」と言って、みんなを笑わせた。そんなこんなで、マスターも気持ちがほぐれたようで、いつものように笑顔になった。<br>　しばらく翼たちとマスターは、今までの空白を埋めるように和んでいると、あやめの「いらっしゃいませ」の声が響いた。しかし、その後なんとなく、固まった感じで、なんともいえぬ空気が漂った。翼たちがその雰囲気を感じ取ると、入口の方を一斉に見た。そこに立っていたのはあすかだった。 <br>　翼は「あ、ぁ、あすか…」と言いかけた燕の口をふさいだ。その翼も「ミス・パンプ…」と言いかけ、剣に口をふさがれていた。そして、剣は「明日は確か月曜日だよな!?」と言っていた。幸い、カウンターの内側にいたマスターはまだ気付いていない。 <br>　あすかはあやめに軽く会釈すると、喫茶室にやって来た。翼たちに小さく手を振って、カウンターの奥にいるマスターに「こんにちは」 と挨拶した。突然のことに、マスターは動揺する間さえなく、反射的に「こんにちは」 と言って会釈した。その状況に翼たちは安堵のため息をついた。 <br>　あすかは「ここに座っても、よろしいですか？」と断っていつもの指定席に座った。こうなるとマスターは、緊張でガチガチである。<br>　翼の 「マスター！まずはお冷や」の声にうなずくと、ステンレスの丸盆に水の入ったグラスをのせ、ガタガタ音を立てながら、壊れたC-3POのように歩き出した。 <br>「い、いらっしゃいませ」 <br>　マスターはなんとか挨拶をして、お冷やを差し出した。<br>　あすかは「先日は…、ぃゃ…」と言いかけて口ごもった。 <br>　マスターも心なしか、“先日は…”の言葉にあたふたしているように見える。 <br>「あのぅ、今日は、シナモン・ティーをいただいてもよろしいでしょうか？」とシナモン・ティーを注文した。 <br>「はぁ。シナモン・ティーですね。少々お待ちください」 <br>　注文を繰り返し、マスターがカウンターに戻ろうとした時のことだった。翼たちの仕業による事件が起きたのだ。 <br>　あすかは何気に窓の景色に目を向けていたが、窓ガラスに書かれた文字を読むと急に顔色が変わった。翼たちにとっては、はじめて目にする、しおらしい感じの姿であったが、しばらくするとなぜかすすり上げている。どうやら涙を流しているようで、二、三度すすり上げると突然立ち上がり、店の外に駈けだしてしまった。レジにいたあやめは、あっけにとられ固まっている。マスターの方と言えば、あやめ以上に硬直し、手から滑り落ちたステンレスの丸盆が空中に留まるほど時間が止まっている。翼たちも顔を見合わせ、口を開けたまま、こわばっていた。 <br>　最初に解凍したのは、剣だった。 <br>「やっべー！」 <br>　その声に燕が反応し「ま、まずかったか!?」と言った。<br>　しかし、翼は冷静で「マスター！あすか先生を追っかけないと!!」と叫んでいた。<br>　その声にマスターも魔法が解け「あぁ！」とうなずくと丸盆を手に駆け出して行った。 <br>　あすかに続いてマスターまで飛び出し、あやめはさらに戸惑っている。 <br>「おいおい、どうする？」 <br>　剣が翼と燕に問いかけた。 <br>「やり過ぎちまったかな～」と燕が答えると、翼も「まずいことになっちまったよ」と頭を抱えた。 <br>　やがてあっけにとられたあやめが、レジの方からやって来た。 <br>「あの先生、泣きながら飛び出して行っちゃって、その後をマスターが血相変えて追っかけて行きましたが、何かあったんですか？」 <br>　翼たち三人は黙ったままでいたが、顔を見合わすと翼が、今まであすかが座っていた席の窓ガラスを指差した。 <br>　あやめがその場所に近寄り、窓ガラスを眺めた。そこには、見る角度を微妙に合わせると見えるほどの、薄い文字が書かれており、あすかに宛てたラブレターだと言うことがわかった。 <br>「これって、マスターが？なんだ、粋なことするじゃない！」とあやめが言い出すと、剣が否定した。 <br>「ぃゃ…違うんだ…」 <br>「マスターじないの!?じゃー誰が？」 <br>　燕はばつ悪そうに <br>「実は…、俺たちが…」と言った。 <br>　するとあやめの顔色が変わり <br>「えぇぇー!!!!!!!!!ひどーーーい!!!!!!!!!」と叫んだ。<br>　その声に、いたためられなくなり翼たちは土下座して謝った。さらに、翼が言い訳をした。 <br>「いや、この前の大淀教授のことがあって…」 <br>　続いて剣や燕も言い訳をする。 <br>「マスターの恋の成就のために…」 <br>「そうそう、マスターに恩返しをっと…」 <br>　しかしあやめは、 <br>「何言ってんですか!?そんな言い訳、聞きたくありません！やっと立ち直ったのに、また奈落に突き落としたんですよ。ホント、最低・最悪です。どう責任とるんですか!? どうかお帰り下さい！もう帰って下さい!!」とかなり怒っている。翼たちはどうにかして取り繕うとしたが「出でけ!!!!!!!!!今すぐ出てけ!!!!!!!!!」ととりつくしまもなく、三人は肩を落として『安眠』後にした。 <br><br>　一方『安眠』を飛び出したあすかは、店の前の道路に出ると、近くの路地に駆け込んだ。しかし、路地に入ったところで運悪く、ヤクザ風の男:霧島とぶつかってしまった。 <br>「おいコラ！どこに目を付けて歩いとるんや、もとい、走っとるんじゃ!!」 <br>　あすかは「す、すみません」と謝ったが、男は気がおさまらない。建物の壁にあすかを追い込むと、いきなり壁ドンし「“すんません”ですんだら警察いらん！わのー!!」と意気込んできた。しかし，あすかが涙を拭いながら謝っていることを知ると、しげしげと眺めてから「よう、姉ちゃん、泣いているのか？かなんな～。泣かれたらこっちが悪いみたいやがな。おっちゃんが悪かった。すまんこっちゃ」と急に優しくなった。