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<title>妄想ゼスティリア</title>
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<description>あの事件から1年半。どんな話が見たかったのか、妄想してみた。楽しい妄想の部分に繋げるエピソードを書くのはなかなか大変だwなかなか思ったように更新出来ていません(´•̥ ω •̥` *)頑張っていますがリア事情でなかなか……はぁ</description>
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<title>妄想ゼスティリア75</title>
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<![CDATA[ <div class="lineM space6" style="margin-top: 0px; margin-right: 0px; margin-left: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline; margin-bottom: 6px !important; line-height: 1.4 !important;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「それが元でライラ……主神にさよならされちゃって……」<br>「さよならですか」<br>　えへへ、と笑うスレイにサフィールが尋ねた。<br>「導師契約を破棄されてしまったそうなのだ」<br>「なんですって……」<br>　アリーシャの補足を聞いて、サフィールは絶句した。</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「しょうがないよ。そのときのオレはライラの役に立たないし、っていうか話もできなかったから」<br>　笑いながら告白するスレイを前に、サフィールは大きく息をついた。<br>「それでお一人で王都まで帰ってこられた、と……」<br>「いや、ミクリオ……水の天族と地の天族が一緒だったらしいし……」<br>「らしいしってなんだよ……」<br>　スレイのいまひとつはっきりしない言いかたに、ミクリオが呆れたように呟いたが、それに反応する者はいなかった。<br>「ですがスレイ殿にしてみれば、一人も同然でしょう。大変なご苦労だったと思われますが」<br>「え、いや。それほどでも……」<br>　右手で頭を掻くスレイに、ミクリオが辛辣な一言を放った。<br>「すぐ調子に乗る」<br>「むーー」<br>「そうやってすぐにむくれないの」<br>　スレイは不服そうな顔をエドナに向けた。<br>「いかがなさいましたか、スレイ殿」<br>「いや、ちょっと……」<br>　スレイは言葉をにごして、ごまかすようにサフィールに尋ねた。<br>「ところでサフィールさん。この前もらった弓のことなんだけど……」<br>「神器のことですか。あれがどうかしましたか」<br>「いや、返したほうがいいのかなって」<br>　サフィールはそんなことかという顔をすると、スレイに告げた。<br>「あの神器は導師のものではなく、天族のものです。まだ神器をお使いになる天族がいるのなら、返す必要はないんですよ」<br>「返さなくていいの」<br>「いいもなにもあの神器はあなたのお仲間の天族のものですよ」<br>　身を乗りだすスレイに、サフィールはにっこりと笑って応じた。<br>「ありがとうサフィールさん」<br>　嬉しそうに礼を言うスレイに、にこにこと笑いかけながらサフィールがぼそっと呟いた。<br>「どうせ誰もここには関心がないんですから、私が好きなようにしても構いませんよ」<br>　無邪気に喜ぶスレイ以外の者は、サフィールの言葉に彼の闇をかいま見たような気になったのか、なんともいえない表情で笑い合う二人を見つめた。<br><br>「はぁ〜〜お腹いっぱいだ」<br>「色々と言いたいことはあったけど、まあまあだったわね」<br>「色々と至らずにすみません、エドナ様」<br>「あんまりそういうことばかり言っていると、そのうち嫌われるんじゃないか」<br>「大丈夫よ。アリーシャはそんな子じゃないわ」<br>「はい、エドナ様」<br>　自信満々に胸を張る少女と嬉しそうに同意する姫騎士を、ミクリオは呆れたように肩をすくめて眺めていた。<br>「今日はお食事をご馳走になり、お礼を申します」<br>「大げさだな、サフィールさんは。これからも時々来るんだから、また一緒に食べれるよ」<br>「また食べられるのですかっ」<br>　サフィールは思わず身を乗りだしたが、はっと我に返ったように一つ咳払いをすると、椅子に座りなおした。<br>「ふふ。またシェフにお弁当を作ってもらうから、楽しみにしていてくれ」<br>「ありがとうございます、アリーシャ姫」<br>　サフィールは礼を言うと、空を見あげた。<br>「ところで、そろそろ日も暮れて参りましたが、今晩はこのままここで休まれてはどうでしょうか」<br>「え、もうそんなに経っちゃったの」<br>　スレイもつられて空を見あげた。彼らの上空には、昼と夜の境界を示すような赤い夕焼けと、見え隠れする星の輝きが互いにその居場所を主張している。<br>「そうだな、夜の街道は危険だ。ここに泊めてもらったほうがいいだろう」<br>「嫌よ」<br>　思わぬ強さで拒絶の声を聞き、ミクリオは驚いたように目を見開いた。<br>「え……」<br>「嫌って言ったの。もうミボのかけた術の効力も消えかけているわ。また来たときのじめじめに逆戻りよ。ワタシはじめじめはもうごめんだわ」<br>　一気にまくし立てると、唖然とした顔の仲間の前でエドナは立ちあがって傘をさした。<br>「さ、行くわよ。ぼーーっとしてないで、さっさと片付けて」<br>「あの、エドナ様。夜道は危険ですので、ここで一晩泊まらせてもらったほうが……」<br>「お黙りなさい。ワタシが行くと言ったのよ。ちゃんと言うことを聞きなさい」<br>　誰の意見も受け付けない様子のエドナを前に、溜め息をつくとスレイはサフィールに告げた。<br>「ごめんなさい、サフィールさん。せっかくだけどエドナ……地の天族がどうしても早く都に戻りたいって言ってるんだ。今日はこのまま帰ることにするよ」<br>「私は構いませんが……。夜の街道には昼間には見たこともない凶暴な獣が出ると聞きます。どうかお気をつけて」<br>「うん、ありがとう」<br>「さ、早く片付けなさい、ミボ」<br>「どうして僕にだけ言うんだ……」<br>　長居は無用とばかりにせっついてくるエドナを呆れた顔で見て、ミクリオは溜め息をついた。<br>「あっ、ミクリオ様。私がやります」<br>「じゃあオレも一緒に」<br>　アリーシャとスレイが我れ先にとお弁当の片付けをするのを眺めながら、エドナが呟いた。<br>「役立たずね」<br>「くっ……」<br>　理不尽なエドナの言い様に、ミクリオは歯をくいしばるのだった。<br>「それじゃあサフィールさん。次に会うときまでお元気で」<br>「スレイ殿もご健勝でありますよう」<br>　そう言って会釈したサフィールの口元が少し歪んでいるように見えたが、同時に彼の片眼鏡が夕日をまともに受けて光を放ったため、気づいた者はいなかった。<br>「ではこれで失礼する」<br>　アリーシャも軽く頭を下げた後、スレイたちは泉を後にした。<br><br>霧のたちこめた登山道を下っていると、突然エドナがこれ見よがしに大きな溜め息をついた。<br><br>「はあ。やっとあのじめじめから解放されたわよ。アナタたちは気づかないの」<br>「そういえば霧が晴れてきたような……」<br>「そうかな。オレは変わらないと思うけど」<br>　うなづくアリーシャと首をかしげるスレイの対照的な反応を見て、ミクリオがくすりと笑った。<br>「スレイよく見てみろ。空に星が瞬いているだろう」<br>「え。あっホントだ」<br>「もう暗くなってきているから、足元が見えなくなる前に、街道に出てしまったほうがいい」<br>「そうだな。急ごうみんな」<br>　スレイたちは滑り降りるように登山道を下っていった。彼らが踏むたびに草がひそひそ話のように、さわさわと囁くような音を鳴らしている。<br>　やがてスレイたちは夕焼けの広がる山の向こう側にその姿を隠す間際に、ひときわ背丈の高い草をかき分けて街道に姿を現した。<br>「なんとか間に合ったな」<br>　ミクリオが左手をかざして夕焼け空を眺めた。<br>上空はもう夜の闇が墨汁が紙にしみこんでいくように、朱色から黒に染めあげているところだ。<br>「さて、あいつらはどうしているのかしら」<br>　薄闇の中でエドナが周囲を見回した。<br>「あいつらって」<br>「忘れたの、あいつらよ。憑魔に襲われていたワタシたちを助けもせずに高みの見物をキメこんでたじゃない」<br>「あ、護衛の者ですね、エドナ様」<br>「あんな臆病者、護衛なんかじゃないわよ」<br>「それは……」<br>　エドナのあまりの言い様に、アリーシャは苦笑いした。<br>「せめて盾にでもなってくれればよかったのよ。あれでも兵士なのかしら」<br>「手厳しいな、エドナは」<br>「まあ、あの兵士たちが守るのはバルトロだけなんだろう。そもそもあてにするのが間違っているよ」<br>「あてになんてしてないわよ。せっかくなんだから、ちょっとは役に立てばいいのにって思っただけじゃない」<br>　それはあてにしているのでは、と言いたげな表情でスレイとミクリオはエドナを眺めたが、当のエドナはそれが普通と言わんばかりに胸を張っている。<br>「とにかくついてこられたらうっとおしいだけですし、早くここを離れましょう」<br>　アリーシャの思わぬ提案に三人は目を丸くした。<br>「……言うわね」<br>「でもうっとおしいのは確かだし、僕は賛成だよ」<br>「オレも。気づかれる前にさっさと行こう」<br>「では行きましょう」<br>　アリーシャがくすっと笑ってそういうと、スレイたちは街道を王都レディレイクに向かって歩き始めた。<br>　歩きながらスレイは夜空を見あげた。<br>「すごい星空だな」<br>「満天の星空だね」<br>「村を出た日を思いだすな」<br>「ミクリオ様とスレイは夜に村を発たれたのですか」<br>「ああ。スレイの奴、アリーシャが危ないなんて言って、夜中に家を飛び出したんだ」<br>「ぷっ」<br>　ミクリオの言葉にエドナが吹きだした。<br>「でもミクリオだってそうだったじゃないかっ」<br>　スレイが顔を赤くして抗議すると、ミクリオは笑って肩をすくめた。<br>「それはスレイの行動を予測していたからさ」<br>「ミクリオ様にはスレイの考えることはお見通しなのですね」<br>　アリーシャまでもがくすくすと笑い始める。<br>「当然だよ。まあスレイがわかりやすい奴だったってこともあるけどね」<br>「ホントにそうよね」<br>「なんだよ、みんなして……」<br>　スレイは風船を膨らますときのように頬に空気を詰めこんだ。<br>「だが、だからこそスレイは導師になれたのかもしれないな。まっすぐで曇りなど感じさせない心を持つからこそだ」<br>「なるほどね。導師になるにはその人柄は無視できないというわけだね」<br>「でも実際は霊応力よね」<br>「まず天族と交信できないといけないからね」<br>「だから他はおざなりになるのね」<br>「そういう足りない部分を補うために、従士がいるんじゃないのか」<br>「なるほど。その考えには至らなかった。ミクリオ様、さすがです」<br>「すげーー。やるな、ミクリオ」<br>「いや、僕だって今気づいたばかりだから」<br>「お手柄ね、ミボ。これでアリーシャが従士になる理由ができたわ」<br>　エドナが満足そうにうなづいた。</span></div><div style="color: rgb(51, 68, 85); font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; -webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0);"><br></div><div style="color: rgb(51, 68, 85); font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; -webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0);"><br></div><div style="color: rgb(51, 68, 85); font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; -webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0);"><br></div><div style="color: rgb(51, 68, 85); font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; -webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0);">もっと早くに更新したかったのですが、年末年始と家族の急病や急用が重なり、予定よりかなり遅くなってしまいました。</div><div style="color: rgb(51, 68, 85); font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; -webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0);">お詫び申し上げます。</div></div><div class="taR" style="-webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0); margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; vertical-align: baseline; color: rgb(51, 68, 85); text-align: right !important;"></div>
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<pubDate>Sun, 14 Jan 2018 09:31:28 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア74</title>
