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<title>土曜日とアリス</title>
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<description>小説書いてます。モチベーションあげていただけると嬉しいです。</description>
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<title>第9章　矛盾と生活</title>
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<![CDATA[ <p>目が覚めると相変わらず日曜の１０時だった。</p><p>ベッドから這い出て冷蔵庫から牛乳を取り出すとグラスに注ぎ、口に含んだ。</p><p>シャワーを浴びるもシャンプーでは気の重さは洗い落とせないでいた。</p><p>明日会社休もうかな・・・そんな思いが頭の中をめぐっていた。</p><p>バスから出た千鶴はバスタオルを巻いたままベッドに倒れるように横たわった。</p><p>天井を見つめ、手を上に伸ばし、手のひらを結んだり開いたりを繰り返した。</p><p>部屋を見渡すととても静かなことに気づいた。</p><p>テレビでも付けますか。</p><p>テレビから音が流れたのを確認するとすぐにテレビを消した。</p><p>静寂の中、月曜日出勤するよう自身の気持ちを高めるようベッドに横たわりながらそれに努めた。</p><p>月曜日いつものように出勤した千鶴だがいつも以上に無言で仕事をこなし続けた。</p><p>そんな１週間がとても長く感じた千鶴は土曜の夜ジャンプするか悩んだ。</p><p>もしかしてまたあんなことをされるのか心配になった。</p><p>しかしマスターや楽しい常連の笑顔が脳裏に浮かんでいた。</p><p>とりあえず飛んでみますか。</p><p>そう心に決めて飛ぶことにし、ベッドの横から香水を手にした。</p><p>&nbsp;</p><p>気がつくといつものベンチに座っていた。</p><p>「この間の元気はどこかに落としたか？」ベンチ下の声が聞こえた。</p><p>「これでも元気ですよ」千鶴が答えた。</p><p>「そうか？浮かれているようには見えないが」</p><p>「ねえ、ベンチ下さん、ちょっと聞いていいですか？」</p><p>千鶴は股のあいだに首を入れてベンチ下の顔を覗き込んだ。</p><p>「アリスのこと以外ならいいぜ」ベンチ下は変わらぬ表情で答えた。</p><p>「私バーの仕事向いてないんですかね？」</p><p>「向いてない？」</p><p>「ええ！！」生気のない目をして千鶴が返事を返した。</p><p>「向いてるも向いてないもお前さんにとって生業じゃないのか？」</p><p>「いえ、働かなくても生活は・・・」そう千鶴が答えると</p><p>食い気味でベンチ下が言った。</p><p>「金銭的ではなく、お前さんにはもう生きていくために必要な場所となっているんじゃないのか？」</p><p>そう言われると千鶴は黙ってしまった。</p><p>「何事にも慣れと順応は必要だよ」そういってベンチ下は冷ややかに笑った、</p><p>「それはわかっています。」</p><p>「じゃあ何故悩む？ここに座っている時点で答えはわかっているはずだろ？」</p><p>図星を突かれたのか千鶴は不機嫌そうな顔で言った。</p><p>「ベンチ下さんは女性に持てないタイプですね」</p><p>「お前さんに言われなくてもわかっているよ」</p><p>「本当に１度お店に来てくださいよ」</p><p>「いやだね、俺はここから出るのが嫌なんだ、</p><p>それとも俺にキスでもされたいのか？」</p><p>そう言ってベンチ下は下品に笑った。</p><p>そう言われるとすべてを把握していたベンチ下に</p><p>相談したのことを少し後悔した。</p><p>「張り切って行ってこい。得るものがあるところに失うものありだ」</p><p>なんか許せない気持ちだが何故か納得してしまう千鶴だった。</p><p>状態を起こし、千鶴は歩き慣れた道を歩き始めた。</p><p>&nbsp;</p><p>勤務時間までいつものように市場で時間を潰すことにした。</p><p>お茶を買い、いつものテーブルで飲んで空を見上げた。</p><p>青い空にやわらかい風が頬を撫でる。</p><p>こんないい天気なのに楽しめない自分に気づいた。</p><p>市場の活気さえうざく思えた千鶴は場所を変えることにした。</p><p>足は自然と波音のするほうへと向かって行った。</p><p>近くの公園につくと石のベンチに腰掛け、波音に耳を傾け</p><p>波を一途に目で追っていた。</p><p>波の音に男性の声が混じっていることに気づいた千鶴は横を向いた。</p><p>「今日はいい天気ですね」同じ形の石のベンチに男性が腰掛けていた。</p><p>すこし警戒しながら千鶴は返事をした。</p><p>「ええ、そうですね」</p><p>「そのお茶」</p><p>「え？」</p><p>「あなたが今手にしてるお茶、一風堂のお茶でしょ」</p><p>「ええ」千鶴は右手に持つカップを確認した。</p><p>「僕も好きなんですよね。それミルクティーでしょう」</p><p>「ええ」</p><p>「最近はちみつ入りのがあるんですよ。知ってました？」</p><p>「いえ」</p><p>「なら今度よかったら試してください。甘くて美味しいですよ」</p><p>「はい・・・」千鶴は気のない返事で返した。</p><p>「甘いの嫌いですか？」</p><p>「いえ、好きですけど・・・」</p><p>「悩みがあるときは甘いものが一番ですよ」男はそう言って笑った。</p><p>「悩みがあるように見えますか？」</p><p>「ええ僕にはそう見えました。」</p><p>端正な顔立ちの彼の名は結城彰といい、画家をしているという。</p><p>「絵描きさんですか」</p><p>「ええ、今は絵だけでなんとか食べていけるようになりましたけど」</p><p>「へぇ～すごいですね」</p><p>「ぜんぜん、まだまだですよ」</p><p>「なんで私に悩みがあるとわかったんですか？」</p><p>「そうですね、今日みたいな天気の良い青い空の下にいるのに</p><p>あなたの顔には影を感じた」</p><p>「私そんなに暗い顔してました？」</p><p>「暗い顔じゃないんですよ。影が見えたんです」</p><p>そういわれると千鶴は思い切って先週起きたことを話してみた。</p><p>「えっと名前は聞いていませんでしたね」</p><p>「千鶴、畝千鶴って言います。」</p><p>「千鶴さん、なぜ私にそんな話を？」</p><p>「ごめんなさい、迷惑ですよね突然。」</p><p>千鶴がそう言うと結城は首を横に振って笑った。</p><p>「ちょっと同年代の男性の意見はどうなのかな？って聞きたくて・・・」</p><p>千鶴がそう言うと結城はベンチから立ち上がり千鶴のそばに来た。</p><p>そして背中を軽くたたくと手を取り千鶴を立たせた。</p><p>「ちょっと付き合ってくれませんか？」</p><p>返事を聞かず結城は手を引いて千鶴を連れ出した。</p><p>流されるようについていく千鶴が着いた先は美術館だった。</p><p>そして中に入ると結城は千鶴をある１枚の絵の前に立たせた。</p><p>「この絵を見てください。」</p><p>千鶴が見た絵は2つの顔を持つ女性の絵だった。</p><p>そして彼は話しだした。</p><p>「人は必ず2つの顔を持つ、どちらかの顔を人に見せている。</p><p>その人にどちらの顔を見せるかは自分で決めることだよ。」</p><p>それが彼なりの答えなのかしら？そう思いながら</p><p>まっすぐ絵を見つめる結城の横顔を千鶴は眺めていた。</p><p>そして千鶴は彼に市場でお茶に誘うことにした。</p><p>「結城さん、よかったらはちみつ入りのミルクティー飲みませんか？」</p><p>男性を誘うことは千鶴にとって初めての事で体を硬直させていた。</p><p>「そうですね、じゃあ行きましょう。」</p><p>結城がそう言うと体の硬さと高校時代好きだった人に告白できずにいたことを</p><p>ずっと後悔していた心が少しづつ柔らかくなってきたことを</p><p>体内の神経が脳に伝達した。</p><p>市場に着くと千鶴が美術館のお礼だと言って彼にお茶をご馳走することにした。</p><p>「はちみつ入りでいいですよね？」</p><p>千鶴がそう尋ねると結城は横に立つ千鶴を椅子に座らせて</p><p>「はちみつ入りは僕が勧めたお茶だよ」そう言って彼が一風堂へ向かっていった。</p><p>お茶を持ってくる結城が丁寧にお茶を千鶴の前に置いた。</p><p>「ありがとう」お礼を言う千鶴に結城は笑顔で返した。</p><p>「影が取れたかな？」そう言いながら勇気はお茶を口にした。</p><p>千鶴は親密になる方法を模索しながら彼と話し込む。</p><p>「僕の絵？見たいのならアトリエに来ないと見れないですね。</p><p>さっきの美術館に展示してもらえるほどじゃないので」</p><p>「行ってもいいですか？」</p><p>「ええもちろんです。」</p><p>あたりを見回すと日が沈みかけたていることに気付く。</p><p>店に行く時間が迫っていることを感じると千鶴は焦りだし無意識にポケットに手を忍ばせた。</p><p>するとねね婆さんからもらったクッキーを思い出した。</p><p>袋からクッキーをひざ元で取り出し見てると何やらクッキー一つ一つに文字が書かれていた。</p><p>勇気と書かれているクッキーを見つけると彼に気付かれないようひとかけら口に入れた。</p><p>すると千鶴は席を立ち彼にこれから店に出勤するからと伝え、よかったらいつか私の店に来てと告げる。</p><p>彼は社交辞令のように相槌をうつと千鶴はきっとだよと言い残し、</p><p>彼のほっぺにキスをして立ち去る。</p><p>さり際彼の様子を伺うように見つめると平然としている彼の姿を見て千鶴はほっとした。</p><p>大人になるってこういうことなのかしら？</p><p>大人になる味って苦くて甘いのね。</p><p>そう思いながら口にかすかに残ったはち蜜の味を感じながら店へと向かった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12656143616.html</link>
<pubDate>Fri, 12 Feb 2021 09:07:07 +0900</pubDate>
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<title>第8章　ザナドゥと現実</title>
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<![CDATA[ <p>1週間が待ちきれない千鶴は</p><p>勤務帰りの電車の中、スマホで音楽を聞きながら気を紛らせていた。</p><p>ようやく、金曜日の夜を迎え、自宅のベッドでジャンプした。</p><p>いつものように安針塚で目を覚ました。</p><p>ベンチ下と軽く挨拶を交わし、足取り軽くベンチを後にした。</p><p>その姿を眺めながらベンチ下はこうつぶやいた。</p><p>「ふん、うかれやがって」</p><p>&nbsp;</p><p>いつものようにめまぐるしく人が行き交う様子を眺めながら</p><p>千鶴は市場のテーブルでお茶を飲んで過ごしていた。</p><p>今日は2日分の手当が入ったので昼食を買えることができるので</p><p>楽しみながら市場の中をめぐり歩いた。</p><p>退屈して眠らないように刺激ある人を目で追うようにするため</p><p>今週からサングラスを用意していた。</p><p>そのサングラスを少しずらし、市場の時計を見ると時間が迫りつつあった。</p><p>そろそろね、そう思い、店へと向かった。</p><p>そこにはいつもの雰囲気が流れていた。</p><p>少しながらお酒が飲めるようになった千鶴もお客に勧められて</p><p>グラス片手で仕事ができるようになっていた。</p><p>繁盛店なのか常連の数は多く、千鶴は名前を覚えきれなかった。</p><p>そこでさっきから下世話な話をしている人は店に入ってきても帽子を取らないので</p><p>ハット、その隣はタバコを絶え間なく吸うのでニコチン、</p><p>それを背にして別の常連グループと話している声がでかい人はジンしか頼まないのでジン。</p><p>話が止まりそうにないので千鶴はハットにアリスの話を聞いてみた。</p><p>「アリス？今更アリスの話かい？」ハットは不思議そうに応えた。</p><p>「この子この街に来て間もないんだよ」マスターが口をはさんだ。</p><p>「そうなのか？千鶴ちゃん出身は？」ハットが尋ねる。</p><p>「ちょっと遠くで多分知らないと思います。」千鶴がそう答えるとハットはタバコを消しながら言った。</p><p>「なんか裕子みたいだね」ハットがそう言うとニコチンがタバコに火をつけて言った</p><p>「そうでしょう。俺も最初そういったんだよ」</p><p>「聞かせてあげてよ」マスターが二人にに頼んだ。</p><p>「そうか、アリスね。まずこの街でというかこの3つの街で彼女のことを知らない奴はいないよ」ハットが話を始めた。</p><p>「そんなに有名人なの？」千鶴が尋ねた。</p><p>「そうだよ。この街を造った人だとも言われているし、昔の戦争を止めた人だとも言われているしね。」右上を見つめながらハットがいった。</p><p>「え？戦争を？戦争って１００年以上前でしょう？」千鶴が驚いて聞き返した。</p><p>「いや80年かね？ねえマスター」ハットが同意を求めた。</p><p>「多分そのくらいかな？」そう言ってマスターは店の中を見渡した。</p><p>「ええ？じゃあアリスって人今いくつなんですか？」</p><p>「歳はわからないけど、なあ」となりのニコチンに同意を求めた。</p><p>「アリスの歳なんて考えたこともないよ。アリスは見た感じ20代半ばだって話だぜ」ニコチンが答えた。</p><p>「なんか魔女みたいですね」</p><p>「魔女なんかじゃないよ。いろいろ伝説があるんだよ。昔頭のおかしい奴がいて</p><p>そこらへんを放火していた奴がいてね」</p><p>「ジョンソンだろ」ニコチンが相槌を入れた。</p><p>「そのジョンソンがでかい火事を起こそうと計画を練って放火したとき、</p><p>いち早く街の人に知らせて火を消させて、ジョンソンをとっ捕まえた話とか」</p><p>千鶴の表情を伺いながらハットは話を続けた。</p><p>「行方不明になった男の子を発狂して探し続けた母親がいてね。街の人はもう１０日もたっているからもう死んでいると諦めたとき、アリスが現れて居場所を言い当てたんだよ」</p><p>「その男の子どこにいたんですか？」</p><p>「緑の街のスラム地域の穴の中」</p><p>「あそこは探せないよね」ニコチンが言った。</p><p>「最近の話ですか？それ？それでその男の子は助かったんですか？」</p><p>「もちろん、ギリギリ助かったって話だ」ハットは下を向いて答えた。</p><p>「あと猫婆さんの話もあるよね」ニコチンが言った。</p><p>「話せばキリがないよ。明日までかかるけどいいかい？」</p><p>そう言ってハットは話を止めた。</p><p>「そのアリスって女性はどこにいるんですか？」</p><p>「そんなの誰も知らないよ」ハットが答えた。</p><p>「え？そうなんですか？どんな感じの方なんですか？」</p><p>「すごい美人って話だよな？」ニコチンがハットの顔を見ながら言った。</p><p>「金髪でグラマーで」するとさらにジンが話に入ってきた。</p><p>「いや俺が聞いたのは黒髪だって話だよ。千鶴ちゃん、あなたと同じの黒」</p><p>「なんでみんな話がバラバラ何ですか？」千鶴が呆れた顔で言った。</p><p>「いや、よく各町でアリス主催のパーティーがあるって聞くけど</p><p>だれもアリスを見たことはないんだよ」ジンが言った。</p><p>「見てるんだけど覚えてないっていうか・・・なあ」ハットが困った顔で言った。</p><p>「じゃあ美人かどうかわからないじゃないですか？」</p><p>「いやそれがすごい美人らしいよ」ハットは真顔で答えた。</p><p>「らしいんでしょう？」</p><p>「いや、絶対に美人だって戦争を止めた時見かけた火の街の兵隊が言っていたらしい。」</p><p>「またらしいですか？」</p><p>「だってそう言うしかないもんな」ニコチンがハットを助ける感じで言った。</p><p>「だれも見たことがないが確実に存在しているそれがアリスなんだよ」真実を語るようにハットが言った。</p><p>「私は絶対いつか会ってみせるわ」千鶴の好奇心に火が付いた。</p><p>「無理だってこの街の人間でも見たことなくて死んでいく人ばかりなんだよ」ハットが千鶴を説得するように言った。</p><p>「ふだんはどこに現れるの？」千鶴が好奇心いっぱいの笑顔でハットに訪ねた。</p><p>「一番多い目撃情報はパーティーかな？アリスが来たって話は聞くがそれでも誰も見たことがない」</p><p>「じゃあ、きたかどうかわからないじゃないですか」</p><p>「それが来たってことになっているんだよ。なんかきた痕跡があるみたいらしいよ」</p><p>「なんかバンクシーみたいな人ですね」</p><p>「なんだいそのバンクシーって」</p><p>「まあ、こっちの話です」そう言って千鶴は話に混ぜた。</p><p>「そんな話ししてこのバーは大丈夫かい？」</p><p>そういいながらライオン顔をした男が店に入ってきた。</p><p>「ゴードンさん、お久しぶりです。」千鶴は挨拶した。</p><p>「レオでいい。それとバーボンロックで」注文を聞き、千鶴はバーボンのロックを作り、</p><p>レオの前に置いた。</p><p>「千鶴ちゃんが働いているって聞いて見に来たんだよ」</p><p>「その節は本当にありがとうございました。おかげでこうして働けています。」</p><p>「そう、それは良かった。俺も人の役に立つ時ってあるんだな。なあマスター」</p><p>「たまにはそんなこともしなくちゃ」マスターはタバコを燻らせた。</p><p>「それに千鶴ちゃん、アリスの話をしてたけどあまり興味を持たないほうがいいよ」</p><p>「どうしてですか？」</p><p>「じゃあ聞くがこの街の出身でもないあんたがなんでアリスに興味を持つんだい？」</p><p>「えっと・・・それは・・・」</p><p>「答えられないだろ、あの教授もそうだった」</p><p>「岸辺教授か？」グラスを持ちながらハットがつぶやいた。</p><p>「岸辺教授ってどなたですか？」</p><p>「昔、優秀な大学教授がいてな、アリスにとりつかれてパーティー三昧というか</p><p>アリス探索に人生を使った人がいたんだよ。」</p><p>「ええ？そんな人が？」</p><p>「彼も同じことを言っていた。俺がさっきいったような言葉をある記者が彼に投げかけたら、あんた、千鶴ちゃんと同じような答えだったとか・・・」</p><p>「それでその教授はどうなったんですか？」</p><p>「たしか数冊本出してたよね。」ニコチンが言った。</p><p>「アリスの話を書こうと思ったら人に聞いいたぶんだけ話になる。それだけ逸話が多く、</p><p>まとめられないのさ、そんなとりとめのない本誰が読む？」笑いながらレオはグラスのバーボンを飲んだ。</p><p>「たしかに・・・」千鶴は残念そうに頷いた。</p><p>「教授は話を引き出しにパーティーに出かけ、家に帰らない日々が続いたらしい。</p><p>そしたら奥さんは不倫に走り、息子は麻薬に手を出し・・・」</p><p>「娘は売春で捕まった、だったよな」ハットが補足した。</p><p>「そう、そうして散財もして家も人手にわたってしまったらしい。</p><p>そこで久々に家族が揃ったときは皮肉にも荷物まとめて家を去るときだったそうだ」レオは話を続けた。</p><p>「その光景、4人で住んでいた家を見つめる後ろ姿を絵にしたものがある」</p><p>「その絵ってどこかで見られるんですか？」</p><p>「そこの美術館で見られるよ」</p><p>「この教訓は他人を鑑賞しすぎないということだ。」</p><p>「人の嫌がることをしない」自分に言い聞かせるようにニコチンが言った。</p><p>「その絵って誰が書いたんですか？」</p><p>「作者不明だよ。一説にはアリスが誰かに書かせたと言われているけど。