<br>　あすかは「いいえ。大丈夫です。大変申し訳ありませんでした」と丁寧に謝った。 <br>「ああ、そんなに気にせんでええ。で、何があったや？おっちゃんで良かった話してみぃ」とナゼか気遣った。 <br>　あすかはなぜかこの男に『安眠』での出来事を話した。すると男は「そりゃー良かったな」とあすかの頭をポンポンとなでた。 <br><br>　相当探し回ったのだろう、やがてマスターが息を切らせてやって来た。目の前には強面のヤクザ風の男とさらに壁際に追い込まれ絡まれるあすか。マスターにとっては一大事だ。一瞬たじろいだが、彼女を置いて逃げるわけには行かない。一度大きく深呼吸をすると、気を取り直し叫んだ。 <br>「か、彼女からはなれろ！嫌がっているじゃないか！」 <br>　しかしその程度の言葉で従うような輩ではない。 <br>「おい！こら！ワレ！！それが人様にお願いする態度かぁ～？」 <br>　その言葉にマスターは「いや…その…、そう言う意味ではなく、手をはなしてあげた方がいいかな…って」と一気に弱腰になった。 <br>「何が“あげた方が”だ！こんな可愛いお姉ちゃん泣かせやがって、それこそ男のすることじゃねぇだろうが！」 <br>　いきがる男にマスターは絶体絶命。 <br>「ぃゃ…僕は…何も…」 <br>「何ブツブツ言ってんだ！ぶっ殺すぞ！てめぇはこの姉ちゃんのなんなんだよ！関係ねぇんだったら引っ込んでろ！」 <br>「関係ないことはないのだけど…」 <br>「いいかげんにしろよ！言いたいことがあるんか!?だった、男ならハッキリ言え!!!」 <br>　その一喝にマスターは「僕の、僕の大切な人に手を出すな！」と叫んだ。しかし男はまだすごんでくる。 <br>「大切な人ってなんだよ！てめぇの嫁さんか!!」 <br>　ここまでくると、マスターも引き下がるわけにはいかない。こうなりゃ、どうにでもなれと言う気持ちで叫んだ。 <br>「俺のフィアンセに近付くな!!」 <br>　その言葉をきいて、男は「兄ちゃん。よー言った。可愛い姉ちゃんやからしっかり守ってやれよ！姉ちゃん、良かったな。お幸せにな。あばよ！」と言って去って行った。 <br>　あすかは梓(マスター)に駆け寄って抱きつき「ありがとう」と言った。<br>　そしてさらに「見掛けによらずいい人だったね」と嬉しそうに涙を流しながら、ふたりで後ろ姿が見えなくなるまで見送った。 <br>　その後ふたりは、手をつないで『安眠』に戻って来た。梓がノブを回し、扉を開けるとあすかに入るよう勧めた。店内のあやめは、反射的に「いらっしゃいませ」と言ってしまったが、あすかの顔を見ると、ホッとした表情をした。そして「お帰りなさい」という言葉が自然に出ていた。<br>　あすかは 「ただいま」と返事をすると頭を下げた。後ろでは満面の笑みをたたえた梓がＶサインをして立っていた。 <br>「あやめちゃん。このことは秘密だよ。特にあいつらには」 <br>　梓はあやめにそう話すと「もちろんですとも。あのワルガキどもには絶対教えない！」と言った。<br>　さらに梓は「そうだ！あすか先生も、秘密ですよ」と言うと「わかりました。でも…、梓さん、先生はなしで…。呼び捨てでいいですよ」と答えた。 <br>「マスター、ごちそうさま。つづきはあちらでどうぞ」<br>　あやめのその声に、我に返ったふたりは顔を紅く染めて、喫茶室に向かった。<br>　ふたりは仲良く喫茶室に入ると、シナモン・ティーとひとつのパンプキン・パイを分け合っている。<br>　梓が質問した。 <br>「あすか…さん。クリスマスのご予定は何か入っていますか？」 <br>　あすかは少し照れて返事をした。 <br>「いいえ。まだ…、実は…空けています」 <br>「じゃー、イルミネーションでも見に行きましょうか」 <br>「はい。でもその前にお店のクリスマス飾りをしたいですね」 <br>「では、今晩やっちゃいますか？」 <br>「はい！」 <br>　そしてあすかは、ふと窓ガラスに目を止めた。そして一言「梓さん、彼らには感謝ですね。心に残る、素晴らしい思い出になりました」と言った。 <br>「まぁーね。でも僕の嫁さんは見世物じゃないので…」 <br>「わかりました。照れ屋さん❤。クリスマスは彼らに見つからないように、遠～い所のイルミネーションを見に行きましょうね」 <br>「そうしましょう」 <br>　喫茶室の入口には“貸切”の札が二人を祝福するかのように揺れていた。<br></font>
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<link>https://ameblo.jp/tabewazurai/entry-12207325679.html</link>
<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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<title>Ⅵ.待ち人来ない、待つな</title>