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<![CDATA[ <div class="lineM space6" style="margin-top: 0px; margin-right: 0px; margin-left: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline; margin-bottom: 6px !important; line-height: 1.4 !important;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「では時計の砂が全て落ちましたので、お茶をカップに注ぎます」<br>「やった。やっとお弁当を食べれる」<br>　両手を天につきだして喜ぶスレイを横目に、エドナがうなづいた。<br>「そう。待ちかねたわ、アリーシャ」<br>「はい、エドナ様。お待たせしました」<br>　微笑みながらアリーシャは、紅茶を入れたカップをエドナの前に置いた。</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　エドナはそのカップを手に取ると、ゆっくりと一口すすった。<br>「うん、そこそこの味ね」<br>「光栄です」<br>アリーシャが嬉しそうな顔をすると、エドナが頭をあげた。<br>「そこそこなのよ。あのメイドの入れたお茶に比べたら、まだまだなんだから」<br>「すみません、エドナ様」<br>「慢心してはダメよ。邁進なさい」<br>「はい、肝に命じます」<br>　厳しい言葉を投げかけるエドナを前に、うなだれるアリーシャを見かねたスレイが割って入った。<br>「エドナ、アリーシャは今日初めて紅茶を入れたんだから、そこまで言わなくてもいいじゃないか。充分美味しいんだし」<br>「……はあ、スレイも全然ダメね」<br>「え」<br>「ちょっとはツッコミなさいよ、もう」<br>「あ……」<br>　わざとらしくため息をつくエドナを見て、スレイは初めて気づいたらしく、ぱっと目を見開いた。<br>「慢心（マンシン）と邁進（マイシン）か。やれやれ」<br>　ミクリオが呆れたように肩をすくめる。<br>　そのやりとりの全てを知ることができないサフィールが、心配そうに尋ねてきた。<br>「どうかされたのですか、アリーシャ姫」<br>「いや、今天族に＂慢心するな、邁進しなさい＂と言われてしまって……」<br>「ほう、上手いことおっしゃいますね。さすが天族」<br>「ははははは」<br>　スレイが苦笑し、ミクリオが空を仰ぐなか、エドナが満足そうに一人うなづいた。<br>「よくわかっているじゃない。霊応力がないのが残念だわ」<br>「はは……。サフィールさん、エドナ……地の天族が褒めてくれてるよ」<br>「おお、身に余るお言葉をいただき幸福至極に存じます」<br>「これからも精進しなさい。期待してるわよ」<br>　エドナの言葉をそのままスレイが伝えると、サフィールはかしこまってひれ伏しそうな勢いでテーブルに額を押しつけた。<br>「なんという勿体ないお言葉。この胸に刻みつけておきます」<br>　そのあまりの大仰さにさすがのエドナも若干の気持ち悪さを感じたらしく、サフィールから視線を外して呟いた。<br>「ところでワタシは、いつになったらお弁当を食べられるのかしら」<br>「なんだ、エドナも食べたいの我慢してたんだ」<br>「お黙りなさい。食べ物を前に、待たされるのが嫌いなだけよ」<br>　スレイに言われたのは図星だったのか、エドナは頬を赤らめてそっぽを向いた。<br>「エドナ様、よかったらおひとついかがですか」<br>　アリーシャがサンドウィッチの入ったかごをエドナの前に差しだすと、エドナは一つ手にとって頬張った。<br>「うん、美味しいわね。これはなんのお肉なの」<br>「それは鴨のローストです」<br>「そう、気に入ったわ」<br>「シェフにもそのようにお伝えしておきますね」<br>　アリーシャがうやうやしく答えると、スレイが目を輝かせて声を張りあげた。<br>「ホント、旨いよ。ミクリオもサフィールさんも一緒に食べよう」<br>　ミクリオは苦笑して、サフィールは少しためらったが、思い切ったように手を伸ばした。<br>「うん、旨い」<br>「これは美味ですね。調理もさることながら、素材が素晴らしい」<br>「お口にあったようでよかった」<br>　三人の感想を聞いて、アリーシャは嬉しそうに微笑んだ。<br>「ご謙遜を、さすがはアリーシャ姫です。おもてなしの心をわかっていらっしゃる」<br>「このお弁当を用意したのは私ではなくて、うちのシェフなのだ。だから……」<br>「そのシェフがこれだけのものをご用意されたのは、アリーシャ姫の人柄あってのことだと思いますがね」<br>「そ、そうか。ありがとうサフィール殿」<br>　心なしかうわずった声で、アリーシャが礼を言ったのをエドナは聞き逃さなかった。<br>「アリーシャ、アナタいま声が裏返ったわね」<br>「ま、まさか。エドナ様……」<br>「ワタシが聞いていないとでも思ったの。甘いわね。罰としてアナタの分のサンドウィッチを一つよこしなさい」<br>　そう言ってアリーシャの手からサンドウィッチをひったくって頬張ったエドナを、ミクリオがため息混じりで眺めていた。<br>「しかしなんとも不思議な光景ですね」<br>　次々に消えていくサンドウィッチを眺めていたサフィールが感嘆の声をあげた。<br>「え、なにが」<br>　スレイは慌ててテーブルについている仲間を見渡した。彼の目には美味しそうにサンドウィッチを食べ続けている仲間たちが映っている。<br>「天族が見えないと、このサンドウィッチはどうなってるの」<br>「そうですね。何もない空間にまるで吸い込まれているようにサンドウィッチが消えていくように見えてますね」<br>「そうだな。私もお声が聞こえるだけなので、サフィール殿の話には共感する部分があるよ」<br>「え、じゃあアリーシャにもサンドウィッチが消えてるように見えるの」<br>「ああ。なかなか見られるものではないから、かなり興味深いものがあるな」<br>「ちょっと、アナタたちさっきからなにじろじろ見ているのよ。イヤラシイわね」<br>　サフィールとアリーシャの言葉を聞いたエドナが、憤慨したように声を荒げて人間たちの会話に割って入ってきた。<br>「も、申し訳ありません、エドナ様」<br>「女性の方でいらっしゃいましたか、失礼しました」<br>「気をつけなさいよね。……っとにもう」<br>　ぶつぶつと文句を言いながらサンドウィッチをかじるエドナを見ながら、スレイはしみじみと呟いた。<br>「へえ……。なんかうらやましいな。そんなものが見れるなんて」<br>「スレイも見ていただろう」<br>　不思議そうにアリーシャが尋ねると、ミクリオが肩をすくめてスレイの代わりに答えた。<br>「無理だったろうな。あの頃のスレイには周りを見る余裕がなかったからね」<br>「余裕があっても見ていたかどうかわからないわよ」<br>　身もふたもないことを言って、エドナは一つだけ残っていたベーコンとザワークラウト（キャベツの酢漬け）のサンドウィッチを手に取った。<br>「あ、エドナ。それ最後のベーコン……」<br>「あら食べたかったの。ならちゃんと手元に置いておかなきゃダメじゃない」<br>　エドナに冷たくあしらわれ、スレイはがっかりと肩を落とした。<br>「あの……スレイ殿。もしよろしければ、これを……」<br>　スレイのあまりの落胆ぶりに、見かねたサフィールが自分の持っているサンドウィッチを差し出すと、スレイは笑って応じた。<br>「ううん、いいよ。ありがとうサフィールさん」<br>　少し残念そうに首を横に振るスレイを見て、アリーシャがなにかを思い出したように両手を胸の前でぱんっと叩いた。<br>「そういえばうちのシェフがデザートも入れたと言っていた。スレイ、少々待ってくれないか」<br>「ホントに。ありがとうアリーシャ」<br>　目を輝かせるスレイに微笑んでみせると、アリーシャはバスケットからデザートの入った包みを取り出した。<br>「あら、デザートもあるのね。気が利いてるわね」<br>　デザートの存在に気づいたエドナの目に妖しい光が宿った。<br>「まだ食べる気なのか」<br>「うるさいわね、ミボ。ワタシは見かけによらず大食いなのよ」<br>　そんな天族二人のやりとりを笑って聞きながら、包みを開いたアリーシャの表情が一瞬で変わった。<br>「どうしたの、アリーシャ」<br>　そのまま凍りついたように固まってしまったアリーシャを心配したスレイが声をかけると、騎士姫は振り向いて助けを求めるような目でスレイを見た。<br>「……どうしよう、スレイ……」<br>　アリーシャの困ったような顔を見て不思議に思ったスレイは、包みの中を覗き込むと小さな叫び声をあげた。<br>「どうした、スレイ」<br>「これ……」<br>　スレイはそう言うと包みの中身を取りだして皆に見せた。<br>「あ……」<br>「それ……」<br>「まるごと入ってる……」<br>　スレイの左手に乗っているのは皮のむかれていないまるごとそのままの果物だった。<br>「どうしよう……」<br>　もう一度呟くと、アリーシャはすがるような目でスレイを見た。<br>「大丈夫、任せて」<br>　スレイはうなづき、右手に同じ包みの中に入っていたナイフを握ると、真っ赤な果物の皮をするするとむき始めた。<br>　彼が皮をむいた中からは、みずみずしくも真っ白い果実が内なる姿を覗かせている。<br>「へえ……上手なんですね」<br>「だろ。これでも村にいた頃は、一人でなんでもやってたんだから」<br>「それは君だけじゃないだろう……」<br>　ミクリオの呟きをあえて聞き流して、スレイは皮をむき終えた実を四つに割って皿に乗せた。<br>「さ、食べて」<br>　皿に乗せられたみずみずしい果実を前にスレイが促すと、同席している者たちは各々で手を伸ばして、しっとりと濡れた実を掴んだ。<br>　その実は一口かじると歯切れのよい音を立てて口の中に転がりこみ、噛みしめると甘酸っぱい果汁が舌の上に広がった。<br>「美味ですね」<br>　サフィールがさくさくといい音を立てながらうなづいた。<br>「これ、確かスレイが森の中で食べてた実じゃないの」<br>「えっ、あの森のことを見てたの。恥ずかしいな」<br>　エドナに指摘されて、スレイは照れたように頬を赤らめて右手で頭を掻いた。<br>「森……ですか」<br>「うん。王都に戻るときに通ったんだ。オレに見えなかっただけで、エドナとミクリオは一緒だったんだよな」<br>「見えなかった、とは」<br>　サフィールに尋ねられて、スレイは少し深刻な顔で話し始めた。<br>「実はオレ、戦場で災禍の顕主に挑んで負けたときに、霊応力をなくしたんだ」<br>「本当ですか」<br>　サフィールが驚いたように目を丸くした。<br>「本当だ。私の家に着いたとき、スレイは同行している天族に気づかなかった」<br></span></div><div style="color: rgb(51, 68, 85); font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; -webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0);"><br></div></div><div class="taR" style="-webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0); margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; vertical-align: baseline; color: rgb(51, 68, 85); text-align: right !important;"></div>
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<pubDate>Wed, 20 Dec 2017 22:53:02 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア73</title>
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<![CDATA[ <div class="lineM space6" style="margin-top: 0px; margin-right: 0px; margin-left: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline; margin-bottom: 6px !important; line-height: 1.4 !important;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「ところでそれはなんですか」<br>　ひとしきり笑って気が済んだのか、サフィールがスレイに尋ねてきた。<br>「え、どれのこと」<br>「さっきから私にはバスケットが宙に浮いているように見えているのですが……」<br>　スレイはサフィールの目線の先を辿った。そこにはお弁当が入ったバスケットがあり、その持ち手はミクリオが握っている。<br>「ああこれ。ミクリオに持ってもらっているんだ」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「ミクリオ……ですか」<br>「うん。オレの幼なじみで水の天族の……」「な、なんですってっ。天族の方に荷物を持たせるなどっ……」<br>「待てって言ったのが、地の天族のエドナなんだけどな」<br>　サフィールのあまりの驚きように、戸惑った顔でスレイは頭を掻いた。<br>「左様でございますか。しかし……」<br>「……そうだ。さっきもみんなで話したんだけど、サフィールさんも一緒にお弁当食べようよ」<br>「お弁当……」<br>「そう。この中にはお弁当が入ってるんだ」<br>　スレイがにっと白い歯を見せると、アリーシャが続けた。</span></div><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「実は私の家のシェフが張り切ってたくさん作ってしまって。四人ではとても食べきれそうにないのだ。これはもしかすると、サフィール殿の分も含まれているのではないかという次第なのだが、どうだろうか」<br>「そ、それは仕方ありませんね。なに、ご心配にはおよびません。私がきれいに片付けてみせますとも」<br>　サフィールは両手を胸の前で握りしめて目を輝かせた。心なしか彼の荒い息づかいが聞こえてくる。<br>「な、なんかすごく喜んでくれているみたいだね」<br>「はは……」<br>「決まりだな。ではお弁当はどこで広げるといいだろうか」<br>　アリーシャが尋ねると、サフィールとスレイは周囲を見回した。<br>「うーーん、そうですねえ。私が生活に使っている部屋は小さいですし……」<br>「だよな。そうすると……。あ、あそこの木の下なんてどうかな」<br>　スレイが指差した先をその場にいる全員が辿った。<br>「スレイにしてはなかなかいい選択じゃないかな」<br>　木の下には簡素ではあるが、テーブルと椅子が並んでいる。