ずいぶん古い絵だ」</p><p>「そんなことよりもあんたも若いうちに自分の人生見つめたほうがいいかもな。いつまでもバンパラなんかやってられないだろ？」レオが話を変えた、。</p><p>「あのう、私バンパラじゃないって言いませんでした？」</p><p>「そうだったか、ごめん」</p><p>このように千鶴は隙あればアリスの話を客にねだっていた。</p><p>レオが言っていたようにみんなアリスの逸話は都市伝説のように知っているが</p><p>怪談話のように独自のアリス話を持っているようだった。</p><p>どこからどこまでが本当でどこからが創作なのか全くわからなかった。</p><p>入っては出ていく客の数の多いことか今日はなおさらだった。</p><p>千鶴は私が来るまでマスターは一人でこれをやっていたのかと思うと</p><p>すごいというかアホというか。</p><p>そんな千鶴もリズムができてきて、可能であるときはカウンターから離れ、</p><p>お客さんをドアまで見送れる余裕が出来てきた。</p><p>そんな時だった、ある常連らを見送る時、</p><p>レオの言葉が脳裏を駆け巡った。</p><p>誰もがアリスを知っているが誰も知らない。</p><p>その時だった常連客の一人が千鶴のほっぺに別れのキスをした。</p><p>千鶴が驚いてほっぺたに手を当てていると</p><p>陽気な顔をして手を振って去っていった。</p><p>これだから酔っぱらいは嫌いなのよ。</p><p>そう思いながら店に戻った。</p><p>千鶴の何とも言えない表情を浮かべているのに気づいたマスターは千鶴に声をかけた。</p><p>「何かあったか？」</p><p>「別に何も・・・」</p><p>その沈みかけた様相を見てマスターは千鶴に話し続けた。</p><p>「多方ネズ公にほっぺにキスでもされたんだろう」</p><p>その言葉を聞いて千鶴は驚いてマスターの方を向いた。</p><p>「図星か。まあその程度のことなら気にしないでくれよ。</p><p>ここはそういう世界なんだから」</p><p>マスターの話が千鶴には全く理解できなかった。</p><p>異性とデートどころか手も繋いだ経験のなかった千鶴には大いにショックな出来事だったからである。</p><p>この世界の住人じゃなかったらすぐさま警察に訴えてやる、そう思っていたからである。</p><p>「この世界は女性のほっぺは、ほっぺな！」マスターは語気を強めた。</p><p>「この世界でほっぺは使い捨て傘と同じなんだよ」</p><p>「どう言う意味ですか」千鶴なりに言葉に力を込めた。</p><p>「所有者が誰であろうとみんなのものなんだよ」</p><p>「男性もですか？」</p><p>「もちろん」</p><p>マスターのその言葉を聞いて千鶴は強い脱力感を覚えた。</p><p>しょうがないなという顔をしてマスターは千鶴に言った。</p><p>「今日は早いけどもう部屋で休んでいいよ。後はやっておくから」</p><p>千鶴は浮かない表情とともに言葉に甘えることにし部屋へと向かった。</p><p>何とも言えない気持ちで眠りについた。</p><p>第8章　ザナドゥと現実</p><p>&nbsp;</p><p>1週間が待ちきれない千鶴は</p><p>勤務帰りの電車の中、スマホで音楽を聞きながら気を紛らせていた。</p><p>ようやく、金曜日の夜を迎え、自宅のベッドでジャンプした。</p><p>いつものように安針塚で目を覚ました。</p><p>ベンチ下と軽く挨拶を交わし、足取り軽くベンチを後にした。</p><p>その姿を眺めながらベンチ下はこうつぶやいた。</p><p>「ふん、うかれやがって」</p><p>&nbsp;</p><p>いつものようにめまぐるしく人が行き交う様子を眺めながら</p><p>千鶴は市場のテーブルでお茶を飲んで過ごしていた。</p><p>今日は2日分の手当が入ったので昼食を買えることができるので</p><p>楽しみながら市場の中をめぐり歩いた。</p><p>退屈して眠らないように刺激ある人を目で追うようにするため</p><p>今週からサングラスを用意していた。</p><p>そのサングラスを少しずらし、市場の時計を見ると時間が迫りつつあった。</p><p>そろそろね、そう思い、店へと向かった。</p><p>そこにはいつもの雰囲気が流れていた。</p><p>少しながらお酒が飲めるようになった千鶴もお客に勧められて</p><p>グラス片手で仕事ができるようになっていた。</p><p>繁盛店なのか常連の数は多く、千鶴は名前を覚えきれなかった。</p><p>そこでさっきから下世話な話をしている人は店に入ってきても帽子を取らないので</p><p>ハット、その隣はタバコを絶え間なく吸うのでニコチン、</p><p>それを背にして別の常連グループと話している声がでかい人はジンしか頼まないのでジン。</p><p>話が止まりそうにないので千鶴はハットにアリスの話を聞いてみた。</p><p>「アリス？今更アリスの話かい？」ハットは不思議そうに応えた。</p><p>「この子この街に来て間もないんだよ」マスターが口をはさんだ。</p><p>「そうなのか？千鶴ちゃん出身は？」ハットが尋ねる。</p><p>「ちょっと遠くで多分知らないと思います。」千鶴がそう答えるとハットはタバコを消しながら言った。</p><p>「なんか裕子みたいだね」ハットがそう言うとニコチンがタバコに火をつけて言った</p><p>「そうでしょう。俺も最初そういったんだよ」</p><p>「聞かせてあげてよ」マスターが二人にに頼んだ。</p><p>「そうか、アリスね。まずこの街でというかこの3つの街で彼女のことを知らない奴はいないよ」ハットが話を始めた。</p><p>「そんなに有名人なの？」千鶴が尋ねた。</p><p>「そうだよ。この街を造った人だとも言われているし、昔の戦争を止めた人だとも言われているしね。」右上を見つめながらハットがいった。</p><p>「え？戦争を？戦争って１００年以上前でしょう？」千鶴が驚いて聞き返した。</p><p>「いや80年かね？ねえマスター」ハットが同意を求めた。</p><p>「多分そのくらいかな？」そう言ってマスターは店の中を見渡した。</p><p>「ええ？じゃあアリスって人今いくつなんですか？」</p><p>「歳はわからないけど、なあ」となりのニコチンに同意を求めた。</p><p>「アリスの歳なんて考えたこともないよ。アリスは見た感じ20代半ばだって話だぜ」ニコチンが答えた。</p><p>「なんか魔女みたいですね」</p><p>「魔女なんかじゃないよ。いろいろ伝説があるんだよ。昔頭のおかしい奴がいて</p><p>そこらへんを放火していた奴がいてね」</p><p>「ジョンソンだろ」ニコチンが相槌を入れた。</p><p>「そのジョンソンがでかい家事を起こそうと計画を練って放火したとき、</p><p>いち早く街の人に知らせて火を消させて、ジョンソンをとっ捕まえた話とか」</p><p>千鶴の表情を伺いながらハットは話を続けた。</p><p>「行方不明になった男の子を発狂して探し続けた母親がいてね。街の人はもう１０日もたっているからもう死んでいると諦めたとき、アリスが現れて居場所を言い当てたんだよ」</p><p>「その男の子どこにいたんですか？」</p><p>「緑の街のスラム地域の穴の中」</p><p>「あそこは探せないよね」ニコチンが言った。</p><p>「最近の話ですか？それ？それでその男の子は助かったんですか？」</p><p>「もちろん、ギリギリ助かったって話だ」ハットは下を向いて答えた。</p><p>「あと猫婆さんの話もあるよね」ニコチンが言った。</p><p>「話せばキリがないよ。明日までかかるけどいいかい？」</p><p>そう言ってハットは話を止めた。</p><p>「そのアリスって女性はどこにいるんですか？」</p><p>「そんなの誰も知らないよ」ハットが答えた。</p><p>「え？そうなんですか？どんな感じの方なんですか？」</p><p>「すごい美人って話だよな？」ニコチンがハットの顔を見ながら言った。</p><p>「金髪でグラマーで」するとさらにジンが話に入ってきた。</p><p>「いや俺が聞いたのは黒髪だって話だよ。千鶴ちゃん、あなたと同じの黒」</p><p>「なんでみんな話がバラバラ何ですか？」千鶴が呆れた顔で言った。</p><p>「いや、よく各町でアリス主催のパーティーがあるって聞くけど</p><p>だれもアリスを見たことはないんだよ」ジンが言った。</p><p>「見てるんだけど覚えてないっていうか・・・なあ」ハットが困った顔で言った。</p><p>「じゃあ美人かどうかわからないじゃないですか？」</p><p>「いやそれがすごい美人らしいよ」ハットは真顔で答えた。</p><p>「らしいんでしょう？」</p><p>「いや、絶対に美人だって戦争を止めた時見かけた火の街の兵隊が言っていたらしい。」</p><p>「またらしいですか？」</p><p>「だってそう言うしかないもんな」ニコチンがハットを助ける感じで言った。</p><p>「だれも見たことがないが確実に存在しているそれがアリスなんだよ」真実を語るようにハットが言った。</p><p>「私は絶対いつか会ってみせるわ」千鶴の好奇心に火が付いた。</p><p>「無理だってこの街の人間でも見たことなくて死んでいく人ばかりなんだよ」ハットが千鶴を説得するように言った。</p><p>「ふだんはどこに現れるの？」千鶴が好奇心いっぱいの笑顔でハットに訪ねた。</p><p>「一番多い目撃情報はパーティーかな？アリスが来たって話は聞くがそれでも誰も見たことがない」</p><p>「じゃあ、きたかどうかわからないじゃないですか」</p><p>「それが来たってことになっているんだよ。なんかきた痕跡があるみたいらしいよ」</p><p>「なんかバンクシーみたいな人ですね」</p><p>「なんだいそのバンクシーって」</p><p>「まあ、こっちの話です」そう言って千鶴は話に混ぜた。</p><p>「そんな話ししてこのバーは大丈夫かい？」</p><p>そういいながらライオン顔をした男が店に入ってきた。</p><p>「ゴードンさん、お久しぶりです。」千鶴は挨拶した。</p><p>「レオでいい。それとバーボンロックで」注文を聞き、千鶴はバーボンのロックを作り、</p><p>レオの前に置いた。</p><p>「千鶴ちゃんが働いているって聞いて見に来たんだよ」</p><p>「その節は本当にありがとうございました。おかげでこうして働けています。」</p><p>「そう、それは良かった。俺も人の役に立つ時ってあるんだな。なあマスター」</p><p>「たまにはそんなこともしなくちゃ」マスターはタバコを燻らせた。</p><p>「それに千鶴ちゃん、アリスの話をしてたけどあまり興味を持たないほうがいいよ」</p><p>「どうしてですか？」</p><p>「じゃあ聞くがこの街の出身でもないあんたがなんでアリスに興味を持つんだい？」</p><p>「えっと・・・それは・・・」</p><p>「答えられないだろ、あの教授もそうだった」</p><p>「岸辺教授か？」グラスを持ちながらハットがつぶやいた。</p><p>「岸辺教授ってどなたですか？」</p><p>「昔、優秀な大学教授がいてな、アリスにとりつかれてパーティー三昧というか</p><p>アリス探索に人生を使った人がいたんだよ。」</p><p>「ええ？そんな人が？」</p><p>「彼も同じことを言っていた。俺がさっきいったような言葉をある記者が彼に投げかけたら、あんた、千鶴ちゃんと同じような答えだったとか・・・」</p><p>「それでその教授はどうなったんですか？」</p><p>「たしか数冊本出してたよね。」ニコチンが言った。</p><p>「アリスの話を書こうと思ったら人に聞いいたぶんだけ話になる。それだけ逸話が多く、</p><p>まとめられないのさ、そんなとりとめのない本誰が読む？」笑いながらレオはグラスのバーボンを飲んだ。</p><p>「たしかに・・・」千鶴は残念そうに頷いた。</p><p>「教授は話を引き出しにパーティーに出かけ、家に帰らない日々が続いたらしい。</p><p>そしたら奥さんは不倫に走り、子供は麻薬に手を出し・・・」</p><p>「娘は売春で捕まった、だったよな」ハットが補足した。</p><p>「そう、そうして散財もして家も人手にわたってしまったらしい。</p><p>そこで久々に家族が揃ったときは皮肉にも荷物まとめて家を去るときだったそうだ」レオは話を続けた。</p><p>「その光景、4人で住んでいた家を見つめる後ろ姿を絵にしたものがある」</p><p>「その絵ってどこかで見られるんですか？」</p><p>「そこの美術館で見られるよ」</p><p>「この教訓は他人を鑑賞しすぎないということだ。」</p><p>「人の嫌がることをしない」自分に言い聞かせるようにニコチンが言った。</p><p>「その絵って誰が書いたんですか？」</p><p>「作者不明だよ。一説にはアリスが誰かに書かせたと言われているけど。ずいぶん古い絵だ」</p><p>「そんなことよりもあんたも若いうちに自分の人生見つめたほうがいいかもな。いつまでもバンパラなんかやってられないだろ？」レオが話を変えた、。</p><p>「あのう、私バンパラじゃないって言いませんでした？」</p><p>「そうだったか、ごめん」</p><p>このように千鶴は好きあればアリスの話を客にねだっていた。</p><p>レオが言っていたようにみんなアリスの逸話は都市伝説のように知っているが</p><p>怪談話のように独自のアリス話を持っているようだった。</p><p>どこからどこまでが本当でどこからが創作なのか全くわからなかった。</p><p>入っては出ていく客の数の多いことか今日はなおさらだった。</p><p>千鶴は私が来るまでマスターは一人でこれをやっていたのかと思うと</p><p>すごいというかアホというか。</p><p>そんな千鶴もリズムができてきて、可能であるときはカウンターから離れ、</p><p>お客さんをドアまで見送れる余裕が出来てきた。</p><p>そんな時だった、ある常連らを見送る時、</p><p>レオの言葉が脳裏を駆け巡った。</p><p>誰もがアリスを知っているが誰も知らない。</p><p>その時だった常連客の一人が千鶴のほっぺに別れのキスをした。</p><p>千鶴が驚いてほっぺたに手を当てていると</p><p>陽気な顔をして手を振って去っていった。</p><p>これだから酔っぱらいは嫌いなのよ。</p><p>そう思いながら店に戻った。</p><p>千鶴の何とも言えない表情を浮かべているのに気づいたマスターは千鶴に声をかけた。</p><p>「何かあったか？」</p><p>「別に何も・・・」</p><p>その沈みかけた様相を見てマスターは千鶴に話し続けた。</p><p>「多方ネズ公にほっぺにキスでもされたんだろう」</p><p>その言葉を聞いて千鶴は驚いてマスターの方を向いた。</p><p>「図星か。まあその程度のことなら気にしないでくれよ。</p><p>ここはそういう世界なんだから」</p><p>マスターの話が千鶴には全く理解できなかった。</p><p>異性とデートどころか手も繋いだ経験のなかった千鶴には大いにショックな出来事だったからである。</p><p>この世界の住人じゃなかったらすぐさま警察に訴えてやる、そう思っていたからである。</p><p>「この世界は女性のほっぺは、ほっぺな！」マスターは語気を強めた。</p><p>「この世界でほっぺは使い捨て傘と同じなんだよ」</p><p>「どう言う意味ですか」千鶴なりに言葉に力を込めた。</p><p>「所有者が誰であろうとみんなのものなんだよ」</p><p>「男性もですか？」</p><p>「もちろん」</p><p>マスターのその言葉を聞いて千鶴は強い脱力感を覚えた。</p><p>しょうがないなという顔をしてマスターは千鶴に言った。</p><p>「今日は早いけどもう部屋で休んでいいよ。後はやっておくから」</p><p>千鶴は浮かない表情とともに言葉に甘えることにし部屋へと向かった。</p><p>何とも言えない気持ちで眠りについた。</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12650754861.html</link>
<pubDate>Sun, 17 Jan 2021 08:13:11 +0900</pubDate>
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<title>第7章　区切りと知識</title>
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<![CDATA[ <p>「今日はもうあがっていいよ。初日お疲れ様」</p><p>マスターにそう声をかけられた千鶴はお言葉に甘えて</p><p>マスターに用意された部屋に向かうことにした。</p><p>「マスター、私今日どうでした？」</p><p>「う～ん、まあギリ合格かな」</p><p>その言葉を複雑な思いで受け止めながら千鶴は階段を上った。</p><p>「ギリギリか・・・」そうつぶやくきながらの階段を上る足は少し重かった。</p><p>教えられた部屋に着くと静かに鍵を開け、部屋を見回した。</p><p>少しの間、人が使用していないことはすぐにわかった。</p><p>「これから部屋着が必要かしら？」そう思いながら部屋に備えられている</p><p>ベッドにそのままの姿で横たわった。</p><p>目が覚めると元の世界の自室に戻っていることに気づいた。</p><p>テレビをつけるとワイドなショーが放送されていた。</p><p>日曜の朝10時である。</p><p>お酒は飲んでいないが体のだるみを感じた千鶴は</p><p>冷蔵庫に向かい牛乳を取り出し、グラスに注いだ。</p><p>そのグラスを手にせず、バスルームに向かい、バスタブにお湯を貯め始めた。</p><p>そしてキッチンテーブルに牛乳が注がれたグラスの前に座って</p><p>グラスを手にして口に運んで牛乳を喉に流すと少しうつむき加減の姿勢で動くのをやめた。</p><p>この時、頭の中では今日はどこへも出かける事はやめよう、そう決めていた。</p><p>明日からの会社のことを想像していたからである。</p><p>そしてベッドに戻り、横になった。</p><p>「柔らかい」そう呟いて掛け布団を体に巻きつけ笑った。</p><p>&nbsp;</p><p>月曜日、いつものように出勤した。</p><p>12時になろう時、となりの桑原から声をかけられた。</p><p>「畝さん、最近何かあった？」</p><p>「いえなにも・・・どうしてですか？」</p><p>「なんかねえ、良いことでもあったのかなって。ねえ加藤さん。」</p><p>そう話を向けられると加藤も同調した。</p><p>「そうねえ、なんか明るくなった感じがするわ」</p><p>「そうですか？何もないですよ」</p><p>「そう。」二人はそう言って千鶴の顔を伺った。</p><p>コンビニで買ってきたサンドイッチを食べながら千鶴はPCで検索をしていた。</p><p>新宿、バーと打ち込むとゴールデン街という紹介のページがいくつも出てきた。</p><p>そのページをサンドウィッチを口にしながら読み続けた。</p><p>女性ひとりでも安心して・・・・その文字を目にすると千鶴はお財布を開いた。</p><p>そして今週の間に行ってみますか。</p><p>頭の中に残るギリギリという言葉の横にその思いを置いた。</p><p>水曜日は仕事が珍しく定時に終わった。</p><p>いつもなら家にはやく帰ってテレビでも見ながらまったりと過ごしたい思いを</p><p>押しのけてゴールデン街に行ってみることにした。</p><p>新宿駅に着くと普段は決して向かわない歌舞伎町への道に足を乗せた。</p><p>ゴールデン街に着くと木造りで昭和の香りが一区間だけ充満していた。</p><p>ここは日本だから大丈夫、そう自分に言い聞かせて足を進めた。</p><p>歩きながら中が見える店と見えない店、階段を上る店と様々である。</p><p>あやしい、怪しすぎる。そう思いながら千鶴はゴールデン街を徘徊した。</p><p>何周しただろうか、同じような人を2～3回見かけた。</p><p>そろそろどこかの店に中が見える店がいいかしら安全そうだし。</p><p>そう思った千鶴だが蔵人は中が見えない店である。</p><p>それを思うと同じタイプがいいかしら。</p><p>えい、イチかバチか。ダメだと思ったら後ろに下がるのよ。</p><p>私は猫じゃないんだから、そう思い聞かせ似た感じのドアを押した。</p><p>開かない、そしてひとつ呼吸をし、鼓動の早さを緩めた。</p><p>そしてドアを引くと中が見えた。