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<![CDATA[ <font size="3">　月日の経つのは早いもので、すでにXmasは過ぎ去ってしまった。果たして、梓とあすかのふたりは、翼たちに見つからず無事イルミネーションデートができたのでしょうか？そのあたりは想像にお任せするとして、あっと言う間に年が開けてしまいました。 <br><br>『新年明けましておめでとう御座います』 <br><br>　みずほとちどりは、振袖を着飾り、初詣に繰り出していた。 <br>「今年は、ちーちゃんのおかげで、この歳にして初めてこんな素敵な着物を着ることができました！ありがとうございます」 <br>「なに言ってんだよ。毎年、初詣ぐらいは晴れ着を着ればって言ってるのに“着物は苦しい”だとか“着崩れが…”とか言って嫌がっていたのはどこのどいつだよ」 <br>「えっ、そうだっけ？」 <br>「とぼけないで！」 <br>「だって成人式のときのことがトラウマで…、とりあえずゴメンナサイ」 <br>「どうせ、秋の☆明星祭☆のコスプレで、味占めちゃったんでしょう」 <br>「まぁ…。実は…正直そうなんですよね～。だって、バシッと決まると気持ちも切り替わって、見える世界が違うんだもの」 <br>「まあいいわ。私のおかげと言うよりは、千秋さんや美絵さんちとせさんが、みずほのために一肌脱いでくださったからだよ。よっぽどみずほのことが気に入ったみたいだだから」 <br>「昨年はホント、ちーちゃんをはじめ、みなさんにお世話になりました。ありがとうございました」 <br>　しかし、その言葉に説得力が乏しく、ちどりは思わず「そのわりには、普段の服装はまったく代わり映えしないんだよな～」と言った。<br>　みずほは言い訳がましく「だって、自分でコーディネート？って面倒くさいんだもん。それに、それなりの格好したら、おしとやかにしなきゃなんないし…」と言うと、ちどりも「そりゃそうだよ。ワンピース着てあぐら座りできないでしょうが…」と言った。<br>　するとすかさず「だって、パンツが見えちゅうもんね」 <br>「私はそれ以前の問題だと思うげれどね」 <br>　ちどりはあきれてため息をついた。するとみずほは、突然思い出したようにあすかのことを話した。 <br>「ねぇねぇ、ちーちゃん。あすか先生、結婚するみたいだよ」 <br>　その言葉にちどりは驚いた。 <br>「えっ！それホント!? 大学を辞めるかも知れないって噂は耳にしたけど…。そっかー、結婚するんだー」 <br>　すると今度は、みずほが驚いた。 <br>「えっ！ウソ！あすか先生、辞めちゃうの!?ホントに？」 <br>「いや、ホントがどうか噂なのでわかんないけど…、結婚するってのはホントなんだろう」 <br>「そうみたいだよ。と言うことは、あすか先生寿退社かー。いや待てよ、会社じゃないから寿退学？」 <br>「何言ってんだよ。先生が退学してどうすんだよ。退職！寿退職！あんたそれでも本当に小説家なのか？」 <br>「そっか。そうだね。寿退職だね」 <br>　みずほはそう言って笑った。 <br><br>　ふたりが参拝に向かったのは、みずほが神頼みに参った『大空神社』だった。 <br>「みずほ、前にここにお参りに来たけれど、その後ご利益はあった？」 <br>「ない！まったくない!!」 <br>「ハッキリ言うねー」 <br>「だから、今年は先におみくじを引いて、その結果次第で参拝するかどうか決めるの！」 <br>「みずほ、ぃゃあえてあんたと呼ぶわ。あんた神様相手にシオ対応だね～」 <br>「まぁね。とにかくおみくじ、おみくじ」 <br>　ふたりは参拝順路を無視し、参拝者を押し退けて祈祷所横のおみくじに向かった。そして、みずほは気合いを入れておみくじの筒を振った。<br> <br>“四十一番”<br> <br>　番号を見ると、筒をちどりに渡した。いきなり渡されたちどりは「えっ!?私も引くの？」と思わず言ってしまった。みずほは“当然”と言うような顔をしてニッコリうなずいた。 <br>「えぇぇ、私は参拝してからのつもりだったのにー」と小さな声でつぶやいが「何か言った？」とみずほから聞かれ「いや、べつに…」と適当にはぐらかしおみくじを引いた。 <br>「ちーちゃん、何番だった？」 <br>「人の番号聞く前にあんたの番号言いなさいよー」 <br>「えーと」 <br>　思い出しながら答えようとするみずほに、ちどりは「ウマ！じゃなかった、今年はヒツジ」とボケをかました。 <br>「干支じゃないの！もうー！」 <br>「モウーって、ウシだった？みずほ、ウシ歳生まれだったけー」 <br>「ちーちゃんがくだらないボケ言うから忘れちゃったよ」そう言うと、みずほは再びおみくじを引いた。 <br>「えーとね」 <br>「ウシ！」 <br>「もういい！ミスコンと同じ十四番。ちーちゃんは？」 <br>「私は、四十一番」 <br>　みずほはその数字を聞いて、一瞬？ってなったが、気にとめないことにした。ふたりは早速、みくじふだを授かりに行った。 <br><br>　巫女からみくじふだをいただくと、何はともあれ吉凶に目がいくものである。 <br>「ちーちゃん、見て見て！大吉だって。ちーちゃんは？」 <br>「私は、吉」 <br>「凶じゃないからいいじゃん」 <br>「まぁね」 <br>　ちどりにしてみれば、きちんとお詣りの後引けば大吉だったかも知れないと言う気持ちがあったのだろう。だから“吉”でもあまり喜べなかった。 <br>　そんなちどりの思いをよそに、みずほは自分の運勢を読みだした。 <br>「まずは、恋愛運！“万事悉く成就す”だって。やっぱりあたしの脅しが効いたんだよ」 <br>「よく言うよ！まぁ、神様と勝負しようって輩は、みずほぐらいならものだけど…」 <br>　ちどりは半ばあきれて言った。 <br>「ちーちゃんはどうなの？恋愛運」 <br>「私は…」 <br>　みずほは、口ごもるちどりのおみくじを覗き込んだ。<br> <br>“理想と現実を認識すべし”<br> <br>「言えてる！それに待人欄も“待ち人来ない。待つな”って、笑える～」 <br>「もうー！勝手に見ないで！」 <br>「だって、すごっく当たっているんだもん」 <br>「みずほが悪いんだからね。ちゃんと先にお詣りしていれば、きっと大吉だったはずだもん」 <br>「じゃー、お詣りしたあともう一度引いてみれば」 <br>「言われなくても、そうしますよーだ」 <br>　結局ふたりは笑いながら参拝者の列に並んだ。なんだかんだ言って今年も、やっぱり仲の良いふたりだ。そして“大吉”を引いたみずほは上機嫌である。 <br>「やっぱ、初詣のお客さんでいっぱいだね」 <br>「なんか変じゃない？普通、初詣の人のことを“お客さん”とは言わないと思うけれどね」 <br>「まぁ、細かいことは気にしない。気にしない。お正月ですから」 <br>　そう言われると、ちどりとしては返す言葉もなく、不機嫌が増している。そんなちどりを構うことなく、みずほは拝殿へと向かう。 <br>「ちーちゃん、なにしているの？早く、早く」 <br>　みずほに急かされ、駆け寄った。ふたりは賽銭箱の前に並ぶと、賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らして柏手を打ったその時「痛っ！」ちどりが叫んだ。 <br>「ちーちゃん、後ろの人が投げたお賽銭が当たったんだよ」 <br>　みずほはそう言って笑った。 <br>「笑うな！今年は正月早々最悪だよ」 <br>「まあまあ、そう言わずに、おみくじ、もう一回引くんでしょう。行こう、行こう」 <br>　みずほはテンション下降中のちどりを急き立てた。<br> <br>　ちどりはみくじ筒を振いだすと、傍らでみずほが「どうか“大吉”が出ますように」と声を出しながら祈った。 <br>「う・る・さ・い！」 <br>　ちどりは思わず言ってしまったその瞬間、みくじ棒が出てきた。<br> <br>“七番”<br> <br>　みずほが覗き込み「やったね七番だ！ラッキーセブンだよ」と言った。するとちどりも今までの不機嫌がウソのようになりニッコリ笑った。 <br>　はやる気持ちを押さえ、みくじふだを授かり、見てみるとそこには待望の“大吉”ではなく“中吉”と書かれていた。 <br>「ちーちゃん、どうだった？」 <br>「ぅうん。“中吉”だった」 <br>「えぇぇ、ビミョー！」 <br>　みずほは思わず口走ってしまった。しかし、その言葉にちどりはうなずいた。 <br>「確かに微妙。“吉”と“中吉”って、どっちがより“大吉”に近いんだよ!?そもそも“吉”の連れ合いが“凶”なら“中吉”の連れ合いってなんなんだよ！」 <br>「ちーちゃん、ちーちゃん、落ち着いて。“末吉”ってのもあるんだから…」 <br>　意外なところに絡むちどりを、なんとかなだめようとしたみずほだったが“末吉”を持ち出したことが余計だった。 <br>「なんなんだよ“末吉”って!?“末吉”の連れ合いを出せ!!」 <br>　みずほはもう必死だったのだろう、さらに訳のわからないことを言ってつくろった。 <br>「“末吉”は幸薄く独身なの。だから連れ合いはいないのよ」 <br>「じゃー“中吉”は？ひょっとして未亡人？結婚ていう夢が叶っても旦那さんは先に死んじゃうんだ」 <br>　ちどりのその言葉に、今更ながらおみくじの吉凶を擬人化すべきでなかったことに気付いたみずほであったが、そもそも擬人化したのはちどりだ。さすが勘だけはいい、みずほはひらめいた。 <br>「ねぇねぇ。そもそも“吉”と“中吉”のどちらが“大吉”よりかどうかって言うことだったんじゃないの？だとしたら、書かれている内容次第で決まると思うんだけど…」 <br>「そ、そうだよね。内容次第な訳だね。では、恋愛運を発表します」 <br>「ジャジャン！」 <br>「えーと」 <br>「ヒツジ年で～す」 <br>「正解！まぁそれは置いといて…」 <br>「どのあたりに置いときましょ？ここかな～。ここかな～」 <br>「えぇーそれはそこで、これはここ…って、そんなボケ今いらんわ！私がボケたらちゃんとツッコんでよー」 <br>「ハイハイ」 <br>「さて、気を取り直して恋愛運ですが“意外な人から…”だって 」 <br>「ヒューヒュー。で、待人は？」 <br>「待人はね～。待ち人だけにちょっと待ってね。なんてね」 <br>「上手い！参った」 <br>「“待ち人来難し。アプローチは確実に”だって」 <br>「と言うことはですよ。意外な人にしっかりアプローチすれば… ってことですか～」 <br>　みずほのその言葉にちどりの期待は膨らんだ。しかしその期待は、みずほの余計な次の一言で、もろくも崩れることとなる。 <br>「意外な人となると観点180°変えてみてみないといけない訳だ」 <br>「そうなんだ…」 <br>「って、なるとちーちゃんの苦手とか、嫌いなタイプ…てことかな～？」 <br>「なんか嫌な予感…」 <br>「例えば、あたしの兄貴とか…」 <br>「ゲゲー。正月早々縁起でもない。アイツ顔を思い出すだけで…、やめてくれー」 <br>　果たして、ちどりにとって良い年になるのだろうか？<br> <br>　みずほは意気揚々と、ちどりは意気消沈でいつぞのようにブツブツ言っている。 <br>「ちーちゃん、そんなに気にしないの。単なる例え話だからさー」 <br>「ブツブツ…、ブツブツ…」 <br>「そうだ。おみくじを木とかに結ぶと、運が好転するんだって」 <br>「もちろん結んで帰る。ブツブツ…」そう言って、ちどりは引いたおみくじを木に結んだ。 <br>「そろそろ戻って、屋台をのぞこうよ」 <br>「わかった…」 <br>「ほらほらあそこ“リンゴ飴”だって。あれってさぁー、結局最後まで食べきれないんだよねー」 <br>「なんかさぁ。なんか腹立ってきた」 <br>「リンゴ飴が…？」 <br>「リンゴ飴？リンゴ飴に罪はない。食べきれないのに買うやつが悪い。そうじゃなくて、アイツの顔が脳裏にこびりついてとれないんだよ！」 <br>「アイツ…って？」 <br>「あんたの兄貴だよ。あ～ぁ！イライラするーぅ」 <br>　ちどりのブツブツがイライラに切り替わったその時だった。誰かがみずほの晴れ着の裾を踏んづけてしまった。その弾みでみずほは転倒しそうになり、ちどりの晴れ着につかまった。すると、不意につかまれたちどりがバランスを崩した。あわや無様にズッコケる、かと思いきや直前に首根っこをつかまれ転倒はまぬかれた。