<br>「そうかしら。この辺り一帯じめじめよ。これ以上ワタシの服がじめじめになるのはガマンできないんだけど」<br>　心底嫌そうに言うエドナに、その場にいる全員が視線を向けた。<br>「な、なによっ、その目はっ。アナタたちは濡れても構わないって言うの」<br>「え、それは……」<br>「まあ……」<br>　スレイは右手で頭を掻いて困った顔をしたが、何か思いついたらしく、ぽんっと右の拳で左の掌を打った。<br>「そうだ。ミクリオならなんとかできるんじゃないかな」<br>「本当ですか、ミクリオ様」<br>　スレイのその一言で、彼の仲間は期待に目を輝かせた。<br>「ちょっと、スレイ……」<br>「いいじゃないか。ミクリオ、ちょっと頼むよ」<br>　いとも簡単に言うスレイに、ミクリオは溜め息をついてみせた。<br>「いいけど。勝手に期待して、結果にがっかりするんじゃないぞ」<br>　ミクリオが杖を振りあげると、宙を細かい氷の粒が舞いあがった。それらは陽光を受けて、ひとつひとつがきらきらと宝石のように輝いている。<br>　その氷に引き寄せられるように、さらに細かい霧になった空気中の水分が集まっていく。<br>　やがていくつもの氷の結晶がスレイたちの周囲を舞い始めた。す<br>「うわあ……」<br>「すごい……」<br>「キレイね……」<br>　スレイたち三人は無数の結晶を感嘆の声をあげて見つめている。<br>「素晴らしい。実に素晴らしい」<br>　サフィールも熱に浮かされたように、繰り返し呟いている。<br>　ミクリオは照れているのか、少し困惑した顔で告げた。<br>「さあ、お弁当の準備をしようか」<br>「サフィール殿、ひとつ頼みごとをしてもいいだろうか」<br>　ミクリオの言葉を受けて、アリーシャがサフィールに尋ねた。<br>「なんなりと、アリーシャ姫」<br>「紅茶を入れようと思うのだが、お湯を沸かしてもらってもいいだろうか」<br>「お安いご用です。しばらくお待ちいただけますか」<br>「ああ。それはもちろん」<br>「では一旦失礼いたします」<br>　サフィールは右手を胸に添えると、一礼してスレイたちの前を辞した。<br>　氷の結晶の向こうへ歩いていくサフィールの後ろ姿を眺めながら、スレイが口を開いた。<br>「やっぱりどこかに食事を作ったりする場所があるんだろうな」<br>「そりゃあなにか簡単なものを作る場所ぐらいはいるだろう。スレイの家にもあったんだし」<br>「あら、スレイは料理ができるの」<br>「それが美味しいんですよ、エドナ様」<br>「まあ、生意気ね、美味しいなんて。それでアリーシャはどうなの」<br>「わ、私は……」<br>「できないのね。……罰としてリスリスダンスを踊ってもらおうかしら」<br>「リ、リスリスダンスですか」<br>「よもや忘れたなんて言わせないわよ」<br>「その……まだ教わっていないのですが……」<br>「そんなはずはないわ。忘れたなら素直にそう言いなさい」<br>「いえ、ですが……」<br>「仕方ないわね。もう一度だけ教えてあげるから、今度はちゃんと覚えなさいよ」<br>「あ、ありがとうございます、エドナ様」<br>　今初めて教わりますが、という言葉を飲み込んで礼をいうアリーシャを、スレイとミクリオは感心した様子で眺めていた。<br>「よく付き合っているよね、アリーシャは」<br>「ホントだよな」<br>　彼らの視線の先では、エドナの指示でアリーシャがポーズをとっている。<br>「オレたちも一緒に踊ろうか」<br>「まさか。君一人でどうぞ。そのほうがアリーシャもわかりやすいだろう」<br>「ミクリオはどうするんだ」<br>「僕は一人寂しくお弁当を広げて待っているよ」<br>「えーーっ。オレもそっちがいい」<br>「いや、一人で充分だ。スレイはアリーシャを助けてあげるといい」<br>　そう言い残してミクリオは木の下に向かって歩いていった。<br>　スレイが口を尖らせて親友の後ろ姿を見送っていると、エドナに声をかけられた。<br>「ちょっと、早く来てアリーシャに教えるの手伝いなさいよ。この子ちっとも言った通りに動かないんだから」<br>「えっ、やっぱりオレそっちなの」<br>「そうよ、早く来なさい」<br>　スレイは渋々エドナとアリーシャの傍に行った。<br>「いい、まずはこうよ」<br>　しばらく後、サフィールは不思議な踊りをするスレイとアリーシャの姿を目の当たりにすることになるのであった。<br>「あ、あの……スレイ殿、アリーシャ姫。いったいなにをされているのですか」<br>　目を丸くして尋ねるサフィールの声を聞き、我に返ったアリーシャは、首まで真っ赤になってその場に固まってしまった。<br>「あ、お湯ありがとうサフィールさん。さ、みんなでお弁当食べよっか」<br>　なにごともなかったかのように、スレイはサフィールからお湯の入ったポットを受け取った。<br>「さ、あっちに用意できてるよ。早く」<br>　スレイは右手にポットを持ち、左手でサフィールの腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張っていった。<br>　木の下へお歩いていくスレイとサフィールの後ろ姿を眺めつつ、エドナは呟いた。<br>「見られたわね」<br>「ど、どうしましょう、エドナ様」<br>「ワタシは困らないけどね」<br>「エ……エドナ様っ」<br>　すっかり狼狽えているアリーシャの姿を見て、エドナはふっと笑った。<br>「助けてあげないこともないけどね」<br>　すがるような目でみつめるアリーシャにうなづいてみせると、エドナは傘の先をサフィールに向けた。<br>「赤土目覚めよ……」<br>「エ、エドナ様っ。それはやめてください」<br>　波が引くように顔を青ざめさせたアリーシャが必死にエドナを止めようとする。<br>「そう、いいのかしら。抹殺してしまえばなんの心配もいらなくなるわよ」<br>「物騒なことを言うんじゃない。アリーシャが困っているじゃないか」<br>「目ざといわね、ミボ。ワタシはアリーシャを憂いから解放してあげようとしただけよ」<br>「そんなことしたら別のもっと深い悩みを生んでしまうじゃないか」<br>　ミクリオが呆れた顔でエドナをたしなめる。<br>「いいかげんにお弁当食べようよ」<br>　しびれを切らしたスレイがそう漏らすと、三人はくすっと笑って応じた。<br>「わかった。いま行く」<br>　お弁当の前で待つスレイとサフィールの元に、三人は歩いていった。<br>　木の下にしつらえてある椅子にそれぞれ腰掛けると、アリーシャはティーセットを広げた。<br>「サフィール殿、ありがたく使わせてもらうよ」<br>「どうぞ。アリーシャ姫のお心のままに」<br>　サフィールが快く応じると、アリーシャはティーポットの蓋を取り、サフィールの沸かしたお湯を注いだ。<br>　それからしばらく待つと、今度はティーポットのお湯をティーカップに順に注いでいく。<br>「このお湯は捨てて、次に茶葉を入れて新しいお湯を注ぐそうだ」<br>「へえ〜〜。そんなことをするんだ」<br>「手が込んでいるな」<br>　感心したように声をあげた少年二人に、アリーシャは照れ笑いを浮かべてみせた。<br>「ふふ。家のメイドの受け売りだがな」<br>　アリーシャは缶を手に取り蓋を開けて、ティースプーンで中の茶葉をすくって、お湯を捨てたティーポットに六さじ入れてお湯を注いだ。<br>「あら、アナタの家のメイドはそんなもの使っていなかったわよ」<br>　アリーシャが砂時計をひっくり返したのを目ざとく見つけたエドナがそれを指摘した。<br>「さすがはエドナ様です。実はこの砂時計は、素人の私でも紅茶を美味しく入れられるようにと、メイドが持たせてくれたものなのです」<br>「ふうん、難しいんだな」<br>　スレイが神妙な顔をして言うと、ミクリオが知ったような口ぶりで告げた。<br>「スレイ、簡単に見えることが、実はとても難しかったりするものなんだよ」<br>「わかってるよ、エラそうに言うな」<br>　風船のように頬を膨らましたスレイの顔を見て、エドナがくすりと笑った。<br>「ホントにまだまだ坊やね」<br>「エドナまで……。悪かったな、坊やで」<br>「悪くはないわよ、面白いもの」<br></span></div><div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　澄ました顔で言うエドナを目の当たりにして、スレイはさらに頬を大きく膨らませるのだった。</span><br></div></div><div class="taR" style="-webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0); margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, &quot;ヒラギノ角ゴ Pro W3&quot;, &quot;Hiragino Kaku Gothic Pro&quot;, &quot;ＭＳ Ｐゴシック&quot;, &quot;MS PGothic&quot;; font-size: 14px; vertical-align: baseline; color: rgb(51, 68, 85); text-align: right !important;"></div>
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<pubDate>Wed, 06 Dec 2017 23:59:09 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア72</title>
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<![CDATA[ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「ち……ちょっとエドナ」<br>「エ、エドナ様っ」<br>登山道から押し出されそうになったミクリオとアリーシャが、戸惑いの声をあげると、そんな三人を非難するようなスレイの声が彼らの耳を打った。<br>「もーーっ。みんな遅いよ。なにしてんだよ」<br>　先に登っていったはずのスレイが、いつの間にか三人の近くまで戻って両手を腰にあてて仁王立ちで彼らを見ている。その仕草はかなり子供っぽく見えた。<br>「どうやらアリーシャが正しかったようね」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「えっ……エドナ様……」<br>　慌ててアリーシャは発言を撤回しようとするが、言葉に詰まって黙りこんでしまった。<br>「悪かったスレイ。すぐ行くから少し待っててくれ」<br>　ミクリオがスレイに返事をすると、エドナに目配せしてアリーシャの手を引いた。<br>「三人ともなにしてんだよ」<br>　唇を尖らせて文句を言うスレイに、ミクリオはもっともらしく言った。<br>「稀有な体験は人を成長させるのか否かっていう話をしていたんだ」<br>「な、なんだよそれ……」<br>　スレイが理解できないという顔で声をあげるのを見て、アリーシャが思わず吹きだした。<br>「あ、すまない。スレイのことを笑ったわけではないんだ」<br>「アリーシャまで。いったいなんなんだよ」<br>　まったくわからないという顔のスレイにエドナが告げる。<br>「坊やは面白いってことよ」<br>「え、ミクリオのこと言ってるの、エドナ」<br>「なんで僕なんだよ」<br>「だってエドナはミクリオのこと坊やって言ってたじゃないか」<br>「ミクリオ坊や。略してミボね」<br>「だからそれ、やめてくれないか」<br>　ミクリオがうんざりしたように溜め息をついた。<br>「それと、あまり時間がないんだから不毛なやりとりはここまでにして、先を急ぐよ」<br>「……ミボに怒られちゃったじゃない。アリーシャのせいよ」<br>「えっ。わ、私のせいですか」<br>「そうよ、反省なさい」<br>「エドナ、いい加減に……」<br>「はいはい、わかったわよ」<br>　エドナは不服そうな顔で肩をすくたが、それ以上茶化すかはしなかった。<br>　それからしばらくはたいして話すこともなく、四人は山道を登り続けたが、突然なんの兆しもなくスレイが立ち止まった。<br>「どうした。疲れたのか、スレイ」<br>「そんなことないけど、このお弁当いつ食べるのかなって」<br>「……」<br>　スレイがバスケットを持った右手を突きだした。中身はもちろん今日のお弁当だ。<br>　仲間たちはスレイの右手にぶら下がるバスケットを見つめた。<br>「このまま泉まで行くと、食べそびれちゃうと思うんだけど」<br>「うん……」<br>「ま、そうなるかしらね」<br>「それじゃ作ってくれた人に悪いだろ」<br>　そう言ってスレイは三人の顔を順番に見た。<br>　彼らはきょとんとした表情をしていたが、不意に笑いだした。<br>「な、なんで笑うんだよっ」<br>　スレイの顔が一瞬でゆでだこのように赤く染まった。<br>「いや、だってスレイ……」<br>「すまない。だが……」<br>「アナタってホントに……」<br>　お腹を抱えて笑う三人を見てスレイは地団駄を踏んだ。<br>「もういいよ。なにも言わなかったことにするから」<br>「ま、待て。悪かったスレイ。だからちょっと待って」<br>　右手でお腹を押さえながら、ミクリオが左手を伸ばしてスレイの腕を掴んで引き止めようとする。<br>「べつにここで食べなくてはならない道理もないだろう。泉に着いてからサフィール殿と一緒に、遅めの食事を摂ってもいいのではないか」<br>「そうね。こんな山の中じゃまともな食事なんて摂れてないだろうから、涙流して喜ぶわよ、きっと」<br>「う……ん……」<br>　仲間たちの説得に対して、どうもスレイの歯切れが悪い。<br>「スレイ……駄目なのか」<br>　アリーシャがスレイの顔を覗きこんで恐る恐る尋ねる。<br>「もしかしてバテたとか」<br>　エドナの何気ない一言に、スレイの両肩がぴくりと震えた。<br>「図星だね」<br>「そのようですね」<br>「ま、そんなものよね。それでどうするの」<br>「ここで少し休んでもいいんじゃないかな」<br>「そうですね。ミクリオ様、私も賛成です」<br>「あら、ワタシも構わないわよ」<br>　ミクリオとアリーシャがエドナを見た。<br>「なによ、その目は」<br>「いや、いろいろ損してるんじゃないかなって……」<br>　ミクリオが左の拳で口元を押さえた。<br>「うるさいわね。ミボのくせに」<br>　エドナはぷうっと頬を膨らませると、道の脇の草むらに腰を下ろした。そして自分の隣を指す。<br>「座りなさい。スレイ、それからアリーシャも」<br>「おい、僕はどうすればいいんだ」<br>「ミボはそのままでいいでしょ」<br>「ちょっと……勘弁してくれよ」<br>　左手で額を押さえるミクリオを、スレイは笑って眺めると、アリーシャに右手を差し出した。<br>「座ろ、アリーシャ」<br>　アリーシャはうなづいてスレイと並んで座った。