</p><p>そこにはカウンターが壁に沿うように長く続いており、６～８人座れそうな感じである。</p><p>中ってこんなに狭いんだ。</p><p>想像より狭い店内を見つめていると千鶴を見つめる女性に気がついた。</p><p>カウンターの中にいる女性がこえをかけてきた。</p><p>「お一人ですか？」</p><p>お店の人が女性でよかった、自身の強運を感じた。</p><p>「はい」そう答えるとドアに近い空いているカウンター席に誘導された。</p><p>何かあったら逃げやすいわね、千鶴は大好きなスパイ映画のワンシーンを思い出していた。</p><p>椅子に座り、改めて店内を見回すと一番奥の席に店に慣れた感じのおじさんが一人、</p><p>ひとつ席を開けてカップルが座っていた。</p><p>おじさんは常連さんかしら。</p><p>「何にしますか？」その声に千鶴は反応してお姉さんの後ろに綺麗に並ばれた</p><p>お酒の瓶を眺めた。</p><p>「ゴールデン街は初めて？」頷く千鶴の前へと移動しながらお姉さんは言った。</p><p>「どうかしら私に任せてもらえる？」そう言われると千鶴はまた頷いた。</p><p>「お酒は強い方？」</p><p>「いえ、そんなには・・・」</p><p>「そう、じゃあ甘いよりさっぱりしたほうがいいわね」</p><p>そして適当に２～３本カウンターにボトルを置くと手際よくお酒を作り出した。</p><p>その様子をじっと見つめる千鶴。</p><p>近くにいるお姉さんの顔は整った顔立ちで少し化粧が濃かったように思えた。</p><p>今まで近い距離で出会ったことのない女性であった。</p><p>私もいつかこの女性のようになるのかしら？それともなれるのかしら？</p><p>その思いは複雑だった。</p><p>お酒を作っているお姉さんに奥のおじさんが何か話しかけている。</p><p>それを笑いながらお酒を見ながら話を進めている。</p><p>そして千鶴の前にグラスをおいた。</p><p>「マルガリータです。」そして千鶴はグラスをみつめる。</p><p>お酒はグラスの中で静かなうっすらとした黄色を微睡んでいた。</p><p>「これピザ味ですか？」千鶴が尋ねるとお姉さんは少し吹き出して答えた。</p><p>「それはマルゲリータね」ハッとして千鶴が周りを見ると</p><p>奥のおじさんは下品な声で笑っており、その隣のカップルは二人同時にプッと吹き出していた。</p><p>「いいのよ、北さんはそんなに笑わないの」</p><p>「キクリンも二人で話し続けてなさい」</p><p>千鶴はグラスに口をつけた。</p><p>「おいしい」思わず声が出た。</p><p>「そう、気に入ってくれてよかったわ」</p><p>そう言いながらカウンターの真ん中に戻った。</p><p>「私さゆりって言います。よろしくね」</p><p>「私は千鶴って言います。」</p><p>「可愛い名前ね。」</p><p>「千鶴ちゃんかいい名前だね」奥の北が話に加わった。</p><p>「ありがとうございます」千鶴はお礼を言った。</p><p>「あの人の話はあまり聞かないほうがいいわよ」</p><p>「おいおい」北が反応した。</p><p>「どうしてですか？」</p><p>「あなたこういうところ慣れていないでしょう？北さんはエッチなことしか言わないから」</p><p>「さゆりちゃん、そんなことないよ。今から社会事情の話でもしようか？」</p><p>「そんなのいいよ。北さんの堅い話は退屈だから」そういってさゆりは笑った。</p><p>そして北は気をよくしたのか下ネタを話し出すとどぎつくなりそうな感じを察すると</p><p>さゆりは話を切り返して軌道修正をしていた。</p><p>それを千鶴は心でなるほどと思いながら感心し、優しい音量のジャズが耳に流れるなか</p><p>マルガリータを体に注ぎ込んだ。</p><p>さゆりは北と会話の中、千鶴に目を向けながらカップルのオーダーに応える。</p><p>それは目の前の4人が次何を求めるのかわかっているようだった。</p><p>しばらく黙っている千鶴にさゆりは声をかけてきた。</p><p>バランスがいいな、そう千鶴は感心し心地よさを覚えた。</p><p>「あなたなんでこんな店に来たの？勇気あるわね」</p><p>「本当だよ、女性なら中が見える店とか入りそうだよね」北も話に混じってきた。</p><p>千鶴は同じようにカウンターで働いているとピザの件もあって恥ずかしくて言い出せなかった。</p><p>口ごもっているとさゆりは代りに答えた。</p><p>「いいのよ、今日を楽しんでくれれば、政治と宗教の話をしなければ」</p><p>「それはなんでですか？」</p><p>「最後は喧嘩になるからよ。ぜったい分かり合えない。」</p><p>「そう、だから人間は戦争をする。それと同じかな。」北が話に同調した。</p><p>「あら、北さんが珍しくまともな話を・・・」</p><p>「北さんのエロ以外の話を聞くのはハロであった時以来だね、千鶴ちゃんっていったけ</p><p>結構レアだよ」そう言ってきくりんは笑った。</p><p>「そうなんですか？」そう千鶴が答えるとさゆりは笑みを浮かべていった。</p><p>「千鶴さんは真面目なのね」</p><p>こういうところでは真面目はダメなのかしら。そんな思いを千鶴は脳裏に書き込んだ。</p><p>雰囲気とさゆりから夜の世界の話を伺っていると1時間を超えていた。</p><p>新たに男性が二人入ってきたタイミングで千鶴は店をあとにすることにした。</p><p>「また来てね、待っているわ」さゆりにそう送り出され</p><p>「いってらっしゃい」という声をあとにドアを閉めた。</p><p>そして金曜の夜、さゆりのしていたカッコを思い出し、</p><p>ジーンズにシャツといったラフな格好をし、香水をかぎ、ベッドに横たわった。</p><p>目が覚めると安針塚のいつものベンチで目が覚めた。</p><p>「よう、また来たのか？」ベンチ下である。</p><p>「おはよう」</p><p>「今はみんな働いてランチを食う時間だ」</p><p>「私はこれから見たいね」そう言って千鶴は大きく背伸びをした。</p><p>「それよりバーは受かったみたいだな」</p><p>「なんで知ってるの？」</p><p>「俺は何でもわかるんだよ」</p><p>「だったら今度店に遊びに来てよ」</p><p>「嫌だね、なんで俺が？」</p><p>「私たち友人じゃない？」</p><p>そういって股のあいだに頭をつっこんだ。</p><p>そこにはいつもと変わらない鋭い目をした輪郭がはっきりしないベンチ下の姿があった。</p><p>「友人でも聞けない頼みってものがある」</p><p>「そうなの？」友人ってそういうものなのか千鶴は記憶した。</p><p>「それにあんたはそこでやっていけるのか？酒も飲めないのに」</p><p>「なんか大丈夫な気がするのよね。楽しいし」</p><p>「あくまでも仕事だ、楽しいことばかりではないよ。これからは」</p><p>「でも情報処理の仕事よりはすごく楽しいわよ」</p><p>「なぜお前さんはそこで働くのか？そして客は来るのか？考えたことがあるか？」</p><p>「楽しいからじゃない？」</p><p>「半分しか正解してないな」</p><p>「そうかしら？」</p><p>「もし、立ち止まるようなことがあったら青の老人を探しな」</p><p>「誰ですか？その・・・青の・・・」</p><p>「その時が来たら教えてやるよ」</p><p>そう言うとベンチ下は黒い闇の中へと姿を消し、見えなくなった。</p><p>状態を起こし気分爽快のまま千鶴は水の街へと向かった。</p><p>相変わらず時間があるので夜まで市場で過ごすことにした。</p><p>市場でお茶を買い、テーブルの前に腰を下ろし佇んだ。</p><p>すると前に話を聞いた直角じじいが買い物をしていた。</p><p>本当に直角に曲がるんだ、そう思いながらその様子を観察しながらのんびりしいていた。</p><p>所持金が少ないため、昼食を我慢していた。</p><p>空腹を紛らわすため潮風にあたろうと市場の先にある海岸に面した公園へと向かった。</p><p>そこで海を見つめながら潮風にあたると千鶴の空腹感は消えていった。</p><p>なにも浮かばない地平線と流れる雲は千鶴にとって退屈ではなく、時間を忘れさせた。</p><p>何気なしに公園の時計台を見ると18時間近を指していた。</p><p>慌ててベンチを立ち、小走りで店へと向かった。</p><p>なんとか店に間に合った千鶴は急いでマスターと回転の準備を始めた。</p><p>土曜日らしく、次々と常連さんが入ってくる。</p><p>挨拶に明け暮れる前半と打ち解ける後半であった。</p><p>閉店時間が迫るとマスターが千鶴に声をかけた。</p><p>「あとはやっておくから、お疲れ」</p><p>「マスターあのう・・・今日は・・・」</p><p>「なに？今日？今日がどうかした？」</p><p>「今日私はどうでした？」</p><p>「ああ。そんなことか。良いんじゃない。」</p><p>そう言いながらマスターは手を止めタバコに火をつけた。</p><p>「来週もよろしく」そう言って千鶴を送り出した。</p><p>千鶴は階段を上りながらさゆりに感謝を捧げた。</p><p>自信をつけた千鶴は日々退屈な元の世界の情報処理の仕事を淡々とこなす。</p><p>業務を早々に終え、声のトーンも高くなり</p><p>「お疲れ様」といって会社をあとにした。</p><p>その姿を見て加藤と桑原は互の顔を見合わせた。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12640000228.html</link>
<pubDate>Tue, 24 Nov 2020 19:22:48 +0900</pubDate>
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<title>第６章　職と食</title>
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<![CDATA[ <p align="left">「すいません」千鶴は呼びかけるも中からは返事がない。</p><p align="left">数度繰り返した。「あの～」</p><p align="left">あまりに反応がないので周囲を確認してドアに耳を当てた。</p><p align="left">少しではあるが物音がする。</p><p align="left">誰かいる。そう確信した千鶴はドアを力いっぱい遠慮を知らない右手で叩いた。</p><p align="left">「すみません」やはり反応がない。</p><p align="left">もしかしたらドア空いてるのかしら？</p><p align="left">そう疑問が頭に浮かぶと千鶴はドアを少し押した。</p><p align="left">するとドアが少しの隙間を作った。</p><p align="left">そしてその隙間からかすかだが男の声が聞こえた。</p><p align="left">千鶴は耳を凝らすと「鍵は空いているよ」と聞こえた。</p><p align="left">入ってこいってことかしら？</p><p align="left">そう思った千鶴は思い切ってドアを全開にあけ、</p><p align="left">ドアの先の景色を伺った。</p><p align="left">想像通りの景色に緊張は緩和し、安堵と変化していった。</p><p align="left">「入ってきて」そう中で開店の準備をする男はドアの前で立っている千鶴に声をかけた。</p><p align="left">「はい、失礼します」そういって深くお辞儀をして店の中へと入っていった。</p><p align="left">「俺の声聞こえなかった？」なかに歩いて入ってくる千鶴に投げかけた。</p><p align="left">「はい、すみません。ドアがしまっているときは聞こえませんでした」</p><p align="left">「じゃあ、あの大工なかなかいい腕をしているんだな」</p><p align="left">男はそう言うと少し笑った。</p><p align="left">「それでなんの用なの？」</p><p align="left">男は先を急ぐように言った。</p><p align="left">「はい、今日ここに来たのはですね。えっと・・・この町の人に聞きまして・・・・」</p><p align="left">早い展開についていけず、千鶴がまごつくと男は言葉途中に割り込んできた。</p><p align="left">「ああ、ここで働きたいんだね。」</p><p align="left">「はい、そうなんです。」そう言って千鶴はバックの中にある履歴書を探した。</p><p align="left">「歳はいくつ？」</p><p align="left">「えっと・・・23です。」そういって男を見ながら手探tりで慌ててバッグの履歴書を探す。</p><p align="left">「経験は？」準備を進めながら千鶴に質問した。</p><p align="left">「はい、お酒を扱うところでの経験はありませんがレストランでしたら学生時代1年以上の経験があります。」</p><p align="left">「そう」男は無愛想に発すると千鶴に向かって手招きした。</p><p align="left">「顔を見せて」そう言われまだバッグの中にある履歴書を手探りしながら千鶴は男に近づいていった。</p><p align="left">男は近づく千鶴の顔をグラスを磨きながら目を凝らして見つめた。</p><p align="left">「合格」そう言って磨いていたグラスを所定の場所に置き、店のエプロンをつかみ千鶴に投げた。</p><p align="left">受け取った千鶴は事態が飲み込めない表情で聞き返した。</p><p align="left">「合格って？」</p><p align="left">「合格、採用だ。」男はそう言うと早口でまくし立てた。</p><p align="left">「勤務は土曜日のみ時間は6時から閉店まで。閉店時間は大体1時ごろかな？</p><p align="left">であんた泊まるところは見つかったのか？」</p><p align="left">「いえ、まだです。・・・なんでわかったんですか？」</p><p align="left">「だいたいわかるよ。あんた流れ者だろう。この街に流れ着いた。そうだろ？」</p><p align="left">大体あっていると思い千鶴はまあそうですとだけ答えた。</p><p align="left">「それより店長、履歴書は？」</p><p align="left">「そんなものいらないよ。それに俺は店長じゃないマスターだ。流れ者の履歴書なんか役に立たないし、これでも人を見る目はある。</p><p align="left">それよりまだ寝るところがないのならこの上に小部屋がある。ドアに鍵もかかるからそこを使うといい」</p><p align="left">男はそういうと引き出しから鍵を取り出すと千鶴に投げて渡した。</p><p align="left">「一番奥の部屋だ。わかったら開店の準備を手伝ってくれ」</p><p align="left">そう言って千鶴に開店の準備を手伝わせ、一通りの位置を説明した。</p><p align="left">&nbsp;</p><p align="left">&nbsp;</p><p align="left">開店時間が過ぎるて30分過ぎた頃にドアが開いた。</p><p align="left">千鶴はすぐに反応していらっしゃいませと声が出た。</p><p align="left">するとマスターが千鶴に言った。</p><p align="left">「うちは高級店じゃないからな」</p><p align="left">千鶴はなんのことかわからずぼーっとしていると目の前のカウンター席初老の男が二人座った。</p><p align="left">一人は黒いシャツを着ていて、もうひとりは顎にしか髭が生えていない。</p><p align="left">「マスターたまにはいいじゃないか」そう言って客の二人は笑った。</p><p align="left">「なんにしますか？」マスターにそう言われると</p><p align="left">「ビールとお前は？」</p><p align="left">「ウィスキーの水割り」と答えた。</p><p align="left">千鶴は瓶ビールを取り出そうとするとマスターから静止を受けた。</p><p align="left">「この人は生ビールだ」そう言われ、ビールサーバーを習った。</p><p align="left">「うまいじゃないか」千鶴はオーダーした黒シャツからそう言われて照れ笑いを見せた。</p><p align="left">「いい子そうだね。マスターどこで拾った？」</p><p align="left">「いや、風と一緒に部屋に入ってきた」そういうと二人ともへーと声を上げた。</p><p align="left">「あなた旅人かい？」そう尋ねられ千鶴は頷いた。</p><p align="left">「名前は？」と黒シャツに尋ねられるとマスターも言った。</p><p align="left">「そういえばまだ名前聞いてなかったな」</p><p align="left">「本当かよ。マスター大丈夫？」</p><p align="left">「さっき雇ったばかりだから」マスターがそう言うと千鶴は答えた。</p><p align="left">「畝といいます。」</p><p align="left">「うね。こういうところでは下の名前を言うもんだよ」マスターにそう教えられると千鶴はすぐさま答えた。</p><p align="left">「千鶴って言います。」</p><p align="left">「千鶴ちゃんか。かわいいなまえだね」</p><p align="left">黒シャツに褒められると笑顔でお礼を言った。</p><p align="left">「ずいぶん遠くから来たんだろ？」そう千鶴に尋ねた。</p><p align="left">「なんでわかるんですか？」</p><p align="left">「わかるよ、ねえマスター。どことなしに裕子に似ているよね」</p><p align="left">そう黒シャツが言うと無言でマスターが頷いた。</p><p align="left">裕子さん？ってあのパーティーであった？裕子さんのことかしら千鶴は思いを巡らせた。</p><p align="left">「結子も突然ぶらって現れて面白い子だったね。あの子は元気かね？」</p><p align="left">マスターが首をかしげると千鶴は口をはさんだ。</p><p align="left">「もしかして裕子さんって黒髪で長くてちょっと身長が高くて目鼻立ちがはっきりしている人ですか？」</p><p align="left">「おお、やっぱり千鶴ちゃんは知り合いなのか？」</p><p align="left">「いえ、この街に初めて来たときパーティーでお会いしまして・・・」</p><p align="left">「そうなのか、また俺は同郷の知り合いか何かだと思ったよ」黒シャツが感想を述べた。</p><p align="left">「裕子さんってここで働いていたんですか？ってそれより私裕子さんに似てますか？」</p><p align="left">「いえ容姿は似ていないけど、なんかねぇ。雰囲気というか・・・」そう言って黒シャツは他の人に同調を求めた。</p><p align="left">「たしかに雰囲気は通ずるものがあるね。」そう言って顎髭の男は答えた。</p><p align="left">「裕子はいい子だったな。最初は無口だったけどだんだん打ち解けていくと面白い子だったよ」</p><p align="left">黒シャツが昔を思い出していると千鶴は黒シャツに尋ねた。</p><p align="left">「裕子さんってちょっと怖そうな感じの方ですよね」もしかしたら人違いの可能性を感じてそういった。</p><p align="left">「そんな感じはなかったな？」そう黒シャツが言うと顎鬚が反応した。</p><p align="left">「いや、きた当時はちょっと冷たそうというかクールな感じだったよ」</p><p align="left">「そうだったかな？」黒ひげが相槌を打つとマスターが言った。</p><p align="left">「たしかに店に来た当時はそんな感じだったですね」</p><p align="left">「そして面白い子だってわかってみんなの人気者になったね」黒シャツが思い出しながら言った。