それはまるで捕まった野良猫のような状態で、ちどりは「テメー！何しやがる!!放せ！」とみずほの晴れ着の裾を踏んづけた男を怒鳴りつけた。しかし、男は動じることなく「こりゃまた、すいませんね」と笑った。<br>　その時、口元の前歯から右に４本目に虫歯がチラリと見えた。その瞬間、みずほがフリーズした。 <br>「みずほ！みずほ！どうした？こんなところで寝るなよ！」と声をかけ目の前で手を振った。<br>　するとみずほが、か細く言った。 <br>「ちーちゃん、ほっぺつねって！」 <br>　みずほのその言葉にちどりは自分のほっぺたをつねってボケた。そのボケに、男は思わず吹き出した。<br>「違うの、違うの。あたしのほっぺをつねって!!」 <br>　みずほからのツッコミもなく、スカされたちどりは、とりあえずみずほの頬を思いっ切りつねった。 <br>「痛い！痛い!!やり過ぎ！加減してよ」 <br>　このやりとりに、男はまた吹き出した。 <br>「君たち、面白いね。それにこんな奇跡本当にあるんですね。君はいつぞの雨の日、僕にこのハンカチを貸してくれましたよね。このハンカチですよ。覚えていますか？」 <br>　男はそう話すと“ハロー・キティー”のハンカチを差し出した。みずほは、今まで見たことがないほど赤面している。ちどりは、ふたりの顔を交互に見比べて、みずほに話しかけた。 <br>「この人だったの？みずほの憧れの待ち人って!?」 <br>　みずほは小さくうなずいた。ちどりは、若くはないが、なかなかのイケメンで、正直、みずほにはもったいないと思った。そして気を利かせて話しかけた。と言うか、あわよくばと思ったのかもしれない。 <br>「あの～、お時間あります？もし、ご迷惑でなければお茶でもご一緒にいかがでしょうか」 <br>「はい。よろしいですよ。ただお正月なので、このあたりのお店はお休みの所が多いですよ。あそこでもよろしいですか？」 <br>そのように言われると「構いません。おまかせします」と言うしかない。<br>とりあえずまかせることにした。<br> <br>　ちどりはどんなお店に案内されるかと期待したが、着いた所は神社の参拝者休憩所だった。言葉を失ったが、みずほにとってはオシャレな店より十分居心地のいい場所だった。 <br>「すいませんね。こんな所で」 <br>　男はそう言って缶コーヒーを差し出した。 <br>「ありがとうございます」 <br>　みずほは嬉しそうに小さく答え受け取り、もう１本をまたまたテンション下降中のちどりに手渡した。 <br>「ハイ、ちーちゃん」 <br>「ありがとぅ…」 <br>　男は少々気遣い気味に話し出した。 <br>「あの～、まだお名前とか聞いてきませんよね。僕は大淀赤城といいます」 <br>　ちどりは「あぁ、彼女は国東みずほ。私は松風ちどり」と投げ遣りに答えた。 <br>「松風ちどりさんはよく存じております。暁曙大のミス・キャンパスですよね。そうそう７冠おめでとうございます」 <br>　ちどりもそのように言われると、気分は良くなるもので「ありがとうございます。よくご存じですね」と言った。 <br>「実は僕、あの大学に勤めております」 <br>「え゛ぇー!!」 <br>　ふたりは驚きの声を上げた。当然、大淀は尋ねた。 <br>「どうかしました？」 <br>　するとちどりが勝手に話し出した。 <br>「彼女が、あー面倒くさい。みずほが雨の日に大淀さんに出会って以来、ずっと出会える日を待ちわびていたのですよ」 <br>「はぁ」 <br>　彼のつかみどころのない返事に <br>「あー、うっとうしい。要は、みずほがあなたに惚れたの！」と言い切った。<br>　みずほは恥ずかしさの余り、顔を上げることすら出来ない。大淀にしてみれば、ある意味突然の告白に動揺した。黙り込む大淀とみずほ、あきれかえるちどり、沈黙が続いた。その固まった空気を打ち破ることなく、ちどりが静かに立ち上がり、みずほに小さく声をかけた。 <br>「先、帰るね。後はお二人でごゆっくり」 <br>　みずほが引きとめようとしたが、うまくかわされてしまった。 <br><br>　その後も沈黙が続き、時々参拝者が不思議そうに覗き込んでいた。長時間の沈黙を破ったのはみずほだった。 <br>「あの～…」 <br>　だが言葉が続かない。また沈黙が続くかと思ったが大淀が話しだした。 <br>「みずほさん。もし、もし、よろしければ、僕とお付き合いしていただけませんか？どうかお願いします」 <br>　ここまで言われると、断る理由などない。みずほも小さな声で「ハイ」とうなずくようにやっとの思いで答え、嬉しさの余り涙が頬をつたった。ただ、ちどりにつねられた跡がやけにしみた。 <br><br>　夕刻、みずほは晴れ着を返すため、ちどりと駅前で待ち合わせをしていた。しばらくすると「ワリィ、ワリィ。ちょっと遅れちゃった」とちどりが頭をポリポリと掻きながら申し訳なさそうにやって来た。<br>「大丈夫だよ。あたしも着いたばっかりだから」<br>　みずほはそう言ってちどりを気遣った。<br>　ちどりはやっぱり、みずほがあの後どうなったか気がかりでしかたがない。<br>「で、どうだった？うまくいった？まさか大学関係者だったなんてね。それであの後どこか行った？ねぇねぇ、早く教えてよ～」<br>「そんな矢継ぎ早に、まくし立てられても…」<br>「だって気になるじゃん！」<br>「わかったよ。わかったから、ちょっと落ち着いて」<br>　ちどりはあせる気持ちを押し殺して、とりあえず「は～ぃ」と返事をした。<br>「ちーちゃんが先に帰ったってことは…。気を使ってくれたんだよね」<br>「まぁね。あのまま居ても居心地悪いし、うらやましすぎてイライラするだもん。それに後で私のせいにされたらたまらなからね」<br>「ありがとう。でもあの後一時間ほど沈黙が続いて…」<br>「えっ！一時間も？あきれた。