<br>「考えてみればスレイにはずっとお弁当を持ってもらっていたのだな。重かっただろう、すまない」<br>「そうね。そろそろ交代するべきかしら、ミボと」<br>「え、エドナ様。 それはミクリオ様に申し訳が……」<br>「あら、女の子に荷物を持たせるのはどうかって、ミボが言い出したのよ。いいじゃないの、この先人間に会うこともないだろうし」<br>「そうだよ。サフィールは人間だけど、天族や導師のかとよく知ってるし」<br>「スレイまで……」<br>　アリーシャは困った顔でスレイを見た。<br>「それなら問題ないじゃない。ミボ、スレイと交代なさい」<br>「おい、エドナ……」<br>「で、ですがエドナ様っ……」<br>　抗議の声をあげるミクリオを無視して、狼狽えるアリーシャにエドナははっきりと告げた。<br>「アリーシャ、荷物は男どもに持たせておけばいいのよ。わかったわね」<br>「は、はい。エドナ様」<br>　有無を言わさぬエドナの口調にアリーシャが大人しくうなづくと、少女は傘の先を水の天族に向けた。<br>「決まりよ。ミボはお弁当を持ちなさい。さっさと行くわよ」<br>「珍しく前向きだね、エドナ」<br>「……べつに」<br>　感心したように言うミクリオからぷいっとそらしたエドナの頬が少し赤く染まっていた。<br>　ミクリオは肩をすくめると、バスケットを持って仲間たちに声をかけた。<br>「さあ、行こうか。スレイ、アリーシャ」<br>　スレイとアリーシャはうなづいて立ちあがると、もうすでに立っているエドナと一緒に再び登山道を歩き始めた。<br>　しばらく登山道を進むと、やがて周りの空気が水を含んできた。<br>「もう少しで泉に着きますよ、エドナ様」<br>「そうなの。ちょっと湿っぽくなってきたと思ってたけど」<br>「あ、近くに滝もあるんです。湿っぽいのはそのせいだと思いますが……」<br>「エドナもわかるのか」<br>　意外そうにミクリオが尋ねると、エドナは不機嫌そうにミクリオを見上げた。<br>「ワタシをなんだと思ってるのかしら、ミボ」<br>「水の眷属でもないだろう、エドナは」<br>「あら、ホントにそういうつもりなのかしら」<br>「決まっているじゃないか。逆にエドナはどう思ったんだ」<br>「……そんなのどうだっていいじゃない」<br>　ふいっと背を向けたエドナの後ろ姿を眺め、ミクリオは肩をすくめた。<br>　山道を一歩登るごとに空気は湿り気を増していき、ついに辺りに霧がたちこめてきた。<br>「また霧だわ」<br>「さっきのとは違うけどね。この霧は泉の向こうにある滝から流れてくるんだ」<br>「それなら泉じゃなくて、滝つぼなんじゃないの」<br>「え……そうなんだ」<br>「いや、違うだろうスレイ。滝と泉は離れていたじゃないか」<br>「そうなの」<br>　エドナのふてくされたやうな声を聞いて、アリーシャが心配そうな顔になった。<br>「エドナ様、その……」<br>「いいんだよ、アリーシャ。エドナは僕に言われたのが気に食わないだけなんだから」<br>　エドナが横目でミクリオをじろりと睨むのを見て、スレイが吹きだした。<br>「ぷっ」<br>「うるさいわよ、スレイ」<br>　エドナの振り下ろした傘がスレイのすねを打って、思わずスレイは声をあげた。<br>「いてっ」<br>「大丈夫か、スレイ」<br>「あ、うん。大丈夫だよ、アリーシャ。はは……」<br>　スレイは血右手で頭を掻きながらアリーシャに笑ってみせた。<br>　それからしばらくスレイたちは山道を無言で歩いていた。やがて彼らの目の前を木々が並んで向こう側の景色を遮っているのが見えてきた。<br>「エドナ様見えてきました。あの木々の向こうに泉があります」<br>「やっと着いたのね」<br>　嬉々としてアリーシャが指差す先を見て、エドナはうんざりした声で言った。<br>　しかしそんなエドナの気分などお構いなしに、スレイが真っ先に木々の向こうへ飛びだした。<br>「さあ、早く。みんなっ」<br>　ミクリオは肩をすくめて、アリーシャは苦笑して、エドナは溜め息をついてそれぞれスレイの後に続いた。<br>　木の枝をかいくぐった先は、石できれいに舗装された参道が広がっていた。<br>「着いたぞーー」<br>　スレイが両手を天に突きだし、大きく伸びをした。<br>「久しぶりだね」<br>「……アナタたちどうしてそんなに嬉しそうなの」<br>　エドナが半ば呆れたように尋ねると、スレイは笑顔で答えた。<br>「いいところだろ、エドナ」<br>「……じめじめしてなければね」<br>　眉をひそめてエドナが呟いたのは、逆光でスレイの顔がよく見えなかっただけなのかもしれない。<br>「アリーシャ姫、よくぞお越しくださいました」<br>　耳にキンキン響くあの特徴的な声が聞こえてきて、スレイたちは一斉に同じ方向を見た。<br>「おや、ご一緒されているのは、導師スレイではございませんか。いやあ、よくぞおいでくださいました」<br>「……やあ、久しぶり。サフィールさんは相変わらずみたいだな」<br>　スレイが苦笑すると、サフィールの片眼鏡が光を反射した。<br>「当然です。私には大いなる使命がございますから」<br>そのまま高笑いを始めたサフィールに、スレイたちは触れないでそっとしておくことにした。</span></div>
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<link>https://ameblo.jp/tozfancy/entry-12323706120.html</link>
<pubDate>Sun, 29 Oct 2017 01:04:50 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア71</title>
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<![CDATA[ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「……おい」<br>　不意に後ろから声をかけられてスレイが振り向くと、そこには黒ずくめの男が立っていた。<br>「えっと……オレになにか用ですか」<br>　スレイが戸惑いながら尋ねると、男は不機嫌そうに答えた。<br>「ああそうだ。お前に用がある。それとそっちの女にもな」<br>　男はアリーシャを睨みつけた。</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　アリーシャは自分でも気づかないうちに身構えていた。<br>　なぜ見知らぬ男が自分たちに敵意を剥きだしにするのか、心当たりがないのだが本能が危険を感じ取ったのだろう。<br>　戸惑いながらも身構えるスレイとアリーシャの様子を見て、男は喉の奥でくっくっと笑った。<br>「なるほど。俺サマが見えてないってワケか……。こいつは愉快だぜ」<br>　黒ずくめの男は両手を広げた。その掌にはどうやったのか青白い炎が灯っている。<br>　「スレイ、アリーシャ。そいつはあのキツネ男だっ」<br>「ミクリオ様、それは本当ですかっ」<br>「アリーシャ、ミクリオはなんて……」<br>「あの男はキツネ男だと言っておられる」<br>「ホントか、ミクリオッ」<br>「僕が間違えるはずがないだろう。とおっしゃっているよ」<br>「くっ……」<br>　スレイはバスケットを下ろすとその前に立ち、儀礼剣を抜いて構えた。<br>「マズいときに見つかったわね」<br>「ああ、最悪だ」<br>　エドナはふと、スレイたちを遠まきに見ている兵士たちに視線を向けた。<br>「見張りはなにしてるのよ」<br>「高みの見物じゃないか」<br>「……仕事しなさいよ、まったく」<br>「死んだら儲けものだろうしね」<br>　エドナは溜め息をつくと傘を構えた。<br>「丸焼きにしてやるぜ」<br>　キツネ男は邪悪な笑みを浮かべて舌なめずりをすると、右手にまとった炎をスレイに突き出した。<br>「うわっ」<br>　スレイは叫び声をあげて左肩を引いた。キツネ男の右手は宙を掴み、その動きに少し遅れて炎が揺らいだ。<br>　しかしキツネ男は動じることなく、すかさずスレイの隣りにいるアリーシャに左手の炎を放った。<br>「危ないっ。ツインフロウッ」<br>　その声とともに水の流れが、アリーシャに襲いかかろうとしていた炎を打ち消した。<br>「……っ。ミクリオ様、ありがとうございます」<br>「チッ。相変わらずこざかしい奴だ。これでも食らえっ」<br>　キツネ男は吐き捨てると、いくつもの火の玉を乱れ打った。<br>　キツネ男の手を離れた火の玉は、まるで意思を持っているかのようにスレイたちの周囲を舞っている。<br>「その炎に触れちゃダメよ」<br>「承知しました、エドナ様。スレイ、その炎に触れてはならないそうだ」<br>「わかったよ。ありがとうエドナ、アリーシャ」<br>　スレイは炎をかわしながら応じた。<br>　アリーシャも巧みに身を翻し、ミクリオは氷の粒を宙に留まらせて、火の玉と相殺させていく。<br>　エドナはというと、傘を広げて回転させて、火の玉を散らしている。<br>「チッ……ちょこまかとうっとうしい」<br>　忌まわしげに舌打ちをすると、キツネ男はナイフを右手に握って、スレイに襲いかかった。<br>「くっ……」<br>スレイはとっさに儀礼剣でナイフを弾いたが、二つの刃物がぶつかった際の、金属のこすれ合う耳障りな音に、少年は顔をしかめた。<br>「いつまでも俺の邪魔をするんじゃねえっ」<br>「まだアリーシャをつけ狙うのかっ」<br>　再び襲いくるキツネ男の刃を、スレイはもう一度受け流した。<br>「……なんて力だ」<br>「これは仕事でもあるんだ。暗殺ギルド＂風の骨＂のな」<br>　舌なめずりしながらキツネ男が告げると、スレイとミクリオの表情が変わった。<br>「なんだって」<br>「バカな。風の骨は依頼を破棄していたぞ」<br>　ミクリオの言葉にキツネ男は声を荒げた。<br>「なんだとっ。いったい誰がそんな勝手なことを……」<br>「頭領と呼ばれてた女がそう言っていた。お前は知らなかったのか」<br>「そんな……嘘だっ。確かに頭領は依頼を受けていた。嘘をつくんじゃねえっ」<br>　叫び声をあげてキツネ男はミクリオに炎の玉を放った。<br>「ミクリオ様」<br>　アリーシャの悲鳴に重なるようにして、一瞬キツネ男の憑魔の姿と、彼の放った炎の先にいるミクリオとエドナがスレイの瞳に映った。<br>　しかしその直後に激しい痛みを眼球に覚えて、スレイは右手で目を押さえた。<br>「スレイ、大丈夫かっ」<br>　そのままうずくまるスレイを気づかう、アリーシャの呼びかけを聞いたキツネ男の動きが、ほんの少しの間止まった。<br>　その隙を見逃さずにエドナは術でキツネ男を押さえつける。<br>「エアプレッシャー」<br>「ぐっ……」<br>　地面に伏すことを強いられたキツネ男に、追い打ちをかけようとミクリオが詠唱を始めたとき、急に辺りに霧が立ちこめてきた。<br>「ここまでだ。キツネ、退くぞ」<br>「ま、待ってくれ。俺はまだやれるっ……」<br>　いつ現れたのか、倒れたキツネ男の傍には黒い少女が立っていた。<br>　薄布の服も、ブーツも髪も黒いなかで、赤い花びらの髪飾りだけが彼女を彩っている。<br>　少女はうずくまるスレイと彼の仲間を一瞥すると、冷めた目でキツネ男を見下ろした。<br>「くっ……」<br>　屈辱の呻き声を残してキツネ男と黒い少女は、霧とともにスレイたちの前からかき消えた。<br>　霧が晴れるのを待たずに、アリーシャはスレイの傍にしゃがみこんだ。<br>「大丈夫か、スレイ。頭が痛むのか」<br>　天族二人がスレイに駆け寄り、姫騎士に続いてスレイに声をかける。<br>「どうした、スレイ」<br>「具合が悪いの」<br>　自分の周囲に集まった三人の仲間を、スレイは辛そうな表情で見上げた。<br>「うん、ありがとうみんな。少しよくなってきたよ」<br>「……え」<br>「スレイ……」<br>「もしかして、ワタシたちも見えるの」<br>　三人の反応をスレイはきょとんとした顔で眺めていたが、やがて意味がわかったのか、雲が晴れたような笑顔を見せた。<br>「ミクリオ、エドナ。見える、オレ二人が見えるよ」<br>　はじけるような笑顔で、スレイは勢いよく立ちあがった。<br>「……いてててて」<br>　だがすぐに頭を抱えて背中を丸めるスレイの顔を、アリーシャが心配そうに覗きこんだ。<br>「大丈夫か」<br>「しょうがない奴だな。少し落ち着いたらどうだい」<br>　呆れたように肩をすくめるミクリオに、スレイは歯を見せた。<br>「今まで助けてくれたんだろう。ありがとな」<br>　嬉しそうにミクリオに礼を言うスレイの頭を、後ろからエドナが傘でぽんっと叩いた。<br>「誰か忘れていないかしら」<br>　スレイは右手を頭に乗せて振り向いた。<br>「もちろんエドナも。みんなありがとう」<br>　スレイの口からお礼を聞いたエドナが、よろしいとばかりにうなづくと、スレイたちは声をあげて笑った。<br>「さあ、急いで清水を汲みにいこう。今の襲撃でかなりの時間を費やしてしまった」<br>「そうだな。急ごう」<br>「日暮れまでには着かなくちゃね」<br>　スレイは奇跡的に無事だったバスケットを拾うと、天族二人にうなづいてみせた。<br>「うん、わかった。行こうアリーシャ」<br>「ああ」<br>　スレイが差し出した右手に、アリーシャは嬉しそうな顔で左手を重ねた。<br>　そうして今度は四人そろって、泉を目指して歩き始めた。<br><br>　太陽が真上を少し過ぎた頃、スレイたちは泉へとつながる道の入り口にたどり着いた。<br>「あ、あった。ここを通ったんだよな」<br>　道があるのを隠すように茂った木や草をかき分け、スレイは登山道に入っていった。<br>「さっきまでとはまるで別人だね」<br>「そうね。はしゃいでいるわね」<br>　呆れた口調で嬉しそうな顔をして、二人の天族はスレイの後ろ姿を眺めた。<br>「そうですね。スレイもきっとお二人と同じ時間を共有できることが嬉しいんだと思いますよ」<br>　そういうアリーシャもスレイたちと再会してから初めて見るような清々しい顔をしている。<br>　ミクリオはしょうがないとばかりに息を吐いた。<br>「そうだねアリーシャ」<br>「おーい、なにしてんだよ、みんな。日が暮れちゃうよ」<br>　スレイが登山道から手を振っている姿を木々の間に見つけて、アリーシャとミクリオは手を振り返した。<br>「ああ、すぐ行くよ」<br>　木々の向こうで無邪気に手を振るスレイを眺めながら、エドナは肩に傘をかついで嘲るような顔で呟いた。<br>「単純よね」<br>「エドナ様は単純な者はお嫌いなのですか」<br>　心配そうに尋ねるアリーシャに、エドナは少し表情をやわらげて答えた。<br>「単純なあの子は嫌いじゃないわよ」<br>　アリーシャはエドナの口調の変化に気づいたのか、ほっと胸をなでおろした。<br>「さあ行こうか。スレイが痺れを切らして待っている」<br>　ミクリオに促されて、エドナとアリーシャは登山道に入った。<br>「やっときた。みんな早くっ」<br>　なかなか歩いてこない仲間たちをせっつきながら、スレイはどんどん鬱蒼とした登山道を進んでいく。<br>「スレイ、そんなに急ぐと前みたいに途中でバテるよ」<br>「へーき、へーき。心配性だな、ミクリオは」<br>「……誰のせいだと思っているんだ」<br>　草をかき分けて登山道を進む、親友の背中を眺めながらミクリオは溜め息をついた。<br>「お守り役も大変ね、ミボ」<br>「ぜんぜん成長しなくて参るよ」<br>「アナタもボウヤですものね」<br>「なっ……」<br>　くすくす笑うエドナと、絶句するミクリオに挟まれて、アリーシャはどうしていいかわからず、瞬きを繰り返しながら左右を交互に見ている。<br>「エドナ様、ミクリオ様はもく充分大人だと思いますが……」<br>「あら、アリーシャはスレイだけがまだ子供だと思っているのかしら」<br>「そ、それは……」<br>　可哀想なぐらいに狼狽えるアリーシャを、エドナが楽しそうに眺めているのを見かねて、ミクリオが口を挟んだ。<br>「アリーシャ、本気にしなくていいよ。エドナは君の反応を見て楽しんでいるんだから」<br>「……チッ」<br>「そこで、なんで舌打ちをするんだ」<br>「するわよ。せっかくかわいいアリーシャを堪能していたのに、ミボが邪魔をするんですもの」</span></div><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto;">　不服そうに呟くと、エドナは狭い山道で傘をさしてミクリオに背を向けた。</span></div>