</p><p align="left">「あの子最近店に顔出したりする？」黒シャツがマスターに尋ねた。</p><p align="left">「最近はぜんぜんですね。忙しいんじゃないんですかね」マスターが答えた。</p><p align="left">「千鶴ちゃんもみんなに好かれるようにね」黒シャツがアドバイスした。</p><p align="left">「はい、そうなれるように頑張ります。」そう伝えると黒シャツは話を続けた。</p><p align="left">「人に好かれるのは能力だからね。大事だよ。あなたみたいに可愛く生まれるのも能力。親に感謝だよ」</p><p align="left">「そうですね」千鶴は応えた。</p><p align="left">「野球選手でヒットばかり打つやつと同じで能力。努力もしてるんだろうが」そう言いながら黒シャツは顎鬚の方を向いた。</p><p align="left">「ねえ、千鶴ちゃん、俺たちは恵まれなかったから一生懸命学生時代は勉強して仕事も一生懸命するしかなかったけど</p><p align="left">あなたはその恵まれた能力を大事にしないといけないよ。もったいないからね」黒シャツがそう言うと</p><p align="left">「俺を巻き込むな」顎髭が言った。</p><p align="left">「私そんなに言われるほど美人じゃないので」千鶴が謙遜すると黒シャツが言った。</p><p align="left">「家に鏡ある？それだけ可愛ければ能力、あとは人好かれる能力がないのなら努力することだよ。</p><p align="left">努力といっても人に媚びろって言ってるんじゃないよ」</p><p align="left">「どうすればいいんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p align="left">「単純なことで人に優しく、相手の立場に立って物事を考え行動するとか言葉も大事かな」</p><p align="left">「言葉大事ですね」マスターが同調した。</p><p align="left">「裕子さんってこの店来られることあるんですか？」千鶴は話を変えた。</p><p align="left">「最近来ないけどそのうち来るんじゃないかな？」マスターが答えた。</p><p align="left">「なんで千鶴ちゃん、裕子に会いたくないの？」</p><p align="left">そう言われ、千鶴は裕子に元の世界に戻されるときのことを思い返した。</p><p align="left">「そんなことないんですけど。お話したいと思っていますけど、裕子さん、ちょっと背も高いし、ガチっとした体型ですこし厳しそうな方なので」</p><p align="left">「そんなこと言うと裕子に怒られるぞ。」黒シャツは笑った。</p><p align="left">「いいかい。あなた女性だけど女性のことを言うなら最後に人によってちょっと綺麗なとかちょっとかわいいとか</p><p align="left">そういう褒め言葉を少し添えないといけないな。」黒シャツがアドバイスした。</p><p align="left">「こいつ料理人なんだよ」顎髭が補足した。</p><p align="left">「言葉は料理と同じだよ。言葉も人様の前にお出しするんだ。気を使わないとね。</p><p align="left">綺麗に見せる。喜んでいただくためにはちょっとした付け足しは必要だな。」黒シャツがそう言うと顎鬚がからかった。</p><p align="left">「さすが一流料理人！！偉そう」</p><p align="left">「うるさい、お前俺を馬鹿にしてるな」そして一同は笑った。</p><p align="left">「千鶴ちゃん、じじいの話もたまに聞くと面白いだろ」</p><p align="left">「はい、勉強になります。」千鶴は合わせた。</p><p align="left">「千鶴ちゃんはまだ若いから。若い頃の友達って都合のいいことばかりしか言ってくれないだろ？」</p><p align="left">それはたしかにそうかもと思った。</p><p align="left">「でも私ともだちいないので・・・」</p><p align="left">「じゃあ、今日から俺たちが友達だ。」黒シャツがそう言うと3人で乾杯した。</p><p align="left">たわいのない話を続けていると一人、また一人と店に入ってきた。</p><p align="left">カウンターは満席となり、二人以上はテーブル席に誘導するようにマスターに指示された。</p><p align="left">そしてテーブルの中を行ったり来たり働いているとアリスという言葉を耳にした。</p><p align="left">アリス？どこかで・・・そうだ裕子さんが言っていたアリスだ。</p><p align="left">黒シャツに聞こうとカウンターに戻ったがテーブルのオーダーを伺っているあいだにどうも帰ってしまったようだ。</p><p align="left">千鶴はこの店にいればいつか裕子にも会えそうだし、アリスの話も聞けるのではないかと思い、</p><p align="left">しばらく店で働き続けることを決意しながら二人の帰ったカウンターを丁寧に拭いた。</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12624885220.html</link>
<pubDate>Mon, 14 Sep 2020 16:53:04 +0900</pubDate>
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<title>第５話　飛ぶ</title>
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<![CDATA[ <table width="564"><tbody><tr><td itemprop="articleBody"><p>千鶴は気がつくと最初に来た時と同じ公園のベンチに座っていた。</p><p>「またお前さんか」前回同様ベンチの下から声が聞こえた。</p><p>千鶴は足を開き、股の間に顔を突っ込んだ。</p><p>「お久しぶりです。えっと・・・名前お聞きしていませんでしたね」</p><p>「名前、そんなもの名乗ったことないな」</p><p>「そうですか・・・なんて呼べばいいですか？」</p><p>「お前さんの好きにしな」</p><p>「じゃあ、ベンチ下さんでいいですか？」</p><p>「なんだそれは？」</p><p>「ベンチの下にいるからですよ。それなら私も忘れないですし」</p><p>「好きにしな」</p><p>「それじゃそうさせていただきますね」</p><p>「それよりお前さん水の街に行って蔵人で働くつもりらしいな」</p><p>そう言われ千鶴は驚きのあまり体を起こした。</p><p>目の前に広がる自然を見つめ、心を落ち着かせると股を広げ再び顔を押し込んだ。</p><p>「どうして知っているんですか？」</p><p>「俺には情報が色々入ってくるんでな」</p><p>千鶴はベンチ下の奥にある黒い部分を見つめ</p><p>この穴というか空間は一体どこにつながっているのか興味がわいた。</p><p>「ベンチ下さん、誰から聞いたんですか？」</p><p>「それは言えないな」</p><p>「どうしてです？」</p><p>「企業秘密ってやつさ」</p><p>それ以上詮索してもしたかがないと思った千鶴は話を変えた。</p><p>「もし働くことになったらベンチ下さん遊びに来てくださいよ」</p><p>「なんで俺が？」</p><p>「私この世界の知り合いってあなたしかいないもの」</p><p>そう言うとベンチ下は呆れ顔でひとつ息を吐いた。</p><p>「お前さんはもう結構知り合ってるじゃないか」</p><p>「誰です？」</p><p>「ロイの家で楽しい時間を過ごしただろう？それに仕事もだれかの紹介だろう」</p><p>「ええまあ、そうですけど・・・色々知ってるんですね」</p><p>「まあな、で、そいつらは知り合いに入れてあげないのか？困ったお嬢さんだ」</p><p>「そうじゃないですよ」</p><p>「じゃあどうなんだ？」</p><p>「ただちょっとだけ席が一緒になっただけというか・・・・」</p><p>「仕事紹介してもらったのに？」</p><p>「たしかにそう言われるとそうですけど・・・」</p><p>「せっかく知り合ったから言っておいてやるが人からの恩は感じろ。どこに行ってもだ。不感症の女は嫌われるぞ」</p><p>「セクハラですか」千鶴は間髪いれずに言い返した。</p><p>「セクハラじゃない。ユーモアだよ。覚えやすいだろ？」</p><p>そう言い返されると千鶴は体を起こし、日本人にはあまり好まれない絵画のような表情を浮かべ、</p><p>股を開いてベンチ下と話す体制に戻した。</p><p>「ほかに違う表現ってあるとおもうんですけど・・・・」</p><p>「それはセンスっていうやつだよ」そう言ってベンチ下は苦笑した。</p><p>ベンチ下は話を続けた。</p><p>「いいか、なんでもハラスメントなんて言ってたら大事なことを聞き逃すぞ」</p><p>「例えばどんなことですか？」</p><p>「それは自分で見つけな。自分で探すんだ。なんでもかんでも人に聞いて済ますんじゃない」</p><p>「たしかにそうですね」</p><p>千鶴は顔を上げてひと呼吸してまたベンチ下との会話スタイルに戻った。</p><p>「じゃあ、ベンチ下さん、私なにか探してきます」</p><p>「受かるといいな」</p><p>「はい！」今週一番の笑顔を見せて千鶴はベンチを後にした。</p><p>&nbsp;</p><p>千鶴は繁華街に着くとマッチの地図を頼りに店を探した。</p><p>「本当にこういうタイプの地図って誰が書くのかしら？全くわからないわ」</p><p>それなりに探すがなかなか見つからない。</p><p>紹介された時の会話を思い出した。</p><p>「たしか・・・噴水から・・・・」</p><p>なんとなく、それっぽい街並みを歩くと蔵人という看板が見えた。</p><p>「ここか・・・」</p><p>品のある店構えといかがわしさが混じった感じだった。</p><p>「いかにもお酒の店って感じね」</p><p>ただ時間が早かったらしく、店は閉まっていた。</p><p>仕方ないので店があくまで時間を潰すことにした。</p><p>スマホは当然のこと繋がらない。</p><p>千鶴はせっかくだから水の街を探索することにした。</p><p>一番活気のある市場へと足は自然に向いた。</p><p>色々なものを売っている眺めながら人通りの激しい通りをすり抜けるように歩いていた。</p><p>するとあるおばあさんに目が止まった。</p><p>スイカを買ったのだがキャリーに積むも重くて引けないらしい。</p><p>東京ならまずしないことだが青い空と市場の活気が千鶴を積極的にさせたのか？</p><p>千鶴はおばあさんに近づくとおばあさんに声をかけた。</p><p>「重そうですね？私が引きましょいうか？」</p><p>そう言うとおばあさんは笑みを浮かべ応えた。</p><p>「そうかい。悪いね。そうしてもらえるかい」</p><p>おばあさんは見ず知らずの千鶴にキャリーを預けると一人で歩き出した。</p><p>「まだ買いたいものがあるのよ。良いかい？」</p><p>「どうそ」千鶴がそう答えるとおばあさんはズンズン人ごみなのかを進んでいく。</p><p>重いキャリーを引きながら離されまいと千鶴は人に接触しては謝りながらおばあさんの後をついて行く。</p><p>「これもいいかね」おばあさんがそう言うと千鶴は余裕のない笑顔で応えた。</p><p>「2本もらおうかね」そう言ってお店の人から2リットルはあるだろう牛乳瓶を受け取って千鶴に渡した。</p><p>「お菓子を作るのに牛乳は欠かせないからね」そう言うおばあさんに千鶴は息荒く笑みを浮かべた。</p><p>キャリーには積むスペースがないので袋に入れて右手で持つことにした。</p><p>そして粉屋で最後の買い物をして帰宅すようだ。</p><p>千鶴は両手に袋を持ち、器用にキャリーを引っ掛けておばあさんと一緒に家へと向かった。</p><p>救いだったのが市場からはそう遠くなかったことだった。</p><p>同じ家ようなパステル色の家が並ぶ通りを歩いているとそのうちのひとつの玄関の前にある３段の階段を登り、</p><p>家に入っていった。</p><p>招かれるように千鶴もその玄関に入った。<br>中に入ると広いリビングがあり、アンティークの家具が家にイメージを作り出している。</p><p>そんなリビングから２階に上る階段が奥に見えた。</p><p>「あなたこっちよ」おばあさんに言われ千鶴は奥にあるキチンへと誘導される。</p><p>買い物品をおばあさんの指示通りに収納した。</p><p>「ありがとうね。本当に助かったわ。ちょっとそこの椅子に座っていてね」</p><p>キッチンから出た千鶴におばあさんがそう声をかけた。</p><p>緑色のソファにしばらく座っているとおばあさんがお茶を運んできた。</p><p>「さあどうぞ、」そう言って千鶴の前にある丸く角のとれたテーブルの上に柔らかくカップをおいた。</p><p>「ありがとうございます」そう言って千鶴はカップに手を伸ばし、口に運んだ。</p><p>私今、知らない人の家で知らない人の出されたお茶飲んでるわ。</p><p>そう思いながらお茶の味を確かめるように飲んだ。</p><p>「おいしい・・・」</p><p>「あら、ありがとう。みんなそう言ってくれるのよ」</p><p>どうもおばあさんのお茶は自慢らしい。</p><p>「本当に今日は助かったわ。そういえば名前聞いてなかったわね」</p><p>「あ、はい畝、畝千鶴といいます」</p><p>「そう、千鶴さんいい名前ね。きっとご両親に愛されているのね」</p><p>「そうですかね・・・」千鶴は苦笑して答えた。</p><p>「私はねねっていうの。この辺りではネネばあさんって呼ばれているわ」</p><p>「ねねおばあちゃんですね」</p><p>「そうね、でも若い頃はねねお姉さんだったわ」</p><p>お茶を飲みながら二人の女性に緩やかな時間が流れている。</p><p>「あなた、この辺の子じゃなわね。どちらからいらっしゃったの？」</p><p>どう答えて良いのか千鶴は脳裏を巡らせながら判事をした。</p><p>「えっと・・・すごく遠いところからですけね」</p><p>「遠いところってハネスよりも遠いかしら？」</p><p>「そうですね。多分遠いと思います」</p><p>「まあ、それは大変ね」</p><p>「ええ・・・・」</p><p>「ところでこの水の街には何しに？」</p><p>「えっと仕事を探しにきました。」</p><p>「あら？それはそれはで、お仕事は見つかりましたの？」</p><p>「いえ、これから面接なんです」</p><p>「そう、受かるといいわね」</p><p>「そうですね」</p><p>「あなたならきっと受かるわ」</p><p>「どうでしょう？」</p><p>「あなたは希望に満ちているわ。そういう人は必ず人から受け入れられるものよ」</p><p>「私がですか？希望に？」</p><p>「そう、目を見ればわかるわ。それよりどうしてこの水の街を選んだの？ご親戚でもいるのかしら？」</p><p>「いえ、なんとなくです。だめでしょうか？」</p><p>「そんなことないわ。それもひとつの大事な理由よ」</p><p>「ありがとうございます。」</p><p>千鶴がお礼を言うとねね婆さんは少し口を噤むとリビングから通りが見える窓を見つめた。</p><p>「千鶴さん、あなたはそれだとこの水の街をあまり知らないでいるわね」</p><p>言われればそう思いながら千鶴はカップを口につけながら頷いた。</p><p>「あなたにこの水の街の話をしておきますね」</p><p>「あなたはこの先に火の街と緑の街があるのはご存知？」</p><p>「はい、知っています。行ったことはありませんが」</p><p>「なら話が早いわ。まずこの水の街は町制を敷く3つの街の水を供給しているの。火の街は火力でエネルギー、主に電気ね。</p><p>そして一番大きな街緑の街が農業、食料を供給しているわ」</p><p>「はい」</p><p>「ただ４～５年前だったかしら、火の街が電気を発明したのにはみんな驚いたわ。あなたの故郷には電気はあるの？」</p><p>「ええ、まあ・・・・」</p><p>「それは良かったわ。それ火の街がまだ電気がなかった頃、あれはもう５０年も前になるかしら」</p><p>「はい」そう言いながら千鶴はお茶菓子に手を伸ばした。</p><p>「当時はエネルギーは油と火薬ぐらいしかなくてね。火の街はあまり豊かじゃなかったのよ」</p><p>相槌を打ちながら歴史ってやっぱり私は苦手だなそう思いながら千鶴は耳だけは傾けていた。</p><p>「そして火の街の水道代の滞納が続いたとき、町長が水を止める判断をしたのよ」</p><p>「え～？水を！」</p><p>「そうよね。誰でも驚くわよね。でもあの時は確か井戸水が豊富にあったから不便だけどそれを使えば大丈夫だろうって軽い気持ちだったと思うわ」</p><p>「誰がですか？」</p><p>「水の街の住民たちね。ちょっとしたお仕置きみたいに考えていたと思うわ」</p><p>「随分きついお仕置きですね」</p><p>「あなたもそう思う？そうよね。火の街の人はその何十倍もそう思ったみたい」</p><p>「で、どうなったんですか？」</p><p>「火の街民兵が大砲持って水の街に向かっているって話が街に広がって・・・・」</p><p>「えええええ！！！！」話の流れに驚いた千鶴は声を荒げた。</p><p>「そうなのよ。それで若い男どもはいきり立って噴水の間で演説し始めて奇声あげたのよ」</p><p>「それで？」最初は退屈そうに聞いていた千鶴だったが今は前のめりに聞いていた。</p><p>それとは逆にねね婆さんは肩を丸め、うつむき加減で話を続けた。</p><p>「戦争よ」</p><p>「え？」</p><p>驚きのあまり、千鶴は背もたれのない椅子に座っていることを忘れ、後ろに体を反ると椅子から落ちた。</p><p>「千鶴ちゃん、大丈夫？」</p><p>「大丈夫です」右手をねね婆さんにむけ手のひらを見せ静止を促し、左手で打った腰を抑えながら立ち上がった。</p><p>「それでねねお婆さん、どっちがかったんですか。イテテ・・・・」</p><p>そういいいながら椅子に座った。</p><p>「圧倒的な火力の前に水の街は負けたわ」</p><p>「それで？どうなったんですか」</p><p>「大勢の友人がなくなったわ。そして火の街には永久的に水を供給する条件にサインさせられたらしいわ」</p><p>「そんな過去が・・・」</p><p>「そうなの。だから今でも火の街の人と仲が悪いのよ」</p><p>それはそうだろう。千鶴は思った。</p><p>「おなたお茶はいかが？」</p><p>そう言われ、千鶴は窓に目を向けた。</p><p>すこしオレンジ色が街を少しずつ染め出していた。</p><p>「もうこんな時間！」そう言うと椅子から立ち上がった。</p><p>「ねねお婆さん、私もう行かなきゃ！」</p><p>「あら？どちらへ？」</p><p>「面接です。」</p><p>「あら、そうね。さっきそんなこと言っていましたね」</p><p>「どうもごちそうさま。私行きます。」</p><p>「そう、また遊びにいらっしゃい」</p><p>「ええ、是非、来させていただきます。」</p><p>そう千鶴が答えるとねね婆さんは子供を見つめる母親以上の優しい顔を浮かべた。</p><p>玄関に向かう千鶴の後をねね婆さんが見送りについて歩く。</p><p>「ねねおばあさん、また来ます。」</p><p>「ええ、いつでもいらっしゃい。待ってるわ」</p><p>「お茶本当に美味しかったです」</p><p>「知ってるわ」ねね婆さんがそういうと二人の笑みがオレンジ色が包みだした。</p><p>「何もできなかったけどこれを持って行きなさい。きっといつか役に立つわ」</p><p>そう言ってグレーのひと包を千鶴の右手に持たせた。</p><p>「ありがとうございます。ここで失礼いたします。」そう言って千鶴は</p><p>いつまでも見送るねね婆さんの立つ玄関をあとにした。</p><p>そして角を曲がるとねね婆さんからもらった包を無造作にポケットにしまい、道を急いだ。</p><p>「もうお店やっているかしら」</p><p>そんなことを思いながらバーの近くの道を歩く、足取りは次第に重くなってゆく。</p><p>私に務まるかしら？次第に不安になってゆく千鶴だが</p><p>この街に染まりたい気持ちが足を前へと進める。</p><p>そしてバー蔵人の看板前までたどり着いた。</p><p>「さあ、千鶴これからが今日の本番よ!｣そう自分に言い、鼓舞させた。</p><p>まずはノックからね。千鶴は大学時代の就活を思い出していた。</p><p>高鳴る鼓動を抑えるため、胸に手を当てると第一希望の企業の面接時の記憶が何故か蘇った。</p><p>なにやってるのよ、緊張するじゃない。自身の自動で動く記憶にいらっとさせられていた。</p><p>落ち着いた千鶴？さあ右手行くわよ。</p><p>千鶴は右手を上げ、ドアをノックした。</p></td></tr></tbody></table>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12519054941.html</link>