みずほ、ホントあんたらしいよ」<br>「ごめんなさい。本当は二時間近くだった…」<br>「もういいよ。一時間も二時間も、あんたにとっちゃ代わり映えしないから」<br>　みずほはなんだか申し訳なさそうだったが、結論を先に言うことにした。<br>「それで、結局、結論から言うと、彼の方からコクられました」<br>「えっ！そうなんだ。良かったじゃん。って、彼の方から“付き合ってください”って言われたわけ？信じられない。どこまで強運の持ち主なの。ありえねーって言うか、あ～ぁ、みずほに先越されちゃったよ～。このちどり様を差し置いて先に…！でもなんか、自分自身が情けね～！」<br>　一通り愚痴ってから、しまったと思ったのだろう。<br>「あっ、大丈夫だよ。私たちは長年の親友だし、みずほの幸せは私の幸せだからね」<br>　ある意味、自分自身に言い聞かせていた。<br>「ちーちゃんと友達で良かった。本当にありがとう」<br>「それで彼氏、大淀さんだっけ。うちの大学で何しているの？」<br>「工学部の教授だって…」<br>「こ、工学部って…。ひょっとしてみずほの兄貴のこと、知ってんじゃないの？」<br>「たぶんそんな感じがした。でも…兄貴だと言えなかった」<br>「大丈夫、大丈夫。その方がいいよ。それよっかアイツにバレないようにしないとね。バカだから何し出すかわかんねーからね」<br>「ぅん」<br>「それから工学部って言えば、みずほにコーヒーぶっかけた翼ってヤツとその仲間もだったよな～。これは大学内や近辺で彼氏に会うのもマズいよね」<br>「うん。わかった。そうする」<br>　みずほは恋する乙女として、どうしても聞きたいことがあった。<br>「ねぇねぇ、ちーちゃん」<br>「なに？」<br>「あのー…」<br>「だから、なにって」<br>「あたし…、お化粧した方が…、いいかな～？」<br>「おっと、みずほもついにその気になりましたか。そうだよね。彼氏の前では少しでも綺麗いたいもんねー」<br>「もうー、冷やかさないでよ～。だって今までお化粧なんて経験が一度もないだもん」<br>「ゴメン、ゴメン。でもみずほの肌は綺麗だから、ルージュだけで結構いけると思うよ。それに、デートたからといって、バッチリメイクアップして行くのもおかしいかもよ。気合入れて来ましたって思われちゃうから」<br>「えっ、どうして？」<br>「だって、はじめて出会った時はすっぴんだったんでしょう。それに今日だって、美絵さんがメイキャップしてあげるって言ってるのに、“ヤダ！”ってゴネたんだよー。しんじられないよ」<br>「でも、ちょっとお化粧してもらったよ」<br>「それは美絵さんが“晴れ着を着るんだから、薄化粧でもしないと映えないよ”って言ってなだめたからでしょうが…」<br>「・・・・・」<br>「まぁ、これから美絵さんや千秋さんに会うんだから、相談してみたら」<br>「わかった…」<br><br>　みずほとちどりは、美絵の友人が営むヘアサロンに戻って来た。<br>「お邪魔します」「ただいまー」とふたりして挨拶しながら店の扉を開けた。<br>「おかえりー」<br>　そう挨拶して出迎えたのは、千秋だった。すくさま美絵もやって来て「お疲れさま」<br>と声をかけた。<br>「みずほちゃんちゃんどうだった？振袖着ての初詣は？締め付けられてキツくなかった？胸とか、胸は大丈夫か。お腹とか苦しくなかった？」<br>　間髪いれず尋ねると、みずほが「ある意味、胸が苦しかった」と答える間も与えず、ちどりが話し出した。<br>「千秋さん、聞いてー！みずほの憧れの男性と遭遇したんだよ」<br>「えっ！」<br>　驚きの声をあげたのは意外にも美絵だった。<br>　みずほは“ちーちゃん、やめてー！”と言いたげにしているが、恥ずかしさの余り声が出ない。千秋は“続きを早く話せ”って雰囲気でちどりに迫っている。ちどりは一瞬、みずほの方を見ると、小悪魔のように「でね。なんとなんと!!意中の男性に告白…」とみずほの気持ちを揺さぶりつつ、もったいつけた。<br>「もったいつけないで早く言えよ！」<br>　そう言い出したのは、千秋ではなく美絵だった。一瞬、時間が止まったようになり、その場の空気を察した美絵が「あっ、すみません」と謝った。みずほの顔は、もう真っ赤でうつむいたままである。ちどりはそんなみずほに話を振るのである。<br>「はい！ここから先はみずほ自身に発表していただきま～す！それでは、国東みずほさん、どうぞ」<br>　千秋と美絵は拍手し、これにちどりも加わった。こうなってしまったら、みずほにとっちゃ訳がわからない。さらに大混乱中のみずほは、ちどりにとって思うつぼ。耳元で悪魔のささやきのように話しかけ、急かせる。<br>「大丈夫だから、あったことをそのまま話せばいいだけなんだよ」<br>「あのー、えっとー。実は…」<br>　みんなは固唾を飲んだ。<br>「いゃ…、やっぱり言えない…」<br>「何でやねん！」<br>　そうツッコミを入れたのはまた美絵だった。<br>　さらに「ひとに期待持たすだけ持たして、スカすんかい！人なめとったら承知せんぞー!!」と今にも暴れそうな美絵を「美絵ちゃん、美絵ちゃん、落ち着いて、落ち着いて」と千秋が止めに入った。<br>「あら、ごめんなさい～。おほほほほ…」<br>　美絵は笑ってごまかした。<br>　傍らでは、ちどりが千秋に小声で尋ねた。<br>「美絵さんって、元ヤンなんですか？」<br>「シーっ。それはわからないけれど、関西出身だからね。向こうではブイブイ…」<br>　千秋の話しを最後まで聞かず、こっそりみずほに話しかけた。<br>「みずほ、元ヤンの美絵さん怒らせるとマズいよー」<br>　そのことを聞くやいなや、直立不動で「ハイ！彼に告白されました」と言い切った。千秋と美絵は、あまりにも唐突に言い切ったため、目が点になっている。ちどりが改めてフォローした。<br>「だからね。