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<link>https://ameblo.jp/tozfancy/entry-12319888375.html</link>
<pubDate>Sun, 15 Oct 2017 23:52:28 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア70</title>
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<![CDATA[ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　翌日は晴天で朝を迎えた。<br>「おはようスレイ。……待たせてしまっただろうか」<br>　申し訳なさそうにうつむくアリーシャに、スレイは笑って答えた。<br>「おはようアリーシャ。そんなことないよ……って、え」<br>　スレイは目をみはった。なんと、アリーシャはその華奢な体に不釣合いなほどの大きなバスケットを持っていたのだ。<br>「どうしたスレイ。なにかおかしいだろうか」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「いや、おかしいんじゃなくて……。どうしたの、そのバスケット」<br>「こ、これは……昨日言ったお弁当なんだが。シェフに言ったら張り切ってしまって、こんな量になってしまったんだ……」<br>　少し顔を赤くしてアリーシャは答えた。<br>　スレイが改めてまじまじと「お弁当」を眺めていると、誰かが彼の背中を小突いた。<br>「いたっ。なにするんだ、ミクリオ」<br>　スレイは思わず振り向いて文句を言ったが、そこには彼の親友はおろか、誰の姿もない。<br>　少し寂しそうな、悲しげな顔でスレイがアリーシャに向き直ると、今度は彼女の持っていたバスケットが宙に浮いてスレイの目の前にやってきた。<br>　慌ててスレイが両手を前に出すと、バスケットはすっぽりと彼の腕の中に収まった。<br>「え……」<br>　状況が飲み込めず、ぽかんと口を開けているスレイに、アリーシャは申し訳なさそうに告げた。<br>「あの……スレイ。ミクリオ様とエドナ様は、スレイがバスケットを持つべきだとおっしゃっているんだが……」<br>　バスケットを両手に抱えてアリーシャを通じてミクリオとエドナの主張を聞いたスレイは、納得したようにうなづいた。<br>「あ、そうか。それでミクリオにぶたれたんだな」<br>　スレイは左手にバスケットを持ち直すと、にっこりと笑った。<br>「さ、行こうかみんな」<br>　四人はアリーシャの屋敷を出て貴族街を抜け、聖堂前の広場へと通じる階段を下っていった。<br>「あっ、導師様だ」<br>　聖堂に向かっていた親子がスレイたちに気づいた。子供がぱたぱたと軽快な足音を立ててスレイに近づいてくる。<br>「おはよう導師様。都に来てるんだ」<br>　子供はきらきらと輝く瞳でスレイを見上げた。<br>「おはよう。ちょっとアリーシャに用があったんだ」<br>　スレイが口元に笑みを浮かべて答えると、子供は嬉しそうに笑った。<br>「そうなんだ。導師様ゆっくりしていってね」<br>　そう言うとまだ幼いその子は、スレイたちに手を振って母親の方へ走っていった。スレイと目が合うと母親は会釈をしてきたので、スレイも軽く頭を下げた。<br>「ねえアリーシャ、忘れ物をしちゃったから、ちょっと引き返してもいいかな」<br>　親子の背中を見送りながら尋ねるスレイに、アリーシャは応じた。<br>「ああ、わかった。一度屋敷に戻ろう」<br>　そうしてスレイたちは来た道を戻ってもう一度アリーシャの屋敷に入った。<br>「ありがとうアリーシャ。みんなちょっと待ってて」<br>　スレイはそう言うと、おもむろにマントを脱ぎ始めた。<br>「え、スレイ。どうしたんだ」<br>　ミクリオが突然のスレイの行動に驚きの声をあげると、それをスレイに伝えるためにアリーシャが尋ねた。<br>「一体どうしたんだ、スレイ。ミクリオ様も驚いておられるよ」<br>「驚かせてごめん。アリーシャにお願いがあるんだ」<br>「どうした改まって……」<br>「これを……」<br>　スレイが差し出したマントを見て、アリーシャの顔色が波が引くようにさあっと色を失った。<br>「それは……。まさかスレイは導師をやめてしまうのか」<br>「え……どうして」<br>　なんのことかわからないと言う顔でスレイが返すと、アリーシャは震える手を胸の前で握って続けた。<br>「だってそうだろう。そのマントを私に返すということは……」<br>「ち、違うよアリーシャ。これは預かってほしいんだ」<br>「……」<br>「アリーシャ」<br>「え」<br>　惚けたような顔のアリーシャに、スレイは続けて告げた。<br>「今のオレは導師どころか天族を見ることも話すこともできない。そんなオレがこのマントを着ているべきじゃないと思うんだ。だからこれはアリーシャが預かっててほしいんだ」<br>「スレイ……」<br>「このままじゃオレ、みんなを騙してるみたいで苦しいんだ」<br>「……そうか。わかったよスレイ。このマントは私が預かる。ただしスレイがまた導師になるときまでだが」<br>「オレ、また導師になれるかな……」<br>　少し不安そうにマントを見つめるスレイに、アリーシャは力強くうなづいてみせた。<br>「私はそう思っている。そしてそれは、ミクリオ様やエドナ様も同じだと私は信じている」<br>　アリーシャはマントを握るスレイの拳を包むように手を添えた。<br>「それに導師でなくとも、スレイはスレイだ」<br>「うん、ありがとうアリーシャ」<br>　アリーシャのその言葉に安心したように笑顔を見せると、スレイはマントをアリーシャに手渡した。<br>「確かに預かった。少し待っていてくれ」<br>　アリーシャはメイドを呼ぶと、スレイのマントを手渡した。<br>「大事な預かり物だ。丁寧に保管してくれ」<br>「承知しました、姫様」<br>　メイドは一礼すると、マントを両手で抱えて屋敷の奥へと消えていった。<br>「さあ、行こうかスレイ。ミクリオ様とエドナ様も」<br>「ああ行こう」<br>「そうね」<br>　スレイはミクリオとエドナの返事をするを聞いたように誰もいない壁を見つめた。<br>「……そっちじゃないんだけどな」<br>「仕方ないわよ。きっとそっちの壁にこだましたんでしょ」<br>「……なんかよくないことを言われてる気がする」<br>　天族二人の声が聞こえないはずのスレイが口を尖らせると、エドナが薄ら笑いを口元に浮かべた。<br>「あら、いい勘してるじゃない」<br>　そんなエドナの言葉を聞いたアリーシャは、ただ苦笑するばかりだった。<br><br>　再びアリーシャの屋敷を出て貴族街を歩いていたスレイは、ふと自分たちの後ろをついてくる人影に気づいた。<br>「アリーシャ、あれ……」<br>「ああすまない。彼らは私が屋敷を出ると後についてくるんだ」<br>「え、どうして」<br>「平たく言えば監視だな。本来は屋敷から出ることは赦されていないのだが、聖堂からの口添えもあって、清水を汲みに行くことだけは特別に許可されたのだ。見張りがつくことを条件にな」<br>「それがあの兵隊なのか……」<br>　スレイは改めて横目で見張りの兵士たちを見た。<br>「アリーシャ、前に王宮に行ったときみたいに、ひどい目に合わされてないの」<br>「それは大丈夫だ。バルトロも再び民に暴動を起こされるのはさすがに困るらしく、おかしなことはさせないようにしているらしい」<br>「へえ、レディレイクのみんなはすごいんだね」<br>スレイが感心したように言うと、アリーシャは少し困ったような顔をした。<br>「民を守るべきなのは私なのに、これでは立場が逆だ……」<br>「それだけ街のみんなはアリーシャのことが好きなんだよ」<br>　そのスレイの言葉と笑顔に、アリーシャは耳まで真っ赤になってうつむいた。<br>　それからスレイたちは貴族街の扉をくぐり、階段を下りて聖堂前の広場に出た。<br>「広場にはさっきの親子の姿はもうなく、彼らの向かっていた聖堂がスレイたちの左手奥に佇んでいる。<br>　スレイがあの聖堂で聖剣を抜いたのはついこの間のことだ。<br>　そんな感傷に浸っているように見えたのか、アリーシャがそっと声をかけた。<br>「どうした、スレイ」<br>「ううん、なんでもないよ」<br>「聖堂に少し寄って行こうか」<br>　気を使って尋ねてくるアリーシャに、スレイは首を横に振ってみせた。<br>「いや、いいよ。先に清水を汲みに行こう。ウーノさんも待ってるかもしれないし」<br>「そうだな。では行こうか」<br>アリーシャはそれ以上はなにも言わず、スレイに続いて階段を下りていった。<br>「やっぱり気にしてるのね」<br>「そうだね。結構平気そうにしてると思ったんだけど、僕らが思っているより、実は危うい状態なのかもしれないな」<br>　マントを脱いだ今、見た目もただの田舎の若者と、従士でなくなっている姫騎士の背中を眺めながら、ミクリオは答えた。<br>「大丈夫かしらね、あの子」<br>「どうだろうね。こればっかりは本人にもわからないだろうさ」<br>　ミクリオが肩をすくめると、エドナは溜め息をついた。<br>「そうね」<br>　天族二人は人間たちに続いて広場から下る階段を降りていった。<br>　階段の下には商店や宿屋の並ぶ通りがあり、そこを抜けるとレディレイクと湖の岸をつなぐ橋が架かっている。<br>「アリーシャ姫、行ってらっしゃいませ。道中お気をつけて」<br>「ありがとう。行ってくるよ」<br>　アリーシャと挨拶を交わすと、衛兵はスレイも一緒に通した。<br>　当然のように見送る衛兵を、ミクリオは意外そうに見た。<br>「なにも言われないんだな」<br>「今朝早くに同行者がいることを伝えてあるからな。聖堂の関係者ということになっている」<br>「関係者か。間違いはないかもな」<br>　ミクリオがくっくっと喉を鳴らして笑うと、スレイが目を丸くした。<br>「そうなんだ、知らなかった」<br>「ホント、甘ちゃんよね」<br>　スレイのあまりの世間知らずぶりに、エドナは呆れ顔で呟いた。<br>　そのぼやきを聞いたアリーシャが苦笑いするのを見て、スレイが尋ねる。<br>「どうしたの、アリーシャ」<br>「なんでもないよ。さあ行こうか」<br>　アリーシャに促されて、スレイたちはなだらかな山道を登り始めた。<br>　湖上の都を背に山道を進むと、やがて前に通ったときに見た廃村がスレイたちの視界に現れたが、誰一人そのことには触れず、崩れかけた建物の群れを後にした。<br>　山道を登りきって拓けた高地に出ると、スレイが大きく息を吸った。<br>「いい天気だな。空気も澄んでて気持ちいいや」<br>「そうだな。泉まで行ったら、もっと清々しい気分になるぞ」<br>「確かにあの泉のある山の上は穢れもほとんど感じなかくて、僕たちも居心地がよかったね」<br>「あら、そんな場所があるの」<br>「はい、エドナ様。まるで地上から切り離されたような場所です」</span></div><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「ただちょっと変わった人がいるけどね」<br>「ふふ……そうですね、ミクリオ様」<br>「ね、ミクリオたちとなんの話してるの、アリーシャ」<br>「泉の番をしているあの方の話だよ、スレイ」<br>「あああの……。相変わらずなのかな」<br>「そうだな。スレイのことを気にかけていたよ」<br>「え……」<br>　スレイが少し困ったような表情を見せると、アリーシャは微笑みながら答えた。<br>「心配しなくとも、サフィール殿は人間だから見えないということはないよ」<br>「あ、そうだっけ」<br>スレイは右手で頭を掻いたが、その顔は心なしか赤かった。</span>
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<pubDate>Mon, 09 Oct 2017 23:32:14 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア69</title>