<pubDate>Tue, 03 Sep 2019 03:52:57 +0900</pubDate>
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<title>第4話　楽しさは危険な香り</title>
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<![CDATA[ <p>夢と思っていた事が現実だと確信した千鶴はしばらく考えた。</p><p>あの世界はどこにあるのか？</p><p>そしてなんなのだろうか？</p><p>そして最後に現れた裕子はいったい何者なのだろうか？</p><p>そして裕子がもうくるなと言った言葉の意味は？</p><p>何故そんなことを言うのだろうか？</p><p>今週一日しか無い休みだがこれらを考える為に外出する事をやめた。</p><p>どうせ誰かと約束している訳じゃないんだし、そう思いながらあの世界の答えを頭に巡らせていった。</p><p>どうも体の疲れのせいか頭の中がしゃきっとしない。</p><p>そこで朝からお風呂に入って体を温める事にした。</p><p>湯船に入ると桶から手足を出し、体を限界まで伸ばした。</p><p>そしていつも考え事をする時に行うそのままお湯に静かに沈んでいく。</p><p>千鶴は考え事をするとき必ず外音を遮断しようとする癖があった。</p><p>千鶴はお湯の中に沈んだまま例の水の街の事を考えた。</p><p>まず私はどうやってあの世界に行けたのだろう・・・。</p><p>会社から帰ってきてあの香水を嗅いだら眠くなって・・・・。</p><p>千鶴は勢いよくお湯の中から飛び出した。</p><p>「そうだあの神社！あそこに何かがあるかもしれない」</p><p>善は急げ、そんな思いが用意していたバスタオルを肩にかけただけの姿で千鶴は部屋を歩き回させた。</p><p>「香水、香水は」</p><p>香水を探すとベッドの横に添えてあるボックスの上に置かれていた。</p><p>「あった！まだ入っているわね」</p><p>香水の量を確認するとまだまだ未使用状態だった。</p><p>瓶を力強く握ると置かれていた位置にそっと戻した。</p><p>肩にかけたバスタオルでようやく、頭の毛を拭きながら下着のあるタンスの前に移動した。</p><p>下着を着けながら千鶴は思いを巡らせた。</p><p>あの世界ってもしかして私の頭の中になるのかしら？</p><p>昔見たパプリカのような世界かしら？</p><p>それともエルム街の悪夢の映画のような夢の世界かしら？</p><p>どっちにしても同じ・・・私の頭の中ね。</p><p>たしかエルム街の悪夢でフレディの帽子を持ってくるシーンがあったわね。</p><p>このマッチもそんなところかしら？</p><p>私の頭の中にある精神世界だとすると私の思い通りになるのかしら？</p><p>やはり気になるのは裕子の存在とあの言葉である。</p><p>なぜ私は警告されたのかしら？</p><p>なにも答えを導き出せない千鶴はとりあえず、きっかけの場所、神社へ行くことにした。</p><p>もしかしたらあの神社に何か手がかりがあるかもしれない、そう思ったからだ。</p><p>住居して数年、なんとなく土地勘はあるつもりだった。</p><p>しかし記憶をたどっての散策は想像を超える難航を極めた。</p><p>たしかこっちから来て・・・この白い家を見た記憶があるから・・・。</p><p>どうにも見つからない。</p><p>そこで人に聞くことにしたが声をかけられそうな人がなかなか通らない。</p><p>オッサンばかりである。</p><p>また若い男性などナンパだと勘違いされたらことである。</p><p>そこで適度なおばあさんが通りかかるのを待った。</p><p>すると声をかけやすそうなおばあさんが向こうから歩いてくる姿が見えた。</p><p>千鶴は不審者と思われないように何かを探している旅人を装うためたたんだ紙を手にし、</p><p>それを見ながら、お婆さんに接近していった。</p><p>しかし近づくに連れ、勇気が湧かない。</p><p>知らない人に話すことが苦手な千鶴は心にこう言い聞かせた。</p><p>あの世界を知るためよ、ここは勇気を出して、神社だけが手がかりなんだから。</p><p>そしてどこかの家を探しているかのような素振りをしながら千鶴の横を通り過ぎようとする</p><p>おばあさんに声をかけた。</p><p>「あの～すみません。地元の方ですか？」</p><p>入りはいいぞ千鶴。自身に心の中にエールを送った。</p><p>すこし驚く表情を浮かべながら老婆は買い物帰りなのか片手にぶらさげていたスーパーのレジ袋の揺れを空いている手でその揺れを抑えた。</p><p>「はい？」不審そうな目で千鶴を見つめた。</p><p>その視線で胸がいっぱいになる千鶴だが手にしている何も書かれていない紙に目を向け、ひと呼吸おいて言葉を発した。</p><p>「私いまこの近くで神社を探しているんですけどご存知ないですか？」</p><p>千鶴を上から下まで視線を送り、千鶴の等身を確認すると老婆は口を開いた。</p><p>「神社ですか？神社ねえ・・・このへんで神社って言ったらそこの早稲田通りを越えたところにあったとおもうけど・・・」</p><p>老婆が言う神社は千鶴も知っていた。</p><p>「あ、その神社じゃなくてこの辺にあったと思うんですけど、古臭い石の階段があって・・・そう・・・この家の2階から３階のあいだの高さにあって・・・」</p><p>そう千鶴が説明すると老婆は首をかしげた。</p><p>「さあ、ごめんなさい。知らないわね。」</p><p>そう言われると千鶴は肩を落とした。</p><p>あからさまな落胆ぶりを目にした老婆は千鶴に話を続けた。</p><p>「私ねえ、ここに嫁に来てから４０年以上住んでいるけどここに神社があったことなんかないわよ」</p><p>「そうですか、・・・ありがとうございます」</p><p>やはりないのか・・・。</p><p>「ちょっとその地図見せてごらん」</p><p>千鶴が手にしている紙を指していった。</p><p>そう言われると千鶴は慌ててお礼を重ね、足早にその場を去った。</p><p>不審者と思われたかな？そう思いながら胸の鼓動を抑えながらコンビニ方面へと向かった。</p><p>コンビニに着くまで頭の中では裕子のもうここに来てはダメの言葉が走馬灯のように回っていた。</p><p>千鶴は軽い食事をコンビニで調達した。</p><p>「なんか無駄な出費したかも・・・・」</p><p>家へ向かう足取りは重かった。</p><p>なにも成果が上げられず、しかも出費が重なったからである。</p><p>家で口に運んだサンドイッチも美味しく感じない。</p><p>千鶴はベッドに転がり、今一度香水の瓶を手にとって顔の上に上げて見つめた。</p><p>「あなたはなんなの？私に何をさせようとしてるの？」</p><p>見もしないテレビから音が流れている。</p><p>ベッドで横になりながら明日の仕事のことを頭に浮かべた。</p><p>この退屈な時間が水の街への思いが強くさせた。</p><p>仕事のこともあるしな～今行ったら明日仕事行けなくなっちゃうんじゃないかしら？</p><p>だったら今回みたいに土曜日にしたら今の生活に支障が出ないわね。</p><p>そう思った千鶴は来週の土曜日の夜に行くことに決めた。</p><p>&nbsp;</p><p>月曜日の朝はいつもの憂鬱さが半減していた。</p><p>それは土曜日の目的ができたからである。</p><p>いつものようにホームで電車を待つ、いつもの朝である。</p><p>目に前にはいつものように中国人立っている。</p><p>千鶴は心の中でニーハオと挨拶を告げた。</p><p>会社に着くといつものように仕事に向かった。</p><p>となりの加藤にいつものよういにめんどうくさい仕事を振られるも心は軽かった。</p><p>その表情を感じたのか加藤は千鶴に言った。</p><p>「あら、畝さん、何かいいことでもあった？」</p><p>「いえ。いつもどおりですが・・・」</p><p>「あらそう？ねえ桑原さんなんか畝さんいつもと違う感じがするわよね」</p><p>「そう？」桑原は関心がなかった。</p><p>「畝さん、彼氏でもできた？」</p><p>「いえそんなことないです」</p><p>「そうかしら？」首をかしげる加藤をあしらい千鶴は仕事に従事した。</p><p>その様子をじっと上司の佐藤が見つめている。</p><p>その視線を感じながらも気がつかないふりを続け、今日も残業を言われるのかな？と思いながら</p><p>キーを叩き続ける。</p><p>時計の針が20時を指す頃、となりの島から男性が続々帰りだした。</p><p>千鶴も今日の仕事を終え、帰り支度を始めた。</p><p>主任の佐藤はまだ席に座っている。</p><p>千鶴は立ち上げると小声で「お先に失礼します」と告げて会社をあとにした。</p><p>今日は呼び止められなかった。そんなことを思いながら駅へと向かった。</p><p>夕飯を買いに駅前のスーパーに寄った。</p><p>いつものコースである。</p><p>惣菜コーナーに向かうといつものように割引がされているものがちらほら見て伺える。</p><p>千鶴はそれらを手に取り、今日の夕飯を決める。</p><p>横目で見る本当は食べたい炊き込み弁当はまだ割引されていない。</p><p>そして数も少ない。</p><p>いつもは無視して、価格でその日の夕飯を決めているのだが</p><p>千鶴は炊き込み弁当を手にしてみた。</p><p>プロパーか・・・。</p><p>でも今日はいいかな。そう思い、思い切って持っているかごに炊き込み弁当を入れた。</p><p>一応、神社があると思われる辺りを帰り際に歩いてみたがやはり見つからなかった。</p><p>そして、家に着き、髪を後ろに束ね、部屋着とパジャマ兼用にしている醤油のシミがついた高校の時のジャージに着替えた。</p><p>買ってきたお弁当をベッドに背もたれながら食べた。</p><p>食べおえると千鶴は別途の小脇に置かれた香水瓶を掲げて見つめた。</p><p>「土曜日まで待っててね」その言葉は水の街を思い浮かべて言った。</p><p>そして千鶴はベッドの上に横たわると泳ぐ真似をした。</p><p>「水の中じゃなくても結構疲れるのね」そう呟くとお風呂場に向かった。</p><p>湯船に浸かると千鶴は手のひらにお湯をすくって漏れて消えてゆくさまをじっと見つめた。</p><p>「水か・・・」水の街を思い浮かべると首を振った。</p><p>「いけない、いけない。こんなんじゃ明日仕事でミスしちゃう」</p><p>「仕事と水の街、両立させるようにならなきゃ」</p><p>そう自分に言い聞かせながら頭の中に仕事と結婚の両立をダブらせていた。</p><p>私できるようになるのかしら・・・。</p><p>翌日、平日のど真ん中は憂鬱な気分になる。</p><p>平日であることを一番長く感じられるからである。</p><p align="left">千鶴は12時を過ぎたことを確認すると近くのコンビニへと向かった。</p><p align="left">この日は自身の席で食べることにした。</p><p align="left">壁際に設置された4人用の打ち合わせ席には年齢が近い女子社員</p><p align="left">志田と鎌取と大楽が騒ぎながら昼食を食べていた。</p><p align="left">その様子を離れた自身の席からぼんやり見つめながらサンドイッチを口にしていた。</p><p align="left">会話の内容までは把握できない声が聞こえてくる。</p><p align="left">あんなに騒ぎながら話す内容が毎日よくあるわねと感心しながら</p><p align="left">千鶴はレタスのかむ音で彼女らから届く声を緩和させていた。</p><p align="left">そして大楽に隣に空いている椅子を見つめ、依然自分が座って食べていたことを思い返していた。</p><p align="left">昔はあそこに座って食べていたのね。</p><p align="left">年が近いこともあり、大楽から声をかけられ入社当時は4人で昼食を食べていた。</p><p align="left">毎回恋愛話をする3人についていけず、千鶴は毎回黙って3人の話を聞き、愛想笑いを浮かべながら食事をしていた。</p><p align="left">そんな日が続く中、仕事が午前中で終わらず、一緒に食事ができない日が1週間ほど続いた時があった。</p><p align="left">そして翌週からはなんとかく千鶴は一緒に食事をしなくなり、一人で食べるようになると</p><p align="left">3人も千鶴に声をかけることをしなくなった。</p><p align="left">千鶴はサンドイッチを食べ終えると目の前に置いてあったウーロン茶を口にしながら</p><p align="left">まだ3人の打ち合わせ席を見つめていた。</p><p align="left">千鶴は次第にロイばーさんの家で経験した7人での会話のシーンを思い返した。</p><p align="left">そしてそぶりが大きい大楽が三ツ矢に見えてきた。</p><p align="left">そして瞬きをすると姿は大楽へと戻った。</p><p align="left">「土曜日ねえ・・・」そうつぶやくともう一度ウーロン茶を口にした。</p><p align="left">&nbsp;</p><p align="left">そして金曜日の勤務も17時に近づく中、佐藤から土曜日の休日出勤の打診をされた。</p><p align="left">「わかりました」分かってましたという感じで即答した千鶴に佐藤は言った。</p><p align="left">「畝さん、最近やる気に満ちてますね。」いつもなら佐藤の笑顔に答えることもなかった千鶴だが</p><p align="left">その後、土曜日の夜は飛べるそう思うと気持ちが和らいでいた。</p><p align="left">土曜の休日出勤を終えて帰宅した千鶴はラフなシャツとジーンズに着替え、</p><p align="left">ベッドの上に乗ると香水瓶を手にして蓋を開けた。</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12513206925.html</link>
<pubDate>Wed, 28 Aug 2019 12:13:12 +0900</pubDate>
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<title>第三話　参列</title>
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<![CDATA[ <p align="left">木々に囲まれた道を抜けるとあたりは広がりを見せた。<br>石畳の階段を降りると道は先に見える建物へと通じていた。<br>最初に見た建物は四角いクリーム色の家で石で出来ているようである。<br>となりも同じような形でこれも薄い黄緑色である。<br>今度は家に囲まれた道を進むことにした。<br>しばらく歩くとある家の前にかなりの人が集まっている。<br>お店か何かがあるのかと千鶴は近づいてみた。<br>だれかが家の高い位置から集まる人々に手紙を読んでいるようだ。<br>声が聞こえないので千鶴は思い切って声の届きそうな場所に移動した。<br>すると大勢の人だかりの中心には高級そうな荷台みたいなものが置かれていた。<br>そして手紙が読み終えられるとその家の中から数名の人たちの手によって柩が運ばれてきた。<br>「ちょっと道を開けて」スペースを確保する係りのような人の広げる手で千鶴は外側へ後ずさりした。<br>&nbsp;<br>そして掛け声とともに柩は豪華な作りの荷台に乗せられた。<br>そして数名が荷台の周りに配置すると先頭の人が声をかけた。<br>「大丈夫、じゃあ行くよ」<br>その様子をボケっと見つめている千鶴に荷台に配置している人が声をかけた。<br>「ほら、そこのあなたそこついて！」<br>荷台の左後方のそばに立っていたためか千鶴は荷台を押すことになった。<br>行き先もわからず荷台を押すことになったがそんなに重くないため、まあいいかと思った。<br>そして荷台と一緒に歩む人々の会話が聞こえてきた。<br>「本当にさっきのが通り雨でよかったわね。」<br>「本当ね。今はこんなに青く晴れてロイばあちゃんは喜んでいるわよ」<br>ここで千鶴は故人がロイばあちゃんだと知った。<br>そしてどの世界も葬式は同じような会話をするんだなとも思った。<br>やや坂道は力を必要とした。周りを見渡すと町並みからずいぶん離れていた。<br>気候にはあまり似合わないヤシの木がところどころと見て取れた。<br>石で造られた門を通過すると芝生が映える墓地へとたどり着いた。<br>「こっちこっち右に曲がるよ」先頭の誘導とともに荷台はその目的地にようやくついたようだ。<br>そこには事前に掘られた穴があり、力がありそうな数名の人たちで柩を穴の中に収められた。<br>ヤギ系の神父がお祈りを始めた。<br>それに習うように皆がお祈りをはじめると千鶴もそれに従った。<br>そして神父が一輪の花を投げ入れるとそれを合図に横に盛られていた土で穴を埋め始めた。<br>オーバーオールを着た男の人たちが行うのを見て参列者は力仕事をしないんだと思った。<br>これは業者さんがやるんだ。千鶴はひとつ学んだ。<br>すると参列者は各々会話をしながら元きた道をのびのびと帰りだした。<br>千鶴もその人ごみに紛れて歩いた。<br>&nbsp;<br>しばらく周囲の会話を耳にしながら歩くと先ほどの家にたどり着いた。<br>玄関先には家人と思われる女性がエプロン姿でお出迎えしていた。<br>「みなさんこちらです。どうぞ中へ」<br>その言葉に誘われるまま千鶴は周囲に流されるように家の中に入っていった。<br>部屋は広く、センスの良い飾りが施されており、先程まで葬式を執り行っていたとは思えないものだった。<br>立食式の料理がところどころ用意され、周囲にはいろんな形の椅子が置かれていた。<br>部屋の中はどちらかというとパーティーのようだった。<br>皆はそれぞれ無造作に配置されている椅子に座った。<br>自分は座って良いものなのか立ち尽くしていると先ほど千鶴の前で荷台を押していた<br>男性が千鶴の手を引っ張り自分の座る横の椅子に座らせた。<br>その椅子は小さいテーブルを囲んで多くの椅子が円を築いていた。<br>その中心にあるテーブルにトカゲ風の男がグラスを大量に運んできた。<br>「みんなマルゲリータでいいだろう？」そう言ってグラスを椅子に座る一人一人手渡ししていった。<br>そして彼もグラスを手にして千鶴が座る椅子に座った。<br>千鶴は手を引いてくれた男性からグラスを受け取った。<br>そして千鶴はグラスを手に周囲を見渡した。<br>まったく知らない面識のない人がいろんな形の椅子に座っていた。<br>そして千鶴が座るテーブルには7つの椅子で囲われている。<br>私は今その輪の中にいる。そう思うとなんとも大胆なことをしているなと心で感じた。<br>「みんないい？グラス持っているよね？じゃあくたばったロイおばさんに乾杯！！」<br>周りは声高らかに乾杯と叫んだ。周囲を見渡すと同じくあちこちで乾杯しているみたいだ。<br>部屋の中は30人以上いるみたいだ。<br>この異様な場所に千鶴は戸惑った。<br>すると隣に座る千鶴の手を引いた男が話しかけてきた。<br>「さっきはご苦労さま。