みずほが気持ちを伝える前に、彼の方がコクちゃったてことなの。言い換えれば、千秋さんや美絵さんがみずほのために振袖用意してくださり、着付けとかしてくださったおかげで、みずほに春が来たってことなの」<br>「そうなんだー。美絵ちゃん、私たち愛のキューピットね」<br>「みずほちゃん、良かったね」<br>　ふたりはそう言うとみずほを思いっきり抱きしめた。<br>「千秋さん、美絵さん、苦しいです。ちーちゃん、た・す・け・て…」<br>　みずほは振袖を着たまま悶えた苦しんだ。<br>「胸が、つ・ぶ・れ・る…」<br>　ただ、助けを求められたらちどりといえば「大丈夫！大丈夫。もうつぶれているから」と言って、お腹を抱えて笑い転げていた。<br><br>　しかし、なにやら笑い転げる、ちどりの様子がおかしい。はじめは笑いすぎでお腹が痛いのかと思ったが、どうも違うようだ。ちどりが小さな声でみずほを呼んだ。<br>「みずほ、ちょっと来て…」<br>「ちーちゃん、どうしたの？」<br>　みずほが駆け寄ると<br>「ちょっとお腹が痛い…」<br>「笑いすぎたんじゃないの？」<br>　ちどりは首を横に振った。<br>「じゃーウンチに行って来れば」<br>　ちどりは余程厳しい状況なのだろうか、油汗をかきながら、蚊の鳴くような声で言った。<br>「トイレ…どこ？」<br>「ちょっと待ってね」<br>　みずほはそう言うと、千秋の元に向かい「ちーちゃん、ウンチしたいって言ってるんだけど、お手洗いどこですか？」と尋ねた。<br>　しかし、あいにく勝手がわからない千秋にはどこあるのかわからず、美絵に同じことを尋ねる羽目になった。<br>「美絵さん、ちーちゃんがウンチ漏れそうなんだって。トイレどこですか？」<br>「トイレならそこの扉開けたところ。でもここ和式だから、裾を捲くし上げないと…。千秋ちゃん、お願い」<br>「美絵ちゃん、了解！」<br>　そんな中、ちどりは半ば泣きそうな思いでみずほたちの会話を聞いていた。もちろん、心中穏やかでない。“テメー、ウンチ、ウンチって連呼しやがって！覚えてろよー！”と思っていても、声に出すことができる状況にないのだ。<br>　千秋はすぐにちどりの元に来て、晴れ着の帯を緩め、裾を捲くし上げると、腰紐で結び留めた。みずほはその姿を見て「ちーちゃんのイチゴのパンツ見っけ！」とおどけて言った。もちろん、ちどりは睨みつけたが「ハイ、完了。早くウンチ行きなさい」と急かされ“千秋さんまで…、ひどーい”と思いながら、トイレに駆け込むのだった。<br><br>　トイレからほっとした顔で出て来たちどりに美絵が声をかけた。<br>「ウンチしたらスッキリした？はい正露丸」<br>“美絵さんも…”と思ったが、みずほを見るなり、鬼のような形相で睨み付け怒鳴った。<br>「みずほ！ウンチを連呼するな!!みんなから言われたじゃないか！ミス・キャンパスのイメージが丸潰れだよ」<br>　しかし、当のみずほは動じることなく<br>「別にいいじゃん。デカワンコの花森一子ちゃんなんて、小さい頃“ワンコ”ってあだ名が災いして“花森ウンコ”って呼ばれ、それがトラウマになったんだよー。そのことに比べたらたいしたことないでしょう。なんだったら、これから、ちーちゃんのこと“ウンチくん”って呼んであげてもいいよ」<br>　ちどりは内心“何がデカワンコだ！ウンチくんって呼べるものなら呼んでみろ!!”と思った。<br>　みずほはさらに話し続け「それにさぁ、ここには女の子しかいないんだもん、いいじゃんそれくらい」と言った。<br>　その言葉を聞いてちどりは“まずい、ここで開き直ってあんなこと言ったら、みずほは、私のことを“ウンチくん”と呼ぶかもしれない。いや、きっと呼ぶ。まして、“ウンチくーーーん！”なんて呼ばれた日にゃ、アホみたいだ。さてはさっきの反撃か？”と思った。千秋や美絵も笑いながらうなずいていて“ここはおとなしく聞き流して置くか…”と決め黙っていた。<br>　返す言葉もないちどりに、みずほの話しはまだ続く。<br>「ちーちゃん、いったい何を食べたの？変な物、食べたんじゃないの？」<br>「別に、拾い喰いはしてない。ただ、リンゴ飴食べただけだよ」<br>「あの大きいヤツ？」<br>　ちどりはうなずいた。<br>「あれを一人で全部食べたわけ？１個まるまる？」<br>「いや…、実は３個…」<br>　その言葉に、千秋と美絵は驚いた。<br>「えぇぇー、ウソでしょう？」<br>「本当に？なんで？」<br>　ちどりは気まずそうに話し出した。<br>「だってみずほがさぁ。大吉引いて、彼氏ができて、新年早々HAPPYだけどさぁ。私と言えば一人寂しいお正月で…。“こうなりゃヤケ喰いしてやる！”って思って、みんなが食べきれないリンゴ飴をいくつ食べられるか挑戦したの…」<br>　するとみずほが言い出した。<br>「ちーちゃん、自分の引いたおみくじの健康運、読まなかったの？“食べ過ぎに注意”って書いてあったのに…」<br>「恋愛運しか見てない…」<br>　ちどりは小さくうなずき、みずほたち三人はあきれかえった。<br>　<br>　着替えを終えたみずほは、次に美絵に髪を戻してもらっていた。 <br>「美絵さ～ん、あのー」 <br>「なにー？」 <br>「えぇーと…、あのー…」 <br>「あっ、さては彼氏の手前、お化粧しなきゃなんないって思っているのでしょう」 <br>「えっ、なんでわかるんですか？」 <br>「だって顔に書いてあるよ。なんなら日本エレキテル連合みたいに白塗りする？」 <br>「ダメよー、ダメダメ」 <br>　みずほはすかさず日本エレキテル連合のギャグを言った。 <br>「ナイス！みずほちゃん。みずほちゃんはきれいな肌しているからお化粧はしなくても大丈夫だよ。まぁ、口紅ひとつでかなりイメージアップできるよ」 <br>「そうですか。ちーちゃんもそう言っていました。