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<![CDATA[ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　配膳台の上に並べられた木の皿からは白い湯気が食欲をそそる匂いを乗せて宙を漂っている。<br>　ライラはその白い誘惑に引き寄せられるようにそっと顔を近づけた。<br>「こんなにたくさんあるんですもの。少しぐらいいただいてもわかりませんわ」<br>　そう呟くとライラは配膳台の中央に置かれたバスケットに山盛りになっているパンをひとつ手に取ると、一口大にちぎって手近なところに置かれた木の皿に放り込んだ。<br>　ライラは皿の中のシチューに浸っていくパンを嬉しそうに眺めると、傍に置かれたスプーンを手に取った。<br>「お行儀が悪いんですけど、こういうのが一番美味しいんですわ」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　右手を口元にあててくすくすと笑うと、ライラはスプーンをシチューの中に沈め、パンごとすくいあげて口に運んだ。<br>「ふ……うっ。あふっ……ん……」<br>　熱々の液体をなんとか喉の奥に流し込むと、ライラはまたパンを一片シチューの中に落とした。<br>「うふふふふ。どんなに冷たい目で見られようとも、これだけはやめられませんわ」<br>　ライラは幸せそうに笑うと、ほどよくシチューに浸ったパンをすくいあげ、口の中に収めた。<br>「ねえ、今日の夕飯はなに」<br>「聞いて驚け、シチューだ」<br>「うっは、ご馳走じゃん」<br>　夢中になってシチューを食べ続けているライラの耳に、風の骨のメンバーの声が飛び込んできた。<br>「え、もう戻ってきたんですの」<br>　幸せな時間から強引に現実に現実に連れ戻されたライラは、狼狽えながらも周囲を見回すと、配膳台に横づけされた小さなテーブルの上に鍋が置かれているのを発見した。<br>　少し安堵した表情になったライラはスプーンを置き、鍋に近づいて蓋を取って中を覗き込んだ瞬間に声をあげた。<br>「え、うそ……」<br>　鍋の中に視線を落としたまま、ライラの顔はみるみる血の気が引いていった。<br>「空っぽだなんて、そんな……」<br>　茫然と彼女が立ち尽くしている間にも、風の骨のメンバーの声は少しずつ大きくなっていく。<br>「仕方ありませんわ」<br>　覚悟を決めたようにライラは呟くと、鍋の蓋を元に戻して壁際に立った。<br>　ライラがテーブルから離れると同時に、黒ずくめの暗殺者たちが次々に厨房に入ってきた。<br>「おっ、こりゃ旨そうだ」<br>「腕によりをかけて作ったからね。旨すぎてひっくり返るぜ」<br>「すごい自信」<br>「それは楽しみだな……あれ」<br>「え……」<br>　それきり黙ってしまった仲間の様子を不審に思った食事係が彼らを押しのけて厨房に入った。<br>「なんだ、これは……」<br>「どうしたの」<br>「頭領、それが……」<br>「誰かがシチューを食べたみたいなんだ……」<br>「えっ、どうやって」<br>　声をあげるロゼに食事係は首を横に振って答えた。<br>「俺にだってわからないよ。ここには俺たち風の骨以外誰もいないし、皆一緒に来たからこの中に盗み食いなんてできる奴はいるはずがないのに」<br>「じゃあ、一体誰がこんな……」<br>　黒ずくめの暗殺者たちは皆一様に黙り込んだ。<br>　仲間は犯人じゃない。しかも外部の者はまず入ってくることはない。それなのに……<br>「……ねえ、ちょっと思い当たるフシがあるんだけど」<br>「フィル、犯人を知っているのか」<br>「ううん、知ってるってほどじゃないんだけどさ、もしかしたらってね」<br>「もしかしたらって、フィル。まさかあの……」<br>「しーーっ。頭領はなにも言わないで。とにかくこの件はあたしに預けてくれないかな」<br>　なにか言いかけたロゼを口止めして、フィルが仲間たちに尋ねた。<br>「うーん、まあ見当もつかないし、任せてもいいんじゃない」<br>「そうだね、任せるか」<br>「頼んだよ、フィル」<br>　口々に仲間たちがそう言うと、フィルはうなづいた。<br>「あっ、でも間違ってたらゴメンね」<br>　フィルが肩をすくめて舌を出すと、仲間のうちの一人が笑った。<br>「そんなときは頭領がなんとかしてくれるさ。な、頭領」<br>「あ、ああそうさ。任せときな」<br>　急に話を振られたロゼは狼狽えながらも、なんとか体裁を取り繕うために、右の拳で胸を叩いた。<br>　その仕草を見た風の骨のメンバーは、頼もしそうな顔でうなづいた。<br>「頭領に任せとけば安心だな」<br>「間違いない」<br>　ロゼを信頼しきっている彼らは、その一言だけでこの件が解決したような顔で声をあげて笑った。<br>「それじゃ晩ご飯食べようか」<br>「待ってましたっ」<br>「もう、頭領ったら」<br>「だってお腹へったんだもん」<br>　悪びれもせずにロゼが胸を張ると、仲間の一人がおずおずと尋ねた。<br>「でも……さ、どうするの。一人分足りないけど」<br>「えっ……それは……」<br>　ロゼが返事を考えながら視線を巡らせると、双子の少年の方と目が合った。<br>「あ……」<br>「頭領、今度はダメだからね」<br>　トルと呼ばれる少年に釘をさされて、ロゼは舌を出した。<br>「あ、バレたか」<br>「当たり前でしょ」<br>「へへ……ゴメン」<br>「ても、それじゃ誰が……」<br>「大丈夫。ちゃんとお代わり用に取っといたのがあるから、それをよそうよ」<br>　食事係の少年がそう言うと、ロゼが不服そうな顔で口を挟んだ。<br>「え、それじゃお代わりは……」<br>「頭領っ」<br>　双子に異口同音でたしなめられ、ロゼは首をすくめた。<br>「まあまあ。頭領のお代わりぶんぐらいならあるから、そんなに気を落とさないで」<br>「ホントに、ハージェス」<br>　ロゼが目を輝かせるのを見て、食事係のハージェスは苦笑した。<br>「ホントだよ。……大食らいの頭領を持つと大変だな」<br>「成長期って言ってよね」<br>　ロゼが胸を張るのを見て、仲間たちはくすくすと笑った。<br>「ま、いいんだけどね。じゃあ晩ご飯にしようか。みんなそれぞれ自分の皿をテーブルに運んでくれるかい」<br>「はーい」<br>「ほいよっ」<br>「待ってました」<br>　元気よく返事をすると、彼らはいそいそとシチューの盛られた皿とスプーンを持って食卓に向かった。<br><br>「はー、美味しかった」<br>「仲間と食べる旨い飯、最高だな」<br>　風の骨のメンバーがテーブルを囲んでそれぞれ満足げにくつろいでいるなかで、ロゼは両手でお腹をさすって椅子の背にもたれた。<br>「はー、満腹、満腹。……ゲーーップゥ」<br>　恥じらいなど微塵も感じられないその言動を見て、その場にいる全員がなんとも言えない顔になった。<br>「ちょっと……頭領それは……」<br>「さすがに女捨てすぎだと思うけど……」<br>「あははっ。気にしない、気にしない。小さいことにいちいちこだわってちゃダメだって」<br>　大口をあけて笑うロゼに、仲間たちは愛想笑いをしてみせるのだった。<br>「それはそうとさ。エギーユたちはどうだった」<br>「エギーユたちは皆無事だったよ。ただ、頭領たちのこと心配してたから、早くあっちに合流しないとね」<br>「あたしのことはどう言ってあるの」<br>「一応戦場ではぐれて、今探してるってことにしてるんだけど」<br>「ま、そうするしかないだろうね、わかった」<br>　ロゼが右手をあげると、トルは念を押した。<br>「ちゃんと覚えといてよ。頭領、結構ヌケてるから」<br>「あ、ひっどーい。あたしのこと信用してないな」<br>「いやいや。日頃の行いのせいだから」<br>「むうーー」<br>　真顔でそう告げられ、ロゼは返す言葉もなく、無言で頬を膨らませた。<br>「冗談抜きで言うが、この頃エギーユに俺たちの行動を怪しまれている気がする。全員気を抜かないように、注意して行動してくれ」<br>　ロクスが年長者らしく仲間たちに注意を促すと、ロゼは頭の後ろで両手を組んだ。<br>「まあ、大丈夫でしょ。なんとかなるって」<br>「実際なんとかなってきたしね」<br>「違いない」<br>「それもそうだ」<br>　　ロゼの呑気な言葉に、風の骨の仲間たちは互いにうなづいて笑いあった。<br>「それじゃ、明日は早いし各自出発の準備を整えたら、今日はさっさと寝るんだぞ」<br>「はーい」<br>　風の骨のメンバーは立ちあがると、各々の食器を持って厨房に向かった。<br>厨房には首をすくめてうつむいているライラと、騒ぎを聞いて駆けつけたデゼルが並んで立っていた。<br>「まったく、てめぇはバカか」<br>「すみません……。つい歯止めがきかなくなって……」<br>「そのうちに正体を暴かれるぞ。ったく」<br>「そんなこと……。ありえませんわ」<br>「あいつらはそのつもりだ」<br>「まさか……冗談でしょう」<br>　ライラが顔をあげると、デゼルはとても冗談とは言えない表情で彼女に告げた。<br>「この世に絶対というものはない。あいつらはやると言ったら、必ず実行するぞ」<br>「まさか……」<br>　ライラが両手で口を押さえると、デゼルはライラに背を向けた。<br>「覚悟しておくんだな」<br>　そう言い残して厨房を出ていくデゼルの背中を見送りながら、ライラは呟いた。<br>「いったい、どうすると言うんですの。天族を捕まえるなんて……」<br>　そんな絵空事など、実現できるはずがない。霊応力のない人間が天族の存在を感知するには導師の力を借りる必要がある。<br>　いくらロゼが導師になれるほどの霊応力を持っているといっても、使うことができなければ、仲間はおろか自分が天族を見ることすら叶わない。<br>　だがデゼルはそれすら可能にする力が風の骨にはあると言う。<br>　どのような方法でそれを可能にするのかは彼らにもわからないようだが。<br>「ありえませんわ、そんなこと……」<br>　食事の後片付けをしながら談笑する風の骨のメンバーを見て、ライラはデゼルの言葉を追い払うように首を左右に振った。</span></div>
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<link>https://ameblo.jp/tozfancy/entry-12314039608.html</link>
<pubDate>Tue, 26 Sep 2017 05:24:44 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア68</title>
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<![CDATA[ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「で、頭領。犯人はわかりそうなの」<br>「え」<br>　長い沈黙を破って発せられた問いに、不意をつかれたようにロゼが顔を上げると、期待するような顔の仲間たちが頭領を見ていた。<br>「いや＂え＂じゃなくてね。頭領はいったい何を考えてたのさ」<br>「もちろんこのマーボーカレーまんをどうやって分けるといいか考えてたんだよ。決まってるじゃん」<br>「ええ……」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　腰に両手をあてて当然のようにのたまうロゼを見て、風の骨の仲間たちはがっくりと肩を落とした。<br>　その空気からなにかを察したのか、ロゼが声をあげた。<br>「と……とにかく考え込んでたら日が暮れちゃうから、もうおやつ食べちゃお。それからゆっくりと犯人探しに決まりってことで」<br>　言い終わるとロゼは右手でマーボーカレーまんを掴むと、大きな口を開けてかぶりついた。<br>「ああっ、頭領つ……」<br>「食べちゃったよ……」<br>「どうやって残りを分けるんだよ」<br>ロゼがひとつ食べなかったところで状況は変わらないのだが、ついつい風の骨のメンバーの口から愚痴がこぼれ出てしまう。<br>　そんな彼らを別の一人が悟ったような表情でなだめた。<br>「しょうがないよ。頭領はマーボーカレーまんには目がないんだから」<br>「違いない」<br>　その言葉に仲間たちがうなづいて笑うと、ロゼは不服そうに口を尖らせた。<br>「ヒドいなあ、もう」<br>「それ頭領の言うことじゃないよ」<br>「ぶーー」<br>　ロゼが頬を膨らませると、違うメンバーが当面の問題を口にした。<br>「でさ、これどうやって分けるの」<br>「それなら」<br>　ロゼはぽんっと手を打つと、もうひとつマーボーカレーまんを手に取ってね二つに割り、フィルと同じ顔をした少年をそれぞれ見た。<br>「フィル、トル。あんたたち双子なんだし、二人で一人ってことでよろしく」<br>　ロゼは双子にそれぞれ半分のマーボーカレーまんを手渡した。<br>「ええーーっ」<br>　双子はまったく同じ表情で声をハモらせて不平を訴えたが、もはや彼らの味方はこの場には存在しなかった。<br>「はは、そりゃいい。お前たち引越しの準備もやってないし、それでいいよな」<br>「ち、ちょっと待って。それは頭領にエギーユたちのところに行くように言われたからじゃん」<br>「そうだよ。あたしたちだけ働いてないみたいな言い方はおかしいよ」<br>　口々に双子に文句を言われたが、ロゼは視線を上にそらしてとぼけた。<br>「あれぇ、そうだっけ」<br>「そうだよっ」<br>「まあまあ。次は代わるから。今回は涙を呑んで引き受けてくれ」<br>　抗議する双子とロゼの間に、彼らの中では年長の男が割って入ると、二人は不承不承うなづいた。<br>「頭領、ちゃんと犯人見つけてよ」<br>　異口同音でそう言うと、双子は半分しかないマーボーカレーまんをかじった。<br>「わかってるって」<br>　ロゼは双子に片目を瞑ってみせた。<br>「それでどう、スティング。そろそろここを出られそうかな」<br>「ああ。今日中には準備は整うだろう」<br>　スティングと呼ばれた年長の男が答えると、ロゼは満足そうにうなづいた。<br>「了解。じゃあ出発は明日の早朝で。いいね、みんな」<br>「ああ」<br>「オッケー」<br>「いいんじゃない」<br>「わかった」<br>　仲間たちは頭領の決定に口々に賛同すると、マーボーカレーまんを食べ終えた者からそれぞれの持ち場に散った。<br>「さて、あたしもちょっと行ってくるか」<br>　そう呟いてアジトの奥に向かって行ったロゼの後をライラとデゼルはついて行った。<br><br>　ロゼはアジトの奥の突き当たりに立つと、そこにある大きな仕掛け扉を見上げた。<br>「結局この向こうに何があるからわからずじまいか」<br>　頭の後ろで両手を組んで半円の仕掛け扉を見上げるロゼの背中を眺めつつ、ライラがデゼルに尋ねた。<br>「あれはなんですの」<br>「扉らしい。あいつらの話ではな」<br>「らしい。ということは、デゼルさんもご存知ないんですのね」<br>「知る必要がない。俺も、あいつらも」<br>「そうおっしゃるんですのね」<br>「なにが言いたい」<br>　ライラはいぶかるような表情で問うデゼルを、少し寂しそうな顔で振り返った。<br>「いいえ。ただこういう無駄を楽しむという気持ちがないのかと思っただけですわ」<br>「あのガキ共か……。こっちは世間知らずじゃねぇからな」<br>「そうでしたわね」<br>　少し残念そうな顔でうなづいたライラにデゼルが問うた。<br>「えらくご執心だな。あの向こうに何があるのか、知ってるんじゃねぇのか」<br>「えっ、そ、そんなこと……」<br>「知ってるんだな。あの向こうに何がある」<br>「それは……私も行ったことは……」<br>　ライラは狼狽えながらもはぐらかそうとしたが、デゼルに睨まれて観念したように溜め息をついて白状した。<br>「あの奥には……導師にまつわる遺跡があると聞きましたわ」<br>「チッ……。くだらねぇ」<br>　デゼルに舌打ちされ、ライラはがっくりと肩を落とした。<br>「誰、そこにいるの」<br>　彼らの前で扉を見上げていたロゼが、突然振り向いた。<br>　反射的に身構えるデゼルとは対照的に、ライラは大輪の花が咲いたような笑顔をロゼに向けた。<br>　しかし彼ら天族のそれは勘違いだったようで、ロゼの視線は二人の向こうを捉えていた。