私の後ろで一生懸命押してくれたね。おかげで私は楽ができたよ」<br>そういうと千鶴のグラスにグラスを合わせた。</p><p align="left">周囲に馴染めず固まる千鶴の姿を見つめて彼は話を続けた。</p><p>「君どうしたの？お酒は嫌い？なら食べ物とってこようか？」</p><p>「大丈夫です。それより乾杯するんですか？」</p><p>「乾杯が可笑しいのか？」</p><p>「いえ、おかしいとかではなくてなんていったらいいんですかね」</p><p>そう口ごもる千鶴にとなりの男性が千鶴に言った。</p><p>「君ならどうするんだい？」</p><p>「献杯ですかね」</p><p>その会話を聞いていたトカゲ系の男が口をはさんだ。</p><p>「けんぱいだって？なんだいそれは？フェンチ風なのかい？」</p><p>周囲は声を出して笑った。</p><p>千鶴はとなりの男性に聞いてみた。</p><p>「フェンチ風ってなんですか？」</p><p>「フェンチだよ。この国の裏側にある貴族ばかりいるフェンチのことだよ」</p><p>どうも国か地名のことのようだ。</p><p>「君はどうもどこか遠いところから来たみたいだね」</p><p>「ええ」千鶴は返事をした。</p><p>「ロイ婆さんとはどんな関係なのかね？」</p><p>「こちらの故人とはなにもご縁がありません。今日初めてこの街に来たの」</p><p>そう千鶴が答えると一同が少し驚いた。</p><p>その様子をみて千鶴が口を開いた。</p><p>「ここに居てはいけなかったかしら？」</p><p>「そんなことはないよ。あなたは荷台を押したんだし、ロイ婆さんは大のパーティー好きだったからね、あなた呼ばれたんだよ。ロイ婆さんに」</p><p>「そうなんでしょうか？」</p><p>するとトカゲ系の男が千鶴に向けて言った。</p><p>「そうだよ。とりあえず酒飲んで騒ぎなよ」</p><p>千鶴はそう言われると先ほどの疑問を思い出した。</p><p>「皆さん、お葬式なのに黒い服を着ないんですか？」</p><p>そう言うと千鶴の向かいに座っている男が口を開いた。</p><p>「君だって黒い服を着てないじゃないか？」</p><p>そしてまた一同が笑った。</p><p>「いえ、私は通りかかっただけですので・・・ちなみにバンパラじゃないですよ」</p><p>「それはわかるよ」となりの男が言った。</p><p>「なんだか本当にずいぶん遠いところから来たみたいだね。」隣の男が言うとその隣の男が言った。</p><p>「ゆうことおんなじところから来たんじゃないのか？」</p><p>「ゆうこさん？」千鶴が訪ねた。</p><p>「ゆうこが来た時もそんな感じだった。よく似てるよ」</p><p>そういって隣の隣の男がグラスを飲み干すと席を立った。</p><p>「ゆうこさんを呼びに行ったんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「いや～あれは酒を取りに行っただけだよ。ゆうこの姿はまだ見ていないしな」トカゲ系の男が言った。</p><p>「そうだまだ名前聞いていなかったね。みんな自己紹介をしよう。僕は三ツ矢さっき席を立ったのが佐久間そのとなりが仕切り屋のトム」</p><p>「おい！変なイメージ植え込むなよ」トカゲ系の男が言った。</p><p>「そのとなりがディムとそのとなりが弟のジャム」そう紹介されると二人同時にグラスを上げて千鶴にあいさつをした。</p><p>「そしてそのとなりの耳が大きいのが佳祐」</p><p>「時計の御用ならいつでも言ってください」佳祐がそう言うとトムが口を挟んだ。</p><p>「やめときな壊れてもいない時計を壊れてるって言って高いの買わされるぞ」</p><p>そう言うと一同が笑った。</p><p>「言っとくけどこの間のこと言ってるみたいだけどあれ本当に壊れていたんだからな！！それにお前さんがかった時計いい時計だろう！」</p><p>「なんだよ！怒ってるのかよ！」トムが佳祐に言った。</p><p>「別に怒ってなんかいないよ」</p><p>「嘘つけ！耳がピンと立ってるぞ！うさぎ系は嘘つけないな」</p><p>そう言うと佳祐の方を見て皆が笑った。</p><p>隣のジャムが佳祐の耳を下げようと耳を下になでおろした。</p><p>「佳祐！買った時計は確かにいい時計だ」トムがそう言うと二人はグラスを上げて挨拶を交わした。</p><p>「もういいかい？そして一番端に座っているのがゴードン、レオ・ゴードンだ。」</p><p>「よろしく」レオはクールに挨拶した。</p><p>「たてがみが立派ですね」千鶴がそう言うとトムが言った。</p><p>「ライオン系はいいよな。すぐ褒められる。ただお嬢さん、こいつとトランプするなよ」</p><p>「どうしてですか？」</p><p>「すぐイカサマするからな」</p><p>するとレオが言った。</p><p>「イカサマが見破れない方が悪いんだよ」</p><p>「フィ～」ジャムとディムが口笛を鳴らした。</p><p>「言うね！」そう言いながら佐久間が中央にあるテーブルに取りに行ったお酒のグラスを４～５個置いた。</p><p>「みんなチーズとサラミも持ってきたよ。」そう言って佐久間はお皿もおいた。</p><p>三ツ矢はチーズに手を伸ばしながら千鶴に言った。</p><p>「それでお嬢さんのお名前は？」</p><p>「千鶴って言います。」</p><p>「なかなか可愛い名前じゃないか」トムが言った。</p><p>「もしかして名前を褒められたの初めてかもしれません」千鶴が言った。</p><p>会場では音楽が流れ始めた。</p><p>「そう。皆さんここお葬式会場ですよね？」</p><p>「そうだけど」三ツ矢が答えた。</p><p>「こんなに騒いじゃっていいんですか？」</p><p>そう言うと一同は笑った。</p><p>「ほら！むかしゆうこが言ったのと同じこと言ってるよ」佐久間が言った。</p><p>「そうなんですか？」千鶴が言った。</p><p>「たしかにゆうこもそんなこと言っていたっけね・・・」三ツ矢が言った。</p><p>「千鶴ちゃんって言ったね。あなたの国ではどうなのか判らないがここでは葬式はパーティのひとつなんだよ」</p><p>「そうなんですか？」千鶴は驚いていった。</p><p>「もしかして喪に服すとかってやつかね？ゆうこが来たばかりの時もそんなこと言ってたね」</p><p>佐久間が言った。</p><p>「なんかそんなこと言ってたね」トムが相槌をうった。</p><p>レオがグラスを空にしてテーブルに置かれている新しいグラスと交換しながら言った</p><p>「お嬢さん、ここでは死は悲しいことじゃない。新たな旅立ちなんだ。それをお祝いしてあげるだよ」</p><p>「それと今までこの世界で楽しい思いさせてくれた周囲のみんな、我々のことね。それにお礼をするためその家がパーティーを開くのさ」トムが付け加えた。</p><p>そういい終えるのを待っていたかのように奥の部屋で楽しげなピアノの音と歌声が流れてきた。</p><p>その音に聞き入っている千鶴に三ツ矢が言った。</p><p>「この歌はリサだよ。彼女の歌は抜群だよ。」</p><p>「お酒にも合うしね」そういってジャムが新しいグラスを手にした。</p><p>「こうなんで鳥系は歌がうまいんだろうね」トムが言った。</p><p>「千鶴さん、だからみんなは死ぬまでに多少のお金を残すのさ」佐久間が言った。</p><p>「兄さんの時は俺が払うことになるな」ジャムが言った。</p><p>「お前そんなに貯金ないのかよ」佐久間が尋ねた。</p><p>「俺をそんなに早く殺すなよ！まだ時間はあるだろう」そう言いながらディムはお酒を口にした。</p><p>そんな話を聞きながら音楽も流れていたこともあり、千鶴はマルゲリータの力も借りてとてもいい気分になった。</p><p>「あんたは歌はうまいのかね？」千鶴にディムが尋ねた。</p><p>「私さっきも言いましたけどバンパラじゃないので」</p><p>「そうかそれは残念だ」ディムは椅子に背を預けた。</p><p>「しばらくはこの街にいるのかね？」三ツ矢が尋ねた。</p><p>「ええ！できればというか目が覚めるまでかしら」</p><p>そういうと一同がう～と声ではやし立てた。</p><p>「千鶴さんなんか意味深だね」三ツ矢が言った。</p><p>「なんかもっとこの街の事、みなさんのことを知りたいなって思って」</p><p>「何事も興味を持つことは大事だよ」レオが言った。</p><p>「三ツ矢ちょっと教えてやれよ」トムが言った。</p><p>「そうだね。そこのカウンターに座っているのが仲のいい兄妹の大和と小町」</p><p>「すごくかわいいわね」千鶴が言った。</p><p>「特に妹は見るからに美人で小町は街では大人気だ！」トムが言った。</p><p>「なんで猫系の女性って人気なんだろうね」佐久間が言った。</p><p>「猫系は美人が多いいからな」三ツ矢が言った。</p><p>「大和さんでしたっけ？お兄さんも美形ですね」千鶴が言った。</p><p>「お嬢さんやめときな。あの兄弟の間には入れないよ」トムが言った。</p><p>「そうなんですか？」千鶴が言った。</p><p>「ああ！ものすごく仲がいいんだ」トムが言った。</p><p>「でも兄妹でしょう？」千鶴が言った。</p><p>「兄妹でも尋常な仲良しじゃないんだよ。うるさいぞどっちにしても」</p><p>そういうと一同は笑った。</p><p>「でもいつか小町とは食事でも行きたいね」佐久間が言うとトムが言った。</p><p>「お前結婚してるだろう！！象のかみさんに踏みつぶされるぞ！！」</p><p>「象のかみさんって言うなよ！！」佐久間が言った。</p><p>「佐久間さんは結婚してるんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「この中では独身はレオだけだね」トムが言った。</p><p>「お前小町ちゃんどうだ？」佐久間が言った。</p><p>「やめてくれよ。いくつ離れてると思ってるんだ？」レオが言った。</p><p>「お前いくつだっけ？」トムが尋ねた。</p><p>「今年で40だよ」レオが答えた。</p><p>「小町ちゃんいくつだっけ？」佐久間が言った。</p><p>「たしかうちの娘の5つ上だから21かな」トムが言った。</p><p>「21・・・私より年下なんですね」千鶴が言った。</p><p>「その兄弟の隣の席に座っているのが直角じじいだ」</p><p>「直角じじい？」</p><p>「そう。直角じじいこの辺じゃちょっとした有名人だよ」</p><p>「なんで直角じじいって言うの？」</p><p>「まあ、見てな。」三ツ矢が言った。</p><p>「三ツ矢、お前から見えるか？やつの前にグラスいくつ置いてある？」三ツ矢にトムが尋ねた。</p><p>「ジョッキ3つかな？」三ツ矢が答えた。</p><p>「じゃあそろそろだな。」ティムがそういうと直角じじいが席を立った。</p><p>それを見て三ツ矢が千鶴に言った。</p><p>「千鶴さん、彼を見ててみな。今からトイレに行くみたいだ」</p><p>頷いて千鶴は直角じじいを見つめて言った。</p><p>「あの人は黒い服着てるんですね」</p><p>「違うよ。やつはいつもあの格好なんだよ」三ツ矢が答えた。</p><p>「なあ、佐久間いつもあの服だよな」三ツ矢がとなりの佐久間に同意を求めた。</p><p>「千鶴さん、やつはいつもあの格好なんだ。夏でも冬でもあの黒いコートを着ているよ」</p><p>「暑くないんですか？」千鶴が聞いた。</p><p>「今度機会があったら聞いてみれば？」トムが言った。</p><p>すると席を立った直角じじいはトイレがあるとなりの部屋に入ったとき、一度制止して立ち止まった。</p><p>三ツ矢が直角じじいから目を離している千鶴に左肘で彼の方を見るよう合図を送った。</p><p>するとすぐさま、制止した状態から左に体のむきを90度まげてまた前に進んでいった。</p><p>「なあ、直角だろう」三ツ矢がそう言うと皆は笑った。</p><p>「いつもああなんですか？」千鶴が皆に尋ねた。</p><p>「そうだよ。町中でも普段からああやって直角に曲がって歩くんだよ」三ツ矢が答えた。</p><p>「もしかして元軍隊とかですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「いや、そこまでは知らない。ただ彼にはまだ秘密があるんだよ」三ツ矢が言った。</p><p>「どんな秘密ですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「ちょっと頭がイカレてるっていうか・・・お金を燃やす趣味があるんだよ」</p><p>千鶴を驚き思わず声が大きくなった。</p><p>「何でお金を燃やすんですか？」</p><p>「さあね、イカレているやつの事なんかわからないよ。ただ奴は金持ちだということはわかっている」トムが答えた。</p><p>「奴はね。木に覆われた古風な屋敷に住んでいてね。その屋敷に大きな庭がある。その庭は外の道からは見えないんだ。」三ツ矢が言った。</p><p>「俺たち小さい頃はその木の間を潜って奴の庭に侵入してたき火の後を探すんだよ」ディムが説明しだした。</p><p>「探してどうするんですか？って勝手に人の家の庭に入るのは犯罪じゃないですか？」千鶴が言った。</p><p>「まあ、その辺りは子供の頃なので大目に見てよ。それでね、そのたき火の後を見つけると持ってきた木べらでそこを掘るんだよ」ディムが続けた。</p><p>「あのころよく掘ったな」ジャムが思い出しながら口をはさんだ。</p><p>「掘ると何かが出てくるんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「焼けたコイン。つまりお金が出てくるだよ。札は紙だからみんな燃えてしまうけど」ディムが言った。</p><p>「たまに燃えかすで紙幣の端っこが残ってたりするけど、そんなのは価値がないからね」ディムが続けた。</p><p>「もっていった空き缶に土ごと館につめて持ち帰るんだよ」</p><p>「それって泥棒じゃあ・・・・」心配そうに千鶴が言った。</p><p>「良いんだよ！奴はいらなくて燃やしているんだから」トムが弁明するかのように言った。</p><p>「でもあれって今考えると泥棒だよね。」ジャムが言った。</p><p>「冷静に考えれば不法侵入に強奪だもんな～」感慨深げに三ツ矢が言った。</p><p>「それでそのお金をどうすんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「公園の水道で洗うんだよ。ただほとんどが真っ黒で使えないから郵便局に行って交換してもらうんだよ」ディムが答えた。</p><p>「ええ？交換してくれるんですか？」千鶴は驚いた。</p><p>「窓口のおばちゃんにまた行ったのねって小言と言われるけど、子供の頃の1000ドラっていったら大金だったからね。」ディムが答えた。</p><p>「それを行ったもので山分けするのさ」レオがタバコを加えながら語った。</p><p>「それ直角じじいさんは怒んないんですか？」千鶴は疑問をぶつけた。</p><p>「見つかったら怖いよ。どこまでも追っかけてくるからね」ディムは笑いながら言った。</p><p>「なので見張り2人で掘り起こしが2人がベストだね」当時を思い返しながらジャムが言った。</p><p>「よく警察に通報されませんでしたね」千鶴が言った。</p><p>「たしかに今思えばね。彼に取って焼いたお金に興味は無かったと思うよ。庭に入った事が嫌だったと思うよ」三ツ矢が冷静に意見を述べた。</p><p>どっちも嫌でしょう。千鶴は思ったが言葉にはしなかった。</p><p>「まあ、スリルがあって面白かったな」トムが思い出しながら言った。</p><p>呆れた人たちね。そう思いながらお酒を口にして音楽が流れる方を見つめると衝撃的なものが目に写り、千鶴は一瞬のけぞった。</p><p>「三ツ矢さん。大変！あれみて」</p><p>「ん？どれ？」</p><p>「あれは大丈夫だよ」三ツ矢が千鶴を安心させるように言った。</p><p>「どうした？」少し中腰になってトムが言った。</p><p>「佐野登だよ」三ツ矢が言った。</p><p>何が大丈夫なのか千鶴には理解できなかった。</p><p>いかにもお酒にだらしなさそうな男性がケーキナイフを持って暴れている。</p><p>「あれね、暴れているんじゃなくて踊っているだけ」不安な表情を浮かべる千鶴を危惧してトムが言った。</p><p>「ナイフ持ってるじゃない！！」千鶴が声を荒げた。</p><p>「あれね、いつもの事だから。奴はいつも刃物を持って踊るんだよ。祭りのときもそうだよね？」トムが言うと三ツ矢が答えた。</p><p>「ああ、彼はいつもそうだよ」</p><p>「危ないじゃない！！」安心できない千鶴が言った。</p><p>「人をさしたりはしないよ。そうだな王族の前で踊るベリーダンスってあるだろう。あれ剣をもって踊るじゃない。それと同じだと思って」千鶴を灘ねるように佐久間が言った。</p><p>全く持って千鶴は思えなかった、どうみても通り魔にしか見えない。</p><p>「あんなことして警察には捕まらないの？彼のご家族とか止めたりしないんですか？」千鶴が上ずりながら言った。</p><p>「そうだね、しないね。そもそも彼に家族とかいたっけ？」落ち着いた口調で三ツ矢が言った。</p><p>「佐野登に家族？知らないね。そもそも彼の名前すら知らないからね」そう言いながらレオは3杯目のグラスを手にした。</p><p>「今皆さん、佐野登って言ってましたよね？」千鶴が尋ねた。</p><p>「それは通称ね。本名は誰も知らないよ」ディムが言った。</p><p>「通称？どういう事ですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「だからそう言う事だよ。誰がそう言いだしたかは知らないけど彼を佐野登って呼ぶようになったけどどうも本名じゃないらしい。わかっているのはそれだけ」トムが説明した。</p><p>全くついていけないこのノリに面食らった感じだった。</p><p>私この街についていけるかな？</p><p>そんな表情を浮かべたせいか千鶴に向かってディムが言った。</p><p>「この街に当分いるつもりなんだろう？」</p><p>「できれば」千鶴が答えた。</p><p>「だったら仕事見つけなきゃね」ディムが続けた。</p><p>「仕事ですか？」</p><p>「たしかあそこ募集してたよね」思い出したかのように三ツ矢が言った。</p><p>「あそこって？どこ？」佐久間が反応した。</p><p>「蔵人だよ」三ツ矢が言った。</p><p>「ああ。蔵人なら良いね」トムが言った。</p><p>「蔵人ってなんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「この街の老舗のバーだよ」三ツ矢が言った。</p><p>「そうだね。たしか蔵人カウンターの女の子探していたね。」ディムが言った。</p><p>「あそこなら良いよ。働いていると常連さんが仕事紹介もしてくれるかもね」トムが続けた。</p><p>「私お酒飲めないんですけど大丈夫ですか？」千鶴が言った。</p><p>「大丈夫。カウンターでお酒つくってれば良いだけだから」トムが言った。</p><p>「後は今みたいに俺らと話しをしていれば大丈夫だよ」三ツ矢が言った。</p><p>「そうなんですか・・・」千鶴は半信半疑だった。</p><p>「その蔵人ってどこにあるんですか？」千鶴が尋ねた。</p><p>「この家を出て前の道を左に行ってすぐを左に曲がってまっすぐ行くと街の中心の噴水広場に出る。そこから見える飲屋街の道をまっすぐ行くと左側に見えるよ」三ツ矢が説明した。</p><p>「口で言ってもわかんないよ。レオマッチ持ってなかったか？」トムが言うと</p><p>レオはポケットを探った。</p><p>「持ってたよ」そう言ってレオがマッチを千鶴に差し出した。</p><p>「そのマッチに適当な地図が書いているだろう。そこに行ってみな」レオが言った。</p><p>「ありがとう。今度行ってみますね」千鶴が礼を言った。</p><p>「だがまだ時間が早いよ。マスターまだ店に来てないでしょ」ディムが言った。</p><p>「何時に開くんだっけ？」ジャムが尋ねた。</p><p>「18時かな？」ディムが答えた。</p><p>「まだ13時だよ。後5時間あるよ」トムが腕時計で確認した。</p><p>「それ良い時計だな」佳祐が言った。</p><p>「うるさいよ。」トムが言った。</p><p>千鶴はマッチを上着のポケットにしまった。</p><p>すると体格のいい女性が千鶴の席の横を通った。</p><p>「ゆうこじゃん。