でも、どれがいいのかわからなくて…」 <br>「そうねー、AUBE coutureのPK101かRD503あたりが似合うかもよ」 <br>「ありがとうございます。今度買ってみます」 <br>「そうだ今、ちょっと試してみる？ちょうどPK101があるし…」美絵はそう言ってルージュを出してきた。 <br>「あるんですか。うれしい！お願いしまーす」 <br>「じゃー、とりあえず洗面台にあるクレンジングで、今付いているメイク、落としてきてくれる」 <br>「ハーイ」みずほはそう言うと洗面台の方に駈けて行った。 <br><br>　一方、着替え中のちどりは千秋と話していた。 <br>「ちどりちゃん、大丈夫？」 <br>「すみません。お騒がせしました。もう大丈夫です。美絵さんにお薬もらいましたから」 <br>　ちどりのその言葉を聞いて、千秋もちょっと安心したようだ。そしてみずほことやちどりの恋愛事情などを話した。 <br>「みずほちゃん、良かったね。次はちどりちゃんの番だよ～」 <br>「千秋さん、プレッシャーかけないでくださいよー」 <br>「でも…イチゴじゃな～…」 <br>「えっ!?ダメなんですか？」 <br>「ダメって訳じゃないけれど…。かわいいとは思うよ。確かにかわいい。でも特別な日は勝負しないと」 <br>「一応、一番お気に入りを選んだつもりなんだけどな～。ちなみに、千秋さんはどんな物を選んでいるんですか？」 <br>「私？私はシルクね。それも真っ赤なのね。特別な日これが一番」 <br>「へぇー。でも高そう」 <br>「それに、身に着けているだけで、運気がアップするんだよ。多少高くついても、その価値はあると思うよ。まぁ、なかなかみずほちゃんのようにはいきませんが、気は持ちようってことで…」 <br>「そうなんだ！勉強になりました。今度奮発して買って来ます」 <br>　ちどりは運気アップの手段を手に入れ、一気に明るくなった。 <br>「ところで、ちどりちゃんってどういうタイプの男性が好きなの？」 <br>「私ですか？誠実でハンサムで私の言うことなんでも聞いてくれる面白い人ですね。でも、マッチョやひ弱人はダメです」 <br>「なんか贅沢」 <br>「あと、」 <br>「まだあるんだ」 <br>「女性にだらしない人も×」 <br>「まぁ、それはいえるね。例えば、芸能人で言うなら誰？」 <br>「うーん、芸能人で言うなら松坂桃李くんかな」 <br>「そっかー。なんとなくわかる気がする。でも、ちどりちゃんの理想の彼氏が現れるのは、まだまだ先ね。生きているうちに会えるといいね」 <br>「千秋さん、ひどーい」 <br>その言葉にふたりはは笑った。 <br>「そうそう、千秋さん。みずほの彼氏って、うちの大学の教授なんだよ。学部が違ったから、一度も気付かなかったけど、ホント驚きでさ」 <br>「意外と世の中って狭いんだね。で、彼氏って、かっこいいの？イケメン？」 <br>「それがさー、おじさんなんだけど、イケメンでかっこいいんだよー。みずほには絶対もったいないと思う。だって福山雅治似なんだよー」 <br>「えっ！そんなにかっこいいんだ。それなら大学に行けば会える可能性があるんだね。ちどりちゃんの大学って学食とか一般の人でも大丈夫だったけ？」 <br>「ちょっと千秋さん。目的が違っていませんか」 <br>「いや、私はただ、みずほちゃんの彼氏がどんな人か気になっただけで…。いや、スミマセン」 <br>「意外と千秋さんの春も遠そうですね」 <br>　ふたりは、笑い合った。 <br><br>　メイクをすっかり落とした、と言っても薄化粧なのですぐ落ちた訳だが、みずほが美絵の元に戻って来た。 <br>「美絵さ～ん！やって、やって」 <br>「みずほちゃん、ちょっと待って。きちっと拭き取らないから、雫が残っているじゃないの。髪まで濡らしちゃって…」 <br>「エヘッ」 <br>　みずほはそう言って舌を出した。 <br>「とにかくこれで拭きなさい」 <br>　美絵はタオルを手渡した。みずほは受け取ったタオルでやや乱暴に見えるくらい激しく顔や髪を拭いた。その姿を見ていた美絵は「あぁっ！あ～ぁ！」と声にならない声をあげ、あきれかえった。 <br>「美絵さん、こんなもんでいいっスか？」 <br>「いつもお風呂上がりはこんな感じで、拭いているの？」 <br>「はぃ。何かまずいですか？」 <br>　美絵はヤレヤレと思った。 <br>「そんな乱暴にやっちゃうと、髪が傷むわよ。顔も傷付いちゃうし…」 <br>「すみません」 <br>　みずほは少々落ち込んだ。 <br>「さて、気を取り直して、ルージュを引いてみますか」 <br>　その言葉を聞いて、みずほのテンションは再び上がった。実に現金なものだ。 <br>「美絵さん、お願いしまーす」 <br>　美絵はみずほの唇にルージュを引いた。 <br>「これでよし！」 <br>　そう言うと、みずほに手鏡を渡した。 <br>「えっ！すごい」 <br>　みずほは驚きの声を上げた。 <br>「でしょう。ノーメークの素肌に唇だけにルージュ。すごく目立つでしょう」 <br>　みずほは、只々うなずいている。 <br>「男性からは、ルージュの引かれた唇が気になってしかたがないと思うわよ」 <br>　みずほは先ほどより強いうなずいた。 <br>「突然kissされて、強引に唇を奪われるかもよ」 <br>「キャー！」 <br>「勝負の時は、唇だけに…」 <br>「了解しました」 <br>　みずほは敬礼した。<br></font>
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<pubDate>Sat, 01 Oct 2016 00:00:00 +0900</pubDate>
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