<br>「よお、俺だよ。仲間にそれはないだろう」<br>「あ……あれ、ジャミル。あんただったの」<br>「誰だと思ったんだよ」<br>「え、えーーと。あの……」<br>　ロゼはジャミルから目をそらしてあらぬ方向を見た。<br>「なんか違う気配のヤツがいると思ったんだけどなあ……」<br>「違う気配のヤツって、俺たちの他に誰かいるのかよ」<br>　ジャミルは両手を腰にあてて溜め息をついたが、すぐになにか思いついたらしく、右手でロゼを指差した。<br>「あ、頭領あれだろ」<br>「な、なにさ……」<br>　戸惑うロゼにいたずらっぽい笑顔で、ジャミルはその名を口にした。<br>「オ、バ、ケ」<br>　その単語を聞くや否や、ロゼはジャミルを突き飛ばした。<br>「オバケなんかいないっ」<br>　ジャミルはよろよろと二、三歩後ずさってなんとか踏みとどまった。<br>「でも見えてたよな」<br>「しらない、しらないっ。恥ずかしいから言うなっ」<br>「顔を真っ赤にして握りしめた拳を振り回すロゼに、見かねたライラが声をかける。<br>「は、恥ずかしいことなんてありませんわ、ロゼさん」<br>「あいつには聞こえねえ。いい加減に学習しろ」<br>「……」<br>　デゼルにたしなめられたライラは、頬を赤く染めて口を尖らせた。<br>　天族二人の前で、ロゼは首を左右に振ると歩き始めた。<br>「あ、おい。どこに行くんだ」<br>「やっぱりあの扉の向こうに行くのはムリっぽいから、みんなの所に戻るわ」<br>　そう言ってロゼはジャミルの脇をすり抜けると、ひらひらと右手を振った。<br>　ジャミルはそんなロゼを見送ると、肩をすくめて彼女の後を追った。<br>「ほら、わかっただろう。そう簡単にあいつに俺たちは見えるようにならねぇよ」<br>「オバケ……とおっしゃいましたわね」<br>　ライラはデゼルの言葉を遮った。<br>「それがどうした」<br>「ロゼさんはオバケを見たくないようですわね」<br>「だからなんだ」<br>「オバケとはもしかすると天族のことを指すのではありませんの」<br>「……なにが言いたい」<br>　デゼルの声に怒気が混じったが、ライラは構わずに続けた。<br>「デゼルさん。なにか知っているんじゃありませんか」<br>「てめぇには関係ねぇ」<br>　怒りをそのまま吐き捨てると、デゼルはライラから顔をそむけた。<br>　ライラは露骨にオバケの話を避けようとするデゼルをじっと見つめたが、やがて諦めたように溜め息をついた。<br>「……まあ、いいですわ」<br>　そしてライラはデゼルに見切りをつけると、扉に背を向けて歩き始めた。<br>「おい、どこに行きやがる」<br>「デゼルさんには教えません」<br>　やや子供っぽい返しをして、そのまま歩いていくライラの行き先に見当がついたデゼルは声を荒げた。<br>「……おい、待て。てめぇまたやらかす気か」<br>　ライラは雷に撃たれたように、肩を震わせて足を止めた。<br>「な……なんのことですの」<br>　振り向かずにとぼけるライラに、デゼルは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをした。<br>「チッ……。しらばっくれるんじゃねぇ。また盗み食いをするつもりだろうが」<br>「盗み食いだなんて……人聞きが悪いですわ」<br>　ライラの声がうわずっている。明らかに図星だったようだ。<br>　デゼルは左手で帽子を押さえて首を横に振った。<br>「本当のことだろうが。現にてめぇの足は、厨房に向いているじゃねぇか」<br>「これはっ……」<br>　思わず振り向いたライラに、デゼルは釘をさすように言った。<br>「あいつらを甘く見るなよ」<br>「どういうことですの」<br>「ああ見えてあいつらはプロだ」<br>「でもデゼルさんも私も見えていませんわ。いくらその道に精通していても、見えなければどうしようもないと思いますけど……」<br>「……勝手にしろっ」<br>　吐き捨てるように言うと、デゼルはそっぽを向いて黙り込んだ。<br>　ライラは肩をすくめると、再び厨房に歩を進めた。<br>　大広間を横切り、美味しそうな匂いに引っ張られるように、ライラは厨房に近づくと中を覗き込んだ。<br>　厨房では黒ずくめの男が一人で忙しそうに動き回っているのが見える。彼は人数分の木の皿を抱えると、配膳台の上に並べた。<br>「ちょっと熱すぎるかな。やっぱり先によそって少し冷まそうか」<br>　そう言うと男は調理台から大きな鍋を持ってきて配膳台に置くと、鍋からおたまで中のシチューをすくい上げて木の皿によそっていった。<br>　木の皿から次々に立ち昇る湯気に混じった匂いに唾液腺を刺激され、ライラは思わず唾を飲み込んだ。<br>「よし、準備もできたし、みんなを呼びに行くか」<br>　男は両手を腰にあてて満足そうにうなづくと、厨房を出て仲間の元へ向かった。<br>　ライラは男の背中を見送ると、舌なめずりをして厨房に入った。</span><br style="-webkit-tap-highlight-color: transparent;"></div>
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<link>https://ameblo.jp/tozfancy/entry-12311988863.html</link>
<pubDate>Mon, 18 Sep 2017 23:54:45 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア67</title>
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<![CDATA[ <div class="lineM space6" style="margin-top: 0px; margin-right: 0px; margin-left: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline; margin-bottom: 6px !important; line-height: 1.4 !important;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">「あ……」<br>「今の聞こえたか、スレイ」<br>「うん。エドナかミクリオだ」<br>　二人は互いの顔を見合わせてくすくすと笑った。<br>「スレイにはエドナ様やミクリオ様がいらっしゃるから、私のように聖堂に赴かなくとも構わないな」<br>「うん、そうだな。……よしっ」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　スレイが思い立ったように両手を膝の上に置いて目を瞑ると、アリーシャが慌てて制止した。<br>「ま、待てスレイ。焦らなくともまずはアフタヌーンティーをいただかないか。せっかくシェフがスコーンを焼いてくれたのだから……」<br>「あ、そうだな。忘れてた」<br>　スレイはぱっと目を見開くと、右手で頭を掻いた。<br>　アリーシャはそんなスレイににっこりと笑いかけると、スコーンを手に取って二つに割り、片方にたっぷりのクリームとジャムを塗ってスレイに手渡した。<br>「アリーシャ、それワタシにもちょうだい」<br>「はい、エドナ様」<br>　アリーシャはエドナの注文にこぼれんばかりの笑顔で応じると、クリームとジャムをたっぷりと塗ったスコーンを皿に乗せて差しだした。<br>　エドナは皿からスコーンを取り一口かじると、エドナの表情がみるみる変わっていった。<br>「……んっ。なかなか美味しいじゃないの」<br>　スコーンを頬張ったエドナが味の感想を述べると、アリーシャは嬉しそうにうなづいた。<br>「ミクリオ様もいかがですか」<br>「うん、僕ももらおうかな」<br>「はい、わかりました」<br>　アリーシャはもうひとつのスコーンを割ってクリームとジャムをふんだんに盛ってから皿に乗せて差し出した。<br>「ミボにはもったいないわね」<br>「エドナ様に気に入っていただけたようで嬉しいです」<br>　尻尾があればちぎれんばかりに振っていそうなアリーシャの表情を眺めて、エドナはふっと息を吐いた。<br>「……アナタってホントに変わっているわよね」<br>「スレイ、エドナ様はこのスコーンをどうやらお気に召されたようだ」<br>「ばっ……」<br>　満面の笑みで報告するアリーシャに、エドナは狼狽えた声をあげた。<br>「そうなんだ。オレも大好きだよ」<br>　エドナはスレイのその一言で顔を真っ赤に染めあげた。そんな少女の変化に気づくこともなく、スレイは続けた。<br>「多分ミクリオもね」<br>「知った風な口をきくもんだな」<br>　ミクリオが肩をすくめて首を振った。それを聞いて笑うアリーシャにスレイが尋ねた。<br>「ミクリオ、なんて言ってる」<br>「知った風な口をきく……とおっしゃっているよ」<br>「はは……ミクリオらしいや」<br>　スレイが笑うと、アリーシャが思いついたように提案してきた。<br>「スレイ、明日一緒に清水を汲みに行かないか」<br>　突然のアリーシャの申し出に目を丸くするスレイを見て、アリーシャは不安そうに首を傾けた。<br>「いい気分転換になると思うのだが、ダメだろうか……」<br>「そっか、気分転換か。うん、行こう」<br>「ではお弁当を四人前用意するようにことづけておくよ」<br>「え……四人……」<br>　怪訝そうな顔をするスレイから視線をそらし、一客だけ手つかずで残っている紅茶を眺めると、アリーシャは辛そうに眉を寄せた。<br>「ライラ様は……残念ながらいらっしゃらないようだ」<br>　スレイはアリーシャの視線を追うと口をつぐんだ。<br>「スレイ、気を落とさないで……」<br>「大丈夫だよ。そんな気はしてたんだ。ありがとう、アリーシャ」<br>　瞳から今にもこぼれ落ちそうなほどの涙をためて見つめるアリーシャに、スレイは微笑んでみせた。<br>　そんな二人のやりとりを眺めていたエドナは、紅茶を口に運ぶとじっとカップに映る自分の瞳を見つめた。<br>「今度ライラに会ったら、しっかりと 問い詰めないとね」<br><br><br>　森の中で赤茶色の髪の少女が岩に腰かけて空を見上げている。<br>　木の枝の間から覗く青空を眺めていた彼女は、両腕を宙に突きあげて大きなあくびをした。<br>「ふわ〜〜あ」<br>「頭領見つけた。こんなところでお昼寝なんてうらやましいな〜〜」<br>　頭領と呼ばれて彼女は声の主を見あげた。そこには彼女と同じ黒い服を身にまとい、年も近そうな少女が立っている。<br>　彼女らは共に暗殺ギルド風の骨のメンバーであり、その頭領の名はロゼという。<br>「なんだ、フィルかぁ、ご苦労さん。このごろ夢見が悪くってねーー」<br>　両目に涙をためて眠そうにしているロゼに、フィルと呼ばれた少女は驚きの声をあげた。<br>「ええっ、そうなの。頭領いっつも気持ちよさそうに寝てるように見えるけど」<br>「ところがどっこい、実はあたしは寝不足なんだ」<br>　なぜか胸を張るロゼをフィルは呆れた顔で眺めた。<br>「よく言うよ。頭領いつもイビキかいて寝てるじゃん」<br>「うるっさーーいっ。でちゃうんだもん、しょうがないでしょ」<br>「しょうがないなあ、もう。で、頭領が眠れない原因になってる夢ってどんななの」<br>「うーん。悪い夢ってワケじゃないんだけどさ。このごろ同じ夢ばっかり見ちゃってさ、気味が悪いっていうか……」<br>　頭を掻きむしるように、わしゃわしゃと右手を動かしながらロゼが続ける。<br>「毎日知らない美女があたしを呼ぶんだよ。ただそれだけなんだけど、気になってしょうがない」<br>「ふーん」<br>　フィルは顎に右手をあてて考える仕草をした。<br>「その美女ってどんな姿をしてるの」<br>「へ、そんなこと聞いてどうすんの」<br>「参考までに」<br>　目を丸くするロゼに、フィルは口角を少し上げて答えた。ロゼは「しょうがないなあ」と前置きして話し始めた。<br>「白いドレスに上着は赤……かな。それに髪は白で毛先にいくほど赤っぽかった」<br>　ロゼの答えを聞いたフィルは唸り声をあげて眉間にしわを寄せた。<br>「……それもしかして天族なんじゃないの」<br>「え、なんでそう思うのさ」<br>「なんとなく。伝承の天族の姿に似てると思うんだけど」<br>「つか……天族なんてホントにいるの」<br>「さあ、よく知らないけど」<br>「ふーん」<br>　ぺろっと舌を出すフィルにロゼは興味なさそうに相槌を打った。<br>その態度を見て少しムッとした声でフィルが言う。<br>「ふーんって、もし天族なら、あたしたちを守ってくれてるかもしれないんだよ」<br>「どうして」<br>「あたしたち、あれ以来何もかもうまくいきすぎてる気がするんだもの。ううん、あの事件の前もうまく行ってたし」<br>「それで」<br>「これはもう天族のおかげだと思うんだ。だから……」<br>　真剣な顔で言いつのるフィルを見ていたロゼは溜め息をひとつついた。<br>「はいはい、わかりました。それじゃあ後で天族を祀ってお礼をしよう」<br>　ロゼの言葉に表情を明るくするフィルに向かってロゼはいたずらっぽい笑顔を向けた。<br>「これからもなんでもうまくいきますようにってね」<br>「……それ＂祀る＂んじゃなくて＂お願い＂でしょ。もう、ホントに頭領ったら……」<br>　フィルは舌を出すロゼから目をそらして、空を仰ぐと溜め息をついた。<br>「まあ、ロゼさんったら」<br>　そんな二人のやりとりを見ていたライラは、くすくすと笑い始めた。<br>「呑気なもんだな」<br>「ロゼさんがですか」<br>「てめぇがだ」<br>　素なのかわざとなのか、とぼけるライラにデゼルは憮然とした顔で言い放った。<br>　そんな天族たちのやりとりどころか、そこにいることすらわからないロゼは思い立ったように立ち上がった。<br>「そうだ、そろそろおやつの時間でしょ。アジトに戻ろうよ」<br>「そういうことは頭領絶対忘れないよね」<br>　肩をすくめて苦笑するフィルを残してロゼは走りだした。<br>「ああっ、頭領っ。ちょっと待ってよっ」<br>「早く戻らないとあたしたちの分も食べられちゃうよ」<br>「さすがに頭領の分を食べるバカはいないでしょ」<br>「わかんないよ。ほらフィルも走って」<br>　置いていくぞと言わんばかりのロゼの後ろ姿をフィルは呆れ顔で眺めると、彼女の後を追った。<br>　遺跡の中で古井戸にカモフラージュされている入り口からアジトに入ったロゼとフィルは、おやつの乗ったテーブルを囲んで神妙な顔をしている仲間たちを目のあたりにした。<br>「どったの、難しい顔をして」<br>　きょとんとした顔でロゼが尋ねると、風の骨のメンバーは一斉に視線をロゼに向けた。<br>「あ、頭領」<br>「それが今日のおやつのマーボーカレーまんなんだけど」<br>「マーボーカレーまんがどったの」<br>「ひとつ足りないんだ」<br>　マーボーカレーまんと聞いて表情を変えたロゼに、仲間の一人が困惑した顔で告げる。