今来たの？」ディムが声をかけた。</p><p>「もう酔っぱらってるの？」裕子が言った。</p><p>「ねえ、裕子この子知ってる？もしかしたら同郷じゃないかってみんなで話していたんだ」</p><p>そう言われ裕子はディムが顔でさした千鶴の方に目を向けた。</p><p>千鶴は裕子と目が合うと軽く会釈をした。</p><p>すると裕子は千鶴のそばに歩み寄った。</p><p>「あなた名前は？」</p><p>「畝って言います。畝千鶴です。」</p><p>「いつからいるの？」</p><p>「ばあさんのお棺運ぶときからだよな」佐久間が言った。</p><p>「あなたに聞いてない！」裕子が佐久間に鋭い視線を向けた。</p><p>「おっかねえ！！なんだよ裕子」佐久間がのけぞった。</p><p>「あ。ごめんなさい。ちょっとまだお酒飲んでないから」</p><p>「ほら。グラスとってあげなよ」トムが千鶴に言った。</p><p>テーブルにあるグラスをとって裕子に差し出す千鶴の手を裕子はつかんで座っている千鶴を立たせた。</p><p>「ちょっと来て。」そう言って千鶴の腕をつかんだまま隣の部屋に連れ出した。</p><p>「おいおいおい、どこ行くんだよなんだよ。裕子どうしたんだよ？まだ話をしているのに・・・」皆から一斉に言葉を浴びた。</p><p>裕子はそんな言葉を無視して千鶴の腕を引っ張って隣の部屋に向かうと家人を見つけて言った。</p><p>「京子ちゃん、ちょっとこの部屋借りるわよ」</p><p>「どうぞ。好きに使って」</p><p>裕子はロイばあさんのお孫さんの京子の了承を得るとドアを開け小部屋に千鶴を連れて入った。</p><p>そして千鶴をベットの横にある椅子に座らせた。</p><p>「あなたどこからどうやって来たの？」</p><p>「どこって遠いところかな？」</p><p>「そうじゃない。東京？大阪？」</p><p>「東京です。」</p><p>「どうやってきたの？もしかしてアリスに連れてこられたの？」</p><p>「アリスって誰ですか？」</p><p>「アリスじゃなさそうね。じゃあどうやってここに来たの？」</p><p>「えっと香水かいだら眠くなって気づいたら丘にいて・・・」</p><p>「香水？あれがまだあるの？とりあえず良いわ。時間はどれくらい経った？」</p><p>「どうでしょう。6時間？くらいですかね？もっとかも」ドギマギしている千鶴を急かすように裕子は言った。</p><p>「すぐに横になって」</p><p>「横にって？」</p><p>「あなたの横ベッドがあるでしょう。早く！！」</p><p>裕子の勢いに負ける形で千鶴は横になることにした。</p><p>「靴は脱がないでそのままで良いから」</p><p>そう言われるままに千鶴は横になった。</p><p>そして裕子は部屋を見回すとガラスの小瓶を見つけてにおいを嗅いだ。</p><p>「これが良いわ」そう言うと横になる千鶴の鼻のそばに近づけた。</p><p>そして千鶴の額に手のひらを置いて千鶴に言い聞かせた。</p><p>「良い？畝さん、大きく息を吸って。そしてもうここに来てはダメよ。わかったわね。2度とここに来てはダメよ」</p><p>そう言いながら小瓶の香りを千鶴に嗅がせた。</p><p>するとお酒の力もあってか千鶴は次第に眠くなってきた。</p><p>「良い？畝さん、もうここに来てはダメよ。わかったわね。2度とここに来てはダメよ」</p><p>裕子の言葉がだんだん微かに聞こえなくなってきた。</p><p>そして瞼が重く感じ、とじなくてはいられなくなり、閉じると頭の中がとても気分よく感じてきた。</p><p>そして千鶴は深い眠りについた。</p><p>しばらくすると千鶴は日曜日用にセットしてる携帯のアラーム音で起こされた。</p><p>辺りを見回すと自分の部屋だと気づき、土曜日出勤したままの姿でベッドの上に寝ていた。</p><p>服のままで寝るなんてよほど疲れていたのかな？</p><p>そう思いながら鮮明な見た夢を思い出しながらテレビをつけた。</p><p>すると録画しているワイドなショーが映し出された。</p><p>今日は日曜日かそれにして不思議な夢だったわね。</p><p>そんな事を呟きながら冷蔵庫をあけ、ミルクを取り出し、グラスに注いだ。</p><p>そしてミルクを口にして夢さめた事を少し残念に思った。</p><p>「ちょっと楽しかったわね。またあんな夢見れないかしら？」</p><p>そして家に飾られてあるカレンダーの日付を確認して明日がもう仕事である事を認識すると気持ちが沈んだ。</p><p>「明日からがんばんないと！」そう言って沈んだ気持ちを生活の為に鼓舞した。</p><p>そして部屋を歩いているとすこしの体の疲れを感じた。</p><p>体の疲れは長い夢を見たせいだと思いながらベッドに座って横に倒れた。</p><p>その時、千鶴は服の中に何かものが入っている</p><p>感触があった。。</p><p>横になったまま上着のポケットに手を入れるとマッチを取り出した。</p><p>寝ながらマッチを掲げてみるとそこには蔵人と書かれていた。</p><p>千鶴はニヤッと微笑んだ。</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12486388604.html</link>
<pubDate>Wed, 26 Jun 2019 12:24:51 +0900</pubDate>
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<title>第二話　森を抜ける</title>
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<![CDATA[ <p>1本道を歩いていると木がまばらに目につくようになった。<br>そして気がつくと木で覆われた森の中を千鶴は歩いていた。<br>しばらく気がつかなかったのは千鶴の世界では見た事のない<br>鮮やかな色の草木に目を奪われていたからだ。<br>花はあまり見かけないが草の大きさと形に見とれ歩いていた。<br>千鶴はまるでルソーの絵を見回る美術館を歩いている気分でいた。<br>髪にたまった雨が首筋を伝わり、服の隙間を見つけ背中にはいり込み、<br>いたずらをするまで雨が降り出したことにも気づかなかった。<br>左手で濡れた髪を確認すると雨を凌げるところを探し出した。<br>「さっきまで快晴だったのに・・・・」<br>雨は辺りを鮮やかな緑にやや深みを与えた。<br>千鶴は次第に小走りになり先に進みながら辺りを見回した。<br>すると道の先に大きな葉を見つけた。<br>日本、いや地球では見かけることのない大きな茎に千鶴の身長よりも高い位置にある大きな葉。<br>この下なら雨から逃れられるそう思った千鶴は一目散に走った。<br>葉の下につくと思ったとおり雨は凌ぐことができた。<br>千鶴は前かがみで呼吸を整えていると左の視線ギリギリに緑色の物体があることに気づいた。<br>「おれが先にいたんだけどな」<br>緑色の物体のほうから声がした。<br>状態を起こし、左を向くと大きなカエルがダンディな格好をして雨宿りをしていた。<br>千鶴は驚きのあまり声が出なかった。<br>するとダンディなカエルは葉の上を覗きながら話し続けた。<br>「これは通り雨だよ。すぐに止むよ」<br>これってやはり夢よね。<br>驚きの表情のままダンディなカエルを見つめていると彼は千鶴を見つめ話しだした。<br>「俺の言葉分かるか？それともカエル系を見たのは初めてか？」そう言って苦笑した。<br>するとダンディなカエルは表情を和らげた。<br>「そうかね？俺は大きいほうかな？」そういって内ポケットから葉巻を取り出した。<br>「吸ってもいいかね？」千鶴に尋ねた。<br>「どうぞ・・・」ダンディな格好をしている人はカエルでも葉巻を吸うんだ。そう千鶴は思った。<br>「君も吸うかね」ダンディなカエルは千鶴に葉巻を勧めた。<br>「あ、いえ・・・私タバコとか吸わないので」<br>千鶴がそう言うとダンディなカエルは1本咥えるとほかをジャケットの内ポケットにしまった。<br>そしてダンディなカエルは葉巻をふかしながら千鶴に手を差し出した。<br>「ピエールだ」<br>千鶴は一瞬固まったが彼が自己紹介していることに気づいた。<br>そして彼が差し出した手に握手をした。<br>「千鶴って言います」<br>「千鶴ちゃんか。可愛い名だ」<br>「あ、はい。ありがとうございます」<br>千鶴はピエールの手を見つめていた。<br>「ん？なにかね？私の手がどうした？」<br>「いえ、水かきとかないんですね」<br>するとピエールは不機嫌な顔に変わった。<br>「お嬢さん、あんた遠くから来たね」<br>「わかります？」千鶴は驚きながら言った。<br>「本当に遠くから来たんだね」すこしピエールの表情が和らいだ。<br>「いいかいお嬢さん、どっかから来たのか知らないが今のは差別発言だぞ」<br>そう言われ千鶴は驚いた。<br>頭がついていけず、咄嗟に謝ろうとしても言葉が出ない。<br>するとピエールは葉巻をふかし口から離すと言葉を続けた。<br>「あんただって尻が赤くないのか？とかしっぽがないねって言われたら気分悪くするだろう。まあ、俺だからいいがこの先は言葉に気をつけるんだな」<br>そう言われ千鶴はやっと言葉を出すことができた。<br>「ごめんなさん、そんなつもりじゃ・・・」<br>「まあ、もういいや」そう言うとピエールは葉巻を楽しんだ。<br>しばらくして雨音が続いた。<br>「あんたこれからどこに行くんだ？」ピエールが尋ねてきた。<br>「えっと・・・水の街か火の街へいこうと思ってます」<br>「火の街か、あそこはどうかな」<br>「なんかあるんですか？」<br>「いや、水の街の方がいいかなって思ってね」<br>「水の街の方がいい街なんですか？」<br>「いや、バーが多いからね」<br>「バーってお酒を飲むバーですか？私お酒飲めないからどうかな・・・」<br>そう答えるとピエールは不思議そうな顔をして言った。<br>「あんたバンパラじゃないのか？」<br>「バンパラ？」<br>「そうバンパラだよ。違うのか？」<br>「バンパラってなんですか？」<br>すると宛が外れた感じでピエールは答えた。<br>「バンパラだよ。あんた本当に随分遠くから来たんだな」そう言って笑った。<br>千鶴はその言葉を黙って考えているとピエールは葉巻の火を消して胸ポケットにしまった。<br>「街から街へ旅しながら歌を歌うバンパラだよ。俺はあんたがそうだと思ってね。違うんだね」<br>「旅して歌を歌う・・・それって旅芸人ですかね？」<br>「ちょっと違うけど大きく外れてはいないな」<br>「覚えました。」<br>千鶴がそう答えると雨は次第に勢いを失っていった。<br>「お嬢さん、雨がそろそろ止みそうだね」<br>「そうですね」<br>そう言って千鶴は葉の上を伺った。<br>「ピエールさんはこれからどちらに？」<br>「俺は火の街を通って緑の街に帰るところだ」<br>「そうですか」<br>「あんたはどっちに行くのかわからないが・・・途中まで一緒だな」<br>千鶴は木々の葉からこぼれる雨の雫を見つめ気持ちが固まった。<br>「私水の街に行ってみます。」<br>そう言うとピエールは葉の下から1歩踏み出していった。<br>「酒も飲めないのに？」<br>「この雨がそう言っているように感じたの。ピエールさんもさっき勧めてくれたし」<br>「おれは勘違いして言っただけだけどね」と言って笑った。<br>そして二人は雨雲がさり、周囲に降り注ぐ木漏れ日を浴びながら葉の下をあとにした。<br>森の緑はまた鮮やかさを取り戻し、その美しさに囲まれた1本道を二人で会話を続けながら歩いた。<br>「あんたやっぱりどこか変わっているな」<br>「どんなところですか？」<br>「どんなところって具体的に言葉にはできないが匂いだよ」<br>「私そんなに匂いますか？」<br>「ああ、すこし香る程度だけどね。おい、本当にかぐんじゃない」<br>しばらく世間話を続けた。<br>「これ花かわっていて綺麗ですね。この花知ってますか？」<br>千鶴はピエールに訪ねながら花に手を伸ばした。<br>「その花に触るんじゃない」ピエールは語気を強めた。<br>千鶴の手は花の手前で止まった。<br>「その花は触っちゃいかん。猛毒だ」<br>「・・・そうなんですか？こんなに綺麗なのに」<br>「綺麗な花には毒がある。これ常識というか私の人生経験で得た知識だ」<br>「そうなんですか？」<br>「うかつに美人に近寄らないことだ」<br>そう言いながらピエールは赤い実をつけた花を見つけその実を手にして千鶴に手渡した。<br>「これなら大丈夫だよ。口に入れてみなさい」<br>千鶴は言われるまま恐る恐る口に入れた。<br>「あまい・・・」<br>「よく覚えておきなさい。このアケの実は甘くて美味しいがこっちのドンジョの花は花粉自体が猛毒だから触ってはいけない。もし触ったらすぐに手を洗うことだ」<br>「はい」千鶴は甘さを噛み締めながら返事をした。<br>ピエールにこの世界のうんちくを聞きながら道を進んだ。<br>そして分かれ道についた。<br>「お嬢さん楽しかったがここでお別れだ。俺は右、君は左だ」<br>「そうですね。ありがとうございます。ピエールさんもお元気で」<br>千鶴がそう言うとピエールは少し怪訝そうな表情を浮かべた。<br>「あんた水の街に知人とか友人とかいるのか？」<br>そう言われると千鶴は少し不安な表情を浮かべた。<br>「そうだろうな。」ピエールはそう言うとスラックスのポケットに手を入れ何かを探し出した。<br>「お嬢さん、これ持って行きな」<br>そう言って千鶴に数枚の紙を手渡した。<br>千鶴はそれがこの世界のお金だとすぐにわかった。<br>「これって・・・」<br>「いいんだ。道中退屈しなかったお礼だ。」<br>「でも・・・」<br>「少ないけど少しは役に立つだろう」<br>そう言って千鶴の指を折り曲げさせお金をしっかり握らせた。<br>そしてピエールは左の道へと歩みだした。<br>「ピエールさん、あ、あ、ありがとうございます」<br>千鶴はピエールの背に向かってお礼を言った。<br>「じゃあな、緑の街に来ることがあったら俺んちでもよってくれよ。それと何か困ったり迷ったりすることがあったら西に向かいなさい。」<br>そう言って前を向いて歩いたままピエールは手を振った。<br>「なんで西なんですか？西には何があるんですか？」<br>「向かえばわかるよ。」<br>「わかりました。覚えておきます」<br>千鶴は大きな声を出し、深くお辞儀をした。<br>「でるじゃねえか、その元気大事にしな」ピエールの声は次第に小さくなっていった。<br>そして千鶴は右の道へと歩き出した。<br>&nbsp;</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12484476092.html</link>
<pubDate>Sat, 22 Jun 2019 09:38:19 +0900</pubDate>
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<title>第一話　日々の移動</title>
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<![CDATA[ <p>強い日差しが降り注ぐ市民プールで、千鶴はお尻を浮き輪の中に入れて浮かんでいた。</p><p>千鶴には大人用の浮き輪は大きく、前進するため水面をかく両手の指は第1間接までしか届かない。</p><p>なかなか前へ進めない現状を打破するため思い切って浮き輪からお尻を抜き、体勢を変えようとした。</p><p>しかし大きな穴からなかなかお尻が抜けない。</p><p>そこで体を捻った反動で浮き輪からお尻を抜くことを思いついた。</p><p>イメージはまずお尻を抜いて浮き輪の上に寝そべり、そこから反転してお腹を浮き輪につけ、そこから足をおなかに引き寄せ浮き輪の穴に通す。</p><p>意を決し体をねじりながら浮き輪からお尻を抜くと、イメージとは裏腹に体は浮き輪から滑り落ち、小さな水しぶきをたてて千鶴の小さな体は浮き輪からはなれていった。</p><p>足もつかない5歳児にとって大人用プールは深海と同じだ。</p><p>普通は慌て、もがき暴れるところだが千鶴は何もせず身を任せていた。</p><p>先程まで耳に届いていた雑踏は遮断され、初めて体験する青い音のない世界。</p><p>間近に見える無数の大人の足を眺めながら静かに沈んでいった。</p><p>それはゆっくり下へむかうエレベータの窓を眺めている感覚に似ていた。</p><p>水の中で息もできないはずなのに苦しさを感じず、怖さも感じない。</p><p>地上では見ることのない水中の動き回る無数の足をプールの底に座り傍観していた。</p><p>大きな手が千鶴の小さい体を掴み、水面へと持ち上げた。</p><p>強い日差しを浴び呼吸を忘れていた千鶴は肺に一つ空気を取り入れた。</p><p>表情一つ変えない千鶴を見て大きな手の持ち主は笑っていた。</p><p>「もう。バカね」</p><p>その女性を呼吸の静かさと合わせるかのように黙って見つめるも太陽の逆光で顔がはっきり見えない。</p><p>千鶴の頭の中に言葉が巡った。</p><p>お母さんにありがとうって言わなきゃ、お母さんにありがとうって言わなきゃ。</p><p>&nbsp;</p><p>大きな笑い声にハッとし目を開けると千鶴はいつもの公園のベンチに一人座っていた。</p><p>腿の上には食べ終わったサンドイッチのパッケージが入ったレジ袋が置かれ、その上にはジュースのパックが今にも倒れそうな角度を絶妙に維持している。</p><p>隣のベンチからまた笑い声が聞こえた。</p><p>「土曜日でこんなに天気がいいのに仕事って最悪だと思わない？」</p><p>「したかないよ。全員休日出勤なんだから」</p><p>「それより二人とも昨日の夜、アレ見た？」</p><p>「私見た！ナナはムカつく彼のせいで見れなかったでしょう？」</p><p>「そうなのよ！</p><p>「それでさあ・・・・・」</p><p>また大きな笑い声が耳に届いた。</p><p>楽しげな3人の笑い声と制服が千鶴を少し羨ましい気持ちにさせた。</p><p>小さなバッグの中からスマホを取り出し時間を確認した。</p><p>ふうっと一つ息を吐くとベンチから腰を上げ、</p><p>まだ笑っている彼女たちが戻るであろう高層ビルを背に職場へと歩き出した。</p><p>&nbsp;</p><p>会社に戻り、いつものように業務を淡々とこなす。</p><p>隣の席の加藤はまだお昼気分が抜けていないらしく、左隣の桑原とまだしゃべり続けている。</p><p>同じような柄のスカートを履いているだけあって気が合うらしい。</p><p>しかし先ほどの公園での笑い声よりは気にならなかった。</p><p>そんな事を思いながら千鶴はデータを打ち続けた。</p><p>本日分の打ち込みが終わった事を確認し、肩と首を回しながら壁にある時計に目を向けると針は20時を過ぎていた。</p><p>後ろのシマから男性の声で微かにお先に失礼しますと聞こえた。</p><p>しかし千鶴はおろか誰もそれに反応はしない。</p><p>壁に掲げられているカレンダーと同じだからだ。</p><p>微かな声の持ち主も反応されたら戸惑う事だろう。</p><p>その数分後、帰り支度を始めようとしたとき、その様子を遠くの席から</p><p>伺っていた佐藤が千鶴に向かって声をかけた。</p><p>「畝くんちょっといいかな」</p><p>「はい」千鶴は浮かない顔を抑えながら返事をして佐藤の席に向かった。</p><p>「悪いけどこれもお願いできるかな。今週までってイコンから言われててさ。あそこ大手だから断れなくってさ・・・」</p><p>「わかりました」</p><p>書類を受け取り、帰りたい気持ちを上司の命令という言葉で上塗りし席に戻った。</p><p>うちの会社はブラックじゃない、ブラックにさせられている会社なのだと。</p><p>周りに気づかれぬよう小さく息を吐き、背筋を伸ばした。</p><p>少し強めに叩いたエンターキーの音が今日の仕事終わりを告げた。</p><p>気がつくと隣の加藤と桑原の姿はなかった。</p><p>時計に目を向けると針は22時すぎを指していた。</p><p>残業代に縛りがあるためこれで来週から残業代が出ないと頭の中で計算ができた。</p><p>千鶴は佐藤に報告を済ませると会社を後にした。</p><p>&nbsp;</p><p>帰宅の電車はいつものような朝と違い空いていた。</p><p>千鶴は人がなるべくいない一番端の席を見つけるとそこに座った。