<br>「なんだって」<br>「ちゃんと人数分用意したんだけど、みんなを呼びに行って、戻ってきたらひとつ足りなくなってて……」<br>「なんだ、それ」<br>　キツネにつままれたような顔で言うと、ロゼは右手を顎にあてて考え始めた。<br>そんな彼女を仲間たちがじっと見守っている。<br><br>　おやつを囲んで深刻な顔をしている風の骨の一団から少し離れたところで、ライラが顔を桃のような色に変えて左手で口を押さえているのをデゼルが見とがめた。<br>「なにをしている」<br>「え、あの……」<br>「だからやめろと言っただろう」<br>　デゼルの冷たい視線を避けるように、ライラは首を縮めた。<br>「すいません……。つい我慢できなくて……」<br>　消え入りそうな声で白状するライラに、デゼルは吐き捨てた。<br>「てめぇ、本当はつまみ食いするために、俺たちについてきたんじゃねぇだろうな」<br>　デゼルの冷ややかな声と態度に、思わずライラは自己弁護のために大声をあげた。<br>「そ、そんなことはありませんわ。私はロゼさんの主神になるために……」<br>「その夢はいい加減に諦めろ」<br>　帰れと言わんばかりのデゼルの態度に、負けるものかとライラは胸を張った。<br>「夢なんかじゃありませんわ。私のなすべきことです」<br>「……」<br>　なにか言いかけて口を開いたデゼルは、しかしそれ以上はなにも口に出さず、左手で帽子を押さえて溜め息をついた。<br><br></span><br style="-webkit-tap-highlight-color: transparent;"></div></div><div class="taR" style="-webkit-tap-highlight-color: rgba(0, 0, 0, 0); margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; font-family: Helvetica, Arial, sans-serif, 'ヒラギノ角ゴ Pro W3', 'Hiragino Kaku Gothic Pro', 'ＭＳ Ｐゴシック', 'MS PGothic'; font-size: 14px; vertical-align: baseline; color: rgb(51, 68, 85); text-align: right !important;"></div>
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<link>https://ameblo.jp/tozfancy/entry-12306227252.html</link>
<pubDate>Wed, 30 Aug 2017 23:18:36 +0900</pubDate>
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<title>妄想ゼスティリア66</title>
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<![CDATA[ <span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　アリーシャ邸の大きな玄関の扉の前で、スレイは声を張りあげた。<br>「アリーシャ、オレだ、スレイだ。大丈夫か」<br>　次いでスレイは右の拳で扉を叩いた。<br>「アリーシャッ」<br>　さらに大きな声でスレイがアリーシャの名前を呼ぶと、豪奢な扉が少しだけ開いた。<br>「一体誰ですか。末席とはいえ、ここは王族であらせされるアリーシャ姫の屋敷ですよ」</span><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);">　怒気をはらんだ声で無礼を咎められ、スレイは右の拳を止めてその場で固まった。<br>「……バカ」<br>　後ろでエドナが溜め息をつき、ミクリオが肩をすくめた。<br>「そもそも貴族街で大声をあげることすらはばかられるのに……」<br>　説教口調でぶつぶつ言いながら玄関扉の向こうから顔を覗かせたのは、以前スレイたちに紅茶を入れてくれたメイドだった。<br>「君はっ……」<br>「あっ……」<br>　メイドはスレイの顔を見るなり、口元に両手をあてて目を見開いた。<br>「これは……。失礼しました。少々お待ちください」<br>「あ、うん……。オレの方こそ……」<br>　スレイの返事を待たずにメイドは扉を開けたまま屋敷の中に引っ込んだ。ほどなくして足音がぱたぱたと、スレイだけでなく後ろにいるエドナとミクリオの耳にも届いてきた。<br>　少し間をおいて開けたままの扉の奥からアリーシャの声が響いてきた。<br>「本当なのか、スレイが来ているって。ああ、どうしよう。なんの準備もしていない」<br>「とりあえず玄関へお出になられてはいかがですか、アリーシャ様」<br>「そ、そうだな。わかった、すぐ行く」<br>　そんな会話の後に、またぱたぱたと走る音がして、今度はアリーシャが扉の向こうから期待に目を輝かせて、ひょっこりと顔を覗かせた。<br>「ス、スレイ。無事だったようでよかった。その……今の聞いていたのか」<br>　心なしか赤いアリーシャの顔を見て、スレイは微笑んだ。<br>「うん。アリーシャも元気そうでよかった」<br>　アリーシャにつられたかのように顔が赤く染まるのを感じたスレイは、照れ隠しのように右手で頭を掻いた。<br>「スレイこそ……行方不明と聞かされていたから、気が気でなかった」<br>　紅潮した顔で告げるアリーシャに、スレイはうなづいてみせた。<br>「うん、ありがとう。アリーシャがレディレイクにいるって思ったから、オレはここまで来れたんだと思う」<br>「スレイ……。こんな私でも君の助けになれたと思うと嬉しいよ」<br>　そう言うとアリーシャは本当に嬉しそうな笑顔を見せた。<br>「……ねえ、さっきから二人の世界に入っていて、うざったいのだけど」<br>　エドナのその呟きに反応したのは、スレイではなくアリーシャだった。<br>「も、申し訳ありませんっ、エドナ様っ」<br>　頭を下げるアリーシャを、三人は目をまん丸に開けて見つめた。<br>「……ねえアリーシャ。エドナがなにか言ったの」<br>「え……スレイこそ、聞こえなかったのか」<br>　自らの問いに拳を握りしめたスレイの表情を見たアリーシャは、なにかを察したのかそれ以上は尋ねずにつとめて明るい声で言った。<br>「スレイ、こんなところで立ち話もなんだから、中に入らないか。天族の方々も、ぜひ……」<br>　アリーシャが玄関の扉を大きく開くと、スレイに続いてエドナとミクリオが屋敷の中に入っていった。<br>　頃合いを見はからって玄関の扉を閉めると、アリーシャはメイドを呼んだ。<br>「はい、ご用件はなんでしょう、アリーシャ様」<br>「スレイを客室まで案内してほしい。この前に泊まってもらった部屋だ」<br>「承知いたしました、アリーシャ様。スレイ様、どうぞこちらへ」<br>　メイドはかしこまって応じると、スレイを客室へと案内した。<br>　メイドに続いて歩くスレイの羽織った導師のマントが揺れるのを見て、アリーシャは小さく溜め息をつくと、彼の後を追った。<br>「お飲み物でもお持ちいたしましょうか」<br>　スレイを部屋に通すと、メイドがアリーシャに尋ねた。<br>「ああ、頼むよ。いつもので」<br>「承知いたしました」<br>　メイドは一礼すると部屋を辞した。<br>「スレイ、それから天族の方々もどうぞ、おかけになってください」<br>　スレイが勧められるままに近くの椅子に腰かけると、向かい合っているベッドが少し軋んだ音を立てた。<br>「すごいな。アリーシャは天族が見えるようになったんだ」<br>スレイが少し複雑な表情で感嘆の意を告げると、アリーシャは首を横に振った。<br>「いや、私にはまだ天族のお姿は拝見できないよ」<br>「えっ、でもさっきエドナがいるって……」<br>「あれはお姿が見えたわけではないのだ。あのときはエドナ様のお声が聞こえたから」<br>「声が……」<br>「いつもではないのだが、集中すると聞こえるときがある。もっとも気づいたのは聖堂にいたときだったのだが。それはそうとスレイ、今ベッドが軋んだ音がしただろう」<br>「えっ、そうだっけ」<br>　スレイが驚いた顔でベッドに視線を向けると、アリーシャはくすっと笑った。<br>「スレイは視覚に頼りすぎだな」<br>「え……と。はははははは……」<br>　スレイが右手で頭を掻くと、エドナがもっともらしくうなづいた。<br>「アリーシャの言う通りね。少しは反省しなさい」<br>　しかし今度のエドナの声はアリーシャの耳に届くことはなく、エドナは軽く舌打ちをした。<br>「なんてことなの、まったくもう……」<br>「えっ、あ。申し訳ありません、エドナ様」<br>　弾かれたように直立の姿勢をとるアリーシャと、ベッドに腰かけて足をぶらぶらさせているエドナを交互に見て、ミクリオは声をあげて笑った。<br>「ミボのくせに生意気よ」<br>　エドナが横目で睨むと、ミクリオは咳払いをした。<br>「エドナ様、本題に入ってもよろしいでしょうか」<br>　直立不動の姿勢のままのアリーシャが尋ねると、エドナは大仰に答えた。<br>「いいわよ、始めなさい」<br>　ようやくエドナの許しを得たアリーシャは、うなづくと椅子に腰かけてスレイに尋ねた。<br>「ではスレイ。ひとつ尋ねるが、戦場でなにが起こったのだ」<br>　アリーシャの問いに、スレイはネイフトに話したのと同じことを語った。<br>「……そうかスレイ。マルトラン師匠を助けてくれたのだな。私からも礼を言わせてもらうよ」<br>「お礼なんてそんな……。当たり前のことをしただけなのに」<br>「いや、当たり前の行いをするのはそんなに簡単なことではないよ」<br>　アリーシャが微笑むと、スレイは右手で頭を掻いた。<br>「ふふ……。スレイがスレイのままで帰ってきてくれて本当によかった」<br>　スレイはどうしていいのかわからなくなり、頭を掻きながらうつむいた。<br>　その頃合いを見はからったように、部屋のドアをノックする音が響いた。<br>「どうぞ」<br>　アリーシャが応じると、ドアが開いてメイドがティーセットをワゴンに乗せて運び入れた。<br>「失礼いたします」<br>「スレイ、お茶でも飲んで落ち着こうか」<br>「うん、ありがとう」<br>　メイドがテーブルの上にティーカップをソーサーに乗せて並べていくのを見て、スレイは声をあげた。<br>「アリーシャ、これって……」<br>「天族の方々の分だ。当然だろう」<br>「そうだな。ありがとうアリーシャ」<br>　スレイがアリーシャに礼を言うと、エドナが呟いた。<br>「当然でしょ」<br>「当たり前のことを当たり前に行うのは言うほど簡単じゃないんだよ、エドナ」<br>　ミクリオがアリーシャの言葉を引用してエドナに告げると、少女は頬を膨らませた。<br>　どうやらそのやりとりはアリーシャにも聞こえたようで、彼女は頬を桃色に染めてうつむいた。<br>　スレイはそんなアリーシャに、不思議そうな顔で尋ねた。<br>「ところでアリーシャはどうして天族の声が聞こえるようになったの」<br>「そうだな。スレイはどうしてだと思う」<br>　逆にアリーシャに尋ねられ、スレイは腕を組んでうなり声をあげた。<br>「質問に質問で返すなんて感心しないわね」<br>「エドナ様……」<br>「アリーシャが固まっているじゃないか」<br>「……ちょっと二人とも静かにしてくれないかな。なに言ってるか気になって集中できないよ」<br>「すまない、スレイ……」<br>「アリーシャは悪くないだろ」<br>　腑に落ちない顔でスレイが言うと、アリーシャは首を横に振った。<br>「いや、エドナ様が私に対して＂質問に質問で返すのは感心しない＂とおっしゃったのが始まりだから、私が原因なんだ」<br>「はは……エドナらしいというか……」<br>　スレイが苦笑すると、アリーシャは砂糖を入れた紅茶をかき混ぜながら告げた。<br>「だから意地悪しないで、天族のお声が聞こえるようになったときのことを話そうと思う」<br>「ホントに。でもアリーシャの質問に答えられないのは悔しいな」<br>「いや、私が無茶振りしたのが悪かったのだ。忘れてくれ」<br>　そしてアリーシャは、大きく息をひとつ吐いた。<br>「それではスレイ。私が天族のお声を聞けるようになるまでの話をしよう。王都に連行された私は、そのまま屋敷に閉じ込められた。スレイたちが戦場に駆り出されているのに、なにもできないこの身がもどかしくて悶々としていたよ。しかし焦ってばかりいても仕方がないと思い、気を落ち着かせるために聖堂に行って祈ることにしたんだ」<br>「それで天族の声が聞こえるようになったの。アリーシャってすごいんだね」<br>「そんなにすぐには聞こえないよ。もっともスレイならあり得るだろうがな」<br>「そうかな……」<br>「ああ、私が保証する。それで続きだが、聖堂で祈っているうちに、私を呼ぶ声が聞こえてくるようになったんだ」<br>「それ、もしかしてウーノさん……」<br>「むしろ聖堂におられる天族はウーノ様しか思い当たらないよ」<br>　アリーシャは微笑むと、カップを手に取り芳しい香りを鼻腔に漂わせた。<br>　つられてスレイもカップを手に取り懐かしい香りを嗅ぐと、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。<br>「オレにも聞こえるかな」<br>アリーシャが少し考えるような顔になると、ソーサーにカップが触れる音がした。</span><br style="-webkit-tap-highlight-color: transparent;"></div><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto; background-color: rgba(255, 255, 255, 0);"><br></span></div><div id="descriptionHideArea" class="" style="margin: 0px; padding: 0px; border: 0px none; box-sizing: border-box; vertical-align: baseline;"><span style="-webkit-text-size-adjust: auto;">リア多忙に体調を崩してしまい、更新が遅れました(´･ω･`;)</span></div>
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<link>https://ameblo.jp/tozfancy/entry-12303276215.html</link>
<pubDate>Sun, 20 Aug 2017 23:50:55 +0900</pubDate>
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