</p><p>ちなみに出勤時は入社して1年過ぎるが1度も座った事がない。</p><p>光が差し込む事のない窓ガラスを見つめながら大学時代は朝も座れていた事を思い出した。</p><p>大学を合格し、高校時代東京に遊びにきて楽しかった中野に住む事を夢見て不動産周りをしたのが5年も前の事だ。</p><p>しかし探し始めた3月上旬にはほとんどの物件が埋まりつつあり、</p><p>人気の中野には千鶴の手が出るような価格帯の物件はほとんど残っておらず、</p><p>金額が出せそうな残り物は女子大生一人が住むにはあまりにも似つかわしくないところばかりだった。</p><p>担当した営業の方のすすめで隣の東中野に絞る事にした。</p><p>軽自動車で案内された東中野は中野とはすこし雰囲気は違っていた。</p><p>山手通りが横たわるも街全体は落ち着いており、住みやすそうではある。</p><p>しかし10代の若者が求める賑やかさがまったく感じられない。</p><p>その分、中野の隣ではあるが価格帯もそれなりに押さえられていた。</p><p>「一駅で中野に行ける」そう思い、今の自宅でもあるワンルームマンションに決めた。</p><p>しかし大学を卒業して通勤先は中野とは逆方面の都庁前。</p><p>会社の帰りにちょっと寄っていく気が起こったのは勤務して最初の4月だけであった。</p><p>総武線なら一つ乗り過ごせば良いが通勤で使用するのは大江戸線である。</p><p><u>仕事疲れから</u>休日でさえ中野に足を運ぶ事もなくなり、</p><p>一駅先という事が中野を疎遠にさせた。</p><p>千鶴は座れた事もあり、目を閉じ睡眠を取る事にした。</p><p>しかし千鶴よりも先の駅から座っていた隣の女性二人の話し声が熟睡を妨げていた。</p><p>気にはなるがこの耳障りな会話のおかげで乗り過ごさずにいられると思う事にし、目だけは閉じることにした。</p><p>やはり会話の内容が頭の中へ入ってきてしまう。</p><p>「最近良い事あった？」</p><p>「最近ねぇ・・・・ないかな・・・ミマはなんかあったの？」</p><p>「私もないかな・・・去年の暮れが最後かな」</p><p>「あ～それもしかしてこの間の女子会で言ってたやつ？」</p><p>「そうなの。覚えてた？あれはほん・・・・・」</p><p>私は良い事っていままでで何かあったんだろうか。</p><p>そう考えだすと隣の話し声がだんだん千鶴の頭の中から薄れていった。</p><p>&nbsp;</p><p>「畝、畝」教室の窓から校庭を眺めていた千鶴を呼ぶ声が背中の方から聞こえてきた。</p><p>振り向くと電気が消された教室に差し込む夕日が床の色を2色に塗っていた。</p><p>その2色の境に声の主は立っていた。</p><p>「・・・佐伯くん？」千鶴が持つ同じ色のジャージを着ていた。</p><p>「さっきから何見てるの？」声の主は千鶴に近づくと夕日が顔をあらわにした。</p><p>「別に何も見てないよ。眺めていただけ。佐伯君はこれから部活？」</p><p>「まあね。それより今度試合があるんだ。見に来ないか？」</p><p>「え？！！私が！！！」</p><p>「バスケは知っているよね」</p><p>「いま体育の授業でやっているから」</p><p>「校庭を眺めるより楽しいと思うよ。今度の日曜日、うちの学校の体育館でするから良かったらおいでよ。それじゃあ」</p><p>人から誘いなれておらず、ましてや男子からの初めての誘いに戸惑う千鶴は佐伯が出て行ったため</p><p>一人きりになった教室。</p><p>千鶴は立ち上がり佐伯の後を追おうとするがなぜか足に力が伝わらない。</p><p>何でこんなときに・・・いったい私の足どうしちゃったのよ。</p><p>焦る気持ちと裏腹に千鶴の足はピクリともしない。</p><p>動いて・・・そう思いながら上腿を手で数度たたいた。</p><p>早く立って佐伯君に見に行くって伝えてなきゃ、早く立って佐伯君に見に行くって伝えてなきゃ。</p><p>焦りは募るばかりで足には力が入らない。</p><p>千鶴は早まる鼓動を抑えるため胸に手を置き念じた。</p><p>静まれ、静まったら足に力が入ってよ！今よ、早くたって！</p><p>目を開くと電車の座席に座っていた。</p><p>電車のドアが開いており、その先には東中野の表示が見えた。</p><p>千鶴は反応して立つと閉まるドアに体をかすめながらホームに降りた。</p><p>人目を気にして顔が上げられず、うつむいたままひとつ息を吐くと乗車していた車両は次の駅へと動き出した。</p><p>疲れた体を大江戸線特有の長いエスカレーターへと向かわせた。</p><p>エスカレータに乗ると千鶴はその先を見上げた。</p><p>長く</p><p>なかなか上り先につかないエスカレーターは千鶴を退屈にさせた。</p><p>そして心の中でなんだか自分の今の人生に似ているとつぶやかせた。</p><p>何もしなくても自宅に帰るためにむかう改札まで勝手にたどり着いてしまう。</p><p>退屈だからといってエスカレータを乗り上げたりすれば大怪我をする。</p><p>だからそのままエスカレータが登り切るまでじっとただただ乗っているだけ。</p><p>そう思うと千鶴はエスカレータの手すりにそっと手を置いた。</p><p>この退屈さを感じると、千鶴は通勤時間を4分早く家を出ることにしている。</p><p>4分早く家を出るということはいつも乗る1本前の電車に乗るためである。</p><p>千鶴が乗るのは前から3両目の前から2番目の乗車口である。</p><p>そこの乗り場にいるのは白いイヤホンをした同じくらいのとし年齢の女性と</p><p>ネクタイの趣味が悪い中年のサラリーマン。いつも千鶴の前に立って電車を待っている。</p><p>たまに千鶴の横には太い淵のメガネをかけた中国人がいるくらいである。</p><p>しかし1本前になるとその二人も中国人もいない。</p><p>普段見かけない人たちばかりである。</p><p>4分前の住民である。車内も見かけない服を着た人ばかりである。</p><p>こうやって千鶴は気分転換を図っていた。</p><p>&nbsp;</p><p>&nbsp;</p><p>エスカレータは千鶴の体を運び、改札目で導いた。</p><p>いつものように駅前のスーパーで夕飯を買い、半額の値札シールが貼られたパッケージが入ったレジ袋を下げて自宅へと向かった。</p><p>空は暗いが東京だけあってあたりは明るい。人もそれなりにまばらに歩いている。</p><p>道は昨日降った雨の後がまだはっきりと見て取れる。</p><p>大通りを歩くたび、とぎれとぎれに並ぶ飲食店を眺めて1度は入ってみたいと思いながら家路を急いだ。</p><p>先ほど電車の中でみた夢を思い返し、ぼーと歩いていたためか大通りから自宅へ向かうため曲がる小道を素通りしてしまった。</p><p>駅から少し離れた小振りなスーパーを見てそれに気づいた。</p><p>次の小道を左に曲がれば自宅マンションに付くだろうと<u>思い</u>、引き返さず大通りから適当な小道を曲がることにした。</p><p>通勤路とは違う道だがなんとなく見覚えのある景色を確認しながら自宅マンションの側まで来る事が出来た。</p><p>千鶴は自宅マンションの最上部を確認しながら上を向いて歩いていた。</p><p>そして目印の最上部の上に光る月の存在に気がついた。</p><p>その月の周辺にはいくつかの小さな光があった。</p><p>夜空を見たのは何年ぶりだろう。</p><p>どこか懐かしい気分を思い起こしながら自宅へと向かっていった。</p><p>「この辺を曲がればもうちょっとでいつもの道に出るはず」。</p><p>勘で曲がった道を歩くと一戸建てと一戸建ての間に石畳の階段がある事に気づいた。</p><p>なにげに階段を目で追うとそれは視線だけでは追いきれず、首を上に動かすほどの高さがあり、両端にある3階建ての家の屋根あたりまで続く急勾配な階段だった。</p><p>その頂上には鳥居らしき赤いものの上辺が見える。</p><p>「こんなところに神社なんてあったかしら・・・」不思議に思うも通り過ぎようとしたが鳥居の全体図が見えない事でちょっと興味がこみ上げてきた。</p><p>急な階段を上るのがめんどうくさいと言う気持ちより、この上にどんな神社があるのか見てみたいという好奇心が勝った。</p><p>千鶴はレジ袋を回転させ中身が落ちないようにし、階段を登る事にした。</p><p>「50段くらい登れるわ。これくらい大丈夫よ。ただ幅が狭いわね。私が横に寝たらギリギリじゃないの」</p><p>そんな独り言を自分に言い聞かせ登り始めた。</p><p>階段をよく見ると昨日の雨のせいかびしょびしょで、階段全体も緑のコケで覆われており、いかにも滑りそうである。</p><p>古めかしい石に確かな足跡を残すように1歩、1歩踏みしめて登る事にした。</p><p>もちろんそれは滑って怪我をしないためでもある。</p><p>少々息があがりつつも最後の段を力強く踏みしめ、鳥居をくぐった。</p><p>思ったより小さい祠である。</p><p>しかし周囲が暗いせいか神秘的な怖さを感じた。</p><p>折角来たのだからとお参りする事にし、</p><p>バッグから財布を取り出し小銭を確認すると500円玉1枚と10円玉・1円玉数枚しかなかった。</p><p>500円玉は本能的に除外され、10円玉を数えると7枚あった。</p><p>「7枚なら縁起がいいわね」70円を賽銭箱に出来る限り静かに投げ入れた。</p><p>鈴は隣接する両隣の家に配慮し、ゆっくり鳴らし二礼二拍を行った。</p><p>手を合わせ、お願い事を思い浮かべようとするも頭には浮かんでこない。</p><p>しばらく、手を合わせ静止した状態が続いた。</p><p>え？なにをお願いすれば良いのか？自分が望むもの・・・しかし何も浮かんでこない。</p><p>後ろに人が並んでいる訳でもないが千鶴はだんだん焦りだした。</p><p>どうしよう・・・・何も浮かんでこない。</p><p>とりあえず、なにかお願いしないと70円も出したんだし・・・。</p><p>えっと・・・楽しい事がありますように・・・です。</p><p>結局具体的なものは浮かばず、漠然とした願い事しかできなかった。</p><p>目を開け、一つ大きく呼吸をすると足に力が入らない感覚を覚えた。</p><p>なにかここに居続けてはいけない、直感的な恐怖を感じた。</p><p>早くここから立ち去らなくてはそう思い、一礼して祠を背にした。</p><p>&nbsp;</p><p>そんな気持ちが早いリズムで足を動かしていた。</p><p>呼吸がしだいに荒くなり、登るときの慎重さはどこかに消えてしまっていた。</p><p>後1/3というところで左足を踏み外した。</p><p>「おっと・・・・あ・・あ～～～！！」その声を最後に千鶴は背中を打ち激痛が走ると下まで転げ落ちてしまった。</p><p>「痛った～・・・・」気がつく千鶴は階段の前にうつぶせで倒れていた。</p><p>すぐに背中の痛みを感じたが足の感覚は階段を下りている時よりもしっかりしていた。</p><p>痛みが増えてくる肘や膝などを確認しながら階段にもたれかかり座った。</p><p>まず手の砂を払おうとすると左手に何かを掴んでいる事に気づいた。</p><p>「え？なにこれ？」</p><p>それはガラスの瓶だった。</p><p>手の平から少し先端が出る程度の大きさで、とてもきれいで神秘的な小瓶だった。</p><p>よく見ると中に何か液体が入っている。</p><p>千鶴は液体の色を確認する為に月明かりにかざした。</p><p>うっすらとした青色をしている。</p><p>「・・・きれい・・・」</p><p>その透き通るボディと神秘的な形に加え、うっすらとした青色の液体が</p><p>なぜ自分の手の中に突然あるのか？転げ落ちた時に掴んだのなら薄いガラスがよく割れなかった</p><p>とかこの時疑問に思わなかった。</p><p>瓶に見とれた千鶴は右手に持ちかえ、服も払わず自宅へと向かった。</p><p>&nbsp;</p><p>部屋の明かりを付け、いつも行う「窓を開けての換気」をせずベッドに座った。</p><p>千鶴は小瓶を改めて見つめた。すると中の液体の色が先ほどの印象と変わっている事に気づいた。</p><p>「紫色だったんだ」</p><p>瓶の蓋を取り、においを嗅いでみた。</p><p>「ん～？なんだろう？」</p><p>ラベンダーの薫りを想像していたが少し違っていた。</p><p>「どこかでかいだ事のあるような・・・ないような・・・・」</p><p>液体を小指につけ、鼻先まで持っていった。</p><p>やはり感想は同じである。</p><p>どこかでかいだ事のあるような・・・ないような・・・・。</p><p>そう思いながら千鶴の意識はスッーっと薄れていった。</p><p>&nbsp;</p><p>気がつくと千鶴はどこかの公園のベンチに座っていた。</p><p>見た事のない自然に溢れた景色に降り注ぐ太陽の日差し、優しく千鶴の頬をなでる風を感じ</p><p>ここが6月の東京ではない事はすぐにわかった。</p><p>観光先で景色を眺め、ぼーっとするように眺めているとどこからともなく声が聞こえてきた。</p><p>「やっと気がついたか」</p><p>千鶴は辺りを見回しても空を飛ぶ小鳥しか見つける事が出来なかった。</p><p>「ここ一応オレんち家の屋根なんだけどね」</p><p>また辺りを見回すも誰もいない。</p><p>「ここだよ。あなたの下。おしりの下だよ」</p><p>千鶴は慌てて少し足を開いて深くかがんだ。</p><p>するとベンチの下に黒く丸い穴らしいものがあり、その中に声の主が見えた。</p><p>千鶴は驚きの反動で体を起こした。</p><p>「屋根だけどベンチでもあるからまあいいけどね」</p><p>意を決してもう一度股を開き、深くかがんでベンチの下を覗き込んだ。</p><p>声の主は黒い丸の中の中心に位置し、大きな二つの目と大きな口がひときわ目立っていた。</p><p>髪型、輪郭ははっきり見えず、鼻や耳など細かいパーツもはっきり見えない。</p><p>手前に出して地面に置く指は長く、爪は鋭く獣のように長かった。</p><p>よく見ると穴と思える黒い丸の中は奥行きがないというか感じられない。</p><p>穴というより空間と言った方がよさそうだ。</p><p>ジッと見つめる千鶴に声の主が話しかけた。</p><p>「そんなに珍しいか？」</p><p>意図しない質問は千鶴を更に混乱させた。</p><p>「あ・・え、あ・・の・・・あ・・・」</p><p>言葉にできない千鶴に声の主が先に尋ねた。</p><p>「名前は？」</p><p>「え？あ・・・な・・・なん・・・」</p><p>「そう、あんたの名前だよ、名前くらいあるだろう」</p><p>千鶴は頭の中で名前、自分の名前を言うのよと何度も唱え、心を落ち着かせようと努めた。</p><p>「畝・・・畝千鶴と言います」</p><p>「うねだね。」</p><p>自分の名前を言えたせいか千鶴は少しずつ冷静さを取り戻していった。</p><p>「えっと・・・ここに座っているのは・・今気がついたばかりで・・・というか私ずっと座っていたの？」</p><p>「結構な時間だね。目の前にある木に止まっていた雷鳥が枝を折って飛んでいったがあんたはまだ座っているからね」</p><p>「ライチョウ？」</p><p>「そう雷鳥、そこに止まっていた鳥だよ。」</p><p>千鶴は体を起こすとかなり離れたところに大きな木がそびえ立っていた。</p><p>木を確認すると千鶴はまた股の下に顔をのぞかせた。</p><p>「あんなに離れているのに鳥が止まっているのが見えるんですか？」</p><p>「あんまり離れていないよ。」そう言いながら声の主は千鶴をジッと見つめている。</p><p>千鶴はなんとかはっきり見えない輪郭や耳などを見ようと必死に目を凝らした。</p><p>「どうした？」声の主が言った。</p><p>「あ、え？何がですか？」</p><p>「そんな目をして。なにか聞きたいことでもあるのか？」</p><p>気がついたら座っていただけで決してそういう訳ではないのだが</p><p>言われた通り聞きたい事は山ほどある。しかしまず何を聞いたらいいのか言葉に出せずにいた。</p><p>「えっと・・・そうですね・・・・。」</p><p>声の主はまっすぐ千鶴を見つめている。</p><p>千鶴は頭に血が上りそうになり、いったん体を起こし、大きく深呼吸してから足を大きく広げ股の間に頭を突っ込んだ。</p><p>「あなたはそこに住んでいるんですか？」</p><p>「さっき家の屋根って言わなかったか？」</p><p>「そ、そうですね。えっと・・・いつからいるのですか？」</p><p>「・・・あんたが座る前よりずっと前からいるよ」</p><p>「あ・・・はい。そうですね。じゃあ、えっとあの～・・・・」</p><p>風が千鶴の垂れ下がる髪を少し揺らした。</p><p>「そう！ここ！ここはどこですか？」千鶴の目が少し大きくなった。</p><p>「ここ？ここはあんたが座っているところだよ」</p><p>「いえ、そうじゃなくてこの空間っていうか世界、そう！！ここは何の世界ですか？」</p><p>声の主の左の口角が少し上がった。</p><p>「そうかあんた、ここが初めてなのか」</p><p>そう言うと声の主は静かに話し始めた。</p><p>「ここは丘だ。」</p><p>「丘なんですか？私、公園だと思ってました。」</p><p>「そう呼ぶ奴らもたしかにいたな」</p><p>千鶴は一度上体を起こし、改めて景色を見渡すと表情の緊張がとれた。</p><p>「ここ公園じゃなくて丘・・・・。」そう呟くと股の間に顔を突っ込んだ。</p><p>「いいかい、そしてこの丘の下に3つの町がある。その町もこの丘のように決まった名前はない。」</p><p>「3つの町？町があるんですか・・・・」</p><p>「あんたはその町に行く途中なのかと思ってたけど違うみたいだな。」</p><p>千鶴の何もかも初耳という表情から声の主はそう悟った。</p><p>「あんたの座る目の前に道があるだろう。それを右、そう今お前さんが動かした手の方をまっすぐ行くと道が二つに分かれるところがある。右に行くと水の町、左に行くと火の町に行く」</p><p>「水の町と火の町ですか・・・・」</p><p>「さっきも言ったが名前は人様々だが多くの人がそう呼んでいる」</p><p>「水の町ってやっぱり水が豊富なんですか？大きな湖があるとか？」</p><p>「そう呼ぶ他の理由があるのか？」</p><p>「・・・・そうですよね」鋭くなった声の主の視線を浴び千鶴は一瞬声がうわずった。</p><p>ひとつの間に小さな風がゆっくり抜けていった。</p><p>そして声の主は話を続けた。</p><p>「そして水の町と火の町の先にあるのが緑の町だ。それぞれの町から行ける。その3つがこの丘の下にある。」</p><p>「3つの町って大きいんですか？」</p><p>「行ってみればわかる」</p><p>「そうですね・・・・」千鶴は愛想笑いをした。</p><p>「あんた行くのか？」</p><p>「えっと・・・そうですね。せっかくですから」そう言いながら千鶴は上体を起こした。</p><p>そしてベンチの背もたれに体重を預け、空を見上げて言った。</p><p>「ここにずっと座っているのも好きですけど・・・・なんかずっと頭下げてたから頭に血も登ったみたいで・・・・歩いてみます。」</p><p>そして心の中でこうつぶやいた。</p><p>こんな鮮明な夢なんだから。</p><p>声の主はなにも応えなかった。</p><p>「んっしょ！」</p><p>かけ声とともにベンチから立ち上がると腰に手を当て、少し体を後ろに反らした。</p><p>そして千鶴は一歩踏み出すが足を止め、振り向いた。</p><p>「また・・・ここに来てもいいですか？」</p><p>すこし離れたところから見るとベンチの下はただ黒くなっているだけで声の主の姿は認識できなかった。</p><p>「おれはいつもここにいるだけだからな」</p><p>ベンチの下からそう聞こえた。</p><p>千鶴は振り向いた姿のまま笑顔でお辞儀をして町を目指し、</p><p>やや下り坂を歩いていった。</p>
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<link>https://ameblo.jp/yuki-matuda/entry-12484015009.html</link>
<pubDate>Fri, 21 Jun 2019 09:58:06 +0900</pubDate>
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